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特開2024-152446溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法
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  • 特開-溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152446
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/12 20060101AFI20241018BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20241018BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20241018BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20241018BHJP
   C22C 30/06 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C23C2/12
C23C2/06
C22C18/04
C22C21/10
C22C30/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066644
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】平 章一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩野 純久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】菅野 史嵩
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA22
4K027AB02
4K027AB05
4K027AB44
4K027AB48
4K027AE02
4K027AE03
(57)【要約】
【課題】安定的に優れた加工性及び加工部耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のMg含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.5質量%未満であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のMg含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.5質量%未満であることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含み、該Mg-Zn系化合物の長径が10μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき皮膜が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき皮膜中のMgZn2のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn2 (100)=0 ・・・(1)
MgZn2(100):MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【請求項6】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき皮膜の形成は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に前記めっき皮膜を形成する工程を含み、
前記めっき浴の不可避的不純物中のMg含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.5質量%未満に制御することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記めっき浴が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce、及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、請求項6に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定的に優れた加工性及び加工部耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
55%Al-Zn系に代表される溶融Al-Zn系めっき鋼板は、例えば特許文献1に示すように、Znの犠牲防食性とAlの高い耐食性とが両立できているため、溶融亜鉛めっき鋼板の中でも高い耐食性を示すことが知られている。
そのため、溶融Al-Znめっき鋼板は、その優れた耐食性から、長期間屋外に曝される屋根や壁等の建材分野、ガードレール、配線配管、防音壁等の土木建築分野を中心に使用されている。特に、大気汚染による酸性雨や、積雪地帯での道路凍結防止用融雪剤の散布、海岸地域開発等、のより厳しい使用環境下での耐食性に優れる材料や、メンテナンスフリー材料への要求が高まっていることから、近年、溶融Al-Zn系めっき鋼板の需要は増加している。
【0003】
溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、Znを過飽和に含有したAlがデンドライト状に凝固した部分(α-Al相)と、デンドライト間隙(インターデンドライト)に存在するZn-Al共晶組織とから構成され、α-Al相がめっき皮膜の膜厚方向に複数積層した構造を有することが特徴である。このような特徴的な皮膜構造により、表面からの腐食進行経路が複雑になるため、腐食が容易に進行しにくくなり、溶融Al-Zn系めっき鋼板はめっき皮膜厚が同一の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ優れた耐食性を実現できることも知られている。
【0004】
一般的に、溶融Al-Zn系めっき鋼板は、スラブを熱間圧延若しくは冷間圧延した薄鋼板を下地鋼板として用い、該下地鋼板を連続式溶融めっき設備の焼鈍炉にて再結晶焼鈍及び溶融めっき処理を行うことによって製造される。
なお、めっき浴には、所定濃度のAlやZnに加え、地鉄(下地鋼板)-めっき界面に形成する界面合金層の過度な成長を抑制するためにSiが添加されることが通常である。このSiの働きにより、溶融Al-Zn系めっき鋼板の界面合金層の厚さは約1~5μm程度に制御することができる。めっき皮膜厚が同一ならば、界面合金層が薄いほど高耐食を発現する主層が厚くなるため、界面合金層の成長を抑制することは耐食性の向上に繋がると知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭46-7161号公報
【特許文献2】特開2004-285387号公報
【特許文献3】特表2016-540885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、溶融Al-Zn系めっき鋼板に折り曲げ等の加工を施した場合、その加工の程度(加工度)によって被加工部のめっき皮膜にクラックが生じることが知られている。溶融Al-Zn系めっき鋼板では、前記の厚い界面合金層がクラックの起点となり、また、めっき皮膜のデンドライト間隙部がクラックの伝播経路になることから、加工度が同じ曲げ加工を施した場合でも、同一めっき皮膜厚の溶融亜鉛めっき鋼板に比べてクラックが比較的大きく開口する傾向がある。そのため、加工度が大きい用途では、肉眼で確認できる大きなクラックが発生することで外観が損なわれるという問題や、下地鋼板が露出したクラック部は、クラックのない部分に比べ耐食性が顕著に低下(加工部耐食性が低下)するという問題もあった。
【0007】
溶融めっきの製造では、一般的にめっき浴中に不可避的に不純物が混入することが知られており、溶融Al-Zn系めっきも例外ではない。めっき皮膜中に混入される不純物としては、めっき原料中に含む不純物や下地鋼板や浴中機器からの溶出などによって混入するFe、Cr、Ni、Cu、Co、W、Mg、Ca等が挙げられ、これらの成分がめっき皮膜中に不可避的に含まれることになる。
特に、近年では高耐食を有する溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板や溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板の製造量が増加しており、その製造時に発生するドロスの再生処理によって造られる高濃度のMgを含有したZn原料の流通拡大によって、めっき浴中ひいてはめっき皮膜中にMgが不純物として混入することが少なくない。
【0008】
上述したように、めっき皮膜中の不可避的不純物は、溶融めっき鋼板の外観、耐食性、加工性などの特性の劣化を引き起こす場合があり、不純物の影響の有無は、めっき皮膜の組成と不純物濃度によって決まることが多い。つまり、同じ成分の不純物であっても、めっき鋼板の特性に対して有害となる場合と無害となる場合が存在する。そのため、各溶融めっき鋼板において、特性に及ぼす不純物の影響が調査され、安定的に必要特性を得るために不純物濃度を制御する技術が開発されている。
例えば、特許文献2には、質量%で、Al:0.10~0.6%、Bi:0.03~0.3%、残部がZn及び不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物としてのPb、Sn、及びCdの各含有量を0.002%に制御した外観に優れる溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献3には、Al:4.4~5.6%、Mg:0.3~0.56%、残部がZn及び不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物としてのNiが含まれないように制御した耐食性に優れる溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2や3に開示された技術は、耐食性の向上に着目されたものであり、Mgを含有しない溶融Zn-Al系めっき鋼板や、Al濃度が高い溶融Al-Zn系めっき鋼板について、加工性や加工部耐食性に及ぼす不可避的不純物の影響は十分考慮されておらず、より確実且つ安定的に、優れた加工性及び加工部耐食性を実現できる技術の開発が望まれていた。
加えて、溶融Al-Zn系めっき鋼板に限らず、溶融めっき鋼板の製造における不純物の制御は、多くが濃度制御のみに留まり、サイズなどの形態制御する技術は確立されておらず、より安定的に優れた加工性及び加工部耐食性を実現できる技術の開発が望まれていた。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑み、確実且つ安定的に優れた加工性及び加工部耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、溶融Al-Zn系めっき鋼板について、溶融Al-Znめっき皮膜の組成は、Al、Zn、及びSi の濃度を制御するだけでなく、不純物として含まれる元素の濃度も制御することが重要であることに着目し、その中でもMgの含有量について適正な制御を行うことで耐食性の劣化を効果的に抑制できること、さらに、前記めっき皮膜中に不純物として存在するMg-Zn系化合物のサイズについて適切な制御を行うことで、加工性と加工部耐食性の劣化をより効果的に抑制できることを見出した。
【0012】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のMg含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.5質量%未満であることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0013】
2.前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含み、該Mg-Zn系化合物の長径が10μm未満であることを特徴とする、上記1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0014】
3.前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含まないことを特徴とする、上記1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0015】
4.前記めっき皮膜が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce、及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする上記1~3のいずれかに記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
5.前記めっき皮膜中のMgZn2のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、上記1~4のいずれかに記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn2 (100)=0 ・・・(1)
MgZn2 (100):MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【0016】
6.めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき皮膜の形成は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に前記めっき皮膜を形成する工程を含み、
前記めっき浴の不可避的不純物中のMg含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.5質量%未満に制御することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
7.前記めっき浴が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce、及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、上記6に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、確実且つ安定的に優れた加工性及び加工部耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の溶融Al-Zn系めっき鋼板の断面を、拡大し、模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(溶融Al-Zn系めっき鋼板)
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、図1に示すように、素地鋼板10の表面に、めっき皮膜20を備える。
そして、前記めっき皮膜20は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
【0020】
前記めっき皮膜中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、45~65質量%であり、好ましくは50~60質量%である。これは、前記めっき皮膜中のAl含有量が少なくとも45質量%あれば、Alのデンドライト凝固が生じ、α-Al相のデンドライト凝固組織を主体にするめっき皮膜構造を得ることができるためである。該デンドライト凝固組織がめっき皮膜の膜厚方向に積層する構造を取ることで、腐食進行経路が複雑になり、めっき皮膜自体の耐食性が向上する。また、このα-Al相のデンドライト部分は、多く積層するほど腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるため、耐食性が向上する。そのため、前記めっき皮膜中のAlの含有量は50質量%以上であることが好ましい。一方、前記めっき皮膜中のAl含有量が65質量%を超えると、Znの殆どがα-Al中に固溶した組織に変化し、α-Al相の溶解反応が抑制できず、溶融Al-Zn系めっきの耐食性が劣化する。このため、前記めっき皮膜中のAl含有量は、65質量%以下であることを要し、好ましくは60質量%以下である。
【0021】
また、前記めっき皮膜中のSiは、主に下地鋼板との界面に生成するFe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の界面合金層の成長を抑制し、めっき皮膜と鋼板の密着性を劣化させない目的で添加される。実際に、Siを含有したAl-Zn系めっき浴に鋼板を浸漬させると、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の金属間化合物層が下地鋼板/めっき皮膜界面に生成するが、このときFe-Al-Si系合金はFe-Al系合金よりも成長速度が遅いので、Fe-Al-Si系合金の比率が高いほど、界面合金層全体の成長が抑制される。そのため、前記めっき皮膜中のSi含有量は1.0質量%以上とすることを要する。一方、前記めっき皮膜中のSi含有量が3.0質量%を超えると、前述した界面合金層の成長抑制効果が飽和するだけでなく、めっき皮膜中に過剰なSi相が存在することで加工性が低下するため、Si含有量は3.0%以下とする。
【0022】
なお、前記めっき皮膜は、Zn及び不可避不純物を含有する。このうち、前記不可避的不純物はFeを含有する。このFeは、鋼板や浴中機器がめっき浴中に溶出することで不可避的に含まれるものと界面合金層の形成時に下地鋼板からの拡散によって供給される結果、前記めっき皮膜中に不可避的に含まれることとなる。前記めっき皮膜中のFe含有量は、通常0.3~2.0質量%程度である。
その他の不可避的不純物としては、Cr、Ni、Cu、Co、W、Mg、Ca等が挙げられる。これらの成分は、下地鋼板やステンレス製の浴中機器や浴中機器に施したW-C系やCo-Cr-W系の溶射皮膜がめっき浴中に溶出すること、めっき浴の原料となる金属塊中に不純物として含まれていること、さらに、これらの成分を意図的に添加しためっき鋼板の製造で使用したポットや浴中機器を用いて製造することで、前記めっき皮膜中に不可避的に含まれることとなる。
【0023】
そして、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、前記不可避的不純物中のMg含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.5質量%未満であることを特徴とする。前記めっき皮膜中に含有されたMgは、溶融Al-Zn系めっき鋼板の加工性及び加工部耐食性を劣化させる場合があることから、上述しためっき皮膜中のAl、Zn及びSi含有量を適切に制御した上で、さらに不可避的不純物としてのMg含有量を抑えることで、加工性及び加工部耐食性の劣化を抑えることができる。同様の観点から、前記不可避的不純物中のMg含有量は、前記めっき皮膜の総質量に対して0.3質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、前記不可避的不純物中にMgを含有する場合、溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜中に不純物としてのMg-Zn系化合物が含まれることがある。ここで、前記Mg-Zn系化合物としては、MgZn2が形成する場合が殆どであるが、その他のMg2Zn11のような二元系の金属間化合物や、Mg21(Al,Zn)17やMg32(Al,Zn)49のような三元系の金属間化合物等、特に限定されるものではない。
また、より優れた加工性及び加工部耐食性を実現する観点からは、前記めっき皮膜中にこれらのMg-Zn系化合物を含まないことが好ましい。
【0025】
前記めっき皮膜中のMg-Zn系化合物の存在については、例えば、走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜を表面又は断面から二次電子像または反射電子像で観察し、エネルギー分散型X線分光法(EDS)で分析することで確認することができる。例えば、任意で100μmのめっき断面を5~10ヶ所程度選択し、それぞれ5kv以下の加速電圧で観察と元素マッピング分析を行い、Mgを検出した部分に対し更に点分析を行うことで、Mg-Zn系含有物の組成を確認することができる。この方法は、あくまでも一例であり、Mg-Zn系化合物の存在が確認できる方法であればどのような方法でも構わず、特に限定されるものではない。
【0026】
また、前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含む場合には、該Mg-Zn系化合物の長径は小さくすることが好ましい。
前記めっき皮膜中に存在するMg-Zn系化合物は硬くて脆いため、厳しい曲げ加工や引張加工を行った際にクラックの起点となり、加工性及び加工部耐食性の劣化を引き起こすことがある。特に、前記めっき皮膜中に粗大なMg-Zn系化合物が存在する場合には、溶融Al-Zn系めっき鋼板の加工性及び加工部耐食性は著しく低下するおそれがある。そのため、より優れた加工性及び加工部耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板を得るためには、めっき皮膜中に不純物として含まれるMg-Zn系化合物のサイズを小さく制御することが有効であり、具体的には、Mg-Zn系化合物の長径を10μm未満とすることが好ましい。同様の観点で、Mg-Zn系化合物の長径は可能な限り小さい方が好ましい。
前記Mg-Zn系化合物の長径は、例えば、走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜を断面から反射電子像で観察し、EDSでMg-Zn系化合物であることを確認した後、Mg-Zn系化合物を含む観察視野を拡大した反射電子像を観察することで測定することができる。
なお、本発明における前記Mg-Zn系化合物の長径とは、下地鋼板の表面と平行な方向に5mmの長さを有するめっき皮膜の連続断面において、確認されるMg-Zn系化合物の長径を全て測定し、上位5点の値を平均したものとする。
【0027】
また、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、前記めっき皮膜中のMgZn2のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することが好ましい。
MgZn2 (100)=0 ・・・(1)
MgZn2 (100):MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度、
【0028】
上述したように、溶融Al-Zn系めっき鋼板の加工性及び加工部耐食性を安定化させるために、不可避的不純物としてのMgの含有を抑制し、前記めっき皮膜中に形成するMg-Zn系化合物の形成を可能な限り少なく制御することが重要である。特に、熱力学に安定で溶融Al-Zn系めっき皮膜中においても形成しやすいMgZn2について、形成量を可能な限り少なくすること(MgZn2 (100)の回折強度をゼロとすること)により、加工性及び加工部耐食性をさらに安定的に実現できる。
【0029】
ここで、前記関係(1)において、MgZn2(100)は、MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度である。
前記X線回折によりMgZn2 (100)を測定する方法としては、前記めっき皮膜の一部を機械的に削り出し、粉末にした状態でX線回折を行うこと(粉末X線回折測定法)で算出することができる。回折強度の測定については、面間隔d=0.4510nmに相当するMgZn2 の回折ピーク強度を測定すればよい。
【0030】
なお、粉末X線回折測定を実施する際に必要なめっき皮膜の量(めっき皮膜を削り出す量)は、精度良くMgZn2 (100)を測定する観点から、0.1g以上あればよく、0.3g以上あることが好ましい。また、前記めっき皮膜を削り出す際に、めっき皮膜以外の鋼板成分が粉末に含まれる場合もあるが、これらの金属間化合物相はめっき皮膜のみに含まれるものであり、また前述したピーク強度に影響することはない。さらに、前記めっき皮膜を粉末にしてX線回折を行うのは、めっき鋼板に形成されためっき皮膜に対してX線回折を行うと、めっき皮膜凝固組織の面方位の影響を受け、特定の面間隔の回折強度で物質の存在量を評価することが困難なためである。
【0031】
ここで、上述した関係(1)を満たすための方法については、特に限定はされない。例えば、前記めっき皮膜中のMgの含有量を低く制御し、Znの含有量に対するMgの含有量の割合を下げる(例えば、Mg/Znを0.008以下、好ましくは0.006以下とする)ことで、MgZn2及びMg2Zn11の存在量(MgZn2 (100)及びMg2Zn11 (321)の回折強度)を低く制御できる。
さらに、前記めっき皮膜中のMgの含有量を制御する手法以外にも、前記めっき皮膜中のMgの含有量を特定の値に制御した上で、めっき皮膜形成時の条件(例えば、めっき後の冷却条件)を調整することによって、上記関係(1)を満たすようにすることもできる。
【0032】
また、前記めっき皮膜中の不可避的不純物は、前記Feの含有量に対する前記Mg含有量(Mg/Fe)が、1.0以下であることが好ましい。Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の界面合金層中へのMg固溶量が低くなり、固溶強化による界面合金層の硬度上昇を抑制できるため、より優れた加工性及び加工部耐食性を実現できる。同様の観点から、前記Mg/Feは、0.6以下であることがより好ましい。
【0033】
なお、前記めっき皮膜は、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce、及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を合計で0.01~3.0質量%、さらに含有することもできる。これらの元素はめっき皮膜が腐食する際に腐食生成物の安定性を向上させて腐食の進行を遅延させる効果や、めっき表面のスパングルサイズを安定化させて表面外観を良好にする効果を得ることができる。
【0034】
また、前記めっき皮膜の付着量は、各種特性を満足する観点から、片面あたり45~120 g/m2であることが好ましい。前記めっき皮膜の付着量が45g/m2以上の場合には、建材などの長期間耐食性が必要となる用途に対しても十分な耐食性が得られ、また、前記めっき皮膜の付着量が120g/m2以下の場合には、加工時のめっき割れ等の発生を抑えつつ、優れた耐食性を実現できるためである。同様の観点から、前記めっき皮膜の付着量は、45~100g/m2であることがより好ましい。
【0035】
前記めっき皮膜の付着量については、例えば、JIS H 0401:2013年に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液で特定面積のめっき皮膜を溶解剥離し、剥離前後の鋼板重量差から算出する方法で導出することができる。この方法で片面あたりのめっき付着量を求めるには、非対象面のめっき表面が露出しないようにテープでシーリングしてから前述した溶解を実施することで求めることができる。
また、前記めっき皮膜の成分組成は、上述しためっき付着量と同じく、めっき皮膜を塩酸溶液等に浸漬して溶解させ、その溶液をICP発光分光分析や原子吸光分析等で確認することができる。この方法はあくまでも一例であり、めっき皮膜の成分組成を正確に定量できる方法であればどのような方法でも良く、特に限定するものではない。
【0036】
なお、本発明により得られた溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となる。そのため、前記めっき皮膜の組成の制御は、めっき浴組成を制御することにより精度良く行うことができる。
【0037】
また、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板を構成する下地鋼板については、特に限定はされず、要求される性能や規格に応じて、冷延鋼板や熱延鋼板等を適宜使用することができる。
さらに、前記下地鋼板を得る方法についても、特に限定はされない。例えば、前記熱延鋼板の場合、熱間圧延工程、酸洗工程を経たものを使用することができ、前記冷延鋼板の場合には、さらに冷間圧延工程を加えて製造できる。さらに、鋼板の特性を得るために溶融めっき工程の前に、再結晶焼鈍工程等を経ることも可能である。
【0038】
なお、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、図1に示すように、下地鋼板10の上にめっき皮膜20が形成されているが、必要に応じて、該めっき皮膜上に、中間層や、塗膜をさらに形成することもできる。
前記塗膜の種類や、塗膜を形成する方法については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等の形成方法が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を形成することが可能である。
また、前記中間層については、溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜と前記塗膜との間に形成される層であれば特に限定はされない。例えば、化成処理皮膜や、接着層等のプライマーが挙げられる。前記化成処理皮膜については、例えば、クロメート処理液又はクロムフリー化成処理液を塗布し、水洗することなく、鋼板温度として80~300℃となる乾燥処理を行うクロメート処理又はクロムフリー化成処理により形成することが可能である。これら化成処理皮膜は単層でも複層でもよく、複層の場合には複数の化成処理を順次行えばよい。
【0039】
(溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法)
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法は、めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法である。
【0040】
そして、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に前記めっき皮膜を形成する工程を含む。
【0041】
なお、前記めっき皮膜を形成する工程については、後述するめっき浴の条件以外、特に限定はされない。
例えば、連続式溶融めっき設備で、前記下地鋼板を、洗浄、加熱、めっき浴浸漬することによって製造できる。鋼板の加熱工程においては、前記下地鋼板自身の組織制御のために再結晶焼鈍などを施すとともに、鋼板の酸化を防止し且つ表面に存在する微量な酸化膜を還元するため、窒素-水素雰囲気等の還元雰囲気での加熱が有効である。
【0042】
前記めっき皮膜を形成する工程に用いるめっき浴については、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。上述したように、前記めっき皮膜の組成が全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となるためである。
【0043】
そして、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法では、前記めっき浴の不可避的不純物中のMg含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.5質量%未満に制御することを特徴とする。
前記めっき皮膜中に含有されるMgは、上述したように、溶融Al-Zn系めっき鋼板の加工性及び加工部耐食性を劣化させる場合があることから、めっき浴中のAl、Zn及びSiの含有量を適切に制御した上で、さらに不可避的不純物としてのMg含有量を抑えることで、加工性及び加工部耐食性の劣化を抑えることができる。
【0044】
また、前記めっき浴中の不可避的不純物としてのMgの含有量は、前記めっき浴の総質量に対して0.5質量%以下に制御することを要し、0.2質量%以下とすることが好ましい。前記めっき浴中のMg含有量が0.5質量%未満であれば、製造した溶融Al-Zn系めっき鋼板は十分に優れた加工性と加工部耐食性を有することができ、0.2質量%以下であれば、より優れた加工性及び加工部耐食性を実現することができる。このように、めっき浴中のMg含有量が少ないほど溶融Al-Zn系めっき鋼板の耐食性が優れるため、Mgの含有量について、特に下限値の限定はない。
【0045】
なお、前記めっき浴中のMgの含有量を低減させる手段は、特に限定はされない。例えば、めっき浴中に意図的にMgを添加しないことや、Zn-Al-Mg系めっき鋼板やAl-Zn-Si-Mg系めっき鋼板のようなMgを意図的に添加するめっき鋼板の製造に使用したポットや浴中機器を、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造に用いないことが有効である。前記ポットや前記浴中機器に付着したMgを含有した金属塊が溶解し、めっき浴中へ混入することを抑制できるためである。
また、前記めっき浴中のMgの含有量を低減させる他の手段としては、不純物中のMgの含有量が少ない金属塊をめっき浴の原料として用いることが好ましい。
【0046】
前記めっき浴の浴温は、特に限定はされないが、(融点+20℃)~650℃の温度範囲とすることが好ましい。
前記浴温の下限を、融点+20℃としたのは、溶融めっき処理を行うためには、前記浴温を凝固点以上にすることが必要であり、融点+20℃とすることで、前記めっき浴の局所的な浴温低下による凝固を防止するためである。一方、前記浴温の上限を650℃としたのは、650℃を超えると、前記めっき皮膜の急速冷却が難しくなり,めっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれがあるためである。
【0047】
また、めっき浴に浸入する下地鋼板の温度(浸入板温)についても、特に限定はされないが、前記連続式溶融めっき操業におけるめっき特性の確保や浴温度の変化を防ぐ観点から、前記めっき浴の温度に対して±20℃以内に制御することが好ましい。
【0048】
さらにまた、前記下地鋼板の前記めっき浴中の浸漬時間については、0.5秒以上であることが好ましい。これは0.5秒未満の場合、前記下地鋼板の表面に十分なめっき皮膜を形成できないおそれがあるためである。浸漬時間の上限については特に限定はされないが、浸漬時間を長くするとめっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれもあることから、8秒以内とすることがより好ましい。
【0049】
なお、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法では、上述しためっき皮膜の形成工程及びめっき皮膜形成後の昇温加熱・冷却工程以外にも、通常のめっき鋼鈑で採用される工程を適宜実施することが可能である。
【実施例0050】
[サンプル1~32]
常法で製造した板厚0.8mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、(株)レスカ製の溶融めっきシミュレーターで、焼鈍処理、めっき処理を行うことで、表1に示す条件の溶融めっき鋼板のサンプル1~32を作製した。
なお、溶融めっき鋼板の製造に用いためっき浴の組成については、表1に示す各サンプルのめっき皮膜の組成となるように、めっき浴の組成をAl:0.2~70質量%、Si:0.0~3.2質量%、B:0.00~0.02質量%、Ca:0.0~1.0質量%、Ti:0.0~0.1質量%、V:0.1~0.1質量%、Cr:0.0~0.2質量%、Mn:0.0~0.1質量%、Sr:0.0~0.1質量%、Mo:0.0~0.1質量%、In:0.0~0.5質量%、Sn:0.0~0.5質量%、Sb:0.0~0.1質量%、Ce:0.0~1.0質量%、Bi:0.00~0.05質量%の範囲で種々変化させた。また、めっき浴の浴温は、Al:0.2~5質量%の場合は460℃、Al:35~55質量%の場合は600℃、Al:60質量%超の場合は660℃とし、下地鋼板のめっき浸入板温がめっき浴温と同温度となるように制御した。さらに、Al:35~65質量%の場合は、板温が520~500℃の温度域に3秒で冷却する条件でめっき処理を実施した。
また、めっき皮膜の付着量は、サンプル1~29では片面あたり85±5g/m2、サンプル30では片面あたり50±5g/m2、サンプル31では片面あたり100±5g/m2、サンプル32では片面あたり125±5g/m2となるように制御した。
【0051】
[評価]
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
(1)めっき皮膜(組成、付着量、Mg系化合物)
作製しためっき鋼板の各サンプルについて、100mmΦを打ち抜き、非測定面をテープでシーリングした後、JIS H 0401:2013に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液でめっきを溶解剥離し、剥離前後のサンプルの質量差から、めっき皮膜の付着量を算出した。算出の結果、得られためっき皮膜の付着量を表1に示す。
その後、剥離液をろ過し、ろ液と固形分をそれぞれ分析した。具体的に、ろ液をICP発光分光分析することで、不溶Si以外の成分を定量化した。
また、固形分は650℃の加熱炉内で乾燥・灰化した後、炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムを添加することで融解させた。さらに、塩酸で融解物を溶解し、溶解液をICP発光分光分析することで、不溶Siを定量化した。めっき皮膜中のSi濃度は、ろ液分析によって得た可溶Si濃度に、固形分分析によって得た不溶Si濃度を加算したものである。算出の結果、得られためっき皮膜の組成を表1に示す。
さらに、各サンプルについて、15mm×15mmのサイズに剪断後、鋼板の断面が観察できるように導電性樹脂に埋め込んだ状態で、機械研磨を行った後、走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製ULTRA55)を用いて、下地鋼板の表面と平行な方向に5mmの長さを有する任意で選んだめっき皮膜の連続断面について、加速電圧3kvの条件で幅100μmの反射電子像を連続して撮影した。さらに、同装置内において、エネルギー分散型X線分光器(Oxford Instruments社製Ultim Extreme)を用いて、加速電圧3kvの条件で各断面の元素マッピング解析(Al、Zn、Si、Fe、及びMg)を行った。この解析でMg強度を高く検出した部分について、同分光器を用いて加速電圧3kvの条件で点分析を行い、Mg系化合物の形成有無、及び得られた成分の半定量値から物質を同定した。観察視野中に確認された全てのMg系化合物について長径を測定し、上位5点の値を平均したものを長径とした。算出された長径を表1に示す。
さらに、各サンプルについて、100mm×100mmのサイズに剪断後、評価対称面のめっき皮膜を下地鋼板が現れるまで機械的に削り出し、得られた粉末をよく混ぜ合わせた後、0.3gを取出し、X線回折線装置(株式会社リガク製「SmartLab」)を用いて、使用X線:Cu-Kα(波長=1.54178Å)、Kβ線の除去:Niフィルター、管電圧:40kV、管電流:30mA、スキャニング・スピード:4°/min、サンプリング・インターバル:0.020°、発散スリット:2/3°、ソーラースリット:5°、検出器:高速一次元検出器(D/teX Ultra)の条件で、削り出した粉末の定性分析を行った。各ピーク強度からベース強度を差し引いた強度を各回折強度(kcps)とし、MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度(kcps)の回折強度を測定した。回折強度の測定結果を表1に示す。
【0053】
(2)加工性評価
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、同板厚の板を内側にn枚(n=8、10、12、14、16)挟み、150mmの頂点が得られるように180°曲げの加工(nT曲げ)をそれぞれ施した。折り曲げ後の曲げ部外面にセロテープ(登録商標)を強く貼りつけた後、引き剥がした。曲げ部の外面(頂点部)を走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製ULTRA55)で加速電圧5kvの条件で観察することでクラックの発生形態を確認し、下記の基準で加工性を評価した。評価結果を表1に示す。
〇:開口幅が20μm以上の大きなクラックの発生が認められない
×:開口幅が20μm以上の大きなクラックの発生が認められる
【0054】
(3)加工部耐食性評価
得られた溶融めっき鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、各端面に対しテープでシーリングし、同板厚の板を内側に14枚又は16枚挟み、150mmの頂点が得られるように14T曲げ及び16T曲げをそれぞれ施した。
上記のように作製した各サンプルに対して、いずれも日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、60サイクル後まで行った後、各サンプルの曲げ部の外面(頂点部)の外観を目視で確認し、下記の基準で判定した。確認結果及び判定結果を表1に示す。
〇: 16T曲げ加工を施したサンプルについて、赤錆及び白錆の発生が認められない
×: 16T曲げ加工を施したサンプルについて、赤錆又は白錆の発生が認められる
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、加工性及び加工部耐食性がバランスよく優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、確実且つ安定的に優れた加工性及び加工部耐食性を有する溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0058】
10 素地鋼板
20 めっき皮膜
21 主層
22 界面合金層
211 デンドライト
212 インターデンドライト
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-10-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のMg含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.5質量%未満であることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含み、該Mg-Zn系化合物の長径が10μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき皮膜が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき皮膜が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、請求項3に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項6】
前記めっき皮膜中のMgZn2のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn2(100)=0 ・・・(1)
MgZn2 (100):MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【請求項7】
前記めっき皮膜中のMgZn 2 のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、請求項3に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn 2 (100)=0 ・・・(1)
MgZn 2 (100):MgZn 2 の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【請求項8】
前記めっき皮膜中のMgZn 2 のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、請求項4に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn 2 (100)=0 ・・・(1)
MgZn 2 (100):MgZn 2 の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【請求項9】
前記めっき皮膜中のMgZn 2 のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、請求項5に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn 2 (100)=0 ・・・(1)
MgZn 2 (100):MgZn 2 の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【請求項10】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき皮膜の形成は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に前記めっき皮膜を形成する工程を含み、
前記めっき浴の不可避的不純物中のMg含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.5質量%未満に制御することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記めっき浴が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce、及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、請求項10に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のMg含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.5質量%未満であることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含み、該Mg-Zn系化合物の長径が10μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき皮膜中にMg-Zn系化合物を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき皮膜が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき皮膜中のMgZn2のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn2(100)=0 ・・・(1)
MgZn2 (100):MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【請求項6】
前記めっき皮膜中のMgZn2のX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを特徴とする、請求項4に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
MgZn2 (100)=0 ・・・(1)
MgZn2 (100):MgZn2の(100)面(面間隔d=0.4510nm)の回折強度
【請求項7】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき皮膜の形成は、Al:45~65質量%及びSi:1.0~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に前記めっき皮膜を形成する工程を含み、
前記めっき浴の不可避的不純物中のMg含有量を、前記めっき浴の総質量に対して0.5質量%未満に制御することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記めっき浴が、さらに、B、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Mo、In、Sn、Sb、Ce、及びBiのうちから選択される一種又は二種以上を合計で0.01~3.0質量%含有することを特徴とする、請求項に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。