IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人宮城大学の特許一覧 ▶ 株式会社てら岡の特許一覧 ▶ 特定非営利活動法人発酵文化推進機構の特許一覧

<>
  • 特開-発酵食品の製造方法 図1
  • 特開-発酵食品の製造方法 図2
  • 特開-発酵食品の製造方法 図3
  • 特開-発酵食品の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152153
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】発酵食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20241018BHJP
   A23L 13/20 20160101ALI20241018BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20241018BHJP
   A23J 1/02 20060101ALI20241018BHJP
   A23J 1/04 20060101ALI20241018BHJP
   A23L 27/24 20160101ALI20241018BHJP
   A23L 27/21 20160101ALI20241018BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L13/20
A23L17/00 C
A23L17/00 D
A23J1/02
A23J1/04
A23L27/24
A23L27/21 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066184
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(71)【出願人】
【識別番号】300036202
【氏名又は名称】株式会社てら岡
(71)【出願人】
【識別番号】513246964
【氏名又は名称】特定非営利活動法人発酵文化推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金内 誠
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 直彦
(72)【発明者】
【氏名】小泉 武夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 陽菜子
(72)【発明者】
【氏名】山隈 敦司
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG06
4B035LG15
4B035LG42
4B035LG50
4B035LG51
4B035LP01
4B035LP22
4B035LP41
4B035LP42
4B042AC10
4B042AD39
4B042AE08
4B042AG01
4B042AG03
4B042AG07
4B042AG11
4B042AG35
4B042AH03
4B042AK04
4B042AK10
4B042AK16
4B042AP02
4B042AP15
4B042AP27
4B047LB05
4B047LB06
4B047LB07
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG09
4B047LG18
4B047LG50
4B047LG54
4B047LG56
4B047LG57
4B047LP01
4B047LP05
4B047LP18
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法を提供する。
【解決手段】発酵食品の製造方法は、脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法であって、前記主原料に有機酸及び水を加え加熱することで、前記主原料からタンパク質を抽出するタンパク質抽出工程と、前記タンパク質抽出工程において抽出されたタンパク質にタンパク質分解酵素又は麹の少なくとも一方を加え、前記タンパク質を分解するタンパク質分解工程と、前記タンパク質分解工程において前記タンパク質が分解された抽出分解物に乳酸菌又は酵母の少なくとも一方を加え、前記抽出分解物を発酵させる発酵工程と、を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法であって、
前記主原料に有機酸及び水を加え加熱することで、前記主原料からタンパク質を抽出するタンパク質抽出工程と、
前記タンパク質抽出工程において抽出されたタンパク質にタンパク質分解酵素又は麹の少なくとも一方を加え、前記タンパク質を分解させるタンパク質分解工程と、
前記タンパク質分解工程において前記タンパク質が分解された抽出分解物に乳酸菌又は酵母の少なくとも一方を加え、前記抽出分解物を発酵させる発酵工程と、
を有する、発酵食品の製造方法。
【請求項2】
前記タンパク質抽出工程における前記加熱は、摂氏100度以上の温度で10分間以上継続する、請求項1に記載の発酵食品の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸の濃度は、前記主原料を100重量重としたときに、0.01重量重以上であって0.10重量重以下である、請求項1に記載の発酵食品の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸は、酢酸である、請求項1又は3に記載の発酵食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発酵食品の製造方法に関し、特に、脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「出汁」は、核酸(例えば、イノシン酸やグアニル酸)とアミノ酸(例えば、グルタミン酸)の相乗作用によりうま味が増すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。そこで、本願発明者らは、ツノナシオキアミを原料とし、麹と水、食塩を加え、酵素分解する酵素分解工程と、耐塩性酵母と耐塩性乳酸菌を接種して発酵させる発酵工程とを有する発酵食品の製造方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-181414号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター,“世界に広がるうま味の魅力 核酸系うま味物質と相乗効果の発見”,[online],[令和5年4月2日検索],インターネット<URL:https://www.umamiinfo.jp/what/attraction/discovery/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、脊椎動物(例えば、魚類、家畜類又は鳥類)の骨は、一部の専門店で長時間沸騰させ、うま味を抽出した出汁として使用する以外は、ほとんどが廃棄されていた。また、これらの骨からタンパク質を抽出した後に、タンパク質分解酵素を用いてアミノ酸を産生させ、うま味を訴求した発酵食品は知られていない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る発酵食品の製造方法は、
脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法であって、
前記主原料に有機酸及び水を加え加熱することで、前記主原料からタンパク質を抽出するタンパク質抽出工程と、
前記タンパク質抽出工程において抽出されたタンパク質にタンパク質分解酵素又は麹の少なくとも一方を加え、前記タンパク質を分解させるタンパク質分解工程と、
前記タンパク質分解工程において前記タンパク質が分解された抽出分解物に乳酸菌又は酵母の少なくとも一方を加え、前記抽出分解物を発酵させる発酵工程と、
を有する。
【0008】
上記(1)の製造方法によれば、主原料に有機酸及び水を加え加熱することで、主原料である脊椎動物の骨からタンパク質、主にコラーゲンを抽出することができる。その後、タンパク質抽出工程において抽出されたタンパク質にタンパク質分解酵素又は麹の少なくとも一方を加えることで、タンパク質抽出工程において抽出されたタンパク質を分解させ、タンパク質分解工程において分解された抽出分解物に乳酸菌又は酵母の少なくとも一方を加えることで、タンパク質分解工程において分解された抽出分解物を発酵させることができる。これにより、脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法を提供することができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の製造方法において、
前記タンパク質抽出工程における前記加熱は、摂氏100度以上の温度で10分間以上継続する。
【0010】
上記(2)の製造方法によれば、有機酸及び水を加えた主原料を摂氏100度以上の温度で10分間以上継続して加熱することで、主原料である脊椎動物の骨からタンパク質を効率よく抽出することができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)の製造方法において、
前記有機酸の濃度は、前記主原料を100重量重としたときに、0.01重量重以上であって0.10重量重以下である。
【0012】
上記(3)の製造方法によれば、有機酸の濃度を、主原料を100重量重としたときに、0.01重量重以上であって0.10重量重とすることで、主原料である脊椎動物の骨からタンパク質を効率よく抽出することができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(3)の製造方法において、
前記有機酸は、酢酸である。
【0014】
上記(4)の製造方法によれば、有機酸を酢酸とすることで、ほかの有機酸(例えば、クエン酸、コハク酸、又は乳酸)よりもアミノ酸及びタンパク質の抽出率が高くなり、アミノ酸及びタンパク質の効率的な抽出が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る発酵食品の製造方法を概略的に示す工程図である。
図2】有機酸の種類及び濃度とアミノ酸及びタンパク質の抽出率との関係を示す図である。
図3】アミノ酸及びタンパク質の抽出率を示す図であって、タンパク質抽出工程及びタンパク質分解工程の両方を経たときの抽出率と、タンパク質分解工程だけを経たときの抽出率を示す図である。
図4】発酵工程において抽出分解物に乳酸菌又は酵母の少なくとも一方を加えた時からの経過日数とホルモール窒素との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。また、例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0018】
[発酵食品の主原料]
実施形態に係る発酵食品の製造方法は、脊椎動物の骨を主原料とする発酵食品の製造方法である。主原料とする脊椎動物は、例えば、魚類、家畜類、鳥類等の可食性の脊椎動物の中から少なくとも一つが選ばれるが、複数であってもよい。魚類は、例えば、スズキ目、ウナギ目、又はフグ目に含まれる魚類であるが、これに限られるものではない。スズキ目には、例えば、タイ、アジ、ブリ、及びスズキが含まれ、ウナギ目には、例えば、アナゴ、ハモ、及びウナギが含まれる。フグ目には、例えば、トラフグ、及びハリセンボンが含まれるが、可食可能なものに限られる。また、これらに含まれないが、サメ類、コイ、イワナ、フナ等の淡水魚の骨を主原料としてもよい。家畜類は、例えば、偶蹄目のほ乳類であるが、これに限られるものではない。偶蹄目には、豚、牛、及び羊が含まれる。鳥類は、カモ目、又はキジ目に含まれる鳥類であるが、これに限られるものではない。カモ目には、カモが含まれ、キジ目には、ニワトリが含まれる。また、これらに含まれないが、スッポン、食用カエル等の両生類の骨を主原料としてもよい。脊椎動物の骨は、肉や身を外しただけのもの、乾燥したもの、風味をもたせたもの、又は粉末にしたものであってもよい。
【0019】
[発酵食品の副原料]
実施形態に係る発酵食品の製造方法では、魚類の骨を主原料とする場合に、その魚類の皮やウロコを副原料としてもよいが、必須ではない。尚、魚類の皮やウロコを副原料とする場合には、摂氏60度以上121度以下、好ましくは摂氏100度の適切な時間での殺菌工程を経ることが必須となる。
【0020】
[発酵食品の製造方法の概略]
図1は、実施形態に係る発酵食品の製造方法を概略的に示す工程図である。図1に示すように、実施形態に係る発酵食品の製造方法は、タンパク質抽出工程(ステップS1)、タンパク質分解工程(ステップS2)、及び発酵工程(ステップS3)を有する。
【0021】
[タンパク質抽出工程]
タンパク質抽出工程(ステップS1)は、主原料11に有機酸12及び水13を加え加熱することで、主原料11からタンパク質を抽出する工程である。例えば、図1では、主原料11として魚類の骨を主原料として示しているが、上述したように、主原料11は魚類の骨に限られるものではない。
【0022】
図2は、有機酸12の種類及び濃度とアミノ酸及びたんぱく質の抽出率との関係を示す図である。図2には、対象実験として主原料11に強酸(塩酸)を加えた抽出(強酸抽出)、及び主原料11に水13を加えた抽出(水抽出)を示す。図2に示すように、主原料11に加える有機酸12は、例えば、酢酸、クエン酸、コハク酸又は乳酸であるが、クエン酸は対象実験である水抽出よりもアミノ酸及びタンパク質の抽出率が低く、クエン酸よりも酢酸、コハク酸又は乳酸のほうが好ましい。有機酸12の濃度は、例えば、主原料11(脊椎動物の骨)100重量重に対して、0.01から1.0重量重(重量パーセント)の範囲で決定されるが、いずれの有機酸12でも、0.04重量パーセントと1.0重量パーセントではアミノ酸及びタンパク質の抽出率に大きな差がなく、食味への影響を考慮すると、0.01から0.04重量パーセントの範囲で決定することが好ましい。図2を参照すると、酢酸では、0.02から0.04重量パーセントの範囲で決定することが好ましい。
【0023】
水13は、例えば、飲料水であるが、食塩水であってもよい。食塩水は、例えば、10から20重量パーセントの食塩水、好ましくは19重量パーセントの食塩水である。
【0024】
加熱は、例えば、摂氏100度以上の温度で10分間以上継続するが、例えば、主原料11に加えた水13が沸騰した状態で30分から3時間程度加熱してもよいし、圧力釜等により、加圧した状態で10分間程度加熱してもよい。
【0025】
[タンパク質分解工程]
タンパク質分解工程(ステップS2)は、タンパク質抽出工程(ステップS1)において主原料11から抽出されたタンパク質にタンパク質分解酵素14又は麹15の少なくとも一方を加え、タンパク質を分解する工程である。タンパク質分解酵素14は、例えば、麹菌から抽出されたプロテアーゼであり、市販のプロテアーゼ、例えば、三菱ケミカル株式会社が市販するコクラーゼ(登録商標)を用いるが、市販のプロテアーゼは、これに限られるものではない。麹15は、例えば、米麹、麦麹、豆麹、又は醤油麹であるが、これに限られるものではない。
【0026】
図3は、アミノ酸及びタンパク質の抽出率を示す図であって、タンパク質抽出工程(ステップS1)及びタンパク質分解工程(ステップS2)の両方を経たときの抽出率(骨抽出工程+酵素分解)と、タンパク質分解工程(ステップS2)だけを経たときの抽出率(酵素分解のみ)を示す図である。図3に示すように、タンパク質抽出工程(ステップS1)及びタンパク質分解工程(ステップS2)の両方を経たときのアミノ酸及びタンパク質の抽出率は96重量パーセントであり、タンパク質分解工程(ステップS2)だけを経たときのアミノ酸及びタンパク質の抽出率は26重量パーセントである。このことから発酵食品としてうま味アミノ酸を抽出するには、タンパク質抽出工程(ステップS1)及びタンパク質分解工程(ステップS2)の両方を経ることが求められる。
【0027】
[発酵工程]
発酵工程(ステップS3)は、タンパク質分解工程(ステップS2)においてタンパク質が分解された抽出分解物に乳酸菌16又は酵母17の少なくとも一方を加え、抽出分解物を発酵させる工程である。抽出分解物に加える乳酸菌16又は酵母17は、どちらか一方でもよいし、乳酸菌16と酵母17を混合して加えてもよい。乳酸菌16は、例えば、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus brevisなどを含むLactobacillus属の乳酸菌、Pediococcus属(Tetragenococcus属)等の食用乳酸菌の中から選抜される。酵母17は、例えば、Saccharomyces属の清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母、ビール酵母、醤油用・味噌用の酵母(Zygosaccharomyces属)の中から選抜される。
【0028】
尚、乳酸菌16又は酵母17は、例えば、グルコース・酵母エキス・ペプトン培地において摂氏30度で3日間培養する。そして、タンパク質分解工程(ステップS2)においてタンパク質が分解された抽出分解物を摂氏30度まで冷却した後、乳酸菌16又は酵母17が全体量の約1パーセントとなるように、抽出分解物に加え、摂氏10度から40度の間で抽出分解物を発酵させる。
【0029】
図4は、発酵工程(ステップS3)において抽出分解物に乳酸菌16又は酵母17の少なくとも一方を加えた時からの経過日数とホルモール窒素(質量パーセント)との関係を示す図である。溶液に溶解した可溶性アミノ酸はホルモール窒素を測定することで想定可能である。図4に示すように、抽出分解物に乳酸菌16又は酵母17の少なくとも一方を加えた時から10日目までにホルモール窒素量が増加している。これにより、抽出分解物に乳酸菌16又は酵母17の少なくとも一方を加えた時から10日目までに、トラフグの中骨から抽出したタンパク質がより低分子のペプチドやアミノ酸に変化したと考えることができる。
【0030】
[その他工程]
図2に示すように、上述した実施形態に係る発酵食品の製造方法によって製造された発酵食品は、更に、圧搾工程(ステップS4)、殺菌火入れ工程(ステップS5)、及びろ過おり引き工程(ステップS6)を経て製品となり、市場に提供される。
【0031】
[圧搾工程]
圧搾工程(ステップS4)は、発酵工程(ステップS3)において発酵された抽出分解物(もろみ)を圧搾することで、もろみから液状部分を採取する工程であり、圧搾糟18と圧搾液19に分離される。圧搾工程(ステップS4)は任意の工程であり、発酵後のもろみを発酵食品として市場に提供してもよい。
【0032】
[殺菌火入れ工程]
殺菌火入れ工程(ステップS5)は、発酵食品を加熱殺菌する工程である。殺菌火入れ工程(ステップS5)では、着色しないように摂氏70度から85度で加熱殺菌することが好ましい。殺菌火入れ工程(ステップS5)は、任意の工程であり、タンパク質抽出工程(ステップS1)、タンパク質分解工程(ステップS2)、及び発酵工程(ステップS3)を含む前工程において雑菌の混入が予防できる場合には、加熱殺菌することなく市場に提供してもよい。
【0033】
[ろ過おり引き工程]
ろ過おり引き工程(ステップS6)は、圧搾工程(ステップS4)において分離された圧搾液19からおり(澱)を沈殿させることでおりを取り除く工程であり、おりが取り除かれた圧搾液19をろ過することで、澄んだ発酵食品(発酵調味料)を得ることができる。尚、ろ過おり引き工程(ステップS6)は、任意の工程であり、圧搾工程(ステップS4)において分離された圧搾液19を製品として市場に提供してもよい。
【0034】
[製品の形態]
上述した発酵食品の製造方法によって製造された発酵食品は、発酵後のもろみを発酵食品(製品)として市場に提供してもよい。また、圧搾後の圧搾液19を非加熱のまま発酵調味料(製品)として市場に提供してもよい。また、圧搾後の圧搾糟18を発酵食品(製品)として市場に提供してもよい。また、圧搾した圧搾液19をおりがからんだまま発酵調味料(製品)として市場に提供してもよい。
【0035】
[効果]
上述した実施形態に係る発酵食品の製造方法によれば、主原料11に有機酸12及び水13を加え加熱することで、主原料11である脊椎動物の骨からタンパク質、主にコラーゲンを抽出することができる。その後、タンパク質抽出工程(ステップS1)において抽出されたタンパク質にタンパク質分解酵素14又は麹15の少なくとも一方を加えることで、タンパク質抽出工程(ステップS1)において抽出されたタンパク質を分解し、タンパク質分解工程(ステップS2)において分解された抽出分解物に乳酸菌16又は酵母17の少なくとも一方を加えることで、タンパク質分解工程(ステップS2)において分解された抽出分解物を発酵させることができる。これにより、脊椎動物の骨を主原料11とする発酵食品の製造方法を提供することができる。
【0036】
また、有機酸12及び水13を加えた主原料11を摂氏100度以上の温度で10分間以上継続して加熱することで、主原料11である脊椎動物の骨からタンパク質を効率よく抽出することができる。
【0037】
また、有機酸12の濃度を、主原料11を100重量重としたときに、0.01重量重以上であって0.10重量重とすることで、主原料11である脊椎動物の骨からタンパク質を効率よく抽出することができる。
【0038】
また、有機酸12を酢酸とすることで、ほかの有機酸12(例えば、クエン酸、コハク酸、又は乳酸)よりもアミノ酸及びタンパク質の抽出率が高くなり、アミノ酸及びタンパク質の効率的な抽出が可能となる。
【実施例0039】
[発酵食品の主原料]
上述したように、実施形態に係る発酵食品の主原料は、脊椎動物の骨であり、トラフグ、アジ、ブタ及びニワトリの骨を候補としてタンパク質の量を測定した。タンパク質の測定は、定法にしたがってケンダール法を用いた。ケンダール法は、高温化で、強酸にて、試料を消化すると炭素は酸化され二酸化炭素となり、アミノ酸由来の窒素は、硫酸アンモニウムを形成する。硫酸アンモニウムは、強アルカリ条件下で蒸留することでアンモニアとして蒸留回収することができ、このアンモニアの量はタンパク質の構成アミノ酸に相関する。試料に含まれるタンパク質の量は、下記の表1に示す通りである。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、候補となる脊椎動物の骨のタンパク質の量は、概ね20重量パーセントであり、タンパク質の量は、部位や種類によっても異なるが、脊椎動物の身や肉のタンパク質の量と同じタンパク質の量である。上記の結果を踏まえ、本実施例では、トラフグの中骨を主原料とする。
【0042】
[タンパク質抽出工程]
本実施例では、有機酸に酢酸を用いる。水は、トラフグの中骨100重量重に対して水100重量重である。酢酸の濃度は、トラフグの中骨100重量重に対して0.02重量重(0.02重量パーセント)である。加熱は、摂氏100度以上の温度で30分間である。溶液(トラフグの中骨に酢酸と水を加えたもの)に溶出したアミノ酸とタンパク質の抽出率は、ケンダール法を用いて測定することができるが、タンパク質抽出工程では、酢酸無添加のものよりも、酢酸を0.02重量重加えたもののほうがタンパク質の抽出が亢進される(図2参照)。
【0043】
[タンパク質分解工程]
本実施例では、タンパク質抽出工程においてタンパク質が抽出された溶液を冷却した後、酸性で働くタンパク質分解酵素、具体的には三菱ケミカル株式会社が市販するコクラーゼ、を加え、摂氏50度で24時間加熱することで、タンパク質を分解させる。溶液に溶出したアミノ酸とタンパク質の抽出率は、ケンダール法を用いて測定することができるが、タンパク質抽出工程及びタンパク質分解工程の両方を経たときのアミノ酸及びタンパク質の抽出率は、タンパク質分解工程だけを経たときのアミノ酸及びタンパク質の抽出量よりも高く(図3参照)、発酵食品としてうま味アミノ酸を抽出するには、タンパク質抽出工程及びタンパク質分解工程の両方を経ることが求められる。
【実施例0044】
実施例2に係る発酵食品の製造方法では、実施例1に係る発酵食品の製造方法と同様に、トラフグの中骨を主原料とする。
【0045】
タンパク質抽出工程では、1000グラムのトラフグの中骨に、中骨の重量に対して0.1重量重相当の酢酸を含む食酢と、10から20重量パーセント、好ましくは19重量パーセントの食塩水を加え、摂氏100度で15分間加熱することで、トラフグの中骨からタンパク質を抽出する。
【0046】
タンパク質分解工程では、タンパク質抽出工程においてタンパク質が抽出された溶液(トラフグの中骨に食酢と食塩水を加えたもの)を摂氏60度以下に冷却した後に、タンパク質分解酵素である、コクラーゼ(登録商標)を1.0グラムと米麹を添加し、摂氏40度から60度に保温する。コクラーゼ(登録商標)と米麹を添加した溶液に含まれる骨は、24時間程度で細かく砕けるので、骨が砕けるまでの間保温することが好ましい。
【0047】
発酵工程では、タンパク質分解工程においてタンパク質が分解された抽出分解物に耐塩性乳酸菌及び酵母を加え、抽出分解物を発酵させる。実施例2の発酵期間は、30日間である。
【0048】
抽出分解物に耐塩性乳酸菌及び酵母を加えてから10日目までにホルモール窒素量が増加するので(図4参照)、抽出分解物に耐塩性乳酸菌及び酵母を加えてから10日目までトラフグの中骨から抽出したタンパク質がより低分子のペプチドやアミノ酸に変化したと考えることができる。
【0049】
[アミノ酸の組成]
実施例2に係る発酵食品(以下「中骨からの調味料」という)、醤油、魚醤(いしる)のアミノ酸の組成をアミノ酸分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、高速アミノ酸分析計 AMINO SAAYA LA8080)によって測定した。結果は、下記の表2に示す通りである。
【0050】
【表2】
【0051】
中骨からの調味料、濃口醤油、魚醤油(いしる)の遊離アミノ酸の総量を比べると、骨からの調味料は10.0質量パーセント、濃口醤油は約6.0質量パーセント、魚醤油は約5.0質量パーセント、中骨からの調味料の遊離アミノ酸が多かった。
【0052】
また、表4に示すように、遊離アミノ酸の構成比において、グルタミン酸(Glu)の構成比は、既存の濃口醤油が18%と高く、中骨からの調味料は14.5%と若干低い。しかしながら、液体内のグルタミン酸含量においては、中骨からの調味料の方が多く、既存の濃口醤油より味が濃い。また、中骨からの調味料は、甘みを示すアミノ酸であるグリシン(Gly)やアラニン(Ala)が構成比として高く、遊離アミノ酸の2割に相当する。このため、分析値から口当たりがよく上品な甘みを有する調味料であると考えられる。
【0053】
[官能評価]
よく訓練されたパネラー10名により、官能評価を行った。その結果、中骨からの調味料は濃口醤油と同等あるいはそれ以上であるとの評価であった。また、他の調味料と異なり、有機酸を添加することでpHが低くなり、酸味が味のアクセントになっているというコメントもあった。さらに、うま味が強い、濃口醤油の旨みとダシのうま味のような両方を兼ね備えたものであるともコメントもあった。
【0054】
[考察]
醤油などのうま味をもつ調味料は塩分を高くすることで微生物の汚染を防いでいる。一方、中骨からの調味料(発酵食品)は、有機酸を加えるために、低pHとなり、かつ加熱を経るために微生物の汚染を防いでいる。そのために、塩分が少なく、希釈を必要とせず、うま味が強い調味料や食品として使用でき、官能評価でも、うま味が強調された発酵食品となった。
【0055】
[総合評価]
上記の結果から明らかなように、中骨からの調味料(発酵食品)は、うま味が強く風味の良いものである。このことは、成分分析値及びアミノ酸量、並びに官能評価によっても、裏づけられた。これまで、骨類を主原料とした発酵食品の開発例は少ない。さらに魚の骨であれば魚くさい、あるいは動物からの骨であれば獣のにおいが強いものになるが、有機酸での加熱を経ることで、独特の臭いはなく、従来の魚醤や豚骨や鶏だしなどとは異なる発酵食品であり、高品質のであるとの評価を受けた。
【0056】
本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態を含む。
【符号の説明】
【0057】
11 主原料
12 有機酸
13 水
14 タンパク質分解酵素
15 麹
16 乳酸菌
17 酵母
18 圧搾糟
19 圧搾液
図1
図2
図3
図4