(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151992
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】蒸着膜を有する基材の製造方法、多層蒸着膜を有する基材の製造方法および蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/30 20060101AFI20241018BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20241018BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20241018BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20241018BHJP
【FI】
C23C14/30 Z
G02B5/28
G02B5/26
G02B1/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065865
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 寛之
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
4K029
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA07
2H148FA12
2H148FA15
2H148FA24
2H148GA04
2H148GA09
2H148GA33
2H148GA60
2K009AA02
2K009CC02
2K009DD03
4K029AA09
4K029AA11
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA44
4K029BA46
4K029BA48
4K029BB02
4K029CA01
4K029DB02
4K029DB05
4K029DB14
4K029DB21
4K029EA01
4K029EA02
4K029EA03
(57)【要約】
【課題】異物の少ない(多層)蒸着膜を有する基材の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記工程(1)または(2)を含む、蒸着膜を有する基材の製造方法。
工程(1):1つの蒸着材料Aに、複数の電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の電子銃からの電子ビームが、1つの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
工程(2):複数の蒸着材料A(但し、該複数の蒸着材料Aは、主成分が同一の蒸着材料である。)それぞれに、それぞれの蒸着材料Aに対応する電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の蒸着材料Aそれぞれに対応する電子銃からの電子ビームが、それぞれの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)または(2)を含む、蒸着膜を有する基材の製造方法。
工程(1):1つの蒸着材料Aに、複数の電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の電子銃からの電子ビームが、1つの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
工程(2):複数の蒸着材料A(但し、該複数の蒸着材料Aは、主成分が同一の蒸着材料である。)それぞれに、それぞれの蒸着材料Aに対応する電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の蒸着材料Aそれぞれに対応する電子銃からの電子ビームが、それぞれの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
【請求項2】
前記蒸着材料Aが、Si、SiO2、Ti2O3、Ti3O5、TiO2、Nb2O5、HfO2、La2O3、Al2O3、Y2O3、Yb2O3、Ta2O5、MgF2、AgおよびZrO2から選ばれる蒸着材料A1を含む、請求項1に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)における1つの蒸着材料A中の前記蒸着材料A1から選ばれる1つの含有量、および、前記工程(2)におけるそれぞれの蒸着材料A中の前記蒸着材料A1から選ばれる1つの含有量が、それぞれ90質量%以上である、請求項2に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
【請求項4】
下記要件(i)を満たす、請求項1に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
要件(i):前記蒸着材料Aに照射する電子銃からの電子ビームの照射面積をS[cm2]とし、前記蒸着材料Aの蒸着膜が形成される成膜速度をV[Å/sec]とした時、V/Sが1.5[Å/(sec・cm2)]未満である
【請求項5】
前記照射面積Sが5cm2以上である、請求項4に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法により、基材上に蒸着材料Aの蒸着膜aを形成する工程Iと、
請求項1~5のいずれか1項に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法において、蒸着材料Aの代わりに、蒸着材料Aとは屈折率が異なる蒸着材料Bを用いて、前記蒸着膜aを有する基材上に蒸着材料Bの蒸着膜bを形成する工程IIと
を含む、多層蒸着膜を有する基材の製造方法。
【請求項7】
前記多層蒸着膜が、波長400~1600nmの範囲において、光の透過率が10%以下となる波長を有する、請求項6に記載の多層蒸着膜を有する基材の製造方法。
【請求項8】
下記構成(I)または(II)を含む、蒸着材料を蒸発させて基材上に該蒸着材料の蒸着膜を形成する蒸着装置。
構成(I):蒸着装置内に、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部を有し、1つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃を複数有する
構成(II):蒸着装置内に、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部を複数有し、該複数の蒸着材料配置部の内の少なくとも2つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃をそれぞれ有する
【請求項9】
電子銃による電子ビームの照射を制御する制御装置をさらに有する、請求項8に記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記蒸着装置が、中和銃およびイオン銃から選ばれる少なくとも1つを有するイオンアシスト蒸着装置である、請求項8または9に記載の蒸着装置。
【請求項11】
前記蒸着材料配置部の上部に、形成する蒸着膜の膜厚を調整する補正板を有し、
該補正板の数が、電子銃の数と同数以上である、請求項8または9に記載の蒸着装置。
【請求項12】
蒸着装置内の電子銃の数が3つ以上である、請求項8または9に記載の蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着膜を有する基材の製造方法、多層蒸着膜を有する基材の製造方法および蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラ等のレンズ、近赤外線カットフィルターなどの光学部材には、光の反射を抑制や、特定の波長の光を透過または反射させるために、その表面に光学膜が形成されている。このような光学膜を形成する方法としては、真空蒸着やスパッタリングなどが主に用いられており、中でも真空蒸着は、一度に大面積の光学膜の形成が可能であることから、大量生産の用途では主に利用されている。
【0003】
真空蒸着では、基材などの被蒸着体に形成される蒸着膜に異物が混入することを極力排除するために、真空に排気された真空容器の中で成膜が行われる。真空容器の内部には、蒸着材料を収容したハースライナー、蒸着材料を加熱、蒸発させるための加熱源等を含む蒸着源などが配置され、被蒸着体である基材は、通常、ハースライナーと対向する位置(ハースライナーの上部)に配置される。
【0004】
蒸着材料を加熱する方法としては、光学膜形成の分野では電子ビーム蒸着と抵抗加熱蒸着がよく用いられる。これらの中でも、電子を非常に高いエネルギーまで加速して照射でき、高融点の蒸着材料を用いても蒸着膜を形成でき、電子ビームを磁場によってスキャン等することで蒸着材料の溶融状態を制御しやすい等の点から、電子ビーム蒸着が主に用いられている。
【0005】
近年、例えばカメラには、撮影画像の高精細化が求められるようになり、高画素化の要求によって、カメラに使用される光学部材、さらには、その表面に形成されている光学膜(蒸着膜)にも高い品質が要求されるようになってきており、特に蒸着膜中に異物(欠陥)が少ないことが求められている。
このような要求を解決するための技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、特に、スマートフォンカメラなどの高画質化に伴い、該カメラに用いられるセンサーの大型化が進んでおり、これに伴い、該センサーに用いられる近赤外線カットフィルターなどの光学部材、ひいては光学膜(蒸着膜)も大型化が求められている。
しかしながら、従来の蒸着膜の製造方法で大型の蒸着膜を形成しようとすると、形成される蒸着膜の面積が大きくなることにより、必然的に異物が含まれる可能性が高くなり、このことにより、得られる光学部材の歩留まりが低下し、生産性が低下していた。
【0008】
本発明は以上のことに鑑みてなされたものであり、異物の少ない(多層)蒸着膜を有する基材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例を以下に示す。
なお、本発明において、数値範囲を表す「A~B」等の記載は、「A以上、B以下」と同義であり、AおよびBをその数値範囲内に含む。
【0010】
[1] 下記工程(1)または(2)を含む、蒸着膜を有する基材の製造方法。
工程(1):1つの蒸着材料Aに、複数の電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の電子銃からの電子ビームが、1つの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
工程(2):複数の蒸着材料A(但し、該複数の蒸着材料Aは、主成分が同一の蒸着材料である。)それぞれに、それぞれの蒸着材料Aに対応する電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の蒸着材料Aそれぞれに対応する電子銃からの電子ビームが、それぞれの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
【0011】
[2] 前記蒸着材料Aが、Si、SiO2、Ti2O3、Ti3O5、TiO2、Nb2O5、HfO2、La2O3、Al2O3、Y2O3、Yb2O3、Ta2O5、MgF2、AgおよびZrO2から選ばれる蒸着材料A1を含む、[1]に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
【0012】
[3] 前記工程(1)における1つの蒸着材料A中の前記蒸着材料A1から選ばれる1つの含有量、および、前記工程(2)におけるそれぞれの蒸着材料A中の前記蒸着材料A1から選ばれる1つの含有量が、それぞれ90質量%以上である、[2]に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
【0013】
[4] 下記要件(i)を満たす、[1]~[3]のいずれかに記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
要件(i):前記蒸着材料Aに照射する電子銃からの電子ビームの照射面積をS[cm2]とし、前記蒸着材料Aの蒸着膜が形成される成膜速度をV[Å/sec]とした時、V/Sが1.5[Å/(sec・cm2)]未満である
【0014】
[5] 前記照射面積Sが5cm2以上である、[4]に記載の蒸着膜を有する基材の製造方法。
【0015】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の蒸着膜を有する基材の製造方法により、基材上に蒸着材料Aの蒸着膜aを形成する工程Iと、
[1]~[5]のいずれかに記載の蒸着膜を有する基材の製造方法において、蒸着材料Aの代わりに、蒸着材料Aとは屈折率が異なる蒸着材料Bを用いて、前記蒸着膜aを有する基材上に蒸着材料Bの蒸着膜bを形成する工程IIと
を含む、多層蒸着膜を有する基材の製造方法。
【0016】
[7] 前記多層蒸着膜が、波長400~1600nmの範囲において、光の透過率が10%以下となる波長を有する、[6]に記載の多層蒸着膜を有する基材の製造方法。
【0017】
[8] 下記構成(I)または(II)を含む、蒸着材料を蒸発させて基材上に該蒸着材料の蒸着膜を形成する蒸着装置。
構成(I):蒸着装置内に、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部を有し、1つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃を複数有する
構成(II):蒸着装置内に、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部を複数有し、該複数の蒸着材料配置部の内の少なくとも2つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃をそれぞれ有する
【0018】
[9] 電子銃による電子ビームの照射を制御する制御装置をさらに有する、[8]に記載の蒸着装置。
【0019】
[10] 前記蒸着装置が、中和銃およびイオン銃から選ばれる少なくとも1つを有するイオンアシスト蒸着装置である、[8]または[9]に記載の蒸着装置。
【0020】
[11] 前記蒸着材料配置部の上部に、形成する蒸着膜の膜厚を調整する補正板を有し、
該補正板の数が、電子銃の数と同数以上である、[8]~[10]のいずれかに記載の蒸着装置。
【0021】
[12] 蒸着装置内の電子銃の数が3つ以上である、[8]~[11]のいずれかに記載の蒸着装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、異物の少ない(多層)蒸着膜を有する基材を、高い生産性(高い歩留まり)で製造することができる。
特に、本発明によれば、大面積の(多層)蒸着膜を形成する場合であっても、異物の少ない(多層)蒸着膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部と、該蒸着材料配置部に配置した蒸着材料に電子ビームを照射する電子銃との位置関係の一例を示す概略模式図(平面図)である。
【
図2】
図2は、蒸着装置の一例を示す概略模式図(側面図)である。
【
図3】
図3は、ハースライナー9-2に2種類の蒸着材料を入れる場合の一例を示す概略模式図(平面図)である。
【
図4】
図4は、下記実施例における、異物数を測定する方法を示す説明図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪蒸着膜を有する基材の製造方法≫
本発明に係る蒸着膜を有する基材(以下「本積層体」ともいう。)の製造方法(以下「本製造方法」ともいう。)は、下記工程(1)または(2)を含む。
要するに、本製造方法は、蒸着材料Aの蒸着膜を形成する際に、異なる少なくとも2箇所以上から蒸着材料Aが蒸発し、これら蒸着材料Aの蒸着膜を基材上に形成する方法である。
工程(1):1つの蒸着材料Aに、複数の電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の電子銃からの電子ビームが、1つの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
工程(2):複数の蒸着材料A(但し、該複数の蒸着材料Aは、主成分が同一の蒸着材料である。)それぞれに、それぞれの蒸着材料Aに対応する電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程(但し、複数の蒸着材料Aそれぞれに対応する電子銃からの電子ビームが、それぞれの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。)
【0025】
このような本製造方法によれば、異物の少ない(多層)蒸着膜を有する基材を、該基材が大型であっても、高い生産性(高い歩留まり)で製造することができる。
なお、蒸着膜における異物としては、具体的には、蒸着中に生じる突沸(所謂スプラッシュ)による異物が主に挙げられ、該蒸着膜における異物の生成・付着を抑制するために成膜速度を低下させることは考えられるが、このように成膜速度を低下させると、タクトタイムが伸びることにより、生産性が低下してしまう。また、タクトタイムが伸びると、異物が蒸着膜に付着する可能性も増大する。このため、成膜速度はなるべく低下させないことが望まれているが、従来の方法では、成膜速度を低下させずに異物の生成・付着を抑制することは容易ではなかった。
一方、本製造方法によれば、成膜速度を低下させずに、蒸着膜における異物の生成・付着を抑制することができる。
【0026】
なお、本製造方法で形成した本積層体にソリが生じてしまう場合には、これを解消するために、基材の蒸着膜を形成した面に紫外線等の電磁波を照射してもよい。なお、電磁波を照射する場合、蒸着膜の形成中に照射してもよいし、蒸着膜を形成後別途照射してもよい。
【0027】
<蒸着装置>
本製造方法は、具体的には、蒸着装置を用いて行うことが好ましい。
該蒸着装置としては、前記工程(1)または(2)を満たすことができる蒸着装置であれば特に制限されず、蒸着材料と電子銃からの電子ビームとの関係が前記工程(1)または(2)を満たすような構成にする以外は、従来公知の蒸着装置を用いることができる。
【0028】
前記蒸着材料と電子銃からの電子ビームとの関係が前記工程(1)または(2)を満たすような構成としては、以下の構成(I)または(II)が挙げられる。前記蒸着装置は、以下の構成(I)を含む蒸着装置であってもよく、以下の構成(II)を含む蒸着装置であってもよく、以下の構成(I)および(II)を含む蒸着装置であってもよい。
構成(I):蒸着装置内に、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部を有し、1つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃を複数有する
構成(II):蒸着装置内に、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部を複数有し、該複数の蒸着材料配置部の内の少なくとも2つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃をそれぞれ有する
【0029】
図1は、蒸着材料を配置する蒸着材料配置部と、該蒸着材料配置部に配置した蒸着材料に電子ビームを照射する電子銃との位置関係の一例を示す概略模式図(平面図、上部から俯瞰した図)である。
図1(A)は、前記構成(I)の一例を示し、
図1(B)は、前記構成(II)の一例を示す。
【0030】
図1(A)は、1つの蒸着材料配置部9-1に対し、電子ビームを照射する異なる2つの電子銃5-1および5-2を有する場合の一例を示す。
該1つの蒸着材料配置部9-1に蒸着材料Aを配置し、電子銃5-1および5-2から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成することで、前記工程(1)を行うことができる。
【0031】
前記構成(I)の場合、1つの蒸着材料配置部9-1に対し、電子ビームを照射する複数の電子銃は、該蒸着材料配置部9-1の異なる箇所に、それぞれの電子銃からの電子ビームが照射されるように、電子銃を配置することが好ましい。
図1(A)では、1つの蒸着材料配置部9-1に対し、電子ビームを照射する電子銃を2つ有する態様を示しているが、1つの蒸着材料配置部9-1に対し、電子ビームを照射する電子銃は、3つ以上でもよい。1つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する複数の電子銃の数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
前記構成(I)では、例えば、1つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する複数の電子銃を有し、該電子銃の位置を固定し、該蒸着材料配置部を移動(回転)させながら、電子銃による電子ビームの照射を行ってもよく、蒸着材料配置部を固定し、電子銃を移動させながら、電子銃による電子ビームの照射を行ってもよい。これらの中では、蒸着装置の構成の容易さ等の点から、前者が好ましい。
例えば、円形の1つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃の数を2つとし、該電子銃の位置を固定し、蒸着材料配置部を移動(回転)させながら電子銃による電子ビームの照射を行う場合、該2つの電子銃は、90~180°離れた位置(
図1(A)は、90°離れた位置)に配置することが好ましい。
【0032】
図1(B)は、複数の蒸着材料配置部9-2を有し、該複数の蒸着材料配置部9-2の内の少なくとも2つの蒸着材料配置部に対し、電子ビームを照射する電子銃をそれぞれ有する。
図1(B)では、12個の蒸着材料配置部9-2の内の、
図1(B)における6時と9時の方向の2つの蒸着材料配置部9-2に対し、電子ビームを照射する電子銃5-3および5-4をそれぞれ有する。
複数の蒸着材料配置部9-2の少なくとも2箇所(例:12個の蒸着材料配置部9-2の内の、6時と9時の方向の蒸着材料配置部9-2)に蒸着材料A(但し、該複数の蒸着材料Aは、主成分が同一の蒸着材料である。)を入れ、それぞれの蒸着材料Aに対応する電子銃(例:電子銃5-3および5-4)から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成することで、前記工程(2)を行うことができる。
なお、
図1(B)では、12個の蒸着材料配置部9-2の内の、6時の方向の蒸着材料配置部9-2に配置した蒸着材料に対し、対応する電子銃は電子銃5-3であり、9時の方向の蒸着材料配置部9-2に配置した蒸着材料に対し、対応する電子銃は電子銃5-4である。また、以下のように、蒸着材料配置部を回転させながら、電子銃による電子ビームの照射を行う場合であって、例えば、蒸着材料配置部を時計回りに90°回転させる場合、
図1(B)における回転前の6時の方向の蒸着材料配置部9-2に配置した蒸着材料に対し、対応する電子銃は電子銃5-4になり得る。
【0033】
なお、
図1(B)では、12個の蒸着材料配置部9-2を有している態様を示しているが、前記構成(II)において、蒸着装置内に設ける複数の蒸着材料配置部の数は特に制限されず、隣接する電子銃からの電子ビーム同士の干渉を低減する等の点から、好ましくは2~36個、より好ましくは2~30個である。
また、
図1(B)では、2個の電子銃5-3および5-4を有している態様を示しているが、蒸着装置内に設ける蒸着材料配置部9-2と同数の電子銃を蒸着装置内に設けてもよく、好ましくは2~4個(但し、蒸着装置内に設ける複数の蒸着材料配置部の数以下の数である)の電子銃を蒸着装置内に設けることが好ましい。
前記構成(II)では、例えば、電子銃の位置を固定し、蒸着材料配置部を回転機構11により回転(移動)させながら、電子銃による電子ビームの照射を行ってもよく、蒸着材料配置部を固定し、電子銃を移動させながら、電子銃による電子ビームの照射を行ってもよい。これらの中では、蒸着装置の構成の容易さ等の点から、前者が好ましい。
例えば、複数の蒸着材料配置部を全体で円形になるように配置し(例:
図1(B))、電子ビームを照射する電子銃の数を2つとし、該電子銃の位置を固定し、複数の蒸着材料配置部全体を回転(移動)させながら電子銃による電子ビームの照射を行う場合、該2つの電子銃は、90~180°離れた位置(
図1(B)は、90°離れた位置)に配置することが好ましい。
【0034】
前記蒸着装置としては、例えば、
蒸着材料を蒸発させて基材上に蒸着材料の蒸着膜を形成する工程を行う蒸着容器と、
前記蒸着容器内の上部に設けられ、前記基材を配置および保持する基材配置部と、
前記基材配置部に対向して前記蒸着容器内の下部に設けられ、蒸着膜の原料となる蒸着材料を配置する蒸着材料配置部と、
前記蒸着材料配置部に配置された蒸着材料に電子ビームを照射して該蒸着材料を蒸発させる電子銃と
を有する蒸着装置が挙げられる。
【0035】
前記蒸着装置のより具体的な構成の一例の概略模式図(側面図)を、
図2に示す。
図2は、蒸着材料を蒸発させて基材上に蒸着材料の蒸着膜を形成する工程を行う蒸着容器10と、
前記蒸着容器10内の上部に設けられ、前記基材を配置および保持する基材配置部1と、
前記基材配置部1に対向して前記蒸着容器10内の下部に設けられ、蒸着膜の原料となる蒸着材料を配置する蒸着材料配置部4-1および4-2と、
前記蒸着材料配置部4-1および4-2に配置された蒸着材料に電子ビームを照射して該蒸着材料を蒸発させる電子銃5-1~5-3とを有する。
【0036】
〈蒸着容器〉
蒸着容器としては特に制限されず、一般的に蒸着装置で利用される公知の蒸着容器(例:真空チャンバ、真空ベルジャー、真空槽)が挙げられる。
蒸着容器としては、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム合金等で形成される気密性が高い容器が挙げられる。
【0037】
蒸着容器では、容器内を減圧(特に真空)下にして、蒸着膜の形成を行うことが好ましく、この場合、通常、前記蒸着容器内を減圧(特に真空)にする真空排気部が配管を介して接続されている。
また、蒸着容器には、真空度調整用のアルゴンガス等のガスを導入するためや、安定した酸化膜を形成するためのプロセスガスとして微量の酸素ガス等を導入するために、ガス導入手段が設けられてもよい。
【0038】
蒸着材料を蒸発させて基材上に蒸着材料の蒸着膜を形成する際の蒸着容器内の圧力は、より異物の少ない蒸着膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは1×10-2Pa以下、より好ましくは2×10-3Pa以下である。
【0039】
〈基材配置部〉
基材配置部は、基材が配置・保持される箇所である。
該基材配置部は、基材を蒸着容器内に保持することができれば特に制限されないが、成膜される膜厚の均一性等の点から、
図2に示すようなドーム形状を有することが好ましい。
該基材保持部は、例えば、1つまたは複数の回転機構により、基材を保持しながら回転させることができる部材であることが好ましい。
また、基材保持部は、蒸着装置内に、基材をロール・ツー・ロールで搬送する搬送手段を具備する部材であってもよい。
【0040】
〈蒸着材料配置部〉
蒸着材料配置部は、蒸着材料を蒸着装置内に配置する箇所であり、通常、該蒸着材料配置部に、蒸着材料を入れた蒸着材料配置容器を配置する。
蒸着装置内に設ける蒸着材料配置部は、1つでもよく、2つ以上でもよい。
なお、蒸着装置内に設ける蒸着材料配置部が1つの場合、該1つの蒸着材料配置部に、少なくとも2つの電子銃からの電子ビームが照射されるように、少なくとも2つの電子銃を用いる。この場合、該蒸着材料配置部の少なくとも2箇所の異なる箇所に、それぞれの電子銃からの電子ビームが照射されるように電子銃または蒸着材料配置部を設けることが好ましい。また、蒸着装置内に設ける蒸着材料配置部が2つ以上の場合、蒸着装置に設ける電子銃の数は、最小でも2つである。なお、蒸着装置内に設ける蒸着材料配置部が2つ以上の場合、その内の1つの蒸着材料配置部に電子ビームを照射する電子銃の数は、2つ(例:
図2)でもよいし、3つ以上でもよい。
該蒸着材料配置部には、
図1(B)の11として示すような回転機構を設けてもよい。
【0041】
1つの蒸着材料配置部や蒸着材料配置容器には、1種類の蒸着材料を配置してもよく、2種類以上の蒸着材料を配置してもよい。1つの蒸着材料配置部や蒸着材料配置容器に2種類以上の蒸着材料を配置する場合、該2種類以上の蒸着材料それぞれが電子ビームの照射により蒸発して、蒸着膜を形成できるように各蒸着材料を配置することが好ましい。具体的には、例えば、1つの蒸着材料配置容器に2種類以上の蒸着材料を入れる場合、各蒸着材料が表出するように(該蒸着材料配置容器の開口部の上方から見た場合に各蒸着材料が見えるように)、各蒸着材料を蒸着材料配置容器に入れることが好ましい(例:
図3)。
【0042】
前記蒸着材料配置容器としては、蒸着材料と反応せず、かつ、十分な耐熱性を有すれば特に制限されず、蒸着に用いられてきた従来公知の容器(例:ハースライナー、るつぼ)を用いることができる。
蒸着材料配置容器としては、例えば、金属、金属合金、セラミックス製の容器が挙げられ、蒸着材料の種類に応じて適宜選択すればよい。
蒸着材料配置容器の形状は特に制限されないが、通常、上面が開放している中空の容器であり、円筒状、四角筒状などの角筒状のように、筒の上下方向と直交する方向の断面の変動が無い形状であることが好ましい。
【0043】
〈電子銃〉
電子銃の種類としては特に制限されず従来公知の電子銃を用いることができ、例えば、直進型電子銃、偏向型電子銃が挙げられる。
該電子銃には、通常、電子ビームを照射するための電源装置が接続されている。
直進型電子銃を用いる場合、蒸着材料に直線的に電子ビームが当たるように予めある程度の角度や位置を設定し、電子銃を蒸着装置に据え付けることが好ましい。
偏向型電子銃を用いる場合、該電子銃から飛び出た電子を磁場で偏向させ、蒸着材料に電子ビームが当たるようにすることが好ましい。
【0044】
前記蒸着装置内に設けられる電子銃の数は、蒸着材料配置部の数に限らず、最低でも2つであり、多層蒸着膜を容易に形成することができる蒸着装置を容易に得ることができる等の点からは、蒸着装置内に設けられる電子銃の数は3つ以上であることが好ましい。
【0045】
〈その他の構成〉
前記蒸着容器、基材配置部、蒸着材料配置部および電子銃以外の前記蒸着装置のその他の構成としては、従来公知の蒸着装置で用いられてきた構成を制限なく採用することができる。
【0046】
前記蒸着装置は、電子銃による電子ビームの照射を制御する、具体的には、電子ビームの照射面積を調節したり、電子線出力を調節(電子ビームの照射により形成される蒸着膜の成膜速度を調節)したりする、さらには、電子銃による電子ビームの照射のタイミングを制御する制御装置を設けることが好ましい。
【0047】
前記蒸着装置は、前記蒸着材料配置部の上部(前記基材配置部と前記蒸着材料配置部との間)に位置し、形成する蒸着膜の膜厚を調整する、具体的には、前記基材配置部のどの部分に基材を配置しても、略同様の膜厚の蒸着膜が得られるように調整する、補正板(例:
図2の2-1および2-2)を設けることが好ましい。
【0048】
前記蒸着装置としては、蒸着開始時等の、蒸着材料の突沸が起こりやすい段階において、該突沸による蒸着材料の基材への蒸着を抑制するためや、所望の蒸着材料以外の蒸着材料の基材への付着を抑制するために、前記蒸着材料配置部と基材配置部との間(例:前記蒸着材料配置部の上部)にシャッター(例:
図2の3-1および3-2)を設けることが好ましい。
特に、前記蒸着容器内に2つ以上の蒸着材料配置部を設け、そのうちの一部からのみ蒸着材料を蒸発させて基材に蒸着させたい場合、残りの蒸着材料配置部からは、そこに配置されている蒸着材料が蒸発して基材に蒸着しないように、シャッターを設けることが好ましい。
【0049】
前記蒸着装置は、中和銃(例:
図2の6)およびイオン銃(例:
図2の7)から選ばれる少なくとも1つを有するイオンアシスト蒸着装置であることが好ましい。
中和銃および/またはイオン銃を用いることで、緻密な蒸着膜を容易に形成することができる。
【0050】
前記蒸着装置は、形成された蒸着膜の膜厚をモニターする、水晶振動子(例:
図2の8)や光学反射率測定装置を含む、膜厚制御部有していてもよく、成膜中の蒸着装置内の環境を観測し、所望の蒸着膜を形成することができるように、温度計、真空計、加熱装置、冷却装置、基材回転機構等を設けてもよい。
【0051】
<基材>
前記基材としては特に制限されず、蒸着膜を形成したい基材を用いればよい。
前記基材の材質としては、例えば、ガラス、強化ガラス、特殊ガラス、樹脂が挙げられる。前記基材は、ガラス(ガラス、強化ガラス、特殊ガラスを含む)製の層を2層以上有していてもよく、樹脂製の層を2層以上有していてもよく、1層以上のガラス製の層と1層以上の樹脂製の層とを有していてもよい。
前記基材は、光吸収性、導電性、帯電防止効果、異物付着防止効果、傷つき防止効果、防曇性、耐熱性向上効果、ガスバリア性、高弾性、傷消し効果、平坦性、粗面性、吸湿性、老化防止効果等の機能を有する層を有していてもよい。
前記基材は、ガラス転移温度が140℃以上の層を含むことが好ましく、割れにくいことから樹脂製の層(樹脂層)を含むことがより好ましい。
【0052】
前記ガラスとしては、例えば、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸ガラス、リン酸銅ガラス、フツリン酸ガラス、フツリン酸銅ガラスが挙げられる。
前記強化ガラスとしては、例えば、物理強化ガラス、強化合わせガラス、化学強化ガラスが挙げられる。これらの中では、圧縮層の厚みが薄く、基材の厚みを薄く加工することができる化学強化ガラスが好ましい。
前記特殊ガラスとしては、例えば、アルミナガラス、アルミン酸イットリウム、酸化イットリウムが挙げられる。
【0053】
前記樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エン・チオール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂が挙げられる。これらの中では、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂が好ましい。
前記樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0054】
前記基材は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに、(近)赤外線吸収剤、(近)紫外線吸収剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、難燃剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤および金属錯体系化合物等の添加剤を含有してもよい。
これら添加剤はそれぞれ、1種単独で用いてもよいし、2種を用いてもよい。
これら添加剤の含有量は、所望の特性に応じて適宜選択されるものであるが、例えば、ガラスや樹脂100質量部に対して、通常0.01~5.0質量部、好ましくは0.05~2.0質量部である。
【0055】
前記基材の層数は、好ましくは1~5層である。
前記基材の層数が6層以上の場合、各層間の密着性の懸念や製造コストの増加が懸念される。
【0056】
前記基材の総膜厚は、好ましくは30~300μmであり、この範囲であれば、得られる本積層体を薄型の固体撮像装置等に好適に用いることができる。
また、前記基材の総厚みは、より好ましくは30~220μm、さらに好ましくは40~150μmである。この範囲であれば、得られる本積層体を、総厚み6.5mm以下の薄型固体撮像装置に好適に用いることができる。
前記基材の総厚みが30μm未満の場合、反りやすさまたは割れやすさが懸念される。
【0057】
<蒸着材料A>
前記蒸着材料Aとしては、電子銃からの電子ビームにより蒸発する材料であれば特に制限されず、形成したい蒸着膜の物性に応じて適宜選択すればよいが、具体的には、(半)金属、(半)金属の酸化物、フッ化物、硫化物が挙げられる。
蒸着材料Aとしては、Si、SiO2、Ti2O3、Ti3O5、TiO2、Nb2O5、HfO2、La2O3、Al2O3、Y2O3、Yb2O3、Ta2O5、MgF2、AgおよびZrO2から選ばれる蒸着材料A1を含むことが好ましい。
【0058】
<工程(1)>
工程(1)は、1つの蒸着材料Aに、複数の電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程である。但し、複数の電子銃からの電子ビームが、1つの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。
前記「1つの蒸着材料A」とは、1つの蒸着材料配置部、特に、蒸着材料配置容器(例:ハースライナー)に入れた蒸着材料全体のことをいう。
工程(1)は、1つの蒸着材料配置容器に入れた蒸着材料Aの異なる箇所に、複数の電子銃から電子ビームを照射して該蒸着材料Aを蒸発させる工程であることが好ましい。
この工程(1)は、1つの蒸着材料Aに、複数の電子銃からの電子ビームが同時に照射されている時間(帯)があればよく、複数の電子銃からの電子ビームが完全に同時に1つの蒸着材料Aに照射されている必要はない。
【0059】
工程(1)では、基材の全面に蒸着材料Aの蒸着膜を形成してもよく、基材の一部に蒸着材料Aの蒸着膜を形成してもよい。
工程(1)では、基材の主面の一方または両方に蒸着材料Aの蒸着膜を形成することが好ましい。ここで、基材の主面とは、基材の最も面積の大きい面のことをいう。
【0060】
工程(1)における1つの蒸着材料A中の前記蒸着材料A1から選ばれる1つの含有量は、蒸着材料の突沸を抑制することができ、基材配置部のどの位置に基材を配置しても、屈折率が略均一な蒸着膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95~100質量%である。つまり、工程(1)における1つの蒸着材料Aの一態様は、前記蒸着材料A1から選ばれる1種のみからなることも好ましい。
【0061】
工程(1)における1つの蒸着材料Aに電子ビームを照射する際に用いる前記複数の電子銃の数としては、好ましくは2~4個、より好ましくは2~3個、特に好ましくは2個である。
【0062】
工程(1)において、蒸着材料Aに照射する複数の電子銃からの電子ビームの合計照射面積Sは、好ましくは5cm2以上、より好ましくは8cm2以上である。該照射面積Sの上限は、好ましくは12cm2である。
照射面積Sが前記範囲にあると、異物低減効果と高い成膜レートとを両立することができる。また、照射面積Sを12cm2以下とすると、電子ビームの照射による蒸着材料の温度上昇を一定にすることができ、成膜レートを安定化することができる。
【0063】
工程(1)では、各電子銃により形成される蒸着膜の合計成膜速度Vが、好ましくは1Å/sec以上、より好ましくは2Å/sec以上になるように電子線出力(EB出力)を調節して電子ビームを照射することが望ましい。該成膜速度Vの上限は、好ましくは14Å/secである。
成膜速度Vが前記範囲にあると、タクトタイムが伸びず、生産性に優れる方法で所望の本積層体を容易に形成することができる。
【0064】
工程(1)における、複数の電子銃からの電子ビームそれぞれの照射面積の合計をS[cm2]とし、工程(1)で形成される蒸着膜の合計成膜速度をV[Å/sec]とした時、V/Sは、好ましくは1.5Å/(sec・cm2)未満、より好ましくは0.1~1.0Å/(sec・cm2)以下、さらに好ましくは0.2~0.8Å/(sec・cm2)である。
前記V/Sが前記範囲にあると、成膜速度を低下させずに、異物の少ない蒸着膜を容易に形成することができる。
【0065】
<工程(2)>
工程(2)は、複数の蒸着材料A(但し、該複数の蒸着材料Aは、主成分が同一の蒸着材料である。)それぞれに、それぞれの蒸着材料Aに対応する電子銃から電子ビームを照射して、該蒸着材料Aを蒸発させて基材上に蒸着材料Aの蒸着膜を形成する工程である。但し、複数の蒸着材料Aそれぞれに対応する電子銃からの電子ビームが、それぞれの蒸着材料Aに同時に照射されている時間(帯)がある。
なお、前記「複数の蒸着材料Aは、主成分が同一の蒸着材料である」とは、複数の蒸着材料Aはいずれも、主成分が蒸着材料Aの蒸着材料であることをいい、具体的には、用いる複数の蒸着材料それぞれ中の蒸着材料Aの含有量が、80質量%以上である蒸着材料のことをいい、該含有量は、好ましくは90質量%以上である。
【0066】
前記「複数の蒸着材料A」は、蒸着材料Aを入れた蒸着材料配置部、特に、蒸着材料配置容器(例:ハースライナー)を複数(2つ以上)用いる(真空蒸着装置内に配置する)ことに対応し、または、1つの蒸着材料配置部、特に、蒸着材料配置容器(例:ハースライナー)の異なる2箇所以上の箇所(例:下記蒸着条件3-1で用いるハースライナー9-2の位置BおよびC)に蒸着材料Aを入れた蒸着材料配置容器を1つ以上用いる(真空蒸着装置内に配置する)ことに対応する。
1つの蒸着材料配置部、特に、蒸着材料配置容器の異なる2箇所以上の箇所に蒸着材料Aを入れる場合、該異なる2箇所以上の箇所の蒸着材料それぞれが電子ビームの照射により蒸発して、蒸着膜を形成できるように各蒸着材料を配置することが好ましい(例:
図3)。
【0067】
前記工程(2)は、複数の蒸着材料Aそれぞれに、対応する電子銃からの電子ビームが同時に照射されている時間(帯)があればよく、それぞれの蒸着材料Aに、対応する電子銃からの電子ビームが完全に同時に照射されている必要はない。
1つの蒸着材料Aに対応する電子銃は1つであっても、複数であってもよいが、1つであることが好ましい。
【0068】
工程(2)では、基材の全面に蒸着材料Aの蒸着膜を形成してもよく、基材の一部に蒸着材料Aの蒸着膜を形成してもよい。
工程(2)では、基材の主面の一方または両方に蒸着材料Aの蒸着膜を形成することが好ましい。
【0069】
工程(2)におけるそれぞれの蒸着材料A中の前記蒸着材料A1から選ばれる1つの含有量は、蒸着材料の突沸を抑制することができ、基材配置部のどの位置に基材を配置しても、屈折率が略均一な蒸着膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95~100質量%である。つまり、工程(2)における複数の蒸着材料Aそれぞれの一態様は、前記蒸着材料A1から選ばれる1種のみからなることも好ましい。
【0070】
工程(2)に用いる複数の蒸着材料Aの数としては、好ましくは2~4個、より好ましくは2~3個、特に好ましくは2個である。
【0071】
工程(2)において、複数の蒸着材料Aそれぞれに照射する対応する電子銃からの電子ビームの照射面積の合計Sは、好ましくは5cm2以上、より好ましくは8cm2以上、さらに好ましくは10cm2以上である。該照射面積Sの上限は、好ましくは12cm2である。
照射面積Sが前記範囲にあると、異物低減効果と高い成膜レートとを両立することができる。
【0072】
工程(2)では、各電子銃により形成される蒸着膜の合計成膜速度Vが、好ましくは2Å/sec以上、より好ましくは3Å/sec以上になるように電子線出力(EB出力)を調節して電子ビームを照射することが望ましい。該成膜速度Vの上限は、好ましくは20Å/secである。
成膜速度Vが前記範囲にあると、タクトタイムが伸びず、生産性に優れる方法で所望の本積層体を容易に形成することができる。
【0073】
工程(2)における、複数の蒸着材料Aそれぞれに照射する対応する電子銃からの電子ビームの照射面積の合計S[cm2]とし、工程(2)で形成される蒸着膜の合計成膜速度をV[Å/sec]とした時、V/Sは、好ましくは1.5Å/(sec・cm2)未満、より好ましくは0.1~1.0Å/(sec・cm2)以下、さらに好ましくは0.2~0.8Å/(sec・cm2)である。
前記V/Sが前記範囲にあると、成膜速度を低下させずに、異物の少ない蒸着膜を容易に形成することができる。
【0074】
<多層蒸着膜を有する基材の製造方法>
本製造方法は、多層蒸着膜を有する基材の製造方法であってもよい。該多層蒸着膜を有する基材も蒸着膜を有する基材の一態様であるため、以下「本積層体」ともいう。
該多層蒸着膜を有する基材の製造方法としては、下記工程Iと工程IIとを含む方法が好ましい。
工程I:前記本製造方法により、基材上に蒸着材料Aの蒸着膜aを形成する工程
工程II:前記本製造方法において、蒸着材料Aの代わりに、蒸着材料Aとは屈折率が異なる蒸着材料Bを用いて、前記蒸着膜aを有する基材上に蒸着材料Bの蒸着膜bを形成する工程
【0075】
なお、前記多層蒸着膜を有する基材の製造方法で形成した多層蒸着膜を有する基材にソリが生じてしまう場合には、これを解消するために、基材の多層蒸着膜を形成した面に紫外線等の電磁波を照射してもよい。なお、電磁波を照射する場合、多層蒸着膜の形成中に照射してもよいし、多層蒸着膜を形成後別途照射してもよい。
【0076】
前記多層蒸着膜を有する基材の製造方法では、基材の全面に多層蒸着膜を形成してもよく、基材の一部に多層蒸着膜を形成してもよい。
また、前記多層蒸着膜を有する基材の製造方法では、基材の主面の一方または両方に多層蒸着膜を形成することが好ましく、基材の主面の両方に多層蒸着膜を形成することがより好ましい。
【0077】
なお、前記工程Iと工程IIとを含む方法における蒸着材料Aと蒸着材料Bとは、単にこれらが異なる蒸着材料であることを規定しているに過ぎず、前記工程Iと工程IIとを含む方法は、例えば、3種類の蒸着材料A~Cを用いる場合、蒸着材料Aの蒸着膜aを形成する工程(=工程I)、蒸着材料Bの蒸着膜bを形成する工程(=工程II)、蒸着材料Cの蒸着膜cを形成する工程(=工程I)、蒸着材料Aの蒸着膜aを形成する工程(=工程II)、蒸着材料Bの蒸着膜bを形成する工程(=工程I)をこの順で含む方法であってもよい。
【0078】
前記工程Iと工程IIとを含む方法では、前記工程Iと工程IIとを交互に行ってもよく、2回以上前記工程Iを行った後、前記工程IIを行い、次いで、前記工程Iを行うなど、前記工程Iと工程IIとを行う順番は特に制限されないが、前記工程Iと工程IIとを交互に行うことが好ましい。
【0079】
なお、前記多層蒸着膜を有する基材の製造方法が、前記工程Iを複数回含む場合、各工程Iにおける本製造方法は、同一であっても、異なっていてもよい。例えば、工程Iを2回行う場合、1回目の工程Iは前記工程(1)であり、2回目の工程Iは前記工程(2)でもよい。前記工程Iを複数回含む場合、各工程Iにおける本製造方法は、同一であることが好ましい。
前記工程IIを複数回含む場合も同様である。
【0080】
前記工程Iと工程IIとを含む方法の具体例としては、
1つの蒸着容器内に、蒸着材料Aを入れた蒸着材料配置容器と、蒸着材料Bを入れた蒸着材料配置容器とを入れ、まず、蒸着材料Aに対し前記工程Iを行い、次に、蒸着材料Bに対し前記工程IIを行う工程を行う(繰り返す)方法、
または、
1つの蒸着容器内に、蒸着材料Aと、該蒸着材料Aとは異なる箇所に蒸着材料Bとを入れた1つの蒸着材料配置容器を入れ、まず、蒸着材料Aに対し前記工程Iを行い、次に、蒸着材料Bに対し前記工程IIを行う工程を行う(繰り返す)方法、
連結した2つの蒸着容器aおよびbを用い、蒸着容器aに蒸着材料Aを入れた蒸着材料配置容器を配置し、蒸着容器bに蒸着材料Bを入れた蒸着材料配置容器を配置して、まず、基材を設置した蒸着容器a内の蒸着材料Aに対し工程Iを行った後、基材を蒸着容器bに移動し、蒸着容器b内の蒸着材料Bに対し工程IIを行う工程を行う(繰り返す)方法が挙げられる。
【0081】
蒸着材料Bとしては、電子銃からの電子ビームにより蒸発する材料であり、蒸着材料Aとは屈折率が異なる材料であれば特に制限されず、形成したい蒸着膜の物性に応じて適宜選択すればよい。具体的には、前記蒸着材料Aの欄で挙げた材料と同様の材料が挙げられる。
【0082】
前記多層蒸着膜としては、例えば、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した多層蒸着膜が挙げられる。
このような多層蒸着膜を形成するには、例えば、蒸着材料Aとして高屈折率材料を用い、蒸着材料Bとして低屈折率材料を用いて、前記工程Iと工程IIとを交互に行う方法が挙げられる。
【0083】
前記高屈折率材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常は1.7~2.5の材料が選択される。このような材料としては、例えば、TiO2、Ti2O3、Ti3O5、CeO2、ZrO2、Ta2O5、Nb2O5、La2O3、Y2O3、Yb2O3、ZnO、ZnS、In2O3、ZnO、ZnS、In2O3、WO3、Si、HfO2等を主成分とし、酸化チタン、酸化錫および/または酸化セリウムなどを少量(例えば、主成分に対し0~5質量%)含有させたものが挙げられる。これらの中でも、蒸発形式が昇華ではない材料である、TiO2、Ti2O3、Ti3O5、ZrO2、Ta2O5、Nb2O5、La2O3、Y2O3、Yb2O3、Siが異物低減効果等の点で好ましい。特に融点が2500℃以下であるTiO2、Ti2O3、Ti3O5、ZrO2、Nb2O5、La2O3、Y2O3、Yb2O3、Siがより好ましい。
【0084】
前記低屈折率材料としては、屈折率が1.7未満の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常は1.2以上1.7未満の材料が選択される。このような材料としては、例えば、SiO2、Al2O3、MgF2、LaF3、YF3、Na3AlF6が挙げられる。これらの中でも、蒸発形式が昇華ではない材料である、SiO2、Al2O3、MgF2が好ましい。また、屈折率が1.7未満の材料として、Agを用いてもよい。
【0085】
前記多層蒸着膜は、波長400~1600nmの範囲において、光の透過率が10%以下となる、好ましくは5%以下となる、より好ましくは1%以下となる波長を有することが望ましい。
このような透過率の波長を有する多層蒸着膜を含むことで、多層蒸着膜の各層の厚み、本積層体全体としての多層蒸着膜の厚みや合計の積層数が多くても、異物が少なく、かつ、所望の光学特性を奏する光学フィルターを容易に得ることができる。
【0086】
以下の通り、本積層体は、光学部材として、特に光学フィルターとして好適に用いられる。
【0087】
本積層体を光学フィルターとして用いる場合であって、近赤外線を反射するフィルターとする場合、前記多層蒸着膜を構成する各蒸着膜の厚さは、反射しようとする近赤外線波長をλ(nm)とすると、通常、0.1λ~0.5λが好ましい。なお、前記多層蒸着膜を構成する各蒸着膜としては、可視光領域の反射低減や、特定の波長領域の遮蔽性能向上等の目的に応じて、0.1λ~0.5λの範囲外の厚さの層を用いてもよい。λ(nm)の値としては、本積層体を近赤外線カットフィルター(NIR-CF)として用いる場合、例えば700~1400nm、好ましくは750~1300nmである。前記多層蒸着膜を構成する各蒸着膜の厚さがこの範囲にあると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)である光学的膜厚が、λ/4とほぼ同じ値となって、反射・屈折の光学的特性の関係から、特定波長の遮断・透過を容易にコントロールできる傾向にある。
【0088】
前記多層蒸着膜の合計の積層数は、例えば、本積層体をNIR-CFとして用いる場合、本積層体に含まれる多層蒸着膜全体として16~70層であることが好ましく、20~60層であることがより好ましい。
【0089】
各層の厚み、本積層体全体としての多層蒸着膜の厚みや合計の積層数が前記範囲にあると、十分な製造マージンを確保できる上に、光学フィルターの反りや多層蒸着膜のクラックを低減することができる。なお、多層蒸着膜の合計の積層数が前記範囲を超えると、誘電体多層膜を成膜中に異物が増加する場合がある。
【0090】
本積層体では、基材の吸収特性等に合わせて、蒸着材料の種類、多層蒸着膜の各層の厚さ、積層の順番、積層数を適切に選択することで、所望の光学特性(例:透過したい波長域[例:可視光領域]に十分な透過率を確保した上で、カットしたい近赤外波長域に十分な光線カット特性を有する)を有する本積層体を容易に得ることができる。
【0091】
本積層体を光学フィルターとして用いる場合、前記多層蒸着膜を構成する各層の厚さと層数については、所望の光学特性、例えば、可視域の反射防止効果と近赤外域の選択的な透過・反射性能を達成できるよう基材の屈折率の波長依存特性や光吸収特性等に合わせて、光学薄膜設計ソフト(Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用いて最適化を行うことができる。最適化を行う際のソフトへの入力パラメーター(Target値)としては、例えば、NIR-CFの多層蒸着膜を形成する場合には、波長400~700nmの目標透過率を100%、Target Toleranceの値を1とした上で、波長705~950nmの目標透過率を0%、Target Toleranceの値を0.5にするなどのパラメーター設定方法が挙げられる。
これらのパラメーターは基材の特性などに合わせて波長範囲をさらに細かく区切ってTarget Toleranceの値を変えることもできる。
【0092】
本積層体の厚みは、好ましくは32~300μmであり、この範囲であれば、該本積層体を薄型の固体撮像装置等に好適に用いることができる。
また、本積層体の厚みは、より好ましくは32~220μm、さらに好ましくは42~150μmである。この範囲であれば、総厚み6.5mm以下の薄型固体撮像装置にも好適に用いることができる。
【0093】
<用途>
本積層体は、光学部材(光学素子)として有用であり、特に、光学フィルターとして好適に用いられる。
該光学フィルターとしては、具体的には、近赤外線カットフィルター(NIR-CF)、色純度向上フィルター、可視光-近赤外線選択透過フィルター(DBPF)、近赤外線透過フィルター(IRPF)、科学捜査等に用いられる代替光源(ALS:Alternative Light Sources)用のフィルターが挙げられる。
【0094】
本積層体は、特に、デジタルスチルカメラ、スマートフォン用カメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、ウェアラブルデバイス用カメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、赤外線カメラ、テレビ、カーナビゲーション、携帯情報端末、ビデオゲーム機、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー、各種センシングシステム、赤外線通信等に有用である。さらに、本積層体は、自動車や建物等のガラス板等に装着される熱線カットフィルターなどとしても有用である。
【0095】
本積層体を近赤外線の一部または全部をカットするフィルターとする場合、本積層体は、特定波長領域において、透過率の平均値が0.5%以下、好ましくは0.1%以下である領域を有することが望ましい。
【0096】
なお、本発明において、ある波長領域(波長A~Bnm)の透過率の平均値(平均透過率)は、Anm以上Bnm以下の、1nm刻みの各波長における透過率を測定し、その透過率の合計を、測定した透過率の数(波長範囲、B-A+1)で除すことで算出した値である。
【0097】
本積層体を、可視光を透過するフィルターとする場合、本積層体は、波長400~630nmの領域において、透過率の平均値が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である領域を有することが望ましい。
【実施例0098】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されない。
【0099】
[実施例1]
蒸着装置であるSapio 1300i((株)昭和真空製)に付属のハースライナーとして、以下のハースライナー9-1およびハースライナー9-2を用いた。
また、該蒸着装置に付属の電子銃として、以下のEB1~EB4を用いた。なお、以下の符号が異なる電子銃(例:EB1とEB2)は、異なる電子銃である。
【0100】
ハースライナー9-1に、蒸着材料であるSiO2(キャノンオプトロン(株)製)を入れた。
ハースライナー9-2の任意の位置(位置Aとする)に、蒸着材料であるTi3O5((株)ソルテック製)を入れた。
ハースライナー9-2の、位置Aとは異なる位置(位置Bとする)に、蒸着材料であるY2O3((株)ソルテック製)を入れた。
ハースライナー9-2の、位置AおよびBとは異なる位置(位置Cとする)に、蒸着材料であるY2O3((株)ソルテック製)を入れた。
なお、位置A~Cは、ハースライナー9-2の開口部の上方から見た円形の平面図を各材料が略3等分する位置である。
【0101】
蒸着装置(Sapio 1300i[(株)昭和真空製])の基材配置部に、下記樹脂製基材を設置し、前記蒸着材料を入れたハースライナー9-1および9-2を蒸着材料配置部に設置し、ハースライナー9-1に対応する電子銃(EB1および2)と、ハースライナー9-2に対応する電子銃(EB3および4)をそれぞれ設置し、各ハースライナー上部のシャッターを閉じた後、該蒸着装置内の圧力を8×10-4Paにした。
【0102】
その後、前記ハースライナー9-2上部のシャッターを開け、ハースライナー9-2の位置Aに、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、電子銃(以下「EB4」ともいう。)からの電子ビームの照射面積が4cm2になるように、また、EB4による蒸着膜の成膜速度が3Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した(以下、このハースライナー9-2の位置Aに電子ビームを照射する条件を「蒸着条件2-1」ともいう。)。なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子により算出した。
この蒸着条件2-1に従って、基材上に物理膜厚14nmのTi3O5の蒸着膜を形成した。
蒸着膜形成後、ハースライナー9-2上部のシャッターを閉じた。
【0103】
その後、前記ハースライナー9-1上部のシャッターを開け、ハースライナー9-1に、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、電子銃(以下「EB1」ともいう。)からの電子ビームの照射面積が4cm2になるように、また、EB1による蒸着膜の成膜速度が3Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。
また、ハースライナー9-1にEB1による電子ビームを照射するのと同時に、同じハースライナー9-1の、EB1からの電子ビームが当たる箇所とは異なる箇所に、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、電子銃(以下「EB2」ともいう。)からの電子ビームの照射面積が4cm2になるように、また、EB2による蒸着膜の成膜速度が3Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した(以下、このEB1および2によりハースライナー9-1に電子ビームを照射する条件を「蒸着条件1-1」ともいう。)。
なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
この蒸着条件1-1に従って、蒸着条件2-1で形成した蒸着膜(物理膜厚14nm)上に物理膜厚33nmのSiO2の蒸着膜を形成した。
蒸着膜形成後、ハースライナー9-1上部のシャッターを閉じた。
【0104】
次いで、前記ハースライナー9-2の上部のシャッターを開け、前記蒸着条件2-1に従って、前記蒸着条件1-1で形成した蒸着膜(物理膜厚33nm)上に物理膜厚101nmの蒸着膜を形成した後、ハースライナー9-2上部のシャッターを閉じた。
【0105】
その後、下記表2に示す膜設計1のように、蒸着条件2-1および蒸着条件1-1による積層を合計12回繰り返した後、前記ハースライナー9-2の上部のシャッターを開け、ハースライナー9-2の前記位置Bに、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、電子銃(以下「EB3」ともいう。)からの電子ビームの照射面積が4cm2になるように、また、EB3による蒸着膜の成膜速度が2Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
また、ハースライナー9-2を回転させ、ハースライナー9-2の前記位置Bに、電子ビームEB3を照射するのと同時に、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、ハースライナー9-2の前記位置Cに、前記EB4からの電子ビームの照射面積が4cm2になるように、また、EB4による蒸着膜の成膜速度が2Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した(以下、このEB3および4によりハースライナー9-2の異なる二つの位置のそれぞれに電子ビームを照射する条件を「蒸着条件3-1」ともいう。)。なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
この蒸着条件3-1に従って、蒸着条件1-1で形成した蒸着膜(物理膜厚142nm)上に物理膜厚112nmのY2O3の蒸着膜を形成した。
蒸着膜形成後、ハースライナー9-2上部のシャッターを閉じた。
【0106】
前記と同様にして、表2に示す膜設計1の通りとなるように、各蒸着条件により、表2に示す物理膜厚の蒸着膜を形成し、基材の主面の一方の面(1面)に、40層の多層蒸着膜を形成した(1面膜設計)。
【0107】
膜設計1により、基材の主面の一方の面(1面)に、40層の多層蒸着膜を形成した後、基材の他の主面(2面)に、表2に示す膜設計2の通りとなるように、各蒸着条件により、表2に示す物理膜厚の蒸着膜を形成し、22層の多層蒸着膜を形成することで、基材の主面の両面に多層蒸着膜を有する基材(以下「積層体」ともいう。)を製造した。
なお、この基材の主面の両面に多層蒸着膜を形成するのに要した総時間を成膜時間として表1に示す。
【0108】
[実施例2~12および比較例1~3]
表1に示す基材を用い、その主面の一方の面(1面)に、表1に示す1面膜設計で多層蒸着膜を形成し、基材の他の主面(2面)に、表1に示す2面膜設計で多層蒸着膜を形成することで、基材の主面の両面に多層蒸着膜を有する基材(積層体)を製造した。
なお、実施例3では、ハースライナー9-2の開口部の上方から見た円形の平面図を略2等分する位置の一方(位置A)に、蒸着材料であるTNO(キャノンオプトロン(株)製)を入れ、他方(位置B)に、蒸着材料であるAl
2O
3(キャノンオプトロン(株)製)を入れた(この場合の例を
図3に示す。)。また、同様にして、実施例10および比較例2では、ハースライナー9-2の開口部の上方から見た円形の平面図を略2等分する位置の一方(位置A)に、蒸着材料であるTi
3O
5((株)ソルテック製)を入れ、他方(位置B)に、蒸着材料であるAl
2O
3(キャノンオプトロン(株)製)を入れた。
【0109】
なお、表1中の基材の欄における「樹脂」とは、以下のようにして作製した樹脂製基材のことである。
また、表1中の基材の欄における、「D263」は、SCHOTT社製の無色なホウケイ酸塩ガラス基材のことであり、「BS-13」は、松浪硝子工業(株)製のブルーガラス(近赤外線吸収ガラス)のことである。
【0110】
<樹脂製基材>
下記式(X1)で表される8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(以下「DNM」ともいう。)100質量部、1-ヘキセン(分子量調節剤)18質量部およびトルエン(開環重合反応用溶媒)300質量部を、窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を80℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒として、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.6mol/L)0.2質量部と、メタノール変性の六塩化タングステンのトルエン溶液(濃度0.025mol/L)0.9質量部とを添加し、この溶液を80℃で3時間加熱撹拌することで開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
【0111】
【0112】
このようにして得られた開環重合体溶液1,000質量部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C6H5)3]3を0.12質量部添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱撹拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。水素ガスを放圧後の反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体(以下「樹脂A」ともいう。)を得た。
【0113】
東ソー(株)製GPC装置(HLC-8220型、カラム:TSKgelα-M、展開溶剤:THF)を用い、得られた樹脂Aの、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定した。
Mnは32,000であり、Mwは137,000であった。
【0114】
得られた樹脂Aのガラス転移温度(Tg)は、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計(DSC6200)を用いて、昇温速度:毎分20℃、窒素気流下で測定した。Tgは165℃であった。
【0115】
樹脂Aにジクロロメタンを加えて樹脂濃度が20質量%の溶液を調製した。得られた溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した塗膜をさらに減圧下、100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、縦210mm、横210mmの樹脂製基材を作製した。
【0116】
<異物数>
表1中の異物数は、以下のようにして測定した。
図4に示すように、光源20として、フナテック(株)製の表面検査ランプFY-100Rを用い、該光源20の上方15cmの位置に、面積100cm
2の製造した積層体21を設置した。光源20から1mの高さの位置より、目視22で積層体21を観察し、検出される異物(白点)の数を計測した。
【0117】
【0118】
<膜設計>
表1中の各膜設計の詳細を表2および3に示す。
なお、各膜設計は、光学薄膜設計ソフト(Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用いて、得られる多層蒸着膜の分光透過率をシミュレーションすることで行った。
【0119】
【0120】
【0121】
<多層蒸着膜の透過率>
なお、各膜設計1~9で形成した多層蒸着膜の透過率を測定するために、基材として、前記D263を用いた以外は、前記と同様にして、該基材の主面の両面に多層蒸着膜を有する基材を製造した。日本分光(株)製の紫外可視分光光度計V-630を用い、該多層蒸着膜を有する基材の垂直方向から入射した光の透過率を、1nm刻みで測定した。波長400~1600nmの範囲における最小透過率の値と、その時の波長(最小透過率時の波長)を下記表4に示す。
【0122】
【0123】
<蒸着条件>
表2および3に記載の各膜設計における各蒸着条件を表5~7に示す。
各蒸着条件の詳細は以下の通りである。
【0124】
〈蒸着条件1-2~1-6および1-8~1-10〉
前記蒸着条件1-1において、蒸着材の種類、電子ビームの照射面積およびEB出力が表5の通りになるように変更した以外は、蒸着条件1-1と同様にして、EB1およびEB2から電子ビームを照射した。
【0125】
〈蒸着条件1-7〉
図3において、ハースライナー9-2の代わりにハースライナー9-1を用いた以外は同様にして、ハースライナー9-1の開口部の上方から見た円形の平面図を略2等分する位置の一方(位置A)に、蒸着材料であるSiO
2(キャノンオプトロン(株)製)を入れ、他方(位置B)に、蒸着材料であるL5(メルク社製)を入れた。
ハースライナー9-1の位置Aに、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、EB1からの電子ビームの照射面積が3cm
2になるように、また、EB1による蒸着膜の成膜速度が1.5Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。
また、ハースライナー9-1の前記位置Aに、電子ビームEB1を照射するのと同時に、ハースライナー9-1の位置Bに、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、EB2からの電子ビームの照射面積が3cm
2になるように、また、EB2による蒸着膜の成膜速度が1.5Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。
なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
【0126】
〈蒸着条件1-11〉
蒸着材料であるSiO2(キャノンオプトロン(株)製)を入れたハースライナー9-1に、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、EB1からの電子ビームの照射面積が6cm2になるように、また、EB1による蒸着膜の成膜速度が15Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
【0127】
〈蒸着条件1-12~1-13〉
前記蒸着条件1-11において、電子ビームの照射面積およびEB出力が表5の通りになるように変更した以外は、蒸着条件1-11と同様にして、EB1から電子ビームを照射した。
【0128】
〈蒸着条件2-2〉
前記蒸着条件2-1において、蒸着材の種類が表6の通りになるように変更した以外は、蒸着条件2-1と同様にして、EB4から電子ビームを照射した。
【0129】
〈蒸着条件2-3〉
ハースライナー9-2に、蒸着材料であるTi3O5((株)ソルテック製)を入れた。該ハースライナー9-2に、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、EB3からの電子ビームの照射面積が4cm2になるように、また、EB3による蒸着膜の成膜速度が1.5Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
また、ハースライナー9-2に電子ビームを照射するのと同時に、同じハースライナー9-2の、EB3からの電子ビームが当たる箇所とは異なる箇所に、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、EB4からの電子ビームの照射面積が4cm2になるように、また、EB4による蒸着膜の成膜速度が1.5Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
【0130】
〈蒸着条件2-4および2-5〉
前記蒸着条件2-3において、蒸着材の種類が表6の通りになるように変更した以外は、蒸着条件2-3と同様にして、EB3およびEB4から電子ビームを照射した。
【0131】
〈蒸着条件3-2〉
蒸着材料であるAl2O3(キャノンオプトロン(株)製)を入れたハースライナー9-2に、電子ビームの照射を制御する制御装置により電子ビームを調整して、EB3からの電子ビームの照射面積が5cm2になるように、また、EB3による蒸着膜の成膜速度が3Å/secになるように電子線出力(EB出力)を調節して、電子ビームを照射した。なお、成膜速度は、蒸着装置中央に具備された水晶振動子より算出した。
【0132】
表5~7における蒸着材の詳細は以下の通りである。
・「SiO2」:キャノンオプトロン(株)製
・「L5」:Substance L5 granules about 1-2mm Patinal(SiO2を90質量%以上含み、Al2O3の含有量が10質量%未満である混合物、メルク社製)
・「Al2O3」:キャノンオプトロン(株)製
・「Ti3O5」:(株)ソルテック製
・「TNO」:LUMILEAD TNO(キャノンオプトロン(株)製)
・「Ta2O5」:OA-100(キャノンオプトロン(株)製)
・「Nb2O5」:稀産金属(株)製
・「Y2O3」:(株)ソルテック製
【0133】
【0134】
【0135】