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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152210
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】シートディスペンサー
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/08 20060101AFI20241018BHJP
   A47K 10/20 20060101ALI20241018BHJP
   A47K 10/42 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B65D83/08 G
A47K10/20 A
A47K10/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066260
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴章
(72)【発明者】
【氏名】吉國 知哉
(72)【発明者】
【氏名】大西 力
【テーマコード(参考)】
3E014
【Fターム(参考)】
3E014LA07
(57)【要約】
【課題】あめ色がかった外観を有し、樹脂の強度が向上したシートディスペンサーを提供する。
【解決手段】
上記課題は、複数の二つ折りされた方形のシートを、折り返し片の縁が隣接するシートの折り返し内面に位置するようにして互い違いに重なり合うように積層した、略直六面体形状のシート束を内部に収納するシートディスペンサーであって、前記シートディスペンサーは、樹脂と平均繊維径が1~19μmであるマイクロ繊維セルロースを有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂の板で形成され、前記板に前記マイクロ繊維セルロースからなる斑点が形成されるものであることを特徴とするシートディスペンサーによって解決される。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の二つ折りされた方形のシートを、折り返し片の縁が隣接するシートの折り返し内面に位置するようにして互い違いに重なり合うように積層した、略直六面体形状のシート束を内部に収納するシートディスペンサーであって、
前記シートディスペンサーは、
樹脂と平均繊維径が1~19μmであるマイクロ繊維セルロースを有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂の板で形成され、前記板に前記マイクロ繊維セルロースからなる斑点が形成されるものである、
ことを特徴とするシートディスペンサー。
【請求項2】
複数の二つ折りされた方形のシートを、折り返し片の縁が隣接するシートの折り返し内面に位置するようにして互い違いに重なり合うように積層した、略直六面体形状のシート束を内部に収納するケース本体と、前記ケース本体を卓上型とする台座部と、前記ケース本体に設けられた、シートを引き出すための取出口とを有し、
前記ケース本体及び/又は前記台座部は、
樹脂と平均繊維径が1~19μmであるマイクロ繊維セルロースを有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂の板で形成され、前記板に前記マイクロ繊維セルロースからなる斑点が形成されるものである、
ことを特徴とするシートディスペンサー。
【請求項3】
前記板は、前記樹脂と前記マイクロ繊維セルロースと白色顔料を有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成され、不透明となるものである、
請求項1又は請求項2に記載のシートディスペンサー。
【請求項4】
前記板の単位面積あたりの、面積が0.1mm以上となる前記斑点の個数が10~12000個/板100cmとなるものである、
請求項1又は請求項2に記載のシートディスペンサー。
【請求項5】
前記マイクロ繊維セルロースは、ヒドロキシ基の全部又は一部がカルバメート基で置換されて変性した変性マイクロ繊維セルロースを有するものである、
請求項1又は請求項2に記載のシートディスペンサー。
【請求項6】
前記板の厚みが1~5mmとなるものである、
請求項1又は請求項2に記載のシートディスペンサー。
【請求項7】
前記マイクロ繊維セルロース複合樹脂の曲げ弾性率が1.0~3.0GPaである、
請求項1又は請求項2に記載のシートディスペンサー。
【請求項8】
前記マイクロ繊維セルロースは、原料パルプのリグニン含有量が1%以下となるものである、
請求項1に記載のシートディスペンサー。
【請求項9】
前記マイクロ繊維セルロース複合樹脂は、前記マイクロ繊維セルロース複合樹脂中のマイクロ繊維セルロースの配合割合が1~20質量%となるものである、
請求項1に記載のシートディスペンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーパータオル等のシートを折り畳み積層した束を収納し、取出口から一枚ずつ取り出すシートディスペンサーに関し、特に卓上型のシートディスペンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
キッチンペーパー、清拭用ワイプ等の所謂ペーパータオルと称されることもある紙製や不織布製のシート用のディスペンサーの多くは、束を収納する本体の背面を適宜の手段により壁に対面させて設置し、底部に設けた取出口からペーパータオルを引き出して使用する形態であるが(特許文献1~3等)、中には据え置き型、卓上型のものも知られる(特許文献4~6等)。
【0003】
特許文献1~3に示されるような本体の背面を介して壁に設置するタイプのディスペンサーは、比較的大型であり設置態様も限定されることから、設置スペースや設置場所を確保することが困難な飲食店、惣菜店、スーパーマーケットの厨房や一般家庭で使用するには不向きであり、そのような処では、引用文献4~6に示す据え置き型の物が適する。
【0004】
このようなディスペンサーの多くは、加工が容易なことから樹脂を形成材料としている。樹脂は、加工性はもちろんのこと透明性に優れるものもありディスペンサーの素材として適する面がある。他方で、樹脂からなるディスペンサーは、その多くが単色であり、色彩の面で他の調度品と調和しないという印象を持つ人も多い。また、誤って卓上から落下させた場合に破損するおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06-144448号公報
【特許文献2】特開2006-204404号公報
【特許文献3】特開2001-87161号公報
【特許文献4】特開2007-153439号公報
【特許文献5】特開2010-76811号公報
【特許文献6】特開2013-135772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の主たる課題は、飲食店、惣菜店、スーパーマーケットにおける厨房や、家庭内等のスペースの限られる場所でも好適に使用できる卓上型のシート用ディスペンサーにおける、他の調度品とともに設置した場合に調和するあめ色がかった色彩を有し、かつ強度に優れるシートディスペンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明の態様は次記のとおりである。
【0008】
(第1の態様)
複数の二つ折りされた方形のシートを、折り返し片の縁が隣接するシートの折り返し内面に位置するようにして互い違いに重なり合うように積層した、略直六面体形状のシート束を内部に収納するシートディスペンサーであって、
前記シートディスペンサーは、
樹脂と平均繊維径が1~19μmであるマイクロ繊維セルロースを有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂の板で形成され、前記板に前記マイクロ繊維セルロースからなる斑点が形成されるものである、
ことを特徴とするシートディスペンサー。
【0009】
(第2の態様)
複数の二つ折りされた方形のシートを、折り返し片の縁が隣接するシートの折り返し内面に位置するようにして互い違いに重なり合うように積層した、略直六面体形状のシート束を内部に収納するケース本体と、前記ケース本体を卓上型とする台座部と、前記ケース本体に設けられた、シートを引き出すための取出口とを有し、
前記ケース本体及び/又は前記台座部は、
樹脂と平均繊維径が1~19μmであるマイクロ繊維セルロースを有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂の板で形成され、前記板に前記マイクロ繊維セルロースからなる斑点が形成されるものである、
ことを特徴とするシートディスペンサー。
【0010】
セルロース繊維は繊維径の長短によって色彩がある程度変化する。色彩が変化する理由は、厳密にはわからないがおそらく繊維に照射される光の透過率や屈折率の関係に起因するものと思われる。本態様では、マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が上記の範囲にあるので、複合樹脂としたときにあめ色を呈すると考えられる。また、複合樹脂に含まれるマイクロ繊維セルロースは、混練処理によって各々が適度に分散された状態となっているが、一部が相互に凝集して凝集体となるものもある。この凝集体が斑点として視認される。さらに、本態様のディスペンサーが樹脂のみから形成されている場合よりも、樹脂とマイクロ繊維セルロースを有する複合樹脂から形成されている場合の方が強度に優れたものとなることを発明者等は確認している。
【0011】
(第3の態様)
前記板は、前記樹脂と前記マイクロ繊維セルロースと白色顔料を有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成され、不透明となるものである、
第1の態様又第2の態様のシートディスペンサー。
【0012】
マイクロ繊維セルロース複合樹脂に白色顔料が含まれていることで、本態様のディスペンサーを形成する板状の部位の表面に点在する斑点と白色顔料による白色系の色彩とが相まって石材調の風合いを帯びたものとなる。また、マイクロ繊維セルロース同士は凝集する性質を有するが、白色顔料が含まれていると、白色顔料がマイクロ繊維セルロース同士で形成される隙間に入り込み、マイクロ繊維セルロースの凝集が抑制される。その結果、複合樹脂中にマイクロ繊維セルロースが適度に分散されたままとなり、複合樹脂の強度が向上する。なお、マイクロ繊維セルロースの凝集が抑制されるといっても、凝集が全く起こらないわけではない。
【0013】
(第4の態様)
前記板の単位面積あたりの、面積が0.1mm以上となる前記斑点の個数が10~12000個/板100cmとなるものである、
第1の態様又第2の態様のシートディスペンサー。
【0014】
一般的にセルロース繊維は、解繊の程度によりパルプ、マイクロ繊維セルロース、セルロースナノファイバーに解繊することが可能であるが、本態様の範囲の平均径となる斑点は、主にマイクロ繊維セルロースが含まれていることによって形成されるものである。また、当該斑点が上記の範囲の面積を有していれば、容易に視認でき、従来のディスペンサーでありがちな単調な色彩とは異なる外観となり、他の調度品と一層調和し易いものとなる。
【0015】
(第5の態様)
前記マイクロ繊維セルロースは、ヒドロキシ基の全部又は一部がカルバメート基で置換されて変性した変性マイクロ繊維セルロースを有するものである、
第1の態様又第2の態様のシートディスペンサー。
【0016】
カルバメート基で置換された変性マイクロ繊維セルロースは、未変性のマイクロ繊維セルロースよりも水素結合点が少ないため、水素結合に起因するマイクロ繊維セルロース同士の凝集が起こりづらくなる。そのため、複合樹脂は強度が向上したものとなる。
【0017】
(第6の態様)
前記板の厚みが1~5mmとなるものである、
第1の態様又第2の態様のシートディスペンサー。
【0018】
(第7の態様)
前記マイクロ繊維セルロース複合樹脂の曲げ弾性率が1.0~3.0GPaである、
第1の態様又第2の態様のシートディスペンサー。
【0019】
曲げ弾性率が上記範囲であれば、卓上からの落下やその他の外力が加わっても破損しにくいディスペンサーとなる。
【0020】
(第8の態様)
前記マイクロ繊維セルロースは、原料パルプのリグニン含有量が1%以下となるものである、
第1の態様又第2の態様のシートディスペンサー。
【0021】
リグニン含有量が上記範囲であるので、長期的に使用しても退色しにくいというメリットがある。
【0022】
(第9の態様)
前記マイクロ繊維セルロース複合樹脂は、前記マイクロ繊維セルロース複合樹脂中のマイクロ繊維セルロースの配合割合が1~20質量%となるものである、
第1の態様又第2の態様のシートディスペンサー。
【0023】
前記配合割合であれば、マイクロ繊維セルロースが樹脂中に適度に分散したものとなり、複合樹脂表面における斑点の個数も適度なものとなる。
【発明の効果】
【0024】
以上の本発明によれば、あめ色がかった外観を有し、樹脂の強度が向上したシートディスペンサーとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るシートディスペンサーの斜視図である。
図2】本発明に係るシートディスペンサーディスペンサーの正面図である。
図3図2のA-A断面の模式図である。
図4】本発明に係るシートディスペンサーディスペンサーの他の例を示す模式断面図である
図5】本発明に係るシートディスペンサーディスペンサーの他の例の開口時を示す模式断面図である
図6】本発明に係るシートディスペンサーの別の例を示す模式断面図である
図7】本発明に係る押え材を示す斜視図である。
図8】本発明に係る押え材の他の例を示す斜視図である。
図9】本発明に係るシートディスペンサーの他の斜視図である。
図10】本発明に係るシートディスペンサーの他の形態の斜視図である。
図11】本発明に係るシートディスペンサーの台座部の例を示す図である。
図12】本発明に係るシートディスペンサーの別の形態の斜視図である。
図13】本発明に係るシートディスペンサーの別の形態の正面図である。
図14図13のA´-A´断面の模式図である。
図15】本発明に係るシートディスペンサーのさらに別の形態を示す模式断面図である。
図16】本発明に係るシートディスペンサーの図である。
図17】第3の実施形態のシートディスペンサーの正面図である。
図18】そのII-II断面図である。
図19図18のケース本体のみを表した示す断面図である。
図20】本形態のケース本体の正面図である。
図21】本形態のシート支持体の上面図である。
図22図18の蓋体のみを表した断面図である。
図23】第1の実施の形態のケース本体の正面図である。
図24】本発明に係るシートディスペンサーの表面に形成される斑点の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のシートディスペンサーは、複数の二つ折りされた方形のシートを、折り返し片の縁が隣接するシートの折り返し内面に位置するようにして互い違いに重なり合うように積層した、略直六面体形状のシート束を内部に収納するシートディスペンサーであって、前記シートディスペンサーは、樹脂と平均繊維径が1~19μmであるマイクロ繊維セルロースを有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂の板で形成され、前記板に前記マイクロ繊維セルロースからなる斑点41が形成されるものであることを特徴とする。
【0027】
ここで、マイクロ繊維セルロース複合樹脂に含まれる樹脂とは、後述する樹脂ペレットと樹脂粉末をいうものであるが、主として樹脂ペレットである。樹脂ペレットは、専らマイクロ繊維セルロース複合樹脂に含まれる樹脂の配合割合を調節するためのものであって、樹脂粉末は、専ら凝集する性質を有するマイクロ繊維セルロースの凝集を抑制するためのものである。樹脂ペレットと樹脂粉末はどちらも混練処理時に加えられる熱によって溶融するので、一旦マイクロ繊維セルロース複合樹脂となったものから、それぞれを単離することは難しい。また、樹脂ペレットと樹脂粉末は相互に異なる物質であってもよいし、同じ物質であってもよい。樹脂ペレットと樹脂粉末が相互に異なる物質であれば、樹脂ペレット由来の樹脂成分Y1が支配的であるマイクロ繊維セルロース複合樹脂中に、樹脂粉末由来の樹脂成分Y2が筋状の模様として視認され、ディスペンサーが審美性を有したものとなる場合がある。
【0028】
(マイクロ繊維セルロース)
マイクロ繊維セルロース複合樹脂の原料であるマイクロ繊維セルロースを次に詳述する。セルロース原料(以下、「原料パルプ」ともいう。)を解繊(微細化)処理すると、繊維の径が原料パルプよりも短くなった微細繊維となる。微細繊維の径は解繊の程度により、例えば平均繊維幅を19μm以下のセルロース繊維に調節することができる。この中でも、平均繊維径が1~19μmであるものをマイクロ繊維セルロースと、それよりも平均繊維径を短く解繊したセルロースナノファイバーと区別することができる。セルロースナノファイバーは、平均繊維径が相対的に小さくアスペクト比が大きいため、単位セルロース繊維あたりの水素結合点が多く緻密な三次元ネットワーク構造を形成しやすい。しかしながら、樹脂とともに混練して複合樹脂としたときに大幅な強度向上が見込めない。また、後述するカルバメート化反応の後に、未反応で残留している尿素等を除去する目的で行う洗浄工程において、洗浄する繊維がセルロースナノファイバーであると脱水性が非常に悪い。これに対してマイクロ繊維セルロースは、平均繊維径が相対的に大きいため、形成される三次元ネットワーク構造の緻密さがセルロースナノファイバーと比べ劣るものの、複合樹脂としたときに大幅な強度向上が期待できる。またマイクロ繊維セルロースは、同じく微細繊維であるセルロースナノファイバーよりもカルバメート基で変性する(カルバメート化)のが、脱水性の観点から容易である。さらに、マイクロ繊維セルロースは平均繊維径が相対的に大きいので、複合樹脂としたときであってもマイクロ繊維セルロースが含まれていることを視認できる。したがって、本発明は、解繊して得られるセルロース繊維のうち、マイクロ繊維セルロースを好適に選択したものであり、これが備わることで他の調度品と調和のとれた外観を有し、強度に優れる効果を奏するものとなる。
【0029】
マイクロ繊維セルロースは、平均繊維幅が、例えば1~19μm、好ましくは5~17μm、より好ましくは10~15μmである。マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が1μmを下回ると(未満になると)、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、樹脂の強度(特に曲げ弾性率)向上効果が十分に得られないおそれがある。また、解繊時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になる。さらに、脱水性が悪化する。脱水性が悪化すると、乾燥させるのに大きなエネルギーが必要になるが、大きなエネルギーはマイクロ繊維セルロースを劣化させ、強度が低下するおそれがある。他方、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が19μmを上回ると(超えると)、パルプであるのと変わらなくなり、補強効果が十分でなくなるし、シートディスペンサーとしたときに外観の色彩や模様から受ける印象が予期したものにならないおそれがある。
【0030】
マイクロ繊維セルロースの原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物(粉状物)の状態等であってもよい。
【0031】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、原料パルプとしては、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0032】
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0033】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0034】
マイクロ繊維セルロースは、原料パルプとして、リグニン含有率が1.0%以下のパルプを使用するのが好ましく、0.8%以下のパルプを使用するのがより好ましい。マイクロ繊維セルロースとしてカルバメート化されたものを用いる場合は、例えばカルバメート基の置換率が2.0mmol/g以上となるようにセルロース繊維を加熱処理すると着色が進みやすい。しかしながら、原料パルプのリグニン含有率を上記範囲とすれば、リグニンを原因とする着色を抑制できるので、マイクロ繊維セルロース複合樹脂とした場合の着色も抑制できる。また、セルロース原料をカルバメート化すると、セルロースと共存するリグニンに対してもカルバメート化が起こる。その後、セルロースを洗浄する際にカルバメート化されたリグニンが流出して除去され、結果として、繊維に残るセルロースへのカルバメート化率が下がるおそれがある。マイクロ繊維セルロース固形物に含まれるリグニンが上記含有率であれば、流出して繊維補強に寄与しないカルバメート化物の量を抑えられるため、複合樹脂化したときの強度が優れたものとなるという効果が奏される。また、原料パルプのリグニン含有量が1.0%を超えると、長期的使用によって本形態のシートディスペンサーを使用するにつれて、ディスペンサーの表面が退色したり黄変したりするおそれがある。
【0035】
リグニン含有率は、リグニン含有率試験方法(JAPAN TAPPI No.61(2000))に準拠して測定した値である。
【0036】
着色を防止する観点から、原料パルプのカッパー価は、2以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。
【0037】
カッパー価は、カッパー価試験方法(JIS-P-8211(2011))に準拠して測定した値である。
【0038】
リグニン含有率やカッパー価の調整は、例えば、原料パルプの選定や蒸解、漂白等によることができる。
【0039】
本形態において原料パルプの白色度は、50%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、82%以上であるのが特に好ましい。原料パルプ自体の白色度が50%未満であると、複合樹脂自体の白色度が低いものとなる。
【0040】
白色度は、JIS-P-8148:2001に準拠して測定した値である。
【0041】
原料パルプの解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用して原料パルプを叩解することによって行うことができる。ただし、リファイナーやジェットミルを使用して行うのが好ましい。
【0042】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、1.0mm以下であるとよく、好ましくは0.1~1.0mm、より好ましくは0.2~0.8mm、特に好ましくは0.3~0.6mmである。平均繊維長が1.0mmを上回るマイクロ繊維セルロースは、凝集し易く分散が十分になされないおそれがある。他方、平均繊維長が0.1mm以上であれば、繊維同士の三次元ネットワークが形成され易くなり、分散性が向上するメリットがある。
【0043】
マイクロ繊維セルロースの原料となるセルロース原料の平均繊維長は、5.00mm以下であるとよく、好ましくは0.50~5.00mm、より好ましくは1.00~3.00mm、特に好ましくは1.50~2.50mmである。平均繊維長が5.00mmを上回ると、解繊時の製造コストの面で不利となるおそれがある。他方、セルロース原料の平均繊維長が0.50mm以上であれば、樹脂の優れた補強効果が得られる可能性がある。
【0044】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0045】
マイクロ繊維セルロースのファインA率は、5%以上、80%以下であるのが好ましく、10%以上、70%以下であるのがより好ましく、15%以上、60%以下であるのが特に好ましい。ファイン率が5%以上であると、均質な繊維の割合が多く、複合樹脂の破壊が進行し難くなる。ただし、ファイン率が80%を超えると、強度が不十分になる可能性がある。また、ファイン率が80%を超えると低分子化が進行し過ぎている繊維が一部存在すると考えられ、これらの繊維は熱を受けた際に着色の原因となるオリゴ糖や単糖を生成し易い。
【0046】
また、マイクロ繊維セルロースのファインA率を上記の範囲とした上で、マイクロ繊維セルロースのファインB率が、15~50%であるのが好ましく、16~40%であるのがより好ましい。同ファインB率が上記範囲であると、複合樹脂とした場合の強度がより高まる。
【0047】
以上はマイクロ繊維セルロースのファイン率であるが、マイクロ繊維セルロースの原料となるセルロース原料のファインA率も所定の範囲内としておくとより好ましいものとなる。具体的には、マイクロ繊維セルロースの原料となるセルロース原料のファインA率が、1%以上であるのが好ましく、3~20%であるのがより好ましく、5~18%であるのが特に好ましい。解繊前のセルロース原料のファインA率が上記範囲内であれば、マイクロ繊維セルロースのファインA率が30%以上になるように解繊したとしても繊維のダメージが少なく、樹脂の補強効果が向上すると考えられる。
【0048】
ファインA率の調整は、酵素処理等の前処理によって行うことができる。ただし、特に酵素処理する場合は、繊維自体がボロボロになって樹脂の補強効果が低下する可能性がある。したがって、この観点からの酵素の添加量は、2質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのが特に好ましい。また、酵素処理しない(添加量0質量%)のも1つの選択枠である。
【0049】
本形態において「ファインA率」とは、パルプ繊維の全質量に対する、繊維幅が75μm以下、かつ繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の合計質量の百分率をいう。「ファインB率」とは、パルプ繊維の全質量に対する、繊維幅が10μm以下、かつ繊維長が0.2mm以上であるパルプ繊維の合計質量の百分率をいう。
【0050】
マイクロ繊維セルロースのアスペクト比は、好ましくは5~1000、より好ましくは10~200、さらに好ましくは20~100である。アスペクト比が5を下回ると、三次元ネットワークを十分に構築することができないため、たとえ平均繊維長が0.1mm以上であるとしても、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、アスペクト比が1000を上回ると、マイクロ繊維セルロース同士の絡み合いが高くなり、樹脂中での分散が不十分となるおそれがある。
【0051】
マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、好ましくは0.1~3.0%、より好ましくは0.3~2.8%、特に好ましくは0.5~2.5%である。フィブリル化率が3.0%を上回ると、水との接触面積が広くなり過ぎるため、たとえ平均繊維幅が1μm以上に留まる範囲でマイクロ繊維セルロースに解繊したとしても、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が1.0%下回ると、フィブリル同士の水素結合が少なく、強硬な三次元ネットワークを形成することができなくなるおそれがある。
【0052】
本形態においてフィブリル化率とは、セルロース繊維をJIS-P-8220:2012「パルプ-離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプをバルメット社製の繊維分析計「FS5」を用いて測定した値をいう。また、セルロース繊維の平均繊維長、ファインA率も同様にバルメット社製の繊維分析計「FS5」を用いて測定可能である。
【0053】
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上である。結晶化度が50%を下回ると、繊維自体の強度が低下するため、樹脂の強度を向上することができなくなるおそれがある。他方、マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下である。結晶化度が95%を上回ると、分子内で形成される強固な水素結合の割合が多くなり、繊維自体が剛直化及び凝集化し易くなり、樹脂に対する分散性が劣るようになる。
【0054】
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0055】
マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度は、好ましくは2cps以上、より好ましくは4cps以上である。マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度が2cpsを下回ると、マイクロ繊維セルロースの凝集を抑制するのが困難になるおそれがある。
【0056】
マイクロ繊維セルロースのフリーネスは、好ましくは500ml以下、より好ましくは300ml以下、特に好ましくは100ml以下である。マイクロ繊維セルロースのフリーネスが500mlを上回ると、樹脂の強度向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0057】
マイクロ繊維セルロースのゼータ電位は、好ましくは-150~20mV、より好ましくは-100~0mV、特に好ましくは-80~-10mVである。ゼータ電位が-150mVを下回ると、樹脂との相溶性が著しく低下し補強効果が不十分となるおそれがある。他方、ゼータ電位が20mVを上回ると、分散安定性が低下するおそれがある。
【0058】
マイクロ繊維セルロースの保水度は、好ましくは80~400%、より好ましくは90~350%、特に好ましくは100~300%である。保水度が80%を下回る場合、当該マイクロ繊維セルロースは、原料パルプと変わらず、マイクロ繊維セルロースを含有することによる複合樹脂の補強効果が不十分となるおそれがある。他方、保水度が400%を上回ると、脱水性が劣る傾向にあり、均質な複合樹脂になりにくい。一方、マイクロ繊維セルロースの保水度が上記範囲内であれば、脱水がし易く、繊維が傷みにくくなるため、複合樹脂の強度向上に資する。なお、マイクロ繊維セルロースの保水度は、当該繊維のヒドロキシ基がカルバメート基に置換されていることで、より低くすることができ、脱水性や乾燥性を高めることができる。
【0059】
マイクロ繊維セルロースの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0060】
マイクロ繊維セルロースは、特段変性処理を必要としないが、撥水性や分散性を高めるために、セルロース繊維のヒドロキシ基の全部又は一部をカルバメート基で置換して変性処理をした変性マイクロ繊維セルロースとしてもよい。マイクロ繊維セルロースのヒドロキシ基をカルバメート基に置換するタイミングは特に限定されない。例えば、解繊する前のセルロース原料に対してカルバメート化反応を行い、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースを得てもよいし、マイクロ繊維セルロース(セルロース原料を解繊したもの)に対してしてカルバメート化反応を行い、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースとしてもよい。
【0061】
カルバメート基を有するとは、マイクロ繊維セルロースにカルバメート基(カルバミン酸のエステル)が導入された状態を意味する。カルバメート基は、下記の構造式(化1)で示すことができ、例えば、-O-CO-NH-で表され、-O-CO-NH、-O-CONHR、-O-CO-NR等を例示できる。
【0062】
【化1】
【0063】
ここでnは1以上の整数を表す。Rは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基の少なくともいずれかである。
【0064】
飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0065】
飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0066】
飽和環状炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0067】
不飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、エテニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルケニル基、エチニル基、プロピン-1-イル基、プロピン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルキニル基等を挙げることができる。
【0068】
不飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、プロペン-2-イル基、ブテン-2-イル基、ブテン-3-イル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルケニル基、ブチン-3-イル基等の炭素数4~10の分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
【0069】
芳香族基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0070】
誘導基としては、例えば、上記飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基及び芳香族基が有する1又は複数の水素原子が、置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子等。)で置換された基を挙げることができる。
【0071】
カルバメート基を有する(カルバメート基が導入された)マイクロ繊維セルロース(変性マイクロ繊維セルロースともいう。)においては、極性の高いヒドロキシ基の一部又は全部が、相対的に極性の低いカルバメート基に置換されている。したがって、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、親水性が低く、極性の低い樹脂等との親和性が高い。結果、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、同じく疎水的である樹脂との均一分散性に優れる。また、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースのスラリーは、粘性が低く、ハンドリング性が良い。
【0072】
マイクロ繊維セルロースのヒドロキシ基に対するカルバメート基の置換率は、好ましくは0.1~2.0mmol/g、より好ましくは0.2~1.8mmol/g、特に好ましくは0.3~1.6mmol/gである。置換率が2.0mmol/gを上回ると、セルロースの持つヒドロキシ基に起因して生じるセルロース同士の水素結合が弱まり(凝集緩和効果)、加えてヒドロキシ基よりも疎水性の高いカルバメート基の導入により、樹脂との親和性が高まり(親和性向上効果)、結果、樹脂とマイクロ繊維セルロースが相互に絡まり合い、またマイクロ繊維セルロース同士が凝集しにくく、樹脂補強の役割を確実に果たすようになる。他方、カルバメート基の置換率が高く、特に2.0mmol/gを超えると、複合樹脂の耐熱性が低下する。この点、セルロース繊維が熱を受けると、通常ヒドロキシ基の脱離等が発生し、脱離等が発生した箇所を起点に分子鎖が短くなり得る。そして、ヒドロキシ基の一部がカルバメート化等で変性されていると、ヒドロキシ基の脱離がより発生し易くなる。故に、カルバメート基の置換率を上げ過ぎると分子鎖が短くなり過ぎてしまい、分解温度が下がり、耐熱性が落ちるものと考えられる。また、カルバメート基の置換率が2.0mmol/gを超えると、セルロース繊維をカルバメート化することでパルプの平均繊維長が短くなり、結果としてマイクロ繊維セルロースの平均繊維長が0.1mm未満となり易く、十分な樹脂補強効果が出せなくなるおそれがある。なお、置換率が10.0mmol/gを超えると、セルロース繊維が繊維の形状を保てなくなる。
【0073】
本形態においてカルバメート基の置換率(mmol/g)とは、カルバメート基を有するセルロース原料1gあたりに含まれるカルバメート基の物質量をいう。カルバメート基の置換率は、カルバメート化したパルプ内に存在するN原子をケルダール法によって測定し、単位重量当たりのカルバメート化率を算出する。また、セルロースは、無水グルコースを構造単位とする重合体であり、一構造単位当たり3つのヒドロキシ基を有する。
【0074】
<カルバメート化>
カルバメート化されたマイクロ繊維セルロースを得るには、セルロース原料をカルバメート化反応させて、微細化(解繊)してカルバメート化されたマイクロ繊維セルロースとする方法と、セルロース原料を微細化(解繊)してからカルバメート化反応を行ってカルバメート化されたマイクロ繊維セルロースとする方法とを例示できる。ここでは、先にセルロース原料の解繊について説明し、その後にカルバメート化反応(変性)について説明している。しかしながら、解繊及びカルバメート化は、どちらを先に行ってもよい。特に、先にカルバメート化反応を行い、その後に、解繊をする方が好ましい。解繊する前のセルロース原料は脱水効率が高く、また、カルバメート化反応に伴う加熱によってセルロース原料が解繊され易い状態になるためである。
【0075】
マイクロ繊維セルロース等(前述したようにセルロース原料の場合もある。以下、同様。)をカルバメート化する工程は、例えば、混合処理、除去処理、及び加熱処理に、主に区分することができる。なお、混合処理及び除去処理は合わせて、加熱処理に供される混合物を調製する調整処理ということもできる。また、カルバメート化は、有機溶剤を使用せずに化学変性することができるという利点を有する。
【0076】
混合処理においては、マイクロ繊維セルロース等と尿素又は尿素の誘導体(以下、単に「尿素等」ともいう。)とを分散媒中で混合する。
【0077】
尿素や尿素の誘導体としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物等を使用することができる。これらの尿素又は尿素の誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
【0078】
マイクロ繊維セルロース等に対する尿素等の混合質量比(尿素等/マイクロ繊維セルロース等)は、上限が好ましくは20/100であり、より好ましくは17/100、さらに好ましくは15/100である。他方、下限が好ましくは3/100であり、より好ましくは5/100、さらに好ましくは7/100である。混合質量比を3/100以上にすることで、カルバメート化の効率が向上する。他方、混合質量比が20/100を上回っても、カルバメート化はそれ以上促進されない。
【0079】
分散媒は、通常、水である。ただし、アルコール、エーテル等の他の分散媒や、水と他の分散媒との混合物を用いてもよい。
【0080】
混合処理においては、例えば、水にマイクロ繊維セルロース等及び尿素等を添加しても、尿素等の水溶液にマイクロ繊維セルロース等を添加しても、マイクロ繊維セルロース等を含むスラリーに尿素等を添加してもよい。また、均一に混合するために、添加後、撹拌してもよい。さらに、マイクロ繊維セルロース等と尿素等とを含む分散液には、その他の成分が含まれていてもよい。マイクロ繊維セルロース等がシート状のセルロース原料である場合は、尿素等と分散媒の混合液に当該セルロース原料を含浸させて混合する手段を採ってもよい。セルロース原料がシート状であると、シート内で熱が伝わりやすいので加熱処理における加熱温度の低温化や加熱時間の短縮化が見込める。
【0081】
除去処理においては、混合処理において得られたマイクロ繊維セルロース等及び尿素等を含む分散液から分散媒を除去する。分散媒を除去することで、これに続く加熱処理において効率的に尿素等を反応させることができる。
【0082】
分散媒の除去は、加熱によって分散媒を揮発させることで行うのが好ましい。この方法によると、尿素等の成分を残したまま分散媒のみを効率的に除去することができる。
【0083】
除去処理における加熱温度の下限は、分散媒が水である場合は、好ましくは95℃、より好ましくは100℃、特に好ましくは105℃である。加熱温度を95℃以上にすることで効率的に分散媒を揮発させる(除去する)ことができる。他方、加熱温度の上限は、好ましくは140℃、より好ましくは135、特に好ましくは130℃である。加熱温度が140℃を上回ると、分散媒と尿素が反応し、尿素が単独分解するおそれがある。
【0084】
除去処理における加熱時間は、分散液の固形分濃度等に応じて適宜調節することができる。具体的には、例えば、6~24時間である。
【0085】
除去処理に続く加熱処理においては、マイクロ繊維セルロース等と尿素等との混合物を加熱処理する。この加熱処理において、マイクロ繊維セルロース等のヒドロキシ基の一部又は全部が尿素等と反応してカルバメート基に置換される。より詳細には、尿素等が加熱されると下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。そして、イソシアン酸はとても反応性が高く、例えば、下記の反応式(2)に示すようにセルロースのヒドロキシ基にカルバメート基が形成される。
NH-CO-NH → H-N=C=O + NH …(1)
Cell-OH + H-N=C=O → Cell-O-CO-NH2 …(2)
【0086】
加熱処理における加熱温度の下限は、尿素の融点(約134℃)以上、より好ましくは150℃、特に好ましくは200℃である。加熱温度を尿素の融点以上にすることで、尿素が溶融状態となり、セルロース繊維と接触し易くなることでカルバメート化が効率的に行われる。加熱温度の上限は、好ましくは300℃、より好ましくは280℃、特に好ましくは260℃である。加熱温度が300℃を上回ると、マイクロ繊維セルロース等が分解し、補強効果が不十分となるおそれがある。
【0087】
加熱処理における加熱時間の下限は、好ましくは1秒、より好ましくは5秒、特に好ましくは10秒である。加熱時間を1秒以上にすることで、カルバメート化の反応を確実に行うことができる。他方、加熱時間の上限は、好ましくは5分、より好ましくは3分である。加熱時間が5分を上回ると、経済的ではなく、5分で十分カルバメート化を行うことができる。
【0088】
もっとも、加熱時間の長期化は、セルロース繊維の劣化を招く。そこで、加熱処理におけるpH条件が重要となる。pHは、好ましくはpH9以上、より好ましくはpH9~13、特に好ましくはpH10~12のアルカリ性条件である。また、次善の策として、pH7以下、好ましくはpH3~7、特に好ましくはpH4~7の酸性条件又は中性条件である。pH7~8の中性条件であると、セルロース繊維の平均繊維長が短くなり、樹脂の補強効果に劣る可能性がある。これに対し、pH9以上のアルカリ性条件であると、セルロース繊維の反応性が高まり、尿素等への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。他方、pH7以下の酸性条件であると、尿素等からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応が進み、セルロース繊維への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。ただし、可能であれば、アルカリ性条件で加熱処理する方が好ましい。酸性条件であるとセルロースの酸加水分解が進行するおそれがあるためである。
【0089】
pHの調整は、混合物に酸性化合物(例えば、酢酸、クエン酸等。)やアルカリ性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等。)を添加すること等によって行うことができる。
【0090】
加熱処理において加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
【0091】
加熱処理後の混合物は、洗浄してもよい。この洗浄は、水等で行えばよい。この洗浄によって未反応で残留している尿素等を除去することができる。
【0092】
(スラリー)
マイクロ繊維セルロースは、必要により、水系媒体中に分散して分散液(スラリー)にする。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、水と相溶性を有する他の液体である水系媒体も使用することができる。他の液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0093】
スラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%である。固形分濃度が0.1質量%を下回ると、脱水や乾燥する際に過大なエネルギーが必要となるおそれがある。他方、固形分濃度が10.0質量%を上回ると、スラリー自体の流動性が低下してしまい分散剤を使用する場合において均一に混合できなくなるおそれがある。
【0094】
(樹脂粉末)
マイクロ繊維セルロースは、保管状態によっては相互に凝集することがあり、凝集化すると、再度分散させるのに手間がかかる。マイクロ繊維セルロースの凝集化を抑制したり、再分散化を容易にしたりするため、樹脂粉末をマイクロ繊維セルロースに混ぜておくとよい。マイクロ繊維セルロースと樹脂粉末を混ぜて混合物にしておくと、マイクロ繊維セルロースが分散したまま安定して、凝集しにくくなる。特にマイクロ繊維セルロースを乾燥させると、マイクロ繊維セルロースの凝集が起こりやすいので樹脂粉末を混合しておくと、凝集化を抑制できる。樹脂粉末としては、例えばポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン等のスチレン系エラストマー樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)等を使用することができ、特にポリオレフィン樹脂等を使用するのが好ましい。
【0095】
ポリオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のアルケンの重合体の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、プロピレンの重合体であるポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい
【0096】
樹脂粉末としては、樹脂粉末の主鎖や側鎖の一部が酸基で置換(変性)された酸変性樹脂粉末を好適に使用することができる。酸変性樹脂粉末は、酸基がマイクロ繊維セルロースのカルバメート基の一部又は全部とイオン結合する。このイオン結合により、樹脂の補強効果が向上する。
【0097】
酸変性樹脂粉末としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン系エラストマー樹脂等がそれぞれ酸基で置換された樹脂、すなわち酸変性ポリオレフィン樹脂、酸変性エポキシ樹脂、酸変性スチレン系エラストマー樹脂等を使用することができる。この中でも、酸変性ポリオレフィン樹脂を使用するのが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分とポリオレフィン成分との共重合体である。
【0098】
不飽和カルボン酸成分としては、例えば、無水マレイン酸類、無水フタル酸類、無水イタコン酸類、無水シトラコン酸類、無水クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、無水マレイン酸類を使用するのが好ましく、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いることが好適である。
【0099】
マイクロ繊維セルロースと混合する樹脂粉末は、酸変性樹脂粉末と酸変性されていない樹脂粉末を混ぜて用いてもよいし、樹脂粉末の全量が酸変性樹脂粉末であってもよいし、樹脂粉末の全量が酸変性されていない樹脂粉末であってもよい。酸変性樹脂粉末と酸変性されていない樹脂粉末を混ぜて用いる場合は、酸変性されていない樹脂粉末の混合量は、酸変性樹脂粉末100質量部に対して、好ましくは0~200質量部、より好ましくは、1~100質量部、特に好ましくは10~70質量部である。
【0100】
樹脂粉末の平均粒子径と、混合に供するマイクロ繊維セルロースの平均繊維径の比(樹脂粉末の平均粒子径(μm)/マイクロ繊維セルロースの平均繊維径(μm))は、12~200であるのが好ましく、25~100であるのがより好ましい。上記の比が12未満であると、マイクロ繊維セルロースに対して樹脂粉末が小さすぎるため、乾燥の過程で繊維同士が接触し、樹脂粉末の介在による凝集防止の効果が発揮できなくなるおそれがある。また、上記の比が200を超えると、マイクロ繊維セルロースに対して樹脂粉末が大きすぎるため、乾燥の過程で繊維同士の間に樹脂粉末が入り込めず、樹脂粉末の介在による凝集防止の効果が発揮できなくなるおそれがある。本形態のマイクロ繊維セルロースであれば、樹脂粉末の平均粒子径は好ましくは1~2000μm、より好ましくは10~1500μm、さらにより好ましくは100~1000μmである。この範囲であれば、乾燥させたマイクロ繊維セルロースの凝集化を抑制でき好ましい。
【0101】
無水マレイン酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、例えば1,000~100,000、好ましくは3,000~50,000である。
【0102】
また、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価は、0.5mgKOH/g以上、100mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下がより好ましい。
【0103】
さらに、酸変性樹脂粉末のMFR(メルトフローレート)が2000g/10分(190℃/2.16kg)以下であるのが好ましく、1500g/10分以下であるのがより好ましく、500g/10分以下であるのが特に好ましい。MFRが2000g/10分を上回ると、セルロース繊維の分散性が低下する可能性がある。
【0104】
なお、酸価の測定は、JIS-K2501に準拠し、水酸化カリウムで滴定する。また、MFRの測定は、JIS-K7210に準拠し、190℃で2.16kgの荷重を載せ、10分間に流れ出る試料の重量で決める。
【0105】
なお、マイクロ繊維セルロースを分散させる目的で混合するのに用いる樹脂粉末と、マイクロ繊維セルロースを混練するときに混合する樹脂ペレットとは平均粒子径が異なり、樹脂粉末は樹脂ペレットよりも平均粒子径が小さいものであることが好ましい。また、樹脂粉末と樹脂ペレットは同一の樹脂化合物を用いてもよいし、異なる樹脂化合物を用いてもよい。
【0106】
(白色顔料)
マイクロ繊維セルロースを含めずに樹脂のみを原料として加工されたシートディスペンサーは、透明色ないし青身がかった透明色となり、室内に他の調度品と共に設置すると外観的に調和していない印象を受ける場合がある。また、シートディスペンサーを構成する板に加工されたマイクロ繊維セルロース複合樹脂は、板の厚みにもよるが、不透明であり、パルプ由来の色彩であるあめ色を呈する。この色彩であれば、例えば他の調度品や家財道具、壁と色彩の上で馴染み、調和のとれた印象が得られる。さらにより調和するようにする場合は、白色顔料を含有させたマイクロ繊維セルロース複合樹脂を用いて当該ディスペンサーに加工するとよい。すなわち、当該板が、樹脂とマイクロ繊維セルロースと白色顔料を有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成され、不透明となるものであると、マイクロ繊維セルロース複合樹脂の外観が石材調の風合いを帯び、他の調度品や家財道具、壁とより調和したものとなる。
【0107】
マイクロ繊維セルロースを樹脂ペレットと複合化する前に、含水率が所定の範囲になるようにマイクロ繊維セルロースを乾燥させる処理を行ってもよい。しかしながら、乾燥させる際にセルロース同士が水素結合により不可逆的に凝集し、繊維としての補強効果を十分に発揮できなくなる可能性がある。そこで、マイクロ繊維セルロースと共に白色顔料が含まれていることで、マイクロ繊維セルロースにおけるセルロース繊維同士の水素結合が物理的に阻害される利点がある。また、マイクロ繊維セルロース複合樹脂に白色顔料が含まれていることで、樹脂の補強も可能となる。
【0108】
白色顔料を使用すると、樹脂等のマトリックスとの複合化が容易である。また、白色顔料が汎用的な無機材料であるため、用途の制限が生じることが少ないとのメリットがある。さらに、白色顔料は下記の理由から特に好ましい。白色顔料を使用する場合は、粉末のサイズや形状を一定に制御しやすくなる。このため、セルロース繊維のサイズや形状に合わせて、間隙に入り込んでセルロース繊維同士の凝集を抑制する効果を生じやすくするようにサイズや形状を調整して、ピンポイントで効果を発揮しやすくできるメリットがある。また、スラリー中に様々なサイズの繊維が存在する場合でも、水系媒体除去時に繊維が凝集する過程において、白色顔料が間隙に入り込んでセルロース繊維同士の凝集を抑制することができるとのメリットがある。
【0109】
白色顔料は、一旦混練されたマイクロ繊維セルロース複合樹脂に加え、再度加熱溶融して均質になるように混ぜた後、ディスペンサーの形状に加工することができる。また、樹脂とマイクロ繊維セルロースと共に白色顔料を混練機に供給して混練し、白色顔料を含むマイクロ繊維セルロース複合樹脂を得て、これをディスペンサーの形状に加工してもよい。
【0110】
白色顔料としては、例えば、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト、等を使用することができる。特に二酸化チタンを混合して得られるマイクロ繊維セルロース複合樹脂は、二酸化チタン由来の白色と、マイクロ繊維セルロース由来のあめ色及び斑点41とが相まった色彩となるので、当該複合樹脂で加工されたシートディスペンサーを室内に設置しても周囲に馴染み良く溶け込み、違和感を覚えにくい。
【0111】
マイクロ繊維セルロース1質量部に対して白色顔料は、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは0.01~1.5質量部、さらに好ましくは0.1~1.0質量部である。マイクロ繊維セルロース1質量部に対する白色顔料の割合が2.0質量部を超えると、マイクロ繊維セルロース由来の斑点41が見えにくくなり、また白色度が強くなり過ぎるおそれがある。
【0112】
白色顔料の平均粒子径は、0.01~10μmが好ましく、0.05~5μmがより好ましく、0.1~1μmが特に好ましい。平均粒子径が10μmを超えると、呈する白色にムラが生じ、外観上問題となるおそれがある。他方、平均粒子径が0.01μm未満であると、微細化した白色顔料同士が凝集し、白色顔料が分散不良となり、呈する白色にムラが生じ、外観上問題となるおそれがある。
【0113】
本明細書において、白色顔料の平均粒子径は、樹脂とのマスターバッチ状態の白色顔料マスターバッチから、熱キシレン等で樹脂のみを取り除き、取り出した粉体をそのまま又は水分散体の状態で粒度分布測定装置(例えば株式会社堀場製作所のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布から算出される中位径である。
【0114】
(混練)
混練は、マイクロ繊維セルロースと樹脂粉末が含まれる混合物を混練機に供給して行う。ここで、最終的に製造されるマイクロ繊維セルロース複合樹脂に含まれるマイクロ繊維セルロースの配合量を調節するために、混合物の他に樹脂ペレットを追加して供給して混練するとよい。混練処理に供される樹脂ペレットは、平均粒子径が好ましくは1~10mm、より好ましくは2~5mmであるとよい。当該平均粒子径が1mm未満だと混練機内の混練軸に到達する前に溶融して壁面等に樹脂が付着し、付着した樹脂が後続の樹脂ペレットの供給を阻害する等により、定量的に混練に供されなくなるおそれがある。さらに、樹脂ペレット間の熱伝導性が良くなく溶融するまでに多くのエネルギーが消費される。当該平均粒子径が10mmを超えると樹脂ペレット間の熱伝導性が良くなく溶融するまでに多くのエネルギーが消費される、混練機に供給しづらい、熱伝導に偏りが発生する、溶融に時間を要する等の問題が発生する場合がある。なお、前述の白色顔料は前記混合物及び樹脂ペレットと共に混練機に供給することができる。
【0115】
混練処理の温度は、樹脂ペレットのガラス転移点以上であり、樹脂ペレットの種類によって異なるが、100~220℃とするのが好ましく、130~210℃とするのがより好ましく、160~200℃とするのが特に好ましい。なお、混練処理では、樹脂ペレットが溶融するほか、マイクロ繊維セルロース固形物に含まれる樹脂粉末も溶融する。
【0116】
混練処理には、例えば、混練軸が単軸又は二軸以上の多軸混練機、多軸混練押出機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらの中では、二軸以上の多軸混練機を使用することが好ましい。二軸以上の多軸混練機を2機以上、並列又は直列にして、使用しても良い。
【0117】
樹脂ペレット用の樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。
【0118】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン(スチロール樹脂)、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0119】
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)及びポリスチレン樹脂のうちのいずれか一つを使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
【0120】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0121】
樹脂ペレットには、無機充填剤が、好ましくはサーマルリサイクルに支障が出ない割合で含有されていてもよい。無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
【0122】
具体的には、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
【0123】
マイクロ繊維セルロースに対する樹脂ペレットの配合割合は、好ましくはマイクロ繊維セルロース1質量部に対して樹脂ペレットが5.0~9.0質量部、より好ましくは5.5~8.5質量部、さらに好ましくは6.0~8.0質量部である。当該配合割合が上記範囲内であれば、マイクロ繊維セルロース複合樹脂の強度、特に曲げ強度及び引張り弾性率の強度を著しく向上させることができ、またマイクロ繊維セルロースに元来備わる色彩が前記複合樹脂に表れ、インテリアと調和したものとなる。
【0124】
なお、最終的に得られるマイクロ繊維セルロース複合樹脂に含まれるマイクロ繊維セルロース及び樹脂の配合割合は、通常、マイクロ繊維セルロース及び樹脂(樹脂粉末及び樹脂ペレット)の配合割合と同じとなる。
【0125】
なお、マイクロ繊維セルロース複合樹脂は、マイクロ繊維セルロースが樹脂中に分散されていることによって樹脂の強度が向上するものであり、強度の向上への寄与は、樹脂自体の物性よりもマイクロ繊維セルロースの物性によるところが大きい。すなわち、上記に示した樹脂粉末の種類や樹脂ペレットの種類であれば、少なくともマイクロ繊維セルロースと混練して複合樹脂とすることで樹脂強度の向上化が見込まれる。
【0126】
マイクロ繊維セルロース及び樹脂の溶解パラメータ(cal/cm1/2(SP値)の差は、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値-SPPOL値とすることができる。SP値の差は10~0.1が好ましく、8~0.5がより好ましく、5~1が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中でマイクロ繊維セルロースが分散せず、補強効果を得ることはできない可能性がある。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。この点、樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きい。
【0127】
なお、溶解パラメータ(cal/cm1/2(SP値)とは、溶媒-溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。
【0128】
(α-オレフィンコポリマー)
本形態のマイクロ繊維セルロース複合樹脂には、適宜α-オレフィンコポリマーが含まれていてもよい。α-オレフィンコポリマーは、α-オレフィン(炭素-炭素の二重結合が末端にあるオレフィン)と、エチレンやプロピレン等のモノマーとが共重合したポリマーであり、側鎖の長いα-オレフィンが存在する。このα-オレフィンコポリマーが含まれたマイクロ繊維セルロース複合樹脂は、高分子鎖が整列しづらく、結晶化、剛直化しないため、ポリエチレンやポリプロピレンと異なって複合樹脂に柔軟性を付与することができ、曲げ弾性率を向上することができる。
【0129】
α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の直鎖型ユニットや、シクロペンテン、シクロへプテン、ノルボルネン、5-メチル-2ーノルボルネン、テトラシクロドデセン、2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン等の環状ユニットなどが挙げられる。
【0130】
マイクロ繊維セルロース複合樹脂にα-オレフィンコポリマーを含める場合、α-オレフィンコポリマーの配合割合は、複合樹脂全量中において、好ましくは15質量%以下、より好ましく1~13質量%、特に好ましくは3~10質量%である。当該配合割合が15質量%を上回ると、柔軟性が付与されすぎるため、繊維との相溶性が高くても、繊維による補強性を十分に発揮できずに、剛性が不足する。
【0131】
(成形処理)
混練して生成した混練物であるマイクロ繊維セルロース複合樹脂は、必要により再度混練する等した後、所望の形状に成形することができる。この成形品の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。白色顔料は、混練して生成したマイクロ繊維セルロース複合樹脂を再度混練するときに混ぜてもよい。
【0132】
成形処理の際の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、例えば90~260℃、好ましくは100~240℃である。
【0133】
混練物の成形は、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等によることができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、前述した植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。
【0134】
混練物を成形する装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0135】
以上の成形は、混練に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。
【0136】
本形態のディスペンサーの各部位は、マイクロ繊維セルロース複合樹脂で構成することができる。マイクロ繊維セルロース複合樹脂は上記の成形機で各部位の形状に成形処理される。各部位は主に板状となっており、表面に斑点41を肉眼で視認することができる。斑点41はマイクロ繊維セルロース同士が水素結合や絡み合いによって凝集した凝集体によるものであり、茶色や黒色を呈している。斑点41の形状は、それぞれ異なっている。これは、マイクロ繊維セルロースの凝集体が各々異なるサイズに凝集されているためである。マイクロ繊維セルロース複合樹脂中に散らばる当該凝集体のうち表面にあるものを斑点41として確認できることになる。
【0137】
セルロース繊維と樹脂を有する複合樹脂を製造するのであれば、セルロース繊維としてマイクロ繊維セルロースではなく、マイクロ繊維セルロースよりも平均繊維径が短いセルロースナノファイバーや、逆に平均繊維径が長いパルプを用いてもよいように思える。しかしながら、セルロースナノファイバーと樹脂からなる複合樹脂では、セルロースナノファイバーの平均繊維径が相対的に短いため、ディスペンサーの各部位に加工したときに斑点41を肉眼で視認しづらく、色彩についてセルロースナノファイバーの方がマイクロ繊維セルロースよりもあめ色の度合いが薄く、透明又は白透明に近い色を呈し、他のインテリア用品と調和しづらいものとなるおそれがある。
【0138】
また、パルプと樹脂からなる複合樹脂では、肉眼で視認できるような斑点41が見られず、パルプの持つ色彩が強く表れ、本発明の実施の形態とは異なる外観となるし、強度補強効果も伴わないおそれがある。
【0139】
しかしながら、実施の形態のマイクロ繊維セルロース複合樹脂に、セルロースナノファイバーとパルプのいずれか一方又は両方を全く加えないものを排除するものではなく、他のインテリア用品と調和した外観となる限り、セルロースナノファイバーとパルプのいずれか一方又は両方を含むマイクロ繊維セルロース複合樹脂であっても、本形態のディスペンサーに用いることができる。
【0140】
マイクロ繊維セルロース複合樹脂は、マイクロ繊維セルロース複合樹脂中にマイクロ繊維セルロースが含まれていれば、あめ色がかった外観となり、樹脂そのものよりも強度の向上が図られる。特に、マイクロ繊維セルロース複合樹脂中のマイクロ繊維セルロースの配合割合が好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~18質量%、さらに好ましくは5~15質量%となるものであるとよい。当該配合割合であれば、ディスペンサーは外観として鮮やかなあめ色を呈したものとなり、他の調度品と調和した印象となり、また、強度補強効果も向上する。
【0141】
また、従来のディスペンサーは樹脂で形成されていたが、本発明のディスペンサーは、ディスペンサーを構成する各部位の全部又は一部がマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成されており、マイクロ繊維セルロース複合樹脂自体が高強度であるため、各部位の厚みを従来のディスペンサーよりも薄くすることができる。さらに、本発明のディスペンサーは、樹脂の一部をマイクロ繊維セルロースで代替しているので、従来の樹脂のみで形成されたディスペンサーよりも、樹脂の使用量を好ましくは1~15%、より好ましくは3~12%削減でき、環境へも配慮したものとなっている。
【0142】
マイクロ繊維セルロース複合樹脂からなる板に形成された斑点41の様子を図24に示した。マイクロ繊維セルロース複合樹脂からなる板に形成される斑点41は目視できればよく、当該斑点41の面積は厳密には限定されるものではない。また、当該板の単位面積当たりの、面積が0.1mm以上となる前記斑点41の個数もまた限定されない。しかしながら、当該板に目視できる、面積が0.1mm以上の斑点41が、好ましくは10~12000個/板100cm、より好ましくは20~6000個/板100cm、さらに好ましくは50~3000個/板100cm存在する。面積0.1mm以上の斑点41が10個/板100cm以上であると、白い色の樹脂製ディスペンサーに斑点41が目視し易くなり、意匠性に優れたものとなる。また、12000個/板100cm以下であれば、白地に対し斑点41が適度に目立ち、外観から受ける印象がよいものとなる。
【0143】
マイクロ繊維セルロースは、一般的に凝集しやすい性質を有する。これは微視的には、マイクロ繊維セルロースのセルロース繊維表面にある多数のヒドロキシ基が他のマイクロ繊維セルロースのヒドロキシ基と水素結合したり、マイクロ繊維セルロース同士に働く分子間力によって凝集したりすることによるものである。強度にムラがなく優れたマイクロ繊維セルロース複合樹脂を製造しようとする場合、マイクロ繊維セルロースをなるべく分散させた状態で樹脂と混練させることがポイントとなる。この点については、マイクロ繊維セルロースと樹脂を有する混合物をよく混ぜるのはもちろんのこと、マイクロ繊維セルロースのサイズと樹脂のサイズの大小バランス、マイクロ繊維セルロースと樹脂の親和性、例えば相互に疎水的であればよい等、マイクロ繊維セルロースと樹脂と白色顔料の組合せや配合比率といったことがマイクロ繊維セルロースの分散の程度に影響する。他方、セルロースナノファイバーは、マイクロ繊維セルロースよりも平均繊維径が短いため、セルロース繊維の単位表面積当たりのヒドロキシ基の数が多い。このことは、セルロースナノファイバーの方が、水素結合点が多いことを意味し、したがって、セルロースナノファイバー同士が水素結合してより凝集しやすいことになる。よって、セルロースナノファイバーは樹脂と混ぜたとしても、マイクロ繊維セルロースほど分散しやすいものではなく、複合樹脂化しても局所的に強度や色彩にムラが発生しやすいものとなる。また、セルロースナノファイバーが凝集して形成されたセルロースナノファイバー凝集体は、マイクロ繊維セルロース凝集体よりも平均径が小さく、複合樹脂としたときに肉眼で斑点41として視認しにくいものである。
【0144】
板の単位面積当たりの、面積が0.1mm以上となる斑点41の個数(個/板100cm)は、JIS-P-8146に準拠して測定することができる。なお、斑点(41)1個あたりの面積は、特に限定されるものではないが、上限が2.0mmであると斑点一個一個が模様ではなく、点のように外観上認識され、板全体として斑点41の散らばりに規則性が見られず、意匠的で好ましい。
【0145】
斑点41の粗密度合は、ディスペンサーを形成するマイクロ繊維セルロース複合樹脂に含まれるマイクロ繊維セルロースの配合割合を変えることで調節可能である。
【0146】
本発明のディスペンサーを形成するマイクロ繊維セルロース複合樹脂は、強度が複合樹脂化していない樹脂よりも高まったものとなっている。例えば、樹脂をポリプロピレンとした場合、マイクロ繊維セルロース複合樹脂の曲げ弾性率は、複合樹脂化していない樹脂よりも1.1~1.7倍増加したものとなっている。
【0147】
また、本発明のディスペンサーを形成するマイクロ繊維セルロース複合樹脂の曲げ弾性率は、樹脂がポリプロピレンであれば1.0~3.0GPa、より好ましくは1.5~2.8GPaであるとよい。
【0148】
曲げ弾性率は、JIS- K7171:2008に準拠し、23℃で測定したものである。
【0149】
(第1実施形態)
次いで、本発明のディスペンサーX1の実施の形態を図1~11を参照しながら以下に詳述する。
【0150】
本発明にかかるディスペンサーは、シート束1を収納するケース本体10を台座部20により所定高さに支持し、キッチン台、洗面台、手洗い場台、作業台、床などに載置して使用する据え置き型、卓上型シートディスペンサーX1である。
【0151】
本発明の卓上型シートディスペンサーX1(以下、単にディスペンサーX1ともいう)が対象とするシート束1は、坪量20~60g/m程度の一枚又は複数枚重ね一組である複数の方形のシートを実質的に二つ折りにし、各折り返し片の縁を上下に隣接するシートの折り返し内面に位置するようにして互い違いに重なり合うように積層し、積層最上部又は積層最下部の一枚又は複数枚重ね一組の折り返し片を引っ張ると、シートが有する紙特有の摩擦等によって、隣接するシートの折り返し片がつられて引きだされるようにしたものである。このシート束1はインターフォルダと称される折り機によって一般的に製造され、積層に伴う若干のずれはあるものの概ね直方体形状をなす。なお、本発明においては、上記シートが引き出されていくことになるシート束1(以下、単に束ともいう)の積層最上面或いは積層最下面の何れかの面を引出し側面1Aと称する。
【0152】
ディスペンサーX1は、ケース本体10が、前板部11、底板部12、背板部13、側板部14及び天板部15とで構成され、束1の大きさよりもやや大きい直方体の内部空間10Aを有し、外観も概ね直六面体形状の箱形形状をなしている。なお、本発明のディスペンサーX1は、図示例の外観に限定されず適宜の意匠とすることができる。但し、省スペース化の点で、上記のケース本体10の構成が望ましく、以下、上述の各板部で構成される内部空間が直方体形状、外観が概ね直六面体形状とされているケース本体10を基本に説明する。
【0153】
本形態のディスペンサーX1は、上記構成のケース本体10が、その前面を構成する前板部11が前方に向って傾斜するようにして所定高さで台座部20に固定され、それに応じて底板部12が背板部側から前板部側に向って下り傾斜され、もって、前記底板部12のケース本体内面である内底面12Aも背面側から前面側に向って下り傾斜しており、前記前板部11に連接している。
【0154】
本形態のディスペンサーX1の前板部11は、幅L1が210~270mm程度、高さ方向の長さL2が70~140mm程度であり、高さ方向の中央部に幅方向に延在する細長状に開口するシートの取出口16が設けられている。シートの取り出しは、この取出口16から露出する前記シートの一部を摘み、下方、前方又は前板部11に対して直行する方向に引き出す操作により行なう。
【0155】
ケース本体10の背板部13は、前記前板部11との間にシートの束1が介在可能な適宜の間隔を空けて位置され、その間隔は、市販の束1の厚さ(高さ)を考慮すれば80~150mm程度である。なお、図示例では、ケース本体10が直六面体形状であるため背板部13は前板部11と平行、すなわち傾斜しているが、背板部13は、必ずしも傾斜している必要はなく、例えば、背板部13が、垂直又は前板部11よりも垂直に近い傾斜としてもよい。また、ディスペンサーX1は、特に図1図3に示す形態のように、背板部13を、底板部12や側板部14に対してヒンジ部19を介してヒンジ接続し、背板部13を開閉自在な蓋体とするなどして、前記背板部13を開いて、ケース本体内へ束1を納められるようにしてもよい。なお、図4及び図5に示す形態のように、背板部13のみではなく、天板部15と側板部14の一部14Aと一体となった蓋部15Xとして、側板部14の他部14Bにヒンジ部19を設けて開閉自在とするようにしてもよい。なお、背板部13,蓋部15Xを開閉自在にするためのヒンジ部19は、蝶番等の既知の技術により達成すればよく、本発明において特に限定されない。また、本実施形態のディスペンサーX1は、図6に示すように、背板部13を設けずに、背面側開放としてもよい。
【0156】
他方、ケース本体10の天板部15は、前記底板部12との間にシートの束1が介在可能な適宜の間隔を空けて位置される。図示例では、天板部内面15Aと内底面12Aとが平行をなし、それらの間が束1の折り返し縁1B,1C間の長さより若干長い間隔となっており、ケース本体内に束を内包させた際に天板部内面15Aが束1の天板部側への移動を規制するように構成している。このようにすることで、束1の上下方向の自由な移動が規制され、よりケース本体内で束1が崩れたり、意図せず倒れたりし難くなる。
【0157】
他方、側板部14は、前板部11と背板部13の側部間に位置して、所定の間隔で配置されてケース本体内部に収めた束1の幅方向への移動を規制して、取出口16からのスムーズなシートの取り出しに寄与するとともに、汚液・埃・塵などの汚れから束1を保護する。側板部14は、図1に示すように、前板部11及び背板部13の側縁から一体的に配置されていてもよいし、図4に示すように、二つの部材14A,14Bで構成してもよい。但し、側板部14は、束1を収納可能な内部空間10Aを確保できる範囲で、意匠等を考慮して適宜に構成することができる。
【0158】
他方、本形態のディスペンサーX1では、ケース本体内10Aに収納された束1の折り返し縁が並ぶ面1Bが載置される載置部31と、この載置部31に載る束1の背面側面1Dを押さえる押え部32とを有する押え材30を備える。載置部31は、直六面体形状の束1を安定的に載置可能な形状および構成であればよく、例えば、平板状、棒状等の形状であり、ケース本体内10Aの内底面12A上において前板部側から背板部側に向かう方向に延在するように配される。また、押え部32は、例えば、前板部側から背面部側に向かう方向に延在する載置部31の背板部側の縁31E又はその近傍から立設するように形成され、載置部31に載る束1の背面側面1Dに接触可能に形成される。押え部32の形状は限定されないが、平板等、棒状などが挙げられる。なお、押え部32は、載置部31に対して固定される。図1に示すディスペンサーX1における押え材30は、図7に示される形状のものであり、載置部31が、ケース本体内10Aで各側板部14,14に沿って前板部側から背板部側に向かう方向に延在する二本の細長平板で構成され、押え部32が、二本の細長平板の背板部側縁31Eにこの縁31Eから立設するように接着された、束1の背面側面1Dとほぼおなじ大きさかやや大きい直方体形状の一枚の平板であり、特に中央部くり抜かれて、載置部31に載る束1の背面側面1Dうち周縁部のみに接触するよう構成されている。なお、押え材は図7に示される形状にかぎらず、図8に示されるように載置部31が一つのものとしてもよい。本実施形態に係る押え材30の形状は必ずしも限定されないが、図示例のように、平板を側面視で略L字型、又は略T字型に組み立て又は折り曲げて形成したものが簡易な構造であり製造容易という点で好ましい例として挙げられる。
【0159】
他方、押え材30は、載置部31を介してケース本体内10Aの内底面12Aに置かれる等して配置され、ケース本体内10Aにおいて前後方向(図において前板部と背板部との間を結ぶ方向)に移動可能となっている。図示のディスペンサーX1は、押え材30が、載置部31を介してケース本体内10Aの内底面12Aに置かれて配置され、その内底面上及び載置部31の内底面側がともに平滑で内底面12Aと載置部31との摩擦が小さく、押え材30の自重及び載置部31上に束1が載った状態で、内底面12Aの傾斜によって押え材30が前板部側に向かって滑動可能となっている。それとともに、前板部11における内底面12Aとの連接部近傍に、前記載置部31が通る通孔11B,11Bが形成されており、押え材30の載置部31が、前記通孔11B,11Bを通ってケース本体外へ突出するようにして内底面上を移動可能となっている。これによって、ディスペンサーX1は、押え材30がケース本体内10Aにおいて前後方向に移動し、特に、押え部32と前板部内面11Aとの間の距離が変化するようになっている。したがって、ディスペンサーX1においては、押え材30の押え部32と前板部内面11Aとの間に束1を位置させるようにして、束1を載置部31上に載せてセットすると、取出口16からのシートの引出しに伴って束の厚みが低下するにしたがって、前記押え材30が内底面12A上を移動するとともに、載置部31が通孔11Bを通ってケース本体内から突出するようになる。その際、押え材30の移動によって押え部32による束1の背面側面1Dに対する押接状態が維持される。なお、通孔11B,11Bの形状は限定されないが、シートが容易に通らない程度の大きさとする。もちろん、通孔11Bの形状は、載置部31の形状に応じたものとする。
【0160】
本実施形態のディスペンサーX1では、載置部31に束1が載る押え材30が、束1の厚みの低下にともなってケース本体内10Aで移動し、その移動によって常に束1の背面側面1Dを押え部32が抑える。すなわち、束1は、押え部32と前板部内面11Aとの間において適度に挟まれた状態となる。さらに、内底面12Aに直接に束1が載置されるのではなく、束1が押え材30の載置部31に載るため、内底面12Aに対する載置部31の移動のしやすさを簡易に調整でき、束1の厚みの低下にともなって束1を常に前板部側に効果的に寄せることができる。そして、このように束1が寄せられるため、取出口16からスムーズに取り出すことが可能となる。また、押え部32と載置部31とが一体であるため押え部32がケース本体内10Aで倒れることもない。なお、図示はしないが、押え材30は、載置部31にローラ等を設けるなどして、機械的手段によって内底面12A上をスムーズに移動するようにしてもよい。
【0161】
さらに、ディスペンサーX1は、特に図9に示されるように、束1からシートが引き出されたケース本体内10Aにおける束の厚みが低下するにしたがって、前板部11に形成された通孔11B,11Bから突出する載置部31の突出長が長くなる。したがって、前板部11から外部に突出する載置部31の突出長さを視認可能にして外部から確認できるようにすることで、ケース本体10を不透明な素材として外部から束が視認できないようになっていても束1の補充時期を確認することができる。なお、載置部31の適宜の位置に補充確認用の目印をつけるなどしてもよい。
【0162】
ここで、押え材30が、内底面12A上を前板部側にスムーズに移動するように、内底面12Aや載置部31の内底面側を平滑処理したり、滑剤を塗布するなどしてもよい。また、ガイドレール等を設けて滑りやすさを向上させてもよい。また、押え材30の重量は、特に限定されないが、軽すぎると押え材としての効果が小さく、重すぎると束1の引出し側面1Aと前板部内面11Aとの接触圧が高くなりすぎて、シートの引出しが困難となる。好適な重量としては、30~80gである。
【0163】
また、押え部32が、図7及び図8に示す形態のようにその中央部がくり抜かれ、束1の背面側面1Dの周縁部のみに接するようにすると、取出口16からシートを引き出す際に、中央部の荷重が低下するためスムーズに引き出せるようになり望ましい(図中くり抜き部分は符号33で示す)。
【0164】
ここで、前板部11の好適な傾斜具合は、ディスペンサーX1を水平面上に載置したときに、前記前板部11の傾斜角∠Aが水平面に対して30~70度となるように構成するのがよい。また、前記載置部31の傾斜角∠Bは、20~60度であるのがよい。前板部11の傾斜角∠Aが30度未満となるとシートを掴み難く作業台などの載置面に手がつきやすくなり、効果的にシートを引出し難くなることがあり、70度を超えてくると束1の引出し側面1Aが前板部内面に凭れ難くなる。また、載置部31の傾斜角∠Bが20度以上であると、取出口16からのシートの引出しに伴って、押え材30が内底面上を前板部側へスムーズに移動させやすい。なお、本発明に係る「傾斜」、「角度」は、水平面上にディスペンサーX1を置いたときを基準としている。
【0165】
他方、取出口16は、束1を載置部に載置した際に取出口近傍に束1を構成するシートの折り返し片が位置するようにするのがよい。また、必ずしも必要ではないが、図3に示す形態のように、取出口16の上側縁及び下側縁に、前記前板部11の内面から連続的に滑らかな円弧面17R或いは曲面を介して前方(外方)に延出する延出部17を設けると、前記円弧面17R等に沿ってシートがよりスムーズに引き出されるようになる。延出部17を設けるのであれば、前板部外面から10mm程度、延出していればよい。さらに、取出口16の幅方向中央に下方に向って矩形に欠損された凹部欠損部18を形成すると、シートの露出部分の中央部が摘みやすくなる。なお、凹部欠損部18の形状は、この矩形に限らず、例えば半円、半楕円等としてもよい。
【0166】
ここで、ケース本体10は、マイクロ繊維セルロース複合樹脂又は次に掲げる素材で形成することができる。当該素材としては、アクリル樹脂、AS樹脂、ユリア樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂素材等適宜の素材を選択することができる。
【0167】
上記のとおりディスペンサーX1は、ケース本体10が不透明な素材であっても載置部31の突出によって束1の補充時期の確認が可能であるが、もちろん、ケース本体10の全部又は一部を透明として視認可能としてもよい。このようにケース本体10を透明にすれば、ケース本体内における束1の状況がより理解でき、束1の適切な補充時期を確認することができる。例えば、天板部15と側板部14,14を透明にすると、ケース本体内10における束1の状況が理解しやすくなる。但し、本実施形態のディスペンサーは、上記のとおり透明部分の有無に関わらず、意匠性を考慮して内部の束が見えない不透明な素材、特にマイクロ繊維セルロース複合樹脂でケース本体を形成しても、載置部31の突出状況によって補充時期を確認することができる利点がある。
【0168】
本発明の実施の形態のケース本体10がマイクロ繊維セルロース複合樹脂からなる場合は、当該ケース本体10を構成する各部位(前板部11、底板部12、背板部13,蓋部13、側板部14、天板部15、取出口16、延出部17、載置部31、押え部32等)は、板状に形成することができるが、当該板の厚みを好ましくは1~5mm、より好ましくは2~4mmとすることができる。従来の卓上型シート用ディスペンサーでは各部位の厚みは、上記本発明の実施の形態の厚みよりも厚いものであった。しかしながら、本発明のケース本体10は、マイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成されており強度が高いため、従来品よりも各部位の厚みを薄くしても十分な強度が備わったものとなる。
【0169】
他方、本形態のディスペンサーX1に係る台座部20は、ケース本体10を特に前板部11の傾斜を維持した状態で所定高さに支持するとともに作業台等の任意の面に載置可能にするためのものである。その形状は、特に限定はされない。但し、本ディスペンサーX1では、露出するシートの一部を取出口16の下方から掴む操作態様となるため、上記取出口16の高さL4が台座部20に設置した状態で90~140mmの高さとなるようにケース本体10を支持する形状とするのが望ましい。90~140mmの高さがあれば、取出口の下方に手を挿入するだけの十分な空間が確保できる。
【0170】
また、台座部20は、図1図4に示すようにケース本体10と一体的な構造としてもよいし、別体であってもよい。例えば、図10及び図11に示すように、台座部20が、下縁を設置部として平行に配置した二枚の台座側板21,21と、台座側板間を繋ぐ背面板22と、ケース本体10の底板部12が載置される支持板23とで構成されていると、ケース本体10の前方側下部領域が広く開放されるようになり、シートをつまみやすくなる。なお、ケース本体10を台座部20に固定するには、接着剤や既知の係止構造など適宜固定手段を採ることができる。また、このように前方側下部領域を解放した場合、ケース本体から突出する載置部によって、取出口16から露出するシートを支持して持ち上げるようにすることができ、より摘みやすくするようにすることができる。
【0171】
台座部20は、マイクロ繊維セルロース複合樹脂又は次に掲げる素材で形成することができる。当該素材としては、アクリル樹脂、AS樹脂、ユリア樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂素材等適宜の素材を選択することができる。なお、台座部20の下面には、例えば、ゴム素材、磁石などからなる適宜の滑り止め機構や固定機構を設けてもよい。
【0172】
本発明の実施の形態の台座部20がマイクロ繊維セルロース複合樹脂からなる場合は、当該台座部20を構成する各部位(台座側板21、背面板22、支持板23等)は、板状に形成することができるが、当該板の厚みを好ましくは3~5mm、より好ましくは3~4mmとすることができる。
【0173】
ケース本体10及び/又は台座部20の形成素材としてマイクロ繊維セルロース複合樹脂を用いる場合は、樹脂とマイクロ繊維セルロースと白色顔料を有するものとしてもよいし、白色顔料を有せず、樹脂とマイクロ繊維セルロースを有するものとしてもよい。特に樹脂とマイクロ繊維セルロースと白色顔料を有するマイクロ繊維セルロース複合樹脂であれば、外観の色彩がインテリアに馴染み、例えば石材調の風合いとなり好ましい。
【0174】
図16は、本発明のディスペンサーX1の試作品である。ケース本体10がマイクロ繊維セルロース複合樹脂で、台座部20が樹脂でそれぞれ形成されている。図16に関わらず、ケース本体10が樹脂で、ケース本体10がマイクロ繊維セルロース複合樹脂でそれぞれ形成されている形態や、ケース本体10と台座部20の両方をマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成されている形態としてもよい。
【0175】
以上、説明した実施の形態は、ケース本体10に押え材30が備わったディスペンサーX1に関するものであるが、ケース本体10に押え材30がない別形態のディスペンサーX1´であってもよい。
【0176】
図17は、試作された第1実施形態のディスペンサーX1である。
【0177】
(第2実施形態)
ケース本体10に押え材30がないディスペンサーX1´は、形態としては上記に説明したディスペンサーX1と、押え材30がないことを除いて同様の形態となっている。以下、ケース本体10に押え材30がないディスペンサーX1´について、ケース本体10に押え材30が備わったディスペンサーX1との違いを説明する。
【0178】
ディスペンサーX1´では、束1を内底面12Aに設置することになる。束1の向きは、ディスペンサーX1に備える束1の向きと同様にするとよい。ディスペンサーX1´では通孔11Bを設けなくてもよい。取出口16から露出する束1の積層最上部又は積層最下部の一枚又は複数枚重ね一組の折り返し片を引っ張り出すと、残りの束1が折り返し片の厚み分だけ前板部11側へずれる。また、ディスペンサーX1´は押え材30がない分だけ軽量化されたものとなっている。ケース本体10に押え材30がないディスペンサーX1´は、図12図15に示す形態とすることができる。
【0179】
(第3実施形態)
本発明のシートディスペンサーは、壁掛け型のディスペンサーであってもよい。第3の実施形態のシートディスペンサーX101を図17~23を参照しながら説明する。図17は、本形態のシートディスペンサーの正面図、図18は、そのII-II断面図、図19は、ケース本体の側面断面図、図20はケース本体の正面図、図21はシート支持体の上面図、図22はシート支持体の正面図、図23は、蓋体の側面断面図である。
【0180】
このシートディスペンサーX101は、その素材が例えば樹脂又はマイクロ繊維セルロース複合樹脂であり、ケース本体101と、シート支持体102と、蓋体103とで構成されている。第3の実施形態のディスペンサーX101は、ディスペンサーX101を形成する各部位が板からなる。当該板は、樹脂で形成されていてもよいし、マイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成されていてもよい。例えば、ディスペンサーX101全体がマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成されている形態や、蓋体103がマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成され、ケース本体101とシート支持体102がそれぞれ樹脂で形成されている形態、蓋体103とシート支持体102がマイクロ繊維セルロース複合樹脂で形成され、ケース本体101がそれぞれ樹脂で形成されている形態を挙げることができる。
【0181】
ケース本体101は、天板部110と背板部111とこの背板部111の両側縁において、前記背板部111と直角をなして手前に延在する左右一対の内側片部112,112とを有する。内側片部112,112の下部には、シート支持体102を固定及び位置決めするための位置決め用孔112Aが形成されている。位置決め用孔112Aの形状については特に限定されない。円形孔であっても四角形孔であってもよい。図示例では、四角形孔を採用している。
【0182】
他方、内側片部112,112の下部には、さらに位置決め用孔112Aとは別に、シート支持体102の固定を確実にするために、位置決め用孔112Aに対応する係止用長孔112aが形成されている。本形態では、位置決め用孔112Aに対応するように一つの内側片に二つの係止用長孔112aが形成されている。図示例では、係止用長孔112aは、位置決め用孔112Aの上部側に適当距離離間した位置に形成されている。なお、この係止用長孔の形状も適宜変更することが可能である。さらに、内側片部112,112の下部には、前記シート支持体102を固定するための位置決め用孔等112Aとは別に、前記蓋体103が連結される一対の蓋体連結用円孔113Aが形成されている。本形態では、蓋体103の取り付け位置を調整できるように、一つの内側片に蓋体連結用円孔113Aを形成している。
【0183】
他方、前記シート支持体102は、前記背板部側から手前側に向かって下り傾斜する奥側傾斜面124と、前記前板部側から前記奥側に向かって下り傾斜する手前側傾斜面125と、前記奥側傾斜面124と手前側傾斜面125とを連接する支持体側板126,126とを有し、両斜面124,125の下縁間にシートの取出口120を有する。また、本形態のシート支持体102では、前記支持体側板126,126の外面に位置決め用突起部121を有しており、この位置決め用突起部121を前記一対の位置決め用孔に嵌合して、前記内側片部間の所定位置に位置決めされている。さらに、位置決め用突起部121とは別の係止片122を有しており、前記位置決め用突起部121の位置決め用孔112Aへの嵌合とともに、これを係止用長孔112aに嵌合して、シート支持体102がケース本体101の内側片部112,112間に固定されている。このようにしてシート支持体102は、前記ケース本体101の下部において前記各内側片部112,112に対して固定されていてディスペンサーX101の底部を構成している。このようにシート支持体102を構成すると、前記傾斜面124,125の存在により、使用時、すなわち前記取出口120からシートを一枚ずつ引き出す際に、最も下側の最下シートとその一枚上のシートの下側縁が前記傾斜面124,125にガイドされて前記取出口へと案内される。
【0184】
他方、本形態のシートディスペンサーX101では、前記奥側傾斜面124及び手前側傾斜面125の上縁、さらに支持体側板126,126の上縁から上方に向かって実質的に垂直に延在する垂直面127を有し、この垂直面127によって上下解放の枡形の壁面127が形成されている。この枡形の壁面127に囲まれる部分にシート束1が収容される。この垂直面127により、シート束1の側方、特に手前奥方向への動きが拘束され、前記取出口120からの取り出し操作をしたときに、ディスペンサー内で不要に動くことがなくなり、安定して取り出せる効果の一端を担う。また、前記各傾斜面124,125と垂直面127との間の屈曲部分124t,125tによりシート束1の下縁部又はその近傍が支持されるようになり、使用時、特にディスペンサー内部の薄葉紙の枚数が少なくなったときに一度に多数枚が引き出されてしまうという事故が格段に減少する。さらに、本形態の前記奥側傾斜面124及び手前側傾斜面125の各傾斜面124,125は、好適な例として、上方側に位置する急傾斜面124A,125Aと下方側に位置する緩傾斜面124B,125Bとが変曲線128,128を介して連続するように形成されている。急傾斜面124A,125Aと緩傾斜面124B,125Bとの間の角度は320~350度程度とするのがよい。このように手前側傾斜面125及び前記奥側傾斜面124の各傾斜面124,125を二種の傾斜面で構成することで、シートの案内を確保してスムーズな引き出しを可能にしつつも、シート束1を取り出したときにその下方側のばらけたシートの数枚が当該以外変曲線128、128で支持されるようになり、使用時、特にディスペンサー内部の薄葉紙の枚数が少なくなったときに一度に多数枚が引き出されてしまうという事故がより一層に減少する。
【0185】
他方、前記シート支持体102は、前記支持体側板126から内側に突出する突起部129,129を有している。すなわち、突起部129,129は前記垂直面127よりも下方に位置している。この位置に突起部129,129を形成したことで前記収納されたシート束1の下面(使用開始した後には下部)が支持される。本形態では、この突起部129,129は好ましい形態として、天板部110側から下方に向かって突出長さが長くなるように延出し、その下端部でさらに内側に向かって突出する凸部129t,129tを有する形状となっている。このような突起部の形状とすると、支持体側板から突出する一対の突起部間の距離が下方にいくほど狭くなるため、シート束1は下方にいくほど下に凸となるように湾曲された状態でシート束1が支持される。この湾曲によって最下部のシートが取り出し口から極めて摘み易くなる。また、引き出し時に適度な抵抗を与え、スムーズな引き出しと後続のシートが束になって引き出されることを効果的に防止する。また、シート束1を収納したときにシート束重量による加重が下方に行くほど軽減され、前記傾斜面124,125による最下及びそれより一枚上のシートの案内がよりスムーズ及び確実なものとなる。
【0186】
また、本形態の突起部は、前記凸部の上面側が半球状になっている。これにより、シートを引き出した時に引っかかることなくスムーズに取出口へと移動される。ただし、前記突起部129,129と奥側傾斜面124及び前記手前側傾斜面125と間の離間距離L1は6mm~12mmとするのが望ましい。6mm以下であると、取出し口との距離が近く、紙を取り出す時に突起部に紙が引掛かりやすくなり、引き出し抵抗が悪くなる。また、12mm以上の場合、取出し口と突起部の隙間が多すぎ、残り枚数が少なくなったときに束になってシートが落下しやすくなる。
【0187】
他方、本形態のシート支持体102は、前記取出口120が、手前側傾斜面125と奥側傾斜面124との間に位置し、前記背板部と前板部とに平行に延在する細長部120Lと、前記シート支持体の中央部で前記細長部と連続し、上面側に向かって略台形状に凹欠された凹欠部120Vとで構成されている。なお、凹欠部の形状は略台形状に限られないがこの形状が本発明の効果を発現しやすく望ましい。手前側及び奥側の凹欠部の何れか一方の凹欠部は、その上縁は傾斜面に連続する垂直面に位置している。好ましくは手前側の凹欠部の上縁が手前側傾斜面に連続する垂直面に位置しているのが望ましい。前記シート支持体102上に載置されたシート束1の積層面が当該凹欠部から露出されるように構成されている。このように凹欠部を形成したことで、シート束1の積層面に触れることができ使用開始時に最初の一枚を摘みやすくなる。さらに、側部の押えが過度にならず、前記撓みと相まって引き出しがスムーズになされ、束になって引き出される事故も格段に減少する。
【0188】
他方、蓋体103は、天板部130と前板部131と前板部131の両側縁において前記前板部131と直角をなして奥側に延在する外側片部132,132とを有し、底側は解放されている。前板部131の高さはケース本体101の背板部111より若干高く、また外側片部132,132の間はケース本体101の内側片部間112,112よりも若干幅広に形成されている。さらに、蓋体103は、その外側片部132,132の下部に形成された、対面する蓋側片部に向かって突出する突起133,133を有し、この突起133,133がケース本体101の前記一対の蓋体連結用円孔113Aに、内側片外方側から回動自在に嵌合されて、この突起部を軸にしてケース本体101に対して開閉可能とされている。さらに前記蓋体の前板部は、下縁131eの中央部が上縁側に向かって湾曲しており、取り出し口からシートを摘みやすくしているともに、前記凹欠部から露出するシート束の積層面に触れやすく一層、最初の一枚の引き出しをしやすくしている。また、この湾曲縁の最上位置は、前記シート支持体の垂直面の下縁、すなわち傾斜面との境界位置より下方に位置している。このため、正面視において前記端面は露出することがなく、水しぶきや埃等が前記端面に付着することが防止され、使用を控えている後続のシートの衛生性が確保される。また、意匠性にも優れたものとなる。
【0189】
他方、本形態のシートディスペンサーX101は、背板部111の前板部131と対面する面に、手前側に突出する奥側ガイドリブ115が形成され、前記前板部131の背板部111と対面する面に、奥側に突出する手前側ガイドリブ135が形成されている。本形態では、奥側ガイドリブ115は、前記各内側片112,112から所定距離離間した位置に1本ずつ計2本が並ぶように配置されており、手前側ガイドリブ135も同様に、前記各外側片132,132から所定距離離間した位置に1本ずつ計2本が並ぶように形成されている。ただし、各ガイドリブの本数はこれに限定されない。また、奥側ガイドリブ115と手前側ガイドリブと135は蓋体103を閉めた際に相対する位置に形成する必要ない。これらのガイドリブ115,135は、ケース上部側からシート支持体102側に向かって、比例的に突出長が増すように構成されており、これらの存在により、シート束1を収納したときのシート支持体102上面へのシート束重量による加重が軽減され、前記傾斜面124,125による最下シート及びそれより一枚上のシートの案内がよりスムーズ及び確実なものとなる。また、これらガイドリブ115,135は特徴的に、その突出先端が、前記垂直面127,127よりもディスペンサーの内側、すなわち対向する前板部側若しくは背板部側に突出するように構成されている。このように突出していることで、ガイドリブ間にあるシート束1の一部の重量が、ガイドリブ115,135を通過して前記垂直面127,127間に移動したシート束1の一部へ加わり難くなり、もって上記説明のシート支持体におけるスムーズな引き出し機構と束になって引き出されることを防止する機能が効果的に発揮されるようになる。ここで、前記ガイドリブの高さは、シートの積み上げ量、すなわち収納量に応じて適宜設計すればよい。概ね1~30cm程度あればよい。
【実施例0190】
ディスペンサーを形成する板となる試験片を製造し、これについて曲げ弾性率、斑点の有無を評価した。マイクロ繊維セルロースは、平均繊維径が14μm、平均繊維長が0.38mmのものを用いた。また、マイクロ繊維セルロースは、リグニン含有量が0.1%のパルプを原料として用いた。
【0191】
(試験例1及び2)
固形分濃度3.5質量%のマイクロ繊維セルロース2650gに、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)粉末46.4gを添加して混合物とし、この混合物を130℃に加温した乾燥機にて乾燥し、圧縮機(土佐テック社製製品TS-55)で圧縮処理をし、樹脂とマイクロ繊維セルロースとで形成された圧縮固形物(マイクロ繊維セルロース圧縮固形物)を得た。マイクロ繊維セルロース圧縮固形物を180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、マイクロ繊維セルロース複合樹脂マスターバッチを得た。得られたマイクロ繊維セルロース複合樹脂マスターバッチと、ポリプロピレンペレット、α-オレフィンコポリマー(三井化学株式会社製のタフマーDF640)を所定の割合でドライブレンドした上で、180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、マイクロ繊維セルロース複合樹脂を得た。マイクロ繊維セルロース複合樹脂はペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットし、180℃で直方体試験片(長さ59mm、幅9.6mm、厚さ3.8mm)に射出成形した。ポリプロピレンペレット、α-オレフィンコポリマー、マイクロ繊維セルロースの配合割合は、表1となるように調整した。
【0192】
(試験例3~6)
試験例3~6は次の点を除き試験例1と同様に製造した。試験例1と同様の圧縮固形物に、白色顔料として酸化チタンマスターバッチと、ポリプロピレンペレットを添加して、180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、マイクロ繊維セルロース複合樹脂マスターバッチを得た。ポリプロピレンペレット、α-オレフィンコポリマー、マイクロ繊維セルロース、酸化チタンマスターバッチの配合割合は、表1となるように調整した。
【0193】
(試験例7及び8)
ポリプロピレンペレット、α-オレフィンコポリマー、酸化チタンマスターバッチを所定の割合でドライブレンドし、180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、複合樹脂を得た。複合樹脂はペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットし、180℃で直方体試験片(長さ59mm、幅9.6mm、厚さ3.8mm)に射出成形した。ポリプロピレンペレット、酸化チタンマスターバッチの配合割合は、表1となるように調整した。
【0194】
斑点の有無の評価は次のとおりに行った。
試験片における単位面積あたりの、面積が0.1mm以上となる斑点の個数が10個/板100cm以上であれば、「◎」とした。
試験片において、斑点が確認できるものの、単位面積あたりの、面積が0.1mm以上となる斑点の個数が10個/板100cm未満であれば、「〇」とした。
試験片において、斑点が全く確認できないものを「×」とした。
【0195】
結果を表1に示した。
【表1】
【符号の説明】
【0196】
X1…卓上型シートディスペンサー、X1´…卓上型シートディスペンサー、1…シート束、1A…シート束の引出し側面、1B…折り返し縁が並ぶ面であって載置部に接する側の面、1C…折り返し縁が並ぶ面であって載置部に接しない側の面、1D…シート束の引出し側面と反対面である背面側面、10…ケース本体、10A…ケース本体の内部空間(又はケース本体内)、11…前板部、11A…前板部内面(束の引出し側面が当接する面)、11B…通孔、12…底板部、12A…内底面(底板部内面)、13…背板部,蓋部、14,14A,14B…側板部、15…天板部、15X…蓋部、15A…天板部内面、16…取出口、17…延出部、17R…延出部の円弧面、18…凹部欠損部、19…ヒンジ部、20…台座部、21…台座側板、22…背面板、23…支持板、30…押え材、31…載置部、31E…載置部の背板部側の縁、32…押え部、41…斑点、L1…前板部の幅、L2…前板部の高さ方向長さ、L3…滑り止め部の範囲、L4…取出口の高さ、∠A…前板部の傾斜角、∠B…載置面の傾斜角、101…ケース本体、102…シート支持体、103…蓋体、110…天板部、11…背板部、112…内側片部、112A…位置決め用孔、112a…係止用長孔、113A…蓋体連結用円孔、115…奥側ガイドリブ、115t…奥側ガイドリブ突出端、120…取出口、120L…細長部、120V…凹欠部、120e…凹欠部の上縁、121…位置決め用突起部、122…係止片、124…奥側傾斜面、125…手前側傾斜面、124A,125A…上方側急斜面、124B,125B…下方側緩斜面、124t,125t…屈曲部分、126…支持体側板、127…垂直面(垂直壁)、128…変曲線、129…突起部、129t…突起部の下部凸部、130…天板部、離間距離、131…前板部、131e…前板部の下縁、132…外側片部、133…突起、135…手前側ガイドリブ、135t…手前側ガイドリブ突出端、X101…シートディスペンサー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24