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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152048
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】免震構造用の硬化型装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20241018BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F16F15/04 A
E04H9/02 331D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065961
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏一
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA07
2E139CA16
2E139CA28
2E139CB04
2E139CC02
3J048AA01
3J048AD14
3J048BC02
3J048CB05
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】免震層の過大変位を抑制することができる免震構造用の硬化型装置を提供する。
【解決手段】免震構造用の硬化型装置1は、上部建物と免震構造との間に設置された複数のバネを備え、複数のバネは、上部建物が水平面上の第1方向に変位した際に第1方向に伸縮可能であり、第1方向における上部建物の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられていることを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部建物と免震構造との間に設置された複数のバネを備え、
前記複数のバネは、前記上部建物が水平面上の第1方向に変位した際に前記第1方向に伸縮可能であり、前記第1方向における前記上部建物の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられていることを特徴とする免震構造用の硬化型装置。
【請求項2】
前記複数のバネは、一部が前記第1方向で重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の免震構造用の硬化型装置。
【請求項3】
前記上部建物と一体的に前記第1方向に沿って往復動することが可能な稼働治具と、
前記バネの両端に取り付けられたバネ側治具と、
前記第1方向のうち前記バネが縮む方向へ前記バネ側治具が移動することを規制するストッパと、
を備え、
前記バネ側治具は、前記稼働治具が静止した静止状態では前記稼働治具とは接触しておらず、前記稼働治具が当接した当接状態では前記バネの付勢力に抗して前記ストッパから離れる方向へと前記第1方向に沿って移動可能であり、
前記静止状態では前記第1方向における前記バネ側治具と前記稼働治具との間のギャップが、前記複数のバネごとに異なり、
前記稼働治具が前記第1方向に変位して前記バネ側治具に当接することによって、前記バネによる剛性が発揮されることを特徴とする請求項1または2に記載の免震構造用の硬化型装置。
【請求項4】
前記複数のバネに含まれるバネの本数に応じて異なる硬化特性を発揮することを特徴とする請求項3に記載の免震構造用の硬化型装置。
【請求項5】
前記複数のバネは、当該硬化型装置の中央に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の免震構造用の硬化型装置。
【請求項6】
前記複数のバネは、
前記上部建物が前記第1方向に変位した際に前記第1方向に伸縮可能であり、前記第1方向における前記上部建物の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられた複数の第1方向バネと、
水平面上における前記第1方向と直交する第2方向に前記上部建物が変位した際に前記第2方向に伸縮可能であり、前記第2方向における前記上部建物の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられた複数の第2方向バネと、を有することを特徴とする請求項3に記載の免震構造用の硬化型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重バネを使用した免震構造用の硬化型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免震構造は、建物の基礎部分に剛性の低い層を導入して建物の固有周期を伸ばすことによって、地震入力時の加速度を低減させ、建物を地震から守る手法である。これに対して、長周期地震が発生した際は免震層の変位が過大となることが危惧される。実際の地震では長周期パルスの発生によって多くの免震建築物が被害を受けることがある。この問題を解決するために、硬化型免震構造が開発された。硬化型免震構造は、免震層の変位が増大するにつれて免震層の剛性を高めることができる方法である。これにより、免震層の変位が大きくなった際には免震層の剛性が上昇するので、過大変位による擁壁の衝突を防ぐことができる。
【0003】
従来の硬化型免震構造として、変位方向と直交する方向に対してワイヤを張り、そのワイヤと、端部に設置したバネとを備える装置が知られている。ところが、地震が発生した際、実際の建物は縦方向のみならず横方向にも揺れる。このことから、従来の装置を実建物へ適用する際は、ワイヤを縦横へ複雑に張る必要があり、免震層に大きなスペースを必要としていた。
【0004】
また、単一方向に作用する硬化型免震構造として、非特許文献1と非特許文献2とには、硬化型装置を実現する方法が開示されている。この硬化型装置では、制御対象となる質量に対してワイヤを通して端部の皿バネが固定されている。ワイヤは、皿バネ中に設置した内部シリンダと連結されている。この内部シリンダは、皿バネの先端部にあるキャップに連結されており、制御対象となる建物が振動することによってワイヤおよび内部シリンダを通してキャップが引っ張られ、皿バネが圧縮される。皿バネが圧縮されることにより、復元力を生じ、建物の振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鈴木瑛大、渡辺宏一、宮本皓、射場淳、石井建、菊地優、硬化型復元力と回転慣性質量を組み合わせた過大変位抑制型免震構造に関する基礎的研究(その4)大型免震試験体と解析モデル概要、日本建築学会年次大会(東海)、2021、No:21270
【非特許文献2】渡辺宏一、中井正一:硬化型復元力特性を有する部材により耐震補強した多層骨組の振動特性、日本建築学会構造系論文集78(687)、931-938,2013-05
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載の構成は、1方向のみに効力を発揮する装置であるが、実際の建物には地震による振動がX方向およびY方向から入力するため、実用化のためには、2方向に効力を発揮する装置が必要不可欠となる。その結果、ワイヤを複雑に張る必要があり、多くのスペースを必要とする点が問題となっていた。
【0007】
また、通常、建物の応答変位と加速度とはトレードオフの関係にある。免震構造は、変位を犠牲にすることによって加速度を抑え、これにより建物全体を守る方式である。しかしながら、免震層の変位が過大となると、擁壁の衝突や免震部材の破損を招く虞がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、免震層の過大変位を抑制することができる免震構造用の硬化型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る免震構造用の硬化型装置は、上部建物と免震構造との間に設置された複数のバネを備え、前記複数のバネは、前記上部建物が水平面上の第1方向に変位した際に前記第1方向に伸縮可能であり、前記第1方向における前記上部建物の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る免震構造用の硬化型装置は、上述した発明において、前記複数のバネは、一部が前記第1方向で重なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る免震構造用の硬化型装置は、上述した発明において、前記上部建物と一体的に前記第1方向に沿って往復動することが可能な稼働治具と、前記バネの両端に取り付けられたバネ側治具と、前記第1方向のうち前記バネが縮む方向へ前記バネ側治具が移動することを規制するストッパと、を備え、前記バネ側治具は、前記稼働治具が静止した静止状態では前記稼働治具とは接触しておらず、前記稼働治具が当接した当接状態では前記バネの付勢力に抗して前記ストッパから離れる方向へと前記第1方向に沿って移動可能であり、前記静止状態では前記第1方向における前記バネ側治具と前記稼働治具との間のギャップが、前記複数のバネごとに異なり、前記稼働治具が前記第1方向に変位して前記バネ側治具に当接することによって、前記バネによる剛性が発揮されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る免震構造用の硬化型装置は、上述した発明において、前記複数のバネに含まれるバネの本数に応じて異なる硬化特性を発揮することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る免震構造用の硬化型装置は、上述した発明において、前記複数のバネは、当該硬化型装置の中央に配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る免震構造用の硬化型装置は、上述した発明において、前記複数のバネは、前記上部建物が前記第1方向に変位した際に前記第1方向に伸縮可能であり、前記第1方向における前記上部建物の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられた複数の第1方向バネと、水平面上における前記第1方向と直交する第2方向に前記上部建物が変位した際に前記第2方向に伸縮可能であり、前記第2方向における前記上部建物の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられた複数の第2方向バネと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る免震構造用の硬化型装置によれば、免震層の変位が小さい場合は剛性が低くなり、免震層の変位が大きくなった場合には剛性が高くなり、免震層の過大変位を抑制することが可能である。
【0016】
本発明に係る他の免震構造用の硬化型装置によれば、複数のバネは一部が第1方向で重なる位置に配置されるため、装置が第1方向に非常に長くなることを回避でき、装置の小型化を図ることができる。
【0017】
本発明に係る他の免震構造用の硬化型装置によれば、バネごとに稼働治具とのギャップの大きさを変更することにより、様々な特性の硬化型装置を実現することができる。また、静止状態でのギャップを小さくすることにより、上部建物が揺れてすぐに剛性が上昇するようになる。静止状態でのギャップを大きくすることにより、上部建物の変位が大きくなった時のみに剛性が上昇するようになる。
【0018】
本発明に係る他の免震構造用の硬化型装置によれば、免震層の変位が大きくなるほど複数のバネによる免震層の剛性が高くなる特性を実現することが可能である。
【0019】
本発明に係る他の免震構造用の硬化型装置によれば、バネが装置の中央に配置されるので、装置の小型化を図ることができる。
【0020】
本発明に係る他の免震構造用の硬化型装置によれば、硬化型装置を第1方向および第2方向の上部建物の梁部分に設置することで2方向への対応が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態における免震構造用の硬化型装置を説明するための模式図である。
図2図2は、硬化型装置を説明するための模式図である。
図3図3(a)は硬化型装置の全体構成を模式的に示す伏図であり、図3(b)は硬化型装置を一方の側面側から見た場合を模式的に示す説明図であり、図3(c)は硬化型装置を他方の側面側から見た場合を模式的に示す説明図である。
図4図4(a)は非振動時の静止状態を説明するための模式図であり、図4(b)は振動により稼働治具が第1L字型治具に当接した際を説明するための模式図であり、図4(c)は稼働治具が第1L字型治具とともに変位して第1バネの復元力が生じている状態を説明するための模式図である。
図5図5(a)は第1バネと第2バネとの関係において非振動時の静止状態を説明するための模式図であり、図5(b)は稼働治具が第1L字型治具とともに変位して第1バネの復元力が生じている状態を説明するための模式図であり、図5(c)は稼働治具が第1L字型治具と第2L字型治具とともに変位して第1バネの復元力と第2バネの復元力とが同時に生じている状態を説明するための模式図である。
図6図6は、2方向に対応する硬化型装置の配置例を示す説明図である。
図7図7(a)は応答変位について時刻歴応答の解析結果と実験結果とを比較して示すグラフ図であり、図7(b)は硬化型装置の荷重と変位曲線とについて時刻歴応答の解析結果と実験結果とを比較して示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態における免震構造用の硬化型装置について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図1は、実施形態における免震構造用の硬化型装置を説明するための模式図である。実施形態における免震構造用の硬化型装置1は、上部建物2と基礎3との間に配置されている。硬化型装置1は、上部建物2の基礎梁部分に設置された稼働治具4を備える。稼働治具4は、可動部分であり、上部建物2と一体的に動くものである。上部建物2および稼働治具4は、基礎3とは独立した動きをすることが可能である。上部建物2は免震支承5を介して基礎3に支持されている。
【0024】
硬化型装置1を設置する場合、免震層の梁と基礎部分とを結ぶように設置する。硬化型装置1は、1方向のみに制御効果を発揮するものであり、硬化型装置1の対応方向と直交する方向の振動を受けた場合、リニアガイド6によって力を受け流す機構となっている。硬化型装置1は、水平方向に延在する複数のバネと、水平方向に延在するリニアガイド6とを備える装置である。複数のバネは、いずれも第1方向に伸縮するコイルバネである。リニアガイド6は、基礎3に設置され、水平方向のうち第1方向と直交する第2方向に延在する直交方向対応リニアガイドである。硬化型装置1では、硬化型装置1のバネが効力を発揮する方向と直交する方向にリニアガイド6が延在している。図1では、図面の左右方向が第1方向であり、図面の奥行方向が第2方向である。建物の振動方向が第1方向である場合、硬化型装置1のバネは効力を発揮する。硬化型装置1のバネが効力を発揮する方向と直交する方向にかかる力については、リニアガイド6により力を逃がすことができる。
【0025】
この硬化型装置1は、複数のバネを用いることにより、硬化型装置特有の性能である、免震層の変位が大きくなるほど免震層の剛性が高くなる特性を実現するように構成されている。具体的には、硬化型装置1は、免震層の変位の大きさに応じて、効力を発揮するバネの本数を変化させることにより、免震層の剛性を変化させるように構成されている。硬化型装置1は、例えばバネを4本用いるように構成されている。
【0026】
図2は、硬化型装置を説明するための模式図である。図3は、硬化型装置の全体構成を模式的に示す図である。なお、図2には水平方向と直交する断面の断面図が示されており、図3(a)には伏図が示されている。
【0027】
硬化型装置1は、稼働治具4と、4本のバネ11~14と、L字型治具21~24と、ストッパ31~34と、リニアガイド51~54とを備える。
【0028】
稼働治具4は、静止状態において硬化型装置1の中央に配置されている。稼働治具4は上部建物2と一体的に第1方向に沿って往復動することが可能である。この稼働治具4は、第1衝突部分41と、第2衝突部分42とを備える。第1衝突部分41は、稼働治具4が第1方向に変位した際に第1L字型治具21と第2L字型治具22とに当接する。第2衝突部分42は、稼働治具4が第1方向に変位した際に第3L字型治具23と第4L字型治具24とに当接する。
【0029】
4本のバネ11~14は、硬化型装置1の中央に配置され、第1方向に沿って延在している。4本のバネ11~14は、L字型治具に付勢力を作用させた状態で保持されている。4本のバネ11~14は、第1バネ11と、第2バネ12と、第3バネ13と、第4バネ14とを含む。第1バネ11と第2バネ12と第3バネ13と第4バネ14とは、一部が第1方向で重なる位置に配置されている。
【0030】
L字型治具21~24は、バネの両端に取り付けられたバネ側治具である。バネ側治具は、稼働治具4が静止した状態では稼働治具4とは接触しておらず、稼働治具4が当接した状態ではバネの付勢力に抗してストッパから離れる方向へと第1方向に沿って移動可能な治具である。L字型治具21~24は、第1L字型治具21と、第2L字型治具22と、第3L字型治具23と、第4L字型治具24とを含む。第1L型治具21は、第1方向において第1バネ11の両端部に取り付けられた一対の治具である。第2L字型治具22は、第1方向において第2バネ12の両端部に取り付けられた一対の治具である。第3L字型治具23は、第1方向において第3バネ13の両端部に取り付けられた一対の治具である。第4L字型治具24は、第1方向において第4バネ14の両端部に取り付けられた一対の治具である。
【0031】
ストッパ31~34は、第1方向のうちバネが縮む方向へとバネ側治具が移動することを規制する部材である。ストッパ31~34は、第1ストッパ31と、第2ストッパ32と、第3ストッパ33と、第4ストッパ34とを含む。第1ストッパ31は、第1バネ11の付勢力により当該第1バネ11の縮む方向へと第1L字型治具21が移動することを規制する。第1ストッパ31は、一対の第1L字型治具21のうちの一方が移動することを規制する一方のストッパと、一対の第1L字型治具21のうちの他方が移動することを規制する他方のストッパとを含む。第2ストッパ32は、第2バネ12の付勢力により当該第2バネ12の縮む方向へと第2L字型治具22が移動することを規制する。第2ストッパ32は、一対の第2L字型治具22のうちの一方が移動することを規制する一方のストッパと、一対の第2L字型治具22のうちの他方が移動することを規制する他方のストッパとを含む。第3ストッパ33は、第3バネ13の付勢力により当該第3バネ13の縮む方向へと第3L字型治具23が移動することを規制する。第3ストッパ33は、一対の第3L字型治具23のうちの一方が移動することを規制する一方のストッパと、一対の第3L字型治具23のうちの他方が移動することを規制する他方のストッパとを含む。第4ストッパ34は、第4バネ14の付勢力により当該第4バネ14の縮む方向へと第4L字型治具24が移動することを規制する。第4ストッパ34は、一対の第4L字型治具24のうちの一方が移動することを規制する一方のストッパと、一対の第4L字型治具24のうちの他方が移動することを規制する他方のストッパとを含む。
【0032】
リニアガイド51~54は、第1方向に沿って延在するレールを有し、L字型治具が第1方向に沿って移動するようにL字型治具を案内する。リニアガイド51~54は、第1リニアガイド51と、第2リニアガイド52と、第3リニアガイド53と、第4リニアガイド54とを含む。第1リニアガイド51は、第1L字型治具21を第1方向に沿って案内する。第2リニアガイド52は、第2L字型治具22を第1方向に沿って案内する。第3リニアガイド53は、第3L字型治具23を第1方向に沿って案内する。第4リニアガイド54は、第4L字型治具24を第1方向に沿って案内する。そして、硬化型装置1は、中央部にある稼働治具4が上部建物2の変位に応じて動き、L字型治具を引っ張る。
【0033】
第1バネ11は、図2図3(a),図3(c)に示すように、上下方向において第4バネ14の上方に配置され、かつ第2バネ12が配置された水平面と同一平面上で第2バネ12と並列に配置されている。第1バネ11の両端部には第1L字型治具21が取り付けられている。第1L字型治具21は、第1バネ11の端部に取り付けられた状態のまま第1方向に沿って移動可能な部材である。第1ストッパ31は、第1L字型治具21同士が所定位置よりも近づくように移動することを規制する部材である。第1リニアガイド51は、第1L字型治具21を第1方向にスライドさせるガイド部材である。第1L字型治具21は、第1リニアガイド51に取り付けられており、第1リニアガイド51に沿って第1方向にスライド可能である。その第1L字型治具21は、第1バネ11の縮む方向に所定位置以上移動することを第1ストッパ31により規制される。第1リニアガイド51は、稼働治具4が第1L字型治具21を第1ストッパ31から離すように移動させることを可能にするところまで第1L字型治具21をスライドさせることが可能なストロークを有する。
【0034】
第2バネ12は、図2図3(a),図3(b)に示すように、上下方向において第3バネ13の上方に配置され、かつ第1バネ11が配置された水平面と同一平面上で第1バネ11と並列に配置されている。第2バネ12の両端部には第2L字型治具22が取り付けられている。第2L字型治具22は、第2バネ12の端部に取り付けられた状態のまま第1方向に沿って移動可能な部材である。第2ストッパ32は、第2L字型治具22同士が所定位置よりも近づくように移動することを規制する部材である。第2リニアガイド52は、第2L字型治具22を第1方向にスライドさせるガイド部材である。第2L字型治具22は、第2リニアガイド52に取り付けられており、第2リニアガイド52に沿って第1方向にスライド可能である。その第2L字型治具22は、第2バネ12の縮む方向に所定位置以上移動することを第2ストッパ32により規制される。第2リニアガイド52は、稼働治具4が第2L字型治具22を第2ストッパ32から離すように移動させることを可能にするところまで第2L字型治具22をスライドさせることが可能なストロークを有する。
【0035】
第3バネ13は、図2図3(a),図3(b)に示すように、上下方向において第2バネ12の下方に配置され、かつ第4バネ14が配置された水平面と同一平面上で第4バネ14と並列に配置されている。第3バネ13の両端部には第3L字型治具23が取り付けられている。第3L字型治具23は、第3バネ13の端部に取り付けられた状態のまま第1方向に沿って移動可能な部材である。第3ストッパ33は、第3L字型治具23同士が所定位置よりも近づくように移動することを規制する部材である。第3リニアガイド53は、第3L字型治具23を第1方向にスライドさせるガイド部材である。第3L字型治具23は、第3リニアガイド53に取り付けられており、第3リニアガイド53に沿って第1方向にスライド可能である。その第3L字型治具23は、第3バネ13の縮む方向に所定位置以上移動することを第3ストッパ33により規制される。第3リニアガイド53は、稼働治具4が第3L字型治具23を第3ストッパ33から離すように移動させることを可能にするところまで第3L字型治具23をスライドさせることが可能なストロークを有する。
【0036】
第4バネ14は、図2図3(a),図3(c)に示すように、上下方向において第1バネ11の下方に配置され、かつ第3バネ13が配置された水平面と同一平面上で第3バネ13と並列に配置されている。第4バネ14の両端部には第4L字型治具24が取り付けられている。第4L字型治具24は、第4バネ14の端部に取り付けられた状態のまま第1方向に沿って移動可能な部材である。第4ストッパ34は、第4L字型治具24同士が所定位置よりも近づくように移動することを規制する部材である。第4リニアガイド54は、第4L字型治具24を第1方向にスライドさせるガイド部材である。第4L字型治具24は、第4リニアガイド54に取り付けられており、第4リニアガイド54に沿って第1方向にスライド可能である。その第4L字型治具24は、第4バネ14の縮む方向に所定位置以上移動することを第4ストッパ34により規制される。第4リニアガイド54は、稼働治具4が第4L字型治具24を第4ストッパ34から離すように移動させることを可能にするところまで第4L字型治具24をスライドさせることが可能なストロークを有する。
【0037】
第1方向の配置において、第1ストッパ31と第3ストッパ33とは同じ位置に配置されている。第2ストッパ32は、第3ストッパ33よりも第1方向外側に配置されている。第4ストッパ34は、第1ストッパ31よりも第1方向外側に配置されている。第1方向の配置において、第2ストッパ32と第4ストッパ34とは同じ位置に配置されている。
【0038】
図3(b),図3(c)に示すように、第1衝突部分41と第2衝突部分42とは、一体化された部材であり、第1衝突部分41が第2衝突部分42よりも第1方向外側に突出した長い形状に形成されている。第1衝突部分41は、第1L字型治具21に当接する部分であるとともに、第2L字型治具22に当接する部分である。第2衝突部分42は、第3L字型治具23に当接する部分であるとともに、第4L字型治具24に当接する部分である。
【0039】
図3(a)に示すように、上部建物2が静止した状態では、稼働治具4がL字型治具21~24から離れた状態で静止している。稼働治具4が静止した静止状態における稼働治具4と各L字型治具21~24との間のギャップ(第1方向の隙間)について説明する。まず、稼働治具4の第1衝突部分41と第1L字型治具21との間のギャップが一番狭い。稼働治具4の第1衝突部分41と第2L字型治具22との間のギャップは二番目に狭い。稼働治具4の第2衝突部分42と第3L字型治具23との間のギャップは三番目に狭い。稼働治具4の第2衝突部分42と第4L字型治具24との間のギャップは一番広い。そのため、硬化型装置1では、上部建物2の変位に応じて稼働治具4が第1方向の一方側へ移動する場合、稼働治具4は、最初に第1L字型治具21に当接し、その後、第2L字型治具22,第3L字型治具23,第4L字型治具24の順に当接する部材が増えていく。つまり、硬化型装置1では、最初は第1バネ11が復元力を発揮し、その後、免震層の変位が大きくなると、第1バネ11のみならず、第2バネ12も同時に復元力を発揮する。最終的には第1バネ11,第2バネ12,第3バネ13,第4バネ14が同時に復元力を発揮する。これにより、免震層の変位に応じて免震層の剛性を上昇させ、免震層の過大変位を抑制することができる。
【0040】
このように硬化型装置1は、地震によって上部建物2が左右に揺れることで、稼働治具4がL字型治具に当接してバネが稼働治具4を引っ張ることにより復元力(付勢力)を生じるように構成されている。また、硬化型装置1は、免震層の変形が大きくなるほど、稼働治具4に当接するL字型治具の個数が増えていく、すなわち稼働治具4を引っ張るバネの本数が増えていく機構となっている。これにより、免震層の変形が大きくなるほど免震層の剛性が高くなり、建物の変形を抑える効力を発揮できる。
【0041】
稼働治具4は、上部建物2の梁に設置されていることから、上部建物2と同じ動きをする。また、稼働治具4がL字型治具と当接していない状態では、第1バネ11と第2バネ12と第3バネ13と第4バネ14とは、基礎部分に設置されていることから、基礎部分(地面)と同じ動きをする。
【0042】
図4(a)に示すように、上部建物2が静止している状態では、稼働治具4は、第1L字型治具21から離れた状態で硬化型装置1の中央に位置する。そして、上部建物2が振動することにより、上部建物2に付随する稼働治具4が第1方向に動く。上部建物2の変位が大きくなることにより、図4(b)に示すように、第1バネ11の端部に設けられた第1L字型治具21と稼働治具4とが当接する。第1L字型治具21は第1リニアガイド51の上に設置されているので、第1方向に往復動するように左右へと稼働することができる。さらに上部建物2の変位が大きくなることにより、図4(c)に示すように、第1L字型治具21が動くことにより、第1バネ11の復元力が発揮される。この場合、第1バネ11の両端部に設けられた一対の第1L字型治具21,21のうち、一方の第1L字型治具21が一方の第1ストッパ31から離れるように移動するものの、他方の第1L字型治具21は他方の第1ストッパ31により移動することが規制されている。そのため、一方の第1L字型治具21を押している稼働治具4は、その反力を第1L字型治具21から受けるので、第1バネ11による復元力を受けている状態となる。なお、稼働治具4とL字型治具21~24との間のギャップは、第1L字型治具21とのギャップが一番狭いため、稼働治具4が第1L字型治具21に接触していない状態とは、どのL字型治具21~24とも稼働治具4が接触していない状態を意味する。
【0043】
また、図5(a)に示すように、第1バネ11と第2バネ12とについて、変位が微小な状態では、第1バネ11と第2バネ12とのいずれによる復元力も発揮されていない。そして、変位が大きくなることにより、図5(b)に示すように、第1バネ11が効力を発揮する。この場合、第1バネ11の一方端に接続された第1L字型治具21が稼働治具4に押されて第1ストッパ31から離れるように移動するものの、第1バネ11の他方端に接続された第1L字型治具21は第1バネ11が縮む方向へ移動することを他方の第1ストッパ31により規制されている。そのため、第1バネ11の復元力が一方の第1L字型治具21を介して稼働治具4に作用する。さらに変位が大きくなることにより、図5(c)に示すように、第1バネ11に加えて第2バネ12も同時に効力を発揮する。この場合、第1バネ11の一方端に接続された第1L字型治具21が第1ストッパ31からさらに離れるように移動するため、第1バネ11による復元力が図5(c)に示す状態よりも増大している。そのうえで、第2バネ12の一方端に接続された第2L字型治具22が稼働治具4に押されて第2ストッパ32から離れるように移動し、第2バネ12の他方端に接続された第2L字型治具22は第2バネ12が縮む方向へ移動することを他方の第2ストッパ32により規制されている。そのため、第1バネ11の復元力に加えて、第2バネ12の復元力が一方の第2L字型治具22を介して稼働治具4に作用する。このように構成された硬化型装置1では、複数のバネが変位に応じて効力を発揮するタイミングが異なることにより、小変位時には低剛性、大変位時のみに、高剛性を発揮することが可能になる。
【0044】
また、硬化型装置1は1方向のみに効力を発揮するものであるため、図6に示すように、硬化型装置1をX方向およびY方向の梁部分に設置することで、2方向への対応が可能である。X方向を第1方向とすると、Y方向は、第1方向と直交する第2方向である。図6に示す例では、硬化型装置1は、X方向に効力を発揮する第1硬化型装置と、Y方向に効力を発揮する第2硬化型装置とを含む。第1硬化型装置は、上部建物2がX方向に変位した際にX方向に伸縮可能であり、X方向における上部建物2の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられた複数の第1方向バネを備える。また、第2硬化型装置は、水平面上におけるX方向と直交するY方向に上部建物2が変位した際にY方向に伸縮可能であり、Y方向における上部建物2の変位に応じて剛性が変化するように組み合わせられた複数の第2方向バネを備える。
【0045】
さらに、発明者らは、硬化型装置1の妥当性を確認するために、実験および解析を実施した。図7(a)および図7(b)に、実験結果と解析結果との比較を示す。なお、解析では理想的な硬化型装置の曲線を示し、復元力は変位の3乗により近似的に表現できるものとする。本検討ではEL Centro波をレベル2相当へと大きくするために振幅を1.49倍した波形を用いて検証を行う。
【0046】
図7(a)には、変位の時刻歴が示されている。図7(b)には、硬化型装置1の荷重変形曲線が示されている。解析では、硬化型装置1がバネを4本備える構成を想定し、硬化型装置1による復元力が、近似的に下式(1)により与えられるものとする。
F=16320x(t)[N]・・・(1)
【0047】
上式(1)において、xは変位を表し、Fは復元力を表す。なお、実現する復元力特性としては、変位の3乗に限定する必要はなく、例えば変位の2乗や4乗になるように、バネの本数や剛性を調節してもよい。また、硬化型装置1が効き始めるときのギャップ量についても、建物周期や当該建物が建つ地域の地盤特性などに応じて適時変更することが可能である。
【0048】
図7(a)および図7(b)に示すように、時刻歴応答解析と実験とを比較すると、実験結果により、理想となる装置の特性を概ね表現できていることが確認された。特に、荷重変形曲線の比較により、硬化型装置1は、免震層の変位が大きくなるにつれて、発揮する復元力および剛性が急激に大きくなる特性を有することが確認された。言い換えれば、免震層の変位が大きくなるにつれて、硬化型装置1を設置した免震装置の剛性が高くなることが確認された。すなわち、入力される地震が大きくなり、免震層の変位が過大となる際には、硬化型装置1が変位に応じて剛性を上昇させることによって免震層の変位が許容範囲を超えることを防ぐ役割を果たすことが確認された。
【0049】
以上説明した通り、硬化型装置1によれば、複数のバネを組み合わせることによって、硬化型免震の復元力と同じ効力を発揮することができる。また、硬化型装置1は免震層の梁部分と基礎部分とを結ぶことから、免震層の浮き上がりに対しても有効であることが期待される。
【0050】
また、硬化型装置1は主にバネにより構成されることから、装置の体格が小さい。そのため、装置の設置時に大幅な省スペース化を図ることができる。硬化型装置1では1本のバネで左右両方の変位に対応することができる。通常は、ギャップを持つバネ1本ずつを左右両端に設置する方法が考えられる。引張バネを両端から1本ずつ、合計2本のバネを張ることにより、押し引き両方への対応を可能とする構造が多い。しかし、バネを両端に設置することにより、装置が非常に長くなる欠点が挙げられる。これに対して、硬化型装置1では、中央に1本のバネを配置し、そのバネを左右のストッパで保持し、稼働治具4が左に動いたときは左側のストッパ側のL字型治具を押すことで反力を確保し、反対に稼働治具4が右に動いたときは右側のストッパ側のL字型治具を押すことで反力が確保することができる。これにより、バネの本数を減らし、さらに硬化型装置1を小型化することが可能になる。
【0051】
なお、硬化型装置1は、少なくとも2本のバネを備えていればよく、複数のバネを構成するバネの本数は特に限定されない。上述した例では、バネを4本使用した構成について説明したが、所望の特性に合わせてバネの本数を増減させることが可能である。
【0052】
また、図4(a),図5(a)に示すように、上部建物2が振動してから、稼働治具4が第1バネ11の端部の第1L字型治具21へ触れるまでにギャップがあることから、このギャップの大きさを変更することにより、様々な特性の硬化型装置1を実現することができる。例えば、第1バネ11を対象とするギャップを小さくすることにより、上部建物2が揺れてすぐに復元力が発揮されるように構成することが可能である。あるいは、第1バネ11を対象とするギャップを大きくすることにより、上部建物2の変位が大きくなった時のみに復元力が発揮されるように構成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明に係る免震構造用の硬化型装置は、免震装置を備える建物に有用であり、特に、設置スペースが限られている箇所に設置するのに適している。
【0054】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る免震構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0055】
1 硬化型装置
2 上部建物
3 基礎
4 稼働治具
5 免震支承
6 リニアガイド
11 第1バネ
12 第2バネ
13 第3バネ
14 第4バネ
21 第1L字型治具
22 第2L字型治具
23 第3L字型治具
24 第4L字型治具
31 第1ストッパ
32 第2ストッパ
33 第3ストッパ
34 第4ストッパ
41 第1衝突部分
42 第2衝突部分
51 第1リニアガイド
52 第2リニアガイド
53 第3リニアガイド
54 第4リニアガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7