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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152163
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ガス浸炭装置及びガス浸炭方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/22 20060101AFI20241018BHJP
   C21D 1/63 20060101ALI20241018BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20241018BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20241018BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20241018BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20241018BHJP
   C21D 1/773 20060101ALI20241018BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C23C8/22
C21D1/63
C21D1/06 A
C21D1/76 H
C21D1/18 T
C21D1/00 112B
C21D1/00 121
C21D1/773 D
C21D1/74 Q
C21D1/74 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066198
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】591080531
【氏名又は名称】株式会社日本テクノ
(71)【出願人】
【識別番号】000168632
【氏名又は名称】高圧ガス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520252789
【氏名又は名称】奥村 望
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】椛澤 均
(72)【発明者】
【氏名】森本 孝
(72)【発明者】
【氏名】八田 正喜
(72)【発明者】
【氏名】篠本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 元気
(72)【発明者】
【氏名】福地 真也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 望
【テーマコード(参考)】
4K028
4K034
【Fターム(参考)】
4K028AA01
4K028AB01
4K028AC03
4K034AA11
4K034AA19
4K034BA10
4K034CA04
4K034CA05
4K034CA06
4K034DA06
4K034DA08
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034DB05
4K034DB06
4K034DB08
4K034EA11
4K034EB34
4K034EB37
4K034FA06
4K034FB11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガス浸炭装置等において原料ガスの使用量を抑制し、かつ操業中の安全性を高める。
【解決手段】装置は、ワークWが配置される前室60と、焼入用の油が貯留する油槽70と、焼入用移動装置90と、常圧よりも高圧下でワークを加熱する浸炭室10と、外部空間と前室をつなぐ前室出入口を気密に閉鎖する前室出入扉50と、ワークを搬入・搬出する前室搬送装置80と、前室と浸炭室をつなぐ前室第二出入口を気密に閉鎖する前室第二出入扉66と、前室と浸炭室の間でワークを移動する浸炭室搬送装置85と、浸炭室にキャリアガスよりもワークに吸着しやすい鎖式不飽和炭化水素を含む浸炭ガスを供給する原料ガス供給装置20と、前室出入扉及び前室第二出入扉が閉状態となる前室の内部気体を吸引して負圧状態とする負圧生成源62bと、負圧状態となる前室にパージガスを供給して前室を常圧よりも高圧下に復圧状態とするパージガス供給装置63と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークが一時的に配置される前室と、
前記前室から連続するように配置され、焼入用の油が貯留する油槽と、
前記ワークを移動させて前記油槽の前記油に浸漬させる焼入用移動装置と、
前記前室から連続するように配置され、常圧又は該常圧よりも高圧下でワークを加熱する浸炭室と、
外部空間と前記前室をつなぐ前室出入口を開閉可能に配置され、閉状態で前記前室出入口を気密に閉鎖する前室出入扉と、
外部空間と前記前室の間で前記前室出入口を介してワークを搬入・搬出する前室搬送装置と、
前記前室と前記浸炭室をつなぐ前室第二出入口を開閉可能に配置され、閉状態で前記前室第二出入口を気密に閉鎖する前室第二出入扉と、
前記前室と前記浸炭室の間で前記前室第二出入口を介してワークを移動する浸炭室搬送装置と、
前記浸炭室に、キャリアガス、及び、該キャリアガスよりもワークに吸着しやすい鎖式不飽和炭化水素を含む浸炭ガスを供給する原料ガス供給装置と、
前記前室出入扉及び前記前室第二出入扉が閉状態となる前記前室の内部気体を吸引して負圧状態とする負圧生成源と、
前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を常圧又は該常圧よりも高圧下に復圧状態とするパージガス供給装置と、
を備えることを特徴とするガス浸炭装置。
【請求項2】
前記キャリアガスが窒素であり、前記鎖式不飽和炭化水素がアセチレンであることを特徴とする、
請求項1に記載のガス浸炭装置。
【請求項3】
前記パージガスが窒素であることを特徴とする、
請求項1に記載のガス浸炭装置。
【請求項4】
制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記前室出入扉を開状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記前室搬送装置によって前記外部空間から前記前室に前記前室出入口を介してワークを搬入する前室搬入処理部と、
前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記負圧生成源を制御して前記ワークが搬入された前記前室を負圧状態とし、且つ、前記パージガス供給装置を制御して前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする前パージ処理部と、
前記原料ガス供給装置を制御して、前記浸炭室に前記キャリアガスを供給して、前記浸炭室を前記キャリアガスでパージする浸炭室パージ処理部と、
前記前パージ処理部による前記前室のパージ処理、及び、前記浸炭室パージ処理部による前記浸炭室のパージ処理の終了後、前記前室第二出入扉を開状態とし、前記浸炭室搬送装置と、前記前室の前記ワークを前記浸炭室に移動させる浸炭室搬入処理部と、
前記浸炭室のヒータを制御して前記ワークを加熱し、かつ、前記原料ガス供給装置を制御して加熱中の前記浸炭室に前記キャリアガス及び前記浸炭ガスを供給して、前記ワークを浸炭するガス浸炭処理部と、
前記ガス浸炭処理部において少なくとも前記浸炭ガスの供給を停止した後、前記前室第二出入扉を開いて、前記浸炭室搬送装置によって、前記浸炭室内の前記ワークを前記前室に移動させる浸炭室搬出処理部と、
を有することを特徴とする、請求項1に記載のガス浸炭装置。
【請求項5】
前記制御装置において、前記事前パージ処理部と、前記浸炭室パージ処理部が同時に実行されることを特徴とする、
請求項4に記載のガス浸炭装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記浸炭室搬出処理によって前記前室に存在する前記ワークを、前記焼入用移動装置によって前記油槽の前記油に浸漬させる焼入処理部と、
前記焼入処理部による前記ワークの焼入処理が完了した後、前記焼入用移動装置によって前記ワークを前記前室に移動させて油切を行う油切処理部と、
前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記負圧生成源を制御して、前記焼入処理部による焼入処理中の前記前室及び/又は前記油切処理部による油切処理中の前記前室を負圧状態とし、且つ、前記パージガス供給装置を制御して前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする後パージ処理部と、
前記後パージ処理部における前記復圧状態完了後、前記前室出入扉を開状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記前室搬送装置によって前記前室から前記外部空間に前記前室出入口を介してワークを搬出する前室搬出処理部と、
を有することを特徴とする、請求項4または請求項5に記載のガス浸炭装置。
【請求項7】
前記制御装置におけるガス浸炭処理部は、前記浸炭ガスの流量が50(L/min)以下となるように流量を制御することを特徴とする、請求項4または請求項5に記載のガス浸炭装置。
【請求項8】
外部空間と前室の間に配置される前室出入扉を開状態、且つ、前記前室と浸炭室の間に配置される前室第二出入扉を閉状態とし、前記外部空間から前記前室にワークを搬入する搬入工程と、
前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、負圧生成源によって、前記ワークが搬入された前記前室を負圧状態とし、該負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする前パージ工程と、
前記浸炭室にキャリアガスを供給して、前記浸炭室を前記キャリアガスでパージする浸炭室パージ工程と、
前記前パージ工程による前記前室のパージ処理、及び、前記浸炭室パージ工程による前記浸炭室のパージ処理の終了後、前記前室第二出入扉を開状態とし、前記前室の前記ワークを前記浸炭室に移動させる浸炭室搬入工程と、
前記浸炭室で前記ワークを加熱し、かつ、前記浸炭室に前記キャリアガス及び該キャリアガスよりもワークに吸着しやすい鎖式不飽和炭化水素を含む浸炭ガスを供給して、前記ワークを浸炭するガス浸炭工程と、
前記ガス浸炭工程において少なくとも前記浸炭ガスの供給を停止した後、前記前室第二出入扉を開いて、前記浸炭室内の前記ワークを前記前室に移動させる浸炭室搬出工程と、
を備えることを特徴とするガス浸炭方法。
【請求項9】
前記中間搬出工程によって前記前室に存在する前記ワークを、該前室からつながる油槽の油に浸漬させる焼入工程と、
前記焼入工程による前記ワークの焼入処理が完了した後、前記ワークを前記前室に移動させて油切を行う油切工程と、
前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記焼入工程による焼入処理中の前記前室及び/又は前記油切工程による油切処理中の前記前室を前記負圧生成源によって負圧状態とし、その後、前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする後パージ工程と、
前記後パージ工程において前記前室が前記復圧状態となってから、前記前室出入扉を開状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記前室から前記外部空間に前記ワークを搬出する搬出工程と、
を備えることを特徴とする、請求項8に記載のガス浸炭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス浸炭装置及びガス浸炭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼等の金属の表面層の硬化を目的として浸炭が行われている。特許文献1には浸炭方法の一例として、吸熱型変成ガス(RXガス)やアルコール類等の熱分解ガスとなるキャリアガス(担体ガス)と、メタン(CH)、プロパン(C)またはブタン(C10)等のエンリッチガス(浸炭ガス)を、炉内のワークへ供給することで浸炭を行うガス浸炭方法が開示されている。ガス浸炭は、常圧(略大気圧)下で浸炭を行うことが可能であり、炉内の雰囲気制御が容易であるとのメリットも有する。
【0003】
また近年、窒素ガス等のベースガス(キャリアガス)と、ワークに侵入させる炭素(C)を供給するアセチレン(C)を含む浸炭ガスを、常圧(略大気圧)下で浸炭室内のワークへ供給することで浸炭を行うガス浸炭方法が開示されている(特許文献2参照)。ワークへの炭素(C)の供給(すなわち、浸炭)は、キャリアガスとなる窒素よりも、アセチレンの方がワーク表面に吸着しやすい特性を利用し、C→2C+H2 の関係式によって炭素をワークに直接的に侵入させる技術となる。このガス浸炭手法を「直接ガス浸炭」と称する場合もある。
【0004】
ガス浸炭またはガス浸炭等で用いられる従来の常圧型のガス浸炭装置1001を図9(A)に示す。ガス浸炭装置1001は、前室1060、前室1060の下方に設けられる油槽1070、前室1060における搬入経路Hinの奥側に配置される浸炭室1010を備える。前室1060における搬入経路Hinの手前側には、排気フード1055及び開閉自在の前室出入扉1050が配置される。前室1060と浸炭室1010間には、開閉自在の断熱扉1084が配置される。前室1060及び油槽1070には、エレベータ装置1090が配置され、ワークW及び搬送トレイCを、前室1060及び油槽1070の間で昇降できる。前室出入扉1050の下方には、フレームカーテン用バーナー1058が設けられる。
【0005】
図9(B)に示すように、前室出入扉1050を開放して、ワークW及び搬送トレイCを前室1060に搬入する際には、キャリアガスや浸炭ガス等を原料としてフレームカーテン用バーナー1058に着火して、炎によるフレームカーテンFを形成する。このフレームカーテンFによって、外気に含まれる酸素(O)や水(HO)が、そのまま前室1060に進入しないようにする。浸炭処理の途中で、酸素(O)や水(HO)が存在すると、ワークWの表面に優先的に吸着して浸炭を阻害する要因となる。なお、フレームカーテン用バーナー1058によって燃焼されたガス(CO等)は、排気フード1055を介して外部に排気される。
【0006】
ワークWが前室1060又は浸炭室1010に存在する場合、浸炭室1010に供給されるキャリアガス及び浸炭ガス(エンリッチガス)が、断熱扉1084の隙間を介して、常に、前室1060に積極的に漏洩させている。この漏洩ガスによって、前室1060や浸炭室1010に外気(酸素)が進入しない構造となっている。なお、前室1060には、油槽1070の焼入処理によって生じる油煙も充満する。
【0007】
図10に示すように、前室出入扉1050を開放して、前室1060に存在するワークW及び搬送トレイCを搬出する際には、フレームカーテン用バーナー1058に着火して、炎によるフレームカーテンFを形成する。このフレームカーテンFによって、前室1060内の漏洩ガスや油煙を燃焼させることで、漏洩ガスや油煙がそのまま大気中に放出されない構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-166035号公報
【特許文献2】特許第6543208号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の常圧型のガス浸炭装置1001では、操業中において、浸炭室1010に供給するキャリアガスや浸炭ガス(エンリッチガス)を、積極的に前室1060に漏洩させる必要があり、浸炭ガスの消費量が多いという問題があった。
【0010】
また前室出入扉1050を開放して、ワークW及び搬送トレイCを搬入・搬出する際には、フレームカーテン用バーナー1058に着火して、フレームカーテンFを形成する必要があり、このフレームカーテンFによって原料ガスの消費量が増大するという問題があった。
【0011】
更に長時間操業すると、排気フード1055に油煙に含まれる油が堆積する。堆積した油の定期除去を怠ると、フレームカーテンFによる着火事故が発生しやすいという問題があった。結果、操業中は、ガス浸炭装置1001に作業者を常時配置する必要があり、自動操業が困難となっていた。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑み、原料ガスの使用量を抑制し、かつ、操業中の安全性を高めることが可能なガス浸炭装置、およびガス浸炭方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明は、ワークが一時的に配置される前室と、前記前室から連続するように配置され、焼入用の油が貯留する油槽と、前記ワークを移動させて前記油槽の前記油に浸漬させる焼入用移動装置と、前記前室から連続するように配置され、常圧又は該常圧よりも高圧下でワークを加熱する浸炭室と、外部空間と前記前室をつなぐ前室出入口を開閉可能に配置され、閉状態で前記前室出入口を気密に閉鎖する前室出入扉と、外部空間と前記前室の間で前記前室出入口を介してワークを搬入・搬出する前室搬送装置と、前記前室と前記浸炭室をつなぐ前室第二出入口を開閉可能に配置され、閉状態で前記前室第二出入口を気密に閉鎖する前室第二出入扉と、前記前室と前記浸炭室の間で前記前室第二出入口を介してワークを移動する浸炭室搬送装置と、前記浸炭室に、キャリアガス、及び、該キャリアガスよりもワークに吸着しやすい鎖式不飽和炭化水素を含む浸炭ガスを供給する原料ガス供給装置と、前記前室出入扉及び前記前室第二出入扉が閉状態となる前記前室の内部気体を吸引して負圧状態とする負圧生成源と、前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を常圧又は該常圧よりも高圧下に復圧状態とするパージガス供給装置と、を備えることを特徴とするガス浸炭装置である。
【0014】
上記ガス浸炭装置に関連して、前記キャリアガスが窒素であり、前記鎖式不飽和炭化水素がアセチレンであることを特徴としてもよい。
【0015】
上記ガス浸炭装置に関連して、前記パージガスが窒素であることを特徴としてもよい。
【0016】
上記ガス浸炭装置に関連して、さらに制御装置を備え、前記制御装置は、前記前室出入扉を開状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記前室搬送装置によって前記外部空間から前記前室に前記前室出入口を介してワークを搬入する前室搬入処理部と、前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記負圧生成源を制御して前記ワークが搬入された前記前室を負圧状態とし、且つ、前記パージガス供給装置を制御して前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする前パージ処理部と、前記原料ガス供給装置を制御して、前記浸炭室に前記キャリアガスを供給して、前記浸炭室を前記キャリアガスでパージする浸炭室パージ処理部と、前記事前パージ処理部による前記前室のパージ処理、及び、前記浸炭室パージ処理部による前記浸炭室のパージ処理の終了後、前記前室第二出入扉を開状態とし、前記浸炭室搬送装置と、前記前室の前記ワークを前記浸炭室に移動させる浸炭室搬入処理部と、前記浸炭室のヒータを制御して前記ワークを加熱し、かつ、前記原料ガス供給装置を制御して加熱中の前記浸炭室に前記キャリアガス及び前記浸炭ガスを供給して、前記ワークを浸炭するガス浸炭処理部と、前記ガス浸炭処理部において少なくとも前記浸炭ガスの供給を停止した後、前記前室第二出入扉を開いて、前記浸炭室搬送装置によって、前記浸炭室内の前記ワークを前記前室に移動させる浸炭室搬出処理部と、を有することを特徴としてもよい。
【0017】
上記ガス浸炭装置に関連して、前記制御装置において、前記事前パージ処理部と、前記浸炭室パージ処理部が同時に実行されることを特徴としてもよい。
【0018】
上記ガス浸炭装置に関連して、前記制御装置は、前記浸炭室搬出処理によって前記前室に存在する前記ワークを、前記焼入用移動装置によって前記油槽の前記油に浸漬させる焼入処理部と、前記焼入処理部による前記ワークの焼入処理が完了した後、前記焼入用移動装置によって前記ワークを前記前室に移動させて油切を行う油切処理部と、前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記負圧生成源を制御して、前記焼入処理部による焼入処理中の前記前室及び/又は前記油切処理部による油切処理中の前記前室を負圧状態とし、且つ、前記パージガス供給装置を制御して前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする後パージ処理部と、前記後パージ処理部における前記復圧状態完了後、前記前室出入扉を開状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記前室搬送装置によって前記前室から前記外部空間に前記前室出入口を介してワークを搬出する前室搬出処理部と、を有することを特徴としてもよい。
【0019】
上記ガス浸炭装置に関連して、前記制御装置におけるガス浸炭処理部は、前記浸炭ガスの流量が50(L/min)以下となるように流量を制御してもよい。
【0020】
上記目的を達成する本発明は、外部空間と前室の間に配置される前室出入扉を開状態、且つ、前記前室と浸炭室の間に配置される前室第二出入扉を閉状態とし、前記外部空間から前記前室にワークを搬入する搬入工程と、前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、負圧生成源によって、前記ワークが搬入された前記前室を負圧状態とし、該負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする前パージ工程と、前記浸炭室にキャリアガスを供給して、前記浸炭室を前記キャリアガスでパージする浸炭室パージ工程と、前記前パージ工程による前記前室のパージ処理、及び、前記浸炭室パージ工程による前記浸炭室のパージ処理の終了後、前記前室第二出入扉を開状態とし、前記前室の前記ワークを前記浸炭室に移動させる浸炭室搬入工程と、前記浸炭室で前記ワークを加熱し、かつ、前記浸炭室に前記キャリアガス及び該キャリアガスよりもワークに吸着しやすい鎖式不飽和炭化水素を含む浸炭ガスを供給して、前記ワークを浸炭するガス浸炭工程と、前記ガス浸炭工程において少なくとも前記浸炭ガスの供給を停止した後、前記前室第二出入扉を開いて、前記浸炭室内の前記ワークを前記前室に移動させる浸炭室搬出工程と、を備えることを特徴とするガス浸炭方法である。
【0021】
上記ガス浸炭方法に関連して、前記中間搬出工程によって前記前室に存在する前記ワークを、該前室からつながる油槽の油に浸漬させる焼入工程と、前記焼入工程による前記ワークの焼入処理が完了した後、前記ワークを前記前室に移動させて油切を行う油切工程と、前記前室出入扉を閉状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記焼入工程による焼入処理中の前記前室及び/又は前記油切工程による油切処理中の前記前室を前記負圧生成源によって負圧状態とし、その後、前記負圧状態となる前記前室にパージガスを供給して、前記前室を復圧状態とする後パージ工程と、前記後パージ工程において前記前室が前記復圧状態となってから、前記前室出入扉を開状態且つ前記前室第二出入扉を閉状態とし、前記前室から前記外部空間に前記ワークを搬出する搬出工程と、を備えることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のガス浸炭装置及びガス浸炭方法によれば、原料ガスの使用量を抑制し、かつ、操業中の安全性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るガス浸炭装置の正面図である。
図2】同ガス浸炭装置における図1のII-II矢視断面図である。
図3】(A)~(C)は同ガス浸炭装置の制御装置の内部構成を示すブロック図である。
図4】(A)及び(B)は同ガス浸炭装置の動作状況を示す正面図である。
図5】(A)及び(B)は同ガス浸炭装置の動作状況を示す正面図である。
図6】(A)及び(B)は同ガス浸炭装置の動作状況を示す正面図である。
図7】(A)及び(B)は同ガス浸炭装置の動作状況を示す正面図である。
図8】(A)及び(B)は同ガス浸炭装置の浸炭処理及び焼入処理のタイムチャートである。
図9】(A)及び(B)は従来のガス浸炭装置の動作状況を示す正面図である。
図10】従来のガス浸炭装置の動作状況を示す面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して説明する。図1図2は本発明を実施する形態の一例である。
【0025】
(全体構成)
図1に示すように、ガス浸炭装置1は、外部領域Jと、前室60と、前室60の下方に設けられる油槽70と、前室60に隣接して配置される浸炭室10を備える。ワークWの搬入経路Hinは、外部領域J、前室60、浸炭室10の順番となる。ワークWの搬出経路Houtは、浸炭室10、前室60、油槽70、前室60、外部領域Jの順番となる。
【0026】
前室60における搬入経路Hinの手前側には、開口となる前室出入口60aが形成されており、この前室出入口60aには、開閉自在の前室出入扉50が配置される。前室出入扉50は、前室出入口60aを閉じることで、前室出入口60aを気密状態(気体が流通しない状態)する。
【0027】
前室60と浸炭室10間には、これらを繋ぐ接続路65が配置される。前室60における搬入経路Hinの奥側、即ち、接続路65における前室60側には、開口となる前室第二出入口60bが形成されており、前室第二出入口60bには、開閉自在の前室第二出入扉66が配置される。前室第二出入扉66は、前室第二出入口60bを閉じることで、前室第二出入口60bを気密状態(気体が流通しない状態)する。浸炭室10における搬入経路Hinの手前側、即ち、浸炭室10と接続路65の境界には、開口となる浸炭室出入口10xが形成されており、この浸炭室出入口10xには、開閉自在の断熱扉84が配置される。断熱扉84は、浸炭室10の熱が、前室60に伝達することを抑制する。
【0028】
前室60及び油槽70には、焼入用移動装置に相当する昇降装置90が配置される。昇降装置90は、ワークW及び搬送トレイCを、前室60及び油槽70の間で昇降できる。
【0029】
(外部領域)
外部領域Jには、前室搬送装置80が配置される。前室搬送装置80は、ワークWが載置される搬送トレイCを案内するローラコンベア80aと、搬送トレイCの係合部Cxを把持するフック80bと、フック80bを前室60に向かって往復移動させるプッシュプルチェーン80cと、スプロケットを介してプッシュプルチェーン80cを駆動する駆動源80d有する。この前室搬送装置80によって、外部領域Jに配置される搬送トレイCを、前室出入口60aを介して前室60に搬入したり、前室60の配置される搬送トレイCを外部領域Jに搬出したりできる。
【0030】
(前室出入扉)
前室出入扉50は、いわゆる真空扉となっており、往復駆動源となるエアーシリンダ52によって開閉される。なお、特に図示しないが、エアーシリンダ52によって前室出入扉50が前室出入口60aを閉じる際に、前室出入扉50を前室出入口60aに押圧することで、気密状態が高められる押圧構造(例えば平行リンク構造やスライド機構)が採用されることが好ましい。
【0031】
(前室第二出入扉)
前室第二出入扉66は、いわゆる真空扉となっており、往復駆動源となるエアーシリンダ67によって開閉される。なお、特に図示しないが、エアーシリンダ67によって前室第二出入扉66が前室第二出入口60bを閉じる際に、前室第二出入扉66を前室第二出入口60bに押圧することで、気密状態が高められる押圧構造(例えば平行リンク構造やスライド機構)が採用されることが好ましい。
【0032】
(前室)
前室60は、耐圧性を有する金属製の容器で形成される。前室60には、搬送トレイCを搬入経路Hinまたは搬出経路Houtに沿って案内するガイドレール64が配置される。なお、ガイドレール64の一部は、昇降装置90のエレベータ本体92内に配置される。前室出入扉50と前室第二出入扉66を閉じると、前室60全体が気密空間となる。前室60には、脱気流路62aを介して及び真空ポンプ(負圧発生源)62bが接続される。この真空ポンプ62bによって、前室60内の気体を吸引(脱気)することで、前室60を負圧状態にできる。なお、特に図示しないが、真空ポンプ62bから先の排気経路には、排気ガス中に含まれる油分を吸着するフィルタ等が設けられてもよい。脱気流路62aの途中には、電磁弁となる開閉弁62cが設けられており、脱気時に開放される。
【0033】
(断熱扉)
浸炭室出入口10xに設置される断熱扉84は、断熱材によって構成されており、往復駆動源となるチェーン86a及び駆動機構86b(例えばウインチ)によって開閉制御される。
【0034】
(パージガス供給装置)
前室60には、パージガス供給装置63が接続される。パージガス供給装置63は、一端が前室60に接続されるパージ流路63aと、パージ流路63aの他端に接続されるパージガス源(ここではキャリアガスと同じ窒素供給源26を兼用)と、パージ流路63aの途中に配置される開閉弁63cを備える。開閉弁63cは電磁弁である。パージガス供給装置63は、真空ポンプ62bによって脱気されて負圧状態となった前室60に、パージガス(ここでは窒素ガス)を供給し、このパージガスによって、前室60を常圧または常圧よりも高圧の状態に復帰させる(これを「復圧状態」と定義する)。
【0035】
(油槽)
油槽70は、ワークWに焼入処理を行うための急冷用の油が貯留される。油槽70は、図2に示すように、油を加熱するヒータ72と、油を撹拌する撹拌機73と、油を冷却する熱交換器74を備える。これらによって油を所定の温度に調節できるようになっている。
【0036】
(昇降装置)
昇降装置90は、前室60及び油槽70の間に設置される。昇降装置90は、鉛直(垂直)方向に延びるレール93と、レール93によって鉛直(垂直)方向に案内されるエレベータ本体92と、エレベータ本体92を上下動させる駆動機構94を備える。なお、駆動機構94は、エレベータ本体92に接続される昇降ワイヤ、昇降ワイヤを巻き取る電動の駆動機構等を有している。エレベータ本体92内には、搬送トレイCを案内または保持するガイドレール64が配置される。昇降装置90によって、エレベータ本体92が前室60と油槽70の間を往復移動できる。
【0037】
(浸炭室搬送装置)
油槽70内及び前室60によって構成される内部空間には、浸炭室搬送装置85が配置される。浸炭室搬送装置85は、前室60のガイドレール64に保持される搬送トレイCを案内するローラコンベア85aと、搬送トレイCの係合部Cxを把持するフック85bと、フック85bを前室60及び浸炭室10の間で往復移動させるプッシュプルチェーン85cと、スプロケットを介してプッシュプルチェーン85cを駆動する駆動源85dを有する。なお、本実施形態では、浸炭室搬送装置85の一部が油槽70内に配置されることで、搬送トレイCとの干渉を回避する。この浸炭室搬送装置85によって、前室60に配置される搬送トレイCを、ガイドレール64に沿って、前室第二出入口60b及び浸炭室出入口10xを介して浸炭室10に搬入したり、浸炭室10の配置される搬送トレイCを前室60に搬出したりできる。
【0038】
(浸炭室)
浸炭室10は、浸炭室内10aのワークWを加熱する加熱装置12と、浸炭室内10aに設けられた撹拌機16を備える。浸炭室内10aには、ガイドレール64が配置されており、このガイドレール64上に、搬送トレイCを介してワークWが配置される。なお、搬送トレイC上に設置される(あるいは搬送トレイそのものとなる)多段の架台11(図4(A)参照)によって、複数のワークWを、上下方向および水平方向に並べて搬送できる。ワークWは低炭素鋼等の鋼である。浸炭室内10aの内壁には浸炭室内10aの温度を保つように不図示の断熱材が設けられる。さらに浸炭室10には、浸炭室内10aの雰囲気ガスを炉外に排出する不図示の排出口が設けられており、浸炭中に、浸炭室内10aを常圧(略大気圧:101〔kPa〕程度)または常圧よりも高圧状態に維持する。加熱装置12は、浸炭室内10aを加熱するヒータ12aとなる。このヒータ12aは、水平方向に間隔をあけて配置される。ヒータ12aとしては、例えばラジアントチューブヒーター等が用いられるが、これに限定されるものではない。撹拌機16は、浸炭室内10a天井面に設けられ、浸炭室内10aの雰囲気ガスを撹拌する例えば遠心ファンとなる。浸炭室10には、浸炭室内10aをキャリアガスでパージする際に、浸炭室内10aの気体を排気するための排気路29及び開閉弁29aを設けることが好ましい。なお、浸炭室10は、浸炭室内10aの内圧を維持・制御して、キャリアガスの使用量を減らすために、気密構造(圧力室)であることが望ましい。
【0039】
(原料ガス供給装置)
浸炭室10には、浸炭室内10aに各種のガスを供給する原料ガス供給装置20が接続される。原料ガス供給装置20は、浸炭ガスが流通する浸炭ガス系統21と、キャリアガスが流通するキャリアガス系統22と、これらの系統21、22を流れる各ガスを浸炭室内10aまで供給する浸炭室内供給系統24とを有している。さらに原料ガス供給装置20は、浸炭ガス系統21に接続された炭化水素供給源25と、キャリアガス系統22に接続された窒素供給源26を有している。ここで本実施形態では、浸炭ガスに含まれる炭素をワークWに直接侵入させるダイレクトな浸炭を常圧下で行うため、「エンリッチガス」ではなく「浸炭ガス」との用語を用いている。
【0040】
(炭化水素供給源)
炭化水素供給源25は、浸炭ガスとして、鎖式不飽和炭化水素を含む炭化水含有ガスを発生する。炭化水含有ガス中の鎖式不飽和炭化水素としてはアセチレンが例示される。アセチレン以外にも、プロピン(CH3C≡CH)や1-ブチン(CH3CH2C≡CH)等の三重結合を有するその他の鎖式不飽和炭化水素を使用するようにしてもよいし、例えばエチレン(H2C=CH2)やブタジエン(CH2=CH-CH=CH2)等の二重結合を有するその他の鎖式不飽和炭化水素を使用するようにしてもよい。複数種類の鎖式不飽和炭化水素を混合してもよい。但し、分子量が増すと安定性が減少して煤が発生しやすくなる点、三重結合を有する方が反応性に富む点、および入手の容易さ等を考慮すると、鎖式不飽和炭化水素としてアセチレンを使用することが好ましい。アセチレンは、例えば純度95容量%以上を使用することが好ましく、さらに望ましくは純度98容量%以上とする。炭化水素含有ガスには、鎖式不飽和炭化水素以外の不純物が含まれていてもよいが、この不純物は少ない方が好ましい。したがって例えば鎖式不飽和炭化水素がアセチレンである場合、炭化水素供給源25ではアセトンやジメチルホルムアミド(DMF)等の溶剤を使用して炭化水素含有ガスを生成するものではないことが好ましい。
【0041】
(浸炭ガス系統)
図1に示すように浸炭ガス系統21は、炭化水素供給源25に接続された供給配管21aと、供給配管21aに設けられた開閉弁21bおよび流量計21cとを有している。供給配管21aには炭化水素供給源25に接続されて炭化水素供給源25からの浸炭ガスが流通する。開閉弁21bは電磁弁であって、供給配管21aの途中に設けられている。開閉弁21bによって流路の開閉とともに浸炭ガスの流量の調整が行なわれる。流量計21cは開閉弁21bの下流側で供給配管21aに設けられて供給配管21aを流通する浸炭ガスの流量を計測する。なお開閉弁21bは流路の開閉のみを行い、開閉弁21bとは別に浸炭ガスの流量を調整する流量調整弁(不図示)を設け、流量計21cの数値を確認しながら手動で浸炭ガスの流量調整を行ってもよい。
【0042】
(窒素供給源)
窒素供給源26は、窒素(不活性ガス)を含有する窒素含有ガスを生成する。この窒素含有ガスがキャリアガスとなる。窒素供給源26は、本実施形態ではPSA方式の窒素ガス発生装置であるガス分離装置26aを有している。ガス分離装置26aは圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption;PSA)により空気中から窒素を分離して窒素含有ガスを生成する。このため、窒素含有ガスは窒素に加えて窒素以外の不純物として酸素を含んでいる。なお、キャリアガスガスとなる窒素含有ガスは、全体に対する窒素の体積パーセントが99.00%以上となることが好ましい。更に、窒素含有ガス中の酸素の体積パーセントが0.010%以上1.00%以下となるようにすることが好ましい。
【0043】
(キャリアガス系統)
キャリアガス系統22は供給配管22aと開閉弁22bと流量計22cを有する。供給配管22aの第一端が浸炭ガス添加用のガス混合器27に接続され、供給配管22aの第二端が浸炭室内供給系統24の接続部40に接続される。キャリアガス系統22は、更にガス混合器27を有する。このガス混合器27は、開閉弁22bおよび流量計22cの上流側に設けられ、窒素供給源26のキャリアガス(窒素ガス)に対し、必要に応じて、微量の浸炭ガスを添加する役割を担う。ガス混合器27は、流量計27aから出力される添加用の浸炭ガス流量を参照して、浸炭ガスの添加量を調節できるようになっている。本実施形態では、浸炭室10に酸素が進入することが抑制されているため、通常運転では浸炭ガスの添加は不要である。何らかの事象で浸炭室10に酸素や水が進入した場合、キャリアガスに浸炭ガスを微量添加することでこれらを減少させる。例えば、液体窒素以外の原料をキャリアガスとして用いる場合、窒素に微量の酸素が含まれてしまう可能性があることから、キャリアガスに少量のアセチレンを添加することで、キャリアガス自体による酸化を抑制できる。
【0044】
具体的に、浸炭室10内に進入した水(水蒸気)は、浸炭室内10aで分解して水素と共に酸素を生成し得るが、キャリアガスに、微量のアセチレンを添加することで、次の(1)式のようにアセチレンと水を反応させることができ、一酸化炭素および水素を生成させる。これにより、浸炭室内10aの水分濃度を減少させる。
+2HO→2CO+3H ・・・(1)
また、浸炭室内10aに進入した酸素は、ワークWの表面に優先的に吸着して浸炭を阻害する要因となる。しかし、次の(2)式のように、キャリアガスに微量添加されるアセチレンが、酸素と反応して一酸化炭素および水素を生成させる。よって、混合ガス中のアセチレンの混合量を調整することで、浸炭室内10aの酸素濃度をコントロールできる。
+O→2CO+H ・・・(2)
なお、浸炭ガスの添加量は、キャリアガス(窒素含有ガス)の体積に比べて十分小さいことが好ましく、例えば、キャリアガスに対して0.1容積%以上3.0容積%以下であるとよい。
【0045】
供給配管22aには、キャリアガス(ガス混合器27で微量の浸炭ガスが添加されたキャリアガス)が流通する。このキャリアガスは、浸炭室内供給系統24の接続部40に案内される。開閉弁22bは電磁弁であって、供給配管22aの途中に設けられる。開閉弁22bによって流路の開閉とともにキャリアガスの流量の調整が行なわれる。流量計22cは開閉弁22bの下流側で供給配管22aに設けられて供給配管22aを流通するキャリアガスの流量を計測する。なお開閉弁22bは流路の開閉のみを行い、開閉弁22bとは別にキャリアガスの流量を調整する流量調整弁(不図示)を設け、流量計22cの数値を確認しながら手動でキャリアガスの流量調整を行ってもよい。
【0046】
なお、浸炭室内10aにキャリアガスのみを供給する場合、ガス混合器27を停止させつつ、キャリアガス系統22の開閉弁22bを開放し、浸炭ガス系統21の開閉弁21bは閉塞すればよい。キャリアガスの供給流量は、特に限定されるものではなく、浸炭室内10aの容積やワークWの表面積、ワークWに必要な硬化深さ等に応じて適宜に設定すればよい。
【0047】
(浸炭室内供給系統)
浸炭室内供給系統24は、接続部40と、接続部40から二俣に分岐する第一分岐部41と第二分岐部42とを有している。接続部40の上流側には、浸炭ガス系統21における供給配管21a及びキャリアガス系統22の供給配管22aが接続される。接続部40の途中にはミキサー49が設けられる。ミキサー49は、上流の浸炭ガス系統21から供給される浸炭ガス及びキャリアガス系統22から供給されるキャリアガスを混合する機能を有する。
【0048】
第一分岐部41の先端には第一ガス供給ノズル43が、第二分岐部42の先端には第二ガス供給ノズル44が設けられている。第一ガス供給ノズル43は浸炭室10の上部に設けられている。第一ガス供給ノズル43は浸炭室10の浸炭室内10aに開口する第一供給口43aを有する。第二ガス供給ノズル44は浸炭室10の下部に設けられている。この第二ガス供給ノズル44は浸炭室10の浸炭室内10aに開口する第二供給口44aを有する。第一供給口43aからは、浸炭ガス系統21からの浸炭ガスが下方に向けて噴出(または流出)される。また第二供給口44aからは、浸炭ガス系統21からの浸炭ガスが上方に向けて噴出される。
【0049】
第一分岐部41および第二分岐部42には、それぞれ開閉弁41a、42aおよび流量計41b、42bが設けられている。これら開閉弁41a、42aは電磁弁であって、第一分岐部41および第二分岐部42を流通するガスの流量を調整することで、第一分岐部41と第二分岐部42とを流れるガスの流量の比率を調整可能となっている。第一分岐部41と第二分岐部42とのうちのいずれか一方のみに開閉弁41a、42aを設けてもよい。また、開閉弁41a、42aでは流路の開閉のみを行い、開閉弁41a、42aとは別に第一分岐部41および第二分岐部42を流通するガスの流量を調整する流量調整弁(不図示)を設け、流量計41b、42bの数値を確認しながら手動で第一分岐部41および第二分岐部42を流通するガスの流量調整を行ってもよい。
【0050】
ここで図示は省略するが、浸硫浸炭および浸硫浸炭窒化を行うため、原料ガス供給装置20はさらに、浸炭室内10aに硫化水素ガスを供給する硫化水素供給源および硫化水素ガス供給系統を有していてもよい。原料ガス供給装置20はさらに、原料ガスとして、アンモニアを追加供給することもできる。
【0051】
(制御装置)
制御装置30は、プロセッサ等を有するコンピュータであり、ガス浸炭装置1の全体を制御する。図3(A)に示すように、制御装置30は、各種プログラムが実行されるCPU(中央演算装置)31、CPU31で必要とする情報を一時的に展開するメモリ32、プログラムや各種データが保存される情報記憶媒体33、各種制御対象機器との通信を行う通信インターフェース34等を備える。
【0052】
(制御装置の個別機能)
図3(B)に、制御装置30の制御プログラムによって実現される制御対象機器の個別制御機能を示す。制御装置30は、前室搬送装置80によるワークWの搬送を制御する前室搬送処理部310、エアーシリンダ52を制御して前室出入扉50を開閉する前室出入扉開閉処理部312、浸炭室搬送装置85によるワークWの搬送を制御する浸炭室内搬送処理部314、エアーシリンダ67を制御して前室第二出入扉66を開閉する前室第二出入扉開閉処理部316、真空ポンプ62bを制御して前室60の負圧状態を制御する前室脱気処理部318、パージガス供給装置63を制御して前室60に窒素ガスを供給する前室パージ処理部320、昇降装置90を制御してワークWを油槽70に浸漬させる油槽昇降処理部322、油槽70のヒータ72を制御する油槽ヒータ処理部324、油槽70の熱交換器74を制御する油槽冷却処理部326、油槽70の撹拌機73を制御する油槽撹拌処理部328、駆動機構86bを制御して断熱扉84を開閉する断熱扉開閉処理部330、浸炭室10の撹拌機16を制御する浸炭室内撹拌処理部332、浸炭室10の加熱装置12を制御する浸炭室内ヒータ処理部334、原料ガス供給装置20の開閉弁22bを制御してキャリアガスの供給量を制御するキャリアガス制御部336、原料ガス供給装置20の開閉弁21bを制御して浸炭ガスの供給量を制御する浸炭ガス制御部338と、を有する。
【0053】
(制御装置の統合機能)
図3(C)に、制御装置30の制御プログラムによって実現される制御対象機器の統合制御機能を示す。制御装置30は、統合制御機能として、前室搬入処理部360、前パージ処理部364、浸炭室準備処理部368、浸炭室搬入処理部372、浸炭処理部376、浸炭室搬出処理部380、焼入処理部384、油切処理部388、後パージ処理部392、前室搬出処理部396、全自動処理部398を有する。なお、これらの統合制御機能は、上記個別制御機能と連動することで、統合制御を実現している。以下、各統合制御機能について、動作図を参照しながら説明する。
【0054】
(前室搬入処理部)
前室搬入処理部360は、図4(A)に示すように、前室出入扉50を開状態、且つ、前室第二出入扉66を閉状態とし、外部領域Jから前室60にワークWを搬入する。なお、搬入時には、外部の空気(酸素、窒素、水)が、前室60に進入する。
【0055】
(前パージ処理部)
前室搬入処理部360の後に実行される前パージ処理部364は、図4(B)に示すように、前室出入扉50を閉状態且つ前室第二出入扉66を閉状態とし、真空ポンプ(負圧発生源)62bによって、5分以上且つ30分以下、好ましくは10分以上且つ20分以下で、ワークWが搬入された前室60の内部気体を吸引することで、進入した空気を排出しながら負圧状態とする。前室搬入処理部360は、その後、負圧状態となる前室60にパージガス(窒素ガス)を供給して、前室60を常圧または常圧よりも高圧状態に復圧する。結果、前室60はパージガス(窒素ガス)で満たされる。なお、前室60の内部空間は、準備温度Tとなっていることから、搬入されるワークWも準備温度Tに維持される。
【0056】
(浸炭室準備処理部)
浸炭室準備処理部368は、浸炭室10にキャリアガス(窒素ガス)を供給して、浸炭室10をキャリアガスでパージする(浸炭室パージ工程)。結果、浸炭室10はパージガス(窒素ガス)で満たされる。更に浸炭室準備処理部368は、浸炭室10を、800℃以上となる浸炭温度T図8参照)に加温しておき、ワークWの搬入を待つ。例えば浸炭温度Tとして880℃~950℃の範囲で制御しておくことが好ましく、更に望ましくは900℃~930℃に制御する。なお、浸炭室準備処理部368は、前パージ処理部364のパージ処理と同時またはそれよりも前に実行されることが好ましい。
【0057】
(浸炭室搬入処理部)
浸炭室搬入処理部372は、前パージ処理部364及び浸炭室準備処理部368が完了してから実行される。浸炭室搬入処理部372は、図5(A)に示すように、前室出入扉50を閉状態としたままで、前室第二出入扉66及び断熱扉84を開状態とし、前室60のワークWを浸炭室10に移動させる。この際、前室60の窒素ガスと浸炭室10の窒素ガスが互いに混ざり合う。
【0058】
(浸炭処理部)
浸炭室搬入処理部372に続いて実行される浸炭処理部376は、図5(B)に示すように、前室第二出入扉66及び断熱扉84を閉状態とし、ワークWを加熱しながら、浸炭室10にキャリアガス(窒素ガス)及び浸炭ガス(アセチレン)を供給して、ワークWを浸炭処理する。なお、浸炭処理が完了したら、浸炭処理部376は浸炭ガスの供給を停止し、キャリアガスのみを供給する。
【0059】
浸炭処理のタイムチャートを図8(A)に示す。浸炭処理部376は、予め設定された浸炭温度Tで浸炭室内10aを維持している。前室60で準備温度Tに調整されるワークWを浸炭室内10aに搬入すると、ワークWは、浸炭温度Tまで素早く昇温する(昇温時間t)。ワークWが浸炭温度(浸炭に適した温度)に到達したら、更に、浸炭温度を維持するように加熱装置12を制御する。そして、浸炭温度によって予め設定された均熱時間tが経過したならば、浸炭ガス系統21の開閉弁21bを制御して、浸炭室内10aへの浸炭ガスの供給を開始する。これにより、キャリアガスと浸炭ガスの混合ガスが浸炭室内10aに供給される。この間も浸炭室内10aは常圧下に維持される。浸炭処理中において、キャリアガスの時間当たりの流量は、浸炭室内10aの容積の0.5~5.0倍に制御することが好ましい。また、浸炭ガスの流量は、ワークWの表面積を考慮しつつ、5~50(L/min)で制御することが好ましい。
【0060】
浸炭ガスの供給は、予め設定された浸炭時間t中に連続的または断続的に行われる。断続的に供給する場合、図8(B)に示すように、浸炭処理部376は予め設定された開放時間to(例えば、120秒)の開閉弁21bの開放を、予め設定された供給間隔Io(例えば、300秒)で、予め設定された繰り返し回数nだけ繰り返す。なお、ここで供給間隔Ioとは、開閉弁21bを開くタイミングの間隔のことであり、開放時間toの経過後に開閉弁21bを閉じてから次に開くまでの間隔(開閉弁21bが閉じている時間)のことではない。このように、浸炭処理部376は、浸炭ガスを断続的(パルス的)に浸炭室内10aに供給することで、過剰浸炭の発生を抑制することができる。同時に、ワークWに対する炭素の供給過剰が抑制され、ワークW内での炭素の拡散を促進できるため、局部的な浸炭ムラの発生を低減できる。スーティングの発生も防止することができる。
【0061】
浸炭ガスの供給をn回行ったならば、浸炭処理部376は、予め設定された拡散時間tの間、キャリアガスのみを供給する状態で浸炭室内10aを浸炭温度Tに保持する。この間、ワークW中に侵入した炭素が適宜に拡散し、所望の厚み(深さ)の硬化層が形成される。拡散時間tが経過したならば、浸炭処理部376は、加熱装置12を制御して予め設定された焼入保持温度Tまで浸炭室内10aを降温する(降温時間t)。焼入保持温度Tは、800℃~880℃の範囲内が好ましく、更に望ましくは830℃~850℃の範囲内とする。そして、予め設定された焼入保持時間tの間、浸炭室内10aの温度を焼入保持温度Tに維持するように、加熱装置12を制御する。その後、ワークWが前室60に搬出されたら、次回の浸炭処理に備えるため、浸炭温度Tに復帰させる。
【0062】
なお、浸炭処理中は、第一分岐部41を流通するガスの体積流量の方が第二分岐部42を流通するガスの体積流量よりも大きくなるように第一分岐部41の開閉弁41a、および第二分岐部42の開閉弁42aを制御することが好ましい。これにより、第一供給口43aから下方に向かって浸炭室内10aに噴出(または流出)される混合ガスの体積流量の方が、第二供給口44aから上方に向かって浸炭室内10aに噴出されるキャリアガスの体積流量よりも大きくなり、浸炭室内10aに循環流が形成されやすくなる。
【0063】
(浸炭室搬出処理部)
浸炭処理部376に続いて実行される浸炭室搬出処理部380は、図6(A)に示すように、前室第二出入扉66及び断熱扉84を開いて、浸炭室10のワークWを前室60に移動させる。この際、浸炭室10と前室60は、既に窒素ガスで満たされているので、両空間の窒素ガスが互いに混ざり合う。ワークWの移動が完了したら、前室第二出入扉66及び断熱扉84を閉じる。
【0064】
(焼入処理部)
浸炭室搬出処理部380に続いて実行される焼入処理部384は、図6(B)に示すように、前室60に存在するワークWを、前室60からつながる油槽70の油に浸漬させて急冷する(焼入処理)。この際、油が気化して油煙となり、前室60を満たすことになる。図8のタイムチャートに示すように、ワークWは、油槽70内に油焼入時間tの間浸漬される。なお、油槽70内の油は、予め設定された焼入温度Tに保持されている。焼入温度Tは、50℃~200℃の範囲が好ましい。例えばコールド油の場合は60℃前後、セミホット油の場合は120℃前後、ホット油の場合は150℃前後が一般的である。
【0065】
(油切処理部)
焼入処理部384に続いて実行される油切処理部388は、図7(A)に示すように、ワークWを油槽70から前室60に移動させてしばらく静置することで油切を行う。
【0066】
(後パージ処理部)
焼入処理部384または油切処理部388続いて実行される後パージ処理部392は、既に閉状態となっている前室出入扉50及び前室第二出入扉66を閉状態に維持したまま、ワークWを焼入処理中の前室60及び/又は油切処理中の前室60の気体を、真空ポンプ(負圧発生源)62bによって吸引することで、窒素ガス及び気化した油(油煙)を排出しながら負圧状態とし、その後、負圧状態となる前室60にパージガス(窒素ガス)を供給して、前室60を常圧または常圧よりも高圧状態に復圧する。結果、前室60は、再度、パージガス(窒素ガス)のみで満たされる。
【0067】
(前室搬出処理部)
後パージ処理部392に続いて実行される前室搬出処理部396は、図7(B)に示すように、前室出入扉50を開状態且つ前室第二出入扉66を閉状態とし、前室60から外部領域JにワークWを搬出する。
【0068】
(全自動処理部)
全自動処理部398は、上述の統合管理機能を連続実行することで、自動的な連続操業を実現する。具体的には、前室搬入処理部360、前パージ処理部364、浸炭室準備処理部368、浸炭室搬入処理部372、浸炭処理部376、浸炭室搬出処理部380、焼入処理部384、油切処理部388、後パージ処理部392、前室搬出処理部396を、上述の順番で自動的に繰り返す(ループ処理する)ようになっている。
【0069】
以上の通り、本実施形態のガス浸炭装置1では、前室60と浸炭室10が、気密性の高い前室第二出入扉66と、断熱性の高い断熱扉84によって仕切られている。従って、外部領域Jから前室60にワークWを搬入する際に、前室第二出入扉66及び断熱扉84を閉じておくことで、外気が浸炭室10に進入することを回避できる。
【0070】
またガス浸炭装置1では、前室60が、気密性の高い前室出入扉50及び前室第二出入扉66で仕切られている。従って、外部領域Jから前室60にワークWを搬入した後、前室出入扉50及び前室第二出入扉66を閉じてから、室内の酸素や水分を真空ポンプ(負圧発生源)62bで排気することができるので、前室60に、酸素等が残留することを回避できる。
【0071】
またガス浸炭装置1では、前室60から浸炭室10にワークWを搬入する前に、あらかじめ、前室60をパージガスでパージして常圧またはそれ以上の圧力に復圧する。これと同時に、浸炭室内10aもキャリアガス(窒素ガス)でパージして常圧またはそれ以上の圧力に維持される。従って、ワークWを前室60から浸炭室10へ搬入する際、浸炭室内10aの雰囲気ガスに、酸素や水分がほとんど混入しない。従って、浸炭室10側においても、ワークWが搬入される前に、浸炭温度T図8参照)に加温しておくことができるので、素早く浸炭処理を開始することができ、浸炭品質を高めることができる。特に本実施形態では、前室60のパージガスとして、浸炭室10のキャリアガスと同一のガスを採用しているので、ワークW搬入中に、互いのガスが混ざり合っても、浸炭室内10aのキャリアガスに悪影響が生じないで済む。
【0072】
ガス浸炭装置1では、浸炭室内10aを常圧または常圧よりも高圧状態で浸炭処理を行っている。結果、浸炭処理中に、浸炭室内10aに外気(酸素)が吸い込まれないので、浸炭品質を高めることができる。この際、浸炭室内10aの圧力を常圧(大気圧)よりも若干高い圧力として浸炭を行うようにしてもよい。常圧よりも若干高い圧力とは、常圧の+10%の圧力であるとよく、常圧の+5%の圧力であるとより好ましく、常圧の+1%の圧力であるとさらに好ましい。
【0073】
更に、ガス浸炭装置1では、浸炭処理が完了したワークWを浸炭室10から前室60に搬出する際、前室60側は、パージガス及び/またはワークWを浸炭室10に搬入したときに混ざりこんだキャリアガスで満たされている。結果、前室60に搬出されたワークWに、新たな酸素や水分が付着することがない。結果、焼入処理において、ワークWの浸炭品質の低下を回避できる。
【0074】
更にまた、ガス浸炭装置1では、焼入処理及び油切り処理が完了したワークWを、前室60から外部領域Jに搬出する前に、前室60内の雰囲気ガスを、真空ポンプ62bによって排気し、パージガス(窒素ガス)に置換しているので、外部領域J側に、可燃性ガスや気化した油分等が排気されないで済む。従って、従来のガス浸炭装置のレームカーテン用バーナーを設ける必要がなくなり、二酸化炭素の排出量が抑制され、安全な連続操業を実現できる。結果、本ガス浸炭装置1では、制御装置30によって、自動化された連続操業が可能となる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0076】
例えば上記の実施形態では、浸炭ガス及びキャリアガスは第一分岐部41と第二分岐部42とから浸炭室内10aに供給されているが、単一の流路から供給してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、キャリアガスで浸炭室内10a内に存在するガスをパージする場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、前室60のパージガスを、接続路65を介して浸炭室内10aに導入して、浸炭室内10aの不純物を追い出すようにしてもよい。
【0078】
また、窒素供給源26では圧力スイング吸着法ではない方法を用いて窒素含有ガスを供給してもよい。例えば窒素ガスボンベを用いて窒素含有ガスを生成して供給してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 ガス浸炭装置
10 浸炭室
10a 浸炭室内
10x 浸炭室出入口
11 架台
12 加熱装置
12a ヒータ
16 撹拌機
20 原料ガス供給装置
21 浸炭ガス系統
21a 供給配管
21b 開閉弁
21c 流量計
22 キャリアガス系統
22a 供給配管
22b 開閉弁
22c 流量計
24 浸炭室内供給系統
25 炭化水素供給源
26 窒素供給源
26a ガス分離装置
27 ガス混合器
29 排気路
29a 開閉弁
30 制御装置
31 CPU
32 メモリ
33 情報記憶媒体
34 通信インターフェース
40 接続部
41 第一分岐部
41a 開閉弁
41b 流量計
42 第二分岐部
42a 開閉弁
43 第一ガス供給ノズル
43a 第一供給口
44 第二ガス供給ノズル
44a 第二供給口
49 ミキサー
50 前室出入扉
52 エアーシリンダ
60 前室
60a 前室出入口
60b 前室第二出入口
62a 脱気流路
62b 真空ポンプ
62c 開閉弁
63 パージガス供給装置
63a パージ流路
63c 開閉弁
64 ガイドレール
65 接続路
66 前室第二出入扉
67 エアーシリンダ
70 油槽
72 ヒータ
73 撹拌機
74 熱交換器
80 前室搬送装置
80a ローラコンベア
80b フック
80c プッシュプルチェーン
80d 駆動源
84 断熱扉
85 浸炭室搬送装置
85a ローラコンベア
85b フック
85c プッシュプルチェーン
85d 駆動源
86a チェーン
86b 駆動機構
90 昇降装置
92 エレベータ本体
93 レール
94 駆動機構
310 前室搬送処理部
312 前室出入扉開閉処理部
314 浸炭室内搬送処理部
316 前室第二出入扉開閉処理部
318 前室脱気処理部
320 前室パージ処理部
322 油槽昇降処理部
324 油槽ヒータ処理部
326 油槽冷却処理部
328 油槽撹拌処理部
330 断熱扉開閉処理部
332 浸炭室内撹拌処理部
334 浸炭室内ヒータ処理部
336 キャリアガス制御部
338 浸炭ガス制御部
360 前室搬入処理部
364 前パージ処理部
368 浸炭室準備処理部
372 浸炭室搬入処理部
376 浸炭処理部
380 浸炭室搬出処理部
384 焼入処理部
388 油切処理部
392 後パージ処理部
396 前室搬出処理部
398 全自動処理部
Hin 搬入経路
Hout 搬出経路
J 外部領域
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10