(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152489
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】手術補助器具
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
A61B18/14
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066715
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】514107299
【氏名又は名称】株式会社 コスミック エム イー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 光夫
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK04
4C160KK13
4C160KK36
4C160KK57
4C160MM43
(57)【要約】
【課題】電気メス及び電気メスとして機能するロボットハンドを用いて容易にバジングを実施することができる手術補助器具を提供すること。
【解決手段】手術補助器具(10)は、患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に一方の端部(113)が挿入される主軸(11)であって、少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成された主軸(11)と、前記一方の端部(113)に設けられた導体製のチップ(12)と、前記チップ(12)を前記一方の端部(113)に接続する接続部材(112)と、前記主軸(11)の側方に突出するように前記接続部材(112)に設けられた把持部(13)であって、手術器具により把持される把持部(13)と、を備え、前記把持部(13)は、前記チップ(12)と導通した導体により一部又は全部が構成されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡的外科手術において使用される手術補助器具であって、
患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に一方の端部が挿入される主軸であって、少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成された主軸と、
前記一方の端部に設けられた導体製のチップと、
前記チップを前記一方の端部に接続する接続部材と、
前記主軸の側方に突出するように前記接続部材に設けられた把持部であって、手術器具により把持される把持部と、を備え、
前記把持部は、前記チップと導通した導体により一部又は全部が構成されている、
ことを特徴とする、手術補助器具。
【請求項2】
前記チップの形状は、回転体状である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の手術補助器具。
【請求項3】
長さが前記主軸よりも短い筒状のガイドであって、内側面が前記主軸の外側面に沿ってスライドするガイドを更に備え、
前記ガイドは、前記主軸の少なくとも一部を構成する可撓性を有する材料よりも可撓性が低い材料により構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の手術補助器具。
【請求項4】
前記主軸には、前記一方の端部から他方の端部までつながる貫通孔であって、前記他方の端部が排気用のパイプと接続されている貫通孔が設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の手術補助器具。
【請求項5】
前記排気用のパイプの排気を制御する開閉機構を更に備えている、
ことを特徴とする請求項4に記載の手術補助器具。
【請求項6】
前記他方の端部において、前記貫通孔には、前記排気用のパイプとともに、洗浄液を供給する洗浄液用のパイプと、液体を吸引する吸引用のパイプと、が接続されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の手術補助器具。
【請求項7】
前記主軸の前記一方の端部を含む一部区間は、前記主軸の他の区間より高い可撓性を有する材料により構成されており、
前記一部区間の屈曲を任意に調整する屈曲調整機構を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の手術補助器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡的外科手術において使用される手術補助器具に関する。
【背景技術】
【0002】
胆嚢摘出術、大腸切除術、卵巣膿腫摘出手術、及び子宮全摘出術といった手術では、腹腔内に内視鏡の一態様である腹腔鏡を挿入して行う腹腔鏡手術(あるいは腹腔鏡下手術)と呼ばれる手法が普及している。腹腔鏡手術において、手術者(例えば執刀医)は、患者の腹部に数か所設けた小さな穴である人工開口部から腹腔内を観察するための腹腔鏡及び手術器具を挿入し、腹腔鏡により得られる腹腔内の映像を見ながら、手術器具を患者の体外から操作することにより手術を行う。
【0003】
上述のような腹腔鏡手術において用いられる手術器具の例としては、電気メス(非特許文献1~3参照)や鉗子などが挙げられる。電気メスは、先端に設けられた導電性のチップに供給する高周波電流の大小に応じて、患者の生体組織を切開したり止血したりすることができる。また、電気メスは、導電性のチップを他の手術器具に接触させることにより、電気メスと他の手術器具とを導通させ、高周波電流を供給するバジングを実施することができる。なお、以下においては、高周波電流を発生させる手術器具を導体により構成される鉗子等の手術器具に接触させることで、高周波電流を発生させる手術器具と当該鉗子等の手術器具とを導通させ、高周波電流を供給することをバジングとも称する。これらの手術器具は、患者の体外から操作するという特性上、患者の体外にて手術者が操作するハンドル部分と、患者の体内に挿入される先端部とをつなぐシャフトを備えている。なお、本願発明の一態様が備えている主軸は、上記シャフトに相当する。
【0004】
また、腹腔鏡手術を支援するロボットも知られている(非特許文献4参照)。このロボットは、複数のアームを備えている。各アームの先端には、電気メスや鉗子などとして機能するロボットハンドが装着されている。なお、電気メスとして機能するロボットハンドが装着されるアームは、高周波電流を供給可能なように構成されている。高周波電流を供給可能なアームに電気メスとして機能するロボットハンドを装着することによって、切開及び止血を実施することができる。
【0005】
上述したようなロボットハンドは、患者の腹腔内に挿入され、手術者がロボットを操縦することにより手術を行う。以下において、このようなロボットを利用した腹腔鏡手術のことをロボット手術とも呼ぶ。
【0006】
なお、上述したような手術器具及びロボットは、腹腔鏡手術に加えて胸腔鏡手術にも適用可能である。胸腔鏡手術においては、胸腔内に内視鏡の一態様である胸腔鏡を挿入して手術を行う。また、上述したような手術器具及びロボットは、腹腔鏡手術及び胸腔鏡手術以外の内視鏡的外科手術にも適用可能である。ただし、以下においては、腹腔鏡手術を例とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】[online]、Medtronic社、[令和4年8月9日検索]、インターネット〈URL:https://www.medtronic.com/covidien/en-us/products/electrosurgical-instruments/laparoscopic-instruments.html〉
【非特許文献2】[online]、Ethicon endo Surgery社、[令和4年8月9日検索]、インターネット〈URL:https://www.ethicon.jp/products/energy/probeplusII.html〉
【非特許文献3】[online]、CONMED社、[令和4年8月9日検索]、インターネット〈URL: https://www.conmed.com/en-DE/Products/Surgical-and-Medical-Instruments/Suction-Irrigation-and-Tubing/suctionirrigation/universal-plus-handpieces-and-reusable-electrodes〉
【非特許文献4】[online]、Intuitive Surgical社、[令和4年8月9日検索]、インターネット〈URL: https://www.intuitive.com/en-us/products-and-services/da-vinci〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電気メス及び電気メスとして機能するロボットハンドは、生体組織を切開することを主たる目的として設計されているため、バジングに適しているとは言えない。換言すれば、電気メス及び電気メスとして機能するロボットハンドを用いてバジングを実施することは難しい。
【0009】
本発明の一態様に係る手術補助器具は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気メス及び電気メスとして機能するロボットハンドを用いて容易にバジングを実施することができる手術補助器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係る手術補助器具は、内視鏡的外科手術において用いられる手術補助器具である。上記の課題を解決するために、本手術補助器具は、患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に一方の端部が挿入される主軸であって、少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成された主軸と、前記一方の端部に設けられた導体製のチップと、前記チップを前記一方の端部に接続する接続部材と、前記主軸の側方に突出するように前記接続部に設けられた把持部であって、手術器具により把持される把持部と、を備え、前記把持部は、前記チップと導通した導体により一部又は全部が構成されている。
【0011】
上記の構成によれば、高周波電流を供給可能な手術器具(例えば電気メス、電気メスとして機能するロボットハンド等)を用いて把持部の導体により構成された部分を把持することによって、把持部と導通する導体製のチップを用いて容易にバジングを実施することができる。
【0012】
なお、本手術補助器具においては、主軸の少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成されている。そのため、主軸が剛直なシャフトにより構成されている場合と比較して、主軸とアームとの間における干渉を生じにくくすることができるという副次的な効果を奏する。
【0013】
また、本手術補助器具は、バジングに使用されない場合に、腹腔内の任意の場所に載置しておくことができる。本手術補助器具は、上述したように、主軸の少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成されているため、腹腔内に載置する場合の自由度を高めることができるという副次的な効果を奏する。
【0014】
また、本発明の第2の態様に係る手術補助器具においては、上述した第1の態様に係る手術補助器具の構成に加えて、前記チップの形状は、回転体状である、構成が採用されている。
【0015】
上記の構成によれば、本手術補助器具が備えるチップは、腹腔内において患部または患部近傍の組織と接する面積をより増やすことができる。このように構成されたチップは、バジングに好適である。
【0016】
また、本発明の第3の態様に係る手術補助器具においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る手術補助器具の構成に加えて、長さが前記主軸よりも短い筒状のガイドであって、内側面が前記主軸の外側面に沿ってスライドするガイドを更に備え、前記ガイドは、前記主軸の少なくとも一部を構成する可撓性を有する材料よりも可撓性が低い材料により構成されている、構成が採用されている。
【0017】
上記の構成によれば、ガイドを主軸の一方の端部の方向へスライドさせることによって、主軸が有する可撓性を一時的に低下させることができる。したがって、患者の近くに位置する手術者又は手術補助者は、主軸の一方の端部を容易に所望の位置に移動させることができる。
【0018】
また、本発明の第4の態様に係る手術補助器具においては、上述した第1の態様から第3の態様の何れか一態様に係る手術補助器具の構成に加えて、前記主軸には、前記一方の端部から他方の端部までつながる貫通孔であって、前記他方の端部が排気用のパイプと接続されている貫通孔が設けられている、構成が採用されている。
【0019】
上記の構成によれば、貫通孔の他方の端部に排気機構を接続することにより、主軸の一方の端部から腹腔内に存在するガス及びミストを排気することができる。すなわち、本手術補助器具を用いて患部を処置する場合には、その患部の直近に排気用のポートを設けることができることを意味する。したがって、バジング時に患部において生じ得るガス及びミストを効率よく排気可能であり、これらのガス及びミストが腹腔内に充満することを抑制することができるので、腹腔鏡は、より鮮明な腹腔内の映像を撮影することができる。なお、腹腔内において、ガス及びミストは、患部の切開時にも生じ得る。本手術補助器具は、バジングに使用されない時であっても患部の近傍に載置しておくことができるので、切開時に生じ得るガス及びミストも抑制することができる。
【0020】
なお、上述した排気機構の例としては、手術室に備え付けられている排気ラインが挙げられる。また、手術室に排気ラインが備え付けられていない場合には、真空ポンプに代表されるポンプを排気機構として用いることもできる。
【0021】
また、本発明の第5の態様に係る手術補助器具においては、上述した第1の態様から第4の態様の何れか一態様に係る手術補助器具の構成に加えて、前記排気用のパイプの排気を制御する開閉機構を更に備えている、構成が採用されている。
【0022】
上記の構成によれば、開閉機構によって排気用のパイプによる排気を制御することができる。そのため、患者の近くに位置する手術者は、手術補助者に依頼することなく、自身で排気のタイミングを調整することができる。したがって、本手術補助器具は、ロボット手術ではない内視鏡的外科手術に好適である。
【0023】
また、本発明の第6の態様に係る手術補助器具においては、上述した第1の態様から第5の態様の何れか一態様に係る手術補助器具の構成に加えて、前記他方の端部において、前記貫通孔には、前記排気用のパイプとともに、洗浄液を供給する洗浄液用のパイプと、液体を吸引する吸引用のパイプと、が接続されている、構成が採用されている。
【0024】
上記の構成によれば、手術補助器具に洗浄機能及び吸引機能を付与することができる。したがって、腹腔内に挿入する手術器具の数、アームの数又はアームの入れ替え頻度を抑制することができる。
【0025】
また、本発明の第7の態様に係る手術補助器具においては、上述した第1の態様から第6の態様の何れか一態様に係る手術補助器具の構成に加えて、前記主軸の前記一方の端部を含む一部区間は、前記主軸の他の区間により高い可撓性を有する材料により構成されており、前記一部区間の屈曲を任意に調整する屈曲調整機構を更に備えている、構成が採用されている。
【0026】
上記の構成によれば、手術者は、屈曲調整機構を用いて、主軸の一方の端部を含む一部区間を任意に屈曲させることができる。したがって、本手術補助器具は、主軸の一方の端部を所望の位置に移動させる場合の精度を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様に係る手術補助器具は、電気メス及び電気メスとして機能するロボットハンドを用いて容易にバジングを実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)は、本願発明の一実施形態に係る手術補助器具の斜視図であり、(b)は、同図(a)に示した手術補助器具が備えている主軸の断面図である。
【
図2】
図1(a)に図示する手術補助器具が備えているチップ及び把持部の斜視図である。
【
図3】
図1(a)に図示する手術補助器具が備えているグリップの一変形例の斜視図である。
【
図4】
図1(a)に図示する手術補助器具を腹腔鏡と併用する腹腔鏡手術の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔手術補助器具の概要〕
患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に内視鏡及び手術器具を挿入して行う外科手術(以下、「内視鏡的外科手術」とも記載する)において、手術者(例えば執刀医)は、内視鏡により得られる体内(例えば患部)の映像を見ながら、複数の手術器具を用いて手術を行う。なお、患者の体の開口部は、内視鏡的外科手術のために患者の体の表面に設けられた人工開口部であることが好ましい。また、患者の体の開口部は、口、肛門、尿道、鼻、耳等の自然開口部であってもよい。手術補助器具10は、このような内視鏡的外科手術において、内視鏡と併用することに適した手術器具である。内視鏡の具体例としては、腹腔鏡、胸腔鏡、子宮鏡、尿管鏡、甲状腺内視鏡、乳房内視鏡、及び関節鏡等が挙げられる。また、自然開口部を介して体内に挿入される内視鏡の具体例としては、上部消化管内視鏡、下部消化管内視鏡、咽頭鏡、耳鏡、及び鼻鏡等が挙げられる。上部消化管内視鏡は、胃カメラとも呼ばれ、下部消化管内視鏡は、大腸内視鏡又は大腸カメラとも呼ばれる。ただし、手術補助器具10と併用される内視鏡は、例示した内視鏡に限定されるものではなく、適宜選択することができる。なお、本実施形態においては、内視鏡の一態様である腹腔鏡を使用する腹腔鏡手術を例にして、手術補助器具10について説明する。ただし、本発明の一態様においては、手術補助器具10と腹腔鏡とを併用する場合、及び、手術補助器具10と胸腔鏡とを併用する場合を除き得る。すなわち、本発明の一態様においては、手術補助器具10を腹腔鏡手術において使用する場合、及び、手術補助器具10を胸腔鏡手術において使用する場合を除き得る。
【0030】
本実施形態において、手術補助器具10は、排煙機能、洗浄機能、及び吸引機能を有する。排煙機能は、腹腔内のガス及びミストの少なくとも何れか排気する機能である。洗浄機能は、洗浄液を吐出することにより腹腔内を洗浄する機能である。吸引機能は、腹腔内に存在している液体を吸引する機能である。
【0031】
〔手術補助器具の構成〕
本発明の一実施形態に係る手術補助器具10の構成について、
図1(a)、
図1(b)、
図2及び
図3を参照して説明する。
図1(a)は、手術補助器具10の斜視図である。
図1(b)は、手術補助器具10が備えている主軸11の断面図である。なお、
図1(b)は、主軸11の中心軸に直交する断面である横断面であって、
図1(a)に図示するA-A’線を通る横断面における断面図である。
図2は、手術補助器具10が備えているチップ12及び把持部13の斜視図である。
【0032】
図1(a)に示すように、手術補助器具10は、主軸11、チップ12、把持部13、ガイド14、コネクター15、グリップ16、排気パイプ17、洗浄パイプ18、及び吸引パイプ19を備えている。
【0033】
<主軸>
図1(a)に示すように、主軸11は、メインチューブ111、及び接続部材112を備えている。
【0034】
(メインチューブ)
主軸11の主たる部分を構成するメインチューブ111は、円筒形状であり、且つ、可撓性を有するチューブである。メインチューブ111を構成する材料は、可撓性を有するものであればよく、樹脂材料が好適である。樹脂材料の具体例としては、塩化ビニルが挙げられる。ただし、メインチューブ111を構成する材料は樹脂に限定されず、可撓性を有する材料のなかから適宜選択することができる。
【0035】
本実施形態では、メインチューブ111として、全体が可撓性を有するように構成されたチューブを採用している。ただし、本発明の一態様において、メインチューブ111は、少なくともその一部が可撓性を有していればよい。可撓性を有する材料によりメインチューブ111の一部を構成し、且つ、剛直な材料によりメインチューブ111の残りの部分を構成する場合、後述する端部113を含む一部区間を、可撓性を有する材料により構成することが好ましい。この場合、当該一部区間の長さは、適宜定めることができるが、例えば、メインチューブ111の長さ(例えば、後述するように700mm)の半分以下であることが好ましい。このようにメインチューブ111を構成することにより、腹腔内に挿入されるメインチューブ111に可撓性を持たせつつ、体外に位置するメインチューブ111の大部分を剛直に構成することができる。メインチューブ111の全体もしくは少なくとも一部に可撓性を持たせることによって、メインチューブ111において可撓性を有する部分を屈曲させることができる。そのため、手術補助器具10は、手術者がチップ12を腹腔内に配置するときにメインチューブ111が腹腔鏡の画角に含まれてしまうことを防ぐことができる。なお、メインチューブ111のうち端部113を含む一部区間に可撓性を持たせる場合には、メインチューブ111の全区間に可撓性を持たせる場合と比較して、腹腔内におけるチップ12の位置を腹腔外(すなわち患者の体外)から容易に調整できる。
【0036】
なお、端部113を含む一部区間を、可撓性を有する材料により構成する場合、手術補助器具10は、その一部区間におけるメインチューブ111の屈曲具合を任意に調整する屈曲調整機構を備えていることが好ましい。この屈曲調整機構の一例としては、ワイヤーと、当該ワイヤーの張り具合を調整する巻き取り機構と、を備えたものが挙げられる。この屈曲調整機構においては、ワイヤーの遠位端は、端部113の近傍に固定されており、ワイヤーの中途区間は、メインチューブ111の内部空間(以下、貫通孔THと称する。)に沿って配線されている。また、ワイヤーの近位端は、巻き取り機構に固定されており、巻き取り機構は、後述するグリップ16に固定されている。巻き取り機構は、レバーを用いてワイヤーを巻き取る手動式であってもよいし、モーターを用いてワイヤーを巻き取る自動式であってもよい。
【0037】
巻き取り機構がワイヤーを巻き取っていない状態では、メインチューブ111は、まっすぐな状態を保つ。一方、巻き取り機構がワイヤーを巻き取るにしたがって、ワイヤーの遠位端が固定されている端部113の近傍は、グリップ16の方向に向かって引っ張られる。そのため、可撓性を有する材料により構成されているメインチューブ111の一部区間は、巻き取り機構により巻き取られたワイヤーの長さに応じて、屈曲する。
【0038】
なお、このような屈曲調整機構は、メインチューブ111の一部区間を一方向に屈曲させることができる。したがって、手術補助器具10に対して、このような屈曲調整機構を複数設けることによって、メインチューブ111の一部区間を複数の方向に屈曲させることができる。
【0039】
メインチューブ111の外径は、腹腔鏡手術において手術補助器具10のチップ12を腹腔内に挿入する際に用いるトロカーの内径に応じて、適宜定めればよい。トロカーとは、患者の体に設けられた人工開口部に挿入される器具であり、患者の体外と体内とを繋げる器具である。手術補助器具10は、このトロカーを介してチップ12を体外から腹腔内に挿入する。例えば、内径が5mmであるトロカーを用いて手術補助器具10を腹腔内に挿入する場合、メインチューブ111の外径は、4mm程度であることが好ましい。手術補助器具10の場合には、メインチューブ111の外側に後述するガイド14が更に設けられており、ガイド14の外径がトロカーの内径(例えば5mm)未満であることが求められるためである。ガイド14を省略する場合、メインチューブ111の外径は、5mm未満の範囲内で適宜定めることができる。なお、腹腔鏡手術においてトロカーを使用しない場合には、人工開口部又は自然開口部に直接チップ12を挿入してもよい。この場合、メインチューブ111の外径は人工開口部又は自然開口部の大きさに合わせて任意に定め得る。
【0040】
メインチューブ111の長さは、限定されず適宜定めることができる。本実施形態では、メインチューブ111の長さとして700mmを採用している。成人の腹腔鏡手術に手術補助器具10を用いる場合、メインチューブ111の長さは、600mm以上1000mm以下であることが好ましい。
【0041】
なお、メインチューブ111においては、一方の端部であって、後述するチップ12に近接する側の端部を端部113と称する。
図1(a)においては、後述する接続部材112により覆われており端部113は見えない。そのため、
図1(a)では、符号113の引き出し線を破線で図示している。また、メインチューブ111において、他方の端部は、後述するコネクター15を介して後述するグリップ16のグリップ本体161内部に位置する。なお、以下においては、前記他方の端部の近傍であって、コネクター15に挿入されている部分を接続部114と称する。
【0042】
上述のメインチューブ111の他方の端部は、グリップ本体161の内部において、3つに分岐するコネクターを介して、排気パイプ17、洗浄パイプ18及び吸引パイプ19に接続されている。排気パイプ17は、排気用のパイプの一例である。
【0043】
接続部材112は、円筒形状であり、且つ、導体により構成されている。接続部材112は、端部113を覆うようにメインチューブ111にかぶせた状態で固定されている。本実施形態において、接続部材112は、銅製である。また、本実施形態において、接続部材112は、圧着することによってメインチューブ111に固定されている。ただし、接続部材112を構成する導体、接続部材112の長さ、及び、接続部材112をメインチューブ111に固定する手法は、限定されず、適宜定めることができる。なお、接続部材112を構成する導体としては、導電性が高い金属が好ましく、このような金属の例としては、上述した銅の他にアルミニウム、ステンレス鋼が挙げられる。
【0044】
メインチューブ111の端部113には、チップ12が設けられている。
【0045】
(主軸の内部構造)
図1(b)に示すように、主軸11の内部には、端部113から他方の端部まで貫通する貫通孔T
Hが設けられている。
(主軸の変形例)
上述したように、主軸11は、内部に貫通孔T
Hが設けられた構成を採用している。ただし、主軸11は、少なくともその一部が可撓性を有する材料により構成されており、且つ、貫通孔T
Hを内包していれば、どのように構成されていてもよい。例えば、主軸11は、可撓性を有する柱状部材であって、排気用の貫通孔、吸引用の貫通孔及び洗浄用の貫通孔が設けられた柱状部材により構成されていてもよい。また、主軸11は、貫通孔T
Hに、排気用のサブチューブ、吸引用のサブチューブ及び洗浄用のサブチューブを収容するように構成されていてもよい。
【0046】
<チップ>
図2に示すように、チップ12は、メインチューブ111の端部113であって、接続部材112により覆われている端部113に設けられている。また、チップ12は、接続部材112に対して固定されている。
【0047】
チップ12の形状は、回転体状である。本実施形態では、回転体状の一例として、
図2に示すような弾丸形状のチップ12を採用したが、チップ12の形状はこれに限定されない。回転体状の具体例としては、球状等が挙げられる。
【0048】
チップ12の直径は、トロカーの内径に応じて適宜定められる。なお、ここで、チップ12の直径とは、回転体状であるチップ12の横断面(チップ12の回転軸に直交する断面)における直径を意味する。例えば内径8mmのトロカーを用いる場合は、チップ12の直径は8mm未満であればよい。本実施形態においては、チップ12の直径として、7mmを採用している。なお、トロカーを使用しない場合には、チップ12の直径は、人工開口部の大きさに合わせて任意に定め得る。
【0049】
また、本実施形態においては、チップ12の材料として、アルミニウムを採用している。すなわち、本実施形態において、チップ12は、弾丸形状を有する導体製のチップである。なお、チップ12を構成する導体は、アルミニウムに限定されず、導体のなかから適宜選択することができる。
【0050】
チップ12には、1つの洗浄吸引ポート121と、複数の排気ポート122とが設けられている(
図2参照)。
【0051】
(洗浄吸引ポート)
洗浄吸引ポート121は、弾丸形状であるチップ12の中心を通り、且つ、チップ12を貫通するように設けられた貫通孔である。洗浄吸引ポート121は、メインチューブ111の内部空間とメインチューブ111の外部空間とを連通する。洗浄吸引ポート121の一対の開口のうち接続部材112から遠い側の開口121aは、チップ12の先端に位置している。また、洗浄吸引ポート121の一対の開口のうち接続部材112に近接する側の開口は、接続部材112の内部において、メインチューブ111の端部113に接続されている。なお、この開口は、
図2に図示されていないので符号を省略する。洗浄吸引ポート121を構成する貫通孔がメインチューブ111の中心軸と平行になるように、チップ12は、端部113に対して固定されている。
【0052】
洗浄吸引ポート121は、洗浄パイプ18及びメインチューブ111を用いて供給される洗浄液を、メインチューブ111の中心軸に沿う方向に吐出することができるとともに、メインチューブ111及び吸引パイプ19を用いて腹腔内に存在している液体を吸引することができる。
【0053】
(排気ポート)
排気ポート122は、洗浄吸引ポート121の周りを取り囲むように、且つ、等方的に設けられた複数の貫通孔により構成されている。排気ポート122の貫通孔は、洗浄吸引ポート121の貫通孔と同様に、メインチューブ111の内部空間とメインチューブ111の外部空間とを連通する。
【0054】
排気ポート122を構成する各貫通孔の一対の開口のうち接続部材112から遠い側の開口122aは、洗浄吸引ポート121の開口121aの周囲に設けられている。排気ポート122を構成する各貫通孔の一対の開口のうち接続部材112に近接する側の開口は、メインチューブ111の端部113と接続されている。
【0055】
排気ポート122の開口122aは、各開口122aの法線がチップ12の回転軸に交わるように、すなわち、各開口122aの法線が放射状になるように設けられている。この構成によれば、複数の開口122aの一部が患部に接触するなどの理由により閉塞された場合であっても、残りの開口122aは開放されたままとなる。したがって、このように構成されたチップ12を用いることにより、全ての開口122aが閉塞され排気できない状況に陥りにくくすることができる。
【0056】
排気ポート122は、手術中に腹腔内において発生し得るガス及びミストの少なくとも何れかを、そのガス及びミストの少なくとも何れかが発生する場所の近傍で排気することができる。したがって、手術補助器具10は、従来よりも効率よくガス及びミストの少なくとも何れかを排気することができる。
【0057】
<把持部>
図2に示すように、把持部13は、円筒形状である接続部材112の側面の一部に固定された筒状の部材である。本実施形態において、把持部13における横断面の形状は、楕円形である。ただし、把持部13の横断面の形状は、楕円形に限定されず、適宜定めることができる。
【0058】
図1(a)に示すように、端部113は、その軸方向(端部113の底面に対する法線方向)が、接続部材112の中心軸の方向(すなわち、メインチューブ111の中心軸の方向)とほぼ平行になるように、接続部材112の側面に固定されている。したがって、接続部材112が端部113を覆うように、接続部材112をメインチューブ111に対して固定した状態において、把持部13は、主軸11の側方に突出するように接続部材112に設けられている。さらに当該把持部13は円筒形の形状で、接続部材112の上部に接している。
【0059】
また、把持部13は、導体により構成されている。本実施形態において、把持部13は、接続部材112と同様に銅製であり、接続部材112とともに一体成型されている。したがって、把持部13は、接続部材112と導通しており、延いては、チップ12とも導通している。
【0060】
<ガイド>
図1(a)に示すように、ガイド14は、長さが主軸11よりも短い円筒状のパイプである。本実施形態では、ガイド14の長さとして400mmを採用している。成人の腹腔鏡手術に手術補助器具10を用いる場合、ガイド14の長さは、300mm以上500mm以下であることが好ましい。
【0061】
ガイド14は、その内径がメインチューブ111の外径を僅かに上回るように構成されている。また、ガイド14は、その外径がトロカーの内径(例えば5mm)を下回るように構成されている。
【0062】
ガイド14は、主軸11(本実施形態においてはメインチューブ111)を構成する可撓性を有する材料よりも可撓性が低い材料により構成されている。本実施形態では、ガイド14の材料として、厚みが2.0mmであるポリカーボネートを採用している。ただし、ガイド14の材料は、これに限定されず、メインチューブ111よりも低い可撓性を有する材料であればよい。ガイド14の材料の具体例としては、上述のポリカーボネートの他にシリコーン、エチレンプロピレンゴム、ステンレス鋼が挙げられる。
【0063】
ガイド14は、メインチューブ111よりも低い可撓性を有している。そのため、手術においてチップ12の先端を移動させるような場合に生じ得る力であって、メインチューブ111を撓らせる方向に作用する力が作用する場合に、ガイド14の撓り具合は、メインチューブ111の撓り具合よりも少ない。
【0064】
ガイド14は、その内側面がメインチューブ111の外側面を取り囲むように配置されている。すなわち、メインチューブ111は、ガイド14の内部空間を貫通している。したがって、ガイド14は、その内側面がメインチューブ111の外側面に沿って、
図1(a)に図示する矢印Bの方向(メインチューブ111の中心軸の方向)に沿ってスライド可能に構成されている。
【0065】
本実施形態においては、ガイド14として一定の長さのパイプを採用している。ただし、本発明の一態様においては、ガイド14は、伸縮可能なパイプであってもよく、ガイド14のコネクター15に近接する側の端部を、メインチューブ111に対して固定しておいてもよい。かかるガイド14のコネクター15から遠い側の端部をチップ12に近づける方向へ移動させることによって、メインチューブ111の露出している部分を減らすことができ、メインチューブ111の撓らない部分を増やすことができる。
【0066】
さらには、ガイド14を最大まで伸ばした場合の長さがメインチューブ111の長さと同程度になるように、ガイド14を設計しておけば、メインチューブ111のほぼ全てをガイド14で覆うことができる。この状態では、患者の近くに位置する手術者又は手術補助者は、主軸11の一方の端部113をより精度よく所望の位置に移動させることができる。
【0067】
なお、衛生上の観点から、手術補助器具10を構成する部材のうち、主軸11、チップ12、把持部13、ガイド14、及びコネクター15は、手術のたびに使い捨てられるディスポーザル式のものであることが好ましい。また、主軸11、チップ12、把持部13、ガイド14、及びコネクター15は、工場においてあらかじめ組み立てられた組み立て品であることが好ましい。
【0068】
<グリップ>
図1(a)に示すように、グリップ16は、グリップ本体161、洗浄用ボタン162、及び吸引用ボタン163を備えている。
【0069】
本実施形態では、グリップ本体161の形状は、円筒形状であるが、これに限定されない。本実施形態においては、グリップ本体161を構成する材料として、樹脂材料を採用しているが、これに限定されない。グリップ本体161を構成する材料は、例えば、金属材料でもよい。グリップ本体161は、手術者又は手術補助者が手術補助器具10を操作するときに握られる。
【0070】
また、グリップ本体161の内部空間には、排気パイプ17、洗浄パイプ18及び吸引パイプ19が挿通されている。
【0071】
手術補助器具10を使用する場合に、(1)排気パイプ17は、手術室に設けられている排気ポート(例えば気腹装置の排気ポート)に対して接続され、(2)洗浄パイプ18は、手術室に設けられている洗浄液の供給ポートに対して接続され、(3)吸引パイプ19は、手術室に設けられている液体吸引ポートに対して接続される。
【0072】
グリップ本体161の外側面には、洗浄用ボタン162、及び吸引用ボタン163が直線状に設けられている。本実施形態では、洗浄用ボタン162が吸引用ボタン163よりも主軸11側に配設されているが、洗浄用ボタン162、及び吸引用ボタン163の位置関係については、これに限定されるものではない。
【0073】
洗浄用ボタン162は、手術補助器具10の洗浄機能に関する。洗浄用ボタン162が押下されることにより、洗浄パイプ18及び貫通孔THを介して、チップ12の洗浄吸引ポート121から洗浄液が吐出される。
【0074】
吸引用ボタン163は、手術補助器具10の吸引機能に関する。吸引用ボタン163が押下されることにより、吸引パイプ19及び貫通孔THを介して、チップ12の洗浄吸引ポート121から腹腔内に存在している液体を吸引することができる。
【0075】
また、グリップ本体161には、排気パイプ17の排気を制御する開閉機構と、この開閉機構を制御するボタン又はダイヤルを設けることもできる。
【0076】
本実施形態において、上述の開閉機構は、排気パイプ17の内腔を完全開放又は完全閉鎖する弁であることが好ましい。しかしながらこれに限定されるものではなく、上述の開閉機構は、例えば、バルブであってもよい。
【0077】
(グリップの変形例)
グリップ16の一変形例であるグリップ16Aについて、
図3を参照して説明する。
図3は、グリップ16Aの斜視図である。
図3に示すように、グリップ16Aは、グリップ本体161A、洗浄用ボタン162A、及び吸引用ボタン163Aを備えている。グリップ16Aの形状は、ピストル形状であり、グリップ本体161Aの折れ曲がり部分には、洗浄用ボタン162A、及び吸引用ボタン163A並べられて配設されている。グリップ本体161A、洗浄用ボタン162A、及び吸引用ボタン163Aの各々の機能は、それぞれ、グリップ16のグリップ本体161、洗浄用ボタン162、及び吸引用ボタン163の機能に対応している。また、グリップ16Aは、コネクター15によって主軸11に接続されている。
【0078】
<コネクター>
コネクター15は、主軸11をグリップ16に接続するための部材である。本実施形態においては、
図1(a)に示すように、コネクター15は、主軸保持部151、及びローテーションノブ152を備えている。
【0079】
主軸保持部151の形状は、円筒である。本実施形態においては、主軸保持部151を構成する材料として、樹脂材料を採用しているが、これに限定されない。主軸保持部151を構成する材料は、例えば、金属材料でもよい。
【0080】
主軸保持部151の貫通孔には、メインチューブ111の接続部114が挿入された状態で固定されている。
【0081】
コネクター15においては、主軸保持部151がグリップ16にはめ込まれることによって主軸11とグリップ16とが接続されている。
【0082】
ローテーションノブ152は、主軸保持部151に対して、軸回りに回転可能な状態で取り付けられた管状部材である。ローテーションノブ152を回転させることによって、主軸11の方向を調整できる。
【0083】
また、手術補助器具10においては、主軸11、チップ12、把持部13、ガイド14、及びコネクター15の組み立て品に加えて、従来のストレートシャフトの主軸と、コネクター15との組み立て品をグリップ16に接続して使用することができる。この場合、従来のストレートシャフトの主軸と、コネクター15との組み立て品もディスポーザブル式であることが好ましい。また、主軸11、チップ12、把持部13、ガイド14、及びコネクター15の組み立て品は、従来のストレートシャフトの主軸とコネクター15との組み立て品と、グリップ16とを含めたパッケージ商品として販売してもよいし、両組み立て品をセットにしたリフィル商品として販売してもよいし、単体のリフィル商品として販売してもよい。
【0084】
(手術補助器具の機能の変形例)
手術補助器具10の一態様においては、排気機能、洗浄機能、及び吸引機能のうち少なくとも何れかを省略してもよい。手術補助器具10の一態様において、排気機能、洗浄機能、及び吸引機能のうち少なくとも何れかを省略する場合、上述の排気パイプ17、洗浄パイプ18、吸引パイプ19のうち省略する機能に対応するパイプを省略してもよい。それにより、手術補助器具10を小型化及び軽量化することができる。
【0085】
〔手術補助器具の使用例〕
【0086】
(把持部の使用例)
上述したような把持部13は、腹腔鏡手術において使用される種々の手術器具であって、先端に高周波電流を供給可能に構成された手術器具により把持される。例えば、腹腔鏡手術において、腹腔鏡手術を支援するロボットを利用する場合には、ロボットのアーム及び
図2に示すロボットハンドR
Hが腹腔内に挿入される。本実施形態では、ロボットハンドR
Hの先端に一対の爪Crを備える。手術者の一態様であるロボットの操縦者は、ロボットハンドR
Hの一対の爪Crを把持部13の内部空間に差し込んだ状態で、一対の爪Crを開くようにロボットを操縦することによりロボットハンドR
Hで把持部13を保持する。これにより、前記操縦者は、一対の爪Crに固定された把持部13を介してチップ12を保持することができるので、ロボットハンドR
Hを用いて腹腔内におけるチップ12の位置を制御することもできる。本実施形態においては、把持部13を把持する手術器具として、一対の爪Crを有するロボットハンドR
Hを例に挙げたが、本願発明はこれに限定されない。一対の爪Crのように先端を閉じたり開いたりすることができる手術器具であればよく、電気メス、手術用マニピュレータ、又は鉗子等により把持部13を把持してもよい。手術用マニピュレータ又は鉗子を使用する場合においても、先端部(例えば爪又ははさみ等)を把持部13の内部空間に差し込んだ状態で、当該先端部を開くことにより同様に把持部13を保持する。
【0087】
把持部13は、当該把持部13を保持している手術器具の先端に高周波電流を供給することによってバジングを行うことができる。例えば、把持部13を把持している手術器具が、先端に一対に爪Crを備えるロボットハンドRHであって、高周波電流を供給可能なロボットハンドRHである場合には、ロボットの操縦者は、上述のように、爪Crで把持部13を保持し、当該爪Crに高周波電流を供給することによってバジングを行うことができる。把持部13を把持している手術器具が電気メスである場合には、手術者は、電気メスから高周波電流を供給することによってバジングを行うことができる。
【0088】
(チップの位置制御のための使用例)
チップ12の位置を制御するためには、上述したような把持部13を使用する例の他に、ガイド14を使用する例が挙げられる。ガイド14を使用する例では、患者の近くに位置する手術者又は手術補助者が、ガイド14をチップ12に近づける方向に移動させてメインチューブ111の可撓性を一時的に低下させる。その後、グリップ16を操作することでチップ12を所望の位置に移動させることができる。
また、メインチューブ111が上述した屈曲機構を備えている場合においては、把持部13及びガイド14の少なくとも何れかを使用する位置制御に加え、屈曲機構を使用してもよい。例えば、把持部13及びガイド14の少なくとも何れかを使用し、所望の位置近傍にチップ12を移動させ、その後屈曲機構を用いてより細かなチップ12の位置制御をしてもよい。
(腹腔鏡手術における手術補助器具の使用例)
腹腔鏡手術における手術補助器具10の使用例について、
図4を参照して説明する。
図4は、手術補助器具10を腹腔鏡Lと併用する腹腔鏡手術の模式図である。
【0089】
図4に示すように、このような腹腔鏡手術においては、腹腔鏡Lは、その先端に設けられた撮像素子が、開口部Aに挿入されたトロカーTr1を介して、患者Pの腹腔C
Aの内部に挿入される。撮像素子が撮影した腹腔C
Aの内部の動画像は、手術室に配置されたモニターMに表示される。手術者又は手術補助者は、モニターMに表示される腹腔C
Aの内部の動画像を参照しながら腹腔鏡手術を実施する。
【0090】
腹腔鏡手術の実施時には、手術者又は手術補助者は、手術補助器具10及び鉗子Fを腹腔鏡Lとともに腹腔CAの内に挿入する。具体的には、手術補助器具10のメインチューブ111の端部113に設けられたチップ12を、開口部Aに挿入されたトロカーTr2を介して、腹腔CAの内部に挿入する。また、鉗子Fの先端に設けられたはさみを、開口部Aに挿入されたトロカーTr3を介して、腹腔CAの内部に挿入する。
【0091】
ここで、手術者又は手術補助者は、ガイド14をメインチューブ111の端部113側へとスライドさせて、メインチューブ111のうちガイド14に覆われた部分、すなわちメインチューブ111の端部113近傍が撓らないようにする。この状態で、手術者又は手術補助者は、チップ12を所望の位置に移動させる。
【0092】
チップ12を所望の位置に移動させた後、手術者又は手術補助者は、ガイド14をメインチューブ111の接続部114側(
図1(a)参照)へとスライドさせる。すると、手術者又は手術補助者は、メインチューブ111のうちガイド14に覆われていない部分を屈曲させることができるようになる。この状態で、手術者又は手術補助者は、メインチューブ111のうちガイド14に覆われていない部分を適宜屈曲させて、腹腔CA内において移動させる。手術者又は手術補助者は、モニターMに表示された腹腔CAの内部の動画像を見ながら、メインチューブ111のうちガイド14に覆われていない部分を移動させていき、メインチューブ111が腹腔鏡Lの画角に含まれないように調整する。
【0093】
上述のように手術補助器具10においては、ガイド14をメインチューブ111の端部113側へとスライドさせて、メインチューブ111のうちガイド14に覆われた部分、すなわちメインチューブ111の端部113近傍が撓らないようにできる。これにより、メインチューブ111があたかも可撓性を持たない剛直なシャフトのように振る舞うため、手術者又は手術補助者は、チップ12を容易に所望の位置に移動させることができる。
【0094】
加えて、手術補助器具10においては、ガイド14をメインチューブ111の接続部114側へとスライドさせておくことで、メインチューブ111のうちガイド14に覆われていない部分を屈曲可能な状態にできる。これにより、メインチューブ111のうちガイド14に覆われていない部分を屈曲させて、腹腔CA内において自在に移動させることが可能となり、メインチューブ111が腹腔鏡Lの画角に含まれることを防ぐことができる。
【0095】
ここで、トロカーTr3には、送気配管PL1を介して、気腹装置DPの送気ポートP1が接続されている。また、トロカーTr1には、吸引配管PL2を介して、気腹装置DPの吸引ポートP2が接続されている。
【0096】
吸引配管PL2の途中には、Y字コネクターを挿入することにより、分岐点PBが設けられている。分岐点PBには、手術補助器具10の排気パイプ17が接続されている。したがって、本使用例においては、気腹装置DPの吸引ポートP2を用いて、トロカーTr1からの排気だけでなく、チップ12の洗浄吸引ポート121からの排気も併せて実施する。
【0097】
なお、気腹装置DPは、腹腔CAの内部の圧力があらかじめ設定された圧力になるように、送気量及び吸引量を調節する。そのため、本使用例においては、トロカーTr1からの排気に加えて、チップ12の洗浄吸引ポート121からの排気を行う場合であっても、腹腔CAの内部の圧力をあらかじめ設定された圧力に保つことができる。
【0098】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
10 手術補助器具
11 主軸
111 メインチューブ
112 接続部材
113 端部(一方の端部)
114 接続部(主軸11とコネクター15との)
TH 貫通孔
12 チップ
13 把持部
14 ガイド
15 コネクター
151 主軸保持部
152 ローテーションノブ
16 グリップ
161 グリップ本体
162 洗浄用ボタン
163 吸引用ボタン
17 排気パイプ
18 洗浄パイプ
19 吸引パイプ
【手続補正書】
【提出日】2024-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡的外科手術において使用される手術補助器具であって、
患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に一方の端部が挿入される主軸であって、少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成された主軸と、
前記一方の端部に設けられた導体製のチップと、
前記チップを前記一方の端部に接続する接続部材と、
前記主軸の側方に突出するように前記接続部材に設けられた筒状の把持部であって、手術器具により把持される把持部と、を備え、
前記把持部は、前記チップと導通した導体により一部又は全部が構成されている、
ことを特徴とする、手術補助器具。
【請求項2】
前記チップの形状は、回転体状である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の手術補助器具。
【請求項3】
長さが前記主軸よりも短い筒状のガイドであって、内側面が前記主軸の外側面に沿ってスライドするガイドを更に備え、
前記ガイドは、前記主軸の少なくとも一部を構成する可撓性を有する材料よりも可撓性が低い材料により構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の手術補助器具。
【請求項4】
前記主軸には、前記一方の端部から他方の端部までつながる貫通孔であって、前記他方の端部が排気用のパイプと接続されている貫通孔が設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の手術補助器具。
【請求項5】
前記排気用のパイプの排気を制御する開閉機構を更に備えている、
ことを特徴とする請求項4に記載の手術補助器具。
【請求項6】
前記他方の端部において、前記貫通孔には、前記排気用のパイプとともに、洗浄液を供給する洗浄液用のパイプと、液体を吸引する吸引用のパイプと、が接続されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の手術補助器具。
【請求項7】
前記主軸の前記一方の端部を含む一部区間は、前記主軸の他の区間より高い可撓性を有する材料により構成されており、
前記一部区間の屈曲を任意に調整する屈曲調整機構を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の手術補助器具。
【請求項8】
内視鏡的外科手術において使用される手術補助器具であって、
患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に一方の端部が挿入される主軸であって、少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成された主軸と、
前記一方の端部に設けられた導体製のチップと、
前記チップを前記一方の端部に接続する接続部材と、
前記主軸の側方に突出するように前記接続部材に設けられた把持部であって、手術器具により把持される把持部と、を備え、
前記把持部は、前記チップと導通した導体により一部又は全部が構成されており、
長さが前記主軸よりも短い筒状のガイドであって、内側面が前記主軸の外側面に沿ってスライドするガイドを更に備え、
前記ガイドは、前記主軸の少なくとも一部を構成する可撓性を有する材料よりも可撓性が低い材料により構成されている、
ことを特徴とする、手術補助器具。
【請求項9】
内視鏡的外科手術において使用される手術補助器具であって、
患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に一方の端部が挿入される主軸であって、少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成された主軸と、
前記一方の端部に設けられた導体製のチップと、
前記チップを前記一方の端部に接続する接続部材と、
前記主軸の側方に突出するように前記接続部材に設けられた把持部であって、手術器具により把持される把持部と、を備え、
前記把持部は、前記チップと導通した導体により一部又は全部が構成されており、
前記主軸には、前記一方の端部から他方の端部までつながる貫通孔であって、前記他方の端部が排気用のパイプと接続されている貫通孔が設けられている、
ことを特徴とする、手術補助器具。
【請求項10】
内視鏡的外科手術において使用される手術補助器具であって、
患者の体の開口部を介して、当該患者の体外から体内に一方の端部が挿入される主軸であって、少なくとも一部が可撓性を有する材料により構成された主軸と、
前記一方の端部に設けられた導体製のチップと、
前記チップを前記一方の端部に接続する接続部材と、
前記主軸の側方に突出するように前記接続部材に設けられた把持部であって、手術器具により把持される把持部と、を備え、
前記把持部は、前記チップと導通した導体により一部又は全部が構成されており、
前記主軸の前記一方の端部を含む一部区間は、前記主軸の他の区間より高い可撓性を有する材料により構成されており、
前記一部区間の屈曲を任意に調整する屈曲調整機構を更に備えている、
ことを特徴とする、手術補助器具。