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特開2024-152171鋼管膨張型ロックボルト及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152171
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】鋼管膨張型ロックボルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 20/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
E21D20/00 F
E21D20/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066207
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】397036217
【氏名又は名称】株式会社河戸製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】戸部 恵介
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 久雄
(72)【発明者】
【氏名】古賀 聖康
(72)【発明者】
【氏名】井本 厚
(72)【発明者】
【氏名】外川 雄大
(57)【要約】
【課題】高精度が要求される熟練技の溶接作業を行う必要が無く製造することができる。
【解決手段】断面視略C字形に折り込まれ、内部空間21が先端側で閉塞されている異型鋼管本体2と、異型鋼管本体2の先端部22に外嵌されて固定されている先端スリーブ3と、異型鋼管本体2の後端部23に外嵌されている端末スリーブ4と、内部に加圧注入される流体Fの流体導入路が設けられ、異型鋼管本体2の後端面231に固定される流体導入部材5を備え、異型鋼管本体2の後端部23が内部空間21に開口するように寄せられた形状で設けられ、後端部23の内側に形状支持リング7が圧入されていると共に、流体導入部材5の周状の前端面511が前記異型鋼管本体2の後端面231に摩擦圧接される鋼管膨張型ロックボルト1。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面視略C字形に折り込まれ、内部空間が先端側で閉塞されている異型鋼管本体と、
前記異型鋼管本体の先端部に外嵌されて固定されている先端スリーブと、
前記異型鋼管本体の後端部に外嵌されている端末スリーブと、
内部に加圧注入される流体の流体導入路が設けられ、前記異型鋼管本体の後端面に固定される流体導入部材とを備え、
前記異型鋼管本体の前記後端部が前記内部空間に開口するように寄せられた形状で設けられ、
寄せられた形状の前記後端部の内側に形状支持リングが圧入されていると共に、
前記流体導入部材の周状の前端面が前記異型鋼管本体の後端面に摩擦圧接されていることを特徴とする鋼管膨張型ロックボルト。
【請求項2】
前記流体導入部材の周状の前端面が前記端末スリーブの後端面に摩擦圧接されていることを特徴とする請求項1記載の鋼管膨張型ロックボルト。
【請求項3】
前記異型鋼管本体の前記後端面より前方の位置に前記形状支持リングが配置され、
前記異型鋼管本体の前記後端部の内部における前記形状支持リングより後方の位置に摩擦圧接のバリが残置されていることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管膨張型ロックボルト。
【請求項4】
請求項1又は2記載の鋼管膨張型ロックボルトの製造方法であって、
前記異型鋼管本体の中間品である断面視略C字形に折り込まれた中間管の後端部に前記端末スリーブを外嵌し、前記端末スリーブの後端面から前記中間管の後端部を僅かに突出させる第1工程と、
前記中間管の前記後端部を前記中間管の内部空間に開口するように寄せた形状に変形する第2工程と、
寄せられた形状の前記中間管の前記後端部の内側に前記形状支持リングを圧入して、前記中間管の後端面よりも前方の位置に前記形状支持リングを配置する第3工程と、
前記中間管の前記後端部の外径よりも前部の外径が大きく、前記中間管の前記後端部の厚さよりも前部の厚さが大きい前記流体導入部材を用い、前記中間管及び前記端末スリーブを保持し、前記流体導入部材を回転させて、前記流体導入部材の周状の前端面を前記中間管の後端面に摩擦圧接する第4工程とを備えることを特徴とする鋼管膨張型ロックボルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面視略C字形に折り込まれた異型鋼管本体の両端部にスリーブが外嵌され、流体の注入圧によって地山の穿孔内で膨張させることにより地山に摩擦定着される鋼管膨張型ロックボルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、断面視略C字形に折り込まれた異型鋼管本体の両端部に異型鋼管本体の膨らみを規制するスリーブが外嵌され、流体の注入圧によって地山の穿孔内で異型鋼管本体を膨張させることにより地山に摩擦定着される鋼管膨張型ロックボルトが知られており、このような鋼管膨張型ロックボルトとして特許文献1の鋼管膨張型ロックボルトがある。
【0003】
特許文献1の鋼管膨張型ロックボルト101では、図9に示すように、異型鋼管本体102の先端部に筒状の先端スリーブ103が外嵌されて固定されていると共に、異型鋼管本体102の後端部に筒状の端末スリーブ104が外嵌されて固定されている。先端スリーブ103の先端付近の内周側には溶接部105が設けられており、溶接部105は、異型鋼管本体102の内部の空間を閉塞し、且つ異型鋼管本体102の先端部と先端スリーブ103を周状に固定するように設けられている。
【0004】
また、端末スリーブ104の後端付近の内周側には溶接部106、107が設けられ、溶接部106は異型鋼管本体102の後端部の断面視略C字形の形状を維持するように断面視略C字形の凹側を埋めて形成される。溶接部107は、異型鋼管本体102の注水用流路を塞がないように形成され、異型鋼管本体102の後端部と端末スリーブ104を周状に固定するように設けられる。更に、端末スリーブ104の後側には中空の流体導入路109が軸方向に延びる略筒状の雄ねじ部108が流体導入部材として配置され、雄ねじ部108の鍔部110が端末スリーブ104の後端に当接されて、雄ねじ部108の鍔部110と端末スリーブ104が溶接部111で固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-164110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記鋼管膨張型ロックボルト101を製造する際には、異型鋼管本体102の注水用流路を塞がないように且つ異型鋼管本体102と端末スリーブ104との間を封止して確実に固定するように、まず第1工程の溶接作業として端末スリーブ104の内周側に溶接部106、107を形成し、次に第2工程の溶接作業として雄ねじ部108を有する流体導入部材の鍔部110と端末スリーブ104とを接合するよう溶接部111を形成する溶接作業が必要となるが、これらの溶接作業は高精度が求められる熟練技で行われる溶接作業となっている。
【0007】
即ち、溶接部107で異型鋼管本体102の注水用流路を塞がれると異型鋼管本体102は加圧注水で膨張させることができなくなり、又、異型鋼管本体102と端末スリーブ104との間の封止固定が不十分な場合には、加圧注水時に異型鋼管本体102と端末スリーブ104との間から水漏れが発生したり、異型鋼管本体102の膨張動作時に端末スリーブ104の拘束効果が不十分となって異型鋼管本体102自体が損傷したり溶接部111に負荷がかかり、異型鋼管本体102を適切に膨張させて地山に定着させ、要求性能であるロックボルトの引抜強度の所定値を得ることが困難となる。このため、高精度で溶接部106、107、111を形成し、これを全数エアチェックして製造ロット毎に実際に引張試験を行うことが必須となっている。そこで、高精度で2工程が要求される熟練技の溶接作業を行うことなく製造することができる鋼管膨張型ロックボルトが求められている。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、高精度で2工程が要求される熟練技の溶接作業を行う必要が無く製造することができる鋼管膨張型ロックボルト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鋼管膨張型ロックボルトは、断面視略C字形に折り込まれ、内部空間が先端側で閉塞されている異型鋼管本体と、前記異型鋼管本体の先端部に外嵌されて固定されている先端スリーブと、前記異型鋼管本体の後端部に外嵌されている端末スリーブと、内部に加圧注入される流体の流体導入路が設けられ、前記異型鋼管本体の後端面に固定される流体導入部材とを備え、前記異型鋼管本体の前記後端部が前記内部空間に開口するように寄せられた形状で設けられ、寄せられた形状の前記後端部の内側に形状支持リングが圧入されていると共に、前記流体導入部材の周状の前端面が前記異型鋼管本体の後端面に摩擦圧接されていることを特徴とする。
これによれば、形状支持リングを用いて流体導入部材と異型鋼管本体との摩擦圧接を可能にし、流体導入部材と異型鋼管本体を摩擦圧接で固定することにより、流体導入部材と異型鋼管本体を金属の原子拡散現象を利用して高強度で固定することができる。また、流体導入部材の周状の前端面と異型鋼管本体の後端面を摩擦圧接して固定することにより、流体導入路から異型鋼管本体の内部空間に連通される流路を確実に形成することができる。摩擦圧接加工は機械の回転数、押し当てる圧力、時間という3つの要素を機械に設定することで一定品質を確保することができるため、これまでは機械化即ち一定品質を保つための数値を機械に設定しておくことが困難で高精度で2工程が要求される熟練技の溶接作業を行う必要無く鋼管膨張型ロックボルトを製造することができる。更に、高精度が要求される熟練技の溶接作業、特に流体導入部材と異型鋼管本体とを接合して後には品質検査が不可能であった端末スリーブ内周側での溶接作業が不要となることから、鋼管膨張型ロックボルトの製造品質を安定させ、製造の歩留まりを向上することができると共に、溶接する場合に溶接工程前に必要とされる異型鋼管本体と端末スリーブの溶接箇所のめっきの削り落とし工程を無くすことができ、加工工程を減らして製造効率を高めることができる。また、途中で水漏れ等の流体の漏れや異型鋼管本体や溶接部の損傷を生ずることなく、流体導入路から形状支持リングの開口を介して異型鋼管本体の内部空間へと加圧注入される流体を確実に注入することができ、異型鋼管本体を適切に膨張させて地山に定着できる鋼管膨張型ロックボルトとすることができる。
【0010】
本発明の鋼管膨張型ロックボルトは、前記流体導入部材の周状の前端面が前記端末スリーブの後端面に摩擦圧接されていることを特徴とする。
これによれば、異型鋼管本体の後端部において端末スリーブを強固に固定して移動しないように定置し、地山定着時に異型鋼管本体の適切な膨張状態を確実に得ることができる。
【0011】
本発明の鋼管膨張型ロックボルトは、前記異型鋼管本体の前記後端面より前方の位置に前記形状支持リングが配置され、前記異型鋼管本体の前記後端部の内部における前記形状支持リングより後方の位置に摩擦圧接のバリが残置されていることを特徴とする。
これによれば、摩擦圧接のバリを形状支持リングの後方位置に残置させる構成により、形状支持リングの内側に摩擦圧接のバリが形成されないようにし、形状支持リングを介して流体導入路から異型鋼管本体の内部空間に至る加圧流体の流路が塞がれてしまうことをより確実に防止することができる。従って、流体導入路から異型鋼管本体の内部空間に連通される所要の流路を確実に確保することができる。
【0012】
本発明の鋼管膨張型ロックボルトの製造方法は、本発明の鋼管膨張型ロックボルトを製造する方法であって、前記異型鋼管本体の中間品である断面視略C字形に折り込まれた中間管の後端部に前記端末スリーブを外嵌し、前記端末スリーブの後端面から前記中間管の後端部を僅かに突出させる第1工程と、前記中間管の前記後端部を前記中間管の内部空間に開口するように寄せた形状に変形する第2工程と、寄せられた形状の前記中間管の前記後端部の内側に前記形状支持リングを圧入して、前記中間管の後端面よりも前方の位置に前記形状支持リングを配置する第3工程と、前記中間管の前記後端部の外径よりも前部の外径が大きく、前記中間管の前記後端部の厚さよりも前部の厚さが大きい前記流体導入部材を用い、前記中間管及び前記端末スリーブを保持し、前記流体導入部材を回転させて、前記流体導入部材の周状の前端面を前記中間管の後端面に摩擦圧接する第4工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、流体導入部材と異型鋼管本体と端末スリーブを一度の摩擦圧接工程でより高精度に固定して一体化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高精度で2工程が要求される熟練技の溶接作業を行う必要が無く鋼管膨張型ロックボルトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は本発明による第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの斜視説明図、(b)は第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルトへの加圧注水を説明する斜視説明図、(c)は第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの膨張状態を説明する斜視説明図。
図2】(a)は第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルトを凹み側から見た斜視図、(b)は第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの縦断面図、(c)は同図(b)の端末スリーブ周辺の拡大図。
図3】(a)~(e)は第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの製造工程を説明する工程説明図。
図4】(a)は端末スリーブが外嵌された異型鋼管本体の中間管の後端部を後側から見た拡大正面図、(b)は端末スリーブ内で寄せられた形状に変形された中間管の後端部と圧入された形状支持リングを後側から見た拡大正面図。
図5】(a)~(c)は第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの製造工程における摩擦接合工程を説明する工程説明図。
図6】(a)は本発明による第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの斜視説明図、(b)は第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルトへの加圧注水を説明する斜視説明図、(c)は第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの膨張状態を説明する斜視説明図。
図7】第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの端末スリーブ周辺の拡大縦断面図。
図8】(a)~(c)は第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルトの製造工程における摩擦接合工程を説明する工程説明図。
図9】従来の鋼管膨張型ロックボルトの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルト〕
本発明による第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1は、図1及び図2に示すように、断面視略C字形に折り込まれ、内部空間21が先端側で閉塞されている異型鋼管本体2と、異型鋼管本体2の略円筒状の先端部22に外嵌されて固定されている先端スリーブ3と、異型鋼管本体2の略円筒状の後端部23に外嵌されている端末スリーブ4と、異型鋼管本体2の後端面231に固定される流体導入部材5を備える。
【0016】
異型鋼管本体2は、素材鋼管を全長にわたって外側から押し潰して丸めることによって形成され、更に、その後端部23が内部空間21に開口するように寄せられた形状で形成されている(図2(b)、図3(c)、図4(b)参照)。異型鋼管本体2は、断面視略C字状に折り畳まれた非膨張状態から内部への加圧注水等の流体Fの加圧注入によって膨張状態になるものであり(図1(c)参照)、異型鋼管本体2の膨張時には先端スリーブ3と端末スリーブ4とで先端部22と後端部23の膨張が規制される。
【0017】
先端スリーブ3の前端付近の内周側には溶接部6が設けられ、溶接部6は、異型鋼管本体2の内部空間21の先端側を閉塞し、且つ異型鋼管本体2と先端スリーブ3とを固定するように、先端スリーブ3の内周に肉盛溶接して設けられている。なお、図示例においては異型鋼管本体2の内部空間21の先端側の閉塞を溶接部6で行ったが、溶接部6に代えて加圧注水に耐え得るキャップを固定して閉塞する構成としてもよく、後述の第2実施形態でも同様である。
【0018】
第1実施形態における流体導入部材5は、前側に位置する前部である略円筒状又は略多角筒状の筒部51と、後側に位置する雄ねじ部52と、前後方向に貫通して形成された中空部53とを有し、断面視略T字形で形成されている(図2(b)、(c)参照)。中空部53は異型鋼管本体2の内部空間21に連通するように設けられ、中空部53は、内部に加圧注入される流体Fの流体導入路を構成している。
【0019】
流体導入部材5の前部に相当する筒部51の外径は、断面視略C字形に折り込まれてから後端部23が内部空間21に開口するように寄せられた状態の異型鋼管本体2の後端部23の外径よりも大きく、更に後端部23に外嵌された端末スリーブ4の外径と略同一に形成されている。また、図示例においては流体導入部材5の前部に相当する筒部51の厚さは、異型鋼管本体2の後端部23の厚さよりも肉厚で形成され、更に、端末スリーブ4の厚さよりも肉厚で形成されており、本実施形態では、異型鋼管本体2の後端部23の厚さと端末スリーブ4の厚さを合わせた厚さよりも筒部51の厚さが肉厚になっている。
【0020】
異型鋼管本体2の寄せられた形状の後端部23の内側には、形状支持リング7が圧入されており、形状支持リング7は、異型鋼管本体2の後端面231より前方の位置に配置されている(図2(b)、図3(c)、図4(b)参照)。尚、異型鋼管本体2、先端スリーブ3、端末スリーブ4、流体導入部材5、形状支持リング7のそれぞれは、例えば全ての部材を鋼製とする等、全ての部材を同程度の強度を有する金属材とすると好適であるが、先端スリーブ3、端末スリーブ4、流体導入部材5、形状支持リング7に適用可能は範囲で他の素材を用いることも可能である。形状支持リング7を異型鋼管本体2と同程度の強度を有する鋼材等の材料で形成する場合、摩擦圧接時に異型鋼管本体2の後端部23の略円筒状の形状を支持する観点から、異型鋼管本体2或いはその後端部23の肉厚よりも形状支持リング7の肉厚を厚くすることが好ましい。
【0021】
流体導入部材5の筒部51の周状の前端面511は、異型鋼管本体2の後端面231に摩擦圧接部81で摩擦圧接されていると共に、端末スリーブ4の後端面41に摩擦圧接部81で摩擦圧接されている。また、異型鋼管本体2の後端部23の内部には、形状支持リング7より後方の位置に摩擦圧接のバリ82が残置されている。
【0022】
第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1を使用する際には、地山の穿孔に鋼管膨張型ロックボルト1を挿入して配置し、例えば注水孔92を有する注水用アダプター91を流体導入部材5の雄ねじ部52に被せるように取り付け、加圧注水を行って地山の穿孔内で異型鋼管本体2を膨張させて地山に摩擦定着させる。そして、異型鋼管本体2を膨張させた状態でワッシャー93やナット94を取り付けて地山補強構造を構築する(図1(b)、(c)参照)。
【0023】
また、第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1を製造する際には、例えば異型鋼管本体2の中間品である断面視略C字形に折り込まれた中間管200の後端部223に端末スリーブ4を外嵌し、端末スリーブ4の後端面41から中間管200の後端部223を僅かに突出させる(図3(a)、(b)参照)。
【0024】
そして、中間管200の後端部223を異型鋼管本体2の内部空間21に相当する中間管200の内部空間に開口するように寄せた形状に変形し、寄せられた形状の中間管200の後端部223の内側において寄せた形状で広く空けられたスペースに形状支持リング7を圧入して、中間管200の後端面よりも前方の位置に形状支持リング7を配置し、好適には摩擦圧接後の異型鋼管本体2の後端面231より前方の位置に形状支持リング7を配置する(図3(b)~(d)、図4参照)。
【0025】
更に、中間管200の後端部223の外径よりも前部に相当する筒部51の外径が大きく、中間管200の後端部223の厚さよりも前部に相当する筒部51の厚さが大きい流体導入部材5を用い、流体導入部材5をクランプ95で保持すると共に、中間管200と端末スリーブ4をクランプ96で保持する(図3(d)、図5(a)、(b)参照)。
【0026】
この保持状態を維持しつつ、摩擦圧接加工機の回転数、押し当てる圧力、時間をセットして、流体導入部材5を回転させると共に、中間管200と端末スリーブ4を回転する流体導入部材5に向かって前進させ、流体導入部材5の周状の前端面511を、中間管200の後端面と端末スリーブ4の後端面41とに摩擦圧接する(図3(e)、図5(b)、(c)参照)。摩擦圧接時には、形状支持リング7により、中間管200の後端部223の略筒状の形状が維持された状態で摩擦圧接される。また、異型鋼管本体2の内側における形状支持リング7の後方の領域は、摩擦圧接時に生ずるバリ82が逃げる空間として機能する。
【0027】
そして、端末スリーブ4と筒部51の外周側に形成されたバリ83を除去した後、異型鋼管本体2の先端部22に先端スリーブ3を外嵌して溶接部6を形成することにより、異型鋼管本体2の先端側の閉塞と先端スリーブ3の異型鋼管本体2への固定を行い、第1実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1が得られる。尚、異型鋼管本体2の先端部22への先端スリーブ3の外嵌、溶接部6の形成は、異型鋼管本体2の端末側の処理を行う前に行うことも可能である。
【0028】
第1実施形態によれば、形状支持リング7を用いて摩擦圧接時における異型鋼管本体2の内側への倒れ込み、接合不良を防止し、流体導入部材5と異型鋼管本体2との摩擦圧接を可能にすることができる。そして、流体導入部材5と異型鋼管本体2を摩擦圧接で固定することにより、流体導入部材5と異型鋼管本体2を金属の原子拡散現象を利用して高強度で固定することができる。
【0029】
また、流体導入部材5の周状の前端面511と異型鋼管本体2の後端面231を摩擦圧接して固定することにより、流体導入路に相当する中空部53から異型鋼管本体2の内部空間21に連通される流路を確実に形成することができる。摩擦圧接加工は機械の回転数、押し当てる圧力、時間という3つの要素を機械に設定することで一定品質を確保することができるため、これまでは機械化即ち一定品質を保つための数値を機械に設定しておくことが困難で高精度が2工程が要求される熟練技の溶接作業を行う必要無く鋼管膨張型ロックボルト1を製造することができる。更に、高精度が要求される熟練技の溶接作業、特に流体導入部材5と異型鋼管本体2とを接合して後には品質検査が不可能であった端末スリーブ4内周側での溶接作業が不要となることから、鋼管膨張型ロックボルト1の製造品質を安定させ、製造の歩留まりを向上することができると共に、溶接する場合に溶接工程前に必要とされる異型鋼管本体2と端末スリーブ4の溶接箇所のめっきの削り落とし工程を無くすことができ、加工工程を減らして製造効率を高めることができる。
【0030】
また、途中で水漏れ等の流体Fの漏れや異型鋼管本体2や溶接部の損傷を生ずることなく、流体導入路に相当する中空部53から形状支持リング7の開口を介して異型鋼管本体2の内部空間21へと加圧注入される流体Fを確実に注入することができ、異型鋼管本体2を適切に膨張させて地山に定着できる鋼管膨張型ロックボルト1とすることができる。また、異型鋼管本体2の後端部23において端末スリーブ4を摩擦圧接部81で強固に固定して移動しないように定置することにより、地山定着時に異型鋼管本体2の適切な膨張状態を確実に得ることができる。
【0031】
また、異型鋼管本体2の後端面231より前方の位置に形状支持リング7を配置し、摩擦圧接のバリ82を形状支持リング7の後方位置に残置させる構成により、形状支持リング7の内側に摩擦圧接のバリ82が形成されないようにし、形状支持リング7を介して流体導入路に相当する中空部53から異型鋼管本体2の内部空間21に至る加圧流体の流路が塞がれてしまうことをより確実に防止することができる。従って、流体導入路に相当する中空部53から異型鋼管本体2の内部空間21に連通される所要の流路を確実に確保することができる。
【0032】
また、上記鋼管膨張型ロックボルト1の製造方法によれば、摩擦圧接加工機に回転数、押し当てる力、時間をセットするだけで、流体導入部材5と、異型鋼管本体2及び端末スリーブ4とを一度の摩擦圧接工程でより高精度に固定し、一体化することができる。
【0033】
〔第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルト〕
本発明による第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1aは、図6図7及び図2に示すように、第1実施形態と同様の異型鋼管本体2と、先端スリーブ3と、端末スリーブ4と、溶接部6とが設けられていると共に、異型鋼管本体2の後端面231に固定される流体導入部材5aを備える。尚、第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1a及びその製造方法において、特に言及しない構成は第1実施形態と同様である。
【0034】
第2実施形態における流体導入部材5aは、前側に位置する前部である略円筒状又は略多角筒状の筒部51aと、後側に位置する略円柱状又は略多角柱状の後部52aと、後方が閉塞され前方に貫通して形成された中空部53aと、筒部51aと後部52aとの間の外周に形成された溝部54aと、溝部54aと中空部53aとを繋ぐように、溝部54aが形成された周壁に貫通して形成された注入孔55aを有する(図7参照)。中空部53aは異型鋼管本体2の内部空間21に連通するように設けられ、中空部53a及び中空部53aに水等の流体Fを導入する注入孔55aは、内部に加圧注入される流体Fの流体導入路を構成している。
【0035】
流体導入部材5aの前部に相当する筒部51aの外径は、異型鋼管本体2の後端部23の外径よりも大きく、更に後端部23に外嵌された端末スリーブ4の外径よりも大きく形成されている。また、流体導入部材5aの前部に相当する筒部51aの厚さは、異型鋼管本体2の後端部23の厚さよりも肉厚で形成され、更に、端末スリーブ4の厚さよりも肉厚で形成されており、本実施形態では、異型鋼管本体2の後端部23の厚さと端末スリーブ4の厚さを合わせた厚さよりも筒部51aの厚さが肉厚になっている。流体導入部材5aの素材には第1実施形態における流体導入部材5と同様のものを用いることができる。
【0036】
異型鋼管本体2の寄せられた形状の後端部23の内側には、形状支持リング7が圧入されており、形状支持リング7は、異型鋼管本体2の後端面231より前方の位置に配置されている(図7図8(c)参照)。流体導入部材5aの筒部51aの周状の前端面511aは、異型鋼管本体2の後端面231に摩擦圧接部81aで摩擦圧接されていると共に、端末スリーブ4の後端面41に摩擦圧接部81aで摩擦圧接されている。また、異型鋼管本体2の後端部23の内部には、形状支持リング7より後方の位置に摩擦圧接のバリ82aが残置されている。
【0037】
第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1aを使用する際には、鋼管膨張型ロックボルト1aを、予め端末スリーブ4の外径よりも大きく形成された流体導入部材5aの前部に相当する筒部51aに引っ掛けるようにワッシャー93aを通した状態で地山の穿孔に挿入して配置し、例えば注水孔92aを有する注水用アダプター91aを流体導入部材5aに被せるように取り付け、加圧注水を行って地山の穿孔内で異型鋼管本体2を膨張させて地山に摩擦定着させる。そして、異型鋼管本体2を膨張させた状態でワッシャー93aをロックボルト打設面に配置させ、端末スリーブ4が穿孔内に配置され流体導入部材5aのみがトンネル空間側に突出するように地山補強構造を構築する(図6(b)、(c)参照)。
【0038】
また、第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1aを製造する際には、例えば第1実施形態と同様の製造工程を用い、中間管200の後端部223に端末スリーブ4を外嵌して端末スリーブ4の後端面41から中間管200の後端部223を僅かに突出させ、中間管200の後端部223を異型鋼管本体2の内部空間21に相当する中間管200の内部空間に開口するように寄せた形状に変形し、寄せられた形状の中間管200の後端部223の内側において寄せた形状で広く空けられたスペースに形状支持リング7を圧入して、中間管200の後端面よりも前方の位置に形状支持リング7を配置し、好適には摩擦圧接後の異型鋼管本体2の後端面231より前方の位置に形状支持リング7を配置する(図3(a)~(d)、図4図8(a)参照)。
【0039】
更に、流体導入部材5aを用い、流体導入部材5aをクランプ95aで保持すると共に、中間管200と端末スリーブ4をクランプ96aで保持する(図8(a)、(b)参照)。この保持状態を維持しつつ、摩擦圧接加工機の回転数、押し当てる圧力、時間をセットして、流体導入部材5aを回転させると共に、中間管200と端末スリーブ4を回転する流体導入部材5aに向かって前進させ、流体導入部材5aの周状の前端面511aを、中間管200の後端面と端末スリーブ4の後端面41とに摩擦圧接する(図8(b)、(c)参照)。摩擦圧接時には、形状支持リング7により、中間管200の後端部223の略筒状の形状が維持される。
【0040】
そして、端末スリーブ4と筒部51の外周側に形成されたバリを除去した後、異型鋼管本体2の先端部22に先端スリーブ3を外嵌して溶接部6を形成することにより、異型鋼管本体2の先端側の閉塞と先端スリーブ3の異型鋼管本体2への固定を行い、第2実施形態の鋼管膨張型ロックボルト1aが得られる。尚、第2実施形態でも、異型鋼管本体2の先端部22への先端スリーブ3の外嵌、溶接部6の形成は、異型鋼管本体2の端末側の処理を行う前に行うことも可能である。
【0041】
第2実施形態でも、第1実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。
【0042】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態、各例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や下記の更なる変形例も含まれる。
【0043】
例えば本発明における流体導入部材の構成は、第1、第2実施形態における流体導入部材5、5aに限定されず、内部に加圧注入される流体の流体導入路が設けられ、周状の前端面が異型鋼管本体の後端面に摩擦圧接で固定されるものであれば適宜である。また、本発明の鋼管膨張型ロックボルトにおいて、内部空間が先端側で閉塞されている異型鋼管本体の内部空間の先端側を閉塞する構成、異型鋼管本体の先端部に外嵌する先端スリーブを固定する構成はそれぞれ適宜である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、地山の穿孔内で膨張させて地山に摩擦定着させる鋼管膨張型ロックボルトに利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1、1a…鋼管膨張型ロックボルト 2…異型鋼管本体 21…内部空間 22…先端部 23…後端部 231…後端面 200…中間管 223…後端部 3…先端スリーブ 4…端末スリーブ 41…後端面 5、5a…流体導入部材 51、51a…筒部 511、511a…前端面 52…雄ねじ部 52a…後部 53、53a…中空部 54a…溝部 55a…注入孔 6…溶接部 7…形状支持リング 81、81a…摩擦圧接部 82、82a、83…バリ 91、91a…注水用アダプター 92、92a…注水孔 93、93a…ワッシャー 94…ナット 95、95a、96、96a…クランプ F…流体 101…鋼管膨張型ロックボルト 102…異型鋼管本体 103…先端スリーブ 104…端末スリーブ 105、106、107…溶接部 108…雄ねじ部 109…流体導入路 110…鍔部 111…溶接部
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9