(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152191
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20241018BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20241018BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20241018BHJP
B01D 53/92 20060101ALI20241018BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C01F11/18 B
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
B01D53/92 240
B01D53/92 331
B01D53/14 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066234
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】本間 健一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 史典
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G076
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA14
4D002CA06
4D002DA05
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4D002DA17
4D002EA01
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4D002GB20
4D020AA03
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4D020BA19
4D020BB03
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4D020DA03
4D020DB05
4D020DB20
4G076AA16
4G076AB28
4G076BA09
4G076CA02
4G076CA29
4G076DA29
(57)【要約】
【課題】バテライトに富む炭酸カルシウムの製造方法を提供すること。
【解決手段】強酸と弱塩基の塩を含む水溶液と、カルシウム含有物質とを接触させて、カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出する工程と、
カルシウムイオン抽出液と、炭酸ガスを含む気体とを、カルシウムイオンと炭酸ガスとのモル比(CO2/Ca2+)が0.5~9となる割合で接触させて炭酸カルシウムを生成させる工程
を含む、バテライトに富む炭酸カルシウムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強酸と弱塩基の塩を含む水溶液と、カルシウム含有物質とを接触させて、カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出する工程と、
カルシウムイオン抽出液と、炭酸ガスを含む気体とを、カルシウムイオンと炭酸ガスとのモル比(CO2/Ca2+)が0.5~9となる割合で接触させて炭酸カルシウムを生成させる工程
を含む、バテライトに富む炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
カルシウム含有物質が、廃コンクリート、生コンクリートスラッジ、キルンダスト、フライアッシュ、焼却灰、又はケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム及びアルミン酸カルシウムから選択される1以上を主体とする岩石を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
強酸と弱塩基との塩が、無機強酸と、アンモニア及び有機アミンから選択される1以上の弱塩基との塩を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
炭酸ガスを含む気体が、製造設備から排出される排ガスを含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
炭酸カルシウムが、バテライトを30%以上含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム含有物質からの炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスの固定化方法として、例えば、(1)化学的固定化方法、(2)生物的固定化方法及び(3)隔離貯留方法がある。炭酸ガスの固定化を実用化するうえで、簡便かつ低コストであること、化学的に安定な物質として固定化できること、固定化で得られた物質が有効利用できることが重要である。かかる観点から、化学的固定化方法、とりわけアルカリ土類金属と炭酸ガスとを接触させて炭酸塩として固定化する方法が、生成する炭酸塩が安定で無害であることから有望な方法であると考えられている。
【0003】
従来、例えば、アルカリ土類金属含有物質を弱塩基と強酸の塩から得られる水溶液に接触させてアルカリ土類金属を水溶液中に移行させ、次いでこの水溶液と炭酸ガスを含む気体とを接触させて、炭酸カルシウム等の炭酸塩を生成する方法が提案されている(特許文献1)。また、カルシウムを含む廃棄物を微細化して所定の二酸化炭素分圧下、微細化廃棄物を水に添加してカルシウムイオンを抽出し、次いでカルシウムイオンを含む液と残渣とを分離して分離後の液と炭酸カルシウム種結晶とを混合し、次いで所定の二酸化炭素分圧下にて混合液から炭酸カルシウムを析出させる方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-97072号公報
【特許文献2】特開2006-69860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭酸カルシウムには、菱面体晶であるカルサイト、棒状のアラゴナイト、球状のバテライトという3種の結晶多形が存在するところ、常温、常圧の条件においてカルサイトが安定相であり、バテライトが上記3種の中で最も不安定な形態であることが知られている。
従来の上記化学的固定化方法により生成する炭酸カルシウムは、安定なカルサイトであるが、カルサイトをコンクリートの混合材又は混和材として多目に使用すると、コンクリート強度が低下するという課題が存在することを本発明者らは見出した。
本発明の課題は、バテライトに富む炭酸カルシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、強酸と弱塩基の塩を含む水溶液と、カルシウム含有物質とを接触させて、カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出し、次いでカルシウムイオン抽出液と、炭酸ガスを含む気体とを、カルシウムイオンと炭酸ガスとのモル比(CO2/Ca2+)が特定範囲内となる割合で接触させることにより、意外なことに、安定で、かつバテライトに富む炭酸カルシウムが生成することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔5〕を提供するものである。
〔1〕強酸と弱塩基との塩を含む水溶液と、カルシウム含有物質とを接触させて、カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出する工程と、
カルシウムイオン抽出液と、炭酸ガスを含む気体とを、カルシウムイオンと炭酸ガスとのモル比(CO2/Ca2+)が0.5~9となる割合で接触させて炭酸カルシウムを生成させる工程
を含む、バテライトに富む炭酸カルシウムの製造方法。
〔2〕カルシウム含有物質が、廃コンクリート、生コンクリートスラッジ、キルンダスト、フライアッシュ、焼却灰、又はケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム及びアルミン酸カルシウムから選択される1以上を主体とする岩石を含む、前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕強酸と弱塩基との塩が、無機強酸と、アンモニア及び有機アミンから選択される1以上の弱塩基との塩を含む、前記〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕炭酸ガスを含む気体が、製造設備から排出される排ガスを含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の製造方法。
〔5〕炭酸カルシウムが、バテライトを30%以上含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バテライトに富む炭酸カルシウムを簡便な操作で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1~4及び比較例1で得られた炭酸カルシウムについて、X線回折法により測定された回折パターンを示す図である。
【
図2】実施例3で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡観察像を示す図である。
【
図3】比較例1で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡観察像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る炭酸カルシウムの製造方法は、カルシウムイオン抽出工程と、炭酸カルシウム生成工程とを含むことを特徴とする。以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
〔カルシウムイオン抽出工程〕
本工程は、強酸と弱塩基との塩を含む水溶液と、カルシウム含有物質とを接触させて、カルシウム含有物質からカルシウムイオンを抽出する工程である。これにより、カルシウム含有物質から効率よくカルシウムイオンを抽出することができる。
【0012】
強酸と弱塩基との塩を含む水溶液(以下単に「水溶液」とも称する)は、強酸と弱塩基とを水に溶解して調製しても、強酸と弱塩基とから形成された塩を水に溶解して調製してもよい。
水としては、例えば、純水、JIS A 5303付属書Cに規定される上水道水、当該上水道水以外の水(例えば、河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水)を挙げることができる。また、水は、冷却水、常温水及び温水のいずれでもよく、特に限定されない。
【0013】
強酸としては、例えば、無機強酸、有機強酸を挙げることができる。強酸は、1種又は2種以上使用することができる。
無機強酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、クロム酸、過マンガン酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸、塩素酸、ヨウ素酸、臭素酸を挙げることができる。
有機強酸としては、例えば、メタスルフォン酸、トリフルオロメタスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸を挙げることができる。
中でも、無機強酸が好ましく、塩酸、硫酸、硝酸が更に好ましい。
【0014】
弱塩基としては、例えば、アンモニア、金属水酸化物、ヒドラジン誘導体、有機アミンを挙げることができる。弱塩基は、1種又は2種以上使用することができる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化亜鉛を挙げることができる。
ヒドラジン誘導体としては、例えば、ヒドラジン、メチルヒドラジン、エチルヒドラジンを挙げることができる。
【0015】
本明細書において「有機アミン」とは、脂肪族アミン、脂環族アミン、複素環アミン及び芳香族アミンの総称である。
脂肪族アミンとしては、例えば、アルキルアミン、アルキルアルコールアミンを挙げることができる。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~5である。具体例としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等のモノアルキルアミン;ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ヘプチルアミン等のジアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン等のトリアルキルアミン;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルキルアルコールアミンを挙げられることができる。その他、トリス(2-メトキシメトキシエチル)アミン、トリス[2-{2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ}エチル]アミン、トリエタノールアミントリアセテート等も挙げることができる。
脂環族アミンは、脂肪族単環式アミンでも、脂肪族多環式アミンでもよい。具体例としては、例えば、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂肪族単環式アミン;ジシクロヘキシルジアミン、メチレンビス(アミノシクロヘキサン)等の脂肪族多環式アミンを挙げることができる。
複素環アミンとしては、例えば、モルホリン、ピペラジン、ピペリジンを挙げることができる。これらはアルキルで置換されていてもよく、アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~5である。
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、ジアミノトルエン、ベンジジン、フェニレンジアミンを挙げることができる。なお、芳香族アミンは、複素環芳香族アミンでもよく、複素環芳香族アミンとしては、例えば、ピリジン、ピリミジン、キノリン、ベンズイミダゾールを挙げることができる。
【0016】
中でも、弱塩基としては、アンモニア及び有機アミンから選択される1以上が好ましく、有機アミンが更に好ましい。
【0017】
強酸と弱塩基とから形成される好適な塩としては、例えば、Cl-、SO4
2-、NO3
-及びHSO4
-から選択される1以上のアニオンと、アンモニウムイオン、一級アミニウムカチオン、二級アミニウムカチオン、及び三級アミニウムカチオンから選択される1以上のカチオンとからなる化合物を挙げることができる。具体例としては、例えば、塩化アンモニウム、メチルアミン塩酸塩、エタノールアミン塩酸塩、ジエタノールアミン塩酸塩、トリエタノールアミン塩酸塩を挙げることができる。
【0018】
強酸及び弱塩基の使用量は、当該強酸及び弱塩酸により形成される塩の化学量論組成を満たす量であればよい。
また、水溶液中の塩の濃度は、カルシウムの抽出効率の観点から、好ましくは0.01mol/L以上であり、より好ましくは0.1mol/L以上であり、更に好ましくは0.5mol/L以上であり、そして好ましくは5mol/L以下であり、より好ましくは3mol/L以下であり、更に好ましくは2mol/L以下である。
【0019】
カルシウム含有物質としては、カルシウムを含有するものであれば特に限定されないが、例えば、廃材、製造工程で排出される副生物、天然鉱物を挙げることができる。カルシウム含有物質は、1種又は2種以上使用することができる。
廃材としては、例えば、廃コンクリート、生コンクリートスラッジを挙げることができる。廃コンクリートとしては、土木工事や構造物の解体等によって発生する解体コンクリートや、建築物等の建設時等に発生した余剰コンクリートを挙げることができる。なお、廃コンクリートには、廃コンクリートからセメント成分を分離回収したものも包含される。
生コンクリートスラッジとしては、例えば、コンクリートやコンクリート製品工場でのコンクリートミキサの洗浄、又は生コンクリート輸送車両の洗浄により排出されるコンクリートスラッジ水を挙げることができる。また、生コンクリートスラッジは、固液比を調整してもよく、例えば、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.01~2質量%、更に好ましくは0.01~0.2質量%である。なお、ここでいう「固液比」とは、液体分の質量に対する固形分の割合をいう。
【0020】
製造工程で排出される副生物としては、例えば、キルンダスト、フライアッシュ、焼却灰を挙げることができる。キルンダストとしては、例えば、セメントキルンの窯尻部から排出されるガス、又はセメント製造設備の最上段のサイクロンから排出される燃焼ガスをバグフィルター等で捕集したダストを用いることができる。フライアッシュとしては、例えば、火力発電所等での微粉炭の燃焼によって生じる石炭灰を電気集塵機等で回収したものを挙げることができる。また、火力発電所等での微粉炭やバイオマスの燃焼によって生じるクリンカアッシュや、バイオマス灰等も用いることができる。焼却灰としては、例えば、都市ごみ、汚泥(例えば、都市地下汚泥、浄水場汚泥)等の焼却灰、ペーパースラッジ焼却灰を挙げることができる。
【0021】
天然鉱物としては、例えば、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム及びアルミン酸カルシウムから選択される1以上を主体とする岩石を挙げることができる。具体例としては、例えば、ウォラストナイト、橄欖石、蛇紋石、曹灰長石、灰長石、普通輝石、透輝石を挙げることができる。
【0022】
中でも、カルシウム含有物質として、廃コンクリート、生コンクリートスラッジ、キルンダスト、フライアッシュ、焼却灰、又はケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム及びアルミン酸カルシウムから選択される1以上を主体とする岩石を含むことが好ましく、廃コンクリート、生コンクリートスラッジ、キルンダスト、フライアッシュ又は焼却灰を含むことが好ましく、廃コンクリート、生コンクリートスラッジ、キルンダスト又はフライアッシュを含むことが更に好ましい。
【0023】
カルシウム含有物質は、カルシウムイオンの抽出効率、夾雑物除去の観点から、粒径が小さいことが好ましい。カルシウム含有物質を所望の粒径に調整するために、破砕、粉砕及び篩選別から選択される1以上を行うことができる。破砕は、公知の破砕機を使用することが可能であり、破砕機には所望の粒度に調整するためにスクリーンを装着することができる。また、粉砕は、公知の粉砕機を使用することが可能であり、篩選別は、公知の篩選別機を使用することができる。なお、カルシウム含有物質として廃コンクリートや生コンクリートスラッジを使用する場合、このような処理を行うことで、骨材を除去することもできる。
【0024】
粒径調整後のカルシウム含有物質の大きさは適宜選択可能であるが、カルシウムイオンの抽出効率、夾雑物除去の観点から、最大粒径が、好ましくは2mm未満であり、より好ましくは1mm未満であり、更に好ましくは0.5mm未満である。ここでいう「最大粒径」とは、試料がすべて通過する篩の最小の目開きで表した粒径をいう。
【0025】
カルシウム含有物質と水溶液との接触方法は、水溶液中にカルシウム含有物質を浸漬させても構わないが、カルシウムイオンの抽出を促進するために、撹拌してもよい。撹拌する場合、撹拌速度は適宜設定可能であるが、通常50~2000rpmであり、好ましくは100~1000rpmである。なお、カルシウム含有物質と、塩を含む水溶液との投入順序は特に限定されない。
【0026】
カルシウム含有物質と、塩を含む水溶液との混合割合は、カルシウムイオンの抽出効率の観点から、カルシウム含有物質中のカルシウムと、水溶液中の塩とのモル比(塩/カルシウム)として、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは4以上であり、そして好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下であり、更に好ましくは5以下である。
【0027】
接触温度は、カルシウムイオンの抽出効率及びエネルギー効率の観点から、好ましくは室温から100℃であり、より好ましくは20~90℃であり、更に好ましくは30~85℃である。
接触時間は、カルシウムイオンの抽出効率の観点から、好ましくは5分以上であり、より好ましくは10分以上であり、更に好ましくは15分以上であり、そして製造効率の観点から、好ましくは120分以下であり、より好ましくは60分以下であり、更に好ましくは40分以下である。
なお、カルシウム含有物質と水溶液との接触は、常圧で行えばよく、加圧又は減圧することを要しない。
【0028】
本工程終了後、炭酸カルシウム生成工程前に、本工程後の水溶液を固液分離し、水不溶物(水溶液に溶解していない固形物)を除去してもよい。これにより、次工程において、生成した炭酸カルシウムの純度を高めることができる。
固液分離は、公知の方法を採用することが可能であり、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションを挙げることができる。
【0029】
〔炭酸カルシウム生成工程〕
本工程は、カルシウムイオン抽出工程で得られたカルシウムイオン抽出液と、炭酸ガスを含む気体とを、カルシウムイオンと炭酸ガスとのモル比(CO2/Ca2+)が0.5~9となる割合で接触させて炭酸カルシウムを生成させる工程である。
【0030】
本発明者らは、CO2/Ca2+のモル比が、生成する炭酸カルシウムの結晶多形と密接に関連することを見出した。即ち、CO2/Ca2+のモル比が0.5~9という特定範囲内であると、バテライトの生成が促進され、バテライトを豊富に含んでいても安定性に優れることを見出した。CO2/Ca2+のモル比が9を超えると、カルサイトが特異的に生成し、他方0.5未満であると、炭酸カルシウムの生成量及びバテライトの生成が不十分となる。したがって、カルシウムイオンと炭酸ガスとのモル比(CO2/Ca2+)は、バテライトの生成促進の観点から、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1以上であり、更に好ましくは1.5以上であり、またカルサイトの生成抑制の観点から、好ましくは9以下であり、より好ましくは7以下であり、更に好ましくは6以下である。
【0031】
炭酸ガスを含む気体は、高純度の炭酸ガスに限らず、炭酸ガスを含む気体であればいずれも適用することができる。例えば、生物の呼気をはじめ、大気中の炭酸ガス、自動車等の排ガス、製造設備から排出される排ガスを挙げることができる。製造設備としては、例えば、プラント(例えば、製鉄プラント、セメントプラント)、火力発電所を挙げることができる。なお、炭酸ガスを含む気体として、製造設備から排出される排ガスを使用する場合、接触前に排ガスを吸着フィルタ等に通過させて塵埃等を除去してもよい。また、炭酸ガスを含む気体には、炭酸ガス以外の気体、例えば、SOx、NOxが含まれていても構わない。
【0032】
カルシウムイオン抽出液と、炭酸ガスを含む気体との接触方法は特に限定されないが、例えば、カルシウムイオン抽出液に炭酸ガスを含む気体をバブリングする(吹き込む)方法、カルシウムイオン抽出液と炭酸ガスを含む気体とを同一容器内に封入して振とうする方法を挙げることができる。
【0033】
接触温度は、バテライトの生成促進の観点から、好ましくは室温から80℃であり、より好ましくは20~60℃であり、更に好ましくは20~50℃である。
接触時間は、炭酸ガスを含む気体を、所望のCO2/Ca2+のモル比で供給できれば、特に限定されない。
炭酸ガスを含む気体をカルシウムイオン抽出液にバブリングする場合、炭酸ガスを含む気体の供給速度は適宜設定可能であるが、製造効率の観点から、好ましくは0.01(CO2/Ca2+)/min以上であり、より好ましくは0.05(CO2/Ca2+)/min以上であり、更に好ましくは0.08(CO2/Ca2+)/min以上であり、そして好ましくは5(CO2/Ca2+)/min以下であり、より好ましくは1(CO2/Ca2+)/min以下であり、更に好ましくは0.5(CO2/Ca2+)/min以下である。
【0034】
炭酸ガスを含む気体との接触を停止後、反応液を固液分離し、バテライトに富む炭酸カルシウムを回収することができる。
固液分離は、公知の方法を採用することが可能であり、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションを挙げることができる。
【0035】
本発明の化学的固定化方法により生成した炭酸カルシウムは、バテライトに富むものである。具体的には、炭酸カルシウム中のバテライトの割合は、通常30%以上であり、好ましくは35%以上であり、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上であり、より更に好ましくは70%以上である。なお、炭酸カルシウム中のバテライトの割合の上限値は特に限定されず、100%であっても構わない。ここで、本明細書において「炭酸カルシウム中のバテライトの割合」は、後掲の実施例に記載の方法により分析するものとする。
【0036】
従来の化学的固定化方法により生成した炭酸カルシウムは、結晶構造がカルサイトであり、
図3に示されるように、尖った形状を有するため、コンクリートの混合材又は混和材として使用したときに、混練性に劣る。そのため、カルサイトをコンクリートの混合材又は混和材として多目に使用すると、コンクリート強度が低下する。これに対し、本発明の化学的固定化方法により生成した炭酸カルシウムは、
図2に示されるように、球状のバテライトであり、コンクリートの混合材又は混和材として使用したときに混練性に優れるため、コンクリート強度の低下を抑制することができる。
したがって、本発明の化学的固定化方法により製造された炭酸カルシウムは、無害で安定な物質であり、混練性に優れるため、種々の用途に適用することができる。例えば、セメント原料、製鉄用の副原料、耐火物原料、製紙填料、地盤改良材、肥料の他、各種環境浄化プロセスに用いられる不可欠の原料、ゴム、プラスチック、紙等の充填材や各種の工業用原料として有効に再利用することができる。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
1.炭酸カルシウムの結晶相の同定
X線回折測定装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Bruker D8 advance)を用い、粉末X線回折測定法に準拠して測定し、回折パターンから結晶相の同定を行った。
【0039】
2.炭酸カルシウム中のバテライトの割合
バテライトの割合は、粉末X線回折測定法により得られた回折チャートの縦軸に示される回折線強度に基づいて、下記式により算出した。
【0040】
バテライトの割合(%)=
(I110(V)+I112(V)+I114(V))÷(I110(V)+I112(V)+I104(C)+I114(V))×100
〔式中、I110(V)はバテライト110面の回折線強度を示し、I112(V)はバテライト112面の回折線強度を示し、I114(V)はバテライト114面の回折線強度を示し、I104(C)はカルサイト104面の回折線強度を示す。〕
【0041】
実施例1~4及び比較例1
(1)強酸と弱塩基の塩を含む水溶液の調製
市販の塩酸(35wt%)90mLと、ジエタノールアミン107.21gを1Lメスフラスコに入れて、純水でメスアップした。塩酸とアミンとのモル比(塩酸/アミン)は、1.0であった。
(2)カルシウムイオン抽出工程
300mLフラスコに、(1)で調製した水溶液120mLと、コンクリート粉末(粒径1mm未満)14.0gを加え、撹拌してスラリーとした。その後、80℃の水浴中にて500rpmにて30分間攪拌した。撹拌後、吸引ろ過にて固液分離を行い、カルシウムイオン抽出液を得た。
(3)炭酸カルシウム生成工程
フラスコに(2)で得られたカルシウムイオン抽出液85mLを加え、温度は40℃で、表1に示す時間で、炭酸ガス(濃度:100%)を90mL/minの流量のバブリングにより供給した。このときのCO
2/Ca
2+のモル比を表1に示す。バブリング終了後、沈殿物を固液分離した。得られた固形物を真空中にて一晩乾燥した後、粉末X線回折装置を用いて結晶相を同定し、バテライトの割合を算出した。その結果を表1に示す。なお、各実施例及び比較例で得られた固形物のX線回折パターンを
図1に示す。また、実施例3及び比較例1で得られた固形物について電子顕微鏡を用いて粒子形状の観察を行った。実施例3の結果を
図2に示し、比較例1の結果を
図3に示す。
【0042】
【0043】
カルシウムイオン抽出液に、CO2/Ca2+のモル比が0.5~9となる割合で炭酸ガスを吹き込むことで、バテライト相に富む炭酸カルシウムが特異的に得られることがわかる。
実施例1~4で得られた炭酸カルシウムは、いずれも粒径100nm以下の球状一次粒子で構成された凝集体であるのに対し、比較例1で得られた炭酸カルシウムは、粒径が2~5μmの尖った一次粒子で構成された凝集体であった。