(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152469
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20241018BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M10/0587
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066693
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 諒平
【テーマコード(参考)】
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028CC12
5H028EE02
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
(57)【要約】
【課題】Li析出耐性の低下を抑制する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池10は、正極シート50と、負極集電体41の表面に金属塩を含む負極活物質層42を備える負極シート40と、正極シート50と負極シート40との間に配置されたセパレータ60と、が捲回された捲回体30と、金属塩と反応する添加剤Bを含む電解液Sと、負極活物質層42の幅方向Gの端部領域W2,W4に形成され、電解液Sの浸透方向と略直交する直交方向に延在する溝部45と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シートと、負極集電体の表面に金属塩を含む負極活物質層を備える負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に配置されたセパレータと、が捲回された捲回体と、
前記金属塩と反応する添加剤を含む電解液と、
前記負極活物質層の捲回軸方向の端部領域に形成され、前記電解液の浸透方向と略直交する直交方向に延在する溝部と、
を備える二次電池。
【請求項2】
前記溝部は、前記捲回体の捲回方向に延在している
請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記溝部は、前記電解液の浸透方向と略直交する直交方向に断続して形成されている
請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記溝部は、前記負極活物質層の未塗工部分である
請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記溝部は、前記捲回軸方向において、前記負極活物質層の前記捲回軸方向の端部から、前記負極活物質層の1/3の範囲に設けられている
請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記溝部は、前記負極活物質層の捲回軸方向の端部領域に、複数形成されている
請求項1に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池では、正極シートと負極シートとセパレータとが積層された状態で捲回された捲回体を備えることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、長尺状の正極集電体の表面に正極活物質層を備える正極シートと、長尺状の負極集電体の表面に負極活物質層を備える負極シートとを、長尺状のセパレータシートを介して重ね合わせ、長尺方向に捲回してなる捲回電極体を備えているリチウムイオン二次電池が開示されている。このリチウムイオン二次電池は、負極活物質層の捲回軸方向の中央部分の表面には、捲回された負極活物質層の内部から外部に至って周方向に連続する溝が形成されている。これにより、捲回電極体の内部で発生したガスは溝を介して捲回電極体の外部へと排出される。
【0004】
ところで、二次電池では、Li析出耐性の低下を抑制することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、Li析出耐性の低下を抑制することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様の二次電池は、正極シートと、負極集電体の表面に金属塩を含む負極活物質層を備える負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に配置されたセパレータと、が捲回された捲回体と、前記金属塩と反応する添加剤を含む電解液と、前記負極活物質層の捲回軸方向の端部領域に形成され、前記電解液の浸透方向と略直交する直交方向に延在する溝部と、を備える。
【0008】
本発明の第2態様の二次電池では、本発明の第1態様の二次電池において、前記溝部は、前記捲回体の捲回方向に延在している。
【0009】
本発明の第3態様の二次電池では、本発明の第1態様又は第2態様の二次電池において、前記溝部は、前記電解液の浸透方向と略直交する直交方向に断続して形成されている。
【0010】
本発明の第4態様の二次電池では、本発明の第1態様から第3態様のいずれか1つの二次電池において、前記溝部は、前記負極活物質層の未塗工部分である。
【0011】
本発明の第5態様の二次電池では、本発明の第1態様から第4態様のいずれか1つの二次電池において、前記溝部は、前記捲回軸方向において、前記負極活物質層の前記捲回軸方向の端部から、前記負極活物質層の1/3の範囲に設けられている。
【0012】
本発明の第6態様の二次電池では、本発明の第1態様から第5態様のいずれか1つの二次電池において、前記溝部は、前記負極活物質層の捲回軸方向の端部領域に、複数形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1態様の二次電池では、負極活物質層の捲回軸方向の端部領域に形成され、電解液の浸透方向と略直交する直交方向に延在する溝部を備えることで、電解液の溶媒の浸透が、溝部で減速される。そのため、電解液の溶媒によって、金属塩が捲回体の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤を含む溶液と反応する。その結果、被膜が捲回体に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0014】
本発明の第2態様の二次電池では、溝部は、捲回体の捲回方向に延在していることで、電解液の溶媒の浸透が、溝部で減速される。そのため、電解液の溶媒によって、金属塩が捲回体の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤を含む溶液と反応する。その結果、被膜が捲回体に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0015】
本発明の第3態様の二次電池では、溝部は、電解液の浸透方向と略直交する直交方向に断続して形成されていることで、浸透方向において、溝部が形成されている部分で電解液の溶媒の浸透が減速され、溝部が形成されていない部分で電解液の溶媒の浸透が減速されない。そのため、この浸透速度の違いにより、溝部が形成されている部分から、電解液の溶媒が放射状に浸透することになる。その結果、被膜が捲回体に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0016】
本発明の第4態様の二次電池では、溝部は、負極活物質層の未塗工部分であることで、電解液の溶媒の浸透が、未塗工部分でより減速される。そのため、電解液の溶媒によって、金属塩が捲回体の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤を含む溶液と反応する。その結果、被膜が捲回体に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0017】
本発明の第5態様の二次電池では、溝部は、捲回軸方向において、負極活物質層の捲回軸方向の端部から、負極活物質層の1/3の範囲に設けられていることで、溝部が設けられていない場合に被膜が形成される傾向にある範囲に溶媒が浸透する前に、電解液の溶媒の浸透速度を減速することができる。そのため、電解液の溶媒によって、金属塩が捲回体の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤を含む溶液と反応する。その結果、被膜が捲回体に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0018】
本発明の第6態様の二次電池では、溝部は、負極活物質層の捲回軸方向の端部領域に、複数形成されていることで、電解液の溶媒の浸透が、複数の溝部でより減速される。そのため、電解液の溶媒によって、金属塩が捲回体の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤を含む溶液と反応する。その結果、被膜が捲回体に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る捲回体を拡大して示した断面であり、
図1のA-A断面を示す。
【
図3】第1実施形態に係る負極シートを模式的に示す展開図である。
【
図4】第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す正面図である。
【
図5】第1実施形態に係る負極シートへの電解液の浸透を説明する図であり、
図5(A)は、溝部に溶媒が浸透した図であり、
図5(B)は、溝部を越えて溶液が浸透した図である。
【
図6】電解液が浸透した際の負極シートの抵抗分布を示すグラフであり、
図6(A)は、電解液の浸透速度が速い場合を示すグラフであり、
図6(B)は、電解液の浸透速度が遅い場合を示すグラフである。
【
図7】第2実施形態に係る負極シートを模式的に示す展開図である。
【
図8】第3実施形態に係る負極シートを模式的に示す展開図である。
【
図9】別の実施形態に係る負極シートを模式的に示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
以下、実施形態に係る二次電池について、図面を参照して説明する。第1実施形態に係る二次電池は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の車載用電源として使用される電池モジュールを構成するリチウムイオン二次電池とする例を説明する。なお、各図において、矢印Dは、リチウムイオン二次電池10の長手方向Dを示し、矢印Eは、リチウムイオン二次電池10の奥行方向Eを示し、矢印Fは、リチウムイオン二次電池10の上下方向Fを示し、矢印Tは、捲回体30の厚さ方向Tを示し、矢印Rは、捲回体30の捲回方向Rを示している。リチウムイオン二次電池10の長手方向Dは、捲回体30の幅方向(捲回軸方向)Gと一致しており、捲回体30の幅方向Gの一方側が正極であり、捲回体の幅方向Gの他方側が負極である。
【0021】
[リチウムイオン二次電池10の構成]
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、蓋アセンブリ20と、捲回体30と、電池ケース70と、電解液S(
図4参照)と、を有している。
【0022】
(電池ケース70)
電池ケース70は、例えば、アルミニウム製であり、上面が開放した、長手方向Dに長い矩形の箱状に形成されている。
【0023】
(蓋アセンブリ20)
蓋アセンブリ20は、蓋部材21と、集電端子としての負極集電端子22と、集電端子としての正極集電端子23と、外部端子としての負極外部端子24と、外部端子としての正極外部端子25と、を備えている。
【0024】
<蓋部材21>
蓋部材21は、例えば、アルミニウム製であり、長手方向Dに延在した矩形の板状に形成されている。蓋部材21には、安全弁21Aと、注入口21Bを塞ぐキャップ26と、が設けられている。
【0025】
安全弁21Aは、電池ケース70の内部圧力の値が所定圧力に到達した場合に開弁し、電池ケース70内部に発生したガスを排出する。
【0026】
注入口21Bは、蓋部材21の板厚方向に貫通した貫通孔として形成されている。注入口21Bは、電池ケース70内に電解液を注入する際に用いられる。注入口21Bには、キャップ26が、例えば、レーザ溶接によって、気密にシールされて取り付けられている。
【0027】
電池ケース70の内側に、捲回体30と、負極集電端子22と、正極集電端子23と、が収容された状態で、蓋部材21が、例えば、レーザ溶接によって、電池ケース70の開口を塞ぐように取り付けられている。
【0028】
<負極集電端子22及び負極外部端子24>
負極集電端子22及び負極外部端子24は、銅で形成され、電池ケース70の長手方向Dの他端側に配置されている。負極集電端子22は、奥行方向Eを板厚方向とした矩形の板状に形成されている。負極集電端子22は、捲回体30の負極集電部32に、例えば、超音波溶接によって、接合されている。負極外部端子24は、負極集電端子22に電気的に接続され、蓋部材21の外部に露出している。
【0029】
<正極集電端子23及び正極外部端子25>
正極集電端子23は、例えば、アルミニウムで形成され、電池ケース70の長手方向Dの一端側に配置されている。正極集電端子23は、奥行方向Eを板厚方向とした矩形の板状に形成されている。正極集電端子23は、捲回体30の正極集電部33に、例えば、抵抗溶接によって、接合されている。正極外部端子25は、正極集電端子23に電気的に接続され、蓋部材21の外部に露出している。
【0030】
(捲回体30)
図1及び
図2に示すように、捲回体30は、発電体31と、負極集電部32と、正極集電部33と、を有する。捲回体30は、電極シートとしての負極シート40と、電極シートとしての正極シート50と、2枚のセパレータ60と、が積層された状態で、捲回されて断面が扁平状に形成されている。
【0031】
発電体31は、正極シート50のうち正極活物質が塗工された領域と、負極シート40のうち負極活物質が塗工された領域と、セパレータ60と、が積層されて形成されている。発電体31は、リチウムイオン二次電池10の電気エネルギーを蓄積する機能を有する。
【0032】
負極集電部32は、活物質が塗工されておらず、負極シート40が捲回されて形成されている。正極集電部33は、活物質が塗工されておらず、正極シート50が捲回されて形成されている。
【0033】
<負極シート40>
図2に示すように、負極シート40は、長尺帯状の負極集電体41の両面に負極合材が塗工され、負極活物質層42が形成されている。
【0034】
負極活物質層42は、負極活物質を有している。負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。負極活物質層42は、負極活物質と、溶媒と、バインダーとを混練し、混練後の負極合材を負極集電体41に塗布して乾燥することで作製される。バインダーは、金属塩を含んでいる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩とすることができる。
【0035】
負極活物質層42は、外周側に配置される外周側負極活物質層43と、内周側に配置される内周側負極活物質層44と、を有している。なお、外周側負極活物質層43と内周側負極活物質層44とは、同様の構成であることから、以下では、外周側負極活物質層43について説明する。
【0036】
≪外周側負極活物質層43≫
図2及び
図3に示すように、外周側負極活物質層43には、捲回体30の捲回方向Rに延在している溝部45が形成されている。溝部45は、外周側負極活物質層43の内周側から外周側にわたって、連続して形成されている。溝部45は、電解液Sの捲回体30への浸透方向と直交する直交方向に延在して形成されている。電解液Sの捲回体30への浸透方向は、捲回体30の幅方向Gとされる。
【0037】
ここで、
図3に示すように、外周側負極活物質層43の幅方向Gにおける全領域W1を、他方側端部の端部領域W2と、一方側端部の端部領域W4と、中央領域W3と、に区分けする。
【0038】
端部領域W2は、幅方向Gにおいて、外周側負極活物質層43の他方側端部から1/3の領域とすることができる。端部領域W4は、幅方向Gにおいて、外周側負極活物質層43の一方側端部から1/3の領域とすることができる。
【0039】
溝部45は、幅方向Gにおける端部領域W2,W4に形成されている。端部領域W2,W4は、幅方向Gにおいて、外周側負極活物質層43の幅方向Gの端部から、外周側負極活物質層43の1/3の範囲とすることができる
【0040】
溝部45は、外周側負極活物質層43の幅方向Gの端部から塗工幅25~33%内に設けることが望ましい。
【0041】
図2に示すように、溝部45は、断面矩形の凹状に形成されている。溝部45は、外周側負極活物質層43の未塗工部分として形成されている。溝部45は、塗工時に未塗工で作製してもよいし、塗工後に剥離して作製してもよい。なお、溝部45は、外周側負極活物質層43の厚さの半分以上の深さの溝とすることもできる。
【0042】
ところで、溝部45の溝幅Jが広くなると、負極集電体41の外周側負極活物質層43で被覆される部位が減少し、Li析出耐性が悪化してしまう。この観点から、溝部45の溝幅Jは、0.2mm以内とすることが好ましい。
【0043】
<正極シート50>
正極シート50は、長尺帯状の正極集電体51の両面に正極合材が塗工され、正極活物質層52が形成されている。
【0044】
正極活物質層52は、正極活物質を有している。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を用いることができる。
【0045】
正極活物質層52は、外周側に配置される外周側正極活物質層53と、内周側に配置される内周側正極活物質層54と、を有している。
【0046】
<セパレータ60>
セパレータ60は、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等の絶縁性のある材料で形成されている。セパレータ60は、正極シート50と負極シート40との間に配置され、正極シート50と負極シート40とを絶縁する。
【0047】
(電解液)
図4に示すように、電池ケース70には、捲回体30とともに、電解液Sが収容されている。電解液Sは、溶媒に支持塩が含有された組成物である。電解液Sには、負極活物質層42に含まれる金属塩と反応する添加剤が添加されている。添加剤としては、例えば、リチウム塩とすることができる。リチウム塩としては、例えば、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)とすることができる。
【0048】
[リチウムイオン二次電池10の動作]
上記のように構成されたリチウムイオン二次電池10では、捲回体30の出力が負極外部端子24及び正極外部端子25から取り出され、電気自動車やハイブリッド自動車等の動力源として使用される。
【0049】
[Li析出耐性低下の要因]
リチウムイオン二次電池10では、負極シート40の被膜抵抗の高い箇所において、過剰な電流とリチウムとの反応による過電圧が発生し、Li金属が析出する。Li金属は、電解液Sとの反応により、不活性化し、電池容量低下の要因となる。そのため、リチウムイオン二次電池10を用いたデバイスでは、Li金属が析出しない電流制御がされており、Li析出耐性が悪いと性能低下の一因となる。
【0050】
被膜は、電解液Sの分解反応により形成される。被膜は、リチウムイオン二次電池10の寿命特性や入出力特性、Li析出耐性へ影響を与えるため、電解液Sに様々な添加剤を付加することで、電池性能を良化している。リチウムイオン二次電池10に電解液Sを注液すると捲回体30に浸透されていくが、電解液の添加剤を含む溶液は、溶媒の浸透よりも遅い。そのため、溶媒に溶けやすい負極合材内成分は、捲回体30の幅方向Gの中央付近に偏在することになる。中央に偏在している成分の中で電解液の添加剤と反応する物質がある場合、抵抗の高い被膜が捲回体30の幅方向Gの中央付近で形成されることになる。局所的な高抵抗部は、電池としてのLi析出耐性の低下要因となる。第1実施形態では、このようなLi析出耐性の低下を抑制するために、負極活物質層42に溝部45を設けた。
【0051】
[電解液Sの浸透]
図4に示すように、電解液Sは、捲回体30の幅方向Gの端部から、幅方向Gの中央部に向けて浸透する。
【0052】
捲回体30の幅方向Gの端部から電解液Sが浸透すると、電解液Sは、負極活物質層42に浸透する。
図5(A)に示すように、負極活物質層42に浸透すると、添加剤Bを含んだ溶液S2より浸透速度の速い、添加剤Bを含まない溶媒S1が、先に溝部45に到達する。そして、溶媒S1が溝部45に貯留される。すなわち、溶媒S1の負極活物質層42への浸透が、溝部45によって、減速される。
【0053】
次いで、
図5(B)に示すように、遅れて溝部45に到達した溶液S2と、溝部45において減速された溶媒S1とが、負極活物質層42の幅方向Gの中央に向けて浸透する。
【0054】
[浸透速度の違いによる抵抗分布]
負極活物質層への電解液Sの浸透速度の違いによる抵抗分布を確認するための実験を実施した。
【0055】
実験では、負極活物質層への電解液Sの浸透速度を速くした場合の抵抗分布と、負極活物質層への電解液Sの浸透速度を遅くした場合の抵抗分布と、を確認した。
【0056】
図6(A)に示すように、負極活物質層への電解液Sの浸透速度を速くした場合、中央領域W3に局所的な高抵抗部が形成された。
図6(B)に示すように、負極活物質層への電解液Sの浸透速度を遅くした場合、端部領域W2,W4及び中央領域W3に局所的な高抵抗部は形成されなかった。
【0057】
[作用]
ところで、電解液Sは、概ね捲回体30の幅方向Gの両端部から、幅方向中央に向けて浸透する。ここで、電解液Sの溶媒S1の方が、添加剤Bを含む溶液S2より浸透速度が速い。そのため、負極活物質層42に分散して配置されている金属塩は、溶媒S1に溶けて、捲回体30の幅方向中央に偏在することになる。そうすると、捲回体30の幅方向中央に偏在する金属塩と、遅れて浸透してきた添加剤Bを含む溶液S2とが合流して、化学反応により、捲回体30の幅方向中央に被膜が形成される。その結果、捲回体30の幅方向中央において、被膜抵抗が高くなり、過剰電流とリチウムとの反応で過電圧が発生し、Li析出耐性が低下する可能性がある。
【0058】
第1実施形態のリチウムイオン二次電池10は、正極シート50と、負極集電体41の表面に金属塩を含む負極活物質層42を備える負極シート40と、正極シート50と負極シート40との間に配置されたセパレータ60と、が捲回された捲回体30と、金属塩と反応する添加剤Bを含む電解液Sと、負極活物質層42の幅方向Gの端部領域W2,W4に形成され、電解液Sの浸透方向と略直交する直交方向に延在する溝部45と、を備える(
図2参照)。
【0059】
負極活物質層42の幅方向Gの端部領域W2,W4に形成され、電解液Sの浸透方向と略直交する直交方向に延在する溝部45を備えることで、電解液Sの溶媒S1の浸透が、溝部45で減速される。そのため、電解液Sの溶媒S1によって、金属塩が捲回体30の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤Bを含む溶液S2と反応する。その結果、被膜が捲回体30に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0060】
第1実施形態のリチウムイオン二次電池10では、溝部45は、捲回体30の捲回方向Rに延在している(
図3参照)。
【0061】
溝部45は、捲回体30の捲回方向Rに延在していることで、電解液Sの溶媒S1の浸透が、溝部45で減速される。そのため、電解液Sの溶媒S1によって、金属塩が捲回体30の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤Bを含む溶液S2と反応する。その結果、被膜が捲回体30に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0062】
第1実施形態のリチウムイオン二次電池10では、溝部45は、負極活物質層42の未塗工部分である(
図3参照)。
【0063】
溝部45は、負極活物質層42の未塗工部分であることで、電解液Sの溶媒S1の浸透が、未塗工部分でより減速される。そのため、電解液Sの溶媒S1によって、金属塩が捲回体30の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤Bを含む溶液S2と反応する。その結果、被膜が捲回体30に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0064】
ところで、溝部45が設けられていない場合、負極活物質層42の中央領域W3に被膜が形成される。そのため、
図6(A)に示すように、負極活物質層42の中央領域W3において、被膜抵抗が高くなり、過剰電流とリチウムとの反応で過電圧が発生し、Li析出耐性が低下する可能性がある。
【0065】
第1実施形態のリチウムイオン二次電池10では、溝部45は、幅方向Gにおいて、負極活物質層42の幅方向Gの端部から、負極活物質層42の1/3の範囲に設けられている(
図3参照)。
【0066】
溝部45は、幅方向Gにおいて、負極活物質層42の幅方向Gの端部から、負極活物質層42の1/3の範囲に設けられていることで、溝部45が設けられていない場合に被膜が形成される傾向にある範囲に溶媒S1が浸透する前に、電解液Sの溶媒S1の浸透速度を減速することができる。そのため、電解液Sの溶媒S1によって、金属塩が捲回体30の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤Bを含む溶液S2と反応する。その結果、被膜が捲回体30に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0067】
〔第2実施形態〕
第2実施形態のリチウムイオン二次電池は、溝部の構成が異なる点で、第1実施形態のリチウムイオン二次電池と相違する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同様の用語又は同様の符号を用いて説明する。また、外周側負極活物質層43と内周側負極活物質層44とは、同様の構成であることから、以下では、外周側負極活物質層43について説明する。
【0068】
図7に示すように、溝部145は、外周側負極活物質層43の内周側から外周側にわたって、断続して形成されている。溝部145の捲回方向Rの長さL1は、溝部145間の長さL2より長い方が好ましい。
【0069】
[作用]
第2実施形態のリチウムイオン二次電池10では、溝部145は、捲回方向Rに断続して形成されている(
図7参照)。
【0070】
これにより、浸透方向において、溝部145が形成されている部分で電解液Sの溶媒S1の浸透が減速され、溝部145が形成されていない部分で電解液Sの溶媒S1の浸透が減速されない。そのため、この浸透速度の違いにより、溝部145が形成されている部分からの電解液Sの溶媒S1が放射状に浸透することになる。その結果、被膜が捲回体30に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0071】
なお、他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0072】
〔第3実施形態〕
第3実施形態のリチウムイオン二次電池は、溝部の構成が異なる点で、第1実施形態のリチウムイオン二次電池と相違する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同様の用語又は同様の符号を用いて説明する。
【0073】
図8に示すように、溝部45は、負極活物質層42の幅方向Gの端部領域W2及び端部領域W4に、それぞれ複数(第3実施形態では、2つ)形成されている。
【0074】
[作用]
第3実施形態のリチウムイオン二次電池10では、溝部45は、負極活物質層42の幅方向Gの端部領域W2,W4に、複数形成されている(
図8参照)。
【0075】
これにより、電解液Sの溶媒S1の浸透が、複数の溝部45でより減速される。そのため、電解液Sの溶媒S1によって、金属塩が捲回体30の幅方向中央に偏在される前に、金属塩が添加剤Bを含む溶液S2と反応する。その結果、被膜が捲回体30に分散して形成され、Li析出耐性の低下を抑制することができる。
【0076】
なお、他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0077】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池を、第1実施形態~第3実施形態に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更などは許容される。
【0078】
第1実施形態~第3実施形態では、溝部は、電解液Sの浸透方向と直交する直交方向に延在するように設けられる例を示した。しかし、溝部245は、電解液Sの浸透方向と略直交する直交方向に延在するように設けてもよい。例えば、
図9に示すように、溝部245は、捲回体30の捲回方向Rに対して、蛇行するように設けられてもよい。
【0079】
第1実施形態~第3実施形態では、溝部は、負極集電体41の両面の負極活物質層42に設けられる例を示した。しかし、溝部は、負極集電体41の片面の負極活物質層42に設けられてもよい。また、負極集電体41の一方の面に設けられる溝部の位置と、負極集電体41の他方の面に設けられる溝部の位置とを、幅方向Gにおいてずらしてもよい。
【0080】
第1実施形態~第3実施形態では、溝部は、負極活物質層42の未塗工部分として形成されている例を示した。しかし、溝部は、外周側負極活物質層の厚さの半分以上の深さの溝とすることもできる。また、溝部は、端部領域W2及び端部領域W4のいずれか一方が未塗工部分として形成され、他方が外周側負極活物質層の厚さの半分以上の深さの溝として形成されてもよい。
【0081】
第1実施形態~第3実施形態では、溝部は、端部領域W2及び端部領域W4に形成されている例を示した。しかし、溝部は、端部領域W2及び端部領域W4のいずれかに形成されてもよい。
【0082】
第1実施形態~第3実施形態では、溝部は、負極活物質層42の内周側から外周側にわたって形成されている例を示した。しかし、溝部は、内周側のより、外周側の溝部を広く形成したり、深く形成したりしてもよい。これにより、Li析出耐性の悪い負極活物質層の外周側に対して、対策ができる。
【0083】
第1実施形態~第3実施形態では、電池は、リチウムイオン二次電池とする例を示した。しかし、電池は、この態様に限定されず、金属塩を含む負極活物質層を備える負極シートを有する捲回体と、金属塩と反応する添加剤を含む電解液と、を有する二次電池に適用できる。
【符号の説明】
【0084】
10 リチウムイオン二次電池(電池の一例)
50 正極シート
30 捲回体
40 負極シート
41 負極集電体
42 負極活物質層
45 溝部
B 添加剤
R 捲回方向
S 電解液
W2,W4 端部領域