(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152356
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】加工条件シミュレーション装置、ギヤスカイビング加工装置および加工条件シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
B23F 23/12 20060101AFI20241018BHJP
B23F 5/16 20060101ALI20241018BHJP
G05B 19/4069 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B23F23/12
B23F5/16
G05B19/4069
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066503
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】余湖 健志
【テーマコード(参考)】
3C025
3C269
【Fターム(参考)】
3C025AA01
3C025AA12
3C025HH01
3C025HH07
3C269AB06
3C269BB03
3C269EF02
3C269EF20
3C269MN41
(57)【要約】
【課題】ギヤスカイビング加工装置を用いて歯車を加工する際の加工精度を十分に確保しつつビビリの発生を抑制することができる加工条件をシミュレーションすることが可能な加工条件シミュレーション装置および加工条件シミュレーション方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる加工条件シミュレーション装置の構成は、複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する加工条件シミュレーション装置であって、ギヤスカイビング加工装置のカッタの工具回転角ごとに、切削抵抗によってカッタの左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算する回転トルク算出部210と、左刃面が受ける回転トルクと右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定する切込量設定部220と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤスカイビング加工装置を用いて複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する加工条件シミュレーション装置であって、
前記ギヤスカイビング加工装置のカッタの工具回転角ごとに、切削抵抗によって該カッタの左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算する回転トルク算出部と、
前記左刃面が受ける回転トルクと前記右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定する切込量設定部と、
を備えることを特徴とする加工条件シミュレーション装置。
【請求項2】
複数回のパスで歯車を創成するギヤスカイビング加工装置であって、
スカイビングカッタを用いた加工の動作を制御する制御部と、
前記制御部に加工条件を設定する加工条件シミュレーション装置とを備え、
前記加工条件シミュレーション装置は、
補正前の加工条件が入力される入力部と、
前記ギヤスカイビング加工装置のカッタの工具回転角ごとに、切削抵抗によって該カッタの左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算する回転トルク算出部と、
前記左刃面が受ける回転トルクと前記右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定する切込量設定部と、
前記切込量設定部が設定した切込量によって補正した加工条件を前記制御部に出力する出力部と、
を備えることを特徴とするギヤスカイビング加工装置。
【請求項3】
ギヤスカイビング加工装置を用いて複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する加工条件シミュレーション方法であって、
前記ギヤスカイビング加工装置のカッタの工具回転角ごとに、切削抵抗によって該カッタの左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算し、
前記左刃面が受ける回転トルクと前記右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定することを特徴とする加工条件シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤスカイビング加工装置を用いて複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する加工条件シミュレーション装置、ギヤスカイビング加工装置および加工条件シミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車を創成する加工法として、スカイビング加工が知られている。スカイビング加工は、工作物の回転と工具の回転とを同期させつつ、工作物の回転軸に対して工具の回転軸を傾けて行われる。これによって、工作物の回転方向と工具の回転方向とに差異が生じ、工作物に工具を干渉させた際に“すべり”が生じる。このすべりを利用して工作物から干渉部分をそぎ落とし、工作物に歯溝などを加工する。
【0003】
スカイビング加工において歯車を創成する際には、ビビリと称される微小振動が加工面において発生することがある。ビビリが発生すると、ワークの加工精度が低下したり、加工効率が低下してしまったりする。そこで例えば特許文献1には、「前記工作物の回転速度を制御する工作物回転速度制御部と、前記スカイビングカッタの回転速度を制御する工具回転速度制御部とを有する制御装置」を備えた歯車加工装置が開示されている。
【0004】
特許文献1の歯車加工装置では、前記工作物回転速度制御部は、前記スカイビングカッタにより前記工作物を加工する際中に、前記工作物の回転速度を反復的に増減させる。前記工具回転速度制御部は、前記スカイビングカッタにより前記工作物を加工する際中に、前記スカイビングカッタの回転速度を反復的に増減させ、反復的に増減される前記工作物の回転速度に前記スカイビングカッタの回転速度を同期させる。
【0005】
特許文献1によれば、「スカイビングカッタにより工作物に歯車を形成(創成)する際に、スカイビングカッタが工作物に接触する周期が不規則となる。これにより、スカイビングカッタ及び工作物の回転速度が変動せずに一定である場合と比べて、工作物に発生するびびり振動の増幅が抑制される」としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1のように工作物の加工中にスカイビングカッタや工作物の回転速度を一定の周波数で増減させると、スカイビング加工におけるワークと工具との回転同期精度が低下し、加工精度の悪化を招く可能性がある。このため特許文献1の技術には更なる改善の余地があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、ギヤスカイビング加工装置を用いて歯車を加工する際の加工精度を十分に確保しつつビビリの発生を抑制することができる加工条件をシミュレーションすることが可能な加工条件シミュレーション装置、ギヤスカイビング加工装置および加工条件シミュレーション方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明にかかる加工条件シミュレーション装置の代表的な構成は、ギヤスカイビング加工装置を用いて複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する加工条件シミュレーション装置であって、ギヤスカイビング加工装置のカッタの工具回転角ごとに、切削抵抗によってカッタの左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算する回転トルク算出部と、左刃面が受ける回転トルクと右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定する切込量設定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために本発明にかかるギヤスカイビング加工装置の代表的な構成は、複数回のパスで歯車を創成するギヤスカイビング加工装置であって、スカイビングカッタを用いた加工の動作を制御する制御部と、制御部に加工条件を設定する加工条件シミュレーション装置とを備え、加工条件シミュレーション装置は、補正前の加工条件が入力される入力部と、ギヤスカイビング加工装置のカッタの工具回転角ごとに、切削抵抗によってカッタの左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算する回転トルク算出部と、左刃面が受ける回転トルクと右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定する切込量設定部と、切込量設定部が設定した切込量によって補正した加工条件を制御部に出力する出力部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために本発明にかかる加工条件シミュレーション方法の代表的な構成は、ギヤスカイビング加工装置を用いて複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する加工条件シミュレーション方法であって、ギヤスカイビング加工装置のカッタの工具回転角ごとに、切削抵抗によってカッタの左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算し、左刃面が受ける回転トルクと右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ギヤスカイビング加工装置を用いて歯車を加工する際の加工精度を十分に確保しつつビビリの発生を抑制することができる加工条件をシミュレーションすることが可能な加工条件シミュレーション装置、ギヤスカイビング加工装置および加工条件シミュレーション方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のギヤスカイビング加工装置について説明する図である。
【
図2】本実施形態の加工条件シミュレーション装置を説明する図である。
【
図3】スカイビングカッタによるワークの左右歯面の切込量について説明する図である。
【
図4】工具回転角および工具刃の位置と切り屑厚みとの関係について説明する図である。
【
図5】工具回転角および工具刃の位置と有効すくい角との関係について説明する図である。
【
図6】本実施形態のシミュレーション方法における工具回転角ごとの工具回転トルクについて説明する図である。
【
図7】従来の歯車加工方法における工具回転角ごとの工具回転トルクについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0015】
図1は、ギヤスカイビング加工装置100について説明する図である。
図1に示すように、ギヤスカイビング加工装置100は、回転するスカイビングカッタ110によって工作物(ワーク120)にスカイビング加工を施す工作機械である。スカイビングカッタ110は、ホルダ102を介して工具主軸(不図示)に取り付けられている。ワーク120は、チャック104に保持され、スカイビングカッタ110に同期して回転しながら加工が施される。
【0016】
特に
図1では、ギヤスカイビング加工装置100の稼働の際の姿勢を例示している。切削加工を行う際には、制御部130は、スカイビングカッタ110およびチャック104を制御し、ワーク120はワーク軸A1を中心として所定の回転数で回転し、且つスカイビングカッタ110も工具軸A2を中心として所定の回転数で回転する。そしてワーク軸A1、工具軸A2が成す角度である交差角γ(後述する第1加工工程の場合)を保持した状態で、スカイビングカッタ110を
図1に示す上方向から下方向へ送ることでワーク120がスカイビング加工されて歯車が製造される。通常、一度の切削では所望の深さを切削できないため、複数回の切削工程(パス)が行われる。
【0017】
図2は、本実施形態の加工条件シミュレーション装置(以下、シミュレーション装置200と称する)を説明する図である。本実施形態のシミュレーション装置200は、ギヤスカイビング加工装置100を用いて複数回のパスでワーク120を加工して歯車を創成する際の加工条件をシミュレーションする。入力部230からは、シミュレーションのための諸条件が入力される。諸条件としては、ワークの諸元(モジュール、圧力角、ねじれ角、歯数、歯幅、材質など)、工具の仕様(交差角、ねじれ角、歯数、材質など)、補正前の加工条件(パス数、工具回転数、送り量、切込量など)を入力する。
【0018】
図2に示すようにシミュレーション装置200は、回転トルク算出部210および切込量設定部220を備える。回転トルク算出部210は、ギヤスカイビング加工装置100のスカイビングカッタ110の工具回転角ごとに、切削抵抗によってスカイビングカッタ110の左刃面および右刃面が受ける回転トルクを計算する。切込量設定部220は、左刃面が受ける回転トルクと右刃面が受ける回転トルクが均等に近づくように、またはそれらの回転トルクの変動量が小さくなるように、各パスの左右の切込量を設定する。そして切込量設定部220が設定した切込量によって補正した加工条件を、出力部240からギヤスカイビング加工装置100の制御部130に出力する。
【0019】
本実施形態において、入力された諸条件に対してシミュレーション装置200が変更を加えるのは、各パスの左右の切込量(スカイビングカッタ110とワーク120の同期位相のずれによって実現する)である。なお、本実施形態においては半径方向(歯溝の深さ方向)の切込量は変更しない。
【0020】
図3は、スカイビングカッタ110によるワーク120の左右歯面の切込量について説明する図である。
図4は、工具回転角および工具刃の位置と切り屑厚みとの関係について説明する図である。
図5は、工具回転角および工具刃の位置と有効すくい角との関係について説明する図である。
図4および
図5において、工具刃(スカイビングカッタ110の刃112)の数値は、刃112の左刃面112a(L-FLANK)、刃112の刃先112c(L-R、TOP、R-R)、刃112の右刃面112b(R-FLANK)を所定間隔ごとにナンバリングした番号である。なお
図4,5はシミュレーション結果の一例である。
【0021】
まず従来の加工条件について、
図3(b)、
図4、
図5を用いて説明する。
図3(b)は、従来の加工条件における切込量について説明する図である。従来の加工条件では、
図3(b)に示すようにnパス目では、スカイビングカッタ110の刃112をワーク120の歯溝122の中心に配置して、スカイビングカッタ110の刃112の左刃面112aおよび右刃面112bの切込量(取り代)が均等になるように切削している。また従来の加工条件では、n+1パス目およびn+2パス目もnパス目と同様にスカイビングカッタ110の刃112の左刃面112aおよび右刃面112bの切込量が均等になるように切削する。
【0022】
図4(a)は、スカイビングカッタ110として外歯用工具を用いた場合の切り屑厚みを示している。スカイビングカッタ110が外歯用工具であった場合(外歯車を創成する場合)、
図4(a)に示すように工具回転角が-2.5°から-12.5°の範囲では、スカイビングカッタ110の刃112の刃先112cと右刃面112bとの境界(角部)である位置17(入り側の歯先の角周辺)における切り屑厚みが最も大きい。ただし工具回転角が2.5°のとき、刃112の右刃面112bの位置29(入り側の歯面の裾あたり)の切り屑厚みが大きくなっている。
【0023】
図4(b)は、スカイビングカッタ110として内歯用工具を用いた場合の切り屑厚みを示している。スカイビングカッタ110が内歯用工具であった場合(内歯車を創成する場合)も、
図4(b)に示すように工具回転角が5.0°から30.0°の範囲では、スカイビングカッタ110の刃112の刃先112cと右刃面112bとの境界である位置17(入り側の刃先112cの角周辺)における切り屑厚みが最も大きい。ただし-5.0°から5.0°の間では、位置13、14(抜け側の刃先112cの角周辺)における切り屑厚みが大きくなっている。
【0024】
これらのことから、ワーク120の歯溝122とスカイビングカッタ110の刃112はすべての位置において均等に接触しているのではなく、スカイビングカッタ110の刃112の位置ごとに切り屑厚みが異なることがわかる。すなわち、左右の切込量(取り代)が均等になるように設定しても、詳細に観察すれば部分的には左右の切り屑厚みが異なってくることがわかる。刃112の左右で切り屑厚みが異なると切削抵抗(回転トルク)も刃112の左右で変動(トルク変動)が大きくなるため、びびりの原因となってしまう。
【0025】
図5(a)は、スカイビングカッタ110として外歯用工具を用いた場合の有効すくい角とを示している。
図5(b)は、スカイビングカッタ110として内歯用工具を用いた場合の有効すくい角を示している。
【0026】
スカイビングカッタ110が外歯用工具であった場合(外歯車を創成する場合)、
図5(a)に示すように、工具回転角が2.5°から-2.5°の範囲では、スカイビングカッタ110の刃112の右刃面112bの位置29や位置30(入り側の刃面の裾あたり)において有効すくい角が最も小さい(負のすくい角となっている)。工具回転角が-7.5°から-17.5°の範囲では、スカイビングカッタ110の刃112の刃先112cと右刃面112bとの境界である位置17において有効すくい角が最も小さい。
【0027】
スカイビングカッタ110が内歯用工具であった場合(内歯車を創成する場合)、
図5(b)に示すように、工具回転角が0.0°から5.0°の範囲では、スカイビングカッタ110の刃112の右刃面112bの位置28の有効すくい角が最も小さい。工具回転角が10.0°から30.0°の範囲では、スカイビングカッタ110の刃112の刃先112cと左刃面112aの境界近傍の位置13や位置14の有効すくい角が最も小さい。
【0028】
上述した有効すくい角が正の値である場合はスカイビングカッタ110の刃112とワーク120の歯溝122とがなす角は鋭角となり、切削抵抗が小さくなる。一方、有効すくい角が負の値である場合はスカイビングカッタ110の刃112とワーク120の歯溝122とがなす角は鈍角となり、切削抵抗が大きくなる。すなわち、左右の切込量(取り代)が均等になるように設定しても、詳細に観察すれば工具(スカイビングカッタ110)が工作物に入ってから抜けるまでの間に有効すくい角が変化する。刃112の左右で有効すくい角が異なると切削抵抗(回転トルク)も歯の左右でトルク変動が大きくなるため、びびりの原因となってしまう。
【0029】
上記説明したように、
図4(a)および(b)に例示した切り屑厚みの変化、ならびに
図5(a)および(b)に例示した有効すくい角の変化はスカイビングカッタ110の刃112の回転トルク(トルク変動)に影響を及ぼす。そこで本発明は、回転トルクを指標として、スカイビングカッタ110の刃112の左右の切込量を設定(調節)する。本実施形態のシミュレーション方法について、
図3(a)、
図6および
図7を用いて説明する。
【0030】
図3(a)は、本実施形態の加工条件シミュレーション方法(以下、単にシミュレーション方法)によって設定された加工条件における切込量について例示する図である。本実施形態では、スカイビングカッタ110の刃112の左刃面112aと右刃面112bの切込量をパスごとに調節する。
図3(a)の例では、n+1パス目の右刃面112bの切込量を小さくし、左刃面112aの切込量を大きくしている。これに伴い、n+2パス目は右刃面112bの切込量が大きく、左刃面112aの切込量が小さくなっている。
【0031】
図6は、本実施形態のシミュレーション方法における工具回転角ごとの工具回転トルクについて説明する図である。
図6(a)は、本実施形態のシミュレーション方法における工具回転角およびスカイビングカッタ110の刃112の工具回転トルクを示す図である。
図6(b)は、本実施形態のシミュレーション方法における工具回転トルクと工具回転角との関係を示す図である。
【0032】
図7は、従来の歯車加工方法における工具回転角ごとの工具回転トルクについて説明する図である。
図7(a)は、従来の歯車加工方法における工具回転角およびスカイビングカッタ110の刃112の工具回転トルクを示す図である。
図7(b)は、従来の歯車加工方法における工具回転トルクと工具回転角との関係を示す図である。なお
図6,7はシミュレーション結果の一例である。
【0033】
図7に示す従来の加工条件では、n+1パス目およびn+2パス目もnパス目と同様にスカイビングカッタ110の刃112の左刃面112aおよび右刃面112bの切込量が均等(切込み中央)になるように切削する(
図3(b)参照)。このとき
図7(a)に示すように、刃112の左刃面112aでは工具回転トルクは正の値(工具回転方向の力)となり、刃112の右刃面112bでは工具回転トルクは負の値(工具回転方向の逆向きの力)となる。工具回転角ごとに、スカイビングカッタ110の刃112のすべての位置における工具回転トルクを合計した値を右欄に示している。合計値は、最大値が-0.12kgf・m、最小値が-0.39kgf・mとなっている。
【0034】
図7(b)に示すように工具回転角ごとの工具回転トルクの値は、-0.12kgf・mと-0.39kgf・mとの間で不規則に増減を繰り返している。これらの工具回転トルクの合計の平均値は-0.28kgf・m、バラツキ(最大値と最小値の差)は0.28である。平均値がプラスまたはマイナスに傾いているということは、スカイビングカッタ110の刃112の左刃面112aと右刃面112bの回転トルクに偏りがあることを意味している。また、工具回転トルクが増減を繰り返していてバラツキが大きいと、加工振動が増大し、びびりの発生につながってしまう。
【0035】
そこで本実施形態のシミュレーション方法では、
図1に示すギヤスカイビング加工装置100を用いて複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する。なお本実施形態のシミュレーション方法では、ギヤスカイビング加工装置100と別体のシミュレーション装置200を用いる場合を例示するが、これに限定するものではない。例えば、シミュレーション装置200と同様の装置をギヤスカイビング加工装置100に内蔵して実行させる構成としてもよい。
【0036】
本実施形態のシミュレーション方法ではまずシミュレーション装置200の回転トルク算出部210は、ギヤスカイビング加工装置100のスカイビングカッタ110の工具回転角ごとに、切削抵抗によってスカイビングカッタ110の左刃面112aおよび右刃面112bが受ける回転トルクを計算する。
【0037】
続いて、切込量設定部220は、左刃面112aが受ける回転トルクと右刃面112bが受ける回転トルクが均等に近づくように(すなわち、平均値がゼロに近づくように)各パスの左右の切込量を設定する。なお、各パスの左右の切込量を変える方法としては、例えばワーク120とスカイビングカッタ110の回転位相をずらす方法を例示することができる。
【0038】
具体的には
図7(a)および(b)に例示したように工具回転トルクがマイナスに傾く傾向がある場合には、プラス側の工具回転トルクが増えるように左右の切込量を変更する。
図6(a)に示す例では、工具回転角ごとに、スカイビングカッタ110の刃112のすべての位置における工具回転トルクを合計した値は、最大値が0.26kgf・m、最小値が0.05kgf・mとなる。
【0039】
図6(b)に示す例においても工具回転角ごとの工具回転トルクの値は、0.05kgf・mから0.26kgf・mの間で増減するが、これらの工具回転トルクの合計の平均値は0.14kgf・mである。スカイビングカッタ110の刃112の左刃面112aおよび右刃面112bの工具回転トルクが均等に近づいていることにより(すなわち、平均値がゼロに近づいている)、従来の加工条件よりもびびりの発生を抑制可能である。また、従来の加工条件よりもバラツキを抑えることもできており、この点においてもびびりの発生を抑制可能である。
【0040】
上記説明したように本実施形態のシミュレーション装置200およびシミュレーション方法によれば、スカイビングカッタ110や工作物(ワーク120)の回転速度を変更することなく、びびりの発生を抑制することができる。これにより、回転同期精度の低下に起因する加工精度の悪化を防ぎつつ、びびりの発生が抑制される。このため、加工精度を確保することができ、高品質な歯車を創成することが可能となる。
【0041】
なお上記説明した実施形態では、切込量設定部220が「左刃面112aが受ける回転トルクと右刃面112bが受ける回転トルクが均等に近づくように各パスの左右の切込量を設定する」構成を例示したが、これに限定するものではない。他の構成としては、切込み量設定部220が「左刃面112aが受ける回転トルクと右刃面112bが受ける回転トルクの変動量(バラツキ)が小さくなるように各パスの左右の切込量を設定する」構成としても、上述した効果を得ることが可能である。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ギヤスカイビング加工装置を用いて複数回のパスで歯車を創成する際の加工条件を設定する加工条件シミュレーション装置、ギヤスカイビング加工装置および加工条件シミュレーション方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
100…ギヤスカイビング加工装置、102…ホルダ、104…チャック、110…スカイビングカッタ、112…刃、120…ワーク、122…歯溝、124a…左歯面、124b…右歯面、130…制御部、200…シミュレーション装置、210…回転トルク算出部、220…切込量設定部