(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152010
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 21/14 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H02K21/14 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065892
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】岩城 翔
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】兼重 宙
(72)【発明者】
【氏名】角振 正浩
(72)【発明者】
【氏名】吐合 浩二
(72)【発明者】
【氏名】桐野 沙南
【テーマコード(参考)】
5H621
【Fターム(参考)】
5H621AA03
5H621BB09
5H621GA04
5H621PP03
(57)【要約】
【課題】固定子と回転子とが相対移動可能な可変磁束機構を有する回転電機において、回転電機の薄型且つ小径化を実現することができ、冷却用通路を容易に配置することができる回転電機を提供する。
【解決手段】回転軸と、永久磁石を有し、回転軸に回転力を付与すると共に、回転軸に対して軸方向移動可能に組み付けられた回転子と、回転子を軸方向に移動させる移動機構と、回転子の外周と径方向に間隙を有して配置されると共に、コイルを有する固定子と、移動機構の回転を防止する回転防止手段と、を有し、移動機構は、回転子と共に回転すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成され、内周面に回転軸を挿通するねじ軸部材と、ねじ軸部材のねじ溝に螺合するねじナット部材とを有し、回転防止手段は、ねじ軸部材に形成されたガイド部と、筐体に設けられた摺動部とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
永久磁石を有し、前記回転軸に回転力を付与すると共に、前記回転軸に対して軸方向移動可能に組み付けられた回転子と、
前記回転子を軸方向に移動させる移動機構と、
前記回転子の外周と径方向に間隙を有して配置されると共に、コイルを有する固定子と、
前記移動機構の回転を防止する回転防止手段と、を有し、
前記移動機構は、前記回転子と共に回転すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成され、内周面に前記回転軸を挿通するねじ軸部材と、前記ねじ軸部材の前記ねじ溝に螺合するねじナット部材とを有し、
前記回転防止手段は、前記ねじ軸部材に形成されたガイド部と、筐体に設けられた摺動部とを有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記回転軸の外周には軸方向に延びるスプライン溝が形成され、
前記回転子は、前記スプライン溝と係合するスプラインナット部材を有することを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機において、
前記スプラインナット部材は、前記ねじ軸部材の内周側に挿入可能であることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機において、
前記移動機構は、前記ねじナット部材に回転力を付与する駆動モータを有することを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機において、
前記ねじナット部材は、外周に前記駆動モータと歯合する歯部が形成されることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1に記載の回転電機において、
前記固定子の外周側にはタイヤが配置され、前記タイヤは前記回転子と共に回転可能に取り付けられるホイールに取り付けられることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関し、特に自動車の車輪に内蔵されるインホイールモータとして用いられる回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転電機の低速及び高速での出力を調整することで、回転速度に応じた出力特性を得ることができる回転電機が知られている。このような回転電機は種々の構造が知られているが、例えば、固定子と、固定子に対して同軸をなして回転自在に設けられた回転子と、回転子に対する固定子の軸方向での相対位置を変化させる移動手段とを有し、固定子に電機子コイル及びコアが設けられ、コアに対峙するようにマグネットが設けられた回転電機が知られている。
【0003】
このような回転電機によれば、低速回転時には、固定子と回転子の対向面積が大きくなるように移動機構によって固定子を軸方向に移動させて固定子を通過する有効磁束が大きくなるようにして高トルク化を図り、高速回転時には、固定子と回転子との対向面積を少なくするように固定子を移動させて固定子を通過する有効磁束が小さくなるようにして高速回転を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の回転電機によると、インホイールモータとして回転電機を用いる場合に、バネ下重量の増加による乗り心地に与える影響や、足回りのスペースを圧迫させることで、サスペンションジオメトリが車両内側にオフセットされることによる居住空間の減少を考慮して、薄型且つ小径な構造が求められていた。
【0006】
従来の回転電機は、回転軸周りに固定子を軸方向移動させるための機構が設けられており、回転電機自体を小径化することが難しいという問題があった。
【0007】
また、従来の回転電機のように固定子と回転子との相対移動を回転子の内側に配置された固定子を軸方向に移動させる構成とすると、固定子のコイルを冷却する必要が生じた場合に、冷却用の冷媒の通路を軸方向に移動する固定子に設ける必要があり、当該通路を構成することが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、固定子と回転子とが相対移動可能な可変磁束機構を有する回転電機において、回転電機の薄型且つ小径化を実現することができ、冷却用通路を容易に配置することができる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明に係る回転電機は、回転軸と、永久磁石を有し、前記回転軸に回転力を付与すると共に、前記回転軸に対して軸方向移動可能に組み付けられた回転子と、前記回転子を軸方向に移動させる移動機構と、前記回転子の外周と径方向に間隙を有して配置されると共に、コイルを有する固定子と、前記移動機構の回転を防止する回転防止手段と、を有し、前記移動機構は、前記回転子と共に回転すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成され、内周面に前記回転軸を挿通するねじ軸部材と、前記ねじ軸部材の前記ねじ溝に螺合するねじナット部材とを有し、前記回転防止手段は、前記ねじ軸部材に形成されたガイド部と、筐体に設けられた摺動部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る回転電機によれば、回転子の外周と径方向に間隙を有して配置されると共に、コイルを有する固定子と、移動機構の回転を防止する回転防止手段と、を有し、移動機構は、回転子と共に回転すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成され、内周面に回転軸を挿通するねじ軸部材と、ねじ軸部材のねじ溝に螺合するねじナット部材とを有し、回転防止手段は、ねじ軸部材に形成されたガイド部と、筐体に設けられた摺動部とを有するので、ねじ軸部材の軸方向移動を案内しつつねじ軸部材の回転を防止することができるので、薄型且つ小径な回転電機を構成することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る回転電機によれば、回転子の外周と径方向に間隙を有して配置されると共に、コイルを有する固定子を有する所謂インナーロータ型の回転電機に可変磁束機構を配置しているので、固定子を冷却する必要が生じた場合であっても、当該固定子は軸方向に移動しないため、冷却用の通路を容易に構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る回転電機をインホイールモータに用いた図。
【
図5】本発明の実施形態に係る回転電機の回転防止手段を説明するための斜視図。
【
図6】本発明の実施形態に係る回転電機の可変磁束機構の動作を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機をインホイールモータに用いた図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る回転電機の正面図であり、
図3は、
図2におけるA-A断面図であり、
図4は、
図3におけるB部拡大図であり、
図5は、本発明の実施形態に係る回転電機の回転防止手段を説明するための斜視図であり、
図6は、本発明の実施形態に係る回転電機の可変磁束機構の動作を説明するための断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る回転電機10は、自動車などの車輪1に組み込まれる所謂インホイールモータとして好適に用いられる。車輪1は、図示しないホイールに組み込まれたタイヤ3を有し、当該ホイールに回転電機10が内蔵されている。また、回転電機10の回転軸31には、ブレーキディスク2が取り付けられている。
【0016】
図2及び
図3に示すように、回転電機10は、固定子20と当該固定子20に対して相対的に回転可能な回転子30を内蔵した筐体40を備えている。固定子20は、回転子30の外周と径方向に間隙を有して配置されている。回転子30は、回転軸31と、回転軸31とともに回転するボルト32とを備えている。ボルト32には、図示しない車輪1のホイールが取り付けられる。
【0017】
固定子20は、図示しないステータコアに線材を巻回した電機子コイルが周方向に配列されている。回転子30は、移動機構50に組み付けられた回転子本体34と、回転子本体34の周方向外方かつ固定子20と対向するようにロータコア33を備えている。ロータコア33は、図示しない永久磁石が周方向に沿って複数配置されている。また、固定子20は、冷却用の図示しない冷却手段が設けられている。
【0018】
図4及び
図5に示すように、移動機構50は、回転軸31に軸方向に沿って形成されたスプライン溝31aに軸方向に移動可能に組み付けられたスプラインナット部材53と、スプラインナット部材53の外周にベアリング56を介して組み付けられたねじ軸部材51と、ねじ軸部材51に回転自在に組み付けられるねじナット部材52とを備えている。
【0019】
回転軸31は、回転子30とともに軸回りに回転する部材であって、筐体40に取り付けられた回転軸受57によって回転可能に支持されている。
【0020】
ねじ軸部材51は、外周面に螺旋状のねじ溝が形成されるとともに、中央部にベアリング56,スプラインナット部材53及び回転軸31などが挿通可能な中空形状に形成されており、ねじ軸部材51は、軸方向に沿って延設されたガイド部59が形成されている。また、ねじナット部材52は、軸方向に複数(例えば2つ)に分割されて構成されている。なお、ねじナット部材52は、軸方向に分割せずに一体に形成しても構わない。
【0021】
ガイド部59は、水平方向に沿って一対形成されていると好適である。ガイド部59は、筐体40に取り付けられた摺動部としてのカムフォロア58によって案内されて回転防止手段を構成している。
【0022】
ねじナット部材52は、内周面にねじ溝と対応するナット側ねじ溝が形成され、ねじ溝とナット側ねじ溝との間に転動体54が螺旋状に配列されている。また、ねじナット部材52の端部には、駆動モータ60と歯合する歯車部52aが取り付けられている。
【0023】
スプラインナット部材53は、スプライン溝31aに対応するナット側スプライン溝が形成された円筒状部材であり、外周面に回転子本体34が組み付けられている。スプライン溝31aとナット側スプライン溝との間には複数の転動体55が軸方向に沿って配列されている。
【0024】
カムフォロア58は、軸つきベアリングであって、筐体40に固定された軸と当該軸周りに回転自在に組み付けられたベアリングとを有している。ベアリングの外周面は上述したガイド部59の上面に当接してガイド部59を介してねじ軸部材51の軸方向の移動を案内している。なお、ガイド部59は、地面に対して水平な方向に一対形成されていると好適であり、このように水平に配置されることにより車両が地面から衝撃を受けた際にガイド部59とカムフォロア58とによって当該衝撃を適切に負荷することが可能となる。
【0025】
次に本実施形態に係る回転電機10の動作について説明を行う。
図3の状態で、固定子20のコイルに電流を流すと、回転子30に配置された永久磁石による磁界との相互作用によって回転子30が固定子20に対して相対的に回転する。
【0026】
この場合、回転子30を固定子20に対して最も深くまで挿入した状態においては、固定子20と回転子30との対向面積が最も大きい状態となり、回転電機10の出力特性は、高トルク・低回転型となる。このような状態は、自動車の発進時など速度は遅いが高トルクが必要な場合に最も出力特性が適した状態となる。
【0027】
また、この状態では、逆起電力が上昇することから固定子20への給電を停止し、車輪1を制動させる減速時には、効率的に発電を行うことができることから高効率の回生ブレーキとして作用させることが可能となる。
【0028】
次に、移動機構50の動作について説明を行う。回転子本体34は、スプラインナット部材53に取り付けられているので、回転子本体34の回転はスプラインナット部材53及びスプライン溝31aを介して回転軸31に伝達される。また、スプラインナット部材53とねじ軸部材51との間には、ベアリング56が介在しているので、回転子30の回転はねじ軸部材51に伝達されず、ベアリング56によって遮断される。
【0029】
駆動モータ60を駆動し、ねじナット部材52に取り付けられた歯車部52aを回転させることによってねじ軸部材51を軸方向に移動させる。この時、スプラインナット部材53と回転軸31とはスプライン溝31aを介して組み付けられているので、スプラインナット部材53は、回転子本体34とともに軸方向に移動する。
【0030】
このとき、
図6に示すように、回転子30を固定子20に対して軸方向に引き抜くことで、回転子30のロータコア33と固定子20との対向面積が最も小さい状態となる。この状態では逆起電力が減少し、回転電機10の出力特性は低トルク・高回転型となる。このように回転子30を固定子20に対して引き抜いた状態では、トルクを必要としない高速走行時に最も出力特性が適した状態となる。
【0031】
なお、移動機構50は、回転子30を軸方向に無段階に移動させることが可能であるので、駆動モータ60の回転量を制御することで、必要な出力特性に応じた位置に回転子30の位置を調整することが可能となる。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る回転電機10は、移動機構50による可変磁束機構を有する回転電機において、回転軸31の軸方向にスライドする中空のねじ軸部材51に軸方向に延設するガイド部59を設け、当該ガイド部59をカムフォロア58による摺動部によって案内することで、中空のねじ軸部材51のスライドを案内しつつ、二つのガイド部59をそれぞれカムフォロア58が上方から案内することで、ガイド部59が形成されたねじ軸部材51の回転を防止した可変磁束機構を構成することが可能となる。このとき、カムフォロア58がそれぞれのガイド部59の同一の方向(上方)から案内することで、ねじ軸部材51の軸周りの順方向及び逆方向の回転を抑制することでねじ軸部材の回転をより効果的に防止している。なお、カムフォロア58がガイド部59を案内する方向は、上方からに限らず下方からなど、一対のガイド部59を同じ方向からカムフォロア58が案内するように配置するように構成しても構わない。
【0033】
また、本実施形態に係る回転電機10は、車両負荷の遮断について、駆動トルク及び制動トルクをスプラインナット部材53とねじ軸部材51の間に介在されたベアリング56で、軸方向の衝撃荷重をスプラインナット部材53で遮断し、磁束可変させる移動機構50の構成部品を小型化することができるとともに、ロータコアのダメージを抑えることが可能となる。
【0034】
また、移動機構50は、その構成部品を軸方向に配置することができるため回転電機10の径方向の寸法の肥大化を抑えることが可能となる。さらに、移動機構50にねじナット部材52及び摺動部にカムフォロア58を用いることで更なる小型化が可能となる。
【0035】
また、摺動を伴う箇所であるカムフォロア58とガイド部59及び回転軸31とスプラインナット部材53などには転動体を介した転がり案内を採用しているので、微小な抵抗とすることができ、これにより駆動モータ60の肥大化や経年劣化を防止している。
【0036】
また、本実施形態に係る回転電機10は、冷却が必要となる固定子20を固定して回転子30を軸方向に移動させる可変磁束機構を有しているので、冷却用通路を容易に配置することができる。
【0037】
以上説明した本実施形態に回転電機10は、ねじ軸部材51とねじナット部材52,スプライン溝31aとスプラインナット部材53との間に転動体54,55を介した場合、並びにガイド部59をカムフォロア58で案内する転がり案内を適用した場合について説明を行ったが、これらは、転動体を介さずに直接部材どうしを摺接させた滑り案内としても構わない。また、ガイド部59は、水平方向に一対形成した場合について説明を行ったが、ガイド部59の数は2以上であればよく、例えば、ねじ軸部材51の周方向に等間隔に複数形成しても構わない。さらに、ガイド部59は、ねじ軸部材51に一対(二つ)形成した場合について説明を行ったが、ガイド部59はねじ軸部材51に2以上形成されていても構わない。この場合、ガイド部59の少なくとも2つを同一方向からカムフォロア58が案内する構成とすると好適である。このとき、2つのガイド部59はそれぞれ軸周りに対称に配置されていると好適である。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0038】
3 タイヤ, 10 回転電機, 20 固定子, 30 回転子, 31 回転軸, 31a スプライン溝, 40 筐体, 50 移動機構, 51 ねじ軸部材, 52 ねじナット部材, 52a 歯部, 53 スプラインナット部材, 58 カムフォロア, 59 ガイド部, 60 駆動モータ。