(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152161
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】アッパーおよびシューズ
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20241018BHJP
A43B 1/02 20220101ALI20241018BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
A43B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066196
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千早
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BC03
4F050HA28
4F050HA56
4F050HA59
4F050JA01
(57)【要約】
【課題】必要なパーツ数の増加を抑えつつ、要求される機能を発揮することのできるアッパーを得ること。
【解決手段】アッパーは、織物であるアッパー本体4を備え、アッパー本体4には、第1の方向に沿って第1の線状体41と第2の線状体42とがまとめられた第1の束体51と、第1の方向に直交する第2の方向に沿って第1の線状体41がまとめられた第2の束体52と、が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズのアッパーであって、
織物であるアッパー本体を備え、
前記アッパー本体には、第1の方向に沿って第1の線状体と第2の線状体とがまとめられた第1の束体と、前記第1の方向に直交する第2の方向に沿って前記第1の線状体がまとめられた第2の束体と、が設けられているアッパー。
【請求項2】
前記アッパー本体は第1の領域と第2の領域とを有し、
前記第1の領域における前記第1の束体が有する前記第1の線状体と前記第2の線状体の本数よりも、前記第2の領域における前記第1の束体が有する前記第1の線状体と前記第2の線状体の本数のほうが多い請求項1に記載のアッパー。
【請求項3】
前記第2の領域は、前記シューズの着用者の足の中足部を覆うアッパー中足部に設けられる請求項2に記載のアッパー。
【請求項4】
前記第1の束体と前記第2の束体とで太さが異なる請求項1に記載のアッパー。
【請求項5】
前記アッパー本体には、前記第1の束体と前記第2の束体とに囲まれた長方形形状の貫通孔が形成されており、
前記貫通孔の長辺が前記第1の方向と平行である請求項1に記載のアッパー。
【請求項6】
前記アッパー本体には、前記シューズの着用者の足の中足部を覆うアッパー中足部の内足側および外足側の少なくとも一方に第3の領域が設けられており、
前記第3の領域に前記貫通孔が形成されている請求項5に記載のアッパー。
【請求項7】
前記アッパー本体には、前記第1の束体と前記第2の束体とに囲まれた長方形形状の貫通孔が形成されており、
前記貫通孔の長辺が前記第2の方向と平行である請求項1に記載のアッパー。
【請求項8】
前記アッパー本体には、前記シューズの着用者の足の前足部を覆うアッパー前足部の内足側および外足側の少なくとも一方に第4の領域が設けられており、
前記第4の領域に前記貫通孔が形成されている請求項7に記載のアッパー。
【請求項9】
前記アッパー本体には、前記シューズの着用者の足の後足部を覆うアッパー後足部の内足側および外足側の少なくとも一方に第5の領域が設けられており、
前記第5の領域に前記貫通孔が形成されている請求項7に記載のアッパー。
【請求項10】
前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が引き揃えられて形成されている請求項1に記載のアッパー。
【請求項11】
前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が撚られて形成された撚糸である請求項1に記載のアッパー。
【請求項12】
前記第1の束体は、前記第1の線状体および前記第2の線状体の一方を芯糸とし、前記第1の線状体および前記第2の線状体の他方を前記芯糸に巻き付けて形成されたカバリング糸である請求項1に記載のアッパー。
【請求項13】
前記第1の線状体の引張抵抗は前記第2の線状体の引張抵抗よりも小さく、
前記第1の線状体の伸長回復率は前記第2の線状体の伸長回復率よりも大きい請求項1に記載のアッパー。
【請求項14】
請求項1に記載のアッパーと、
前記アッパーの下方に設けられたソールと、を備えるシューズ。
【請求項15】
シューズのアッパーであって、
第1の線状体と第2の線状体がまとめられた第1の束体を用いた編物であるアッパー本体を備え、
前記アッパー本体に、前記第1の束体が直線的に配置された非編込み領域を一部に有するアッパー。
【請求項16】
前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が引き揃えられて形成されている請求項15に記載のアッパー。
【請求項17】
前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が撚られて形成された撚糸である請求項15に記載のアッパー。
【請求項18】
前記第1の束体は、前記第1の線状体および前記第2の線状体の一方を芯糸とし、前記第1の線状体および前記第2の線状体の他方を前記芯糸に巻き付けて形成されたカバリング糸である請求項15に記載のアッパー。
【請求項19】
前記第1の線状体の引張抵抗は前記第2の線状体の引張抵抗よりも小さく、
前記第1の線状体の伸長回復率は前記第2の線状体の伸長回復率よりも大きい請求項15に記載のアッパー。
【請求項20】
請求項15に記載のアッパーと、
前記アッパーの下方に設けられたソールと、を備えるシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アッパーおよびシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
シューズは、特許文献1に開示されるように、足の甲を覆うアッパーと、アッパーの下方に設けられて足を支持するソールとを備える。アッパーには、使用目的等に応じて様々な機能が要求される。特に、スポーツで用いられるパフォーマンスシューズでは、伸びを抑えつつ、伸びが発生したときには元の長さに復元しやすいことが要求される場合がある。しかしながら、これらの機能を単一の材料で発揮させることは難しく、複数のパーツを組み合わせてアッパーを形成することでこれらの機能を発揮させることが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のパーツを組み合わせてアッパーを形成することで、パーツ同士を貼り合わせたり、縫製したりする工程が必要になり、製造工数が増加する。また、パーツ数の増加に加えて、接着剤や縫製糸等の材料が増加する。これらの理由によってアッパーの製造効率が低下し、環境負荷も増大してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、必要なパーツ数の増加を抑えつつ、要求される機能を発揮することのできるアッパーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るアッパーは、シューズのアッパーであって、織物であるアッパー本体を備え、アッパー本体には、第1の方向に沿って第1の線状体と第2の線状体とがまとめられた第1の束体と、第1の方向に直交する第2の方向に沿って第1の線状体がまとめられた第2の束体と、が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るアッパーは、必要なパーツ数の増加を抑えつつ、要求される機能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係るシューズの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1におけるアッパー本体の展開図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1におけるアッパー本体の第1の領域の一部を拡大した部分拡大図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1におけるアッパー本体の第2の領域の一部を拡大した部分拡大図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1におけるアッパーの変形例を示す図である。
【
図6】
図6は、編物で形成したアッパー本体の第1の領域の一部を拡大した部分拡大図である。
【
図7】
図7は、編物で形成したアッパー本体の第2の領域の一部を拡大した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係るアッパーおよびシューズの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。以下の説明において、同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、本発明の実施の形態1に係るシューズの外観を示す斜視図である。
図1を含む各図には、左足用のシューズ1のみを図示している。シューズ1は、左足用と右足用とで左右対称構造であるため、本実施の形態では左足用のシューズ1のみを説明し、右足用のシューズ1の説明を省略する。以下の説明においては、シューズ1の着用者の足のつま先側を前方とし、踵側を後方とする。シューズ1を平面視した状態において前後方向と直交する方向を足幅方向とする。なお、図面において前後方向を矢印Xで示し、足幅方向を矢印Yで示す場合がある。
【0011】
また、足のうちの解剖学的正位における正中側を内足側と称し、足のうちの解剖学的正位における正中側とは反対側を外足側と称する。すなわち、解剖学的正位における正中に近い側を内足側と称し、解剖学的正位における正中に遠い側を外足側と称する。また、上下方向とは、他に特段の記載がない限り、前後方向及び足幅方向の両方向に直交する方向を意味する。
【0012】
シューズ1は、アッパー2と、ソール3とを備える。アッパー2は、ソール3との間に着用者の足が入る空間を設けてソール3の上面を覆うアッパー本体4を備える。アッパー本体4は、縫合、溶着、接着またはこれらの組み合わせによってソール3に固定される。アッパー本体4には、履き口21が形成されている。履き口21は、着用者の足をアッパー本体4の内部に入れるための開口である。
【0013】
図2は、実施の形態1におけるアッパー本体の展開図である。アッパー本体4は、標準的な体型の着用者の足の前足部を覆うアッパー前足部R1と、標準的な体型の着用者の足の中足部を覆うアッパー中足部R2と、標準的な体型の着用者の足の後足部を覆うアッパー後足部R3とを備えている。アッパー前足部R1、アッパー中足部R2及びアッパー後足部R3は、この順番でアッパー2の前方から前後方向に連なっている。
【0014】
アッパー本体4は、第1の領域61と第2の領域62とを有する。第2の領域62は、主にアッパー本体4のアッパー中足部R2に形成されている。第1の領域61は、アッパー本体4のうち第2の領域62を除いた領域となる。
【0015】
アッパー本体4の第1の領域61と第2の領域62は、経糸と緯糸とを組み合わせて形成された織物である。
【0016】
次に、第1の領域61における織物の構成について説明する。
図3は、実施の形態1におけるアッパー本体の第1の領域の一部を拡大した部分拡大図である。アッパー本体4は第1の方向に沿って延びる緯糸である第1の束体51と、第1の方向と直交する第2の方向に延びる経糸である第2の束体52とを交互に交差させて形成されている。なお、第1の方向は、アッパー本体4がソール3に固定された状態で概ねシューズ1の足幅方向と一致する。第2の方向は、アッパー本体4がソール3に固定された状態で概ねシューズ1の前後方向と一致する。
【0017】
第1の束体51は、第1の線状体41と第2の線状体42とがまとめられて形成されている。
図3に示した例では、複数の第1の線状体41と複数の第2の線状体42とが撚らずに引き揃えられた引き揃え糸となっている。
図3では、図面の理解容易化のために第1の束体51が2本の第1の線状体41と2本の第2の線状体42で形成されているように示しているが、第1の線状体41および第2の線状体42の本数はこれに限られない。
【0018】
第2の束体52は、第1の線状体41で形成されている。
図3では、図面の理解容易化のために第2の束体52が1本の第1の線状体41で形成されているように示しているが、複数の第1の線状体41をまとめることで第2の束体52が形成されている。第2の束体52における複数の第1の線状体41は、絡み織部分を有していてもよい。
【0019】
第1の線状体41の引張抵抗は第2の線状体42の引張抵抗よりも小さい。また、第1の線状体41の伸長回復率は第2の線状体42の伸長回復率よりも大きい。これは、第1の線状体41と第2の線状体42は、引張抵抗の大小関係と伸長回復率の大小関係とが逆転した関係にあるとも換言できる。
【0020】
第1の線状体41の引張抵抗が第2の線状体42の引張抵抗よりも小さく、第1の線状体41の伸長回復率が第2の線状体42の伸長回復率よりも大きいことで、第1の線状体41は第2の線状体42よりも伸びやすく、元の長さに復元しやすい。一方、第2の線状体42は第1の線状体41よりも伸びにくく、伸びた場合には物の長さに復元しにくい。
【0021】
このような性質の組み合わせには、第1の線状体41を熱可塑性ポウレタンエラストマ(TPU)で形成し、第2の線状体42をポリエステル樹脂で形成することが例示される。また、第1の線状体41を熱可塑性ポリエステルエラストマ(TPEE)で形成し、第2の線状体42をポリエステル樹脂で形成することが例示される。なお、第1の線状体41と第2の線状体42とは、モノフィラメントであってもよいし、マルチフィラメントであってもよい。また、第1の線状体41および第2の線状体42のいずれか一方がモノフィラメントで他方がマルチフィラメントであってもよい。
【0022】
次に、第2の領域62における織物の構成について説明する。
図4は、実施の形態1におけるアッパー本体の第2の領域の一部を拡大した部分拡大図である。
図3と
図4は同じ縮尺で拡大したものとする。
【0023】
第2の領域62における第1の束体53は、第1の領域61における複数の第1の束体51(
図3を参照)を集約させて形成されており、第1の領域61における第1の束体51よりも含まれる第1の線状体41と第2の線状体42の本数が多くなっている。
【0024】
複数の第1の束体51を集約させて第1の束体53を形成することで、単位面積当たりの第1の線状体41と第2の線状体42の本数は変えずに、第2の領域62における第1の束体53同士の間隔を第1の領域61における第1の束体51の間隔よりも広くすることができる。
【0025】
ソール3は、アッパー2の下方に位置する。ソール3は、着用者の足裏を覆う。ソール3は、歩行時および走行時に足に加わる衝撃を吸収するために、クッション性のある素材で形成されている。
【0026】
以上説明したように、実施の形態1に係るシューズ1では、アッパー2の緯糸に第1の束体51が用いられている。すなわち、足幅方向に延びる緯糸に、第1の線状体41と第2の線状体42とが引き揃えられた引き揃え糸が用いられている。第1の線状体41と第2の線状体42とが、引張抵抗の大小関係と伸長回復率の大小関係とが逆転した関係にある。これにより、アッパー2は、足幅方向において、第2の線状体42の性質によって伸びが発生しにくく、伸びが発生した場合には第1の線状体41の性質によって元の長さに復元しやすくなる。従来のアッパーでは、伸びの発生を抑えつつ、伸びが発生した場合には元の長さに復元しやすくなる機能を発揮させたい箇所は、複数のパーツを組み合わせてその機能を発揮させていた。一方、本実施の形態1に係るシューズ1では、複数のパーツを組み合わせずにアッパー本体4のみで上記機能を発揮させている。したがって、シューズ1に用いられるパーツ数を抑えつつ、要求される機能をアッパー2に発揮させることができる。パーツ数を減らすことで、パーツ同士を貼り合わせたり、縫製したりする工程を削減することができる。また、パーツ同士を接合させるための接着剤や縫製糸等の材料の削減することができる。これにより、アッパー2の製造効率の向上、および環境負荷の低減を図ることができる。なお、引張抵抗および伸張回復率は、JIS L1095に記載の伸長弾性率測定方法B法に従って測定を行う。引張抵抗は、線状体を一定の伸び(3%または5%)まで引き伸ばした際の荷重を、線状体の繊度および負荷ひずみで除した値である。伸張回復率は、線状体を一定の伸び(3%または5%)まで引き伸ばした後に直ちに荷重を除き、2分間保持した後の残留伸びを線状体の初期長さで除した値である。
【0027】
また、アッパー2は、前後方向に延びる経糸に第1の線状体41で形成された第2の束体52が用いられているが、第2の束体52に含まれる第1の線状体41の本数を増やして前後方向への伸びが抑えられた素材となっている。
【0028】
また、アッパー中足部R2に設けた第2の領域62では、第1の領域61よりも第1の線状体41と第2の線状体42とを密集させた第1の束体53が形成されている。これにより、第2の領域62では、第1の領域61よりも1つの束体に含まれる第1の線状体41と第2の線状体42の本数が多くなっている。これにより、第2の領域62では、第1の領域61よりも伸びの発生を抑えつつ、伸びが発生した場合には元の長さに復元しやすくなる機能を発揮させることができる。したがって、アッパー2の部位ごとに上記機能の強さを異ならせることができる。なお、1つの束体に含まれる第1の線状体41と第2の線状体42の本数が異なる領域が3種類以上設けられていてもよい。
【0029】
また、第2の領域62では、第1の領域61よりも第1の線状体41と第2の線状体42とが密集されているため、第1の束体53同士の間隔が広くなり、第1の領域61よりも通気性を向上させることができる。
【0030】
また、第1の線状体41を熱可塑性ポリエステルエラストマで形成し、第2の線状体42をポリエステル樹脂で形成した場合には、どちらもポリエステル系の素材となるため、リサイクル性が向上する。
【0031】
なお、第1の束体51,53は、第1の線状体41と第2の線状体42とが撚られて形成された撚糸であってもよい。また、第1の束体51,53は、第1の線状体41と第2の線状体42のいずれか一方を芯糸とし、他方を鞘糸として芯糸に巻き付けたカバリング糸であってもよい。このように第1の束体51,53が撚糸またはカバリング糸であっても、性質の異なる第1の線状体41と第2の線状体42とを組み合わせることで、引き揃え糸と同様の効果が期待できる。
【0032】
アッパー本体4が織物で形成されている場合、
図3および
図4に示したように第1の束体51,53と第2の束体52とに囲まれてシューズ1の内側と外側とを貫通する貫通孔5の形状は概ね四角形形状となる。また、第1の束体51,53同士の間隔または第2の束体52同士の間隔を調節することで、長方形形状である貫通孔5について、いずれの辺を長辺とするかを選択可能となる。
【0033】
貫通孔5を長方形形状とした場合には、長辺に平行な方向へのせん断変形が生じやすくなる。すなわち、長辺に平行な方向にアッパー本体4が伸びやすくなる。したがって、アッパー本体4の領域ごとに貫通孔5の形状を異ならせることで、領域ごとに伸びやすい方向と伸びやすさを制御することが可能となる。
【0034】
図5は、実施の形態1におけるアッパーの変形例を示す図である。変形例に係るアッパー2では、アッパー本体4のアッパー中足部R2において内足側および外足側に第3の領域63が設けられている。また、アッパー本体4のアッパー前足部R1において外足側に第4の領域64が設けられている。また、アッパー本体4のアッパー後足部R3において内足側に第5の領域65が設けられている。
【0035】
第3の領域63では、長方形の長辺が足幅方向と平行になるように貫通孔5が形成されている。したがって、第3の領域63が設けられたアッパー中足部R2では、足幅方向にアッパー本体4が伸びやすくなっている。
【0036】
第4の領域64および第5の領域65では、長方形の長辺が前後方向と平行になるように貫通孔5が形成されている。したがって、第4の領域64が設けられたアッパー前足部R1の外足側および第5の領域65が設けられたアッパー後足部R3の内足側では、前後方向にアッパー本体4が伸びやすくなっている。
【0037】
このように、貫通孔5の形状を異ならせることで領域ごとにアッパー本体4の伸びやすい方向を異ならせることが可能となる。
【0038】
なお、第3の領域63、第4の領域64、および第5の領域65のすべてがアッパー本体4に設けられている例に限られず、いずれかの領域が選択的に設けられていてもよい。また、第3の領域63、第4の領域64、および第5の領域65は、内足側および外足側の少なくとも一方に設けられていればよい。
【0039】
アッパー本体4は、編物で形成されていてもよい。
図6は、編物で形成したアッパー本体の第1の領域の一部を拡大した部分拡大図である。
図6に示すように編物の場合には、第1の線状体41と第2の線状体42とで形成された第1の束体51を編み込んでアッパー本体4が形成されている。また、編物の場合には経糸が設けられていないため、織物の場合とは異なり第2の束体52は設けられていない。
【0040】
編物の場合にも、アッパー2は、足幅方向において、第2の線状体42の性質によって伸びが発生しにくく、伸びが発生した場合には第1の線状体41の性質によって元の長さに復元しやすくなる。これにより、シューズ1に用いられるパーツ数を抑えつつ、要求される機能をアッパー2に発揮させることができる。また、アッパー2の製造効率の向上、および環境負荷の低減を図ることができる。
【0041】
図7は、編物で形成したアッパー本体の第2の領域の一部を拡大した部分拡大図である。第2の領域62では、第1の束体51が編み込まれていない部分を有している。編物で形成されたアッパー本体4では、第1の束体51が両隣の第1の束体51に引っ掛けられて編み込まれるため、
図6に示すように足幅方向に沿って波形形状が繰り返されている。
【0042】
第2の領域62に設けられた第1の束体51が編み込まれていない部分では、両隣の第1の束体51に引っ掛けられないため、
図7に示すように第1の束体51が直線状に設けられる。
【0043】
編物で形成されたアッパー本体4では、上述したように第1の束体51が足幅方向に沿って波形形状が繰り返されているため、足幅方向に平行に引っ張ることで第1の束体51が直線状に変形することが可能である。そのため、編物で形成されたアッパー本体4は足幅方向に比較的伸びやすくなっている。
【0044】
一方、第2の領域62のように第1の束体51が編み込まれていない部分を設けることで、第2の領域62を第1の束体51が直線状に設けられた非編込み領域とすることができる。第1の束体51が直線状に設けられた部分では、第1の束体51自体の変形による伸びが発生しにくく、第1の束体51の機能が発揮されやすい。すなわち、第1の束体51に含まれる第1の線状体41と第2の線状体42の性質に基づいて、伸びにくく、伸びが発生した場合には元の長さに復元しやすくなる機能がより発揮されやすくなる。
【0045】
以下、本発明の諸態様を記載する。
【0046】
第1の態様に係るアッパーは、シューズのアッパーであって、織物であるアッパー本体を備え、前記アッパー本体には、第1の方向に沿って第1の線状体と第2の線状体とがまとめられた第1の束体と、前記第1の方向に直交する第2の方向に沿って前記第1の線状体がまとめられた第2の束体と、が設けられている。
【0047】
第2の態様に係るアッパーは、第1の態様に係るアッパーにおいて、前記アッパー本体は第1の領域と第2の領域とを有し、前記第1の領域における前記第1の束体が有する前記第1の線状体と前記第2の線状体の本数よりも、前記第2の領域における前記第1の束体が有する前記第1の線状体と前記第2の線状体の本数のほうが多い。
【0048】
第3の態様に係るアッパーは、第2の態様に係るアッパーにおいて、前記第2の領域は、前記シューズの着用者の足の中足部を覆うアッパー中足部に設けられる。
【0049】
第4の態様に係るアッパーは、第1から第3のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記第1の束体と前記第2の束体とで太さが異なる。
【0050】
第5の態様に係るアッパーは、第1から第4のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記アッパー本体には、前記第1の束体と前記第2の束体とに囲まれた長方形形状の貫通孔が形成されており、前記貫通孔の長辺が前記第1の方向と平行である。
【0051】
第6の態様に係るアッパーは、第1から第5のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記アッパー本体には、前記シューズの着用者の足の中足部を覆うアッパー中足部の内足側および外足側の少なくとも一方に第3の領域が設けられており、前記第3の領域に前記貫通孔が形成されている。
【0052】
第7の態様に係るアッパーは、第1から第6のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記アッパー本体には、前記第1の束体と前記第2の束体とに囲まれた長方形形状の貫通孔が形成されており、前記貫通孔の長辺が前記第2の方向と平行である。
【0053】
第8の態様に係るアッパーは、第1から第7のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記アッパー本体には、前記シューズの着用者の足の前足部を覆うアッパー前足部の内足側および外足側の少なくとも一方に第4の領域が設けられており、前記第4の領域に前記貫通孔が形成されている。
【0054】
第9の態様に係るアッパーは、第1から第8のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記アッパー本体には、前記シューズの着用者の足の後足部を覆うアッパー後足部の内足側および外足側の少なくとも一方に第5の領域が設けられており、前記第5の領域に前記貫通孔が形成されている。
【0055】
第10の態様に係るアッパーは、第1から第9のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が引き揃えられて形成されている。
【0056】
第11の態様に係るアッパーは、第1から第9のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が撚られて形成された撚糸である。
【0057】
第12の態様に係るアッパーは、第1から第9のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記第1の束体は、前記第1の線状体および前記第2の線状体の一方を芯糸とし、前記第1の線状体および前記第2の線状体の他方を前記芯糸に巻き付けて形成されたカバリング糸である。
【0058】
第13の態様に係るアッパーは、第1から第12のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記第1の線状体の引張抵抗は前記第2の線状体の引張抵抗よりも小さく、前記第1の線状体の伸長回復率は前記第2の線状体の伸長回復率よりも大きい。
【0059】
第14の態様に係るシューズは、第1の態様に係るアッパーと、前記アッパーの下方に設けられたソールと、を備える。
【0060】
第15の態様に係るアッパーは、シューズのアッパーであって、第1の線状体と第2の線状体がまとめられた第1の束体を用いた編物であるアッパー本体を備え、前記アッパー本体に、前記第1の束体が直線的に配置された非編込み領域を一部に有する。
【0061】
第16の態様に係るアッパーは、第15の態様に係るアッパーにおいて、前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が引き揃えられて形成されている。
【0062】
第17の態様に係るアッパーは、第15の態様に係るアッパーにおいて、前記第1の束体は、前記第1の線状体と前記第2の線状体が撚られて形成された撚糸である。
【0063】
第18の態様に係るアッパーは、第15の態様に係るアッパーにおいて、前記第1の束体は、前記第1の線状体および前記第2の線状体の一方を芯糸とし、前記第1の線状体および前記第2の線状体の他方を前記芯糸に巻き付けて形成されたカバリング糸である。
【0064】
第19の態様に係るアッパーは、第15から第18のいずれかの態様に係るアッパーにおいて、前記第1の線状体の引張抵抗は前記第2の線状体の引張抵抗よりも小さく、前記第1の線状体の伸長回復率は前記第2の線状体の伸長回復率よりも大きい。
【0065】
第20の態様に係るシューズは、第15から第19のいずれかの態様に係るアッパーと、前記アッパーの下方に設けられたソールと、を備える。
【符号の説明】
【0066】
1 シューズ、2 アッパー、3 ソール、4 アッパー本体、5 貫通孔、21 履き口、41 第1の線状体、42 第2の線状体、51,53 第1の束体、52 第2の束体、61 第1の領域、62 第2の領域、63 第3の領域、64 第4の領域、65 第5の領域。