(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152156
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】二次電池電極スラリの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1393 20100101AFI20241018BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241018BHJP
B01F 27/2322 20220101ALI20241018BHJP
B01F 27/60 20220101ALI20241018BHJP
B01F 23/53 20220101ALI20241018BHJP
B01F 35/90 20220101ALI20241018BHJP
B01F 35/221 20220101ALI20241018BHJP
B01F 35/222 20220101ALI20241018BHJP
B01F 27/19 20220101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/62 Z
B01F27/2322
B01F27/60
B01F23/53
B01F35/90
B01F35/221
B01F35/222
B01F27/19
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066190
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 由季子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】福本 和典
(72)【発明者】
【氏名】山崎 晃史
(72)【発明者】
【氏名】石丸 努
【テーマコード(参考)】
4G035
4G037
4G078
5H050
【Fターム(参考)】
4G035AB46
4G035AE02
4G035AE15
4G037CA03
4G037EA03
4G078AA26
4G078AB01
4G078BA01
4G078BA07
4G078BA09
4G078EA03
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA15
5H050CB08
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050GA10
5H050GA27
5H050GA29
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】二軸連続式混練機を用いて回転数を調整することで、混練される材料の分散状況をコントロールして、スラリ粘度を適切になるようにする。
【解決手段】排出口及び少なくとも1つの供給口を有する筒状のハウジング10と、ハウジング10の内部に平行に配置された二本一対の回転シャフト8と、回転シャフト8に軸方向に取り付けられた複数の撹拌翼を有する二軸連続式混練機1を用いて、活物質として黒鉛、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)水溶液、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)の粉体又は水溶液を前記ハウジングの供給口から投入し、二本一対の回転シャフト8を回転させることでスラリを製造する過程で、排出口から排出される混練後の製品(スラリ)の粘度を適時確認し、回転数を変化させて粘度調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出口及び少なくとも1つの供給口を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に平行に配置された二本一対の回転シャフトと、
前記回転シャフトに軸方向に取り付けられた複数の撹拌翼を有する二軸連続式混練機を用い、
活物質として黒鉛、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)水溶液、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)の粉体又は水溶液を前記ハウジングの供給口から投入し、
前記二本一対の回転シャフトを回転させることでスラリを製造する過程で、前記排出口から排出される混練後の製品(スラリ)の粘度を適時確認し、回転数を変化させて粘度調整する
ことを特徴とする二次電池電極スラリの製造方法。
【請求項2】
第1活物質として46重量%以上99重量%以下の黒鉛を、
第2活物質として0重量%以上50重量%以下の黒鉛を、
増粘剤として0.5重量%~2.0重量%のCMCとなるようなCMC粉末又はCMC水溶液を、
バインダとして固形分が0.5重量%~2.0重量%となるようなSBR水溶液を、
それぞれ前記供給口から投入する
ことを特徴とする請求項1に記載の二次電池電極スラリの製造方法。
【請求項3】
前記ハウジングの内部に設けたジャケットに冷却水を循環させて室温よりも低温に保ちながら二次電池電極スラリを製造する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池電極スラリの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極スラリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラリは、粉体と液体を混練することで得られる、粘度が比較的高い懸濁液である。従来、二次電池電極スラリの製造には、プラネタリミキサのようなバッチ式混練機が用いられていた。
【0003】
なお、活物質と、電子伝導性物質と、イオン伝導性物質とを混合し、その混合物を、スクリューを具備した混練機を用いて混練することで複合化する、電極合材の製造方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法では、混練において、加熱することにより、イオン伝導性物質をガラスセラミックス化して全固体二次電池用電極合材を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スラリは、塗工工程において、基材に塗工し易い粘度に調整されることが重要である。粘度が低すぎても高すぎても所望の厚みに塗工できない等の問題が生じ、また、粘度が高すぎると固すぎて塗工装置の入口が固まり塗工できない等の問題が生じる。また、例えば、スラリ中の材料が均一に混ざっておらず凝集物が存在していると、平滑な電極表面が得られず、凝集物が剥離して電池性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
近年では、スラリの固形分を高く設定することで後段の乾燥工程でのエネルギー使用量を低減する傾向があるが、従来のバッチ式混練機では、固形分が高い状況において、材料を十分に分散させることができず、スラリを所望の粘度まで低減させることができなかった。そのため、後処理として別の装置で粘度調整をする必要があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電極材料の組成を変更することなく分散性を向上させることで塗工工程に適した粘度の二次電池電極スラリを一台の装置で製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、二軸連続式混練機を用いて回転数を調整することで、混練される材料の分散状況をコントロールして、スラリ粘度を適切になるようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明の二次電池電極スラリの製造方法では、
排出口及び少なくとも1つの供給口を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に平行に配置された二本一対の回転シャフトと、
前記回転シャフトに軸方向に取り付けられた複数の撹拌翼を有する二軸連続式混練機を用い、
活物質として黒鉛、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)水溶液、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)の粉体又は水溶液を前記ハウジングの供給口から投入し、
前記二本一対の回転シャフトを回転させることでスラリを製造する過程で、前記排出口から排出される混練後の製品(スラリ)の粘度を適時確認し、回転数を変化させて粘度調整する。
【0010】
上記の構成によると、二軸連続式混練機は材料に高い剪断力を与えることができるが、その回転シャフトの回転数を徐々に上げながら、材料に適した剪断力を加え、材料の分散状態を改善することで、後工程である塗工工程に適した粘度の二次電池電極スラリを排出口から排出できる。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
第1活物質として46重量%以上99重量%以下の黒鉛を、
第2活物質として0重量%以上50重量%以下の黒鉛を、
増粘剤として0.5重量%~2.0重量%のCMCとなるようなCMC粉末又はCMC水溶液を、
バインダとして固形分が0.5重量%~2.0重量%となるようなSBR水溶液を、
それぞれ前記供給口から投入する。
【0012】
上記の構成範囲においては、回転条件を調整することで粘度が適性であり、塗工工程において、基材に塗工し易い二次電池電極スラリが得られる。
【0013】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
前記ハウジングの内部に設けたジャケットに冷却水を循環させて室温よりも低温に保ちながら二次電池電極スラリを製造する。
【0014】
上記の構成によると、ハウジングのジャケットから効率よくハウジング内を冷却できるので、製品の温度を低く保つことにより、混練により生じる発熱による材料のダメージを抑制し、品質の安定した二次電池電極スラリが得られる。装置サイズによっては、回転シャフト内にも冷却水を通水することで装置内の材料を冷却する場合もある。これらの冷却機構により、混練による発熱で材料がダメージを受けることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、電極材料の組成を変更することなく塗工工程に適した粘度の二次電池電極スラリを一台の装置で製造できる。このため、塗工工程の前に二次電池電極スラリの粘度調整をする別の装置を設ける必要がなくなり、工程を短縮できると共に、別の装置の設置スペースも省ける。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明に係る二次電池電極スラリの製造方法によって、CMCを水溶液で供給した場合の、2通りの一時間当たりの二次電池電極スラリの排出量における、回転数と粘度の関係を示すグラフである。
【
図3】本発明に係る二次電池電極スラリの製造方法によって、CMCを粉で供給した場合の、2通りの一時間当たりの二次電池電極スラリの排出量における、回転数と粘度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
-二軸連続式混練機の構成-
図1は本発明の実施形態に係る二軸連続式混練機1を示し、例えば、この二軸連続式混練機1は、工場などの地面に載置されるベース2と、ベース2上の定位置にそれぞれ設けられる、駆動部3及び胴体部4を備えている。
【0019】
駆動部3は、例えば、電動機5と、この電動機5の駆動力が入力軸6bを介して伝達されるギヤボックス6とを備えている。本実施形態では、ギヤボックス6から一対の出力軸6aが延びており、各出力軸6aには、継手7を介して回転シャフト8が連結されている。
【0020】
二軸連続式混練機1は、胴体部4に排出口(図示せず)及び少なくとも1つの供給口11を有する筒状のハウジング10を備えている。排出口は、ハウジング10の下部に設けられている。供給口11は、図示するものの他に下流側に例えば、希釈液を供給する供給口が1つ以上設けられている。このハウジング10の内部に二本一対の回転シャフト8が平行に軸支されている。それぞれの回転シャフト8に軸方向には、複数の撹拌翼が取り付けられている。
【0021】
詳しくは図示しないが、ハウジング10内の送りゾーン、固練ゾーン、混練ゾーン、希釈ゾーンを設けたり、各部分の長さを調整したり、それぞれ異なる形状の撹拌翼を取り付けたりすることも可能となっている。
【0022】
-二次電池電極スラリの製造方法-
上述したような二軸連続式混練機1を用い、活物質、バインダ、増粘剤や希釈溶剤等の電極材料をハウジング10の供給口11から投入する。
【0023】
上述の電極材料を供給口11から二軸連続式混練機1に連続的に供給し、二本一対の回転シャフト8を回転させることで電極材料を混練する。排出口から排出される混練後の製品の粘度を確認し、所望の粘度になるよう回転するように調整することで粘度を調整する。
【0024】
このとき、ハウジング10の内部に設けたジャケットやシャフトに組み込んだロータリージョイントに冷却水を循環させて室温よりも低温に保ちながら二次電池電極スラリを製造するこれにより、混練による発熱で材料がダメージを受けることなく、品質の安定した二次電池電極スラリが得られる。
【0025】
以上説明した方法により、粘度が適性であり、塗工工程において、基材に塗工し易い二次電池電極スラリが得られる。この適度な粘度の二次電池電極スラリは、塗工工程で基材としての電極集電体に塗布される。粘度が最適に保たれているので、粘度が低すぎたり高すぎたりして所望の幅に塗工できない等の問題は生じず、また、粘度が高すぎてスラリが固く、塗工装置の入口が固まり塗工できない等の問題も生じない。
【0026】
このように、二軸連続式混練機1は、材料に高い剪断力を与えることができ、その回転シャフト8の回転数を徐々に上げながら、材料に適した剪断力を加え、材料の分散状態を改善することで、後工程である塗工工程に適した粘度の二次電池電極スラリを排出口から排出できる。
【0027】
-実施例-
二軸連続式混練機1として、直径50mm長さ約660mmの撹拌羽根などの混練部分を有し、回転数が60rpmから600rpm、1200rpmまで変更可能なものを使用した。ハウジング10のジャケットには、8℃の冷却水を循環させた。
【0028】
供給口11から投入された後の固練ゾーンでの固形分を63重量%として材料を効果的に分散させ、その後希釈ゾーンで希釈し、56重量%の固形分割合で排出する。
【0029】
一例として、第1活物質として85重量%以上90重量%以下の黒鉛を、第2活物質として7.5重量%以上12.5重量%以下の黒鉛を、増粘剤として0.5重量%~2.0重量%のCMC水溶液(約1%濃度)を、バインダとして0.5重量%~2.0重量%のSBR水溶液を、それぞれ供給口11から投入し、回転数を600rpmから1200rpmに変化させた。1時間当たりの二次電池電極スラリの重さを40kgにした場合と、60kgにした場合を
図2に示す。
【0030】
この図に示すように、回転シャフト8の回転数を徐々に上げていくと、1時間当たり40kgの排出量の場合、24.3Pa・sから8.3Pa・sに、1時間当たり60kgの排出量の場合、28.5Pa・sから13.6Pa・sに、粘度が徐々にほぼ直線状に低下することが分かる。それは1時間当たりに排出される二次電池電極スラリの重さが40kgの場合も60kgの場合も同様であった。
【0031】
また、別の例として、増粘剤として0.5重量%~2.0重量%の、CMC水溶液ではなく、粉のままのCMCを供給口11から投入した場合について
図3に示す。
【0032】
この場合にも、回転シャフト8の回転数を徐々に上げていくと、1時間当たり40kgの排出量の場合、22.1Pa・sから5.2Pa・sに、1時間当たり60kgの排出量の場合、28.0Pa・sから12.2Pa・sに、粘度が徐々にほぼ直線状に低下することが分かる。
【0033】
これらの結果から、二軸連続式混練機1の回転数を低速の600rpmから高速の1200rpmの間で徐々に回転数を上げながら排出される二次電池電極スラリの粘度を低下させることにより、適切な粘度の二次電池電極スラリを得ることができることが分かった。
【0034】
したがって、本実施形態に係る二次電池電極スラリの製造方法によると、塗工工程に適した粘度の二次電池電極スラリを一台の装置で製造できる。
【0035】
このため、塗工工程の間に二次電池電極スラリの粘度調整をする別の装置を設ける必要がなくなり、工程を短縮できると共に、別の装置の設置スペースも省ける。
【0036】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0037】
1 軸連続式混練機
2 ベース
3 駆動部
4 胴体部
5 電動機
6 ギヤボックス
6a 出力軸
6b 入力軸
7 継手
8 回転シャフト
10 ハウジング
11 供給口