(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152367
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電気錠
(51)【国際特許分類】
E05B 47/00 20060101AFI20241018BHJP
E05B 55/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
E05B47/00 R
E05B55/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066515
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】松浦 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(57)【要約】
【課題】省スペース化を促すことができる電気錠を提供する。
【解決手段】電気錠1Aは、ケース10と、ラッチ21と、ラッチ受部材70と、ソレノイド50と、駆動位置伝達機構部60と、を備える。駆動位置伝達機構部60は、ステー62と、切替部材61と、を含む。ラッチ受部材70は、受動側マグネット715を有する。切替部材61は、受動側マグネット715との間に磁界を形成可能な駆動側マグネット615を有し、ステー62の配置に基づき駆動側マグネット615の位置を変える。これにより、切替部材61は、ソレノイド50の通電時にラッチ受部材70を施錠位置とする通電時施錠パターンと、ソレノイド50の通電時にラッチ受部材70を解錠位置とする通電時解錠パターンとに切り替える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースに対して相対的に進退可能なラッチと、
前記ラッチの後退を規制する施錠位置と、前記ラッチの後退を許容する解錠位置とに変位可能なラッチ受部材と、
通電および非通電により駆動位置が切り替られる駆動源と、
前記駆動源の前記駆動位置を前記ラッチ受部材に伝達して、前記施錠位置と前記解錠位置とを切り替える駆動位置伝達機構部と、を備え、
前記駆動位置伝達機構部は、
前記ケースの内部において配置を変更可能なステーと、
前記駆動源の前記駆動位置に基づき位置を変えることで、前記ラッチ受部材の前記施錠位置と前記解錠位置を切り替え可能な切替部材と、を含み、
前記ラッチ受部材は、受動側マグネットを有し、
前記切替部材は、前記受動側マグネットとの間に磁界を形成可能な駆動側マグネットを有し、前記ステーの配置に基づき前記駆動側マグネットの位置を変えることで、前記駆動源の通電時に前記ラッチ受部材を前記施錠位置とする通電時施錠パターンと、前記駆動源の通電時に前記ラッチ受部材を前記解錠位置とする通電時解錠パターンとに切り替える、
電気錠。
【請求項2】
前記ラッチ受部材の前記受動側マグネットと前記切替部材の前記駆動側マグネットとは、互いに近接した状態で相互に反発し合う磁界を形成する、
請求項1に記載の電気錠。
【請求項3】
前記切替部材は、前記駆動源の前記駆動位置に基づき、前記受動側マグネットから前記駆動側マグネットを離した離間位置と、前記受動側マグネットと前記駆動側マグネットが近接した近接位置と、に位置を変える、
請求項2に記載の電気錠。
【請求項4】
前記離間位置は、前記近接位置を挟むように設定された第1離間位置と、第2離間位置とを含み、
前記切替部材は、
前記ステーの第1配置に基づき、前記駆動位置の変位に伴い前記第1離間位置と前記近接位置の間を移動可能となることで、前記通電時施錠パターンを実行し、
前記ステーの第2配置に基づき、前記駆動位置の変位に伴い前記第2離間位置と前記近接位置の間を移動可能となることで、前記通電時解錠パターンを実行する、
請求項3に記載の電気錠。
【請求項5】
前記ラッチ受部材は、延在方向に沿って前記受動側マグネットを有し、
前記切替部材は、前記ステーの配置に基づき、前記近接位置において前記駆動側マグネットが前記受動側マグネットに対向する位置を前記延在方向に沿ってずらす、
請求項3に記載の電気錠。
【請求項6】
前記ステーは、前記ケースに取り付けられる状態操作部材に対する係合状態を変えることで、前記切替部材の前記駆動側マグネットが前記受動側マグネットに対向する位置を前記延在方向に沿ってずらす、
請求項5に記載の電気錠。
【請求項7】
前記駆動側マグネットは、第1駆動側マグネットと、第2駆動側マグネットとを含み、
前記切替部材は、前記ステーの第1配置に基づき、前記第1駆動側マグネットと前記受動側マグネットとで前記磁界を形成可能となり、前記ステーの第2配置に基づき、前記第2駆動側マグネットと前記受動側マグネットとで前記磁界を形成可能となる、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気錠。
【請求項8】
前記ステーは、前記ケースに取り付けられる状態操作部材に対する係合状態を変えることで、前記第1駆動側マグネットおよび前記第2駆動側マグネットを保持するホルダの位置を変える、
請求項7に記載の電気錠。
【請求項9】
前記ケースは、前記ラッチ受部材、前記駆動源、および前記駆動位置伝達機構部を内部に収容すると共に、前記駆動源の動作を制御する制御盤を内部に備える、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気錠。
【請求項10】
前記制御盤は、前記ケースの外部に設けられる管理部に通信可能に接続され、
前記管理部により前記駆動源を制御する状態と、前記制御盤により前記駆動源を制御する状態とに切り替え可能なスイッチを有する、
請求項9に記載の電気錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気錠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソレノイドに対する通電および通電停止を切り替えることにより、施錠および解錠を行う電気錠が知られている。この種の電気錠は、ソレノイドの通電時に施錠する通電時施錠パターンと、ソレノイドの通電時に解錠する通電時解錠パターンを選択できる機能を有するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、通電時施錠パターンおよび通電時解錠パターンに切り替え可能な電気錠が開示されている。この電気錠は、複数の部材(第一切替部材、第二リンク材、テコ板等)を斜めに接続して、第二ストッパを回動させることで、通電時施錠パターンおよび通電時解錠パターンを切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、通電時施錠パターンおよび通電時解錠パターンの切替のために、複数の部材を斜めに接続した機構を設けると、電気錠のスペースを大きくとることになる。
【0006】
本開示は、簡単な構成によって通電時施錠パターンおよび通電時解錠パターンを切り替え可能とすることで、省スペース化を促すことができる電気錠を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、ケースと、前記ケースに対して相対的に進退可能なラッチと、前記ラッチの後退を規制する施錠位置と、前記ラッチの後退を許容する解錠位置とに変位可能なラッチ受部材と、通電および非通電により駆動位置が切り替られる駆動源と、前記駆動源の前記駆動位置を前記ラッチ受部材に伝達して、前記施錠位置と前記解錠位置とを切り替える駆動位置伝達機構部と、を備え、前記駆動位置伝達機構部は、前記ケースの内部において配置を変更可能なステーと、前記駆動源の前記駆動位置に基づき位置を変えることで、前記ラッチ受部材の前記施錠位置と前記解錠位置を切り替え可能な切替部材と、を含み、前記ラッチ受部材は、受動側マグネットを有し、前記切替部材は、前記受動側マグネットとの間に磁界を形成可能な駆動側マグネットを有し、前記ステーの配置に基づき前記駆動側マグネットの位置を変えることで、前記駆動源の通電時に前記ラッチ受部材を前記施錠位置とする通電時施錠パターンと、前記駆動源の通電時に前記ラッチ受部材を前記解錠位置とする通電時解錠パターンとに切り替える、電気錠が提供される。
【発明の効果】
【0008】
一態様によれば、簡単な構成によって通電時施錠パターンおよび通電時解錠パターンを切り替え可能とすることで、省スペース化を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る電気錠の施錠状態を概略的に示す側面断面図である。
【
図2】
図1の電気錠の解錠状態かつドアノブを回転操作していない場合を概略的に示す側面断面図である。
【
図3】
図1の電気錠の解錠状態かつドアノブが回転操作した場合を概略的に示す側面断面図である。
【
図4】
図4(A)は、ケースに状態操作プレートを装着した状態を示す斜視図である。
図4(B)は、ステーと状態操作プレートとの係合状態を示す斜視図である。
【
図5】
図5(A)は、駆動位置伝達機構部による通電時解錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図5(B)は、駆動位置伝達機構部による通電時解錠パターンの通電時を示す説明図である。
【
図6】
図6(A)は、駆動位置伝達機構部による通電時施錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図6(B)は、駆動位置伝達機構部による通電時施錠パターンの通電時を示す説明図である。
【
図7】
図7(A)は、第2実施形態に係る電気錠の駆動位置伝達機構部による通電時解錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図7(B)は、
図7(A)の駆動位置伝達機構部による通電時解錠パターンの通電時を示す説明図である。
【
図8】
図8(A)は、
図7(A)の駆動位置伝達機構部による通電時施錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図8(B)は、
図7(A)の駆動位置伝達機構部による通電時施錠パターンの通電時を示す説明図である。
【
図9】
図9(A)は、変形例に係る駆動位置伝達機構部の通電時解錠パターンを示す説明図である。
図9(B)は、変形例に係る駆動位置伝達機構部の通電時施錠パターンを示す説明図である。
【
図10】変形例に係る駆動位置伝達機構部のステーを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
まず、
図1~
図3を参照して、実施形態に係る電気錠1の基本的な構成および動作について説明する。
図1は、第1実施形態に係る電気錠1の施錠状態を概略的に示す側面断面図である。
図2は、
図1の電気錠1の解錠状態かつドアノブを回転操作していない場合を概略的に示す側面断面図である。
図3は、
図1の電気錠1の解錠状態かつドアノブが回転操作した場合を概略的に示す側面断面図である。
【0012】
なお、以下の説明では、
図1~
図3に示す矢印方向の表記に基づき、電気錠1の幅方向(ラッチ21の移動方向)をX軸方向ともいい、電気錠1の厚み方向(奥行方向)をY軸方向ともいい、電気錠1の鉛直方向をZ軸方向ともいう。X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は、相互に直交している。また、X軸正方向は、ラッチ21がケース10から突出する方向であり、X軸負方向は、ラッチ21がケース10に引き込まれる方向である。Y軸正方向は、
図1の紙面の奥側に向かう方向であり、Y軸負方向は、
図1の紙面の手前側に向かう方向である。Z軸正方向は、鉛直方向上側(紙面の上側)に向かう方向であり、Z軸負方向は、鉛直方向下側(紙面の下側)に向かう方向である。
【0013】
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る電気錠1は、ケース10と、ラッチ機構部20と、ドアノブ機構部30と、物理施錠機構部40と、ソレノイド50と、駆動位置伝達機構部60と、ラッチ受部材70と、アンチパニック機構部80と、制御盤90と、を含む。
【0014】
ケース10は、Y軸方向の厚みが薄い直方体(箱状)に形成され、ドア2の内部に収納される。具体的には、ケース10は、ドア2の厚み方向に直交する側面断面視(
図1参照)で、X軸正方向に第1長辺10a、X軸負方向に第2長辺10b、Z軸正方向に第1短辺10c、およびZ軸負方向に第2短辺10dを有する長方形状に形成される。また、ケース10は、第1長辺10a、第2長辺10b、第1短辺10cおよび第2短辺10dの内側に一対のケースプレート10eを有する(
図1~
図3では、一対のケースプレート10eのうちY軸負方向側のケースプレート10eを省略している)。ケース10は、例えば、厚み方向の中間位置で2つの凹部材に分割可能に構成され得る。
【0015】
さらに、電気錠1は、ドア2のドア面を囲う四方の側辺のうちX軸正方向の側辺であるドア側壁2wにケース10を取り付けるための取付プレート11を備える。取付プレート11は、ケース10の第1長辺10aのX軸正方向側に対して、適宜の固定手段(ネジ止め、溶着等)を用いて固定される。
【0016】
ケース10の第1長辺10a、取付プレート11およびドア側壁2wの各々は、ラッチ機構部20のラッチ21を進退可能に挿通させる共通の口部12を有している。
【0017】
ラッチ機構部20は、ケース10、取付プレート11およびドア側壁2wに対して相対的に進退するラッチ21を備える。また、ラッチ機構部20は、ラッチ21に取り付けられるラッチプレート22と、ラッチ21に装着されるコイルバネ23と、を含む。
【0018】
ラッチ21は、ケース10の鉛直方向(Z軸方向)の略中間位置において、X軸方向に沿って移動(進退)可能に設置される。ラッチ21は、コイルバネ23によりX軸正方向に付勢されており、ドアノブを回転操作していない待機状態で、ドア側壁2wから突出している。ラッチ21は、X軸正方向側に設けられるブロック部211と、ブロック部211からX軸負方向に延出するシャフト部212と、を有する。
【0019】
ブロック部211は、側面視において長方形状に形成され、またY軸方向に厚みを有する中実状の部位である。ブロック部211は、待機状態で、ドア側壁2wよりもX軸正方向に位置している。図示しない部屋のドア枠をドア2が閉めている場合に(ドア2の閉状態で)、待機状態のブロック部211はドア枠に設けられた穴部に収容される。ドア枠に対してドア2が開いている場合に(ドア2の開状態で)、待機状態のブロック部211はドア2の外部に露出される。
【0020】
電気錠1の平面断面視で、ブロック部211のY軸正方向の面(不図示)は、X軸方向に沿って直線状に延在している。その一方で、ブロック部211のY軸負方向の面211sは、X軸方向に傾斜して延在している。これにより、開状態のドア2をY軸負方向に閉じる場合には、部屋のドア枠に面211sが当たることで、ラッチ21(ブロック部211)を面211sに沿ってX軸負方向に後退させる。ブロック部211が穴部に入り込むと、ラッチ21がX軸正方向に移動して待機状態に復帰する。一方、閉状態のドア2についてドアノブを回さずにY軸正方向に引っ張ると、待機状態のブロック部211のY軸正方向の面がフレームの穴部の面に当たり、ドア2が開くことを規制する。
【0021】
シャフト部212は、中実の丸棒状に形成され、ブロック部211のX軸負方向の端面211eに連結される。シャフト部212は、ケース10のケースプレート10eに連接された支持片13を挿通することで、支持片13に対してX軸方向にスライド自在に支持される。シャフト部212のX軸負方向の延出端部には、ラッチピン213が装着されている。ラッチピン213は、シャフト部212からラッチプレート22側(Y軸正方向側)に突出して、ラッチプレート22のガイド長孔222に挿入されている。
【0022】
シャフト部212においてブロック部211寄り(X軸正方向側)の外周面には、コイルバネ23が装着されている。コイルバネ23の一端は、ブロック部211のX軸負方向の端面211eに接触し、コイルバネ23の他端は、支持片13の座面に接触している。コイルバネ23は、支持片13の座面からX軸正方向に向かってブロック部211を弾力的に押圧する。このコイルバネ23により、ラッチ21は、ケース10内においてX軸正方向に定常的に付勢されている。
【0023】
ラッチ機構部20のラッチプレート22は、シャフト部212のX軸負方向側の延出端部に重なっている。また、ラッチプレート22は、シャフト部212のY軸正方向側に隣接して配置される。このラッチプレート22は、X軸負方向に向かってラッチ21を引っ張り可能であると共に、ラッチ21を独立してスライド可能としている。具体的には、ラッチプレート22は、プレート体221と、プレート体221を厚み方向(Y軸方向)に貫通するガイド長孔222と、プレート体221に連結される第1ピン223および第2ピン224と、を有する。
【0024】
プレート体221は、シャフト部212に重なる位置からX軸負方向に延在すると共に、シャフト部212を基点にZ軸方向両側(上側および下側)に短く延在している。プレート体221は、Z軸方向の中間位置にガイド長孔222を有する。また、プレート体221は、ガイド長孔222のZ軸方向上側に第1ピン223を連結している一方で、ガイド長孔222のZ軸方向下側に第2ピン224を連結している。
【0025】
ガイド長孔222は、プレート体221内においてX軸方向に長く形成されている。ラッチ21が待機状態にある場合に、ラッチピン213はガイド長孔222のX軸正方向の端部に配置される。ラッチ21がラッチプレート22と相対的に後退する際(X軸負方向に移動する際)に、ラッチピン213はガイド長孔222内でX軸負方向の端部に向かって移動する。ラッチ21がラッチプレート22と相対的に後退する場合とは、例えば、ラッチ21がドア枠により内側に押された場合である。
【0026】
第1ピン223は、プレート体221に連結され、当該プレート体221のY軸方向両側に突出している。Y軸方向両側に突出する第1ピン223には、後述するアンチパニック機構部80の一対のガイド部材82が回転可能に連結される。また、Y軸正方向側(
図1の紙面奥側)に突出する第1ピン223は、ケース10のケースプレート10eに形成された一対のガイド溝14の一方に挿入されている。一対のガイド溝14は、X軸方向に沿って相互に平行に延在している。第1ピン223(ラッチプレート22)は、ガイド溝14によってX軸方向の移動が案内される。
【0027】
第2ピン224は、ラッチプレート22に連結され、当該ラッチプレート22のY軸正方向側(
図1の紙面奥側)に突出している。第2ピン224は、一対のガイド溝14の他方に挿入されている。第2ピン224(ラッチプレート22)は、ガイド溝14によってX軸方向の移動が案内される。また、ラッチプレート22からガイド溝14までの間の第2ピン224には、ドアノブ機構部30のドアフック33が接触している。
【0028】
ドアノブ機構部30は、ラッチ機構部20のラッチプレート22よりもZ軸方向下側に設けられている。このドアノブ機構部30は、操作者がドア2を開閉する際にドアノブを回転操作する操作力をラッチ機構部20に伝達する。ドアノブ機構部30は、ノブ本体31と、ノブ本体31を軸支する軸支部32と、ノブ本体31に追従して回転するドアフック33と、を含む。
【0029】
ノブ本体31は、ドア2からY軸方向両側にそれぞれ突出する図示しないドアノブを有する。
図1に図示しているノブ本体31の断面部分は、ドアノブに連結されてドアノブの回転操作に基づいて回転する軸部である。
【0030】
軸支部32は、ノブ本体31の軸部に嵌合する嵌合筒部321と、嵌合筒部321を回転自在に収容する収容筒322と、を有する。嵌合筒部321にはドアフック33が連結されている。これにより、ドアノブ機構部30は、操作者によるノブ本体31(ドアノブ)の回転操作に基づき、嵌合筒部321およびドアフック33を収容筒322に対して相対回転させる。
【0031】
ドアフック33は、軸支部32の嵌合筒部321からラッチ機構部20のラッチプレート22に向かって延出して、第2ピン224に引っ掛かっている。具体的には、ドアフック33は、ラッチ21の待機状態で、X軸正方向かつZ軸正方向に湾曲しながら延びる板状に形成されている。
【0032】
ドアフック33のZ軸正方向の突出端は鋭角に形成され、この突出端のX軸負方向側に直線状の接触辺331を有する。接触辺331は、ドアフック33が軸支部32を基点に回転しても、第2ピン224と定常的に接触している。これにより、ドアノブ機構部30は、操作者によるノブ本体31(ドアノブ)の回転操作により
図1の時計回りに回転し、ラッチプレート22およびラッチ21をX軸負方向に移動させる。その一方で、操作者がノブ本体31から手を離すと、コイルバネ23の付勢によりラッチ21およびラッチプレート22がX軸正方向に移動する。ラッチプレート22のX軸正方向への移動力を受けることで、ドアフック33およびノブ本体31も元の待機位置(回転操作前の周方向位置)に復帰する。
【0033】
また、電気錠1の物理施錠機構部40は、図示しない物理キーにより施錠および解錠を行う機構部である。実施形態に係る物理施錠機構部40は、X軸負方向かつラッチ機構部20よりも上側(Z軸正方向側)に設置されている。なお、電気錠1は、物理施錠機構部40の設置位置について、特に限定されるものではなく、また物理施錠機構部40を備えない構成でもよい。
【0034】
物理施錠機構部40は、キーシリンダ41と、カム構造体42とを含む。キーシリンダ41は、シリンダ本体411と、当該シリンダ本体411を円弧状に囲うシリンダフレーム412と、を備える。そして、シリンダ本体411は、ドア2の外側に物理キーが差し込まれる差込口(不図示)と、内部において差し込まれた物理キーの一致および不一致を照合する照合部(不図示)と、外周面に連設された噛合歯群411tと、を有する。シリンダ本体411は、照合部における物理キーの一致に基づき、シリンダフレーム412と相対的に回転し、これに連れて噛合歯群411tを
図1の時計回りに回転させる。
【0035】
カム構造体42は、回転プレート421と、回転プレート421の周方向の一部に設けられキーシリンダ41の噛合歯群411tに噛み合うラック422と、回転プレート421の周方向の他部に設けられる突出部423と、を有する。回転プレート421は、ケース10のケースプレート10eに連結された軸支ピン15に対して回転自在に軸支されている。軸支ピン15には、トーションバネ43が装着されており、このトーションバネ43は、カム構造体42の回転位置が初期位置(
図1に示すラック422がZ軸正方向にある位置)となるように弾力的に付勢している。これにより、カム構造体42は、物理キーによりシリンダ本体411が回転して噛合歯群411tからラック422に回転力が伝達されると回転する。その一方で、物理キーがシリンダ本体411から離脱すると、カム構造体42は、トーションバネ43の付勢により、シリンダ本体411と共に初期位置に復帰する。
【0036】
突出部423は、回転プレート421からX軸正方向に突出している。突出部423は、シリンダ本体411が初期位置にある状態で、ラッチ21のX軸負方向への移動(後退)を規制する部材であるラッチ受部材70のZ軸正方向側に位置している。この状態では、突出部423は、ラッチ受部材70から離れた位置に待機している。物理キーによりシリンダ本体411が回転して、噛合歯群411tおよびラック422を介してカム構造体42が
図1の反時計回りに回転すると、突出部423がラッチ受部材70に接触して、ラッチ受部材70を
図1の時計回りに回転させる。電気錠1は、ラッチ受部材70の回転により、当該ラッチ受部材70がX軸方向と平行になる解錠位置に変位することで、解錠する。
【0037】
また、ソレノイド50および駆動位置伝達機構部60は、電気錠1において、ラッチ21の施錠状態および解錠状態を電気的に操作する部分を構成している。ソレノイド50は、ケース10内の上側(Z軸正方向側)、かつ物理施錠機構部40のX軸正方向側に配置されている。ソレノイド50は、制御盤90にリード線91を介して接続されており、制御盤90からの電力の供給(通電)および電力の遮断(非通電)に基づいて動作する駆動源である。なお、駆動源は、ソレノイド50に限定されず、電力に基づき駆動位置を移動させる種々の機器(例えば、モータ、シリンダ等)を採用してよい。
【0038】
詳細には、ソレノイド50は、磁気回路を内部に有するソレノイド本体51と、ソレノイド本体51の内外を延在して磁気回路の磁気に基づき進退して駆動位置を切り替えるプランジャ52と、を含む。実施形態においてソレノイド本体51およびプランジャ52は、X軸方向と平行になる姿勢で設置されている。
【0039】
プランジャ52は、ソレノイド本体51からX軸負方向に突出している。プランジャ52のX軸負方向の突出端には、孔部52hが設けられ、この孔部52hには、駆動位置伝達機構部60のリンクピン612が挿入されている。また、実施形態に係るソレノイド50は、非通電時にプランジャ52をX軸負方向に突出させた第1駆動位置に配置する一方で、通電時にプランジャ52をX軸正方向に引き込んだ第2駆動位置に配置する。なお、
図1はソレノイド50の非通電時において第1駆動位置に位置するプランジャ52を示しており、
図2および
図3はソレノイド50の通電時において第2駆動位置に位置するプランジャ52を示している。
【0040】
駆動位置伝達機構部60は、プランジャ52の駆動位置に基づき、ラッチ21の施錠状態であるX軸負方向への移動の規制と、ラッチ21の解錠状態であるX軸負方向への移動の許容と、を切り替える機構部である。この駆動位置伝達機構部60は、プランジャ52の駆動位置を伝達する複数の部材を組み合わせて構成される。具体的には、駆動位置伝達機構部60は、切替部材61と、ステー62と、を含む。
【0041】
切替部材61は、駆動位置伝達機構部60においてプランジャ52に接続され、プランジャ52の駆動位置の変化を直接受ける部品である。切替部材61は、ソレノイド50の非通電時と通電時で傾きを変えることで、ラッチ21の施錠状態および解錠状態を切り替える。具体的には、切替部材61は、Z軸方向に延在するプレート体611と、プレート体611のZ軸正方向側の端部に設けられるリンクピン612と、プレート体611のZ軸負方向側の端部に設けられるホルダ614と、を備える。
【0042】
プレート体611は、Z軸方向の略中間位置に軸受孔613を有し、この軸受孔613には、ステー62に連結された軸支ピン63が挿入される。プレート体611は、この軸支ピン63によって回転自在に軸支される。
【0043】
プレート体611は、ソレノイド50の非通電時に、プランジャ52がX軸負方向の第1駆動位置に位置することで、Z軸方向に対して傾斜した姿勢を呈している。そして、ソレノイド50の通電に基づきプランジャ52が引き込まれてX軸正方向の第2駆動位置に移動することで、リンクピン612もX軸正方向に移動する(
図2も参照)。これに連れて切替部材61が軸支ピン63を基点に
図1の反時計回りに回転することで、Z軸方向に対して略平行な姿勢となる。
【0044】
そして、切替部材61は、プランジャ52の駆動位置に基づいて、Z軸負方向のホルダ614をX軸方向に移動させる。また、切替部材61とステー62とは、上記したように軸支ピン63を介して連結されている。切替部材61は、ステー62のZ軸方向の配置に基づき、プランジャ52の駆動位置とは別に、ホルダ614のX軸方向の位置を変更可能に構成されている。
【0045】
ホルダ614は、切替部材61のZ軸負方向側に設けられて、駆動側マグネット615を保持している。後述するラッチ受部材70の受動側マグネット715との間に磁界を形成するためである。詳細には、ホルダ614は、プレート体611に連結される連結部位の下端中央位置においてZ軸負方向に突出した部位に駆動側マグネット615を有する。ホルダ614は、例えば、樹脂材料により形成される。なお、ホルダ614は、適宜のヨーク材により形成されて駆動側マグネット615の磁界を下方に制限する構成でもよい。これにより、切替部材61の回転に伴って駆動側マグネット615が受動側マグネット715に対して傾いた場合に、駆動側マグネット615の磁気が受動側マグネット715に影響を及ぼすことを制限できる。
【0046】
以上の切替部材61は、ステー62によって傾きの位置が変更されることで、駆動側マグネット615の位置を切り替える。この位置の切り替えにより、駆動位置伝達機構部60は、ソレノイド50の非通電時に施錠状態となり、通電時に解錠状態となる通電時解錠パターンと、ソレノイド50の非通電時に解錠状態となり、通電時に施錠状態となる通電時施錠パターンと、を切り替える。なお、
図1~
図3では、通電時解錠パターンを示している。
【0047】
ステー62は、クランク状に形成された板状体621によって構成されている。板状体621は、X軸正方向側において細長く突出する一端部622を有し、X軸負方向側かつZ軸正方向側の他端部に凹状連結部623を有する。ステー62のX軸正方向の一端部622は、ケース10の第1長辺10aに装着される状態操作プレート111(状態操作部材)に係合する。
【0048】
図4(A)は、ケース10に状態操作プレート111を装着した状態を示す斜視図である。
図4(B)は、ステー62と状態操作プレート111との係合状態を示す斜視図である。
図4(A)に示すように、状態操作プレート111は、矩形状の平板に形成され、取付プレート11においてラッチ21よりも上側(Z軸正方向側)に設けられた配置用孔11hに収容される。状態操作プレート111は、ケース10の第1長辺10aに対して、図示しない取付手段(ネジ止め等)により離脱可能に取り付けられる。このため、電気錠1の管理者は、状態操作プレート111を取り外すことで、駆動位置伝達機構部60およびアンチパニック機構部80をケース10の外側から操作できる。
【0049】
図1および
図4(B)に示すように、取付状態において、状態操作プレート111のX軸正方向側は、ドア側壁2wの連通孔2hに対向する一方で、状態操作プレート111のX軸負方向は、第1長辺10aの窓10awを介してケース10内を臨んでいる。状態操作プレート111は、X軸負方向側の面にX軸負方向に短く突出する凸部112を有している。
【0050】
凸部112は、駆動位置伝達機構部60のステー62、およびアンチパニック機構部80のレバー81を引っ掛けて、その位置を維持させることができる。ステー62が凸部112の上面に引っ掛かることで、ステー62の傾きが変更される。例えば、ステー62は、凹状連結部623を有するX軸負方向側の延在部分について、Z軸方向に対して略平行な姿勢と、Z軸方向に対して傾斜した姿勢とに切り替えられる。
【0051】
図1に戻り、ステー62の凹状連結部623は、軸支ピン63に対して回転自在に連結する部位を構成している。凹状連結部623は、板状体621の上端を切り欠くことで、U字状に形成されており、この上端の開放部分から軸支ピン63を収容している。
【0052】
軸支ピン63のY軸負方向の一端は、切替部材61の軸受孔613に挿入されている一方で、軸支ピン63のY軸正方向の一端は、ケース10のケースプレート10eに形成されたガイド溝17に挿入されている。ガイド溝17は、X軸方向に沿って若干長い長孔を呈している。ステー62の配置に基づいて、軸支ピン63はこのガイド溝17内を移動する。切替部材61のZ軸方向の中間位置は、この軸支ピン63のガイド溝17内の移動に連れてX軸方向に移動できる。これにより、切替部材61のホルダ614(駆動側マグネット615)の位置が変化する。
【0053】
一方、ラッチ受部材70は、プレート状の部品であり、ケース10内において概ねX軸方向に延在するように設置される。ラッチ受部材70は、
図1に示すようにX軸方向に対して傾斜した位置と、
図2に示すようにX軸方向に対して平行な位置とに切り替え可能に設置される。そして、ラッチ受部材70は、X軸方向に傾斜した位置でラッチ21のX軸負方向の移動を規制して施錠状態とする(以下、傾斜した位置を施錠位置ともいう)。その一方で、ラッチ受部材70は、X軸方向に平行な位置でラッチ21のX軸負方向の移動を許容して解錠状態とする(以下、平行な位置を解錠位置ともいう)。
【0054】
詳細には、ラッチ受部材70は、プレート体71と、プレート体71のX軸負方向に設けられるガイドピン72と、プレート体71を弾力的に支持するトーションバネ73と、を含む。
【0055】
プレート体71は、X軸方向に比較的長く(例えばラッチ21のシャフト部212の軸方向長さよりも長く)延在している。プレート体71は、X軸方向の略中間位置に軸受孔71hを有する。軸受孔71hには、ケース10のケースプレート10eに連結された軸支ピン18が挿入される。プレート体71は、軸支ピン18により回転自在に軸支される。また、トーションバネ73は、軸支ピン18に装着されると共に支持片13に一端が固定される。これにより、トーションバネ73は、軸支ピン19に軸支されたラッチ受部材70のX軸正方向側を弾力的に支持している。
【0056】
プレート体71において軸受孔71hよりもX軸正方向側は、上辺が傾斜することで、先細りとなる第1端部711に形成されている。ラッチ受部材70の施錠位置において、第1端部711の端面が、ブロック部211のX軸負方向側の端面211eに接触可能となっている。ラッチ受部材70は、この第1端部711によりブロック部211(すなわちラッチ21)のX軸負方向への移動を規制する。
【0057】
軸支ピン18を挟んだ第1端部711の反対位置には、第2端部712が設けられる。第2端部712は、2つの円弧部位を有し、Z軸負方向側の円弧部位にガイドピン72を有する。ガイドピン72は、プレート体71を基点にY軸方向両側に突出している。また、第2端部712は、Z軸正方向側の円弧部位を凸片713としている。この凸片713は、物理施錠機構部40(カム構造体42)の突出部423に接触可能に構成されている。すなわち、電気錠1は、カム構造体42の突出部423により凸片713を下側に押圧することで、施錠位置のラッチ受部材70を解錠位置に切り替えることができる。
【0058】
また、プレート体71の中間位置(軸受孔71hよりも多少X軸負方向側)かつ上辺(Z軸正方向側の辺)には、上記した駆動位置伝達機構部60の駆動側マグネット615との間で磁界を形成可能な受動側マグネット715が設けられている。この受動側マグネット715は、プレート体71の中間位置においてX軸方向(ラッチ受部材70の延在方向)に所定長さ延在している。この受動側マグネット715の上方の近接位置に、駆動位置伝達機構部60の駆動側マグネット615が移動してきた場合に、駆動側マグネット615との間で磁界が形成される。
【0059】
駆動側マグネット615と受動側マグネット715とは、互いに近接した(対向し合う)状態で、相互に反発し合う磁界を形成する。すなわち、駆動側マグネット615と受動側マグネット715との間には、反発力が生じる。ラッチ受部材70は、この反発力(磁界の影響)を受けない状態では施錠位置に配置される一方で、受動側マグネット715が反発力を受けることで解錠位置に移動する(
図2も参照)。
【0060】
さらに、電気錠1は、プレート体71のZ軸負方向の近接位置に、施解錠検出センサ75を備えている。この施解錠検出センサ75は、ラッチ受部材70の下辺に検出子を接触させており、ラッチ受部材70の施錠位置および解錠位置を検出する。制御盤90は、リード線91を介して施解錠検出センサ75の信号を受信することで、電気錠1の施錠状態および解錠状態を認識できる。
【0061】
制御盤90は、ケース10内において各構成が設置されていないスペースに取り付けられる。
図1の例では、制御盤90は、ケース10のX軸正方向側かつZ軸負方向側に取り付けられる。この制御盤90は、制御チップ92と、制御主体切替用のスイッチ93と、インタフェース94と、外部通信部95と、を有する。
【0062】
インタフェース94は、電気錠1の各構成に対して複数のリード線91を介して接続されている。また、インタフェース94は、図示しない外部配線を介して、電気錠1の外部に設けられた電源(不図示)に接続されている。例えば、インタフェース94は、ケース10の内部において、上記のソレノイド50および施解錠検出センサ75の他に、ドア2の開閉を検出する開閉検出センサ96に接続されている。開閉検出センサ96は、ケース10の第1長辺10aに設置され、ドア枠に設けられた図示しないマグネットの磁界を検出可能に構成されている。すなわち、開閉検出センサ96は、マグネットの磁界の変化に基づき、ドア2の開閉を検出し、制御盤90にその情報を送信する。
【0063】
外部通信部95は、図示しない外部配線を介してドア2の開閉、施錠および解錠を管理する図示しない管理部(メイン制御盤)に通信可能に接続される。メイン制御盤とは、建物又は施設等に設けられた複数の電気錠を統括して制御する装置である。ただし、実施形態に係る制御盤90は、管理部からの指令に基づき施錠および解錠を行う構成と、制御盤90自体の制御により自動的に施錠および解錠を行う構成とを切り替え可能としている。このため、制御主体切替用のスイッチ93をオフ状態にすると、制御盤90は、制御チップ92を休眠状態として、管理部によってソレノイド50を制御する。その一方で、スイッチ93をオン状態にすると、制御盤90は、管理部を非接続状態として(あるいは管理部との通信を制限して)、制御チップ92によってソレノイド50を制御する。
【0064】
そして、制御チップ92は、操作者の施錠/解錠の操作、ラッチ受部材70の施錠位置/解錠位置、およびドア2の開状態または閉状態を認識することで、ソレノイド50等の動作を制御する。制御チップ92は、特に限定されず例えば、FPGAやASIC等のICチップを適用できる。あるいは、制御盤90は、プロセッサ、メモリ等を有するコンピュータを適用してもよい。
【0065】
例えば、通電時解錠パターンになっている場合に、制御チップ92は、開閉検出センサ96によりドア2の閉状態を認識すると、ソレノイド50を自動的に非通電とすることで、ラッチ21のX軸負方向への移動を規制する施錠状態とする。一方、制御チップ92は、制御盤90の図示しない認証部に電子キーを近づける等して操作者の解錠操作を認証すると、ソレノイド50に通電することで、ラッチ21のX軸負方向への移動を許容する解錠状態とする。
【0066】
ここで、電気錠1は、例えば、当該電気錠1に電力を供給できない場合(停電時や故障時等)に、ソレノイド50の電気的な駆動位置の変位によらずに、施錠状態から解錠状態に移行できることが好ましい。このため、電気錠1は、ドアノブの回転操作によって、施錠状態から解錠状態に機械的に切り替えることができるアンチパニック機構部80を搭載している。以下、このアンチパニック機構部80について詳述していく。
【0067】
アンチパニック機構部80は、Y軸方向両側にそれぞれ設けられたドアノブの回転操作について、別々に施錠状態から解錠状態に切り替える構成としている。例えば、アンチパニック機構部80は、Y軸正方向側のドアノブについて解錠状態への移行を不能にする一方で、Y軸負方向側のドアノブについて解錠状態への移行を可能することができる。このため、アンチパニック機構部80は、ラッチプレート22やラッチ受部材70を間に挟んでY軸正方向側とY軸負方向側の各々に、対称をなす複数の部材を備える。
【0068】
具体的には、アンチパニック機構部80は、一対のレバー81および一対のガイド部材82を含む。一対のレバー81は、ラッチ受部材70の若干上側(Z軸方向上側)、かつ当該ラッチ受部材70を挟んでY軸方向両側に設けられている。一対のガイド部材82も、一対のレバー81と同じY軸方向の位置に配置され、ラッチプレート22の上方かつラッチプレート22を挟んでY軸方向両側に設けられている。
【0069】
各レバー81は、例えば、ラッチ受部材70よりも細長い平板状の部材である。また、各レバー81は、長手方向中間位置に軸受孔811を有する。各レバー81は、ケース10のケースプレート10eに連結された軸支ピン19が軸受孔811に挿入されることで、軸支ピン19を基点に回転可能となっている。
【0070】
各レバー81のX軸正方向側の一端部812は、状態操作プレート111まで延出しており、状態操作プレート111に係合可能となっている。一方、各レバー81のX軸負方向側の他端部813は、同じY軸方向の位置にある各ガイド部材82に接触可能となっている。
【0071】
一端部812が凸部112の上面に引っ掛かる第1係合状態では、レバー81は、X軸方向に対して略平行な姿勢となる。そして、レバー81は、略平行な姿勢において他端部813がガイド部材82を押圧することで、ドアノブの回転操作で施錠状態から解錠状態に移行させるアンチパニックを発動可能な状態となる。
【0072】
逆に、一端部812が凸部112の下面に引っ掛かる第2係合状態では、レバー81は、X軸方向に対して傾斜した姿勢となる(
図4(B)も参照)。そして、レバー81は、傾斜した姿勢において他端部813がガイド部材82から離れることで、ドアノブを回転操作しても施錠状態を継続して、アンチパニックを発動不能な状態となる。
【0073】
レバー81の他端部813は、Z軸方向下側の辺にガイド部材82を押圧する複数(2つ)の押圧用凸部814を有している。各押圧用凸部814は、レバー81が第1係合状態となった場合に、各ガイド部材82を下側(Z軸負方向)に押圧することで、各ガイド部材82の姿勢を制御する。
【0074】
一対のガイド部材82は、ラッチプレート22のY軸方向両側の第1ピン223にそれぞれ取り付けられるプレート状の部材である。各ガイド部材82は、第1ピン223を収容する軸受孔821を有し、この軸受孔821を基点としてZ軸方向上側に短く突出してX軸正方向側に屈曲し、X軸正方向に長く延在している。また、各ガイド部材82には、ラッチ21から離れる姿勢となるように(
図1の時計回りの方向に)、ガイド部材82を弾力的に押し出すトーションバネ83がそれぞれ装着されている。
【0075】
ガイド部材82のZ軸正方向の上辺822は、直線状に延在しており、レバー81の押圧用凸部814が摺動自在に接触する。一方、ガイド部材82のZ軸負方向の下辺823は、ラッチプレート22との連結箇所(X軸負方向)に向かって湾曲しており、ラッチ受部材70のガイドピン72をガイドするガイド辺を形成している。また、下辺823は、軸受孔821寄り(X軸負方向側)に、Z軸正方向側に窪ませた凹部823aを有する。
【0076】
レバー81が第1係合状態となってガイド部材82を押圧することで、ガイド部材82は、アンチパニックオン姿勢(第1姿勢)となる。アンチパニックオン姿勢において、下辺823は、ラッチプレート22の縁部と共に、X軸方向に平行に延在しており、その間にガイドピンを通すことが可能な案内路を形成する。ガイド部材82がアンチパニックオン姿勢でラッチ受部材70が施錠位置にあり、さらにラッチ21およびラッチプレート22が待機状態にある場合に、ラッチ受部材70のガイドピン72は凹部823aに収容されている。
【0077】
ラッチプレート22とガイド部材82が一体にX軸負方向に移動すると、ガイドピン72は、凹部823aから下辺823に沿うように抜け出すことでZ軸負方向に移動する。これにより、ラッチ受部材70は、施錠位置から解錠位置(X軸方向に対して略平行な姿勢)に変位する。すなわち、アンチパニック機構部80は、電気錠1の施錠状態を解錠状態に切り替えることができる。
【0078】
一方、レバー81が第2係合状態となってガイド部材82から離れることで、ガイド部材82は、トーションバネ83に押圧されて傾斜したアンチパニックオフ姿勢(第2姿勢)となる。アンチパニックオフ姿勢において、下辺823は、ラッチプレート22の縁部に対して傾斜し、また凹部823aがガイドピン72から離れる。その結果、ガイドピン72は、ガイド部材82に案内されない状態となる。
【0079】
次に、電気錠1の動作(施錠状態、解錠状態、解錠状態でラッチ21を引き込んだ状態)について説明する。通電時解錠パターンの電気錠1は、
図1に示すように、制御盤90がソレノイド50を非通電にすることによって、ラッチ21のX軸負方向の移動を規制する施錠状態となる。詳細には、ソレノイド50は、非通電時に、プランジャ52をX軸負方向に突出した第1駆動位置に配置する。このプランジャ52の突出端に挿入されたリンクピン612により、駆動位置伝達機構部60の切替部材61は、Z軸方向に対して傾斜した姿勢をとる。
【0080】
これにより、切替部材61は、非通電時にホルダ614および駆動側マグネット615を、ラッチ受部材70の受動側マグネット715から第1離間位置に配置する。この状態において、ラッチ受部材70は、支持片13に支持されたトーションバネ73により
図1の反時計回りの回転が抑制され、X軸方向に対して傾斜した姿勢である施錠位置を維持する。施錠位置において、第1端部711はX軸正方向に向かって下側(Z軸負方向側)に傾斜している。これにより、第1端部711の端面が、ラッチ21のブロック部211の端面211eに対向して、ラッチ21のX軸負方向への移動を確実に規制する。
【0081】
そして、通電時解錠パターンの電気錠1は、
図2に示すように、制御盤90がソレノイド50を通電することによって、ラッチ21のX軸負方向の移動を許容する解錠状態とする。詳細には、ソレノイド50は、通電時に、プランジャ52をX軸正方向に引き込んだ第2駆動位置に配置する。このプランジャ52の突出端に挿入されたリンクピン612により、駆動位置伝達機構部60の切替部材61は、軸支ピン63を基点に
図2の反時計回りに回転し、Z軸方向に略平行な姿勢をとる。
【0082】
これにより、切替部材61のホルダ614および駆動側マグネット615は、ラッチ受部材70の受動側マグネット715に近接する近接位置に配置される。この状態では、駆動側マグネット615と受動側マグネット715との間に反発力が生じる。反発力は、ラッチ受部材70のX軸負方向側の受動側マグネット715をZ軸方向下側に押圧する。
【0083】
ラッチ受部材70は、反発力を受けると、トーションバネ73を弾性変形させながら、軸支ピン18を基点に
図2の時計回りに回転する。これにより、ラッチ受部材70は、X軸方向に沿って略平行な解錠位置に配置される。ラッチ受部材70の解錠位置では、第1端部711の端面が、ラッチ21のブロック部211の端面211eに対して非対向となり、ラッチ21のX軸負方向への移動を許容した形態となる。
【0084】
解錠状態となった電気錠1は、
図3に示すように、操作者がドアノブを回転操作することで、ラッチ21をケース10内に引き込むことができる。すなわち、ドアノブ機構部30において、操作者がドアノブを回転操作すると、ノブ本体31の軸部が回転してこれに連れて嵌合筒部321およびドアフック33が時計回りに回転する。このため、ドアフック33は、接触辺331によりラッチプレート22の第2ピン224をX軸負方向に押圧する。
【0085】
ラッチプレート22は、X軸負方向に移動して、このラッチプレート22のガイド長孔222に挿入されているラッチピン213を引っ張る。これにより、ラッチ21がラッチプレート22と共にX軸負方向に移動(後退)する。解錠状態のラッチ受部材70は、第1端部711がブロック部211からZ軸方向上側に離れていることで、ラッチ21をX軸負方向にスムーズに移動させることができる。このラッチ21のブロック部211がケース10内に挿入されることで、ドア2は、ドア枠に対して開くことが可能となる。
【0086】
次に、電気錠1の駆動位置伝達機構部60による通電時解錠パターンと通電時施錠パターンの切替、および各パターンの動作について
図5および
図6を参照しながら説明する。
図5(A)は、駆動位置伝達機構部60による通電時解錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図5(B)は、駆動位置伝達機構部60による通電時解錠パターンの通電時を示す説明図である。
図6(A)は、駆動位置伝達機構部60による通電時施錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図6(B)は、駆動位置伝達機構部60による通電時施錠パターンの通電時を示す説明図である。
【0087】
図5(A)に示すように、駆動位置伝達機構部60は、状態操作プレート111の凸部112の下面にステー62の一端部622を引っ掛けることで、通電時解錠パターンを実行できる。すなわち、凸部112に支持された一端部622の配置(第1配置)に応じて、凹状連結部623は、軸支ピン63をガイド溝17内のX軸正方向側にセットする。切替部材61は、ガイド溝17内のX軸正方向側にセットされた軸支ピン63を基点に回転する。この第1配置において、切替部材61は、Z軸方向に対して傾斜してホルダ614をX軸正方向側に引き寄せる第1離間位置と、Z軸方向に対して略平行となりホルダ614をZ軸負方向下端に臨ませる近接位置との間で移動(回転)するようになる。
【0088】
そして、ソレノイド50は、非通電時に、プランジャ52をX軸負方向に突出することで第1駆動位置に配置する。これにより、切替部材61は、Z軸方向に対して傾斜した姿勢となる。切替部材61のホルダ614および駆動側マグネット615は、X軸正方向側の第1離間位置に位置する。この場合、ラッチ受部材70の受動側マグネット715は、駆動側マグネット615との間で磁界を形成しない。駆動位置伝達機構部60は、駆動側マグネット615からラッチ受部材70に力をかけていないため、ラッチ受部材70がX軸方向に対して傾斜した施錠位置を維持できる。
【0089】
図5(B)に示すように、ソレノイド50は、通電時に、プランジャ52をX軸正方向に引き込むことで第2駆動位置に配置する。これにより、切替部材61は、Z軸方向に対して略平行な姿勢となる。切替部材61のホルダ614および駆動側マグネット615は、X軸負方向側に移動して、受動側マグネット715に近接する近接位置に配置される。その結果、駆動側マグネット615と受動側マグネット715は、相互に反発し合う磁界を形成する。駆動位置伝達機構部60は、通電時に、駆動側マグネット615からラッチ受部材70に
図5(B)の時計回りに反発力をかけることになり、ラッチ受部材70を施錠位置から解錠位置に回転させる。よって、駆動位置伝達機構部60は、ソレノイド50の通電時に、ラッチ受部材70を解錠位置にスムーズに移動させることができる。
【0090】
そして、駆動位置伝達機構部60は、
図6(A)に示すように、状態操作プレート111の凸部112の上面にステー62の一端部622を引っ掛けることで、通電時施錠パターンを実行できる。すなわち、凸部112に支持された一端部622の配置(第2配置)に応じて、凹状連結部623は、軸支ピン63をガイド溝17内のX軸負方向側にセットする。切替部材61は、ガイド溝17内のX軸負方向側にセットされた軸支ピン63を基点に回転する。この第2配置において、切替部材61は、Z軸方向に対して略平行となりホルダ614をZ軸負方向下端に臨ませる近接位置と、Z軸負方向に傾斜してホルダ614をX軸負方向側に押し出す第2離間位置と、の間で移動(回転)するようになる。
【0091】
ソレノイド50は、非通電時に、プランジャ52を第1駆動位置に配置することで、切替部材61をZ軸方向に略平行とする。切替部材61のホルダ614および駆動側マグネット615は、Z軸負方向に移動していることで、受動側マグネット715に近接する近接位置に配置される。その結果、駆動側マグネット615と受動側マグネット715は、相互に反発し合う磁界を形成する。駆動位置伝達機構部60は、通電時に、駆動側マグネット615からラッチ受部材70に時計回りの反発力をかけることになり、ラッチ受部材70を施錠位置から解錠位置に回転させる。これにより、駆動位置伝達機構部60は、ソレノイド50の非通電時に、ラッチ受部材70を解錠位置にスムーズに移動させることができる。
【0092】
図6(B)に示すように、ソレノイド50は、通電時に、プランジャ52をX軸正方向に引き込むことで第2駆動位置に配置する。これにより、切替部材61は、Z軸方向に対して傾斜した姿勢となり、ホルダ614および駆動側マグネット615をX軸負方向側に移動させる。ホルダ614および駆動側マグネット615は、X軸負方向側の第2離間位置に位置する。そのため、ラッチ受部材70の受動側マグネット715は、駆動側マグネット615との間で磁界を形成しない。駆動位置伝達機構部60は、駆動側マグネット615からラッチ受部材70に力をかけていないため、ラッチ受部材70がX軸方向に対して傾斜した施錠位置を維持できる。
【0093】
以上のように、電気錠1は、駆動側マグネット615および受動側マグネット715を用いることで、ラッチ受部材70の施錠位置および解錠位置を円滑に制御できる。その結果、電気錠1は、通電時解錠パターンおよび通電時施錠パターンを簡単かつ安定して切り替えることが可能となる。
【0094】
なお、本開示の電気錠1は、上記の構成に限定されず、種々の変形例をとり得る。例えば、実施形態に係るソレノイド50は、X軸負方向にプランジャ52を突出させた構成としているが、X軸正方向にプランジャ52を突出させた構成でもよく、あるいはZ軸方向にプランジャを突出させた構成でもよい。実施形態に係るソレノイド50は、通電時にプランジャ52をソレノイド本体51に引き込み、非通電時にプランジャ52を突出させたが、ソレノイド50は逆の動作(通電時にプランジャ52を突出させ、非通電時にプランジャ52を引き込む構成)でもよい。また例えば、ラッチ受部材70、切替部材61およびステー62等の形状については、任意に設計してよい。
【0095】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る電気錠1Aについて、
図7(A)~
図8(B)を参照しながら説明する。
図7(A)は、第2実施形態に係る電気錠1Aの駆動位置伝達機構部60Aによる通電時解錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図7(B)は、
図7(A)の駆動位置伝達機構部60Aによる通電時解錠パターンの通電時を示す説明図である。
図8(A)は、
図7(A)の駆動位置伝達機構部60Aによる通電時施錠パターンの非通電時を示す説明図である。
図8(B)は、
図7(A)の駆動位置伝達機構部60Aによる通電時施錠パターンの通電時を示す説明図である。
【0096】
第2実施形態に係る電気錠1Aの駆動位置伝達機構部60Aは、2つの駆動側マグネット(第1駆動側マグネット665、第2駆動側マグネット666)を適用した点で、第1実施形態に係る駆動位置伝達機構部60と異なる。なお、駆動位置伝達機構部60Aおよびラッチ受部材70以外の構成は、第1実施形態と同様であり、その説明については省略する。また、
図7および
図8では、発明の理解の容易化のために、アンチパニック機構部80の記載を省いているが、第2実施形態に係る電気錠1Aにもアンチパニック機構部80を適用し得ることは勿論である。
【0097】
図7(A)に示すように、駆動位置伝達機構部60Aは、切替部材66と、ステー67と、を含む。切替部材66は、プレート体661と、リンクピン662と、ホルダ663と、位置案内部664と、を有する。
【0098】
プレート体661は、Z軸方向に延在しており、Z軸方向中間位置においてケース10のケースプレート10eに設けられた軸支ピン68により回転可能に軸支されている。リンクピン662は、プレート体661のZ軸正方向側において、X軸正方向寄りに設けられ、プランジャ52の孔部52hに挿入されている。
【0099】
ホルダ663は、ブロック状に形成され、Y軸正方向側に突出する軸部(不図示)を介してプレート体661に回転可能に取り付けられている。ホルダ663は、Z軸負方向側に一対の突出保持部(第1突出保持部663a、第2突出保持部663b)を備える。第1突出保持部663aは、ホルダ663のX軸正方向側に設けられ、第1駆動側マグネット665を保持している。第1突出保持部663aは、第1駆動側マグネット665の磁界を開口方向に制限する。第2突出保持部663bは、ホルダ663のX軸負方向側に設けられ、第2駆動側マグネット666を保持している。第2突出保持部663bは、第2駆動側マグネット666の磁界を開口方向に制限する。
【0100】
位置案内部664は、ホルダ663に一体成形され、ホルダ663からX軸正方向側に突出している。位置案内部664は、ホルダ663と連結していることで、ホルダ663と共に回転する。位置案内部664のY軸正方向側には、ステー67に設けられたガイド孔674(
図7(B)参照)により案内される図示しないガイドピンが設けられている。
【0101】
駆動位置伝達機構部60Aのステー67は、X軸方向かつZ軸方向に幅広な板状体671を備える。板状体671は、X軸正方向に突出する一端部672を有する。ステー67のX軸方向中間位置には、Z軸方向に延在する長孔673が形成されている。この長孔673には、ケース10のケースプレート10eに設けられた楕円状のガイド突起69が挿入される。ガイド突起69により長孔673が案内されることで、ステー67全体がZ軸方向に沿って変位可能に構成される。また、ステー67は、X軸負方向側に上記のガイド孔674を有している。
【0102】
一方、ラッチ受部材70は、プレート体71の上辺において軸支ピン18(すなわち、長手方向中間位置)からX軸負方向側に離れた位置に、受動側マグネット715を備える。受動側マグネット715は、第1駆動側マグネット665および第2駆動側マグネット666の各々との間で、反発し合う磁界を形成する。
【0103】
第2実施形態に係る電気錠1Aの駆動位置伝達機構部60Aおよびラッチ受部材70は、基本的には以上のように構成される。以下、駆動位置伝達機構部60Aによる通電時解錠パターンと通電時施錠パターンの切替、および各パターンの動作について説明する。
【0104】
図7(A)に示すように、駆動位置伝達機構部60Aは、状態操作プレート111の凸部112の下面にステー62の一端部672を引っ掛けることで、通電時解錠パターンを設定できる。すなわち、凸部112に支持された一端部672の配置(第1配置)に応じて、ステー67は、切替部材66の位置案内部664を案内して、切替部材66のプレート体661に対するホルダ663の回転位置を調整する。この第1配置において、切替部材66は、第1駆動側マグネット665を受動側マグネット715から離した第1離間位置と、第1駆動側マグネット665を受動側マグネット715に近接させた近接位置との間で移動(回転)するようになる。
【0105】
そして、ソレノイド50は、非通電時に、プランジャ52をX軸負方向に突出することで第1駆動位置に配置する。これにより、切替部材66は、Z軸方向に対して略平行な姿勢となる。そして、切替部材66の第1駆動側マグネット665は、受動側マグネット715のX軸正方向側の第1離間位置に配置される。この場合、ラッチ受部材70の受動側マグネット715は、第1駆動側マグネット665との間で磁界を形成しない。駆動位置伝達機構部60Aは、第1駆動側マグネット665からラッチ受部材70に力をかけていないため、ラッチ受部材70がX軸方向に対して傾斜した施錠位置を維持できる。
【0106】
図7(B)に示すように、ソレノイド50は、通電時に、プランジャ52をX軸正方向に引き込むことで第2駆動位置に配置する。これにより、切替部材66は、Z軸方向に対して傾斜した姿勢となる。切替部材61の第1駆動側マグネット665は、X軸負方向側に移動して、受動側マグネット715に近接する近接位置に配置される。その結果、第1駆動側マグネット665と受動側マグネット715は、相互に反発し合う磁界を形成する。駆動位置伝達機構部60は、通電時に、第1駆動側マグネット665からラッチ受部材70に時計回りの反発力をかけることになり、ラッチ受部材70を施錠位置から解錠位置に回転させる。よって、駆動位置伝達機構部60Aは、ソレノイド50の通電時に、ラッチ受部材70を解錠位置にスムーズに移動させることができる。
【0107】
そして、駆動位置伝達機構部60は、
図8(A)に示すように、状態操作プレート111の凸部112の上面にステー67の一端部672を引っ掛けることで、通電時施錠パターンを設定できる。すなわち、凸部112に支持された一端部672の配置(第2配置)に応じて、ステー67は、切替部材66のプレート体661に対するホルダ663の回転位置を調整する。この第2配置において、切替部材66は、第2駆動側マグネット666を受動側マグネット715に近接させた近接位置と、第2駆動側マグネット666を受動側マグネット715から離した第2離間位置との間で移動(回転)するようになる。
【0108】
そして、ソレノイド50は、非通電時に、プランジャ52を第1駆動位置に配置することで、切替部材66をZ軸方向に略平行とする。これにより切替部材66の第2駆動側マグネット666は、受動側マグネット715に近接する近接位置に配置される。その結果、第2駆動側マグネット666と受動側マグネット715は、相互に反発し合う磁界を形成する。駆動位置伝達機構部60Aは、通電時に、第2駆動側マグネット666からラッチ受部材70に時計回りの反発力をかけることになり、ラッチ受部材70を施錠位置から解錠位置に回転させる。よって、駆動位置伝達機構部60Aは、ソレノイド50の非通電時に、ラッチ受部材70を解錠位置にスムーズに移動させることができる。
【0109】
図8(B)に示すように、ソレノイド50は、通電時に、プランジャ52をX軸正方向に引き込むことで第2駆動位置に配置する。これにより、切替部材66は、Z軸方向に対して傾斜した姿勢となり、第2駆動側マグネット666をX軸負方向側に移動させて第2離間位置に配置する。そのため、ラッチ受部材70の受動側マグネット715は、第2駆動側マグネット666との間で磁界を形成しない。駆動位置伝達機構部60Aは、第2駆動側マグネット666からラッチ受部材70に力をかけていないため、ラッチ受部材70がX軸方向に対して傾斜した施錠位置を維持できる。
【0110】
以上のように、第1駆動側マグネット665および第2駆動側マグネット666を用いた電気錠1Aでも、ラッチ受部材70の施錠位置および解錠位置を良好に制御できる。これにより、電気錠1は、通電時解錠パターンおよび通電時施錠パターンを簡単かつ安定して切り替えることが可能となる。
【0111】
図9(A)は、変形例に係る駆動位置伝達機構部60Bの通電時解錠パターンを示す説明図である。
図9(B)は、変形例に係る駆動位置伝達機構部60Bの通電時施錠パターンを示す説明図である。
図9(A)および
図9(B)に示すように、変形例に係る駆動位置伝達機構部60Bは、ステー62Aの配置の変化に対して、切替部材61Aを横スライドさせずに回動させる構成とした点で、第1実施形態に係る駆動位置伝達機構部60とは異なる。また、駆動位置伝達機構部60Bは、ソレノイド50に戻しバネ53を適用することで、非通電時のプランジャ52の戻りを補助する。なお、変形例において駆動位置伝達機構部60B以外の箇所は、基本的には第1実施形態に係る電気錠1の構成を採っており、その詳細な説明について省略する。
【0112】
切替部材61Aは、第1実施形態の切替部材61と同様に、プレート体611と、リンクピン612と、軸受孔613、ホルダ614とを備える。ただし、切替部材61Aは、ソレノイド50のプランジャ52に連結する上端部に、戻しバネ53の一端の座を形成する凸状座部616を有している。
【0113】
プレート体611は、ホルダ614に連なって直線状に延在する部分と、この直線状に延在する部分からX軸負方向かつZ軸正方向にクランク状に屈曲してプランジャ52に至る上端部と、を含む。この上端部にはリンクピン612が連設され、リンクピン612は、プランジャ52の孔部52hに回動自在に挿入されている。そして、凸状座部616は、上端部のリンクピン612の設置位置からX軸正方向に向かって短く突出している。
【0114】
切替部材61Aの軸受孔613は、プレート体611の直線状に延在する部分に形成されている。軸受孔613には、後述するステー62Aのシャフト部627が挿入される。切替部材61Aは、この軸受孔613を基点に回動可能となることで、リンクピン612を介して連結されたソレノイド50のプランジャ52の位置に基づき、その傾きが変更される。また、切替部材61Aは、ステー62Aの配置に伴うシャフト部627の変位により、軸受孔613の位置が短い範囲で移動することで、通電時解錠パターンと通電時施錠パターンとに切り替えられる。
【0115】
戻しバネ53は、コイル状に形成され、ソレノイド50のプランジャ52の外周面に外装される。戻しバネ53のX軸負方向の一端には、凸状座部616が挿入される一方で、戻しバネ53のX軸正方向の他端は、ソレノイド本体51の端面に接触する。プランジャ52に外装された戻しバネ53は、凸状座部616(リンクピン612)をX軸負方向に押圧する付勢力を付与する。この戻しバネ53により、ソレノイド50の通電時にX軸正方向に引き込まれた状態のプランジャ52は、ソレノイド50の非通電において、X軸負方向に積極的に移動することができる。
【0116】
図10は、変形例に係る駆動位置伝達機構部60Bのステー62Aを示す斜視図である。
図10に示すように、駆動位置伝達機構部60Bのステー62Aは、クランク状に形成された板状体625によって構成されている。板状体625は、中間胴部625aと、中間胴部625aのX軸正方向側で斜めに傾斜した傾斜下板部625bと、中間胴部625aのX軸負方向側でZ軸正方向に延在する上板部625cと、を有する。さらに、傾斜下板部625bは、X軸正方向に突出する一端部626を有する。ステー62Aの一端部626は、状態操作プレート111の凸部112の上面または下面に係合する。
【0117】
板状体625の上板部625cのY軸正方向側の面には、円柱状のシャフト部627が設けられている。シャフト部627は、切替部材61Aの軸受孔613に挿入されることで、切替部材61Aを回動自在に支持する(
図9も参照)。さらに、板状体625は、中間胴部625aと上板部625cの連結箇所に軸受孔628を備える。この軸受孔628には、ケースプレート10eから突出する軸支ピン16が挿入される。ステー62Aは、軸受孔628に軸支ピン16を挿入することで、軸支ピン16を基点に回動可能となっている。
【0118】
変形例に係る駆動位置伝達機構部60Bは、基本的には以上のように構成され、以下その動作について
図9(A)および
図9(B)を参照しながら説明する。なお、
図9(A)および
図9(B)は、ソレノイド50の通電時の状態を示しており、したがって、プランジャ52はソレノイド本体51と相対的にX軸正方向の第2駆動位置に移動している。
【0119】
図9(A)に示す駆動位置伝達機構部60Bは、通電時解錠パターンを呈している。この場合、ステー62Aの一端部626は、状態操作プレート111の凸部112の下面に係合している。ステー62Aは、軸支ピン16を基点に板状体625を回動させることで、通電時解錠パターンにおいて、板状体625の上板部625cをZ軸方向に概ね平行な姿勢とする。
【0120】
上板部625cがZ軸方向に沿った姿勢では、ホルダ614の駆動側マグネット615が、ラッチ受部材70の受動側マグネット715に対して近接および対向する。これにより、駆動側マグネット615と受動側マグネット715との間に反発力が生じ、ラッチ受部材70のX軸負方向側の受動側マグネット715をZ軸方向下側に押圧する。ラッチ受部材70は、反発力を受けると、軸支ピン18を基点に
図9(A)の時計回りに回転することで、X軸方向に沿って略平行な解錠位置に配置される。よって、ラッチ21のX軸負方向への移動を許容した形態となる。
【0121】
なお図示は省略するが、ソレノイド50の非通電時には、プランジャ52がX軸負方向に移動する。この際、戻しバネ53は、切替部材61の凸状座部616を付勢することで、プランジャ52の戻りを補助する。切替部材61は、プランジャ52が突出する際にシャフト部627を基点に回動し、ホルダ614がX軸正方向かつZ軸負方向に傾斜した第1離間位置に移動する。この結果、駆動位置伝達機構部60Bは、駆動側マグネット615と受動側マグネット715が磁界を形成しなくなり、ラッチ受部材70がX軸方向に対して傾斜した施錠位置とすることができる。
【0122】
図9(B)に示す駆動位置伝達機構部60Bは、通電時施錠パターンを呈している。この場合、ステー62Aの一端部626は、状態操作プレート111の凸部112の上面に係合している。ステー62Aは、軸支ピン16を基点に板状体625を回動させることで、通電時解錠パターンにおいて、板状体625の上板部625cをZ軸方向に対して傾斜した姿勢とする。
【0123】
上板部625cが傾斜した姿勢では、ホルダ614の駆動側マグネット615が、ラッチ受部材70の受動側マグネット715から離間した第2離間位置に移動する。これにより、駆動位置伝達機構部60Bは、ラッチ受部材70がX軸方向に対して傾斜した施錠位置とすることができる。
【0124】
なお図示は省略するが、ソレノイド50の非通電時には、戻しバネ53によりプランジャ52をX軸負方向に積極的に移動させる。切替部材61は、シャフト部627を基点に回動し、ホルダ614がZ軸方向に略平行な位置に移動する。これにより、駆動位置伝達機構部60Bは、駆動側マグネット615と受動側マグネット715との間に反発力を生じさせ、ラッチ受部材70をX軸方向に沿って略平行な解錠位置に配置する。よって、ラッチ21のX軸負方向への移動を許容した形態となる。
【0125】
このように、変形例に係る駆動位置伝達機構部60Bは、状態操作プレート111に対する係合位置に基づきステー62Aを回動させ、またステー62Aの配置の移動に伴う切替部材61AのX軸方向のスライドをなくして、当該切替部材61Aを回動させる。これにより、駆動位置伝達機構部60Bは、通電時解錠パターンおよび通電時施錠パターンの切替時、およびプランジャ52の移動時において、切替部材61Aの位置を円滑に切り替えることができる。そのため、駆動位置伝達機構部60B内での不具合の発生を大幅に抑制できる。
【0126】
以上のように、電気錠1、1Aは、簡単な構成によって通電時施錠パターンおよび通電時解錠パターンを切り替え可能とすることで、省スペース化を促すことができる。すなわち、切替部材61、61A、66は、ステー62、62A、67の配置に基づき駆動側マグネット615、665、666の位置を変えることで、ラッチ受部材70の受動側マグネット715との間で磁界を適宜形成する。この磁界を利用して、ラッチ受部材70の施錠位置と解錠位置とが切り替えられる。しかも、電気錠1、1Aは、マグネットを利用することで、各機械的接触部分を減らし、高寿命化を促進できる。さらに、駆動位置伝達機構部60が簡素化することで、ステー62、62A、67および切替部材61、61A、66の配置の変更、ソレノイド50の駆動位置の伝達等を安定化させることができる。そして、通電時施錠パターンおよび通電時解錠パターンを有する電気錠1、1Aでも、他の構成の収容スペースを良好に確保することができ、また装置の小型化等を図ることが可能となる。
【0127】
今回開示された実施形態に係る電気錠1、1Aは、すべての点において例示であって制限的なものではない。実施形態は、添付の請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形および改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0128】
1、1A 電気錠
10 ケース
111 状態操作プレート
21 ラッチ
22 ラッチプレート
50 ソレノイド
60、60A、60B 駆動位置伝達機構部
61、61A、66 切替部材
615 駆動側マグネット
663 ホルダ
665 第1駆動側マグネット
666 第2駆動側マグネット
62、62A、67 ステー
70 ラッチ受部材
715 受動側マグネット
90 制御盤
93 スイッチ