(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152271
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241018BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066359
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 健司
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA22
3D232DA27
3D232DA84
3D232DA88
3D232DC01
3D232DC08
3D232DC09
3D232DC33
3D232DC38
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD06
3D232DD17
3D232DE02
3D232EA01
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】運転者の好みに応じた操舵フィーリングを実現する。
【解決手段】
車両の運転支援装置1は、走行車線における車両のふらつきを検知した場合に、このふらつきを抑制する操舵トルクのアシスト量である操舵アシスト量を設定する。運転者による操舵への介入度合いを検出し(運転者介入検出部112)、これに基づき、操舵アシスト量を変更する(ゲイン調整部113)。運転者が付加する操舵トルクである運転者付加トルクと変更後の操舵アシスト量との合計トルクにより、車両の操舵を実施する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車線における車両のふらつきを検知するふらつき検知手段と、
ふらつき検知手段により前記車両のふらつきが検知された場合に、前記ふらつきを抑制する操舵トルクのアシスト量である操舵アシスト量を設定する操舵アシスト量設定手段と、
運転者による操舵への介入度合いを検出する運転者介入検出手段と、
前記運転者介入検出手段により検出された介入度合いに基づき、前記操舵アシスト量を変更する操舵アシスト量変更手段と、
運転者が付加する操舵トルクである運転者付加トルクと前記操舵アシスト量変更手段による変更後の前記操舵アシスト量との合計トルクにより、前記車両の操舵を実施する操舵実施手段と、を備える車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記運転者介入検出手段は、前記介入度合いとして、運転者が操舵トルクを付加することによる前記操舵への介入が生じた際の前記ふらつきの傾向を示すふらつき量を検出する、請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記運転者介入検出手段は、前記車両が走行車線における目標位置から左右の一方へ逸脱し、他方への操舵の切り返しを経て前記目標位置に至るまでの、前記目標位置に対する前記車両の位置の横方向偏差に基づき、前記ふらつき量を検出する、請求項2に記載の車両の運転支援装置。
【請求項4】
前記操舵アシスト量変更手段は、前記ふらつき量が大きいほど、前記操舵アシスト量を増大させる、請求項3に記載の車両の運転支援装置。
【請求項5】
前記運転者介入検出手段は、前記介入度合いとして、運転者が操舵トルクを付加することによる前記操舵への介入の頻度であるオーバーライド頻度を検出する、請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【請求項6】
前記運転者介入検出手段は、所定時間当たりに前記操舵への介入があった回数に基づき、前記オーバーライド頻度を検出する、請求項5に記載の車両の運転支援装置。
【請求項7】
前記操舵アシスト量変更手段は、前記オーバーライド頻度が低いほど、前記操舵アシスト量を増大させる、請求項6に記載の車両の運転支援装置。
【請求項8】
前記運転者介入検出手段は、前記介入度合いとして、前記操舵への介入が生じた際の前記運転者付加トルクを検出する、請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【請求項9】
前記操舵アシスト量変更手段は、前記運転者付加トルクが小さいほど、前記操舵アシスト量を増大させる、請求項8に記載の車両の運転支援装置。
【請求項10】
前記操舵アシスト量設定手段は、走行車線における目標位置に対する前記車両の位置の横方向偏差を検出し、前記横方向偏差またはこれに相当する状態量に所定のゲインを乗じて前記操舵アシスト量を設定し、
前記操舵アシスト量変更手段は、前記ゲインを前記介入度合いに応じて変更する、請求項1から9のいずれか一項に記載の車両の運転支援装置。
【請求項11】
前記運転者介入検出手段は、前記介入度合いとして、運転者が操舵トルクを付加することによる前記操舵への介入が生じた際の前記ふらつきの傾向を示すふらつき量と、前記介入の頻度であるオーバーライド頻度と、を検出し、
前記操舵アシスト量変更手段は、前記ふらつき量が大きい場合の前記ゲインを前記オーバーライド頻度との関係のもとに定める第1曲線と、前記ふらつき量が小さい場合の前記ゲインを前記オーバーライド頻度との関係のもとに定める第2曲線と、が設定され、
前記オーバーライド頻度が高い領域において前記第1曲線により定められる前記ゲインは、前記オーバーライド頻度が低い領域において前記第2曲線により定められる前記ゲインよりも小さい、請求項10に記載の車両の運転支援装置。
【請求項12】
前記操舵アシスト量設定手段は、運転者の選択により、前記操舵アシスト量変更手段によらずに前記ゲインとして比較的大きな第1ゲインを設定するか、前記ゲインを増大させる際の更新速度を前記介入度合いが小さいときほど増大させる第1モードと、前記操舵アシスト量変更手段によらずに前記ゲインとして前記第1モードよりも小さな第2ゲインを設定するか、前記ゲインを減少させる際の更新速度を前記介入度合いが大きいときほど増大させる第2モードと、前記ゲインが予め設定される第3モードと、を切替可能に構成され、
前記第3モードが選択された場合に、前記操舵アシスト量変更手段による前記操舵アシスト量の変更を禁止する操舵アシスト量変更禁止手段をさらに備える、請求項10に記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目標とする軌道に沿って車両を走行させるための車輪の目標舵角を算出し、実際の舵角をこの目標舵角に制御する技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に車線における目標位置、例えば、車線中央から左右へのふらつきが生じた場合に、車両を車線中央へ戻す際の操舵フィーリングには、運転者の好みが存在する。具体的には、運転者によってはふらつきが生じた後、車両をできるだけ早く車線中央へ戻すことを好む場合もあれば、ふらつきの幅(つまり、車線中央からのずれの最大値)を抑えつつも、滑らかな走行性を保つことを好む場合もある。さらに、同じ運転者であっても早く車線中央へ戻したいときもあれば、ある程度のふらつきを許容しながら、滑らかな走行性を保ちたいときもある。
【0005】
このような実情に鑑み、本発明は、運転者の好みに応じた操舵フィーリングを実現することのできる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係る車両の運転支援装置は、走行車線における車両のふらつきを検知するふらつき検知手段と、ふらつき検知手段により前記車両のふらつきが検知された場合に、前記ふらつきを抑制する操舵トルクのアシスト量である操舵アシスト量を設定する操舵アシスト量設定手段と、運転者による操舵への介入度合いを検出する運転者介入検出手段と、前記運転者介入検出手段により検出された介入度合いに基づき、前記操舵アシスト量を変更する操舵アシスト量変更手段と、運転者が付加する操舵トルクである運転者付加トルクと前記操舵アシスト量変更手段による変更後の前記操舵アシスト量との合計トルクにより、前記車両の操舵を実施する操舵実施手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一形態によれば、運転者による操舵への介入度合いを検出し、運転者の介入度合いに応じて操舵アシスト量を変更する。これにより、変更後の操舵アシスト量が運転者による操舵への介入度合いに応じたものとなり、運転者の介入度合いを反映させた操舵アシスト量により操舵を実施することが可能となる。よって、運転者の好みに応じた操舵フィーリングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両の運転支援装置の全体的な構成を示す概略図である。
【
図2】同上運転支援装置の内部構造を模式的に示す概略図である。
【
図3】同上運転支援装置による車線維持制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【
図4】同上車線維持制御における目標舵角設定処理の内容を示すフローチャートである。
【
図5】同上車線維持制御におけるフィードバックゲイン設定処理の内容を示すフローチャートである。
【
図6】ふらつき量Cdおよびオーバーライド頻度Foに対するフィードバックゲインGfの変化の傾向を示すマップである。
【
図7】走行車線における車両と目標位置(車線中央)との関係を示す説明図である。
【
図8】運転者による操舵への介入度合いに応じた車両の軌道を模式的に示す説明図である。
【
図9】湾曲路を通過する際の車両の軌道を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
(運転支援装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の運転支援装置1の全体的な構成を示す概略図である。
【0011】
車両の運転支援装置1は、本実施形態に関わる主な要素として、コントローラ11、外界センサ12、インストルメントパネル13その他、各種センサおよび計器類を備える。運転支援装置1は、他の関連要素として、方向指示器14を備えるとともに、ステアリングアクチュエータ31を備える。ステアリングアクチュエータ31は、電動パワーステアリングシステムの動力源となるものである。ステアリングアクチュエータ31は、例えば、電動モータにより具現され、運転席に備わる走行舵、つまり、ステアリングホイールから操舵軸へ操舵トルクを伝達させる経路上に設けられ、運転者による走行舵の操作を補助するアシストトルクを生成する。
【0012】
コントローラ11は、運転支援装置1の演算部を構成し、演算の結果に応じた指令信号を生成し、出力する。
【0013】
外界センサ12は、後に述べる操舵トルクセンサ21とともに運転支援装置1の検出部を構成し、車両の周囲を監視し、周辺の環境または状況に関する情報を取得する。外界センサ12は、前方監視用のセンサとして、車外前方監視カメラ(以下「前方カメラ」という)121および前方ミリ波レーダ122を備える。
【0014】
前方カメラ121は、車両の前方に視野が設定され、撮影された画像を解析して、前方に存在する歩行者および障害物を検知するほか、車両が走行している道路および車線(以下「走行車線」という)の状況を検出する。前方カメラ121による検出対象には、路面標示に加え、車道中央線および車道外側線等の区画線が含まれる。車道中央線は、例えば、道路中央部に白色の点線により表示され、車道外側線は、道路と路肩との境界を示すものとして、例えば、道路の外縁に白線により表示される。本実施形態において、前方カメラ121による検出対象である障害物には、路面に設置された固定障害物のほか、自車両に対して同一車線の前方を走行する先行車が含まれる。
【0015】
前方カメラ121は、車道中央線および車道外側線の位置をもとに、走行車線の中央位置(以下「車線中央」という)を検出するとともに、車線中央に対する車両の位置の横方向のずれ幅(以下「横方向偏差」という)を検出する。
【0016】
図7は、車両Vと走行車線LNdにおける車両Vの目標位置(本実施形態では、車線中央Cl)との関係を示す説明図である。車両Vは、道路Rの左側車線LNdを走行する
【0017】
車両Vの進行方向に対し、道路Rの左側および右側のそれぞれに一車線ずつが設けられ、左側を走行車線LNdとし、右側を対向車線LNoとする。車線中央Clは、車道中央線Lcと車道外側線Leとの中間位置として定められる。
図7に示す例では、車線中央Clに対し、車両Vに右側へのふらつきが発生している。横方向偏差Xdは、車両Vの横方向中心(以下「車両中心」という)Cvの車線中央Clに対するずれ幅として、車両中心Cvから右側の区画線(つまり、車道中央線Lc)までの距離Daと、車両中心Cvから左側の区画線(つまり、車道外側線Le)までの距離Dbと、に基づき、計算により検出することが可能である。
【0018】
前方ミリ波レーダ122は、車両の前方にミリメートル波長の電波を発射するとともに、障害物等により反射された電波を受信することにより、自車両から障害物等までの距離、障害物等に対する自車両の相対速度等を検出する。
【0019】
外界センサ12の検出信号は、コントローラ11に出力される。
【0020】
インストルメントパネル13は、運転者に状況の認識や注意を促したり、対応を求めたりするためのインジケータを表示する。インストルメントパネル13は、車速等、車両の走行状態を表示する各種メータのほか、表示灯131、警告灯132および警報器133を備える。表示灯131は、トラクションコントロールや車両安定制御等の各種制御およびイモビライザ等の各種装置の作動状態を表示する。警告灯132は、シートベルト非装着や燃料残量不足等、運転者に対する各種の警告を表示する。警告灯132は、メータおよび表示灯131とともに運転席のダッシュボード等、運転者が運転中に視認可能な位置に設置される。警報器133は、警告灯132と連動し、聴覚的な情報の提供により警告に対する運転者の認識を促す。
【0021】
以上に加え、運転支援装置1の動作に関わる他のセンサとして、操舵トルクセンサ21および舵角センサ22が設けられる。操舵トルクセンサ21は、運転者により走行舵に付加されるトルク(以下「運転者付加トルク」という)Tstrを検出する。舵角センサ22は、操舵に関わる車輪、一般的には、前輪が向く角度(つまり、車輪方向角であり、以下「舵角」という)θを検出する。舵角θは、前輪の回転軸に垂直な鉛直面と車両Vの前後方向に延びる鉛直面との間に形成される角度である。
【0022】
操舵トルクセンサ21および舵角センサ22の検出信号も、外界センサ12と同様に、コントローラ11に出力される。
【0023】
(コントローラの構成)
図2は、運転支援装置1の内部構成を模式的に示す概略図である。
【0024】
図2中、コントローラ11のうち、車線維持制御に関わる部分を二点鎖線の枠により示す。
【0025】
本実施形態において、コントローラ11は、車線中央Clを走行車線LNdにおける車両Vの目標位置とし、車線中央Clを追跡するように車両Vを走行させることにより、走行車線LNdの維持を促す制御(以下「車線維持制御」という)を実施する。車両Vに車線中央Clに対するふらつきが生じた場合に、このふらつきを検知し、ふらつきを抑制する操舵アシスト量ASTを設定する。さらに、運転者による操舵への介入度合いQiを検出し、運転者の介入度合いQiに応じて操舵アシスト量ASTを変更する。
【0026】
ふらつき検知部111は、前方カメラ121の出力情報に基づき、走行車線LNdにおける車両Vのふらつきを検知する。本実施形態において、ふらつきの検知は、前方カメラ121により検出される横方向偏差Xdに基づく。具体的には、横方向偏差Xdが0よりも大きいかまたは0を基準とした所定範囲を逸脱しているか否かを判定することによる。
【0027】
運転者介入検出部112は、前方カメラ121および操舵トルクセンサ21の出力情報に基づき、運転者による操舵への介入度合いQiを検出する。具体的には、操舵トルクセンサ21により検出される運転者付加トルクTstrが、運転者による右方向または左方向への実質的なステアリング操作があったことを示す範囲の外側から内側に遷移したか否かを判定し、運転者付加トルクTstrにそのような遷移が生じた場合に、運転者による操舵への介入があったと判定し、その介入の強さ(以下「介入度合い」という)Qiを検出する。
【0028】
本実施形態において、運転者による操舵への介入があったか否かの判定は、運転者付加トルクTstrの大きさが、上記範囲の境界を定める閾値を増方向へ過ったか否かを判定することによる。
【0029】
介入度合いQiの検出は、ふらつき量Cdおよびオーバーライド頻度Foの評価による。「ふらつき量」Cdとは、運転者による操舵への介入が生じた際の車両Vのふらつきの傾向を示す指標であり、「オーバーライド頻度」Foとは、運転者による操舵への介入が生じた頻度である。
【0030】
本実施形態では、車両Vに車線中央Clに対して左右の一方へのふらつきが生じ、他方への操舵の切り返しを経て車両Vが車線中央Clに戻るまでの横方向偏差Xdの最大値Xd_maxを所定時間または所定走行距離に亘って検出する。そして、それらの平均値を算出し、この平均値をふらつき量Cdとして検出する。運転者の介入度合いQiは、ふらつき量Cdが大きいほど弱く、小さいほど強いと評価することが可能である。
【0031】
他方で、単位時間当たりに運転者による操舵への介入があった回数Niを所定時間または所定走行距離に亘って検出し、それらの平均値を算出し、この平均値をオーバーライド頻度Foとして検出する。運転者の介入度合いQiは、オーバーライド頻度Foが低いほど弱く、高いほど強いと評価することが可能である。
【0032】
ゲイン調整部113は、操舵アシスト量ASTの設定に用いられるフィードバックゲインGfを調整する。本実施形態において、操舵アシスト量ASTの設定は、車両Vの横方向偏差Xdに基づき、横方向偏差Xdのふらつきを解消し、車両Vを車線中央Clに戻すのに必要な舵角θの操作量(以下「補正舵角」という)θcを算出する。そして、この補正舵角θcにフィードバックゲインGfを乗算し、トルク相当値に換算することによる。ゲイン調整部113は、運転者介入検出部112により検出された運転者の介入度合いQiに応じてこのフィードバックゲインGfを調整する。フィードバックゲインGfの調整は、次に述べる方法による。
【0033】
図6は、ふらつき量Cdおよびオーバーライド頻度Foに対するフィードバックゲインGfの変化の傾向を示すマップである。同図に示すように、フィードバックゲインGfは、運転者による操舵への介入度合いQiが弱いときほど、具体的には、ふらつき量Cdが大きいか、オーバーライド頻度Fоが低いときほど、増大させる。他方で、フィードバックゲインGfは、運転者による操舵への介入度合いQiが強いときほど、具体的には、ふらつき量Cdが小さいか、オーバーライド頻度Fоが高いときほど、減少させる。
【0034】
操舵アシスト量設定部114は、横方向偏差Xdに相当する状態量である補正舵角θcに調整後のフィードバックゲインGfを乗算し、これにより得られるトルク相当値を、操舵アシスト量ASTに設定する。
【0035】
操舵トルク検出部115は、操舵トルクセンサ21の出力情報をもとに、運転者付加トルクTstrを検出する。
【0036】
アシストトルク設定部116は、運転者付加トルクTstrに応じたアシストトルクTastを設定する。このアシストトルクTastは、運転者によるステアリング操作を補助する目的で設定され、運転者付加トルクTstrが大きいときほど、増大させる。
【0037】
操舵実施部117は、操舵アシスト量ASTにアシストトルクTastを加算し、これにより得られる合計トルクTttlを操舵軸に付加することにより、車線中央Clに向けた車両Vの操舵を実施する。具体的には、合計トルクTttlをステアリングアクチュエータ31である電動モータに対する電流指令値(以下「モータ電流指令値」という)Imに換算し、モータ電流指令値Imを電動モータのコントローラに出力する。
【0038】
(車線維持制御の内容)
図3は、本実施形態に係る車線維持制御の基本的な流れを示すフローチャートである。コントローラ11は、
図3に示すルーチンによる制御を所定の時間ごとに繰り返し実行する。
【0039】
図4は、車線維持制御における目標舵角設定処理の内容を示すフローチャートである。
【0040】
図5は、車線維持制御におけるフィードバックゲイン設定処理の内容を示すフローチャートである。
【0041】
図3に示すフローチャートにおいて、S101では、外界センサ12等、各種センサの出力情報を読み込む。
【0042】
S102では、方向指示器14が停止しているか否かを判定する。方向指示器14が停止している場合は、S103へ進む。他方で、方向指示器14が作動し、点滅している場合は、S107へ進む。方向指示器14が作動している場合は、運転者に車線変更の意思があると判断して、S103~S106に示す処理の実行を一時的に停止する。
【0043】
S103では、車両Vの横方向偏差Xdを検出する。
【0044】
S104では、車両Vの目標舵角θt_setを算出する。目標舵角θt_setの算出は、
図4のフローチャートに示す手順による。
【0045】
図4に示すフローチャートにおいて、S201では、基本目標舵角θt_bを算出する。基本目標舵角θt_bは、車線中央Clを追跡するように車両Vを走行させるのに必要な舵角であり、基本的には、走行車線LNdの曲率をもとに算出する。例えば、車両Vの前方に目標位置を設定するとともに、車両Vが現在存在する位置の車線中央Clからこの目標位置に至る曲線を仮想的に設定する。そして、この曲線の曲率を算出し、曲率に応じた舵角を基本目標舵角θt-bとする。
【0046】
S202では、横方向偏差Xdに応じた基本目標舵角θt_bの補正量、つまり、補正舵角θcを算出する。
【0047】
S203では、基本目標舵角θt_bに補正舵角θcを加算することにより、目標舵角θt_setを算出する。
【0048】
図3に示すフローチャートに戻り、S105では、調整後のフィードバックゲインGfを読み込む。フィードバックゲインGfの調整は、
図5のフローチャートに示す手順による。
【0049】
図5に示すフローチャートにおいて、S301では、車両Vのふらつき量Cdを算出する。
【0050】
S302では、運転者のオーバーライド頻度Foを算出する。
【0051】
S303では、ふらつき量Cdおよびオーバーライド頻度Foをもとに、
図6に示すマップを参照して、フィードバックゲインGfを算出する。
【0052】
S304では、フィードバックゲインGfを更新する。この更新は、例えば、S303の処理により新たに算出されたフィードバックゲインGfnの、現在のフィードバックゲインGfn-1に対する重み付け係数w(0<w<1)を考慮し、次式(1)により行う。
Gf=Gfn×w+Gfn-1×(1-w) …(1)
【0053】
図3に示すフローチャートに戻り、S106では、操舵アシスト量ASTを算出する。操舵アシスト量ASTの算出は、目標舵角θt_setと現在舵角との差分Δθを算出し、この差分Δθに更新後のフィードバックゲインGfを乗算することによる。
【0054】
S107では、運転者付加トルクTstrを検出する。
【0055】
S108では、アシストトルクTastを算出する。
【0056】
S109では、モータ電流指令値Imを算出する。モータ電流指令値Imの算出は、操舵アシスト量ASTにアシストトルクTastを加算し、これにより得られる合計トルクTttlを電流指令値に換算することによる。
【0057】
S110では、モータ電流指令値Imを電動モータのコントローラに出力し、操舵を実施する。
【0058】
(作用および効果の説明)
以下に、本実施形態により得られる作用および効果について説明する。
【0059】
本実施形態では、車線LNdを走行中の車両Vにふらつきが生じた場合に、このふらつきを検知し、ふらつきを抑制する操舵アシスト量ASTを設定する。運転者付加トルクTstrに応じたアシストトルクTastとこの操舵アシスト量ASTとの合計トルクTttlにより操舵を実施し、これにより、車両Vのふらつきを抑制し、走行車線LNdの維持を促す。
【0060】
ここで、運転者による操舵への介入度合いQiを検出し、運転者の介入度合いQiに応じて操舵アシスト量ASTを変更する。操舵アシスト量ASTの変更は、操舵アシスト量ASTの算出に用いられるフィードバックゲインGfを調整することによる。つまり、本実施形態では、フィードバックゲインGfが運転者に応じた操舵フィーリングを実現するための可変因子となる。
【0061】
具体的には、操舵への介入度合いQiが強く、自らの操作を優先させて運転することを好む運転者と、操舵への介入度合いQiが弱く、制御システムに頼って運転することを好む運転者とで、フィードバックゲインGfを異ならせる。
【0062】
これにより、本実施形態によれば、操舵アシスト量ASTが運転者による操舵への介入度合いQiに応じたものとなり、運転者の介入度合いQiを反映させた操舵アシスト量ASTにより操舵を実施することで、運転者の好みに応じた操舵フィーリングを実現することが可能となる。
【0063】
図8は、運転者による操舵への介入度合いQiに応じた車両Vの軌道を模式的に示す説明図である。
【0064】
図8中、運転者による介入がない場合に車両Vが描く軌道を二点鎖線の曲線TRC1により示し、運転者の介入度合いQiが強い場合に車両Vが描く軌道を細い実線TRC2により示し、運転者の介入度合いQiが弱い場合に車両Vが描く軌道を太い実線TRC3により示す。そして、運転者の介入度合いQiが強い場合と弱い場合との中間の場合に車両Vが描く軌道を破線TRC4により示す。
【0065】
操舵への介入が強い運転者は、車両Vのふらつきが小さいうちに操舵に介入するとともに、ふらつきに対して頻繁に操舵に介入する傾向にある。よって、運転者の介入度合いQiが強い場合の軌道TRC2は、ふらつきの幅(つまり、横方向偏差Xdの最大値Xd_max)が小さくなるとともに、ふらつきの周期が短くなることが想定される。
【0066】
これに対し、操舵への介入が強い運転者は、車両Vのふらつきが大きくなってから操舵に介入するとともに、ふらつきに対する操舵への介入も時偶となる傾向にある。よって、運転者の介入度合いQiが弱い場合の軌道TRC3は、ふらつきの幅および周期の双方において、運転者による介入がない場合の軌道TRC1に対して大きな変化がないことが想定される。
図8は、運転者の介入度合いQiが弱いことにより、ふらつきの周期には大差がないものの、ふらつきの幅に多少の減少が生じた場合の軌道TRC3を示す。
【0067】
本実施形態では、運転者の介入度合いQiとして、運転者が操舵トルクを付加することによる介入が生じた際のふらつきの傾向、つまり、ふらつき量Cdを検出する。これにより、ふらつきが小さいうちに操舵に介入する運転者(介入度合いQiが強く、ふらつき自体を抑制する傾向にある)と、ふらつきが大きくなってから操舵に介入する運転者(介入度合いQiが弱く、ある程度のふらつきを許容する傾向にある)と、のそれぞれに対して適切な操舵アシスト量ASTを設定し、運転者の好みに応じた操舵フィーリングを実現することが可能となる。
【0068】
具体的には、ふらつき量Cdが大きいほど、操舵アシスト量ASTを増大させることで、制御システムに頼って運転することを好む運転者に対して適切な操舵アシスト量ASTを設定することが可能となる。反対に、ふらつき量Cdが小さいほど、操舵アシスト量ASTを減少させることで、自らの操作を優先させて運転することを好む運転者に対して適切な操舵アシスト量ASTを設定することが可能となる。
【0069】
ここで、車両Vが車線中央Clから左右の一方へ逸脱し、他方への切り返しを経て車線中央Clに戻るまでの横方向偏差Xdに基づき、ふらつき量Cdを適切かつ容易に検出することが可能となる。横方向偏差Xdの最大値Xd_maxを採用することで、ふらつき量Cdを容易に検出可能とし、さらに、所定時間または所定走行距離当たりの偏差最大値Xd_maxの平均値(例えば、移動平均値)をとることで、運転者の好みを安定的に評価し、一時的な気分のばらつき等が好みの評価に不要な影響を及ぼす事態を回避することができる。
【0070】
さらに、運転者の介入度合いQiとして、運転者が操舵トルクを付加することによる介入の頻度、つまり、オーバーライド頻度Foを検出する。これにより、操舵トルクを頻繁に付加する運転者(介入度合いQiが強い)と、そうではない運転者(介入度合いQiが弱い)と、のそれぞれに対して適切な操舵アシスト量Qiを設定し、運転者の好みに応じた操舵フィーリングを実現することが可能となる。
【0071】
具体的には、オーバーライド頻度Foが低いほど、操舵アシスト量ASTを増大させることで、制御システムに頼って運転することを好む運転者に対して適切な操舵アシスト量ASTを設定することが可能となる。反対に、オーバーライド頻度Foが高いほど、操舵アシスト量ASTを減少させることで、自らの操作を優先させて運転することを好む運転者に対して適切な操舵アシスト量ASTを設定することが可能となる。
【0072】
ここで、所定時間または所定走行距離当たりに操舵への介入があった回数Niに基づき、オーバーライド頻度Foを適切かつ容易に検出することが可能となる。さらに、介入があった回数Niの平均値(例えば、移動平均値)をとることで、運転者の好みを安定的に評価し、運転者の一時的な気分のばらつき等が好みの評価に不要な影響を及ぼす事態を回避することができる。
【0073】
以上に加え、本実施形態では、車両の横方向偏差Xdを検出し、横方向偏差Xdまたはこれに相当する状態量にフィードバックゲインGfを乗じて操舵アシスト量ASTを設定するとともに、運転者の介入度合いQiに応じてフィードバックゲインGfを調整する制御構成とした。これにより、操舵アシスト量ASTの設定自体に関わる基本的な制御構成に変更を及ぼすことなく、容易に操舵アシスト量ASTの変更を実現することが可能となる。本実施形態では、補正舵角θcを横方向偏差Xdに相当する状態量として位置付け、補正舵角θcを目標舵角θt_setの設定に反映させることで、横方向偏差Xdに相当する状態量にフィードバックゲインGfが実質的に乗算される構成とする。
【0074】
さらに、
図6に示すマップにおいて、フィードバックゲインGfをふらつき量Cdごとに定めた複数の曲線Cd1、Cd2、Cd3を設定し、大きなふらつき量Cdに対する第1曲線Cd1と小さなふらつき量Cdに対する第2曲線Cd2とを比較した場合に、オーバーライド頻度Foが低い領域Aにおいて第1曲線Cd1により定められるフィードバックゲインGf1を、オーバーライド頻度Foが高い領域Bにおいて第2曲線Cd2により定められるフィードバックゲインGf2よりも大きな値に設定した。さらに、オーバーライド頻度Foが低い領域Aにおいて第2曲線Cd2により定められるフィードバックゲインGf3を、オーバーライド頻度Foが高い領域Bにおいて第1曲線Cd1により定められるフィードバックゲインGf4よりも大きな値に設定した。つまり、ふらつき量Cdに応じた複数の曲線Cd1、Cd2、Cd3の間で、フィードバックゲインGfが一部で重複するように設定した。
【0075】
ここで、オーバーライド頻度Foが高い領域Bにおいて第1曲線Cd1によりフィードバックゲインGf4が設定される状況として、運転者による操舵への介入が頻繁であるにも拘らず、ふらつき量Cdが大きく、車両Vのふらつきが抑えられていない状況が想定される。
【0076】
そのような状況では、ふらつきを抑制する方向に補助的な操舵を実施する制御システムの動作に対し、運転者によりふらつきを助長する方向への操舵が実施されていることが考えられる。
【0077】
図9は、湾曲路を通過する際に車両Vが描く軌道を示す説明図である。
【0078】
図9(a)は、車両Vが車線中央Clを追跡するように走行する場合を示し、
図9(b)は、車両Vが車線中央Clよりも内側を通過する場合を示す。車線中央Clを追跡する場合は、車両中心Cv1が前方の位置I1で車線中央Clと交わり、その後の車両Vのふらつき量Cdが減少する一方、車線中央Clの内側を通過する場合は、車両中心Cv2が位置I1よりも手前の位置I2で車線中央Clと交わり、その後の車両Vのふらつき量Cdが増大する。
【0079】
本実施形態によれば、
図6に示すように、オーバーライド頻度Foが高い領域Bにおいて第1曲線Cd1により定められるフィードバックゲインGf(Gf4)を比較的小さく設定し、具体的には、オーバーライド頻度Foが低い領域Aにおいて第2曲線Cd2により定められるフィードバックゲインGf(Gf3)よりも小さく設定することで、
図9(b)に示す場合等、運転者が車線中央Clを追跡するというよりも、自身の好みの走行経路を選択することによりふらつき量Cdがむしろ増大する場合に、運転者が行う操舵を制御システムが過度に邪魔する事態を回避することが可能となる。
【0080】
以上の説明では、運転者による操舵への介入度合いQiとして、車両Vのふらつき量Cdおよびオーバーライド頻度Foを採用した。運転者の介入度合いQiは、これに限定されるものではなく、他の指標によっても評価することが可能である。介入度合いQiを示す他の指標として、操舵への介入に際して運転者が実際に付加した操舵トルク(実際の運転者付加トルク)を例示することができる。これにより、例えば、ふらつきが生じた際に大きな運転者付加トルクをもって操舵を行う運転者(介入度合いQiが強い)と、そうではない運転者(介入度合いQiが弱い)と、を適切に判定し、それぞれに応じた操舵フィーリングを実現するうえで適切な操舵アシスト量ASTを設定することが可能となる。
【0081】
具体的には、運転者付加トルクTstrが小さいほど、操舵アシスト量ASTを増大させることで、制御システムに頼って運転することを好む運転者に対し、適切な操舵アシスト量ASTを設定することが可能となる。反対に、運転者付加トルクTstrが大きいほど、操舵アシスト量ASTを減少させることで、自らの操作を優先させて運転することを好む運転者に対して適切な操舵アシスト量ASTを設定することが可能となる。操舵アシスト量ASTの変更は、先の述べた例と同様に、フィードバックゲインGfの調整により行うことが可能である。
【0082】
さらに、以上の説明では、運転者による操舵への介入度合いQiを継続的に監視し、操舵アシスト量ASTの設定にこれを反映させることとしたが、運転者の介入度合いQiに応じた操舵アシスト量ASTの変更を実施するか否を、運転者の選択により切替可能に構成することもできる。
【0083】
具体的には、運転者による操舵への介入度合いQiを検出し、これに応じてフィードバックゲインGfおよび操舵アシスト量ASTの適合を図る調整動作モードと、予め定められたフィードバックゲインGfを設定することにより、運転者の好みをより直接的に反映可能とする設定動作モードと、を運転者の選択により切替可能とする。
【0084】
そして、設定動作モードでは、例えば、第1モード、第2モードおよび第3モードをさらに選択可能とする。第1モードは、(a1)フィードバックゲインGfとして比較的大きな第1ゲイン(固定値)を設定するか、(a2)フィードバックゲインGfを比較的大きなゲインに切り替えたうえで、これを増大させる際の更新速度を介入度合いQiが小さいときほど増大させるモードとして構成する。第2モードは、(b1)フィードバックゲインGfとして第1モードよりも小さな第2ゲイン(固定値)を設定するか、(b2)フィードバックゲインGfを比較的小さなゲインに切り替えたうえで、これを減少させる際の更新速度を介入度合いQiが大きいときほど増大させるモードとして構成する。第1および第2モードにおいて、フィードバックゲインGfの更新速度は、重み付け係数wを変化させることにより調整可能である。さらに、第3モードは、(c)予め定められたフィードバックゲインGfを設定するモードとして構成する。第3モードにより設定されるフィードバックゲインGfは、デフォルト値であり、その変更を禁止する。
【0085】
このように、第1モード、第2モードおよび第3モードの間で動作モードを運転者の選択により切替可能としたことで、運転者自身が、フィードバックゲインGfの調整による適合を待たずに、好みの操舵フィーリングが得られるフィードバックゲインGfを直接的に選択することが可能となる。そして、操舵アシスト量ASTの変更自体を好まない運転者は、第3モードの選択により、標準的な操舵フィーリングとして自身の好みを実現することができる。
【0086】
さらに、第1モードおよび第2モードに加え、運転者により選択可能な中間モードを設定してもよい。例えば、第1モードの第1ゲイン(固定値)を
図6に示すフィードバックゲインGf1程度の大きさに設定するとともに、第2モードの第2ゲイン(固定値)を
図6に示すフィードバックゲインGf2程度の大きさに設定する。他方で、中間モードのゲインを第1ゲインGf1と第2ゲインGf2との間の大きさに設定する。中間モードのゲインは、1つのみである必要はなく、ふらつき量Cdが小さく、オーバーライド頻度Foが低い場合のフィードバックゲインGf3に対応するかまたはこれと同程度のゲインと、ふらつき量Cdが大きく、オーバーライド頻度Foが高い場合のフィードバックゲインGf4に対応するかまたはこれと同程度のゲインと、を含む複数のゲインに切替可能であってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…車両の運転支援装置、11…コントローラ、12…外界センサ、121…前方カメラ、122…前方ミリ波レーダ、13…インストルメントパネル、131…表示灯、132…警告灯、133…警報器、14…方向指示器、14…警告灯、142…警報器、21…操舵トルクセンサ、22…舵角センサ、31…ステアリングアクチュエータ、Cl…車線中央、Cv…車両中心、R…道路、Lc…車道中央線、Le…車道中央線、LNd…走行車線、LNo…対向車線、V…車両。