(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152289
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】シス型カロテノイド含有の固形製剤及びシス型カロテノイド含有の固形製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/44 20160101AFI20241018BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20241018BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20241018BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241018BHJP
【FI】
A23L5/44
A61K8/31
A61Q1/00
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066399
(22)【出願日】2023-04-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 真己
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
【Fターム(参考)】
4B018LE01
4B018MA01
4B018MC04
4B018MD07
4B018MD26
4B018ME06
4B018MF02
4B018MF04
4B018MF06
4B018MF08
4B018MF14
4C083AC031
4C083AD252
4C083DD21
4C083EE01
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】シス型カロテノイドを長期間、安定して保管できる技術を提供する。
【解決手段】シス型カロテノイド含有の固形製剤は、シス型カロテノイドと、賦形剤と、を含有する固形製剤であって、カロテノイド全体に対する前記シス型カロテノイドの含有率が40質量%以上である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス型カロテノイドと、賦形剤と、を含有する固形製剤であって、
カロテノイド全体に対する前記シス型カロテノイドの含有率が40質量%以上であるシス型カロテノイド含有の固形製剤。
【請求項2】
前記固形製剤全体に対する前記カロテノイド全体の量をA質量%とし、
前記固形製剤を、30℃の暗所にて、6週間保管した後に測定した、前記固形製剤全体に対する前記カロテノイド全体の量をB質量%とした場合に、
B/A≧0.6
を満たす請求項1に記載のシス型カロテノイド含有の固形製剤。
【請求項3】
カロテノイドと、賦形剤と、溶媒と、を含有する溶液から、シス型カロテノイドを含有する固形製剤を製造する方法であって、
前記溶液における、前記賦形剤の量と前記カロテノイドの量の合計を100質量%とした場合の前記カロテノイドの量をC質量%とし、
前記固形製剤における、前記賦形剤の量と前記カロテノイドの量の合計を100質量%とした場合の前記カロテノイドの量をD質量%とした場合に、
D/C≧0.3
を満たし、
前記固形製剤における、前記カロテノイド全体に対する前記シス型カロテノイドの含有率が40質量%以上である、シス型カロテノイド含有の固形製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シス型カロテノイド含有の固形製剤及びシス型カロテノイド含有の固形製剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然界に広く存在するカロテノイド類は強力な抗酸化作用を有し、カラーバリエーションが多様であることから、健康食品や化粧品、食用色素など幅広い用途で利用されている。
【0003】
特許文献1には、シス型カロテノイドを安定して保管することを目的として、シス型カロテノイドを、抗酸化剤、有機酸塩又は植物油若しくはサメ肝油の存在下で保管する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、シス型アスタキサンチンにトコフェノールや没食子酸プロピル等の抗酸化剤を添加すると、安定性を向上できる。しかし、シス型カロテノイドを、有機溶媒や油脂中で保管した場合には、30℃で、3週間保管した場合、約30%のシス型アスタキサンチンがトランス型に異性化する。
【0006】
本開示は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、シス型カロテノイドを長期間、安定して保管できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、シス型カロテノイドを賦形剤とともに固形製剤化すると、長期間カロテノイドのシス型構造を維持できるとともに、カロテノイドの分解を抑制できるという新たな知見を得て、本開示の技術を開発するに至った。
【0008】
本開示の一態様であるシス型カロテノイド含有の固形製剤は、シス型カロテノイドと、賦形剤と、を含有する固形製剤であって、カロテノイド全体に対する前記シス型カロテノイドの含有率が40質量%以上である。
【0009】
本開示によれば、シス型カロテノイドを長期間、安定して保管できるシス型カロテノイド含有の固形製剤及びシス型カロテノイド含有の固形製剤の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】固形製剤の製造方法を説明するための図である。
【
図2】(A)は、アスタキサンチン結晶のSEM(走査電子顕微鏡)像である。(B)は、ポリビニルピロリドンのSEM像である。(C)は、アスタキサンチンの粉末製剤を2000倍で観察したSEM像である。(D)は、アスタキサンチンの粉末製剤を5000倍で観察したSEM像である。
【
図3】(A)は、ポリビニルピロリドンを用いたシス型リコピン含有の固形製剤のシス型カロテノイド比率に関するグラフである。(B)は、ポリビニルピロリドンを用いたシス型リコピン含有の固形製剤のカロテノイドの残存率に関するグラフである。
【
図4】(A)は、シクロデキストリンを用いたシス型リコピン含有の固形製剤のシス型カロテノイド比率に関するグラフである。(B)は、シクロデキストリンを用いたシス型リコピン含有の固形製剤のカロテノイドの残存率に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示における好ましい実施の形態を説明する。
シス型カロテノイド含有の固形製剤は、前記固形製剤全体に対する前記カロテノイド全体の量をA質量%とし、前記固形製剤を、30℃の暗所にて、6週間保管した後に測定した、前記固形製剤全体に対する前記カロテノイド全体の量をB質量%とした場合に、B/A≧0.6を満たすことが好ましい。
【0012】
本開示の別の態様であるシス型カロテノイド含有の固形製剤の製造方法は、カロテノイドと、賦形剤と、溶媒と、を含有する溶液から、シス型カロテノイドを含有する固形製剤を製造する方法であって、前記溶液における、前記賦形剤の量と前記カロテノイドの量の合計を100質量%とした場合の前記カロテノイドの量をC質量%とし、前記固形製剤における、前記賦形剤の量と前記カロテノイドの量の合計を100質量%とした場合の前記カロテノイドの量をD質量%とした場合に、D/C≧0.3を満たし、前記固形製剤における、前記カロテノイド全体に対する前記シス型カロテノイドの含有率が40質量%以上である。
【0013】
以下、本開示を具体化した実施形態について説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0014】
1.シス型カロテノイド含有の固形製剤
シス型カロテノイド含有の固形製剤は、シス型カロテノイドと、賦形剤と、を含有する固形製剤である。シス型カロテノイド含有の固形製剤は、カロテノイド全体に対するシス型カロテノイドの含有率が40質量%以上である。
【0015】
(1)シス型カロテノイド
シス型カロテノイドは、カロテン類のシス型異性体であってもよく、キサントフィル類のシス型異性体であってもよい。シス型カロテノイドは、リコピン、β-カロテン、アスタキサンチン、ルテイン、フコキサンチン、β-クリプトキサンチン、カプサンチン、カンタキサンチン、及びゼアキサンチンからなる群より選ばれる1種以上のシス型異性体であることが好ましい。
【0016】
シス型カロテノイドは、健康食品や食品色素、化粧品、動物飼料の色揚げ剤への利用の観点から、シス型アスタキサンチンであることがより好ましい。シス型アスタキサンチンは、キサントフィル類のシス型異性体の一例である。アスタキサンチンは、化学式C40H52O4(分子量596.841)で表されるカロテノイドの1種である。アスタキサンチンは、9個の共役二重結合からなるポリエン鎖とその両端に付くエンドグループ(末端基)から構成されている。本願においては、ポリエン鎖の9個の共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型アスタキサンチンと称し、すべてがトランス型である異性体をトランス型アスタキサンチンと称する。
【0017】
また、シス型カロテノイドは、健康食品や食品色素、化粧品への利用の観点から、シス型リコピンであることもより好ましい。シス型リコピンは、カロテン類のシス型異性体の一例である。リコピンは、化学式C40H56(分子量536.87)で表されるカロテノイドの1種である。リコピンは11個の共役二重結合を有するため、様々なシス異性体が存在する。本願においては、リコピンの11個の共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型リコピンと称し、すべてがトランス型である異性体をトランス型リコピンと称する。単に「リコピン」という場合には、シス型リコピンとトランス型リコピンの双方を含むものとする。
【0018】
また、シス型カロテノイドは、健康食品や食品色素、プロビタミンA活性の高さの観点から、β-カロテンであることもより好ましい。β-カロテンは、化学式C40H56(分子量536.87)で表されるカロテノイドの1種であり、少なくとも一方の末端にβ環構造を有するカロテンである。β-カロテンは11個の共役二重結合を有するため、様々なシス異性体が存在する。本願においては、β-カロテンの共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型β-カロテンと称し、すべてがトランス型である異性体をオールトランス型β-カロテンと称する。
【0019】
カロテノイド全体に対するシス型カロテノイドの含有率は、体内吸収性及び蓄積性、生理活性(抗酸化作用、肌質改善作用、抗がん作用、抗肥満作用など)の観点から、40質量%以上であり、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは55質量%以上である。カロテノイドがリコピンである場合には、リコピン全体に対するシス型リコピンの含有率は、例えば、60質量%以上、70質量%以上とすることもできる。また、上記のシス型カロテノイドの含有率は、製造性の観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。上記のシス型カロテノイドの含有率の下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。例えば、上記のシス型カロテノイドの含有率は、40質量%以上98質量%以下であることが好ましい。なお、固形製剤の総カロテノイド中、シス型カロテノイドの含有率の残部がトランス型カロテノイドの含有率である。
以下、カロテノイドの質量(100%)を基準としたシス型カロテノイドの含有率(質量%)を単に「シス型カロテノイド比率(%)」ともいう。本開示において、カロテノイドの量及びシス型カロテノイド比率(%)は、逆相カラムや順相カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法により測定できる。定量は、クロマトグラム中における各カロテノイド異性体ピークのピーク面積に基づいてなされる。シス型カロテノイド比率(%)は、次の式により求めることができる。
【数1】
【0020】
カロテノイドの配合量(シス型カロテノイドとトランス型カロテノイドの合計量)は特に限定されない。カロテノイドの配合量は、有効成分の量を十分に確保する観点から、固形製剤全体に対し、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上である。上記のカロテノイドの配合量は、製剤化の過程で失われるカロテノイドの量を低減する観点から、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量部以下である。これらの観点から、上記のカロテノイドの配合量は、好ましくは0.01質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0021】
(2)賦形剤
賦形剤は、通常、固形製剤の増量、希釈、充填、補形等の目的で加えられる。賦形剤は、薬剤の溶解性を高めるため、および/または自己凝集能を低減させるためにも有効である。本開示の賦形剤としては、医薬品的に許容される賦形剤、飲食品的に許容される賦形剤、化粧品的に許容される賦形剤等を用途に応じて適宜用いることができる。賦形剤としては、経口摂取時や、加工時に易溶性のものが好ましい。賦形剤としては、水溶性高分子を用いることも好ましい。しかし、著しく吸湿する賦形剤は保管上好ましくない。
【0022】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、トレハロース、蔗糖などの糖類、エリスリトール、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール類、デンプン類、結晶セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、プルラン、デキストリン、アラビアゴム、コラーゲン、寒天、ゼラチン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの高分子ポリマー類、ステアリン酸などの脂肪酸あるいはその塩、ワックス類、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。賦形剤としては、これらから選択される1種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、賦形剤は、ポリビニルピロリドン、シクロデキストリン等の高分子ポリマー類を好適に用いることができる。
【0023】
賦形剤として用いられるポリビニルピロリドンの重量平均分子量は特に限定されない。ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、例えば、10000以上360000以下とすることができる。なお、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、光散乱測定法によって測定することができる。
【0024】
賦形剤として用いられるシクロデキストリン特に限定されない。シクロデキストリンとしては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0025】
賦形剤の配合量は特に限定されない。賦形剤の配合量は、製剤化や成形性の観点から、固形製剤全体に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。賦形剤の配合量の上限値は特に限定されない。賦形剤の配合量の上限値は、例えば99質量%以下とすることができる。
【0026】
(3)カロテノイドと賦形剤との質量比
カロテノイドと賦形剤との質量比は特に限定されない。カロテノイドと賦形剤との質量比(カロテノイド:賦形剤)は、好ましくは1:5-1:300であり、より好ましくは1:20-1:250であり、更に好ましく1:50-1:200である。カロテノイドに対する賦形剤の量を大きくすることによって、製剤化の過程で失われるカロテノイドの量を低減できる。カロテノイドに対する賦形剤の量を小さくすることによって、固形製剤におけるカロテノイド(有効成分)の量を十分に確保できる。
【0027】
(4)その他の成分
固形製剤は任意成分として、カロテノイド及び賦形剤以外の成分を含んでいてもよい。固形製剤は、カロテノイドの分解を抑制する観点から、任意成分として抗酸化剤を含んでいることが好ましい。例えば、後述する固形製剤の製造方法のように、製剤化工程の前にシス異性化工程を行う場合には、シス異性化工程より前にカロテノイドと抗酸化剤を混合することが好ましい。シス異性化工程より前にカロテノイドと抗酸化剤を混合することによって、製剤化工程のみならずシス異性化工程においてもカロテノイドの分解を抑制できる。そして、固形製剤として保管する際にも、カロテノイドの分解を抑制する作用が期待できる。
【0028】
抗酸化剤としては、トコフェノール類、トコトリエノール類、ポリフェノール類、グルタチオン、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、パルミチン酸アスコルビル(PAVC)、及びアスコルビン酸(VC)からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。これらの中でも、α-トコフェノール等のトコフェノール類がより好ましい。また、安全性の観点から、抗酸化剤は食品添加物として用いられるものが好ましい。
【0029】
抗酸化剤の配合量は、特に限定されない。抗酸化剤の配合量は、固形製剤全体に対し、例えば、0.01質量%以上10質量%以下とすることができ、0.05質量%以上5質量%以下、0.1質量%以上1質量%以下であってもよい。
抗酸化剤の配合量は、後述の固形製剤の製造方法のように、異性化工程を併せて行う場合には、上記の配合量の2倍から20倍とすることも有効である。例えば、抗酸化剤の配合量は、固形製剤全体に対し、0.1質量%以上100質量%以下とすることができ、0.5質量%以上50質量%以下、1質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0030】
また、固形製剤は、カロテノイド及び賦形剤以外の成分として、カロテノイドのシス異性化を促進する異性化促進触媒、界面活性剤、pH調整剤、矯味矯臭剤を、着色剤等を更に含んでいてもよい。このような任意の成分としては、医薬品、飲食品、化粧品に使用可能なものが好適である。界面活性剤、pH調整剤、矯味矯臭剤を、着色剤等の合計の配合量は、固形製剤全体に対して、通常0質量以上20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0031】
(5)固形製剤の種類
固形製剤の種類は特に限定されない。固形製剤は、例えば、粉末製剤、顆粒剤、及び錠剤から選ばれる固形製剤であってもよい。これらの中でも、飲食品、化粧品、医薬品の素材として利用し易い点から、粉末製剤であることが好ましい。粉末製剤の平均粒子径は、特に限定されない。粉末製剤の平均粒子径は、取り扱い性の観点から、好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1.0μm以上であり、更に好ましくは1.3μm以上である。粉末製剤の平均粒子径の上限値は特に限定されない。粉末製剤の平均粒子径の上限値は、通常500μm以下であり、250μm以下、100μm以下、10μm以下であってもよい。
粉末製剤の平均粒子径は、粉末製剤のSEM画像から解析ソフト(WinROOF2021、三谷商事株式会社)を用いて、350個以上の粒子の直径の平均値として算出できる。
【0032】
(6)固形製剤の保管に関する要件
固形製剤は、固形製剤全体に対するカロテノイド全体の量をA質量%とし、固形製剤を、30℃の暗所にて、6週間保管した後に測定した、固形製剤全体に対するカロテノイド全体の量をB質量%とした場合に、
B/A≧0.6
を満たすことが好ましい。
固形製剤は、B/A≧0.7を満たすことがより好ましく、B/A≧0.75、B/A≧0.8を満たすことが更に好ましい。賦形剤としてシクロデキストリンを用いた場合には、B/A≧0.90、B/A≧0.95とすることができる。
【0033】
B/Aは、30℃の暗所にて、6週間保管した場合のカロテノイド残存率(%)を表す。30℃で保管した場合にカロテノイドの量が減少する要因としては、カロテノイドの分解が考えられる。B/Aが0.6以上であることは、30℃の暗所にて、カロテノイドが安定的に保管されていることの一つの指標となる。なお、B/Aの上限は特に限定されず、通常1.0以下であり、1.2以下であってもよい。なお、B/Aが1.0を超える理由は定かではないが、シス型カロテノイドの一部がトランス化したことによるモル吸光係数(UV分析の感度)の増大等が考えられる。
【0034】
固形製剤中のカロテノイドの量は、固形製剤を所定の溶媒に溶かして測定できる。なお、吸光度は、例えば、紫外可視近赤外分光光度計(V-750、日本分光株式会社)を用いて以下の測定波長にて測定できる。
<測定波長>
シス型アスタキサンチン含有の固形製剤:470nm
シス型リコピン含有の固形製剤:460nm
シス型β-カロテン含有の固形製剤:450nm
なお、後述する比較例であるトランス型カロテノイド含有の固形製剤についても、同種のカロテノイドのシス型カロテノイド含有の固形製剤と同じ波長にて測定できる。その他の種類のカロテノイド含有の固形製剤についても、例えば400nm-500nmの特定の波長にて吸光度を適宜測定できる。
【0035】
固形製剤は、30℃の暗所にて、6週間保管した後であっても、シス型カロテノイド比率が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。30℃の暗所にて、6週間保管した後のシス型カロテノイドの比率は、通常、保管前のシス型カロテノイド比率と同等か、それよりも小さい。すなわち、保管前のシス型カロテノイド比率を100%とした保管後のシス型カロテノイド比率は、通常100%以下である。保管前のシス型カロテノイド比率を100%とした保管後のシス型カロテノイド比率は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは75%以上であり、特に好ましくは80%以上である。なお、30℃で保管した場合にシス型カロテノイドの量が減少する要因としては、シス型カロテノイドがトランス型カロテノイドへ変化すること、シス型カロテノイドの分解等が考えられる。
【0036】
本実施形態の固形製剤は、上記のカロテノイド残存率が高く、また、保管後もシス型カロテノイド比率が高いから、常温保管用として好適である。「常温」としては、例えば5℃以上35℃以下である。
【0037】
2.固形製剤の製造方法
固形製剤の製造方法の一例を、
図1を参照しつつ説明する。固形製剤の製造方法は、カロテノイドと、賦形剤と、溶媒と、を含有する溶液から、シス型カロテノイドを含有する固形製剤を製造する。以下、カロテノイドと、賦形剤と、溶媒と、を含有する溶液を、カロテノイド/賦形剤含有溶液とも称する。また、カロテノイド/賦形剤含有溶液から、シス型カロテノイドを含有する固形製剤を製造する工程を、製剤化工程とも称する。固形製剤の製造方法は、製剤化工程に先立って、カロテノイドをシス異性化する異性化工程を更に備えているとよい。このような固形製剤の製造方法は、連続式(フロー式)で行うことができる。
【0038】
(1)異性化工程
異性化工程は、例えば、トランス型カロテノイドを加熱によってシス異性化して、カロテノイド全体に対するシス型カロテノイドの含有率が40質量%以上であるシス型カロテノイド溶液を得る。なお、異性化工程は任意工程であり、本開示の製造方法は異性化工程を備えていなくてもよい。異性化工程を備えない場合には、例えば、カロテノイドからシス型カロテノイドを分離、抽出する方法や、遺伝子工学的に、シス型カロテノイドの含有率が高い(例えば、40質量%以上の)カロテノイド原料を準備して、製剤化工程を行えばよい。
【0039】
異性化工程は、
図1に示される高温高圧装置10を用いて行うことができる。高温高圧装置10は、原料供給部11、高圧ポンプ12、加熱部13、冷却部14、背圧弁15、回収部16を備えている。異性化工程では、流路を流れるトランス型カロテノイドと媒体との混合物を加熱し、加熱後に、流路を流れる加熱された混合物を冷却する。媒体は特に限定されない。媒体は、固形製剤化する際に蒸発させやすい点から、1気圧での沸点が100℃以下の媒体が好ましい。媒体としては、例えば、アセトン、エタノール、酢酸エチル、ヘキサン等の有機溶媒が好適である。また、媒体としては、例えば、植物油等の油脂を用いることもできる。なお、異性化工程において、トランス型カロテノイド含有の原料液は抗酸化剤を含んでいることが好ましい。この場合には、得られたシス型カロテノイド含有溶液は、シス型カロテノイドと、有機溶媒等の媒体を含み、任意の成分として抗酸化剤を含んでいる。
【0040】
トランス型カロテノイドには、市販品を用いることができる。トランス型カロテノイドは、化学合成品であってもよく、天然物由来のカロテノイドであってもよく、これらを混合したものであってもよい。飲食品用としては、安全性の観点から、天然物由来のトランス型カロテノイドであることがより好ましい。天然物由来のトランス型カロテノイドは、植物や藻類、菌類等の天然物を乾燥し、粉末状にしたドライパウダーに含まれる形態であってもよい。トランス型カロテノイドを含む原料には、シス型カロテノイドが所定の割合(例えば10質量%以下)含まれていてもよい。
【0041】
なお、固形製剤の製造方法において、シス型カロテノイドを得る方法は特に限定されず、上記以外のシス異性化方法(加熱、マイクロ波、通電処理、光照射、触媒の添加等)であってもよい。
【0042】
(2)製剤化工程
製剤化工程は、カロテノイド/賦形剤含有溶液から、シス型カロテノイドを含有する固形製剤を得ることができれば、手法は特に限定されない。製剤化工程は、カロテノイドの分解を抑制する観点から、カロテノイドが高温(例えば140℃超の温度)に晒される時間が短い、或いは、カロテノイドが高温に晒されない手法が望ましい。本固形製剤に適用可能な手法としては、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、誘電体乾燥などを挙げることができる。これらの中でも、効率とコスト、賦形剤を用いたパウダー化プロセスとの相性を考慮して、噴霧乾燥が好適である。
【0043】
例えば、製剤化工程は、
図1に示される噴霧乾燥装置20を用いて行うことができる。噴霧乾燥装置20は、カロテノイド/賦形剤含有溶液の供給部21、高圧ポンプ22、噴霧ノズル23を備えている。なお、
図1では、カロテノイド/賦形剤含有溶液の供給部21は、シス型カロテノイド含有溶液の回収部16と兼用されている。すなわち、回収部16内のシス型カロテノイド含有溶液に賦形剤を添加して、カロテノイド/賦形剤含有溶液を得て、回収部16(供給部21)から供給している。
【0044】
製剤化工程では、噴霧されたカロテノイド/賦形剤含有溶液と熱風とを接触させ、シス型カロテノイド含有の粉末製剤を得る。噴霧乾燥において、噴霧乾燥温度、カロテノイド/賦形剤含有溶液の流量等の条件を適宜調節することにより、カロテノイドの分解を抑制しつつ固形製剤化を図ることができる。噴霧乾燥温度(入口温度)は、例えば、60℃以上180℃以下が好ましく、80℃以上140℃以下がより好ましい。カロテノイド/賦形剤含有溶液の流量は、例えば、例えば、2mL/min以上15mL/min以下が好ましく、4mL/min以上8mL/min以下がより好ましい。また、より大量生産する場合には、カロテノイド/賦形剤含有溶液の流量を上記の100倍から1000倍としてもよい。例えば、カロテノイド/賦形剤含有溶液の流量は、1000mL/min以上7500mL/min以下、2000mL/min以上4000mL/min以下としてもよい。
【0045】
(3)固形製剤化後のカロテノイド割合に関する要件
本願発明者は、シス型カロテノイドの固形製剤化と、トランス型カロテノイドの固形製剤化についての実験を行い、比較検討した。その結果、シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドに比して、製剤化前のカロテノイドの量に対する製剤後のカロテノイドの量(製剤化後のカロテノイド割合とも称する)を向上できることを新たに見出した。製剤化後のカロテノイド割合を向上できる理由は、シス型カロテノイドとトランス型カロテノイドとの結晶性や、溶解性等の物性の違いによると推測される。なお、本開示は、この推測理由に限定解釈されない。
【0046】
本開示の固形製剤の製造方法は、カロテノイド/賦形剤含有溶液における、賦形剤の量とカロテノイドの量の合計を100質量%とした場合のカロテノイドの量をC質量%とし、固形製剤における、賦形剤の量とカロテノイドの量の合計を100質量%とした場合のカロテノイドの量をD質量%とした場合に、D/C≧0.3を満たすことが好ましい。さらに、D/C≧0.4を満たすことがより好ましく、D/C≧0.5を満たすことが更に好ましい。
【0047】
賦形剤は固形製剤化の過程で失われにくい成分であるから、D/Cは固形製剤化の過程で失われたカロテノイドの量の一つの指標となる。D/Cが0.3以上であるということは、本製造方法は、製剤化工程を経ても、カロテノイドの量を十分に確保できる製造方法であると捉え得る。D/Cの上限値は特に限定されず、通常1.0以下であり、1.2以下であってもよい。D/Cが1.0を超える理由は定かではないが、製造過程で賦形剤の一部が失われた可能性等が考えられる。
【0048】
カロテノイド/賦形剤含有溶液に含まれるカロテノイドがアスタキサンチンである場合には、D/C≧0.3を満たすことが好ましく、D/C≧0.6を満たすことがより好ましく、D/C≧0.8を満たすことが更に好ましい。
シス型カロテノイド含有溶液に含まれるカロテノイドがβ-カロテンである場合には、D/C≧0.3を満たすことが好ましく、D/C≧0.6を満たすことがより好ましく、D/C≧0.8を満たすことが更に好ましい。
【0049】
なお、D/Cは、カロテノイド/賦形剤含有溶液に含まれるカロテノイドのシス型カロテノイド比率を高めることで大きくできる傾向にある。それ以外にも、カロテノイド/賦形剤含有溶液における賦形剤の量の増量、製剤化時の温度を低くすること、カロテノイド/賦形剤含有溶液の流量を小さくすること等も、D/Cの増大に寄与し得る。
【0050】
3.本実施形態の効果
以上説明したように、本実施形態の固形製剤は、シス型カロテノイドを長期間、安定して保管できる。より具体的には、本実施形態の固形製剤によれば、30℃の暗所にて、6週間保管した場合のカロテノイド残存率B/Aを、0.6以上とすることができる。また、30℃の暗所にて、6週間保管した場合であっても、シス型カロテノイド比率を十分に確保できる。
【0051】
シス型カロテノイド含有の固形製剤と、この固形製剤を溶液に溶かした溶液を、それぞれ紫外・可視分光法によって分析した。すると、上記の溶液がカロテノイド特有の吸収帯(400-550nm)の光を吸収する一方、シス型カロテノイド含有の固形製剤が上記の溶液とは異なるスペクトルを示すことが分かった。固形製剤において、カロテノイドが賦形剤に包接されることが、シス型カロテノイド比率を確保及びカロテノイド残存率の向上寄与している可能性がある。なお、本開示は、この推測理由に限定解釈されない。
【0052】
また、本実施形態の固形製剤の製造方法は、製剤化前のカロテノイドの量に対する製剤化後のカロテノイドの量が大きい。よって、カロテノイドを効率よく製剤に取り込むことができ、シス型カロテノイド素材の用途の拡大に寄与できる。
【0053】
本実施形態の固形製剤は、トランス型カロテノイドよりも体内吸収性や蓄積性に加え、生理活性(抗酸化作用、抗がん作用、抗肥満作用など)が高いシス型カロテノイドを効果的に利用可能となる。このため、化粧品、機能性食品等の食品、医薬品等の様々な用途に活用可能である。すなわち、本実施形態の固形製剤は、機能性食品用固形製剤としても有用である。
【実施例0054】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0055】
1.ポリビニルピロリドンを用いたシス型カロテノイド含有の固形製剤の調製
(1)シス型アスタキサンチン含有の固形製剤
<No.1-1からNo.1-10>
異性化工程は以下の手順で行った。トランス型アスタキサンチンとして、富士フイルム和光純薬株式会社製のアスタキサンチンを用いた。このアスタキサンチンのトランス型アスタキサンチン比率は、98.7%であった。アスタキサンチンを、総アスタキサンチンの濃度が0.1mg/mlとなるようにアセトンに溶解した。さらに、抗酸化剤としてα-トコフェノール(東京化学工業社製)を、アセトンに1mg/ml添加した。得られたアセトン溶液を、加熱温度200℃、圧力10MPa、15秒の条件でシス異性化処理して、シス型アスタキサンチン溶液を得た。得られたシス型アスタキサンチン溶液におけるシス型アスタキサンチン比率は59.0%であった。
【0056】
賦形剤として、表1の「PVP分子量」の欄に記載の重量平均分子量のポリビニルピロリドンを用いた。賦形剤を5mg/mL-20mg/mLになるようにエタノールに溶解して賦形剤溶液を得た。原料の配合比率が表1に記載の比率となるようにシス型アスタキサンチン溶液:賦形剤溶液を1:1で混合し、シス型アスタキサンチン/PVP含有溶液を得た。シス型アスタキサンチン/PVP含有溶液中のカロテノイド濃度とポリビニルピロリドン濃度(PVP濃度)は、表1の通りであった。シス型アスタキサンチン/PVP含有溶液を、噴霧乾燥装置(ヤマト科学株式会社製、品番ADL311S-A)を用いて、表1に記載の製剤化の条件で噴霧乾燥処理し、シス型アスタキサンチン含有の固形製剤(シス型アスタキサンチン/PVP)を得た。
<No.2-2>
表2のNo.2-2のシス型アスタキサンチン/PVPは、表1のNo.1-3のシス型アスタキサンチン/PVPと同一のサンプルである。
【0057】
<No.2-1>
比較例として、シス異性化処理を行わないアスタキサンチン(シス型アスタキサンチン比率3.0%以下)を用いた他は、No.2-2のシス型アスタキサンチン含有の固形製剤と同様にして、トランス型アスタキサンチン含有の固形製剤を得た。
【0058】
(2)シス型リコピン含有の固形製剤
<No.2-4>
No.2-2のシス型アスタキサンチン/PVPの調整と以下の点を変更した他は、同様にしてシス型リコピン含有の固形製剤(リコピン/PVP)を得た。
トランス型リコピンとして、トマトオレオレジン(ライコレッド株式会社製、Lyc-O-Mato(登録商標) 15%)から精製したリコピンを用いた。このリコピンのトランス型リコピン比率は、97.0%以上であった。リコピンを、総リコピンの濃度が0.05mg/mlとなるようにアセトンに溶解した。得られたシス型リコピン溶液におけるシス型リコピン比率は73.6%であった。
【0059】
<No.2-3>
比較例として、シス異性化処理を行わないリコピン(シス型リコピン比率5.0%未満)を用いた他は、No.2-4のシス型リコピン含有の固形製剤と同様にして、トランス型リコピン含有の固形製剤を得た。
【0060】
(3)シス型β-カロテン含有の固形製剤
<No.2-6>
No.2-2のシス型アスタキサンチン/PVPの調整と以下の点を変更した他は、同様にしてシス型β-カロテン含有の固形製剤(シスβ-カロテン/PVP)を得た。
トランス型β-カロテンとして、トランス型β-カロテン標準品(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。このβ-カロテンのトランス型β-カロテン比率は、97.0%以上であった。β-カロテンを、総β-カロテンの濃度が0.1mg/mlとなるようにアセトンに溶解した。得られたシス型β-カロテン溶液におけるシス型β-カロテン比率は55.5%であった。
【0061】
<No.2-5>
比較例として、シス異性化処理を行わないβ-カロテン(シス型β-カロテン比率10.0%未満)を用いた他は、No.2-6のシス型β-カロテン含有の固形製剤と同様にして、トランス型β-カロテン含有の固形製剤を得た。
【0062】
【0063】
【0064】
2.シクロデキストリンを用いたシス型カロテノイド含有の固形製剤の調製
(1)シス型アスタキサンチン含有の固形製剤
<No.3-1からNo.3-8>
上記のシス型アスタキサンチン/PVPの調整と賦形剤を変更した他は、同様にしてシクロデキストリン(2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、富士フイルム和光株式会社製)を用いたシス型アスタキサンチン含有の固形製剤(シス型アスタキサンチン/CD)を得た。具体的には、賦形剤を5mg/mL-20mg/mLになるようにエタノールに溶解して賦形剤溶液を得た。原料の配合比率が表3に記載の比率となるようにシス型アスタキサンチン溶液:賦形剤溶液を1:1で混合し、シス型アスタキサンチン/CD含有溶液を得た。シス型アスタキサンチン/CD含有溶液中のカロテノイド濃度とシクロデキストリン濃度(CD濃度)は、表3の通りであった。シス型アスタキサンチン/CD含有溶液を、噴霧乾燥装置(ヤマト科学株式会社製、品番ADL311S-A)を用いて、表3に記載の製剤化の条件で噴霧乾燥処理し、シス型アスタキサンチン含有の固形製剤(シス型アスタキサンチン/CD)を得た。
<No.4-2>
表4のNo.4-2のシス型アスタキサンチン/CDは、表3のNo.3-3のシス型アスタキサンチン/CDと同一のサンプルである。
【0065】
<No.4-1>
比較例として、シス異性化処理を行わないアスタキサンチン(シス型アスタキサンチン比率3.0%以下)を用いた他は、No.4-2のシス型アスタキサンチン含有の固形製剤と同様にして、トランス型アスタキサンチン含有の固形製剤を得た。
(2)シス型リコピン含有の固形製剤
<No.4-4>
No.4-2のシス型アスタキサンチン/CDの調整とカロテノイドの種類を変更した他は、同様にしてシクロデキストリンを用いたシス型リコピン含有の固形製剤(シス型リコピン/CD)を得た。
【0066】
<No.4-3>
比較例として、シス異性化処理を行わないリコピン(シス型リコピン比率5.0%未満)を用いた他は、No.4-4のシス型リコピン含有の固形製剤と同様にして、トランス型リコピン含有の固形製剤を得た。
【0067】
(3)シス型β-カロテン含有の固形製剤
<No.4-6>
No.4-2のシス型アスタキサンチン/CDの調整とカロテノイドの種類を変更した他は、同様にしてシクロデキストリンを用いたシス型β-カロテン含有の固形製剤(シス型β-カロテン/CD)を得た。
【0068】
<No.4-5>
比較例として、シス異性化処理を行わないβ-カロテン(シス型β-カロテン比率10.0%未満)を用いた他は、No.4-6のシス型β-カロテン含有の固形製剤と同様にして、トランス型β-カロテン含有の固形製剤を得た。
【0069】
【0070】
【0071】
3.評価方法
(1)固形製剤のカロテノイド濃度、シス型カロテノイド比率、及び平均粒子径
固形製剤のカロテノイド濃度、シス型カロテノイド比率(表中のシス型比率)、及び平均粒子径は、実施形態に記載の方法によって測定した。シス型カロテノイド比率は、1の固形製剤当たり3サンプルの測定を行い、その平均値として求めた。その結果を、表1から表4に併記する。
【0072】
(2)固形製剤の包接率
固形製剤の包接率(%)は、以下の式に基づき算出した。その結果を表1から表4に併記する。
包接率=(E/F)×100
E:固形製剤のカロテノイド濃度(質量%)
F:カロテノイド/賦形剤溶液中のカロテノイドとα-トコフェロールが、100%固形製剤に包接された場合のカロテノイド濃度(理論値、質量%)
【0073】
(3)製剤化後のカロテノイド割合
固形製剤の製剤化後のカロテノイド割合D/Cは、実施形態の記載に即して算出した。なお、本実施例においては「固形製剤における、賦形剤の量とカロテノイドの量の合計を100質量%とした場合のカロテノイドの量をD質量%」を算出するにあたり、固形製剤における賦形剤(PVP、CD)の量は、実測値ではなく、近似値である950mg/gを用いた。その結果を表2及び表4に併記する。
【0074】
(4)SEM観察
表1のNo.2-2のシス型アスタキサンチン含有の固形製剤(シス型アスタキサンチン/PVP)を、SEMを用いて2000倍、5000倍で観察した。2000倍のSEM像を
図2(C)に、5000倍のSEM像を
図2(D)に示す。なお、原料として用いたアスタキサンチンと、ポリビニルピロリドンについてもSEMを用いて観察した。その結果を、それぞれ、
図2(A)と、
図2(B)に示す。
【0075】
(5)固形製剤の保管安定性
No.2-2のシス型アスタキサンチン/PVP、No.2-4のシス型リコピン/PVP、No.2-6のシス型β-カロテン/PVPを30℃の暗所にて保管した。保管開始から、1週間後、3週間後、6週間後のシス型カロテノイド比率を測定した。シス型カロテノイド比率は、1の固形製剤当たり3サンプルの測定を行い、その平均値として求めた。その結果を表5及び
図3(A)に示す。
図3(A)の横軸は時間(週)であり、縦軸はシス型カロテノイド比率(%)を表す。
【表5】
【0076】
また、保管開始から、1週間後、3週間後、6週間後のカロテノイド残存率を算出した。カロテノイド残存率は、1の固形製剤当たり3サンプルの測定を行い、その平均値として求めた。その結果を表6及び
図3(B)に示す。
図3(B)の横軸は時間(週)であり、縦軸はカロテノイド残存率(%)を表す。
【表6】
【0077】
No.4-2のシス型アスタキサンチン/CD、No.4-4のシス型リコピン/CD、No.4-6のシス型β-カロテン/CDを30℃の暗所にて保管した。保管開始から、1週間後、3週間後、6週間後のシス型カロテノイド比率を測定した。シス型カロテノイド比率は、1の固形製剤当たり3サンプルの測定を行い、その平均値として求めた。その結果を表7及び
図4(A)に示す。
図4(A)の横軸は時間(週)であり、縦軸はシス型カロテノイド比率(%)を表す。
【表7】
【0078】
また、保管開始から、1週間後、3週間後、6週間後のカロテノイド残存率を算出した。カロテノイド残存率は、1の固形製剤当たり3サンプルの測定を行い、その平均値として求めた。その結果を表8及び
図4(B)に示す。
図4(B)の横軸は時間(週)であり、縦軸はカロテノイド残存率(%)を表す。
【表8】
【0079】
4.結果及び考察
(1)固形製剤のシス型カロテノイド比率
表1、表2、表5に示すように、ポリビニルピロリドンを用いたシス型カロテノイド含有の固形製剤において、シス型カロテノイド比率は50%以上であった。
表3、表4、表6に示すように、シクロデキストリンを用いたシス型カロテノイド含有の固形製剤において、シス型カロテノイド比率は50%以上であった。
これらの結果から、カロテノイドの種類、賦形剤の種類にかかわらず、固形製剤化することで、シス型カロテノイド比率50%以上の製剤を得られることがわかった。
【0080】
(2)包接率及び製剤化後のカロテノイドの割合D/C
表2及び表4に示すように、シス型アスタキサンチン含有の固形製剤は、トランス型アスタキサンチン含有の固形製剤よりも包接率及び製剤化後のカロテノイドの割合D/Cが高かった。シス型リコピン含有の固形製剤は、トランス型リコピン含有の固形製剤よりも包接率及び製剤化後のカロテノイドの割合D/Cが高かった。シス型β-カロテン含有の固形製剤は、トランス型β-カロテン含有の固形製剤よりも包接率及び製剤化後のカロテノイドの割合D/Cが高かった。
これらの結果から、シス型カロテノイドを固形製剤化することで、カロテノイドを効率よく製剤に取り込めることが示唆された。
【0081】
(3)保管安定性
図4(A)及び
図5(A)のシス型カロテノイド比率のグラフに示されるように、シス型カロテノイド含有の固形製剤は、3週間以降、シス型カロテノイド比率の低下がほとんどなかった。また、6週間保管後も高いシス型カロテノイド比率(例えば、50%以上)を維持できることが分かった。
【0082】
図4(B)及び
図5(B)のカロテノイド残存率のグラフに示されるように、シス型カロテノイド含有の固形製剤は、6週間保管後も高いカロテノイド残存率を維持できることが分かった。
【0083】
5.実施例の効果
本実施例によれば、シス型カロテノイドを長期間、安定して保管できる技術を提供できた。
【0084】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。