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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152143
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】脂肪細胞の数を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066163
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】大迫 正文
(72)【発明者】
【氏名】水藤 飛来
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ11
4C053JJ21
4C053JJ40
(57)【要約】
【課題】生体の組織における脂肪細胞の数を制御する。
【解決手段】ベクトルポテンシャル発生装置を用いて生体の組織に電気刺激を付与する工程を含む。この電気刺激は、ベクトルポテンシャル発生装置に印加する交流電流の周波数を制御することにより、脂肪細胞の数を増加又は減少させうる、脂肪細胞の数を制御する方法。
【選択図】図1



【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の組織における脂肪細胞の数を制御する方法であって、
ベクトルポテンシャル発生装置を用いて前記組織に電気刺激を付与する工程を含み、前記電気刺激は、前記ベクトルポテンシャル発生装置に印加する交流電流の周波数を制御することにより、脂肪細胞の数を増加又は減少させうることを特徴とする、脂肪細胞の数を制御する方法。
【請求項2】
前記ベクトルポテンシャル発生装置が、絶縁皮膜を有する芯線と、芯線を巻軸として芯線に対して隙間無く巻回された外線とからなる基礎線材を備え、前記基礎線材をループ状に巻回することにより形成された筒部を更に有し、前記芯線の一端が前記外線の一端と電気的に接続し、前記芯線の他方が外部回路の一端に接続し、前記外線の他方が前記外部回路の他端に接続し、前記外部回路に交流電流を発生させることにより前記筒部の中に置かれた前記組織に電気刺激を付与する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベクトルポテンシャル発生装置が、絶縁皮膜を有する芯線と、芯線を巻軸として芯線に対して隙間無く巻回された外線とからなる複数の基礎線材と、
前記複数の基礎線材に交流電流を導通させる外部回路と、を備え、
前記複数の基礎線材は、直線状又は曲線状の配列方向に沿って配列される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織が、運動制限された組織であり、前記交流電流の周波数を50kHz未満に制御することにより、前記脂肪細胞の数を増加させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記交流電流の周波数が、1~30kHzである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記組織が肥満を伴う脂肪組織であり、前記交流電流の周波数を50kHz以上に制御することにより、前記脂肪細胞の数を減少させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記交流電流の周波数が、100~300kHzである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記筒部内の電場強度が0.17~0.27V/mとなるように、前記外部回路に交流電流を印加する請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記筒部内の電場強度が0.22V/mとなるように、前記外部回路に交流電流を印加する請求項2に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベクトルポテンシャル発生装置を用いて生体組織の脂肪細胞の数を制御する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪を減少させるには、外部からの運動刺激などにより、細胞にエネルギーが必要となった場合に脂肪が使われ、エネルギーに変換されることで脂肪自体が減少することが知られている。また、痩身(ダイエット)のために、通電刺激を利用した療法が臨床現場又は日常生活で行われている。例えば、特許文献1には、身体の一部に装着される生体用電極装着具1が開示され、この装着具が、「筋50の体表面に電気刺激信号であるトレーニング刺激信号を加えて筋50を伸縮させる電気的筋肉刺激EMS(Electrical Muscle Stimulation)」に用いられること、及び、「筋50をトレーニングする目的は、筋50を伸縮させて付近の脂肪を燃焼させるダイエット、筋力アップ、損傷した筋50を再生させる再生医療などのいずれであってもよく、生体用電極装着具1は、これらのいずれの目的で用いられるものであってもよい」(特許文献1の段落0045参照)と記載されている。
【0003】
しかし、これらの療法に関しては、少なくとも身体の一部の体表面に電極を所定の接触圧で密着させることが必要である。より効果的な電気刺激を与えるためには、患者に対して手術を行うか、皮膚を通して患部まで鍼を挿入することなど、患者に対して非常に衝撃的な刺激を与えてしまう。また、これらの衝撃的刺激により、患者の皮膚や筋肉が収縮してしまい、治療効果が落ちる可能性がある。
【0004】
一方、磁場を発生させずにベクトルポテンシャルを発生させることで、直線状の電界を発生させ外部に仕事をしうる非接触空間電界発生装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。そして、この原理を用いて作製された、より治癒時間が短く、生体への負担が少なく、取り付け簡単な電気刺激装置により、骨折、骨粗しょう症及びその他の人体損傷や、腫瘍などを治療しうることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-114093号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2015/099147パンフレット
【特許文献3】特許第7151356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、運動療法で脂肪を減少させるためには、かなりの運動量が必要であり、個人によりその方法も異なるため脂肪減少の効果も様々である。また、通電刺激療法に関しては、装着具により皮膚へのダメージもあり、長時間装着すること自体もかなり苦痛を与えると考えられる。
【0007】
そこで、本開示は、特許文献3に開示されたようなベクトルポテンシャル発生装置による電気刺激が、脂肪細胞にどのような影響を与えるかを明らかにし、この装置を用いて脂肪細胞の数を制御する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、ベクトルポテンシャル発生装置を用いて適切な周波数(20kHz~200kHz)の電流で電気刺激することにより、脂肪細胞の数を制御することができるという知見に基づく。すなわち、本開示は以下の実施形態を含む。
【0009】
[1]生体の組織における脂肪細胞の数を制御する方法であって、ベクトルポテンシャル発生装置を用いて組織に電気刺激を付与する工程を含み、電気刺激は、ベクトルポテンシャル発生装置に印加する交流電流の周波数を制御することにより、脂肪細胞の数を増加又は減少させうることを特徴とする、方法。
[2]ベクトルポテンシャル発生装置が、絶縁皮膜を有する芯線と、芯線を巻軸として芯線に対して隙間無く巻回された外線とからなる基礎線材を備え、基礎線材をループ状に巻回することにより形成された筒部を更に有し、芯線の一端が外線の一端と電気的に接続し、芯線の他方が外部回路の一端に接続し、外線の他方が外部回路の他端に接続し、外部回路に交流電流を発生させることにより筒部の中に置かれた組織に電気刺激を付与する[1]に記載の方法。
[3]ベクトルポテンシャル発生装置が、絶縁皮膜を有する芯線と、芯線を巻軸として芯線に対して隙間無く巻回された外線とからなる複数の基礎線材と、複数の基礎線材に交流電流を導通させる外部回路とを備え、複数の基礎線材は、直線状又は曲線状の配列方向に沿って配列される[1]に記載の方法。
[4]組織が、運動制限された組織であり、交流電流の周波数を50kHz未満に制御することにより、脂肪細胞の数を増加させる[1]又は[2]に記載の方法。
[5]交流電流の周波数が、1~30kHzである[4]に記載の方法。
[6]組織が、肥満を伴う脂肪組織であり、交流電流の周波数を50kHz以上に制御することにより、脂肪細胞の数を減少させる[1]又は[2]に記載の方法。
[7]交流電流の周波数が、100~300kHzである[6]に記載の方法。
[8]筒部内の電場強度が0.17~0.27V/mとなるように、外部回路に交流電流を印加する[2]に記載の方法。
[9]筒部内の電場強度が0.22V/mとなるように、外部回路に交流電流を印加する[2]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベクトルポテンシャル発生装置に印加する交流電流の周波数を制御することにより、脂肪細胞の数を増加又は減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の方法に用いるベクトルポテンシャル発生装置を構成する基礎線材を説明するための模式図である。
図2図2は、図1に示した基礎線材を適用したベクトルポテンシャル発生装置を説明するための模式図である。
図3図3は、実施例において用いた実験用ベクトルポテンシャル発生装置の模式図である。
図4図4は、本開示の変形例に係るベクトルポテンシャル発生装置における基礎線材の配置を示す図である。
図5図5は、本開示の変形例に係るベクトルポテンシャル発生装置の適用例を示す図である。
図6図6は、実施例1で計測したラット関節包後方部の脂肪細胞数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本開示の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
本開示は、ベクトルポテンシャル発生装置(以下「VP装置」という。)を用いて、生体の組織における脂肪細胞の数を制御する方法に関する。以下、各実施形態における構成要素について順に説明する。
【0014】
<VP装置>
本開示の方法に用いるVP装置1は、例えば、図1にその概略を示したように、絶縁皮膜を有する芯線21と、芯線21を巻軸として、芯線に対して隙間無く巻回された外線22とからなる基礎線材10を備え、この基礎線材10をループ状に巻回することにより形成された筒部20を更に有し、芯線21の一端が外線22の一端と電気的に繋がり、芯線21の他方が外部回路8の一端に接続し、外線22の他方が外部回路8の他端に接続されている。
【0015】
基礎線材10は、芯線21と、芯線21に螺旋状に巻回される外線22とにより構成されている。芯線21と外線22は別個の導線であって、それぞれの一方の端部p1、p2が、点Pにおいて接続されている。また、芯線21の端部p1と異なる側の端部p3、外線22の端部p2と異なる側の端部p4は、例えば、外部回路8と接続する第一引出線212、第二引出線222の端部である。外部回路8は、芯線21、外線22に入力される電気的な信号(例えば電流)を送るための回路であって、このような外部回路8は、電流を流す電源機器として機能する。VP装置1は、基礎線材10が巻回されることによって構成される筒部20の内部に電場を形成する。また、芯線21と外線22は別個の導線に限らず、一本の導線からなり、点Pにおいて折り返されていることも可能である。
【0016】
図2は、図1に示した基礎線材10を適用したVP装置1を説明するための模式図である。基礎線材10は、VP装置1の周りをループ状に1ターン以上巻回されており、その内部に生体又はその組織5(図では実験動物)を保持する筒部20が形成されている。このとき、この筒部20においては、隣接している基礎線材10の外周面において、互いに隙間無く整列されていることが好ましい。筒部20内に生体又はその組織を保持し、外部回路8に接続された交流電源9から所定の周波数の電流を基礎線材10に流すことにより、筒部20内に磁場を発生させずに非接触で筒部20の軸方向に沿って電場が発生する。また、この電場内の位置に保持された生体又はその組織5内に、上記電場の強場所から弱場合に向け、電流が流れている。
【0017】
図3は、他の実施形態(後述する実施例)において用いられるVP装置の模式図である。本実施形態では、筒部20を構成する基礎線材10は三層構造の基礎線材10a、10b及び10cからなる。それぞれの基礎線材は、芯線21と外線22とを有し、基礎線材10の一端で接続されている。他方の一端では、例えば、基礎線材10aの外線22と基礎線材10bの芯線21とが接続される。同様に、基礎線材10bと基礎線材10cとが接続され、基礎線材10aの戻り線と、基礎線材10cの外線22に交流電源9から所定の周波数の電流が印加される。
【0018】
ここで、筒部20に生じる電圧(電界強度)は、基礎線材10a、10b及び10cに印加する電流の微分値に基づいて計算することができる。この計算式は、基本的には、特許文献2に詳細に記載されているように、基礎線材の巻密度やコイル径などによって求めることができる。一例として、筒部20に生じる電圧は、特許文献2に記載された下記式(12)に基づいて求めることができる。なお、特許文献2に記載された内容はすべて、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0019】
【数1】
ここで、Vはベクトルポテンシャルによる電界Eが累積された電圧、μは、真空の透磁率、nは芯線の単位長あたりの外線の巻き数、Nは、単位長あたりの基礎線材の巻き数であり、Sは基礎線材の断面積である、aは筒部の内側半径であり、Lは、基礎線材10a、10b及び10cの長さであり、Iは電流の振幅であり、ωは周波数であり、tは時間である。従って、筒部20に生じる電圧は、電気刺激装置の構造、例えば、基礎線材をループ状に巻回したコイルの長さ、コイルの直径、巻き数など、並びに交流電源9から印加される電流の周波数及び振幅値を制御することによって所望の値に制御することができる。
【0020】
さらに、外部回路8は、一つの筒部20だけではなく、複数の組織に取り付けられた複数の筒部20に対して同時に同様な電流、または異なる電流を提供することもできる。また、外部回路8の小型化により、電池駆動するようなモジュールや装置にすることもできるため、携帯性が一層高くなる。
【0021】
また、外部回路8においては、筒部20の芯線21と外線22を流す電流の大きさ、時間、周波数などのパラメータを制御する制御部を備えることが望ましい。さらに、この制御部は同時に複数の筒部20を制御することもでき、他のセンサー、例えば体温センサーや、生体電流センサーなどからフィードしてきたデータを基づいて上記電流、周波数などのパラメータを変更する機能を更に備えることが好ましい。
【0022】
<VP発生装置の変形例>
図4は、本開示の変形例に係るVP装置1における基礎線材10の配置を示す図である。この変形例では、VP装置1は、複数の基礎線材10を備える。変形例における各基礎線材10は、直線状の芯線21を有し、芯線21に沿って延びる複数のソレノイドコイルである。この複数の基礎線材10は、直線状の配列方向に沿って配列されている。つまり、VP装置1の外形は、略平板状になっている。外部回路8は、複数の基礎線材10に電流を導通させる。なお、複数の基礎線材10は、電気的に、直列に接続されていてもよいし、並列に接続されていてもよい。また、複数の外部回路8が複数の基礎線材10に電流をそれぞれ導通させるようにしてもよい。その場合、複数の基礎線材10に導通する交流電流が同期するように、複数の外部回路8が複数の基礎線材10に交流電流をそれぞれ導通させる。さらに、基礎線材10のコイル軸である芯線21は、強磁性体部材で構成されていても良い。強磁性体部材は、ソレノイドコイルの形状を有する基礎線材10のコイル軸に沿って延びる形状を有し、強磁性体材料で形成されている。強磁性体部材は、導電性を有するパーマロイなどの材料で形成されており、外線22の一端と強磁性体部材の一端とが互いに電気的に接続されており、電流の経路となる。そして、外部回路8は、外線22の他端および強磁性体部材からなる芯線21の他端に電圧を印加して基礎線材10に電流を導通させる。
【0023】
このように、基礎線材10を複数設けることで、印加対象に印加されるベクトルポテンシャルの強度が大きくなる。
【0024】
図5は、上記変形例に係るVP装置1の一つの適用例を示す図である。例えば、図5に示すように、皮膚と接触又は非接触で装着されるシートの上に、複数の基礎線材10が配置されている。このVP装置1を生体の任意の組織に装着することより、この組織に対してベクトルポテンシャルが印加される。なお、図5では、ヒトの肘関節部に対して垂直方向に沿って基礎線材10が配置されているが、肘関節の長手方向(上腕の長手方向)に沿って基礎線材10が配置されていてもよい。また、図5では、シートの表面に基礎線材10が配置されているが、袋状のシート内に基礎線材10が内蔵されていてもよい。
【0025】
<脂肪細胞の数の制御方法>
本開示に係る脂肪細胞の数を制御する方法は、上述したVP装置を用いて、生体の組織に電気刺激を付与する工程を含む。ここで、生体とは、生きているもの、例えば、霊長類(例えばヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット及びマウス等を含むがそれらに限定されない哺乳類などの動物、ニワトリ、カモ及びシチメンチョウ等を含むがそれらに限定されない鳥類などの動物、またはウナギ、サーモン及びアジ等を含むがそれらに限定されない魚類などの動物などを指す。好ましい実施態様において、対象はヒトである。1つの実施形態では、この電気刺激は、上記VP装置の筒部内に生体又はその一部の組織を保持し、外部回路に所定の時間、交流電流を発生させることにより付与される。ここで、「保持する」とは、治具等によって生体又はその一部を筒部内に固定することで位置を保つことのほか、例えば、凹状又は凹曲面状の面に生体又はその一部が収まることで筒部内においてその位置を保つことや、平面上に生体又はその一部が載ることで筒部内においてその位置を保つことも、ここでいう「保持する」の範疇である。好ましい実施形態では、筒部内に平面状の載置台等を備えてもよい。また、載置台の材質に関して、電流が流れない絶縁材料が好ましい。また、ゴム、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂材料が更に好ましい。また、耐熱面からみると、セラミック等の材料も可能である。
他の実施形態では、上記変形例に係るシート状のVP装置を、生体又はその一部の組織に貼り付けて電源装置から交流電流を印加して電気刺激を付与することもできる。
【0026】
本開示における電気刺激は、VP装置に印加する交流電流の周波数を制御することで、脂肪細胞の数を増加又は減少させることが可能である。「周波数の制御」とは、VP装置に印加する電流の周波数を、所望の作用効果を得るために特定の範囲に調整することをいい、その詳細については後述する。この電流は、連続する交流電流でも良く、パルス状の交流電流でも良い。また、好ましい実施形態として、調整するパラメータは、周波数と共に電圧パルスを組み合わせてもよい。ここで、「電圧パルスの組み合わせ」とは、(1)周期が異なる波形、(2)異なる形状の波形(例えば、三角波、サイン波、矩形波等)及び(3)異なる周期において、デューティ比が異なる波形のいずれか1種、又は2種以上の任意の組み合わせである。
【0027】
さらに、VP装置の構造及び印加する電流を制御することで、筒部内に発生する電場強度を制御することができる。この電場強度は対象となる組織の部位や症状に応じて適宜調整することができ、限定されないが、好ましくは約0.1~1V/mであり、より好ましくは筒部内の電場強度が0.17~0.27V/mであり、約0.22V/mの電場強度を有することがさらになお好ましい。このとき、筒部内に保持された組織に与える電気刺激の強度は、例えば、電気刺激装置に印加された電界強度と筒部内に保持された組織のインピーダンスから生体に流れる電流値として推定することができる。
【0028】
いくつかの例では、電気刺激を与える所定の時間とは、脂肪細胞の数を制御するために、本実施形態の電気刺激装置を作動させる時間である。例えば、所定時間は、1日あたり少なくとも30分間、60分間又は90分間であり、1日1回又は2~3回、毎日連続して又は非連続的に、好ましくは毎週5日以上、1~3週間以上作動させることが好ましい。この作動時間の例は制限的なものではない。追加の運動療法や薬剤の投与など、他の療法を含むことができる。
【0029】
本開示の1つの実施形態において、「脂肪細胞の数を制御する」とは、脂肪細胞の数を増加又は維持(減少を抑止)することを意味する。典型的には、生体組織の脂肪細胞の数を増加させる方法が提供される。ここで対象となる生体組織は、運動制限された生体又はその一部の組織であることが好ましい。「運動制限」とは、骨、筋肉、関節系の疾患や外傷、中枢神経系の疾患などにより、筋緊張や筋力低下、関節可動域の減少などが起こり、身体の運動機能が制限されることをいう。そして本実施形態の方法は、この運動制限された組織に、特定周波数に制御された交流電流を導通したVP装置を用いて電気刺激を付与することを含む。特定周波数とは、例えば、50kHz未満であり、好ましくは40kHz以下であり、より好ましくは30kHz以下であり、さらに好ましくは20kHz以下である。特定周波数の下限は、特に制限されないが、例えば0.1kHz以上であり、1kHz以上が好ましく、2kHz以上がさらに好ましい。典型的には、1~30kHzの範囲が好ましい。
【0030】
具体的な疾患としては、例えば、「関節拘縮(joint contracture)」が挙げられる。関節拘縮は、しばしば固定や安静臥床により引き起こされる。軟部組織の外傷や、骨折治療におけるギブス固定などの局所的な関節固定のみならず、長期的な治療、介護を必要とする神経疾患、筋疾患においてもその病気の過程で拘縮を生じる場合がある。拘縮の原因となる各組織の変化は、それぞれ独立して存在することはまれであると考えられ、一般に正常な関節の動きが制限された状態を広く拘縮という病態概念としてとらえられている。膝関節では、膝蓋下に豊富な脂肪組織があり、その柔軟性が関節運動に寄与しているとされている。関節の運動制限(不動化)により、膝蓋下脂肪組織が萎縮、消失することが報告されている。従って、本実施形態の方法により脂肪細胞の数を増加させることで、関節拘縮を予防、治療又は改善することができる。
【0031】
関節拘縮の治療対象としては、ヒトの肩関節、肘関節、手関節、親指、股関節及び膝関節の拘縮が挙げられるがこれらに限定されない。また、ヒト以外の生体、例えば犬や猫などのコンパニオンアニマル、及び馬、特に、競走馬を含む獣医分野において、非ヒトにおける類似の目的のためにも用いられ得る。例えば、ケガをした競走馬の療養中に、運動制限された組織を対象として本実施形態の方法を用いることで、ケガからの回復期間を短縮することができる。また、畜肉の生産においては、筋肉組織を対象として本実施形態の方法を用いることで、筋肉内脂肪の割合を増やして高級な牛肉や豚肉を生産することができる。
【0032】
他の実施形態では、「脂肪細胞の数を制御する」とは、脂肪細胞の数を減少又は維持(増加を抑止)することを意味する。典型的には、生体組織の脂肪細胞の数を減少させる方法が提供される。ここで対象となる生体組織は肥満を伴う脂肪組織である。この脂肪組織の存在部位は特に限定されず、皮下脂肪であっても内臓脂肪であってもよい。そして本実施形態の方法は、この肥満を伴う脂肪組織に、特定の周波数に制御された交流電流を導通したVP装置を用いて電気刺激を付与することを含む。特定の周波数とは、例えば、50kHz以上であり、好ましくは80kHz以上であり、より好ましくは100kHz以上であり、さらに好ましくは200kHz以上である。特定周波数の上限は特に制限されないが、例えば、1000kHz以下であり、500kHz以下が好ましく、300kHz以下がさらに好ましい。典型的には、100~300kHzの範囲が好ましい。
【0033】
具体的な疾患又は適用対象としては、例えば、過体重、肥満、代謝障害、高血圧症、脂質関連障害、拒食症及びII型糖尿病などが挙げられる。「肥満」という用語は、特に脂肪組織の重量及び体質量が現在許容されている標準を超える対象を指す。いくつかの実施態様において、BMIが現在許容されている標準を超える対象は、肥満である。対象がヒトである場合は、「正常」として認められる男性及び女性の双方についての現在の標準は、20~24.9kg/mのBMIである。当該実施態様において、肥満の対象は、BMIが30kg/m以上である。いくつかの実施態様において、肥満の対象は、BMIが40kg/m以上である。他の実施態様において、対象は、その年齢及び身長に対する正常な体重の120%を超える体重である場合に肥満である。正常な体重は、身長、体格、骨格及び性別に基づいて、種及び個体間で異なる。「過体重」という用語は、対象における中程度に過剰の脂肪を指す。いくつかの実施態様において、対象がヒトである場合は、過体重の対象は、BMIが25kg/m以上である。
【0034】
さらに他の実施形態では、本開示の方法と共に、運動療法、温熱療法、ハリ、灸又は薬物療法などを組み合わせて肥満の改善を図ることが好ましい。肥満の薬物療法としては、脂肪組織での脂肪分解の亢進などによるエネルギー消費を促進する方法と、脂質、糖質などの消化管からの吸収阻害や摂食抑制などのエネルギー摂取を抑制する方法などがある。また、これらの併用療法では、脂肪細胞の肥大を抑制することはできても、その数を減少させることはできない場合もあるが、本開示の方法では、脂肪細胞の数を減らすことができることから、肥満を改善するための永久効果がある療法ともいえる。
【0035】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例0036】
<実験用装置>
以下の実施例で用いたベクトルポテンシャル発生装置(以下、「VP装置」という。)の模式図を図3に示す。図3に示したように、3つの基礎線材(VP線材)10a、10b、10cが、筒部に巻回されている。また、この3つの基礎線材は225mmの同じ長さを有し、筒部の直径は、130mm、170mm及び210mmの異なるサイズであり、巻き数は97T、巻きつけ線の巻密度は950T/mで、最終的に同心円状に組み立てられている。また、このVP装置を構成する3つの基礎線材は、回路上直列されているため、実際に3層巻きのVP装置に相当する。装置の長さは約30cmであり、VPコイルに10.8Appの正弦波を印可することにより、長手方向において約0.22V/mの電場強度となり、筒部の両端に約67mVの電圧がかかる。また、動作周波数は20kHzである。以下の実施例では、このVP装置の基礎線材の巻き数、層構造及び印加電流の大きさを変更することにより、筒部内を同一の電場強度(約0.22V/m)に保ちながら動作周波数がそれぞれ2kHz又は200kHzと異なる3種類のVP装置を用いた。
【0037】
(実施例1)
本実施例は、関節包を固定した状態にてケージ内で飼育したラット(以下、「運動制限飼育ラット」という。)を用い、上記VP装置を用いて異なる周波数の交流電源による通電刺激を与えたときの関節包後方部の脂肪細胞数を計測した。
【0038】
<実験方法及び材料>
ウィスター系雄性ラット6匹を用い、以下のように無作為に分類した。
・CO群:通常飼育ラット群
・IM群:運動制限飼育ラット群
・2KHz群:運動制限飼育ラットに2KHzのVP照射した群
・20KHz群:運動制限飼育ラットに20KHzのVP照射した群
・200KHz群:運動制限飼育ラットに200KHzのVP照射した群
【0039】
VP照射群については、それぞれの周波数にて、麻酔下で30分/日、5日/週、3週間通電した。このとき、VP装置の両端には約67mVの電圧が発生し、内部に保持したラットのインピーダンスを500Ωと仮定すると0.13mAの電流が流れると推定される。いずれの群も実験期間の3週間終了後、安楽死させた後、脛骨を摘出して組織学的に観察した。
【0040】
<非脱灰樹脂包埋研磨標本の作成と脂肪細胞数の計測>
通電刺激実験終了後、炭酸ガス吸引によりラットを安楽死させ、皮を剥離して、軟組織を除去し、脛骨を摘出した。ダイヤモンドディスク(ジーシー社製、マイジンガー)を取り付けたハンドモーター(ヨシダ社製、ラボフォース)にて脛骨近位部を矢状割断し、速やかに一晩固定液に浸漬した。標本を水洗後、アルコール系列により脱水した。アセトンにより透徹した後、リゴラック樹脂に包埋して、恒温槽(ヤマト科学社製、DY300)にて加温重合した。ブロックをバンドソー(ホーザン社製、K-100)にてトリミングし、さらにモデルトリマー(ヨシダ社製)にてブロックを荒研磨した。3段階の砥石(粗砥、中砥石、仕上げ砥石)により厚さ約150μmまで研磨し、さらに専用フィルムにて丁寧に研磨して表面のキズを除去した。0.1M塩酸にて研磨面表面を酸でエッチングした後、加温した1%トルイジンブルー液にて染色した。撮影装置(オリンパス社製、DP73-SET-B)付き光学顕微鏡(オリンパス社製、BX53-33-FL-2)にて研磨標本を撮影し、目視にて脂肪細胞数を計測した。
【0041】
その結果を以下の表1及び図6に示す。
【表1】
【0042】
これらの結果より、VP装置を用いて非接触で脂肪細胞に変位電流を流すことで脂肪細胞の数を制御し得ることが分かった。すなわち運動制限したラットでは、電気刺激を与えなかった群(IM群)に比べて、2kHzの周波数で電気刺激した2kHz群で有意に脂肪細胞の数が増加した(**p<0.05,図6参照)。一方、周波数が2kHzから20kHz、さらに200kHzと増加するにしたがって、脂肪細胞の数は減少した。200kHz群の脂肪細胞数は、運動制限したラット(IM群)よりもさらに減少した。これらの結果は、VP装置に印加する電流の周波数が高くなると脂肪細胞が減少し、運動ができない状況においても脂肪細胞を減少させることにより、ダイエットや体重コントロールができることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示の脂肪細胞の数を制御する方法は、生体組織における脂肪細胞の数を増やすことでケガや関節拘縮からの回復を促進し、或いは、脂肪細胞の数を減少させることで、過体重や肥満による疾患の予防や治療のために有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 VP装置、5 生体の組織又はその一部、8 外部回路、9 交流電源、
10、10a、10b、10c 基礎線材、20 筒部、21 芯線、22 外線。


図1
図2
図3
図4
図5
図6