(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152535
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】微生物が産生する水素濃度の測定方法とキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20241018BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01N33/497 Z
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023075200
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】394021270
【氏名又は名称】MiZ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文武
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文平
(72)【発明者】
【氏名】谷本 昌子
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
【Fターム(参考)】
2G045AA28
2G045BB20
2G045CB25
2G045DB30
4B029AA07
4B029BB01
4B029CC01
4B029DF10
4B029DG10
4B029FA12
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】微生物がどの程度の水素を発生しているか測定する必要があるが、水素分子は水や空気よりも分子量が小さく、液体培地などの水中で発生した水素は容易に水中から大気中に抜けていくため、水中で発生した水素の累積量を測定することは難しい。
【解決手段】微生物が産生する水素の濃度の測定方法であって、耐圧機能を有する密閉可能な容器に前記微生物と液体培地を導入するステップと、前記微生物と前記液体培地を導入した前記密閉可能な容器を密封するステップと、前記密封した前記密閉可能な容器内の前記微生物を培養するステップと、前記微生物を培養するステップにおいて、前記微生物が発生した気体を前記液体培地内に溶解させるために前記密閉可能な容器を振盪させる、または、前記培養するステップが静置培養の場合は培養の後、前記密封可能な容器を開封する前に前記密封された前記密封可能な容器を振盪させるステップと、前記密封可能な容器を開封するステップと、前記密封可能な容器を開封するステップと、前記培養した後の液体培地内の水素濃度を測定するステップからなる方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物が産生する水素の濃度の測定方法であって、
耐圧機能を有する密閉可能な容器に前記微生物と液体培地を導入するステップと、
前記微生物と前記液体培地を導入した前記密閉可能な容器を密封するステップと、
前記密封した前記密閉可能な容器内の前記微生物を培養するステップと、
前記微生物を培養するステップにおいて、前記微生物が発生した気体を前記液体培地内に溶解させるために前記密閉可能な容器を振盪させる、または、前記培養するステップが静置培養の場合は培養の後、前記密封可能な容器を開封する前に前記密封された前記密封可能な容器を振盪させるステップと、
前記密封可能な容器を開封するステップと、
前記培養した後の液体培地内の水素濃度を測定するステップからなる方法。
【請求項2】
前記密閉可能な容器を密閉する際に前記密閉可能な容器内に含まれる気泡の体積が、前記密閉可能な容器の体積の1%以下となるように密閉することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記密閉可能な容器を密閉する際に前記密閉可能な容器内に含まれる気泡の体積が、前記密閉可能な容器の体積の0.5%以下となるように密閉することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物を培養するステップにおいて、前記密閉した前記密封可能な容器内が、前記微生物が培養中に発生した気体によって加圧されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4における微生物が産生する水素の濃度の測定方法に用いられるキットであって、
耐圧機能を有する密閉可能な容器と、
水素濃度測定装置または水素濃度測定試薬を有することを特徴とするキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体培地中で微生物が累積的に産生する水素の濃度を測定する方法および当該方法に用いる器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腸内細菌や発酵食品に用いられる微生物が水素を発生していることが明らかとなり、これらの微生物が発生している水素のヒトを含む哺乳類の健康に対する作用効果が注目されている(非特許文献1)。これらの微生物がどの程度の水素を発生しているか測定する必要があるが、水素分子は水や空気よりも分子量が小さく、液体培地などの水中で発生した水素は容易に水中から大気中に抜けていくため、水中で発生した水素の累積量を測定することは難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ichikawa Y,Yamamoto H,Hirano SI,Sato B,Takefuji Y,Satoh F.The overlooked benefits of hydrogen-producing bacteria.Med Gas Res.2023;13(3):108-11.
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、微生物の培養中に微生物が産生した水素の累積量を水素濃度として測定する方法と当該方法に用いる器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、微生物の培養中に微生物が産生する水素の累積量を測定することに成功した。
(1)微生物が産生する水素の濃度の測定方法であって、
耐圧機能を有する密閉可能な容器に前記微生物と液体培地を導入するステップと、
前記微生物と前記液体培地を導入した前記密閉可能な容器を密封するステップと、
前記密封した前記密閉可能な容器内の前記微生物を培養するステップと、
前記微生物を培養するステップにおいて、前記微生物が発生した気体を前記液体培地内に溶解させるために前記密閉可能な容器を振盪させる、または、前記培養するステップが静置培養の場合は培養の後、前記密封可能な容器を開封する前に前記密封された前記密封可能な容器を振盪させるステップと、
前記密封可能な容器を開封するステップと、
前記培養した後の液体培地内の水素濃度を測定するステップからなる方法。
(2)前記密閉可能な容器を密閉する際に前記密閉可能な容器内に含まれる気泡の体積が、前記密閉可能な容器の体積の1%以下となるように密閉することを特徴とする(1)に記載の方法である。
(3)前記密閉可能な容器を密閉する際に前記密閉可能な容器内に含まれる気泡の体積が、前記密閉可能な容器の体積の0.5%以下となるように密閉することを特徴とする(1)に記載の方法である。
(4)前記微生物を培養するステップにおいて、前記密閉した前記密封可能な容器内が、前記微生物が培養中に発生した気体によって加圧されることを特徴とする(1)から(3)のいずれか一つに記載の方法である。
(5)(1)から(4)における微生物が産生する水素の濃度の測定方法に用いられるキットであって、
耐圧機能を有する密閉可能な容器と、
水素濃度測定装置または水素濃度測定試薬を有することを特徴とするキットである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明をさらに説明する。
本発明において、「水素」とは分子状水素(すなわち、気体状水素)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH2、D2(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。
【0008】
本発明において、累積的な水素量をより正確に測定するために「密閉可能な容器」は耐圧性を有するものを使用することが好ましい。ここで耐圧性を有する密閉可能な容器としては、一般的に炭酸飲料の飲用に用いられるペットボトルやアルミニウム製のボトルを用いる事ができる。これらの密閉可能な容器は、微生物の培養中に微生物が産生する気体によって当該容器に内部が加圧されるように容器の変形が起こらないものを用いる事が好ましい。耐圧性を有する密閉可能な容器を用いることにより、微生物の培養により発生する水素や二酸化炭素等の気体によって容器内部が加圧されヘンリーの法則により、それらの気体が液体培地内に溶け込ませることができる。これらのボトルはボトルを密閉した時に、ボトル内部で発生した水素がボトルの内ぼから外部に壁面を通して漏れにくいため、微生物が容器内で発生した水素を含む気体を累積的に容器内に閉じ込めることができる。したがって、密封する際には、前記容器内から容器内で発生した気体が培養中に容器の外部に漏洩しないように密閉する必要がある。当該容器内において、一定時間の微生物の培養の後に、容器を開封し、液体培地内の水素濃度を所望の水素濃測定装置や水素濃度判定試薬を用いる事によって、微生物が累積的に産生した水素濃度を測定することができる。測定した水素濃度と用いた液体培地の量から、理想気体の状態方程式などの理論化学の方程式を用いる事によって、微生物が発生した水素の累積量(体積)を算出することができる。
【0009】
培養中に微生物が発生した気体を液体培地に溶存させるために、培養に際しては、浸透培養器で密閉可能な容器を振盪培養してもよいし、また、静置して培養した後に密閉可能な容器を振盪することが好ましい。前記密閉可能な容器の振盪培養には一般的に生化学の実験で用いられている培養方法を適用することができ、そのような方法としては、旋回培養や回転培養が含まれる。また、静置培養を行った際には、培養後、前記密閉可能な容器を開封する前に前記密閉可能な容器を手動または振盪機や回転機を用いて培養中に微生物が発生した気体を液体培地に十分に溶存させるために混和させるステップを踏むことが好ましい。
【0009】
本発明において、用いる事ができる微生物は、水素を産生する微生物であればなんでもよい。そのような、水素を産生する水素産生菌としては、バクテロイデス門の微生物、フィルミクテス門の微生物の他、大腸菌、食品の発酵に用いられる微生物であるが、微生物の種類に制限はない。このような微生物には、本願出願段階において水素を産生することが知られていない微生物であっても、本願出願の後に水素を発生することができることが解かる微生物についても適用することができる。
【0010】
本発明において、用いる事ができる液体培地は、肉エキスや糖分、ミネラルなど培地成分の水溶液でありうる。このような液体培地には食品を水などの液体に溶かしたものが含まれ、鶏がらなどの肉類を加熱して抽出したものも含まれる。あた、本発明に用いる事ができる液体培地には、生化学や細胞生物学における実験で用いられる、酵母抽出粉末やトリプトンなどを用いる事ができる。液体培地に溶解することができる食品としては、例えば以下のような食品が含まれるが、これに権利範囲が限定されるということはない。米麹粉末(有限会社糀屋本店、大分県、日本)、ペースト状白味噌(山永味噌株式会社、埼玉、日本)、ペースト状赤味噌(山永味噌株式会社、埼玉、日本)、ペースト状あわせ味噌(山永味噌株式会社、埼玉、日本)、フリーズドライあわせ味噌「あさげ」(株式会社永谷園、東京、日本)、フリーズドライ赤味噌「ひるげ」(株式会社永谷園、東京、日本)、フリーズドライ白味噌「ゆうげ」(株式会社永谷園、東京、日本)、米粉200メッシュ(粒径約60μm)、300メッシュ(粒径約50μm)、400メッシュ(粒径約40μm)(みどりの里 山居館製 山形県酒田市)、ごはんと研ぎ汁に用いたお米として新潟県産こしひかり2022年産(アイリスフーズ株式会社製、宮城県仙台市)、鶏がらスープ(味の素食品株式会社製 丸鶏がらスープ)、ガラクトオリゴ糖(healthy-company製)、還元麦芽糖(パリジェンヌ、伊藤忠製)、ぶどう糖(日本ガーリック株式会社、群馬、日本)、はちみつ(天長食品工業株式会社製(愛知県稲取市)純粋はちみつ)、アミラーゼ(第一三共ヘルスケア「新タカヂア錠」)、必須アミノ酸パウダー(ヘルシーカンパニー株式会社、広島県、日本)、コーンスターチ(川光物産株式会社、東京都、日本)、大豆たんぱく質(王子食品株式会社、京都府、日本)。
【0011】
本発明において、液体培地の水素濃度の測定に用いることができる測定装置は、LUNACAT社製、製品番号LN-FH-77の水素濃度計、Athyhao社製、製品番号Amazon Standard Item Number(ASIN):B09SHYP33Mを使用することができる。また、液体培地の水素濃度の測定に用いる事ができる試薬としては溶存水素濃度判定試薬(MiZ株式会社製 特許番号4511361号)が挙げられるが、適式に溶液中の水素濃度を測定できるものであればこれに限られず他の方法や測定装置によって使用することができる。
【0012】
本発明において、液体培地中で微生物が産生する水素の濃度を測定する方法手順は以下のとおりである。
(1)微生物が産生する水素の濃度の測定方法であって、
耐圧機能を有する密閉可能な容器に前記微生物と液体培地を導入するステップと、
前記微生物と前記液体培地を導入した前記密閉可能な容器を密封するステップと、
前記微生物を培養するステップにおいて、前記微生物が発生した気体を前記液体培地内に溶解させるために前記密閉可能な容器を振盪させる、または、前記培養するステップが静置培養の場合は培養の後、前記密封可能な容器を開封する前に前記密封された前記密封可能な容器を振盪させるステップと、
前記密封可能な容器を開封するステップと、
前記培養した後の液体培地内の水素濃度を測定するステップからなる方法である。
(2)前記密閉可能な容器を密閉する際に前記密閉可能な容器内に含まれる気泡の体積が、前記密閉可能な容器の体積の1%以下となるように密閉することを特徴とする(1)に記載の方法である。
(3)前記密閉可能な容器を密閉する際に前記密閉可能な容器内に含まれる気泡の体積が、前記密閉可能な容器の体積の0.5%以下となるように密閉することを特徴とする(1)に記載の方法である。
(4)前記微生物を培養するステップにおいて、前記密閉した前記密封可能な容器内が、前記微生物が培養中に発生した気体によって加圧されることを特徴とする(1)から(3)のいずれか一つに記載の方法である。
(5)(1)から(4)における微生物が産生する水素の濃度の測定方法に用いられるキットであって、
耐圧機能を有する密閉可能な容器と、
水素濃度測定装置または水素濃度測定試薬を有することを特徴とするキットである。
【0013】
上述のような測定方法であるため、前記密閉可能な容器を密封するステップにおいては、より多くの微生物が発生した水素を液体培地に含有させるために、水素可能な限り密閉可能な容器内に空気の気泡が入らないように密閉することが好ましい。そこで、密閉した後の密閉可能な容器内の空気の気泡の体積が、前記密閉可能な容器の体積の1%以下となるように密閉することが好ましく、より好ましくは前記密閉可能な容器の体積の0.5%以下となるように密閉することが好ましく、さらに好ましくは、前記密閉可能な容器の体積の0.1%以下となるように密閉することが好ましい。
【0014】
また、本願に係る発明は、微生物が発生した水素のみならず、二酸化炭素、酸素、メタン、硫化水素等の微生物が発生した気体濃度の測定をする際にも適用できる。水素以外の気体を測定する際には、それぞれの気体を測定するために適した濃度の測定方法を用いる事が好ましいい。
【実施例0015】
酪酸菌として知られているクロストリジウム・ブチリカムは、水素を産生することができるフィルミクテス門に属する微生物である。今般、クロストリジウム・ブチリカムが産生する水素を本願発明に係る水素濃度測定方法を用いて測定した。
【0016】
(実験方法)
耐圧性ペットボトル500mlにクロストリジウム・ブチリカムの種菌(ABP末 109(エースバイオプロダクト株式会社(長野県、日本)製))1gを入れる。本実験では液体培地として鶏がらスープ(味の素食品株式会社製 丸鶏がらスープ)を純水で溶いた液体(液体培地1)と、鶏がらスープ(味の素食品株式会社製 丸鶏がらスープ)にはちみつ(天長食品工業株式会社製(愛知県稲取市)純粋はちみつ)3gを純水で溶いた液体液体培地(液体培地2)を紫外線で滅菌したペットボトル内に満水になるまで入れてペットボトル内の気泡をペットボトルの側面を手でたたいて追い出す。その後、できるだけ空気が入らないようにペットボトルのキャップを閉める。ここまでの作業はクリーンベンチ内で行った。クロストリジウム・ブチリカムの種菌と純水が入ったペットボトルを37℃の恒温槽に入れて静置する。培養温度はヒトの体温を想定して設定した。培養の後、ペットボトルを開栓する前に手首を回転させるようにペットボトルの縦軸方向が略水平になるように約30秒振盪させた。その後、ペットボトルを開栓し、18時間後に液体培地に溶存している水素濃度を溶存水素濃度判定試薬で濃度を測定した。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解する。ペットボトルのような密閉空間内でクロストリジウム・ブチリカムが水素を発生すると、ペットボトル内が加圧され、ヘンリーの法則に従って、ペットボトル内の溶液の水素濃度は高くなる。培養と水素濃度の測定は3回行い、平均値と標準誤差を求めた。
【0017】
(結果)
液体培地1を用いた場合、3回の水素濃度平均値は2.3ppm(標準誤差0.3ppm)であった。液体培地2を用いた場合、3回の水素濃度平均値は5.2ppm(標準誤差0.4ppm)であった。
本願発明に係る水溶液中の水素濃度の測定方法を用いれば、拡散性が高く容易に水中から大気に放出されてしまう微生物が産生する水素分子であっても、大気中に水素の放出を最小限に抑制するので高い再現性でもって容易に測定するこかができる。