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特開2024-152084可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152084
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/42 20060101AFI20241018BHJP
   B63H 3/00 20060101ALI20241018BHJP
   B63H 25/38 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B63H25/42 G
B63H3/00 Z
B63H25/38 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066021
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000107365
【氏名又は名称】ジャパン・ハムワージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 和志
(72)【発明者】
【氏名】有井 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】細萱 和敬
(57)【要約】
【課題】低速域で船位保持操船を行う際にプロペラ推力を適切な値に調整して定点保持性能の高い船位保持操船を行うことを目的とする。
【解決手段】船位保持コントロール部661は、推進プロペラ101が低速域で前進方向に定速回転し、2枚の高揚力舵102、103の舵角が前進速度成分を生じないホバー舵角であるときの推進プロペラ101の翼角を中立角とし、目標船位に対する現在船位の位置偏差に応じて2枚の高揚力舵102、103に与える調整舵角を算出し、ホバー舵角に対する調整舵角の舵角偏差を算出し、舵角偏差の大きさに比例したプロペラ推力を得るために必要な中立角に対する翼角偏差を有する調整翼角を算出する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推力システムと推力システムを制御する操船システムと自船の船体運動状態を観測する観測システムを備え、
推力システムは、船尾に配置した一基の可変ピッチプロペラの推進プロペラと、推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する一対の舵取機を備え、
観測システムは、自船の船位を測定する位置測定装置を備え、
操船システムは、船位保持運動制御部と船位保持コントロール部を備え、
船位保持コントロール部は、推進プロペラが低速域で前進方向に定速回転し、2枚の高揚力舵の舵角が前進速度成分を生じないホバー舵角であるときの推進プロペラの翼角を中立角とし、
目標船位に対する現在船位の位置偏差に応じて2枚の高揚力舵に与える調整舵角を算出し、ホバー舵角に対する調整舵角の舵角偏差を算出し、舵角偏差の大きさに比例したプロペラ推力を得るために必要な中立角に対する翼角偏差を有する調整翼角を算出し、
船位保持運動制御部は、一対の舵取機のそれぞれを制御し、2枚の高揚力舵の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御する船位保持操舵制御部と、推進プロペラの翼角を可変制御する翼角制御部を有し、
船位保持操舵制御部により2枚の高揚力舵を船位保持コントロール部から入力する調整舵角に制御し、翼角制御部により推進プロペラの翼角を船位保持コントロール部から入力する調整翼角に制御することを特徴とする可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船。
【請求項2】
翼角偏差は、舵角偏差に任意の比例係数を乗じた値とすることを特徴とする請求項1に記載の可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船に関し、定点保持を高精度に操船できる技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に制動力を与える技術として特許文献1に記載する船舶の非常操船方法がある。これは、非常時に非常操舵手段を起動して通常の如何なる操舵モードよりも優先して舵制御手段を制御することにより、2枚の高揚力舵にプロペラ後流を後進推力として最大に作用させる舵角を与え、この後進推力により船舶の前進方向への慣性力に抗する後進力を船舶に与えて緊急停船ないし緊急後進させるものであり、推進プロペラを前進単一方向に作動させた状態において直ちに後進推力を得ることができ、少ない手数で短時間にかつ短い距離で船舶の停船ないし後進を行うことができる。
【0003】
さらに、特許文献2には、船位および船首尾方位保持操船においては、真横移動、斜め前後移動、その場回頭など特殊な運動を実現し、かつ、位置、速度等の高い操船精度が要求されるとして、船舶操縦装置が提案されている。この船舶操縦装置では、操船支援モードにおいて、指令部により指令運動方向と指令回頭角速度と船首尾方向指令速度および船幅方向指令速度を船体運動制御部へ指令して操船し、推力分配部により、船体制御力および回頭船体制御力を、前進一定回転するプロペラ推進器の推力と2枚の高揚力舵の舵角の組み合わせとで発生させる目標推進器推力と、船首スラスターで発生させる目標スラスター推力とに分配する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-52887号
【特許文献2】特開2017-052297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、水深の深い海域において船舶や浮体構造物の運動を定められた位置、方位、航路に対して高い精度で制御するものに、自動船位保持システム(Dynamic Positioning System:DPS)があり、風や波、潮流等の外乱から受ける外力に対抗するための制御力に推進プロペラやサイドスラスターを用いている。
【0006】
また、船舶が岸壁や他船などの周辺障害物の多い港湾内で安全に航行するためには、離岸流や向岸流の潮力、潮汐、風力等の船体に影響する外力の状況を考慮しつつ、常に自船と障害物からの離隔距離を認識しながら、慎重な操船をすることが要求される。
【0007】
しかし、ディーゼル機関の固定ピッチプロペラ(FPP)船では細かくプロペラ回転数を時間的に制御することは一般的でなく、自動船位保持システムにおいて制御の途中で頻繁に最大推力の調整をすることは困難である。
【0008】
また、所望の推力を出力するプロペラ回転数が主機関の危険回転に近い値である場合は、適切なプロペラ推力を出力することができないという問題もある。
【0009】
本発明は上記した課題を解決するものであり、低速域で船位保持操船を行う際にプロペラ推力を適切な値に調整して定点保持性能の高い船位保持操船を行うことができる可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明の可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船は、推力システムと推力システムを制御する操船システムと自船の船体運動状態を観測する観測システムを備え、推力システムは、船尾に配置した一基の可変ピッチプロペラの推進プロペラと、推進プロペラの後方に配置した左右一対の高揚力舵と、各高揚力舵をそれぞれ駆動する一対の舵取機を備え、観測システムは、自船の船位を測定する位置測定装置を備え、操船システムは、船位保持運動制御部と船位保持コントロール部を備え、船位保持コントロール部は、推進プロペラが低速域で前進方向に定速回転し、2枚の高揚力舵の舵角が前進速度成分を生じないホバー舵角であるときの推進プロペラの翼角を中立角とし、目標船位に対する現在船位の位置偏差に応じて2枚の高揚力舵に与える調整舵角を算出し、ホバー舵角に対する調整舵角の舵角偏差を算出し、舵角偏差の大きさに比例したプロペラ推力を得るために必要な中立角に対する翼角偏差を有する調整翼角を算出し、船位保持運動制御部は、一対の舵取機のそれぞれを制御し、2枚の高揚力舵の舵角を組み合わせて船体運動の方向を制御する船位保持操舵制御部と、推進プロペラの翼角を可変制御する翼角制御部を有し、船位保持操舵制御部により2枚の高揚力舵を船位保持コントロール部から入力する調整舵角に制御し、翼角制御部により推進プロペラの翼角を船位保持コントロール部から入力する調整翼角に制御することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船において、翼角偏差は、舵角偏差に任意の比例係数を乗じた値とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、低速域での船位保持操船、つまり推進プロペラを低速域で前進方向に定速回転させ、2枚の高揚力舵を前進速度成分の生じないホバー舵角の付近で操舵する。ホバー舵角において船体が目標船位からずれると、目標船位に向けた船体運動を生じさせるために必要な2枚の高揚力舵の舵角を調整舵角として算出する。この調整舵角は、目標船位に対する現在船位の位置偏差に応じて大きくなる。
【0013】
この調整舵角においてプロペラ推力を大きくするほどに速やかに目標船位に復帰できる。このため、位置偏差が大きくなるほどに、プロペラ推力を大きくするために、推進プロペラの翼角を調整する。すなわち、ホバー舵角に対する調整舵角の舵角偏差を算出し、舵角偏差の大きさに比例したプロペラ推力を得るために必要な推進プロペラの翼角を、中立角に対する翼角偏差を有する調整翼角として算出する。
【0014】
よって、可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船において、プロペラ推力を適切な値に調整して定点保持性能の高い船位保持操船を行うことができるので、水深の深い海域や、岸壁や他船などの周辺障害物の多い港湾内で、離岸流や向岸流の潮力、潮汐、風力等の船体に影響する外力の状況を考慮しつつ、安全に船体の運動を定められた位置、方位に高い精度で制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態における可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船の推力システム、操船システム、観測システムを示す模式図
図2】同実施の形態における推進器、高揚力舵、船首スラスターを示す模式図
図3】同実施の形態における船尾部の構成を示す斜視図
図4】同実施の形態における一軸二舵船の操舵制御装置の操船スタンドを示す模式図
図5】同実施の形態における操船スタンドの構成を示すブロック図
図6】同実施の形態における船位保持操船部の構成を示すブロック図
図7】同実施の形態における高揚力舵の稼働範囲を示す模式図
図8】同実施の形態における高揚力舵の組み合せ舵角と旋回方向を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施例の構成)
本実施の形態における可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船は、図1から図8に示すように、推力システム100と推力システム100を制御する操船システム200と自船の船体運動状態を観測する観測システム300を備えている。
【0017】
推力システム100は、船体110の船尾に配置した1基1軸の推進プロペラ101と、推進プロペラ101の後方に配置した2枚の高揚力舵102、103を配したものである。
【0018】
各高揚力舵102、103は、それぞれ、アウトボード(外舷側)へ105°、インボード(内舷側)へ35°転舵可能に構成されている。そして、1基1軸の推進プロペラ101をプロペラ前進回転のままで、1対2枚の高揚力舵102、103をそれぞれ独立して種々の角度に作動させ、両舷の高揚力舵102、103を舵角の組合せを変えることによって、プロペラ後流を目的とする望ましい方向に分配し、それぞれの方向の推力を自在に変えることができる。
【0019】
従って、それぞれの方向の推力を自在に変えることで、プロペラ後流を制御して船尾回りの推力を360°全方向にわたって制御することで、船の前後進、停止、前進旋回、後進旋回等の操船を行わせ、船の運動を自由に制御することができる。
【0020】
さらに、推力システム100は、高揚力舵102、103を駆動するロータリーベーン舵取機104、105と、ロータリーベーン舵取機104、105を制御する舵制御装置(サーボアンプ)106、107と、船体110の船首側に配置した船首スラスター108および船首スラスター108を制御するスラスター制御装置109を有している。
【0021】
また、ロータリーベーン舵取機104、105のそれぞれには、ポンプユニット151、152と舵角発信器153、154とフィードバックユニット155、156が接続しており、フィードバックユニット155、156が舵制御装置106、107に接続している。
【0022】
観測システム300は、自船の船首尾方向速度、船幅方向速度、回頭角速度を測定する船速測定装置312と、GPSにより自船の船位を測定する位置測定装置313と、自船の船首方位を測定する方位測定装置314を備えている。
【0023】
操船システム200は、操船スタンド250に格納されており、操船スタンド250には、ジャイロコンパス251、船舶レーダ装置310、船速測定装置312、位置測定装置313、方位測定装置314が接続している。
【0024】
船舶レーダ装置310は、他船との衝突が予測されるときに警報信号出力部311から衝突警報信号を操船スタンド250の操船システム200に発信する。
【0025】
操船システム200は、スタンド筺体に以下のものを一体的に備えている。ジャイロコンパス251のジャイロ方位を表示するジャイロ方位表示部252と、GPSコンパスを用いたオートパイロットによる操縦モードで操船するオート操船部253と、ジョイスティックレバー254による操縦モードで操船するジョイスティック操船部255と、手動操舵輪256による操縦モードで操船する手動操船部257と、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258bによる操縦モードで操船するノンフォローアップ操船部259と、モード切替スイッチ260により各操船部の切替を行うモード切替部261を備えている。
【0026】
さらに、画面にタッチパネルを配したディスプレイ装置262と、ディスプレイ装置262に映す画像を制御する画像制御部263と、緊急停船釦264を操作することにより全ての操縦モードに優先して船舶を緊急に停船させる操縦モードで操船する緊急停船部265と、舵制御装置106、107を介してロータリーベーン舵取機104、105に指示舵角を与える舵角指示部280と、航海用電子海図をディスプレイ装置262に表示する電子海図表示部282と、自船の予定航路を航海用電子海図上に設定するコースライン設定部283と、コースラインに対する自船の位置ずれを解消する針路補正部284を備えている。また、船体の運動を定められた位置、方位に高い精度で制御する船位保持操船部660を備えている。
【0027】
画像制御部263は、航海用電子海図を映す海図表示画像266と、ジャイロ方位を映すジャイロ方位表示画像267と、ジャイロ方位表示部252をモニター画面上でタッチ操作するための方位表示部操作画像268と、オート操船部253をモニター画面上でタッチ操作するためのオート操船操作画像269を選択的に表示し、あるいは同時に表示する。
【0028】
ジョイスティック操作部255は、ジョイスティックレバー254がX-Y方向の何れの方向へも操作可能に構成されており、ジョイスティックレバー254の傾倒方向で船体の指令運動方向を制御し、傾倒方向における傾倒角度で船首尾方向指令速度および船体回頭方向指令速度を制御するものである。
【0029】
ジョイスティック操船部255は、両舷の高揚力舵102、103の舵角をそれぞれジョイスティックレバー254の傾倒方向に応じて設定した舵角に制御し、かつ両舷の高揚力舵102、103の舵角を組合せることで、プロペラ後流の推力を目的方向に向けて転向し、双方のロータリーベーン舵取機104、105により両舷の高揚力舵102、103のそれぞれの舵角を外舷側へ105°、内舷側へ35°の範囲で制御する。
【0030】
高揚力舵102、103の基本的な舵角の組合せ、およびジョイスティックレバー254の状態と、その呼称及びプロペラ後流線と運動方向を、図8において説明する。
【0031】
図8中で、舵は水平断面で示してあり、その横あるいは下方に各々の舵の舵角を示している。舵角は船尾を右に取るのが正(+)、左に取るのが負(-)として表示し、これらの舵角の組み合わせに対する呼称を掲げている。プロペラ後流は、細い矢印線で、又、それによる船の推進方向を太い中抜き矢印線で画いている。
【0032】
ちなみに、「前進左旋回」は左舷舵-35°、右舷舵-35°であり、「前進左回頭」は左舷舵-70°、右舷舵-35°であり、「後進左寄せ」は左舷舵-105°、右舷舵+45°から+75°であり、「後進左旋回」は左舷舵-105°、右舷舵+75°から+105°であり、「前進」は左舷舵0°、右舷舵0°であり、「ホバー」(船体のその場停止)は左舷舵-75°、右舷舵+75°であり、「後進」は左舷舵-105°、右舷舵+105°であり、「前進右旋回」は左舷舵+35°、右舷舵+35°であり、「前進右回頭」は左舷舵+35°、右舷舵+70°であり、「後進右寄せ」は左舷舵-45°から-75°、右舷舵+105°であり、「後進右旋回」は左舷舵-75°から-105°、右舷舵+105°である。
【0033】
また、「前進左回頭」時に右舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、左回頭速度をより大きくすると、「その場左回頭」となり、「前進右回頭」時に左舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、右回頭速度を大きくすると、「その場右回頭」とすることができる。
【0034】
同様に、「後進左寄せ」時に左舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、右回頭速度を大きくすると、「その場右回頭」となり、「後進右寄せ」時に右舷方向に向けて船首スラスター108のスラスター推力を加えることで、左回頭速度を大きくすると、「その場左回頭」となる。
【0035】
また、船首クラスター108のスラスター推力を加減することによって、回頭中心を移動させることができる。
【0036】
このように、2枚の高揚力舵102、103、船首スラスター108および可変ピッチプロペラの推進プロペラ101を装備する一軸二舵の船は、高揚力舵102、103の組み合わせ舵角を種々に変えることによって、推進力の方向と大きさを船の全方位に対して自在に可変して出力することができ、船首スラスター108のスラスター推力を組み合わせることで、その場回頭を実現できる。
【0037】
オート操船部253は、GPSコンパス、電子海図システムにより自船の現在位置情報、誘導経路情報、停船保持位置情報に基づいて自船を予め定めた設定針路に誘導制御する。
【0038】
緊急停船部265は、緊急時に緊急停止釦264を押すと、ジョイスティックレバー254でいかなる操船状態を指示していようとも、あるいは他の操縦モードで操船していても、現在の操船に係る舵角をキャンセルして、左舷舵103を取舵方向(上から見て時計回りの方向)に、右舷舵102を面舵方向(上から見て反時計回りの方向)に、それぞれハードオーバー(舵いっぱい)まで転舵させ、船に制動力を与えて停止させる。
【0039】
手動操船部257は、手動操舵輪256の回転操作により二枚の高揚力舵102、103の舵角を制御して操船する。
【0040】
ノンフォローアップ操船部259は、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258bを左右に操作している時間に応じて右舷もしくは左舷に舵を切る。
【0041】
船位保持操船部660は、船位保持コントロール部661と船位保持運動制御部662を備えている。
【0042】
船位保持コントロール部661は、設定舵角範囲内において2枚の高揚力舵102、103のそれぞれの舵角を制御し、設定舵角範囲は、船体がその場停止する左舷舵-75°、右舷舵+75°のホバー舵角を中心舵角としてホバー舵角周りに十数度の舵角範囲である。
【0043】
そして、推進プロペラ101が低速域で前進方向に定速回転し、2枚の高揚力舵102、103の舵角が前進速度成分を生じないホバー舵角であるときの推進プロペラ101の翼角を中立角とし、目標船位に対する現在船位の位置偏差に応じて2枚の高揚力舵に与える調整舵角を算出する。さらに、ホバー舵角に対する調整舵角の舵角偏差を算出し、舵角偏差の大きさに比例したプロペラ推力を得るために必要な中立角に対する翼角偏差を有する調整翼角を算出する。ここで、翼角偏差は、舵角偏差に任意の比例係数を乗じた値とする。また、調整スラスター制御量を算出する。
【0044】
船位保持運動制御部662は、スラスター制御装置109により船首スラスター108のスラスター推力を調整して回頭角速度を制御する船位保持スラスター制御部663と、ロータリーベーン舵取機104、105のそれぞれを制御し、2枚の高揚力舵102、103の舵角を組み合わせて船首尾方向速度と船幅方向速度を制御する船位保持操舵制御部664と、推進プロペラ101の翼角を可変制御する翼角制御部665を有する。
【0045】
そして、船位保持操舵制御部664により2枚の高揚力舵を船位保持コントロール部661から入力する調整舵角に制御し、船位保持コントロール部661から入力する調整スラスター制御量を船位保持スラスター制御部663により制御し、翼角制御部665により推進プロペラ101の翼角を船位保持コントロール部661から入力する調整翼角に制御する。なお、調整スラスター制御量の制御は必要に応じて行う
以下、上記構成における作用を説明する。
【0046】
ジョイスティックによる操縦モード
モード切替スイッチ260を操作してジョイスティックによる操縦モードを選択する。ジョイスティック操船部255は、ジョイスティックレバー254によって船体の指令運動方向、船首尾方向指令推力、船幅方向指令推力を指令する。
【0047】
この操船においては、推進プロペラ101をプロペラ前進回転のままで、それぞれの高揚力舵102、103をそれぞれ独立に種々の角度に作動させてプロペラ後流を制御し、船尾回りの推力を360゜の全方向にわたって制御する。この制御によって船の前後進、停止、前進旋回、後進旋回等を行わせることにより操船における機動性を向上させることができる。
【0048】
すなわち、両舷の舵の舵角の組合せを変えることによって、プロペラ後流を目的とする望ましい方向に向けてその方向に推力を変えることができる。ここに挙げた舵角の組み合わせは一例であり、目的とする推進方向及び推力を得るように、舵角の組み合わせを任意に変えることができる。
【0049】
このように、操船においては推進器推力の反転(プロペラ逆転)が不要であり、主機関は常に前進回転のままであらゆる操船制御が行え、主機関の回転数を加減せずとも、両舵の舵角を加減して、そのときのプロペラ回転数に対応した前進最大速度から後進最大速度まで無段階にきめ細かく船速を制御することができる。
【0050】
緊急停船部による操縦モード
緊急停船釦264を押すことの一挙動で、緊急停船部265を起動し、全ての操縦モードに優先して船舶を緊急に停船させることができる。すなわち、ジョイスティックレバー254の操舵モードにかかわらず、あるいは他の操縦モードにかかわらず、緊急停船部265によってクラッシュアスターンモード(左舷舵は左般105°、右舷舵は右舷105゜に舵を取る「ASTERN」)に切換えて、両舵により非常に大きな制動力と後進力を発生させるので、プロペラ逆転による操船よりもはるかに短い時間、短い距離で船体を停止させることができる。
【0051】
また、クラッシュアスターンモードにおいても、主機関を止めて後進再始動をする必要がないため、操船中にいわゆる無制御状態となることがないので、航行における事態ヘのすばやい対応が可能である。
【0052】
尚、緊急停船部265による操船中に、船の特性、外乱等により旋回を起した場合や、または必要によって船首方位を含めて進行力向を変えたい場合には、そのままジョイスティックレバー254を操作すれば通常のジョイスティック操作と同様に、ジョイスティックレバー254によって自在に操船して避行航行することができる。
【0053】
オートパイロットによる操縦モード
通常航行操船では、モード切替スイッチ260を操作してオートパイロットによる操縦モードを選択する。
【0054】
ディスプレイ装置262のモニター画面上にオート操船操作画像269を表示し、モニター画面上のタッチ操作によりオート操船部253に自船の位置、進みたい方位、到達したい位置ないし船首尾線方位を入力し、設定した針路で船を自動誘導操船する。
【0055】
さらに、電子海図表示部282によりディスプレイ装置262のモニター画面上に海図表示画像266として航海用電子海図を表示し、コースライン設定部283により自船の予定航路を航海用電子海図上に設定する。
【0056】
オート操船部253は、自船の現在位置情報、誘導経路情報、停船保持位置情報に基づいて適宜に舵角を制御する。オートパイロットは、オート操船操作画像269において設定した進みたい方位また船首尾線方位としてジャイロコンパスが示す針路を保持する。
【0057】
しかし、自船の船位をコースライン上に保持するものではないので、航海用電子海図上で船首方位がコースラインと平行をなす状態を保ちつつ、風圧や海潮流などによって船位がコースラインからずれる場合がある。
【0058】
針路補正部284は、航海用電子海図上の自船の船首方位が、オートパイロットによる操船によって航海用電子海図上でコースラインと平行をなす状態で、自船からコースラインまでの最短離隔距離をコースラインに対する自船の船位の位置ずれ量として求める。
【0059】
そして、最短離隔距離が設定許容域を超えると、オートパイロットによる操船を一時停止し、船首方位をコースラインに交わる針路に向けるために設定した針路補正舵角を舵角指示部280に出力する。
【0060】
舵角指示部280が、舵制御装置106、107を介してロータリーベーン舵取機104、105に針路補正舵角を与え、針路補正部284は、船位がコースラインに達したらオートパイロットによる操船に復帰する。
【0061】
手動による操縦モード
モード切替スイッチ260を操作して手動操舵輪256による操縦モードを選択する。この操縦モードでは、手動操舵輪256の回転操作により二枚の高揚力舵102、103の舵角を手動操船部257に指示し、二枚の高揚力舵102、103の舵角を制御して操船する。
【0062】
ノンフォローアップの操縦モード
モード切替スイッチ260を操作してノンフォローアップ操縦レバー258a、258bによる操縦モードを選択する。この操縦モードでは、ノンフォローアップ操船部259により、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258bのそれぞれを左右に操作している時間に応じて、ノンフォローアップ操舵レバー258a、258bのそれぞれに対応する各ロータリーベーン舵取機104、105が右舷もしくは左舷に舵を切る。
【0063】
船位保持操縦モード
ジョイスティックによる操縦モードにおいて、ジョイスティックレバー254が傾倒しない中立位置にあると、船位保持操船部660が起動する。低速域での船位保持操船、つまり推進プロペラ101を低速域で前進方向に定速回転させ、2枚の高揚力舵102、103を前進速度成分の生じないホバー舵角の付近で操舵する。そして、ホバー舵角において船体が目標船位からずれると、目標船位に向けた船体運動を生じさせるために必要な2枚の高揚力舵102、103の舵角を調整舵角として算出する。この調整舵角は、目標船位に対する現在船位の位置偏差に応じて大きくなる。
【0064】
この調整舵角においてプロペラ推力を大きくするほどに速やかに目標船位に復帰できる。このため、位置偏差が大きくなるほどに、プロペラ推力を大きくするために、推進プロペラ101の翼角を調整する。すなわち、ホバー舵角に対する調整舵角の舵角偏差を算出し、舵角偏差の大きさに比例したプロペラ推力を得るために必要な推進プロペラ101の翼角を、中立角に対する翼角偏差を有する調整翼角として算出する。
【0065】
船位保持運動制御部662は、船位保持操舵制御部664により2枚の高揚力舵を船位保持コントロール部661から入力する調整舵角に制御し、必要に応じて船位保持コントロール部661から入力する調整スラスター制御量を船位保持スラスター制御部663により制御し、翼角制御部665により推進プロペラ101の翼角を船位保持コントロール部661から入力する調整翼角に制御し、自船の船位および船首方位を目標船位に保持する。
【0066】
よって、可変ピッチプロペラを装備する一軸二舵船において、プロペラ推力を適切な値に調整して定点保持性能の高い船位保持操船を行うことができるので、水深の深い海域や、岸壁や他船などの周辺障害物の多い港湾内で、離岸流や向岸流の潮力、潮汐、風力等の船体に影響する外力の状況を考慮しつつ、安全に船体の運動を定められた位置、方位に高い精度で制御することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 推力システム
110 船体
101 推進プロペラ
102、103 高揚力舵
104、105 ロータリーベーン舵取機
106、107 舵制御装置
108 船首スラスター
109 スラスター制御装置
151、152 ポンプユニット
153、154 舵角発信器
155、156 フィードバックユニット
200 操船システム
250 操船スタンド
251 ジャイロコンパス
252 ジャイロ方位表示部
253 オート操船部
254 ジョイスティックレバー
255 ジョイスティック操船部
256 手動操舵輪256
257 手動操船部257
258a、258b ノンフォローアップ操舵レバー
259 ノンフォローアップ操船部
260 モード切替スイッチ
261 モード切替部
262 ディスプレイ装置
263 画像制御部
264 緊急停船釦
265 緊急停船部
266 海図表示画像
267 ジャイロ方位表示画像
268 方位表示部操作画像
269 オート操船操作画像
280 舵角指示部
282 電子海図表示部
283 コースライン設定部
284 針路補正部
300 観測システム
310 船舶レーダ装置
311 警報信号出力部
312 船速測定装置
313 位置測定装置
314 方位測定装置
660 船位保持操船部
661 船位保持コントロール部
662 船位保持運動制御部
663 船位保持スラスター制御部
664 船位保持操舵制御部
665 翼角制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8