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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152007
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241018BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241018BHJP
   F16F 7/104 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E04H9/02 341B
F16F15/02 C
F16F7/104
E04H9/02 331A
E04H9/02 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065886
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏一
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB11
2E139AC19
2E139BB26
2E139BB36
2E139BD34
2E139BD35
2E139CA02
2E139CA06
2E139CB19
2E139CC02
3J048AA06
3J048AD07
3J048BF04
3J048BF14
3J048EA38
3J066AA30
3J066DA08
3J066DB03
3J066DB04
(57)【要約】
【課題】省スペース化を図れるコンパクトな動吸振器を備えた免震構造を提供する。
【解決手段】硬化型免震構造16と、動吸振器18とを有する免震構造10であって、前記動吸振器18は、前記免震層12の制振対象物20に固定されたラック34の並進方向の動きをピニオン36の回転方向の動きに変換するラック&ピニオン26と、前記ピニオン36と同軸に配置された歯車28と、前記ピニオン36の回転方向の付勢力を確保するために、前記ピニオン36と前記歯車28の間に設置された付勢部材30と、前記歯車28に噛み合わされるとともに回転軸46に固定された駆動歯車44と、前記回転軸46に対して同軸に固定され、前記回転軸46と一体に回転可能なホイール32とを備えた慣性質量ダンパーである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震層の変位が大きくなるにしたがって、前記免震層の剛性が大きくなるように構成された硬化型免震構造と、前記免震層に設けられた動吸振器とを有する免震構造であって、
前記動吸振器は、前記免震層の制振対象物に固定されたラックの並進方向の動きをピニオンの回転方向の動きに変換するラック&ピニオンと、前記ピニオンと同軸に配置された歯車と、前記ピニオンの回転方向の付勢力を確保するために、前記ピニオンと前記歯車の間に設置された付勢部材と、前記歯車に噛み合わされるとともに回転軸に固定された駆動歯車と、前記回転軸に対して同軸に固定され、前記回転軸と一体に回転可能なホイールとを備えた慣性質量ダンパーであることを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記動吸振器を複数有することを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記免震層の制振対象物に固定されたラックと、複数の前記動吸振器の前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有することを特徴とする請求項2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記ラックの並進方向の動きに連動して回転する追加ホイールを有することを特徴とする請求項1または2に記載の免震構造。
【請求項5】
前記ラックと前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有し、前記追加ホイールは、前記中間歯車の回転に連動して回転することを特徴とする請求項4に記載の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化型免震構造と動吸振器とを組み合わせた免震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物に設けられる免震構造が知られている。免震構造は、建物の基礎部分に剛性の低い層を導入することにより、建物の固有周期を伸ばすことで、地震入力時の加速度を低減させ、これにより、建物を地震から守る。しかし、一方で、長周期地震が発生した際は免震層の変位が過大となることが危惧されている。このような問題を解決するための構造として、硬化型免震構造が知られている(例えば、非特許文献1~3を参照)。硬化型免震構造は、免震層の剛性が、変位の増大に従い大きくなるものである。変位が大きくなった際に免震層の剛性を上昇させることで、過大変位による擁壁衝突を防ぐことが可能となる。
【0003】
硬化型免震構造の最大の特徴は、変位が大きくなる際に、復元力を発揮させる特性である。通常、変位と加速度はトレードオフの関係にある。免震構造は、基礎部分に柔らかい層を導入することにより、免震層の上に載っている建物の加速度を落とし、これにより地震から守る。一方で、免震層の変位そのものは大きくなることから、長周期地震が発生した際は、建物が擁壁へと衝突することが危惧される。硬化型免震構造は大変形時のみに、免震層の剛性を高くすることにより、小変位時には通常の免震構造と同様に加速度を抑え、一方で、変形が増大すると剛性が上がり、変位を抑える機構となっている。
【0004】
硬化型免震構造は、多くの地震波においては有効だが、卓越周波数が低い波から高い波へと移行する場合においては、共振現象を引き起こし、大振動の原因になることが指摘されている(例えば、非特許文献4、5を参照)。この問題を解決するために、実質量を用いた、従来型の動吸振器を搭載した新しい硬化型免震装置が提案されている(例えば、非特許文献6を参照)。動吸振器は、装置そのものが揺れることで制御力を発生させ、振動を抑える(例えば、特許文献1を参照)。動吸振器の振幅は、建物の2倍程度になる可能性があり、大きなスペースを必要とする(例えば、非特許文献7を参照)。
【0005】
上述のとおり、免震構造は変位を犠牲にして、加速度を低減する機構であり、近年では免震層のクリアランスとして60cm以上を必要とするケースが増えてきている(例えば、非特許文献8を参照)。したがって、免震層に動吸振器を採用すると、その振幅のストロークは片側で120cm以上となる。図5(a)に示すように、さらに、片側で120cmの変形にも対応できるバネを装置の両端部に取り付けると、許容たわみ率が150%のものであったとしても、バネ長さだけで240cm必要となる。したがって、スペースの確保が必要となり、装置の大きさを加えるとさらに大きなスペースの確保が必要となる。
【0006】
非特許文献6では、動吸振器を備えた硬化型免震装置を小型試験体により実現しており、その実験結果を示している。図5(b)に、長周期地震の模擬波であるCH1波(非特許文献9を参照)をスケーリングしたものへの小型試験体の応答結果を示す。
【0007】
図5(b)の170秒~190秒付近において、硬化型免震装置を設けたケースでは、硬化型免震装置を設けないケースよりも大きく揺れていることがわかる。一方、硬化型免震装置に動吸振器を備えたケースでは、応答は増えておらず、すべての時間にわたり、応答を低減できていることがわかる。
【0008】
動吸振器による共振抑制の仕組みを図5(c)、(d)に示す。図5(c)は、動吸振器がない硬化型免震装置での入力周波数と変位の関係図である。この図より、入力周波数が低周波数から高周波数へ移行するような波が入力した際は、変位が増大することがわかる。これが共振現象である。一方、動吸振器を備えた硬化型免震装置の挙動は、図5(d)に示すとおりである。この図より、動吸振器を導入した場合は、入力周波数が低周波数から高周波数に増えるような波に対しても、動吸振器が作用することにより周波数応答曲線を打ち切ることで変位増大を防止していることがわかる。
【0009】
通常の動吸振器の場合は、建物と動吸振器の固有周期が一致しているときは制御効果が得られるが、一方で、経年変化などでこれらの周期にずれが生じると、制御効果が著しく低減することが指摘されている(例えば、非特許文献10を参照)。また、動吸振器を硬化型免震装置の共振防止に用いる際には、上述したように、固有周期を正確に合わせる必要はないことから、モデルの経年変化に対してロバストであることも特徴である。例えば、図5(d)において、動吸振器の固有周波数がおよそ1.7Hzと設定されている場合、2.0Hzに変化しても、周波数応答曲線の上昇を打ち切ることが可能であることが特徴の一つである。その概念図を図5(e)に示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「硬化型復元力と回転慣性質量を組み合わせた過大変位抑制型免震構造に関する基礎的研究(その4)大型免震試験体と解析モデル概要」、鈴木瑛大、渡辺宏一、宮本皓、射場淳、石井建、菊地優、日本建築学会年次大会(東海)、日本建築学会、2021、No:21270
【非特許文献2】「硬化型復元力特性を有する部材により耐震補強した多層骨組の振動特性」、渡辺宏一、中井正一、日本建築学会構造系論文集、日本建築学会 78(687)、931-938、2013-05
【非特許文献3】「硬化型復元力特性を用いた振動制御に関する解析的研究」、渡辺宏一、千葉大学学位論文、千葉大学、2016年
【非特許文献4】「硬化型復元力と回転慣性質量を組み合わせた過大変位抑制型免震構造に関する基礎研究(その2)振動台実験による検証」、滝沢勇武、渡辺宏一、射場淳、石井建、菊地優、日本建築学会大会学術講演梗概集、日本建築学会、2020年
【非特許文献5】Development of nonlineargeometric seismic isolation with Duffing spring, Kou Miyamoto, Jun Iba, Koichi Watanabe, Ken Ishii, Masaru Kikuchi, Structural control and Health monitoring, Wiley and Hindawi, Article ID 3917013, 2023
【非特許文献6】「慣性質量ダンパーを備えた変位抑制型免震構造に関する研究(その1)システムと試験体概要」、宮本皓、渡辺宏一、射場淳、佐取冴、石井建、菊地優、日本建築学会大会学術講演梗概集、日本建築学会、2022年
【非特許文献7】「履歴型同調質量ダンパーを用いた超高層建物の最適地震応答制御」、金子健作、日本建築学会構造系論文集、81(721)、pp.459-469、2016年
【非特許文献8】「国内免震建物のデータベース構築と現状分析」、田中佑治、福和伸夫、飛田潤,、護雅史、日本建築学会技術報告集、日本建築学会、2011年
【非特許文献9】国土交通省ホームページ、「長周期地震動を考慮すべき主な地点と地震動の考え方」、[online]、[令和5年2月21日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/common/001113880.pdf>
【非特許文献10】Design Method of Tuned Mass Damper by Linear-Matrix-Inequality-Based Robust Control Theory for Seismic Excitation, Kou Miyamoto, Satoshi Nakano, Jinhua She, Daiki Sato, Yinli Chen, Qing-Long Han, Journal of Vibration and Acoustics, American Society of Mechanical Engineers, 2022
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-040034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来の硬化型免震構造は、応答変位に合わせて免震層の剛性を変えることから、免震構造の弱点である長周期地震の対策として有効である。硬化型免震構造の適用範囲を拡張するために、実質量による動吸振器を併用すれば、制御性能が向上することが期待される。しかし、動吸振器の大きさは、想定される建物変位に対応するために巨大となり、非常に大きなスペースを必要とする。例えば、上記の非特許文献6の小型試験体では、建物を模した部分が左右に10cmほど最大で揺れることを想定している。これに対して、動吸振器の長さは180cmであり、建物のストロークに対して、動吸振器そのものが巨大である。
【0013】
したがって、動吸振器を備えた硬化型免震構造の実用化のための問題点として、免震層に大きなスペースを必要とすること、大きなスペースを確保できない場合は、従来の実質量を用いた動吸振器を設置できず、卓越周波数が長周期から短周期へ移行するような地震時には共振現象を招くおそれがあることが挙げられる。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、省スペース化を図れるコンパクトな動吸振器を備えた免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る免震構造は、免震層の変位が大きくなるにしたがって、前記免震層の剛性が大きくなるように構成された硬化型免震構造と、前記免震層に設けられた動吸振器とを有する免震構造であって、前記動吸振器は、前記免震層の制振対象物に固定されたラックの並進方向の動きをピニオンの回転方向の動きに変換するラック&ピニオンと、前記ピニオンと同軸に配置された歯車と、前記ピニオンの回転方向の付勢力を確保するために、前記ピニオンと前記歯車の間に設置された付勢部材と、前記歯車に噛み合わされるとともに回転軸に固定された駆動歯車と、前記回転軸に対して同軸に固定され、前記回転軸と一体に回転可能なホイールとを備えた慣性質量ダンパーであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る他の免震構造は、上述した発明において、前記動吸振器を複数有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る他の免震構造は、上述した発明において、前記免震層の制振対象物に固定されたラックと、複数の前記動吸振器の前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る他の免震構造は、上述した発明において、前記ラックの並進方向の動きに連動して回転する追加ホイールを有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る他の免震構造は、上述した発明において、前記ラックと前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有し、前記追加ホイールは、前記中間歯車の回転に連動して回転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る免震構造によれば、免震層の変位が大きくなるにしたがって、前記免震層の剛性が大きくなるように構成された硬化型免震構造と、前記免震層に設けられた動吸振器とを有する免震構造であって、前記動吸振器は、前記免震層の制振対象物に固定されたラックの並進方向の動きをピニオンの回転方向の動きに変換するラック&ピニオンと、前記ピニオンと同軸に配置された歯車と、前記ピニオンの回転方向の付勢力を確保するために、前記ピニオンと前記歯車の間に設置された付勢部材と、前記歯車に噛み合わされるとともに回転軸に固定された駆動歯車と、前記回転軸に対して同軸に固定され、前記回転軸と一体に回転可能なホイールとを備えた慣性質量ダンパーであるので、省スペース化を図れるコンパクトな動吸振器を備えた免震構造を提供することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記動吸振器を複数有するので、複数の固有周波数への対応が可能になるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記免震層の制振対象物に固定されたラックと、複数の前記動吸振器の前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有するので、ラックの長さを短くすることができるという効果を奏する。
【0023】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記ラックの並進方向の動きに連動して回転する追加ホイールを有するので、制振対象物の見かけの重量が大きくなり、固有周期を伸ばすことで、応答を低減させることができるという効果を奏する。
【0024】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記ラックと前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有し、前記追加ホイールは、前記中間歯車の回転に連動して回転するので、ラックの長さを短くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明に係る免震構造の実施の形態を示す概略図であり、(a)は平断面図、(b)は動吸振器の側面図、(c)は動吸振器の平断面図である。
図2図2は、入力周波数と変位の関係を示す図である。
図3図3は、本実施の形態の変形例の平断面図であり、(a)は変形例1、(b)は変形例2、(c)は変形例3、(d)は変形例4である。
図4図4は、実験結果を示す応答波形図である。
図5図5は、従来技術の説明図であり、(a)はストローク説明図、(b)は地震応答波形図、(c)、(d)は動吸振器による共振抑制の概念図、(e)は装置のロバスト性についての概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係る免震構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0027】
図1(a)に示すように、本発明の実施の形態に係る免震構造10は、建物の上部躯体と下部躯体との間の免震層12に設けられた免震支承14と、硬化型免震構造16と、コンパクト型の動吸振器18(IMD)とを有する。免震層12の上部躯体には、水平方向に延びる梁20が上から見て格子状に配置されている。免震支承14は、梁20の交差部に設けられ、周知の積層ゴムなどで構成される。
【0028】
硬化型免震構造16は、免震層12の変位が大きくなるにしたがって、免震層12の剛性が大きくなるように構成された周知の構造であり、免震層12の外周側に設けた複数の硬化型免震装置16Aによって構成される。硬化型免震装置16Aは、水平変位に応じて剛性が変化する特性を有するとともに水平方向の変位を抑制する周知の装置で構成される。本実施の形態では、ワイヤー22と復元ばね機構24を用いて構成されている。
【0029】
動吸振器18は、図1(b)および(c)に示すように、ラック&ピニオン26と、歯車28と、ねじりバネ30と、ホイール32とを備える。
【0030】
ラック&ピニオン26は、梁20(制振対象物)の側面に固定され、梁20の長手方向に延びるラック34と、ラック34に噛み合ったピニオン36とからなり、ラック34の並進方向の動きをピニオン36の回転方向の動きに変換する。ラック34の長さSは建物の想定変位のみで十分である。例えば、免震層12の最大変位が60cmと想定される場合には120cmの長さのラック34により実現が可能であり、大幅に小型化することが可能である。ピニオン36の軸38は、図示しない玉軸受を介して支持部材40に回転自在に固定されている。ラック&ピニオン26を用いることで、地震によって変形する梁20の並進方向の変位を回転方向の変位に変換することが可能である。
【0031】
歯車28は、ピニオン36と同軸かつ平行に配置されるものである。歯車28の軸42は、図示しない玉軸受を介して支持部材40に回転自在に固定されており、ピニオン36の軸38とは縁が切られている。なお、歯車28は、軸42との縁が切られるものであってもよいし、切られていなくてもよい。歯車28の直径は、ピニオン36の直径と同一に構成しているが、本発明はこれに限るものではない。歯車28は、隣接する歯車44(駆動歯車)に噛み合わされている。歯車44は、回転軸46に固定される。歯車44の直径は、歯車28の直径よりも小さく、歯車44の歯数は、歯車28の歯数よりも少ない。回転軸46は、歯車28およびピニオン36の回転軸線Cと平行に配置され、回転軸46の一端は、支持部材40に対して回転自在に固定される。
【0032】
ねじりバネ30は、ピニオン36の回転方向の付勢力を確保するためのコイル状の付勢部材であり、ピニオン36と歯車28の間に設置される。ねじりバネ30の中心軸線は、ピニオン36および歯車28の回転軸線Cと一致している。ねじりバネ30の一端はピニオン36の軸方向の端面36Aに固定され、他端は歯車28の軸方向の端面28Aに固定される。なお、本発明の付勢部材は、ねじり方向に作用するねじりバネに限るものではなく、ピニオン36の回転方向の付勢力を確保可能であればいかなる部材でもよい。
【0033】
ホイール32は、回転軸46の他端側に対して同軸に固定され、回転軸46と一体に回転可能な円盤状の質量体である。回転軸46を介してホイール32を回転させることにより、見かけ上大きな質量を発生させることが可能である。
【0034】
上記のねじりバネ30と質量を備えた構成により、回転方向の変位に対して効力を発揮する同調マスダンパーを実現することが可能となる。ダンパーが動くスペースを並進方向ではなく、回転方向で確保することが可能となるので、大幅な省スペース化が可能となる。さらに、回転慣性質量は、後述のように、ホイール32を回転させて、見かけ上大きな質量を発生させるものであって、従来の動吸振器のように実質量として重い物質が動くものではないことから、従来の動吸振器と比較して実質量を低減することができ、構造上も有利になる。
【0035】
ねじりバネ30と、回転慣性質量の諸元については、振動を遮断、あるいは低減したい周波数(ターゲット周波数)になるようにチューニングしたものとする。これにより、特に、定常応答時のターゲット周波数の振動を低減することが可能となる。
【0036】
上記構成の動作および作用について説明する。
建物に振動が発生すると、動吸振器18のラック&ピニオン26により、梁20の並進方向の動きが回転方向に変わり、これがピニオン36を回転させる。ピニオン36の回転に伴い、ねじりバネ30に回転方向の変位が発生する。ねじりバネ30にトルクが発生し、歯車28に回転変位が生じる。歯車28が回転すると、歯車28よりも歯数が少ない歯車44が回転し、歯車44と一体的に回転軸46が回転する。この回転軸46の回転に伴い、回転軸46に固着されているホイール32が回転する。ホイール32が回転することにより、見かけの質量は、実質量よりも大きくなる。なお、ホイール32はねじりバネ30を介して建物とつながっているため、従来の動吸振器と同様に、建物の自由度とは独立した付加自由度となる。
【0037】
本実施の形態では、従来のように並進方向に移動する動吸振器ではなく、回転方向に変位を確保するコンパクト型の動吸振器18を用いている。こうすることで、動吸振器そのものの小型化を図る。このため、本実施の形態によれば、省スペース化を図れるコンパクトな動吸振器18を備えた免震構造10を実現することができる。免震層12に大きなスペースを確保できない場合でも、硬化型免震構造16の共振防止の機能を持たせることができ、幅広い入力地震動に対して応答低減効果を得ることができる。
【0038】
動吸振器18は、水平の1方向にだけ効果を発揮することから、図1(a)に示すように、水平面内のX方向およびY方向の両方向に効力を持たせるために、各方向の梁20部分に配置することが望ましい。こうすることで、X、Yの水平2方向への対応が可能となる。なお、全ての梁20に動吸振器18を配置する必要はなく、必要な性能を発揮できれば、少ない箇所に配置することも可能であり、また、1つの梁20に複数の動吸振器18を配置することも可能である。
【0039】
例えば、動吸振器18を1つの梁20のうち一部の区間に対して2台使用してもよい。このようにすれば、様々な固有周波数への対応が可能となる。変位が小さくなると、装置が発生する復元力が小さくなる特性がある。小変位時の入力周波数と変位の関係を図2(a)に示す。この図に示すように、固有周波数は短くなり、既に設置してある動吸振器では小変位時の応答(特に後揺れ)を抑えることは困難である。そこで、固有周波数が異なる動吸振器18を2台用いる。このようにすれば、図2(b)に示すように、小変位時でも変位を抑えることが可能となる。動吸振器18を2台用いる場合、1台を非線形共振防止用とし、もう1台を小振幅時の変位抑制用として導入してもよい。
【0040】
(変形例)
動吸振器18を2台設置する場合の例として、長くしたラック34に対して2台の動吸振器18を並列に配置した構造と、中間歯車を用いた構造とが考えられる。以下に、各構造に基づいた本実施の形態の変形例1、2について説明する。
【0041】
変形例1は、図3(a)に示すように、長くした一本のラック34に対して2台の動吸振器18を並列に配置したものである。この構成では、上記の実施の形態の構成(図1(c)を参照)に比べて、ラック34の長さが長くなるが、部材数を減らすことが可能となる。
【0042】
変形例2は、図3(b)に示すように、ラック34に噛み合わせた中間歯車48に対して、並列に配置した2台の動吸振器18のピニオン36をそれぞれ噛み合わせたものである。この構成では、部材として中間歯車48を別途設ける必要があるが、上記の実施の形態の構成(図1(c)を参照)に比べて、ラック34の長さを短くできる長所がある。
【0043】
なお、動吸振器18ではなく、追加のホイールのみを設置することも可能である。以下に、これに基づいた本実施の形態の変形例3、4について説明する。
【0044】
変形例3は、図3(c)に示すように、長くした一本のラック34に対して動吸振器18と追加ホイール50を並列に配置したものである。追加ホイール50は、回転軸周りに回転可能な円盤状の質量体である。追加ホイール50の外周には歯が形成されており、ラック34に噛み合わされている。ラック34の並進方向の動きに連動して追加ホイール50を回転させることにより、見かけ上大きな質量を発生させることが可能である。この構成では、追加ホイール50を加えることにより、上記の実施の形態の構成(図1(c)を参照)に比べて、建物の見かけの重量が大きくなり、固有周期を伸ばすことで、応答をより一層低減させることが可能となる。
【0045】
変形例4は、図3(d)に示すように、ラック34に噛み合わせた中間歯車48に対して、並列に配置した動吸振器18のピニオン36と、追加ホイール50をそれぞれ噛み合わせたものである。ラック34の並進方向の動きに連動して追加ホイール50を回転させることにより、見かけ上大きな質量を発生させることが可能である。この構成では、部材として中間歯車48を別途設ける必要があるが、追加ホイール50を加えることにより、上記の実施の形態の構成(図1(c)を参照)に比べて、建物の見かけの重量が大きくなり、固有周期を伸ばすことで、応答をより一層低減させることが可能となる。
【0046】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために、硬化型免震構造16にコンパクト型の動吸振器18を1台取り付けた免震モデルを模した試験体を作製し、実験を行った。入力波は、上記のCH1波を振動台で入力できるようにスケーリングしたものである。入力波による応答をコンパクト型の動吸振器18の有無で比較した実験結果を図4(a)に示す。図4(a)の150~200秒付近を拡大したものを図4(b)に示す。各図の凡例において、「動吸振器あり」が本発明の実施例に相当し、「動吸振器なし」が比較例に相当する。
【0047】
図4(a)に示すように、コンパクト型の動吸振器18を取り付けることにより、振動による最大変位を低減できていることがわかる。また、図4(b)に示すように、150~200秒付近で、特に応答低減効果があらわれている。これは、コンパクト型の動吸振器18を付けたことによるものであると解される。したがって、コンパクト型の動吸振器18を取り付けることにより、硬化型免震構造16の共振現象を抑えることができる。また、従来の動吸振器に比べて装置の大きさを大幅に低減させることが可能である。
【0048】
以上説明したように、本発明に係る免震構造によれば、免震層の変位が大きくなるにしたがって、前記免震層の剛性が大きくなるように構成された硬化型免震構造と、前記免震層に設けられた動吸振器とを有する免震構造であって、前記動吸振器は、前記免震層の制振対象物に固定されたラックの並進方向の動きをピニオンの回転方向の動きに変換するラック&ピニオンと、前記ピニオンと同軸に配置された歯車と、前記ピニオンの回転方向の付勢力を確保するために、前記ピニオンと前記歯車の間に設置された付勢部材と、前記歯車に噛み合わされるとともに回転軸に固定された駆動歯車と、前記回転軸に対して同軸に固定され、前記回転軸と一体に回転可能なホイールとを備えた慣性質量ダンパーであるので、省スペース化を図れるコンパクトな動吸振器を備えた免震構造を提供することができる。
【0049】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記動吸振器を複数有するので、複数の固有周波数への対応が可能になる。
【0050】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記免震層の制振対象物に固定されたラックと、複数の前記動吸振器の前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有するので、ラックの長さを短くすることができる。
【0051】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記ラックの並進方向の動きに連動して回転する追加ホイールを有するので、制振対象物の見かけの重量が大きくなり、固有周期を伸ばすことで、応答を低減させることができる。
【0052】
また、本発明に係る他の免震構造によれば、前記ラックと前記ピニオンとの間に噛み合わされた中間歯車を有し、前記追加ホイールは、前記中間歯車の回転に連動して回転するので、ラックの長さを短くすることができる。
【0053】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る免震構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明に係る免震構造は、免震層を備えた免震建物に有用であり、特に、省スペース化を図れるため、大きなスペースを確保できない免震層に適している。
【符号の説明】
【0055】
10 免震構造
12 免震層
14 免震支承
16 硬化型免震構造
16A 硬化型免震装置
18 動吸振器
20 梁(制振対象物)
22 ワイヤー
24 復元ばね機構
26 ラック&ピニオン
28 歯車
30 ねじりバネ(付勢部材)
32 ホイール
34 ラック
36 ピニオン
38,42 軸
40 支持部材
44 歯車(駆動歯車)
46 回転軸
48 中間歯車
50 追加ホイール
C 回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5