(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152464
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ポリ乳酸改質剤、ポリ乳酸樹脂組成物、成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/08 20060101AFI20241018BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20241018BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
C08G63/08
C08L67/04
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066678
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】賀 旭東
(72)【発明者】
【氏名】川畑 佑太
(72)【発明者】
【氏名】渡部 淳
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J002CF182
4J002CF191
4J002CF192
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4J200BA17
4J200BA18
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4J200EA10
4J200EA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】柔軟性及び結晶性を単独の添加剤で改善可能であり、生産効率に優れたポリ乳酸樹脂組成物を作製することができるポリ乳酸改質剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示のポリ乳酸改質剤はL型又はD型のいずれか一方の型のポリ乳酸に由来する構成単位とポリオールに由来する構成単位とを少なくとも含み、ポリ乳酸/ポリオール/ポリ乳酸のトリブロック共重合体であることを特徴とする。また、ポリ乳酸改質剤は平均粒径が0.5mmΦ以上であることが好ましく、前記ポリオールはポリカプロラクトンであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L型又はD型のいずれか一方の型のポリ乳酸に由来する構成単位とポリオールに由来する構成単位とを少なくとも含み、
ポリ乳酸/ポリオール/ポリ乳酸の構造を有するブロック共重合体であるポリ乳酸改質剤。
【請求項2】
平均粒径が0.5mmΦ以上である請求項1に記載のポリ乳酸改質剤。
【請求項3】
室温で流動性を示さない請求項1又は2に記載のポリ乳酸改質剤。
【請求項4】
前記ポリオールがポリカプロラクトンである請求項1又は2に記載のポリ乳酸改質剤。
【請求項5】
L型又はD型ポリ乳酸と、前記ポリ乳酸とは異なる型のポリ乳酸とポリオールとを少なくとも含むポリ乳酸改質剤であるブロック共重合体との混合物であり、
前記ブロック共重合体は室温では流動性を示さず平均粒径が0.5mmΦ以上であり、
前記ポリ乳酸単体と比較して溶融状態から100~110℃に降温し、保温する際の結晶化に要する時間を30%以上短縮でき、
室温での柔軟性改善率が5%以上であるポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリ乳酸樹脂組成物全量中の前記ブロック共重合体の含有量が0.5~50質量%である請求項5に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリオールがポリカプロラクトンである請求項5又は6に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のポリ乳酸樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形、トランスファ成形、積層成形、注型成形、粉末成形、カレンダ成形、発泡成形、ブロー成形、真空圧空成形、及び溶融紡糸の群から選択されるいずれか一つの成形方法で成形した成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリ乳酸改質剤、ポリ乳酸樹脂組成物、及び成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は生分解性、バイオマス性を備える樹脂素材であり、環境問題に対応可能な材料として需要が伸びている一方、その性質として硬くて脆く耐衝撃性や柔軟性に劣り、また、結晶性が悪いため、固化あるいは結晶化に時間がかかり、耐熱性に劣るという問題点が知られていた。
【0003】
これらのポリ乳酸の物性を改善するために、種々の改質剤を使用することが知られており、例えば柔軟性や耐熱性を向上させるために、添加剤として可塑剤や結晶核剤を添加することが知られていた(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、その他の改質方法として光学異性体を含む化合物を添加剤として使用し、ステレオコンプレックス(sc結晶)を形成することで結晶性を向上させる方法も知られていた(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-118452号公報
【特許文献2】国際公開第2011/030766号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来使用されていた添加剤では柔軟性と結晶性を改善するために複数の添加剤を組み合わせて使用する必要があった。さらに、上記添加剤の一般的な剤型も液状や粉状であるため、ペレット状であることが一般的なポリ乳酸に対して使用する場合、別途混合のための設備が必要となる。このため、製造プロセスが煩雑になるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に開示される化合物ではポリ乳酸と添加剤を溶液中に溶解させる必要があるため、混合に時間がかかり、別途溶解のための特別な設備が必要となるため、製造プロセスが煩雑になり、さらに溶媒を除去する必要があるため生産効率が悪化するという問題もあった。
【0008】
したがって、本開示の目的は柔軟性及び結晶性を単独の添加剤で改善可能であり、生産効率に優れたポリ乳酸樹脂組成物を作製可能なポリ乳酸改質剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本開示はL型又はD型のいずれか一方の型のポリ乳酸に由来する構成単位とポリオールに由来する構成単位とを少なくとも含み、ポリ乳酸/ポリオール/ポリ乳酸の構造を有するブロック共重合体であるポリ乳酸改質剤を提供する。
【0010】
上記ポリ乳酸改質剤は平均粒径が0.5mmΦ以上であることが好ましい。
【0011】
上記ポリ乳酸改質剤は室温で流動性を示さないものであることが好ましい。
【0012】
上記ポリ乳酸改質剤は上記ポリオールとしてポリカプロラクトンであることが好ましい。
【0013】
また、本開示はL型又はD型ポリ乳酸と、上記ポリ乳酸とは異なる型のポリ乳酸とポリオールとを少なくとも含むポリ乳酸改質剤であるブロック共重合体との混合物であり、上記ブロック共重合体は室温では流動性を示さず平均粒径が0.5mmΦ以上であり、上記ポリ乳酸単体と比較して溶融状態から100~110℃に降温し、保温する際の結晶化に要する時間を30%以上短縮でき、室温での柔軟性改善率が5%以上であるポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【0014】
上記ポリ乳酸樹脂組成物は上記ポリ乳酸樹脂組成物全量中の上記ブロック共重合体の含有量が0.5~50質量%であることが好ましい。
【0015】
上記ポリ乳酸樹脂組成物は上記ポリオールがポリカプロラクトンであることが好ましい。
【0016】
また、本開示は上記ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形、トランスファ成形、積層成形、注型成形、粉末成形、カレンダ成形、発泡成形、ブロー成形、真空圧空成形、及び溶融紡糸の群から選択されるいずれか一つの成形方法で成形した成形物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本開示のポリ乳酸改質剤は柔軟性及び結晶性を単独の添加剤で改善可能であり、生産効率に優れたポリ乳酸樹脂組成物を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ポリ乳酸改質剤]
本開示の一実施形態に係るポリ乳酸改質剤は、L型又はD型のいずれか一方の型のポリ乳酸に由来する構成単位とポリオールに由来する構成単位とを少なくとも含み、ポリ乳酸/ポリオール/ポリ乳酸の構造を含むブロック共重合体である(以後、上記ブロック共重合体を「本開示のブロック共重合体」と称する場合がある)。本開示のブロック共重合体としては1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0019】
本開示のブロック共重合体はL型又はD型のいずれか一方の型のポリ乳酸に由来する構成単位とポリオールに由来する構成単位とを少なくとも含み、ポリ乳酸/ポリオール/ポリ乳酸の構造を含むブロック共重合体であることにより、ポリ乳酸とsc結晶を形成するためポリ乳酸の結晶性を改善することができ、ポリオールを含むため、柔軟性も改善することができる。
【0020】
なお、本開示において「結晶性」とはポリ乳酸樹脂組成物の結晶化のしやすさを表すものであり、「結晶性が良い」とは素早く結晶化することを意味するものである。
【0021】
また、本開示のブロック共重合体はさらに重合開始剤に由来する構造部を含むことが好ましい。上記重合開始剤としては公知乃至慣用の重合開始剤を使用することができ、例えば、低分子のジオール化合物や低分子のジアミン等を挙げることができる。また、上記重合開始剤の分子量は500以下であることが好ましい。
【0022】
上記低分子のジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2-メチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール等が挙げられる。中でも、ジエチレングリコールであることが特に好ましい。
【0023】
上記重合開始剤の含有量としては、本開示のブロック共重合体の全量に対して0.2~2.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0024】
本開示のブロック共重合体におけるポリオールとしては、ポリ乳酸ともに溶解させる観点から熱分解温度が200℃以上であるものが好ましく、具体的には、たとえば、ポリラクトンポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、及びポリ(メタ)アクリルポリオール類等を挙げることができる。なお、上記ポリオールとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0025】
上記ポリラクトンポリオール類としては、たとえば、ポリブチロラクトン、ポリバレロラクトン、及びポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0026】
上記ポリエステルポリオール類としては、たとえば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリオキシテトラメチレン)アジペートジオール、ポリ(3-メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、及びポリネオペンチルテレフタレートジオール等が挙げられる。
【0027】
上記ポリエーテルポリオール類としては、例えば、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ポリ-1,2-ブチレングリコ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル(ポリ1,4-ブタンジオ-ル)、ポリ-3-メチルテトラメチレングリコ-ル、及びポリネオペンチルグリコ-ル等のポリアルキレングリコ-ルが挙げられる。
【0028】
上記ポリカーボネートポリオール類としては、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、及びポリ(テトラメチレン/ヘキサメチレン)カーボネートジオール(例えば1,4-ブタンジオールと1,6-ヘキサンジオールをジアルキルカーボネートと脱アルコール反応させながら縮合させて得られるジオール)が挙げられる。
【0029】
上記ポリ(メタ)アクリルポリオール類としては例えば、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの単独重合物や共重合物が挙げられる。ポリ(メタ)アクリルポリオールは、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの他に、重合性不飽和結合を有する化合物を共重合させて得ることもできる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は「メタクリル及び/又はアクリル」を意味する。
【0030】
上記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリロイル基を1つ有するものが含まれ、例えば、炭素数2~20のヒドロキシアルキル基を有するもの{例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル}、及び3価のアルコールの(メタ)アクリル酸モノエステル化物{例えば、グリセリンの(メタ)アクリル酸モノエステル及びトリメチロールプロパンの(メタ)アクリル酸モノエステル}が挙げられる。
【0031】
中でも、上記ポリ乳酸樹脂組成物に柔軟性を付与できる観点から、上記ポリオールは上記ポリラクトンポリオール類であることが好ましく、中でも、人体に有害な成分を使用しないことからポリカプロラクトンであることが特に好ましい。
【0032】
本開示のブロック共重合体中のポリオールの数平均分子量(Mn)としては1800~22000であることが好ましく、より好ましくは1300~10000、さらに好ましくは3000~15000である。数平均分子量(Mn)が2000以上であることにより、上記ポリ乳酸樹脂組成物に柔軟性を付与することが容易となり、30000以下であることにより、ポリオールの連続的な結晶構造の形成を抑え、材料の柔軟性を維持しやすくすることができる。
【0033】
本開示のブロック共重合体中のポリオールの含有量としては、本開示のブロック共重合体の全量に対して15~90質量%であることが好ましく、より好ましくは20~85質量%であり、さらに好ましくは30~80質量%である。ポリオールの含有量が15質量%以上であることにより、ポリオールの量が十分となりポリ乳酸樹脂組成物に柔軟性を付与することが容易となる。90質量%以下であることにより、結晶性を向上することが容易となる。
【0034】
本開示のブロック共重合体中のポリ乳酸は改質されるポリ乳酸とは異なる型のポリ乳酸であることが好ましい。すなわち、上記改質されるポリ乳酸がL型のポリ乳酸である場合、本開示のブロック共重合体中のポリ乳酸はD型のポリ乳酸を主成分として含有し、上記改質されるポリ乳酸がD型のポリ乳酸である場合、本開示のブロック共重合体中のポリ乳酸はL型のポリ乳酸を主成分として含有するものであることが好ましい。
【0035】
本開示のブロック共重合体中のポリ乳酸がL型乳酸を主成分とするL型ポリ乳酸の場合、L型乳酸単位の含有量は90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99質量%以上のホモポリマーである。また、上記ポリ乳酸がD型乳酸を主成分とするD型ポリ乳酸である場合も同様に、D型乳酸単位の含有量は90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99質量%以上のホモポリマーである。
【0036】
また、本開示のブロック共重合体中のポリ乳酸の数平均分子量(Mn)としては4000~15000であることが好ましく、より好ましくは5000~12000、さらに好ましくは6000~10000である。数平均分子量(Mn)が4000以上であることにより、本開示のポリ乳酸とsc結晶を構成し、結晶性を向上することが容易となり、15000以下であることにより、sc結晶の急激な成長やsc結晶ドメインの過剰拡大によって不均一な結晶となり、物性が不安定化することを抑えることができる。
【0037】
本開示のブロック共重合体中のポリ乳酸の含有量としては、本開示のブロック共重合体の全量に対して10~85質量%であることが好ましく、より好ましくは15~80質量%であり、さらに好ましくは20~75質量%である。ポリ乳酸の含有量が10質量%以上であることにより、ポリ乳酸の量が十分となり結晶性を付与することが容易となる。85質量%以下であることにより、柔軟性を付与することが容易となる。なお、上記ポリ乳酸の含有量はポリオールの両端に付加したポリ乳酸の合計量を表すものである。
【0038】
本開示のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は10000~50000であることが好ましく、より好ましくは12000~45000であり、さらに好ましくは14000~40000である。ブロック共重合体の数平均分子量が10000以上であることにより、柔軟性と結晶性を付与することが容易となる。また、50000以下であることにより、粘度上昇による攪拌翼負荷や反応系中の熱伝導が不均一となり発生する製品品質バラツキを抑えることができる。
【0039】
本開示のブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は10000~100000であることが好ましく、より好ましくは15000~90000であり、さらに好ましくは20000~80000である。ブロック共重合体の重量平均分子量が10000以上であることにより、柔軟性と結晶性を付与することが容易となる。また、100000以下であることにより、粘度上昇による攪拌翼負荷や反応系中の熱伝導が不均一となり発生する製品品質バラツキを抑えることができる。
【0040】
本開示のブロック共重合体中の上記ポリオール、上記ポリ乳酸、上記重合開始剤の合計量は本開示のブロック共重合体全量に対して90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0041】
また、本開示のブロック共重合体は上記重合開始剤、上記ポリ乳酸、上記ポリオール以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、たとえば、酸化防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、帯電防止剤、加工助剤、粘度向上剤等を挙げることができる。上記その他の化合物は本開示のブロック共重合体の総量100質量部に対して5質量部以下の含有量であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下であり、特に好ましくは0質量部である。また、本開示のブロック共重合体は特に溶媒を含有していてもよいが、ペレット形状を維持するために溶媒を含有しないことが好ましい。
【0042】
本開示のブロック共重合体は室温(25℃)で流動性を示さないものであることが好ましい。本開示において「流動性がある」とは液状、又は室温で流動性を示すペースト状の性状であり、固体ではないものを意味するものである。本開示のブロック共重合体は室温で流動性を示さないことにより、本開示のポリ乳酸と容易に混合可能であり、取り扱い性に優れる。
【0043】
本開示のブロック共重合体は平均粒径が0.5mmΦ以上であることが好ましく、より好ましくは1mmΦ以上、さらに好ましくは1.5mmΦ以上である。本開示のブロック共重合体の平均粒径が0.5mm以上であることにより、他の樹脂コンパウンドの混錬することが容易となる。また、本開示のブロック共重合体のペレット形状としては特に限定されないが、円状、球状、又は輪切り状等が挙げられる。なお、本開示において、平均粒径は目開きが2.8mm、2.36mm、2.0mm、1.7mm、1.4mmの各大きさの篩、受け皿の順に重ねた状態で30秒間振とうし、最も残量が多くなった篩上からペレット10粒を選択し、その大きさをノギスで測定し平均値を算出したものである。
【0044】
本開示のブロック共重合体の合成は公知乃至慣用の方法により行うことができる。具体的には、例えば、得ようとするブロック共重合体に応じて、ポリオール及びポリ乳酸を予め定められた割合で、溶融混合又は溶液混合した後、固化させ、さらに固相重合することにより製造することができる。そのほかの方法として、好ましくは140~200℃に加熱することで、ポリオールをあらかじめ合成し、その分子末端にポリ乳酸を好ましくは150~250℃で加熱することにより、逐次的に重合成長させることにより製造することができる。逆に、ポリ乳酸をあらかじめ合成し、その分子末端にポリオールを逐次的に重合成長させ、さらにポリ乳酸を逐次的に重合成長させることにより製造することもできる。
【0045】
特に上記ポリオールがポリラクトンポリオール類である場合、重合開始剤の末端部にラクトンを開環重合させることにより上記のポリラクトンを得た後、さらにポリ乳酸をその分子末端に逐次的に重合成長させることにより製造するものであることが好ましい。
【0046】
[ポリ乳酸樹脂組成物]
本開示の一実施形態に係るポリ乳酸樹脂組成物は、L型又はD型ポリ乳酸と、上記ポリ乳酸とは異なる型のポリ乳酸とポリオールとを少なくとも含むポリ乳酸改質剤であるブロック共重合体との混合物であり、上記ブロック共重合体は室温では流動性を示さず、平均粒径が0.5mmφ以上であり、上記ポリ乳酸単体と比較して溶融状態から100~110℃に降温し、保温する際の結晶化に要する時間を30%以上短縮でき、室温での柔軟性改善率が5%以上である。
【0047】
上記ポリ乳酸樹脂組成物は上記L型又はD型ポリ乳酸と上記ポリ乳酸とは異なる型のポリ乳酸とポリオールを少なくとも含むブロック共重合体とを含むことにより、sc結晶を形成することができ、ポリ乳酸単体と比較して溶融状態から100~110℃に降温し、保温する際の結晶化に要する時間を30%以上短縮できるため、結晶性を改善することができる。また、上記ブロック共重合体は上記ポリオールを含み、ポリ乳酸単体と比較して柔軟性改善率が5%以上であることにより、柔軟性を改善することができる。さらに、上記ブロック共重合体は流動性がなく平均粒径が0.5mmΦ以上の形状であるため、上記ポリ乳酸と容易に混合することができ、生産効率に優れる。
【0048】
上記ポリ乳酸樹脂組成物の溶融状態から100~110℃に降温し、保温する際の結晶化に要する時間(以後、「半結晶時間」と称する場合がある)は100秒以内であることが好ましく、より好ましくは80秒以内であり、さらに好ましくは70秒以内である。また、ポリ乳酸単体の半結晶時間(145秒)と比較して、上記ポリ乳酸樹脂組成物の半結晶時間を30%以上短縮できるものであり、好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上短縮できるものである。上記ポリ乳酸樹脂組成物の半結晶時間がポリ乳酸単体の半結晶時間よりも30%以上短縮できることにより、早期に結晶化することができ、生産効率を向上することができる。なお、本開示において上記溶融状態から100~110℃に降温する際の温度としては比較する対象同士が同じ温度であれば上記範囲内のどの温度であってもよいことを意味する。
【0049】
なお、本開示において半結晶時間は上記ポリ乳酸樹脂組成物に対し、示差走査熱量測定(DSC)にて190℃まで昇温し、5分間保持して溶解させ、100~110℃まで急冷し、15分間保持した際に観察される上記ポリ乳酸樹脂組成物の発熱ピークのピーク面積が半分に到達する時間を算出したものである。
【0050】
上記ポリ乳酸樹脂組成物の後述の実施例に記載した方法で測定する曲げ弾性率は3700MPa以下であることが好ましく、より好ましくは3600MPa以下であり、さらに好ましくは3500MPa以下である。また、上記ポリ乳酸単体の曲げ弾性率に対する上記ポリ乳酸樹脂組成物の曲げ弾性率の減少率(柔軟性改善率)は5%以上であり、好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上である。上記ポリ乳酸樹脂組成物のポリ乳酸単体に対する柔軟性改善率が5%以上であることにより、ポリ乳酸樹脂組成物が柔軟性を発揮することが容易となる。
【0051】
また、後述の実施例の方法で測定した上記ポリ乳酸樹脂組成物中の上記ポリ乳酸と上記ブロック共重合体の質量割合と、設計上の質量割合との差が±20%以内であることが好ましく、より好ましくは±10%以内である。設計上の質量割合に対する実際の質量割合との差が±20%以内であることにより、容易に混合することができる。
【0052】
<ポリ乳酸>
上記ポリ乳酸樹脂組成物はL型又はD型のいずれか一方のポリ乳酸(以後「本開示のポリ乳酸」と称する場合がある)を含有する。また、本開示のブロック共重合体は本開示のポリ乳酸を併せて使用することが好ましい。本開示のポリ乳酸は、乳酸(CH3CH(OH)COOH)を構成単位とし、複数の乳酸がエステル結合により重合して得られた高分子化合物である。
【0053】
本開示のポリ乳酸の構成単位である乳酸には、L型とD型という2種類の光学異性体が知られている。本開示においては、L型とD型のいずれの乳酸も構成単位として用いることができる。また、後述のブロック共重合体とsc結晶を形成するため、本開示のポリ乳酸はL型又はD型のいずれか一方を主成分とするポリマーであることが好ましく、L型乳酸を主成分とするL型ポリ乳酸の場合、L型乳酸単位の含有量は90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99質量%以上のホモポリマーである。また、上記ポリ乳酸がD型乳酸を主成分とするD型ポリ乳酸である場合も同様に、D型乳酸単位の含有量は90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99質量%以上のホモポリマーである。
【0054】
また、本開示のポリ乳酸はその性質が損なわれない範囲でその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては例えば、触媒、末端封止剤、添加剤等が挙げられる。上記その他の成分の含有量としては上記ポリ乳酸の全量に対して、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5質量部以下であり、さらに好ましくは0質量部である。
【0055】
本開示のポリ乳酸は公知のポリ乳酸の重合方法により製造方法することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、あるいは、これらと固相重合とを組み合わせて行い、その後、溶融固化させる方法等を挙げることができる。
【0056】
本開示のポリ乳酸の数平均分子量(Mn)としては、2000~50000000であることが好ましく、より好ましくは3000~20000000である。また、本開示のポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)としては、2000~80000000であることが好ましく、より好ましくは3000~40000000である。
【0057】
上記ポリ乳酸樹脂組成物の全量に対する本開示のポリ乳酸の含有量は50~99.5質量%であることが好ましく、より好ましくは60~99質量%であり、さらに好ましくは70~98質量%である。本開示のポリ乳酸の含有量が50質量%以上であることにより、ポリ乳酸の物性を維持しつつ、結晶性、柔軟性を改善することができる。また、99.5質量%以下であることにより、上記ポリ乳酸樹脂組成物の柔軟性と結晶性を改善することが容易となる。
【0058】
本開示のポリ乳酸は平均粒径が0.5mmΦ以上であることが好ましく、より好ましくは1.0mmΦ以上、さらに好ましくは1.5Φmm以上である。本開示のポリ乳酸の平均粒径が0.5mmΦ以上であることにより、混錬することが容易となる。
【0059】
<ブロック共重合体>
上記ポリ乳酸樹脂組成物はポリ乳酸改質剤として本開示のポリ乳酸とは異なる型のポリ乳酸とポリオールとを少なくとも含むブロック共重合体を含有する。上記ブロック共重合体としては1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0060】
また、上記ブロック共重合体はさらに重合開始剤に由来する構造部を含むことが好ましく、上記重合開始剤の構造によってジブロック共重合体、トリブロック共重合体、星形ブロック共重合体、又はくし形ブロック共重合体等の構造を形成することができる。
【0061】
上記重合開始剤としては公知乃至慣用の重合開始剤を使用することができ、例えば低分子のヒドロキシ基含有化合物や低分子のアミン等を挙げることができる。また、上記重合開始剤の分子量は500以下であることが好ましい。
【0062】
上記低分子のヒドロキシ基含有化合物としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のモノオール化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2-メチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール等のジオール化合物;1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール等の炭素数2~8のアルカントリオール;1,2,3-シクロヘキサントリオール等の5~6員のシクロアルカントリオール等のトリオール化合物、また、ヒドロキシ基の数が4つ以上である低分子のヒドロキシ基含有化合物が挙げられる。中でも、トリブロック共重合体を作製可能であることからジオール化合物であることが好ましく、ジエチレングリコールであることが特に好ましい。
【0063】
上記重合開始剤として上記モノオール化合物を使用することで重合開始剤の片側に上記ポリオールと上記ポリ乳酸を含むジブロック共重合体を作製することができ、上記ジオール化合物を使用することで重合開始剤の両端に上記ポリオールと上記ポリ乳酸を含むトリブロック共重合体を作製することができ、トリオール化合物又はヒドロキシ基の数が4つ以上である低分子のヒドロキシ基含有化合物を含むことにより、星形型やくし形のブロック共重合体を作製することができる。中でも、上記ブロック共重合体は本開示のブロック共重合体であることが好ましい。
【0064】
上記ブロック共重合体は室温(25℃)で流動性を示さないものである。本開示において「流動性がある」とは液状、又は室温で流動性を示すペースト状の性状であり、固体ではないものを意味するものである。上記ブロック共重合体は室温で流動性を示さないことにより、本開示のポリ乳酸と容易に混合可能であり、取り扱い性に優れる。
【0065】
上記ブロック共重合体は平均粒径が0.5mmΦ以上であり、好ましくは1mmΦ以上、より好ましくは1.5mmΦ以上である。上記ブロック共重合体の平均粒径が0.5mm以上であることにより、他の樹脂コンパウンドの混錬することが容易となる。また、上記ブロック共重合体のペレット形状としては特に限定されないが、円状、球状、又は輪切り状等が挙げられる。
【0066】
また、上記ポリ乳酸樹脂組成物中の上記ブロック共重合体の含有量は0.5~50質量%であることが好ましく、より好ましくは1~40質量%であり、さらに好ましくは2~30質量%である。上記ブロック共重合体の含有量が0.5%以上であることにより上記ポリ乳酸樹脂組成物の柔軟性と結晶性を改善することが容易となる。50質量%以下であることにより、ポリ乳酸の物性を維持しつつ、結晶性、柔軟性を改善することができる。
【0067】
また、上記ブロック共重合体は上述の本開示のブロック共重合体と同様の方法で作製することができる。
【0068】
上記ポリ乳酸樹脂組成物は公知乃至慣用の方法で本開示のポリ乳酸と上記ブロック共重合体を混合することにより製造することができる。具体的には、二軸混錬押出機のメインフィーダーを介して本開示のポリ乳酸と上記ブロック共重合体を供給し、押出機内で混錬溶融して調製することができる。上記ポリ乳酸樹脂組成物は上記ブロック共重合体がそれぞれ、室温で流動性を示さず、平均粒径が0.5mm以上のペレット形状で供給することができるため、同様にペレット形状であるポリ乳酸と容易に混合することができる。
【0069】
また、上記ポリ乳酸樹脂組成物は製造する際に溶媒を使用しないことが好ましい。上記ポリ乳酸樹脂組成物は溶媒を使用しないことで溶解や脱溶媒のための工程を設ける必要がないため、生産効率に優れるものとすることができる。
【0070】
[成形物の製造方法]
また、上記の方法で作製したポリ乳酸樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形、トランスファ成形、積層成形、注型成形、粉末成形、カレンダ成形、発泡成形、ブロー成形、真空圧空成形、又は溶融紡糸等の方法で成形することにより成形物を作製することができる。
【0071】
ポリ乳酸を原料に使用した場合の成形工程ではポリ乳酸の結晶化が遅く、冷却工程に時間を要し、生産効率が悪くなることが知られているが、上記ポリ乳酸樹脂組成物ではブロック共重合体を含有するため、sc結晶を形成することができ、早期に結晶化が可能となるため、生産効率を向上することができる。また、ポリオールの構造部を含むため、柔軟性に優れる。
【0072】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。また、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0073】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0074】
製造例1
(ブロック共重合体の合成)
原料として、ε-カプロラクトン(ダイセル社製)246.77g及びジエチレングリコール(東京化成工業社製)2.19gをセパラブルフラスコに投入し、100℃に昇温した後、オクチル酸第一錫(商品名「スタノクト」、富士フィルム和光純薬工業社製)0.0314gを投入した。その後、150℃まで昇温し、ε-カプロラクトンの濃度が1質量%未満になるまで撹拌・加熱した。60℃まで冷却した後にD-ラクチド(D体純度:96.4%)60.60gを投入し、常圧で170℃まで昇温させ、D-ラクチドの濃度が4質量%未満になるまで撹拌・加熱した。上記工程によりD型ポリ乳酸(PDLA)/ポリカプロラクトン(PCL)/D型ポリ乳酸(PDLA)のトリブロック共重合体(重量平均分子量(Mw):31000、数平均分子量(Mn):15000、以後、「ブロック共重合体A」と称する場合がある)を306.1g得た。
【0075】
ブロック共重合体Aを簡易押出装置の溶融筒(500ml)に入れて、加熱ジャケットで170℃~190℃で10分間加熱して溶融させた。加圧シリンダーを作動させ、樹脂を孔径2.5mmΦの(円形)口金に通過させ、小型ペレタイザーでペレット化させ、平均粒径2.3mmΦの製造例1のブロック共重合体のペレットが得られた。
【0076】
製造例2
原料として、ε-カプロラクトン(ダイセル社製)108.56gとD-ラクチド(D体純度:96.4%)488.5gを使用した以外は製造例1と同様の条件で製造例2のブロック共重合体のペレットを531g得た。製造例2のブロック共重合体はPDLA/PCL/PDLAのトリブロック共重合体(重量平均分子量(Mw):34000、数平均分子量(Mn):20000、以後、「ブロック共重合体B」と称する場合がある)であった。
【0077】
製造例3
原料として、ε-カプロラクトン(ダイセル社製)238.91gとD-ラクチド(D体純度:96.4%)358.4gを使用した以外は製造例1と同様の条件で製造例3のブロック共重合体のペレットを583g得た。製造例3のブロック共重合体はPDLA/PCL/PDLAのトリブロック共重合体(重量平均分子量(Mw):44000、数平均分子量(Mn):30000、以後、「ブロック共重合体C」と称する場合がある)であった。
【0078】
製造例4
原料として、ε-カプロラクトン(ダイセル社製)413.68gとD-ラクチド(D体純度:96.4%)413.7gを使用した以外は製造例1と同様の条件で製造例4のブロック共重合体のペレットを814g得た。製造例4のブロック共重合体はPDLA/PCL/PDLAのトリブロック共重合体(重量平均分子量(Mw):73000、数平均分子量(Mn):39000、以後、「ブロック共重合体D」と称する場合がある)であった。
【0079】
実施例1
製造例1のブロック共重合体AのペレットとL型ポリ乳酸(PLLA)ペレット(L体純度99%以上、平均粒径2.5mmΦ)をそれぞれ定温乾燥機にて80℃で3時間以上乾燥した。乾燥後、デシケーターにて放冷し、ブロック共重合体A3質量%、PLLA97質量%の割合で測り採り、シェイカーに入れてブレンドした。小型樹脂混錬装置(商品名:ラボプラストミル(Labo Plastomill 4M150)、東洋精機製作所社製)のシリンダー温度を190℃に設定し、10rpmでシリンダーを回転させながら、測り採ったペレット30gを混錬チェンバーに入れた。その後、蓋を閉めてシリンダー回転数を50rpmまで上げて、5分間混錬した。シリンダーを止めて、均一に混錬した溶融樹脂を取り出し、金属バットに入れてデシケーターにて冷却し、実施例1のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0080】
実施例2
表1に記載の配合量とした以外は実施例1と同様の方法で実施例2のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0081】
実施例3,4
製造例2で作製したブロック共重合体Bを使用し、表1に記載の配合量とした以外は実施例1と同様の方法で実施例3,4のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0082】
実施例5,6
製造例3で作製したブロック共重合体Cを使用し、表1に記載の配合量とした以外は実施例1と同様の方法で実施例5,6のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0083】
実施例7,8
製造例4で作製したブロック共重合体Dを使用し、表1に記載の配合量とした以外は実施例1と同様の方法で実施例7,8のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0084】
比較例1
L型ポリ乳酸単体を使用した以外は実施例1と同様の方法で比較例1のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0085】
比較例2
粉状結晶改善剤B(芳香族スルホン酸塩、平均粒径35μm)とL型ポリ乳酸(PLLA)ペレット(L体純度99%以上、平均粒径2.5mmΦ)を定温乾燥機にて80℃で3時間以上乾燥した。小型樹脂混錬装置(商品名「ラボプラストミル(Labo Plastomill 4M150)、東洋精機製作所社製)のシリンダー温度を190℃に設定し、10rpmでシリンダーを回転させながら、測り採ったPLLAペレット29.1gを混錬チェンバーに入れ、次いで結晶改善剤Bを0.9g投入した。その後、蓋を閉めてシリンダー回転数を50rpmまで上げて、5分間混錬した。シリンダーを止めて、均一に混錬した溶融樹脂を取り出し、金属バットに入れてデシケーターにて冷却し、比較例2のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0086】
比較例3
粉状物性改善剤A(アクリル系化合物、平均粒径100μm)を使用した以外は比較例2と同様の方法で比較例3のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0087】
比較例4
液状物性改善剤B(脂肪族エステル系界面活性剤)を使用した以外は比較例2と同様の方法で比較例4のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0088】
比較例5
D型ポリ乳酸(PDLA、粒状結晶改善剤A、平均粒径2.5mmΦ)と上記粉状物性改善剤AとL型ポリ乳酸(PLLA)ペレット(L体純度99%以上)とを定温乾燥機にて80℃で3時間以上乾燥した。小型樹脂混錬装置(商品名:ラボプラストミル(Labo Plastomill 4M150)、東洋精機製作所社製)のシリンダー温度を190℃に設定し、10rpmでシリンダーを回転させながら、測り採ったPLLAペレット29.1gを混錬チェンバーに入れ、次いで、上記粒状結晶改善剤A0.3g、上記粉状物性改善剤A0.6gを投入した。その後、蓋を閉めてシリンダー回転数を50rpmまで上げて、5分間混錬した。シリンダーを止めて、均一に混錬した溶融樹脂を取り出し、金属バットに入れてデシケーターにて冷却し、比較例5のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0089】
比較例6
上記粉状物性改善剤Aの代わりに上記液状物性改善剤Bを使用した以外は比較例5と同様の方法で比較例6のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0090】
比較例7
上記粒状結晶改善剤Aの代わりに上記粉状結晶改善剤Bを使用した以外は比較例5と同様の方法で比較例7のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0091】
比較例8
上記粉状物性改善剤Aの代わりに上記液状物性改善剤Bを使用した以外は比較例7と同様の方法で比較例8のポリ乳酸樹脂組成物を作製した。
【0092】
[評価]
実施例及び比較例で作製したポリ乳酸樹脂組成物に関して以下の評価を実施し、その結果を表1に記載した。なお、表1中「/」は測定不能であること、「-」は未測定であることを示すものとする。
【0093】
(1)半結晶時間、結晶時間短縮率
実施例及び比較例で作製したポリ乳酸樹脂組成物を80℃で3時間に乾燥させ、5mgをサンプリングして下記条件にてDSCにて測定を行った。ポリ乳酸樹脂組成物の主成分であるPLLAの結晶化と伴い形成した発熱ピークに対し、ピーク形成し始めたタイミングから、ピーク面積の半分に到達するまでの時間を積分でカウントすることで、半結晶時間を算出しその結果を記載した。
測定装置:DSC Q2000 TA Instruments社製
測定条件:室温から190℃まで昇温し(昇温速度:86℃/分)、5分間保持する。その後、100℃まで降温し(降温速度:83℃/分)、15分間保持する。
【0094】
また、比較例1のL型ポリ乳酸単体に対する上記半結晶時間の短縮率を結晶時間短縮率として算出した。
【0095】
(2)曲げ弾性率、柔軟性改善率
実施例及び比較例で作製したポリ乳酸樹脂組成物を粒径1~3mmまでせん断し、定温乾燥機にて80℃、3時間の条件で乾燥した。1×10×55mmサイズの枠複数を有する型を金属板に載せ、枠毎に上記ポリ乳酸樹脂組成物1gを入れ、その上に金属板を乗せて、予め190℃に設定したホットプレス機(商品名「Mini Test Press10、東洋精機社製)にセットした。金属板と型と共に、ホットプレス機の間に入れて加圧せずに3分間予熱し、その後、プレス圧を10MPaまで上昇させて5分間保持した。その後、金属板と型を水循環式冷却プレスに移し、5分間冷却させ、試験片を型から取り出し、1×10×55mmサイズの試験片を定温乾燥機に入れて、100℃ 20分間にて結晶化処理を施した。上述の方法で作製した試験片に対し、下記の条件でテンシロン曲げ弾性率測定を行った。
装置:RTC-1350A ORENTEC社製
測定条件:
・試験種類:3点曲げ試験
・下部2点支点間距離:32mm
・試験機本体剛性:0mm/kgf
・荷重フルスケール:5N
・試験速度:1mm/min
・制御方法:移動速度一定制御
・測定温度:室温
【0096】
また、比較例1のL型ポリ乳酸単体に対する曲げ弾性率の減少率を柔軟性改善率として算出した。
【0097】
(3)取り扱い性・製造安定性
実施例及び比較例で作製したポリ乳酸樹脂組成物に関して、事前に染料で添加剤を赤色に、PLLAペレットを青色に着色したものを使用した。なお、添加剤を2種使用する場合は結晶改善剤を赤色に、物性改善剤を青色に着色したものを使用した。着色し、加熱した以外は同様の方法で混合し、10ml瓶でランダムに5箇所からサンプリングした。10ml瓶から取り出したペレットを目視で、ピンセットで色別で取り分け、色別のペレットの質量を測定し、その実測した色別のペレットの質量割合と設計上の質量割合との差を以下のように評価した。なお、粉状の添加剤を使用した場合は篩い分けし色別で取り分け測定した。
〇:実測した質量割合と設計上の質量割合との差が10%以下
△+:実測した質量割合と設計上の質量割合との差が10%超~20%
△:実測した質量割合と設計上の質量割合との差が20%超~30%
△-:実測した質量割合と設計上の質量割合との差が30%超~40%
×:実測した質量割合と設計上の質量割合との差が40%超、もしくは実機での混合が困難
【0098】
(4)射出成形離型時間・離型時間短縮率
実施例4のポリ乳酸樹脂組成物を定温乾燥機にて80℃、3時間乾燥し、下記条件で射出成形機にて試験片を作製した。射出成形機の押出機側でペレットを一旦溶融させ、金型に注入し、注入後に一定な圧で保持した。保圧を解除するタイミングから、試験片が十分結晶化・固化して変形なく金型から取り出せるタイミングまでの最短時間を射出成形離型時間とした。
射出成形機:電動式射出成形機器(商品名「J110AD-180H、日本製鋼所社製)
スクリュー径:Φ35mm
金型形状:JIS K 7139(ISO 20753)タイプA1ダンベル試験片形状
シリンダー温度:40~200℃(平均温度:190℃)
金型温度:100~105℃(設定温度:100℃)
【0099】
また、比較例1のL型ポリ乳酸単体の射出成形離型時間に対する減少率(離型時間短縮率)を算出した。
【0100】
【0101】
実施例のポリ乳酸改質剤を使用したポリ乳酸樹脂組成物では従来の添加剤と比較して、柔軟性及び結晶性が改善されていることが確認された。また、実施例のポリ乳酸樹脂組成物では特殊な混錬設備がなくとも容易に混合することができ、また、結晶化時間も短縮されているため生産効率に優れることが確認された。一方で、ポリ乳酸単体を使用した場合、半結晶化に要する時間がかかり、曲げ弾性率にも劣る結果となった(比較例1)。また、粉状の結晶改善剤のみを使用した場合、柔軟性を改善することができず、また、混錬が困難であり取り扱い性に劣る結果となった(比較例2)。粉状や液状の物性改善剤を使用した場合も柔軟性と結晶性を改善することはできたが、取り扱い性に劣っていた(比較例3,4)。また、上記の結晶改善剤と物性改善剤を組み合わせて使用した場合も、柔軟性と結晶性を改善することはできたが、取り扱い性に劣っていた(比較例5~8)。
【0102】
以下に本開示のバリエーションを記載する。
[付記1]
L型又はD型のいずれか一方の型のポリ乳酸に由来する構成単位とポリオールに由来する構成単位とを少なくとも含み、
ポリ乳酸/ポリオール/ポリ乳酸の構造を有するブロック共重合体であるポリ乳酸改質剤。
[付記2]
平均粒径が0.5mmΦ以上である付記1に記載のポリ乳酸改質剤。
[付記3]
室温で流動性を示さない付記1又は2に記載のポリ乳酸改質剤。
[付記4]
前記ポリオールがポリカプロラクトンである付記1~3のいずれか1つに記載のポリ乳酸改質剤。
[付記5]
L型又はD型ポリ乳酸と、前記ポリ乳酸とは異なる型のポリ乳酸とポリオールとを少なくとも含むポリ乳酸改質剤であるブロック共重合体との混合物であり、
前記ブロック共重合体は室温では流動性を示さず平均粒径が0.5mmΦ以上であり、
前記ポリ乳酸単体と比較して溶融状態から100~110℃に降温し、保温する際の結晶化に要する時間を30%以上短縮でき、
室温での柔軟性改善率が5%以上であるポリ乳酸樹脂組成物。
[付記6]
前記ポリ乳酸樹脂組成物全量中の前記ブロック共重合体の含有量が0.5~50質量%である付記5に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
[付記7]
前記ポリオールがポリカプロラクトンである付記5又は6に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
[付記8]
付記5~7のいずれか1つに記載のポリ乳酸樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形、トランスファ成形、積層成形、注型成形、粉末成形、カレンダ成形、発泡成形、ブロー成形、真空圧空成形、及び溶融紡糸の群から選択されるいずれか一つの成形方法で成形した成形物の製造方法。