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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152301
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 17/065 20060101AFI20241018BHJP
   H01C 7/10 20060101ALI20241018BHJP
   H01C 7/02 20060101ALI20241018BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20241018BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01C17/065 500
H01C7/10
H01C7/02
H01C7/04
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 201G
H01G4/30 311E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066416
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雄一
(72)【発明者】
【氏名】関根 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕子
【テーマコード(参考)】
5E001
5E032
5E034
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC04
5E001AD04
5E001AF02
5E001AJ01
5E032BA04
5E032BB01
5E032CC14
5E032DA02
5E034DA07
5E034DC05
5E082AB03
5E082EE04
5E082EE05
5E082EE23
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG04
5E082FG26
5E082GG10
(57)【要約】
【課題】表面実装時に半田に発生するボイドを抑制することができる電子部品を提供すること。
【解決手段】電子部品は、セラミックにより構成される部品本体と、部品本体上に設けられた外部電極とを備える。外部電極の表面は、スズにより形成されており、水酸化スズ(SnO・nHO)の量が100μmol/m以下である。外部電極は、半田により表面実装されるために使用される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックにより構成される部品本体と、
前記部品本体上に設けられた外部電極と、
を備え、
前記外部電極の表面は、スズにより形成されており、
前記外部電極の表面における水酸化スズ(SnO・nHO)の量が100μmol/m以下であり、
前記外部電極が半田により表面実装されるために使用される電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の電子部品であって、
前記外部電極の表面が、PCT処理を実施した場合においても水酸化スズ(SnO・nHO)の量が100μmol/m以下となるような表面である
電子部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子部品であって、
前記外部電極は、下地層を有し、
前記スズは、前記下地層上に設けられている、
電子部品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電子部品であって、
前記外部電極の表面が、スズめっきにより形成されている、
電子部品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電子部品であって、
前記外部電極の表面における水接触角が80°~110°である、
電子部品。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の電子部品であって、
製造後3年以上保管された後に使用される、
電子部品。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電子部品であって、
チップ抵抗器である、
電子部品。
【請求項8】
外部電極が半田により表面実装されるために使用される電子部品の製造方法であって、
セラミックにより構成される部品本体を準備する工程と、
前記部品本体上に前記外部電極を形成する工程であって、スズめっきにより前記外部電極の表面を形成する工程と、
前記外部電極の表面を処理液により処理することにより、水酸化スズ(SnO・nHO)の生成を抑制する工程と、
を備える、
電子部品の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法であって、
前記水酸化スズ(SnO・nHO)の生成を抑制する工程は、水酸化スズ(SnO・nHO)の量を100μmol/m以下に制御する工程を含む、
製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の製造方法であって、
前記水酸化スズ(SnO・nHO)の生成を抑制する工程は、前記外部電極の表面が80~110°の水接触角になるように、前記処理液によって前記外部電極の表面を処理する工程を含む、
製造方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の製造方法であって、
前記水酸化スズの生成を抑制する工程は、前記処理液に前記外部電極を浸漬させる工程を含む、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板上に表面実装される電子部品が知られている。そのような電子部品には、通常、外部電極が設けられる。外部電極は、信頼性良く、半田を介して回路基板上に設けられた配線パターンと接続されることが求められる。
【0003】
上記に関連して、特許文献1には、経時変化によるはんだ付け性劣化を5年以上抑制することができる抵抗器の電極形成方法に関する発明が開示されている。この特許文献1には、少なくとも基板の側面に側面電極を形成し、この側面電極を覆うようにめっき層を形成する抵抗器の電極形成方法において、めっき層を形成した後に、めっき層の表面を第三リン酸ナトリウム水溶液により超音波洗浄する抵抗器の電極形成方法が記載されている。いわゆる中和処理により、めっき表面のめっき液残渣を極めて少なくすることで電極表面の酸化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-321420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、セラミック製の部品本体と、部品本体上に設けられた外部電極とを有し、外部電極の表面がスズにより形成された電子部品について検討を行っている。そして、検討の過程で、このような電子部品においては、半田を介して表面実装する際に半田にボイドが発生する場合があることを見出した。ボイドの発生は、接続信頼性を悪化させ得るから、避けるべきである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、セラミック製の部品本体と、部品本体上に設けられた外部電極とを有し、外部電極の表面がスズにより形成された電子部品において、表面実装時に半田に発生するボイドを抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様において、電子部品は、セラミックにより構成される部品本体と、部品本体上に設けられた外部電極とを備える。外部電極の表面は、スズにより形成されている。外部電極の表面における水酸化スズ(SnO・nHO)の量は、100μmol/m以下である。外部電極は、半田により表面実装されるために使用される。
【0008】
本発明の他の一態様において、電子部品の製造方法は、外部電極が半田により表面実装されるために使用される電子部品の製造方法である。この製造方法は、セラミックにより構成される部品本体を準備する工程と、部品本体上に外部電極を形成する工程であって、スズめっきにより外部電極の表面を形成する工程と、外部電極の表面を処理液により処理することにより、水酸化スズ(SnO・nHO)の生成を抑制する工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
上述した態様によれば、表面実装時に半田におけるボイドの発生を抑制することができる電子部品及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る電子部品を示す斜視図である。
図2図2は、電子部品の概略断面図である。
図3図3は、表面実装された状態の電子部品の端部構成を概略的に示す断面図である。
図4図4は、比較例及び実施例についてボルタンメトリー測定の結果を示すグラフである。
図5図5は、PCT処理前後の水接触角を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る電子部品は、半田を介して表面実装されて使用される電子部品である。この電子部品は、セラミックにより構成される部品本体と、部品本体上に設けられた外部電極とを有する。外部電極の表面は、スズにより形成されている。表面実装時には、外部電極が半田を介して電子基板上に実装される。すなわち、外部電極は、半田により表面実装されるために使用される。
【0012】
ここで、本実施形態における特徴の1つは、外部電極の表面における水酸化スズ(SnO・nHO)の量である。具体的には、外部電極の表面における水酸化スズの量が、100μmol/m以下である。本発明者らの知見によれば、このような構成を採用することにより、表面実装時における半田中のボイドの発生が抑制される。水酸化スズの量が少ないと、水酸化スズの水酸基と半田に含まれる成分(とくに、フラックス成分のカルボキシ基)との反応が抑制され、フラックスの流動性が失われず、その結果ボイドの発生が抑制されるものと考えられる。
【0013】
(1)電子部品
以下に、電子部品がチップ抵抗器である場合を例として、本実施形態に係る電子部品について詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る電子部品1(チップ抵抗器)を示す斜視図である。また、図2は、電子部品1の概略断面図である。
【0014】
図1及び図2に示されるように、電子部品1は、部品本体2、一対の内部電極3、一対の裏面電極4、一対の端面電極5、一対の外部電極6、抵抗体9、及び保護膜10を有している。
【0015】
部品本体2はセラミック製(例えばAl等)である。部品本体2は、絶縁性であり、基板状である。すなわち、部品本体2は、主面2-1、裏面2-2及び端面2-3を有している。図1及び2に示す例において、部品本体2は、厚みが薄い直方体状(主面2-1及び裏面2-2が矩形状)である。ただし、部品本体2は必ずしも直方体状である必要はなく、例えばコイン状(円板状)等であってもよい。
【0016】
抵抗体9は、主面2-1上に設けられている。抵抗体9としては、例えば酸化ルテニウム等を用いることができる。
【0017】
一対の内部電極3は、抵抗体9を挟むように、主面2-1上に設けられている。一対の内部電極3は、それぞれ、抵抗体9に接続されている。
【0018】
一対の裏面電極4は、それぞれ、裏面2-2上に設けられている。
【0019】
一対の端面電極5は、それぞれ、各内部電極3と各裏面電極4とを接続するように設けられている。各端面電極5の一端は、内部電極3上に配置されている。そして、端面電極5は、その一端から、端面2-3を回り込んで裏面2-2に至るように設けられている。各端面電極5は、裏面2-2側で裏面電極4上に位置している。
【0020】
保護膜10は、抵抗体9を保護するために設けられている。すなわち、保護膜10は抵抗体9を被覆するように、主面2-1上に配置されている。なお、内部電極3の一部も、保護膜10によって覆われている。
【0021】
具体的には、保護膜10は、ガラス保護膜10-2と、樹脂保護膜10-1とを有している。ガラス保護膜10-2は抵抗体9を覆うように設けられている。樹脂保護膜10-1は、ガラス保護膜10-2を覆うように設けられている。
【0022】
一対の外部電極6は、それぞれ、各端面電極5を覆うように設けられている。各外部電極6の一端は主面2-1上に位置しており、他端は裏面2-2上に位置している。詳細には、各外部電極6は、主面2-1から端面2-3を回り込んで裏面2-2に至るように延びている。
【0023】
各外部電極6は、表面実装時に半田と接触する部分である。従って、外部電極6の表面は、露出している。
【0024】
各外部電極6は、下地層7と、下地層7上に設けられたスズめっき層8とを有している。下地層7は、例えば、ニッケルめっき層である。下地層7の厚みは、例えば、1~20μm、好ましくは2~10μmである。また、スズめっき層8の厚みは、例えば1~20μm、好ましくは2~10μmである。
【0025】
なお、本明細書におけるスズめっき層8は、実質的にスズからなる層である。具体的には、スズめっき層8におけるスズの含有量は、例えば98質量%以上であり、好ましくは99質量%以上である。外部電極6の表面がこのような組成を有するスズめっき層8により形成されている場合、特段の対策をしなければ、外部電極表面に水酸化スズが形成され、水酸化スズの水酸基がフラックスと反応することで表面実装時のボイド発生が問題となり得る。しかしながら、本実施形態によれば、水酸化スズの量が特定の値以下とされるため、ボイド発生を抑えることができる。なお、本実施形態の通り水酸化スズの量を抑制することは、水起因の劣化に効果があるため、とくに水酸化しやすい外部電極表面がスズからなる層で構成された電子部品に好適である。
【0026】
続いて、電子部品1の表面実装方法について説明する。図3は、表面実装された状態の電子部品1の端部構成を概略的に示す断面図である。図3に示される例では、電子部品1が、回路基板11上に実装されている。具体的には、回路基板11上には配線パターンが形成され、ランド12が設けられている。表面実装時には、ランド12上に半田ペーストが印刷または塗布される。そして、外部電極6が半田ペーストに接するように、回路基板11上に電子部品1が搭載される。その後、リフロー処理が行われる。これにより、図3に示されるように、外部電極6が半田13を介してランド12に接続される。なお、リフロー後は、スズめっき層8は溶融するため、スズめっき層8と半田13との境界は区別されなくなる。
【0027】
上述のような構成を有するチップ抵抗器は、内部電極3、裏面電極4や下地層7の表面粗さによりスズめっき層8の表面も追従して粗くなり、またスズめっき層8は半田による表面実装時に半田に溶融することから、下地層7の表面の粗さがボイドの外部への抜けにくさに影響する。さらに、スズめっき層8の内部に複数の層(内部電極3、裏面電極4、端面電極5、下地層7)が重なっており、これらの重なりによって表面に数μm~数十μm程度の高低差がある。その場合、リフロー時に半田13内にボイドが発生すると、発生したボイドは高低差により生じた凹凸で、より外部に抜けにくい。従って、チップ抵抗器においては、他の電子部品(コンデンサやバリスタ等)と比べて表面実装時におけるボイドの抑制が、より強く望まれる。本実施形態に係る電子部品1は、このような要請に答えることができるため、チップ抵抗器において特に有用である。
【0028】
続いて、外部電極6の表面状態について詳細に説明する。
【0029】
既述の通り、外部電極6の表面における水酸化スズの量は、100μmol/m以下であればよい。好ましくは、外部電極6の表面における水酸化スズの量は、90μmol/m以下、より好ましくは85μmol/m以下である。なお、外部電極6の表面における水酸化スズの量は、後述する実施例において説明する方法により測定することができる。
【0030】
好ましくは、外部電極6の表面は、80~110°の水接触角を有している。より好ましくは、外部電極6の表面の水接触角は、90~110°である。水接触角がこのような範囲にあれば、長期にわたり、水酸化スズの形成を抑えることができる。その結果、長期にわたり、表面実装時におけるボイドの発生を抑制することができる。例えば、80~110°の水接触角を有していることにより、PCT処理(121℃、2atm、5時間、湿度=不飽和100%)により加速寿命試験を行った場合においても、水酸化スズの量が100μmol/m以下となるような表面を実現することができる。また、製造後3年以上、あるいは製造後5年以上保管した後にも使用することのできる電子部品1を得ることができる。なお、水接触角は、後述する実施例において説明する方法により測定することができる。
【0031】
好ましくは、外部電極6の表面は、PCT処理(121℃、2atm、5時間、湿度=不飽和100%)の前後における水接触角の変化率(PCT処理前の水接触角を100%とした場合における、PCT処理前後の水接触角の変化量)が、±10%以内である。尚、PCT処理の条件は一例であって、本発明が制限されるものではない。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、外部電極6の表面が特定の状態を有していることにより、スズめっき8層表面の水酸化が抑制され、半田表面実装におけるボイドの発生を抑制することができる。また、本実施形態によれば、スズめっき8層表面の酸化も抑制することができる。すなわち、スズめっき層8表面の酸化と水酸化の両方が抑制され、スズめっき層8の変色と半田表面実装におけるボイドの発生の効果を両立させることができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、ボイドの発生が長期間抑制されるので、例えば製造後3年以上保管された後であっても接続信頼性を維持して表面実装が可能である。電子部品を廃棄する必要がなく、廃棄量の低減につながる。
【0034】
なお、本実施形態では、電子部品1がチップ抵抗器である場合について説明したが、本発明はチップ抵抗器に限定されるものではなく、コンデンサやバリスタなど、部品本体がセラミックにより構成された電子部品であれば、適用できる。
【0035】
(2)電子部品の製造方法
上述した構成を有する電子部品1は、特定の製造方法を採用することにより、得ることができる。以下に、本実施形態に係る電子部品1の製造方法について、一例を挙げつつ説明する。
【0036】
まず、部品本体2を用意する。具体的には、部品本体2として、複数のチップ抵抗器を作製するための大型の絶縁基板を用意する。そして、部品本体2に、最終的に個片のチップ抵抗器に分割するための分割用溝を形成する。
【0037】
続いて、部品本体2の主面2-1及び裏面2-2における所定位置に、内部電極3及び裏面電極4を形成する。内部電極3及び裏面電極4は、例えば、銀系ペーストをスクリーン印刷し、焼成することにより、形成することができる。
【0038】
続いて、部品本体2の主面2-1上に、内部電極3の一部に重ねて抵抗体9を形成する。抵抗体9は、例えば、酸化ルテニウム等の構成材料を含むペーストをスクリーン印刷し、焼成することにより、形成することができる。なお、内部電極3及び裏面電極4の形成は抵抗体9の後でもよく、その場合は抵抗体9の端部に内部電極3の一部を重ねて電気的に接続させる。
【0039】
続いて、抵抗体9と内部電極3の一部とを覆うように、ガラス保護膜10-2を形成する。
【0040】
続いて、レーザー等によって抵抗体9の一部にトリミング溝(切れ込み)を形成し、抵抗体9の抵抗値を所望の値になるように調整する。
【0041】
続いて、ガラス保護膜10-2を覆うように樹脂保護膜10-1(例えばエポキシ樹脂)を形成する。
【0042】
続いて、部品本体2に端面2-3が形成されるように、部品本体2を短冊状に分割する。
【0043】
続いて、部品本体2の端面2-3に、NiCr合金材をスパッタリングし、端面電極5を形成する。
【0044】
続いて、部品本体2を個片状となるように分割する。
【0045】
続いて、端面電極5上に外部電極6を形成する。具体的には、まず、端面電極5上に、下地層7を形成する。下地層7は、例えば、電解ニッケルめっきにより、形成することができる。続いて、下地層7上に、スズめっき層8を形成する。スズめっき層8は、例えば、電解めっきにより、形成することができる。スズめっき層8の形成後、外部電極6を水洗し、乾燥させる。これにより、外部電極6が形成される。
【0046】
乾燥後のスズめっき層8の表面(外部電極6の表面でもある)における水接触角は、通常、80°未満である。そこで、外部電極6の表面を、水接触角が80~110°となるように、処理液により処理する。この際、例えば、処理液としてメタスHB-15(ユケン工業株式会社製)を用いることにより、外部電極6の表面の水接触角を80~110°にすることができる。水接触角が80~110°になるように表面を処理することによって、その後の水酸化スズの生成を抑制することができる。すなわち、表面における水酸化スズの量が100μmol/m以下に制御された外部電極6を得ることができる。
【0047】
なお、処理液による処理は、浸漬法でもよいし、スプレー法でもよい。好ましくは、電子部品1(とくに外部電極6)の表面に均一に処理液を接触させることができる浸漬法である。すなわち、処理液を含む薬液に外部電極6を浸漬させることが好ましい。
【実施例0048】
以下、本発明をより詳細に説明するため、発明者によって行われた実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0049】
(比較例1)
比較例1に係る電子部品として、図1及び図2に示した構成を有するチップ抵抗器を得た。具体的には、セラミックス製の部品本体上に、抵抗体、保護膜、内部電極、裏面電極、及び端面電極が形成されたサンプルを準備した。サンプルの準備後、バレルめっきにより、下地層としてニッケルめっき層を形成した。具体的には、部品本体と通電助剤であるダミーボールとをバレル内に投入し、バレルを回転させながら、ニッケルめっき(20A、25分)を行った。めっき浴としては、添加剤不使用のワット浴を用いた。下地層の膜厚は、約8μmであった。続けて、バレルめっきにより、下地層上にスズ電解めっき(7A、15分)を行い、厚さ約5μmのスズめっき層を形成した。スズめっき浴としては、メタンスルホン酸系の半光沢浴を使用した。これにより、外部電極を形成した。スズめっき後、室温の水により、外部電極の表面を水洗した。水洗後、70℃で10分間乾燥処理を行った。これにより、比較例1に係る電子部品を得た。
【0050】
(比較例2)
スズめっき後、比較例1と同様に室温の水により水洗した。更に、外部電極の表面を、50℃の第三リン酸ナトリウム水溶液(10g/L)により、60秒間処理した。処理後、水洗を行い、更に、70℃で10分間乾燥処理を行った。これにより、比較例2に係る電子部品を得た。
【0051】
(実施例1)
スズめっき後、比較例1と同様に室温の水により水洗した。水洗後、外部電極の表面を、処理液(ユケン工業株式会社製 メタスHB-15、5ml/L)により、室温で60秒処理した。具体的には、処理液に外部電極を浸漬させることにより、外部電極を処理した。処理後、水洗を行い、更に、70℃で10分間乾燥処理を行った。これにより、実施例1に係る電子部品を得た。
【0052】
(実施例2)
処理液を試作品HB-30(5ml/L)に変更した。その他は実施例1と同様の方法を用いて、実施例2に係る電子部品を得た。なお、試作品HB-30は、「ユケン工業株式会社製 メタスHB-15」に含まれる成分を一部変更したものである。
【0053】
(実施例3)
実施例2と同様に、処理液として試作品HB-30を用いた。ただし、濃度を(20ml/L)に変更した。その他は実施例2と同様の方法を用いて、実施例3に係る電子部品を得た。
【0054】
(実施例4)
実施例3と同様に、処理液として試作品HB-30(20ml/L)を用いた。ただし、処理液の温度を50℃とした。その他は実施例3と同様の方法を用いて、実施例4に係る電子部品を得た。
【0055】
(実施例5)
処理液による処理温度を50℃とした。その他は実施例1と同様の方法を用いて、実施例5に係る電子部品を得た。
【0056】
(PCT処理後の水酸化スズ量の測定)
比較例及び実施例に係る電子部品について、PCT処理を行った。具体的には、121℃、2atmの雰囲気(湿度=不飽和100%%)において5時間、電子部品を放置した。なお、このPCT処理は、1時間が概ね1年に相当する加速寿命試験である。PCT処理の条件は一例であって、本発明が制限されるものではない。
【0057】
PCT処理後、文献(アンモニア緩衝液を電解液に用いるボルタンメトリーによるスズ酸化被膜の化学状態分析、中山ら、材料と環境 62巻、p.16-21、(2013))に記載の方法に従って、外部電極の表面における水酸化スズの量を測定した。具体的には、北斗電工製の電気化学測定装置(HZ-3000)を用いて、ボルタンメトリー測定により、SnO・nHOの還元(SnO・nHO+2HO+4e→Sn+nHO+4OH)量を測定した。作用極に外部電極がスズめっきであるチップ抵抗器を使用し、参照電極としてAg/AgCl電極を使用し、対極としてPt/Ti板を使用し、3電極方式で測定した。アンモニア緩衝液(0.5M NHOH+0.5MNHCl)を使用し、掃引速度20mV/sで、-06V→-1.8V→-0.6Vと電位を掃引する事を2サイクル行った。なお、ボルタンメトリー測定の結果を図4に示す。そして、上記の文献よりSnO・nHOの還元が生じるとされる-1.4V~-1.8Vの間において、1サイクルと2サイクル(SnO・nHOの除去後)の電気量の差分より、SnO・nHO量を算出した。
【0058】
具体的には、-1.4V~-1.8Vの範囲において電流密度の差分の積分値を求めることにより、単位面積当たりの電気量の差分[C/m]を求めた。ここで、ファラデーの電気分解の法則より、物質量は、電気量、イオン価数、及びファラデー定数を用いて、下記式1により求められる。
(式1)物質量[mol]=(電気量[C])/(イオン価数×ファラデー定数[C/mol])
上述の水酸化スズの形成反応においては、イオン価数が4である。また、ファラデー定数は、96485[C/mol]である。よって、下記式2により、単位面積当たりの電気量の差分[C/m]から、単位面積当たりの水酸化スズの量[mol/m]を求めた。
(式2)水酸化スズ量[mol/m]=(電気量の差分[C/m])/(4×96485[C/mol])
【0059】
なお、具体的な測定例を挙げるとすると、比較例1においては、単位面積当たりの電気量の差分が277.6[C/m]であった。そのため、277.6[C/m]/(4×96485[C/mol])=719μmol/mにより、単位面積当たりの水酸化スズの量を719μmol/mとして求めた。その他の比較例及び実施例についても、同様の方法により水酸化スズの量を求めた。
【0060】
(PCT処理後のボイド発生率の測定)
PCT処理後の比較例及び実施例に係る電子部品について、表面実装時のボイド率を測定した。具体的には、金メッキ処理されたランドを有する回路基板を準備した。そして、ランド上に、半田ペーストを塗布した。次いで、卓上マウンターを用いて、外部電極が半田ペーストに接するように、電子部品を回路基板上に搭載した。次いで、ピーク温度245℃でリフロー処理を行った。リフロー処理の終了後、X線顕微鏡を用いて半田を観察し、電極面積に対するボイド部分の面積を、ボイド発生率として求めた。
【0061】
(PCT処理前後における水接触角の測定)
チップ抵抗器に代えて、アルミナ製の基板の裏面全面に、裏電極として焼成Agが印刷されたサンプルを準備した。そして、裏電極上に、比較例1及び実施例4~5と同様の条件でニッケルめっき、スズめっき、及び後処理を実施し、外部電極を形成した。得られたサンプルを、およそ1×5cmにカットした。そして、得られたサンプルについて、PCT処理(121℃、2atm、湿度=不飽和100%%、5時間)前後の水接触角を測定した。水接触角の測定は、JISR3257(静滴法)の記載を参考に行った。具体的には、まず、電極表面の凹凸に吸着した気泡を除去するために、超音波洗浄(200W、35kHz、10分)を実施した。超音波洗浄後、協和界面科学製DMo-502を用い、水の滴下量を2μLとし、滴下1秒後の水接触角をθ/2法で測定した。本測定に使用したサンプルは、チップ抵抗器ではない点で、水酸化スズ量等の測定に使用したものとは異なっているが、外部電極の作成方法及びその処理方法においては変更の無いものであるから、本測定の結果を、比較例1及び実施例4~5の水接触角の結果とした。なお、各比較例及び実施例については、複数回測定を繰り返し、最小値、最大値、及び平均値を求めた。
【0062】
(結果及び考察)
水酸化スズ量、及びボイド発生率の測定結果を表1に示す。表1に示されるように、水酸化スズ量が100μmol/m以下である実施例1~5においては、水酸化スズ量が100μmol/mを超える比較例1及び2よりもボイド発生率が低かった。すなわち、外部電極の表面における水酸化スズ量が100μmol/m以下に制御されていることにより、ボイド発生率が低減できることが確認された。
【0063】
また、図5に、比較例1及び実施例4~5についてのPCT処理前後の水接触角の結果を示す。PCT処理前の水接触角に関して、比較例1においては80°未満であったのに対し、実施例4~5においては80~110°の範囲内であった。この結果から、水接触角が80~110°の範囲内となるように外部電極の表面を処理することによって、長期にわたり水酸化スズの形成が抑制され、その結果ボイド発生率を長期にわたり低減できることが理解できる。また、比較例1においては、PCT処理前後で水接触角が大きく変化し、その変化率は±10%を超えていた。これに対して、実施例4及び5においては、PCT処理前後における水接触角の変化率は±10%以内であり、変化率が小さかった。
【0064】
なお、比較例1,2については、PCT処理後にわずかに変色が始まったのが目視で確認できたのに対し、実施例1~5はPCT処理後も変色していなかった。
【0065】
【表1】
【符号の説明】
【0066】
1・・・電子部品、2・・・部品本体、3・・・内部電極、4・・・裏面電極、5・・・端面電極、6・・・外部電極、7・・・下地層、8・・・スズめっき層、9・・・抵抗体、10・・・保護膜、11・・・電子基板、12・・・ランド、13・・・半田
図1
図2
図3
図4
図5