(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152380
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20241018BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20241018BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20241018BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20241018BHJP
F16C 19/08 20060101ALI20241018BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C19/54
F16C33/41
F16C33/58
F16C19/08
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066535
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
【テーマコード(参考)】
3J027
3J701
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB31
3J027GB03
3J027GC06
3J027GE25
3J701AA02
3J701AA12
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA43
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701CA14
3J701FA31
3J701FA44
3J701GA32
3J701GA41
(57)【要約】
【課題】起振体軸受の長寿命化を図ることのできる撓み噛合い式歯車装置を提供する。
【解決手段】撓み噛合い式歯車装置であって、起振体軸受18は、複数の第1転動体40Aを保持する第1保持器48Aと、複数の第2転動体40Bを保持する第2保持器48Bと、を備え、第1保持器48Aは、複数の第1転動体40Aのそれぞれを収容する複数の第1ポケット64Aを備え、第1ポケット64Aは、軸方向で第2転動体列42B側に向けて開口しており、第2保持器48Bは、複数の第2転動体40Bのそれぞれを収容する複数の第2ポケット64Bを備え、第2ポケット64Bは、軸方向で第1転動体列42A側に向けて開口している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、前記起振体により撓み変形させられる撓み歯車と、前記起振体と前記撓み歯車との間に配置される起振体軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸受は、複数の第1転動体が周方向に配列された第1転動体列と、前記複数の第1転動体を保持する第1保持器と、前記第1転動体列から軸方向にオフセットした位置に配置され複数の第2転動体が周方向に配列される第2転動体列と、前記複数の第2転動体を保持する第2保持器と、を備え、
前記第1保持器は、前記複数の第1転動体のそれぞれを収容する複数の第1ポケットを備え、前記第1ポケットは、軸方向で前記第2転動体列側に向けて開口しており、
前記第2保持器は、前記複数の第2転動体のそれぞれを収容する複数の第2ポケットを備え、前記第2ポケットは、軸方向で前記第1転動体列側に向けて開口している撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記起振体軸受は、前記第1転動体が転動する第1レースと、前記第2転動体が転動する第2レースと、を備え、
前記第1転動体列の軸方向中央位置は、前記第1レースの軸方向中央位置よりも前記第2転動体列とは軸方向反対側に配置される請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記起振体軸受は、前記第1転動体が転動する第1レースと、前記第2転動体が転動する第2レースと、を備え、
前記第1レースは、径方向で前記起振体側に配置される第1起振体レースと、径方向で前記撓み歯車側に配置される第1歯車レースと、を含み、
前記第2レースは、径方向で前記起振体側に配置される第2起振体レースと、径方向で前記撓み歯車側に配置される第2歯車レースと、を含み、
前記第1起振体レース及び前記第2起振体レースからなる起振体レースセットと前記第1歯車レース及び前記第2歯車レースからなる歯車レースセットとのうちの少なくとも一方は、レースセットを構成する二つのレースが別体に構成される請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記起振体軸受は、前記第1転動体が転動する第1レースと、前記第2転動体が転動する第2レースと、を備え、
前記第1レースは、径方向で前記起振体側に配置される第1起振体レースと、径方向で前記撓み歯車側に配置される第1歯車レースと、を含み、
前記第2レースは、径方向で前記起振体側に配置される第2起振体レースと、径方向で前記撓み歯車側に配置される第2歯車レースと、を含み、
前記第1起振体レース及び前記第2起振体レースからなる起振体レースセットと前記第1歯車レース及び前記第2歯車レースからなる歯車レースセットとのうちの少なくとも一方は、レースセットを構成する二つのレースが同一の部材により一体的に構成される請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記起振体軸受は、径方向で前記撓み歯車側に配置され前記第1転動体が転動する第1歯車レースと、径方向で前記撓み歯車側に配置され前記第2転動体が転動する第2歯車レースと、を備え、
前記撓み歯車の軸方向寸法は、前記第1歯車レース及び前記第2歯車レースからなる歯車レースセットの軸方向寸法よりも大きい請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記起振体軸受は、径方向で前記起振体側に配置され前記第1転動体が転動する第1起振体レースと、径方向で前記起振体側に配置され前記第2転動体が転動する第2起振体レースと、を備え、
前記撓み歯車の軸方向寸法は、前記第1起振体レース及び前記第2起振体レースからなる起振体レースセットの軸方向寸法よりも大きく、
前記起振体レースセットの軸方向移動を規制するレース規制部材を備える請求項5に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
前記起振体軸受は、径方向で前記撓み歯車側に配置され前記第1転動体が転動する第1歯車レースを備え、
前記第1保持器の全体は、前記第1転動体列を挟んで前記第2転動体列とは軸方向反対側の前記第1歯車レースの端面よりも軸方向で前記第2転動体列側に配置される請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項8】
前記第1保持器は、前記第1転動体列を挟んで前記第2転動体列とは軸方向反対側に配置される第1リング部と、前記第1リング部から軸方向に突出する複数の第1柱部と、を備え、
前記複数の第1ポケットは、周方向に隣り合う前記第1柱部間に形成され、
前記第1保持器は、前記第1転動体列に対して軸方向で前記第2転動体列側に配置されるリング部を備えない請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項9】
前記起振体軸受は、前記起振体と前記撓み歯車との間に配置される転動体列として前記第1転動体列及び前記第2転動体列のみを備える請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、起振体と、起振体により撓み変形させられる撓み歯車と、起振体と撓み歯車との間に配置される起振体軸受とを備える撓み噛合い式歯車装置を開示している。この起振体軸受は、複数の第1転動体が周方向に配列された第1転動体列と、複数の第2転動体が周方向に配列された第2転動体列とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、複数の転動体列が設けられた起振体軸受を備える撓み噛合い式歯車装置において、起振体軸受の長寿命化を図るための新たなアイデアを見出した。
【0005】
本開示の目的の1つは、起振体軸受の長寿命化を図ることのできる撓み噛合い式歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、前記起振体により撓み変形させられる撓み歯車と、前記起振体と前記撓み歯車との間に配置される起振体軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、前記起振体軸受は、複数の第1転動体が周方向に配列された第1転動体列と、前記複数の第1転動体を保持する第1保持器と、複数の第2転動体が周方向に配列され前記第1転動体列から軸方向にオフセットした位置に配置される第2転動体列と、前記複数の第2転動体を保持する第2保持器と、を備え、前記第1保持器は、前記複数の第1転動体のそれぞれを収容する複数の第1ポケットを備え、前記第1ポケットは、軸方向で前記第2転動体列側に向けて開口しており、前記第2保持器は、前記複数の第2転動体のそれぞれを収容する複数の第2ポケットを備え、前記第2ポケットは、軸方向で前記第1転動体列側に向けて開口している。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、起振体軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の歯車装置を示す側面断面図である。
【
図3】
図3のA-A断面の一部を模式的に示す図である。
【
図4】第1実施形態の各保持器を径方向外側から見た模式図である。
【
図5】第2実施形態の起振体軸受の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1を参照する。撓み噛合い式歯車装置10(以下、単に歯車装置10ともいう)は、被駆動機械の一部として被駆動機械に組み込まれる。被駆動機械は、例えば、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)等の各種機械である。
【0011】
本実施形態では筒型の撓み噛合い式歯車装置10を説明する。この歯車装置10は、起振体12と、起振体12により撓み変形させられる撓み歯車14と、撓み歯車14と噛み合う噛合歯車16A、16Bと、起振体12と撓み歯車14との間に配置される起振体軸受18と、を備える。この他に、歯車装置10は、起振体12を有する起振体軸20と、起振体軸20を支持する軸受22と、軸受22を支持する軸受ハウジング26A、26Bと、ケーシング28と、を備える。以下、起振体12の回転中心線C12に沿った方向を単に軸方向といい、その回転中心線C12を円中心とする半径方向及び円周方向を単に径方向及び周方向ともいう。また、説明の便宜から、軸方向一側(
図1の紙面右側)を入力側といい、軸方向他側を反入力側という。
【0012】
歯車装置10は、外部の駆動源から回転が入力される入力部材と、外部の被駆動部材に回転を出力する出力部材と、外部の被固定部材に固定される固定部材とを備える。ここでは起振体軸20(起振体12)が入力部材、第2軸受ハウジング26B(後述する)が出力部材、ケーシング28が固定部材である例を説明する。駆動源は、例えば、モータであるが、この他にもギヤモータ、エンジン等でもよい。被駆動部材及び被固定部材は、例えば、被駆動機械の一部となる。
【0013】
起振体軸20は、起振体12の他に、起振体12の軸方向両側に設けられる軸部30を備える。起振体軸20の中央部には軸方向に貫通するホロー部32が形成される。撓み歯車14と径方向に対向する起振体12の対向周部(ここでは外周部)の断面形状は楕円状をなす。起振体12の対向周部と径方向で同じ側にある軸部30の周部(ここでは外周部)の断面形状は円状をなす。ここでの断面形状は、起振体12の軸方向に直交する断面での形状をいう。ここでの「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0014】
撓み歯車14は、起振体12により起振体軸受18を介して撓み変形させられる可撓性を有する筒状部材である。撓み歯車14及び噛合歯車16A、16Bの一方は外歯歯車となり、他方は内歯歯車となる。ここでは撓み歯車14が外歯歯車であり、噛合歯車16A、16Bが内歯歯車となる例を説明する。
【0015】
噛合歯車16A、16Bは、起振体12の回転に追従して撓み変形しない程度の剛性を持つ。噛合歯車16A、16Bは、撓み歯車14の入力側部分の歯と噛み合う第1噛合歯車16Aと、撓み歯車14の反入力側部分の歯(内歯)と噛み合う第2噛合歯車16Bとを含む。第1噛合歯車16Aは、撓み歯車14の歯数(例えば、100)とは異なる歯数(例えば、102)を持ち、第2噛合歯車16Bは、撓み歯車14の歯数と同数の歯数を持つ。
【0016】
本実施形態のケーシング28は、入力側ケーシング部材28aと反入力側ケーシング部材28bとを備える。入力側ケーシング部材28aと反入力側ケーシング部材28bとはボルト等の連結部材B1(
図1参照)により連結される。入力側ケーシング部材28aは、第1噛合歯車16Aを兼ねている。反入力側ケーシング部材28bは、第2噛合歯車16Bの径方向外側に配置される。ケーシング28と第2噛合歯車16Bとの間には主軸受34が配置される。主軸受34は玉軸受を示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受、クロスローラ軸受、アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等でもよい。
【0017】
軸受22A、22Bは、入力側に配置される第1軸受22と、反入力側に配置される第2軸受22Bとを備える。軸受22A、22Bは玉軸受を例に示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受等の各種軸受でもよい。
【0018】
軸受ハウジング26A、26Bは、第1軸受22を支持する第1軸受ハウジング26Aと、第2軸受22Bを支持する第2軸受ハウジング26Bとを含む。第1軸受ハウジング26Aは、撓み歯車14に対して軸方向入力側に配置される。第1軸受ハウジング26Aは、ボルト等の連結部材B2により第1噛合歯車16Aと連結される。第2軸受ハウジング26Bは、撓み歯車14に対して軸方向反入力側に配置される。第2軸受ハウジング26Bは、ボルト等の連結部材B3により第2噛合歯車16Bと連結される。
【0019】
本実施形態の歯車装置10の動作を説明する。起振体軸20が回転すると、起振体軸20の起振体12の形状に合わせた楕円状をなすように撓み歯車14が撓み変形させられる。このように撓み歯車14が撓み変形すると、撓み歯車14と噛合歯車16A、16Bの噛合位置が起振体12の回転方向に変化する。このとき、異なる歯数を持つ撓み歯車14と第1噛合歯車16Aの噛合位置が一周する毎に、これらの噛み合う歯が周方向にずれていく。この結果、これらのうちの一方(本実施形態では撓み歯車14)が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材により取り出される。本実施形態において、撓み歯車14と第2噛合歯車16Bは、互いに同じ歯数を持つため同期し、撓み歯車14の自転成分は、撓み歯車14と同期する第2噛合歯車16Bを通して、出力部材としての第2軸受ハウジング26Bにより取り出される。このとき、起振体12に入力された入力回転に対して、撓み歯車14と第1噛合歯車16Aの歯数差に応じた変速比で変速(ここでは減速)された出力回転が出力部材により取り出される。
【0020】
図2を参照する。起振体軸受18の説明に移る。起振体軸受18は、複数の第1転動体40Aが周方向に配列された第1転動体列42Aと、複数の第1転動体40Aが転動する第1レース44A、46Aと、複数の第1転動体40Aを保持する第1保持器48Aとを備える。起振体軸受18は、この他に、第1転動体列42Aに対して軸方向にオフセットした位置に配置され複数の第2転動体40Bが周方向に配列された第2転動体列42Bと、複数の第2転動体40Bが転動する第2レース44B、46Bと、複数の第2転動体40Bを保持する第2保持器48Bとを備える。
【0021】
起振体軸受18は、起振体12と撓み歯車14との間に配置される複数の転動体からなる転動体列として第1転動体列42A及び第2転動体列42Bのみを備え、他の転動体列を備えていない。これにより、他の転動体列がある場合より部品点数を削減することで低コスト化に有利となる。
【0022】
本実施形態の第1転動体40Aは球体であるが、これに限定されず、ころ等の各種転動体でもよい。本実施形態の第1転動体列42Aは、第1噛合歯車16Aと径方向に重なる位置に配置される。本実施形態の第2転動体40Bは球体であるが、ころ等の各種転動体でもよい。本実施形態の第2転動体列42Bは、第2噛合歯車16Bと径方向に重なる位置に配置される。本実施形態の第1転動体40A及び第2転動体40Bは同じ種類の転動体(球体)であるが、異なる種類の転動体(例えば、球体ところ)でもよい。
【0023】
第1レース44A、46Aは、第1転動体列42Aに対して径方向で起振体12側に配置される第1起振体レース44Aと、第1転動体列42Aに対して径方向で撓み歯車14側に配置される第1歯車レース46Aと、を含む。第2レース44B、46Bは、第2転動体列42Bに対して径方向で起振体12側に配置される第2起振体レース44Bと、第2転動体列42Bに対して径方向で撓み歯車14側に配置される第2歯車レース46Bと、を含む。本実施形態において、起振体レース44A、44Bはインナーレースであり、歯車レース46A、46Bはアウターレースとなる。
【0024】
起振体レース44A、44Bは、起振体12と一体に回転可能である。本実施形態の起振体レース44A、44Bは、起振体12とは別体に構成され、接着、圧入等により起振体12に固定される。この起振体レース44A、44Bは可撓性を持ち、起振体12に嵌められることで楕円状に撓み変形した状態で固定される。この他にも、起振体レース44A、44Bは、起振体12と同一の部材により一体的に構成されてもよい。つまり、起振体12の外周面が、起振体レース44A、44Bを構成してもよい。
【0025】
歯車レース46A、46Bは、起振体12により起振体レース44A、44B及び転動体列42A、42Bを介して撓み変形させられる可撓性を持つ。歯車レース46A、46Bも、撓み歯車14と同様、起振体12が回転すると、起振体12の形状に合わせた楕円状をなすように撓み変形させられる。本実施形態の歯車レース46A、46Bは、撓み歯車14とは別体に構成される。この他にも、歯車レース46A、46Bは、撓み歯車14と同じ部材により一体的に構成されてもよい。つまり、撓み歯車14の内周面が、歯車レース46A、46Bを構成してもよい。
【0026】
第1起振体レース44A及び第2起振体レース44Bからなるものを起振体レースセット50といい、第1歯車レース46A及び第2歯車レース46Bからなるものを歯車レースセット52という。起振体レースセット50と歯車レースセット52とのうちの少なくとも一方は、レースセットを構成する二つのレースが別体に構成される。本実施形態では起振体レースセット50及び歯車レースセット52の双方がこの条件を満たす。起振体レースセット50を構成する第1起振体レース44Aと第2起振体レース44Bが別体に構成され、歯車レースセット52を構成する第1歯車レース46A及び第2歯車レース46Bが別体に構成されることになる。この他にも、前述の「別体に構成される」という条件を一方のレースセットのみが満たし、残りのレースセットは、後述のように、レースセットを構成する二つのレースが同一の部材により一体的に構成されてもよい。
【0027】
このようにレースセットを構成する二つのレースを別体に構成するうえで、本実施形態では二つのレースが互いに接触しているが、二つのレースが間隔を空けて配置されていてもよい。このように二つのレースが間隔を空けて配置される場合、二つのレースは、両者の間に配置される環状部材等のスペーサにより間隔が保持されていてもよい。このようにレースセットを構成する二つのレースを別体に構成することで、二つのレースの配置位置に関して設計上の自由度を高めることができる。
【0028】
各レース44A、44B、46A、46Bには転動体40A、40Bが転動する転動面54A、54Bが形成される。各第1レース44A、46Aには第1転動体40Aが転動する第1転動面54Aが形成され、各第2レース44B、46Bには第2転動体40Bが転動する第2転動面54Bが形成される。本実施形態の転動面54A、54Bは、転動体40A、40Bの一部が嵌まり込む溝状をなす。本実施形態の転動面54A、54Bは、球体となる転動体40A、40Bに合わせた円弧状の溝状をなす。溝状の転動面54A、54Bの形状は特に限定されず、例えば、ころとなる転動体40A、40Bに合わせた矩形状の溝状をなしていてもよい。転動体40A、40Bがころとなる場合、各レース44A、44B、46A、46Bの転動面54A、54Bは溝状をなしていなくともよい。
【0029】
転動体40A、40Bは起振体レース44A、44Bの溝状の転動面54A、54B内に配置されることで、起振体レース44A、44Bに対する軸方向移動が規制され、歯車レース46A、46Bの溝状の転動面54A、54B内に配置されることで、転動体40A、40Bに対する歯車レース46A、46Bの軸方向移動が規制される。つまり、転動体40及び歯車レース46A、46Bは、起振体レース44A、44Bに対する軸方向移動が規制されるように構成される。これを実現するうえで、転動体40Aとの接触により転動体40Aの軸方向移動を規制する止め輪等を起振体レース44A、44Bに取り付け、転動体40Aとの接触により歯車レース46A、46Bの軸方向移動を規制する止め輪等を歯車レース46A、46Bに取り付けてもよい。
【0030】
図2~
図4を参照する。
図3では、起振体12の内部構造を省略する。
図4は、各保持器48A、48Bを一部の周方向位置で仮想的に分断して展開したものを平面に投影したときの、各転動体列42A、42B、各保持器48A、48Bの位置関係を示す図でもある。
【0031】
第1保持器48Aは、複数の第1転動体40Aを回転中心線C12(
図1参照)回りに回転自在に保持し、第1転動体列42Aとともに回転中心線C12周りを回転可能である。第1保持器48Aは、第1転動体列42Aを挟んで第2転動体列42Bとは軸方向反対側に配置される第1リング部60Aと、第1リング部60Aから軸方向で第2転動体列42B側に突出する複数の第1柱部62Aと、周方向に隣り合う第1柱部62A間に形成され複数の第1転動体40Aのそれぞれを収容する複数の第1ポケット64Aと、を備える。
【0032】
第1保持器48Aは、第1リング部60Aと複数の第1柱部62Aとにより櫛形に形成される。櫛形の第1保持器48Aは、第1転動体列42Aに対して軸方向で第2転動体列42B側に配置されるリング部を備えない。第1保持器48Aは、第1転動体列42Aに対して軸方向にオフセットした位置に配置されるリング部として、前述した単数の第1リング部60Aのみを備えることになる。
【0033】
第1柱部62Aは、周方向に間隔を空けて配列される。第1柱部62Aは、第1リング部60Aにより片持ち支持されており、第1リング部60Aとは軸方向反対端が自由端となる。第1ポケット64Aは、軸方向で第2転動体列42B側に向けて開口しており、その第1ポケット64Aの開口箇所には第1開口部66Aが形成される。
【0034】
第1保持器48Aは、第1開口部66Aを経由する第1ポケット64A外への第1転動体40Aの脱落を阻止する第1脱落阻止部68Aを備える。第1脱落阻止部68Aは、周方向に隣り合う第1柱部62Aそれぞれの先端部において第1ポケット64Aの周方向内側に突き出る凸部(爪部)により構成される。本実施形態の第1脱落阻止部68Aは、第1柱部62Aと同じ部材により一体に設けられるが、第1柱部62Aとは別体に設けられてもよい。
【0035】
第2保持器48Bは、複数の第2転動体40Bを回転中心線C14(
図1参照)回りに回転自在に保持し、第2転動体列42Bとともに回転中心線C14周りを回転可能である。第2保持器48Bは、第2転動体列42Bを挟んで第1転動体列42Aとは軸方向反対側に配置される第2リング部60Bと、第2リング部60Bから軸方向で第1転動体列42A側に突出する複数の第2柱部62Bと、周方向に隣り合う第2柱部62B間に形成され複数の第2転動体40Bのそれぞれを収容する複数の第2ポケット64Bと、を備える。本実施形態において、第2保持器48Bを軸方向から見た各構成要素(第2リング部60B、第2柱部62B、第2ポケット64B)の位置関係は、第1保持器48Aを軸方向から見た
図3の各構成要素の位置関係(第1リング部60A、第1柱部62A、第1ポケット64A)と同様となる。
【0036】
第2保持器48Bは、第2リング部60Bと複数の第2柱部62Bとにより櫛形に形成される。櫛形の第2保持器48Bは、第2転動体列42Bに対して軸方向で第1転動体列42A側に配置されるリング部を備えない。第2保持器48Bは、第2転動体列42Bに対して軸方向にオフセットした位置に配置されるリング部として、前述した第2リング部60Bのみを備えるということである。
【0037】
第2柱部62Bは、周方向に間隔を空けて配列される。第2柱部62Bは、第2リング部60Bにより片持ち支持されており、第2リング部60Bとは軸方向反対端が自由端となる。第2ポケット64Bは、軸方向で第1転動体列42A側に向けて開口しており、その第2ポケット64Bの開口箇所には第2開口部66Bが形成される。
【0038】
第2保持器48Bは、第2開口部66Bを経由する第2ポケット64B外への第2転動体40Bの脱落を阻止する第2脱落阻止部68Bを備える。第2脱落阻止部68Bは、周方向に隣り合う第2柱部62Bそれぞれの先端部において第2ポケット64Bの周方向内側に突き出る凸部(爪部)により構成される。本実施形態の第2脱落阻止部68Bは、第2柱部62Bと同じ部材により一体に設けられるが、第2柱部62Bとは別体に設けられてもよい。
【0039】
以上の歯車装置10の内部には潤滑剤(不図示)が収容される。本実施形態の潤滑剤はグリースであるが、この他にも潤滑油等でもよい。潤滑剤は、少なくとも転動体40A、40Bの摩耗を抑制するために起振体軸受18の内部に収容される。詳しくは、潤滑剤は、第1転動体列42A及び第1保持器48Aからなる第1転動体ユニット70Aと、第2転動体列42B及び第2保持器48Bからなる第2転動体ユニット70Bとの間の第1スペース72に少なくとも収容される。潤滑剤は、第1スペース72内に潤滑剤を保持する観点から、ある程度の硬さを持つグリースを採用することが好ましい。この観点から、グリースのちょう度番号は、好ましくは1号~6号を採用してもよい、より好ましくは1号~2号を採用してもよい。ここでのちょう度番号とは、JIS K2220に規定されるグリスを混和ちょう度の範囲によって分類した番号をいう。歯車装置10が潤滑剤を内部空間に封入するシール部材を用いる場合、これより柔らかいちょう度番号(000号~0号)のグリースを採用してもよい。
【0040】
以上の歯車装置10の効果を説明する。各保持器48A、48Bのリング部60A、60Bは、通常、各転動体列42A、42Bの間に配置される。つまり、通常、第1保持器48Aの第1リング部60Aは、第1転動体列42Aよりも軸方向で第2転動体列42B側(
図2の紙面左側)に配置され、第2保持器48Bの第2リング部60Bは、第2転動体列42Bよりも軸方向で第1転動体列42A側(
図2の紙面右側)に配置される。この場合、第1転動体ユニット70Aと第2転動体ユニット70Bとの間に広い第1スペース72を確保し難くなる。このため、この第1スペース72を潤滑剤保持空間として利用する場合に、その第1スペース72に多くの潤滑剤量を保持し難くなってしまう。この第1スペース72に保持される潤滑剤量は起振体軸受18の寿命に影響しており、その長寿命化を図るうえでは、第1スペース72の大型化が要求される。
【0041】
これに対して、本実施形態によれば、第1保持器48Aの第1ポケット64Aが第2転動体列42B側に向けて開口し、第2保持器48Bの第2ポケット64Bが第1転動体列42A側に向けて開口する。この場合、各転動体列42A、42Bの間に各保持器48A、48Bのリング部が配置されない構造となる。よって、各保持器48A、48Bのリング部が各転動体列42A、42Bの間に配置される場合と比べ、第1転動体ユニット70Aと第2転動体ユニット70Bとの間に広い第1スペース72を確保し易くなる。この第1スペース72は、各保持器48A、48Bの開口部66A、66Bの内側を含む範囲で設けられる。よって、この第1スペース72を潤滑剤を保持する潤滑剤保持空間として利用することで、各転動体40A、40Bの潤滑に供される潤滑剤の保持量を増やすことができる。これにより、長期間に亘り転動体40A、40Bの潤滑状態を維持でき、それにより起振体軸受18の長寿命化を図ることができる。ひいては、歯車装置10の長寿命化を図ることができる。
【0042】
以上の歯車装置10の他の特徴を説明する。
図2を参照する。第1起振体レース44Aの軸方向中央位置P44Aと、第1歯車レース46Aの軸方向中央位置P46Aとを想定する。第1転動体列42Aの軸方向中央位置P42Aは、第1レース44A、46Aの軸方向中央位置P44A、P46Aよりも第2転動体列42Bとは軸方向反対側(軸方向外側)に配置される。この条件を満たすうえで、第1起振体レース44A及び第1歯車レース46Aのうちの少なくとも一方の軸方向中央位置P44A、P46Aよりも軸方向外側に配置されていればよい。本実施形態では各第1レース44A、46Aの双方の軸方向中央位置P44A、P46Aが同じ軸方向位置にあり、その双方の軸方向中央位置P44A、P46Aよりも軸方向外側に配置される。この他にも、各第1レース44A、46Aの双方の軸方向中央位置P44A、P46Aは異なる軸方向位置にあってもよい。
【0043】
これにより、各第1レース44A、46Aの双方又は軸方向内側(第2転動体列42B側)にあるものと同じ軸方向中央位置P44A、P46Aに第1転動体列42Aの軸方向中央位置P42Aがある場合と比べ、第1転動体ユニット70Aと第2転動体ユニット70Bとの間の第1スペース72を広くすることができる。ひいては、前述と同様、この第1スペース72に保持される潤滑剤の保持量を増やすことで、起振体軸受18の長寿命化に有利となる。なお、ここでの「各第1レース44A、46Aの双方」とは、各第1レース44A、46Aの双方が同じ軸方向中央位置P44A、P46Aにある場合を想定している。
【0044】
第2起振体レース44Bの軸方向中央位置P44Bと、第2歯車レース46Bの軸方向中央位置P46Bとを想定する。第2転動体列42Bの軸方向中央位置P42Bは、第2レース44B、46Bの軸方向中央位置P44B、P46Bよりも第1転動体列42Aとは軸方向反対側(軸方向外側)に配置される。この条件を満たすうえで、第2起振体レース44B及び第2歯車レース46Bのうちの少なくとも一方の軸方向中央位置P44B、P46Bよりも軸方向外側に配置されていればよい。本実施形態では各第2レース44B、46Bの双方の軸方向中央位置P44B、P46Bが同じ軸方向位置にあり、その双方の軸方向中央位置P44B、P46Bよりも軸方向外側に配置される。この他にも、各第2レース44B、46Bの双方の軸方向中央位置P44B、P46Bは異なる軸方向位置にあってもよい。
【0045】
これにより、各第2レース44B、46Bの双方又は軸方向内側(第1転動体列42A側)にあるものと同じ軸方向中央位置P44B、P46Bに第2転動体列42Bの軸方向中央位置P42Bがある場合と比べ、第1転動体ユニット70Aと第2転動体ユニット70Bとの間の第1スペース72を広くすることができる。ひいては、前述と同様、この第1スペース72に保持される潤滑剤の保持量を増やすことで、起振体軸受18の長寿命化に有利となる。なお、ここでの「各第2レース44B、46Bの双方」とは、各第2レース44B、46Bの双方が同じ軸方向中央位置P44B、P46Bにある場合を想定している。なお、レースセットを構成する二つのレースが同一の部材により構成される場合、個々のレースの軸方向中央位置の考え方は後述する。
【0046】
撓み歯車14の軸方向寸法L14は、歯車レースセット52の軸方向寸法L52よりも大きくなる。ここでの歯車レースセット52の軸方向寸法L52とは、第1歯車レース46Aの軸方向外側端(第2歯車レース46Bとは軸方向反対端)から第2歯車レース46Bの軸方向外側端(第1歯車レース46Aとは軸方向反対端)までの軸方向寸法をいう。これにより、撓み歯車14の軸方向末端より軸方向内側にオフセットした位置に歯車レースセット52の軸方向末端を設けることができ、その撓み歯車14の軸方向末端部の径方向内側に第2スペース80を形成することができる。この第2スペース80は、撓み歯車14の少なくとも軸方向片側の末端部における径方向内側に形成される。本実施形態では、撓み歯車14の軸方向両側の末端部における径方向内側に個別に第2スペース80が形成される。この第2スペース80を潤滑剤保持空間として利用することで、その近傍にある転動体40A、40Bの潤滑に供される潤滑剤の保持量を増やすことができ、その長寿命化に有利となる。
【0047】
撓み歯車14の軸方向寸法L14は、起振体レースセット50の軸方向寸法L50よりも大きくなる。ここでの起振体レースセット50の軸方向寸法L50とは、第1起振体レース44Aの軸方向外側端(第2起振体レース44Bとは軸方向反対端)から第2起振体レース44Bの軸方向外側端(第1起振体レース44Aとは軸方向反対端)までの軸方向寸法をいう。本実施形態では、起振体レースセット50の軸方向寸法L50は、歯車レースセット52の軸方向寸法L52と同じであるが、これらは異なっていてもよい。
【0048】
歯車装置10は、起振体レースセット50の軸方向移動を規制するレース規制部材82A、82Bを備える。レース規制部材82A、82Bは、起振体軸20の軸部30を取り囲む形状(環状、切欠環状等)をなす。レース規制部材82A、82Bは、起振体レースセット50に対して入力側に配置される第1レース規制部材82Aと、起振体レースセット50に対して反入力側に配置される第2レース規制部材82Bとを含む。レース規制部材82A、82Bは、自身と軸方向に対向する起振体レースセット50の軸方向末端に当たることで、その軸方向移動を規制する。レース規制部材82A、82Bは、レース規制部材82A、82Bを挟んで起振体レースセット50とは軸方向反対側において他部材に当たることで、その軸方向移動が規制される。この「他部材」は、軸受22の内輪を例に示すが、起振体軸20の外周部に設けられる止め輪等でもよい。
【0049】
歯車装置10は、撓み歯車14の軸方向移動を規制する歯車規制部材84を備える。歯車規制部材84は、撓み歯車14に当たることで、その軸方向移動を規制する。歯車規制部材84は、例えば、環状の板状部材等である。本実施形態の歯車規制部材84は、他部材に当たることで軸方向移動が規制される。この他部材は、ここでは、軸受22の外輪を例に示すが、軸受ハウジング26A、26B等でもよい。
【0050】
第1歯車レース46Aは、第1転動体列42Aを挟んで第2転動体列42Bとは軸方向反対側に設けられる第1外端面46Aaを備える。第2歯車レース46Bは、第2転動体列42Bを挟んで第1転動体列42Aとは軸方向反対側に設けられる第2外端面46Baを備える。第1保持器48Aの全体は、第1歯車レース46Aの第1外端面46Aaよりも軸方向で第2転動体列42B側に配置される。第1保持器48Aの全体は、第1歯車レース46Aの第1外端面46Aaよりも軸方向内側に収まるように配置され、その第1外端面46Aaから軸方向外側にはみ出ないことになる。第2保持器48Bの全体は、第2歯車レース46Bの第2外端面46Baよりも軸方向で第1転動体列42A側に配置される。第2保持器48Bの全体は、第2歯車レース46Bの第2外端面46Baよりも軸方向内側に収まるように配置され、その第2外端面46Baから軸方向外側にはみ出ないことになる。
【0051】
これにより、撓み歯車14の軸方向寸法L14が歯車レースセット52の軸方向寸法L52よりも大きくなる場合、前述の第2スペース80を第2歯車レース46Bの外側端部(外端面46Aa、46Ba側の軸方向端部)の径方向内側まで広げることができる。また、撓み歯車14の軸方向寸法L14が歯車レースセット52の軸方向寸法L52と同じである場合、歯車規制部材84に対して第1保持器48Aが摺動してしまう事態を回避できる。この効果との関係では、少なくとも第1保持器48Aの全体が第1歯車レース46Aの第1外端面46Aaより軸方向で第2転動体列42B側に配置されていればよい。この効果との関係では、第2歯車レース46Bの第2外端面46Baに対する第2保持器48Bの軸方向位置は問わないということである。
【0052】
なお、噛合歯車16A、16B、ケーシング28、軸受ハウジング26A、26B等は樹脂系素材により構成され、起振体12、撓み歯車14は金属系素材により構成される。また、起振体軸受18の転動体40A、40B及びレース44A、44B、46A、46Bは金属系素材により構成され、保持器48A、48Bは樹脂系素材により構成される。ここでの樹脂系材料とは、樹脂を主材とする材料をいい、その樹脂のみからなる材料の他、その樹脂と他素材との複合材料(例えば、繊維強化樹脂等)も含まれる。この樹脂は、例えば、汎用エンジニアプラスチック、特殊エンジニアプラスチック等のプラスチック系材料である。ここでの金属系材料は、言及する金属(合金含む)を主材とする材料をいい、その金属のみからなる材料の他、その金属と他素材との複合材料(例えば、繊維強化金属等)も含まれる。この金属系材料としては、鋳鉄、鋼等の鉄系材料の他にアルミニウム系材料を採用してもよい。これら素材は一例であり、これに限定されず、各種構成要素は金属系素材、樹脂系素材のいずれにより構成されてもよい。
【0053】
(第2実施形態)
図5を参照する。第1実施形態では起振体レースセット50及び歯車レースセット52の双方が、レースセットを構成する二つのレースが別体に構成される例を説明した。本実施形態では、起振体レースセット50と歯車レースセット52の少なくとも一方が、レースセットを構成する二つのレースが同一の部材により一体的に構成される。本実施形態では起振体レースセット50及び歯車レースセット52の双方がこの条件を満たす。起振体レースセット50を構成する第1起振体レース44Aと第2起振体レース44Bが同一の部材により一体的に構成され、歯車レースセット52を構成する第1歯車レース46A及び第2歯車レース46Bが同一の部材により一体的に構成されることになる。この他にも、「一体的に構成される」という条件を一方のレースセットのみが満たし、残りのレースセットは、第1実施形態のように、レースセットを構成する二つのレースが別体に構成されてもよい。これにより、レースセットを構成する二つのレースを別体に構成するよりも部品点数を削減できる。
【0054】
このようにレースセットを構成する二つのレースが同一の部材により一体的に構成される場合、これらを構成する同一の部材の軸方向中央位置に二つのレースの境界があるものとして取り扱う。起振体レースセット50に関していえば、起振体レースセット50の二つの起振体レース44A、44Bを構成する同一の部材における軸方向中央位置P50が各起振体レース44A、44Bの境界となる。この軸方向中央位置P50よりも軸方向両側に個別の起振体レース44A、44Bがあるものとして取り扱う。歯車レースセット52に関していえば、歯車レースセット52の二つの歯車レース46A、46Bを構成する同一の部材における軸方向中央位置P52が各歯車レース46A、46Bの境界となる。この軸方向中央位置P52よりも軸方向両側に個別の歯車レース46A、46Bがあるものとして取り扱う。このような前提のもと、前述した第1レース44A、46Aの軸方向中央位置P44A、P46A、第2レース46A、46Bの軸方向中央位置P44B、P46Bを観念すればよい。
【0055】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0056】
撓み噛合い式歯車装置10の具体的な種類は特に限定されず、筒型の他、カップ型、シルクハット型でもよい。
【0057】
軸受ハウジング26A、26Bに替えてケーシング28を出力部材とし、ケーシング28に替えて軸受ハウジング26A、26Bを固定部材としてもよい。歯車装置10は減速装置として機能する例を説明した。この場合、起振体12が入力部材、軸受ハウジング26A、26B又はケーシング28のいずれが出力部材となってもよい。この他にも、歯車装置10は増速装置として機能してもよい。この場合、起振体12が出力部材、軸受ハウジング26A、26B又はケーシング28のいずれが入力部材となってもよい。
【0058】
外歯歯車に替えて内歯歯車を撓み歯車とし、内歯歯車に替えて外歯歯車を噛合歯車としてもよい。この場合、起振体12の径方向外側に替えて、起振体12の径方向内側に撓み歯車が配置されたうえで、その起振体12の内周部(対向周部)の断面形状が楕円状をなしていてもよい。この場合、起振体軸受18の起振体レースをアウターレースとし、歯車レースをインナーレースとしてもよい。
【0059】
起振体軸受18は、起振体12と撓み歯車14との間に配置される転動体列として三つ以上の転動体列を備えていてもよい。
【0060】
第1転動体列42Aの軸方向中央位置P42Aは、第1レース44A、46Aの軸方向中央位置P44A、P46Aから軸方向で第2転動体列42B側に配置されてもよい。第2転動体列42Bの軸方向中央位置P42Bは、第2レース44B、46Bの軸方向中央位置P44B、P46Bから軸方向で第1転動体列42A側に配置されてもよい。
【0061】
撓み歯車14の軸方向寸法L14は、歯車レースセット52の軸方向寸法L52と同じでもよいし、それよりも小さくともよい。撓み歯車14の軸方向寸法L14は、起振体レースセット50の軸方向寸法L50と同じでもよいし、それよりも小さくともよい。
【0062】
第1保持器48Aの軸方向端面は、第1歯車レース46Aの第1外端面46Aaと同じ軸方向位置にあってもよいし、その第1外端面46Aaよりも第2転動体列42Bとは軸方向反対側に配置されてもよい。第2保持器48Bの軸方向端面も、第2歯車レース46Bの第2外端面46Baと同じ軸方向位置にあってもよいし、その第2外端面46Baよりも第1転動体列42Aとは軸方向反対側に配置されてもよい。
【0063】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。
【符号の説明】
【0064】
10…撓み噛合い式歯車装置、12…起振体、14…撓み歯車、18…起振体軸受、18a…転動体、20…起振体軸、40A…第1転動体、40B…第2転動体、42A…第1転動体列、42B…第2転動体列、44A…第1起振体レース、44B…第2起振体レース、46A…第1歯車レース、46B…第2歯車レース、48A…第1保持器、48B…第2保持器、50…起振体レースセット、52…歯車レースセット、60A…第1リング部、62A…第1柱部、64A…第1ポケット、60B…第2リング部、62B…第2柱部、64B…第2ポケット。