(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152204
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】建築物用浸水測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 23/14 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
G01F23/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066253
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】香月 康彦
(72)【発明者】
【氏名】出来 信久
(72)【発明者】
【氏名】梶間 勝司
【テーマコード(参考)】
2F014
【Fターム(参考)】
2F014AA17
2F014AB01
2F014BA03
(57)【要約】
【課題】1階の軒下までつかる程度の浸水においても水位の高さを測定し、設置場所に赴くことなくその測定データを得ることができる建築物用浸水測定装置を提供する。
【解決手段】建築物の壁に設置する建築物用浸水測定装置において、上部を閉塞し下部が開口する筒状部と、この筒状部の内側の中空部に配置した空気圧センサと、送信アンテナを有する通信部を備え、前記空気圧センサの空気圧計測値で浸水する筒状部の水位の高さを測定し、前記水位の高さの測定データを通信部の前記送信アンテナから無線信号で管理サーバーへ送信するように設け、前記送信アンテナを地盤面より2m以上の高さに配置する。
前記送信アンテナを地盤面より2m以上の高さに配置するので、1階の軒下までつかる程度の浸水レベルの水位を測定した場合でも、その測定データを前記送信アンテナから送信することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の壁に設置される建築物用浸水測定装置であって、
上部が閉塞され下部に開口部を有する筒状部と、該筒状部の内側の中空部に配置された空気圧センサと、送信アンテナを有する通信部を備え、
前記空気圧センサの空気圧計測値で浸水する筒状部の水位の高さを測定し、前記水位の高さの測定データを通信部の前記送信アンテナから無線信号で送信するように設けられており、
前記送信アンテナが地盤面より2m以上の高さに配置されていることを特徴とする建築物用浸水測定装置。
【請求項2】
前記通信部が本体部に備えられ、該本体部の下部に前記筒状部が一体的に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建築物用浸水測定装置。
【請求項3】
前記通信部が本体部に備えられ、該本体部と前記筒状部が別体に形成されると共に、該筒状部が前記本体部の下方に離間して設置されていることを特徴とする請求項1に記載の建築物用浸水測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水害によって浸水した家屋等の建築物の被害の大きさを把握するための浸水測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洪水などの水害が発生して家屋等の建築物が浸水の被害を受けたとき、その被害の大きさの基準として浸水の水位の高さが用いられることがある。例えば損害保険会社では、浸水した建築物において地面からの水位の高さを基準として支払う保険金の額を算出する場合があり、水害の際には浸水の水位を計測する必要が生じることから、その計測作業を容易にできる方法が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、壁面における浸水線を含む画像データから基準物を検知する検知部と、前記検知部によって検知された前記基準物の前記画像データにおける高さ方向の画素数と、前記基準物の実際の高さである実高さとから、単位画素当たりの高さである単位高さを計算する単位高さ計算部と、前記画像データにおける床面から前記浸水線までの画素数と、前記単位高さ計算部によって計算された前記単位高さとから、前記床面から前記浸水線までの距離である浸水高を計算する浸水高計算部とを備える浸水高計算システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される浸水高計算システムは、浸水線を含む壁面を撮影した後、その画像データをコンピュータ等で解析して床面からの浸水高を計算するものであるが、解析するための画像データを撮影するために洪水などで被災した設置場所へ作業者が赴く必要があった。
【0006】
本発明は、設置場所へ作業者が赴くことなく建築物の浸水の水位のデータを得ることができる建築物用浸水測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。
すなわち本発明に係る建築物用浸水測定装置は、建築物の壁に設置される建築物用浸水測定装置であって、上部が閉塞され下部に開口部を有する筒状部と、該筒状部の内側の中空部に配置された空気圧センサと、送信アンテナを有する通信部を備え、前記空気圧センサの空気圧計測値で浸水する筒状部の水位の高さを測定し、前記水位の高さの測定データを通信部の前記送信アンテナから無線信号で管理サーバーへ送信するように設けられており、前記送信アンテナが地盤面より2m以上の高さに配置されていることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る建築物用浸水測定装置によれば、上部が閉塞し下部に開口部を有する筒状部と、この筒状部の内側の中空部に配置した空気圧センサを備え、前記空気圧センサの空気圧計測値で浸水する筒状部の水位の高さを測定するので、洪水などで浸水した建築物の水位の高さを精度良く測定することができる。
また、前記水位の高さの測定データを通信部の送信アンテナから無線信号で送信するように設けるので、前記測定データを異なる場所で受信し記録することで洪水などの水害を受け被災した現地へ作業者が赴くこと無く、水位の測定データを得ることができる。
また、前記送信アンテナを地盤面より2m以上の高さに配置するので、1階の軒下までつかる程度の浸水レベルの水位を測定した場合でも、その測定データを前記送信アンテナから送信することができる。
【0009】
また、前記通信部を本体部に備えさせ、この本体部の下部に前記筒状部を一体的に設ければ、本体部と筒状部とを建築物の壁に一度に設置できるので、設置作業が容易となり、好ましい。
【0010】
また、前記通信部を本体部に備えさせ、この本体部と前記筒状部を別体に形成すると共に、この筒状部を前記本体部の下方に離間して設置すれば、前記空気圧センサを利用して筒状部の上端を超える水位を測定した場合でも、その測定データを前記送信アンテナから送信することができるので、好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建築物用浸水測定装置によれば、建築物において1階の軒下までつかる程度の浸水においても水位の高さを測定し、その測定データを設置場所に赴くことなく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る建築物用浸水測定装置の実施の一形態を示す正面図である。
【
図3】
図1の建築物用浸水測定装置を設置した状況を示す側面図である。
【
図4】本発明に係る建築物用浸水測定装置の実施の他の一形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を図面に基づき具体的に説明する。
図面において1は建築物用浸水測定装置である。
建築物用浸水測定装置1は矩形箱状の本体部2と筒形状の筒状部3を備え、本体部2の下部に長手方向を上下へ向けた筒状部3を取り付けている。具体的には、本体部2の下部にはジョイント21を設けており、このジョイント21へ筒状部3の上端を接合させて、本体部2と筒状部3とを一体的に形成している。
【0014】
前記筒状部3は合成樹脂で形成した円筒形状の長尺体であり、硬質塩化ビニル樹脂で形成している。筒状部3は外径30mmの丸パイプで形成しており、上下の長手方向の大きさを3mに形成している。
筒状部3は、下部が開口すると共に上部が閉塞する有底筒状に形成しており、前記開口は
筒壁31の下端に形成した開口部32で構成している。開口部32は筒壁31の下端から上方へ向かう略半円形の切欠き形状に形成しており、複数の開口部32を筒壁31に形成している。具体的には、筒壁31には3個の開口部32を形成しており、筒壁31の前側に開口部32aを1個形成し、筒壁31の両側の側方に開口部32bをそれぞれ1個ずつ形成している。
【0015】
筒状部3の内側には空気圧センサ7を取り付けている。
図2は
図1の筒状部3の上部の縦断面図である。
図2においては、前記本体部2やジョイント21の図示を省略して、図面を簡略化している。
空気圧センサ7は筒状部3の上部に配置しており、筒状部3の底を構成する天板31aの近傍に取り付けている。
空気圧センサ7は、筒状部3の内側の中空部35内の空気圧を計測するように設けている。
【0016】
筒状部3の内側の中空部35の空気圧は、通常時においては筒状部3の外側の空気圧と同じであり、前記空気圧センサ7の計測値に大きな変化が生じない。一方、洪水などにより前記各開口部32aの上端を超えて水位が上昇した筒状部3の浸水時においては、水の圧力によって中空部35の空気圧が上昇する。
建築物用浸水測定装置1は、空気圧センサ7によって中空部35の空気圧を計測し、その計測値から筒状部3を浸水させている水の水位を測定するように設けている。
【0017】
前記筒状部3の各開口部32には透水性のフィルター(図示せず)をそれぞれ取り付けており、中空部35内への異物の侵入を防ぐと共に、筒状部3を浸水させている水の流れの変化による中空部35内の空気圧の変動を低減させている。筒状部3は、開口部32を複数形成することで、一つの開口部32が異物などで塞がれても、他の開口部32を通じて中空部35内の空気と外側の水とが接触するので、空気圧センサ7の計測による水位の測定を維持できる。
建築物用浸水測定装置1は、空気圧センサ7の計測値に基づきプラスマイナス3cm程の精度で水位を測定できるように設けている。
【0018】
前記本体部2は、その内側に通信部4、電源5、及び制御部6を収納している。
制御部6は、一次電池であるリチウム電池からなる電源5の電力を受けて、通信部4と前記空気圧センサ7を制御している。
空気圧センサ7は制御部6の制御によって中空部35内の空気圧を繰り返し計測するように設けており、通常時において15分間隔の周期で計測する。
中空部35内の空気圧が水圧によって上昇し、空気圧センサ7の計測値が所定の基準値を超える筒状部3の浸水時においては、前記通常時よりも短い周期で計測するように制御部6で制御している。具体的には、空気圧センサ7の計測値によって地盤面から5cm以上の水位の浸水を測定した場合に、空気圧センサ7の測定周期を変更し5分間隔の周期で計測する。
空気圧センサ7で計測された計測値に基づく水位の測定値は、制御部6が有する記録部に記録される。
【0019】
前記通信部4は、本体部2の上部から上方へ突出する送信アンテナ41を備えており、この送信アンテナ41から前記記録部に記録された水位の測定値のデータを外部の管理サーバーへ無線信号で送信するように設けている。
前記制御部6は、前記通常時においては前記水位の測定値データを送信せずに、建築物用浸水測定装置1が可動状態にあることを示す無線信号を1日1回の周期で通信部4から管理サーバーへ送信するように、通信部4を制御している。
また、前記浸水時においては前記通常時より無線信号の送信の周期を短くし、水位の測定値データを速やかに管理サーバーへ送信するように制御している。具体的には、5分間隔で水位の測定値データを送信するように制御しており、前記の如く5分間隔の周期で測定した水位のデータを速やかに管理サーバーへ送信する。
【0020】
前記通信部4はLPWA(Low Power Wide Area)を用いて形成しており、具体的にはSigfox(登録商標)を用いて形成している。
建築物用浸水測定装置1は、通信部4にLPWAを利用することで消費電力を低減させている。
【0021】
図3は
図1の建築物用浸水測定装置1を設置した状況を示す側面図である。
建築物用浸水測定装置1は建築物の壁Wの壁面に取り付けて設置しており、本体部2の後面に取り付けた取付金具K1と、筒状部3の外周に取り付けた取付金具K2とをそれぞれ壁Wへ当接させて固定している。
また、前記筒状部3の下端を地盤面Gの近傍に配置して、建築物用浸水測定装置1を設置している。
建築物用浸水測定装置1は、本体部2と筒状部3とをジョイント21で接続して一体的に形成することで、一方を仮止めすることで他方も壁Wの近傍に配置されるので、設置作業を容易に行うことができる。
【0022】
建築物用浸水測定装置1は、前記筒状部3の長手方向の大きさを3mに形成しているので、本体部2が地盤面Gから3mの高さに配置される。このように設けることで、筒状部3を浸水させる水の水位が2mを超えた場合でも、本体部2が備える通信部4の前記送信アンテナ41が水の中に浸かることがなく、前記無線信号の送信を良好に行うことができる。換言すると、家屋の1階の軒下までつかるレベルの2m程度の水位を測定した場合でも、その測定データを通信部4を介して無線信号で管理サーバーへ送信することができる。
建築物用浸水測定装置1は、前記送信アンテナ41が地盤面Gから2m以上の高さ位置に配置されるように設けるのが好ましく、本体部2の下端が地盤面Gから2m以上の高さ位置に配置されるように設けるのがより好ましい。
【0023】
図4は本発明に係る建築物用浸水測定装置1の実施の他の一形態を示す正面図である。
図4に示す建築物用浸水測定装置1は、筒状部3の長手方向の大きさを小さく形成し、筒状部3と本体部2とを配線部8を介して接続している構成が、
図1~3に示す前記建築物用浸水測定装置1と異なる主な事項である。
即ち、
図4に示す建築物用浸水測定装置1は、
図1~3に示す前記建築物用浸水測定装置1と同様に、矩形箱状の本体部2と円筒形状の筒状部3を備え、下部が開口し上部が閉塞する筒状部3の中空部35に空気圧センサ7を配置している。そして、本体部2内に通信部4、電源5、及び制御部6を備え、空気圧センサ7の計測値に基づく水位の測定値を通信部4の送信アンテナ41から管理サーバーへ無線信号で送信するように設けている。
【0024】
図4に示す建築物用浸水測定装置1は、本体部2の下部に形成したジョイント21と筒状部3の上端とを配線部8を介して接続している。配線部8は柔軟性を有する断面略円形のチューブであり、水密性を備えるコルゲートチューブで形成している。配線部8の内側には、筒状部3内の空気圧センサ7と本体部2内の制御部6とを接続する電線が収納されており、制御部6の制御によって空気圧センサ7が筒状部3の中空部35の空気圧を計測するように設けている。
【0025】
前記配線部8は長手方向の大きさを1.5mに形成している。また、配線部8に接続する前記筒状部3は、長手方向の大きさを1.5mに形成している。
このように形成することで、
図4に示す建築物用浸水測定装置1は壁Wへ設置したときに、
図3に示す前記建築物用浸水測定装置1と同様に、筒状部3の下端を地盤面Gの近傍に配置した状態で、本体部2を地盤面Gから3mの高さに配置することができる。即ち、家屋の1階の軒下までつかる程度の2mを超える水位を測定した場合でも、その測定データを通信部4の送信アンテナ41を介して無線信号で管理サーバーへ送信することができる。
【0026】
また、
図4に示す建築物用浸水測定装置1は、
図1~3に示す前記建築物用浸水測定装置1と比較して、筒状部3の長手方向の大きさを小さく形成することで筒状部設置する場所の自由度が向上する。例えば、壁Wの壁面において地盤面Gから2mの高さに障害物がある場合に、その障害物の真下の壁面へ筒状部3を取り付け、前記障害物を避けるように配線部8を配置し本体部2を地盤面Gから2m以上の高さに配置して設置することができる。配線部8と収納する前記電線とは、その長さを変更できるので、配線部8の長さを設置場所に応じて調整して建築物用浸水測定装置1を設置することができる。
【0027】
前記筒状部3は天板31aを超える浸水の水位を空気圧センサ7の計測値から測定可能である。即ち、
図4に示す建築物用浸水測定装置1は、通信部4の送信アンテナ41を地盤面Gから2m以上の高さに設置することで、
図1~3に示す前記建築物用浸水測定装置1と同様に、家屋の1階の軒下までつかるレベルの2m程度の水位を測定した場合でも、その測定データを通信部4を介して無線信号で管理サーバーへ送信することができる。
尚、前記配線部8は水密性を備えているので筒状部3の天板31aを超える水位2m程度の浸水でも内側の電線が濡れることがなく、その機能を維持できる。
【0028】
尚、本発明に係る建築物用浸水測定装置1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記建築物用浸水測定装置1は、筒状部3の内側に配置した1個の空気圧センサ7の計測値から浸水の水位を測定するように設けているが、これに限るものではない。例えば、本体部2の第二の空気圧センサを備えさせ、その空気圧計測値と筒状部3内の空気圧センサ7の計測値とを対比することで、気圧の変化等による空気圧センサ7の計測値の変動と浸水による計測値の変動との混同を防止することができるので、浸水による水位をより正確に測定でき、好ましい。
【0029】
また、前記建築物用浸水測定装置1は、建築物の壁Wの外面に取り付けて設置しているが、これに限るものではない。例えば、
図4に示す建築物用浸水測定装置1の筒状部3を建築物の壁の内部に取り付け、接続する配線部8を壁Wの外側へ引き出して、壁Wの外面に通信部4を備える本体部2を取り付けて設置してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 建築物用浸水測定装置
2 本体部
21 ジョイント
3 筒状部
31 筒壁
32 開口部
35 中空部
4 通信部
41 送信アンテナ
5 電源
6 制御部
7 中空部
8 配線部