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  • 特開-再生複合半透膜およびエレメント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152172
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】再生複合半透膜およびエレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/68 20060101AFI20241018BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241018BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241018BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B01D71/68
B01D69/10
B01D69/12
B01D63/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066208
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口秀
(72)【発明者】
【氏名】誉田剛士
(72)【発明者】
【氏名】岡本宜記
(72)【発明者】
【氏名】高木健太朗
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA61
4D006JA05A
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06C
4D006JA19Z
4D006KC02
4D006KC03
4D006KD11
4D006KD15
4D006KD16
4D006KD17
4D006KD24
4D006MA03
4D006MA09
4D006MC48
4D006MC54
4D006MC62
4D006NA49
(57)【要約】
【課題】本発明によって、CO2排出量を低減することができる複合半透膜を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の複合半透膜は、再生ポリスルホンを含む支持膜から製造されることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生ポリスルホンを含む支持膜と、分離機能層とを含む複合半透膜。
【請求項2】
前記支持膜は、基材と、再生ポリスルホンを含む多孔性支持層とを有する
請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記支持膜は、多孔性支持層と、再生ポリエステルまたはバイオポリエステルの少なくとも一方を含む基材とを有する、
請求項1または2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
集水管、供給側流路材、透過側流路材、および請求項1~3のいずれか1項に記載の複合半透膜を備え、
前記供給側流路材、前記複合半透膜および前記透過側流路材は、重ねられ、かつ前記集水管の周囲に巻囲される
エレメント。
【請求項5】
前記透過側流路材は、再生ポリエステルまたはバイオポリエステルの少なくとも一方を含む請求項4に記載のエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜およびそれを備えるエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがある。近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。
【0003】
膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがある。これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得ること、または工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0004】
ナノろ過膜および逆浸透膜としては、不織布である基材と、その上の多孔性支持層と、さらにその上の架橋ポリアミドを含有する分離機能層と、を有する複合半透膜が一般的に用いられる。特許文献1には、逆浸透膜と、供給スペーサ、トリコットろ過水路、チューブを有する逆浸透フィルタモジュールが開示されている。逆浸透フィルタモジュールにおいて、逆浸透膜、供給スペーサ、トリコットろ過水路はチューブの周囲に巻き付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開第2019-514665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、脱炭素の要求が高まり、様々な分野でリサイクルまたはリユースが求められている。本発明は、リサイクル材料を含む複合半透膜またはそれを有するエレメント(モジュール)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の構成を包含する。
[1]再生ポリスルホンを含む支持膜と、分離機能層とを含む複合半透膜。
[2]前記支持膜は、基材と、再生ポリスルホンを含む多孔性支持層とを有する上記[1]に記載の複合半透膜。
[3]前記支持膜は、多孔性支持層と、再生ポリエステルまたはバイオポリエステルの少なくとも一方を含む基材とを有する、上記[1]または[2]に記載の複合半透膜。
[4]集水管、供給側流路材、透過側流路材、および上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合半透膜を備え、
前記供給側流路材、前記複合半透膜および前記透過側流路材は、重ねられ、かつ前記集水管の周囲に巻囲される
エレメント。
[5]前記透過側流路材は、再生ポリエステルまたはバイオポリエステルの少なくとも一方を含む上記[4]に記載のエレメント。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合半透膜およびエレメントは、再生ポリスルホンを含有するので、CO2排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、複合半透膜の例を示す断面図である。
図2図2は、スパイラル型分離膜エレメントの一例を示す一部展開斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0011】
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。また、本明細書において、「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0012】
1.複合半透膜
以下に述べる複合半透膜1は、支持膜と、支持膜上に位置する分離機能層とを備える。
【0013】
(支持膜)
支持膜は、分離機能層12を支持し、複合半透膜1に物理的強度を与える。支持膜は少なくとも再生ポリスルホンを含む。
【0014】
支持膜は、図1に示すように、基材14と多孔性支持層13とを備えてもよい。基材14は再生ポリエステルまたはバイオポリエステルの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、多孔性支持層13は、再生ポリスルホンを含むことが好ましい。
【0015】
(基材)
基材14としては、強度、凹凸形成能および流体透過性の点で繊維状基材を用いることが好ましい。
【0016】
基材14としては、長繊維不織布及び短繊維不織布のいずれも好ましく用いることができる。
【0017】
基材14は、ポリオレフィン、ポリエステル、およびセルロースのうち少なくとも1種の材料を含むことが好ましい。ポリオレフィンおよびポリエステルは、圧力および張力に対して形状を保持する効果が高いので好ましい。基材製造にかかるCO排出量を低減できるので、基材は、再生ポリエステルまたはバイオポリエステルの少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0018】
(多孔性支持層)
多孔性支持層13は分離機能層形成の足場となり、それ自体は実質的にイオン等の分離性能を有さない。
【0019】
多孔性支持層13における孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面における微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような多孔性支持層が好ましい。
【0020】
多孔性支持層13は、基材上に高分子重合体を含む溶液を流延することで得ることができる。
【0021】
多孔性支持層13はポリスルホンを含有することが好ましい。ポリスルホンは、化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易である。
【0022】
ポリスルホンのN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFという。)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいはポリエステル不織布の上に一定の厚さに流延し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有した支持膜を得ることができる。
【0023】
上記の多孔性支持層13の厚みは、得られる複合半透膜の強度及びそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。支持膜の厚みは、十分な機械的強度及び充填密度を得るためには、30μm以上300μm以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは100μm以上220μm以下の範囲内である。
【0024】
多孔性支持層13の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から多孔性支持層を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金又は白金-パラジウム又は四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3~15kVの加速電圧で高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR-FE-SEM)によって観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、株式会社日立製作所製S-900型電子顕微鏡などが使用できる。
【0025】
多孔性支持層13の厚みは、20μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましい。多孔性支持層の厚みが20μm以上であることで、良好な耐圧性が得られると共に、欠点のない均一な支持膜を得ることができるので、このような多孔性支持層を備える複合半透膜は、良好な塩除去性能を示すことができる。多孔性支持層の厚みが100μmを超えると、製造時の未反応物質の残存量が増加し、それにより透過水量が低下するとともに、耐薬品性が低下する場合がある。
【0026】
(再生ポリエステル)
再生ポリエステルとは、使用済みのペットボトルやフィルム、繊維などを回収し、洗浄、粉砕、フレーク化したものを原料として使用することで再製造されたポリエステルを指す。再生する原料や工程によるが、再生ポリエステルを使用することで非再生ポリエステルに比べCO2排出量が40~50%削減することができる。
【0027】
(バイオポリエステル)
バイオポリエステルとは、バイオマス(再生可能な生物由来の有機資源であって、かつ化石資源でないもの)を含む原料で製造されたポリエステルを指す。ポリエステルは、パラキシレンから製造されるテレフタル酸とエチレングリコールを重合し製造される。バイオ原料の割合や工程によるが、バイオポリエステルを使用することで非バイオポリエステルに比べCO2排出量を25~60%削減することができる。
【0028】
(分離機能層)
複合半透膜1の構成要素のうち、実質的に溶質の分離性能を有するのは分離機能層12である。
【0029】
分離機能層12は原流体中の成分の分離性能に優れるという点で、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層、有機無機ハイブリッド機能層などが好適に用いられる。これらの分離機能層は、多孔性支持層上でモノマーを重縮合することによって形成可能である。
【0030】
分離機能層12は、ポリアミドを含有することが好ましい。ポリアミドは、公知の方法により、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを支持膜上で(支持膜が多孔性支持層13を備える場合は多孔性支持層13上で)界面重縮合することで形成される。例えば、多孔性支持層に多官能アミン水溶液を塗布し、余分なアミン水溶液をエアーナイフなどで除去し、その後、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液を塗布することで、ポリアミドを生成することができる。
【0031】
また、分離機能層12は、Si元素などを有する有機-無機ハイブリッド構造を有してもよい。有機無機ハイブリッド構造を有する分離機能層12は、例えば、以下の化合物(A)、(B):
(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物、ならびに
(B)前記化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する化合物
を含有することができる。具体的には、分離機能層は、化合物(A)の加水分解性基の縮合物ならびに化合物(A)および/または(B)のエチレン性不飽和基の重合物を含有してもよい。すなわち、分離機能層は、
・化合物(A)のみが縮合および/または重合することで形成された重合物、
・化合物(B)のみが重合して形成された重合物、並びに
・化合物(A)と化合物(B)との共重合物
のうちの少なくとも1種の重合物を含有することができる。なお、重合物には縮合物が含まれる。また、化合物(A)と化合物(B)との共重合体中で、化合物(A)は加水分解性基を介して縮合していてもよい。
【0032】
ハイブリッド構造は、公知の方法で形成可能である。ハイブリッド構造の形成方法の一例は次のとおりである。化合物(A)および化合物(B)を含有する反応液を多孔性支持層に塗布する。余分な反応液を除去した後、加水分解性基を縮合させるためには、加熱処理すればよい。化合物(A)および化合物(B)のエチレン性不飽和基の重合方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射を行えばよい。重合速度を速める目的で分離機能層形成の際に重合開始剤、重合促進剤等を添加することができる。
【0033】
なお、いずれの分離機能層についても、使用前に、例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させてもよい。
【0034】
2.分離膜エレメント
(概要)
分離膜エレメントとしては様々な形態があるが、分離膜の一方の面に原水を供給し、他方の面から透過流体を得る点では共通している。分離膜エレメントは、束ねられた多数の分離膜を備えることで、1個の分離膜エレメントあたりの膜面積が大きくなるように、つまり1個の分離膜エレメントあたりに得られる透過流体の量が大きくなるように形成されている。分離膜エレメントとしては、用途や目的にあわせて、スパイラル型、中空糸型、プレート・アンド・フレーム型、回転平膜型、平膜集積型などの各種の形状が提案されている。
【0035】
例えば、逆浸透ろ過には、スパイラル分離膜エレメントが広く用いられる。スパイラル分離膜エレメントは、集水管と、集水管の周囲に巻き付けられた分離膜ユニットとを備える。分離膜ユニットは、供給水としての原水(つまり被処理水)を分離膜表面へ供給する供給側流路材、原水に含まれる成分を分離する分離膜、及び分離膜を透過し供給側流体から分離された透過流体を集水管へと導くための透過側流路材が積層されることで形成される。スパイラル分離膜エレメントは、原水に圧力を付与することができるので、透過流体を多く取り出すことができる点で好ましく用いられている。
複合半透膜を用いたスパイラル型分離膜エレメントは、少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備える。
【0036】
図2に示すスパイラル型分離膜エレメント5では、供給側の流路を形成する供給側流路材2としては、高分子製のネットが使用されている。また、透過側流路材4としては、複合半透膜1の落ち込みを防ぎ、かつ透過側の流路を形成させる目的で、供給側流路材2よりも間隔が細かいトリコットが使用されている。透過側流路材4と該透過側流路材4の両面に重ね合わせて封筒状に接着された複合半透膜1とにより、封筒状膜3が形成される。封筒状膜5の内側が透過側流路を構成している。供給側流路材2と交互に積層された封筒状膜5は、開口部側の所定部分を集水管6の外周面に接着しスパイラル状に巻囲される。図1に示すx軸の方向が集水管6の長手方向である。またy軸の方向が集水管6の長手方向と垂直な方向である。
【0037】
(供給側流路材)
供給側流路材は供給水の流路を確保し、供給水をかき乱すために用いられる。供給側流路材の形状は特に限定されず、連続形状を有していてもよいし、不連続な形状を有していてもよい。連続形状を有する流路材としては、フィルムおよびネットといった部材が挙げられる。ここで、連続形状とは、実質的に流路材の全範囲において連続であることを意味する。連続形状には、造水量が低下するなどの不具合が生じない程度に、流路材の一部が不連続となる箇所が含まれていても良い。なお、供給側流路材の材料は特に限定されず、分離膜と同素材であっても異素材であっても良い。
【0038】
(透過側流路材)
封筒状膜5において、分離膜3は透過側の面を対向させて重ね合わされており、分離膜3同士の間には透過側流路材4が配置され、透過側流路材4によって透過側流路が形成される。透過側流路材の材料としては限定されず、トリコットや不織布、突起物を固着させた多孔性シート、凹凸成形し、穿孔加工を施したフィルム、凹凸不織布を用いることができる。また、透過側流路材として機能する突起物を分離膜の透過側に固着させてもよい。
【0039】
また、透過側流路材の材料であるポリマーの材質については、透過側流路材としての形状を保持し、透過水中への成分の溶出が少ないものであるならば特に限定されず、例えば、ナイロン等のポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフルオロエチレン等の合成樹脂が挙げられるが、特に高圧化に耐えうる強度や親水性を考慮するとポリオレフィンやポリエステルを用いるのが好ましく、特にポリエステルが好ましく用いられる。さらに、CO排出量の観点から、再生ポリエステルまたはバイオポリエステルを用いることがより好ましい。
【0040】
シート状物が複数の繊維から構成される場合では、繊維がたとえばポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘構造を有するものを用いてもよい。
【0041】
3.支持膜中のポリスルホンの再生方法
以下、支持膜中のポリスルホンを再利用する方法を述べる。以下の方法では、使用済み複合半透膜を用いてもよいし、分離機能層を形成する前の支持膜または規格外で使用されなかった複合半透膜であってもよい。
【0042】
(洗浄工程)
使用済み複合半透膜には、原水中に含まれる有機物または無機物の不純物が付着しているので、酸またはアルカリなどで洗浄することが好ましい。酸としては希塩酸、希硫酸、リン酸、硝酸、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機酸やシュウ酸水溶液、クエン酸水溶液などの有機酸を単独または2種類以上の混合物として用いることができる。アルカリとしては水酸化ナトリウム水溶液や次亜塩素酸ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液などを単独または2種類以上の混合物として用いることができる。洗浄では複合半透膜を酸もしくはアルカリの水溶液に単独または交互に一定時間浸漬させる方法、または分離膜エレメント内に酸もしくはアルカリを循環させる方法を用いることができる。
【0043】
また、洗浄効率を高めるためにこれらの薬品洗浄とポンプによる逆流洗浄やブロワーによる空気洗浄等の物理洗浄を組み合わせて使用しても良い。
【0044】
支持膜または未使用の複合半透膜には、有機溶剤などの不純物が混入していることが考えられるため、水溶性の有機溶剤等で洗浄し、さらに水ですすぐなどの操作を行うことが好ましい。
【0045】
(基材を除去する工程)
支持膜が基材と多孔性支持層とを含む場合、多孔性支持層を単離するには、基材と、多孔性支持層(分離機能層と多孔性支持層との積層体であってもよい)とを分離する。具体的には、多孔性支持層から基材を剥離してもよいし、多孔性支持層(分離機能層との積層体であってもよい)を研削することで、基材と分離してもよい。研削には、グラインダー、サンダーまたはブラスト等が用いられる。剥離は、研削よりも短時間で、かつ騒音、臭気、粉塵を抑えつつ、高効率に基材を除去することができることから特に好ましい。
【0046】
剥離は、複合半透膜の透過側の面(複合半透膜における分離機能層の表面、または支持膜における多孔性支持層側の面)に高圧流体を供給する方法、または手動もしくはフィルム剥離装置を用いて基材と多孔性支持層との界面を剥離させる方法を用いることができ、これらの方法を組み合わせて使用しても良い。
【0047】
また、複合半透膜に含まれる基材を除去する工程は、後述する複合半透膜から分離機能層を除去する工程の前後どちらで行っても問題ない。
【0048】
(分離機能層を除去する工程)
複合半透膜から多孔性支持層を単離するには、多孔性支持層と分離機能層との積層体から分離機能層を除去する工程を実施する。除去方法としては、分離機能層を分解する方法や、研削により分離機能層を多孔性支持層から除去する方法を用いることができる。具体的な研削方法は上述したとおりである。分解は、研削よりも簡便かつ高効率に分離機能層を除去することができる。
【0049】
分解には、分離機能層を分解し、かつ多孔性支持層を分解しない薬品を分離機能層に接触させる方法や、プラズマ処理により分離機能層を分解する方法、亜臨界水による解重合により分離機能層を分解する方法を用いることができるが、薬品による分離機能層の分解は、短時間かつ低コストで分離機能層の分解を行うことができ特に好ましい。
【0050】
分離機能層の分解に用いられる薬品としては、分離機能層が多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層の場合、アミド結合を酸化分解可能な薬品であることが好ましく、例えば次亜塩素酸ナトリウム水溶液や次亜塩素酸カルシウム水溶液等の塩素系薬剤や、過酸化水素水、水酸化ナトリウム等のアルカリ系薬剤を用いることができ、これらを単独または2種類以上の混合物として用いることができる。中でも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液や次亜塩素酸カルシウム水溶液を用いた塩素分解法で分離機能層を除去する方法が、再生したいポリスルホンの化学変化を抑えつつ、最も簡便かつ効率的に分離機能層の除去が可能であり好ましい。
【0051】
ポリスルホンの化学変化の有無を測定する方法としては、分子量分布測定や元素分析、融点測定、示差走査熱量測定、加熱重量減分析、核磁気共鳴分光法、赤外分光法、紫外分光法などで行うことができるが、再生したポリスルホン樹脂を元の形状に加工した後に、再生処理前後の物性を比較することで確認することもできる。ただし、いずれの方法で確認しても、測定誤差が生じるので、分子量分布測定、元素分析、融点測定、示差走査熱量測定、加熱重量減分析、核磁気共鳴分光法、赤外分光法、紫外分光法などの分析では誤差は5%以内、再生したポリスルホン樹脂を元の形状に加工し、ポリスルホン樹脂の再生処理前後の物性を比較する場合は10%程度の誤差は化学変化していないとみなすことができる。
【0052】
使用される塩素系水溶液のpHは、酸性側になるほど活性種である次亜塩素酸の割合が高くなり分離機能層の分解効率が高くなるが、同時に配管や装置の腐食を促進するリスクが高くなるため、そのためpHとしては、pH6.0~9.0の範囲であることが好ましく、さらに好ましくはpH6.5~7.5の範囲である。
【0053】
使用される塩素系水溶液の有効塩素濃度は、1%~15%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは3~10%の範囲である。この範囲であれば薬品自体の分解を抑制しつつ、効率的に分離機能層の分解が可能である。
【0054】
使用される塩素系水溶液の温度が高いほど分解効率が高くなるが、温度が高すぎるとガス体が発生したり、薬品自体の分解を早め濃度管理が難しくなったりすることから、10℃~60℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは20℃~40℃の範囲である。
【0055】
薬品による分離機能層の分解は、分離膜エレメントを分解して得られた複合半透膜を塩素系薬剤の水溶液に一定時間浸漬させる方法や、塩素系の水溶液を複合半透膜表面に連続または間欠塗布する方法、また分離膜エレメント内に塩素系薬剤の水溶液を循環させて分離機能層を除去する方法を用いることができる。
【0056】
上記の塩素系水溶液のpH、有効塩素濃度、処理温度、処理方法は、使用される複合半透膜の分離機能層の重合度や厚みに応じて任意に設定することができる。
【0057】
(多孔性支持層を破砕する工程)
ポリスルホンを効率よく溶媒に溶解させるために、単離された多孔性支持層は溶解前に破砕されることが好ましい。多孔性支持層の破砕には通常ボールミルや高速カッターミル、ロールクラッシャー、ロータリーカッター、油圧切断機などの破砕機や粉砕機を用いるが、特に高速カッターミルやロータリーカッター、油圧切断機などの粉砕手段を用いると細かく破砕できることから好ましい。また、破砕する多孔性支持層はあらかじめ乾燥することで、より均一に破砕できるため好ましい。
【0058】
破砕後に溶媒に溶解させることで、短時間でポリスルホン溶液を得ることができる。
【0059】
4.再生ポリスルホンを含有する多孔性支持層の形成
多孔性支持層を形成する樹脂の少なくとも一部として、単離された多孔性支持層(すなわち再生ポリスルホン)を用いることができる。多孔性支持膜を製造する方法と同様に、DMF等の溶媒に溶解させて使用する。
【0060】
再生ポリスルホンを溶解させる溶媒としては、前述の多孔性支持層の形成方法と同様に、DMFが例示される。再生ポリスルホンを溶媒に溶解させることで得られたポリスルホン溶液には、多孔性支持層の単離工程で完全に除去されなかった不純物、基材、分離機能層の一部が残存することがあるため、これらの不純物を除去する精製工程を行うことが好ましい。ポリスルホン樹脂溶液の精製には、遠心分離および/またはろ過を用いることができる。安価かつ連続的に精製が行えるろ過が特に好ましい。ろ過に使用するろ材としては、DMF等の溶媒に侵されず、再生ポリスルホン樹脂溶液中に残存する不純物を除去できるものであればよく、フェルトフィルター、メンブレンフィルター、ガラスフィルター、金属メッシュ等のろ材を単体でまたは組み合わせて使用することができる。
【0061】
精製後の再生ポリスルホン樹脂溶液は、前述の多孔性支持膜を製造する方法と同様に、基材上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、多孔性支持膜を再生することができる。
【0062】
なお、再生ポリスルホンを含有する多孔性支持層上に分離機能層を形成する方法としては、上述した界面重合等の方法を採用することができる。
【0063】
5.複合半透膜の利用
複合半透膜は、医療、医薬品製造、食品製造、水処理等の用途に利用可能である。利用時には、複合半透膜は流体分離装置に組み込まれてもよい。
【0064】
流体分離装置は、1つまたは複数のモジュールと、モジュールに原水を供給するポンプ等を備える。モジュールは、直列又は並列に接続された上述のエレメントと、エレメントを収容する圧力容器とを備える。流体分離装置により、原水を透過水と濃縮水とに分離することができる。
【0065】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は0.1MPa以上10MPa以下が好ましい。供給水温度は高くなると塩除去率が低下するが、低くなるに従い膜透過流束も減少するので、5℃以上45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0066】
原水としては、例えば海水、かん水、排水等の500mg/L~100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)および0.1 mg/L~1000mg/Lの非イオン性物質を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「重量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させた残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例0067】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0068】
<実施例>
(膜脱塩率)
複合半透膜に、温度25℃、pH7、塩化ナトリウム濃度35000ppmに調整した評価水を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を行なった。供給水及び透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製電気伝導度計で測定して、それぞれの実用塩分、すなわちNaCl濃度を得た。こうして得られたNaCl濃度及び下記式に基づいて、脱塩率を算出した。ここで、塩化ナトリウム濃度(ppm)は質量基準の濃度を意味する。
【0069】
膜脱塩率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
(膜透過流束)
前項の試験において、供給水(NaCl水溶液)の膜透過水量を測定し、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(立方メートル)に換算した値を膜透過流束(m/m/日)とした。
【0070】
(エレメント脱塩率)
スパイラル型分離膜エレメントに、温度25℃、pH7、塩化ナトリウム濃度35000ppmに調整した評価水を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を行なった。供給水及び透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製電気伝導度計で測定して、それぞれの実用塩分、すなわちNaCl濃度を得た。こうして得られたNaCl濃度及び下記式に基づいて、脱塩率を算出した。ここで、塩化ナトリウム濃度(ppm)は質量基準の濃度を意味する。
【0071】
エレメント脱塩率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
(造水量)
前項の試験において、スパイラル型分離膜エレメントを運転したときの透過水量を測定し、1日あたりの透水量(立方メートル)を造水量(m/日)として表した。
【0072】
(CO排出量)
CO排出量は各部材の素材のCO排出原単位と部材の使用量を基に、使用電力、蒸気、用水によるCO排出を考慮して算出した。
【0073】
(再生ポリスルホンの作製)
使用済みのスパイラル型分離膜エレメントに、pH1に調整した希硫酸を室温(20℃)で通水循環したのち、ポンプを停機して24時間静置した。次いでRO水で分離膜エレメント内部をすすいだ後、pH14に調整した水酸化ナトリウム水溶液を、室温(20℃)で通水循環したのち、ポンプを停機して24時間静置した。その後、RO水で分離膜エレメント内部をすすぎ、複合半透膜に付着した不純物を除去した。
【0074】
洗浄後の分離膜エレメントのフィラメントワインディングや端板を取り除き、分離膜リーフから接着部分を除くように複合半透膜を切り出した。切り出した複合半透膜をフィルム剥離装置に通過させて、複合半透膜に含まれる基材を除去した。
【0075】
基材を除去した複合半透膜をpH7に調整した有効塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に室温(20℃)で24時間浸漬した後、RO水ですすぎ、ポリアミド分離機能層を分解除去した。
【0076】
ポリアミド分離機能層を分解除去した多孔性支持層を乾燥させた後、高速カッターミルで粉砕して再生ポリスルホン樹脂とした。
【0077】
その後、粉砕した再生ポリスルホン樹脂を、ポリスルホンの15.0重量%、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液とした後、400メッシュのSUS製金属平織りフィルターと孔径1μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過精製した。ポリエステル繊維からなる不織布(糸径:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm/sec)上に精製後の再生ポリスルホン樹脂溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる多孔性支持膜(厚さ130μm)ロールを作製した。
【0078】
(複合半透膜・スパイラル型分離膜エレメントの作製)
多孔性支持膜のポリスルホンからなる層の表面をm-PDAの1.6質量%およびε-カプロラクタム1.0重量%を含む水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。さらに、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0079】
その後、トリメシン酸クロリド0.08質量%を含むn-デカン溶液を、膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄して、複合分離膜ロールを得た。
その後、分離膜シートを裁断し、1辺が開口するように折りたたまれた分離膜シートの間に供給側流路材としてネット(厚み:800μm、ピッチ5mm×5mm)を連続的に積層し、分離膜シートの有孔集水管の長手方向の両側の端部にウレタン系接着剤を塗布した後、重ね合わせて、スパイラル型分離膜エレメントでの有効面積が36mになるように、幅930mmの封筒状膜26枚を作製した。
【0080】
その後、封筒状膜の開口部側の所定部分を有孔集水管の外周面に接着し、さらにスパイラル状に巻囲することで巻囲体を作製した。巻囲体の外周面にフィルムを巻き付け、テープで固定した後に、エッジカット、端板取りつけ、フィラメントワインディングを行い、8インチエレメントを作製した。
【0081】
(実施例1)
複合半透膜を耐圧セルに入れて上述の条件で評価したところ、結果は表1の通りであった。また、スパイラル型分離膜エレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で評価したところ、結果は表1の通りであった。
【0082】
(実施例2~7)
部材を表1、2の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、複合半透膜、スパイラル型分離膜エレメントを作製した。
【0083】
複合半透膜を耐圧セルに入れて上述の条件で評価したところ、結果は表1、2の通りであった。また、分離膜エレメントを圧力容器に入れて、実施例1と同条件で各性能を評価したところ、結果は表1、2の通りであった。
【0084】
(比較例1)
部材を表2の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、複合半透膜、スパイラル型分離膜エレメントを作製した。
【0085】
複合半透膜を耐圧セルに入れて上述の条件で評価したところ、結果は表2の通りであった。また、スパイラル型分離膜エレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で各性能を評価したところ、結果は表2の通りであった。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
表1、2に示す結果から明らかなように、実施例1~7の複合半透膜及び分離膜エレメントは、分離性能を維持しつつ、CO排出量を削減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の複合半透膜およびエレメントは、特に、水の浄化、またはかん水もしくは海水の脱塩に好適に用いることができる。
【0090】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0091】
1 複合半透膜
12 分離機能層
13 多孔性支持層
14 基材
2 供給側流路材
3 封筒状膜
4 透過側流路材
5 スパイラル型分離膜エレメント
6 集水管
7 供給水
8 透過水
9 濃縮水
図1
図2