(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152491
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】ランタン系ガラス構造体
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20241018BHJP
G02B 1/10 20150101ALI20241018BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20241018BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
C03C15/00 B
G02B1/10
G02B1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066718
(22)【出願日】2023-04-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「生体由来物に対する防汚性・防曇性を持つ特殊光学材料の実現」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】592254526
【氏名又は名称】学校法人五島育英会
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227592
【弁理士】
【氏名又は名称】孔 詩麒
(72)【発明者】
【氏名】藤間 卓也
(72)【発明者】
【氏名】神田 洸希
(72)【発明者】
【氏名】中村 藍
(72)【発明者】
【氏名】島崎 雅史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
【テーマコード(参考)】
2K009
4G059
【Fターム(参考)】
2K009AA01
2K009BB02
2K009DD12
2K009EE02
4G059AA01
4G059AC01
4G059AC04
4G059BB04
4G059BB12
(57)【要約】
【課題】多孔質層を有するランタン系ガラス構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質層と、ランタン系ガラス基材とを含み、多孔質層が、ランタン系ガラス基材と一体的に形成されており、かつ多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が、7.0%以下である、ランタン系ガラス構造体。また、その製造方法は、処理開始時におけるpH値が10.0以上の処理溶液中に、ランタン系ガラス未処理基材を浸漬させて処理することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層と、ランタン系ガラス基材とを含み、かつ
前記多孔質層が、前記ランタン系ガラス基材と一体的に形成されており、かつ
前記多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が、7.0%以下である、
ランタン系ガラス構造体。
【請求項2】
前記多孔質層が、階層性ナノ多孔質層である、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記多孔質層の表面における網目の大きさの平均値が、1000nm以下である、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記多孔質層の厚さが、10nm以上である、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記多孔質層の表面が親水性である、請求項1に記載の構造体。
【請求項6】
ヘイズ値が、5.0%以下である、請求項1に記載の構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のランタン系ガラス構造体の製造方法であって、
処理開始時におけるpH値が10.0以上の処理溶液中に、ランタン系ガラス未処理基材を浸漬させて処理することを含む、
方法。
【請求項8】
前記処理溶液が、炭酸塩水溶液である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランタン系ガラス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
窓ガラスや鏡のようなガラス材の表面は、元来、優れた親水性を有しており、極めて清浄なガラス表面は、水滴接触角が10°以下の超親水性を有している。しかしながら、通常は、空気中の炭化水素等を吸着することによって、親水性及び疎水性が混在する表面状態となっており、実効的な親水性が低下している。このような場合には、表面に付着した水分が、当該表面において複数の微細な水滴を形成することで、当該表面に曇りが発生する問題が知られている。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1では、ケイ酸塩ガラスからなる基材の表面において立体的な網状構造を形成する網状構造層を備え、前記網状構造層は、表面の網目の大きさが数十~1000nmであって表面から内側に入る方向に次第に小さい網目とされていることを特徴とする機能性網状構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1と同じ製造方法で、基材としてランタン系ガラスを用いた場合は、特許文献1のような機能性網状構造体も、反射率が相対的に低い多孔質層を有するランタン系ガラス構造体も形成することはできなかった。それゆえに、これまでに、ランタン系ガラスの機能性網状構造体は当然ながら、反射率が相対的に低い多孔質層を有するランタン系ガラス構造体に関する報告もなかった。なお、ランタン系ガラスは、高屈折率で低分散であるという特徴を有し、したがって光学ガラスとして用いられることがある。
【0006】
したがって、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、多孔質層を有しており、かつ多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が7.0%以下であるランタン系ガラス構造体を提供することを目的とする。
【0007】
更には、本発明は、多孔質層としての階層性ナノ多孔質層を有するランタン系ガラス構造体を提供することもできる。なお、本発明でいう「階層性ナノ多孔質層」は、特許文献1の機能性網状構造体と同じような立体的な網状構造を有している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の手段により、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
〈態様1〉
多孔質層と、ランタン系ガラス基材とを含み、
前記多孔質層が、前記ランタン系ガラス基材と一体的に形成されており、かつ
前記多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が、7.0%以下である、
ランタン系ガラス構造体。
〈態様2〉
前記多孔質層が、階層性ナノ多孔質層である、請求項1に記載の構造体。
〈態様3〉
前記多孔質層の表面における網目の大きさの平均値が、1000nm以下である、態様1又は2に記載の構造体。
〈態様4〉
前記多孔質層の厚さが、10nm以上である、態様1~3のいずれか一項に記載の構造体。
〈態様5〉
前記多孔質層の表面が親水性である、態様1~4のいずれか一項に記載の構造体。
〈態様6〉
ヘイズ値が、5.0%以下である、態様1~5のいずれか一項に記載の構造体。
〈態様7〉
態様1~6のいずれか一項に記載のランタン系ガラス構造体の製造方法であって、
処理開始時におけるpH値が10.0以上の処理溶液中に、ランタン系ガラス未処理基材を浸漬させて処理することを含む、
方法。
〈態様8〉
前記処理溶液が、炭酸塩水溶液である、態様7に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多孔質層を有しており、かつ多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が7.0%以下であるランタン系ガラス構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1及び2並びに比較例1~4の各構造体の表面のSEM画像である。
【
図2】
図2は、実施例1及び2並びに比較例1~4の各構造体の反射率を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1及び2並びに比較例2~4の各構造体の水滴接触角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
《ランタン系ガラス構造体》
本発明のランタン系ガラス構造体(以下、単に「本発明の構造体」とも称する)は、
多孔質層と、ランタン系ガラス基材とを含み、
多孔質層が、ランタン系ガラス基材と一体的に形成されており、かつ
多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が、7.0%以下である、
ランタン系ガラス構造体
である。
【0014】
本発明の発明者らは、上述した特許文献1とは異なる製造方法によって、新規な多孔質層を有するランタン系ガラス構造体の作製に成功した。具体的には、本発明者らの鋭意研究によって、ランタン系ガラス未処理基材に対して、一体的に多孔質層を形成させるのに、処理溶液のpH値が重要であることが見出された。理論に限定されるものではないが、特定範囲のpH値を有する処理溶液中にランタン系ガラス未処理基材を浸漬させることによって、未処理基材の表面からランタン系ガラスの一部の成分が溶け出す等して、最終的に本発明の構造体が得られたと推測される。
【0015】
また、本発明の構造体は、反射率が相対的に低く、より具体的には、多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が、7.0%以下である。より具体的には、本発明の構造体は、波長400~700nmにおける反射率が、7.0%以下、6.8%以下、6.5%以下、6.0%以下、5.5%以下、5.0%以下、4.5%以下、4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下、2.5%以下、又は2.0%以下であり得る。多孔質層側においてこのように反射率が低いことは、多孔質層が階層性ナノ多孔質層であることを意味している。なお、本発明において、反射率は、顕微鏡を通してハロゲンランプの光をサンプルに入射させ、反射光を分光器で波長ごとに分けることにより測定することができる。
【0016】
なお、本発明において、階層性ナノ多孔質層(Hierarchical Nanoporous Layer)とは、立体網状構造であって、かつ網目の大きさが表面から内側に入る方向に次第に小さくなっており、それによって多孔質層の外側面の細孔率(気孔率)が高く、かつ基材側に行くにしたがって細孔率が小さくなっている層を意味している。また、階層性ナノ多孔質層の網目の大きさが表面から内側に入る方向に次第に小さくなっていくか否かの判断は、本発明の構造体の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で行うことができる。より具体的には、階層性ナノ多孔質層として、その表面付近における網目の大きさが大きく、そして内側(階層性ナノ多孔質層が存在している基材側)へ行くにつれて網目の大きさが次第に小さくなる傾向にあるものであればよい。したがって、網目の大きさは表面付近から内側に向かって全体として小さくなる傾向があればよく、表面付近で孔径があまり変化しなかったりして、構造形成の揺らぎ的に最表面の下に少し大きい孔があってもよい。
【0017】
このように、本発明にかかる多孔質層が階層性ナノ多孔質層である場合に、本発明の構造体は、特許文献1のケイ酸塩ガラスの機能性網状構造体と同じように、網目(細孔)が表面から内側に入る方向に次第に小さくなっていく特徴を有することができる。したがって、本発明の構造体は、特許文献1の構造体と同じように、階層性ナノ多孔質層の深部に塵やホコリ等の汚れが侵入することを防ぐとともに、階層性ナノ多孔質層を構成する材料の元来の表面特性を効果的に発揮することができる。よって、本発明の構造体は、例えば表面に水と接触することによって、水が階層性ナノ多孔質層と汚れとの間に割り込み、汚れを浮かせて落とすセルフクリーニング効果を発揮して長寿命な防汚性を得ることができる。また、セルフクリーニング効果によって、階層性ナノ多孔質層の目詰まりを防ぐことができるので、本発明の構造体の表面に水分が付着しても、立体的な網状構造内に水を吸い込んで、付着した水分を表面の面方向に広く濡れ広がらせるので優れた防曇性を発揮することを可能とする。
【0018】
更に、本発明にかかる多孔質層が階層性ナノ多孔質層である場合に、本発明の構造体によれば、網目の細孔の体積分率が表面から内側に入る方向に次第に小さくなっていくようにすること(すなわち、網目を構成するガラス基材の体積分率が表面から内側に入る方向に次第に大きくなっていくようにすること)ができ、それによって階層性ナノ多孔質層の表面部で比較的屈折率が小さく、深部に行くに従って屈折率が大きくなるようにすることができる。これによれば、階層性ナノ多孔質層を有するランタン系ガラス構造体での光の反射を抑制することができる。
【0019】
更には、本発明の構造体は、ランタン系ガラス基材を用いているため、高屈折系が要求されるカメラレンズや医療用光学機器等、その他、屈折率の高さから光ファイバー、表示ディスプレイ(液晶やマイクロLED等)、光学フィルター等に幅広く好適に利用され得る。
【0020】
本発明の構造体のヘイズ値は、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、又は0.1以下であり得る。このため、本発明の構造体は透明性が高く、高い光透過性が求められる用途(例えば、光学用途等)に好ましく利用され得る。なお、本発明において、ヘイズ値は、分光光度計と積分球とを組み合わせて測定することができる。より具体的に、サンプルに光線を入射し、直進した光の強度と、散乱された光の合計強度から算出することができる。
【0021】
〈多孔質層〉
本発明の構造体において、多孔質層は、基材と一体的に形成されている。ここで、「一体的に」とは、多孔質層と基材との間に他の層が存在せず、特に多孔質層と基材とが切れ目がなく存在している(すなわち、両者がシームレスな存在である)ことを意味している。
【0022】
また、本発明の多孔質層は、階層性ナノ多孔質層であり得る。
【0023】
本発明の構造体において、多孔質層の表面における網目の大きさは、1500nm以下、1000nm以下、500nm以下、300nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、又は20nm以下であり得る。このように、多孔質層の表面における網目の大きさが、1500nm以下、特に1000nm以下である場合には、一般的なホコリ等のサイズよりも小さく、また、一般的に10μm以上と言われているハウスダストの多孔質層の深部への侵入を防止することができる。また、多孔質層の表面における網目の大きさが、500nm以下である場合には、一般的に1~10μmと言われている室内浮遊塵の多孔質層の深部への侵入を防止することができる。更に、多孔質層の表面における網目の大きさが、100nm未満である場合には、一般的に100nm以上と言われている小型バクテリアの網状構造層の深部への侵入を防止することができる。
【0024】
本発明の構造体において、多孔質層の表面における網目の大きさの平均値は、1000nm以下、500nm以下、300nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、又は20nm以下であり得る。
【0025】
なお、本発明において、多孔質層の表面における網目の大きさの下限値としては、特に限定されず、例えば、10nm以上、又は20nm以上であってよい。
【0026】
また、本発明において、多孔質層の表面における網目の大きさは、例えば、多孔質層の表面のSEM画像における細孔の最長径を指す。また、多孔質層の表面における網目の大きさの平均値は、SEMによる観察で、少なくとも10個、好ましくは可能な限り多数の網目の大きさから計算した平均値である。
【0027】
本発明の構造体において、多孔質層の厚さは、特に限定されず、例えば10nm以上、50nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、又は500nm以上であってよく、また、2000nm以下、1500nm以下、1000nm以下、800nm以下、又は500nm以下であってよい。なお、本発明において、多孔質層の厚さは、例えば、本発明の構造体の断面をSEMによる観察から確認することができる。
【0028】
本発明の構造体において、多孔質層の表面の水滴接触角は、10°以下であり得る。よって、本発明の構造体において、多孔質層の表面は、極めて優れた親水性、特に超親水性であり得る。なお、本発明において、水滴接触角は、例えば、JISR3257:1999にて規定されている方法に従い、カメラで水滴をほぼ水平方向から撮影し、その画像から角度を求めることができる。
【0029】
〈ランタン系ガラス基材〉
本発明の構造体は、ランタン系ガラス基材を有する。
【0030】
本発明において、ランタン系ガラス基材を構成するランタン系ガラスとは、酸化ランタン(La2O3)が多く含まれているガラスを意味しており、一般にこのようなガラスは、屈折率が大きい。より具体的には、ランタン系ガラスにおける酸化ランタンの含有量は、例えば、15質量%以上、18質量%以上、20質量%以上、22質量%以上、25質量%以上、28質量%以上、又は30質量%以上であってよい。また、酸化ランタンの含有量の上限値は、特に限定されず、例えば、99.9質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下又は30質量%以下であってよい。また、ランタン系ガラスの屈折率は、例えば1.65以上、1.70以上、1.75以上、1.80以上、1.85以上、又は1.88以上であってよい。また、ランタン系ガラスの屈折率の上限値は、特に限定されず、例えば、2.20以下であってよい。
【0031】
また、本発明において、ランタン系ガラスの成分には、酸化ランタンの他に、例えば、酸化ホウ素(B2O3)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ジルコニア(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、及び二酸化ケイ素(SiO2)からなる群より選択される少なくとも1つが含まれ得る。
【0032】
また、ランタン系ガラスとしては、市販から入手してよく、例えば、株式会社オハラ製のOhara S-LAH58等を用いてよい。
【0033】
〈その他の構成〉
本発明の構造体は、上述した多孔質層及び基材の他に、随意にその他の構成を更に有してよい。
【0034】
例えば、多孔質層に対して、機能性材料をコーティング又は充填することができる。これにより、所望の機能を有する表面特性を付与することができる。
【0035】
より具体的には、例えば、メトキシシランやクロロシラン基によって多孔質層の各網目の表面に結合可能なポリエチレングリコール等の親水性有機材料を、多孔質層に対してコーティングさせ、より優れた超親水性を発揮することができる。
【0036】
また、例えば、メトキシシランやクロロシラン基によって網状構造層の各網目の表面に結合可能なアルキル鎖やフッ化アルキル鎖等の疎水性有機分子を、多孔質層に対してコーティングさせ、優れた超撥水性を発揮することができる。
【0037】
また、例えば、油脂成分やパラフィン等の疎水性が強い材料を、多孔質層に対して充填させ、優れた撥水性を発揮することができる。
【0038】
また、金属及び金属微粒子や導電性高分子等の導電性材料を多孔質層に対して充填させ、絶縁性又は誘電性の材料からなる多孔質層に導電性を付与することができる。
【0039】
また、顔料の微粒子や色素分子等の着色材料を、網状構造層に対して充填させ、多孔質層に所望の着色をすることができる。
【0040】
《ランタン系ガラス構造体の製造方法》
本発明はまた、ランタン系ガラス構造体の製造方法(以下では、単に「本発明の製造方法」とも称する)を提供する。
【0041】
本発明の製造方法は、処理開始時におけるpH値が10.0以上の処理溶液中に、ランタン系ガラス未処理基材を浸漬させて処理することを含む方法である。なお、本発明に関して、「ランタン系ガラス未処理基材」は本発明の製造方法による処理を受ける前の基材を意味しており、本発明の製造方法による処理以外の処理を受けたものであってもよい。
【0042】
なお、本発明の方法によって得られるランタン系ガラス構造体は、上述した本発明の構造体であるため、使用されるランタン系ガラス未処理基材を構成するランタン系ガラスの詳細に関しては、上述したとおりであり、ここでは、説明を省略する。
【0043】
本発明の製造方法において、処理溶液としては、処理開始時におけるpH10.0以上であれば、特に限定されない。ここで、処理溶液のpH値は、より具体的には、10.0以上、10.1以上、10.2以上、10.3以上、10.4以上、10.5以上、10.6以上、10.7以上、10.8以上、10.9以上、11.0以上、11.1以上、11.2以上、11.3以上、11.4以上、11.5以上、11.6以上、11.7以上、11.8以上、又は11.9以上であってよい。また、処理溶液のpH値の上限は、特に限定されず、例えば、14.0以下、13.5以下、13.0以下、12.5以下、又は12.0以下であってよい。なお、本発明において、処理溶液のpH値は、室温(25℃)で市販のpHメーターによって測定することができる。
【0044】
また、本発明の製造方法において、処理溶液によるランタン系ガラス未処理基材の処理前と処理後の溶液中のpHは、変化してよい。例えば、より具体的には、処理溶液において、処理開始時のpHと処理後のpH値との幅(処理開始実施例1及び2の構造体は、時pHと処理後pHとの差の絶対値)は、例えば0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、又は0.8以上であってよい。なお、この幅の上限値は、特に限定されず、例えば2.0以下、1.5以下、又は1.0以下であってよい。
【0045】
本発明の製造方法において、処理溶液は、例えば、炭酸塩水溶液であってよい。より具体的には、例えば炭酸ナトリウム水溶液、又は炭酸カリウム水溶液等挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
また、処理溶液において、炭酸塩の濃度は、特に限定されず、処理温度や目標とする構造形成の厚さ等に合わせて、適宜設定してよく、例えば、0.5mol/L以上、0.8mol/L以上、1.0mol/L以上、1.5mol/L以上、又は2.0mol/L以上であってよく、また10mol/L以下、9.0mol/L以下、又は8.5mol/L以下であってよい。
【0047】
本発明の製造方法において、処理溶液によるランタン系ガラス未処理基材の処理温度は、特に限定されず、処理するランタン系ガラス未処理基材の大きさ等に合わせて、適宜設定してよく、例えば70~150℃、又は100~130℃であってもよい。
【0048】
本発明の製造方法において、処理溶液によるランタン系ガラス未処理基材の処理時間は、特に限定されず、処理温度や目標とする構造形成の厚さ、又は処理するランタン系ガラス未処理基材の大きさ等に合わせて、適宜設定してよく、例えば1~50時間、又は10~30時間であってもよい。なお、処理温度次第で50時間以上、又は100時間以上で処理してもよい。
【0049】
また、本発明の製造方法は、例えばランタン系ガラス未処理基材に対して、前処理することを更に含んでよい。
【0050】
前処理として、特に限定されず、例えば超音波洗浄、アルコール溶液による洗浄、又はそれらの組み合わせであってよい。
【実施例0051】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
《実施例1及び2、並びに比較例1~4》
ランタン系ガラス未処理基材として、直径23.8mmで、厚さ1.0mmの株式会社オハラ製のOhara S-LAH58円板状ガラス板材を用いた。
【0053】
以下の表1に示す処理水溶液中に、6枚の上記ランタン系ガラス未処理基材それぞれを、浸漬させて、処理温度120℃にて、20時間処理し、実施例1及び2並びに比較例1~4の構造体をそれぞれ得た。なお、いずれの処理溶液においても、溶質の濃度が1.0mol/Lであった。
【0054】
【0055】
〈走査型電子顕微鏡(SEM)観察〉
各構造体サンプルを走査型電子顕微鏡(SU8200、株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて表面及び断面の観察を行った。得られた各構造体サンプルの表面のSEM画像は、
図1に示す。
【0056】
図1は、実施例1及び2並びに比較例1~4の各構造体サンプルの表面のSEM画像である。
【0057】
図1から明らかなように、実施例1及び2並びに比較例1及び2の構造体の表面は、多孔質構造であることが分かった。また、実施例1の構造体の表面における網目の大きさは、8~15nm程度で、実施例2の構造体の表面における網目の大きさは、10~20nm程度であることが分かった。
【0058】
一方、比較例3及び4の構造体の表面は、実施例1及び2並びに比較例1及び2の場合と異なり、粗大な裂け目のような構造であり、多孔質層が形成されていないことが分かった。
【0059】
なお、図示していないが、実施例1及び2の構造体の断面のSEM画像によれば、いずれも、多孔質層は、基材と一体的に形成されていることが分かった。また、それぞれの多孔質層は、立体網状構造であって、かつ網目が表面から内側に入る方向次第に小さくなっていること、すなわち階層性ナノ多孔質になっていることが分かった。
【0060】
これに対して、比較例1及び2の構造体の断面のSEM画像によれば、いずれも、多孔質層は基材と一体的に形成されているものの、それぞれの多孔質層の網目が表面から内側に入る方向において略均一な大きさであることが分かった(図示せず)。
【0061】
〈反射率測定〉
各構造体サンプルの反射率を、顕微鏡(渋谷光学社製SMP-100型)を用いて測定した。測定結果は、
図2に示す。また、参考のために、未処理ガラス(株式会社オハラ製のOhara S-LAH58)の反射率も同様に測定した。
【0062】
図2から明らかなように、実施例1及び2の構造体は、いずれも、波長400~700nmにおける反射率が7.0%以下であり、すなわち反射率が低いことが分かった。このように反射率が低いことは、実施例1及び2の構造体のそれぞれの多孔質層が階層性ナノ多孔質層となっていることに由来する結果と推測される。
【0063】
一方で、比較例1及び2の構造体の反射率は特に高いことが分かった。また、それらの反射率の波形からは、比較例1及び2の構造体のそれぞれの多孔質層が階層性ナノ多孔質層とならず、多孔質層中の細孔による干渉が顕著であることが推測される。
【0064】
〈ヘイズ値測定〉
各構造体サンプルのヘイズ値を分光光度計(日本分光社製のV-770)と積分球(日本分光社製のISN-923)とを組み合わせて測定した。測定結果は、以下の表2に示す。また、参考のために、未処理ガラス(株式会社オハラ製のOhara S-LAH58)のヘイズ値も同様に測定した。
【0065】
【0066】
表2の結果から明らかなように、実施例1の構造体のヘイズ値は0.5であり、実施例2のヘイズ値は0.1であり、いずれも透明性が高いことが分かった。
【0067】
一方で、比較例1のヘイズ値は特に高く、11.6であり、図示していないが、比較例1の構造体の表面において濁りがあることがはっきり分かった。
【0068】
〈接触角測定〉
各構造体サンプル(比較例1を除く)の水滴接触角を、JISR3257:1999にて規定されている方法に従い、カメラで水滴をほぼ水平方向から撮影し、その画像から角度を求めた。測定結果は、
図3に示す。なお、比較例1の構造体サンプルは、多孔質層の上に多数の析出物が発生しているため、本発明でいう「多孔質層」、特に「階層性ナノ多孔質層」に該当せず、接触角の測定も行わなかった。
【0069】
図3の結果から明らかなように、いずれの構造体においても、表面の水滴接触角は、10°以下であったことが分かった。
【0070】
なお、比較例3及び4の構造体は、測定時において水滴接触角が10°以下であったが、作成後3ヵ月以内に接触角が高くなり、すなわち、これらの構造体の親水性には耐久性がないことが分かった。
【0071】
〈まとめ〉
上述したように、実施例1及び2の構造体は、階層性ナノ多孔質層を有しており、反射率が低く、特に多孔質層側の波長400~700nmにおける反射率が、7.0%以下であることが分かった。また、実施例1及び2の構造体は、ヘイズ値も低く、かつ超親水性であることが分かった。