(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152246
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】鉄道車両の窓構造とそれを有する鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 27/00 20060101AFI20241018BHJP
B61D 25/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B61D27/00 H
B61D25/00 B
B61D27/00 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066319
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】因幡 克己
(72)【発明者】
【氏名】三谷 和也
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の客車において、窓を開けて換気をすると、降雨時に雨粒が客車内に降り込む場合があった。
【解決手段】鉄道車両の側構体に形成され、窓ガラスを下降させて開口させる窓構造であって、
窓枠上辺に設けられた送風口と、
前記送風口から送風するファンを有し、
前記鉄道車両の走行速度に応じて送風量を変化させるエアカーテンを形成させる鉄道車両の窓構造は、エアカーテンによって車外から車内への異物の流入を抑制しつつ、車内の空気を交換させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の側構体に形成され、窓ガラスを下降させて開口させる窓構造であって、
窓枠上辺に設けられた送風口と、
前記送風口から送風するファンを有し、
前記鉄道車両の走行速度に応じて送風量を変化させるエアカーテンを形成させる鉄道車両の窓構造。
【請求項2】
前記送風口からの送風は、車内側から車外側へ傾斜を有している請求項1に記載された鉄道車両の窓構造。
【請求項3】
前記走行速度がゼロの場合に、前記送風量をゼロにする場合とゼロにしない場合を、前記鉄道車両のエアコンの稼働の有無で切り替えることとした請求項2に記載された鉄道車両の窓構造。
【請求項4】
前記ファンは車外の空気を取り込む請求項3に記載された鉄道車両の窓構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一の鉄道車両用エアカーテンを車両の前方および後方の窓に配置された鉄道車両。
【請求項6】
車両進行方向を前方として、車両前方の前記鉄道車両用エアカーテンの送風量が車両後方の前記鉄道車両用エアカーテンの送風量より多い請求項5に記載された鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道車両の窓構造に関するものであり、特に開口した窓にエアカーテンを形成させることができる窓構造とそれを有する鉄道車両に係るものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザ等に伴うウイルス感染の危険性は、閉鎖、密閉空間内に人が集まることで飛躍的に高くなることが知られている。鉄道車両においては、朝夕の通勤時に閉鎖、密閉状態内に人が集まる状況ができる場合が多い。そこで、鉄道車両内を密閉状態にしないために、客車内の換気が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、車外空気を給気する給気装置と、車内空気を排出する排気装置とを有し、車外空気を冷却し車内へ送風する鉄道車両用空調装置において、給気装置の吐出口の下流から排気装置の給気口の上流側へ至る間に熱交換器を設け、車外空気と排出される車内空気とを熱交換させる鉄道車両用空調換気装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、新幹線等のように窓が固定されて開かない場合に使用されるものであり、在来線を走行する鉄道車両においては、高価すぎる設備となる。また、特許文献1の装置は、車両重量を増加させることとなり、運転コストが高くなるという問題もある。通常在来線の客車では窓を開けて客車内の換気を行うのが妥当と考えられる。
【0006】
しかし、車両の窓を開けた換気では、走行中に車外から虫等が引き込まれたり、雨の日では、雨粒が降り込むといった課題が考えられた。また、車内を暖房若しくは冷房している場合には、開口した窓から暖気若しくは冷気が抜け、暖房冷房の効果が低減するといった課題もあった。本発明はこのような課題に鑑みて想到されたものであり、適度に車内の密閉性を確保しながら、車内の空気と車外の空気を入れ替えることができる窓構造およびその窓構造を有する鉄道車両を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、鉄道車両にエアカーテンを有する窓構造を提供するものである。具体的に本発明に係る鉄道車両の窓構造は、
鉄道車両の側構体に形成され、窓ガラスを下降させて開口させる窓構造であって、
窓枠上辺に設けられた送風口と、
前記送風口から送風するファンを有し、
前記鉄道車両の走行速度に応じて送風量を変化させるエアカーテンを形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鉄道車両の窓構造は、上開きの窓を下げて窓上端に開口を開けた場合に、走行速度の応じた送風量を吹き出すエアカーテンを形成させるので、車両速度が変化しても、一定の密閉性を確保することができ、なおかつ適度に車外気と車内気を交換することができる。
【0009】
また、エアカーテンの吹き出し方向が車外外向きにするこで、外気が入りにくく、車内の密閉性を高めることができる。
【0010】
また、本発明の窓構造を車両の両端近傍の窓に設け、進行方向前側のエアカーテンの送風量が進行方向後側のエアカーテンの送風量より多くすることで、車内に進行方向前側から後側への空気の流れを作りやすく、車両全体の換気を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る鉄道車両の窓構造の一部の斜視図である。
【
図2】本発明に係る窓構造の断面図(
図1(b)のA-A断面)である。
【
図4】送風量と、車速および窓開閉度の関係を示す図である。
【
図5】送風量と、車速および窓開閉度の他の関係を示す図である。
【
図7】ファンが車外の空気を取り入れる場合の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明に係る鉄道車両の窓構造について図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0013】
図1に本発明に係る鉄道車両の窓構造1(以後単に「窓構造1」という。)の一部の斜視図を示す。
図1は、窓構造1の上部窓枠16と窓ガラス30および側構体34を車内側から見た図である。なお、車内側の窓より上の化粧板36(
図2参照。)は省略している。
図1(a)は、窓が開いた状態であり、
図1(b)は閉じた状態である。本発明に係る窓構造1は、窓ガラス30が下方に移動することで、窓の上部に開口を形成するタイプのものである。窓ガラス30の上端には、窓ガラス枠32が配置されている。
【0014】
本発明に係る窓構造1では、上部窓枠16に送風用の開口16sが設けてある。送風用の開口16sは、上部窓枠16に沿って窓ガラス30の幅30wより短い幅16swで形成されるのが望ましい。なお、送風用の開口16sの幅が窓ガラスの幅30wより長い場合を排除しない。
【0015】
図2は窓構造1の構成を示す図である。
図1(b)のA-A断面である。本発明の窓構造1は、窓枠(全体は図示せず)、窓ガラス30に加え、ファン10、ファンノズル12、窓開閉検出器14、制御器18を有する。上部窓枠16の上方にファン10が配置される。ファン10は、特に限定されないが、シロッコファン10cが好適に利用できる。また、ファン10は下方向にファンノズル12が突設されている。ファンノズル12から噴き出される空気がエアカーテンを形成する。ファンノズル12の送風軸12aは、垂直方向から角θだけ車外に向けられている。なお、θは5°~15°が好ましい。
【0016】
窓開閉検出器14は、ファン10に併設されているが、窓枠の下方に配置されていてもよい。窓の開閉が検出できれば良いからである。なお、窓開閉検出器14は、窓ガラス30の開閉程度を検出できるのが望ましい。ここで窓の開閉程度とは、窓ガラス30の窓ガラス枠32と窓の上端との間の隙間としてよい。これを窓開閉度SLと呼ぶ。
【0017】
制御器18は、マイクロコンピュータとメモリで構成されるが、それ以外の構成であってもよい。制御器18は、少なくとも窓開閉検出器14、ファン10、車速計38と連結している。車速計38は、走行中の鉄道車両の速度が計測できるものであれば、運転席の車速計でなくてもよい。
【0018】
制御器18は、車速計38からの信号Svで車速vを得る。また窓開閉検出器14からの信号SSLで窓開閉度SLを得る。そして、制御信号CFによってファン10の送風量Bを制御することができる。
【0019】
図3には、制御器18の処理フローを示す。窓構造1が起動すると(ステップS100)、終了判定が行われる(ステップS102)。窓構造1の起動は、鉄道車両の起動と同期していてよい。また、終了判定は鉄道車両の停止と同期していてよい。もちろん、窓構造1の起動、停止専用のスイッチが設けられてもよい。
【0020】
終了判定(ステップS102)において、窓構造1を停止する場合(ステップS102のY分岐)は、窓構造1を停止させる(ステップS104)。そうでない場合(ステップS102のN分岐)は処理を次のフローに渡す。次に窓開閉度SLと、車速vを得る(ステップS106)。そして、窓開閉度SLと車速vに応じた送風量Bを送風させる(ステップS108)。ここでFは、車速vと窓開閉度SLに対する送風量Bの関係を示す関数である。処理はステップS102に戻り同様の処理が継続する。
【0021】
以上のような窓構造1の動作を説明する。窓構造1が起動されている場合に、鉄道車両が走行している場合は、車速vおよび窓開閉度SLに応じた送風量Bをファン10から送風させる。この際、ファンノズル12が車内から車外に傾斜してエアカーテンを形成させることで、窓の下に座った乗客に直接風を当てることなく、車内の密閉を確保できる。
【0022】
一方、車外の圧力の変化によって、エアカーテンは破られ、車外から車内へ若しくは車内から車外へ空気が漏れ、車内の換気が行われる。この際、車速vによって送風量Bが変化するので、車速vによって発生する陰圧、陽圧にある程度対向できるエアカーテンを形成させることができる。
【0023】
図3のステップS108において、関数Fは車速vおよび窓開閉度SLに基づく関係であれば特に限定されるものではないが基本的に
図4のような関係があるのが望ましい。
【0024】
図4を参照して、横軸は車速vであり、縦軸は送風量Bである。横軸は右側にいけば車速vは速くなり、縦軸は上にいけば送風量Bが多くなる。また窓開閉度SLはSL1<SL2<SL3の関係があるとする。即ち、同一の窓開閉度SLの場合は、車速vが速くなると送風量Bが多くなる。また、同一速度vであれば、窓開閉度SLが大きくなるほど送風量Bは多くなる。
【0025】
なお、
図4は送風量Bは車速vに対して線形関数としているが、比例関係であれば、他の関数であってよい。また、停車駅が近づいた時に一定以下の速度になった際には、送風量Bは一定にしてもよい。
【0026】
図5は関数Fの他の態様を示す。
図5では、車速vがゼロの場合にも送風量B1を送風することを示している。この場合は、鉄道車両が駅で停車している際にもエアカーテンが形成されている。例えば、車内に暖房若しくは冷房が入る場合は、
図5の関数Fに切り替えてもよい。
【0027】
このようにすることで、駅に一時停車している際に車内の温度制御された空気の車外への漏出を防止することができる。すなわち、関数Fは車速vがゼロの場合にもエアカーテンを形成する場合と形成させない場合を車内の暖房若しくは冷房を入れるか否かで決定してもよい。
【0028】
言い換えると、車両の走行速度がゼロの場合に、送風量Bをゼロにする場合とゼロにしない場合を、車両のエアコンの稼働の有無で切り替えることとしてもよい。もちろん、エアコンが稼働している場合は、送風量Bはゼロではなく、エアコンが稼働していない場合は、送風量Bをゼロとする。
【0029】
本発明に係る窓構造1は、1つの窓だけに限らず、車両1台中の複数の窓20について施されていてもよい。
図6は、1車両の平面図である。側構体34(
図2参照)には、乗降口22の間に窓20が形成されている。窓構造1は、車両の両端側の窓20に設けられる。なお、
図6では、左右の端の窓20だけに窓構造1が設けられたと示しているが、その隣の窓20にも窓構造1が設けられていてもよい。
【0030】
図6では、鉄道車両の車両進行方向で先頭側の窓構造1による送風量BFが車両進行方向後方側の窓構造1による送風量BRより強くする。言い換えると、先頭側のエアカーテンは後方側のエアカーテンより強い風で形成する。なお、これらのエアカーテンは、
図4若しくは
図5に示されるように、窓開閉度SLおよび車速vに応じて変化する。このような構成にすると、走行中車両後方で窓の外側にできる陰圧によって車内から車外に向かって空気が吸い出される。
【0031】
これによって車内は陰圧になり、先頭側のエアカーテンを破って外気が吸引される。先頭側で吸引された空気は後方側まで車内を流れ、排気される。このようにすることで、車内に一定の流れを作ることができ、車両単位での換気ができる。
【0032】
ファン10に供給する空気は、車内の空気を使うことができるが、車外から取得した空気を利用してもよい。
図7は、車外の空気をファン10が使う構成を示す。
図7(a)は
図1のB-B断面を示す。側構体34に、開口34a、開口34bが設けられ、ファン10の両端に開口34a、開口34bから風路34aTおよび風路34bTが連結される。
【0033】
この構成によって、例えば矢印方向に車両が進行している場合、開口34aから空気が入り、風路34aTを通り、ファン10に入る。ファン10内を通過した空気は、ファン10の反対端から風路34bTを通り開口34bから排気される。この間にシロッコファン10cが回転することで、ファンノズル12から送風し、エアカーテンが形成される。
図7(b)は、シロッコファン10cを取り除き、ファンノズル12の口を示す。
【0034】
このように、車両が走行中の外気を取り込む開口34a、開口34bと風路34aTおよび風路34bTを設けることで、車速vに応じた風速の空気を取り込むことができ、ファン10自体の送風能力(単位時間に噴き出すことのできる送風量)が低くても、車速vに応じたエアカーテンを形成させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、鉄道車両の窓構造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 窓構造
10 ファン
10c シロッコファン
12 ファンノズル
12a 送風軸
14 窓開閉検出器
18 制御器
16 上部窓枠
16s 送風用の開口
16sw (送風用の開口の)幅
22 乗降口
20 窓
30 窓ガラス
30w (窓ガラスの)幅
32 窓ガラス枠
34 側構体
34a (側構体の)開口
34b (側構体の)開口
34aT (開口34aとファン10を繋ぐ)風路
34bT (開口34bとファン10を繋ぐ)風路
36 化粧板
38 車速計
SL 窓開閉度
Sv 車速計からの信号
v 車速
SSL 窓開閉検出器からの信号
CF 制御信号
B 送風量