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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152488
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】乗用電動移動体
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/04 20130101AFI20241018BHJP
   B62M 6/65 20100101ALI20241018BHJP
【FI】
A61G5/04 710
B62M6/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066714
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】517221310
【氏名又は名称】コアレスモータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】白木 学
(72)【発明者】
【氏名】山口 真也
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ギアユニットをモータに内蔵させる回転電気機械をアッセンブリして、外輪の幅方向への回転電気機械の突出部を減らした電動車椅子を提供する。
【解決手段】座面と、座面の支持構造物と、支持構造物の少なくとも両側面に固定軸を介して設けられた外輪104とを備え、各外輪の中央部に回転電気機械108を備えている。この回転電気機械の駆動によって外輪が回転する。回転電気機械は円筒状のコアレスモータの円筒内側にギアユニットを内蔵しており、コアレスモータのケーシングの幅と前記外輪の幅との差が5cm以内であるから電動車椅子の座面下方や外方へ回転電気機械が飛び出すことがなく、小型、省スペース化が図れる。加えてコアレスモータの使用は鉄心が無いので電動車椅子の軽量化が図れる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面と、該座面の支持構造物と、該支持構造物の少なくとも両側面に固定軸を介して設けられた外輪とを備え、
各外輪の中央部に回転電気機械を備え、該回転電気機械は外輪部に繋がるホイールにそのケーシングが固着されることによって該回転電気機械の駆動によって前記外輪が回転し、該回転電気機械は円筒状のコアレスモータの円筒内側にギアユニットを内蔵しており、
該円筒状モータは前記固定軸側から外方に向けて同心円上に順次、インナーヨーク、円筒状コイル体、アウターヨークが配置され、該インナーヨークと該アウターヨークのいずれか又は両方に前記円筒状コイル体に対向させつつ間隙を持って永久磁石を配し、
前記円筒状コイル体はU、V、W相から成り、
前記ギアユニットと共に前記円筒状モータを前記ケーシングに内蔵させ、
前記固定軸は前記コアレスモータのロータ中央に設けた環状体の孔部を貫通し、該環状体は前記ロータの回転によって回転し、該環状体の外周には歯車溝が有り、
前記ギアユニットにはインターナルギアと該インターナルギアの内歯に小径部分の歯が噛合う複数のプラネタリギアとを備え、
該プラネタリギアは前記小径部分とは別に同軸上の大径部分にも歯車溝が形成されており、
前記環状体の歯車溝に噛合うように前記プラネタリギアの大径部分の歯が位置し、
こうして前記ロータの回転により前記環状体に噛合った前記プラネタリギアが回転することにより前記インターナルギアが回転し、該インターナルギアの回転により、該インターナルギアに固定されたケーシングを回転させ、該ケーシングが孔部に嵌め込み固定された外輪を回転させ、
少なくとも前記各プラネタリギアの大径部分の歯面にグリースが塗布されていて、グリースジャケットはブラケットの前記大径部分側に位置し、前記大径部分の歯面外周に沿うように円弧上の内壁を備え、前記各プラネタリギアの平面部の大半を覆うように配置されることを特徴とする乗用電動移動体。
【請求項2】
前記インターナルギアの少なくとも歯の部分は樹脂で形成し、残部は金属製とすることを特徴とする請求項1の乗用電動移動体。
【請求項3】
前記プラネタリギアの前記小径部分の歯と前記大径部分の歯の間の軸上に第1の軸受け部が配置され、該第1の軸受け部は前記コアレスモータの内部構造物に固定されて前記プラネタリギアを支持し、
前記環状体の歯車溝に噛合うように前記プラネタリギアの大径部分の歯が位置し、前記各プラネタリギアの軸の前記大径部分側の先端がブラケットの孔部を貫通するように該ブラケットを備え、該ブラケットはモータケーシングの底面部に固定され、前記各孔において第2の軸受け部により前記軸先端が回転可能に位置決めされていることを特徴とする請求項1の乗用電動移動体。
【請求項4】
前記回転電気機械は移動体の外側に前記プラネタリギアの大径部分が位置し、内側に該プラネタリギアの小径部分と前記インターナルギアが位置し、前記外側の面は前記外輪の外側面と実質的に面一であり、前記内側のケーシング突出は前記外輪の内側から5cm以内となる請求項1乃至3いずれかの乗用電動移動体。
【請求項5】
前記座面と前記外輪とを繋ぎ前記支持構造物を折り曲げて乗用移動体を折り畳んだ後の折畳み状態の乗用移動体の幅から、各外輪の前記ケーシングの突出長さが変わらず、かつ、折り曲げ後も前記ケーシングが前記ホイールに嵌ったままの状態であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかの乗用電動移動体。
【請求項6】
前記円筒状コイル体はU、V、W各相の線材を編み込んだものであることを特徴とする請求項1乃至5いずれかの乗用電動移動体。
【請求項7】
座面と、該座面の支持構造物と、該支持構造物の少なくとも両側面に固定軸を介して設けられた外輪とを備え、
各外輪の中央部に回転電気機械を備え、該回転電気機械は外輪部に繋がるホイールにそのケーシングが固着されることによって該回転電気機械の駆動によって前記外輪が回転し、該回転電気機械は円筒状のコアレスモータの円筒内側にギアユニットを内蔵しており、
該円筒状モータは前記固定軸側から外方に向けて同心円上に順次、インナーヨーク、円筒状コイル体、アウターヨークが配置され、該インナーヨークと該アウターヨークのいずれか又は両方に前記円筒状コイル体に対向させつつ間隙を持って永久磁石を配し、
前記円筒状コイル体はU、V、W相から成り、
前記ギアユニットと共に前記円筒状モータをケーシングに内蔵させ、
前記固定軸は前記コアレスモータのロータ中央に設けた環状体の孔部を貫通し、該環状体は前記ロータの回転によって回転し、該環状体の外周には歯車溝が有り、
前記ギアユニットが複数のギアで構成されると共に該ギアの一部は前記環状体の歯車溝に噛合うように位置し、こうして前記ロータの回転により前記環状体に噛合った前記ギアが回転することにより前記ケーシングを回転させ、該ケーシングが孔部に嵌め込み固定された外輪を回転させ、
前記ギアユニットの各ギアの歯面にグリースが塗布されていて、該ギアユニットの大半を覆うようにグリースジャケットを設けることを特徴とする乗用電動移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動車椅子やシニアカー等に代表される乗用電動移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子は電動化が進んでいるが、電動化に不可欠なモータの設置場所が座面との関係で制約されている。そこでモータの小型化が求められてきた。モータの回転を車輪に伝えるには回転を調整するギアが欠かせず、ギアユニットとモータを足した容積の確保が課題であった。
【0003】
電動車向けのモータには設置スペースを考えて車輪のホイールにモータを組み込んだインホイールタイプが知られている。しかしインホイールタイプであってもギアユニットとモータが組み合わされると、軸方向へのモータハウジング(回転電気機械のケーシング)がはみ出してしまう。
【0004】
特許文献1の図1~3等や特許文献2の図8図12等からわかるようにモータハウジングは車椅子の座面側に大きく食み出してしまう。電動車椅子の場合、座面下のスペースを減らすことになるし、折り畳む場合にも突出部が増えてしまう。
【0005】
そこで本発明者は、モータ内部にギアユニットを内蔵する構成を発明し、車輪の幅に略等しくなるような回転電気機械を作ることを試みた。これは上記先行技術文献ではコアドモータで鉄心が内蔵されているので着想できなかったことである。
【0006】
しかしながら車椅子の外輪の範囲にモータケーシングを嵌め込む為には限られたケーシングスペースの中ではパーツの形状や配置の工夫を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-194037号公報
【特許文献2】特開2004-24696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に着目し、ギアユニットをモータに内蔵させる回転電気機械をアッセンブリして、電動車椅子の外輪の幅方向への回転電気機械の突出部を減らすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の乗用電動移動体は、座面と、座面の支持構造物と、支持構造物の少なくとも両側面に固定軸を介して設けられた外輪とを備えている。各外輪の中央部に回転電気機械を備え、回転電気機械は外輪部に繋がるホイールにそのケーシングが固着されることによって回転電気機械の駆動によって前記外輪が回転する。
【0010】
回転電気機械は円筒状のコアレスモータの円筒内側にギアユニットを内蔵しており、円筒状モータは固定軸側から外方に向けて同心円上に順次、インナーヨーク、円筒状コイル体、アウターヨークが配置され、インナーヨークとアウターヨークのいずれか又は両方に円筒状コイル体に対向させつつ間隙を持って永久磁石を配している。
【0011】
円筒状コイル体はU、V、W相から成る。
ギアユニットと共に円筒状モータをケーシングに内蔵させる。
固定軸はコアレスモータのロータ中央に設けた環状体の孔部を貫通し、環状体はロータの回転によって回転し、環状体の外周には歯車溝が有る。
【0012】
ギアユニットにはインターナルギアとインターナルギアの内歯に小径部分の歯が噛合う複数のプラネタリギアとを備え、プラネタリギアは小径部分とは別に同軸上の大径部分にも歯車溝が形成されており、更に、環状体の歯車溝に噛合うようにプラネタリギアの大径部分の歯が位置している。
【0013】
こうしてロータの回転により環状体に噛合ったプラネタリギアが回転することによりインターナルギアが回転し、インターナルギアの回転により、インターナルギアに固定されたケーシングを回転させ、ケーシングが孔部に嵌め込み固定された外輪を回転させる。
【0014】
更に、少なくとも各プラネタリギアの大径部分の歯面にグリースが塗布されていて、グリースジャケットはブラケットの大径部分側に位置し、大径部分の歯面外周に沿うように円弧上の内壁を備え、各プラネタリギアの平面部の大半を覆うように配置される。
【0015】
尚、前記ギアユニットの構成は前記のプラネタリギアとインターナルギアの配置に拘らず、例えば次の態様でも良い。すなわち、座面と、該座面の支持構造物と、該支持構造物の少なくとも両側面に固定軸を介して設けられた外輪とを備え、各外輪の中央部に回転電気機械を備え、該回転電気機械は外輪部に繋がるホイールにそのケーシングが固着されることによって該回転電気機械の駆動によって前記外輪が回転し、該回転電気機械は円筒状のコアレスモータの円筒内側にギアユニットを内蔵しており、該円筒状モータは前記固定軸側から外方に向けて同心円上に順次、インナーヨーク、円筒状コイル体、アウターヨークが配置され、該インナーヨークと該アウターヨークのいずれか又は両方に前記円筒状コイル体に対向させつつ間隙を持って永久磁石を配し、前記円筒状コイル体はU、V、W相から成り、前記ギアユニットと共に前記円筒状モータをケーシングに内蔵させ、前記固定軸は前記コアレスモータのロータ中央に設けた環状体の孔部を貫通し、該環状体は前記ロータの回転によって回転し、該環状体の外周には歯車溝が有り、前記ギアユニットが複数のギアで構成されると共に該ギアの一部は前記環状体の歯車溝に噛合うように位置し、こうして前記ロータの回転により前記環状体に噛合った前記ギアが回転することにより前記ケーシングを回転させ、該ケーシングが孔部に嵌め込み固定された外輪を回転させ、前記ギアユニットの各ギアの歯面にグリースが塗布されていて、該ギアユニットの大半を覆うようにグリースジャケットを設けることを特徴とする。
【0016】
以上の構成に加えて、次の各構成の採用が望ましい。
インターナルギアの少なくとも歯の部分は樹脂で形成し、残部は金属製とすること。
プラネタリギアの前記小径部分の歯と大径部分の歯の間の軸上に第1の軸受け部が配置され、第1の軸受け部はコアレスモータの内部構造物に固定されてプラネタリギアを支持し、環状体の歯車溝に噛合うようにプラネタリギアの大径部分の歯が位置し、各プラネタリギアの軸の大径部分側の先端がブラケットの孔部を貫通するようにブラケットを備え、ブラケットはモータケーシングの底面部に固定され、各孔において第2の軸受け部により軸先端が回転可能に位置決めされていること。
【0017】
回転電気機械のケーシングの軸方向長さの外輪の幅からの突出長さが夫々5cm以内になること。
回転電気機械は移動体の外側にプラネタリギアの大径部分が位置し、内側にブラナタリギアの小径部分とインターナルギアが位置し、外側の面は外輪の外側面と実質的に面一であり、前記内側のケーシング突出は外輪の内側から5cm以内とすること。
【0018】
座面と外輪とを繋ぎ支持構造物を折り曲げて乗用移動体を折り畳んだ後の折畳み状態の乗用移動体の幅から、各外輪のケーシングの突出長さが変わらず、かつ、折り曲げ後もケーシングがホイールに嵌ったままの状態であること。
座面と外輪とを繋ぎ支持構造物を折り曲げて乗用移動体を折り畳んだ後の折畳み状態の乗用移動体の幅から、各外輪のケーシングの突出長さが5cm以内に納まり、かつ、折り曲げ後もケーシングが前記ホイールに嵌ったままの状態であること。
【0019】
座面と外輪とを繋ぎ支持構造物を折り曲げて乗用移動体を折り畳んだ後の折畳み状態の乗用移動体において座面を支えるフレームよりも内側に回転電気機械のケーシングが突出していないこと。
円筒状コイル体はU,V,W各相の線材を編み込んだものであること。
線材がリッツ線であること。
【0020】
ところで、一般論として、鉄心を備えるコアドモータは鉄心による重さと鉄の渦電流損が問題になる。渦電流損は発熱を伴う。そこで鉄心を使わないコアレスモータが期待される。コアレスモータのコイルを円筒状に形成するとき、作り易さや強度の観点から銅板が採用されてきた(例えば米国特許第6958564号明細書、特開2007-282487号公報参照)。しかし新たに銅の渦電流損が課題になる。そこで銅板に代えて線材でコイル体を形成することが考えられた。しかし銅線にしても渦電流損は無視できず、その対策として本発明者等はリッツ線の採用が課題を解決することを見出した。尚、線材により円筒状コイル体を成形する際にはU,V,W各相を編み込んで均質化することが望ましく、その編み方の例として本発明者は先に特許第6989204号公報、特許第6948748号公報等の手法を編み出している。尚、リッツ線は細線の束なので仮に発熱しても熱拡散し易く、過度な発熱を回避できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば乗用電動移動体の外輪の幅方向への回転電気機械が突出部を減らすことができるので、乗用電動移動体をコンパクトにでき、更に折り畳んでも回転電気機械が邪魔にならなくなる。加えてグリースの枯渇防止と静音化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の乗用電動移動体例となる電動車椅子の側面図。
図2図1の電動車椅子を上面から見た概念図。
図3図1例示電動車椅子の外輪部分の説明断面図。
図4図1例示の電動車椅子の制御ブロック図。
図5図4のブロックを用いた制御回路図。
図6図1図示の電動車椅子を折り畳んだ様子の説明図。
図7】本発明の乗用電動電動車椅子に適用する回転電気機械の実施例において、ケーシングの蓋を外しインナー側のグリースジャケットの配置の様子を説明する斜視図。
図8図7例示のグリースジャケットを表側から見た斜視図。
図9図7例示のグリースジャケットを裏側から見た斜視図。
図10図7例示の状態からグリースジャケットの嵌り方を示した斜視図。
図11図10図示の状態の平面図。
図12図7例示の状態でブラケットを追加した斜視図。
図13図7例示の回転電気機械の外観を示す斜視図。
図14図13図示の側断面図。
図15図7例示の回転電気機械においてアウター側のグリースジャケットの配置の様子を説明する斜視図。
図16図15例示のグリースジャケットを裏側から見た斜視図。
図17図15例示のグリースジャケットを表側から見た斜視図。
図18図15例示の状態からグリースジャケットの嵌り方を示した斜視図。
図19図18図示の状態の平面図。
図20図7例示の回転電気機械の外観を図13とは逆側から見た斜視図。
図21】本発明の乗用電動電動車椅子に適用する回転電気機械の実施例において、ケーシング内へのプラネタリギアの支持を説明する断面図。
図22図21例示の回転電気機械のアセンブリ状態を説明する断面図。
図23図21例示の回転電気機械に用いているプラネタリギアの外観図。
図24図21例示の回転電気機械のプラネタリギアの組み込みを説明する分解図。
図25】本発明の乗用電動電動車椅子に適用する回転電気機械の実施例において、アセンブリ状態を説明する断面図。
図26図25例示の回転電気機械に用いるインターナルギアの斜視図。
図27図26例示のインターナルギアの側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
(電動車椅子の例)
図1に電動車椅子を示す。本例では回転電気機械を組み込んだ動輪が車椅子の座面の両側面に配置された2動輪式を示しているが、動輪の数には限定されない。
【0024】
図1は電動車椅子10の側面図である。電動車椅子10は、椅子型の矩形ボックス状に枠組みされ、介護者が乗ることが出来るように布張りされる車椅子本体101を形成している。車椅子10の側面から見て、車椅子本体101の後方縦パイプ102の上部には、手押しハンドル103が伸びて介助者が手で押すことが出来るように構成されている。そして、この下端部には大径の後部車輪となる外輪104が取り付けられ、外輪104の外側面に設けられたハンドリム105により、手でこいでも外輪104の回転により移動ができるものとなっている。また、前方縦パイプ106の下端には小径のキャスタ107が配備されて方向転換できるようになっている。
【0025】
このような車椅子10の外輪104の軸部は外輪104と軸受で支持されており、回転電気機械108により駆動される。外輪104の軸部は回転電気機械108の固定軸2(図3参照)であり、固定軸2は座面下の位置で車椅子本体に固定されている。そして、このような電動車椅子を駆動操作するために、アームレスト109に操作桿110を取り付け、この操作により前後左右に駆動するようにしている。
【0026】
この電動車椅子10を上面から見ると図2のようになっている。座面124の両脇に外輪104(104L、104R)が位置し、その各外輪の中央に外輪と略同じ幅の回転電気機械108L,108Rが取り付けられている。尚、手押しハンドル103の先端には介助者用グリップ125(125L,125R)が取り付けられている。
【0027】
この回転電気機械108がコアレスモータにギアユニットを内蔵したものとなり、具体的には図13になるが、本発明で採用するコアレスモータに注目して図3を用いて説明する。尚、図3はギアユニット内蔵のコアレスモータを説明するが、ギアユニットの内容は省略している。
【0028】
外輪104のホイール7の中央部に回転電気機械108のケーシング1が嵌め込まれて固定されている。よって回転電気機械108の回転が外輪104を回転させる。ケーシング1には中央に固定軸2が貫通している。固定軸2はケーシング1に対して軸受支持されており、よってケーシング1は固定軸2に対して回動自在になる。ケーシング1内部にはギアユニット116が位置し、これを囲うようにコアレスモータのインナーヨーク113が円筒状に位置している。アウターヨーク114には直接又は間接に永久磁石112が一体に設けられている。永久磁石112はインナーヨーク113側に設けても良く、インナーヨーク113とアウターヨーク114の両方に設けられていても良い。永久磁石112とは間隙を持って非回転の円筒状コイル体111が配置され、円筒状コイル体111はコイル体支持部115によって固定軸に固定されている。円筒状コイル体111は、U,V,W相の三相からなる線材により形成されている。円筒状コイル体111を成形する際にはU,V,W各相を編み込んで均質化することが望ましく、その編み方の例として本発明者は先に特許第6989204号公報、特許第6948748号公報等の手法を編み出している。尚、リッツ線は細線の束なので仮に発熱しても熱拡散し易く、過度な発熱を回避できる。円筒状コイル体111の外側にはアウターヨーク114が円筒状に配置され、従って、固定軸2の同心円状にインナーヨーク113,円筒状コイル体111,永久磁石112、アウターヨーク114が順次配置されている。インナーヨーク113、アウターヨーク114、永久磁石112はロータを構成し、回転をギアユニット116へ伝えることになる。
【0029】
ケーシング1はギアユニット116を介して回転し、外輪104の孔部に挿入されて外輪側面部のホイール7に固定されているが、コアレスモータのインナーヨーク113の内側にギアユニット13が嵌め込まれている分、外輪104からギアユニット116が突出することが抑制され、実質的に回転電気機械のケーシング1の軸方向長さが外輪104とほぼ等しくなる。本例ではケーシング1の軸方向長さと外輪厚さの差は5cm以内になる。尚、コアレスモータは鉄心が無い分、軽量になるから、車椅子利用者にとっての操作性向上は勿論のこと、介助する人にとっては運搬が楽になる。
【0030】
この例では左右の駆動輪となる外輪104それぞれの中心軸が回転電気機械108の固定軸2を兼ねており、その外輪の真ん中に回転電気機械108を組み込んだインホイールモータを用いている。つまり左右の回転電気機械108Lと回転電気機械108Rが互いに独立に設けられている。そして、操作桿110と介助者用グリップ125とは操作切替を可能としている。
【0031】
介助者用グリップ125Lと125Rとはそれぞれが軸方向(前後方向)に可動するので、例えば、介助者用グリップ125Lよりも介助者用グリップ125Rの軸方向への押す動作量(可動量)が多ければ車椅子を右方向に回転するような走行が楽に可能になる。このように介助者が左右の介助者用グリップ125を操作することによって、電動車椅子の直進、左折、右折、回転が容易に達成することができる。なお、操作桿110は一つのハウジングに設けられており、その操作は左方向や右方向への進行を決めることができる。このような構成で、本発明では介助者用グリップ125の押し引き動作を、操作桿110の操作から切り離されて、ハンドル操作している介助者ができるようにしている。
【0032】
図4は、操作桿110と介助者用グリップ125と、モータドライブ128(モータを駆動制御する装置)との関係図である。モータドライブ128L、Rは左右車輪に取り付けられる回転電気機械108L、Rを制御する。モータドライブ128L、Rの駆動は、操作桿110内の操作桿/介助者用グリップ切替手段(以下、単に切替手段と記す)127によって、操作桿110か介助者用グリップ125L、125Rかのいずれかの指示でなされる。切替手段127は操作桿ハウジング内の制御装置126内に含まれる。
【0033】
介助者が介助者用グリップ125の操作でモータドライブ128L、Rを操作するには、切替手段127を介してモータドライブ128L、Rへ指令することになる。介助者がグリップ操作を行う場合には、切替手段127でグリップを選択することによって可能になる。従って、切替手段127でグリップを選択し、左右の介助者用グリップ125L、125Rのグリップ部材を同時に前方に押すことにより、上りスロープの移動に際しては回転電気機械108L、Rが加速され、下りスロープの移動時には減速されるのである。また、左右の押し引きで左旋回、右旋回も自在となる。各モータドライブ128L,Rと操作桿110とは、補機130(バッテリー及びリレー回路等)を介して接続されている。本例では24ボルトのバッテリーを用いている。このように、左右の介助者用グリップが独立操作可能となっており、この操作が切替手段127で簡単に操作可能となっているため、取り扱いが非常に便利なものとなっている。
【0034】
図4に示した切替の仕組みを図5の回路図で説明する。図4に示したように、操作桿ハウジング(制御装置126)には主電源のON/OFFスイッチと切替手段127と、高速/低速の切替スイッチとを備えており、操作桿110は左旋回、右旋回の動作指令を発するために、図中に便宜上、符号110L、110Rで示している。図5の右端に列記された記号は接続端子を意味しており、それぞれ、内容は次の通りである。上部の二つのスイッチは夫々上側が操作桿110L,110R、下側が介助者用グリップ125L、125Rである。端端子のL5V、R5Vは、制御用電源入力(5V)である。LSV_O、RSV_Oは、モータ回転数制御電圧出力である。SGNDは、制御用グランドである。LH_L、RH_Lは、高速/低速運転切替信号出力であり、操作桿/介助者用グリップの切替とは独立している。LH_L,RH_Lは、高速/低速切替スイッチがOFFで5Vになり高速走行となり、高速/低速切替スイッチをONにするとSGNDに繋がって0V(ゼロボルト)になるから低速走行になる。主電源の端子はPWOとPGNDになる。
【0035】
操作桿/介助者用グリップ切替スイッチが110L、110Rに入った状態であれば回路図の線を辿ればわかるように110LはL5V、SGND、LSV_Oと繋がり、110RはR5V、SGND、RSV_Oと繋がる。そして切替スイッチが介助者用グリップの125L,125Rに入った状態になれば、125LはLGSV_Iに繋がっているからLGSV_IがLSO_Vに繋がることになり、125RはRGSV_Iに繋がっているからRGSV_IがRSV_Oに繋がることになる。グリップ側端子LGHiはL5Vに、同じくRGHiはR5Vに接続し、グリップ側端子LGLo、RGLoは夫々SGNDに接続することになる。
【0036】
L5V、LSV_O、SGND、LH_Lは、モータドライバー(L)に接続されてモータ(L)を動作する。同様にR5V、RSV_O、SGND、RH_Lはモータドライバー(R)に接続されてモータ(R)を動作する。介助者用グリップ125L、125Rは夫々LGHi、LGSV_I、LGLoと、RGHi、RGSV_I、RGLoを具備している。 こうして介助者用グリップの操作は操作桿の操作に置き換わることになる。尚、高速/低速切替にてLH_LとRH_LかSGNDに繋がる。
【0037】
このような介助者用グリップ125は、介助者を必要とする電動車としての車椅子の左右ハンドル103(図1参照)に取り付けることにより、介助者の操作運転を助けることになる。また、介助者用グリップ125を左右の車両ハンドル103に取り付け、車輪に取り付けられるモータL、Rを独立操作可能であるため利便性が増すとともに、切替手段127(図4、5参照)にて操作する人を簡単に介助者側に切り替えることができる。 尚、 斯かる操作機構は電動車椅子だけでなく、介助者と必要とする車両、例えばベビーカーなどにも適用できる。
【0038】
以上により、本例によれば、ケーシング1はギアユニット116を介して回転し、外輪104の孔部に挿入されて外輪側面部のホイール7に固定されているが、コアレスモータのインナーヨーク113の内側にギアユニット116が嵌め込まれている分、外輪104からギアユニット116が突出することが抑制され、実質的に回転電気機械のケーシング1の軸方向長さが外輪104とほぼ等しくなる。本例ではケーシング1の軸方向長さと外輪厚さの差は5cm以内になる。尚、コアレスモータは鉄心が無い分、軽量になるから、車椅子利用者にとっての操作性向上は勿論のこと、介助する人にとっては運搬が楽になる。
【0039】
以上による電動車椅子を座面にて折り畳んだ状態を図6に示す。固定軸2を車椅子本体に付ける部分131以外つまりケーシングはフレーム102よりも内側には出ていない。
【0040】
(回転電気機械の工夫1;グリースジャケット)
図7は本発明に適用する回転電気機械の一例であり、ケーシング1(モータとギアユニットとを覆うハウジングで、後述するように電動移動体の動輪のホイール中央部の孔に嵌め込まれる回転部。以下、同じ)の蓋を外した状態を示している。符号2は固定軸、符号4はプラネタリギアで、本例ではプラネタリギアを3つ用いている。これらプラネタリギア4の平面部の大半を塞ぐようにグリースジャケット3が配置されている。
【0041】
このグリースジャケット3は樹脂製で、表面が図8、裏側が図9のように成形されている。つまり、グリースジャケット3はプラネタリギア4の大径部分の歯面外周の円弧に沿う形で円弧上の内壁32が形成され、更に補強の為に外壁31が形成された二重壁構造になっている。
【0042】
本例ではプラネタリギア4の大径部分の歯面外周の円弧と内壁32との間隔は2mm以内に設定している。
このグリースジャケット3は、図10図11のように組み込まれる。そして図7に見るようにプラネタリギア4の平面部の殆ど(実質、固定軸2や各プラネタリギア4の回転軸及びネジ穴を除く、殆ど)を覆うように蓋の如く設置される。
【0043】
このグリースジャケット3を取り付け後、図12のステータアッセンブリの如くブラケット5でプラネタリギア4を抑え、かつ位置決めする。これにケーシング1の蓋をすれば図13図14のモータアッセンブリ状態になる。
図23に見るように、プラネタリギア4は大径部分41と小径部分42を備え、大径部分41はモータのロータ中央に設けた環状体8の歯に噛合うように配置している(図11、12、14参照)。環状体8は固定軸2を貫通するように孔を設けてあるが、固定軸2とは固着されておらず、よって回転自在となり、ロータの一部として回転する。また、小径部分42の歯はインターナルギア6の内歯に噛み合わさっている(図18参照)。
【0044】
図15は、図7とは逆側から見た図で、インナー側のグリースジャケット9を示している。グリースジャケット9は図16図17に示すようにプラネタリギア4の小径部分42の歯面外周に沿った円弧上の内壁92と補強用の外壁91で形成されている。
【0045】
グリースジャケット9は図18図19に示すようにケーシング1に嵌め込まれる。本例では小径部分42の歯面外周の円弧と内壁92との間隔は2mm以内に設定している。そしてアウター側と同様に固定軸2の貫通部など必要不可欠な個所を除いて大部分を塞いでおり、加えて小径部分42に至るプラネタリギア4の軸部分も軸に沿うようにして覆っている。
図20図13とは逆側から見ている。
【0046】
以上の構成により、どのように動作するかを説明する。コアレスモータの固定軸2上に設けたギアユニット116は円筒状のコアレスモータのロータの内側に納まっている(図10及び後述の図18参照)。固定軸2の一部がロータ中央に設けた環状体8の孔部を貫通し、環状体8はロータの回転によって回転し、環状体8の外周には歯車溝が有り、プラネタリギア4の大径部分41にロータの回転を伝える。
【0047】
インターナルギア6の内歯に3個のプラネタリギア4の小径部分の歯が噛合っており、プラネタリギア4の回転によってインターナルギア6が回転する。
インターナルギア6はケーシング1に固定されているのでケーシング1が回転する。するとケーシング1が固定されているホイール7も回転するから外輪が動くことになる。
本例によれば、ギアユニット部のグリースの枯渇が防げるという効果がある。尚、蓋による静音化という副次的効果もある。
【0048】
(回転電気機械の工夫2;2点支持)
図21及び図22は本発明に適用する回転電気機械の一例であり、ケーシング1の内部の部品配置を示している。回転電気機械の工夫1で既出の記載は省略する。
【0049】
プラネタリギアの小径部分42はインターナルギア6の内歯に噛み合うように配置され、大径部分41はコアレスモータのロータ中央に突出して形成された環状体8の外周の歯に噛み合うように配置されている。このプラネタリギア4の外観は図23の通りになる。本例では歯面がヘリカルギアになっている。
【0050】
ケーシング1内にはモータの土台部120が形成されており、その上に大径部分41が納まるように配置される。符号121、122は軸受け部(本例ではベアリング使用)である。
【0051】
組み立ての様子を図24で説明すると、インターナルギア6(図24には現れていない)を備えたケーシング7内に3つのプラネタリギア4の小径部分42をケーシング内部の土台部120の各孔123を夫々貫通させてインターナルギア6の内歯に噛み合うように配置される。そしてプラネタリギア4の大径部分42側はグリースジャケット3を介してブラケット5で抑えられる。ブラケット5はケーシング1の底部に固定される。このブラケット5の孔51にプラネタリギア4の大径部分41側の軸端が貫通する際に、各孔51の内側の軸受け部122を介在させることになり、ここがプラネタリギア4の一方の支持点となる。
【0052】
本例ではプラネタリギア4は大径部分41と小径部分42の間の軸上に軸受け部121を備えており、この軸受け部121の外形は孔123に篏合し密接されるので、ここがプラネタリギア4のもう一方の支持点となる。尚、このように支持点がプラネタリギア4の軸方向の少なくとも2点以上に存在すれば、各軸受け部設置の仕方や数は問わない。すなわち2点で支持すれば軸方向のブレが抑制される。
【0053】
プラネタリギア4の大径部分41はモータのロータ中央に設けた環状体8の歯に噛合うように配置しており、環状体8は固定軸2を貫通するように孔を設けてあるが、固定軸2とは固着されておらず、よって回転自在となり、ロータの一部として回転する。
【0054】
以上の構成により、どのように動作するかを説明する。コアレスモータの固定軸2上に設けたギアユニット116は円筒状のコアレスモータのロータの内側に納まっている。固定軸2の一部がロータ中央に設けた環状体8の孔部を貫通し、環状体8はロータの回転によって回転し、環状体8の外周には歯車溝が有り、プラネタリギア4の大径部分41にロータの回転を伝える。
【0055】
インターナルギア6の内歯に3個のプラネタリギア4の小径部分の歯が噛合っており、プラネタリギア4の回転によってインターナルギア6が回転する。
各プラネタリギア4は2点で支持しているので精度良く位置出しされ、組み立ても容易であるし稼働中のロータへの接触による故障も防げる。
【0056】
(回転電気機械の工夫3:インターナルギアの樹脂化)
図25は本発明に適用する回転電気機械の一例であり、内部構造を説明する部分断面図であり、図26図27はこの回転電気機械に組み込むインターナルギアの説明をする図になる。回転電気機械の工夫1、2で既出の記載は省略する。
【0057】
インターナルギア6は樹脂製(本例では繊維強化プラスチック)の内歯形成環61と金属製(本例では鋼製)フランジ62とを取付穴64を介して螺旋63により締結している。
プラネタリギア4の大径部分41はモータのロータ中央に設けた環状体8の歯に噛合うように配置しており、環状体8は固定軸2を貫通するように孔を設けてあるが、固定軸2とは固着されておらず、よって回転自在となり、ロータの一部として回転する。
【0058】
以上の構成により、インターナルギア6の内歯が樹脂製なので金属歯との噛合い時に金属製の軋み音の発生が樹脂の靭性によって抑制され、こうして静音化が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば電動車椅子利用者及び介助者の負担が軽減される。そして本発明は電動車椅子に限らず電動自転車、いわゆるシニアカー等、広く社会展開ができる。
【符号の説明】
【0060】
1…ケーシング、2…固定軸、3…グリースジャケット、4…プラネタリギア、5…ブラケット、6…インターナルギア、7…ホイール、8…ロータの一部の環状体、9…グリースジャケット、10…車椅子、31…外壁、32…内壁、41…大径部分、42…小径部分、91…外壁、92…内壁、104…外輪、108…回転電気機械、111…円筒状コイル体、112…永久磁石、113…インナーヨーク、114…アウターヨーク、116…ギアユニット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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