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特開2024-152220二酸化炭素回収システムおよび二酸化炭素の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152220
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】二酸化炭素回収システムおよび二酸化炭素の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/26 20060101AFI20241018BHJP
   B01D 53/02 20060101ALI20241018BHJP
   B01J 20/16 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B01D53/26 200
B01D53/02
B01J20/16
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066282
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】西村 宏
(72)【発明者】
【氏名】折笠 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】牧平 尚久
(72)【発明者】
【氏名】松本 和人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正哉
(72)【発明者】
【氏名】万福 和子
【テーマコード(参考)】
4D012
4D052
4G066
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012BA02
4D012CA01
4D012CA03
4D012CB12
4D012CB16
4D012CD07
4D012CD10
4D012CE01
4D012CE03
4D012CF03
4D012CF04
4D012CF10
4D012CG01
4D052CD00
4D052GA01
4D052GA04
4D052GB02
4D052GB04
4D052HA00
4D052HA01
4D052HA02
4D052HA03
4D052HA21
4G066AA30B
4G066AA63B
4G066BA33
4G066CA43
4G066DA03
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】DACにおいて、多大なエネルギーを必要とすることなく二酸化炭素の回収効率を向上させることができる二酸化炭素回収システムおよび二酸化炭素の回収方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素回収システムは、気体中に含有される二酸化炭素を分離しうる第1材料を収容する二酸化炭素分離部と、前記二酸化炭素分離部よりも上流に位置し、前記二酸化炭素分離部と第1配管を介して接続される前処理部と、を備える。前記前処理部は、収容容器と、前記収容容器に収容される第2材料と、を含む。前記第2材料は、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中に含有される二酸化炭素を分離しうる第1材料を収容する二酸化炭素分離部と、
前記二酸化炭素分離部よりも上流に位置し、前記二酸化炭素分離部と第1配管を介して接続される前処理部と、
を備え、
前記前処理部は、
収容容器と、
前記収容容器に収容される第2材料と、
を含み、
前記第2材料は、
Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を含む、
二酸化炭素回収システム。
【請求項2】
前記第1材料と前記第2材料とは互いに異なる材料である、
請求項1に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項3】
前記前処理部は、
前記収容容器と前記2材料とを含む第1前処理ユニットと、
前記収容容器と前記2材料とを含み、前記第1前処理ユニットとは異なる第2前処理ユニットと、を含み、
前記第1前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部の出口側との間を接続し、前記第1前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通する状態と、前記第1前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通しない状態とを切換可能である第1切換機構部が備えられた前記第1配管とは異なる第2配管と、
前記第2前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部の出口側との間を接続し、前記第2前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通する状態と、前記第2前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通しない状態とを切換可能である第2切換機構部が備えられた第3配管と、
をさらに備える、
請求項1または請求項2に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項4】
気体中に含有される二酸化炭素を分離しうる第1材料を収容する二酸化炭素分離部と、
前記二酸化炭素分離部よりも上流に位置し、前記二酸化炭素分離部と第1配管を介して接続され、水分を吸着しうる第2材料と収容する前処理部と、
を備え、
前記第2材料は、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を含む、二酸化炭素回収システムにおいて、
水分および二酸化炭素を含有する気体を前記前処理部に流通させる前処理工程と、
前記前処理部から出た前記気体を前記二酸化炭素分離部に流通させる二酸化炭素分離工程と、を含む、
二酸化炭素の回収方法。
【請求項5】
前記前処理工程において、
前記前処理部に供給される前記気体の圧力は90kPaA以上300kPaA以下であり、
前記前処理部の温度は、0℃以上50℃以下である、
請求項4に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項6】
前記二酸化炭素の回収方法において、
さらに、前記二酸化炭素分離部を通過した前記気体を前記前処理部に流通させる前処理部再生工程を含む、
請求項4または請求項5に記載の二酸化炭素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素回収システムおよび二酸化炭素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中に含有される二酸化炭素を大気から直接回収する、直接空気捕捉(Direct Air Capture、以下「DAC」)の技術が知られている。例えば特許文献1には、二酸化炭素を捕捉するための複数の捕捉構造体を備えた二酸化炭素捕捉システムが記載されている。特許文献1には、捕捉構造体は、アミン化合物等である吸着剤が多孔質材料に含浸されたものであることが記載されている。
【0003】
特許文献2は、二酸化炭素吸着剤として、特定のSi/Al比を有し、29Si固体NMRスペクトルにおいて特定範囲にピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸からなる二酸化炭素吸着剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-502736号公報
【特許文献2】国際公開第2008/129968号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DACにおいて、二酸化炭素の回収効率にはさらなる改善が望まれる。また同時に、DACの実用化に向けて、エネルギー消費量の低減が課題となっている。すなわち、DACにおけるエネルギー効率にもさらなる改善が望まれる。そこで、本開示は、DACにおいて、多大なエネルギーを必要とすることなく二酸化炭素の回収効率を向上させることができる二酸化炭素回収システムを提供することを、課題の一つとする。また、DACにおいて、多大なエネルギーを必要とすることなく二酸化炭素の回収効率を向上させることができる二酸化炭素の回収方法を提供することを、課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った二酸化炭素回収システムは、気体中に含有される二酸化炭素を分離しうる第1材料を収容する二酸化炭素分離部と、前記二酸化炭素分離部よりも上流に位置し、前記二酸化炭素分離部と第1配管を介して接続される前処理部と、を備える。前記前処理部は、収容容器と、前記収容容器に収容される第2材料と、を含む。前記第2材料は、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を含む。
【0007】
本開示に従った二酸化炭素の回収方法は、気体中に含有される二酸化炭素を分離しうる第1材料を収容する二酸化炭素分離部と、前記二酸化炭素分離部よりも上流に位置し、前記二酸化炭素分離部と第1配管を介して接続され、水分を吸着しうる第2材料と収容する前処理部と、を備え、前記第2材料はSi/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を含む、二酸化炭素回収システムにおいて、水分および二酸化炭素を含有する気体を前記前処理部に流通させる前処理工程と、前記前処理部から出た前記気体を前記第1配管を通じて前記二酸化炭素分離部に流通させる二酸化炭素分離工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
上記二酸化炭素回収システムによれば、DACにおいて、多大なエネルギーを必要とすることなく二酸化炭素の回収効率を向上させることができる。上記二酸化炭素の回収方法によれば、多大なエネルギーを必要とすることなく二酸化炭素の回収効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示にかかる二酸化炭素回収システムの構成の一例を示す図である。
図2図2は、二酸化炭素回収システムにおける前処理部の制御の一例を示す制御フローである。
図3図3は、本開示にかかる二酸化炭素回収システムの実証試験に用いた試験装置の構成を示す模式図である。
図4図4は、本開示にかかる二酸化炭素回収システムの実施試験例1の結果を示すグラフである。
図5図5は、本開示にかかる二酸化炭素回収システムの比較試験例1の結果を示すグラフである。
図6図6は、本開示にかかる二酸化炭素回収システムの比較試験例2の結果を示すグラフである。
図7図7は、本開示にかかる二酸化炭素回収システムの実施試験例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施態様の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に従った二酸化炭素回収システムは、気体中に含有される二酸化炭素を分離しうる第1材料を収容する二酸化炭素分離部と、前記二酸化炭素分離部よりも上流に位置し、前記二酸化炭素分離部と第1配管を介して接続される前処理部と、を備える。前記前処理部は、収容容器と、前記収容容器に収容される第2材料と、を含む。前記第2材料は、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を含む。
【0011】
DACを実用化するための技術が検討されている。従来、DACのシステムにおいて、気体から二酸化炭素を分離するための手段として、物理吸着を利用するもの、化学吸着を利用するもの、二酸化炭素分離膜を用いるもの、それらの組み合わせ等が知られている。DACにおいて想定される処理対象気体中の二酸化炭素濃度は比較的低く、数百ppm以下程度であることから、いずれの手段を用いる場合も処理対象気体から二酸化炭素を効率良く分離できることが望まれる。この背景の下、二酸化炭素の分離効率を向上させることが検討された。そして、処理対象気体中に含有される水分が、二酸化炭素の分離を行う際に二酸化炭素の分離を阻害する要因のひとつであると考えられた。
【0012】
そこで、DACのシステムにおいて、二酸化炭素分離部に気体を供給する前段階として、処理対象気体から水分を除去するための前処理部を設けることが着想された。従来、気体から水分を除去するための装置として冷却式除湿装置等が知られているが、大量の処理対象気体から水分を除去するためには多くのエネルギーが必要となる。そこで、気体中の水分を吸着しうる吸着剤を利用して脱湿を行うことが検討された。しかしながら、吸着剤を利用する場合、水分とともに二酸化炭素も吸着し、処理対象気体が二酸化炭素分離部に到達する前に、二酸化炭素のロスが生じることが判明した。そこで、水分と二酸化炭素とが共存する気体中から水分を選択的に除去する吸着剤が探索された結果、特定の化学構造を有する吸着剤によれば、水分と二酸化炭素が共存する気体中から水分を選択的に吸着可能であり、また、多くのエネルギーを要することなく気体の脱湿が可能で、前処理部における二酸化炭素のロスも少ないことが見出された。
【0013】
本開示にかかる二酸化炭素回収システムは、二酸化炭素分離部の上流に前処理部が備えられ、前処理部は、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体(第2材料)を含む。この特定の第2材料を前処理に用いることによって、処理対象である気体から、多大なエネルギーを要することなく水分を除去することが可能である。また同時に、前処理部における二酸化炭素のロスが少なく、二酸化炭素分離部に二酸化炭素を含む気体を供給することが可能で、DACシステムにおける二酸化炭素の回収効率を向上させることが可能となる。第2材料であるアルミニウムケイ酸塩複合体は、ハスクレイ(登録商標)として公知の材料を含む。ハスクレイ(登録商標)は二酸化炭素および水分の両方を吸着する材料として知られていたが、本開示において見出された二酸化炭素と水分との選択性は知られておらず、DACにおける前処理剤としての用途は想定されていなかった。
【0014】
前記二酸化炭素回収システムにおいて、前記第1材料と前記第2材料とは互いに異なる材料であってよい。二酸化炭素分離部における二酸化炭素分離のための材料(第1材料)と、前処理部における水分吸着材料(第2材料)とで互いに異なる材料を採用することによって、二酸化炭素の吸着効率をより向上させて、本開示にかかる効果を確実に得ることができる。
【0015】
前記二酸化炭素回収システムにおいて、前記前処理部は、前記収容容器と前記2材料とを含む第1前処理ユニットと、前記収容容器と前記2材料とを含み、前記第1前処理ユニットとは異なる第2前処理ユニットと、を含んでよい。前記前処理部は、前記第1前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部の出口側との間を接続し、前記第1前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通する状態と、前記第1前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通しない状態とを切換可能である第1切換機構部が備えられた前記第1配管とは異なる第2配管と、前記第2前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部の出口側との間を接続し、前記第2前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通する状態と、前記第2前処理ユニットと前記二酸化炭素分離部とが連通しない状態とを切換可能である第2切換機構部が備えられた第3配管と、をさらに備えてよい。複数のユニットを含む前処理部を構成することによって、複数のユニットを切り換えながら前処理を実施することが可能となり、二酸化炭素吸着を連続的に実施できる。また、二酸化炭素分離部の出口側と各前処理ユニットとの間を接続する配管を設けることによって、二酸化炭素分離部から排出される排気を、前処理部における吸湿材(第2材料)の再生に利用できる。
【0016】
前記二酸化炭素回収システムにおいて、前記第1材料は物理吸着によって二酸化炭素を回収する材料であってよい。物理吸着による二酸化炭素の回収は、エネルギー処理気体に含まれる水分の影響を受けやすいと考えられている。このため、気体中の水分を除去し、かつ二酸化炭素のロスが少ない前処理部を設けるという本開示にかかる構成によって、本開示にかかる効果をより確実に得られる。
【0017】
本開示に従った二酸化炭素の回収方法は、気体中に含有される二酸化炭素を分離しうる第1材料を収容する二酸化炭素分離部と、前記二酸化炭素分離部よりも上流に位置し、前記二酸化炭素分離部と第1配管を介して接続され、水分を吸着しうる第2材料と収容する前処理部と、を備え、前記第2材料は、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を含む、二酸化炭素回収システムにおいて、水分および二酸化炭素を含有する気体を前記前処理部に流通させる前処理工程と、前記前処理部から出た前記気体を前記二酸化炭素分離部に流通させる二酸化炭素分離工程と、を含む。この回収方法によれば、二酸化炭素の回収効率が良く、エネルギー消費の少ないDACを実現できる。
【0018】
前記前処理工程において、前記前処理部に供給される前記気体の圧力は90kPaA以上300kPaA以下であってよく、前記前処理部における処理温度は0℃以上50℃以下であってよい。上記の構成を有するシステムによれば、前処理工程において、大気圧近傍、かつ、100℃以下(特に、50℃以下)の温度において処理対象気体中の水分を低減できる。かかる方法によれば、よりエネルギー消費を抑制しつつ二酸化炭素を回収することが可能となる。
【0019】
前記二酸化炭素の回収方法において、さらに、前記二酸化炭素分離部を通過した前記気体を前記前処理部に流通させる、前処理部再生工程を含んでよい。本開示にかかる回収方法の前処理部で用いられる第2材料は、水分を吸着した後、100℃以下の比較的低温の空気と接触させることによって容易に再生できる。かかる回収方法によれば、二酸化炭素の回収を低エネルギーで連続的に実施することが可能となる。
【0020】
[実施形態の具体例]
以下に、本開示にかかる二酸化炭素回収システムおよび回収方法の一例を、図面を参照しつつより詳しく説明する。図1は、二酸化炭素回収システムの構成の一例を示す図である。
【0021】
(二酸化炭素回収システム)
図1を参照して、二酸化炭素回収システム1はDACに用いられるシステムである。原料気体Gは主に大気である。処理対象気体である原料気体Gは、典型的には、窒素(N)と、酸素(O)と、水分(HO)と、二酸化炭素(CO)と、その他成分とを含有する。原料気体Gが大気である場合、通常300ppmから500ppm程度の二酸化炭素を含有するが、この範囲に制限されない。例えば、原料気体における二酸化炭素の含有割合は、300ppmv~5000ppmv程度であってよい。原料気体G中に含まれる二酸化炭素が、二酸化炭素回収システム1によって分離および回収され、回収気体Gとして取り出される。
【0022】
二酸化炭素回収システム1は、前処理部10と、二酸化炭素分離部20と、送風機30とを備える。送風機30は例えばブロワやファンであってよい。送風機30と前処理部10とは、配管51を介して互いに接続されている。前処理部10は、送風機30によって送り込まれる原料気体Gに含まれる水分を低減するために配置されている。前処理部10は複数の前処理ユニットを含んでよい。図1の例では、前処理部10は2つの前処理ユニット10A、10Bを含む。配管51は、第1前処理ユニット10Aに接続する第1分岐配管51Aと、第2前処理ユニット10Bに接続する第2分岐配管51Bと、を含む。第1分岐配管51Aの途中に、送風機30と第1前処理ユニット10Aとの間が連通する状態と閉止された状態とを切換え可能である弁V1が備えられている。第2分岐配管51Bの途上に、送風機30と第2前処理ユニット10Bとの間が連通する状態と閉止された状態とを切換え可能である弁V2が備えられている。第1前処理ユニット10A、第2前処理ユニット10Bは互いに同じ構成を有していることが好ましい。図1の例では、前処理部10の上流側に送風機30が備えられているが、別の態様として、前処理部10の下流側にポンプが設置され、ポンプで吸引することによって前処理部10に原料気体Gを吸い込むこともできる。
【0023】
前処理部10における前処理ユニット10A、10Bはそれぞれ、収容容器11A、11Bと、収容容器11A、11Bに収容された第2材料としての吸湿材12A、12Bとを含む。収容容器11A、11Bは吸収塔であってよい。吸湿材12A、12Bは、水分を吸着し、かつ二酸化炭素の吸着量が少ない吸湿材である。本開示にかかる二酸化炭素回収システム1は、吸湿材12A、12Bとして、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体を用いることが特徴の一つである。吸湿材12A、12Bの詳細は後述される。前処理ユニット10A、10Bは、温度調整のための加熱装置または冷却装置、圧力調整のためのポンプやファン等を備えていてもよい。
【0024】
前処理部10と二酸化炭素分離部20とは、第1配管としての配管52を介して接続される。配管52は、二酸化炭素分離部20の入口側20inに接続する。配管52は、第1前処理ユニット10Aに接続する第1分岐配管52Aと、第2前処理ユニット10Bに接続する第2分岐配管52Bと、を含む。第1分岐配管52Aの途上に、第1前処理ユニット10Aと二酸化炭素分離部20との間が連通する状態と閉止された状態とを切換え可能である弁V3が備えられている。第2分岐配管52Bの途上に、第2前処理ユニット10Bと二酸化炭素分離部20との間が連通する状態と閉止された状態とを切り換え可能である弁V4が備えられている。
【0025】
二酸化炭素分離部20は、前処理部10を通過し、水分が低減された気体Gに含まれる二酸化炭素を分離する。二酸化炭素分離部20は、DACにおいて用いられる二酸化炭素分離装置を含むことができる。DACにおいて用いられる二酸化炭素分離装置としては例えば、二酸化炭素を物理吸着する物理吸着装置、二酸化炭素を化学吸着する化学吸着装置、それらの中間的な装置、膜分離によって二酸化炭素を分離する膜分離装置、相変化を利用して二酸化炭素を分離する冷却装置等であってよい。
【0026】
図1の例においては、二酸化炭素分離部20は、収容容器21と収容容器21に収容された第1材料としての二酸化炭素吸着剤22とを含む。本開示にかかる二酸化炭素回収システム1は前処理部10を備え、前処理部10において処理対象気体から水分が除去されるため、二酸化炭素分離部20における水分の影響が少ない。このため、二酸化炭素分離部20において物理吸着を利用した二酸化炭素分離を行う場合に、水分の存在に起因して二酸化炭素の吸着効率が低下することを抑制できる。物理吸着を利用する二酸化炭素吸着剤22として、例えば、ゼオライト、金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks, MOF)、ハスクレイ(登録商標)等が挙げられる。化学吸着を利用した二酸化炭素吸着剤22としては例えば、アミン化合物を多孔質物質に含浸させた固体吸着剤、液体のアミン化合物、水酸化カルシウム等の無機アルカリ化合物を用いるもの等が挙げられる。二酸化炭素分離部20は、温度調整のための加熱装置または冷却装置、圧力調整のためのポンプやファン等を備えていてもよい。
【0027】
二酸化炭素回収システム1において、前処理部10と二酸化炭素分離部20とは、第1配管としての配管52は別の配管である、第2配管としての配管53を介して接続される。二酸化炭素分離部20の出口側20outと、前処理部10とが、配管53を介して接続されている。配管53は、前処理部10における吸湿材12A、12Bを再生させるための再生系統を構成する。配管53は、第1前処理ユニット10Aに接続する第1分岐配管53Aと、第2前処理ユニット10Bに接続する第2分岐配管53Bと、を含む。第1分岐配管53Aの途上に、第1前処理ユニット10Aと二酸化炭素分離部20との間が連通する状態と閉止された状態とを切換え可能である弁V5が備えられている。第2分岐配管53Bの途上に、第2前処理ユニット10Bと二酸化炭素分離部20との間が連通する状態と閉止された状態とを切換え可能である弁V6が備えられている。
【0028】
第1前処理ユニット10Aにはさらに、二酸化炭素回収システム1の外部に気体を排出する配管である配管54Aが接続されている。同様に、第2前処理ユニット10Bにはさらに、二酸化炭素回収システム1の外部に気体を排出する配管である配管54Bが接続されている。配管54A、配管54Bは排気用配管である。配管54Aの途上には弁V7が備えられている。弁V7は、第1前処理ユニット10Aが外部に連通する状態と、第1前処理ユニット10Aと外部との間が閉止された状態とを切り換え可能である。弁V8は、第2前処理ユニット10Bが外部に連通する状態と、第2前処理ユニット10Bと外部との間が閉止された状態とを切り換え可能である。
【0029】
二酸化炭素分離部20には、取り出し用配管である配管55が接続されている。配管55を通して、二酸化炭素分離部20で分離された二酸化炭素を含む回収気体Gが二酸化炭素回収システム1から取り出され、回収される。
【0030】
(吸湿材)
本開示にかかる二酸化炭素回収システムにおいて用いられる吸湿材(吸湿材12A、12B)を構成する、Si/Alモル比が0.7~1.3であり、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にピークを有し、29Si固体NMRスペクトルにおいてOH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなるアルミニウムケイ酸塩複合体について説明する。吸湿材は、ハスクレイ(登録商標)として知られる無機多孔質物質Mを含む。無機多孔質物質Mの主な構成元素はケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)および水素(H)である。無機多孔質物質Mは、多数のSi-O-Al結合で組み立てられた水和ケイ酸アルミニウムと粘土鉱物の複合体である。
【0031】
本開示にかかる効果を得られる限り特に制限されないが、吸湿材12A、12Bは、吸湿材12A、12Bの全体に対して無機多孔質物質Mを90%以上含むことができ、95%以上であれば好ましく、100%含むことがより好ましい。本開示にかかる効果を確実に得るためには、吸湿材12A、12Bの全体に対して無機多孔質物質Mを95%以上含むことが好ましい。吸湿材12A、12Bは、無機多孔質物質Mの他に、例えばアルミナ、ゼオライト、シリカゲル、活性炭等を含んでもよい。
【0032】
無機多孔質物質Mは、粒状であってよい。造粒物の大きさや形状は特に制限されないが、例えば0.5mm~10mm程度のペレット状であってよい。無機多孔質物質Mの密度は、例えば乾燥状態において、0.3g/cm~0.6g/cmであってよい。無機多孔質物質Mの比表面積は、例えば、500m/g~1000m/gであってよい。無機多孔質物質Mの気孔率は、例えば40%~70%であってよい。
【0033】
無機多孔質物質Mは大気圧付近において高い水分吸着性を有する。具体的には、相対湿度40%(100℃)における水蒸気吸着量は28wt%程度、相対湿度60%(100℃)における水分吸着量は45wt%以上である。また、無機多孔質物質Mは、大気圧付近における二酸化炭素吸着量が少ない。例えば、絶対圧100kPaAにおいて、ハスクレイ(登録商標)の二酸化炭素吸着量は6wt%程度である。
【0034】
無機多孔質物質Mは、例えば、無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液からなる溶液とを混合し、ケイ素とアルミニウムとを重合させ、次いで、加熱熟成を行った後に脱塩洗浄を行うことによって、工業的に製造できる。具体的に、モノケイ酸水溶液とアルミニウム溶液とを、Si/Al比が0.7~1となるように混合し、酸またはアルカリを添加してpH6~8に調整した後、加熱することによって得ることができる。モノケイ酸として具体的には例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、無定形コロイド状二酸化ケイ素(エアロジル等)等が用いられうる。ケイ酸塩分子と結合させるアルミニウム源は、アルミニウムイオンであればよい。具体的には例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムおよびアルミン酸ナトリウム等のアルミニウム化合物であってよい。
【0035】
これらの原料を適切な水溶液に溶解させ、所定の濃度の溶液を調製する。ケイ素/アルミニウム比は0.7~1.0となるように混合する。溶液中のケイ素化合物の濃度は1~1000mmol/Lとできる。アルミニウム化合物の溶液の濃度は1~1400mmol/Lとできる。1~800mmol/Lのケイ素化合物溶液と、1~1200mmol/Lのアルミニウム化合物溶液とを混合することが好ましい。これらの比率および濃度に基づいて、アルミニウム化合物溶液にケイ素化合物溶液を混合し、前駆体を形成した後、pHを6~8に調整する。次いで、加熱合成を行い、さらに遠心分離、濾過、膜分離等により脱塩洗浄することによって、無機多孔質物質Mが得られうる。
【0036】
また、無機多孔質物質Mは、例えば、水ガラスと硫酸アルミニウム水溶液とを混合し、酸性条件下でケイ素とアルミニウムとを重合させ、次いで、脱塩および加熱を行うことによって、工業的に製造できる。具体的には、水ガラスと硫酸アルミニウム水溶液とをSi/Alモル比が0.7~1.3、混合時のpHが3.5~4.8となるように混合し、攪拌した後、これにアルカリを添加してpH6~10に調整し、脱塩処理及び120~300℃での加熱処理を行うことにより製造できる。
【0037】
例えば上記の方法によって得た無機多孔質物質Mは、X線源としてCuを用いた粉末X線回折図形において、2θ=20、26、35、39°付近にブロードなピークが見られる。このうち20°及び35°に見られるピークは、層状粘土鉱物のhk0面の反射から得られるものであり、層状粘土鉱物に一般的に見られる00l反射が見られないことから、積層方向の厚さがほとんどない低結晶性の層状粘土鉱物であると推定される。また2θ=26°、39°付近のブロードなピークは、非晶質なアルミニウムケイ酸塩に特徴的なピークである。また、CP/MAS法による29Si固体NMRスペクトルにおいて、OH-Si-(OAl)に起因するピークと、-84~-94ppmの範囲に観察されるピークとを有する。OH-Si-(OAl)に起因するピークは、-76~-78ppm付近に見られる。
【0038】
(二酸化炭素回収方法)
本開示にかかる二酸化炭素の回収方法について説明する。本開示にかかる二酸化炭素の回収方法は、好ましくは上述の二酸化炭素回収システムにおいて実施される方法である。本開示にかかる二酸化炭素の回収方法において処理対象となる原料気体は、水分および二酸化炭素を含有する気体である。原料気体における水分の含有割合は、特に制限されないが、例えば1vol%~10vol%程度であってよい。原料気体における二酸化炭素の含有割合は、特に制限されないが、例えば300ppmv~5000ppmv程度であってよい。
【0039】
本開示にかかる二酸化炭素の回収方法は、水分および二酸化炭素を含有する気体を前処理部に流通させて、気体中の水分を低減する前処理工程と、前処理部から出た気体を二酸化炭素分離部に流通させる二酸化炭素分離工程と、を含む。前処理部は、前述した無機多孔質物質Mを含む脱湿部である。
【0040】
前処理工程において、前処理部に供給される気体の圧力は90kPaA以上300kPaA以下であることが好ましい。また、前処理における処理温度は、100℃以下であってよく、0℃以上50℃以下であることが好ましい。なお、ここでいう処理温度とは、前処理部に流通される原料気体Gの温度である。本開示にかかる二酸化炭素の回収方法では、前処理工程を大気圧付近で、かつ常温域あるいは常温に近い温度域、典型的には100℃以下の温度範囲で実施することができる。このため、例えば加熱によって脱湿を実施する場合と比較して、前処理工程における必要エネルギーを低減できる。また、例えばゼオライト等の多孔質吸着剤を用いる場合と比較して、二酸化炭素の吸着が少なく、処理対象気体中から水分を選択的に吸着できる。
【0041】
前処理工程に続いて、前処理部から出た気体を二酸化炭素分離部に流通させる二酸化炭素分離工程を実施する。二酸化炭素分離工程は、二酸化炭素分離の方式に応じて適切な条件が選択されうる。本開示にかかる二酸化炭素の回収方法では、二酸化炭素分離部に供給される気体は水分が低減されている。このため、水分の影響を受けやすい二酸化炭素分離方式(例えば二酸化炭素吸着剤としてゼオライトを用いる場合)も好適に用いられうる。
【0042】
二酸化炭素分離工程に続いて、あるいは二酸化炭素分離工程と同時に、二酸化炭素回収工程を実施できる。二酸化炭素回収工程は、二酸化炭素分離部において分離された二酸化炭素を回収する工程である。二酸化炭素分離部において、二酸化炭素分離の方式として物理吸着および/または化学吸着が採用される場合、二酸化炭素分離工程および二酸化回収工程として、例えば温度スイング法、圧力スイング法、湿度スイング法を採用することができる。
【0043】
本開示にかかる二酸化炭素の回収方法は、前処理部における吸湿材を再生させる再生工程を含むことができる。再生工程では、二酸化炭素分離部から排出される処理後気体を利用できる。さらに、前処理部が複数の前処理ユニットを含む場合、原料気体の脱湿と、吸湿材の再生とを並行して実施できる。
【0044】
図2は、本開示にかかる二酸化炭素回収システムにおける前処理部の制御の一例を示す制御フローである。図2に示すフローは図1に示す二酸化炭素回収システム1の制御の一例を示しており、図2中の符号は図1に示す構成に対応している。
【0045】
まず装置を起動する(スタート)。続いて、弁のうちV1、V3,V6,V8が開とされ、V2,V4,V5,V7が閉とされる(S10)。この操作によって、送風機30と第1前処理ユニット10Aとの間が連通し、第1前処理ユニット10Aと二酸化炭素分離部20との間が連通し、二酸化炭素分離部20の出口側20outとの第2前処理ユニット10Bとの間が連通し、第2前処理ユニット10Bと排気口55Bとが連通する。
【0046】
次いで、送風機30および二酸化炭素分離部20の分離装置をONにする(S20)。送風機30から、窒素、酸素、水分および二酸化炭素を含む原料気体Gが第1前処理ユニット10Aに送り込まれる。第1前処理ユニット10Aにおいて水分が低減された気体Gが二酸化炭素分離部20に供給され、二酸化炭素分離部20において二酸化炭素が分離される。二酸化炭素分離部20から、窒素および酸素を含む乾燥空気Gが第2前処理ユニット10Bに供給される。このようにして、第1前処理ユニット10Aにおける脱湿と、第2前処理ユニット10Bにおける吸湿材12Bの再生が実施される(S30)。吸湿材12Bの再生に利用された、窒素、酸素、水分を含む排気Gが、排気口55Bから外部に排出される。第2前処理ユニット10Bにおける吸湿材12Bの再生は、具体的には、例えば圧力を101kPaA~300kPaA程度、温度を60℃~100℃程度に調整した乾燥空気Gを第2前処理ユニット10Bに送り込むことによって、吸湿材12Bから水分を脱着させることによって行う。再生工程に用いる乾燥空気Gの温度は、例えば20℃~100℃であってよく、60℃~100℃であればより好ましい。
【0047】
第1前処理ユニット10Aにおける脱湿性能の低下が判定される(S40)。脱湿性能の判定は、例えば、第1前処理ユニット10Aの出口側において第1前処理ユニット10Aを出る気体の湿度を計測することによって行うことができる。この方法以外でも、脱湿性能が判定できれば具体的な手段は制限されない。第1前処理ユニット10Aにおける脱湿性能が低下したと判定されない場合(S40においてNO)、第1前処理ユニット10Aにおける脱湿と、第2前処理ユニット10Bにおける再生が継続される(S30)。
【0048】
第1前処理ユニット10Aにおける脱湿性能が低下したと判定される場合(S40においてYES)、弁のうちV1、V3,V6,V8が閉とされ、V2,V4,V5,V7が開とされる(S60)。この操作によって、送風機30と第2前処理ユニット10Bとの間が連通し、第2前処理ユニット10Bと二酸化炭素分離部20との間が連通し、二酸化炭素分離部20の出口側20outとの第1前処理ユニット10Aとの間が連通し、第1前処理ユニット10Aと排気口55Aとが連通する。
【0049】
送風機30から、原料気体Gが第2前処理ユニット10Bに送り込まれる。第2前処理ユニット10Bにおいて水分が低減された気体Gが二酸化炭素分離部20に供給され、二酸化炭素分離部20において二酸化炭素が分離される。二酸化炭素が分離された乾燥空気Gが第1前処理ユニット10Aに供給される。このようにして、第2前処理ユニット10Bにおける脱湿と、第1前処理ユニット10Aにおける再生が実施される(S60)。吸湿材12Aの再生に利用された、窒素、酸素、水分を含む排気Gが、排気口55Aから外部に排出される。
【0050】
第2前処理ユニット10Bにおける脱湿性能の低下が判定される(S70)。第2前処理ユニット10Bにおける脱湿性能が低下したと判定されない場合(S70においてNO)、第2前処理ユニット10Bにおける脱湿と、第1前処理ユニット10Aにおける再生が継続される(S60)。第2前処理ユニット10Bにおける脱湿性能が低下したと判定される場合(S70においてYES)、弁のうちV1、V3,V6,V8が開とされ、V2,V4,V5,V7が閉とされ(S80)、第1前処理ユニット10Aにおける脱湿と、第2前処理ユニット10Bにおける再生が実施される(S30)。
【0051】
上述の制御方法によれば、2つの前処理ユニットにおいて、一方の前処理ユニットにおける脱湿と、他方の前処理ユニットの再生とを並行して実施することが可能である。また、二酸化炭素分離後の乾燥気体を用いて前処理ユニットの再生を実施することが可能で、エネルギー効率に優れた二酸化炭素回収システムを構成できる。
【0052】
[実施試験例1]
以下の試験により、本開示にかかる前処理工程(脱湿工程)の実証を行った。
<試験装置>
試験装置の概要を[図3]に示す。[図3]に示すとおり、カラムに吸湿材を充填した吸着塔を構成し、吸着塔における水分および二酸化炭素の吸着を測定した。直径60mm、長さ1000mmのカラムを用いた。カラム中に吸湿材としてハスクレイ(登録商標)(品番:ハスクレイGI-Z、石原産業株式会社製、直径4mm・長さ6mmのペレット状粒子)490.41g(1L)を充填した。ハスクレイは、110℃で乾燥したものを用いた。
吸着塔の入口側および出口側に二酸化炭素濃度計(おんどとりTR-76Ui-S、株式会社T&D製)および温湿度計(おんどとりTR-72nw-S、株式会社T&D製)を設置し、二酸化炭素濃度および温度、湿度を測定した。吸着の際は、吸着塔の出口側にポンプ(MP-30、アズワン株式会社製)を設置し、吸引することによって吸着塔内に処理対象気体を導入し、通過させた。
【0053】
<試験方法>
カラムに1L分の吸湿材を充填した後、窒素発生装置(M4NT-0.8-5、コフロック株式会社製)にて発生させた窒素ガスを試験装置に導入した。出口側において測定する二酸化炭素濃度が10ppm以下になるまで窒素ガスを流通させて、カラムを平衡化した。これを前準備とした。
前準備が終了した後、水中バブリングによって水分を添加した外気を原料気体として、カラムに導入した。原料気体は、相対湿度80~90%RH、二酸化炭素濃度500~600ppmであった。原料気体の流量は25L/minとした。
【0054】
<試験結果>
吸着塔の入口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図4](a)に、吸着塔の出口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図4](b)に、示す。[図4](a)、(b)に示されるとおり、原料気体における相対湿度が80~90%RHであったのに対して、吸着塔の出口側の相対湿度が5%RHまで低減された状態が経過時間100分まで維持された。経過時間110分においても、出口側の相対湿度は10%RH以下であった。また、原料気体における二酸化炭素濃度が450~500ppmであったのに対して、吸着塔の出口側における二酸化炭素濃度は、420ppm~500ppm程度である状態が維持された。これらの結果から、ハスクレイは二酸化炭素と水分を含む気体から、水分を選択的に吸着することが確認された。DACの前処理としてハスクレイを利用した場合、DAC装置に供給する気体における二酸化炭素のロスが少なく、また、常温常圧で脱湿工程を実施可能であると考えられた。
【0055】
[比較試験例1]
実施試験例1の装置において、吸湿材としてハスクレイに代えてゼオライト(モレキュラーシーブ4A、品番:141302、ユニオン昭和株式会社製、3.2mmペレット状粒子)を用いた。ゼオライトは、200℃で乾燥し、カラム中に784.57g(1L)充填した。それ以外は実施試験例1と同様に試験を実施した。
【0056】
<結果>
吸着塔の入口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図5](a)に、吸着塔の出口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図5](b)に、示す。[図5](a)、(b)に示されるとおり、原料気体における相対湿度が77~80%RHであったのに対して、吸着塔の出口側の相対湿度が5%RHまで低減された状態が経過時間150分まで維持された。一方、原料気体における二酸化炭素濃度が525~600ppmであったのに対して、吸着塔の出口側における二酸化炭素濃度は、約50分経過時まで0ppmに近く、その後150分経過時まで徐々に上昇した。これらの結果から、ゼオライトは水分吸着性を有するが、同時に二酸化炭素も吸着することが確認された。DACの前処理としてゼオライトを利用した場合、DAC装置に供給する気体における二酸化炭素のロスが生じると考えられた。
【0057】
[比較試験例2]
実施試験例1の装置において、吸湿材としてハスクレイに代えてアルミナゲル(活性アルミナD201、品番:00918500、ユニオン昭和株式会社製、5~8メッシュ、ビーズ状粒子)を用いた。活性アルミナは、200℃で乾燥し、カラム中に855.74g(1L)充填した。それ以外は実施試験例1と同様に試験を実施した。
【0058】
<結果>
吸着塔の入口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図6](a)に、吸着塔の出口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図6](b)に、示す。[図6](a)、(b)に示されるとおり、原料気体における相対湿度が80~85%RHであったのに対して、吸着塔の出口側の相対湿度が5~7%RH程度まで低減された状態が経過時間120分まで維持された。一方、原料気体における二酸化炭素濃度が490~580ppmであったのに対して、吸着塔の出口側における二酸化炭素濃度は、約40分経過時まで10ppm以下であり、その後120分経過時まで徐々に上昇したが、120分経過時にも270ppm程度であった。これらの結果から、アルミナゲルは水分吸着性を有するが、同時に二酸化炭素も吸着することが確認された。DACの前処理としてアルミナゲルを利用した場合、DAC装置に供給する気体における二酸化炭素のロスが生じると考えられた。
【0059】
[実施試験例2]
以下の試験により、本開示にかかる前処理部再生工程(脱着工程)の実証を行った。
<試験装置>
試験装置の概要を[図3](b)に示す。[図3](b)に示すとおり、カラムに吸湿材を充填した吸着塔を構成し、吸着塔における水分および二酸化炭素の脱着を測定した。カラムは実施試験例1と同一のカラムを用いて、実施試験例1で水分を吸着させた後のカラムを脱着試験に供した。
吸着塔の入口側および出口側に二酸化炭素濃度計(おんどとりTR-76Ui-S、株式会社T&D製)および温湿度計(おんどとりTR-72nw-S、株式会社T&D製)を設置し、二酸化炭素濃度および温度、湿度を測定した。
【0060】
<試験方法>
実施試験例1で吸着試験に用いたカラムに、窒素発生装置(M4NT-0.8-5、コフロック株式会社製)にて発生させた窒素ガスを導入した。原料気体の流量は10.0L/minとした。
【0061】
<試験結果>
脱着入口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図7](a)に、脱着出口側における相対湿度および二酸化炭素濃度の経時変化を[図7](b)に、それぞれ示す。[図7](a)、(b)に示されるとおり、温度が22℃~25℃程度、相対湿度が5%RH程度である窒素を送入すると、吸湿塔の出口側では相対湿度が80~40%RH程度である気体が排出されることが確認された。この結果から、ハスクレイは常温の乾燥空気によって水分の脱着が可能であり、常温常圧で前処理部の再生工程を実施可能であると考えられた。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 二酸化炭素回収システム、10 前処理部、10A 第1前処理ユニット、10B 第2前処理ユニット、11A、11B 収容容器、12A、12B 吸湿材、20 二酸化炭素分離部、21 収容容器、22 二酸化炭素吸着剤、30 送風機、51、52、53、54、55 配管、55A、55B 排気口、V1、V2、V3、V4、V5、V6、V7、V8 弁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7