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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152197
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】変圧器及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/36 20060101AFI20241018BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01F27/36 157
H01F30/10 C
H01F30/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066245
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】古川 公久
(72)【発明者】
【氏名】馬淵 雄一
【テーマコード(参考)】
5E058
【Fターム(参考)】
5E058CC13
5E058CC15
(57)【要約】
【課題】数kHz以上の高周波で駆動しても混触防止材上で渦電流が発生することを抑制できる変圧器を提供する。
【解決手段】1次巻線と、前記1次巻線の周囲に配置された2次巻線と、前記1次巻線と前記2次巻線との間に設けられた接地された導体である混触防止板とを変圧器に備える。前記混触防止板において前記1次巻線に対向する第1対向面と、前記混触防止板において前記2次巻線に対向する第2対向面との少なくとも一方には磁性体層が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線と、
前記1次巻線の周囲に配置された2次巻線と、
前記1次巻線と前記2次巻線との間に設けられた接地された導体である混触防止板とを備え、
前記混触防止板において前記1次巻線に対向する第1対向面と、前記混触防止板において前記2次巻線に対向する第2対向面との少なくとも一方には磁性体層が設けられていることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
請求項1に記載の変圧器であって、
前記1次巻線と前記2次巻線とが巻回される鉄心をさらに備え、
前記1次巻線と前記2次巻線とは、前記鉄心の軸方向における同じ位置に巻回され、
前記混触防止板は、筒状に形成されていることを特徴とする変圧器。
【請求項3】
請求項1に記載の変圧器であって、
前記1次巻線と前記2次巻線とが巻回される鉄心をさらに備え、
前記1次巻線と前記2次巻線とは、前記鉄心の軸方向における異なる位置に隣接して巻回され、
前記混触防止板は、板状に形成されていることを特徴とする変圧器。
【請求項4】
請求項1に記載の変圧器であって、
前記1次巻線と前記2次巻線とが巻回される鉄心をさらに備え、
前記1次巻線と前記2次巻線とは、前記鉄心の軸方向における異なる位置に隣接して巻回され、
前記1次巻線と前記2次巻線とのうち一方の巻線は、当該一方の巻線が他方の巻線の径方向外側に位置するように巻回された重畳部を有し、
前記混触防止板は、前記1次巻線の軸方向における端面と前記2次巻線の軸方向における端面の間に配置された板部と、前記他方の巻線の外周に配置された筒部とを備えることを特徴とする変圧器。
【請求項5】
請求項1に記載の変圧器であって、
前記1次巻線の電位が前記2次巻線の電位に比べて高いことを特徴とする変圧器。
【請求項6】
請求項1に記載の変圧器であって、
前記磁性体層が、シート状若しくはリング状の磁性材料、または磁性塗料によって形成されていることを特徴とする変圧器。
【請求項7】
請求項1に記載の変圧器であって、
前記磁性体層が、前記第1対向面と前記第2対向面の全面に設けられていることを特徴とする変圧器。
【請求項8】
請求項1に記載の変圧器を備える電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は変圧器を内蔵している。変圧器には、1次巻線と、1次巻線の周囲に配置された2次巻線と、1次巻線と2次巻線との間に設けられた接地された導体である混触防止材とを備えるものがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-307931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、様々な分野で電動化が加速している。特に、移動体(自動車、航空機、建設機械、船舶等)の電動化や再生可能エネルギーの導入における電動化の進展が著しく、電力変換装置が搭載される機器が急速に増加している。特にこれらの機器では電力変換装置の設置スペースに限界があることが少なくなく、電力変換装置の小型化が求められている。電力変換装置の小型化にはその構成の一部である変圧器の小型化が有効である。これを実現する変圧器として、Solid State Transformer(半導体変圧器(以下、SSTと称する))が提案されている。SSTは、数kHz以上の高周波で駆動される高周波変圧器を内蔵している。高周波変圧器は、従来の商用変圧器(日本では50Hz又は60Hzで駆動される変圧器)に比較し、大幅な小型化・軽量化が可能である。
【0005】
しかし、混触防止材(電位移行防止板、遮蔽板などとも呼ばれる。)を備える変圧器を数kHz以上の高周波で駆動すると、混触防止材上に高周波磁束によって大量の渦電流が発生し、それが変圧器の発熱や電力損失の原因となることが発明者らによって知見された。
【0006】
本発明の目的は、数kHz以上の高周波で駆動しても混触防止材上で渦電流が発生することを抑制できる変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、1次巻線と、前記1次巻線の周囲に配置された2次巻線と、前記1次巻線と前記2次巻線との間に設けられた接地された導体である混触防止板とを変圧器に備える。前記混触防止板において前記1次巻線に対向する第1対向面と、前記混触防止板において前記2次巻線に対向する第2対向面との少なくとも一方には磁性体層が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高周波磁束による渦電流が混触防止板に発生することを抑制でき、発熱や損失を抑制できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る変圧器のXY面による断面模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る変圧器の1次巻線と2次巻線の巻き方を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る変圧器における磁束の向きを模式的に示す断面図である。
図4図3における混触防止板の上端部に位置する領域IVの拡大図である。
図5】磁性体層の無い混触防止板を備える変圧器の断面において図3の領域IVと同じ部分の磁束の向きを示した拡大図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る変圧器の構成と当該変圧器における磁束の向きを模式的に示す断面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る変圧器の構成と当該変圧器における磁束の向きを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明の第1実施形態~第3実施形態に係る変圧器の構成及び動作について説明する。なお、各図において、同一符号は同一部分を示す。また、断面図の各々は、互いに直交するXYZ軸により方向を特定し、+Xを「右」、-Xを「左」、+Yを「上」、-Yを「下」、+Zを「前」、-Zを「後」と規定する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る変圧器10のXY面による断面模式図である。図1に示すように、変圧器10は、1次巻線11と、1次巻線11の周囲に配置された2次巻線12と、1次巻線11と2次巻線12との間に設けられた混触防止板13とを備える。
【0012】
1次巻線11と2次巻線12は、例えば、銅線で、少なくとも1層以上の巻線層を有する。1次巻線11は高電圧側に接続され、2次巻線12は低電圧側に接続される。そのため、1次巻線11は、2次巻線12に対して相対的に高い電位であり、2次巻線12は、1次巻線11に対して相対的に低い電位である。
【0013】
また、1次巻線11は樹脂材11aにより被覆することが好ましく、2次巻線12はシート状の絶縁材19により挟まれていることが好ましい。これにより、1次巻線11と2次巻線12とは絶縁性が確保されている。
【0014】
混触防止板13は、接地された導体であり、例えば銅やアルミニウムで形成される。混触防止板13は、例えば2次巻線12を外側から覆う筒状(円筒や角筒)に形成されており、1次巻線11に対向する第1対向面(外側面)13aと、2次巻線12に対向する第2対向面(内側面)13bとを備えている。この第1対向面13aと第2対向面13bとの少なくとも一方には磁性体層14が設けられている。
【0015】
本実施形態の磁性体層14は、第1対向面13aと第2対向面13bの両方に設けられており、さらに第1対向面13aと第2対向面13bの全面に設けられている。磁性体層14は第1対向面13a又は第2対向面13bの一部に設けても良い。
【0016】
磁性体層14は、例えば、シート状若しくはリング状の磁性材料、または磁性塗料で形成されており、より具体的には、磁性シートやフェライトリングや磁性塗布膜で形成できる。磁性体層14は、1次巻線11や2次巻線12に交流電流が流れたときに磁性体層14内に発生する磁束の向き(磁場の流れ)を磁性体層14と略平行になるように整流する。これにより、磁束が第1対向面13a側から混触防止板13を介して第2対向面13b側(またはその逆方向)に貫通することが抑制される(磁束の詳細については図4等を用いて後述する)。
【0017】
また、変圧器10は、1次巻線11と2次巻線12と混触防止板13とが巻かれる鉄心、例えばU字状の強磁性材料(例えば、フェライト)である第1コア15と第2コア16とを備えることが好ましい。
【0018】
第1コア15と第2コア16の各々には、1つの基部15a,16aと、基部15a,16aの両端から一方に突出する2つの脚部15b,16bとが設けられている。また、第1コア15と第2コア16とは、同じ断面形状で同じ断面積であることが好ましい。
【0019】
第1コア15と第2コア16とは閉磁路を形成するように、2つの脚部15b,16bの先端を対向させて配置することが好ましい。本実施形態では、第1コア15がU字状に配置された第2コア16の上側に逆U字状に配置されている。
【0020】
第1コア15と第2コア16の対向する2つの脚部15b,16bは、所定の間隔を空けて配置されており、2つの脚部15b,16bの間にはエアギャップである第1ギャップ17及び第2ギャップ18が形成されていることが好ましい。また、第1ギャップ17と第2ギャップ18とには絶縁部材(ガラスエポキシ樹脂板等)を設けてもよい。
【0021】
また、2つの脚部15b,16bの各々には、1次巻線11と2次巻線12とが、2つの脚部15b,16bの各々の軸方向における同じ位置に巻回され、混触防止板13は、筒状に形成されていることが好ましい。また、1次巻線11と2次巻線12と混触防止板13とは絶縁材19により絶縁され、1次巻線11と2次巻線12と混触防止板13は上下方向から支持材20,21によって支持することが好ましい。
【0022】
絶縁材19は、例えば、樹脂シートや絶縁紙(ノーメックス)である。絶縁材19は、隣り合う第1コア15と2次巻線12との間、隣り合う第2コア16と2次巻線12との間、隣り合う2次巻線12と混触防止板13との間、隣り合う混触防止板13と1次巻線11との間、隣り合う1次巻線11と1次巻線11との間に設けられている。これにより、隣り合う第1コア15と2次巻線12との間、隣り合う第2コア16と2次巻線12との間、隣り合う2次巻線12と混触防止板13との間、隣り合う混触防止板13と1次巻線11との間、隣り合う1次巻線11と1次巻線11との間の絶縁性(電気的な絶縁)が確保される。
【0023】
支持材20,21は、例えば、樹脂である。支持材20,21は、2つの脚部15b,16bの各々に巻回された1次巻線11と2次巻線12と混触防止板13の上端と下端とを嵌め込むための溝を備えている。支持材20,21の溝に嵌め込まれることによって1次巻線11と2次巻線12と混触防止板13とは固定され、一体化される。
【0024】
支持材20,21は、1次巻線11と2次巻線12との間に間隙27を形成するように1次巻線11と2次巻線12を支持することが好ましい。1次巻線11と2次巻線12との間に間隙27を形成させることにより、間隙27が電界緩和層となり部分放電を抑制することができる。また、間隙27は風路として役割を果たし、1次巻線11と2次巻線12を冷却する。
【0025】
図2は、本実施形態に係る変圧器10の1次巻線11と2次巻線12の巻き方の一例を模式的に示す断面図である。
【0026】
図2に示すように、Y方向において対向する2組の脚部15b,16bの一方(本実施形態では-X側の脚部15b,16b)に巻回された1次巻線11の一端である端部11bは第1端子22に接続されている。また、当該2組の脚部15b,16bの一方に巻回された1次巻線11の他端である端部11cは、当該2組の脚部15b,16bの他方(本実施形態では+X側の脚部15b,16b)に巻回された1次巻線11の一端である端部11dに接続されている。そして、当該2組の脚部15b,16bの他方に巻回された1次巻線11の他端である端部11eは第2端子23に接続されている。即ち、1次巻線11は第1コア15と第2コア16の2つの脚部15b,16bに直列に巻回されている。
【0027】
また、当該2組の脚部15b,16bの一方(本実施形態では-X側の脚部15b,16b)に巻回された2次巻線12の一端である端部12aは第3端子24に接続されている。当該2組の脚部15b,16bの一方に巻回された2次巻線12の他端である端部12bは、当該2組の脚部15b,16bの他方に巻回された2次巻線12の一端である端部12cに接続されている。そして、当該2組の脚部15b,16bの他方に巻回された2次巻線12の他端である端部12dは第4端子25に接続されている。即ち、2次巻線12は第1コア15と第2コア16の2つの脚部15b,16bに直列に巻回されている。
【0028】
1次巻線11は、1次巻線11を通電させたときに第1コア15と第2コア16を循環する磁束が流れるように、2つの脚部15b,16bとで相互に逆向きに巻回されている。そのため、第1端子22と第2端子23の間に交流電圧を印加したとき、1次巻線11に流れる交流電流により、図2の矢印のいずれか一方に循環する磁束が交互に形成される。
【0029】
また、2次巻線12は、1次巻線11に対する巻回方向は任意であるものの、1次巻線11と同様に2次巻線12を通電させたときに第1コア15と第2コア16を循環する磁束が流れるように、2つの脚部15b,16bとで相互に逆向きに巻回されている。
【0030】
これらの構成により、第1端子22と第2端子23の間に交流電圧V1が印加されると1次巻線11に交流電流が流れて、第1コア15と第2コア16とを循環して流れる磁束が時計回りと反時計回りに交互に発生する。第1コア15と第2コア16とを循環して流れる磁束によって2次巻線12には誘導電流が発生し、第3端子24と第4端子25の間には交流電圧V2が発生する。
【0031】
第1端子22と第2端子23の間の交流電圧V1と第3端子24と第4端子25の間の交流電圧V2との比は、1次巻線11の巻数n1と2次巻線12の巻数n2との比と等しいので、第3端子24と第4端子25の間に印加される交流電圧V2は、1次巻線11の巻数n1と2次巻線12の巻数n2との比を変えることによって変更される。
【0032】
なお、本実施形態(以降の実施形態も含む)では、1次巻線11の電位が2次巻線12の電位より高い。そのため、本実施形態に係る変圧器10では、1次巻線11と2次巻線12の間に混触防止板13を設けることで、高圧側の1次巻線11の電流が低圧側の2次巻線12に流れて機器の破損等が発生することを防止することとした。
【0033】
[効果]
図3は本実施形態に係る変圧器10における磁束の向きを模式的に示す断面図である。図中の矢印26は、1次巻線11に電流を流したときに発生する磁束の向き(磁場の流れ)を示している。
【0034】
1次巻線11に電流を流した場合、混触防止板13の中央部の周囲では、Y方向、例えば、図3に示すように、主に+Y方向(上向き)の磁束が形成されるが、混触防止板13の上端部と下端部の周囲ではX成分を含む斜め向きの磁束が形成される。
【0035】
図3図4における混触防止板13の上端部に位置する領域IVの拡大図である。図4には、図3に示した混触防止板13の外の磁束の向きだけでなく、混触防止板13内及び磁性体層14内の磁束の向きも示されている。
【0036】
本実施形態の混触防止板13の上端部の周囲では、磁場の流れに+X成分が付与されて図4の紙面における右上に向かう磁束26が形成される。そして、この右上に向かう斜めの磁束26が混触防止板13の磁性体層14内に入ると、磁性体によってX成分が除去されて+Y方向(上向き)に整流される。
【0037】
つまり、斜めの磁束が第1対向面13a側の磁性体層14から入ってきても磁性体層14で上向きに整流されるため、渦電流の発生原因となる混触防止板13を斜めに貫く磁場はほとんど生じない。
【0038】
これにより本実施形態に係る変圧器10を数kHz以上の高周波で駆動させても、混触防止板13上に高周波磁束によって渦電流が発生することを抑制できるので、変圧器10の発熱や電力損失を抑制できる。
【0039】
参考のため、磁性体層14が無い場合の磁束の流れについて説明する。図5は磁性体層14の無い混触防止板113(比較例に係る混触防止板113と称する)を備える変圧器の断面において図3の領域IVと同じ部分の磁束の向きを示した拡大図である。
【0040】
図5に示すように、1次巻線11に電流を流すことによって発生する斜めの磁束26は、整流されることなく混触防止板113内を斜めに貫いて流れるため、混触防止板113に渦電流が発生し易い。特に、この混触防止板113を備える変圧器を数kHz以上の高周波で駆動すると、混触防止板113上には高周波磁束によって渦電流が大量に発生し、それが変圧器の発熱や電力損失の原因となり得る。
【0041】
ところで本実施形態の変圧器10は上記の渦電流抑制効果に加えて下記の効果を発揮できる。すなわち、本実施形態の変圧器10は、1次巻線11と2次巻線12とが巻回される鉄心(第1コア15と第2コア16)をさらに備え、1次巻線11と2次巻線12とは、鉄心(第1コア15の2つの脚部15bと第2コア16の2つの脚部16b)の軸方向における同じ位置に巻回され、混触防止板13は、筒状に形成されていることが好ましい。これにより、1次巻線11と2次巻線12の磁気結合を高めることができるため、変圧器10の大きさを小さくすることができる。
【0042】
また、本実施形態の変圧器10では、磁性体層14が、シート状若しくはリング状の磁性材料、または磁性塗料によって形成されていることが好ましい。磁性体層14が、シート状若しくはリング状の磁性材料によって形成されている場合、コストを抑制できる。また、磁性体層14が磁性塗料によって形成されている場合、磁性体層14を容易に加工することができる。
【0043】
また、本実施形態の変圧器10では、磁性体層14が、第1対向面13aと第2対向面13bの全面に設けられていることが好ましい。これにより、混触防止板13に渦電流が発生することをさらに抑制できる。
【0044】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る変圧器210の構成と変圧器210における磁束の向きを模式的に示す断面図である。本実施形態による変圧器210が、第1実施形態に係る変圧器10と異なる点は、1次巻線211と2次巻線212と混触防止板213の形態である。
【0045】
即ち、本実施形態に係る変圧器210において、1次巻線211と2次巻線212とは、鉄心(2つの脚部15b,16bの各々)の軸方向における異なる位置に隣接して巻回され、混触防止板213は、板状に形成されている。
【0046】
図6に示した例では、1次巻線211は、第1コア15の脚部15bに間隙227を介して巻回されており、樹脂材11aにより被覆され、支持材220,221によって上下方向から支持されている。また、2次巻線212は、第2コア16の脚部16bに絶縁材219を介して巻回されている。1次巻線211は2次巻線212の上方に配置されている。また、間隙227の大きさは、例えば2次巻線212の径方向における厚みと同じ程度にできる。
【0047】
さらに、板状の混触防止板213は、コア15,16の脚部15b,16bに対して略直交して第1巻線211と第2巻線212とを遮るように、第1巻線211の下端と第2巻線212の上端の間に配置されている。混触防止板213は、1次巻線211の鉄心(2つの脚部15b,16b)の軸方向における下端面211fに対向し、2次巻線212の鉄心(2つの脚部15b,16b)の軸方向における上端面212eに対向している。
【0048】
[効果]
このように1次巻線211と2次巻線212と混触防止板213とが配置された変圧器210では、1次巻線211に交流電流が流れ、2次巻線212に誘起電流が流れることにより発生する磁束226が、例えば、図6に示すように2次巻線212から1次巻線211に向かって混触防止板213を貫通する方向に流れる。
【0049】
しかしながら、混触防止板213は、1次巻線211に対向する第1対向面213aと、2次巻線212に対向する第2対向面213bとの少なくとも一方に磁性体層214を備えている。本実施形態の磁性体層214は、第1対向面213aと第2対向面213bの両方に設けられており、さらに第1対向面213aと第2対向面213bの全面に設けられている。これにより、磁束226は混触防止板213の磁性体層214によってY成分が除去されてX方向(横方向)に整流される。つまり、2次巻線212から1次巻線211に向かって混触防止板213を貫通する方向に磁束226が流れていても磁性体層14で横向きに整流されるため、渦電流の発生原因となる混触防止板213を貫く磁場はほとんど生じず、混触防止板213に渦電流がほとんど発生しない。すなわち、本実施形態においても、混触防止板213上に高周波磁束によって渦電流が発生することを抑制できるので、変圧器210の発熱や電力損失を抑制できる。
【0050】
また、本実施形態に係る変圧器210は、1次巻線211と2次巻線212とが、鉄心(2つの脚部15b,16bの各々)の軸方向における異なる位置に隣接して巻回されている。そのため、1次巻線211と2次巻線212とが、鉄心(2つの脚部15b,16bの各々)の軸方向における同じ位置に巻回されている第1実施形態に係る変圧器10よりも漏れ磁束を小さくし漏れインダクタンスを小さくすることができる。
【0051】
(第3実施形態)
図7は、本発明の第3実施形態に係る変圧器310の構成と変圧器310における磁束の向きを模式的に示す断面図である。本実施形態による変圧器310が、第2実施形態に係る変圧器210と異なる点は、1次巻線311(内側1次巻線311iと外側1次巻線311o)と混触防止板313である。
【0052】
即ち、本実施形態に係る変圧器310において、内側1次巻線311iと2次巻線312とが、鉄心(2つの脚部15b,16bの各々)の軸方向における異なる位置に隣接して巻回されている。さらに、1次巻線311と2次巻線312とのうち一方の巻線(外側1次巻線311o)は、当該一方の巻線(外側1次巻線311o)が他方の巻線(2次巻線312)の径方向外側に位置するように巻回された重畳部311sを有している。混触防止板313は、内側1次巻線311iの軸方向における下端面311fと2次巻線312の軸方向における端面312eの間に配置された板部313uと、当該他方の巻線(2次巻線312)の外周312fに配置された筒部313sとを備えている。
【0053】
詳細には、本実施形態に係る変圧器310の1次巻線311は、内側1次巻線311iと外側1次巻線311oとを備える。内側1次巻線311iは、第1コア15の脚部15bにエアギャップ311eを介して巻回され、樹脂材311aにより被覆され支持材320,321によって上下方向から支持される。また、外側1次巻線311oは、内側1次巻線311iの下側部分における外周側と2次巻線212の上側部分における外周側とに巻回され、樹脂材311aにより被覆され支持材322によって横方向から支持される。
【0054】
また、混触防止板313は、内側1次巻線311iの下端面311fと2次巻線212の上面212eとの間に配置された上側混触防止材(板部)313uと、2次巻線212の外側に巻回された外側混触防止材(筒部)313sとを備える。
【0055】
[効果]
このように1次巻線311と2次巻線312と混触防止板313とが配置された変圧器310では、1次巻線311に交流電流が流れ、2次巻線312に誘起電流が流れることにより発生する磁束326が、例えば、図7に示すように内側1次巻線311iの下端面311fにおいて第1コア15の脚部15bに向かい混触防止板313に対して傾いて流れ、混触防止板313に渦電流が発生し易い。
【0056】
しかしながら、混触防止板313は、1次巻線311に対向する第1対向面313aと、2次巻線312に対向する第2対向面313bとの少なくとも一方には磁性体層314を備えている。本実施形態の磁性体層314は、第1対向面313aと第2対向面313bの両方に設けられており、さらに第1対向面313aと第2対向面313bの全面に設けられている。これにより、磁束326は混触防止板313の磁性体層314によって磁性体層314に沿うように整流されるため、渦電流の発生原因となる混触防止板213を貫く磁場はほとんど生じず、混触防止板213に渦電流がほとんど発生しない。すなわち、本実施形態においても、混触防止板313上に高周波磁束によって渦電流が発生することを抑制できるので、変圧器310の発熱や電力損失を抑制できる。
【0057】
また、本実施形態に係る変圧器310は、内側1次巻線311iと外側1次巻線311oとが重畳しない部分が形成されるので、内側1次巻線と外側1次巻線とが重なった1次巻線211を備える第2実施形態に係る変圧器210よりも漏れ磁束を小さくでき、漏れインダクタンスを第1実施形態と第3実施形態との中間特性として設計することができる。
【0058】
さらに、本実施形態に係る変圧器310は、1次巻線311と2次巻線312の軸方向の長さが第2実施形態より短くすることができるので、鉄心(2つの脚部15b,16bの各々)の軸方向における長さ(磁路長)を過度に大きくすることなく、漏れインダクタンスの設計と絶縁性の確保の両立を図ることができる。
【0059】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
10,210,310…変圧器、11,211,311…1次巻線、12,212,312…2次巻線、13,213,313…混触防止板、13a,213a,313a…第1対向面、13b,213b,313b…第2対向面、14,214,314…磁性体層、15…第1コア、15b…脚部、16…第2コア、16b…脚部、26,226,326…磁束
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7