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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152459
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ユーザデバイス、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/76 20060101AFI20241018BHJP
   H04W 4/40 20180101ALI20241018BHJP
   H04W 4/00 20180101ALI20241018BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20241018BHJP
【FI】
G01S13/76
H04W4/40
H04W4/00 110
H04W88/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066666
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(72)【発明者】
【氏名】楽 卓登
【テーマコード(参考)】
5J070
5K067
【Fターム(参考)】
5J070AB14
5J070AC01
5J070AC02
5J070AE09
5J070AF03
5J070AH14
5J070BC05
5K067BB03
5K067EE02
5K067EE35
5K067HH22
(57)【要約】
【課題】ユーザデバイスの消費電力を低減可能な技術を提供する。
【解決手段】携帯機は、近距離通信(例えばBluetooth(登録商標) Low Energy)で車両と通信する第1通信部と、UWB通信にて車両と測距通信を実施する第2通信部とを備える。携帯機は、接続閾値以上の強度を有する、車両から送信されたアドバタイズ信号を受信した場合に、車両と通信接続する。携帯機は、車両と通信接続中、定期的に測距通信を実施することにより、車両までの距離の値である測距値を定期的に取得する。また、携帯機は、車両と通信接続中、車両から送信された近距離通信信号の受信強度も定期的に取得し、メモリに保存する。携帯機は、車両と通信接続中において最も大きい測距値が観測された時の受信強度をもとに、次回の通信接続に使用する接続閾値を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線プロトコルを用いて車両とデータ通信を実施可能に構成されている第1通信部(94)と、
第2の無線プロトコルを用いて前記車両と測距通信を実施可能に構成されている第2通信部(95)と、
前記第1通信部及び前記第2通信部と通信可能に構成されている制御部(91)と、を備え、
前記制御部は、
前記車両から送信される、前記第1の無線プロトコルに従った無線信号である第1プロトコル信号の受信強度を取得することと、
前記車両から送信される、通信接続のための前記第1プロトコル信号の前記受信強度が接続閾値以上であることに基づいて、前記第1通信部を用いて前記車両と通信接続することと、
前記車両と通信接続していることに基づいて前記第2通信部に前記測距通信を実施させることと、
前記第2通信部と前記車両との前記測距通信が成功した時の前記受信強度に基づいて、前記車両と次回通信接続する際に使用する前記接続閾値の設定値を変更することと、を実施可能に構成されているユーザデバイス。
【請求項2】
前記制御部は、
前記測距通信の結果に基づいて、前記車両までの距離を取得することと、
前記車両と通信接続している期間において前記車両までの距離の観測値が最大となった時の前記受信強度を、基準強度として記憶媒体に保存することと、
前記記憶媒体に保存されている前記基準強度をもとに前記車両と次回通信接続するための前記接続閾値を決定することと、を実施するように構成されている、請求項1に記載のユーザデバイス。
【請求項3】
前記制御部は、
前記測距通信の結果に基づいて、前記車両までの距離を取得することと、
前記車両と通信接続している期間において前記車両までの距離の観測値が所定値以上となった時の前記受信強度を、基準強度として記憶媒体に保存することと、
前記記憶媒体に保存されている前記基準強度をもとに前記車両と次回通信接続するための前記接続閾値を決定することと、を実施するように構成されている、請求項1に記載のユーザデバイス。
【請求項4】
前記制御部は、
前記車両と通信接続している間に新たに取得した前記基準強度を、通信接続する前から前記記憶媒体に保存されている前記基準強度とは区別して保存することと、
前記記憶媒体に保存されている複数の前記基準強度の平均値又は中央値をもとに前記接続閾値を決定することと、を実施するように構成されている、請求項2又は3に記載のユーザデバイス。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両と通信接続した際、前記測距通信の準備処理として、前記第1通信部を用いて前記測距通信の設定データを前記車両と交換し、且つ、前記設定データの交換が完了したことに基づいて、前記設定データに従った方法で前記第2通信部に前記測距通信を定期的に実行させるように構成されており、
前記記憶媒体には、前記設定データの交換に要する時間である準備所要時間が登録されており、
前記制御部はさらに、
所定のセンサの出力又は前記記憶媒体の参照によりユーザの歩行速度を示すデータを取得し、
前記準備所要時間と、前記歩行速度を示すデータと、前記記憶媒体に保存されている前記基準強度と、に基づいて前記接続閾値を決定する、請求項2又は3に記載のユーザデバイス。
【請求項6】
前記制御部は、
前記歩行速度を示すデータと、前記準備所要時間とに基づいて、前記設定データの交換を行っている間における前記ユーザの移動距離を算出することと、
前記受信強度と距離との対応関係を示すデータを参照することにより、前記基準強度に対応する距離である基準距離を取得することと、
前記移動距離と、前記基準距離とを合算した合計距離を算出することと、
前記合計距離に対応する前記受信強度の値を前記接続閾値に設定することと、を実行するように構成されている、請求項5に記載のユーザデバイス。
【請求項7】
前記制御部は、
前記車両に対してユーザの乗車操作がなされたことを示す乗車操作信号を、前記第1通信部を介して前記車両から受信することと、
前記車両と通信接続してからまだ前記測距通信が1回も成功していない状況において、前記乗車操作信号を受信した場合には、次回用の前記接続閾値を現在の前記接続閾値よりも小さい値に設定することと、を実行するように構成されている、請求項1に記載のユーザデバイス。
【請求項8】
前記第1の無線プロトコルは、Bluetooth(登録商標) Low Energyであり、
前記第2の無線プロトコルは、Ultra Wide Band - Impulse Radioである、請求項1から3、7の何れか1項に記載のユーザデバイス。
【請求項9】
第1の無線プロトコルを用いて車両とデータ通信を実施可能に構成されている第1通信部(94)、及び、第2の無線プロトコルを用いて前記車両と測距通信を実施可能に構成されている第2通信部(95)のそれぞれと接続されているコンピュータに、
前記車両から送信される、前記第1の無線プロトコルに従った無線信号である第1プロトコル信号の受信強度を前記第1通信部から取得することと、
前記車両から送信される通信接続のための前記第1プロトコル信号の前記受信強度が接続閾値以上であることに基づき、前記第1通信部を用いて前記車両と通信接続することと、
前記車両と通信接続していることに基づいて前記第2通信部に前記測距通信を実施させることと、
前記第2通信部と前記車両との前記測距通信が成功した時の前記受信強度に基づいて、前記車両と次回通信接続する際に使用する前記接続閾値の設定値を変更することと、を実行させる命令を含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両と無線通信可能に構成されているユーザデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両がユーザデバイスとBluetooth(登録商標) Low Energy(以降、Bluetooth LE)で通信接続したことを受けて、車両とユーザデバイスとが位置判定のための無線通信を開始する構成が開示されている。特許文献1では、車両に搭載されている複数のセンサとユーザデバイスとがUWB(Ultra Wide Band)通信を用いた測距通信を行うことにより、車両に対するユーザデバイスの位置が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6806169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ユーザデバイスは、車両とBluetooth LEにて通信接続している間、測距のためのUWB信号(以降、測距信号)を定期的に送信する。しかしながら、Bluetooth LEの通信範囲に比べて、UWB通信可能な範囲は小さい。よって、ユーザデバイスは、UWB通信可能な範囲の外側に存在するにも関わらず、測距信号を定期的に送信し続けることがある。このような作動は、ユーザデバイスの電力消費を招きうる。
【0005】
本開示は、上記の検討又は着眼点に基づいて成されたものであり、その目的の1つは、ユーザデバイスの消費電力を低減可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示されるユーザデバイスは、第1の無線プロトコルを用いて車両とデータ通信を実施可能に構成されている第1通信部(94)と、第2の無線プロトコルを用いて車両と測距通信を実施可能に構成されている第2通信部(95)と、第1通信部及び第2通信部と通信可能に構成されている制御部(91)と、を備え、制御部は、車両から送信される、第1の無線プロトコルに従った無線信号である第1プロトコル信号の受信強度を取得することと、車両から送信される、通信接続のための第1プロトコル信号の受信強度が接続閾値以上であることに基づいて、第1通信部を用いて車両と通信接続することと、車両と通信接続していることに基づいて第2通信部に測距通信を実施させることと、第2通信部と車両との測距通信が成功した時の受信強度に基づいて、車両と次回通信接続する際に使用する接続閾値の設定値を変更することと、を実施可能に構成されている。
【0007】
上記のユーザデバイスによれば、接続閾値は、ユーザデバイスが車両と測距通信可能な距離に応じた値となる。これにより、ユーザデバイスが車両と通信接続する範囲を、ユーザデバイスと車両とが測距通信可能な範囲に近づけられる。よって、ユーザデバイスが、測距通信の範囲外に存在するにも関わらず、測距通信のための無線信号を送信する機会を低減できる。ひいては、ユーザデバイスの消費電力を抑えられる。
【0008】
本開示に含まれるプログラムは、第1の無線プロトコルを用いて車両とデータ通信を実施可能に構成されている第1通信部(94)、及び、第2の無線プロトコルを用いて車両と測距通信を実施可能に構成されている第2通信部(95)のそれぞれと接続されているコンピュータに、車両から送信される、第1の無線プロトコルに従った無線信号である第1プロトコル信号の受信強度を第1通信部から取得することと、車両から送信される通信接続のための第1プロトコル信号の受信強度が接続閾値以上であることに基づき、第1通信部を用いて車両と通信接続することと、車両と通信接続していることに基づいて第2通信部に測距通信を実施させることと、第2通信部と車両との測距通信が成功した時の受信強度に基づいて、車両と次回通信接続する際に使用する接続閾値の設定値を変更することと、を実行させる命令を含む。
【0009】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両用電子キーシステムの全体像を示す図である。
図2】車載システムの構成を示すブロック図である。
図3】アンカーの搭載位置を示す図である。
図4】アンカーの構成を示すブロック図である。
図5】携帯機の構成を示すブロック図である。
図6】携帯機と車両との測距通信の流れを示すシーケンス図である。
図7】通信接続から測距通信を開始するまでのシステム全体の作動を表すシーケンス図である。
図8】通信接続可能な範囲と測距通信可能な範囲のギャップを示す図である。
図9】車両から携帯機が離れる際の携帯機の作動を示すフローチャートである。
図10】車両に携帯機が接近した際の携帯機の作動を示すフローチャートである。
図11】携帯機による接続閾値の決定方法の一例を示すフローチャートである。
図12】乗車操作信号の受信タイミングに応じた携帯機の作動を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施されてよい。本開示には、複数の変形例を組み合わせた、明示しない構成も含まれる。以下の説明においては、同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その具体的説明を省略することがある。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については他の箇所に記載の説明を適用することができる。
【0012】
<全体構成について>
本実施形態の車両用電子キーシステムは、図1に示すように、車載システム10と携帯機9を含む。車載システム10は車両Hvに搭載されたシステムである。車載システム10は、図2に示すように、位置判定装置1と複数のアンカー2を含む。
【0013】
携帯機9は、ユーザが携帯する無線通信端末である。携帯機9は、位置判定装置1と紐付けられている。すなわち、位置判定装置1には携帯機9のデバイス情報が登録されている。デバイス情報は、デバイスの識別番号(以降、デバイスID)を含む。デバイスIDは、デバイスアドレスや、UUID(Universally Unique Identifier)等であってよい。複数の携帯機9が、位置判定装置1と紐付けられていてもよい。
【0014】
位置判定装置1は、車両Hvに対する携帯機9の位置を判定する装置である。位置判定装置1と携帯機9はいずれも近距離通信モジュールを含む。近距離通信モジュールは、近距離通信を実施可能するための通信モジュールである。ここでの近距離通信とは、実質的な通信可能距離が5mから50m、最大でも100m程度となる所定の無線通信規格に準拠した通信を指す。近距離通信は、Bluetooth(登録商標)Low Energy(以降、Bluetooth LE)や、Wi-Fi(登録商標)等であってよい。以下の説明及び図面では近距離通信を、SRC(Short Range Communication)あるいはSRWC(Short Range Wireless Communication)と記載することがある。また、本開示では近距離通信にて送受信される信号を近距離通信信号又はSRC信号と記載することがある。
【0015】
以下では近距離通信がBluetooth LEである場合を例にとって、各部の作動を説明する。さらに以下では、携帯機9がBluetooth LEにおけるセントラル(マスタ-)として作動し、位置判定装置1がペリフェラル(スレイブ)として振る舞うように設定されている。もちろん、携帯機9と位置判定装置1の役割は入れ替えられてよい。
【0016】
アンカー2は、携帯機9と測距通信を実施するための無線通信モジュールである。本開示における測距通信とは、通信装置間の距離を計測するための無線通信を指す。本実施形態の複数のアンカー2及び携帯機9は何れも、UWB-IR(Ultra Wide Band - Impulse Radio)方式の無線通信であるUWB通信によって測距通信を実施可能に構成されている。つまりアンカー2と携帯機9は、UWB通信で使用されるインパルス状の電波(以降、インパルス信号)を送受信可能に構成されている。UWB通信で用いられるインパルス信号とは、パルス幅が極短時間(例えば2ns)であって、かつ、500MHz(厳密には499.2MHz)以上の帯域幅(つまり超広帯域幅)を有する信号であってよい。以降におけるUWB信号とは、UWB通信でやり取りされる信号を意味する。
【0017】
<車載システム>
車載システム10は、図2に示すように、位置判定装置1と複数のアンカー2に加えて、ボディECU3といった他の装置を有してよい。位置判定装置1は複数のアンカー2のそれぞれと専用の通信ケーブルで接続されている。また、位置判定装置1は、車内ネットワークを介して、ボディECU3と接続されている。車内ネットワークは、車両Hv内に構築されている通信ネットワークである。車内ネットワークの規格としては、Controller Area Network(CANは登録商標)や、Ethernet(登録商標)、FlexRay(登録商標)等、多様な規格を採用可能である。ここに開示する装置同士の接続形態は一例であって適宜変更されてよい。位置判定装置1と複数のアンカー2は車内ネットワークを介して接続されていても良い。
【0018】
位置判定装置1は、アンカー2との協働により、デバイス位置を判定するECUである。本開示でのデバイス位置とは、車両Hvに対する携帯機9の相対位置を意味する。携帯機9はユーザに対応するものであるため、デバイス位置を判定することはユーザの位置を判定することに相当する。よって、デバイス位置との記載はユーザ位置と読み替えられても良い。位置判定装置1は、アンカー2の動作を制御する。
【0019】
位置判定装置1は、プロセッサ11、メモリ12、ストレージ13、無線通信部14、及び車内通信部15を備える。プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)であってよい。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性の記憶媒体であってよい。ストレージ13は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。
【0020】
ストレージ13には、位置判定プログラムが保存されている。位置判定プログラムは、コンピュータを位置判定装置1として機能させるためのインストラクションを含むプログラムである。また、ストレージ13には、携帯機9のデバイスID及び各アンカー2の車両Hvにおける搭載位置を示すデータ、及び、携帯機9を認証するためのデータ(例えば鍵コード)が格納されていてよい。
【0021】
無線通信部14は、位置判定装置1に内蔵された近距離通信モジュールである。無線通信部14には、走行用電源がオフに設定されている間も、車載バッテリの電力が供給される。無線通信部14は、車載バッテリから供給される電力を用いて、定期的にアドバタイズを行い、携帯機9との接続を試行する。アドバタイズは、所定のチャネルを用いてアドバタイズ信号を送信する処理である。アドバタイズ信号は、自分自身の存在を他のデバイスに通知するための無線信号である。アドバタイズ信号は、通信接続のための信号に相当する。無線通信部14は、携帯機9からの接続要求信号を受信した場合に、携帯機9と通信接続する。
【0022】
車内通信部15は、プロセッサ11が複数のアンカー2のそれぞれと通信するための回路である。また、車内通信部15は、プロセッサ11が車内ネットワークを介しての他の車載装置と通信するための回路を含んでいて良い。車内通信部15は、車内ネットワークの通信規格に準拠したPHYチップ等を含んでいてよい。
【0023】
位置判定装置1は、携帯機9と通信接続したことを受けて各アンカー2に携帯機9との測距通信を実施させる。位置判定装置1は、複数のアンカー2のそれぞれから測距通信の結果を示すデータ(以降、測距結果データ)を取得する。測距結果データは、測距を行った携帯機9のID、及び、アンカー2から携帯機9までの距離を示すデータを含む。測距通信によって定まる、アンカー2から携帯機9までの距離を示す値を、本開示では測距値と記載することがある。
【0024】
位置判定装置1は、各アンカー2から提供される測距結果データに基づいて、車両Hvから携帯機9までの距離(以降、デバイス距離とも記載)を特定する。位置判定装置1は、複数のアンカー2で観測された測距値を組み合わせる/統合することにより、デバイス距離を決定してよい。デバイス距離は、複数のアンカー2で観測される測距値のうちの最小値であってよい。また、位置判定装置1は、各アンカー2から提供される測距結果データに基づいて、近距離通信で接続している携帯機9が、車内、近傍エリア、及びその他エリアの何れに存在するかを判定して良い。近傍エリアは、車外において車両Hvから所定の作動距離以内となる領域である。作動距離は1.0m、1.5m、2.0m等に設定されていてよい。近傍エリアは、パッシブエントリ機能が有効なエリアと解することができる。
【0025】
位置判定装置1は、デバイス距離と作動距離とを比較することにより、携帯機9が近傍エリアに存在するのかを判定してよい。また、位置判定装置1は、各アンカー2で観測されたデバイス距離をもとに、三辺測量又は三点測量の原理を用いてデバイス位置を判定しても良い。位置判定装置1は、近距離通信で接続していない携帯機9は、その他エリアに存在すると見なして良い。位置判定装置1は、特定した携帯機9の位置情報をボディECU3に提供する。
【0026】
アンカー2は、前述の通り、携帯機9と測距通信を実施するための装置である。アンカー2は、UWB通信を実施可能に構成されている。本実施形態の車載システム10は、アンカー2として図3に示すように、アンカー2A、2B、2C、2D、2P、2Q、2Rを備える。アンカー2Aは、車両Hvの右前コーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Aは、フロントバンパの右端、又は右サイドミラー等に配置されていて良い。なお、アンカー2の搭載位置の説明における或る部材の付近とは、当該部材から0.3m以内となる範囲と解されて良い。アンカー2Aは右前方アンカー又は第1アンカー等と言い換えられてよい。
【0027】
アンカー2Bは、車両Hvの左前コーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Bは、フロントバンパの左端、又は左サイドミラー等に配置されていて良い。アンカー2Bは左前方アンカー又は第2アンカーと言い換えられてよい。アンカー2Cは、車両Hvの右後ろコーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Cは、リアバンパの右端等に配置されていて良い。アンカー2Cは右後方アンカー又は第3アンカーと言い換えられてよい。アンカー2Dは、車両Hvの左後ろコーナー部に配置されたアンカー2である。アンカー2Dは、リアバンパの左端等に配置されていて良い。アンカー2Dは左後方アンカー又は第4アンカーと言い換えられてよい。
【0028】
アンカー2P、2Q、2Rは車内に配置されているアンカー2である。アンカー2Pは、右側Bピラーの室内に向いた面部、ハンドル付近、又は運転席の足元などといった、右前座席(つまり運転席)周りに配置されていてよい。アンカー2Pは、第5アンカーと言い換えられてよい。アンカー2Qは、左側Bピラーの室内に向いた面部、助手席の足元、ダッシュボード付近などといった、左前座席(つまり運転席)周りに配置されていてよい。アンカー2Pは、第6アンカーと言い換えられてよい。アンカー2Rは、後部座席の中央部、後部座席の上方に位置する天井部、又はトランク等といった、後方寄りの位置に配置されていてよい。アンカー2Rは、室内後方アンカー又は第7アンカーと言い換えられてよい。
【0029】
各アンカー2の構成及び性能は実質的に同一であってよい。各アンカー2は、図4に示すように車内通信部21、UWBモジュール22と、とを含む。車内通信部21は、位置判定装置1と通信するための回路である。車内通信部21は、位置判定装置1との通信方式に応じたPHYチップ等を含む。
【0030】
UWBモジュール22は、UWB通信を実施するためのモジュールである。UWBモジュール22は、UWB通信用のアンテナ、送受信回路、及びUWBコントローラを含む。送受信回路は、変調及び復調にかかる信号処理を行う回路である。UWBコントローラは、マイクロコンピュータである。UWBコントローラは、測距通信のための処理を実行する。測距通信のための処理には、位置判定装置1から提供される測距設定データに従って時刻ごとの通信相手及び通信フォーマットを選択することが含まれる。また、測距通信のための処理には、受信データの解析、送信データの出力、及び、測距結果データの生成が含まれる。UWBコントローラは、携帯機9と測距通信を実施することによって測距結果データを生成すると、車内通信部21を通じて当該測距結果データを位置判定装置1に送信(報告)する。
【0031】
ボディECU3は、ヘッドライトや、ドアロックモータ、パワーウィンドウモータ、サイドミラーモータといった、ボディ系設備を制御するECU(Electronic Control Unit)である。ボディECU3は、位置判定装置1が判定しているデバイス位置情報をもとに、ドアのアンロック/ロックを制御する。ドアのアンロック/ロックを制御することは、車両Hvの施錠状態を制御することに対応する。ボディECU3は、位置判定装置1との協働により、パッシブエントリ(Passive Entry)機能を提供するECUと解されて良い。パッシブエントリ機能は、ドアハンドルのタッチといった車両Hvへの所定のユーザアクションに反応して車両Hvをアンロックする機能である。なお、ボディECU3は、統合ECU、ゾーンECU、又はドメインECUに置き換えられても良い。また、ボディECU3と位置判定装置1は統合されていても良い。車載システム10内の機能配置は適宜変更されて良い。
【0032】
位置判定装置1には、上記以外にも多様な車載デバイスが直接的に又は間接的に接続されうる。位置判定装置1は、電源ECU、セルラーモジュール、NFCモジュール等と、車内ネットワークを介して/専用ケーブルを用いて相互通信可能に接続されていてよい。電源ECUは、車両電源のオン/オフを制御するECUである。車両電源は、車両Hvが走行する際にオンとなる電源である。セルラーモジュールは、4Gや5Gといったセルラー通信を実施する通信モジュールである。NFCモジュールは、近接場通信(NFC:Near Field Communication)を実施するための通信モジュールである。NFCは、通信可能距離が数cmから10cm程度となる通信である。通信可能な距離の観点においてNFCと本開示の近距離通信は異なる(異質な)通信方式と解されて良い。
【0033】
<携帯機9>
携帯機9は、近距離通信機能を備えた、携帯可能な情報処理端末であってよい。携帯機9としては、スマートフォンやウェアラブルデバイスといった、多様な通信端末であってよい。携帯機9は、ユーザデバイス、携帯デバイス、キーデバイス等と言い換えられて良い。
【0034】
携帯機9は、車両Hvの電子キーとしての専用デバイスであるスマートキーであってもよい。スマートキーは、車両Hvの購入時に、車両Hvとともにオーナーに譲渡されるデバイスである。スマートキーは車両Hvの付属物の1つと解することができる。スマートキーは、扁平な直方体型や、扁平な楕円体型(いわゆるフォブタイプ)、カード型等、多様な形状を採用可能である。スマートキーは、キーフォブ、キーカード、アクセスキー等と呼ばれうる。携帯機9は、位置判定装置1と近距離通信を用いた無線認証を実施することによって、車両Hvの鍵として機能するデバイスであってよい。
【0035】
携帯機9は、図5に示すように、デバイスプロセッサ91、メモリ92、ストレージ93、第1無線モジュール94、及び第2無線モジュール95を備える。デバイスプロセッサ91は、種々の演算処理を行う構成である。デバイスプロセッサ91は、例えばCPUであってよい。メモリ92は、RAM等の揮発性の記憶媒体である。ストレージ93は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む記録装置である。ストレージ93は、ROM(Read Only Memory)とフラッシュメモリ等、複数種類の記憶媒体を含んでいてよい。デバイスプロセッサ91、メモリ92、及びストレージ93を備えることにより、携帯機9は、コンピュータとして作動しうる。
【0036】
ストレージ93には、位置判定装置1と無線通信を実施するための種々のデータが保存されている。位置判定装置1と無線通信を実施するためのデータは、位置判定装置1のデバイスIDといった、ペアリングによって位置判定装置1から受信したパラメータを含む。また、位置判定装置1と無線通信を実施するためのデータは、車両Hvの識別番号(以降、車両ID)を含んでいて良い。車両IDは、通信対象とする車両/車載システムの識別情報に相当する。車両IDはシステムIDと言い換えられて良い。車両IDは、VIN(Vehicle Identification Number)であってもよいし、VINとは異なる種類の番号であって良い。車両IDは、所定の規則で割り当てられた、グローバル識別番号であって良い。
【0037】
ストレージ93には、デバイス制御プログラムが保存されている。デバイス制御プログラムは、コンピュータを携帯機9として機能させるためのインストラクションを含むプログラムである。デバイス制御プログラムは、デバイス制御方法に対応するプログラムと解されて良い。ストレージ93には位置判定装置1との無線認証に使用される鍵コードが保存されていてよい。
【0038】
第1無線モジュール94は、携帯機9が備える近距離通信モジュールである。第1無線モジュール94の構成及び機能は、後述する位置判定装置1が備える無線通信部14と同様であってよい。
【0039】
第2無線モジュール95は、UWB通信を実施するための通信モジュールである。第2無線モジュール95は、受信データをデバイスプロセッサ91に出力する。また、第2無線モジュール95は、デバイスプロセッサ91から入力された送信データに対応するUWB信号を送信する。第2無線モジュール95の動作はデバイスプロセッサ91によって制御される。以下、携帯機9が備える第2無線モジュール95と、位置判定装置1が備えるUWBモジュール22とを区別しない場合には単にUWBモジュールとも記載する。
【0040】
デバイスプロセッサ91は、第1無線モジュール94を用いて定期的にスキャンを行い、位置判定装置1との接続を試行する。デバイスプロセッサ91は、第1無線モジュール94が位置判定装置1からのアドバタイズ信号を受信したことを受けて、位置判定装置1に接続要求信号を送信し、位置判定装置1と通信接続する。
【0041】
デバイスプロセッサ91は、位置判定装置1と通信接続が完了すると、測距通信の準備処理として、近距離通信にて測距通信のためのパラメータ(以降、測距設定)を位置判定装置1と交換する。そして、デバイスプロセッサ91は、測距設定に従った態様にて第2無線モジュール95に各アンカー2と測距通信を実施させる。測距通信の具体的な手順については別途後述する。
【0042】
なお、デバイスプロセッサ91は、位置判定装置1と近距離通信で接続していない場合には、第2無線モジュール95をスリープさせてよい。第2無線モジュール95のスリープ状態とは、消費電力削減のために、一部又は全ての機能を停止した状態であってよい。デバイスプロセッサ91は、位置判定装置1と近距離通信で接続したことに基づいて、第2無線モジュール95を、UWB信号を送受信可能な状態(換言すればアクティブ状態)に移行させてよい。当該制御により、待機中の消費電力が低減されうる。その他、デバイスプロセッサ91は、位置判定装置1との通信接続が確立したことに基づいて、近距離通信による認証処理(つまり無線認証)を実施してもよい。無線認証はチャレンジ-レスポンス方式によって実施されてよい。
【0043】
<測距通信>
ここでは携帯機9と車両Hvとの間で実施される測距通信について説明する。測距通信は、アンカー2から携帯機9までの電波の伝搬時間(換言すれば飛行時間)に基づいてデバイス距離を計測するための通信である。携帯機9と車両Hvとの測距通信は、携帯機9と複数のアンカー2との測距通信と解されて良い。測距通信は、図6に示すように、概略的にはステップS11~S15の5つの工程を含む。測距通信では、携帯機9がイニシエータとして作動し、かつ、各アンカー2はレスポンダとして作動する。なお、図中の「Ank」はアンカーを表している。図6ではアンカー2A~2Cしか示していないが、アンカー2D、2P、2Q、2Rもアンカー2A~2Cと同様に作動する。
【0044】
ステップS11(第1の工程)は、携帯機9が全てのアンカー2に向けてプレポール信号(Pre-Poll)を送信するステップである。プレポール信号は、これから測距を開始することを通信相手に予告(通知)するUWB信号である。なお、プレポール信号は、スリープ状態のアンカー2をアクティブ状態に切り替えるための信号であってもよい。
【0045】
プレポール信号はブロードキャストされてよい。ただし、プレポール信号には、車両IDといった、応答すべき装置を指定する情報が含まれていて良い。これにより、車両Hvとは異なる車両(つまり他車両)に搭載されたアンカー2が、プレポール信号等に反応することを抑制できる。プレポール信号に限らず、送受信するUWB信号は何れも、通信相手を指定する情報を含んでいてよい。通信相手を指定する情報は、測距通信に先立って、位置判定装置1と携帯機9との間で近距離通信により交換されていて良い。車両Hvを通信相手に設定したUWB信号は、車両Hvに搭載された複数のアンカー2のそれぞれによって受信される。
【0046】
ステップS12は、携帯機9がアンカー2に向けてポール信号を送信するステップである。ポール信号は、アンカー2に応答の返送を要求する信号である。ポール信号の送信は、プレポール信号の送信から所定時間後に実行されて良い。プレポール信号の送信からポール信号の送信までの時間差は、事前に決定されていてよい。
【0047】
ステップS13は、アンカー2が、ポール信号を受信したことを受けて、レスポンス信号を送信するステップである。複数のアンカー2のそれぞれは、ポール信号を受信次第、レスポンス信号を返送する。レスポンス信号はアンサー信号と言い換えられて良い。
【0048】
ステップS14は、携帯機9がファイナル信号(Final)をブロードキャストするステップである。ファイナル信号は、レスポンス信号に対する応答信号であってよい。ファイナル信号は、全てのアンカー2(換言すれば車両Hv)を宛先として送信されて良い。
【0049】
ステップS15は、携帯機9がファイナルデータ信号をブロードキャストするステップである。ファイナルデータ信号は、今回の測距通信を終了することを通知する信号であってよい。ファイナルデータ信号は、携帯機9が生成した測距結果距離データであるデバイス計測結果を含んでいてもよい。デバイス計測結果は、携帯機9から各アンカー2までの距離を示すデータであって良い。
【0050】
また、ファイナルデータ信号は、レスポンス信号を受信してからファイナル信号を送信するまでの時間である遅延時間を示す情報を含んでいてよい。各アンカー2からのレスポンス信号の受信時刻はそれぞれ異なる。そのため、ファイナルデータ信号は、アンカー2ごとの遅延時間情報を含んでいて良い。
【0051】
上記の測距通信シーケンスを行うことにより、携帯機9は、ポール信号を送信してからレスポンス信号を受信するまでの経過時間である第1ラウンドトリップ時間(以降、第1RTT)を取得できる。RTTはRound Trip Timeの略である。第1RTTは、携帯機9からアンカー2までの距離に応じた電波の飛行時間(ToF:Time of Flight)と、アンカー反応時間の組み合わせた値である。アンカー反応時間は、アンカー2がポール信号を受信してからレスポンス信号を送信するまでの遅延時間である。アンカー反応時間は、アンカー2を構成するハードウェアに由来するパラメータである。アンカー反応時間は固定値として取り扱う事ができる。よってアンカー反応時間の設定値と、第1RTTの観測値とから、携帯機9は、片道分の飛行時間を算出できる。携帯機9からアンカー2までの距離は、電波の伝搬速度を用いて飛行時間から算出可能である。このように携帯機9は、測距通信の結果に基づいて携帯機9から各アンカー2までの距離を示すデバイス計測結果を生成可能である。
【0052】
また、上記測距シーケンスによれば、アンカー2は、レスポンス信号を送信してからファイナル信号を受信するまでの経過時間である第2ラウンドトリップ時間を取得可能である。第2RTTは、ToFに加えてデバイス反応時間を含む。デバイス反応時間は、携帯機9における前述の遅延時間に相当する。ファイナルデータ信号がアンカー2ごとの遅延時間情報を含んでいる場合、アンカー2は、ファイナルデータ信号を参照することにより、デバイス反応時間を特定可能である。よって、アンカー2自身もまた、上記測距通信によってアンカー2から携帯機9までの距離を示すデータ(以降、アンカー計測結果)を生成可能である。アンカー計測結果は、前述の測距結果に相当する。アンカー計測結果は、測距値、及び、計測を行った携帯機9を示す情報を含む。アンカー計測結果は、アンカー2ごとに生成されてよい。
【0053】
なお、ファイナルデータ信号がデバイス計測結果を含む場合、アンカー2自身が測距値を生成しなくともよい。ファイナルデータ信号がデバイス計測結果を含む場合、アンカー2は、ファイナルデータ信号に示される距離値を位置判定装置1に報告してよい。
【0054】
また、他の態様として、ステップS14は携帯機9が、アンカー2ごとに個別にファイナル信号を送信するステップであってもよい。携帯機9は、ステップS14において、或るアンカー2からのレスポンス信号を受信したことを受けて当該レスポンス信号の送信元に向けてファイナル信号をユニキャストしてよい。その場合、デバイス反応時間(Td2)は、設計値としてみなされてよい。よって、携帯機9がアンカー2ごとにファイナル信号を送信する構成においては、ファイナルデータ信号がアンカー2ごとの遅延時間情報又はデバイス計測結果を含んでいなくとも、アンカー2は、上記測距通信によって測距値を取得可能である。
【0055】
<測距通信の準備>
携帯機9と位置判定装置1は、近距離通信で通信接続したことを受けて、測距設定データを交換する。測距設定データは、測距通信のためのパラメータ(以降、測距パラメータとも記載)を含むデータセットである。測距設定データは、反復的な測距通信の実行規則を定義するパラメータセットと解されて良い。位置判定装置1が、望ましい測距設定を近距離通信にて携帯機9に送信し、携帯機9が位置判定装置1の提案を承諾/修正を実施するように構成されていてよい。測距設定データは、インターバル、ラウンド数、ホッピングキー、アンカー数、及び通信フォーマット情報を含んでいてよい。
【0056】
インターバルは、ブロックの長さを規定するパラメータである。1つの携帯機9と車両Hvとの測距通信は、時間を所定の長さを有するブロックに分割して行われる。1つの携帯機9と車両Hvは、1つのブロックにつき、1回だけ、測距通信を実施する。ブロックは、複数のラウンドを含む。ラウンドは、ブロックを所定数で分割したものである。1つのブロックが備えるラウンドの数は可変であってよい。携帯機9と車両Hvとの測距通信は、1つのラウンド内で実施される。
【0057】
携帯機9が測距通信を行うラウンドの番号は、ブロックごとに異なりうる。例えば、第1ブロックでは第5ラウンドで測距通信が実施される一方、第2ブロックでは第11ラウンドで測距通信が実施されることがある。携帯機9が測距通信を行うラウンドの番号は、測距設定として携帯機9と位置判定装置1との間で事前に合意されているホッピングキーとインターバルに基づいて決定される。
【0058】
測距設定に含まれるインターバル(換言すればブロック長)の値は、100ミリ秒等時間の次元で表現されて良い。また、インターバルは、ラウンドの数で表現されて良い。携帯機9と車両Hvは1ブロックに1回、測距通信を実施するように構成されている。そのため、長期的に見れば測距通信の平均的な実施間隔は、インターバルの設定値と略一致しうる。インターバルは、測距通信の実行間隔の平均値(換言すれば期待値)を定義するパラメータと解されて良い。測距設定データに含まれるラウンド数の値は、1つのブロックが有するラウンドの数を表す。測距設定データは、インターバルの設定値とラウンド数のどちらか一方を含んでいれば良い。
【0059】
ホッピングキーは、ブロック内において測距通信を行うラウンド番号(以降、使用ラウンド番号)を決定するためのパラメータである。ホッピングキーは、使用ラウンド番号をブロックごとに変更するためのパラメータと解されてよい。アンカー2及び携帯機9は、ホッピングキー及びラウンド数が定まれば、ブロック毎の使用ラウンド番号を特定可能に構成されている。使用ラウンド番号は、ホッピングキー及びラウンド数を所定の関数/プログラムに入力することにより決定されて良い。
【0060】
アンカー数は、車両Hvが備えるアンカー2の数を示すパラメータである。測距設定データにアンカー数が含まれることにより、携帯機9は、通信すべきアンカー2の数を認識可能となる。なお、当技術分野においてアンカー2は、単にアンテナと呼ばれることもある。アンカー数はアンテナ数と言い換えられても良い。
【0061】
通信フォーマット情報は、UWBの規格で定められている複数の通信フォーマットのうち、何れの通信フォーマットを使用するかを示すコードである。通信フォーマット情報は、データの並び順又はプリアンブルの長さ等を指定するコードであって良い。また通信フォーマット情報は、使用チャネル(帯域)、変調方式、又はパルス幅等を指定する情報であってもよい。通信フォーマットは、通信方式、通信プロトコル、又はモード等と言い換えられて良い。
【0062】
その他、測距設定データは、1ラウンドの長さ(以降、ラウンド長)の設定値を含んでいて良い。ラウンド長は、標準、短め、長めの3段階で変更可能に構成されていても良い。また、ラウンド長は、アンカー数が多いほど長くなるように調整されても良い。
【0063】
<通信接続~測距通信>
図7は、通信接続から測距通信を開始するまでのシステム全体の作動を表すシーケンス図である。図7に示す携帯機9は、図7に示すシーケンスを開始する時点においては車両Hvから十分に離れており、位置判定装置1は通信接続していないものとする。
【0064】
図7に示すステップS21は、位置判定装置1がアドバタイズ信号を定期送信するステップである。位置判定装置1は、或る携帯機9と通信接続済みであっても、他の携帯機9の接近を検知するためにアドバタイズ信号を定期送信するように構成されていて良い。
【0065】
携帯機9は、ユーザの移動に伴って、位置判定装置1の近距離通信エリアに入ると、アドバタイズ信号を受信しうる。携帯機9は、位置判定装置1からのアドバタイズ信号を受信したことを受けて接続要求信号を送信し(S22)、位置判定装置1との接続を確立する。
【0066】
その後、携帯機9が位置判定装置1に向けて、近距離通信にて、測距設定要求信号を送信する(S23)。測距設定要求信号は、測距設定データの送信を要求する近距離通信信号である。位置判定装置1は、携帯機9から測距設定要求信号を受信したことを受けて、測距設定データを携帯機9に返送する(S24)。なおステップS23は任意の要素であって省略されても良い。位置判定装置1は携帯機9と通信接続したことを受けて測距設定データを送信するように構成されていても良い。
【0067】
携帯機9は、位置判定装置1から測距設定データを受信したことを受けて、肯定的な応答(いわゆるAck)を返送する(S25)。位置判定装置1は携帯機9からのAckを受信したことに基づいて、測距設定データ及び通信相手となる携帯機9の情報を全てのアンカー2に通知する(S26)。
【0068】
測距設定データの受信に対するAckの返送は任意の要素であって、省略されて良い。位置判定装置1は、携帯機9との通信接続後の任意のタイミングで、測距設定データを生成し、携帯機9の情報及び測距設定データを全てのアンカー2に送信してよい。ステップS26の前には、スリープ状態のアンカー2をアクティブ状態に復帰させるステップがあってもよい。
【0069】
本実施形態では位置判定装置1が種々の測距パラメータの値を決定するが、これに限らない。一部又は全部の測距パラメータは、携帯機9が決定してもよい。ステップS24は、携帯機9が位置判定装置1に測距設定データを送信するステップ、換言すれば、携帯機9が位置判定装置1に対して測距設定を提案するステップであってもよい。
【0070】
測距設定の交換、換言すれば、測距設定の合意が完了すると、反復的な測距通信が開始される。すなわち、携帯機9と各アンカー2が測距用のUWB信号を送受信する(S27)。測距用のUWB信号には、前述のプレポール信号、ポール信号、レスポンス信号、ファイナル信号、及びファイナルデータ信号等が含まれる。
【0071】
1回の測距通信が完了するたびに、各アンカー2は、測距通信の結果として定まるアンカー計測結果を位置判定装置1に送信する(S28)。なお、携帯機9も、近距離通信にて、各アンカー2までの距離(つまり測距結果)を示すデータを位置判定装置1に送信しても良い(S29)。ステップS29は任意の要素であって、省略されても良い。
【0072】
ステップS28又はS29以降においては、所定の終了条件が成立するまでは、ステップS27~S28(又はS27~S29)が繰り返される。終了条件が成立した場合、携帯機9と車両Hvが測距通信を繰り返し実行する状態は終了する。終了条件は、位置判定装置1と携帯機9との通信接続の切断であってよい。携帯機9は、位置判定装置1からの信号を受信しない状態が所定時間継続した場合に、位置判定装置1との接続を解除(つまり切断)しうる。また、携帯機9は、位置判定装置1から近距離通信にて終了要求信号を受信した場合に、終了条件が成立したと判定しても良い。
【0073】
<UWB通信可能な範囲と近距離通信可能な範囲の比較>
Bluetooth LEの通信距離は、市街地などにおいても30m~50m程度となりうる。一方、UWBによる測距通信が可能な距離は20mを下回る事が多い。すなわち、測距通信エリアは、近距離通信エリアに比べて小さく、その差は10m以上となりうる。測距通信エリアは、車両Hvと携帯機9とがUWBにて測距通信可能な範囲を意味する。測距通信エリアは測距可能エリア又は測距成功エリアと言い換えられて良い。近距離通信エリアは、近距離通信可能な範囲を意味する。一般的なBluetooth LEシステムにおいて、近距離通信エリアは、ペアリング済みの装置同士が通信接続するエリアである接続エリアに対応する。
【0074】
上記事情から、車両Hvの周りには図8に示すように、第1~第3エリアといった、3種類のエリアが形成されうる。第1エリアは、近距離通信の接続エリアの外側である。第1エリアに携帯機9が存在する場合には、UWBによる測距通信も実施されない。第1エリアに携帯機9がある状況は、位置判定装置1が携帯機9を探索している状況に対応する。
【0075】
第3エリアは、近距離通信の接続エリアの内側であって、且つ、測距通信エリアの内側となるエリアである。携帯機9が第3エリアにある場合、測距通信が成功するため、位置判定装置1は測距通信の結果から携帯機9の位置を推定可能となる。
【0076】
第2エリアは、近距離通信の接続エリア内であって、且つ、測距通信エリアの外側となる範囲である。第2エリアに携帯機9がある場合、携帯機9はUWBによる反復的な測距通信を試行し続ける。具体的には、プレポール信号及びポール信号を定期的に送信する。なお、携帯機9が送信したポール信号は車両Hvまでは届かないため、携帯機9はレスポンス信号を受信できず、測距通信は失敗となる。つまり、第2エリアは、携帯機9が無駄に測距通信を試行し続けるエリアと解することができる。ここで、第2エリアが大きいと、携帯機9が無駄に電力を消耗する機会が増大する。
【0077】
<携帯機の作動>
上記の課題に対する対策を取り入れた携帯機9の作動について図9及び図10を用いて説明する。図9に示すフローチャートは、測距通信可能な状況において観測されうる近距離通信信号の受信強度を携帯機9が学習する処理である受信強度学習処理に相当する。以降では、位置判定装置1から送信された近距離通信信号の受信強度を、RSSI(Received Signal Strength Indicator/Indication)又はSRC‐RSSIと簡略的に記載することがある。
【0078】
図9に示すフローチャートは、携帯機9が車内に存在すると判定している間、定期的に実行されて良い。携帯機9が車内に存在することは、車内アンカーとの測距値が所定値未満であること、あるいは、車内アンカーとの測距値が車外アンカーとの測距値よりも小さいことに基づいて判定されて良い。また、携帯機9は、位置判定装置1から車内判定信号を受信したことに基づいて、携帯機9は車内に存在すると判定しても良い。車内判定信号は、携帯機9が車内にあると位置判定装置1が判断していることを示す近距離通信信号である。位置判定装置1は、複数のアンカー2での測距結果に基づいて携帯機9が車内にあると判定した場合、車内判定信号を送信してよい。
【0079】
受信強度学習処理は、例えばステップS101~S105を含む。図9に示す各ステップは、携帯機9(デバイスプロセッサ91)によって実行される。本実施形態の受信強度学習処理は、1つの局面において、ユーザが車両Hvから離れる過程において、測距可能な状態から測距不可の状態になった時のRSSIを記録する処理と解されて良い。
【0080】
ステップS101は、携帯機9が車内から車外に出たかを判定するステップである。車内から車外への移動は、車内アンカーとの測距値が所定値以上となったこと、あるいは、車外アンカーとの測距値が車内アンカーとの測距値よりも小さくなったことに基づいて判定されて良い。また、携帯機9は、位置判定装置1から所定の車外判定信号を受信したことに基づいて、携帯機9が車外に出たことを検出してもよい。車外判定信号は、携帯機9が車外にあると位置判定装置1が判断していることを示す近距離通信信号である。位置判定装置1は、複数のアンカー2での測距結果に基づいて携帯機9が車外にあると判定した場合、車外判定信号を送信してよい。
【0081】
携帯機9は自分自身が車外に出たと判定した場合(S101 YES)、携帯機9はステップS102以降の処理を実行する。携帯機9は自分自身が車外に出たと判定しなかった場合(S101 NO)、本フローは終了される。ステップS101の判定処理は、携帯機9が車内にあると判定している間、一定時間ごとに実施されて良い。
【0082】
ステップS102は、測距設定に従ったスケジュールにて実行された車両Hvとの測距通信が成功したか否かを判定するステップである。前提として車両Hvと携帯機9とは、車両Hvが駐車された後も、終了条件が成立するまでは反復的な(略定期的な)測距通信を継続するように構成されている。
【0083】
測距通信が成功したことを受けて、携帯機9はステップS103を実行する。ステップS103は、測距通信が成功した時のRSSIを、測距通信の結果から定まるデバイス距離と対応付けてメモリ92に保存するステップである。なお、測距通信が成功した時のRSSIとは、測距通信が成功した時点から一定時間以内(直前/直後)に観測されたRSSIであってよい。携帯機9は、位置判定装置1と同様の方法により、複数のアンカー2との測距値に基づいてデバイス距離を算出してよい。
【0084】
ステップS104は、終了条件が充足したか否かを判定するステップである。終了条件が成立するまでは、ステップS102~S103が繰り返される。終了条件は、反復的な(略定期的な)測距通信の実行を停止する条件と解されて良い。終了条件が成立した場合、携帯機9と車両Hvとの反復的な測距通信は終了され、処理はステップS105に進む。
【0085】
終了条件は、携帯機9と位置判定装置1の間の接続断であってよい。携帯機9及び位置判定装置1は、車両Hvが施錠されてから一定時間(例えば5分)が経過した場合に、終了条件が成立したと判定しても良い。携帯機9は、車両Hvが施錠されたことを、位置判定装置1から近距離通信にて取得してよい。
【0086】
ステップS105は、車両Hvから携帯機9が離れる過程においてデバイス距離の最大値が観測された時のRSSIを、基準強度としてストレージ93に保存するステップである。基準強度として記録された値は、RSSIの観点において、測距通信が可能な範囲を示す。以上の処理によれば、携帯機9は、測距通信可能な範囲の最遠点を示すRSSIを学習する事ができる。本実施形態の基準強度は、限界強度、あるいは、最遠強度と呼ぶ事ができる。
【0087】
なお、携帯機9は、測距通信が成功した際に、その通信結果から定まるデバイス距離が、メモリ92に保存されているデバイス距離よりも大きい場合に、ステップS103を実行するように構成されていても良い。すなわち、携帯機9は、新たに算出されたデバイス距離が、車外に出てからそれまでに観測されているデバイス距離よりも大きい場合に、ステップS103を実行してよい。ステップS103は、観測可能なデバイス距離の最大値に対応するRSSIを仮登録(更新)するステップ、あるいは、基準強度の暫定値を保存するステップと解されて良い。
【0088】
次に図10について説明する。図10に示すフローチャートは、携帯機9が位置判定装置1と通信接続して測距通信を開始するまでの作動を示す。
【0089】
図10に示すステップS201は、位置判定装置1からのアドバタイズ信号を受信したか否かを判定するステップである。携帯機9が位置判定装置1と通信接続していない場合、携帯機9は定期的にステップS201を実行する。ステップS201はスキャンを実行するステップである。ステップS201において、位置判定装置1からの信号を受信しなかった場合には、フローを終了する。一方、ステップS201において、位置判定装置1からアドバタイズ信号を受信した場合には(S201 YES)、ステップS202においてストレージ93に記録されている基準強度に基づいて接続閾値を設定する。接続閾値は、位置判定装置1と通信接続するための閾値である。
【0090】
接続閾値は、基準強度に所定の補正係数αを乗じた値に設定される。補正係数αは、1.1や、1.2などであってよい。RSSIは基本的に、-70dBmや-80dBmなどの負値を取る。そのため基準強度もまた負値を取る。補正係数αを1以上の値とすることで、接続閾値は、基準強度よりも小さい値となる。その結果、RSSIが接続閾値以上となる範囲、つまり接続エリアは、RSSIが基準強度以上となる範囲よりも若干広くなる。
【0091】
なお、接続閾値は、基準強度から所定の補正値βを減算した値に設定されても良い。補正値βは、接続閾値を基準強度よりも小さくするための要素であって、0よりも大きい値に設定されていて良い。補正値βは、3dBmや、5dBm、8dBmなどに設定されて良い。接続閾値の設定が完了すると、処理はステップS203に進む。設定された接続閾値のデータはストレージ93に保存されて良い。
【0092】
ステップS203は、現在観測されているRSSIが接続閾値以上であるか否かを判定するステップである。図中の「ThP」は、接続閾値を表す。現在のRSSIの観測値が接続閾値以上である場合には(S203 YES)、携帯機9は、ステップS204において位置判定装置1に向けて接続要求信号を送信し、位置判定装置1と通信接続する。一方、現在のRSSIの観測値が接続閾値未満である場合(S203 YES)、本フローを終了し、所定時間後にステップS201を実行する。なお、前回の通信接続時に保存された基準強度を用いた接続閾値の設定がすでに行われている場合、換言すれば既にステップS202が実行済みである場合に、ステップS202は省略されて良い。
【0093】
携帯機9は位置判定装置1と通信接続すると、ステップS205として、近距離通信を用いて位置判定装置1と測距設定データを交換する。そして、ステップS206において測距通信を繰り返し実行する状態に遷移する。
【0094】
なお、本実施形態では一例として、アドバタイズ信号を受信したことを受けて接続閾値を決定するが、接続閾値の設定タイミングはこれに限定されない。携帯機9は、ステップS105の基準強度の学習が完了したことを受けて、次回以降の通信接続に使用する接続閾値を決定するように構成されていても良い。すなわち、ステップS202は、S201の後ではなく、ステップS105の後に実行されても良い。その場合、新たに算出された接続閾値がストレージ93に保存されればよく、基準強度をストレージ93に保存しておくことは任意の要素となる。事前に接続閾値を算出しておく構成においては、ステップS202は、ストレージ93に保存されている接続閾値を読み出すステップであってよい。
【0095】
<効果>
本実施形態の携帯機9は、位置判定装置1からのアドバタイズ信号を受信した際に、無条件に(すぐに)位置判定装置1と通信接続するのではない。携帯機9は、接続閾値以上の強度を有するアドバタイズ信号を受信した場合に、位置判定装置1と通信接続する。よって、実質的な接続エリアを近距離通信エリアよりも狭くする事ができる。それに伴い、第2エリアのサイズを実質的に小さくすることができる。よって携帯機9の消費電力を低減できる。例えば、ユーザがカフェにいる場合など、車両Hvからに近いところにユーザが滞在している状況にて測距通信が繰り返される恐れを低減できる。換言すれば、ユーザに乗車の意図がない状況において、不毛な測距通信が実行され続ける恐れを低減できる。
【0096】
また、上記構成によれば接続閾値を、実際に携帯機9が車両Hvと測距通信可能な範囲の限界地点にある時のRSSIに基づいて決定される。その結果、接続エリアのサイズが測距通信可能なエリアと略一致し、第2エリアのサイズをより一層縮小可能となる。すなわち、携帯機9が測距通信可能なほど車両Hvに接近していない状況において、携帯機9が車両Hvとの測距通信を定期的に試行することを抑制できる。
【0097】
さらに、上記構成では、接続閾値を基準強度よりもわずかに小さい値に設定する。当該構成によれば、携帯機9が接続エリアに入ってから測距通信可能な範囲に入るまでに数100ミリ秒~数秒程度の時間的猶予が生じうる。上記構成によれば、当該猶予期間内において測距設定データの交換が実施されるため、携帯機9が測距通信エリアに入ったらすぐに車両Hvと測距通信を開始できる。換言すれば、携帯機9が車両Hvと測距通信可能な状況にあるにも関わらず、測距設定データが未交換であることに起因して測距通信できない期間が発生する恐れを低減できる。
【0098】
なお、他の態様においては、接続閾値は基準強度と同じ値に設定されて良い。また、技術の進歩あるいは他の測距方法の採用により、測距通信可能な距離が十分に長くなった場合には、接続閾値は基準強度よりも大きい値に設定されても良い。
【0099】
<変形例(1)>
携帯機9は、基準強度に加えて、ユーザの歩行速度と、測距設定の交換に要する時間である準備所要時間と、を用いて接続閾値を決定するように構成されていて良い。例えば携帯機9は、ユーザの歩行速度と準備所要時間とを用いて決定した補正値βと、基準強度とから接続閾値を決定して良い。当該構成によれば、携帯機9が接続エリアに入ってから測距通信可能な範囲に入るまでの距離を、歩行速度に応じた長さに設定できる。すなわち携帯機9が車両Hvと測距通信可能な状況にあるにも関わらず、測距設定データが未交換であることに起因して測距通信できない期間が発生する恐れをより一層低減できる。
【0100】
接続閾値(補正値β)の決定に使用する歩行速度の値は、ストレージ93に登録されていてよい。ストレージ93に登録された歩行速度の値は、一般的な成人の歩行速度の平均値(想定値)であってよい。携帯機9が移動速度に関連するデータを検出するセンサを備える場合、実際の歩行速度の検出値を用いて接続閾値(補正値β)を決定して良い。携帯機9が加速度センサを備える場合、デバイスプロセッサ91は、加速度センサの出力値を積分することによりユーザの歩行速度を検出してもよい。携帯機9がGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を備える場合、デバイスプロセッサ91はGNSS受信機が生成する位置情報の時系列データ、又は、ドップラーシフト量から、歩行速度を検出してもよい。接続閾値/補正値βの決定に使用する準備所要時間の値は、ストレージ93に保存されていて良い。
【0101】
図11は上記技術的思想に対応する携帯機9の作動を示すフローチャートであって、ステップS211~S213を含む。ステップS211は、ストレージ93に保存されている基準強度から、接続閾値の仮値を算出するステップである。仮値は、基準強度と同じ値であってよい。また、仮値は、過去所定回数分の基準強度の平均値または中央値であってもよい。
【0102】
ステップS212は、ユーザの歩行速度と準備所要時間に基づいて補正値βを決定するステップである。携帯機9は、歩行速度が大きいほど、準備所要時間が短いほど補正値βを小さい値に設定してよい。歩行速度と準備所要時間に応じた補正値βを決めるためのデータは、マップやテーブル、関数等の形式で事前にストレージ93に登録されていて良い。ステップS213は、仮値と補正値とに基づいて接続閾値を決定するステップである。ステップS213において携帯機9は、仮値から補正値βを減算した値を接続閾値に設定して良い。
【0103】
その他、携帯機9は、基準強度などをいったん距離の次元に落とし込んだ上で、接続閾値を決定しても良い。例えば携帯機9は、基準強度に対応する車両Hvから携帯機9までの距離を第1距離として算出する。第1距離が基準距離に相当する。次に、携帯機9は、歩行速度と準備所要時間を乗算することにより、第2距離を算出する。第2距離は、測距設定データを交換している間にユーザが移動しうる距離(つまり移動距離)に相当する。なお、第2距離は設計値であってもよい。そして、携帯機9は、第1距離と第2距離を加算してなる第3距離に応じたRSSIを接続閾値に設定する。第3距離が合計距離に相当する。RSSIから距離への変換、及び、距離からRSSIへの変換は、距離とRSSIの対応関係を表すデータに基づいて実施されて良い。距離とRSSIの対応関係を表すデータは、マップやテーブル、関数など、任意の形式で保存されていてよい。
【0104】
<変形例(2)>
携帯機9は、位置判定装置1と通信接続後において、まだ1回も測距通信が成功していない状況において、乗車のためのユーザアクションが検出された場合には、接続閾値を現在値よりも所定量/所定割合だけ小さくしてよい。上記の状況が生じたということは、接続閾値が高すぎて、測距設定データの交換が間に合わなかったことを示唆するためである。乗車のためのユーザアクションとは、ドアハンドルへのタッチや、ドア下センサに足をかざすなどといった、ユーザが車両Hvをアンロックするための行為であってよい。携帯機9は、位置判定装置1から所定の乗車操作信号を受信したことに基づいて、乗車のためのユーザアクションが車両Hvに行われたことを検出してよい。位置判定装置1は、乗車のためのユーザアクションが車両Hvに行われた場合に、乗車操作信号を送信するように構成されていて良い。乗車操作信号は、上記ユーザアクションが行われたことを示す近距離通信信号である。
【0105】
図12は、上記技術的思想に対応する携帯機9の作動を示すフローチャートであってステップS221~S224を含む。図12に示すフローチャートは、携帯機9が位置判定装置1と通信接続したことを受けて開始されて良い。
【0106】
ステップS221は携帯機9が位置判定装置1からの乗車操作信号を受信したか否かを判定するステップである。携帯機9は乗車操作信号を受信したことを受けて、ステップS222を実行する。ステップS222は、今回の通信接続状態において、車両Hvとの測距通信を少なくとも1回実施済みか否かを判定するステップである。
【0107】
通信接続が完了してから乗車操作信号を受信するまでの間に測距通信を1回以上成功済みである場合(S222 YES)、本フローを終了する。一方、通信接続が完了してから乗車操作信号を受信するまでの間に測距通信がまだ1回も成功していない場合(S222 NO)には、ステップS223において接続閾値を現在の値から所定量下げる補正を行う。ステップS223における接続閾値の下げ量は一定値(例えば3dBm)であってよい。また、ステップS223における処理は、現在の接続閾値に、前述の補正係数αを乗じる処理であってもよい。
【0108】
なお、携帯機9は、通信接続してからまだ測距通信が1回も成功していない状況において乗車操作信号を受信したか否かに応じて、次回用の接続閾値の算出に使用する補正係数αの値を変更してもよい。次回用の接続閾値とは、位置判定装置1と次回通信接続する際に使用する接続閾値である。仮に通常時に使用する補正係数αが1.05である場合、測距通信が成功する前に乗車操作信号を受信した場合に使用する補正係数αは、1.1や1.2に設定されて良い。次回用の接続閾値の設定に使用する補正値βも、同様の技術的思想に基づき、通信接続して乗車操作信号を受信するまでの間に、測距通信が少なくとも1回は成功しているか否かに応じて変更されて良い。携帯機9は、通信接続後、測距通信が成功する前に乗車操作信号を受信する事象が発生した場合、携帯機9は、次回の通信接続に使用する接続閾値が、今回用いた接続閾値よりも小さくなるように構成されていてよい。
【0109】
<変形例(3)>
RSSIは、反射波の干渉による変動が大きい。また、RSSIは人体の影響を受けやすい。そのため、通信環境及びユーザによる携帯機9の所持態様によって、基準強度にはばらつきが生じうる。接続閾値は基準強度に応じて定まるため、仮に基準強度が過剰に大きいと、接続閾値もまた過剰に大きい値となる。その結果、ユーザ接近に対するシステムの応答が遅れうる。また、基準強度が過剰に小さいと、接続閾値もまた過剰に小さい値となり、節電効果が得られにくくなる。
【0110】
上記事情から、携帯機9は、新たに観測された基準強度が所定の許容範囲外である場合には、当該基準強度を用いた接続閾値の算出は中止するように構成されていて良い。その場合、次回の通信接続に使用する接続閾値は、過去に算出された値又は所定の設計値であってよい。
【0111】
また、接続閾値には、上限値と下限値が設定されていて良い。基準強度に基づいて算出された接続閾値が上限値を上回る場合には、上限値が次回の通信接続に使用される接続閾値に設定されて良い。同様に、基準強度に基づいて算出された接続閾値が下限値を下回る場合には、下限値が次回の通信接続に使用される接続閾値に設定されて良い。
【0112】
<変形例(4)>
携帯機9は、取得日時が異なる複数の基準強度をストレージ93に保存し、複数の基準強度の代表値を基準として接続閾値を決定しても良い。例えば携帯機9は、今回、前回、及び前々回のそれぞれにて取得した基準強度とをもとに、位置判定装置1と次回用の接続閾値を決定してよい。前回取得した基準強度とは、位置判定装置1と前回通信接続している間に取得した基準強度、具体的には、前回車両Hvから離脱する際に観測された基準強度であってよい。代表値は、平均値であってもよいし、中央値であってもよい。また、代表値は、母集団から外れ値を除外した集合の平均値であってもよい。
【0113】
携帯機9は、位置判定装置1と通信接続している間に新たに取得した基準強度を、ストレージ93に保存されている前回以前に取得した(つまり過去の)基準強度とは区別して保存する処理を繰り返すことにより、ストレージ93に複数の基準強度を蓄積してよい。例えば携帯機9は、ストレージ93に、直近5回分又は10回分までの車両利用時に観測された基準強度を保存するように構成されていて良い。複数の基準強度をもとに接続閾値を決定することにより、ばらつきを抑えることができる。また接続閾値が過剰に大きい/小さい値となることを抑制できる。
【0114】
<変形例(5)>
接続閾値は必ずしも、車両Hvから携帯機9が離れる過程においてデバイス距離の最大値が観測された時のRSSIを基準に設定されなくともよい。携帯機9は、車両Hvから携帯機9が離れる過程において、デバイス距離が所定の保存距離(例えば10m又は15m)以上となった時のRSSIを基準に設定されてもよい。つまり、基準強度は、車両Hvから携帯機9が離れる過程においてデバイス距離の保存距離以上となった時のRSSIであってもよい。上記保存距離は、ユーザの接近に対して、通信接続~測距開始が十分に間に合う値に設計されていればよい。保存距離は、システムの応答時間と、歩行速度の想定値とから決定されて良い。システムの応答時間には、通信接続にかかる時間の平均値と、準備所要時間と、1回分の測距通信の所要時間とが含まれてよい。上記構成によっても、接続閾値を安定させる効果が期待できる。
【0115】
<変形例(6)>
ストレージ93に保存されている接続閾値は、ユーザが携帯機9を用いて車両Hvを利用するたび(例えば車両Hvから離脱するたび)に更新されて良い。車両Hvの駐車場所ごとに電波環境は異なる。そのため車両Hvの駐車場所ごとに適切な接続閾値は異なりうる。ユーザが車両Hvから離脱する際に観測された基準強度をもとに、次回用の接続閾値を決定することにより、電波環境に応じた接続閾値が適用されることとなる。その結果、ユーザの接近に対してシステム応答が遅れる恐れを低減できる。
【0116】
他の態様においては、ストレージ93に保存されている接続閾値の更新は、ユーザが車両Hvを所定回数(例えば4回)使用する毎に実施されても良い。携帯機9は、携帯機9が車内に入ったことを受けて、ユーザが車両Hvを利用したと判定して良い。その他、いったん設定された接続閾値は、一定期間保持されても良い。接続閾値の有効期間は1日や1週間、1ヶ月などであってよい。一度算出された接続閾値を一定期間保持する構成によれば、デバイスプロセッサ91の処理負荷を低減できる。
【0117】
<付言>
デバイスプロセッサ91が制御部に相当する。第1無線モジュール94が第1通信部に相当する。第2無線モジュール95が第2通信部に相当する。位置判定装置1と携帯機9との通信に使用されるプロトコルが第1の無線プロトコルに相当する。近距離通信信号が第1プロトコル信号に相当する。アドバタイズ信号が通信接続のための第1プロトコル信号に相当する。
【0118】
第1の無線プロトコルは、Bluetooth LEに限定されず、Bluetooth Classicや、Wi-Fi、EnOcean(登録商標)、Zigbee(登録商標)などであってもよい。UWB通信が第2の無線プロトコルに相当する、第2の無線プロトコルもまた、UWB-IRに限定されず、その他のプロトコルであってよい。
【0119】
本開示に示す種々のフローチャートは何れも一例であって、フローチャートを構成するステップの数や、処理の実行順は適宜変更可能である。各フローチャートに示す制御は矛盾のない範囲で組み合わせて/並列的に実行されてよい。取得、判定、検出、生成、及び算出といった表現は相互に言い換えられて良い。或る装置が或るデータを取得することには、当該装置が他の装置/センサから入力された信号を元に当該データを生成することも含まれる。
【0120】
本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。デバイスプロセッサは、CPUや、MPU、GPU、DFP(Data Flow Processor)など、任意の演算コアであってよい。デバイスプロセッサが備える機能の一部又は全部は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)、IC(Integrated Circuit)、及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)の何れかを用いて実現されていてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に記憶されていてよい。
【符号の説明】
【0121】
Hv 車両、10 車載システム、1 位置判定装置、2 アンカー、9 携帯機(ユーザデバイス)、91 デバイスプロセッサ(制御部)、92 メモリ、93 ストレージ(記憶媒体)、94 第1無線モジュール(第1通信部)、95 第2無線モジュール(第2通信部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12