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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152387
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】インダクタ部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/02 20060101AFI20241018BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
H01F17/02
H01F17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066542
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健太
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB10
5E070BA01
5E070CA06
5E070CB13
(57)【要約】
【課題】品質を向上して歩留まりを向上できるインダクタ部品を提供する。
【解決手段】インダクタ部品は、絶縁性材料からなる素体と、前記素体内に配置され、軸に沿って螺旋状に巻き回されたコイルとを備え、
前記絶縁性材料は、B、Si、Oを含む非晶質材料からなる母材と、結晶性フィラーとを含有し、
前記素体は、前記コイルに沿った位置に高濃度リン含有部を含み、
前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度は、前記素体の中央部における前記母材中のPの濃度よりも高い。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料からなる素体と、
前記素体内に配置され、軸に沿って螺旋状に巻き回されたコイルと
を備え、
前記絶縁性材料は、B、Si、Oを含む非晶質材料からなる母材と、結晶性フィラーとを含有し、
前記素体は、前記コイルに沿った位置に高濃度リン含有部を含み、
前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度は、前記素体の中央部における前記母材中のPの濃度よりも高い、インダクタ部品。
【請求項2】
前記高濃度リン含有部は、前記コイルの表面から10μm以内の位置に存在する、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項3】
前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度は、前記素体の中央部における前記母材中のPの濃度の1.5倍以上である、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項4】
前記コイルは、前記軸方向に隣り合って積層された第1コイル配線および第2コイル配線を有し、
前記高濃度リン含有部は、前記第1コイル配線における前記第2コイル配線に対向する面の少なくとも一部を覆う第1高濃度リン含有部と、前記第2コイル配線における前記第1コイル配線に対向する面の少なくとも一部を覆う第2高濃度リン含有部とを含み、
前記素体は、前記第1高濃度リン含有部と前記第2高濃度リン含有部の間に位置する層間部分を有し、前記層間部分における前記母材中のPの濃度は、前記第1高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度よりも低く、かつ、前記第2高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度よりも低い、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項5】
前記コイルは、B、Si、Oを含む非晶質材料を部分的に内包する、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項6】
前記コイルは、B、Si、Oを含む非晶質材料を完全に内包する、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項7】
前記結晶性フィラーは、Al、Si、Ti、Zr、Ca、Mg、FeおよびMnの何れかを含む、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項8】
前記結晶性フィラーは、クオーツ粒子または結晶性シリカ粒子である、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項9】
前記高濃度リン含有部における前記結晶性フィラーの含有率は、前記素体の中央部における前記結晶性フィラーの含有率に対して、80%以上120%以下である、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項10】
前記コイルは、前記軸に沿って積層された複数のコイル配線を有し、
前記軸を含む断面において、一のコイル配線の周囲の少なくとも一部を覆う前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度分布は、他のコイル配線の周囲の少なくとも一部を覆う前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度分布と異なる、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インダクタ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インダクタ部品としては、特開2018-131353号公報(特許文献1)に記載されたものがある。このインダクタ部品は、ガラス系絶縁材料を含む素体と、素体内に配置されたコイルとを備える。
【0003】
ところで、インダクタ部品がガラス系絶縁材料を含むと、インダクタ部品の強度が低下し、マウント実装時の衝撃や基板たわみ時の応力でインダクタ部品の素体にクラックが発生する場合がある。このような問題に対して、例えば、ガラス系絶縁材料に結晶性フィラーを添加する対策がなされている。特許文献1において、素体部は、ガラス系絶縁材料と結晶性フィラーとを含むガラスセラミックスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-131353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のようなインダクタ部品では、素体に結晶性フィラーを添加することで、ガラス系材料の軟化が抑制されて、素体とコイルの接合不良(剥がれ)が発生するおそれがあり、また、素体とコイルの線膨張係数差が大きくなって、線膨張係数差による応力によってコイル近傍の素体にクラックが発生するおそれがあった。特に、ガラス系絶縁材料の低誘電率化にとって有効なクオーツフィラーを用いた場合、ガラス系材料の軟化がより抑制されて、素体とコイルの接合性がより低下するおそれがあった。
【0006】
そこで、本開示の目的は、品質を向上して歩留まりを向上できるインダクタ部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本開示の一態様であるインダクタ部品は、
絶縁性材料からなる素体と、
前記素体内に配置され、軸に沿って螺旋状に巻き回されたコイルと
を備え、
前記絶縁性材料は、B、Si、Oを含む非晶質材料からなる母材と、結晶性フィラーとを含有し、
前記素体は、前記コイルに沿った位置に高濃度リン含有部を含み、
前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度は、前記素体の中央部における前記母材中のPの濃度よりも高い。
【0008】
ここで、素体の中央部とは、素体の中心点を含む素体の断面において、当該中心点から半径10μm以内の部分をいう。中心点とは、例えば、素体が略立方体である場合、素体の長さ、幅、および高さがすべて半分となる点である。当該半径10μm以内の部分がコイルで占められ、母材中のPの濃度を検出できない場合、中央部を、中心点から半径20μm以内の部分に拡張する。
また、母材中のPの濃度とは、母材を基準とした際のPの割合であり、素体の母材部分について、SEM(走査型電子顕微鏡)画像をEDX(エネルギー分散型X線分光法)で元素分析した際の元素濃度のことである。
また、本明細書において、「B」、「Si」、「O」、「P」と記載した場合は、当該記号で示される元素のことを指し、当該元素を含む、とは当該元素の単体物を含むのではなく、化合物として、当該元素を含むことを意味する。
【0009】
前記態様によれば、素体は、コイルに沿った位置に高濃度リン含有部を含み、高濃度リン含有部における母材中のPの濃度は、素体の中央部における母材中のPの濃度よりも高い。これにより、高濃度リン含有部(リンを含むガラス)は軟化しやすいので、焼成時にコイルとコイルに沿う高濃度リン含有部との密着性を確保でき、素体とコイルの接合性を向上できて、素体とコイルの剥がれを抑制できる。また、高濃度リン含有部(リンを含むガラス)は線膨張係数が大きいので、コイルとコイルに沿う高濃度リン含有部との線膨張係数差を小さくできて、焼成後に製品内部で素体とコイルの線膨張係数差による応力によるコイル近傍の素体のクラックの発生を抑制することができる。したがって、インダクタ部品の品質を向上できて、インダクタ部品の歩留まりを向上できる。
【0010】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、前記高濃度リン含有部は、前記コイルの表面から10μm以内の位置に存在する。
【0011】
前記実施形態によれば、高濃度リン含有部は、コイルを膜状に覆うことができ、素体における高濃度リン含有部の体積を相対的に小さくできる。これにより、素体の誘電率を小さくして、誘電損失を小さくでき、コイル特性を向上できる。
【0012】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度は、前記素体の中央部における前記母材中のPの濃度の1.5倍以上である。
【0013】
前記実施形態によれば、高濃度リン含有部における母材中のPの濃度を相対的に高くでき、素体とコイルの接合性をより向上でき、素体とコイルの線膨張係数差をより小さくできる。
【0014】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、
前記コイルは、前記軸方向に隣り合って積層された第1コイル配線および第2コイル配線を有し、
前記高濃度リン含有部は、前記第1コイル配線における前記第2コイル配線に対向する面の少なくとも一部を覆う第1高濃度リン含有部と、前記第2コイル配線における前記第1コイル配線に対向する面の少なくとも一部を覆う第2高濃度リン含有部とを含み、
前記素体は、前記第1高濃度リン含有部と前記第2高濃度リン含有部の間に位置する層間部分を有し、前記層間部分における前記母材中のPの濃度は、前記第1高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度よりも低く、かつ、前記第2高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度よりも低い。
【0015】
前記実施形態によれば、素体の層間部分における母材中のPの濃度を相対的に小さくできる。これにより、素体の誘電率を小さくして、誘電損失を小さくでき、コイル特性を向上できる。
【0016】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、前記コイルは、B、Si、Oを含む非晶質材料を部分的に内包する。
【0017】
ここで、コイルが非晶質材料を部分的に内包するとは、非晶質材料がコイルに完全に埋没せず、非晶質材料の一部がコイルの外周面から露出している状態をいう。
【0018】
前記実施形態によれば、コイルが非晶質材料を部分的に内包する。このため、インダクタ部品の製造方法の焼結工程において、非晶質材料がコイルの内部から表面に到達する程度に、液相焼結が進行したと考えられる。このため、コイルの平滑性がさらに高まり、高周波での高Q化がさらに可能となる。
【0019】
さらに、高周波電流は、表皮効果によりコイルの表面を優先的に流れる。このため、コイルが非晶質材料を部分的に内包すると、コイルの表面積が増加し、電気抵抗が低減される。よって、高周波での高Q化がさらに可能となる。
【0020】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、前記コイルは、B、Si、Oを含む非晶質材料を完全に内包する。
【0021】
ここで、コイルが非晶質材料を完全に内包するとは、非晶質材料がコイルに完全に埋没して、非晶質材料がコイルの外周面から露出していない状態をいう。
【0022】
前記実施形態によれば、コイルが非晶質材料を完全に内包すると、コイル内にコイルと非晶質材料との界面が形成される。このため、コイルの表面積が増加し、高周波での表皮効果により電気抵抗が低減される。よって、本実施形態に係るインダクタ部品は、高周波での高Q化をさらに可能とする。
【0023】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、前記結晶性フィラーは、Al、Si、Ti、Zr、Ca、Mg、FeおよびMnの何れかを含む。
【0024】
前記実施形態によれば、インダクタ部品の強度をさらに向上させることができる。
【0025】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、前記結晶性フィラーは、クオーツ粒子または結晶性シリカ粒子である。
【0026】
前記実施形態によれば、素体の誘電率を抑制することができ、インダクタ部品の特性を向上させることができる。
【0027】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、前記高濃度リン含有部における前記結晶性フィラーの含有率は、前記素体の中央部における前記結晶性フィラーの含有率に対して、80%以上120%以下である。
【0028】
前記実施形態によれば、高濃度リン含有部では、結晶性フィラーの含有率は低下しない。このように、高濃度リン含有部では、結晶性フィラーの量を確保でき、素体の強度を確保できる。
【0029】
一方、高濃度リン含有部の結晶性フィラーの含有率が高くなると、高濃度リン含有部の軟化が抑制されて、素体とコイルの接合性が低下するおそれがあり、また、高濃度リン含有部(素体)とコイルの線膨張係数差が大きくなって、線膨張係数差による応力によってコイル近傍の素体にクラックが発生するおそれがあるが、高濃度リン含有部の母材中のPの濃度は高いので、高濃度リン含有部の軟化を促進して素体とコイルの接合性を向上しつつ、高濃度リン含有部(素体)とコイルの線膨張係数差を小さくしてコイル近傍の素体のクラックを抑制できる。
【0030】
したがって、素体の強度を確保しつつ、歩留まりのよいインダクタ部品を実現できる。
【0031】
好ましくは、インダクタ部品の一実施形態では、
前記コイルは、前記軸に沿って積層された複数のコイル配線を有し、
前記軸を含む断面において、一のコイル配線の周囲の少なくとも一部を覆う前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度分布は、他のコイル配線の周囲の少なくとも一部を覆う前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度分布と異なる。
【0032】
ここで、濃度分布が異なるとは、例えば、あるコイル配線の内径側、外径側又は配線間側における高濃度リン含有部の厚み、濃度が、他のコイル配線の対応する内径側、外径側、配線間側における高濃度リン含有部の厚み、濃度とは異なることを意味する。
前記実施形態によれば、軸を含む断面において、高濃度リン含有部の母材中のPの濃度分布が、異なるコイル配線によって、ランダムで不規則となる。これにより、インダクタ部品の全体において一様に、素体とコイルの接合性を向上でき、素体とコイルの線膨張係数差を小さくできる。
【発明の効果】
【0033】
本開示の一態様であるインダクタ部品によれば、品質を向上して歩留まりを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】インダクタ部品の第1実施形態を示す透視斜視図である。
図2】インダクタ部品の分解斜視図である。
図3図2の最下層のコイル配線を含む層を示す平面図である。
図4図1のIV-IV断面図である。
図5図4の一部拡大図である。
図6A】インダクタ部品の製造方法について説明する説明図である。
図6B】インダクタ部品の製造方法について説明する説明図である。
図6C】インダクタ部品の製造方法について説明する説明図である。
図7】インダクタ部品の第2実施形態を示す一部の層の平面図である。
【0035】
以下、本開示の一態様であるインダクタ部品を図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、図面は一部模式的なものを含み、実際の寸法や比率を反映していない場合がある。
【0036】
<第1実施形態>
(構成)
図1は、インダクタ部品の第1実施形態を示す透視斜視図である。図2は、インダクタ部品の分解斜視図である。図3は、図2の最下層のコイル配線を含む層を示す平面図である。図4は、図1のIV-IV断面図である。図5は、図4の一部拡大図(A部の拡大図)である。
【0037】
図1図2に示すように、インダクタ部品1は、素体10と、素体10内に配置されたコイル20と、コイル20と電気的に接続された第1外部電極30および第2外部電極40とを備える。図1では、素体10は、素体10の内部構造を容易に理解できるよう、透明に描かれている。また、図1では、素体10の内部構造を容易に理解できるように、高濃度リン含有部101を記載していない。
【0038】
インダクタ部品1は、第1、第2外部電極30、40を介して、図示しない回路基板の配線に電気的に接続される。インダクタ部品1は、例えば、高周波回路のインピーダンス整合用コイル(マッチングコイル)として用いられ、パソコン、DVDプレーヤー、デジタルカメラ、TV、携帯電話、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器に用いられる。ただし、インダクタ部品1の用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流回路などにも用いることができる。
【0039】
素体10は、略直方体状に形成されている。素体10の表面は、第1端面15と、第1端面15に対向する第2端面16と、第1端面15と第2端面16の間に接続された底面17と、底面17に対向する天面18とを有する。なお、図示するように、X方向は、第1端面15および第2端面16に直交する方向であり、Y方向は、第1端面15、第2端面16および底面17に平行な方向であり、Z方向は、X方向およびY方向に直交する方向であり、底面17に直交する方向である。インダクタ部品1の形状は、特に限定されず、円柱状や多角形柱状、円錐台形状、多角形錐台形状であってもよい。
【0040】
素体10は、絶縁層11が複数積層した積層体である。絶縁層11の積層方向は、素体10の第1、第2端面15,16および底面17に、平行な方向(Y方向)である。すなわち、絶縁層11は、XZ平面に広がった層状である。本明細書において、「平行」とは、厳密な平行関係に限定されず、現実的なばらつきの範囲を考慮し、実質的な平行関係も含む。なお、素体10は、焼結などによって、複数の絶縁層11同士の界面が明確となっていない場合がある。
【0041】
素体10の絶縁層11は、絶縁性材料からなる。絶縁性材料は、B、Si、Oを含む非晶質材料からなる母材と、結晶性フィラーとを含有する。素体10が結晶性フィラーを含有すると、素体10は、マウント実装時の衝撃や基板たわみ時の応力によりクラックの発生を抑制することができる。かかる場合、本実施形態に係るインダクタ部品1は、強度を高めることができる。B、Si、Oを含む非晶質材料は、例えば、B、Si、Oを含む硼珪酸ガラスである。非晶質材料は、硼珪酸ガラス以外に、例えば、SiO、B、KO、LiO、CaO、ZnO、Bi、P、および/またはAlなどを含むガラス、例えば、SiO-B-KO系ガラス、SiO-B-LiO-Ca系ガラス、SiO-B-P系ガラス、SiO-B-LiO-CaO-ZnO系ガラス、またはBi-B-SiO-Al系ガラスを含んでもよい。これらのガラスが、2種以上組み合わせたものでもよい。
【0042】
結晶性フィラーは、例えば、Al、Si、Ti、Zr、Ca、Mg、FeおよびMnの何れかを含むことが好ましい。結晶性フィラーが上記元素の何れかを含むと、インダクタ部品1の強度をさらに向上させることができる。また、結晶性フィラーは、例えば、クオーツ粒子または結晶性シリカ粒子であることが好ましい。これにより、素体10の誘電率を抑制することができ、インダクタ部品1の特性を向上させることができる。
【0043】
第1外部電極30および第2外部電極40は、例えば、AgまたはCuなどの導電性材料から構成される。第1外部電極30は、例えば、第1端面15と底面17に渡って設けられたL字形状である。第2外部電極40は、例えば、第2端面16と底面17に渡って設けられたL字形状である。
【0044】
第1外部電極30は、第1端面15および底面17から突出しないが、第1端面15および底面17の少なくとも一方から突出してもよい。第2外部電極40は、第2端面16および底面17から突出しないが、第2端面16および底面17の少なくとも一方から突出してもよい。
【0045】
なお、第1外部電極30は、第1端面15に設けられないで、底面17のみに設けられていてもよく、同様に、第2外部電極40は、第2端面16に設けられないで、底面17のみに設けられていてもよい。つまり、第1外部電極30および第2外部電極40は、少なくとも底面17に設けられていればよい。
【0046】
コイル20は、例えば、第1、第2外部電極30,40と同様の導電性材料および非晶質材料から構成される。コイル20は、軸AXに沿って、螺旋状に巻回されている。コイル20の第1端は、第1外部電極30に接続され、コイル20の第2端は、第2外部電極40に接続されている。なお、本実施形態では、コイル20と第1、第2外部電極30、40とは一体化されており、明確な境界は存在しないが、これに限られず、コイル20と外部電極とが異種材料や異種工法で形成されることにより、境界が存在してもよい。
【0047】
コイル20は、軸AX方向からみて、略長円形に形成されているが、この形状に限定されない。コイル20の形状は、例えば、円形、楕円形、長方形、その他の多角形、これらの組み合わせなどであってもよい。コイル20の軸AXとは、コイル20が巻き回された螺旋の中心軸を指す。インダクタ部品1においては、コイル20の軸AX方向と絶縁層11の積層方向とは、同一方向を指す。ただし、コイル20の軸AX方向は、絶縁層11の積層方向と垂直であってもよい。
【0048】
コイル20は、螺旋状に巻回された巻回部21aと、巻回部21aおよび外部電極30,40を電気的に接続させる引き出し部21bとを有する。コイル20は、平面に沿って巻回されたコイル配線21を含む。複数のコイル配線21は、軸AX方向に沿って積層されている。コイル配線21は、軸AX方向に直交する絶縁層11の主面(XZ平面)上に巻回されて形成される。積層方向に隣り合うコイル配線21は、絶縁層11を厚み方向(Y方向)に貫通するビア導体26を介して、電気的に直列に配列される。このように、複数のコイル配線21は、互いに電気的に直列に接続しながら螺旋を構成している。具体的には、コイル20は、互いに電気的に接続され、巻回数が1周未満の複数のコイル配線21が積層した構成を有し、コイル20はヘリカル形状である。コイル配線21は、1層のコイル導体層25から構成される。コイル配線21は、平面に沿って巻回された巻回部21aと、巻回部21aおよび外部電極30,40を電気的に接続させる引き出し部21bとを有する。また、コイル配線21(コイル導体層25)は、絶縁層11に形成されている。
【0049】
図3図4図5に示すように、素体10は、コイル20に沿った位置に高濃度リン含有部101を含む。高濃度リン含有部101は、各コイル配線21に沿って各コイル配線21の少なくとも一部を覆う。高濃度リン含有部101は、コイル配線21に接触する。具体的に述べると、高濃度リン含有部101は、コイル配線21に沿ってコイル配線21の少なくとも一部を覆う第1部分101aと、第1外部電極30に沿って第1外部電極30の少なくとも一部を覆う第2部分101bと、第2外部電極40に沿って第2外部電極40の少なくとも一部を覆う第3部分101cとを有する。
【0050】
高濃度リン含有部101における母材中のPの濃度は、素体10の中央部103における母材中のPの濃度よりも高い。なお、本実施形態においては、中央部103の基準となる中心点は、底面17のX方向およびY方向の半分、ならびに第1端面15のZ方向の半分となる点である。
【0051】
高濃度リン含有部101は、コイル20の周囲の全てを覆っているが、コイル20を部分的に覆ってもよい。つまり、素体10は、コイル20の一部分に沿った位置に高濃度リン含有部101を有してもよい。より具体的には、高濃度リン含有部101は、コイル20の内周側だけ覆ってもよい。つまり、素体10は、コイル20の内周に沿った位置に高濃度リン含有部101を有してもよい。すなわち、高濃度リン含有部101は、コイル20の内縁に接触してもよい。また、高濃度リン含有部101は、コイル20の外周側だけ覆ってもよい。つまり、素体10は、コイル20の外周に沿った位置に高濃度リン含有部101を有してもよい。すなわち、高濃度リン含有部101は、コイル20の外縁に接触してもよい。
【0052】
上記構成によれば、素体10は、コイル20に沿った位置に高濃度リン含有部101を含み、高濃度リン含有部101における母材中のPの濃度は、素体10の中央部103における母材中のPの濃度よりも高い。これにより、高濃度リン含有部101(リンを含むガラス)は軟化しやすいので、焼成時にコイル20とコイル20に沿う高濃度リン含有部101との密着性を確保でき、素体10とコイル20の接合性を向上できて、素体10とコイル20の剥がれを抑制できる。また、高濃度リン含有部101(リンを含むガラス)は線膨張係数が大きいので、コイル20とコイル20に沿う高濃度リン含有部101との線膨張係数差を小さくできて、焼成後に製品内部で素体10とコイル20の線膨張係数差による応力によるコイル20の近傍の素体10のクラックの発生を抑制することができる。したがって、インダクタ部品1の品質を向上できて、インダクタ部品の歩留まりを向上できる。
【0053】
要するに、本願発明者は、リンを含むガラスは軟化点(融点)が比較的低く、線膨張係数が大きくなる傾向にあることに着目し、さらに、リンを含むガラスを高温でかつ長時間焼成した際にリン元素がコイル20の近傍に偏析(分相)しやすい効果があることを見出した。言い換えると、本願発明者は、リンを含むガラスの焼成温度と焼成時間を調整することで、リン元素がコイル20の近傍に偏析することを見出した。例えば、ガラス材料としてリンを含むホウケイ酸ガラスを用いた場合、焼成温度を800℃~900℃とし、焼成時間を30分~60分とすると、素体10の母材であるガラス中のPがコイル20の金属元素に近づき、Pをコイル20の近傍に分相させることが可能であることが確認できた。そして、本願発明者は、これらの知見により、軟化点が低く線膨張係数が大きな高濃度リン含有部101をコイル20に沿った位置に設ける構成を導き出すに至った。
【0054】
また、素体10は、コイル20に沿った位置に高濃度リン含有部101を含むので、高濃度リン含有部101(リンを含むガラス)は軟化点が低く、液相焼結によりコイル20の表面を平滑にすることができる。これにより、コイル20に流れる電流の損失を抑制することができる。特に、高周波電流は表皮効果によりコイル20の表面を優先的に流れるため、電流の損失をさらに抑制することができる。したがって、インダクタ部品1の高Q化を可能とする。
【0055】
好ましくは、高濃度リン含有部101は、コイル20の表面から10μm以内の位置に存在する。上記構成によれば、高濃度リン含有部101は、コイル20を膜状に覆うことができ、素体10における高濃度リン含有部101の体積を相対的に小さくできる。これにより、素体10の誘電率を小さくして、誘電損失を小さくでき、コイル特性を向上できる。
【0056】
好ましくは、高濃度リン含有部101における母材中のPの濃度は、素体10の中央部103における母材中のPの濃度の1.5倍以上である。ここで、母材中のPの濃度の測定方法として、例えば、素体10の断面において、蛍光分光、ICP、WDXなどを用いて、濃度分布から母材中のPの濃度を求めることができる。具体的に述べると、積層方向に直交するXZ平面に平行な中央部103の断面画像から母材中のPの濃度の平均値を得る。同様にして、高濃度リン含有部101の断面画像から母材中のPの濃度の平均値を得る。これにより、高濃度リン含有部101の母材中のPの濃度の平均値と素体10の中央部103の母材中のPの濃度の平均値とを比較する。
【0057】
上記構成によれば、高濃度リン含有部101における母材中のPの濃度を相対的に高くでき、素体10とコイル20の接合性をより向上でき、素体10とコイル20の線膨張係数差をより小さくできる。
【0058】
図4に示すように、コイル20は、軸AX方向に隣り合って積層された第1コイル配線211および第2コイル配線212を有する。図4では、上から2層目のコイル配線を第1コイル配線211とし、上から3層目のコイル配線を第2コイル配線212としたが、その他のコイル配線を第1コイル配線211および第2コイル配線212としてもよい。
【0059】
第1コイル配線211は、第2コイル配線212に対向する対向面211aを有する。第2コイル配線212は、第1コイル配線211に対向する対向面212aを有する。高濃度リン含有部101は、第1コイル配線211の対向面211aの少なくとも一部を覆う第1高濃度リン含有部1011と、第2コイル配線212の対向面212aの少なくとも一部を覆う第2高濃度リン含有部1012とを含む。
【0060】
素体10は、第1高濃度リン含有部1011と第2高濃度リン含有部1012の間に位置する層間部分100を有する。層間部分100における母材中のPの濃度は、第1高濃度リン含有部1011における母材中のPの濃度よりも低く、かつ、第2高濃度リン含有部1012における母材中のPの濃度よりも低い。
【0061】
上記構成によれば、素体10の層間部分100における母材中のPの濃度を相対的に小さくできる。これにより、素体10の誘電率を小さくして、誘電損失を小さくでき、コイル特性を向上できる。
【0062】
図4に示すように、コイル20は、略正方形の断面形状を有するが、この形状に限定されない。コイル20の断面形状は、例えば、円形、楕円形、長方形、その他の多角形、これらの組み合わせなどであってもよい。コイル20の断面形状が高アスペクト比を有する略長方形であると、コイル20の断面積が増加し高周波電流に対する抵抗を低下させるため、高Q化をさらに可能にする。アスペクト比とは、(コイル配線21の厚みt)/(コイル配線21の幅w)である。コイル配線21の幅wとは、コイル配線21の延伸方向に直交する断面におけるコイル20の軸AX方向と直交する方向の幅を示す。コイル配線21の厚みtとは、コイル配線21の延伸方向に直交する断面におけるコイル20の軸AX方向の厚みを示す。
【0063】
図5に示すように、好ましくは、コイル20は、非晶質材料(以下、露出ガラス107と記載する)を部分的に内包する。非晶質材料は、B、Si、Oを含み、例えば、素体10に含まれる非晶質材料と同一の材料からなる。ここで、コイル20が非晶質材料を部分的に内包するとは、非晶質材料がコイル20に完全に埋没せず、非晶質材料の一部がコイル20の外周面から露出している状態をいう。
【0064】
上記構成によれば、インダクタ部品1の製造方法の焼結工程において、非晶質材料がコイル20の内部から表面に到達する程度に、液層焼結が進行したと考えられる。このため、コイル20の平滑性がさらに高まり、高周波での高Q化がさらに可能となる。
【0065】
さらに、高周波電流は、表皮効果によりコイル20の表面を優先的に流れる。このため、コイル20が露出ガラス107を部分的に内包すると、コイル20の表面に凹部が形成され、コイル20の表面積が増加する。これにより電気抵抗が低減される。よって、高周波での高Q化がさらに可能となる。
【0066】
図5に示すように、好ましくは、コイル20は、非晶質材料(以下、内包ガラス105と記載する)を完全に内包する。ここで、コイル20が非晶質材料を完全に内包するとは、非晶質材料がコイル20に完全に埋没して、非晶質材料がコイル20の外周面から露出していない状態をいう。
【0067】
上記構成によれば、コイル20が内包ガラス105を完全に内包すると、コイル20内にコイル20と内包ガラス105との界面が形成される。このため、コイル20の表面積が増加し、高周波での表皮効果により電気抵抗が低減される。よって、高周波での高Q化をさらに可能とする。
【0068】
図5に示すように、好ましくは、高濃度リン含有部101における結晶性フィラーの含有率は、素体10の中央部103における結晶性フィラーの含有率に対して、80%以上120%以下である。
【0069】
ここで、結晶性フィラーの含有率は、例えば、素体10の断面における単位面積当たりの結晶性フィラーの面積から算出する。具体的に述べると、積層方向に直交するXZ平面に平行な中央部103の断面画像(SEM画像)から単位面積当たりの結晶性フィラーの面積の割合を得る。この割合が、素体10の中央部103の結晶性フィラーの含有率に相当する。同様にして、高濃度リン含有部101の断面画像から単位面積当たりの結晶性フィラーの面積の割合を得る。この割合が、高濃度リン含有部101における結晶性フィラーの含有率に相当する。
【0070】
上記構成によれば、高濃度リン含有部101では、結晶性フィラーの含有率は低下しない。このように、高濃度リン含有部101では、結晶性フィラーの量を確保でき、素体10の強度を確保できる。
【0071】
一方、高濃度リン含有部101の結晶性フィラーの含有率が高くなると、高濃度リン含有部101の軟化が抑制されて、素体10とコイル20の接合性が低下するおそれがあり、また、高濃度リン含有部101(素体10)とコイル20の線膨張係数差が大きくなって、線膨張係数差による応力によってコイル近傍の素体10にクラックが発生するおそれがあるが、高濃度リン含有部101の母材中のPの濃度は高いので、高濃度リン含有部101の軟化を促進して素体10とコイル20の接合性を向上しつつ、高濃度リン含有部101(素体10)とコイル20の線膨張係数差を小さくしてコイル近傍の素体10のクラックを抑制できる。
【0072】
したがって、素体10の強度を確保しつつ、歩留まりのよいインダクタ部品1を実現できる。
【0073】
図4に示すように、好ましくは、複数のコイル配線21は、一のコイル配線21と他のコイル配線21を含み、軸AXを含む断面において、一のコイル配線21の周囲の少なくとも一部を覆う高濃度リン含有部101における母材中のPの濃度分布は、他のコイル配線21の周囲の少なくとも一部を覆う高濃度リン含有部101における母材中のPの濃度分布と異なる。例えば、一のコイル配線21を覆う高濃度リン含有部101では、一のコイル配線21の外周側において母材中のPの濃度が最も高くなり、他のコイル配線21を覆う高濃度リン含有部101では、他のコイル配線21の内周側において母材中のPの濃度が最も高くなる。なお、濃度の高い部分の位置ではなく、高濃度リン含有部が最も厚い位置が異なっていてもよい。図4では、5層のコイル配線21のうちの何れか一つのコイル配線21を一のコイル配線21とし、5層のコイル配線21のうちのその他のコイル配線21を他のコイル配線21とする。
【0074】
上記構成によれば、軸AXを含む断面において、高濃度リン含有部101の母材中のPの濃度分布が、異なるコイル配線21によって、ランダムで不規則となる。これにより、インダクタ部品1の全体において一様に、素体10とコイル20の接合性を向上でき、素体10とコイル20の線膨張係数差を小さくできる。
【0075】
(インダクタ部品の製造方法)
以下、図2を参照して、インダクタ部品の製造方法の一例を説明する。インダクタ部品の製造方法は、マザー積層体を形成するマザー積層体形成工程と、マザー積層体を切断し積層体を形成する切断工程と、積層体を焼結する焼結工程と、焼結した積層体を研磨する研磨工程とを含む。
【0076】
[マザー積層体形成工程]
マザー積層体は、複数の積層体が一括して形成された集合体である。以下、集合状態にある部材についても、分割された後の部材と同様の名称および符号を付して説明する。
【0077】
マザー積層体形成工程は、絶縁層11を形成し、絶縁層11上に導体層を形成する。この工程を繰り返し、導体層を有する複数の絶縁層11を積層する。これによりマザー積層体を形成する。以下、スクリーン印刷法を用いたマザー積層体形成工程を説明する。
【0078】
(1.ペーストの準備)
絶縁ペーストと導電ペーストおよび外部電極用導電ペーストとを調製する。絶縁ペーストは、フィラー材(結晶性フィラーの一例)と非晶質材料からなるガラス材(母材の一例;より具体的には、ガラス粉)と、溶媒とを含む。非晶質材料は、例えば、硼珪酸ガラスである。ガラス材は、リンを含む。結晶性フィラーは、例えば、セラミックスである。絶縁ペーストは、有機材料や複合材料をさらに含んでもよく、これらの中でも誘電率や誘電損失が小さい材料が好ましい。有機材料は、例えば、ポリマー(より具体的には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびフッ素樹脂等)である。複合材料は、例えば、ガラスエポキシ樹脂である。
【0079】
導電ペーストは、非晶質材料からなるガラス材と、導電材(より具体的には、金属粉)と、溶媒とを含む。導電材は、良導電材料が好ましく、例えば、Ag、Cu、およびAuである。外部電極用導電ペーストは、導電材と、溶媒とを含み、非晶質材料からなるガラス材を含まない。
【0080】
(2.外層用絶縁層の形成)
外層用絶縁層(絶縁ペースト層)11は、図2では、下から1番目の絶縁層11に対応する。スクリーン印刷法を用いて、図示しないキャリアフィルムなどの基材上に絶縁ペーストを塗布する。これを繰り返して、所定の厚さを有する外層用絶縁層11を形成する。
【0081】
(3.導体層を備える絶縁層(1層目)の形成)
スクリーン印刷法を用いて、外層用絶縁層11上に絶縁ペーストを塗布し、絶縁層11を形成する。絶縁層11は、図2では、下から2番目の絶縁層11に対応する。
【0082】
次いで、スクリーン印刷法を用いて絶縁層11上に導電ペーストを所定の形状にパターンニング印刷して導体層を形成する。導体層の形成方法としては、スクリーン印刷法以外にも、感光性導電ペーストを用いたフォトリソグラフィー法を用いても良い。具体的には、所望のコイルパターンに沿ったフォトマスクを介して、感光性導電ペースト層に活性エネルギー線(より具体的には、紫外線等)を照射して露光する。露光後、現像液(より具体的には、アルカリ溶液等)で現像する。これにより、所望のコイルパターンを有するコイル導体層25を形成する。同様にして、外部電極用導電ペーストを用いて、所望のパターンを有する外部導電層を形成する。その結果、コイル導体層25および外部導体層を備える絶縁層11を形成する。
【0083】
(4.導体層を備える絶縁層(2層目)の形成)
導体層を備える2層目の絶縁層11を形成する。この絶縁層11は、図2では、下から3番目の絶縁層11に対応する。2層目の絶縁層11は、1層目の絶縁層11に比べて、開口とビアホールを有し、コイル導体層25を有しない点に相違する。
【0084】
1層目の絶縁層11上に絶縁ペーストを塗布し、絶縁ペースト層を形成する。絶縁ペースト層の所定の箇所へのレーザー光照射により、開口およびビアホールを備える絶縁層11を形成する。スクリーン印刷法を用いて開口内およびビアホール内に導電層を形成する。これにより、導体層およびビア導体26を備える絶縁層11を形成する。
【0085】
(5.導電層を備える絶縁層(3層目)の形成)
導体層を備える3層目の絶縁層11を形成する。この絶縁層11は、図2では、下から4番目の絶縁層11に対応する。3層目の絶縁層11は、2層目の絶縁層11に比べ、コイル導体層25を有する点で相違する。
【0086】
絶縁ペースト層の所定の箇所へのレーザー光照射により、2層目の絶縁層11上に開口およびビアホールを備える絶縁層を形成する。導電ペーストを所望の形状にパターニング印刷して導体層を形成する。これにより、ビアホール内および絶縁層11上にコイル導体層25が形成され、開口内に外部導体層が形成される。3層目の絶縁層11を形成する。
【0087】
(6.積層)
2層目および3層目の絶縁層11を形成する工程を繰り返して、4層目以降の絶縁層11を形成する。4層目以降の絶縁層11は、図2では、下から5~10番目の絶縁層11に対応する。その後、外層用絶縁層11を形成する。外層用絶縁層11は、図2では、下から11番目の絶縁層11に相当する。このようにしてマザー積層体を製造する。
【0088】
なお、外層用絶縁層11を形成する前および後に、マーク層を形成してもよい。マーク層は、例えば、絶縁ペーストにフィラーを混ぜて着色したものである。
【0089】
また、スクリーン印刷法に代えてスピンコート法およびスプレー塗布法を用いてもよい。
【0090】
また、マザー積層体は、導体層を有しない絶縁層11を最下層に備えてもよい。
【0091】
また、開口やビアホールは、絶縁材料シートの圧着やスピンコート、スプレー塗布後にレーザーやドリル加工、感光性絶縁ペーストを用いたフォトリソグラフィー法で形成してもよい。
【0092】
導体層の形成では、導体層を複数形成して重ねて、高アスクペクト比の断面形状(長方形)を有する導体層を形成してもよい。導体層の複数形成は、上記スクリーン印刷法およびフォトリソグラフィー法を複数回行ってもよく、他の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0093】
なお、導電ペースト層に代えて、スパッタ法、蒸着法、および箔の圧着法等を用いて導体層を形成してもよい。また、導体層のパターニングは、上記スクリーン印刷法に限定されず、サブトラクティブ法(より具体的には、フォトリソグラフィー法等)、アディティブ法(より具体的には、セミアディティブ法等)を用いてもよい。セミアディティブ法は、例えば、ネガパターンを形成した後に、めっき膜を形成し、不要部分を除去する方法である。
【0094】
また、マザー積層体形成工程では、図2に示す下から2番目、4番目、6番目、8番目、10番目の絶縁層11および外層用絶縁層11を形成して、マザー積層体を製造してもよい。この方法で製造されるインダクタ部品1は、コイル導体層を備える絶縁層が直接積層された構造を有する。
【0095】
[切断工程]
切断工程は、マザー積層体を切断し積層体を形成する。例えば、外部導体層が切断面から露出するように、ダイシング等によりマザー積層体を切断して複数の未焼結の積層体を形成する。
【0096】
[焼結工程]
焼結工程は、積層体を焼結する。このとき、絶縁層11(絶縁ペースト)の材料はリンを含有しているので、積層体を一定以上(800℃以上)の高温で焼成することで、リン元素がコイル配線21の近傍に偏析して、コイル配線21に沿って高濃度リン含有部101を形成することができる。高濃度リン含有部101の偏析は、焼成時の温度、時間によって制御される。なお、リン元素がコイル配線21の近傍に偏析すれば、焼成温度は、800℃以下であってもよい。なお、上記リン元素の偏析の他の方法として、コイル配線21(導電ペースト)の材料としてリンを含むガラスを用いてもよい。これにより、積層体を焼成することで、導電ペーストの焼結体としてのコイル配線21の周囲に、リンを含むガラスを染み出させて、コイル配線21の近傍にリンを偏析させることができる。
【0097】
このようにして、コイル20に沿った位置に高濃度リン含有部101を形成できる。高濃度リン含有部101はコイル20を完全に覆う必要は無く、コイル20に沿った位置にあればよい。すなわち、高濃度リン含有部101がコイル20に接触していれば、部分的に位置していてもよく、例えば、コイル20の内周側だけ、外周側だけに位置していてもよい。高濃度リン含有部101は、コイル20の外縁および内縁に沿って位置してもよい。
【0098】
また、図6A図6Cを参照して、焼結工程におけるコイル導体層25の形成を説明する。図6A図6Cは、焼結工程におけるコイル導体層25の変化を示す断面図である。図6Aに示すように、焼結前のコイル導体層25は、導体ペーストであって、金属粉111とガラス粉113とがワニス19中に分散する状態である。
【0099】
この状態で焼結を開始すると、図6Bに示すように、溶媒の燃焼飛散が進み、隣接する金属粉111が局部収縮(necking)して焼結し、金属部115になる。このときガラス粉113は軟化し、金属部115の間を流動してガラス部117になる。
【0100】
この際、図6Cに示すように、軟化したガラス部117が金属粉111の収縮により外側に押し出され、コイル導体層25の外周縁へ移動する。これにより、コイル導体層25表面は押し出された軟化ガラス(ガラス部117)中、すなわち液相中で焼結されるため、さらに焼結が促進され、表面の平滑化や、結晶成長が起きやすい。これにより、電流の流れを阻害する結晶粒界の数が減少し、損失につながる電気抵抗が低減する。その結果、インダクタ部品1の高Q化がさらに可能となる。また、この際、ガラス部117として、内包ガラス105と、露出ガラス107とが形成される。内包ガラス105は、コイル導体層25の外周縁より遠い位置にあったガラス部117が押し出されずにコイル導体層25内に留まった結果形成されたものである。露出ガラス107は、コイル導体層25の外周縁に比較的近い位置にあったガラス部117が完全には押し出されず、コイル導体層25表面付近に留まった結果形成されたものである。したがって、形成されるコイル導体層25は、後述する図6に示すように、金属部115とガラス部117とを含み、ガラス部117が内包ガラス105及び露出ガラス107を含む。
【0101】
なお、ガラス部117のうち、内包ガラス105の割合は、露出ガラス107が押し出される量次第であるため、焼結の進行度、より具体的には金属粉111の体積を基準とした収縮度を指標として制御することが可能である。金属粉111の収縮度は、例えば、焼成時の温度、時間によって制御される。
【0102】
[研磨工程]
研磨工程では、例えば、バレル加工により焼結した積層体を研磨する。
【0103】
[その他の工程]
インダクタ部品1の製造方法は、さらにめっき工程を含んでもよい。めっき工程は、研磨工程の後に実施され、積層体の外表面に露出する外部導体層にめっき加工を施す。また、研磨工程の後でめっき工程の前に、導電ペーストを用いたディッピング法やスパッタ法等により積層体の外部導体層上にさらに導体層を設けてもよい。
【0104】
<第2実施形態>
図7は、インダクタ部品1Aの第2実施形態を示し図3に対応する平面図である。第2実施形態は、第1実施形態とは、高濃度リン含有部の構成が相違する。この相違する構成を以下で説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一の符号は、第1実施形態を同じ構成であるため、その説明を省略する。
【0105】
図7に示すように、第2実施形態のインダクタ部品1Aでは、高濃度リン含有部101Aは、コイル配線21に沿ってコイル配線21の少なくとも一部を覆う第1部分101aのみを有する。つまり、高濃度リン含有部101Aは、第1実施形態の第2部分101bおよび第3部分101cを有していない。上記構成によれば、高濃度リン含有部101Aは、コイル配線21のみを覆っているので、素体10における高濃度リン含有部101Aの体積を相対的に小さくできる。したがって、素体10の誘電率を小さくして、誘電損失を小さくでき、コイル特性を向上できる。
【0106】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。例えば、第1と第2実施形態の特徴点を様々に組み合わせてもよい。
【0107】
前記実施形態では、高濃度リン含有部は、全てのコイル配線に沿って設けられていたが、少なくとも一つのコイル配線に沿って設けられていればよい。
【0108】
前記実施形態では、コイルは、露出ガラスを部分的に内包していたが、コイルは、露出ガラスを内包していなくてもよい。
【0109】
前記実施形態では、コイルは、内包ガラスを完全に内包していたが、コイルは、内包ガラスを内包していなくてもよい。
【0110】
本開示は以下の態様を含む。
<1>
絶縁性材料からなる素体と、
前記素体内に配置され、軸に沿って螺旋状に巻き回されたコイルと
を備え、
前記絶縁性材料は、B、Si、Oを含む非晶質材料からなる母材と、結晶性フィラーとを含有し、
前記素体は、前記コイルに沿った位置に高濃度リン含有部を含み、
前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度は、前記素体の中央部における前記母材中のPの濃度よりも高い、インダクタ部品。
<2>
前記高濃度リン含有部は、前記コイルの表面から10μm以内の位置に存在する、<1>に記載のインダクタ部品。
<3>
前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度は、前記素体の中央部における前記母材中のPの濃度の1.5倍以上である、<1>または<2>に記載のインダクタ部品。
<4>
前記コイルは、前記軸方向に隣り合って積層された第1コイル配線および第2コイル配線を有し、
前記高濃度リン含有部は、前記第1コイル配線における前記第2コイル配線に対向する面の少なくとも一部を覆う第1高濃度リン含有部と、前記第2コイル配線における前記第1コイル配線に対向する面の少なくとも一部を覆う第2高濃度リン含有部とを含み、
前記素体は、前記第1高濃度リン含有部と前記第2高濃度リン含有部の間に位置する層間部分を有し、前記層間部分における前記母材中のPの濃度は、前記第1高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度よりも低く、かつ、前記第2高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度よりも低い、<1>から<3>の何れか一つに記載のインダクタ部品。
<5>
前記コイルは、B、Si、Oを含む非晶質材料を部分的に内包する、<1>から<4>の何れか一つに記載のインダクタ部品。
<6>
前記コイルは、B、Si、Oを含む非晶質材料を完全に内包する、<1>から<5>の何れか一つに記載のインダクタ部品。
<7>
前記結晶性フィラーは、Al、Si、Ti、Zr、Ca、Mg、FeおよびMnの何れかを含む、<1>から<6>の何れか一つに記載のインダクタ部品。
<8>
前記結晶性フィラーは、クオーツ粒子または結晶性シリカ粒子である、<1>から<7>の何れか一つに記載のインダクタ部品。
<9>
前記高濃度リン含有部における前記結晶性フィラーの含有率は、前記素体の中央部における前記結晶性フィラーの含有率に対して、80%以上120%以下である、<1>から<8>の何れか一つに記載のインダクタ部品。
<10>
前記コイルは、前記軸に沿って積層された複数のコイル配線を有し、
前記軸を含む断面において、一のコイル配線の周囲の少なくとも一部を覆う前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度分布は、他のコイル配線の周囲の少なくとも一部を覆う前記高濃度リン含有部における前記母材中のPの濃度分布と異なる、<1>から<9>の何れか一つに記載のインダクタ部品。
【符号の説明】
【0111】
1,1A インダクタ部品
10 素体
11 絶縁層
20 コイル
21 コイル配線
21a 巻回部
21b 引き出し部
25 コイル導体層
26 ビア導体
30 第1外部電極
40 第2外部電極
100 層間部分
101,101A 高濃度リン含有部
101a 第1部
101b 第2部
101c 第3部
103 中央部
105 内包ガラス
107 露出ガラス
111 金属粉
113 ガラス粉
115 金属部
117 ガラス部
211 第1コイル配線
211a 対向面
212 第2コイル配線
212a 対向面
1011 第1高濃度リン含有部
1012 第2高濃度リン含有部
AX 軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7