(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152298
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】段差形成治具
(51)【国際特許分類】
B28B 23/02 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
B28B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066410
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】591116885
【氏名又は名称】ジャパンライフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】野村 佳夫三
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晃大
(57)【要約】
【課題】コンクリート製品の吊り上げ操作時にアンカーロッドに係合されるカプラによりコンクリート製品の表面に傷が発生しないようにする。
【解決手段】アンカーロッド1の頭部を露出させるアンカー穴PHに連なってコンクリート製品Pの吊り上げ面Tとアンカー穴との間に段差部を形成する段差形成治具であって、コンクリート製品Pを成型する成型型枠26におけるコンクリート製品の吊り上げ面を形成する表面形成面に突き当てられる接触面7、および段差部を形成する段差面8を備える治具本体6を、有し、治具本体6とセット治具が成型型枠26に配置された状態のもとでコンクリートを打設し、治具本体6によりコンクリート製品に段差部を形成する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカーロッドの頭部を露出させるアンカー穴に連なってコンクリート製品の吊り上げ面と前記アンカー穴との間に段差部を形成する段差形成治具であって、
コンクリート製品を成型する成型型枠におけるコンクリート製品の前記吊り上げ面を形成する表面形成面に突き当てられる接触面、および前記段差部を形成する段差面を備える治具本体と、
前記頭部が組み込まれて前記アンカー穴を形成するアンカー穴形成部および前記アンカー穴形成部に組み込まれる位置決め軸を備えたセット治具における前記位置決め軸が装着されるように、前記治具本体に形成された位置決め穴と、を有し、
前記治具本体と前記セット治具が前記成型型枠に配置された状態のもとで前記成型型枠にコンクリートを打設し、前記治具本体により前記コンクリート製品に前記段差部を形成することを特徴とする段差形成治具。
【請求項2】
前記治具本体は、前記接触面よりも前記段差面が小径であって外周面がテーパ形状の円板であり、中心部に前記位置決め穴が形成された、
ことを特徴とする請求項1記載の段差形成治具。
【請求項3】
前記治具本体は、前記接触面を備えた第1金属板と、前記段差面を備えた第2金属板と、前記第1金属板と前記第2金属板との間に配置される樹脂製基板とを有し、
前記第1金属板の外径は前記第2金属板の外径よりも小径であり、前記樹脂製基板は前記接触面の外周部を形成する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の段差形成治具。
【請求項4】
前記治具本体は、前記接触面を備えた樹脂製板と、前記段差面を備えた金属板とを有する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の段差形成治具。
【請求項5】
前記位置決め軸は、前記成型型枠に形成された取付穴にねじ結合される雄ねじであり、前記位置決め穴は前記雄ねじがねじ結合される雌ねじである、
ことを特徴とする請求項1または2記載の段差形成治具。
【請求項6】
前記治具本体は、前記接触面と前記段差面とを備えた樹脂製基板を有する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の段差形成治具。
【請求項7】
前記治具本体は、樹脂製基板とその外周に設けられた樹脂製の環状カバーとを有する、
ことを特徴とする請求項6記載の段差形成治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製品を吊り上げるためのカプラを配置するようにコンクリート製品に形成されるアンカー穴に連なった段差部を形成する段差形成治具に関する。
【背景技術】
【0002】
PC板(プレキャストコンクリート)などのコンクリート製品をワイヤにより吊り上げるために、コンクリート製品にはアンカーロッドが埋設される。このアンカーロッドの頭部にカプラを係合し、カプラに組付けられた接続片にワイヤを引っ掛けてコンクリート製品を吊り上げるようにしている。
【0003】
特許文献1にはコンクリート製品を吊り上げるための吊り上げ治具が記載されている。この吊り上げ治具は、コンクリート製品に埋設されたアンカーロッドの頭部に係合されるカプラを有し、カプラをアンカーロッドの頭部に係合させるためにコンクリート製品には頭部を外部に露出させるためのアンカー穴が形成される。カプラには接続片が揺動自在に組付けられており、カプラと接続本とにより係止片が形成され、係止片にはワイヤが引っ掛けられ、ワイヤによりコンクリート製品は吊り上げられる。
【0004】
カプラにはアンカーロッドの頭部が開口部から入り込む係合穴とアンカーロッドが貫通する長孔とが形成されており、カプラの係合穴にアンカーロッドの頭部を挿入させた状態で、カプラを回転させてアンカーロッドが長孔の端部を貫通する位置となるようにカプラを位置決めすると、カプラはアンカーロッドの頭部に係合される。作業者がカプラを回転させて係合動作をするために、カプラにはコンクリート製品を吊り上げる支点となる爪部が突設されている。
【0005】
コンクリート製品を吊り上げて所定の据え付け場所にコンクリート製品を搬送して構築した後には、カプラはアンカーロッドの頭部から取り外される。カプラを取り外した後のアンカー穴を覆うために、特許文献2に記載されるように、アンカー穴には閉塞部材が装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-82645号公報
【特許文献2】特開2019-196604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、アンカーロッドにカプラを係合させるときには、開口部から係合穴にアンカーロッドの頭部を挿入させた状態のもとで、爪部を掴んでカプラを回転操作する。この回転操作によって、コンクリート製品の吊り上げ面つまりカプラが取り付けられるコンクリートの表面に爪部が当たることがある。このように、爪部が表面に当たった状態で、コンクリート製品がワイヤで吊り上げられると、爪部がコンクリート製品に突き当てられてコンクリート製品の表面つまり吊り上げ面に傷をつけてしまう。表面に傷が発生すると、構築されたコンクリート製品の品質が低下してしまうので、傷の補修作業を行う必要がある。
【0008】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、コンクリート製品の吊り上げ操作時にアンカーロッドに係合されるカプラによりコンクリート製品の表面に傷が発生しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の段差形成治具は、アンカーロッドの頭部を露出させるアンカー穴に連なってコンクリート製品の吊り上げ面と前記アンカー穴との間に段差部を形成する段差形成治具であって、コンクリート製品を成型する成型型枠におけるコンクリート製品の前記吊り上げ面を形成する表面形成面に突き当てられる接触面、および前記段差部を形成する段差面を備える治具本体と、前記頭部が組み込まれて前記アンカー穴を形成するアンカー穴形成部および前記アンカー穴形成部に組み込まれる位置決め軸を備えたセット治具における前記位置決め軸が装着されるように、前記治具本体に形成された位置決め穴と、を有し、前記治具本体と前記セット治具が前記成型型枠に配置された状態のもとで前記成型型枠にコンクリートを打設し、前記治具本体により前記コンクリート製品に前記段差部を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の本発明の段差形成治具は、請求項1記載の発明において、前記治具本体は、前記接触面よりも前記段差面が小径であって外周面がテーパ形状の円板であり、中心部に前記位置決め穴が形成された、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の段差形成治具は、請求項1または2記載の発明において、前記治具本体は、前記接触面を備えた第1金属板と、前記段差面を備えた第2金属板と、前記第1金属板と前記第2金属板との間に配置される樹脂製基板とを有し、前記第1金属板の外径は前記第2金属板の外径よりも小径であり、前記樹脂製基板は前記接触面の外周部を形成する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の段差形成治具は、請求項1または2記載の発明において、前記治具本体は、前記接触面を備えた樹脂製板と、前記段差面を備えた金属板とを有する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の段差形状治具は、請求項1または2記載の発明において、前記位置決め軸は、前記成型型枠に形成された取付穴にねじ結合される雄ねじであり、前記位置決め穴は前記雄ねじがねじ結合される雌ねじである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンクリート製品をこれに埋設されたアンカーロッドの頭部にカプラを係合させてワイヤにより吊り上げても、コンクリート製品にはアンカー穴に連なって段差部が形成されているので、カプラの爪部によりコンクリート製品の表面に傷が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】比較例として段差形成治具を使用しないで成型されたコンクリート製品の一例を示し、(A)はアンカーロッドにカプラを係合させてワイヤによりコンクリート製品を吊り上げている状態を示す斜視図であり、(B)は(A)の断面図である。
【
図2】カプラと接続片とからなる係止片を示す斜視図である。
【
図3】(A)は本発明の一例である段差形成治具を示す斜視図であり、(B)は段差形成治具の分解斜視図である。
【
図5】他の例である段差形成治具を示す断面図である。
【
図6】(A)はさらに他の例である段差形成治具の接触面側を示す斜視図であり、(B)は段差面側を示す斜視図である。
【
図7】(A)は
図6(A)の平面図であり、(B)は(A)の断面図である。
【
図8】(A)は段差形成治具をアンカーロッドにセットするためのセット治具をアンカーロッドに装着した状態を示す斜視図であり、(B)は(A)の分解図であり、(C)は(A)の断面図であってセットされた段差形成治具が仮想線で示されている。
【
図9】(A)はコンクリート製品を成型するため成型型枠の一例を示す斜視図であり、(B)は成型型枠の表面形成面に段差形成治具を配置した状態を示す斜視図である。
【
図10】(A)は成型型枠にセット治具を装着した状態を示す斜視図であり、(B)は成型型枠にコンクリートを打設した状態を示す斜視図である。
【
図12】(A)は成型型枠から取り出されたコンクリート製品の吊り上げ面側を示す斜視図であり、(B)は段差形成治具が取り外された状態のコンクリート製品を示す斜視図である。
【
図13】(A)はセット治具が取り外された状態のコンクリート製品を示す斜視図であり、(B)は成型完了後のコンクリート製品を示す斜視図である。
【
図14】本発明の段差形成治具を用いて成型されたコンクリート製品のアンカーロッドにカプラを係合させてワイヤによりコンクリート製品を吊り上げている状態を示す斜視図であり、(B)は(A)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
図1は比較例として段差形成治具を使用しないで成型されたコンクリート製品を示す図であり、
図1(A)はアンカーロッドにカプラを係合させてワイヤによりコンクリート製品を吊り上げている状態を示す斜視図であり、
図1(B)は
図1(A)の断面図である。
図2はカプラと接続片とからなる係止片を示す斜視図である。
【0018】
図1に示すコンクリート製品Pには2つのアンカーロッド1が埋設されている。それぞれのアンカーロッド1は、コンクリート製品Pの吊り上げに使用される鋼製のものであり、
図2に示すように、ロッド本体1aと、ロッド本体1aの一方端に設けられてカプラ2が係合つまり引っ掛けられる頭部1bと、他方端に設けられて引き抜き方向の抵抗力を増すためのプレート部1cとを備えている。
【0019】
アンカーロッド1は、コンクリート製品Pに形成された半球形状のアンカー穴PH内に頭部1bが突出した状態でコンクリート製品Pに埋め込まれる。コンクリート製品Pにおいては、アンカー穴PHが開口している面を表面または吊り上げ面Tとする。
【0020】
カプラ2には頭部1bが入り込む係合穴2aが形成されており、頭部1bは係合穴2aに連通して形成された開口部2bから係合穴2aに挿入される。カプラ2にはアンカーロッド1のロッド本体1aが貫通する長孔2cが形成されている。長孔2cはカプラ2をアンカーロッド1に係合させるときの回転方向に沿って延びており、頭部1bが開口部2bから係合穴2aに挿入された状態のもとで、カプラ2を回転させると、長孔2cがロッド本体1aの位置に移動し、頭部1bがカプラ2の内面に突き当たった状態となってカプラ2に係合される。
【0021】
カプラ2のアンカーロッド1に対する係合操作のために、カプラ2には操作用の爪部2dが突設されている。爪部2dがコンクリート製品Pの表面つまり吊り上げ面に突き当てられるまでカプラ2を回転操作すると、アンカーロッド1のロッド本体1aが長孔2cの端部の位置となって、係合操作が終了する。
【0022】
接続片3がカプラ2に組付けられており、接続片3はカプラ2に回転自在に取り付けられる連結部3aと開口部3bが設けられたループ部3cとを有しており、ループ部3cにワイヤWを通してコンクリート製品Pを吊り上げることができる。このように、カプラ2と接続片3とによりコンクリート製品Pを吊り上げるための係止片4が構成される。
【0023】
図1に示すように、爪部2dがコンクリート製品Pの吊り上げ面Tに突き当てられた状態でコンクリート製品Pがワイヤにより吊り上げられると、上述のように、爪部2dによりコンクリート製品Pの表面である吊り上げ面Tに傷がつけられてしまう。爪部2dにより吊り上げ面Tに傷がつけられると、その部分を補修しなければならず、コンクリート製品の構築作業工数が増加してしまう。
【0024】
図3(A)は本発明の一例である段差形成治具を示す斜視図であり、
図3(B)は段差形成治具の分解斜視図であり、
図4は
図3(A)の断面図である。
【0025】
段差形成治具5は全体的に円板形状の治具本体6を備え、治具本体6の一方面は接触面7であり、反対側の面は段差面8である。接触面7は、後述のように、コンクリート製品Pを成型するための成型型枠におけるコンクリート製品の吊り上げ面を形成する表面形成面に突き当てられる。一方、段差面8はコンクリート製品Pの段差部を形成する。段差面8の外径D1は接触面7の外径D2よりも小径であり、治具本体6の外周面9は接触面7から段差面8に向けて小径となったテーパ面である。
【0026】
治具本体6は、円板形状の樹脂製基板10と、この樹脂製基板10の一方面に積層される第1金属板11と、他方面に積層される第2金属板12とを有しており、樹脂製基板10は第1金属板11と第2金属板12との間に配置される。第1金属板11の表面つまり外面は接触面7を構成しており、第2金属板12の表面つまり外面は段差面8を構成している。第1金属板11は樹脂製基板10および第2金属板12よりも小径であり、樹脂製基板10の外周部は第1金属板11の外周面よりも径方向外方に突出しており、樹脂製基板10の突出した部分は、第1金属板11の接触面7に同一面となって連なる接触面を形成している。したがって、治具本体6の接触面7は全体的に平坦な面となっており、接触面側の外周部の角部は樹脂製基板10により形成されており、角部は金属板よりも弾性変形し易い構造である。
【0027】
第2金属板12の内面には複数のナット13が溶接されており、それぞれのナット13に対応させて樹脂製基板10には貫通穴14が形成され、第1金属板11には貫通穴15が形成されている。貫通穴14、15を貫通してナット13にねじ結合されるねじ部材16により、樹脂製基板10の両面には第1金属板11と第2金属板12とが締結される。
【0028】
第2金属板12の中心部には、
図4に示すように、貫通穴17が形成され、貫通穴17と同軸に第2金属板12の内面にはナット18が溶接され、樹脂製基板10にはナット18が挿入される貫通孔18aが形成されている。第1金属板11には貫通穴17と同軸に貫通穴19が形成され、ナット18のねじ穴と貫通穴17、19により位置決め穴20が形成されている。
【0029】
図5は他の例である段差形成治具5を示す断面図である。この段差形成治具5は接触面7が形成された樹脂製板21と、段差面8が形成された金属板22とを備えた治具本体6を有している。段差面8の外径D1と接触面7の外径D2は、
図4に示した治具本体6と同様であり、外周面9はテーパ形状である。樹脂製板21は金属板22に複数本のねじ部材16により取り付けられており、ねじ部材16は金属板22に形成されたねじ穴にねじ結合されている。治具本体6の位置決め穴20はストレートの穴により形成されているが、位置決め穴20のうち金属板22の部分をねじ穴としてもよい。
【0030】
図5に示す段差形成治具5の治具本体6の接触面側の外周角部は樹脂製板21により形成されており、金属板22よりも弾性変形し易い構造である。
【0031】
図6(A)はさらに他の例である段差形成治具の接触面側を示す斜視図であり、
図6(B)は段差面側を示す斜視図である。
図7(A)は
図6(A)の平面図であり、
図7(B)は
図7(A)の断面図である。
【0032】
この段差形成治具5の治具本体6は、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET-G)(本実施の形態では、硬度95A)からなる樹脂製基板10と、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)からなり、樹脂製基板10の外周に設けられた環状カバー10aとからなる。樹脂製基板10の外周面にはV字形状の溝10bが形成されており、環状カバー10aの内周面にはV字形状の溝10bに嵌合される突起部が形成されている。このように、治具本体6を樹脂製基板10と樹脂製の環状カバー10aとを凹凸嵌合させると、環状カバー10aが樹脂製基板10から外れることを確実に防止することができる。環状カバー10aの外周面9は、上述した段差形成治具5と同様に接触面7から段差面8に向けて小径となったテーパ面である。
【0033】
樹脂製基板10の中心部には貫通穴19が形成されており、貫通穴19の内径とほぼ同様のねじ穴を有する金属性のナット18が樹脂製基板10に埋め込まれている。ナット18の端面は、樹脂製基板10の段差面8に露出されており、ナット18のねじ穴と貫通穴19とにより位置決め穴20が形成されている。
【0034】
樹脂製基板10には円周方向に等間隔を隔てて、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET-G)からなる4つの皿ねじ16aが埋め込まれており、皿ねじ16aの平坦な頭部は樹脂製基板10の接触面7に露出している。さらに、樹脂製基板10の外周面には、円周方向に等間隔を隔てて、凹部10cが4個所に形成され、環状カバー10aにはそれぞれの凹部10cに嵌合する突起部が設けられている。これにより、環状カバー10aが樹脂製基板10に対して円周方向にずれることが防止される。なお、
図6および
図7に示す段差形成治具5は、治具本体6を全体的に樹脂材料により形成されているが、樹脂材料に代えて全体的に金属材料により治具本体6を形成するようにしてもよい。
【0035】
図8(A)は段差形成治具をアンカーロッドにセットするためのセット治具をアンカーロッドに装着した状態を示す斜視図であり、
図8(B)は
図8(A)の分解図であり、
図8(C)は
図8(A)の断面図であってセットされた段差形成治具が仮想線で示されている。
【0036】
セット治具23は、アンカー穴形成部24と位置決め軸25とを備えている。アンカー穴形成部24は、ゴム製材料により全体的に半球形状に形成されており、それぞれ断面が半円形状の2つのアンカー穴形成片24a、24bからなり、アンカー穴形成片24a、24bを突き当て面で突き合わせることにより、
図8に示すように、半球形状のアンカー穴形成部24が組み立てられる。位置決め軸25は軸本体部25aとこれの端部に設けられたフランジ部25bとからなる。
【0037】
それぞれのアンカー穴形成片24a、24bには、アンカーロッド1の頭部1bが組み込まれる凹部24cと、位置決め軸25のフランジ部25bが組み込まれる凹部24dとが形成されている。アンカー穴形成部24の半球形状の球面24eによりコンクリート製品Pにはアンカー穴PHが形成され、コンクリート製品を成型するときには、平坦面24fには段差形成治具5が配置される。さらに、位置決め軸25により成型型枠に対するアンカー穴形成部24の位置が設定される。
【0038】
次に、上述した段差形成治具5を用いてコンクリート製品を成型する手順について、
図9~
図13を参照しつつ説明する。なお、図示するコンクリート製品は、あくまでも段差形成治具5の使用形態を説明するためのものであり、段差形成治具5を用いて成型されるコンクリート製品は、図示する形状に制限されるものではない。
【0039】
図9(A)はコンクリート製品を成型するため成型型枠26の一例を示す斜視図であり、
図9(B)は成型型枠26の表面形成面に段差形成治具を配置した状態を示す斜視図である。成型型枠26は底壁26aと側壁26bとを有しており、底壁26aの内面はコンクリート製品Pの表面つまり吊り上げ面Tを形成する表面形成面26cである。一方、側壁26bの内面はコンクリート製品Pの側面Sを形成する。底壁26aには位置決め軸25の軸本体部25aが挿入される取付穴26dが
図9(A)に示すように形成されている。
【0040】
成型型枠26の底壁26aには、
図9(B)に示すように、段差形成治具5が配置される。段差形成治具5は、
図3および
図4に示した段差形成治具であり、接触面7がコンクリート製品の吊り上げ面Tを形成する表面形成面26cに突き当てられ、位置決め穴20が取付穴26dに位置決めされる。
【0041】
図9(B)に示すように、セット治具23には予めアンカーロッド1が組付けられた状態のもとで、
図10(A)に示すように、位置決め軸25が位置決め穴20と取付穴26dとに挿入される。これにより、段差形成治具5の成型型枠26に対する位置が正確に設定される。軸本体部25aを雄ねじとし、取付穴26dと位置決め穴20とを雌ねじとすると、セット治具23により段差形成治具5を強固に成型型枠26に締結することができる。ただし、取付穴26dと位置決め穴20の一方を雌ねじとし、他方をストレートな穴としても良く、両方をストレートな穴としても良い。また、成型型枠26の底壁26aに形成された取付穴26dには軸本体部25aが挿入されるようになっているが、軸本体部25aを段差形成治具5から突出させることなく、軸本体部25aを段差形成治具5のみに挿入されるようにしてもよい。その場合には、段差形成治具5の成型型枠26に対する位置決めのために、段差形成治具5の接触面7に位置決め用の凹凸部を設けるようにしてもよい。
【0042】
図10(A)は成型型枠26にセット治具23を装着した状態を示す斜視図であり、
図10(B)は成型型枠26にコンクリートを打設した状態を示す斜視図であり、
図11は
図10(B)の断面図である。
【0043】
図10(A)に示すように、セット治具23により段差形成治具5が成型型枠26の所定の位置に配置された状態のもとで、
図10(B)に示すように、成型型枠26にコンクリートの材料が打設される。コンクリートの材料は、セメント、骨材、水および混和材料等を混合することにより製造される。成型型枠26にコンクリートの材料を充填し、コンクリートの材料が硬化すると、コンクリート製品Pの打設が完了し、
図11に示すように、コンクリート製品Pが、アンカーロッド1とセット治具23と段差形成治具5が埋め込まれた状態となって成型される。
【0044】
図12(A)は成型型枠26から取り出されたコンクリート製品Pを上下面を反転させてコンクリート製品Pの吊り上げ面T側を示す斜視図であり、
図12(B)は段差形成治具5が取り外された状態のコンクリート製品Pを示す斜視図である。
図13(A)はセット治具23が取り外された状態のコンクリート製品Pを示す斜視図であり、
図13(B)は成型完了後のコンクリート製品Pを示す斜視図である。
【0045】
コンクリート製品Pを成型型枠26から取り出すと、
図12(A)に示すように、コンクリート製品Pには段差形成治具5が付着した状態となっており、この状態のもとで段差形成治具5をコンクリート製品Pから取り外すと、
図12(B)に示すように、アンカー穴形成部24の平坦面24fが露出される。段差形成治具5の外周面9は段差面8側から接触面7に向けて外径が大きくなるようにテーパ形状となっているので、段差形成治具5をコンクリート製品Pから取り出すときに、樹脂製の角部が弾性変形し安く、容易に段差形成治具5をコンクリート製品Pから取り出すことができる。なお、
図9~
図12は、
図3および
図4に示す段差形成治具5を用いてコンクリート製品Pを成形した場合を示しているが、
図5および
図6に示す段差形成治具5を用いても同様の手順により、コンクリート製品を成形することができる。
【0046】
図13(A)に示すようにアンカー穴形成部24をコンクリート製品から取り外すと、
図13(B)に示すように、コンクリート製品に埋設されたアンカーロッド1の頭部1bがアンカー穴PHに露出した状態となって、コンクリート製品Pの吊り上げ面Tには段差部Qがアンカー穴PHに連なった状態で形成される。コンクリート製品Pに形成される段差部Qの表面つまり段差面は、コンクリート打設時に吊り上げ面Tよりも嵩上げされた位置となって形成される。
【0047】
このように、アンカー穴PHに連なってこれの径方向外側に段差部Qが形成されると、アンカーロッド1の頭部1bにカプラ2を係合させてワイヤWでコンクリート製品Pを吊り上げても、コンクリート製品Pの表面つまり吊り上げ面Tには傷が発生することが防止される。
【0048】
図14は本発明の段差形成治具5を用いて成型されたコンクリート製品Pのアンカーロッド1にカプラ2を係合させてワイヤWによりコンクリート製品Pを吊り上げている状態を示す斜視図であり、(B)は(A)の断面図である。
【0049】
図14に示すように、アンカー穴PHに連なって段差部Qが形成され、吊り上げ面Tに対して段差部が嵩上された状態となるので、カプラ2の爪部2dが段差部Qに入り込んだ状態となる。これにより、コンクリート製品Pの吊り上げ面Tに傷が発生することが防止される。
【0050】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0051】
例えば、本発明の段差形成治具5を用いて成型されるコンクリート製品は、アンカーロッド1にカプラ2を装着してワイヤにより吊り上げられるものであれば、図示した形状に限定されることなく、どのような形状のコンクリート製品の成型に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る段差形成治具は、種々の形状のコンクリート製品を成型型枠により成型するために適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 アンカーロッド
1a ロッド本体
1b 頭部
1c プレート部
2 カプラ
2a 係合穴
2b 開口部
2c 長孔
2d 爪部
3 接続片
3a 連結部
3b 開口部
3c ループ部
4 係止片
5 段差形成治具
6 治具本体
7 接触面
8 段差面
9 外周面
10 樹脂製基板
11 第1金属板
12 第2金属板
13 ナット
14、15 貫通穴
16 ねじ部材
16a 皿ねじ
17 貫通穴
18 ナット
19 貫通穴
20 位置決め穴
21 樹脂製板
22 金属板
23 セット治具
24 アンカー穴形成部
24a、24b アンカー穴形成片
24c、24d 凹部
24e 球面
24f 平坦面
25 位置決め軸
25a 軸本体部
25b フランジ部
26 成型型枠
26a 底壁
26b 側壁
26c 表面形成面
26d 取付穴
P コンクリート製品
PH アンカー穴
Q 段差部
S 側面
T 吊り上げ面
W ワイヤ