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  • 特開-車両の制御装置 図1
  • 特開-車両の制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151978
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20241018BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20241018BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20241018BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241018BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20241018BHJP
【FI】
F02D29/00 C
B60K6/442
B60K6/54
B60W10/06 900
B60W20/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065837
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB01
3D202CC42
3D202CC71
3D202CC77
3D202CC83
3D202DD01
3D202DD07
3D202DD09
3D202DD38
3D202DD42
3D202EE26
3G093AA01
3G093BA04
3G093CA01
3G093DA06
3G093DB12
3G093EA00
3G093EB01
3G093EC02
(57)【要約】
【課題】変速機の異常時において、ドライバの意図に反して車両が動くことを防止しつつエンジンを始動することができ、利便性を向上させることができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】ECUは、変速機がニュートラル状態であることを検出可能な正常時は(ステップS1でNO)、通常制御による初回エンジン始動制御を実施する(ステップS2)。ECUは、変速機がニュートラル状態であることを検出不能な異常時は(ステップS1でYES)、ロックアップクラッチが開放されていることを条件にエンジンと駆動輪との間の動力伝達が遮断されていると判断する(ステップS3)。ECUは、ステップS3で更にセレクトレバー位置がPレンジである条件も満たしている場合(ステップS3でYES)、初回エンジン始動制御を許可し(ステップS4)、エンジンを始動する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、流体継手を介して前記エンジンから動力が伝達される変速機と、前記変速機から動力が伝達される駆動輪と、を備え、前記エンジンと前記変速機とを直結するロックアップ機構が前記流体継手に設けられた車両において、
前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が遮断されていることを含む始動許可条件を満足している場合に、ドライバの始動操作に応じて前記エンジンを始動する制御部を備える車両の制御装置であって、
前記制御部は、
前記変速機がニュートラル状態であることを検出可能な正常時は、前記変速機がニュートラル状態であることを条件に前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が遮断されていると判断し、
前記変速機がニュートラル状態であることを検出不能な異常時は、前記ロックアップ機構が開放されていることを条件に前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が遮断されていると判断することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記異常時は、前記ロックアップ機構が開放されており、かつ、セレクトレバーが駐車位置に操作されている場合に前記始動許可条件を満足していると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記異常時に前記エンジンを始動した場合であって前記セレクトレバーが前記駐車位置から他の位置に変更された場合は、
前記変速機の変速段に基づく車両進行方向と前記セレクトレバーのシフト位置に基づく車両進行方向とが合致する場合は、前記エンジンの稼働を継続し、
前記変速機の変速段に基づく車両進行方向と前記セレクトレバーのシフト位置に基づく車両進行方向とが合致しない場合は、前記エンジンを停止することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記異常時に前記エンジンを始動した場合、車速が所定車速以上となったことを条件に前記ロックアップ機構を締結することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記異常時に前記エンジンを始動した場合であって前記流体継手の作動流体の油温が所定温度以上となった場合、前記エンジンを停止することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ノーマリークローズ式のクラッチと、クラッチの締結及び開放と変速機の変速段の切り替えとを行うアクチュエータと、を備える車両において、エンジンの始動時にドライバの意図に反して車両が動くことを防止するため、変速機がニュートラル状態で、且つドライバによってブレーキペダルが踏み込まれている場合に、エンジンの始動を許可するようにした技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-156239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、変速機がニュートラル状態であることを確認できない場合は、エンジンの始動が許可されないため、エンジンの動力を用いて作動する空調装置を利用したり、エンジンの動力を用いて発電される電力を利用したりすることができず、利便性について改良の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、変速機の異常時において、ドライバの意図に反して車両が動くことを防止しつつエンジンを始動することができ、走行以外ではエンジンの動力を活用可能として利便性を向上させることができるとともに、特定の状態が確保されていれば走行も可能とする車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、エンジンと、流体継手を介して前記エンジンから動力が伝達される変速機と、前記変速機から動力が伝達される駆動輪と、を備え、前記エンジンと前記変速機とを直結するロックアップ機構が前記流体継手に設けられた車両において、前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が遮断されていることを含む始動許可条件を満足している場合に、ドライバの始動操作に応じて前記エンジンを始動する制御部を備える車両の制御装置であって、前記制御部は、前記変速機がニュートラル状態であることを検出可能な正常時は、前記変速機がニュートラル状態であることを条件に前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が遮断されていると判断し、前記変速機がニュートラル状態であることを検出不能な異常時は、前記ロックアップ機構が開放されていることを条件に前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達が遮断されていると判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明によれば、変速機の異常時において、ドライバの意図に反して車両が動くことを防止しつつエンジンを始動することができ、走行以外ではエンジンの動力を活用可能として利便性を向上させることができる。さらには、特定の状態が確保されていれば走行も可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両のエンジン始動制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジンと、流体継手を介してエンジンから動力が伝達される変速機と、変速機から動力が伝達される駆動輪と、を備え、エンジンと変速機とを直結するロックアップ機構が流体継手に設けられた車両において、エンジンと駆動輪との間の動力伝達が遮断されていることを含む始動許可条件を満足している場合に、ドライバの始動操作に応じてエンジンを始動する制御部を備える車両の制御装置であって、制御部は、変速機がニュートラル状態であることを検出可能な正常時は、変速機がニュートラル状態であることを条件にエンジンと駆動輪との間の動力伝達が遮断されていると判断し、変速機がニュートラル状態であることを検出不能な異常時は、ロックアップ機構が開放されていることを条件にエンジンと駆動輪との間の動力伝達が遮断されていると判断することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、変速機の異常時において、ドライバの意図に反して車両が動くことを防止しつつエンジンを始動することができ、走行以外ではエンジンの動力を活用可能として利便性を向上させることができる。
【実施例0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る車両の制御装置について詳細に説明する。
【0011】
図1において、本発明の一実施例に係る制御装置を搭載した車両1は、内燃機関型のエンジン2と、変速機3と、エンジン2および変速機3を含む車両全体を制御する制御部としてのECU(Electronic Control Unit)5と、を含んで構成される。
【0012】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0013】
エンジン2のクランク軸2Aには、流体継手としてのトルクコンバータ10が連結されている。トルクコンバータ10は、フロントカバー11とフロントカバー11に連結されるポンプシェル12とを有する。
【0014】
フロントカバー11は、図示しないドライブプレートを介してエンジン2のクランク軸2Aに連結されており、フロントカバー11およびポンプシェル12は、クランク軸2Aと一体で回転する。
【0015】
トルクコンバータ10は、ポンプシェル12に固定されるポンプインペラ14と、ポンプインペラ14に対向するタービンランナ15とを備えている。タービンランナ15は、タービン軸16に連結されている。
【0016】
トルクコンバータ10には作動流体が供給されており、エンジン2からポンプシェル12に動力が伝達されると、ポンプインペラ14の回転による遠心力によって、トルクコンバータ10の内部の作動流体にポンプインペラ14からタービンランナ15に向かう流れが生じる。
【0017】
この作動流体の流れによりタービンランナ15が回転され、エンジン2の動力がタービンランナ15からタービン軸16に伝達される。
【0018】
トルクコンバータ10にはロックアップ機構であるロックアップクラッチ17が設けられており、ロックアップクラッチ17は、締結状態に制御されるとクランク軸2Aとタービン軸16とを直結する。
【0019】
ロックアップクラッチ17がフロントカバー11に押し付けられると、ロックアップクラッチ17が締結状態に切り替えられる。これにより、タービン軸16とクランク軸2Aとが直結され、エンジン2の動力が流体を介さずにタービン軸16に伝達される。
【0020】
一方、ロックアップクラッチ17がフロントカバー11から引き離されると、ロックアップクラッチ17が開放状態に切り替えられる。これにより、エンジン2の動力は、ポンプインペラ14からタービンランナ15に流体を介して伝えられてタービン軸16に伝達される。すなわち、エンジン2の動力が流体を介してタービン軸16に伝達される。
【0021】
ポンプインペラ14とタービンランナ15との間にはステータ15Sが設置されている。ステータ15Sは、タービンランナ15からポンプインペラ14に向かう作動の流れをポンプインペラ14の回転方向に沿うように変換することにより、エンジン2の動力を増幅させる。
【0022】
変速機3は、入力軸34に入力されたエンジン2からの回転を変速し、出力軸6を介してディファレンシャル装置7に出力する。ディファレンシャル装置7に出力された回転は、左右の駆動軸8L、8Rに分配された後に、左右の駆動輪9L、9Rを駆動するようになっている。変速機3は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の図示しない変速機構と、アクチュエータとしてのシフトアクチュエータ52とを備えている。
【0023】
シフトアクチュエータ52は、ECU5の制御により変速機構におけるギヤ段の切り替えを行う。具体的には、シフトアクチュエータ52は、図示しない変速操作機構を動かして同期装置を操作し、変速段を達成し切替える。変速操作機構には、シフトフォーク、シフター軸等の公知の技術を使用することができる。変速機構で成立可能なギヤ段としては、例えば低速段である1速段から高速段である5速段までの走行用のギヤ段と、後進段と、ニュートラルとがある。走行用のギヤ段の段数は、車両1の諸元により異なり、上述の1速段から5速段に限られるものではない。ECU5は、シフトアクチュエータ52の油圧の異常を検知できるようになっている。
【0024】
シフトアクチュエータ52には、シフトストロークセンサ56が設けられている。シフトストロークセンサ56は、シフトフォークやシフター軸等の変速操作機構の位置や移動量を検出し、検出信号をECU5に出力する。ECU5は、シフトストロークセンサ56の異常を検知できるようになっている。
【0025】
エンジン2と変速機3の間には、ノーマルクローズタイプの乾式クラッチによって構成されるクラッチ31が設けられており、クラッチ31は、エンジン2と変速機3との間の連係を断接し、エンジン2の駆動力を伝達または遮断する。詳細には、クラッチ31は、トルクコンバータ10のタービン軸16と変速機3の入力軸34の間に配置され、タービン軸16と入力軸34との間で駆動力を伝達または遮断するようにクラッチアクチュエータ51により操作される。
【0026】
クラッチ31は、タービン軸16に締結され、タービン軸16と一体で回転するクラッチホイールディスク32と、変速機3の入力軸34に一体回転自在、かつ入力軸34の軸方向に移動自在に設けられ、入力軸34と一体で回転するクラッチディスク33とを有する。
【0027】
クラッチ31は、クラッチディスク33がクラッチホイールディスク32から離隔されることでタービン軸16と入力軸34の連係が遮断され、エンジン2のクランク軸2Aの動力がトルクコンバータ10のタービン軸16を介して入力軸34に伝達されなくなる。
【0028】
また、クラッチ31は、クラッチディスク33がクラッチホイールディスク32に密着されることでタービン軸16と入力軸34が一体となって回転し、エンジン2のクランク軸2Aの動力がトルクコンバータ10のタービン軸16を介して入力軸34に伝達される。
【0029】
クラッチ31は、ECU5により制御されたアクチュエータとしてのクラッチアクチュエータ51により締結及び開放が行われる。クラッチアクチュエータ51には、クラッチ31の断接を切り替える操作部材を有し、クラッチストロークセンサ53が設けられている。クラッチストロークセンサ53は、クラッチ31の断接を切り替える操作部材の位置や移動量を検出し、検出信号をECU5に出力する。クラッチ31の断接を切り替える操作部材の位置や移動量によって、クラッチ31の断接状態を把握することができる。また、ECU5は、クラッチアクチュエータ51の油圧の異常を検知できるようになっている。クラッチアクチュエータ51は、クラッチアクチュエータ51への通電停止時に、その時の状態(クラッチストロークまたは係合度)を維持するノーマリーストップタイプのアクチュエータからなる。クラッチアクチュエータ51は図示しない油圧機構を備えており、油圧機構を作動させてクラッチ31の切り替えを行う。
【0030】
変速機3は、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)として構成されている。ECU5は、シフトポジションセンサ55やアクセル開度センサの検出信号等に応じて、クラッチアクチュエータ51シフトアクチュエータ52を駆動して変速機3の変速を行う。
【0031】
ECU5は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0032】
このコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU5として機能させるためのプログラムが格納されている。
【0033】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、このコンピュータユニットは、本実施例におけるECU5として機能する。
【0034】
車両1には、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内LAN(Local Area Network)を形成するためのCAN通信線61が設けられている。ECU5は、CAN通信線61を介して制御対象との制御信号等の送受信を相互に行う。
【0035】
ECU5の入力ポートには、前述したクラッチストロークセンサ53に加え、シフトポジションセンサ55を含む各種センサ類が接続されている。
【0036】
シフトポジションセンサ55は、運転者によるセレクトレバー54の操作により選択されたシフト位置を検出する。シフト位置は、例えば、前進走行レンジ(Dレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、停車レンジ(Nレンジ)、駐車レンジ(Pレンジ)のいずれかが選択される。
【0037】
一方、ECU5の出力ポートには、前述したトルクコンバータ10、クラッチアクチュエータ51、シフトアクチュエータ52を含む制御対象類が接続されている。
【0038】
ECU5の出力ポートには、通知部71が接続されており、通知部71は、警告灯やブザーからなり、ドライバに警告や注意等を通知する。
【0039】
ECU5は、変速機3の内部の変速段の切り替えを行う場合、クラッチアクチュエータ51を駆動してクラッチ31を開放し、変速機3の変速段の変更を行う。
【0040】
ECU5は、アイドリングストップ制御を実行する。このアイドリングストップ制御において、ECU5は、所定の一時停止条件の成立時にエンジン2を停止させ、所定の再始動条件の成立時にISG20を駆動してエンジン2を再始動させる。
【0041】
ECU5は、ドライバの始動操作に応じてエンジン2を始動するようになっている。ECU5は、図示しないイグニッションスイッチまたはスタートボタンによりドライバがエンジン2の始動操作を行った場合、所定の始動許可条件を満足していてエンジンを始動してよいとの判断が成立しているときは、エンジン2の始動を許可する。本実施例では、アイドリングストップ制御によるエンジン2の始動(再始動)と区別するため、ドライバの始動操作によるエンジン2の始動のことを、初回エンジン始動という。始動許可条件は、エンジン2の始動時にドライバの意図に反して車両1が動くことを防止するために満たすべき複数の条件からなる。始動許可条件には、エンジン2と駆動輪9L、9Rとの間の動力伝達が遮断されていることが含まれる。
【0042】
変速機3において、シフトストロークセンサ56の異常、シフトアクチュエータ52の内部の駆動用ソレノイドの異常、変速ギアの固着等の異常が発生することがある。これらの異常(以下、総称してシフト系異常という)が発生すると、変速機4をニュートラル状態に切り替えることができなくなり、異常が検出される。さらに、変速機3がニュートラル状態に切り替えられたことを確認できなくなるセンサの異常が発生することがある。つまり、シフトアクチュエータ52の内部の駆動用ソレノイドの異常、および変速ギアの固着等の異常が発生した場合、変速機3をニュートラル状態に切り替えること自体ができなくなり、センサが故障するとニュートラル状態が確認できなくなる。そして、これらの2つの異常が発生していない場合であってもシフトストロークセンサ56が異常の場合、他のセンサとの不整合が生じて変速機3がニュートラル状態に切り替わったことを検出できない。結果として、シフト系異常に含まれる3つの異常の何れかが発生した場合、変速機3がニュートラル状態であることを検出不能な状態となる。
【0043】
本実施例において、ECU5は、変速機3がニュートラル状態であることを検出可能な正常時は、変速機3がニュートラル状態であることを条件にエンジン2と駆動輪9L、9Rとの間の動力伝達が遮断されていると判断する。また、ECU5は、変速機3がニュートラル状態であることを検出不能な異常時は、ロックアップクラッチ17が開放されていることを条件にエンジン2と駆動輪9L、9Rとの間の動力伝達が遮断されていると判断する。
【0044】
ECU5は、変速機3の異常時は、ロックアップクラッチ17が開放されており、かつ、セレクトレバー54が駐車位置に操作されている場合に始動許可条件を満足していると判断する。
【0045】
ECU5は、変速機3の異常時にエンジン2を始動した場合であってセレクトレバー54が駐車位置から他の位置に変更された場合は、変速機3の変速段に基づく車両進行方向とセレクトレバー54のシフト位置に基づく車両進行方向とが合致する場合は、エンジン2の稼働を継続し、変速機3の変速段に基づく車両進行方向とセレクトレバー54のシフト位置に基づく車両進行方向とが合致しない場合は、エンジン2を停止する。
【0046】
ECU5は、変速機3の異常時にエンジン2を始動した場合、車速が所定車速以上となったことを条件にロックアップクラッチ17を締結する。
【0047】
ECU5は、変速機3の異常時にエンジン2を始動した場合であって流体継手の作動流体の油温が所定温度以上となった場合、エンジン2を停止する。
【0048】
以上のように構成された本実施例に係る制御装置によるエンジン始動制御について、図2を参照して説明する。このエンジン始動制御は、ドライバの始動操作に応じて短い周期で繰り返し実行される。
【0049】
ECU5は、シフト系異常により変速機3をニュートラル状態にすること(図中、ギヤN確保と記す)が不可か否かを判断する(ステップS1)。つまり、始動許可条件「変速機3がニュートラル状態になっている」を満足しているか、変速機3の状態を確認して判断する。これは、ドライバの始動操作が為された時は、エンジン2を始動するべくシフトアクチュエータ52を動作させて変速機3をニュートラル状態にしようと制御されるので、ニュートラル状態が検知できないときはシフト系異常が発生していると判別できる。
【0050】
ECU5は、ステップS1でニュートラル状態にすることが不可ではない場合(ステップS1でNO)、つまり、ニュートラル状態にすることができている場合、通常制御による初回エンジン始動制御を実施する(ステップS2)。ここで、通常制御による初回エンジン始動制御とは、変速機3がニュートラル状態であり、かつセレクトレバー54の位置(シフト位置)がPレンジであることを始動許可条件とし、この始動許可条件を満足し、その他の条件も満足して始動許可が成立する場合に、ドライバの始動操作に基づくエンジン2の始動を許可する制御である。
【0051】
ECU5は、ステップS1でニュートラル状態にすることが不可の場合(ステップS1でYES)、ロックアップクラッチ17が開放状態であり、かつ、セレクトレバー位置がPレンジ(図中、単にPと記す)であるか否かを判断する(ステップS3)。つまり、ECU5は、ステップS1で変速機3のニュートラル状態が検知できない場合、ロックアップクラッチ17が開放状態であり、かつ、セレクトレバー位置がPレンジとなっているか確認する。ここでは、ECU5は、ロックアップクラッチ17を締結させる指示油圧が閾値以下であり、かつ、ロックアップクラッチ17を開放するように制御している場合に、ロックアップクラッチ17が開放状態であると判断する。ECU5は、ステップS3の判断がNOの場合は再びステップS3を実行する。
【0052】
ECU5は、ステップS3の判断がYESの場合、初回エンジン始動制御を許可する(ステップS4)。つまり、ECU5は、ロックアップクラッチ17が開放状態であり、かつ、セレクトレバー位置がPレンジとなっていれば、シフト系異常により始動不可となっている判断を撤回し、初回エンジン始動制御を許可する。ここでは、ECU5は、スタータ2Bに電力を供給し、スタータ2Bによりエンジン2のクランク軸2Aを回転させ、エンジン2を始動させる。
【0053】
次いで、ECU5は、シフトストロークセンサ56が異常か否かを判断する(ステップS5)。つまり、変速機3の変速状態に関して、シフトストロークセンサ56に異常がなければ前進用の変速段となっているのか後進用になっているのか判別が可能であるが、シフトストロークセンサ56が異常であればそれすら判別ができない状態となる。
【0054】
ECU5は、シフトストロークセンサ56が異常と判断した場合(ステップS5でYES)、エンジン稼働中のセレクトレバー位置がPレンジ以外であるか否かを判断する(ステップS6)。
【0055】
ECU5は、セレクトレバー位置が位置P以外ではない場合(ステップS6でNO)、つまり、セレクトレバー位置がPレンジに維持されている場合、ドライバに走行の意思がないのでエンジン2の稼働状態を維持し(ステップS8)、今回の動作を終了する。
【0056】
ECU5は、セレクトレバー位置がPレンジ以外である場合(ステップS6でYES)、ドライバが車両を走行させようとしているのでエンジン2を停止し(ステップS7)、今回の動作を終了する。
【0057】
ECU5は、ステップS5でシフトストロークセンサ56が異常ではないと判断した場合(ステップS5でNO)、ドライバ操作によるセレクトレバー位置と係合ギヤ段の前後進行方向は一致するか否かを判断する(ステップS9)。つまり、変速機3の変速状態に関して、シフトストロークセンサ56に異常がないので前進用の変速段となっているのか後進用になっているのか判別が可能であって、ドライバの要望と係合ギヤ段の前後進行方向が一致するか判断することができる。
【0058】
ECU5は、ステップS9で一致しないと判断した場合(ステップS9でNO)、ドライバが要望する進行方向に車両を走行させることができないので、エンジン2を停止し(ステップS7)、今回の動作を終了する。
【0059】
ECU5は、ステップS9で一致すると判断した場合(ステップS9でYES)、走行を許可し(ステップS10)、ドライバは車両を走行させることができる。その後、ロックアップクラッチ17を締結(ロックアップ)が可能な車速であるか否かを判断する(ステップS11)。ここで、ロックアップクラッチ17を締結可能な車速は、例えば、締結時にエンジン2のエンジンストールが発生しない車速である。
【0060】
ECU5は、ロックアップクラッチ17を締結可能な車速である場合(ステップS11でYES)、ロックアップクラッチ17を締結して締結状態で走行を継続し(ステップS12)、今回の動作を終了する。ロックアップクラッチ17が締結されることにより、燃費を向上させることができる。
【0061】
ECU5は、ロックアップクラッチ17を締結可能な車速ではない場合(ステップS11でNO)、ロックアップクラッチ17を開放状態に維持して走行を継続する(ステップS13)。ロックアップクラッチ17が開放状態に維持されることで、エンジン2のエンジンストールを防止できる。
【0062】
次いで、ECU5は、トルクコンバータ10の作動流体の温度であるトルコン油温が第1閾値以上か否かを判断する(ステップS14)。
【0063】
ECU5は、トルコン油温が第1閾値未満の場合(ステップS14でNO)、ステップS14を再び実行し、トルコン油温が第1閾値以上の場合(ステップS14でYES)、通知制御を実施する(ステップS15)。このステップS15では、ECU5は、トルコン油温が第1閾値以上であることを通知部71によってドライバに通知する。
【0064】
次いで、ECU5は、トルコン油温が第2閾値以上か否かを判断する(ステップS16)。第2閾値は第1閾値より大きな値である。
【0065】
ECU5は、トルコン油温が第2閾値未満の場合(ステップS16でNO)、ステップS16を再び実行し、トルコン油温が第2閾値以上の場合(ステップS16でYES)、エンジン2を停止し(ステップS7)、今回の動作を終了する。
【0066】
このように、図2のエンジン始動制御において、変速機3の異常時は、ロックアップクラッチ17が開放されており、かつ、セレクトレバー位置がPレンジの場合のみ、エンジン2の始動が許可される。ここで、本実施例では、開放を検出した後のロックアップクラッチ17がスタータ2Bの作動時(クランキング時)の電圧降下によって締結側に変位することがない。つまり、一般的なノーマリークローズタイプのクラッチを用いた場合における供給電圧の降下による急な締結は発生しない。このため、エンジン2の始動中に電圧降下が発生した場合であってもロックアップクラッチ17が開放状態に維持される。このため、車両1の意図しない発進が防止される。
【0067】
意図しない発進とは、例えば、変速機3のギヤが係合しており、かつロックアップクラッチ17が開放状態にされている停車中に、ロックアップクラッチ17の急締結により車両1が動き出すことである。
【0068】
また、図2のエンジン始動制御において、始動許可条件には、シフト位置がPレンジであることが必須であって、Nレンジでは始動許可条件を充足しない。このため、ドライバがシフト位置をNレンジに操作した上でブレーキ操作を行なっている場合では、エンジン2が始動されることはない。
【0069】
また、図2のエンジン始動制御において、エンジン2の始動後にセレクトレバー位置がPレンジ以外に変更された場合、エンジン2が停止される。これにより、意図しないニュートラル発進および意図しない逆進が防止される。
【0070】
意図しないニュートラル発進とは、例えば、セレクトレバー位置がDレンジで、かつ変速機3において前進用のギヤが係合している状態で車両1が停車しているときに、ドライバによりシフト位置がDレンジからNレンジに操作されたが、変速機構等の異常により前進用ギヤの係合状態が維持され、セレクトレバー位置(Nレンジ)と実ギヤ位置(例えば、前進用の1速段)との不一致が生じてしまい、ドライバが図示しないブレーキペダルから足を離したタイミングでドライバの意図しない前進方向に車両1が動き出すことである。
【0071】
意図しない逆進とは、例えば、セレクトレバー位置がDレンジで、かつ前進用ギヤが係合している状態で車両1が停車しているときに、ドライバによりシフト位置がDレンジからRレンジに操作されたが、変速機構等の異常により前進用のギヤの係合状態が維持され、セレクトレバー位置(Rレンジ)と実ギヤ位置(例えば、前進用の1速段)との不一致が生じてしまい、ドライバがブレーキペダルから足を離したタイミングでドライバの意図しない前進方向に車両1が動き出すことである。
【0072】
以上のように、本実施例において、ECU5は、変速機3がニュートラル状態であることを検出可能な正常時は、変速機3がニュートラル状態であることを条件にエンジン2と駆動輪9L、9Rとの間の動力伝達が遮断されていると判断する。また、ECU5は、変速機3がニュートラル状態であることを検出不能な異常時は、ロックアップクラッチ17が開放されていることを条件にエンジン2と駆動輪9L、9Rとの間の動力伝達が遮断されていると判断する。
【0073】
これにより、変速機3がニュートラル状態であることを検出不能な異常時において、ロックアップクラッチ17が開放されている場合は始動許可条件を満足するので、エンジン2を始動することができる。また、ロックアップクラッチ17が開放されていることにより、エンジン2の回転が流体継手により吸収されるので、パーキングブレーキやその他の制動手段によって、エンジン2の始動時に運転者の意図に反して車両が動くことを防止できる。
【0074】
この結果、変速機3の異常時において、運転者の意図に反して車両が動くことを防止しつつエンジン2を始動することができ、利便性を向上させることができる。
【0075】
また、本実施例において、ECU5は、変速機3の異常時は、ロックアップクラッチ17が開放されており、かつ、セレクトレバー54が駐車位置(Pレンジ)に操作されている場合に始動許可条件を満足していると判断してエンジン2が始動されるので、確実にパーキングブレーキを作動させて車両の停止状態を維持することができる。
【0076】
これにより、車両が走行しない状態でエンジン2が始動されるので、運転者の意図に反して車両が動くことを防止できる。
【0077】
また、本実施例において、ECU5は、変速機3の異常時にエンジン2を始動した場合であってセレクトレバー54が駐車位置から他の位置に変更された場合は、変速機3の変速段に基づく車両進行方向とセレクトレバー54のシフト位置に基づく車両進行方向とが合致する場合は、エンジン2の稼働を継続し、変速機3の変速段に基づく車両進行方向とセレクトレバー54のシフト位置に基づく車両進行方向とが合致しない場合は、エンジン2を停止する。
【0078】
これにより、変速機3の異常時にエンジン2が始動された場合、セレクトレバー54の操作により意図された車両進行方向への走行が可能となるので、ドライバは安全な状態で整備拠点等への退避走行を行うことができる。そして、ドライバが要望する車両進行方向と変速機3の車両進行方向状態が異なる場合はエンジン2を停止するので、安全を確保することができる。
【0079】
また、本実施例において、ECU5は、変速機3の異常時にエンジン2を始動した場合、車速が所定車速以上となったことを条件にロックアップクラッチ17を締結する。
【0080】
これにより、エンジン2と変速機3とが直結された状態で退避走行を行うことができ、流体継手における滑りが発生しないので、走行距離を延ばすことができる。
【0081】
また、本実施例において、ECU5は、変速機3の異常時にエンジン2を始動した場合であって流体継手の作動流体の油温が所定温度以上となった場合、エンジン2を停止する。
【0082】
これにより、変速機3の異常時の退避走行により作動流体の油温が所定温度以上に上昇した場合はエンジン2が停止されるので、作動流体の過熱を防止でき、安全性を向上させることができる。
【0083】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0084】
1 車両
2 エンジン
3 変速機
5 ECU(制御部)
10 トルクコンバータ(流体継手)
17 ロックアップクラッチ(ロックアップ機構)
図1
図2