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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151985
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/035 20060101AFI20241018BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20241018BHJP
   C22C 5/02 20060101ALI20241018BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20241018BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241018BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20241018BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241018BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B22F3/035 C
A44C27/00
C22C5/02
C22C5/04
B22F1/05
C22C1/04 E
B22F1/00 K
B22F3/14 101B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065853
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000145943
【氏名又は名称】株式会社昭工舎
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】鈴川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】鴇田 正雄
【テーマコード(参考)】
3B114
4K018
【Fターム(参考)】
3B114AA02
4K018AA02
4K018BA01
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA14
4K018EA21
4K018FA06
4K018KA25
4K018KA57
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】異なる溶融点、焼結温度を有する金属粉末を用いて、金属粉末を溶融することなく、焼結体を製造することができ、かつ研磨や摩耗した場合でも確実にグラデーションが維持される焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】焼結体の製造方法は、グラデーションを有する宝飾品を製造するためのものであり、金合金粉体P1、プラチナ合金粉体P2、金粉合金紛体P1とプラチナ合金粉体P2の配合比が異なる各混合粉体M1からM3を層状に焼結用型枠14に充填する充填工程と、層状に充填された金合金粉体P1、プラチナ合金粉体P2及び混合粉体M1からM3を加圧しながら焼結する加圧焼結工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラデーションを有する宝飾品に用いる焼結体の製造方法において、
少なくとも第一金属粉体と第二金属粉体とを用い、前記第一金属粉体と前記第二金属粉体の配合比が異なる各混合粉体を層状に型枠に充填する充填工程と、
層状に充填された混合粉体を、加圧しながら焼結する加圧焼結工程と、を含む、
ことを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記型枠が円筒状又は円柱状であり、前記型枠の下側から上側にかけて、又は前記型枠の周方向にかけて、配合比が異なる前記各混合粉体が充填される、
ことを特徴とする請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第一金属粉体、前記第二金属粉体が、金、銀、白金、パラジウム、銅、亜鉛、ニッケル、インジウム、ガリウム、アルミニウム、ルテニウム又は、これらの群から選択される少なくとも1種を含む合金のいずれかで構成される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第一金属粉体と前記第二金属粉体の粒径が5μmから200μmである、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記加圧焼結工程は、放電プラズマ焼結法により行い、前記混合粉体を押圧する圧力が5MPaから100MPaであり、前記混合粉体を押圧する圧力を段階的に大きくする、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記加圧焼結工程において、前記型枠に温度傾斜を生じさせ、前記混合粉体を焼結する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラデーションを有する宝飾品に用いる焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指輪やネックレスなどの宝飾品では、色合いを含めた優れた意匠性が求められる。中でも、2以上の色で構成されたグラデーションを有する宝飾品は、見た目のデザイン性から人気が高い。宝飾品にグラデーションを付与する方法として、化学反応法、表面コーティング法、鋳造法など様々な方法が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示されている装飾部品の製造方法は、亜酸化銅を含む酸化物層を表面に有する装飾部品を電気炉内にて酸素分圧や供給速度を調整し、表面が銅で形成された部品前駆体を所定の温度に加熱した後に冷却して、酸化物層を形成することで、酸化物層の一端側から他端側に向けて、酸化物層の色の濃淡をグラデーション状に変化させている。これ以外にも、宝飾品の表面をガスバーナーで処理する方法や宝飾品の表面を塗装する方法も知られている。
【0003】
一方、特許文献2には、金属粒子の原料を混合し、真空雰囲気中で放電プラズマ焼結させ、単色の複合材料を製造する方法が開示され、特許文献3には、白金と金に鉄を添加した素材とを複合し、酸素を含んだ雰囲気中で200℃から450℃の温度で加熱し、金-鉄合金の色調を変化させて白金の色模様を現出させ、審美性にすぐれた色模様を有する単色の貴金属複合材料を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-285515号公報
【特許文献2】特開2007-92119号公報
【特許文献3】特開平3-202454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスバーナーを用いて酸化物層を形成してグラデーションを付与する場合、酸化物層の色合いの再現性は乏しく、均一な色合いに制御することが困難である。さらに、上述した、表面をガスバーナーで処理する方法や宝飾品の表面を塗装する方法、電気炉を利用した方法で作製した宝飾品は、宝飾品の表面層にグラデーションや所望の色合いを付与することができるが、表面層以外の部分はグラデーションが付与されていない。そのため、後処理で研磨したり、使用している間に表面が激しく摩耗したりした場合、グラデーションを構成する表面層が剥げてしまう場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、異なる溶融点、焼結温度を有する金属粉末を用いて、金属粉末を溶融することなく焼結体を製造することができ、かつ研磨や摩耗した場合でも確実にグラデーションが維持される焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る焼結体の製造方法は、グラデーションを有する宝飾品に用いる焼結体を製造するものであり、少なくとも第一金属粉体と第二金属粉体とを用い、第一金属粉体と第二金属粉体の配合比が異なる各混合粉体を層状に型枠に充填する充填工程と、層状に充填された混合粉体を、加圧しながら焼結する加圧焼結工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る焼結体の製造方法は、型枠が円筒状又は円柱状であり、型枠の下側から上側にかけて、又は型枠の周方向にかけて、配合比が異なる各混合粉体が充填されることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る焼結体の製造方法は、第一金属粉体、第二金属粉体が、金、銀、白金、パラジウム、銅、亜鉛、ニッケル、インジウム、ガリウム、アルミニウム、ルテニウム又は、これらの群から選択される少なくとも1種を含む合金のいずれかで構成されることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る焼結体の製造方法は、第一金属粉体と第二金属粉体の粒径が5μmから200μmであることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る焼結体の製造方法は、加圧焼結工程は、放電プラズマ焼結法により行い、混合粉体を押圧する圧力が5MPaから100MPaであり、混合粉体を押圧する圧力を段階的に大きくすることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る焼結体の製造方法は、加圧焼結工程において、型枠に温度傾斜を生じさせ、混合粉体を焼結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る焼結体の製造方法は、少なくとも第一金属粉体と第二金属粉体とを用い、第一金属粉体と第二金属粉体の配合比が異なる各混合粉体を層状に型枠に充填し、これらの混合粉体を加圧しながら焼結する加圧焼結する。この製造方法により、グラデーションを有する焼結体を製造し、グラデーションを有する宝飾品を作製することができる。そして、この宝飾品は、表面層以外の部分もグラデーションが作製されているため、後処理による研磨や摩耗された場合でもグラデーションを維持できる。
【0014】
さらに、本発明に係る焼結体の製造方法では、加圧焼結工程において、放電プラズマ焼結法を利用し、所定の条件のもと行うことで、粒成長が抑制された微結晶構造を有する機械的物性に優れた緻密な焼結体を短時間で製造することができる。さらに、グラデーションの再現性が高い焼結体を作製することができる。
【0015】
本発明に係る焼結体の製造方法は、焼結によって、異なる金属粉末原料から金属粉末を溶融することなく、焼結体を製造することができ、グラデーション、色味、風合い、デザイン、図柄、形状など審美性に優れた宝飾品(特に、指輪)を短時間で省エネ、省資源の手法により作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一実施形態に係る焼結体の製造方法で使用する放電プラズマ焼結装置の概略図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る焼結体の製造方法で使用する焼結用型枠を示す図である。(a)は焼結用型枠の構成を示す図であり、(b)は混合粉体が充填される空間を示す図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る焼結体の製造方法の充填工程を説明するための図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る焼結体の製造方法の充填工程後の焼結用型枠の部分拡大図である。
図5】本発明の第一実施形態の変形例に係る焼結体の製造方法における充填工程を説明するための図である。
図6】本発明の第一実施形態に係る焼結体の製造方法で製造される宝飾品の例を説明するための図である。
図7】本発明の第二実施形態に係る焼結体の製造方法を説明するための図である。
図8】本発明の第三実施形態に係る焼結体の製造方法を説明するための図である。
図9】本発明の第三実施形態に係る焼結体の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第一実施形態]
本実施形態に係る焼結体の製造方法は、グラデーションを有する指輪、ネックレス、ピアスなどの宝飾品を作製するために使用される。本実施形態では、グラデーションを有する指輪を製造する方法を例に挙げ、図1から図4を参照し説明する。なお、図2を基準として、上下方向X及び左右方向Yとする。
【0018】
本実施形態の焼結体の製造方法は、少なくとも第一金属粉体と第二金属粉体とを用いた混合粉体を調整する混合粉体調整工程と、型枠に充填する充填工程と、混合粉体を加圧しながら焼結する加圧焼結工程と、後処理工程を含む。
第一金属粉体と第二金属紛体は、金(Au)、銀(Ag)、白金(プラチナ)(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、ルテニウム(Ru)又は、これらの群から選択される少なくとも1種を含む合金のいずれかで構成される。本実施形態では、第一金属粉体に金合金を使用し、第二金属粉体にプラチナ合金を使用する。また、第一金属粉体と第二金属紛体の粒径は、5μmから200μmであることが好ましい。
【0019】
加圧焼結工程は、図1に示した放電プラズマ焼結装置10を用いて実施する。この放電プラズマ焼結装置10は、真空チャンバー11と、真空チャンバー11の上方に配置された上方電極12と、下方に配置された下方電極13と、上方電極12と下方電極13との間に設置された焼結用型枠14と、上方電極12と下方電極13に接続された制御ユニット15とを備えている。制御ユニット15は、上方電極12や下方電極13を上下に作動させ加圧する加圧制御機構、上方電極12と下方電極13間にパルス電流を流すパルス電源ユニット機構等で構成される。
【0020】
焼結用型枠14は、図2(a)に示すように、下端にスペーサー24が取り付けられた円柱状の下部パンチ20と、下部パンチ20に設けられた棒状の中子21と、中子21の周囲を囲むように設けられた円筒状のダイ22と、上端にスペーサー26が取り付けられた円柱状の上部パンチ23と(図3(b))を有している。下部パンチ20、上部パンチ23、中子21及びダイ22は黒鉛(グラファイト)で構成されている。
ダイ22は、ダイ22の上端部とスペーサー26の下端部の距離aが、ダイ22の下端部とスペーサー24の上端部の距離bよりも長くなるように下部パンチ20に取り付けられている(図3(b))。上部パンチ23が露出している部分と下部パンチ20が露出している部分の面積(ダイ22と各パンチ23,20の接触量)を変え、電気抵抗を変化させることで、焼結用型枠14に温度傾斜を発生させる。
【0021】
図2(b)に示すように、中子21とダイ22との間には、リング状の空間Sが形成される。この空間Sに金属の混合粉体が充填される。また、ダイ22の内部には熱電対が設けられており、この熱電対の温度をもとに、混合粉体を焼結する温度を調整する。なお、焼結用型枠14を構成する下部パンチ20、上部パンチ23、中子21及びダイ22は、黒鉛に限定されない。
【0022】
[混合粉体調整工程]
混合粉体調整工程では、金合金(18金:金75%、銀、銅、パラジウム)とプラチナ合金(プラチナ95%、パラジウム、ルテニウム)の配合比が異なる3つの混合粉体M1から混合粉体M3を調整する。具体的には、混合粉体M1(配合比8:2)、混合粉体M2(配合比5:5)、混合粉体M3(配合比2:8)をそれぞれ調整する。混合粉体M1からM3は、2種類の金属粉体を所望の配合となるように、攪拌/混合する。なお、上記の配合比は、各金属粉体の体積比で算出している。また、M(数字)は、異なる金属の混合粉体であることを示し、特定の配合比の混合粉体を示すものではない。
【0023】
[充填工程]
充填工程では、混合粉体調整工程で調整した金合金粉体P1,プラチナ合金粉体P2及び混合粉体M1から混合粉体M3を焼結用型枠14に充填する。焼結用型枠14を構成する下部パンチ20の上面、ダイ22の内側部、中子21の外面、上部パンチ23の下面には、離形を円滑に行うために、カーボンぺーパー(図示しない)が設けられている。なお、カーボンペーパーを設けず、離型剤を塗布することもできる。
【0024】
充填工程では、図3(a)に示すように、金合金粉体P1を焼結用型枠14の空間Sに充填し、次に、金合金粉体P1の上に混合粉体M1を充填する。同様に、混合粉体M2、混合粉体M3及びプラチナ合金粉体P2を充填した後、上部パンチ23を取り付ける。その後、図3(b)に示すように、上下に設けられた水冷盤28の間に、スペーサー25とスペーサー27を介して、焼結用型枠14を設置する。水冷盤28の内部には、流水路29が設けられている。
【0025】
このように、金合金粉体P1、プラチナ合金粉体P2及び混合粉体M1から混合粉体M3は、焼結用型枠14の高さ方向において層状に充填される。金合金粉体P1及びプラチナ合金粉体P2の層の厚さは、図4に示すように、他の混合粉体M1から混合粉体M3の層の厚さよりも厚くなるように充填する。つまり、金合金粉体P1及びプラチナ合金粉体P2は、混合粉体M1から混合粉体M3よりも多く充填される。
【0026】
[加圧焼結工程]
加圧焼結工程では、放電プラズマ焼結法(Spark Plasma Sintering:SPS)により行う。金合金粉体P1、プラチナ合金粉体P2及び混合粉体M1から混合粉体M3を充填した焼結用型枠14を放電プラズマ焼結装置10内の上方電極12と下方電極13との間に設置する。真空チャンバー11内を真空にし、放電プラズマ焼結を実施する。層状に充填された混合粉体を押圧する圧力は5MPaから80MPa、層状に充填された混合粉体を焼結する温度(SPS焼結温度)は400℃から1500℃であることが好ましい。ここで、SPS焼結温度とは、混合粉体内部の温度ではなく、ダイ22等に取り付けられた熱電対の位置(測温点)で測定された温度を意味する。
【0027】
本実施形態の加圧焼結工程は、昇温速度、圧力、SPS焼結温度の条件を調整し、以下の複数のステップにより実施する。ステップ1から5にかけて、昇温速度を遅くし、段階的に圧力を大きくする。
ステップ1:昇温速度40℃/分、圧力10MPa、SPS焼結温度500℃
ステップ2:昇温速度20℃/分、圧力10MPa、SPS焼結温度600℃
ステップ3:昇温速度20℃/分、圧力40MPa、SPS焼結温度700℃
ステップ4:昇温速度10℃/分、圧力50MPa、SPS焼結温度800℃
ステップ5:昇温速度5℃/分、圧力60MPa、SPS焼結温度815℃
【0028】
[後処理工程]
加圧焼結工程後、後処理工程を行う。後処理工程では、リング状の焼結体を焼結用型枠14から取り出し、焼結体に付着しているカーボンペーパーや加圧焼結することにより発生したバリを削除後、旋盤で所望の形状に加工し、宝飾品である指輪を作製する。
【0029】
焼結条件の一つであるSPS焼結温度を検討した例について説明する。
所定以上のSPS焼結温度では、融点が低い金属が溶出してしまい、グラデーションを有する焼結体を得ることはできなかった。また、所定以下のSPS焼結温度では、金属が十分に緻密化されず、残留気孔が発生し、所望の焼結体を得ることはできなかった。
【0030】
次に、本実施形態に係る焼結体の製造方法の作用効果について、説明する。
【0031】
本実施形態の焼結体の製造方法は、金合金とプラチナ合金を用い、金合金粉体、プラチナ合金粉体、これら金属粉体の配合比が異なる各混合粉体(M1からM3)を層状に型枠に充填し、この層状に充填された粉体を、加圧しながら焼結する。この製造方法により、グラデーションを有する指輪を確実に作製することができる。そして、この指輪は、表面以外の部分(バルク部分)もグラデーションを有するため、研磨や摩耗した場合でも同様のグラデーションが維持され、長い時間優れたデザイン性を維持することができる。また、本実施形態の焼結体の製造方法で使用する放電プラズマ焼結装置10において、ダイ22を距離aが距離bよりも長くなるように取り付け、上部パンチ23と下部パンチ20が露出する部分を調整することで、焼結用型枠14の上下方向Xの上下に温度差を生じさせ、融点が異なる混合粉体を焼結することができる。融点(溶融点)の80%から85%の温度で、金属粉体を溶かさずに焼結することができる。
【0032】
本実施形態の焼結体の製造方法では、加圧焼結工程において、放電プラズマ焼結法を利用するため、比較的短時間で目的の焼結体を作製することができ、かつ再現性の高い指輪を作製することができる。また、放電プラズマ焼結装置10は、温度、圧力等の諸条件を調整できるため、焼結させる金属の混合粉体に応じて、条件を容易に適宜設定できる。
【0033】
また、本実施形態で第一金属として使用した金合金には、ピンクゴールド、イエローゴールド、ホワイトゴールド、ブラックゴールドなど、色の異なる種類があり、これらの粉体を用いることで、色調の異なる指輪を作製することができる。なお、本実施形態で使用した金合金、プラチナ合金以外にも様々な色の金属粉体を利用することができ、多くのバリエーションを含む色調の異なる宝飾品を作製することができる。
【0034】
本実施形態の焼結体の製造方法の加圧焼結工程では、複数のステップにより、層状に充填された混合粉体等に加える圧力を段階的に大きくする。圧力を段階的に大きくすることで、出発原料(金属粉体)の表面吸着ガス(О2)や焼結過程で発生するガスを押出・除去し、緻密化過程で残留気孔を発生することを抑制し、焼結を行うことによって高密度焼結体を得ることができる。
【0035】
本実施形態に係る焼結体の製造方法は、焼結によって、異なる金属粉末原料(金合金、プラチナ合金)から混合粉体M1からM3を溶融することなく、焼結体を製造することができる。そして、この焼結体の製造方法により、グラデーション、色味、風合い、デザイン、図柄、形状など審美性に優れた指輪(宝飾品)を短時間かつ省エネで作製することができる。
【0036】
本実施形態の変形例として、図5に示すように、配合比の異なる混合粉体M1からM8を焼結用型枠14の円周方向に層状に充填し、宝飾品である指輪を作製することもできる。このような条件で作製された指輪も、表面以外の部分もグラデーションを有し、長い時間優れたデザイン性が維持される。
なお、図5では、混合粉体M1からM8の8つの混合粉体を均等に充填した例を示しているが、混合粉体の数は適宜変更でき、また混合粉体は焼結用型枠14の周方向に対し、不均等に充填してもよい。
【0037】
本実施形態に係る焼結体の製造方法では、グラデーションを有するリング状の焼結体を作製したが、焼結用型枠14の形状を変更し、円柱状や多角形状の焼結体を作製することもできる。また、本実施形態に係る焼結体の製造方法は、焼結体にグラデーション以外にも模様等を付与することができる。例えば、充填工程の際、治具を利用し、所望の位置に金属粉体や金属の固体を充填し、加圧焼結工程を行うことで、図6(a)及び(b)に示すように、焼結体30,31にグラデーション以外の模様30A,30B,31A,31Bを付すこともできる。さらに、充填工程において、ハートや丸形等、特定形状の固体を混合粉体M1から混合粉体M5の中に配置し、加圧焼結することで、図6(c)に示すように、焼結体32にハートマーク32Aや丸型32Bを付与できる。なお、焼結体を削ったときにこれらのマークが表面に現れるように、特定形状の固体を配置してもよい。
このように、本実施形態に係る焼結体の製造方法は、色調のバリエーションを含め、多種多様な宝飾品を作製することができる。
【0038】
[第二実施形態]
本実施形態では、グラデーションを有する時計文字盤を製造するための焼結体の製造方法について説明する。
【0039】
本実施形態に係る焼結体の製造方法は、第一金属粉体と第二金属粉体とを用いた混合粉体調整工程と、型枠に充填する充填工程と、混合粉体を加圧しながら焼結する加圧焼結工程と、焼結体を切断する切断工程と、後処理工程を含む。第一金属粉体と第二金属紛体は、第一実施形態と同様に、金、銀、白金、パラジウム、銅、亜鉛、ニッケル、インジウム、ガリウム、アルミニウム、ルテニウム又は、これらの群から選択される少なくとも1種を含む合金のいずれかで構成される。
本実施形態に係る焼結体の製造方法は、焼結体を切断する工程を含む点で、第一実施形態の焼結体の製造方法と異なる。そのため、同様の工程の説明は省略し、異なる工程を中心に説明する。
【0040】
本実施形態に係る焼結体の製造方法では、金合金(第一金属粉体)とプラチナ合金(第二金属粉体)とを用いて配合比の異なる混合粉体M1からM7を調整し、各混合粉体M1からM7を焼結用型枠14に充填し、混合粉体を加圧しながら焼結し、直方体状の焼結体又は立方体状の焼結体40を作製する(図7(a))。次に、焼結体を所定の厚さに切断する切断工程を行う。切断工程により、図7(b)に示すように、グラデーションを有する板状の焼結体41を得る。その後、後処理工程において、板状の焼結体41を円形状に加工する。そして、図7(c)に示すように、加工後の焼結体41の表面に時計文字盤に要する数字等を付与することで時計文字盤42を作製する。
【0041】
本実施形態に係る焼結体の製造方法では、所定形状のグラデーションを有する所定形状の焼結体40を作製し、その焼結体40の一部を利用し、宝飾品(時計盤)を作製することができる。
【0042】
[第三実施形態]
本実施形態では、焼結用型枠14に温度傾斜を生じさせ、焼結体を製造する例について図8及び図9を参照し説明する。この温度傾斜は、焼結用型枠14を構成する上部パンチ23A及びダイ22Aの電気抵抗を利用して生じさせる。
本実施形態では、円筒状の上部パンチ23Aを用いる。なお、第一実施形態及び第二実施形態の構成と同じものは同じ符号を付し、説明を省略する。
【0043】
図8に示すように、混合粉体M1からM5は、上部パンチ23Aとスペーサー24の空間に充填される。領域R1は、電流経路が上部パンチ23Aのみのため、上部パンチ23A及びダイ22Aが電流経路となる領域R2よりも高温となる。また、水冷盤28の流水路29に水を流すことで、領域R2における下側は温度が低くなる。このように、焼結用型枠14の上下方向Xの上下に温度差を生じさせることによって、融点が異なる混合粉体を焼結することができる。融点の80%から85%の温度で、金属粉体を溶かさずに焼結することができる。
【0044】
また、図9に示すように、ダイ22Bは、上側部分の直径よりも下側部分の直径が大きくなる構成とし、焼結用型枠14に温度傾斜を生じさせる。この場合、領域R3、領域R4、領域R5の順で温度が低くなる。このようにダイ22Bの形状により、より大きな温度傾斜を生じさせることができ、金属粉体を溶かさずに焼結することができる。
図8及び図9に示した焼結用型枠14の構成以外でも、上部パンチ23Aの厚み、上部パンチ23Aの素材(黒鉛、超鋼)、ダイ22A,22Bの厚みや形状を調整することで、焼結用型枠14に、数十度~300度程度の温度差を生じさせることができる。
【0045】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択し、他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば、本実施形態では、2種類の金属粉体を用いてグラデーションを付与しているが、3種類以上の金属粉体を用いてグラデーションを有する宝飾品を作製できる。さらに、3種類以上の金属粉体を用いて、焼結用型枠14の温度傾斜を生じさせ、放電プラズマ焼結法により焼結を行うこともできる。
【0046】
また、本実施形態では、配合比の異なる5つ又は7つの混合粉体を用いて、5層又は7層の宝飾品に用いるグラデーションを有する焼結体を作製した例を示したが、グラデーションの色調や目的の厚さ等に応じて、3層から20層程度までの焼結体を作製することもできる。このような積層構造とすることで焼結体にグラデーションを発現させることができる。
【0047】
第二実施形態及び第三実施形態では、配合比が全て異なる混合粉体を用いた例を示したが、各混合粉体の最上層を第一金属粉体のみとし、最下層を第二金属紛体のみとすることもできる。また、本実施形態では、焼結用型枠14を構成する下部パンチ20、上部パンチ23、中子21、ダイ22には黒鉛(グラファイト)を用いたが、焼結する金属粉体の種類や焼結の目的に応じて、ダイス鋼、超硬、セラミックスを適宜用いることもできる。この場合、焼結用型枠14を構成する部材全体に同種の素材を用いたり、各部材に異種の素材を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0048】
焼結用型枠14の形状はリング状、円柱状、直方体状に限定されず、作製する宝飾品の所望の形状に応じて、適宜変更することができる。また、混合粉体の数や配合比は、作製する宝飾品によって適宜変更することができ、配合比は、規則的な割合ではなく、ランダムな配合比で調整することもできる。なお、第一金属粉体と第二金属粉体の配合比が異なる各混合粉体を、別々にSPS焼結することにより、微妙な色調を表現できる複数の焼結体を製造することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 放電プラズマ焼結装置
11 真空チャンバー
12 上方電極
13 下方電極
14 焼結用型枠
15 制御ユニット
20 下部パンチ
21 中子
22,22A,22B ダイ
23,23A 上部パンチ
24~27 スペーサー
28 水冷盤
29 流水路
30,31,32 焼結体
30A,30B,31A,31B 模様
40,41 焼結体
42 時計文字盤
a,b 距離
M1~M8 混合粉体
P1 金合金粉体
P2 プラチナ合金粉体
R1~R5 領域
S 空間
X 上下方向
Y 左右方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラデーションを有する宝飾品に用いる焼結体の製造方法において、
少なくとも第一金属粉体と第二金属粉体とを用い、前記第一金属粉体と前記第二金属粉体の配合比が異なる各混合粉体を層状に型枠に充填する充填工程と、
層状に充填された混合粉体を、加圧しながら焼結する加圧焼結工程と、を含
前記加圧焼結工程は放電プラズマ焼結法により行い、焼結温度の昇温速度を段階的に遅くしながら、前記混合粉体を押圧する圧力を段階的に大きくする、
ことを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記型枠が円筒状又は円柱状であり、前記型枠の下側から上側にかけて、又は前記型枠の周方向にかけて、配合比が異なる前記各混合粉体が充填される、
ことを特徴とする請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第一金属粉体が金合金であり、前記第二金属粉体がプラチナ合金であり、
前記金合金には銀、銅及びパラジウムが含まれ、前記プラチナ合金にはプラチナ、パラジウム、ルテニウムが含まれている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第一金属粉体と前記第二金属粉体の粒径が5μmから200μmである、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記充填工程において、前記各混合粉体の中に特定形状を有する固体を配置した後、前記加圧焼結工程を行う、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記型枠が、上部パンチと、前記上部パンチの上端に取り付けられた第一スペーサーと、前記上部パンチと対向して配置された下部パンチと、前記下部パンチの下端に取り付けられた第二スペーサーと、前記上部パンチの内部及び前記下部パンチの内部に配置された棒状の中子部材と、前記中子部材の周囲を囲むダイと、を有し、
前記ダイは、前記ダイの上端部と前記第一スペーサーの下端部までの距離が、前記ダイの下端部と前記第二スペーサーの上端部までの距離よりも長くなるように配置され、
前記加圧焼結工程において、前記型枠に温度傾斜を生じさせ、前記混合粉体を焼結する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結体の製造方法。