(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152528
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】液体流通防止構造、および角度検出器
(51)【国際特許分類】
F16J 15/00 20060101AFI20241018BHJP
G01D 5/20 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
F16J15/00 Z
G01D5/20 110X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066771
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】上野 孝行
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA41
2F077FF34
2F077PP26
2F077VV03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】温度変化が激しくかつ汚れが著しい劣悪環境下で使用されるシンクロ・レゾルバなどの角度センサを内蔵する角度検出器において、封入している絶縁保護オイルの温度変化による漏れ出しや、外部からの水分浸入を有効に抑制することのできる技術を提供する。
【解決手段】液体流通防止構造5は、制御対象液体Lが内部に封入されている空間である保護対象室1において、制御対象液体Lの外部への漏出を防止し、かつ外部からの流入防止対象液体Wの浸入を防止するための構造であり、保護対象室1と、保護対象室1とは別に設けられている空間である別室2と、保護対象室1と別室2との間に設けられていて気体Aを流通させ液体L、Wを流通させない一または複数のエアブリーザ3とからなる構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象液体が内部に封入されている空間である保護対象室において、該制御対象液体の外部への漏出を防止し、かつ外部からの流入防止対象液体の浸入を防止するための液体流通防止構造であって、
該保護対象室と、
該保護対象室とは別に設けられている空間である別室と、
該保護対象室と該別室との間に設けられていて気体を流通させ液体を流通させない一または複数のエアブリーザと、
からなることを特徴とする、液体流通防止構造。
【請求項2】
前記エアブリーザは直接外部と通気しない配置であるため、目詰まりが防止されることを特徴とする、請求項1に記載の液体流通防止構造。
【請求項3】
前記エアブリーザは、前記保護対象室と前記別室とを繋いで設けられていることを特徴とする、請求項2に記載の液体流通防止構造。
【請求項4】
前記制御対象液体が絶縁オイルであることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載の液体流通防止構造。
【請求項5】
前記流入防止対象液体が水分であることを特徴とする、請求項4に記載の液体流通防止構造。
【請求項6】
入力軸と該入力軸からの入力を減速する減速機構と該減速機構からの出力を受ける角度センサとを備えてなる角度検出器における液体流通防止構造であって、前記保護対象室が該角度センサの配置される室であり、前記別室が該減速機構の配置される室であることを特徴とする、請求項5に記載の液体流通防止構造。
【請求項7】
入力軸と該入力軸からの入力を減速する減速機構と該減速機構からの出力を受ける角度センサとを備えてなり、請求項4に記載の液体流通防止構造を備えていることを特徴とする、角度検出器。
【請求項8】
前記角度センサがレゾルバまたはシンクロであることを特徴とする、請求項7に記載の角度検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体流通防止構造、および角度検出器に係り、特に角度検出器において、巻線保護絶縁オイルの漏れ出し抑制と水分浸入抑制を可能とする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度変化が激しく、かつ汚れが著しい劣悪環境下で使用するシンクロ、レゾルバなどの角度センサを内蔵する角度検出器では、角度センサの巻線の耐湿性への配慮が必要であり、封入している絶縁保護オイルの温度変化による漏れ出しや水分浸入の抑制が求められる。
【0003】
角度センサを内蔵する角度検出器の腐食等防止技術については従来、特許出願等も多くなされている。たとえば出願人による後掲特許文献1には、内蔵されている角度センサを周囲の空気から遮断するために、内部に絶縁オイルが封入されている角度検出器であって、絶縁オイルの封入が、少なくとも角度検出器の内部コイルを周囲の空気から遮断し得るようになされるという構成が開示されている。これにより、内部コイルの腐食や断線を防止できる。また特許文献2には、オイルを角度センサに接触させないためのシール構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5044761号公報「絶縁オイル封入角度検出装置」
【特許文献2】特開2008-69716号公報「内燃機関の角度センサ取付構造」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
角度検出器では、設置環境の温度変化による内部気圧の変化によって呼吸作用が起こり、そのために角度センサ設置部位から巻線保護絶縁オイルが押し出されて漏れ出す可能性がある。また、外部水分が吸引されて角度センサ設置個所に浸入する可能性もある。角度検出器の運転を良好に維持するには、角度センサの巻線の耐湿性への配慮が必要であり、したがって、絶縁オイル漏れや水分の浸入を有効に防止する技術が求められる。
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、 温度変化が激しくかつ汚れが著しい劣悪環境下で使用されるシンクロ・レゾルバなどの角度センサを内蔵する角度検出器において、封入している絶縁保護オイルの温度変化による漏れ出しや、外部からの水分浸入を有効に抑制することのできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は上記課題について検討した。角度検出器において角度センサが配置される絶縁保護オイル封入範囲は、通電状態の場合、減速機構をなす歯車構成範囲よりも温度が高く、かつ内部気圧が高い状態にある。発明者は、絶縁保護オイルを封入する範囲とオイルを封入しない歯車構成範囲との間に、気体のみを通すエアブリーザを設置することにより、絶縁保護オイル封入範囲と歯車構成範囲の空間で空気を移動させ、それにより気圧変化を軽減させ、絶縁オイルの漏れ出しや外部水分の浸入を抑制できることに想到した。
【0008】
なお、エアブリーザを本体外面に取り付けると、汚れが詰まり、機能を長く発揮できなくなる。しかし、製品本体内に2つの空間を持たせ、それらを繋ぐ形でエアブリーザを本体内部に設置できるため、汚れ詰まり等を起こさずにエアブリーザの機能を長く維持できることにも想到した。そして、これらに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 制御対象液体が内部に封入されている空間である保護対象室において、該制御対象液体の外部への漏出を防止し、かつ外部からの流入防止対象液体の浸入を防止するための液体流通防止構造であって、
該保護対象室と、
該保護対象室とは別に設けられている空間である別室と、
該保護対象室と該別室との間に設けられていて気体を流通させ液体を流通させない一または複数のエアブリーザと、
からなることを特徴とする、液体流通防止構造。
〔2〕 前記エアブリーザは直接外部と通気しない配置であるため、目詰まりが防止されることを特徴とする、〔1〕に記載の液体流通防止構造。
〔3〕 前記エアブリーザは、前記保護対象室と前記別室とを繋いで設けられていることを特徴とする、〔2〕に記載の液体流通防止構造。
〔4〕 前記制御対象液体が絶縁オイルであることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の液体流通防止構造。
【0010】
〔5〕 前記流入防止対象液体が水分であることを特徴とする、〔4〕に記載の液体流通防止構造。
〔6〕 入力軸と該入力軸からの入力を減速する減速機構と該減速機構からの出力を受ける角度センサとを備えてなる角度検出器における液体流通防止構造であって、前記保護対象室が該角度センサの配置される室であり、前記別室が該減速機構の配置される室であることを特徴とする、〔5〕に記載の液体流通防止構造。
〔7〕 入力軸と該入力軸からの入力を減速する減速機構と該減速機構からの出力を受ける角度センサとを備えてなり、〔4〕に記載の液体流通防止構造を備えていることを特徴とする、角度検出器。
〔8〕 前記角度センサがレゾルバまたはシンクロであることを特徴とする、〔7〕に記載の角度検出器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体流通防止構造、および角度検出器は上述のように構成されるため、これらによれば、温度変化が激しくかつ汚れが著しい劣悪環境下で使用されるシンクロ・レゾルバなどの角度センサを内蔵する角度検出器において、封入している絶縁保護オイルの温度変化による漏れ出しや、外部からの水分浸入を有効に抑制することができる。また、本発明によれば、エアブリーザが外面ではなく本体内部に設置される構成により、エアブリーザが粉塵等で汚れて目詰まりすることがなく、オイル漏れ出し抑制、水分浸入抑制の効果を長く発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の液体流通防止構造の基本構成を概念的に示す説明図である。
【
図2】
図1に示す本発明液体流通防止構造作用を概念的に示す説明図である(その1)。
【
図3】
図1に示す本発明液体流通防止構造作用を概念的に示す説明図である(その2)。
【
図4】本発明の液体流通防止構造を備えた角度検出器の構成例を示す側断面図であり、
図4-2のB-C-D-E-F矢視断面図である。
【
図5】
図4に示す角度検出器の構成例を示す別の側断面図であり、
図5-2のB-C-D-E-F-G-H矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の液体流通防止構造の基本構成を概念的に示す説明図である。図示するように本液体流通防止構造5は、制御対象液体Lが内部に封入されている空間である保護対象室1において、制御対象液体Lの外部への漏出を防止し、かつ外部からの流入防止対象液体Wの浸入を防止するための構造であり、保護対象室1と、保護対象室1とは別に設けられている空間である別室2と、保護対象室1と別室2との間に設けられていて気体Aを流通させ液体L、Wを流通させない一または複数のエアブリーザ3とからなることを、主たる構成とする。
【0014】
かかる構成の本液体流通防止構造5によれば、設けられているエアブリーザ3の機能により、保護対象室1と別室2との間において気体Aは流通可能であるが、制御対象液体Lや流入防止対象液体Wの流通はなされ得ない。すなわち、保護対象室1内部に封入されている制御対象液体Lが、保護対象室1から外部へと漏出することが防止されるとともに、かつ外部からの流入防止対象液体Wが保護対象室1内に浸入することも防止される。つまり、保護対象室1-別室2間に配置されるエアブリーザ3によって、両室1、2における内気圧が緩和され、制御対象液体L流出と流入防止対象液体W浸入が防止される。
【0015】
本発明液体流通防止構造5の作用をより詳細に説明する。
図2は、
図1に示す本発明液体流通防止構造作用を概念的に示す説明図である(その1 温度上昇の場合)。図中(b)に示すように、本発明が用いられていない保護対象室91内の温度が上昇した場合には、室内の空間気圧が高まり、それによって制御対象液体Lが押し出され、漏出する可能性がある。しかし本発明によれば、図中(a)に示すように、エアブリーザ3を介して保護対象室1側の空気Aが別室2側に排出され、これによって保護対象室1内の空間気圧は下げられ、制御対象液体Lの漏出を防止することができる。
【0016】
図3は、
図1に示す本発明液体流通防止構造作用を概念的に示す説明図である(その2 温度降下の場合)。図中(b)に示すように、本発明が用いられていない保護対象室91内の温度が降下した場合には、室内の空間気圧が低下し、それによって外部の流入防止対象液体Wが室内に浸入する可能性がある。しかし本発明によれば、図中(a)に示すように、エアブリーザ3を介して別室2側の空気Aが保護対象室1側に流入し、あるいは一旦保護対象室1から別室2へと排出されていた空気Aが保護対象室1に戻り、これによって保護対象室1内の空間気圧が高まり、外部からの流入防止対象液体Wの吸引・浸入を防止することができる。
【0017】
このように、保護対象室1と別室2との間にエアブリーザ3を配置することで、内気圧が緩和され、制御対象液体Lの流出と流入防止対象液体Wの浸入を防止することができる。
【0018】
図1等に示すように本液体流通防止構造5を構成するエアブリーザ3は、直接外部と通気しない配置である。すなわち、保護対象室1と別室2とを繋いだ形でエアブリーザ3が設けられており、エアブリーザ3は外部へ開口せずに内部に埋設されている。したがって、エアブリーザ3は粉塵等で汚れて目詰まりすることが防止され、制御対象液体Lの漏出防止作用、流入防止対象液体Wの浸入防止作用を長く維持することができる。
【0019】
本発明液体流通防止構造5は、レゾルバ、シンクロ等の角度センサを内蔵している角度検出器における巻線保護絶縁オイルの漏れ出しと水分浸入の抑制対策として用いることができる。この場合、制御対象液体Lは絶縁オイルであり、流入防止対象液体Wは水分である。以下、角度検出器における本発明の実施形態について説明する。
【0020】
図4は、本発明の液体流通防止構造を備えた角度検出器の構成例を示す側断面図であり、
図4-2のB-C-D-E-F矢視断面図である。また、
図4-2は
図4のX-X矢視断面図である。各図に示すように本構成例に係る角度検出器410は、入力軸46、入力軸46からの入力を減速する歯車で構成された減速機構47、および減速機構47からの出力伝達を受ける角度センサ48とを備えている。2個内蔵されている角度センサ48の巻線部には絶縁オイルLが封入されており、巻線の水分腐食劣化から保護されている。減速機構47設置範囲と内蔵角度センサ48設置範囲は仕切られ、それぞれの室をなしている。
【0021】
すなわち、角度センサ48の配置される室が保護対象室41、減速機構47の配置される室が別室42であり、これら保護対象室41―別室42の間を繋げて設けられ両室間において気体は流通させるが液体は流通させないエアブリーザ43と併せて、液体流通防止構造45が構成されている。図示するようにエアブリーザ43は、角度検出器410の本体内部に設置されるため、外部への露出がない。したがって、粉塵等により汚れて目詰まりすることがなく、絶縁オイルL漏れ出し抑制、水分浸入抑制の効果を、長期に亘って維持し、発揮することができる。
【0022】
角度検出器410の液体流通防止構造45を構成する保護対象室41、すなわち角度センサ48が配置され、絶縁オイルLが封入されている室内において、温度が上昇した場合には、保護対象室41内の空気がエアブリーザ43を介して、歯車構成範囲側すなわち減速機構47が配置されている別室42へと排出され、それによって保護対象室41内の空間気圧が下げられるため、絶縁オイルLの漏れ出しを防止することができる。
【0023】
一方、保護対象室41内の温度が降下した場合には、エアブリーザ43を介し、減速機構47が配置されている別室42に排出されていた空気が絶縁オイルLが封入されている保護対象室41側に戻り、それによって保護対象室41内の空間気圧が上げられるため、外部水分の吸引、浸水を防止することができる。
【0024】
なお、エアブリーザ43は複数個設ける構成とすることができる。
図4-2では、略90°の間隔を置いて4個を設ける構成が例示されている。複数個のエアブリーザ43を設けることにより、たとえば角度検出器410の設置角度が傾いてしまっているような場合であっても、保護対象室41内に封入された絶縁オイルLの液面より上にエアブリーザ43を位置させられる可能性が高くなり、エアブリーザ43を十分に機能させられる可能性が高くなる。このことを考慮すると、設置個数は限定されないものの、図示する4個以上とすることが望ましい。
【0025】
図5は、
図4に示す角度検出器の構成例を示す別の側断面図であり、
図5-2のB-C-D-E-F-G-H矢視断面図である。また、
図5-2は
図5のX-X矢視断面図である。2個内蔵されている角度センサ48、48の中心を通る矢視断面図である
図5においては、エアブリーザ43は表されていないが、
図5-2では4個のエアブリーザ43が表されている。
【0026】
以上説明した本発明液体流通防止構造を備え、減速機構と角度センサを備えている角度検出器も本発明の範囲内である。この場合、角度センサとしては、レゾルバまたはシンクロを好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の液体流通防止構造、および角度検出器によれば、温度変化が激しくかつ汚れが著しい劣悪環境下で使用されるシンクロ・レゾルバなどの角度センサを内蔵する角度検出器において、封入している絶縁保護オイルの温度変化による漏れ出しや、外部からの水分浸入を有効に抑制することができる。したがって、角度検出器製造・使用分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0028】
1、41…保護対象室
2、42…別室
3、43…エアブリーザ
5、45…液体流通防止構造
46…入力軸
47…減速機構
48…角度センサ
410…角度検出器
91…保護対象室
A…気体
L…制御対象液体(絶縁オイル)
W…流入防止対象液体(水分)