IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

特開2024-152495非水ゲル電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法
<>
  • 特開-非水ゲル電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法 図1
  • 特開-非水ゲル電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152495
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】非水ゲル電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20241018BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241018BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241018BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20241018BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20241018BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/058
H01G11/84
H01G11/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066723
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】石川 明日美
(72)【発明者】
【氏名】西井 克弥
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB06
5E078DA11
5E078LA08
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL18
5H029AM16
5H029CJ11
5H029HJ00
5H029HJ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比較的簡便なプロセスで製造することができ、耐酸化性及びゲル状態の安定性が高い非水ゲル電解質、このような非水ゲル電解質を備える非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水ゲル電解質は、ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子と、塩基触媒と、非水溶媒とを含有し、上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子と、塩基触媒と、非水溶媒とを含有し、
上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする、非水ゲル電解質。
【請求項2】
上記架橋高分子が、下記式(1)で表される構造を含む架橋部位を有する、請求項1に記載の非水ゲル電解質。
【化1】
上記式(1)中、Rは、-S-、-NR-(Rは、水素原子又はアルキル基である。)又は-O-で表される2価の基である。Rは、2価の電子求引性基である。*は、他の基又は原子との結合部位を示す。
【請求項3】
上記架橋高分子が、下記式(2)で表される第1化合物と、下記式(3)で表される第2化合物との架橋反応生成物である、請求項1に記載の非水ゲル電解質。
【化2】
上記式(2)中、Rは、n価の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立して、2価の連結基である。Xは、それぞれ独立して、-SH、-NHR(Rは、水素原子又はアルキル基である。)又は-OR(Rは、水素原子又は金属原子である。)で表される基である。nは、それぞれ独立して、0以上250以下の整数である。nは、2以上8以下の整数である。
上記式(3)中、Rは、n価の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立して、2価の連結基である。Yは、それぞれ独立して、電子求引性基とこの電子求引性基に対するα位とβ位の炭素原子の間に二重結合を有する基である。nは、それぞれ独立して、0以上250以下の整数である。nは、2以上8以下の整数である。
但し、n及びnの少なくとも一方は、25以上250以下の整数である。n及びnの少なくとも一方は、3以上8以下の整数である。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の非水ゲル電解質を備える、非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
容器内で、塩基触媒及び非水溶媒の存在下、第1化合物と第2化合物とを架橋反応させることを備え、
上記第1化合物と上記第2化合物との少なくとも一方が、ポリエチレンオキサイド骨格を有し、
上記第1化合物と上記第2化合物とが、互いに上記塩基触媒の存在下で架橋反応する官能基を有し、
上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする、非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水ゲル電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、非水電解質として非水電解液に替えてゲル状の非水電解質が用いられた非水電解質蓄電素子も注目されている(以下、ゲル状の非水電解質を「非水ゲル電解質」ともいう。)。非水ゲル電解質が用いられた非水電解質蓄電素子は、漏液が起こり難い等の利点を有する。特許文献1には、電解質塩、非水溶媒及びポリエチレングリコール骨格を有するポリマーを含む非水ゲル電解質であって、上記ポリマーが、ポリエチレングリコール鎖の架橋により網目構造を有する非水ゲル電解質が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-170992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の非水ゲル電解質は、以下の方法により製造されている。まず、モノマーを含む水溶液中での架橋反応によりハイドロゲルを得る。得られたハイドロゲルから水を揮発させ、乾燥ゲルを得る。非水溶媒に電解質塩が溶解した非水電解液に、得られた乾燥ゲルを浸漬し、膨潤させることにより非水ゲル電解質が得られる。
【0006】
上記方法の場合、多数の工程を経る必要がある。また、上記方法の場合、非水電解質蓄電素子の容器内で、ハイドロゲルを作成し、水を非水電解液に置き換えることで非水ゲル電解質を得ることも困難である。そこで、本発明者らは、塩基触媒を使用し、非水電解液中でモノマーを架橋反応させ、架橋性高分子を形成するとともにゲル化させることで、非水ゲル電解質を得る方法を検討した。一方、エネルギー密度の高い非水電解質蓄電素子への適用を考えた場合、非水ゲル電解質にも耐酸化性の高い非水溶媒を用いることが望まれる。しかし、塩基触媒を使用する方法において、耐酸化性の高い非水溶媒であるフルオロエチレンカーボネートを用いた場合、ゲル化が生じないことがわかった。また、非水溶媒の種類によっては、ゲル化が生じた場合も、経時的にゲルから非水溶媒が染み出し、ゲル状態を長期間維持できないことがある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、比較的簡便なプロセスで製造することができ、耐酸化性及びゲル状態の安定性が高い非水ゲル電解質、このような非水ゲル電解質を備える非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る非水ゲル電解質は、ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子と、塩基触媒と、非水溶媒とを含有し、上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする。
【0009】
本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、本発明の一側面に係る非水ゲル電解質を備える。
【0010】
本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、容器内で、塩基触媒及び非水溶媒の存在下、第1化合物と第2化合物とを架橋反応させることを備え、上記第1化合物と上記第2化合物との少なくとも一方が、ポリエチレンオキサイド骨格を有し、上記第1化合物と上記第2化合物とが、互いに上記塩基触媒の存在下で架橋反応する官能基を有し、上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のいずれかの一側面によれば、比較的簡便なプロセスで製造することができ、耐酸化性及びゲル状態の安定性が高い非水ゲル電解質、このような非水ゲル電解質を備える非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
図2図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに、本明細書によって開示される非水ゲル電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法の概要について説明する。
【0014】
[1]本発明の一側面に係る非水ゲル電解質は、ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子と、塩基触媒と、非水溶媒とを含有し、上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする。
【0015】
上記[1]に記載の非水ゲル電解質は、比較的簡便なプロセスで製造することができ、耐酸化性及びゲル状態の安定性が高い。このような効果が生じる理由は定かではないが、以下の理由が推測される。上記[1]に記載の非水ゲル電解質を製造する場合、例えば、塩基触媒を含む非水溶媒を主成分とする非水電解液中でのモノマーの架橋反応により、ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子が得られ、この架橋高分子と非水溶媒等とがゲル状の非水電解質を形成することとなる。このように上記[1]に記載の非水ゲル電解質は、ハイドロゲルを経ることなく製造することができ、また、非水電解質蓄電素子の容器内でのゲル化も可能であり、製造プロセスが比較的簡便である。また、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を主成分とする非水溶媒は塩基触媒と反応し難く、このような非水溶媒及び塩基触媒下でのモノマーの架橋反応の進行が可能である。そして、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を非水溶媒の主成分とすることで耐酸化性も高まる。さらに、非水溶媒の主成分を構成する各成分は、溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上であるため、ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子との親和性が高い。このため、当該非水ゲル電解質においては、経時的な非水溶媒の染み出しも生じ難く、ゲル状態の安定性も高い。以上のような理由から、上記[1]に記載の非水ゲル電解質は、比較的簡便なプロセスで製造することができ、耐酸化性及びゲル状態の安定性が高いと推測される。
【0016】
「溶解度パラメータ」(SP値)とは、溶解挙動を示す数値であり、溶解度パラメータの値が近い成分同士は、溶解性(相溶性、親和性)が高い。本明細書において「溶解度パラメータ」は、Hildebrand溶解度パラメータであり、後に詳述する算出手順により求められる値である。
「主成分」とは、含有量が体積基準で50体積%超の成分をいう。「主成分」は、2種以上の成分から構成されていてもよい。すなわち、上記[1]に記載の非水ゲル電解質においては、「スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分」が、非水溶媒の50体積%超を占めていればよい。なお、主成分が2種以上の成分から構成されている場合、2種以上の成分の含有量の合計が体積基準で50体積%超であり、各成分の溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である。
【0017】
[非水溶媒及び塩基触媒の種類及び含有量の測定方法]
非水溶媒及び塩基触媒の種類及び含有量は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)及びガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により測定する。具体的には次のように行う。なお、LC-MS及びGC-MSの測定は、それぞれ同一の条件で連続して行うこととする。
1.非水溶媒及び塩基触媒の採取
まず、非水電解質蓄電素子を解体して非水ゲル電解質を取り出す。取り出した非水ゲル電解質を、適当な抽出溶媒(例えばアセトニトリル等)に浸漬し、抽出溶媒で希釈した非水溶媒及び塩基触媒を取り出す。非水ゲル電解質を取り出すことができない場合は、非水電解質蓄電素子に、適当な抽出溶媒(例えばアセトニトリル等)を注入し、抽出溶媒で希釈した非水溶媒及び塩基触媒を取り出す。
2.LC-MS
採取した非水溶媒及び塩基触媒の成分をLC-MSにより分析する。LC-MS分析は、以下の定性分析及び定量分析の順に行う。LC-MS分析の装置には、Waters製「ACQUITY UPLC H-Class」及び「Xevo G2-SQTof」を用いる。溶離液には水を用いる。
(定性分析)
測定試料(非水溶媒及び塩基触媒)をLC-MS分析に供する。得られた液体クロマトグラムのピークが分離できていない場合は、LC-MS分析に代えて、後述するGC-MS分析を行う。ピークが分離できている場合は、各ピークのMSスペクトルから測定試料に含まれる成分を予測する。予測した成分(以下、「予測成分」という。)の既知試料をLC-MS分析に供する。測定試料の各予測成分に対応するピークのリテンションタイム及びMSスペクトルと、各予測成分の既知試料のピークのリテンションタイム及びMSスペクトルとを対比し、一致するのであれば、上記予測が正しいものと推定する。
(定量分析)
定量分析は、検量線法により行う。まず、濃度が既知の予測成分の既知試料をLC-MS測定し、ピークの面積を求めて検量線を作成する。検量線は、決定係数(r)が0.99以上1以下となるように作成する。検量線と測定試料の予測成分のピークの面積とから、測定試料中の予測成分の含有量を求める。以上の作業を、測定試料のLC-MS分析で検出されたすべてのピークについて行い、各予測成分の含有量を求める。
3.GC-MS
GC-MSによる分析は、以下の定性分析及び定量分析の順に行う。GC-MS分析の装置には、Agilent Technologies製の「7890A」及び「5975C」を用いる。キャリアガスにはヘリウムを用いる。
(定性分析)
測定試料(非水溶媒及び塩基触媒)をGC-MS分析に供する。得られたガスクロマトグラムの各ピークのMSスペクトルから試料に含まれる成分を予測する。予測成分の既知試料をGC-MS分析に供する。測定試料の各予測成分に対応するピークのリテンションタイム及びMSスペクトルと、各予測成分の既知試料のピークのリテンションタイム及びMSスペクトルとを対比し、一致するのであれば、上記予測が正しいものと推定する。
(定量分析)
定量分析は、検量線法により行う。GC-MSによる定量分析は、上記したLC-MSによる定量分析と同様の手順で行い、各予測成分の含有量を求める。
4.各成分の含有量の算出
非水溶媒の各成分については、LC-MS又はGC-MSにより測定された各予測成分(すなわち各成分)の含有量の合計を非水溶媒の含有量として、非水溶媒における各成分の含有量を算出する。なお、非水溶媒における各成分の含有量(体積%)の算出にあたっては、LC-MS又はGC-MSにより測定された各成分の質量基準の含有量を20℃における体積に換算し、体積換算した各成分の含有量の合計を非水溶媒の含有量とする。また、抽出溶媒は除外して考える。
【0018】
[架橋高分子の構造の測定方法]
架橋高分子の構造は、赤外吸収分光法(IR)、ラマン分光法及び核磁気共鳴分光法(NMR)等の公知の分析方法の1種又は2種以上を用いて特定する。架橋高分子に対する測定は、以下の手順で採取したものに対して行う。まず、非水電解質蓄電素子を解体して非水ゲル電解質を取り出す。取り出した非水ゲル電解質に対して、洗浄、乾燥等を行うことにより、塩基触媒、電解質塩及び非水溶媒等を取り除き、架橋高分子を単離する。非水ゲル電解質を取り出すことができない場合は、非水電解質蓄電素子を解体して取り出した電極体に対して、洗浄、乾燥等を行うことにより、塩基触媒、電解質塩及び非水溶媒等を取り除いた後、電極体の最外部に付着している架橋高分子を、IR及びラマン分光法の測定に供することができる。
【0019】
[2]上記[1]に記載の非水ゲル電解質において、上記架橋高分子が、下記式(1)で表される構造を含む架橋部位を有していてもよい。
【化1】
上記式(1)中、Rは、-S-、-NR-(Rは、水素原子又はアルキル基である。)又は-O-で表される2価の基である。Rは、2価の電子求引性基である。*は、他の基又は原子との結合部位を示す。
【0020】
上記式(1)で表される構造を含む架橋部位は、塩基触媒を用いたマイケル付加反応により形成される架橋部位の典型的な例である。具体的には、塩基触媒により脱プロトン化等して求核性を有する基(形式的に-R1-と表す)が、電子吸引性基(R)により電子不足になっている炭素-炭素二重結合を構成する炭素原子に対して求核付加することにより、上記式(1)で表される構造を含む架橋部位(-R-C-C-R-)が形成される。すなわち、上記[2]に記載の非水ゲル電解質は、マイケル付加反応を利用して効率的に製造することができる。なお、塩基触媒を利用したマイケル付加反応は、例えば加熱によるラジカル反応等と比べて、反応率が高く、また反応ムラが生じ難い。このため、上記[2]に記載の非水ゲル電解質は、残留モノマーが少なく、均質性が高い。従って、このような非水ゲル電解質が用いられた非水電解質蓄電素子は、特に良好な充放電性能を発揮することができる。
【0021】
[3]上記[1]又は[2]に記載の非水ゲル電解質において、上記架橋高分子が、下記式(2)で表される第1化合物と、下記式(3)で表される第2化合物との架橋反応生成物であってもよい。
【化2】
上記式(2)中、Rは、n価の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立して、2価の連結基である。Xは、それぞれ独立して、-SH、-NHR(Rは、水素原子又はアルキル基である。)又は-OR(Rは、水素原子又は金属原子である。)で表される基である。nは、それぞれ独立して、0以上250以下の整数である。nは、2以上8以下の整数である。
上記式(3)中、Rは、n価の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立して、2価の連結基である。Yは、それぞれ独立して、電子求引性基とこの電子求引性基に対するα位とβ位の炭素原子の間に二重結合を有する基である。nは、それぞれ独立して、0以上250以下の整数である。nは、2以上8以下の整数である。
但し、n及びnの少なくとも一方は、25以上250以下の整数である。n及びnの少なくとも一方は、3以上8以下の整数である。
【0022】
上記式(2)で表される第1化合物と上記式(3)で表される第2化合物とは、塩基触媒を用いたマイケル付加反応により、架橋高分子となることができる化合物(モノマー)の組み合わせである。具体的には、塩基触媒により脱プロトン化等して求核性を有する基(-X)が、電子吸引性基により電子不足になっている基(Y)中の炭素-炭素二重結合を構成する炭素原子に対して求核付加することにより、架橋部位が形成される。すなわち、上記[3]に記載の非水ゲル電解質は、マイケル付加反応を利用して効率的に製造することができる。また、上述のように、塩基触媒を利用したマイケル付加反応は、反応率が高く、また反応ムラが生じ難い。このため、上記[3]に記載の非水ゲル電解質は、残留モノマーが少なく、均質性が高い。従って、このような非水ゲル電解質が用いられた非水電解質蓄電素子は、特に良好な充放電性能を発揮することができる。
【0023】
[4]本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、上記[1]から[3]のいずれかに記載の非水ゲル電解質を備える。
【0024】
上記[4]に記載の非水電解質蓄電素子は、比較的簡便なプロセスで製造することができ、耐酸化性及びゲル状態の安定性が高い非水ゲル電解質を備えている。このため、上記[4]に記載の非水電解質蓄電素子自体も、比較的簡便なプロセスで製造することができ、当該非水電解質蓄電素子は、良好な充放電性能を発揮することができる。
【0025】
[5]本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、容器内で、塩基触媒及び非水溶媒の存在下、第1化合物と第2化合物とを架橋反応させることを備え、上記第1化合物と上記第2化合物との少なくとも一方が、ポリエチレンオキサイド骨格を有し、上記第1化合物と上記第2化合物とが、互いに上記塩基触媒の存在下で架橋反応する官能基を有し、上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする。
【0026】
上記[5]に記載の非水電解質蓄電素子の製造方法によれば、比較的簡便なプロセスで非水ゲル電解質を製造することができ、製造された非水ゲル電解質は耐酸化性及びゲル状態の安定性が高い。このため、上記[5]に記載の非水電解質蓄電素子の製造方法によれば、比較的簡便なプロセスで非水電解質蓄電素子自体を製造することができ、得られた非水電解質蓄電素子は、良好な充放電性能を発揮することができる。特に上記[5]に記載の非水電解質蓄電素子の製造方法においては、非水電解質蓄電素子の容器内で架橋反応を行うことで非水ゲル電解質が得られるため、溶媒の置換等を行わなくてよく、また、電極間及び電極内部にまで非水ゲル電解質を十分に浸透させることができる。
【0027】
(溶解度パラメータの算出手順)
以下、非水溶媒を構成する成分の溶解度パラメータの算出手順について説明する。溶解度パラメータは、1cmの液相状態の成分が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根((cal/cm1/2)を意味する。古典分子動力学計算によって、対象とする成分の液相状態及び気相状態のエネルギー計算を行い、その計算結果を用いて溶解度パラメータを算出する。
【0028】
計算ソフト及び計算に用いる力場は以下の通りである。なお、同じ結果が算出される限り、他の計算ソフト等を用いてもよい。
プリポストソフト:株式会社クロスアビリティ Winmostar V11
計算ソフト:Gromacs ver.5.0.7
力場:GAFF2(General Amber Force Field 2)
【0029】
(A)液相状態のエネルギーの計算
計算対象の成分の分子をモデリングして、AM1-BCC法(Acpype)で分子への電荷割り当てを実施する。このとき全電荷は0とする。液相モデルの構築にあたっては、シミュレーションセル中にランダムに分子を配置する。このときセル形状は立方体、初期密度は0.6g/cmとする。セル中の原子数が2000程度となるようにセル中に配置する分子数(粒子数)を調整する。その後、液相モデルに対してGAFF2力場を割り当てる。
【0030】
以下の計算条件で平衡化計算1、平衡化計算2、平衡化計算3及び本計算を前手順の計算結果を引き継いで連続で実施する。
【0031】
平衡化計算1(Minimize)
nsteps =10000
integrator =steep
pbc =xyz
emtol =100.0
emstep =0.01
constraints =hbonds
nstlist =10
ns_type =grid
cutoff-scheme =Verlet
vdwtype =cut-off
coulombtype =PME
【0032】
平衡化計算2(NVT:粒子数N、体積V、温度T 一定)
dt =0.001
nsteps =25000
integrator =md
gen-vel =yes
tcoupl =berendsen
tc-grps =System
ref-t =300.0
tau-t =1.0
pcoupl =no
pbc =xyz
constraints =hbonds
nstlist =10
ns_type =grid
cutoff-scheme =Verlet
vdwtype =cut-off
coulombtype =PME
【0033】
平衡化計算3(NPT:粒子数N、圧力P、温度T 一定)
dt =0.001
nsteps =25000
integrator =md
gen-vel =no
tcoupl =berendsen
tc-grps =System
ref-t =300.0
tau-t =1.0
pcoupl =Parrinello-Rahma
pcouptype =isotropic
ref-p =1.0
tau-p =1.0
pbc =xyz
constraints =hbonds
nstlist =10
ns_type =grid
cutoff-scheme =Verlet
vdwtype =cut-off
coulombtype =PME
【0034】
本計算(NPT:粒子数N、圧力P、温度T 一定)
dt =0.001
nsteps =25000
integrator =md
gen-vel =no
tcoupl =berendsen
tc-grps =System
ref-t =300.0
tau-t =1.0
pcoupl =Parrinello-Rahma
pcouptype =isotropic
ref-p =1.0
tau-p =1.0
pbc =xyz
constraints =hbonds
nstlist =10
ns_type =grid
cutoff-scheme =Verlet
vdwtype =cut-off
coulombtype =PME
【0035】
(B)気相状態のエネルギーの計算
計算対象の成分の分子をモデリングして、AM1-BCC法(Acpype)で分子への電荷割り当てを実施する。このとき全電荷は0とする。気相モデルの構築にあたっては、シミュレーションセル中に分子を1つ配置する。このときセル形状は立方体、分子とセル境界間の距離は12Åとする。その後、気相モデルに対してGAFF2力場を割り当てる。
【0036】
以下の計算条件で平衡化計算1、平衡化計算2及び本計算を前手順の計算結果を引き継いで連続で実施する。
【0037】
平衡化計算1(Minimize)
nsteps =5000
integrator =steep
pbc =no
emtol =100.0
emstep =0.01
constraints =hbonds
nstlist =1
ns_type =simple
cutoff-scheme =group
vdwtype =cut-off
coulombtype =cut-off
【0038】
平衡化計算2(NVT:粒子数N、体積V、温度T 一定)
dt =0.002
nsteps =5000
integrator =md
gen-vel =yes
tcoupl =berendsen
tc-grps =System
ref-t =300.0
tau-t =1.0
pcoupl =no
pbc =xyz
constraints =all-bonds
nstlist =1
ns_type =simple
cutoff-scheme =group
vdwtype =cut-off
coulombtype =cut-off
【0039】
本計算(NPT:粒子数N、圧力P、温度T 一定)
dt =0.002
nsteps =5000
integrator =md
gen-vel =no
tcoupl =berendsen
tc-grps =System
ref-t =300.0
tau-t =1.0
pcoupl =no
pbc =xyz
constraints =all-bonds
nstlist =1
ns_type =simple
cutoff-scheme =group
vdwtype =cut-off
coulombtype =cut-off
【0040】
(C)溶解度パラメータの算出
Winmostar V11に実装されている結果解析における「χ/DPDパラメータ」機能を活用して、溶解度パラメータの算出を行う。このとき(A)液相状態のエネルギーの計算における「本計算」によって得られたedrファイルとgroファイル、及び(B)気相状態のエネルギーの計算における「本計算」によって得られたedrファイルを入力とすることで、溶解度パラメータを取得する。
【0041】
本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質、非水ゲル電解質の製造方法、非水電解質蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0042】
<非水ゲル電解質>
本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質は、ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子と、塩基触媒と、非水溶媒とを含有する。非水ゲル電解質は、通常、電解質塩をさらに含有する。塩基触媒と電解質塩とは、非水溶媒に溶解していてもよい。
【0043】
(架橋高分子)
架橋高分子は、ポリエチレンオキサイド骨格((-CHCHO-):nは自然数である。)を有する架橋高分子である。架橋高分子は、三次元状の網目構造を有する高分子であってもよい。架橋高分子は、3つ以上の架橋性基(重合性基)を有するモノマーを含む1種又は2種以上のモノマーの架橋反応により得られる高分子であってもよい。本発明の一実施形態において、架橋高分子は、塩基触媒下での架橋反応で得られた高分子である。架橋高分子は、塩基触媒下でのマイケル付加反応による架橋反応で得られた高分子であることが好ましい。
【0044】
架橋高分子は、下記式(1)で表される構造を含む架橋部位を有することが好ましい。
【0045】
【化3】
【0046】
上記式(1)中、Rは、-S-、-NR-(Rは、水素原子又はアルキル基である。)又は-O-で表される2価の基である。Rは、2価の電子求引性基である。*は、他の基又は原子との結合部位を示す。
【0047】
で表される2価の電子求引性基としては、カルボニル基(-C(=O)-)、スルホニル基(-S(=O)-)等が挙げられ、カルボニル基が好ましい。カルボニル基は、エステル基、イミド基等の一部であってもよい。
【0048】
で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。Rで表されるアルキル基の炭素数は、1以上6以下が好ましく、1以上3以下が好ましい。
【0049】
上記式(1)中の、RとRとの間に介在する2個の炭素原子は、合計で少なくとも2個の水素原子と結合していることが好ましく、合計で少なくとも3個の水素原子と結合していることがより好ましい。また、R側の炭素原子は少なくとも1個の水素原子と結合していることも好ましい。さらには、R側の炭素原子は少なくとも1個の水素原子と結合しており、R側の炭素原子は2個の水素原子と結合していること、すなわち、上記式(1)で表される構造は、下記式(1A)で表される構造であることがより好ましい。このとき、R側の炭素原子は、カルボニル基とさらに結合していることが好ましい。このような構造は、塩基触媒を用いたマイケル付加反応により特に形成されやすい構造である。
【0050】
【化4】
【0051】
上述のように、上記(1)で表される構造を含む架橋部位は、塩基触媒を用いたマイケル付加反応により形成される架橋部位の典型的な例である。例えば、アミノ基を有する化合物と、アクリロイル基を有する化合物との場合、下記式(I)のマイケル付加反応が生じる。下記式(I)中の鎖線で囲まれた部分が、上記式(1)で表される構造に対応する。下記式(I)中、Rは、任意の基である。
【0052】
【化5】
【0053】
また、チオール基を有する化合物と、マレイミド基を有する化合物との場合、下記式(II)のマイケル付加反応が生じる。下記式(II)中の鎖線で囲まれた部分が、上記式(1)で表される構造に対応する。下記式(II)中、Rは、任意の基である。
【0054】
【化6】
【0055】
架橋高分子は、下記式(2)で表される第1化合物と、下記式(3)で表される第2化合物との架橋反応生成物であることも好ましい。
【0056】
【化7】
【0057】
上記式(2)中、Rは、n価の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立して、2価の連結基である。Xは、それぞれ独立して、-SH、-NHR(Rは、水素原子又はアルキル基である。)又は-OR(Rは、水素原子又は金属原子である。)で表される基である。nは、それぞれ独立して、0以上250以下の整数である。nは、2以上8以下の整数である。
上記式(3)中、Rは、n価の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立して、2価の連結基である。Yは、それぞれ独立して、電子求引性基とこの電子求引性基に対するα位とβ位の炭素原子の間に二重結合を有する基である。nは、それぞれ独立して、0以上250以下の整数である。nは、2以上8以下の整数である。
但し、n及びnの少なくとも一方は、25以上250以下の整数である。n及びnの少なくとも一方は、3以上8以下の整数である。
【0058】
上述のように上記式(2)で表される第1化合物と上記式(3)で表される第2化合物とは、塩基触媒を用いたマイケル付加反応により、架橋高分子となることができる化合物(モノマー)の組み合わせである。第1化合物及び第2化合物は、それぞれ1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0059】
で表されるn価の炭化水素基及びRで表されるn価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられ、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、脂肪族鎖状炭化水素基及び脂肪族環状炭化水素基が挙げられ、脂肪族鎖状炭化水素基が好ましい。また、脂肪族炭化水素基としては、脂肪族飽和炭化水素基及び脂肪族不飽和炭化水素基が挙げられ、脂肪族飽和炭化水素基が好ましく、脂肪族鎖状飽和炭化水素基がより好ましい。すなわち、n価の炭化水素基及びn価の炭化水素基としては、アルカンから、n個又はn個の水素原子を除いた基であることが好ましい。また、n価の炭化水素基及びn価の炭化水素基としては、炭化水素から、それぞれ異なる炭素原子に結合するn個又はn個の水素原子を除いた基であることが好ましい。n価の炭化水素基及びn価の炭化水素基の炭素原子数としては、それぞれ、1以上20以下が好ましく、2以上12以下がより好ましく、3以上10以下がさらに好ましく、4以上8以下がよりさらに好ましく、5以上6以下が特に好ましい。例えばR及びRで表される4価の炭化水素基としては、C(-CH-)で表される基が好ましい。
【0060】
及びRで表される2価の連結基としては、-COO-、-CONH-、-O-、-CO-、-NH-、-S-、炭素数1以上6以下のアルカンジイル基、これらの組み合わせからなる基等が挙げられる。なお、-COO-、-CONH-等において、これらの向きは限定されるものではない。2価の連結基には、同一構造の基(例えば、-COO-)が複数含まれていてもよい。炭素数1以上6以下のアルカンジイル基は、-(CH-(mは1から6の整数である。)が好ましい。R及びRで表される2価の連結基の炭素数としては、それぞれ0以上10以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
【0061】
で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。Rで表されるアルキル基の炭素数は、1以上6以下が好ましく、1以上3以下が好ましい。
【0062】
で表される金属原子としては、ナトリウム原子、カリウム原子等のアルカリ金属原子が挙げられる。
【0063】
Xで表される基としては、-SHが好ましい。
【0064】
Yで表される基に含まれる電子求引性基としては、カルボニル基、スルホニル基等が挙げられ、カルボニル基が好ましい。カルボニル基は、エステル基、イミド基等の一部であってもよい。Yで表される基の典型例としては、エノン構造を有する基が挙げられる。Yで表される基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、マレイミド基、ビニルスルホン基等が挙げられ、マレイミド基が好ましい。
【0065】
は、0が好ましい。
は、4が好ましい。
は、25以上250以下の整数が好ましく、40以上200以下の整数がより好ましい。
は、4が好ましい。
【0066】
架橋高分子は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0067】
当該非水ゲル電解質における架橋高分子の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%、3質量%、4質量%又は5質量%がより好ましい。一方、架橋高分子の含有量の上限としては、20質量%が好ましく、15質量%、10質量%、8質量%、6質量%又は5質量%がより好ましい。架橋高分子の含有量は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下であってもよい。当該非水ゲル電解質においては、ポリエチレンオキサイド骨格を有する架橋高分子が用いられていることで、架橋高分子の含有量が比較的少なくてもゲル状態の安定性が高い。従って、当該非水ゲル電解質において、架橋高分子の含有量を比較的少ない範囲とすることで、非水ゲル電解質に含有される非水溶媒及び電解質塩の量を増やすことができ、イオン伝導性を高めることができる。
【0068】
(塩基触媒)
塩基触媒は、モノマーを架橋反応させるための触媒成分である。すなわち、本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質においては、架橋高分子を形成するために用いられた塩基触媒が残存している。
【0069】
塩基触媒としては、架橋反応の触媒として機能するものであれば特に限定されず、架橋高分子を得るためのモノマーの種類に応じて適宜選択される。塩基触媒としては、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等のアミジン化合物、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジメチルグアニジン等のグアニジン化合物、イミダゾール、1-エチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、アニリン等の第1級アミン、ピぺリジン、シクロヘキシルアミン等の第2級アミン、トリエチレンジアミン等の第3級アミン、ジメチルフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3級ホスフィン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアルキルカーボネート、ベンジルトリメチルアンモニウムアルキルカーボネート等の4級アンモニウムカーボネート、テトラブチルアンモニウムフルオライド、ベンジルトリメチルアンモニウムフルオライド等の4級アンモニウムフルオライド、テトラブチルアンモニウムテトラヒドロボレート、ベンジルトリメチルアンモニウムテトラヒドロボレート等の4級アンモニウムテトラヒドロボレート、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド等が挙げられる。
【0070】
塩基触媒は、アミジン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、第3級アミン等、非イオン性の窒素元素含有化合物が好ましく、イミダゾール化合物がより好ましい。塩基触媒は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0071】
当該非水ゲル電解質における塩基触媒の含有量としては、0.005質量%以上4質量%以下が好ましく、0.02質量%以上1.5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.8質量%以下がさらに好ましい。塩基触媒の含有量が上記範囲であることで、十分な架橋反応が生じ、ゲル状態の安定性等をより高めることができる。
【0072】
(非水溶媒)
非水溶媒は、スルホン類及びプロピレンカーボネート(PC)を含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする。
【0073】
すなわち、非水溶媒の主成分は、1種又は2種以上のスルホン類からなる場合、PCのみからなる場合、PCとPC以外の1種又は2種以上の他のカーボネート類とからなる場合、1種又は2種以上のスルホン類とPCとからなる場合、及び1種又は2種以上のスルホン類とPCとPC以外の1種又は2種以上の他のカーボネート類とからなる場合が挙げられる。非水溶媒の主成分としては、1種又は2種以上のスルホン類からなる場合、PCのみからなる場合、及びPCとPC以外の1種又は2種以上の他のカーボネート類とからなる場合が好ましい。
【0074】
非水溶媒の主成分を構成する少なくとも1種の成分(溶媒)は、いずれも溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である。上記溶解度パラメータは、10.4(cal/cm1/2以上、11.0(cal/cm1/2以上又は12.0(cal/cm1/2以上であってもよい。上記溶解度パラメータは、16.0(cal/cm1/2以下であってもよく、15.0(cal/cm1/2以下又は14.5(cal/cm1/2以下であってもよい。非水溶媒の主成分を構成する少なくとも1種の成分(溶媒)の溶解度パラメータは、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下であってもよい。
【0075】
スルホン類とは、スルホニル基(-S(=O)-)を有し、このスルホニル基が有する2個の結合手がそれぞれ炭素原子に結合した構造を有する有機化合物をいう。スルホン類は、スルホニル基が有する2個の結合手が1個の2価の炭化水素基に結合した環状構造を有する環状スルホンであってもよい。スルホン類は、スルホニル基が有する2個の結合手がそれぞれ異なる1価の炭化水素基に結合した鎖状構造を有する鎖状スルホンであってもよい。スルホン類が有する炭化水素基に備わる1個又は2個以上の水素原子は、他の原子又は基に置換されていてもよい。スルホン類が有する炭化水素基に備わる1個又は2個以上の水素原子は、フッ素原子又はフッ素原子を含む基に置換されていないことが好ましく、他の原子又は基に置換されていないことがより好ましい。
【0076】
溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上であるスルホン類としては、スルホラン(SL:溶解度パラメータ12.0(cal/cm1/2)、3-メチルスルホラン(MSL:溶解度パラメータ11.4(cal/cm1/2)、ジメチルスルホン(DMS:溶解度パラメータ13.4(cal/cm1/2)、メチルイソプロピルスルホン(MiPS:溶解度パラメータ11.7(cal/cm1/2)、エチルメチルスルホン(EMS:溶解度パラメータ12.4(cal/cm1/2)、エチルイソプロピルスルホン(EiPS:溶解度パラメータ10.7(cal/cm1/2)、エチルイソブチルスルホン(EiBS:溶解度パラメータ11.0(cal/cm1/2)、エチルsec-ブチルスルホン(EsBS:溶解度パラメータ10.6(cal/cm1/2)、イソプロピルsec-ブチルスルホン(iPsBS:溶解度パラメータ10.2(cal/cm1/2)、イソプロピルイソブチルスルホン(iPiBS:溶解度パラメータ10.3(cal/cm1/2)、ジプロピルスルホン(DPS:溶解度パラメータ11.0(cal/cm1/2)、ブチルイソブチルスルホン(BiBS:溶解度パラメータ10.3(cal/cm1/2)等が挙げられ、スルホランが好ましい。
【0077】
カーボネート類とは、カーボネート基(-O-C(=O)-O-)を有し、このカーボネート基が有する2個の結合手がそれぞれ炭素原子に結合した構造を有する有機化合物をいう。カーボネート類は、カーボネート基が有する2個の結合手が1個の2価の炭化水素基に結合した環状構造を有する環状カーボネートであってもよい。カーボネート類は、カーボネート基が有する2個の結合手がそれぞれ異なる1価の炭化水素基に結合した鎖状構造を有する鎖状カーボネートであってもよい。カーボネート類が有する炭化水素基に備わる1個又は2個以上の水素原子は、他の原子又は基に置換されていてもよい。カーボネート類が有する炭化水素基に備わる1個又は2個以上の水素原子は、フッ素原子又はフッ素原子を含む基に置換されていないことが好ましく、他の原子又は炭化水素基以外の基に置換されていないことがより好ましい。
【0078】
PCの溶解度パラメータは、12.7(cal/cm1/2である。溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上であるPC以外のカーボネート類としては、エチレンカーボネート(EC:溶解度パラメータ14.1(cal/cm1/2)、1,2-ブチレンカーボネート(1,2-BC:溶解度パラメータ11.9(cal/cm1/2)、2,3-ブチレンカーボネート(2,3-BC:溶解度パラメータ11.9(cal/cm1/2)、イソブチレンカーボネート(iBC:溶解度パラメータ11.6(cal/cm1/2)、ビニレンカーボネート(VC:溶解度パラメータ13.4(cal/cm1/2)、ジメチルカーボネート(DMC:溶解度パラメータ10.4(cal/cm1/2)等が挙げられ、DMCが好ましい。
【0079】
非水溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用してもよい。例えば、環状カーボネートであるPCと、他のカーボネート類として鎖状カーボネート(DMC等)とを併用してもよい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましく、20:80から40:60の範囲とすることがより好ましい。
【0080】
非水溶媒の主成分は、環状溶媒のみからなること、又は環状溶媒と鎖状溶媒との組み合わせからなることも好ましい。環状溶媒を用いることで、電解質塩の解離を促進して非水ゲル電解質のイオン伝導度を高めることができる。環状溶媒としては、環状スルホン及び環状カーボネートが挙げられる。鎖状溶媒としては、鎖状スルホン及び鎖状カーボネートが挙げられる。
【0081】
非水溶媒における主成分の含有量、すなわち「スルホン類及びPCを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である成分」の含有量は、60体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましく、95体積%以上がよりさらに好ましく、99体積%以上がよりさらに好ましい。非水溶媒における主成分の含有量は、100体積%であってもよい。非水溶媒における主成分の含有量が上記範囲であることで、比較的簡便なプロセスで製造することができ、耐酸化性及びゲル状態の安定性が高いという効果が特に高まる。
【0082】
非水溶媒における環状溶媒の含有量としては、20体積%以上100体積%以下が好ましく、50体積%以上100体積%以下がより好ましい場合があり、70体積%以上100体積%以下、80体積%以上100体積%以下、90体積%以上100体積%以下又は95体積%以上100体積%以下がさらに好ましい場合がある。非水溶媒における環状溶媒の含有量が上記下限以上である場合、耐酸化性がより高まる傾向にある。環状溶媒としては、環状スルホン及び環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、スルホラン及びプロピレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0083】
非水溶媒は、上記した主成分以外の他の成分(他の溶媒)をさらに含んでいてもよい。他の溶媒としては、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル、溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2未満であるスルホン類、溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2未満であるカーボネート類等が挙げられる。
【0084】
非水溶媒においては、フッ素化環状カーボネートの含有量が30体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることがさらに好ましく、0体積%であることがよりさらに好ましい。非水溶媒におけるフッ素化環状カーボネートの含有量が上記上限以下である場合、架橋性高分子の形成とともにゲル化が特に良好に生じる。フッ素化環状カーボネートとは、環状カーボネートが有する炭化水素基に備わる1個又は2個以上の水素原子が、フッ素原子又はフッ素原子を含む基に置換された化合物をいう。
【0085】
当該非水ゲル電解質における非水溶媒の含有量としては、60質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上97質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。当該非水ゲル電解質における非水溶媒の含有量が上記範囲であることで、イオン伝導性とゲル状態の安定性との両立を図ること等ができる。
【0086】
(電解質塩)
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0087】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0088】
当該非水ゲル電解質における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水ゲル電解質のイオン伝導度を高めることができる。
【0089】
当該非水ゲル電解質は、架橋高分子と塩基触媒と非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0090】
当該非水ゲル電解質に含まれる添加剤の含有量は、非水ゲル電解質全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0091】
当該非水ゲル電解質は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質蓄電素子の電解質として好適に用いることができる。
【0092】
<非水ゲル電解質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質の製造方法は特に限定されず、例えば、非水溶媒中で、塩基触媒の存在下、架橋反応する1種又は2種以上の化合物(モノマー)を架橋反応させることにより行うことができる。このとき、非水溶媒にはさらに電解質塩等を溶解させておいてもよい。また、架橋反応する1種又は2種以上の化合物としては、上記した第1化合物及び第2化合物の組み合わせが挙げられる。また、後述する非水電解質蓄電素子の製造方法は、非水ゲル電解質の製造方法を含む。
【0093】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水ゲル電解質と、上記電極体及び非水ゲル電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。通常、非水ゲル電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸された状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0094】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0095】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0096】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0097】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0098】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0099】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0100】
正極活物質としては、α-NaFeO型結晶構造又はスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、及びニッケル元素、コバルト元素又はマンガン元素を含むポリアニオン化合物(LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、LiMnSiO、LiCoPOF等)が好ましく、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中でも、遷移金属元素としてニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のうちの1種又は2種以上を含むものがより好ましく、コバルト元素を含むものがさらに好ましい。これらの正極活物質は酸化還元電位が特に高く、このような正極活物質を用いることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度等を高めることができる。一方、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子には、本発明の一実施形態に係る耐酸化性が高い非水ゲル電解質が用いられているため、酸化還元電位が高いこれらの正極活物質を用いた場合も、良好な充放電性能を持続させることができる。
【0101】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0102】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0103】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0104】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0105】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0106】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0107】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0108】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0109】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0110】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0111】
正極活物質層は、多孔質状であってもよい。正極活物質層における多孔度としては、10%以上50%以下が好ましく、20%以上40%以下がより好ましい。正極活物質層の多孔度が上記範囲内である場合、充放電性能をより高めること等ができる。多孔質状の正極活物質層には、本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質が含浸されていてもよい。
【0112】
正極活物質層の多孔度とは、正極活物質層を構成する各成分の真密度から算出される正極活物質層の真密度と、正極活物質層の見かけ密度とから、下記式により求められる値をいう。
多孔度(%)=100-(見かけ密度/真密度)×100
【0113】
正極活物質層の見かけ密度とは、正極活物質層の質量を正極活物質層の見かけ体積で除した値をいう。見かけ体積とは、空隙部分を含む体積をいい、正極活物質層の平均厚さと面積との積として求めることができる。正極活物質層の平均厚さは、任意の5ヶ所で測定した厚さの平均値とする。後述する負極活物質層の多孔度も、同様の方法により求められる値である。
【0114】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0115】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。また、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい場合もある。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。負極基材としては、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい場合もある。
【0116】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0117】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0118】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0119】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。また、チタン含有酸化物も好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0120】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0121】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0122】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0123】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0124】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0125】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質層は、箔状であってもよい。
【0126】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0127】
負極活物質層は、多孔質状であってもよい。負極活物質層における多孔度としては、20%以上60%以下が好ましく、30%以上50%以下がより好ましい。負極活物質層の多孔度が上記範囲内である場合、充放電性能をより高めること等ができる。多孔質状の負極活物質層には、本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質が含浸されていてもよい。
【0128】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水ゲル電解質の保持性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0129】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、非水電解質蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0130】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0131】
セパレータとして、本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質を用いてもよい。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等を用いた場合、これらの空孔には非水ゲル電解質が含浸されていてもよい。
【0132】
(非水ゲル電解質)
非水電解質蓄電素子に用いられる非水ゲル電解質は、本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質として上述したものである。非水ゲル電解質として、本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質と、他の非水ゲル電解質とを併用してもよい。
【0133】
(形状等)
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0134】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0135】
当該非水電解質蓄電素子においては、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が4.0V vs.Li/Li以上であることが好ましく、4.2V vs.Li/Li以上であることがより好ましく、4.4V vs.Li/Li以上であることがさらに好ましい。通常使用時の充電終止電圧における正極電位が上記下限以上であることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めること等ができる。一方、当該非水電解質蓄電素子においては、耐酸化性の優れる非水ゲル電解質を備えるため、正極電位が高電位に至る場合も、良好な充放電性能を維持することができる。「通常使用時」とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件及び放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。充電条件については、例えば当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。当該非水電解質蓄電素子の通常使用時の充電終止電圧における正極電位は、例えば5.0V vs.Li/Li以下であってもよく、4.8V vs.Li/Li以下であってもよく、4.7V vs.Li/Li以下であってもよい。上記正極電位は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下であってもよい。
【0136】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0137】
図2に、電気的に接続された二つ以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二つ以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二つ以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一つ以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0138】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は特に限定されないが、以下の方法が好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、容器内で、塩基触媒及び非水溶媒の存在下、第1化合物と第2化合物とを架橋反応させることを備え、上記第1化合物と上記第2化合物との少なくとも一方が、ポリエチレンオキサイド骨格を有し、上記第1化合物と上記第2化合物とが、互いに上記塩基触媒の存在下で架橋反応する官能基を有し、上記非水溶媒が、スルホン類及びプロピレンカーボネートを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする。
【0139】
当該非水電解質蓄電素子の製造方法に用いられる第1化合物及び第2化合物の具体的形態及び好適形態としては、上記式(2)で表される第1化合物、及び上記式(3)で表される第2化合物の例がそれぞれ挙げられる。すなわち、互いに上記塩基触媒の存在下で架橋反応する官能基とは、上記式(2)におけるXで表される基、及び上記式(3)におけるYで表される基が挙げられる。また、当該製造方法に用いられる、塩基触媒及び非水溶媒の具体的形態及び好適形態は、本発明の一実施形態に係る非水ゲル電解質に含有される塩基触媒及び非水溶媒の例と同様である。
【0140】
当該製造方法における架橋反応は、第1化合物、第2化合物及び塩基触媒を非水溶媒に溶解させてなる、非水ゲル電解質の前駆体溶液を、容器へ注入した状態で静置することにより行うことができる。この前駆体溶液には、さらに電解質塩等、非水ゲル電解質に含まれる他の成分が含有されていてもよい。また、架橋反応は、マイケル付加反応の場合、室温下で十分に進行する。架橋反応は、加熱等しながら静置することにより行ってもよい。
【0141】
当該非水電解質蓄電素子の製造方法においては、上記架橋反応させることの前に、電極体を準備することと、電極体を容器に収容することと、前駆体溶液を調製することと、前駆体溶液を容器に収容することとをさらに備えていてもよい。
【0142】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水ゲル電解質、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0143】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0144】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【0145】
上記実施形態では、架橋高分子がマイケル付加反応により得られるものであることを中心に説明したが、架橋高分子は他の架橋反応により得られるものであってもよい。同様に、本発明の非水電解質蓄電素子の製造方法においても、塩基触媒により生じる架橋反応であれば、マイケル付加反応以外の架橋反応を利用してもよい。
【0146】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下に、実施例、比較例及び参考例で用いた主な化合物を示す。
【0147】
・モノマーA
下記式で表されるペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオナート)(上記式(2)における、RがC(-CH-)、Rが-C(=O)-CH-CH-、Xが-SH、nが0で表される第1化合物:東京化成工業製)
【0148】
【化8】
【0149】
・モノマーB
下記式で表される末端にマレイミド基を有する4分岐型のポリエチレングリコール(上記式(3)における、RがC(-CH-)、Rが-CH-NH-C(=O)-CH-CH-、Yがマレイミド基で表される、数平均分子量20,000の第2化合物:アルドリッチ製)
【0150】
【化9】
【0151】
・塩基触媒
下記式で表される1-エチルイミダゾール
【0152】
【化10】
【0153】
・ETPTA(参考例1で用いたモノマー)
下記式で表されるトリメチロールプロパンEO付加トリアクリレート
【0154】
【化11】
【0155】
・非水溶媒
以下、溶解度パラメータをSP値とも表記する。以下の各非水溶媒のSP値は、上記した算出手順により求めた値である。また、SP値の単位((cal/cm1/2)は省略する。
スルホラン(SL:SP値12.0)
プロピレンカーボネート(PC:SP値12.7)
ジメチルカーボネート(DMC:SP値10.4)
ジエチルカーボネート(DEC:SP値9.6)
2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC:SP値9.8)
エチレンカーボネート(EC:SP値14.1)
フルオロエチレンカーボネート(FEC)
【0156】
[実施例1]
(1)非水ゲル電解質の作製
非水溶媒であるスルホラン(SL)に、1.0mol/dmの濃度でLiPFを溶解させ、非水電解液を得た。モノマーAと塩基触媒とを上記非水電解液に溶解させ、溶液Aを得た。また、別途、モノマーBを上記非水電解液に溶解させ、溶液Bを得た。なお、溶液Aと溶液Bとを混合し反応させて得られる非水ゲル電解質において、モノマーAとモノマーBとの反応生成物である架橋高分子の含有量が5質量%、塩基触媒の含有量が0.38質量%となるように、溶液A及び溶液Bを調製した。
上記溶液Aと溶液Bとを混合して非水ゲル電解質の前駆体溶液とし、この前駆体溶液を25℃の温度下で24時間静置した。これにより、架橋高分子を含む実施例1の非水ゲル電解質を得た。上記作業は全てアルゴン雰囲気下で行った。
【0157】
(2)非水電解質蓄電素子の作製
(正極の作製)
正極活物質であるLiCoO、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び分散媒を混合して正極合剤ペーストを調製した。なお、正極活物質、AB及びPVDFの質量比率は90:5:5(固形分換算)とした。正極基材としてのアルミニウム箔(平均厚さ15μm)の表面に正極合剤ペーストを塗布質量7.6mg/cm(固形分換算)で塗布した。その後、乾燥及びロールプレスを行い、正極基材上に多孔度30%の正極活物質層が形成された正極を得た。
【0158】
(負極の作製)
負極活物質であるLiTi12、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び分散媒を混合して負極合剤ペーストを調製した。なお、負極活物質、AB及びPVDFの質量比率は87:5:8(固形分換算)とした。負極基材としてのアルミニウム箔(平均厚さ15μm)の表面に負極合剤ペーストを塗布質量10mg/cm(固形分換算)で塗布した。その後、乾燥及びロールプレスを行い、負極基材上に多孔度40%の負極活物質層が形成された負極を得た。
【0159】
(非水ゲル電解質作製用溶液(溶液A及び溶液B)の調製)
非水溶媒であるスルホラン(SL)に、1.0mol/dmの濃度でLiPFを溶解させ、非水電解液を得た。モノマーAと塩基触媒とを上記非水電解液に溶解させ、溶液Aを得た。また、別途、モノマーBを上記非水電解液に溶解させ、溶液Bを得た。なお、溶液Aと溶液Bとを混合し反応させて得られる非水ゲル電解質において、モノマーAとモノマーBとの反応生成物である架橋高分子の含有量が5質量%、塩基触媒の含有量が0.068質量%となるように、溶液A及び溶液Bを調製した。
【0160】
(非水電解質蓄電素子の作製)
セパレータとして、ポリオレフィン製微多孔膜を用いた。このセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体を容器に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。上記溶液Aと溶液Bとを混合して非水ゲル電解質の前駆体溶液とし、この前駆体溶液を上記容器内部に注入した後、封口し、25℃の温度下で7日間静置した。これにより、架橋高分子を含む非水ゲル電解質を備える実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。上記作業は全てアルゴン雰囲気下で行った。
【0161】
[実施例2、3、比較例1から4]
非水溶媒として表1に記載の各非水溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、3及び比較例1から4の各非水ゲル電解質を得た。また、非水溶媒として表1に記載の各非水溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、3及び比較例3の各非水電解質蓄電素子を得た。
【0162】
[参考例1]
(1)非水ゲル電解質の作製
非水溶媒であるフルオロエチレンカーボネート(FEC)に、1.0mol/dmの濃度でLiPFを溶解させ、非水電解液を得た。ETPTAを10質量%の含有量となるように、また、ラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)を1質量%の含有量となるように、上記非水電解液に溶解させ、60℃の温度下24時間静置した。これにより、架橋高分子を含む参考例1の非水ゲル電解質を得た。上記作業は全てアルゴン雰囲気下で行った。
【0163】
[評価]
(1)ゲル化の有無及びゲル状態の安定性評価
「(1)非水ゲル電解質の作製」において、24時間静置後にゲル化が生じ、非水ゲル電解質が得られたか否かを確認した。結果を表1に示す。ゲル化が生じ、非水ゲル電解質が得られたものを「有」、ゲル化が生じず、非水ゲル電解質が得られなかったものを「無」と表す。
次いで、「(1)非水ゲル電解質の作製」で得られた実施例1から3及び比較例1から3の各非水ゲル電解質を25℃の温度下で1週間静置した。1週間静置後の非水ゲル電解質の外観を観察することで、非水ゲル電解質からの液の染み出しの有無を確認した。結果を表1に示す。染み出しが確認できたものを「有」、染み出しが確認できなかったものを「無」と表す。液の染み出しが確認できなかったものは、ゲル状態の安定性が高いと判断できる。
【0164】
(2)耐酸化性評価
「(2)非水電解質蓄電素子の作製」で得られた実施例1から3及び比較例3の各非水電解質蓄電素子を用いて、以下の手順で酸化分解電流を測定することで、非水ゲル電解質の耐酸化性評価を行った。
【0165】
(初期充放電)
各非水電解質蓄電素子について、25℃の温度下で、充電電流0.1C、充電終止電圧2.95Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.1C、放電終止電圧1.15Vとして定電流放電を行った。その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を2サイクル実施した。なお、1Cは1.3mA/cmとした。また、充電終止電圧は、正極の充電終止電位が4.50V vs.Li/Liになるように設定した。
【0166】
(酸化分解電流測定)
次いで、25℃の温度下で、充電電流0.1C、充電終止電圧2.95Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。その後、充電状態の非水電解質蓄電素子を高性能電気化学測定システム(「VMP-300」バイオロジック製)にセットし、電圧2.95Vにて、100時間のクロノアンペロメトリー測定を行った。具体的な測定条件は以下の通りとした。
Apply: Ei=2.950V vs.Ref.
Ti=100h
Record: every dt=30s
E Range: 2.93-2.97V
I Range: 100μA
Bandwidth:8
上記測定において、電流がおよそ一定となる測定時間80時間から100時間の間に測定された電流を、非水ゲル電解質の酸化分解に起因する電流とし、これを平均し、平均電流を算出した。この平均電流を正極活物質層の質量で割り、これを酸化分解電流とした。結果を表1に示す。
なお、上記酸化分解電流測定にあたっては、非水ゲル電解質の還元分解の影響を小さくするために、上記したように非水電解質蓄電素子の負極活物質に比較的反応電位の高いLiTi12を用いた。このため、上記測定時間80時間から100時間の間に測定された電流は、非水ゲル電解質の酸化分解に起因する電流とみなすことができる。
【0167】
【表1】
【0168】
DEC(SP値9.6(cal/cm1/2)又はTFEMC(SP値9.8(cal/cm1/2)を主成分の一つとして含む非水溶媒が用いられた比較例1、2の非水ゲル電解質は、液の染み出しが生じ、ゲル状態の安定性が低かった。EC(SP値14.0(cal/cm1/2)及びDMC(SP値10.4(cal/cm1/2)を主成分として含む非水溶媒が用いられた比較例3の非水電解質は、液の染み出しは生じなかったものの、酸化分解電流の値が大きく、耐酸化性が低かった。また、非水溶媒としてFECを用いた比較例4の場合は、塩基触媒下でのゲル化が十分に生じず、非水ゲル電解質が得られなかった。なお、この理由は、FECが塩基触媒と反応したためと考えられる。
これらに対し、スルホン類、及びPCを含むカーボネート類からなる群より選ばれ、且つ溶解度パラメータが10.0(cal/cm1/2以上である少なくとも1種の成分を主成分とする非水溶媒が用いられた実施例1から3の各非水ゲル電解質は、液の染み出しが生じないことからゲル状態の安定性が高く、且つ酸化分解電流の値が小さいことから耐酸化性が高かった。
なお、参考例1のように、非水溶媒としてFECを用いた場合も、ラジカル重合反応によるゲル化は生じた。非水溶媒としてFECを用いた場合にゲル化が生じないという現象は、塩基触媒を用いた反応の場合の特有の現象であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明に係る非水ゲル電解質は、非水電解質蓄電素子の非水電解質として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0170】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2