(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152283
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】素子、ボロメータ及び素子製造方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20241018BHJP
H01C 7/06 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01J1/02 C
H01C7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066389
(22)【出願日】2023-04-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】田中 朋
【テーマコード(参考)】
2G065
5E034
【Fターム(参考)】
2G065AB02
2G065BA12
2G065BA40
5E034AA09
5E034AC20
5E034BA09
5E034BC20
5E034DA07
5E034GA05
(57)【要約】
【課題】ナノカーボンを含む膜に接続された電極を形成しやすい素子、ボロメータ及び素子製造方法を提供する。
【解決手段】素子は、第一絶縁層と、ナノカーボンを含む膜である中間層と、第二絶縁層と、が順に積層され、中間層が切り出された積層端面を有する積層構造と、積層端面において、中間層に接続されているコンタクト電極と、を備える。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一絶縁層と、ナノカーボンを含む膜である中間層と、第二絶縁層と、が順に積層され、前記中間層が切り出された積層端面を有する積層構造と、
前記積層端面において、前記中間層に接続されているコンタクト電極と、
を備える
素子。
【請求項2】
前記積層端面の前記第一絶縁層と前記第二絶縁層との間において、前記中間層が前記コンタクト電極に向かって露出している請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記積層端面において、前記第一絶縁層の端面である第一端面と、前記中間層の端面である中間端面と、前記第二絶縁層の端面である第二端面とが連続している請求項1または2に記載の素子。
【請求項4】
前記コンタクト電極が、前記第二絶縁層の表面に重なって延びている請求項1または2に記載の素子。
【請求項5】
前記中間層が、半導体型カーボンナノチューブを含む請求項1または2に記載の素子。
【請求項6】
前記中間層がシランカップリング剤を介して、前記第一絶縁層に積層されている請求項1または2に記載の素子。
【請求項7】
請求項1または2に記載の素子と、
前記素子が配置されている基板と、
を備える
ボロメータ。
【請求項8】
第一絶縁層を形成するステップと、
前記第一絶縁層に、ナノカーボンを有する中間層を積層するステップと、
前記中間層に、第二絶縁層を積層するステップと、
前記中間層が切り出された積層端面を形成するステップと、
前記積層端面において、前記中間層に接続されているコンタクト電極を形成するステップと、
を含む素子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、素子、ボロメータ及び素子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボロメータをはじめとする赤外線センサに、ナノカーボンを使用することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブから構成される、ネットワーク状の構造を有する膜の上に形成された電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された電極は、絶縁膜を形成する前に、カーボンナノチューブの膜上に電極を形成している。このためカーボンナノチューブの膜の表面が露出している状態で電極を形成するため、カーボンナノチューブネットワーク等のナノカーボンを含む膜に接続された電極を形成しにくいことがある。
【0006】
本開示の目的は、上述した課題を解決する素子、ボロメータ及び素子製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る素子は、第一絶縁層と、ナノカーボンを含む膜である中間層と、第二絶縁層と、が順に積層され、前記中間層が切り出された積層端面を有する積層構造と、前記積層端面において、前記中間層に接続されているコンタクト電極と、を備える。
【0008】
本開示の一態様に係る素子製造方法は、第一絶縁層を形成するステップと、前記第一絶縁層に、ナノカーボンを有する中間層を積層するステップと、前記中間層に、第二絶縁層を積層ステップと、前記中間層が切り出された積層端面を形成するステップと、前記積層端面において、前記中間層に接続されているコンタクト電極を形成するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記一態様によれば、ナノカーボンを含む膜に接続された電極を形成しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第一実施形態におけるボロメータの断面図である。
【
図2】第一実施形態における製造方法のフロー図である。
【
図3】第一実施形態における第一絶縁層形成直後の積層断面図である。
【
図4】第一実施形態におけるAPTES単分子膜形成直後の積層断面図である。
【
図5】第一実施形態におけるナノカーボンを含む膜形成直後の積層断面図である。
【
図6】第一実施形態における第二絶縁層形成直後の積層断面図である。
【
図7】第一実施形態におけるエッチング処理直後の積層断面図である。
【
図8】第一実施形態におけるコンタクト電極形成直後の積層断面図である。
【
図9】エッチング後の素子の積層構造の平面図である。
【
図11】比較例における素子の積層断面図(A)である。
【
図12】比較例における素子の積層断面図(B)である。
【
図13】第二実施形態における素子の最小構成の積層断面図である。
【
図14】第三実施形態における製造方法の最小構成のフロー図である。
【
図15】ナノカーボンを含む膜の成膜有無による素子の電気伝導特性の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る各実施形態について、図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において用いられた図面および具体的な構成を、開示の解釈に用いてはならない。すべての図面において同一または相当する構成には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0012】
<第一実施形態>
以下、本開示に係る第一実施形態について、
図1~
図8を用いて説明する。
【0013】
(ボロメータの構成)
図1に示すように、ボロメータ90は、素子1と、基板11と、下地絶縁層19とを備える。
ボロメータ90は、赤外線を検出するためのセンサに用いられる。
【0014】
(基板の構成)
基板11は、例えば、シリコンウエハーを用いて加工されたSi基板である。
基板11には、読み出し回路が形成されていてもよい。
【0015】
(下地絶縁層の構成)
下地絶縁層19は、素子1の下に拡がる層状部分である。
下地絶縁層19は、基板11と素子1とを電気的に絶縁している。
【0016】
(素子の構成)
図1に示すように、素子1は、積層構造10と、コンタクト電極16と、を備える。
積層構造10は、第一絶縁層12と、APTES(3-Aminopropyl triethoxysilane)単分子膜13と、ナノカーボンを含む膜14と、第二絶縁層15と、を備える。
積層構造10は、中間層であるナノカーボンを含む膜14が切り出された積層端面10eを有する。この積層端面10eは、層が延びている面に対し垂直方向で切り出されている。
例えば、ナノカーボンを含む膜14が切り出された積層端面10eは、層が延びている面に対し垂直方向で切り出されているが、層が延びている面に対し特定の角度で切り出されていてもよい。
一例として、特定の角度は、層が延びている面に対し40°~90°の範囲である。
他の例として、特定の角度は、層が延びている面に対し40°~60°の範囲である。
例えば、積層端面10eの層厚は、10nm以上1000nm以下の厚さを有する。
第一絶縁層12と下地絶縁層19とは、絶縁部18として一体に形成されている。
第一絶縁層12は、絶縁部18のうち、ナノカーボンを含む膜14に向かって突出している層状部分である。
下地絶縁層19は、絶縁部18のうち、第一絶縁層12の下に拡がる層状部分である。
【0017】
(絶縁層)
図1に示すように、第一絶縁層12は、基板11上に下地絶縁層19を介して形成されている。第一絶縁層12を作成するための絶縁膜の成膜方法として、基板11に熱処理を施し、絶縁膜を成膜する方法や、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって絶縁膜を直接成膜する方法が存在する。
絶縁膜は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン等である。
第二絶縁層15は、詳しく後述するナノカーボンを含む膜14上に積層されている。第二絶縁層15は、第一絶縁層12と同様の絶縁層である。
例えば、第二絶縁層15は、10nm以上100nm以下の厚さを有する。
【0018】
(シランカップリング剤を利用した薄膜)
図1に示すように、APTES単分子膜13は、第一絶縁層12上に積層されている。APTES単分子膜13は、絶縁膜に対するカーボンナノチューブ等の付着性能向上のための薄膜である。APTES単分子膜13は、ナノカーボンを含む膜14を素子1に付着させる際のシランカップリング剤である。
【0019】
(ナノカーボンを含む膜(中間層))
ナノカーボンを含む膜14は、APTES単分子膜13を介して、第一絶縁層12に積層されている。本実施形態に係るナノカーボンを含む膜14は、CNTネットワークの膜である。
例えば、ナノカーボンを含む膜14は、複数のカーボンナノチューブがランダムに配向して互いにネットワークを形成したCNT(Curbon nano tube)ネットワークの膜である。
また、ナノカーボンを含む膜14は、CNTネットワークの膜に限らず、一部もしくは全体が配向したネットワークでもよい。ここで、ナノカーボンとは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノブラシ、カーボンナノツイス卜、グラフェン、フラーレン等のように、炭素を主成分とするナノサイズの炭素材料を意味する。
例えば、ナノカーボンを含む膜14は、半導体型ナノカーボンの膜であってもよい。
例えば、ナノカーボンを含む膜14は、半導体型カーボンナノチューブの膜であってもよい。
例えば、ナノカーボンを含む膜14は、半導体型と金属型の分離を行った後の半導体型カーボンナノチューブを用いた膜であってもよい。
例えば、ナノカーボンを含む膜14は、0.7nm以上10nm以下の厚さを有する。
図1に示すように、ナノカーボンを含む膜14は、APTES単分子膜13上に積層されている。
【0020】
(コンタクト電極)
コンタクト電極16は、積層端面10eにおいて、ナノカーボンを含む膜14に接続されている。
コンタクト電極16は、積層構造10を挟む一対の電極である。
例えば、コンタクト電極16は、Au、Al、Tiや、これらを主とする合金を用いた電極である。
一例として、コンタクト電極16は、下地層としてTi層を介してAu層を積層した電極であってもよい。
例えば、コンタクト電極16は、その一対の電極が、第一絶縁層12と、中間層であるナノカーボンを含む膜14と、第二絶縁層15と、が順に積層された積層構造10を、抱きこむように形成されてもよい。
【0021】
(製造方法)
本実施形態における素子1の製造方法について説明する。
本実施形態における素子1の製造方法は、
図2に示すフローに従って実施される。
【0022】
まず、作業者は、
図3に示すように、基板11上に第一絶縁層12を含む層状の切出加工前絶縁部18Bを積層する(ST1)。作業者は、基板11上にCVD法で成膜あるいは熱処理により熱酸化膜を成膜することにより、切出加工前絶縁部18Bを積層する。
また、基板11上に絶縁保護膜が既に存在する場合、ST1は行わなくてもよい。
また、切出加工前絶縁部18Bの積層は、必ずしも基板上でなく、他の材料上でもよい。
【0023】
次に、作業者は、
図4に示すように、第一絶縁層12を含む層状の切出加工前絶縁部18B上に、APTES単分子膜13を含む切出加工前APTES単分子膜13Bを成膜する(ST2)。
切出加工前APTES単分子膜13Bの積層方法としては、作業者は、APTES単分子の分散液に、切出加工前絶縁部18Bが積層された基板11を浸漬させ、切出加工前絶縁部18Bに切出加工前APTES単分子膜13Bを成膜する。
【0024】
次に、作業者は、
図5に示すように、切出加工前APTES単分子膜13B上に、CNTネットワークの膜であるナノカーボンを含む膜14を含む切出加工前ナノカーボンを含む膜14Bを積層する。シランカップリング剤を介することで、切出加工前ナノカーボンを含む膜14Bは、第一絶縁層12を含む層状の切出加工前絶縁部18B上に高密度で積層できる(ST3)。
切出加工前ナノカーボンを含む膜14Bの積層方法としては、作業者は、カーボンナノチューブが孤立分散している分散液にST2の処理を終えた基板を浸漬させて、切出加工前ナノカーボンを含む膜14Bを積層させる。
【0025】
次に、作業者は、
図6に示すように、切出加工前ナノカーボンを含む膜14B上に、第二絶縁層15を含む切出加工前第二絶縁層15Bを積層する(ST4)。
作業者は、切出加工前第二絶縁層15Bを、CVD法、スパッタリング法、液相成長法等の成膜方法であって、切出加工前ナノカーボンを含む膜14Bにダメージを与えにくい成膜方法にて、切出加工前ナノカーボンを含む膜14B上に直接積層する。
例えば、作業者は、ダメージを与えにくい成膜方法として、酸素ガスを含まない雰囲気におけるTEOS(Tetraethoxysilane)ガスを用いたCVD法にて、切出加工前第二絶縁層15Bを、切出加工前ナノカーボンを含む膜14B上に直接積層する。
例えば、作業者は、ダメージを与えにくい成膜方法として、Arのみの雰囲気中でのスパッタリング法にて、切出加工前第二絶縁層15Bを、切出加工前ナノカーボンを含む膜14B上に直接積層する。
これにより、第一絶縁層12を含む層状の切出加工前絶縁部18Bと、切出加工前APTES単分子膜13Bと、切出加工前ナノカーボンを含む膜14Bと、切出加工前第二絶縁層15Bと、が順に積層された切出加工前積層構造10Bが形成される。
【0026】
次に、作業者は、
図7に示すように、積層端面10eを形成するために、ST1からST4で形成された切出加工前積層構造10Bに対し、エッチング処理を行う(ST5)。エッチング処理は、公知の汎用プロセスに沿う。
エッチングの結果、切り出された積層構造10は第一絶縁層12から第二絶縁層15に亘って切り出された積層端面10eを有する。この時、積層構造10の中間層であるナノカーボンを含む膜14が切り出されており、露出している。
本開示の積層端面10eにおいて、第一絶縁層12の第一端面12eと、中間層であるナノカーボンを含む膜14の中間端面14eと、第二絶縁層15の第二端面15eと、が連続していてもよい。
【0027】
次に、作業者は、
図8に示すように、コンタクト電極16を、スパッタリング法等により形成する(ST6)。コンタクト電極16は、ST5で露出したナノカーボンを含む膜14に接続するように形成される。本開示では、作業者は、コンタクト電極16を、積層端面10eを覆うように、ナノカーボンを含む膜14に接して形成する。
さらに、作業者は、コンタクト電極16が、積層構造10の表面である第二絶縁層15の表面に重なって、コンタクト電極16上部が一部延びるように、コンタクト電極16を形成している。
また、第二絶縁層15の表面に重なるように延びているコンタクト電極16の電極上部の延長長さは、積層端面10eにおけるナノカーボンを含む膜14の中間端面14eとコンタクト電極16との接触箇所の電界を制御し得る長さに適宜設定される。
【0028】
また、本開示の素子1は、ボロメータに用いられるが、特にこれに関して限定されることはない。
本開示の素子1は、ボロメータ以外に、ガスセンサ、TFT(Thin Film Transistor)、圧力センサ等へ用いられる。その際、素子1は、基板11と、下地絶縁層19と、を含まなくてもよい。
【0029】
図9は、エッチング後の素子1の積層構造を真上から見た図である。
エッチング後、素子1が分離してナノカーボンを含む膜の端面が露出している。
図9に示すように、素子1は放射状あるいは特定のパターンにて複数形成されていてもよい。
【0030】
図10は、電極形成後の素子1を真上から見た図である。
図10に示すように、コンタクト電極16は、素子1の積層構造10の一辺上のとある一部に亘って形成されてもよい。
【0031】
(作用及び効果)
本実施形態の素子1によれば、ナノカーボンを含む膜14の上に第二絶縁層15を積層し、これらが含まれる積層構造10を切り出して端面を露出した後に電極形成をしている。
このため、ナノカーボンを含む膜14の表面を第二絶縁層15で覆った状態で、作業者は、コンタクト電極16を形成できるので、コンタクト電極形成時におけるナノカーボンを含む膜14への影響が抑制できる。
したがって、本開示に係る素子1によれば、ナノカーボンを含む膜に接続された電極を形成しやすい。
【0032】
また、本実施形態の素子1によれば、ナノカーボンを含む膜14の上に第二絶縁層15を積層し、これらが含まれる積層構造10を切り出して端面を露出した後に電極形成をしている。そのため、電極用の金属膜積層時のエッチングやリフトオフ後のレジストの残渣除去のためのアッシングの際にナノカーボンを含む膜にダメージが入りにくい。
【0033】
図11、12は、比較例を示す。
図11、12に開示されているように、これらの比較例においても、基板上にランダムに分散することで形成されるCNTネットワークが存在している。このCNTネットワークの電気特性を活用するためにはCNTネットワークと電気的に接続するようにコンタクト電極を形成する必要がある。これらの比較例において、コンタクト電極を形成する手順は、次の2つの方法が考えられる。
【0034】
1つ目の方法は、
図11の比較例のように、先にCNTネットワークを形成し、その後コンタクト電極を形成する方法である。この方法では、コンタクト電極用の金属膜を全面に成膜後にエッチングにてパターニングする方法(A)と、リフトオフによる電極のパターニング形成(B)と、が考えられる。
【0035】
エッチングにてパターニングする方法(A)では、CNTネットワークの膜の直上にエッチング対象の電極が存在することになる。そのためエッチング時にナノカーボンへダメージが入る可能性があり、そのことが問題である。
【0036】
さらに、リフトオフによる電極のパターニング形成(B)では、
図11の素子を形成する際にCNTネットワークの膜の直上にレジスト膜を形成する。そのため、カーボンナノチューブとレジストが接触することになる。リフトオフ後のレジストの残渣は、一般的な半導体プロセスでは酸素プラズマアッシングによるクリーニング等がとられる。アッシングを行う場合、カーボンナノチューブの表面に付着したレジストを、ナノカーボンにダメージを与えずに除去するのは難しい。
【0037】
この比較例に対し、本実施形態の一例は、CNTネットワークの膜であるナノカーボンを含む膜14の上に第二絶縁層15を積層し、これらが含まれる積層構造10を切り出して端面を露出した後に電極形成している。
そのため、エッチング時にナノカーボンを含む膜14の真上に絶縁層があることで、ナノカーボンへのダメージが入りにくい構造にできる。
また、リフトオフ後のレジストの残渣除去のためのアッシングの際にも、同じくナノカーボンを含む膜14の真上に絶縁層があることで、同様の効果が期待できる。
【0038】
2つ目の方法は、
図12の比較例のように、先にコンタクト電極を形成し、その後CNTネットワークを形成する方法である。
この方法では、以下の3点の問題(I、II、III)が考え得る。
まず、形成後の素子では、CNTネットワークの膜と、電極直上に付着したCNTネットワークの膜と、で段差が発生する。電極の厚さでその段差の高さは決定するが、直径1nmかつ1本の長さが数umのカーボンナノチューブにはその段差高さが与える電気的特性への影響は大きいと考え得る。すなわち、この方法により作成された素子自体の抵抗値に影響が出ることが起こり得る(I)。
次に、絶縁膜上と、金属上ではカーボンナノチューブの付着具合に違いがある。これにより、CNTネットワークの膜と電極との電気的接続がしにくい状況が起こり得る(II)。
3点目に、
図11の比較例と同様に、CNTネットワークの膜のパターニングにおいてナノカーボンにダメージを与える可能性がある(III)。
【0039】
この比較例に対し、本実施形態の一例は、露出したナノカーボンを含む膜14に対しコンタクト電極が形成されているため、電気的接続を確保しやすい。
また、この比較例に対し、本実施形態の一例は、ナノカーボンを含む膜14の上に第二絶縁層15を積層し、これらが含まれる積層構造10を切り出して端面を露出した後に電極形成しているため、ナノカーボンにダメージを与えにくい。
そのため、上述した3つの問題を回避できる。
【0040】
また、本開示に係る素子1のコンタクト電極16は、中間層であるナノカーボンを含む膜14の中間端面14eが露出している。
そのため、本開示に係る素子1は、電気的接続を確保しやすい。
【0041】
また、本開示に係る素子1は、第一端面12eと、中間端面14eと、第二端面15eとが連続している。
これにより、中間端面14eに存在するナノカーボンは、第一端面12eと、第二端面15eと、に保護されている。
したがって、ナノカーボンを含む膜14の表面を2つの絶縁層で確実に保護された状態で、電極を形成できるので、電極形成時におけるナノカーボンへの影響が抑制できる。
【0042】
また、本開示に係る素子1のコンタクト電極16は、第二絶縁層15の表面に重なって延びている。
これにより、積層端面10eにおけるナノカーボンを含む膜14の中間端面14eとコンタクト電極16との接触箇所の電界を制御し得る。
したがって、コンタクト電極16は、例えば、ナノカーボンを含む膜14との接触箇所におけるショットキーバリアを小さくすることができる。
【0043】
また、半導体型カーボンナノチューブを用いた本開示に係る素子1は、ナノカーボンを含む膜14の上に絶縁層を形成し、その後電極を形成することで、製造時にナノカーボンへのダメージが入りにくい。
そのため、ボロメータや薄膜トランジスタ等の電子部品への安定した製造供給が期待されうる。
【0044】
また、本開示に係る素子1は、ナノカーボンを含む膜14を素子1に付着させる際に、シランカップリング剤を使用することで、付着時のナノカーボンの密度が増加した状態のナノカーボンによるネットワークを形成することができる。
【0045】
本実施形態のボロメータ90によれば、前述する素子1の効果に加えて検出性能向上が期待できる。
比較例として、酸化バナジウム(又はアモルファスシリコン)である中間層を備える素子に比べて、本実施形態のボロメータ90は、酸化バナジウム(又はアモルファスシリコン)より抵抗温度係数の高いカーボンナノチューブ等のナノカーボンを含む中間層を備えるため、検出性能向上が期待できる。
【0046】
<変形例>
上述の実施形態の一例では、積層構造10にAPTES単分子膜13を用いているが、APTES単分子膜13は他のものに置き換えてもよい。あるいは、APTES単分子膜13等のシランカップリング剤は、ナノカーボンを含む膜14の付着に用いられなくてもよい。
【0047】
上述の実施形態の一例では、コンタクト電極16は、第二絶縁層15の上面を覆うように電極の一部を延長しているが、延長せず、上面を覆ってなくてもよい。
【0048】
上述の実施形態の一例では、積層構造10は、1層のナノカーボンを含む膜14を備えている。しかしながら、積層構造10は、2つ以上のナノカーボンを含む膜14を備えていてもよい。その際、各ナノカーボンを含む膜14は、その上層と、下層とに絶縁層が形成されている。
積層構造10は、2つ以上のナノカーボンを含む膜14を備えることで、積層方向にナノカーボンが配列された構造を複数有する。本変形例の積層構造10が切り出された積層端面10eと、コンタクト電極16と、が接続されることで、2つ以上のナノカーボンを含む膜14が電気的に並列接続される。これにより、積層構造10における抵抗値を、1層のナノカーボンを含む膜14をコンタクト電極16と接続したときに比べ、効果的に下げることができる。よって、2つ以上のナノカーボンを含む膜14を備える積層構造10には構造上の優位性がある。
また、各層のナノカーボンを含む膜14ごとにコンタクト電極16をそれぞれ形成する必要がなくなり、プロセスが簡易になる。 他方で、ナノカーボンをボロメータの抵抗体に用いる際の課題の1つに、抵抗値が大きいために、ノイズ成分も大きくなることがある。ボロメータの感度向上のため、可能な限り単位面積あたりのナノカーボンを用いた抵抗体の抵抗値を下げる必要がある。本変形例の積層構造10は積層方向に複数のナノカーボンを含む膜14が配列され、この積層端面10eとコンタクト電極が電気的に接続されることで、ナノカーボンを含む膜14の並列化ができる。結果として、積層構造10は、2つ以上のナノカーボンを含む膜14を有した際に、単位面積あたりのナノカーボンを用いる抵抗体の抵抗値を効果的に下げることができる。
【0049】
<第二実施形態>
以下、第二実施形態として本開示に係る素子の最小構成の実施形態について、
図13を用いて説明する。
【0050】
(構成)
素子50は、第一絶縁層502と、ナノカーボンを含む膜である中間層504と、第二絶縁層505と、が順に積層され、中間層が切り出された積層端面を有する積層構造と、層端面において、中間層に接続されているコンタクト電極506と、を備える。
【0051】
(作用及び効果)
本実施形態によれば、第一層と第二層に絶縁層を有し、さらにその2つの層の間の中間層にナノカーボンを有する積層構造の形成後に電極を形成する。
これにより、ナノカーボンを含む膜の表面を第二絶縁層で覆った状態で、電極を形成できるので、電極形成時におけるナノカーボンへの影響が抑制できる。
したがって、ナノカーボンを含む膜に接続された電極を形成しやすい。
【0052】
<第三実施形態>
以下、第三実施形態として本開示に係る素子製造方法の最小構成の実施形態について、
図14を用いて説明する。
本実施形態における素子製造方法は、
図14に示すフローに従って実施される。
【0053】
素子製造方法は、第一絶縁層を形成するステップ(ST101)と、第一絶縁層に、ナノカーボンを有する中間層を積層するステップ(ST102)と、中間層に、第二絶縁層を積層するステップ(ST103)と、中間層が切り出された積層端面を形成するステップ(ST104)と、積層端面において、中間層に接続されているコンタクト電極を形成するステップ(ST105)と、を含む。
【0054】
(作用及び効果)
本実施形態の素子製造方法によれば、第一層と第二層に絶縁層を有し、さらにその2つの層の間の中間層にナノカーボンを有する積層構造の形成後に電極を形成する。
このため、作業者は、ナノカーボンを含む膜の表面を第二絶縁層で覆った状態で、電極を形成できるので、電極形成時におけるナノカーボンへの影響が抑制できる。
したがって、本開示に係る素子製造方法によればナノカーボンを含む膜に接続された電極を形成しやすい。
【0055】
以上、本開示の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として示したものであり、開示の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、本開示の範囲や要旨に含まれると同様に、本開示とその均等の範囲に含まれるものとする。
【実施例0056】
以下、実施例により本開示の効果をさらに具体的に説明する。実施例での条件は、本開示の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本開示はこの一条件例に限定されるものではない。本開示は、本開示の要旨を逸脱せず、本開示の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0057】
図1において、本実施例にて報告する素子は、一部を下記に置き換えた特定サイズのものである。
実施例では、第一絶縁層12は熱酸化膜である。
実施例では、第二絶縁層15はArのみの雰囲気中でスパッタリングをした二酸化シリコン膜である。
【0058】
図15は、CNTネットワークの膜であるナノカーボンを含む膜14の成膜有無による素子の電気伝導特性の比較を示す図である。
使用した素子は、ナノカーボンを含む膜14の成膜有無以外はほぼ同じ構造で作製した。
図15より、ナノカーボンを含む膜14の成膜有りのサンプル(Thermal SiO2 x1 -1及び2)では、成膜無しのサンプル(Thermal SiO2 x0 -1及び2)と比べ、導通が取れることが分かった。
これにより、熱酸化膜上に積層されたナノカーボンを含む膜は、コンタクト電極と電気的に接続されていることを確認した。
【0059】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0060】
(付記1)
第一絶縁層と、ナノカーボンを含む膜である中間層と、第二絶縁層と、が順に積層され、前記中間層が切り出された積層端面を有する積層構造と、
前記積層端面において、前記中間層に接続されているコンタクト電極と、
を備える
素子。
【0061】
(付記2)
前記積層端面の前記第一絶縁層と前記第二絶縁層との間において、前記中間層が前記コンタクト電極に向かって露出している付記1に記載の素子。
【0062】
(付記3)
前記積層端面において、前記第一絶縁層の端面である第一端面と、前記中間層の端面である中間端面と、前記第二絶縁層の端面である第二端面とが連続している付記1または2に記載の素子。
【0063】
(付記4)
前記コンタクト電極が、前記第二絶縁層の表面に重なって延びている付記1から4のいずれか一つに記載の素子。
【0064】
(付記5)
前記中間層が、半導体型カーボンナノチューブを含む付記1から4のいずれか一つに記載の素子。
【0065】
(付記6)
前記中間層がシランカップリング剤を介して、前記第一絶縁層に積層されている付記1から5のいずれか一つに記載の素子。
【0066】
(付記7)
付記1から6のいずれか一つに記載の素子と、
前記素子が配置されている基板と、
を備える
ボロメータ。
【0067】
(付記8)
第一絶縁層を形成するステップと、
前記第一絶縁層に、ナノカーボンを有する中間層を積層するステップと、
前記中間層に、第二絶縁層を積層するステップと、
前記中間層が切り出された積層端面を形成するステップと、
前記積層端面において、前記中間層に接続されているコンタクト電極を形成するステップと、
を含む素子製造方法。