(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152539
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】PCB含有塗膜の無害化システム
(51)【国際特許分類】
B05D 3/00 20060101AFI20241018BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20241018BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20241018BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20241018BHJP
【FI】
B05D3/00 D
B05D3/12 E
B05D3/02 Z
B05D3/12 D
B05D3/12 B
B09B3/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023076359
(22)【出願日】2023-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】594154978
【氏名又は名称】ベステラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉野 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】長 泰治
(72)【発明者】
【氏名】金光 弘嗣
【テーマコード(参考)】
4D004
4D075
【Fターム(参考)】
4D004AA08
4D004AB06
4D004CA22
4D004CB02
4D004CB31
4D075BB02X
4D075BB02Z
4D075BB08Z
4D075BB20X
4D075BB20Z
4D075BB21Z
4D075BB81X
4D075BB91X
4D075BB91Z
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA27
4D075DB01
4D075DB02
4D075DC05
(57)【要約】
【課題】 構造物の表面に保護の目的で塗布される塗料に微量のPCBが含まれている場合において、再塗装、入れ替え、あるいは設備・構造物撤去工事を行う際に、「PCB特措法」及び作業員の健康と作業場周辺の環境に配慮し、様々な環境下で遅滞なく適切に無害化処理する為の「PCBを環境中に放出することのない、作業者にもPCB暴露の危険のすくない、加熱処理時間も短縮できる、PCB無害化システム」を提供する。
【解決手段】 再利用する場合には剥離によって、また、解体の場合には剥離および分解によって密閉容器に処理すべき物体を収納し、固定焼却炉において熱処理により無害化する。含有PCBが低濃度であること、および、塗膜くずも分解収納した対象物もサイズが小さく熱伝達も迅速であると考えられることにより固定焼却炉での無害化に要する加熱時間を短縮できることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面の保護の目的で塗布される塗料に微量のPCBが含まれる場合であって、 検査のために塗装の一部を採取し検査機関に送付して結果を得る[塗膜試料採取・検査工程]と、「封じ込めを行うか剥離を実施するか」を判断し必要な封じ込めを行う[封じ込め工程]と、養生ののち構造物表面から塗装を剥ぎ取り密閉容器に収め搬送する[剥離・密閉・搬送工程]と、解体物において複雑形状などの理由で現場での剥離が困難である場合に分解して密閉容器に収め運搬する[分解・密閉・搬送工程]と、密閉容器に収めたPCB塗膜くずや分解された機器装置を固定炉で加熱し無害化する[熱処理工程]と、を有し、「PCBを環境中に放出することのない、かつ、作業者にもPCB暴露の危険の少ないPCB含有塗膜無害化システム」。
【請求項2】
解体物において複雑形状などの理由で現場での剥離が困難である場合、その部分の剥離を行わず、密閉容器に収まるサイズまで分解(無火気切断含む)して密閉容器により固定焼却炉に移送して、塗膜が付いた分解された機器装置を加熱してPCB無害化することを特徴とする、請求項1に記載の「PCBを環境中に放出することのない、かつ、作業者にもPCB暴露の危険の少ないPCB含有塗膜無害化システム」。
【請求項3】
固定焼却炉での加熱においては、塗膜くずおよび塗膜が付いた機器装置は、例えばトランスの加熱処理などと比べサイズも重量も小さいことから高温維持時間を短くすることできるため処理効率を上げることが可能で、処理後の金属は鉄であればそのまま転炉におくるなどリユースが容易であることを特徴とする、請求項1・2に記載の「PCBを環境中に放出することのない、かつ、作業者にもPCB暴露の危険の少ないPCB含有塗膜無害化システム」。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の表面に保護の目的で塗布される塗料に微量のPCBが含まれている場合において、再塗装、入れ替え、あるいは設備・構造物撤去工事を行う際に、「PCB特措法」及び作業員の健康と作業場周辺の環境に配慮し、様々な環境下で遅滞なく適切に無害化処理する為の「PCBを環境中に放出することのない、かつ、作業者にもPCB暴露の危険のすくないPCB含有塗膜無害化システム」に関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜の剥離方法には乾式(物理的にまたは局所的加熱により剥ぎ取る)と湿式(化学的に溶かして浮かして剥ぎ取る)の2種があり、橋梁などのメインテナンスの一環として「傷んだ塗装をはがして、塗り直しを行う」場合に対応した多数の方法が知られている。
上記の剥離は橋梁などの構造物を継続使用する前提があるため、地金に与えるダメージを少なくしなければならない制限がある。
剥離したPCB含有塗膜は加熱処理によって無害化される。
【0003】
塗膜の剥離方法には上記の通り乾式(特許文献1など)と湿式(特許文献2など)が知られているが、PCB含有の塗膜の場合には「気化させない、飛散させない」という制約が加わる。これらの制約下での特許には特許文献3などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-182601
【特許文献2】特開2020-176220
【特許文献3】特許第6442101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大きな平面あるいは曲面からの剥離については、乾式においても湿式においても有効な剥離方法が確立されている。
【0006】
特許文献1によれば、大規模な面においてIH剥離方法が有用な選択になるとことが示されている。
このように塗膜剥離の方法は多数ある。
【0007】
しかし、複雑形状で剥離自体が困難である、もしくは、作業効率化が難しい場合も存在し、工期が長くなる問題が生じる。
【0008】
また前述のように剥離において「気化させない、飛散させない」の制限もかかる。
【0009】
加熱による無害化を実施することができる炉は各所に存在するが、もっぱら「高濃度PCB含有トランス」などに対応する設備であり、PCB塗膜のような少量のものを加熱するには不向き(大規模すぎる)とされていた。また、加熱処理も「850℃で数時間」などと長時間におよび処理効率のネックとなる。
【0010】
本発明では、上記の剥離および熱処理によってPCBを無害化するシステムにおいて、作業員の健康への危険を低減する、またそもそも複雑形状で剥離自体が困難もしくは効率化が難しい場合にも対応する無害化システムを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、
構造物の表面の保護の目的で塗布される塗料に微量のPCBが含まれる場合であって、 検査のために塗装の一部を採取し検査機関に送付して結果を得る[塗膜試料採取・検査工程]と、「封じ込めを行うか剥離を実施するか」を判断し必要な封じ込めを行う[封じ込め工程]と、養生ののち構造物表面から塗装を剥ぎ取り密閉容器に収め搬送する[剥離・密閉・搬送工程]と、解体物において複雑形状などの理由で現場での剥離が困難である場合に分解して密閉容器に収め運搬する[分解・密閉・搬送工程]と密閉容器に収めたPCB塗膜くずや分解された機器装置を固定炉で加熱し無害化する[熱処理工程]と、を有する。
【0012】
この構成によれば、「封じ込め」「剥離」「現場での剥離はせずに分解」のそれぞれの場合に対応出来る。
【0013】
この構成では、橋梁のような「継続使用するもの」と「撤去・解体するもの」の両方に適用できる。
【0014】
請求項2の発明は、解体物において複雑形状などの理由で現場での剥離が困難である場合、その部分の剥離を行わず、密閉容器に収まるサイズまで分解(無火気切断含む)して密閉容器により固定焼却炉に移送して、塗膜が付いた分解された機器装置を加熱してPCB無害化することを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明は、固定焼却炉での加熱においては、塗膜くずおよび塗膜が付いた機器装置は、例えばトランスの加熱処理などと比べサイズも重量も小さいことから高温維持時間を短くすることできるため処理効率を上げることが可能で、処理後の金属は鉄であればそのまま転炉におくるなどリユースが容易であることを、特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PCBを環境中に放出することなく、かつ、作業者にもPCB暴露の危険を少なくPCB含有塗膜を無害化できる。
【0017】
解体物において複雑形状などの理由により現場での剥離が困難である場合にも、分解して密閉容器に収めての搬送・熱処理することにより、上記部分の剥離に工数がかかりすぎるなどの作業効率低下を避けることが出来る。
【0018】
固定焼却炉での加熱においては、塗膜くずおよび塗膜が付いた機器装置は、例えばトランスの加熱処理などと比べサイズも重量も小さいことから高温維持時間を短くすることできるため処理効率を上げることができる。また、熱処理後の金属リサイクルも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】(a)剥離をおこなう対象物の例(重油タンク) (b)剥離が困難な対象物の例(配管)
【
図4】(a)乾式剥離(ブラスト)の例 (b)乾式剥離(スクレイパー)の例
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について工法図表に基づいて詳細に説明する。
「剥離および熱処理によってPCBを無害化するシステム」を
図1を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態に係わる工法図表である。
【0021】
▲1▼[塗膜試料採取・検査工程]
塗膜の分析を行う対象物の塗膜を採取する。塗膜採取時の注意点として、塗料が何層も上塗りされている場合を考慮し、必ず検査対象物の金属面まで塗膜を剥がした「塗膜クズ」(以下、塗膜試料という。)約200グラムをビニール袋などで密閉保管し認証検査機関へ送付し成分検査を行う。尚、対象の塗膜を採取する際、含有成分を正確に把握する必要がある為、塗膜剥離を目的とした薬剤を塗布した方法で採取してならない。また、熱を加える事で有毒ガスが発生する恐れがある為、高温を加えて塗膜を採取する工法は使用しない。つまり物理的な切削によって試料塗膜を採取する。
【0022】
▲2▼「塗膜クズ」の成分検査の結果、PCB特措法で定めた規制値以上のPCBが検出された場合、当該構造物の所有者はPCB特措法で定められた期限内(現法、令和9年5月末まで)にPCB含有塗膜を所有者の費用負担で処理しなければならない。ただし処理費用の問題や塗膜剥離工事の実施が、何かしらの問題により困難な場合、可及的速やかに有害物の封じ込めを行う事とする。
【0022】
▲3▼[封じ込め工程]
「封じ込め」とは、塗膜に含まれたPCB含有の粉塵等が大気中に拡散しないよう、粘度の高いガラス由来の塗料を、既存塗膜の上から被膜塗装しPCB含有塗膜と外気との接触を遮断し、PCBの処理工程を延期する工法である。
【0023】
▲4▼PCB含有塗膜を剥離、除去工事の際、塗膜を除去した構造物を再塗装し、継続的に使用する場合、構造物の強度が損なわれる可能性のある工法を利用した剥離工事は実施してはならない。
【0024】
▲5▼[剥離・分解・搬送工程]
PCB含有塗膜の除去工事の際、有害性粉塵や有害性ガスの大気中への拡散防止の為、工事個所を局所養生または密閉養生を施して作業を行う必要がある。剥離が実施可能な場合には剥離によってPCB含有塗膜を対象物から分離し容器に収納し密閉する。
設備や構造物の密閉養生が現場で可能な場合、作業効率を重視しIHで加熱し塗膜を剥離する工法や、有毒ガスが発生する可能性があるガス溶断等、熱を加える工法も選定可能となる。
対象物の設置個所が物理的に養生を施せない等、何らかの制約により養生の実施が現地で困難な場合、設備の再利用目的がない場合であれば、現場でPCB含有の塗膜は剥離せずに、当該設備を分解し容器に収納し密閉する。なおここで言う密閉容器は次工程の固定焼却炉へ投入可能な形状のものとする。密閉後の容器は熱処理施設へ運搬する。
【0025】
▲6▼[熱処理工程]
前工程で「剥離したPCB含有塗膜」または「PCB含有の塗料が塗布された分解後の構造物」を「摂氏800度以上のPCB処分認証を受けた施設」の固定焼却炉へ投入する。熱処理によってPCBを無害化する。
【0026】
▲7▼[剥離・搬送工程]
PCB含有の塗膜が付着した設備や構造物を解体せずに、無害塗料を再塗装し継続的に使用する場合、PCB含有塗膜を有する設備や構造物の塗膜剥離作業時に大気中にPCB含有の粉塵や有毒ガスが拡散防止の為、設備や構造物を密閉養生しPCB含有塗膜を剥離し分離し容器に収納し密閉する。なおここで言う密閉容器は前述の固定焼却炉へ投入可能な形状のものとする。密閉後の容器は熱処理施設へ運搬する。
設備や構造物の密閉養生が現場で可能な場合、作業効率を重視しIHで加熱し塗膜を剥離する工法や、有毒ガスが発生する可能性があるガス溶断等、熱を加える工法も選定可能となる。
設備を再利用することから、作業の際は塗膜を剥離した設備や構造物の強度が変化しないように注意し剥離工法を選定しなければならない。
【符号の説明】
【0031】
<特になし>