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特開2024-152058トンネル交点部の掘削及び支保工構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152058
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】トンネル交点部の掘削及び支保工構築方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20241018BHJP
   E21D 11/20 20060101ALI20241018BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E21D9/00 A
E21D9/00 Z
E21D11/20
E21D11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065983
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森脇 丈滋
(72)【発明者】
【氏名】武市 直人
(72)【発明者】
【氏名】神田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】寺島 巧
(72)【発明者】
【氏名】勝部 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】安 素賢
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 幸樹
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155BB02
2D155CA01
2D155DB00
2D155FA10
2D155FB01
2D155KB05
(57)【要約】
【課題】本抗と作業坑とのトンネル交点部で必要以上に拡幅することなく効率的にトンネル工事を進められる掘削及び支保工構築方法を提供する。
【解決手段】
掘削及び支保工構築方法は、作業坑の掘削を本坑内まで進捗後、作業坑の本坑接続部を一定幅で交点部支保工を埋め込むだけの深さを有し、上辺の底面が本坑の支保工設置位置となるように溝を形成する段階と、溝内に交点部支保工を設置する段階と、交点部支保工をコンクリートにより地山内に埋め込む段階と、作業坑断面のまま本坑内に掘削し掘削支保後、本坑接続部区間を再度本坑の通常断面と同じ断面で掘削及び支保する段階とを有し、本坑接続部区間を再度掘削及び支保する段階は、交点部支保工部分で、本坑の支保工の作業坑側の端部を個別、又は連結部材で連結後に交点部支保工の上面梁部に固定する段階と、上面梁部又は連結部材をロックボルトで地山に固定する段階と、交点部支保工の柱部を撤去する段階とを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行する作業坑の掘削に基づき本坑の掘削を行う工法における、本抗と作業坑の交わるトンネル交点部での掘削及び支保工構築方法であって、
作業坑の掘削が本坑の掘削エリア内に入り込むまで進捗した後で、作業坑の本坑接続部を内面から地山に向かって一定幅で作業坑断面を包括する形状の交点部支保工を埋め込むだけの深さを有する所定形状の溝であって、埋め込む交点支保工の上面が本坑断面の支保工設置位置となるように溝を形成する段階と、
前記所定形状の溝内に、交点部支保工を設置する段階と、
前記交点部支保工をコンクリートにより地山内に埋め込み、地中梁支保工を構築する段階と、
作業坑断面のまま本坑内に掘削し掘削支保した後、本坑接続部区間を再度本坑の通常断面と同じ断面で掘削及び支保する段階と、を有し、
前記本坑接続部区間を再度本坑の通常断面と同じ断面で掘削及び支保する段階は、
本坑が前記交点部支保工部分で、本坑の支保工の作業坑側の端部を前記交点部支保工の上面梁部に接続固定する段階と、必要と判断される場合、本坑の複数の支保工の作業坑側の端部同士又は端部近傍同士を連結部材で連結する段階と、
前記上面梁部又は前記連結部材をロックボルトで地山に固定する段階と、
前記交点部支保工の柱部を除去する段階とを含むことを特徴とするトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法。
【請求項2】
前記交点部支保工はラチス構造であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法。
【請求項3】
前記交点部支保工は門型支保工であり、前記所定形状は門型支保工に合わせた矩形断面形状であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法。
【請求項4】
前記交点部支保工をコンクリートにより地山内に埋め込み、地中梁支保工を構築する段階は、前記交点部支保工に吹付けコンクリートを施工することにより地中梁支保工を構築することを特徴とする請求項1に記載のトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法。
【請求項5】
前記連結部材をロックボルトで地山に固定する段階の後に前記交点部支保工の前記上面梁部を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法。
【請求項6】
前記作業坑が前記本坑に対し水平方向において斜めに掘削される場合、作業坑の支保工は本坑との交点部では本坑の延長方向にそろえて設置され、交点部から一定距離離れた部分では作業坑の延長方向に直交する方向に設置され、交点部から一定距離の間は本坑の延長方向と作業坑の延長方向に直交する方向との間の方向で徐々に変化するように設置されることを特徴とする請求項1に記載のトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル交点部の掘削及び支保工構築方法に関し、特に本抗と作業坑の交わるトンネル交点部で作業坑断面を包括する形状の交点部支保工を埋め込むように形成した溝に、交点部支保工を設置してからコンクリートにより地山内に埋め込み、地中梁支保工を構築することで交点部を必要以上に拡幅することなく効率的にトンネル工事を進めることが可能なトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道トンネルの新設工事のように工事区間の長い掘削工事においては、始点及び終点である両端から行う掘削のみでは、1日の掘削作業量が限られ、完成までに非常に長い年月を要してしまう。そこで工事区間の途中部分に側方から作業坑を掘削し、これを拠点として始点及び終点に向けて掘削を行う方法が行われる。
【0003】
通常トンネル工事では、切羽といわれるトンネル先端の掘削が進んだ部分には直ちに支保工を設置し、掘削面が崩落しないようにして作業の安全を確保している。支保工はトンネルの横断面形状に合わせて略馬蹄形とするのが基本であるが、作業坑を設置した場合、作業坑と本坑の交点となるトンネル交点部では、本坑の横断面は左右非対称となり、通常の形状の支保工は設置できない。そこで従来技術では作業坑と本坑の接続部を拡幅掘削して作業抗側に門型支保工を構築した後、本坑の非対称断面に合うように特別に製作した本坑の支保工を構築している。
【0004】
特許文献1は、作業抗とトンネル本坑の交点部に、予めトンネル本坑のアーチ形状部分を超える高さを有する、作業坑拡幅部の鋼製支保部材を作成、施工して交点部の安全を確保したうえで交点部の掘削を進める作業坑交差部の施工方法を開示しているが、最終的には拡幅作業坑の掘削方向の手前側に、門型受架台を設置し、本坑用交差部鋼製支保部材の一端部を支持させる構造としている。
【0005】
特許文献2は、本坑と交差する方向から当該本坑に接続する横坑とのトンネル接合の境界部に、アーチ状の受け支保工を設け、トンネル接合部の本坑の鋼製支保工の横坑側の端部を、アーチ状の受け支保工に固定するトンネル接合構造を開示している。
【0006】
特許文献1の門型受架台にしても、特許文献2のアーチ状の受け支保工にしても、拡幅した空間内に後から設けるものとなっている。トンネル交点部の本坑の支保工は横断面形状が左右非対称となり、作業坑側の端部は略馬蹄形の途中で止まるように形成されるため、周囲の地山からの圧力を受けると、作業坑側の端部は外側に広がるような力を受ける。そのためこの端部を固定する門型受架台などの受台には、作業坑側に倒れこむようなモーメントが加わる。従来技術では、このモーメントを受け止めるのに、受台は断面積の大きい型鋼を使用するなどの剛性の高い構造であることが求められ、また受台の基礎部も大きく作らなければならないという課題があった。
【0007】
さらに、このような受台は本坑の本来の馬蹄形の断面形状の外側に設けられるため、作業坑側の支保工の形状は、本来の馬蹄形の断面形状から外れてアーチ形状の曲率が小さく扁平に近い形状になる。この結果トンネル交点部における本坑の横断面の左右対称性が低下し、地山の安定性も低下しやすいという課題もある。
そこで、必要以上に本坑断面を拡幅することなく、また本来の馬蹄形の断面形状に近い形での支保工の設置が可能なトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-159061号公報
【特許文献2】特開2017-008568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来のトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法における問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、本抗と作業坑の交わるトンネル交点部で作業坑断面を包括する形状の交点部支保工を埋め込むように形成した溝に、交点部支保工を設置してからコンクリートにより地山内に埋め込み、地中梁支保工を構築することで交点部を必要以上に拡幅することなく効率的にトンネル工事を進めることが可能なトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法は、先行する作業坑の掘削に基づき本坑の掘削を行う工法における、本抗と作業坑の交わるトンネル交点部での掘削及び支保工構築方法であって、作業坑の掘削が本坑の掘削エリア内に入り込むまで進捗した後で、作業坑の本坑接続部を内面から地山に向かって一定幅で作業坑断面を包括する形状の交点部支保工を埋め込むだけの深さを有する所定形状の溝であって、埋め込む交点支保工の上面が本坑断面の支保工設置位置となるように溝を形成する段階と、前記所定形状の溝内に、交点部支保工を設置する段階と、前記交点部支保工をコンクリートにより地山内に埋め込み、地中梁支保工を構築する段階と、作業坑断面のまま本坑内に掘削し掘削支保した後、本坑接続部区間を再度本坑の通常断面と同じ断面で掘削及び支保する段階と、を有し、前記本坑接続部区間を再度本坑の通常断面と同じ断面で掘削及び支保する段階は、本坑が前記交点部支保工部分で、本坑の支保工の作業坑側の端部を前記交点部支保工の上面梁部に接続固定する段階と、必要と判断される場合、本坑の複数の支保工の作業坑側の端部同士又は端部近傍同士を連結部材で連結する段階と、前記上面梁部又は前記連結部材をロックボルトで地山に固定する段階と、前記交点部支保工の柱部を除去する段階とを含むことを特徴とする。
【0011】
前記交点部支保工はラチス構造であることが好ましい。
前記交点部支保工は門型支保工であり、前記所定形状は門型支保工に合わせた矩形断面形状であることが好ましい。
前記交点部支保工をコンクリートにより地山内に埋め込み、地中梁支保工を構築する段階は、前記交点部支保工に吹付けコンクリートを施工することにより地中梁支保工を構築することが好ましい。
【0012】
前記連結部材をロックボルトで地山に固定する段階の後に前記交点部支保工の前記上面梁部を除去することが好ましい。
前記作業坑が前記本坑に対し水平方向において斜めに掘削される場合、作業坑の支保工は本坑との交点部では本坑の延長方向にそろえて設置され、交点部から一定距離離れた部分では作業坑の延長方向に直交する方向に設置され、交点部から一定距離の間は本坑の延長方向と作業坑の延長方向に直交する方向との間の方向で徐々に変化するように設置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法によれば、トンネル交点部で作業坑断面を包括する形状の交点部支保工を埋め込むように形成した溝に、交点部支保工を設置してからコンクリートにより地山内に埋め込み、地中梁支保工を構築するため、トンネル交点部を必要以上に拡幅することがない。これにより地山の安定性が低下するのを抑え、工事費用や工事期間を短縮することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法によれば、交点部支保工を地山内に構築するため、地山反力が活用でき、地山と一体化できることで部材を小規模にすることができ、構造安定性も高めることができる。このように地山を活用することにより、交点部支保工が弱軸方向に倒壊したり集中荷重で座屈したりするリスクを大幅に低減することが可能となる。
【0015】
さらに本発明に係るトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法によれば、本坑断面も接続部において同一断面で施工できるため、作業坑側の掘削形状が外側に広がって扁平になることなく、安定した形状で掘削及び支保が可能となる。これにより施工費が低減できるとともに、地山の安定性確保と支保工の健全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を用いたトンネル工事の進め方を概略的に示す図である。
図2】本発明の実施形態によるトンネル交点部の支保のための溝の形成状態を示す図である。
図3】本発明の実施形態によるトンネル交点部の交点部支保工を設置する状態を示す図である。
図4】本発明の実施形態によるトンネル交点部の交点部支保工をコンクリートで埋め込んだ状態を示す図である。
図5】本発明の実施形態によるトンネル交点部の本坑の支保の状態を概略的に示す図である。
図6】本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係るトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を用いたトンネル工事の進め方を概略的に示す図である。図1(a)は、作業坑が本坑の掘削予定エリア内まで進行した状態、図1(b)は、本坑を一方向に一定の距離だけ掘削及び支保工を設置した状態、図1(c)は、図1(b)と逆方向にトンネル交点部を含め本坑を掘削及び支保工を設置した状態を示す。
【0018】
図1(a)を参照すると、本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を用いたトンネル工事では、トンネルの本坑10の掘削予定エリアに向けて側方から掘削が進められて作業坑(水平抗又は斜坑)20が形成される。掘削の進捗に伴い、作業坑20には順次作業坑支保工21が設置されていく。作業坑20が本坑10に対して斜めに交差する場合、本坑10から一定距離以上離れた場所での工事では、作業坑支保工21は作業坑20の延長方向22に対し直交するように設置されるが、本坑10との交点部では本坑10の延長方向13に沿う方向に設置され、交点部から一定距離の間は本坑10の延長方向13と作業坑20の延長方向22に直交する方向との間の方向で徐々に変化するように設置される。
【0019】
ここで作業坑20は、本坑10の工事終了後には埋め戻されて封鎖されたり、そのまま残してトンネルのメンテナンス用の作業通路に利用したりするものである。また本明細書で使用する作業坑20は、本坑10に側方から交差するトンネルの総称であり、本坑10に直交するもの、本坑10に90°以外の角度で交差するものも含む呼称である。
【0020】
作業坑20が本坑10と交差するトンネル交点部30は3方向に空間が広がることになり、通常の断面より広く複雑な断面形状となる。このため従来技術ではトンネル交点部30を大きく掘削して、その空間内に独立して立設する強固な門型支保工などの本坑支保工を支持する受け部材を形成し、受け部材に向けて通常断面より外側に広がるような特殊な形状の本坑支保工を形成していた。
【0021】
本発明の実施形態によるトンネル交点部30の掘削及び支保工構築方法は、図2図4を参照して詳細に後述するように、トンネル交点部30において、作業坑20の本坑接続部を内面から地山に向かって、一定幅で作業坑断面を包括する形状の交点部支保工31を埋め込むだけの深さを有する所定形状の溝を形成し、溝の中に交点部支保工31を設置後、コンクリートで交点部支保工31を埋め込むことで交点部支保工31を地中梁支保工として形成する方法を採用する。交点部支保工31を埋め込む溝を形成するだけなので、トンネル交点部30を必要以上に拡幅して掘削する必要がない。
【0022】
また、このとき形成する溝は、上辺の溝内の交点部支保工31の上面が本坑断面の支保工設置位置となるように形成するので、交点部支保工31を本坑支保工の受け部材として使用しても、本坑支保工を外側に広がるような特殊な形状とする必要がない。さらに地中梁支保工として形成するため、交点部支保工31は地山反力が活用でき、従来技術のように基盤を含む強固な構造の受け部材を作成する必要はない。
【0023】
交点部支保工31は、本坑10の掘削期間中、作業者が出入りする通路を保護するとともに、トンネル交点部30の本坑10掘削時は本坑支保工の受け部材となるものである。交点部支保工31は、作業坑20が本坑10の掘削予定エリア内に進入したタイミングで形成するようにする。その後、図1(a)に示すように、作業坑20が本坑10の掘削予定エリア内に進入してから、作業坑断面のまま掘削を進め、作業坑20の延長方向22から本坑10の延長方向13に向くように掘削方向を変更し、さらに本坑10の断面形状となるよう拡幅して本坑10の掘削の準備を整える。
【0024】
次いで図1(b)に示すように、本坑10の延長方向13に沿って一方向に本坑10の掘削予定エリアを掘削し、掘削の終了した区間に本坑支保工11を設置していく。
一方向への一定距離の掘削及び支保工の設置が終了した時点で、図1(a)に示す本坑10の断面形状となるよう拡幅した地点に戻り、図1(b)に示す掘削方向とは逆方向にトンネル交点部30を含む本坑接続部区間36の掘削及び支保工の設置を進める。
ここで、一定距離は少なくとも補強範囲を確保するための距離である。作業坑20が本坑10と交差するトンネル交点部30は、通常の断面に比べて地山の強度が低下しやすい。このためトンネル交点部30を挟む両側の一定範囲の本坑10に、できるだけ早い段階でしっかりと本坑支保工11を設置することが求められる。この一定範囲が補強範囲である。補強範囲は作業坑20と本坑10との交差の形状により求められ、作業坑20と本坑10との交差の角度によっては、トンネル交点部30を挟む両側の一定範囲は非対称となる。
【0025】
本坑接続部区間36には作業坑支保工21や交点部支保工31が設置されている。作業坑支保工21のみの設置区間では、作業坑支保工21を除去しながら掘削を進め、掘削に伴い順次本坑10の断面形状に合わせた本坑支保工11を設置していく。また交点部支保工31の設置区間では、交点部支保工31の上面梁部が露出するように掘削後、本坑支保工11の作業坑20側の端部を交点部支保工31の上面梁部に固定するようにして本坑支保工11を設置し、さらに交点部支保工31の上面梁部を図示しないロックボルトにより地山に固定してから交点部支保工31の柱部を除去する。これはトンネル交点部30においても本坑10の断面形状が維持されるように交点部支保工31を設置すると、交点部支保工31の柱部が本坑10の断面形状の中に位置することになるからである。このように交点部支保工31を設置した区間でも本坑10の断面形状が維持される結果、本坑支保工11の形状は基本的にはその前後の区間と変わらないが、作業坑20側が途中までで途切れ、その端部がロックボルトで固定された交点部支保工31の上面梁部で支持された形となる。
このように上面梁部をロックボルトにより地山に固定した後は、交点部支保工31の柱部の除去はいつでも可能となるが、前述のようにトンネル交点部30では早い段階での補強範囲での補強が求められることから、実施形態では、本坑支保工11は維持した状態で本坑10の掘削と本坑支保工11の設置を進め、補強範囲での補強が完了してから交点部支保工31の柱部を除去するようにする。
【0026】
他の実施形態では、交点部支保工31を設置した区間に設置する複数の本坑支保工11の作業坑20側の端部は、交点部支保工31の上面梁部に沿って設置される連結部材又はその近傍に本坑10の延長方向13に沿って設置される連結部材により互いに連結される。連結部材は、鋼製の強度のある構造で、ロックボルトで地山に固定して使用する場合はロックボルトを挿通するための貫通孔を備える。連結部材は交点部支保工31の上面梁部より強度が求められる場合などに使用する。連結部材を地山に固定して使用する場合は、本坑支保工11の作業坑20側の複数の端部又は端部近傍を、連結部材により本坑10の内空側から連結したうえで、ロックボルトにより連結部材を地山に固定し、連結部材で本坑支保工11の端部又は端部近傍を支持する構造とする。このとき、連結部材の貫通孔が隣接する本坑支保工31の間に位置するように連結することで、本坑支保工31には影響のない形でロックボルトを設置することができる。連結部材を地山に固定して使用する場合は、交点部支保工31の上面梁部は柱部とともに除去してもよい。この場合も上記のように、補強範囲での本坑10の掘削及び本坑支保工11の設置後に、上面梁部と柱部を除去することが望ましい。
本坑接続部区間36の掘削及び支保工の設置が終了すると、図1(c)に示すようにそれに続く本坑10の掘削及び支保工の設置を進行する。
【0027】
図2は、本発明の実施形態によるトンネル交点部の支保のための溝の形成状態を示す図である。図2(a)は、トンネル交点部30において本坑10側から作業坑20を見た状態を示した図であり、図2(b)は、溝を含む部分の作業坑20の断面図である。
【0028】
トンネル交点部30に交点部支保工31を作製するために、本坑10の掘削予定エリア内に進入した作業坑20の側面にて、所定の形状となるよう地山60に向けて掘削を行い、溝34を形成する。このときの溝34の形状は交点部支保工31を埋め込むのに必要な幅と深さとする。一例として例えば横断面の最外形が300mm×400mmの交点部支保工31を埋め込む場合、コンクリートの厚さも考慮して溝34の幅と深さはそれぞれ500mmとする。この寸法は一例であり、トンネルの目的や地山60の状況により交点部支保工31の寸法やそれに伴う溝34の寸法は適宜変更されるのは言うまでもない。
【0029】
図2では、溝34の所定の形状として、溝34の底面37がなす形状が矩形となるように示したが、これは交点部支保工31が門型支保工の場合である。交点部支保工31としてアーチ状の支保工を使用する場合は、支保工の形状に合わせて溝34の形状は溝34の底面37がなす形状がアーチ状の形状となるように掘削する。
【0030】
図3は、本発明の実施形態によるトンネル交点部の交点部支保工を設置する状態を示す図である。図3(a)は、トンネル交点部30において本坑10側から作業坑20を見た状態を示した図であり、図3(b)は、溝を含む部分の作業坑20の断面図である。
【0031】
図3を参照すると、形成された溝34の中に交点部支保工31が設置される。図中に示す交点部支保工31は門型支保工であり、柱部33と柱部33の上に設置される上面梁部32とを備える。交点部支保工31は、H型鋼やI型鋼などのような強度の高い型鋼により構成してもよいが、後からコンクリートで埋め込む際に、型鋼の背面となる地山60側に空洞などが発生するおそれがある。そこで一実施形態では、ラチス構造の交点部支保工31を使用する。ラチス構造は、鉄筋を組み合わせたものであり、これによりコンクリートの流動に対する影響度が大幅に低減されて、コンクリートに空洞が発生するのを防止することができる。
交点部支保工31として門型支保工の代わりにアーチ型の支保工を使用する場合もラチス構造とすることが好ましい。
【0032】
図4は、本発明の実施形態によるトンネル交点部の交点部支保工をコンクリートで埋め込んだ状態を示す図である。図4(a)は、トンネル交点部において本坑側から作業坑20を見た状態を示した図であり、図4(b)は、溝を含む部分の作業坑の断面図である。
【0033】
図4を参照すると、溝34内に設置された交点部支保工31はコンクリート40により埋め込まれる。コンクリート40は元の作業坑20の内面と同じ面となるように溝34内を埋め込む。コンクリート40の埋め込みは作業坑20の内面に合わせて型枠を作製してコンクリート40を打設してもよいが、一実施形態では吹付けコンクリート40を吹き付けて交点部支保工31の埋め込みを行う。門型支保工の場合、図4(b)に示すように上面梁部32の下方にはアーチ状に厚いコンクリート40が形成されるため、上面梁部32を支持する斜材を設置しなくても地山60からの圧力を受けるのに十分な強度の支保工が形成される。
【0034】
交点部支保工31として門型支保工の代わりにアーチ型の支保工を使用する場合は、溝34の形状もアーチ状に形成するため、門型支保工のようにアーチ状の厚いコンクリート40にはならないが、アーチ状の上面梁部32自体が地山60からの圧力に強い形状であるため、アーチ状の上面梁部32とコンクリート40の組み合わせにより地山60からの圧力を受けるのに十分な強度の支保工が形成される。
【0035】
図5は、本発明の実施形態によるトンネル交点部の本坑の支保の状態を概略的に示す図である。
交点部支保工31の設置区間では、本坑10の掘削の際、交点部支保工31を残した状態で周囲の掘削を進め、交点部支保工31の上面梁部32の上面が露出するように掘削後、本坑支保工11を設置する。その際、本坑支保工11の作業坑20側の端部12は交点部支保工31の上面梁部32で支持するように設置する。交点部支保工31は上面梁部32が本坑支保工11を設置する位置に来るように設置しているため、本坑支保工11の形状は部分的に短くなるだけであって、外側に広がるような特別な形状にすることはない。ただしこのような条件で交点部支保工31を設置すると、少なくとも交点部支保工31の柱部33は本坑10の断面内に設置されることになるため、最終的には除去する必要がある。
一実施形態では交点部支保工31の上面梁部32に地山60に向けてロックボルト50を打ち込み上面梁部32を地山60に固定した後、交点部支保工31の柱部33を除去する。
【0036】
ラチス構造の交点部支保工31を使用すると、地山60からの圧力に対して十分な強度とは言えない場合や、上面梁部32が大きく、本坑10の断面の中に突出して残ってしまう場合などは上面梁部32上に上面梁部32に沿って、又はその近傍に本坑10の延長方向13に沿って連結部材35を設置し、複数の本坑支保工11の作業坑20側の端部12を、いずれも連結部材35に固定した後、連結部材35をロックボルト50にて地山60に固定する。連結部材35は上面梁部32上とその近傍とにそれぞれ設けてもよく、さらに上面梁部32の近傍の連結部材は間隔をあけて複数設けてもよい。上面梁部32近傍に設ける連結部材35は図5に示すように本坑支保工11に対して本坑10の内空側から設置し複数の本坑支保工11を連結したうえでロックボルト50により地山60に固定する。
ロックボルト50で固定した後は、交点部支保工31の柱部33を除去する。また、必要に応じて上面梁部32を除去することができる。
交点部支保工31の柱部33を除去するのは、本坑支保工11を設置して交点部支保工31の上面梁部32又は連結部材35をロックボルト50で地山60に固定した後になるため、それまでの間本坑支保工11を支持することになる。この間は交点部支保工31の強度を維持することが必要であり地山60と一体化している必要がある。そのため図5において破線で示す交点部支保工31の柱部33と、その左側の最終的に掘削してしまう地山60の部分を示す二点鎖線の間の部分は交点部支保工31の柱部33を除去するまでは一体化したまま残しておく。地山60の強度が十分でない場合は、図2に示す溝34を形成する段階で、この部分を含むように溝34を形成しておきコンクリート40で埋め戻してコンクリート40で地山60と一体化しておいてもよい。
【0037】
図6は、本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を説明するためのフローチャートである。
図6を参照すると、本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法は、段落S600にて作業坑20の本坑接続部に、交点部支保工31が収まる溝34を形成する。溝34は、溝34内に埋め込む交点支保工31の上面が本坑断面の本坑支保工11設置位置となるように、作業坑20の内壁から地山60に向かって掘削機により掘削することにより形成する。溝34は交点部支保工31の形状に合わせて形成するため、交点部支保工31が門型支保工の場合は、その外形に合わせて溝34の底面37がなす形状が矩形となるように掘削し、交点部支保工31がアーチ状の支保工の場合は、その外形に合わせて溝34の底面37がなす形状がアーチ状の形状となるように掘削する。
【0038】
次いで段階S610にて溝34の中に交点部支保工31を設置する。交点部支保工31はコンクリート40の埋め込み性を確保するようにラチス構造で形成することが好ましい。本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法は、交点部支保工31を地山60に埋め込んで地中梁支保工として形成するため、交点部支保工31を設置するにあたって、地面を深く又は大きく掘り下げて頑強な基礎構造を形成する必要がない。
【0039】
溝34の中に交点部支保工31を設置し終わると、段階S620にて交点部支保工31をコンクリート40で埋め込む。コンクリート40の埋め込みは型枠を形成してからコンクリート40を打設する方法で埋め込んでもよいが、実施形態では吹付けコンクリート40を吹き付けて溝34内をコンクリート40で満たすようにして行う。
【0040】
交点部支保工31が完成すると、作業坑20の掘削の先端部では作業坑断面のまま掘削を進め、掘削方向を本坑10の延長方向13に変更してから本坑10の断面形状となるよう拡幅を行い、これに続けて本坑10の通常断面で本坑10の掘削及び支保工の設置を行う(段階S630)。通常断面はトンネルの交点を含まない部分の断面形状のことである。
【0041】
一定距離だけ、即ち少なくとも補強範囲を確保するための距離分だけ本坑10の掘削及び本坑支保工11の設置を行った後、掘削の方向を逆方向に向け、本坑接続部区間36を再度本坑10の通常断面と同じ断面で掘削及び支保工の設置を行う(段階S640)。この後、図示してはいないが本坑接続部区間36に続けて本坑10の通常断面と同じ断面で、本坑の延長方向13に沿って掘削及び支保工の設置を進めていく。
【0042】
図7は、本発明の実施形態によるトンネル交点部の掘削及び支保工構築方法を説明するためのフローチャートである。
図7を参照すると、本発明の実施形態によるトンネル交点部の支保工処理では、段階S700にて交点部支保工31の周辺部分を残して本坑10を掘削し、交点部支保工31の上面梁部32を露出するように掘削を行う。このとき前述のように交点部支保工31を一体で支持する地山部分は交点部支保工31と共に残すようにする。
【0043】
次いで段階S710にて本坑支保工11の端部固定に強度や寸法などの観点から連結部材35を使用する必要があるか否かを判断し、連結部材35を使用する場合は、段階S720にて本坑10の掘削に合わせて順次設置する本坑支保工11の作業坑20側の端部12を上面梁部32に固定する。
【0044】
その後、本坑支保工11の作業坑20側の複数の端部12又はその近傍部分を連結部材35により連結する(段階S730)。連結部材35は交点部支保工31の設置区間における本坑支保工11の作業坑20側の端部12をまとめて支持するものであるので、鋼製で剛性の高いものを使用する。交点部支保工31は作業坑断面を包括するような大きさで設けられるので、比較的長いものとなることから、連結部材35は一体ではなく、長さ方向にいくつかに分割して設けてもよい。
さらに、段階S740にて連結部材35をロックボルト50で地山60に固定する。前述のように連結部材35をいくつかに分割して設置する場合は、個々の連結部材35が互いに強固に連結されているか、個々の連結部材35がいずれもロックボルト50で固定されるようにする。
【0045】
本坑支保工11の作業坑20側の端部12が確実に固定された後、段階S750にて交点部支保工31の柱部33を除去する。また、連結部材35の使用により連結部支保工31の上面梁部32が不要となる場合は、柱部33とともに上面梁部32を除去してもよい。
【0046】
段階S710に戻って、本坑支保工11の端部固定に連結部材35を使用しないと判断した場合は、段階S735にて本坑10の掘削に合わせて順次設置する本坑支保工11の作業坑20側の端部12を上面梁部32に固定していく。
次いで上面梁部32をロックボルト50で地山60に固定する。
最後に段階S750にて交点部支保工31の柱部33を除去する。
なお、段階S740の後又は段階S745の後で、段階S750にて交点部支保工31の柱部33又は柱部33と上面梁部32を一緒に除去する場合、図には示さないが、本坑接続部区間36における本坑10の掘削及び本坑支保工11の設置後、そのまま本坑10の掘削及び本坑支保工11の設置を進め、少なくとも補強範囲の本坑支保工11の設置が終了してから柱部33又は柱部33と上面梁部32を一緒に除去することが望ましい。
【0047】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 本坑
11 本坑支保工
12 本坑支保工の端部
13 本坑の延長方向
20 作業坑
21 作業坑支保工
22 作業坑の延長方向
30 トンネル交点部
31 交点部支保工
32 上面梁部
33 柱部
34 溝
35 連結部材
36 本坑接続部区間
37 溝の底面
40 コンクリート
50 ロックボルト
60 地山

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7