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  • 特開-難燃性繊維シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152454
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】難燃性繊維シート
(51)【国際特許分類】
   D06M 23/12 20060101AFI20241018BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20241018BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20241018BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20241018BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20241018BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241018BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20241018BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
D06M23/12
D06M15/643
D06M15/263
D06M15/564
D06M15/693
F16F15/02 Q
F16F7/00 A
C09K21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066659
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神代 寿史
(72)【発明者】
【氏名】谷沢 謙
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
4H028
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
3J048AC03
3J048AD16
3J048BD04
3J048EA07
3J066AA22
3J066BA01
3J066BC03
3J066BD05
3J066BD10
3J066BE10
4H028AA34
4L031AB31
4L031BA18
4L031DA16
4L033AB07
4L033AC05
4L033AC11
4L033CA18
4L033CA50
4L033CA59
4L033CA68
(57)【要約】
【課題】
電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士などの間隙への追従性に富み押し込み易いことで、当該間隙へ充填し易い難燃性繊維シートの提供を第一の課題とする。
【解決手段】
「繊維シートに、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルとバインダとを含んだ難燃性バインダが付与されている、難燃性繊維シート」において、難燃性繊維シートの質量に占める難燃性バインダの質量の百分率を調整することで、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し易い、難燃性繊維シートを提供できることを見出した。
具体的には、当該百分率が1.0質量%より多いことによって、当該間隙へ富み押し込み易い難燃性繊維シートを提供できること、また、当該百分率が27.0質量%未満であることによって、当該間隙への追従性に富む難燃性繊維シートを提供できることを見出した。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートに、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルとバインダとを含んだ難燃性バインダが付与されている、難燃性繊維シートであって、
前記難燃性繊維シートの質量に占める前記難燃性バインダの質量の百分率は、1.0質量%より多く27.0質量%未満である、
難燃性繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、テレビなどの映像機器、オーディオ機器、パソコン、空調機器、冷蔵庫、洗濯機などの電化製品の内部空間に存在する、電子部品や金属部品同士の間隙といった、各種間隙を充填して、防じん性やパッキン性の付与、緩衝性の付与、吸音性などを付与するために、当該間隙に緩衝材を充填することが行われている。そして、軽量かつ柔軟で前述した間隙への充填性に優れるよう、繊維シートを備えてなる緩衝材が採用されている。
【0003】
また、上述の緩衝材は高温となった電子部品や金属部品などの高温となった部材と、接触した状態で使用されることがある。そのため、上述の緩衝材には難燃性が求められる。一般的に、緩衝材へ難燃性を付与する方法として、緩衝材を構成する繊維シートへ、リン酸系難燃剤、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、水酸化金属塩などの難燃剤とバインダとを含んだ、難燃性バインダを付与する方法が採られている。
【0004】
このような、難燃性バインダが付与された繊維シート(以降、難燃性繊維シートと称する)として、特開2012-17538(特許文献1)に開示されている難燃性繊維シートが知られている。特許文献1には、繊維シートに一般的な難燃剤とバインダとを含んだ難燃性バインダを付与してなる難燃性繊維シートを、高温となった電子部品や金属部品と接触して使用した場合、電子部品や金属部品に腐食(白色化)を生じさせるという知見が開示されている。そして、当該問題を解決するため特許文献1の発明は、難燃剤として、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルを採用したことを特徴としている。
【0005】
加えて、特許文献1の発明は、難燃剤カプセルが繊維シート質量の60~80質量%添加されていることによって、難燃性を満足する難燃性繊維シートを実現したことを特徴としている。なお、当該難燃性繊維シートでは、当該難燃性繊維シートの質量に占める難燃性バインダの質量の百分率は、37.5質量%よりも多い(繊維シート100質量部に対し付与されている難燃性バインダは60質量部よりも重いものであるため、100×60/(100+60)=37.5質量%よりも多くなる)ものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-17538
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1が開示するような従来技術にかかる難燃性繊維シート(難燃性繊維シートの質量に占める、難燃性バインダの質量の百分率が37.5質量%よりも多い難燃性繊維シート)は、難燃性バインダの担持量が多いことで剛性が高いものであった。そのため、充填しようとする間隙の形状に追従し難い(追従性に劣る)難燃性繊維シートとなり、その結果、当該間隙へ充填する際には力を込める必要があった。
【0008】
一方、上述のように追従し易い(追従性に富む)難燃性繊維シートを提供するため、難燃性繊維シートの質量に占める難燃性バインダの質量の百分率を低減した場合には、柔らかくコシのない難燃性繊維シートとなった。そのため、充填しようとする間隙へ押し込み難い難燃性繊維シートとなり、その結果、当該間隙へ充填するのにコツや時間を要した。
【0009】
以上の問題をうけ、本発明では、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士などの間隙への追従性に富み押し込み易いことで、当該間隙へ充填し易い難燃性繊維シートの提供を第一の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は「繊維シートに、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルとバインダとを含んだ難燃性バインダが付与されている、難燃性繊維シートであって、
前記難燃性繊維シートの質量に占める前記難燃性バインダの質量の百分率は、1.0質量%より多く27.0質量%未満である、
難燃性繊維シート。」である。
【発明の効果】
【0011】
本願出願人は検討の結果、「繊維シートに、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルとバインダとを含んだ難燃性バインダが付与されている、難燃性繊維シート」において、難燃性繊維シートの質量に占める難燃性バインダの質量の百分率を調整することで、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し易い、難燃性繊維シートを提供できることを見出した。
具体的には、当該百分率が1.0質量%より多いことによって、当該間隙へ富み押し込み易い難燃性繊維シートを提供できること、また、当該百分率が27.0質量%未満であることによって、当該間隙への追従性に富む難燃性繊維シートを提供できることを見出した。
そのため、本発明にかかる難燃性繊維シートは、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し易い、難燃性繊維シートである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】三角柱の治具および当該治具に接着した試験片を横方向から見た模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行う。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出する。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とする。また、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0014】
以下、本発明の実施に好適な形態について説明する。
【0015】
本発明でいう繊維シートとは、例えば、不織布、織物、編み物などを指す。また、繊維シートを構成している繊維同士は、繊維を構成する熱融着樹脂成分、あるいはバインダにより、融着あるいは接着されていても良い。
【0016】
繊維シートを構成する繊維の種類は適宜調整でき、有機繊維あるいは無機繊維のいずれからなるものでも、構成繊維としていずれも備えるものであっても構わない。
【0017】
上述の有機繊維を構成する樹脂として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂など、公知の樹脂を採用できる。これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれでも構わず、またブロック共重合体やランダム共重合体でも構わない。
【0018】
無機繊維としては、金属酸化物繊維や金属繊維などの無機繊維を使用することができる。
【0019】
難燃性がより向上した繊維シートを得るためには、JIS K7201-1:2021「プラスチック-酸素指数による燃焼性の試験方法-第1部:一般要求事項」およびJIS K7201-2:2021「プラスチック-酸素指数による燃焼性の試験方法-第2部:室温における試験」によって求められる、限界酸素指数(LOI値)が26以上の難燃性を示す繊維を構成繊維に備えた、繊維シートであるのが好ましい。
【0020】
本発明の繊維シートを構成するのに好適な、LOI値(限界酸素指数)が26以上の難燃性を示す繊維として、例えば、酸化ポリアクリロニトリル繊維などの酸化アクリル繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、アラミド繊維、難燃性レーヨン繊維、難燃性ポリエステル繊維などを採用できる。
【0021】
上述した繊維の繊度、繊維長は特に限定するものではないが、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙への追従性に富み押し込み易いことで、当該間隙へ充填し易い難燃性繊維シートを提供できるよう、適宜調整する。繊度は0.5~10dtexであるのが好ましく、1~5dtexであるのがより好ましい。また、繊維長は10~100mmであるのが好ましく、20~80mmであるのがより好ましい。
【0022】
本発明の繊維シートにおいては、複数種類の有機繊維からなる複合繊維を使用して、本発明の繊維シートを構成しても良く、樹脂の種類、繊維長、及び/又は繊度の異なる2種類以上の繊維を混合して、繊維シートを構成しても良い。
【0023】
なお、本発明に係る繊維シートとして、例えば、溶媒を用いずに繊維を開繊した乾式不織布、溶媒を用いて繊維を開繊した湿式不織布、直接法(例えば、メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)を用いてなる不織布を使用することができる。
【0024】
繊維シートの目付、厚さ、空隙率などの諸特性は難燃性繊維シートの適用用途によって異なるため、特に限定されるべきものではないが、1mあたりの質量である目付は20~500g/mであるのが好ましく、40~250g/mであるのがより好ましい。
【0025】
また、繊維シートの厚さは、0.05~10mmであるのが好ましく、0.1~1.5mmであるのがより好ましい。なお、本発明において厚さは、厚さ測定器(ダイヤルシックネスゲージ0.01mmタイプH型式(株)尾崎製作所製、荷重:22.9kPa)により計測した、5点の厚さの算術平均値をいう。
【0026】
そして、繊維シートの空隙率は、75~95%であるのが好ましく、80~90%であるのがより好ましい。
【0027】
目付・厚さ・空隙率が以上の範囲である繊維シートを用いて難燃性繊維シートを調製することで、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し易い難燃性繊維シート、特に緩衝材として使用するのが好適な難燃性繊維シートを得ることができ好ましい。
【0028】
本発明にかかる難燃性繊維シートでは、繊維シートに難燃剤バインダが付与されている。つまり、バインダによって繊維シートへ難燃剤カプセルが担持されている。
【0029】
難燃剤カプセルとは、難燃剤をシラン系樹脂で被覆したカプセル形状の難燃剤を指す。難燃剤はシラン系樹脂の被覆によって保持されているため、非加熱下および非加圧下などの、シラン系樹脂に開孔や亀裂が生じない条件下では、難燃剤カプセルの内部から難燃剤が漏出することがない。
【0030】
難燃剤カプセルのレーザー回折散乱法(JIS Z8825-1)に基づき測定される粒子の直径は、繊維シートに難燃剤カプセルを添加できるとともに好適な量の難燃剤を保持することができるのであれば、特に限定されるものではないが、0.5~60μmであるのが好ましく、5~40μmであるのがより好ましく、10~30μmであるのが最も好ましい。
【0031】
難燃剤カプセルの内部に保持されている難燃剤は、繊維シートに難燃性を付与する作用を示す。この難燃剤の種類は特に限定するものではないが、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤を使用できる。
【0032】
より具体的には、リン系難燃剤として、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリス(β-クロロエチル)ホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、酸性リン酸エステル、含窒素リン化合物などを使用できる。
【0033】
また、臭素系難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ペンタブロモベンゼン、ヘキサブロモベンゼン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、デカブロモジフェニルオキサイドなどを使用できる。
【0034】
更に、無機系難燃剤として、赤燐、酸化スズ、三酸化アンチモン、水酸化ジルコニウム、メタホウ酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどを使用できる。
これらの難燃剤の中でも繊維シートへ難燃性を効率よく付与でき、しかも環境適応性に優れることから、リン系難燃剤を使用するのが好適である。また、これら難燃剤は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明に係る難燃性繊維シートに添加されている難燃剤カプセルにおいて、シラン系樹脂は難燃剤を被覆してその内部に保持する役割を示す。難燃剤カプセルの内部からの難燃剤の漏出は、難燃剤カプセルに圧力あるいは熱が作用して、難燃剤カプセルのシラン系樹脂による被膜に開孔や亀裂が生じることで発生する。
【0036】
電子部品や金属部品に腐食を発生させにくいと共に、高温下においてもVOCを放出しにくいように、シラン系樹脂として、例えば、シリコーン樹脂、又は、官能基としてビニル基、アミノ基、メルカプト基等を持つ周知のシランカップリング剤を0.1~5質量%添加したシラン系樹脂を使用するのが好ましい。
【0037】
難燃剤カプセルにおけるシラン系樹脂の被膜の厚さは、難燃剤カプセルの内部から難燃剤が漏出しない程度に、難燃剤を被覆することができる厚さであれば良く、難燃性繊維シートの適用用途によって異なるため、特に限定されるべきものではなく、適宜、調整するのが好ましい。
【0038】
難燃性繊維シートが備える難燃剤バインダに占める、バインダの質量と難燃剤カプセルの質量との比率は適宜調整できる。しかし、バインダの質量比率が少な過ぎると、間隙へ押し込む際に難燃性繊維シートから難燃剤カプセルが脱落し易い結果、難燃性に富む難燃性繊維シートを提供し難くなる恐れがある。そのため、難燃性繊維シートが備える難燃剤バインダに占める難燃剤カプセルの質量を100質量部とした際の、バインダの質量は10質量部~90質量部であるのが好ましく、20質量部~70質量部であるのが好ましく、30質量部~50質量部であるのが好ましい。
【0039】
難燃性バインダを構成するバインダの種類は適宜調整するが、アクリル酸エステル系樹脂、ウレタン樹脂、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などをバインダとして使用することができる。特に、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し易い、難燃性繊維シートを実現できるよう、難燃性バインダを構成するバインダはアクリル酸エステル系樹脂であるのが好ましい。
【0040】
本発明では、難燃性繊維シートの質量に占める前記難燃性バインダの質量の百分率が、1.0質量%より多く27.0質量%未満であることによって、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し易い、難燃性繊維シートを提供できる。当該質量百分率は適宜調整できるが、隙間へ押し込み易い難燃性繊維シートを提供できるよう、その下限値は、2質量%以上であるのが好ましく、3質量%以上であるのが好ましく、3.5質量%以上であるのが好ましく、5.2質量%以上であるのが好ましく、7.4質量%以上であるのが好ましい。また、押し込み時に適度に変形するという追従性に富む難燃性繊維シートを提供できるよう、その上限値は、25質量%以下であるのが好ましく、20質量%以下であるのが好ましく、19.1質量%以下であるのが好ましく、18.5質量%未満であるのが好ましく、15.4質量%以下であるのが好ましい。
【0041】
本発明に係る難燃性繊維シートの目付は、該難燃性繊維シートの適用用途によって異なるため、特に限定されるべきものではないが、1mあたりの質量である目付は20~500g/mであるのが好ましく、40~250g/mであるのがより好ましい。
また、本発明に係る難燃性繊維シートの厚さは、0.05~4mmであるのが好ましく、0.1~1.5mmであるのがより好ましい。
【0042】
以上の構成を有する難燃性繊維シートは、そのまま単体で使用することもできるが、他の布帛や発泡体あるいはフィルムなどの基材と積層してなる難燃性繊維シートとして使用することができる。なお、積層の態様はその用途に合わせて適宜調整できる。また、難燃性繊維シートは厚さ調整あるいは打ち抜くなど形状を調整するため、二次加工が施されたものであっても良い。
【0043】
次に、本発明にかかる難燃性繊維シートの製造方法について一例を挙げ説明する。なお、上述にて説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0044】
本発明にかかる難燃性繊維シートの製造方法は適宜選択するが、一例として、
工程1.繊維シートを用意する工程、
工程2.難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルとバインダと、前記バインダの溶媒あるいは前記難燃剤カプセルと前記バインダの分散媒とを含んだ、難燃性バインダ液を用意する工程、
工程3.前記繊維シートへ、前記難燃性バインダ液を付与する工程、
工程4.前記難燃性バインダ液を付与した前記繊維シートを加熱することで、前記繊維シートから前記溶媒あるいは前記分散媒を除去し、その後、放冷する工程、
を備える、難燃性繊維シートの製造方法であることができる。
【0045】
工程2について説明する。
【0046】
溶媒ならびに分散媒の種類は適宜選択するが、繊維シートの構成繊維を溶解しないなど繊維シートの組成を変化させないあるいは変化させ難い、溶媒あるいは分散媒を採用するのが望ましい。このような溶媒あるいは分散媒として、水を使用できる。
【0047】
難燃性バインダ液に含まれる難燃剤カプセルとバインダの割合(固形分濃度)や、難燃性バインダ液の粘度は適宜調整できる。また、難燃性バインダ液は添加剤(例えば、顔料、抗菌剤、抗黴材、界面活性剤、粘度調整剤など)を含有していてもよい。
【0048】
工程3について説明する。
【0049】
繊維シートへ難燃性バインダ液を付与する方法は適宜選択できるが、スプレーを用いて付与する方法、含浸する方法、スキージ―やローラーあるいはパッダーなどを用いて塗布する方法などを用いることができる。なお、難燃性バインダ液はそのままの状態で付与しても、泡立てた状態で付与してもよい。
【0050】
また、繊維シートへ付与する難燃性バインダ液の量は、難燃性繊維シートに含まれる難燃剤カプセルとバインダの質量が1.0質量%より多く27.0質量%未満になるよう、適宜調整する。
【0051】
工程4について説明する。
【0052】
難燃性バインダ液を付与した後の繊維シートを加熱する方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して加熱する方法などを用いることができる。
【0053】
加熱温度は、難燃性バインダ液に含まれる溶媒や分散媒を除去できると共に、バインダによって繊維シートへ難燃剤カプセルを担持できるよう適宜調整する。このとき、繊維シートの構成繊維や他の構成成分および難燃剤カプセルを、融解や変性させ難い温度となるように調整する。 なお、本加熱工程において両主面間に圧力を作用させるなどして、厚みを調整してもよい。
【0054】
そして、放冷する方法は適宜調整するが、室温雰囲気下で放冷する方法、冷蔵庫へ供する方法などを採用できる。
【0055】
以上のようにして調製した難燃性繊維シートは単体で様々な産業用途に使用可能であるが、難燃性繊維シートを、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの、各種二次工程へ供してもよい。また、リライアントプレス処理などの、表面を平滑とするための加圧処理工程へ供してもよい。
【実施例0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
(繊維シートの製造方法)
繊度2.2dtexで繊維長51mmの酸化ポリアクリロニトリル繊維(帝人株式会社製、パイロメックスCPX(登録商標)、LOI値(限界酸素指数):50~60)をカード機へ供し、開繊して繊維ウエブを形成した。
その後、繊維ウエブを水流絡合装置へ供して不織布(目付63g/m、厚さ0.7mm)を製造した。
【0058】
(比較例1)
上述した(繊維シートの製造方法)の項で得られた不織布を、そのまま難燃性繊維シートとした。
【0059】
(比較例2~3、実施例1~9)
リン系難燃剤であるポリリン酸アンモニウムがシラン系樹脂であるシリコーン樹脂で被覆された難燃剤カプセルを、水に分散させてなる難燃剤(日華化学社製、製品名:ニッカファイノン(登録商標)HF-36)を用意した。また、バインダとしてアクリル酸エステル共重合体エマルジョン(日本ゼオン株式会社、製品名:Nipol LX851F2)を用意した。
そして、バインダの固形分質量と難燃剤カプセルの固形分質量が(バインダの固形分質量:難燃剤カプセルの質量)=(35質量部:100質量部)となるように混合して、難燃性バインダ液を調製した。
次いで、(繊維シートの製造方法)の項で得られた不織布へパッダーを用いて難燃性バインダ液を付与した後、150℃に設定したドライヤーにより乾燥することで、難燃性バインダ液が付与された不織布から分散媒を除去して、難燃性繊維シートを製造した。なお、本工程において各比較例および各実施例では、不織布へ付与した難燃性バインダ液の量を変更した。
以上のようにして、不織布に難燃性バインダが付与されてなる難燃性繊維シートを各々製造した。
【0060】
なお、製造した各難燃性繊維シートの質量に占める難燃性バインダの質量の百分率(質量%)は、表1中に記載されている通りであり、表1では当該百分率を「難燃性バインダ百分率(質量%)」の欄に記載している。
【0061】
以上のようにして製造した難燃性繊維シートを以下の評価方法へ供し、剛軟度、押し込み易さと追従性を確認することで、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙への充填し易さを評価した。
【0062】
(剛軟度の測定方法)
試験片のサイズをヨコ方向20mm×タテ方向300mmとしたこと以外は、JIS L1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)8.21.1 A法(45°カンチレバー法)に則って測定した剛軟度(単位:mm)を測定した。
なお、試験片におけるタテ方向は、難燃性繊維シートを構成する繊維シートにおける、当該繊維シートの生産方向と平行を成す方向を意味し、ヨコ方向は前記生産方向と垂直を成す方向を意味する。
【0063】
(押し込み易さの評価方法)
電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙を想定した、クリアランスを1.2mmに調整した平板間に、手で難燃性繊維シートを押し込んだ。
【0064】
第一に、実施例2で調製した難燃性繊維シートにおける押し込み易さを基準として「△」と評価した。なお、実施例2(および同等の評価となった実施例1)の難燃性繊維シートは、当該平板の間へ押し込み易いことから、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し易い難燃性繊維シートであると考えられる。つまり、当該間隙へ充填するのにコツや時間を要することのない難燃性繊維シートである。
そして、「△」と評価された難燃性繊維シートよりもコシがあり、より押し込み易い難燃性繊維シートを「〇」と評価した。なお、このような難燃性繊維シートは、当該平板の間へより押し込み易いことから、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へより充填し易い難燃性繊維シートであると考えられる。つまり、当該間隙へ充填するのによりコツや時間を要することのない、より好ましい難燃性繊維シートである。
一方、「△」と評価された難燃性繊維シートよりも柔らかくコシがないため、押し込み易難い難燃性繊維シートを「×」と評価した。なお、このような難燃性繊維シートは、当該平板の間へ押し込み難いことから、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填し難いものであると考えられる。つまり、当該間隙へ充填するのにコツや時間を要する難燃性繊維シートである。
【0065】
(追従性の評価方法)
本評価方法について、三角柱の治具および当該治具に接着した試験片を横方向から見た模式図である、図1(a)および図1(b)を用いて説明する。
難燃性繊維シートから短冊状(長辺:150mm、短辺:10mm)の切片(10)を切り出した。そして、切片(10)の一方の主面全体に両面テープ(11)を張り付けて、試験片(12)を調製した。
次いで、鋭角部分(21、角度:45°)を有する三角柱の治具(20)を用意した。
図1(a)に図示するように、治具(20)における鋭角部分(21)の先端から試験片(12)がその長辺方向へ3mm飛び出るようにして、間に両面テープ(11)を介して治具(20)における一辺(31)上に試験片(12)を接着した。このとき、試験片(12)の短辺方向(紙面と垂直を成す方向)と、鋭角部分(21)の頂点が伸びる方向(紙面と垂直を成す方向)とが、平行を成すようにした。
その後、鋭角部分(21)の先端から飛び出ている試験片(12)の部分を、図1(b)に図示するように、鋭角部分(21)に沿わせて折り曲げることで(治具(20)における別の一辺(32)上へ向かい折り曲げることで)、間に両面テープ(11)を介して、別の一辺(32)上に試験片(12)における一方の主面全体を接着した。
そして、試験片(12)が治具(20)から一部でも剥がれるまでに要した時間を計った。
当該時間が短いほど剛性が高い難燃性繊維シートであり、追従性に劣る難燃性繊維シートであることを意味している。一方、当該時間が長いほど剛性が低い難燃性繊維シートであり、追従性に優れる難燃性繊維シートであることを意味している。なお、剥がれなかった場合には、更に剛性が低い難燃性繊維シートであり、より追従性に優れる難燃性繊維シートであることを意味している。
【0066】
第一に、実施例8で調製した難燃性繊維シートにおける追従性を基準として「△」と評価した。なお、実施例8(および同等の評価となった実施例9)の難燃性繊維シートは、剛性が低いことから、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ追従し易い(追従性に優れる)難燃性繊維シートであると考えられる。つまり、当該間隙へ充填する際に力を込める必要のない難燃性繊維シートである。
そして、「△」と評価された難燃性繊維シートよりも、試験片が治具から一部でも剥がれるまでに要した時間が長かった(あるいは、剥がれなかった)難燃性繊維シートを「〇」と評価した。このような難燃性繊維シートは、剛性がより低いことから、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へより追従し易い(より追従性に優れる)難燃性繊維シートであると考えられる。つまり、当該間隙へ充填する際により力を込める必要のない、より好ましい難燃性繊維シートである。
一方、「△」と評価された難燃性繊維シートよりも、試験片が治具から一部でも剥がれるまでに要した時間が短かった難燃性繊維シートを「×」と評価した。このような難燃性繊維シートは、剛性が高いことから、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ追従し難い(追従性に劣る)難燃性繊維シートであると考えられる。つまり、当該間隙へ充填する際に力を込める必要がある難燃性繊維シートである。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の結果から、「繊維シートに、難燃剤をシラン系樹脂で被覆してなる難燃剤カプセルとバインダとを含んだ難燃性バインダが付与されている、難燃性繊維シート」において、
・難燃性繊維シートの質量に占める難燃性バインダの質量の百分率が1.0質量%より多いことで、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填するのによりコツや時間を要することがなく、
そして、
・難燃性繊維シートの質量に占める難燃性バインダの質量の百分率が27.0質量%未満であることで、電化製品の内部空間に存在する電子部品や金属部品同士の間隙へ充填する際により力を込める必要のない、
難燃性繊維シート、つまり、追従性に富み押し込み易いことで当該間隙へ充填し易い難燃性繊維シートを提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る難燃性繊維シートは、難燃性が求められる用途に活用できる。一例として、自動車などの車両や鉄道電車あるいは飛行機などのシート部材やクッション部材といった内装材や外装材あるいは緩衝材、家電など電化製品の筺体や緩衝材、他にも、難燃性が求められる衣料用途や建築材料用途に利用することができる。
図1