(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152400
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/55 20170101AFI20241018BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241018BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241018BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20241018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20241018BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20241018BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20241018BHJP
A61P 3/02 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
A61K47/55
A61P1/02
A61P31/04
A61Q11/00
A61P43/00 111
A61K8/67
A61K31/375
A61K31/355
A61P3/02 107
A61P3/02 109
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066573
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】有田 卓矢
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C076BB22
4C076BB23
4C076CC09
4C076CC29
4C076CC31
4C076CC41
4C076EE59
4C083AD641
4C083AD642
4C083AD661
4C083AD662
4C083CC41
4C083EE33
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086BA18
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA67
4C086ZB35
4C086ZC20
4C086ZC28
4C086ZC29
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】歯周病菌が産生する病原性因子が歯周病の進行と難治化に関与している可能性が考えられる。しかし従来の口腔用組成物の多くはP.g菌等の歯周病菌の殺菌を主目的とするものであった。本発明者らは当該事情に鑑みて、歯周病菌が産生する病原性因子(歯周病菌毒素)の阻害及び/又は不活化を達成し得る組成物の提供を主な目的とした。
【解決手段】本発明者らは、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩が、歯周病菌が産生する病原性因子を阻害し、及び/又は不活化し得る可能性を見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含有し、ヒトの口腔に用いられる、抗歯周病菌毒素剤。
【請求項2】
ジンジパイン阻害剤及び/又はリポ多糖不活化剤である、請求項1に記載の抗歯周病菌毒素剤。
【請求項3】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩がdl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩である、請求項1又は2に記載の抗歯周病菌毒素剤。
【請求項4】
歯周病菌がPorphyromonas gingivalisである、請求項1又は2に記載の抗歯周病菌毒素剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の抗歯周病菌毒素剤を含有する、口腔用組成物。
【請求項6】
口腔内のデトックスに用いられる、請求項5に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含有する組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステル(本明細書において、「EPC」と称することがある)は、アスコルビン酸(ビタミンC)とトコフェロール(ビタミンE)とがリン酸を介してエステル結合した化合物であり、親水基と親油基を有する両親媒性の物質である。EPCは抗酸化作用及び保湿作用を有し、育毛剤等の化粧料に使用されている(特許文献1)。
【0003】
Porphyromonas gingivalis(本開示においてP.g菌と称することがある)は歯周炎の発症及び進行への関与が知られている代表的な歯周病原菌である。タンパク質分解酵素であるジンジパインは、P.g菌の産生する代表的な病原性因子であり、外毒素である。ジンジパインにはペプチド切断部位特異性の異なるArg-ジンジパイン(Rgp)とLys-ジンジパイン(Kgp)が存在する。両酵素は相互に協力しながら生体タンパク質の分解を引き起こし、宿主細胞に傷害を与え、歯周病に関連する種々の病態を生み出すと考えられている。
【0004】
P.g菌はジンジパインによって歯肉上皮細胞間結合の破壊性並びに上皮細胞そのものに対する傷害性及び増殖阻害性を示し、歯周病進行における上皮バリアの破壊及び修復阻害に関与することが示唆されている。また、ジンジパインは貪食活性の抑制、補体系の破壊、及びP.g菌の細胞内侵入にも関与することが示唆されている。さらに、ジンジパインによる免疫系抑制作用が、口腔内細菌叢のDysbiosis(細菌叢の多様性低下)の一因となり得ることが報告されている。
【0005】
P.g菌はジンジパインに加えて、リポ多糖(Lipopolysaccharide:LPS)という病原性因子を産生することが知られている。LPSは一般的にP.g菌を含むグラム陰性細菌の細胞壁外膜を構成する成分である。LPSは内毒素であり、宿主細胞の自然免疫機構を刺激して、炎症性メディエーターの産生を促進する。その結果、歯周組織の破壊が誘導されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したジンジパインやLPSの作用が歯周病の進行と難治化に関与している可能性が考えられる。しかし従来の口腔用組成物の多くはP.g菌等の歯周病菌の殺菌を主目的とするものであった。
【0008】
本発明者らは上記事情に鑑みて、歯周病菌が産生する病原性因子(歯周病菌毒素)の阻害及び/又は不活化を達成し得る組成物の提供を主な目的として、検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩が、歯周病菌が産生する病原性因子を阻害し、及び/又は不活化し得る可能性を見出し、さらに改良を重ねた。
【0010】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含有し、ヒトの口腔に用いられる、抗歯周病菌毒素剤。
項2.
ジンジパイン阻害剤及び/又はリポ多糖不活化剤である、項1に記載の抗歯周病菌毒素剤。
項3.
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩がdl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩である、項1又は2に記載の抗歯周病菌毒素剤。
項4.
歯周病菌がPorphyromonas gingivalisである、項1~3のいずれかに記載の抗歯周病菌毒素剤。
項5.
項1~4のいずれかに記載の抗歯周病菌毒素剤を含有する、口腔用組成物。
項6.
口腔内のデトックスに用いられる、項5に記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本開示の技術によれば、歯周病菌が産生する病原性因子の阻害及び/又は不活化が達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】試験例1-1:Rgp阻害作用の検討の結果を示す。縦軸はコントロール(被験物質濃度が0%)におけるRgp活性を100%としたときの、Rgp活性(%)を示す。Rgp活性が低いほど、Rgp活性が抑制されたことを示す。
【
図2】試験例1-2:Kgp阻害作用の検討の結果を示す。縦軸はコントロール(被験物質濃度が0%)におけるKgp活性を100%としたときの、Kgp活性(%)を示す。Kgp活性が低いほど、Kgp活性が抑制されたことを示す。
【
図3】試験例2:歯周病菌内毒素(LPS)活性阻害作用の検討の結果を示す。縦軸はLPS阻害率(%)を示し、LPS阻害率が高いほど、LPS活性が抑制されたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、抗歯周病菌毒素剤、抗歯周病菌毒素剤を含有する口腔用組成物、前記口腔用組成物を供えたキット等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0014】
本開示に包含される抗歯周病菌毒素剤及び口腔用組成物は、EPCアルカリ金属塩を含む。本明細書において当該抗歯周病菌毒素剤及び口腔用組成物を総称して、「本開示の組成物」と表記することがある。
【0015】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステル(EPC)は、アスコルビン酸(ビタミンC)とトコフェロール(ビタミンE)とがリン酸を介してエステル結合した化合物であり、(アスコルビル/トコフェリル)リン酸とも称される。化学式を以下に示す。
【0016】
【0017】
EPCアルカリ金属塩としては、例えば、EPCカリウム塩、EPCナトリウム塩、EPCリチウム塩等が挙げられる。中でも、EPCカリウム塩が好ましい。また、EPCアルカリ金属塩はモノ塩であってもよく、ジ塩であってもよい。
【0018】
本開示の組成物中、EPCアルカリ金属塩の含有量は本開示の効果が奏される限りにおいて特に制限されず、例えば0.001~1質量%とすることができる。当該範囲は0.002~0.5質量%であってもよく、0.005~0.3質量%であることが好ましく、0.05~0.2質量%であることがより好ましい。当該範囲の上限若しくは下限は、例えば0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9質量%であってもよい。
【0019】
本開示の組成物はEPCアルカリ金属塩を含むことにより、抗歯周病菌毒素効果を奏し得る。このため本開示の組成物は、抗歯周病菌毒素剤として好適に用いることができる。なお本開示において「歯周病菌毒素」との用語は、歯周病菌が産生する病原性因子を指すものとする。歯周病菌毒素の具体例としては、例えばP.g菌が産生するジンジパインや、P.g菌を含むグラム陰性細菌が産生するLPS等が挙げられる。また、本開示において、「抗歯周病菌毒素」との用語には、歯周病菌毒素の活性を阻害及び/又は抑制する作用、並びに、歯周病菌毒素を不活化する作用等が包含される。
【0020】
本開示の組成物が抗歯周病菌毒素効果を有することは、公知の方法又は公知の方法から容易に想到可能な方法により確認され得る。このような方法として、例えばジンジパイン活性の測定及びLPS不活化の評価等が挙げられる。
【0021】
ジンジパイン活性の測定方法としては、より具体的には例えばジンジパイン、ジンジパインの基質、及び被験物質を反応させた後に、ジンジパインの基質の切断の有無を評価する方法が挙げられる。前記ジンジパインの基質がジンジパインの切断部位を含む部分と蛍光色素とを結合させたものである場合には、反応後の蛍光強度を指標としてジンジパイン活性の阻害を評価することができる。
【0022】
LPS不活化の評価方法としては、より具体的には例えばカブトガニ血球成分(ライセート試薬)を用いたエンドトキシン試験が挙げられる。
【0023】
本開示の組成物は、ジンジパイン阻害用及び/又はLPS不活化用として好適に用いることができる。さらに本開示の組成物は、口腔内のデトックス用として好適に用いることができる。なお本開示において「口腔内のデトックス」との用語は、歯周病菌毒素の活性を阻害すること、歯周病菌毒素の活性を抑制すること、歯周病菌毒素の活性を低減すること、及び歯周病菌毒素を不活化することからなる群から選択される少なくとも1つを達成することを指すものとする。
【0024】
本開示の組成物の適用対象としては、ヒトを含む哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ヒツジ、ウマ、ウシ、サル等)が例示され、中でもヒトが好ましい。また、歯周病菌を口腔内に保有する対象が好ましく、P.g菌を口腔内に保有する対象が特に好ましい。
【0025】
本開示の組成物の適用対象となるヒトとしては、例えば、歯周病患者又はその疑いがあるヒト、歯周病の発症を予防したいヒト、歯周病の進行を抑制したいヒト、歯周病のリスクの高いヒト(高齢者、喫煙者、血糖値の高いヒト等)、口腔内をデトックスしたいヒト等が挙げられる。
【0026】
本開示の組成物が抗歯周病菌毒素剤である場合、当該抗歯周病菌毒素剤は口腔用組成物に配合されてもよい。当該口腔用組成物の剤型は特に制限されず、固形組成物、液体組成物等であり得る。より具体的には、例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤、タブレット、ドロップ等の剤形であってもよく、なかでも、軟膏剤、ペースト剤、ジェル剤、液剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤であることが好ましい。
【0027】
本開示の組成物が口腔用組成物である場合、例えば、固形組成物、液体組成物等であり得る。また、当該口腔用組成物は、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤、タブレット、ドロップ等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、軟膏剤、ペースト剤、ジェル剤、液剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤であることが好ましい。
【0028】
本開示の組成物は、EPCアルカリ金属塩の他、口腔用組成物に配合し得る任意成分、例えば界面活性剤、香味剤、甘味剤、湿潤剤、粘結剤、防腐剤、着色剤、pH調整剤、及びEPC以外の薬効成分等を、単独で又は2種以上組み合わせてさらに含有してもよい。
【0029】
例えば界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を配合することができる。具体的には、例えば、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;グリセリン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。
【0030】
アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。
【0031】
両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N-ココイル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0032】
香味剤として、例えば、メントール、カルボン、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネロール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセテート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を用いることができる。香味剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0033】
また甘味剤として、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等を用いることができる。甘味剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0034】
湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を、単独で又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0035】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム等のセルロース誘導体、キサンタンガム等の微生物産生高分子、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、カラギーナン、デキストリン、寒天、ペクチン、プルラン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム等の天然高分子又は天然ゴム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子、増粘性シリカ、ビーガム等の無機粘結剤、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース等のカチオン性粘結剤が挙げられる。粘結剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。防腐剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、又はこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。pH調整剤は、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独で又は2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の配合量は例えば0.01~2質量%であってよい。
【0039】
本開示の組成物には、EPCアルカリ金属塩以外の薬効成分としてさらに、酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、アスコルビン酸、アスコルビン酸金属塩、アスコルビン酸リン酸エステル金属塩等のビタミンC類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアニオン系殺菌剤、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン系殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、アラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸金属塩、ヒノキチオール、銅クロロフィリンナトリウム、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、塩酸ピリドキシン、カルバゾクロム、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独で又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0040】
また、基剤として、アルコール類、シリコーン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0041】
本開示の組成物の調製方法は、本開示の効果が奏される限りにおいて特に制限されない。例えば当該技術分野において公知の方法に準じて調製することができる。より具体的には、例えば、EPCアルカリ金属塩及びその他の成分等を適宜混合することによって調製できる。
【0042】
なお、本明細書において「含む」とは、「含有する」の他に、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “essentially consisting of” and ”consisting of.”)。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0043】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、数値、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0044】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断らない限り、%は質量%を示す。
【0045】
試験例1.ジンジパイン阻害作用の検討
1-1.Rgp阻害作用の検討
1-1-1.Porphyromonas gingivalis培養上清の調製
Porphyromonas gingivalis W83株(以下、単に「P.g菌」と表記する)を10mL変法GAM培地を含む試験管に播種した。その後、試験管を37℃嫌気条件下で1日培養した(前培養)。前培養で得た菌液1mLを、新しい10mL変法GAM培地を含む試験管に移し、37℃嫌気条件下で1日培養した(本培養)。P.g菌の本培養液を変法GAM培地で希釈してO.D(600)=1.0に調整した後、5000Gで遠心分離し、培養上清を回収した。当該培養上清中にはジンジパインが含まれる。
【0046】
1-1-2.被験試料の調製
被験物質として、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩(本試験例においては、単に「EPC」と表記する)、アスコルビン酸Na(VC-Na)、アスコルビン酸リン酸Mg(APM)、トコフェロール(VE)、酢酸トコフェロール(VEA)、及びニコチン酸トコフェロール(VEN)を用いた。1%エタノール水溶液を溶媒として、終濃度が
図1に記載の濃度となるように各被験物質を溶解させ、被験試料を調製した。なお試験例1における「終濃度」とは、試験例1-1-3で後述する、各被験試料200μLと試験例1-1-1で得た培養上清20μLとの混合液50μLを、蛍光試薬50μLと混合した反応液中での濃度を指す。
【0047】
1-1-3.蛍光基質を用いたRgp活性測定
試験例1-1-2で得た各被験試料200μLと、試験例1-1-1で得た培養上清20μLとを混合し、3分間反応させた。また、コントロールとして被験試料の代わりに1%エタノール水溶液を用いた。反応後の前記混合液50μLを、蒸留水で100倍希釈したBenzyloxycarbonyl-L-phenylalanyl-L-arginine 4-methylcoumaryl-7-amide (Hydrochloride Form)(株式会社ペプチド研究所社、以下、「Z-Phe-Arg-MCA」と表記する。また、蒸留水で100倍希釈したZ-Phe-Arg-MCAを試験例1-1-3において「蛍光試薬」と表記する)50μLと混合し、遮光して37℃で30分間静置して反応させた。なおZ-Phe-Arg-MCAはArg-ジンジパイン(Rgp)の基質であり、Rgp活性により切断されて蛍光を発する試薬である。
【0048】
前記各反応液について、蛍光試薬と混合してから30分後に蛍光プレートリーダー(Cytation5、アジレント・テクノロジー社)を用いて励起光:380nm、放出光:440nmの条件で蛍光強度を測定した。
【0049】
コントロール(被験物質濃度が0%)における蛍光強度が100%となるように各被験試料における蛍光強度を換算し、各被験試料を処理した際のRgp活性を算出した。なお、各被験試料についてn=3で試験を行い、その平均値を用いて上記換算を行った。算出された値が小さいほど、Rgp活性が抑制されたことを示す。
【0050】
1-1-4.結果
試験例1-1の結果を
図1に示す。当該試験結果から、EPCはRgpに対して活性阻害作用を有すること、及び当該Rgp活性阻害作用は濃度依存的に上昇することが判明した。
【0051】
一方、アスコルビン酸又はトコフェロール骨格を有するVC-Na、APM、VE、VEA、及びVENは、Rgp活性阻害作用を有しないか、同じ濃度のEPCと比較して非常に弱いRgp活性阻害作用しか有しないことが明らかとなった。なお上述した通り、EPCはアスコルビン酸とトコフェロールとがリン酸を介してエステル結合した構造を有する。
【0052】
また、アスコルビン酸及びトコフェロールがそれぞれ0.05%の終濃度となるように調製した被験試料(VC-Na+VEA)を処理したときのRgp活性阻害作用は、終濃度0.1%のEPCを処理したときのRgp活性阻害作用よりも大きく劣った。
【0053】
1-2.Kgp阻害作用の検討
次に本発明者らは、EPCがKgpに対しても活性阻害作用を有するか検討した。
【0054】
1-2-1.試料の調製
試験例1-1-1と同様にしてP.g菌の培養上清を調製し、1-1-2と同様にして各被験物質の終濃度が
図2に記載の濃度となるように被験試料を調製した。
【0055】
1-2-2.蛍光基質を用いたKgp活性測定
試験例1-2-1で調製した各被験試料200μLを培養上清20μLと混合し、3分間反応させた。また、コントロールとして被験試料の代わりに1%エタノール水溶液を用いた。反応後の前記混合液50μLを、蒸留水で100倍希釈したBenzyloxycarbonyl-L-histidyl-L-glutamyl-L-lysine 4-methylcoumaryl-7-amide (Hydrochloride Form)(株式会社ペプチド研究所社、以下、「Z-His-Glu-Lys-MCA」と表記する。また、蒸留水で100倍希釈したZ-His-Glu-Lys-MCAを試験例1-2-2において「蛍光試薬」と表記する)50μLと混合し、遮光して37℃で30分間静置して反応させた。なおZ-His-Glu-Lys-MCAはLys-ジンジパイン(Kgp)の基質であり、Kgp活性により切断されて蛍光を発する試薬である。
【0056】
前記各反応液について、蛍光試薬と混合してから30分後に蛍光プレートリーダー(Cytation5、アジレント・テクノロジー社)を用いて励起光:380nm、放出光:440nmの条件で蛍光強度を測定した。
【0057】
コントロール(被験物質濃度が0%)における蛍光強度が100%となるように各被験試料における蛍光強度を換算し、各被験試料を処理した際のKgp活性を算出した。なお、各被験試料についてn=3で試験を行い、その平均値を用いて上記換算を行った。算出された値が小さいほど、Kgp活性が抑制されたことを示す。
【0058】
1-2-3.結果
試験例1-2の結果を
図2に示す。当該試験結果から、EPCはRgpだけでなくKgpに対しても活性阻害作用を有すること、及び当該Kgp活性阻害作用は濃度依存的に上昇傾向を示すことが判明した。
【0059】
一方、アスコルビン酸又はトコフェロール骨格を有するVC-Na、APM、VE、VEA、及びVENは、Kgp活性阻害作用を有しないか、同じ濃度のEPCと比較して非常に弱いKgp活性阻害作用しか有しないことが明らかとなった。
【0060】
また、アスコルビン酸及びトコフェロールがそれぞれ0.05%の終濃度となるように調製した被験試料(VC-Na+VEA)を処理したときのKgp活性阻害作用は、終濃度0.1%のEPCを処理したときとは異なり、Kgp活性阻害作用をほとんど示さなかった。
【0061】
1-3.小括
以上の結果から、EPCはRgp及びKgpのいずれのジンジパインに対しても活性阻害作用を有すること、及び当該ジンジパイン活性阻害作用は濃度依存的に上昇傾向を示すことが明らかとなった。
【0062】
一方でアスコルビン酸又はトコフェロール骨格を有するVC-Na、APM、VE、VEA、及びVENは、ジンジパイン活性阻害作用を有しないか、同じ濃度のEPCと比較して非常に弱いジンジパイン活性阻害作用しか有しないことが明らかとなった。
【0063】
また、上述の通りEPCはアスコルビン酸とトコフェロールとがリン酸を介してエステル結合した構造を有するが、アスコルビン酸及びトコフェロールがそれぞれ0.05%の終濃度となるように調製した被験試料(VC-Na+VEA)を処理したときのジンジパイン活性阻害作用は、終濃度0.1%のEPCを処理したときとは異なり、ジンジパイン活性阻害作用をほとんど示さなかった。
【0064】
試験例2.歯周病菌内毒素(LPS)活性阻害作用の検討
2-1.試験方法
試験例2は生化学工業社製のトキシカラーLS-50Mセットを使用し、マイクロプレートを用いたカイネティック比色法により行った。当該方法は、エンドトキシンがカブトガニの血球抽出成分LAL(Limulus Amebocyte Lysate)を活性化し、ゲル化を引き起こす酵素反応に基づいており、酵素が合成基質を加水分解することによって生じる分解物を、発色により測定する方法である。具体的な試験内容を以下に詳述する。
【0065】
Porphyromonas gingivalis由来のLPS(Invivogen社)をLPSフリーの水に溶解させ、10ng/mLのLPS希釈液を調製した。LPSフリーの1%エタノール水溶液を溶媒として、終濃度が
図3に記載の濃度となるように試験例1-1-2に示した各被験物質を溶解させ、被験試料を調製した。なお試験例2において「終濃度」とは、各被験試料25μLとLPS希釈液25μLとを混合した試験溶液中での濃度を指す。
【0066】
マイクロプレートの各ウェルにLPS希釈液25μLと各被験試料25μLとを分注した(試験溶液)。また、コントロールとして被験試料の代わりにLPSフリーの1%エタノール水溶液を用いた(対照液)。
【0067】
各試験溶液及び対照液にLAL試薬(生化学工業社)を50μL加え、1分間撹拌した。撹拌直後に405nmの吸光度(初期吸光度)を測定した。その後、37℃で30分間静置して反応させた後、再度405nmの吸光度を測定し、吸光度経時変化率(mAbs/min)を算出した。
【0068】
算出した吸光度の経時変化率から、次式に基づきLPS阻害率(%)を算出した。
【0069】
【0070】
2-2.結果
試験例2の結果を
図3に示す。当該試験結果から、EPCは歯周病菌内毒素(LPS)活性阻害作用を有すること、及び当該LPS活性阻害作用は濃度依存的に上昇することが判明した。
【0071】
一方、アスコルビン酸又はトコフェロール骨格を有するVC-Na、APM、VE、VEA、及びVENは、LPS活性阻害作用を有しないか、同じ濃度のEPCと比較して非常に弱いLPS活性阻害作用しか有しないことが明らかとなった。
【0072】
また、アスコルビン酸及びトコフェロールをそれぞれ0.05%の終濃度となるように調製した被験試料(VC-Na+VEA)を処理したときには、LPS活性阻害作用が確認されなかった。
【0073】
3.総括
試験例1及び2の結果から、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステル金属塩が、歯周病菌が産生する病原性因子を阻害及び/又は抑制する作用、並びに、歯周病菌が産生する病原性因子を不活化する作用を有することが明らかとなった。