(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152560
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】制振シート及び制振ユニット
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
F16F15/02 Q
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023159323
(22)【出願日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2023065775
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】林 賢亮
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 孝
(72)【発明者】
【氏名】中元 啓太
(72)【発明者】
【氏名】萩原 秀志
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AD07
3J048BF01
3J048CB22
3J048EA07
3J048EA36
3J048EA37
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】設計自由度の高い制振シート及び制振ユニットを提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る制振シートは、基板と、制振ユニットと、を具備する。上記基板は第1の面を有する。上記制振ユニットは、錘部と、支持部とを有する。上記錘部は、上記基板から離間して位置する。上記支持部は、一端側が上記錘部に固定され、他端側が上記第1の面に固定される棒状である。上記制振ユニットは、上記錘部の重心を通る上記第1の面の法線に平行な方向及び上記法線と直交する仮想平面の面内方向に振動可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面を有する基板と、
前記基板から離間して位置する錘部と、一端側が前記錘部に固定され、他端側が前記第1の面に固定される棒状の支持部と、を有する制振ユニットであって、前記錘部の重心を通る前記第1の面の法線に平行な方向及び前記法線と直交する仮想平面の面内方向に振動可能な制振ユニットと、
を具備する制振シート。
【請求項2】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記法線と、前記制振ユニットが前記第1の面からうける垂直抗力の作用線とは、一直線上に位置しない
制振シート。
【請求項3】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記支持部は、前記錘部から突出し、前記錘部から離れるように、前記法線に平行な方向成分と前記仮想平面の面内方向成分を含んで延在して、前記第1の面に着地する
制振シート。
【請求項4】
請求項3に記載の制振シートであって、
前記支持部は、屈曲部を有する棒状、又は、湾曲した棒状である
制振シート。
【請求項5】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記制振ユニットは、前記支持部を1つ有する
制振シート。
【請求項6】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記制振ユニットは前記支持部を2つ有し、当該2つの支持部は前記錘部を間に介して対向配置され、
前記仮想平面に前記前記制振ユニットを投影したときの投影図において前記2つの支持部それぞれの延在方向は一直線上に位置する
制振シート。
【請求項7】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記錘部、前記支持部及び前記基板は同じ材料から構成される
制振シート。
【請求項8】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記制振ユニットは、前記基板に複数配置される
制振シート。
【請求項9】
請求項8に記載の制振シートであって、
複数の前記制振ユニットは、固有振動数が異なる複数種類の制振ユニットを含む
制振シート。
【請求項10】
請求項9に記載の制振シートであって、
前記固有振動数が異なる複数種類の制振ユニットは、前記錘部の質量、前記支持部の寸法及び前記支持部の数の少なくとも1つが異なる制振ユニットである
制振シート。
【請求項11】
請求項8に記載の制振シートであって、
複数の前記制振ユニットは、前記基板上に向きが異なって配置される制振ユニットを含む
制振シート。
【請求項12】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記基板は、前記第1の面の反対側に位置する第2の面を有し、当該第2の面が制振対象物の表面に接して配置される
制振シート。
【請求項13】
請求項1に記載の制振シートであって、
前記制振ユニットは前記錘部を複数有し、
前記支持部は、
前記一端側に位置する棒状の基部と、
前記他端側に位置し、前記基部から枝分かれし、それぞれの先端に前記錘部が固定される棒状の複数の枝部と
を有する
制振シート。
【請求項14】
請求項13に記載の制振シートであって、
複数の前記錘部のうち少なくとも1つの錘部は他の錘部と重量が異なる、及び/又は、複数の前記枝部のうち少なくとも1つの枝部は他の枝部と寸法が異なる
制振シート。
【請求項15】
制振対象物から離間して位置する錘部と、
一端側が前記錘部に固定され、他端側が前記制振対象物の表面に固定される棒状の支持部であって、前記錘部とともに制振ユニットを構成し、前記錘部の重心を通る前記表面の法線に平行な方向及び前記法線と直交する仮想平面の面内方向に、前記錘部とともに振動可能な支持部と、
を具備する制振ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振シート及び制振ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、鉄道車両、船舶、家庭電化機器、OA機器、建築設備、工作機械などの分野に用いられる部品や筐体は、その運転時に振動や騒音を生じやすい。このような振動及び騒音の発生を抑制するために、部品や筐体に振動や音を抑制するシートを貼付することが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、ゴム弾性を有するシート上に複数の共振部が設けられた遮音シート部材が記載されている。当該共振部は、基部と、基部よりも質量が大きい錘部を備え、共振部の先端側において錘部の少なくとも一部が基部に埋没されて構成される。特許文献1には、騒音源から音波が入射された際、シート及び/又は共振部の共振が生じ、シート及び/又は共振部の共振周波数付近において、振動の一部乃至全部が静止し、その結果、質量則を凌駕する高い遮音性能が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される遮音シート部材では、シートと直交する面外方向の制振には有効であるものの、シートの面内方向の振動の制振効果が不十分であった。また、特許文献1に記載される遮音シート部材の共振部の形状では、基部の大きさが錘の形状に依存していることで、制振したい振動周波数の選択肢が狭く、設計自由度に限界があった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、設計自由度の高い制振シート及び制振ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る制振シートは、基板と、制振ユニットと、を具備する。上記基板は第1の面を有する。上記制振ユニットは、錘部と、支持部とを有する。上記錘部は、上記基板から離間して位置する。上記支持部は、一端側が上記錘部に固定され、他端側が上記第1の面に固定される棒状である。上記制振ユニットは、上記錘部の重心を通る上記第1の面の法線に平行な方向及び上記法線と直交する仮想平面の面内方向に振動可能である。
【0008】
このような構成によれば、支持部を棒状にすることで、当該支持部の寸法や支持部の数を調整することで容易に制振ユニットの固有振動数の最適化を行うことができ、設計自由度が高い制振シートとすることができる。
【0009】
上記法線と、上記制振ユニットが上記第1の面からうける垂直抗力の作用線とは一直線上に位置しなくてもよい。
【0010】
上記支持部は、上記錘部から突出し、上記錘部から離れるように、上記法線に平行な方向成分と前記仮想平面の面内方向成分を含んで延在して、上記第1の面に着地してもよい。
【0011】
上記支持部は、屈曲部を有する棒状、又は、湾曲した棒状であってもよい。
【0012】
上記制振ユニットは、上記支持部を1つ有してもよい。
【0013】
上記制振ユニットは上記支持部を2つ有し、当該2つの支持部は上記錘部を間に介して対向配置され、
上記仮想平面に上記制振ユニットを投影したときの投影図において上記2つの支持部それぞれの延在方向が一直線上に位置してもよい。
【0014】
上記錘部、上記支持部及び上記基板は同じ材料から構成されていてもよい。
【0015】
上記制振ユニットは、上記基板に複数配置されていてもよい。
【0016】
複数の上記制振ユニットは、固有振動数が異なる複数種類の制振ユニットを含んでもよい。
【0017】
上記固有振動数が異なる複数種類の制振ユニットは、上記錘部の質量、上記支持部の寸法及び上記支持部の数の少なくとも1つが異なる制振ユニットであってもよい。
【0018】
複数の上記制振ユニットは、上記基板上に向きが異なって配置される制振ユニットを含んでもよい。
【0019】
上記基板は、上記第1の面の反対側に位置する第2の面を有し、当該第2の面が制振対象物の表面に接して配置されてもよい。
【0020】
上記制振ユニットは上記錘部を複数有し、上記支持部は、上記一端側に位置する棒状の基部と、上記他端側に位置し、上記基部から枝分かれし、それぞれの先端に上記錘部が固定される棒状の複数の枝部とを有してもよい。
【0021】
複数の上記錘部のうち少なくとも1つの錘部は他の錘部と重量が異なる、及び/又は、複数の上記枝部のうち少なくとも1つの枝部は他の枝部と寸法が異なってもよい。
【0022】
本発明の一形態に係わる制振ユニットは、錘部と、支持部と、を具備する。上記錘部は、制振対象物から離間して位置する。上記支持部は、一端側が上記錘部に固定され、他端側が制振対象物の表面に固定される棒状であって、上記錘部とともに制振ユニットを構成する。上記支持部は、上記錘部の重心を通る上記表面の法線に平行な方向及び前記法線と直交する仮想平面の面内方向に、前記錘部とともに振動可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、錘部と、棒状の支持部とを備える制振ユニットを設けることで、制振ユニットの固有振動数の最適化が容易な設計自由度の高い制振シート及び制振ユニットとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係わる制振シートの斜視図である。
【
図2】第1実施形態の制振シートを制振対象物の表面に配置したときの部分断面図である。
【
図3】(A)は第1実施形態の制振シートの一部を構成する制振ユニットの斜視図であり、(B)は当該制振ユニットの錘部の重心と制振ユニットが第1の面からうける垂直抗力の作用線との位置関係を説明するための制振ユニットの断面図であり、(C)は制振ユニットを仮想平面に投影させた投影図である。
【
図4】(A)~(C)は、それぞれ、制振ユニットの一部を構成する錘部の他の形状例を示す斜視図である。
【
図5】(A)は第1実施形態に係わる制振ユニットの一部を構成する支持部の断面図であり、(B)~(E)はそれぞれ支持部の他の断面形状例を示す図である。
【
図6】(A)~(D)は、それぞれ、制振ユニットの他の形状例の斜視図である。
【
図7】(A)~(D)は、それぞれ、制振ユニットの他の形状例の斜視図である。
【
図8】(A)及び(B)は、それぞれ、制振ユニットの他の形状例の斜視図であり、(C)は、制振ユニットの他の形状例の模式側面図である。
【
図9】(A)は、
図7(A)に示す制振ユニットにおける、錘部の重心と制振ユニットの第1の面からうける垂直抗力の作用線との位置関係を説明するための模式側面図であり、(B)は、
図8(A)に示す制振ユニットにおける、錘部の重心と制振ユニットの第1の面からうける垂直抗力の作用線との位置関係を説明するための模式側面図である。
【
図10】制振ユニットの作製例を示す模式図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係わる制振シートの斜視図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係わる制振シートの斜視図である。
【
図13】(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の第4実施形態に係わる制振シートの斜視図である。
【
図14】(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の第5実施形態に係わる制振ユニットの斜視図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係わる制振シートの適用例を示す航空機の胴体の部分概略断面図である。
【
図16】第1実施例、第1比較例の平板及び第2比較例の制振シートの制振性及び遮音性の測定方法を説明するための模式斜視図である。
【
図17】第1実施例の制振シートの一部を構成する制振ユニットの拡大斜視図である。
【
図18】第1実施例の制振シート、第1比較例の平板及び第2比較例の制振シートの面外方向における制振性評価に係わる測定結果を示すグラフである。
【
図19】第1実施例の制振シート及び第1比較例の平板の面外方向における遮音性評価に係わる測定結果を示すグラフである。
【
図20】第1実施例の制振シート、第1比較例の平板及び第2比較例の制振シートの面内方向における制振性評価に係わる測定結果を示すグラフである。
【
図21】制振ユニット単体の固有モードを解析した結果を示す制振ユニットの模式斜視図である。
【
図22】制振ユニット単体の固有モードの周波数と
図20との対比を示す図である。
【
図23】(A)は本発明の第6実施形態に係わる多錘型制振ユニットを備える多錘型制振シートの斜視図であり、(B)は当該多錘型制振シートを上からみた上面図である。
【
図24】(A)は第6実施形態に係わる多錘型制振ユニットの斜視図であり、(B)は当該多錘型制振ユニットを上からみた上面図である。
【
図25】(A)は本発明の第7実施形態に係わる多錘型制振ユニットを備える多錘型制振シートの斜視図であり、(B)は当該多錘型制振シートを上からみた上面図である。
【
図26】第7実施形態に係わる多錘型制振ユニットの斜視図である。
【
図27】(A)は本発明の第8実施形態に係わる多錘型制振ユニットを備える多錘型制振シートの斜視図であり、(B)は当該多錘型制振シートを上からみた上面図である。
【
図28】第8実施形態に係わる多錘型制振ユニットの斜視図である。
【
図29】(A)は本発明の第9実施形態に係わる多錘型制振ユニットを備える多錘型制振シートの斜視図であり、(B)は当該多錘型制振シートを上からみた上面図である。
【
図30】第9実施形態に係わる多錘型制振ユニットの斜視図である。
【
図31】(A)は本発明の第10実施形態に係わる多錘型制振ユニットを備える多錘型制振シートの斜視図であり、(B)は当該多錘型制振シートを上からみた上面図である。
【
図32】第2実施例の制振シート、第3実施例の制振シート及び第3比較例の平板の制振性及び遮音性の測定に用いる風洞実験装置の概略斜視図である。
【
図33】第3実施例に係わる制振シート(単錘型制振シート)の斜視図である。
【
図34】第2実施例(多錘型制振シート)、第3実施例(単錘型制振シート)及び第3比較例(制振ユニットがない平板)の制振性に係わる測定結果を示すグラフである。
【
図35】第2実施例(多錘型制振シート)及び第3比較例(制振ユニットがない平板)の面外方向における遮音性評価に係わる測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の説明において、既出の構成については同様の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0026】
以下に説明する本発明の一実施形態に係わる制振シート及び制振ユニットは、制振対象物の表面に接して配置され、当該制振対象物の振動を低減する。制振対象物としては、例えば、自動車、航空機、鉄道車両、船舶、家庭電化機器、OA機器、建築・住宅設備、工作機械などの、振動が発生する用途に用いられるものの部品や筐体等がある。
【0027】
<第1実施形態>
【0028】
[制振シート]
【0029】
図1は、本実施形態に係わる制振シート1の斜視図である。
図2は、
図1の制振シート1を制振対象物8の表面80に配置した状態の部分断面図である。
図3(A)は制振シート1の一部を構成する制振ユニット3の斜視図である。
図3(B)は錘部7の重心Cを通る第1の面21の法線16と制振ユニット3が第1の面21からうける垂直抗力の作用線19との位置関係を説明する図である。
図3(C)は、錘部7の重心Cを通る第1の面21の法線16と直交する仮想平面18に制振ユニット3を投影した投影図である。
【0030】
制振対象物8は、振動する物体である。制振対象物8は、機器やエンジンといった振動源そのものでもよいし、制振対象物8とは異なる振動源の振動に起因して振動する物体であってもよいし、制振対象物8とは異なる音の発生源からの音の伝搬に起因して振動する物体であってもよい。
【0031】
図1及び
図2に示すように、制振シート1は、基板2と、制振ユニット3と、を備える。基板2は、矩形状を有し、第1の面21と第2の面22とを有する。制振ユニット3は、基板2の第1の面21上に1つ以上設けられる。制振シート1の第2の面22は例えば接着剤を介して制振対象物8の表面80に貼付され、制振シート1は制振対象物8に固定配置され得る。また、制振シート1は、制振ユニット3の振動が阻害されないように、制振ユニット3の動く空間が確保された状態で、制振対象物8に配置される。
【0032】
制振ユニット3は、制振対象物8から伝わる振動によって加振され、振動を起こしやすい構造で構成される。制振ユニット3は、支持部10と、錘部7とを有する。制振ユニット3の固有振動数を制振対象物8の振動の周波数と同等とすることにより、制振シート1では、制振ユニット3の錘部7が振動する(言い換えると、揺れる)ことで制振対象物8の振動を低減することができる。本実施形態では、
図2に示すように、制振ユニット3が基板2を介して制振対象物8に配置されるが、単体の制振ユニット3が、直接、制振対象物8の表面80に固定配置されてもよく、制振ユニット3のみでも制振効果が得られる。
【0033】
本実施形態では、制振シート1が配置される制振対象物8の表面80が平坦面である例をあげるが、制振対象物の表面は曲面であってもよい。基板2を可撓性の材料で構成し、制振シート1を制振対象物の曲面状の表面に沿って変形させて、制振対象物に制振シートを貼付してもよい。また、本実施形態では、基板2の形状を矩形状とする例をあげるが、基板2の形状は矩形に限定されず、制振シート1の貼付対象となる制振対象物8の表面形状等によって適宜設定してもよい。
【0034】
本実施形態では、制振対象物8の表面80が平坦面であるため、制振対象物8に制振シート1が配置された状態で、基板2の第1の面21及び第2の面22は平坦面となる。このため、錘部7の重心Cを通る第1の面21の法線16に直交する仮想平面18は、制振対象物8の表面80、第1の面21及び第2の面22と平行な面となる(
図3(B)及び(C)参照。)。制振シート1を水平面に配置した場合、法線16の方向は重力方向に一致する。このように、本実施形態では、基板2の第1の面21は仮想平面18に平行な平坦面であり、
図3(C)に示す投影図は、第1の面21(又は、制振対象物8の表面80)に制振ユニット3を投影した投影図と言い換えることができる。
【0035】
図1に示す制振シート1において、矩形状の基板2の直交する2辺それぞれに平行なX軸及びY軸を設定し、当該X軸及びY軸に直交するZ軸を設定する。錘部7の重心Cを通る第1の面21の法線16は、Z軸に平行である。また、仮想平面18、制振対象物8の表面80、第1の面21及び第2の面22は、XY平面に平行である。本明細書において、「面内方向」とは仮想平面18における面内方向を指し、「面外方向」とは法線16に平行な方向を指す。また、本明細書において、「面内方向」を「横方向」といい、「面外方向」を「縦方向」ということがある。本実施形態では、「面内方向」はXY平面における面内方向に対応し、「面外方向」はZ軸方向に対応する。
【0036】
また、本明細書において、制振ユニット3における「上」とは、制振シート1又は制振ユニット3を制振対象物8に配置したときに、制振対象物8から遠ざかる方を示し、「下」とは、制振対象物8に近づく方を示す。
【0037】
図1に示すように、制振シート1において、基板2上には、X軸方向に8個、Y軸方向に8個の計64個の制振ユニット3が格子状に配置される。複数の制振ユニット3は、いずれも同じ形状で同じ大きさの同じ種類の制振ユニット3である。複数の制振ユニット3は、X軸方向及びY軸方向それぞれで等間隔に配置される。尚、複数の制振ユニットは等間隔に配置されていなくてもよい。少なくとも、制振シート1を制振対象物8に配置したときに、互いの振動(揺れ)に干渉しないように複数の制振ユニット3が配置されればよい。これにより、制振ユニット3同士の衝突を避けることができ、安定した制振特性を有する制振シート1とすることができる。尚、制振シート1における単位面積当たりの制振ユニット3の配置数は限定されず、1以上あればよい。また、本実施形態では、複数の制振ユニット3はいずれも同じ向きを有しているが、異なる向きに配置されてもよく、後述の他の実施形態で具体例を説明する。
【0038】
[制振ユニット]
【0039】
図3(A)に示すように、制振ユニット3は、錘部7と、支持部10と、を有する。制振ユニット3は、振動可能な振動体を構成し、錘部7の重みによって制振ユニット3は多方向に振動する。制振ユニット3の固有振動数を、制振対象物8の振動(抑えたい振動)の周期と略同等となるように、錘部7が抑えたい振動と略同じ周期で振動するように調整する。錘部7が制振対象物8の振動に反応して振動することで制振対象物の振動が吸収されて、制振対象物8の振動が低減される。このように、制振ユニット3は、制振対象物8の振動数周辺での共振現象を抑制する動吸振器として機能する。
図3(A)及び
図3(B)に示すように、制振ユニット3全体の形状は、曲がった棒状の支持部10の先端に錘部7が設けられて構成される。
【0040】
錘部7は、基板2の第1の面21から離間して位置する。支持部10は錘部7を支持する。本実施形態では、支持部10は2つあり、それぞれに符号10a、10bを付すが、特に両者を区別する必要がない場合は支持部10という。後述する他の形状例の制振ユニットについても同様である。
【0041】
支持部10は、細長い棒状を有する。支持部10の一端側11は錘部7に固定され、他端側12は基板2の第1の面21に固定される。支持部10aの一端側に符号11aを付し、支持部10bの一端側に符号11bを付すが、特に両者を区別する必要がない場合は一端側11という。同様に、支持部10aの他端側に符号12aを付し、支持部10bの他端側に符号12bを付すが、特に両者を区別する必要がない場合は他端側12という。後述する他の形状例の制振ユニットについても同様である。
【0042】
制振ユニット3の固有振動数は、基本的に、錘部7の質量及び支持部10のバネ定数により決定し、錘部7の重さ、支持部10の寸法、支持部10の形状及び支持部10の数等によって調整することができる。錘部7の質量を小さくすることで固有振動数を高くすることができ、質量を大きくすることで固有振動数を低くすることができる。また、支持部10の材質を変更することでも弾性係数等の変化により固有振動数を変更することができる。
【0043】
更に、本実施形態の制振ユニット3では、支持部10が棒状で細長い形状を有していることで、支持部10を構成する材料を変更して物性値を変えるということをせずとも、支持部10の寸法、支持部10の数等を調整することで、支持部10のバネ定数を容易に変更することができる。これにより、制振ユニット3の固有振動数を広範囲でチューニングすることができ、低減したい振動周波数に応じた制振ユニット3を容易に設計することができる。
【0044】
このように、本実施形態の制振シート1は、錘部7と基板2との間に設けられる支持部10が棒状で細長い形状を有していることで、制振ユニット3に用いる材料の制約が少なく、制振ユニット3の固有振動数を広範囲でチューニングすることができ、設計自由度の高いものとなっている。
【0045】
上記「支持部10の形状」は、屈曲部を有する棒状、湾曲した棒状といった支持部の形状を示す。上記「支持部の寸法」には、棒状の支持部10の延在方向における長さ寸法(以下、「支持部10の長さ寸法」という。)、支持部10の断面に係わる寸法、支持部10を構成する各部位の長さ寸法等が含まれる。上記支持部10の長さ寸法は、支持部10の中心線15の一端側11から他端側12までの長さに対応する。上記支持部10の断面は、支持部10をその延在方向と直交する平面で切断したときの断面を指す。支持部10の断面に係わる寸法には、支持部10の断面の径といった断面の形状を規定する各種寸法や支持部の太さ(断面の外周)等が含まれる。
【0046】
図3(C)を参照する。本明細書において、投影図における支持部10の延在方向を「第1方向」と称する。また、当該第1方向と直交し、仮想平面18に平行な方向を「第2方向」と称して説明する。本明細書において、「制振ユニットの向き」は、支持部10の仮想平面上における延在方向(第1方向)を基準にして説明する。投影図における支持部の延在方向は、「支持部の面内方向における延在方向」である。これに対し、「支持部の延在方向」は、支持部10の一端側11の先端から他端側12の先端までの長さ方向を示す。
【0047】
(錘部)
【0048】
図3(A)に示すように、制振ユニット3の錘部7は略円柱状を有する。より詳細には、錘部7は、円柱体の底面に第1方向に延びる棒状の連結部17が加わった形状を有している。当該連結部17は、支持部10aと支持部10bとの間に位置し、両者を連結する。支持部10a、連結部17及び支持部10bは、1つの棒状を形成するように連なった形状を有している。このように連結部17を設けることで、錘部7の大きさに比して断面積が小さい棒状の支持部10と錘部7との接続強度を向上させることができる。これにより、制振シート1の使用時、支持部10が錘部7から取れにくくなり、耐久性を向上させることができ、安定した制振特性を長期にわたって維持することができる。
【0049】
((錘部の他の形状例))
【0050】
図4(A)~(C)は、それぞれ、錘部の他の形状例を示す斜視図である。錘部の形状は、略円柱状に限定されない。例えば、
図4(A)に示す錘部7Aのように球状であってもよいし、長球状であってもよい。
図4(B)に示す錘部7Bのような立方体等の多面体であってもよい。
図4(C)に示す錘部7Cのような円錐状や角錐状といった錐体状であってもよい。錘部7の形状は、
図4(A)~(C)に示すような回転体状であってもよいし、非回転体状であってもよい。
【0051】
(支持部)
【0052】
支持部10は、棒状を有し、その一端側11で錘部7を支持する。制振対象物8からの振動が伝わり支持部10が変位するとともに、錘部7の重みによって、制振ユニット3は振動する。錘部7は支持部10よりも拡張した形状である。錘部7の断面積が最大となる断面は、支持部10の断面よりも大きい。尚、錘部7の断面とは、法線16を通る第2方向に平行な面で錘部7を切断したときの断面を指すものとする。
【0053】
図3(A)に示すように、制振ユニット3の支持部10は、一端側11から他端側12に向かって断面の形状及び大きさが変化せず、支持部10の延在方向に沿って均一な太さとなっている。尚、延在方向に沿って支持部10の太さが変化してもよく、支持部10は、錘部7の多方向の揺れを妨げにくい棒状に形成されていればよい。
【0054】
図2及び
図3(A)に示すように、支持部10a及び支持部10bは、それぞれ、略円柱状の錘部7の底面から突出し、錘部7から離れるように、仮想平面18の面内方向成分(XY平面の面内方向成分)及び法線16に平行な方向成分(面外方向成分、Z軸方向成分)を含んで延在して、第1の面21に着地する。より詳細には、支持部10は、錘部7の底面から面内方向に(換言すると、第1の面21に平行に)、錘部7から離れるように外方に向かって直線状に突出して延在する。続いて、支持部10は、屈曲部13で略直角に下方に折れ、第1の面21に向かって面外方向(換言すると、第1の面21に垂直な方向)に直線状に延在する。ここで、支持部10の一端側11から屈曲部13までの部位を「横方向に延びる部位」といい、支持部10の屈曲部13から他端側12までの部位を「縦方向に延びる部位」という。
【0055】
本明細書において、「横方向に延びる部位」とは、面内方向成分を含んだ方向に延びている部位である。「縦方向に延びる部位」とは、面外方向成分(Z軸方向成分)を含んだ方向に延びている部位である。
【0056】
図3(A)及び(C)に示すように、支持部10a及び支持部10bそれぞれの横方向に延びる部位は、面内方向における延在方向(第1方向)が同じ方向であり、同一直線上に位置する。また、
図3(B)及び(C)に示すように、支持部10の他端側12と基板2とが連結する固定部23は、面内方向において錘部7の外方に位置している。支持部10と基板2とが連結する固定部23には、制振ユニット3が第1の面21からうける垂直抗力の作用点が位置する。垂直抗力の作用線19と法線16とは一直線上に位置せず、面内方向にずれて位置しており、垂直抗力の作用点は面内方向で重心Cの外方に位置する。
【0057】
図3(A)に示すように、制振ユニット3は、制振対象物8からの振動が伝わることで、支持部10a及び支持部10bそれぞれの固定部23の2点を支点にして振動する。このような形状の制振ユニット単体の固有モードの解析結果を
図21に示す。制振ユニット3は、
図21(D)に示すように、第2方向成分を含む方向に錘部7がお辞儀するように振動しやすい(4次モード)。また、
図21(A)に示すように第2方向にも振動しやすく(1次モード)、
図21(B)に示すように第1方向にも振動しやすい(2次モード)。また、
図21(C)に示すように、ねじれる方向にも振動しやすい(3次モード)。加えて、制振ユニット3は、支持部10が横方向に延びる部位を有することで、面外方向(Z軸方向)にも振動しやすくなっている。
【0058】
このように、制振ユニット3は、棒状の細長い支持部10を有することで、第1方向及び第2方向を含む面内方向にも面外方向(法線16に平行な方向)にも揺れやすくなっており、制振対象物8における面内方向の振動及び面外方向の振動のいずれをも低減させることが可能となっている。
【0059】
更に、制振ユニット3では、垂直抗力の作用線19と法線16とが一直線上に位置しないことで、錘部7は面外方向及び面内方向により大きく振動しやすくなり、制振効果をより向上させることができる。
【0060】
また、制振ユニット3のように2つの支持部10を有する場合、当該2つの支持部10が錘部7を間に介して対向配置され、2つの支持部10それぞれの面内方向における延在方向が一直線上に位置することが好ましい。このような構成とすることで、第2方向成分を含む方向に錘部7がより振動しやすくなり、制振対象物8の第2方向の振動をより低減させることができる。尚、錘部と、2つの支持部とを有する制振ユニットにおいて、当該2つの支持部を、錘部を間に介して対向配置し、2つの支持部それぞれの面内方向における延在方向が一直線上に位置しないように支持部を設けてもよい。
【0061】
図5(A)は
図3(A)に示す制振ユニット3の支持部10の断面図である。
図5(B)~(E)は、それぞれ、支持部の他の断面形状例を示す図である。
【0062】
図5(A)に示すように、
図3(A)に示す制振ユニット3の支持部10の断面は、支持部10の横方向に延びる部位における縦方向(Z軸方向)の長さ(
図3(A)の符号nに対応する長さ)よりも幅方向の長さ(
図3(A)の符号mに対応する長さ)の方が長い矩形状である。支持部10の断面形状はこれに限定されない。例えば、
図5(B)に示す支持部10のように、断面が幅方向に長い矩形状で、平べったい板状の支持部であってもよい。
図5(C)に示す支持部10のように、断面が正方形状であってもよい。断面形状は矩形以外の多角形状であってもよい。また、支持部10の断面は、
図5(D)に示す正円形状であってもよいし、
図5(E)に示す楕円形状であってもよい。制振ユニット3の固有振動数を調整するために、支持部10の断面形状を変更することでバネ定数を変更するようにしてもよい。
【0063】
尚、支持部が「棒状」であるとは、典型的には、支持部の断面において当該断面の中心を通る仮想直線を引いた時に当該仮想直線と断面の輪郭線とが交差する2つの交点を結んだ線分のうち最も長さが長くなる線分Aの長さをsとし、支持部の延在方向の長さ(一端側から他端側までの長さ)をtとしたときに、t/sの値が2以上である場合を指す。つまり、支持部が棒状とは、支持部断面上の線分Aに比して支持部の長さが長いことをいう。
図3(A)に示す制振ユニット3の例では、支持部10の断面は、長辺と短辺の寸法差が小さい矩形であるが、例えば長辺と短辺の寸法差がかなり大きい矩形であってもよく、支持部が全体的に平べったい板状であってもよい。このように支持部が板状であっても、支持部断面上の線分Aに比して支持部の長さが長い場合は、支持部が「棒状」であるという。支持部を棒状とすることで、錘部7が揺れやすくなる。
【0064】
((支持部の他の形状例))
【0065】
制振ユニットの形状は
図3(A)に示す形状に限定されない。以下、
図6~
図8を用いて、他の制振ユニットの形状例について説明する。
図6(A)~(D)、
図7(A)~(D)、
図8(A)及び(B)は、それぞれ、制振ユニットの他の形状例の斜視図である。
図8(C)は、制振ユニットの他の形状例の模式側面図である。
【0066】
図6~
図8において、錘部7の形状を略円柱状又は立方体状としたが、これらに限定されず他の形状でもよい。ここでは、支持部の寸法や形状を中心に説明する。
図6(A)~(D)、
図7(A)~(D)、
図8(A)及び(B)において、基板2の図示を省略しているが、各図に示す制振ユニットは、いずれも支持部の他端側が基板2の第1の面21に固定されて配置されて、基板2とともに制振シートを構成する。
【0067】
以下に説明する他の形状例の制振ユニットは、上述の制振ユニット3と同様に、面内方向及び面外方向に振動可能となっている。以下に説明する各制振ユニットにおいても、支持部を棒状とすることで、支持部の寸法や数を変えることで制振ユニットにおける支持部の弾性係数を容易に変えることができ、制振ユニットの固有振動数を容易にチューニングすることができる。これにより、設計自由度の高い制振ユニット及び制振シートとすることができる。
【0068】
図6(A)~(D)、
図7(A)~(D)及び
図8(A)に示す制振ユニットでは、制振シートの形態において、錘部の重心Cを通る第1の面の法線と、制振ユニットが第1の面からうける垂直抗力の作用線とは、一直線上に位置せず、面内方向にずれて位置しており、垂直抗力の作用点は面内方向で重心Cの外方に位置する。このような構成とすることで、制振ユニットの振動をより大きくすることができ、制振シートによる制振効果を向上させることができる。
【0069】
図6(A)に示すように、制振ユニット3Aは、錘部7と、支持部10Aaと、支持部10Abとを有する。支持部10Aの一端側11Aは錘部7に固定され、他端側12Aは第1の面21(図示せず)に固定される。
図3(A)に示す制振ユニット3では、支持部10aと支持部10bとの間に、これらを結ぶ連結部17を有していたが、
図6(A)に示す制振ユニット3Aのように、連結部17を有さなくてもよい。
【0070】
制振ユニット3及び制振ユニット3Aでは、支持部が錘部の底面から横方向(面内方向)に突出し、縦方向(面外方向)下方に向かって延在する例をあげた。これに対し、
図6(B)~(D)、
図7(A)~(D)それぞれに示す制振ユニットのように、支持部が錘部の側面から横方向に突出し、縦方向下方に向かって延在していてもよい。尚、
図6(B)~(D)、
図7(A)~(D)それぞれに示す制振ユニットにおいて、支持部が錘部の底面から横方向に突出し、縦方向下方に向かって延在するように構成してもよい。支持部を錘部の底面から突出して延在するように構成することで、側面から突出させるよりも、錘部の重心Cをより上方に位置させることができ、錘部をより一層大きく振動させることができ、制振効果を向上させることができる。
【0071】
図6(B)に示す制振ユニット3Bは、錘部7Bと、支持部10Baと、支持部10Bbとを有する。支持部10Bの一端側11Bは錘部7Bに固定され、他端側12Bは第1の面21(図示せず)に固定される。また、制振ユニット3Bでは、支持部10Bは、立方体状の錘部7Bの対向する一対の側面それぞれから突出し延在する。
図3(A)に示す制振ユニット3では、支持部10が、横方向に延びる部位が比較的長く、縦方向に延びる部位が比較的短い、全体的に横方向に長い形状を有しているが、
図6(B)に示す制振ユニット3Bの支持部10Bのように、縦方向に延びる部位が比較的長く、横方向に延びる部位が比較的短い、全体的に縦方向に長い形状を有していてもよい。
【0072】
制振ユニット3及び3Aのように、支持部の面内方向(横方向)における寸法が比較的長いほど、錘部7の面外方向(縦方向)の振動を大きくすることができ、面外方向(縦方向)の制振により効果的な制振ユニット及び制振シートとすることができる。
【0073】
一方、制振ユニット3Cのように、支持部の面外方向(縦方向)における寸法が比較的長いほど、錘部7の面内方向(横方向)の振動を大きくすることができ、面内方向(横方向)の制振により効果的な制振ユニット及び制振シートとすることができる。
【0074】
このように、支持部の横方向の長さを調整することで、錘部の面外方向(縦方向)の振動の度合い(揺れやすさ)を調整することができ、ひいては制振対象物8の面外方向(縦方向)の制振の度合い(振動の低減の度合い)を調整することができる。また、支持部の縦方向の長さを調整することで、錘部の面内方向(横方向)の振動の度合い(揺れやすさ)を調整することができ、ひいては制振対象物8の面内方向(横方向)の制振の度合い(振動の低減の度合い)を調整することができる。
【0075】
尚、支持部の横方向の長さとは、
図2に示すように、符号fで示される長さである。支持部の横方向の長さは、
図3(C)に示す投影図における支持部の第1方向に沿った長さを指す。支持部の縦方向の長さとは、
図2に示すように、Z軸方向における長さであり、符号eで示される長さである。
【0076】
図6(C)に示す制振ユニット3Cは、錘部7Bと、支持部10Caと、支持部10Cbとを有する。支持部10Cの一端側11Cは錘部7Bに固定され、他端側12Cは第1の面21(図示せず)に固定される。支持部10Cは、面外方向成分(縦方向成分)及び面内方向成分(横方向成分)を含んで延在する。制振ユニット3、3A及び3Bでは、支持部が屈曲部を有する形状としたが、
図6(C)に示す制振ユニット3Cの支持部10Cのように、屈曲部13がなく、支持部10Cが湾曲した棒状であってもよい。
【0077】
制振ユニット3Cでは、支持部10Cは円弧状を有する。制振ユニット3Cは、制振対象物8の面外方向(縦方向)の振動及び面内方向(横方向)の振動の双方の低減に効果的なものとなっている。尚、屈曲部13を有する支持部は、屈曲部13に応力がかかりやすい傾向にあるため、支持部を屈曲部のない湾曲した棒状とすることで、破損しにくい耐久性に優れた制振ユニットとすることができる。
【0078】
湾曲した棒状を有する支持部を有する制振ユニットにおいても、屈曲部を有する支持部と同様に、支持部の横方向の長さと縦方向の長さを調整することで、錘部の面外方向(縦方向)及び面内方向(横方向)それぞれの振動の度合い(揺れやすさ)を調整することができ、ひいては制振シートによる制振対象物の面外方向(縦方向)及び面内方向(横方向)それぞれの制振の度合い(振動の低減の度合い)を調整することができる。
【0079】
図6(D)に示す制振ユニット3Dは、錘部7Bと、支持部10Daと、支持部10Dbとを有する。支持部10Dの一端側11Dは錘部7Bに固定され、他端側12Dは第1の面21(図示せず)に固定される。支持部10Dは、一端側11D付近と他端側12D付近それぞれに屈曲部13を有する。支持部10Dは、錘部7Bの側面から突出し、上方の屈曲部13に向かって第1の面21に平行に直線状に延在する横方向に延びる部位と、上方の屈曲部13から下方の屈曲部13に向かって縦方向成分及び横方向成分を含む方向に延在する斜めの部位と、下方の屈曲部13から第1の面21に向かって縦方向に延在する縦方向に延びる部位とを有する。制振ユニット3Dにおいて、横方向に延びる部位と斜めの部位とのなす角度は略120度であり、斜めの部位と縦方向に延びる部位とのなす角度は略120度である。このように、屈曲部13が複数ある棒状の支持部としてもよい。屈曲部13が2つある棒状の支持部10Dを有する制振ユニット3Dにおいても、支持部の横方向の長さと縦方向の長さを調整することで、錘部の面外方向(縦方向)及び面内方向(横方向)それぞれの振動の度合い(揺れやすさ)を調整することができ、ひいては制振シートによる制振対象物の面外方向(縦方向)及び面内方向(横方向)それぞれの制振の度合い(振動の低減の度合い)を調整することができる。
【0080】
上述した制振ユニット3、3A~3Dは、それぞれ、2つの支持部を有する例をあげたが、
図7(A)に示すように、支持部が1つであってもよい。
図9(A)は
図7(A)に示す制振ユニット3Eにおける錘部7Bの重心Cと当該制振ユニット3Eが第1の面21からうける垂直抗力の作用線19との位置関係を説明するための図である。
【0081】
図7(A)及び
図9(A)に示すように、制振ユニット3Eは、錘部7Bと1つの支持部10Eとを有する。支持部10Eは、湾曲した棒状を有する。支持部10Eの一端側11Eは錘部7Bに固定され、他端側12Eは第1の面21に固定される。支持部10Eは、面外方向成分(縦方向成分)及び面内方向成分(横方向成分)を含んで延在する。制振ユニット3Eでは、支持部10Eは円弧状を有する。
図9(A)に示すように、制振ユニット3Eでは、上述の各制振ユニットと同様に、錘部7Bの重心Cを通る第1の面21の法線16と、制振ユニット3Eが第1の面21からうける垂直抗力の作用線19とは一直線上に位置しない。
【0082】
制振ユニット3Eでは、法線16と作用線19とが一直線上に位置しないのに加え、支持部の数が1つであることで、支持部が複数ある場合と比較して、錘部の面外方向(縦方向)及び面内方向(横方向)の振動がより制限されにくくなる。これにより、制振ユニットの振動をより一層大きくすることができ、面外方向(縦方向)及び面内方向(横方向)の制振効果がより一層高い制振ユニット及び制振シートとすることができる。このように、制振ユニットの振動をより大きくし、制振対象物の面内方向及び面外方向の振動をより効率的に低減する観点からは、制振ユニットの支持部の数がより少ないことが好ましく、支持部の数は1又は2が好ましく、1であることがより好ましい。尚、制振シートの使用時の破損を抑制する観点からは、支持部の数は複数であることが好ましい。
【0083】
上述の制振ユニット3、3A~3Dでは、2つの支持部が、間に錘部を介して対向し、第1方向に沿って同一直線上に位置している形態となっている。このため、制振ユニットの第1方向の振動が小さくなりやすい。これに対し、支持部が1つの場合、第1方向に沿って対になる支持部が存在しない。このため、例えば同じ湾曲した棒状の支持部10Cを2つ有する制振ユニット3Cと比較して、制振ユニット3Eの錘部7Bは、第1方向により一層大きく振動しやすくなり、更に第2方向にもより大きく振動しやすくなる。加えて、制振ユニット3Eの錘部7Bは、面外方向(縦方向)にもより大きく振動しやすくなる。これにより、制振対象物の面内方向及び面外方向の振動をより効率的に低減することができる。尚、
図7(A)に示す制振ユニット3Eの支持部は湾曲した棒状であるが、支持部は、上述の制振ユニット3、3A及び3Dの支持部のように屈曲部を有した形状であってもよく、同様に、支持部を1つとすることにより、制振効果の向上が可能となる。
【0084】
図7(B)に示す制振ユニット3Gは、錘部7Bと、3つの支持部10Ga、10Gb及び10Gcとを有する。3つの支持部10Ga、10Gb及び10Gcは、それぞれ錘部7Bの異なる3つの側面それぞれから突出する。支持部10Gの一端側11Gは錘部7Bに固定され、他端側12Gは第1の面21(図示せず)に固定される。このように、上述の各制振ユニットでは、支持部の数が1又は2である例をあげたが、3以上であってもよい。制振ユニット3Gにおいて、3つの支持部10Gは横方向成分に延びる形状を有し、錘部7Bは面外方向(縦方向)に振動しやすくなっている。支持部の数が多いほど、錘部7Bの面内方向(横方向)の振動は小さくなりやすい。
【0085】
このように、支持部の寸法に加え、支持部の数によって、制振ユニット及び制振シートによる制振方向及び制振の度合いの調整を行うことができ、制振対象物に応じてより適した制振特性を有する制振ユニット及び制振シートを得ることができる。
【0086】
また、上述の複数の支持部を有する制振ユニットは、それぞれ、複数の支持部の寸法が同じであるが、これに限られない。複数の支持部を有する場合、
図7(C)に示す制振ユニット3Hや
図7(D)に示す制振ユニット3Jに示すように、互いに支持部の寸法が異なり、支持部の形状が異なる複数の支持部を有してもよい。
【0087】
図7(C)に示す制振ユニット3Hは、錘部7Bと、支持部10Haと、支持部10Hbとを有する。支持部10Hの一端側11Hは錘部7Bに固定され、他端側12Hは第1の面21(図示せず)に固定される。制振ユニット3Hでは、支持部10Haは、屈曲部13を有し、当該屈曲部13を介して横方向に直線状に延びる部位と縦方向に直線状に延びる部位を有する形状を有する。支持部10Hbは、湾曲した棒状を有する。
【0088】
図7(D)に示す制振ユニット3Jは、錘部7Bと、支持部10Jaと、支持部10Jbとを有する。支持部10Jの一端側11Jは錘部7Bに固定され、他端側12Jは第1の面21(図示せず)に固定される。制振ユニット3Jでは、支持部10Ja及び支持部10Jbは、いずれも屈曲部13を有する棒状であり、縦方向に延びる部位の長さは同じであるが、横方向に延びる部位の長さが異なる。支持部10Jaは横方向に延びる部位が相対的に短く、支持部10Jbは横方向に延びる部位が相対的に長い。
【0089】
図8(A)に示す制振ユニット3Fは、錘部7Bと支持部10Fとを有する。支持部10Fは、一端側11Fが錘部7Bに固定され、他端側12Fが基板2の第1の面21(図示せず)に固定される。支持部10Fは、Z軸方向に平行な一直線状を有する。
図9(B)に示すように、制振ユニット3Fでは、上述の制振ユニット3、3A~3E、3G、3H及び3Jと同様に、錘部7Bの重心Cを通る第1の面21の法線16と、制振ユニット3Fが第1の面21からうける垂直抗力の作用線19とは一直線上に位置しない。これにより、制振ユニット3Fを面内方向(横方向)及び面外方向(縦方向)に振動可能としている。制振ユニット3Fでは、例えば支持部10Fの長さを変えることで支持部の弾性係数を変えることができ、制振ユニット3Fが所望の固有振動数となるように容易にチューニングすることができる。このように、支持部を1つとし、その形状を縦方向成分のみに延在する一直線状としてもよい。尚、設計自由度をより高くする観点から、上述の他の制振ユニットのように、支持部を、面外方向成分(縦方向成分)及び面内方向成分(横方向成分)に延在する棒状とすることがより好ましい。
【0090】
図8(B)に示す制振ユニット3Tは、錘部7Bと支持部10Tとを有する。支持部10Tは、一端側11Tが錘部7Bに固定され、他端側12Tが基板2の第1の面21(図示せず)に固定される。支持部10Tは、錘部7Bの底面から突出し、湾曲した棒状を有する。制振ユニット3Tでは、錘部7Bの重心Cを通る第1の面の法線と、制振ユニット3Tが第1の面からうける垂直抗力の作用線とは同一直線上に位置する形態となっている。このような構成においても、支持部が、棒状を有し、面内方向成分及び面外方向成分を含んで延在することで、制振ユニット3Tは面内方向及び面外方向に振動可能となっている。
【0091】
図8(C)に示す制振ユニット3Uは、錘部7Bと棒状の支持部10Uとを有する。支持部10Uは、一端側11Uが錘部7Bに固定され、他端側12Uが基板2の第1の面21に固定される。支持部10Uは、錘部7Bの底面から突出し、複数の屈曲部13を有するジグザク状を有する。制振ユニット3Uでは、錘部7Bの重心Cを通る第1の面21の法線と、制振ユニット3Uが第1の面21からうける垂直抗力の作用線とは同一直線上に位置する形態となっている。このような構成においても、支持部が、棒状を有し、面内方向成分及び面外方向成分を含んで延在することで、制振ユニット3Uは面内方向及び面外方向に振動可能となっている。
【0092】
図8(B)及び(C)に示す制振ユニット3T及び3Uに示すように、錘部7Bの重心Cを通る第1の面の法線と、制振ユニットが第1の面からうける垂直抗力の作用線とは同一直線上に位置する形態となっていてもよく、制振ユニットが面内方向及び面外方向に振動可能に構成されればよい。しかしながら、設計自由度をより高くする観点から、錘部の重心Cを通る第1の面の法線と、制振ユニット3が第1の面からうける垂直抗力の作用線とが一直線上に位置しない制振ユニットとすることがより好ましい。
【0093】
[材料例]
【0094】
支持部10、錘部7及び基板2それぞれを構成する材料は、特に限定されないが、制振シート1の使用用途に応じて求められる材質、例えば難燃性、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、寸法安定性等の材質等によって適宜設定され得る。
【0095】
(支持部)
【0096】
制振対象物8からの振動が伝搬することで変位し、支持部10の先端に位置する錘部7の重みによって制振ユニット3を振動させる観点から、支持部10は、脆性材料でないことが好ましい。典型的には、弾性体を用いることができる。
【0097】
(錘部)
【0098】
錘部7を構成する具体的な材料は特に限定されない。
【0099】
錘部7と支持部10とは同じ材料から構成されて両者は一体的に連結されていてもよい。上記「一体的に連結」とは、錘部7と支持部10とが射出成形等によって連結した状態で作製される形態の他、個別に作製した錘部と支持部とを接着剤で固定又は溶融固定して連結する形態を含む。特に、制振ユニットの固有振動数の調整の容易性の観点から、射出成形等によって錘部7と支持部10とを連結した状態で作製することが好ましい。また、このような構成とすることで、錘部7と支持部10との連結部分の固定強度を高めることができ、破損しにくい耐久性に優れた制振ユニットとすることができる。
【0100】
また、錘部7と支持部10とが別の材料から構成されてもよい。例えば錘部7を構成する材料として支持部10を構成する材料よりも比重の高い材料を用いることで、同じ材料を用いる場合と比較して、錘部7の大きさを小さくすることができる。また、錘部7と支持部10とを別の材料から構成する場合、棒状の支持部10の一端側11にある先端が錘部7に埋没するように構成されてもよく、錘部と支持部との連結部分の固定強度を高めることができる。
【0101】
(基板)
【0102】
基板2を構成する材料は特に限定されない。尚、基板2を可撓性の高い材料で構成することが好ましい。これにより、基板2の厚みを更に調整することで、制振対象物8の表面80が平坦面でなく、例えば曲面であっても、基板2の第2の面22を表面80に沿わせて配置しやすく、基板2を制振対象物8の表面形状に追従して変形しやすくすることができる。これにより、制振対象物8と基板2との間の隙間の発生を抑制することができ、制振対象物8の振動を、効率的に基板2を介して制振ユニット3に伝達することができ、制振効果を高めることができる。
【0103】
基板2に対する制振ユニット3の固定強度を高める観点から、基板2と支持部10と錘部7とは同じ材料から構成されることが好ましい。基板2と支持部10とは射出成形等によって一体的に連結されて作製されてもよい。或いは、基板2の第1の面21に、支持部10を接着剤で固定又は溶融固定してもよい。基板2と支持部10との連結部分の固定強度を高め、容易に作製する観点から、射出成形等により基板2及び支持部10が一体的に連結されて作製されることが好ましい。更に、基板2、支持部10及び錘部7を同じ材料から構成する場合、これらの固定強度を高め、容易に作製する観点から、射出成形等によりこれらが一体的に連結されるように作製することが好ましい。基板2、支持部10及び錘部7を同じ材料から構成する場合、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂、一般的なプラスチック材等の樹脂を好適に用いることができる。
【0104】
<作製方法>
【0105】
制振ユニット3及び制振シート1は、射出成形、真空注型、3Dプリンタ等を用いて作製することができる。
【0106】
複数種類の制振ユニットを作製する際、
図9に示すように、まずオリジナルの制振ユニット3Nを作製し、制振ユニットに求められる固有振動数に応じて、オリジナルの制振ユニット3Nの支持部を切断することで、複数種類の制振ユニット3P、3及び3Qを作製してもよい。
【0107】
図10に示すオリジナルの制振ユニット3Nは、錘部7と、縦方向(Z軸方向)に延びる部位が比較的長い2つの支持部10Na及び10Nbと、を有する。オリジナルの制振ユニット3Nの一方の支持部を全て切断することで、錘部7と1つの支持部10Pとを有する制振ユニット3Pを得ることができる。オリジナルの制振ユニット3Nの2つの支持部10Na及び10Nbそれぞれの縦方向に延びる部位の一部を切断することで、縦方向に延びる部位が短い2つの支持部10a及び10bを有する制振ユニット3を得ることができる。オリジナルの制振ユニット3Nの一方の支持部を全て切断し、他方の支持部の縦方向の延びる部位の一部を切断することで、縦方向に延びる部位が短い1つの支持部10Qを有する制振ユニット3Qを得ることができる。
【0108】
このように、縦方向に延びる部位が長いオリジナルの制振ユニット3Nを用いて支持部を切断して支持部の長さや数を調整することで、4種類の制振ユニット3N、3P、3及び3Qを得ることができる。このような構成によれば、オリジナルの制振ユニット3Nを作製する金型が1種類あればよく、他の形状を作製するための金型を新たに準備する必要がなく、初期投資を抑制でき、コスト削減につなげることができる。
【0109】
<作用効果>
【0110】
以上のように、制振ユニットを、錘部と棒状の支持部とを有し、振動可能に構成することで、支持部の寸法や支持部の数を調整することで制振ユニットの固有振動数を容易にチューニングすることができ、設計自由度の高い制振シート及び制振ユニットとすることができる。
【0111】
また、制振シートにおいて、錘部の重心を通る基板の第1の面の法線と、制振ユニットが第1の面からうける垂直抗力の作用線とが一直線上に位置しないことが好ましい。このような構成とすることで、一直線上にある場合と比較して、錘部の面外方向(縦方向)及び面内方向(横方向)の振動をより大きくすることができ、制振シートによる制振効果をより高めることができる。
【0112】
また、制振シートにおいて、支持部は、錘部から突出し、錘部から離れるように、錘部の重心を通る第1の面の法線と直交する仮想平面の面内方向成分及び法線に平行な方向成分を含んで延在して、第1の面に着地してもよい。このように、支持部が、錘部から面内方向(横方向)外方に向かって、面内方向成分(横方向成分)及び面外方向成分(縦方向成分)を含んで延在してもよく、制振ユニットの垂直抗力の作用点が面内方向で重心Cの外方に位置してもよい。このような構成とすることで、錘部をより一層振動させやすくすることができる。加えて、支持部の寸法や支持部の数を調整することで、制振ユニットの固有振動数を容易にチューニングすることができるとともに、錘部の面外方向(縦方向)の振動のしやすさや面内方向(横方向)の振動のしやすさを容易に調整することができる。また、制振ユニットの向きを調整することで、錘部の面内方向おける振動の方向を調整することができる。これにより、所望の制振特性の制振シートを得ることができる。
【0113】
ここで、制振対象物の振動を抑制する制振シートに用いられる材料は、制振シートの使用用途に応じて適宜選択される。例えば、難燃性、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、寸法安定性等、使用用途に応じて制振シートに求められる材質は異なってくる。本発明の制振シートでは、上述のように、支持部を棒状の形状とし、その寸法や数等を調整することで、制振ユニットにおける支持部のバネ定数を調整することができ、制振ユニットの固有振動数を容易にチューニングすることができる。加えて、支持部の寸法や数を調整することで、錘部の面外方向(縦方向)の振動のしやすさや面内方向(横方向)の振動のしやすさを容易に調整することができ、用いる材料の種類による制約をうけにくく、制振ユニットの設計自由度が高い。
【0114】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。以下、他の実施形態について説明する。
【0115】
<第2実施形態>
【0116】
第1実施形態の制振シート1では、制振ユニット3を仮想平面18上に投影した投影図において支持部10の延在方向(第1方向)が、X軸方向及びY軸方向のいずれに対しても斜めの方向となるように、制振ユニット3が配置されていたが、配置形態はこれに限定されない。以下、
図11を用いて説明する。
【0117】
図11は、他の配置形態例を示す第2実施形態の制振シート1Aの斜視図である。制振シート1Aは、基板2と、基板2の第1の面21上に、同じ向きで固定配置された複数の制振ユニット3Kとを有する。制振ユニット3Kは、錘部7Bと2つの棒状の支持部10Ka及び10Kbを有する。支持部10Ka及び10Kbは、錘部7Bの底面から第1の面21に平行に突出して直線状に延在し、途中、屈曲部13で略直角に折れて第1の面21に向かって第1の面21に垂直な向きに直線状に延在して、基板2の第1の面21に着地する。制振シート1Aでは、支持部10Kの面内方向における延在方向(第1方向)が、X軸に平行となるように、各制振ユニット3Kは基板2上に配置される。制振ユニット3Kは、面内方向において第1方向及び第2方向に振動しやすく、特にY軸方向に平行な第2方向により振動しやすい。制振シート1Aは、横方向の制振において特に第2方向(Y軸方向)の振動の制振効果が高いものとなっている。
【0118】
また、第1及び第2の実施形態では、X軸方向及びY軸方向に制振ユニットが等間隔で配置されていたが、ランダムに配置されてもよい。また、基板2上に面内均一に制振ユニットが配置されなくてもよく、制振ユニットが密に配置される領域と粗に配置される領域とが混在していてもよい。また、制振対象物の表面の形状に応じて、制振ユニットの配置が適宜設定されてもよい。
【0119】
<第3実施形態>
【0120】
第1実施形態に係わる制振シート1及び第2実施形態に係わる制振シート1Aでは、基板2上に複数の制振ユニットが全て同じ向きとなるように配置されていたが、
図12に示す制振シート1Bのように、複数の制振ユニット3が異なる方向に向くように配置されてもよい。
【0121】
制振シート1Bでは、基板2上に、ユニット群30とユニット群31とがX軸方向に沿って交互に配置される。ユニット群30は、制振ユニット3Kを仮想平面18上に投影したときの投影図における支持部10Kの延在方向(第1方向)がX軸方向に平行となるように配置される制振ユニット3Kが4つ、Y軸方向に沿って並んだユニット群である。ユニット群31は、支持部10Kの第1方向がY軸方向に平行となるように配置される制振ユニット3Kが4つ、Y軸方向に沿って並んだユニット群である。各制振ユニット3Bは、面内方向において、第1方向にも第2方向にも振動しやすく、特に第2方向の大きく振動しやすい。
【0122】
このように、形状及び大きさは同じであるが、支持部の面内方向における延在方向が異なって(換言すると、制振ユニットの向きが異なって)、複数の制振ユニット3Bが基板2上に配置されていてもよい。このような構成によれば、横方向の揺れにおいて、特にY軸方向に揺れやすいユニット群30に属する制振ユニット3Bと、特にX軸方向に揺れやすいユニット群31に属する制振ユニット3Bが混在することになり、制振対象物8の面内方向における互いに異なる複数の方向の振動の低減に効果的な制振シート1Bとすることができる。
【0123】
尚、制振シート1Bでは、制振ユニットの向きが2パターンの例をあげたが、制振ユニットの向きが3パターン以上あってもよい。このような構成とすることで、制振対象物8の面内方向における互いに異なる複数の方向の振動に対する制振効果をより一層向上させることができる。
【0124】
また、制振シート1Bでは、X軸方向に沿って制振ユニットの向きが交互に変わるように複数の制振ユニット3Kを配置し、Y軸方向に沿って制振ユニットの向きが変化しないように複数の制振ユニット3Kを配置する例をあげたが、これに限定されない。例えば、X軸方向にもY軸方向にも制振ユニットの向きが交互に変わるように複数の制振ユニットを配置してもよい。また、規則的に異なる向きの制振ユニットを配置せず、不規則的に異なる向きの制振ユニットを配置してもよい。
【0125】
<第4実施形態>
【0126】
第1~第3実施形態に係わる制振シート1、1A及び1Bでは、同じ形状及び大きさの固有振動数が同じ制振ユニットが複数配置される例をあげたが、これに限定されず、固有振動数の異なる複数種類の制振ユニットが配置されてもよい。例えば、錘部の質量、支持部の寸法及び支持部の数の少なくとも1つを異ならせることで、固有振動数を変更させることができる。以下、
図13(A)及び(B)を用いて、複数種類の制振ユニットが配置された制振シート1C及び制振シート1Dについて説明する。尚、ここでは、2種類の制振ユニットが基板2上に配置される例をあげるが、3種類以上の制振ユニットが基板2上に配置されてもよい。また、
図13(A)及び(B)では、各制振ユニットを仮想平面18上に投影したときの投影図における支持部の延在方向(第1方向)が、互いに平行となるように制振ユニットを配置する例をあげるが、第3実施形態の制振シート1Bのように、複数の制振ユニットが異なる向きとなるように配置されてもよい。
【0127】
図13(A)に示すように、制振シート1Cでは、基板2上に、2種類の互いに固有振動数が異なる制振ユニット3K及び3Lが配置される。制振ユニット3Lは、錘部7Bと1つの支持部とを有する。制振シート1Cでは、2つの支持部を有する制振ユニット3Kと、1つの支持部を有する制振ユニット3Lとが、X軸方向及びY軸方向に沿って交互に位置するように配置される。
【0128】
このように、固有振動数が異なる2種類の制振ユニット3K及び3Lを備えることで、広範囲の周波数の制振が可能な制振シート1Cとすることができる。
【0129】
図13(B)に示すように、制振シート1Dでは、基板2上に、ユニット群32とユニット群33とがX軸方向に沿って交互に配置される。ユニット群32は、Y軸方向に沿って並んだ4つの制振ユニット3Mから構成される。制振ユニット3Mは、錘部7Bと、2つの支持部10Ma及び10Mbを有する。支持部10Mは、横方向に延びる部位が長く、縦方向に延びる部位が短い。ユニット群33は、Y軸方向に沿って並んだ4つの制振ユニット3Kから構成される。制振ユニット3Kの支持部は、横方向に延びる部位が短く、縦方向に延びる部位が長い。制振ユニット3Mと制振ユニット3Kとは固有振動数が異なる。
【0130】
このように、固有振動数が異なる2種類の制振ユニット3K及び3Lを備えることで、広範囲の周波数の制振が可能な制振シート1Dとすることができる。また、制振ユニット3Kは、制振ユニット3Kと比較して、特に面内方向における制振効果が高く、制振ユニット3Mは、制振ユニット3Kと比較して面外方向の制振効果が高いものとなっている。このような制振ユニット3K及び3Lを有する制振シート1Dは、面内方向及び面外方向の制振効果が高いものとなる。
【0131】
<第5実施形態>
【0132】
上述の実施形態では、基板上に複数の制振ユニットが配置されてなる制振シートについて説明したが、制振ユニット単体でも制振効果を得ることができる。制振ユニットを、支持部の他端側を制振対象物に接着剤などで固定することで、制振対象物の振動を低減することができる。制振ユニットが単体であることで、制振対象物に対して、所望の位置に所望の向きで制振ユニットを固定、配置することができる。
【0133】
制振ユニットを単体で用いる場合、
図14(A)に示す制振ユニット3R及び
図14(B)に示す制振ユニット3Sのように、制振ユニットの支持部10の他端側12に土台6及び6Aが設けられていてもよい。
【0134】
図14(A)に示す制振ユニット3Rは、錘部7と、2つの支持部10と、土台6と、を有する。制振ユニット3Rの支持部10の他端側12の先端は、土台6に固定される。土台6は、支持部10の断面積よりも大きい面積の固定面60を有する。土台6の固定面60と反対側の面が制振対象物8に貼り付け可能となっている。このような構成とすることで、支持部10の他端側12の先端を制振対象物8に固定するよりも、制振ユニット3Rと制振対象物の表面との接触面積を広くすることができる。これにより、制振対象物に対する制振ユニットの固定強度を高めることができ、制振対象物から制振ユニットが剥落しにくく、安定した制振効果が得られる。制振ユニットの耐久性を高める観点から、錘部7と、支持部10と、土台6とは、同じ材料から構成され、射出成形等によって一体的に連結されて作製されることが好ましい。
【0135】
図14(A)に示す制振ユニット3Rでは、2つの支持部10に対し1つの土台6が設けられる例をあげたが、
図14(B)に示す制振ユニット3Sのように、2つの支持部10それぞれに対して1つの土台6Aが設けられてもよい。制振ユニット3Rは、錘部7と、2つの支持部10と、土台6Aと、を有する。各支持部10の他端側12の先端は、それぞれ別の土台6Aに固定される。土台6Aは、支持部10の断面積よりも大きい面積の固定面60Aを有する。土台6Aの固定面60Aと反対側の面が制振対象物8に貼り付け可能となっている。このような構成とすることで、支持部10の他端側12の先端を制振対象物8に固定するよりも、制振ユニット3Sと制振対象物8との接触面積を広くすることができる。これにより、制振対象物に対する制振ユニットの固定強度を高めることができ、制振対象物かから制振ユニットが剥落しにくく、安定した制振効果が得られる。制振ユニットの耐久性を高める観点から、錘部7と、支持部10と、土台6Aとは、同じ材料から構成され、射出成形等によって連結して一体的に作製されることが好ましい。
【0136】
上述の各実施形態では、各制振ユニットが1つの錘部を備える例をあげたが、錘部を複数備えていてもよい。以下、複数の錘部を備える制振ユニットを多錘型制振ユニットといい、当該多錘型制振ユニットを基板上に1以上備える制振シートを多錘型制振シートということがある。また、1つの錘部を備える制振ユニットを単錘型制振ユニットといい、当該単錘型制振ユニットを基板上に1以上備える制振シートを単錘型制振シートということがある。
【0137】
多錘型制振ユニットにおいても、上述の各実施形態で説明した単錘型制振ユニットと同様に、錘部と棒状の支持部とを有し、振動可能に構成することで、支持部の寸法を調整することで制振ユニットの固有振動数を容易にチューニングすることができ、設計自由度の高い制振シート及び制振ユニットとすることができる。更に、多錘型制振ユニットでは、錘部を複数有することで、一定の周波数帯域にて複数の振動モードを得る(単錘型制振ユニットよりも振動モードがより複雑となる)ことができ、広帯域での制振効果を得ることができる。複数の錘部を有する多錘型制振ユニットとし、各錘部及びこれを支持する支持部の配置間隔や、錘部の質量及び/又は支持部の剛性等を調整することで、多錘型制振ユニットの固有振動数をチューニングすることができ、制振対象とする周波数を設定する際の設計自由度を向上させることができる。具体的には、設計可能な固有振動数の数を増加させたり、広い周波数帯域に複数の固有振動数を分散させたり、狭い周波数帯域に複数の固有振動数を設定したりすることができる。上記支持部の剛性は、支持部の長さ、断面形状、太さ等によって調整することができる。以下、多錘型制振ユニット及び多錘型制振シートについて、第6~第9実施形態として説明する。
【0138】
<第6実施形態>
【0139】
図23(A)は本実施形態に係わる多錘型制振シート20Aの斜視図であり、
図23(B)は当該多錘型制振シート20Aの上面図である。
図24(A)は多錘型制振シート20Aに設けられる多錘型制振ユニット24Aの斜視図であり、
図24(B)は多錘型制振ユニット24Aの上面図である。本実施形態では、4つの錘部を有する多錘型制振ユニットを例に挙げるが、錘部の数はこれに限定されず、2以上であってもよい(後述の第7及び第9実施形態参照)。
【0140】
図23(A)及び(B)に示すように、多錘型制振シート20Aは、基板2と、多錘型制振ユニット24Aと、を備える。多錘型制振ユニット24Aは、基板2の第1の面21上に1つ以上設けられ、
図23に示す例では16個の多錘型制振ユニット24Aが設けられる。多錘型制振ユニット24Aは第1の面21上に固定されている。
【0141】
図24(A)及び(B)に示すように、多錘型制振ユニット24Aは、支持部25Aと、4つの錘部7とを有する。
図24(A)に示す例では、錘部7は立方体状を有するが、形状は特に限定されない。支持部25Aは、第1の面21に固定される一端側と、錘部7が固定される他端側とを有する。支持部25Aは、一端側に位置する1つの基部26Aと、他端側に位置する4つの枝部271A、272A、273A及び274Aと、を有する。基部26Aは、第1の面21に対し垂直に延びる(Z軸方向に延びる)棒状を有する。
図24に示す例では、基部26Aを、矩形を底面とする角柱状としたが、形状は特に限定されない。基部26Aの長手方向における一端側からは、当該一端側を分岐部Bとして側方に向かって枝状の枝部271A、272A、273A及び274Aが延びる。このように、支持部25Aは、その他端側に、基部26Aから枝分かれした枝部271A~274Aを備える。枝部271A~274Aは、それぞれ、面内方向(第1の面21に平行)で異なる方向に棒状に延在する。各枝部271A~274Aの先端には、錘部7が1個設けられる。基部26Aの長手方向における他端側は第1の面21に固定される。支持部25Aと第1の面21とが固定される固定部は1箇所のみであり、多錘型制振ユニット24Aは、制振対象物からの振動が伝わることで当該固定部を支点にして振動する。本実施形態では、枝部271A~274Aの断面形状(枝部を長手方向に垂直な面で切断したときの断面形状)は矩形状であり、立方体状の錘部7の底面と枝部の側面とが接する形態となっている。また、本実施形態では、4つの錘部7の重量及び形状を同じとし、各枝部271A~274Aの寸法(長さ及び太さ)も同じとした。多錘型制振ユニット24Aでは、1個の錘部7に対して、基部26Aと1つの枝部271A(272A、273A又は274A)とからなる支持部が設けられ、当該支持部は、錘部7の底面から面内方向に錘部7から離れるように外方に向かって直線状に突出して延在し、続いて、略直角に下方に折れて第1の面21に垂直な方向に直線状に延在し第1の面21に着地する形態となっている。1つの錘部7と、当該錘部7を支持する枝部と基部からなる支持部とを、1つの最小単位の振動体とみなしたとき、多錘型制振ユニット24Aは4つの最小単位の振動体の集合体といえ、当該4つの最小単位の振動体は、支持部25Aの一部である基部26Aを互いに共有する。このように、錘部を複数設け、基部を共有する複数の最小単位の振動体の集合体として多錘型制振ユニットを構成することで、単錘型制振ユニットに比べて、一定の周波数帯域で複数の振動モードを有する制振ユニットとすることができる。
【0142】
図24(A)に示すように、多錘型制振ユニット24Aは、各錘部7の重心Cを通る第1の面21の法線16と多錘型制振ユニット24Aが第1の面21からうける垂直抗力の作用線19とは一直線上に位置せず、面内方向にずれて位置しており、垂直抗力の作用点は面内方向で各錘部7の重心Cの外方に位置する。後述の第7~第10実施形態に係わる多錘型制振ユニット24B~24Eについても同様である。
【0143】
図24(B)の上面図に示すように、本実施形態では、4つの錘部7のうち、分岐部Bを間に介してほぼ対向する2つの錘部7それぞれを支持する2つの枝部の中心軸(枝部の長手方向に平行な軸)は、分岐部Bを中心として円周方向に180度の位置関係とはなっていない。4つの錘部7をそれぞれ支持する4つの枝部271A、272A、273A及び274Aは、その中心軸が分岐部Bを中心として円周方向に等間隔に位置していない。一例として、
図24(B)では、枝部271Aの中心軸と枝部272Aの中心軸とがなす角度θ1は90度、枝部272Aの中心軸と枝部273Aの中心軸とがなす角度θ2は85度、枝部273Aの中心軸と枝部274Aの中心軸とがなす角度θ3は110度、枝部274Aの中心軸と枝部271Aの中心軸とがなす角度θ4は75度となっている。このような構成とすることで、分岐部Bを間に介してほぼ対向する2つの錘部7それぞれを支持する2つの枝部の中心軸は、同一直線上に位置しない。尚、ここで挙げた角度値に限定されない。
【0144】
各錘部7の重量が同じで、かつ、各枝部の寸法(長さ及び太さ)が同じ場合、本実施形態のように、分岐部Bを間に介してほぼ対向する2つの錘部7それぞれを支持する2つの枝部の中心軸が、分岐部Bを中心として円周方向に180度の位置にある配置関係(一直線上に位置する配置関係)とならないようにすることが特に好ましい。4つの最小単位の振動体の配置関係をこのようにすることで、一定の周波数帯域で複数の振動モードをより効果的に得ることができ、広帯域で制振効果を得ることができる。すなわち、多錘型制振ユニット24Aでは、4つの最小単位の振動体が支持部として基部26Aを共有する形態となっているので、各最小単位の振動体の振動モードが互いに影響するように振動することで各振動モードに対応する固有振動数を一定の周波数帯域で具備させることができ、効果的な制振効果を得ることができる。
【0145】
尚、4つの枝部271A~274Aは、その中心軸が分岐部Bを中心として等間隔(90度毎)に位置し、分岐部Bを間に介して対向する2つの錘部7それぞれを支持する2つの枝部の中心軸が一直線上に位置する配置関係となっていてもよい(第10実施形態として後述する)。しかしながら、制振効果を向上させる観点からは、本実施形態のように、一直線上に位置しない配置関係とすることが好ましい。一直線上に位置する配置関係とする場合、分岐部Bを間に介して位置する2つの最小単位の振動体が互いの振動を打ち消すような挙動をして結果的に制振効果が小さくなってしまうことがある。このため、各錘部7の重量が同じで、かつ、各枝部の寸法(長さ及び太さ)が同じ場合は、本実施形態のように、同一直線上に2つの枝部の中心軸が位置しないように構成することが好ましい。
【0146】
また、本実施形態では、1つの多錘型制振ユニットが備える複数の錘部それぞれの重量を同じとする例をあげたが、少なくとも1つの錘部の重量を他の錘部と異ならせてもよい。また、本実施形態では、複数の枝部の寸法が同じである例をあげたが、少なくとも1つの枝部の寸法が、他の枝部と異なっていてもよい。枝部の寸法を異ならせることで、各最小単位の振動体における支持部のバネ定数を異ならせることができる。このように、1つの多錘型制振ユニットにおいて、各錘部の重量及び/又は各枝部の寸法を異ならせることで、複数の固有振動数がより得られやすくなり、広帯域で制振効果を得ることができる。以下の第7~第10実施形態においても同様である。
【0147】
また、
図23(A)に示す多錘型制振シート20Aに設けられる複数の多錘型制振ユニット24Aは、いずれも同じ向きで配置されるが、向きが異なって配置されてもよい。以下の第7、第9、第10実施形態においても同様である。
【0148】
<第7実施形態>
【0149】
図25(A)は本実施形態に係わる多錘型制振ユニット24Bを備えた多錘型制振シート20Bの斜視図であり、
図25(B)は当該多錘型制振シート20Bの上面図である。
図26は多錘型制振ユニット24Bの斜視図である。多錘型制振シート20Bは、基板2の第1の面21上に、1以上(本実施形態では16個)の多錘型制振ユニット24Bが同じ向きで配置されて構成される。
【0150】
多錘型制振ユニット24Bは、錘部及び枝部の数が異なる以外は、第6実施形態の多錘型制振ユニット24Aと基本的な構成は同じである。多錘型制振ユニット24Bは、支持部25Bと、3つの錘部7と、を有する。支持部25Bは、第1の面21に固定される一端側と、錘部7が固定される他端側とを有する。支持部25Bは、一端側に位置する1つの基部26Bと、他端側に位置する3つの枝部271B、272B及び273Bと、を有する。基部26Bの長手方向における一端側からは、当該一端側を分岐部Bとして側方に向かって枝状の枝部271B、272B及び273Bが延びる。枝部271B~273Bは、それぞれ、面内方向(第1の面21に平行)で異なる方向に棒状に延在する。各枝部271B~273Bの先端には、錘部7が1個設けられる。支持部25Bと第1の面21とが固定される固定部は1箇所のみであり、多錘型制振ユニット24Bは、制振対象物からの振動が伝わることで当該固定部を支点にして振動する。1つの錘部7と、当該錘部7を支持する枝部と基部からなる支持部とを、1つの最小単位の振動体とみなしたとき、多錘型制振ユニット24Bは3つの最小単位の振動体の集合体といえ、当該3つの最小単位の振動体は、支持部25Bの一部である基部26Bを互いに共有する形態となっている。このように、錘部を複数設け、複数の最小単位の振動体の集合体として多錘型制振ユニットを構成することで、複数の振動モードを有する制振ユニットとすることができる。
【0151】
図25(B)の上面図に示すように、本実施形態では、3つ錘部7をそれぞれ支持する3つの枝部271B、272B及び273Bは、その中心軸(枝部の長手方向に平行な軸)が分岐部Bを中心として円周方向に等間隔に位置しているが、等間隔でなくてもよい。このように、錘部7を3つとしてもよく、第6実施形態と同様に、一定の周波数帯域で複数の振動モードが得られ、広帯域で制振効果を得ることができる。
【0152】
<第8実施形態>
【0153】
図27(A)は、本実施形態に係わる多錘型制振ユニット24Cを備えた多錘型制振シート20Cの斜視図であり、
図27(B)は当該多錘型制振シート20Cの上面図である。
図28は多錘型制振ユニット24Cの斜視図である。
【0154】
多錘型制振シート20Cは、基板2と、基板2の第1の面21上に設けられた複数(ここでは16個)の多錘型制振ユニット24Cと、を備える。多錘型制振ユニット24Cは、第6及び第7実施形態と同様に、複数(ここでは4つ)の錘部7と、支持部25Cとを備え、当該支持部25Cは、1個の基部26Cと、複数(ここでは4つ)の枝部271C、272C、273C及び274Cと、を備える。上述したように、多錘型制振ユニットの各錘部を支持する支持部の枝部の長さはそれぞれ異なっていてもよく、
図28に示すように、多錘型制振ユニット24Cでは、4つの枝部271C、272C、273C及び274Cそれぞれの長さが異なっている。
図27(A)及び(B)に示す例では、多錘型制振シート20Cは、基板2の第1の面21上に、上面視で、X軸方向及びY軸方向に沿って交互に、90度ずつ向きを変えた多錘型制振ユニット24Cが設けられて構成されている。多錘型制振ユニット24Cは、上面視で全体的に細長い形状を有しているため、所定の設置面積内に多く多錘型制振ユニット24Cを配置する観点から、
図27(A)及び(B)に示すように、交互に向きを変えて配置することが好ましい。
【0155】
<第9実施形態>
【0156】
図29(A)は、本実施形態に係わる多錘型制振ユニット24Dを備えた多錘型制振シート20Dの斜視図であり、
図29(B)は当該多錘型制振シート20Dの上面図である。
図30は、多錘型制振ユニット24Dの斜視図である。多錘型制振シート20Dは、基板2の第1の面21上に、1以上(本実施形態では縦4個、横8個で配置された32個)の多錘型制振ユニット24Dが同じ向きで配置されて構成される。
【0157】
多錘型制振ユニット24Dは、錘部及び枝部の数が異なる以外は、第6及び第7実施形態の多錘型制振ユニット24A及び24Bと基本的な構成は同じである。多錘型制振ユニット24Dは、2つの錘部7と、支持部25Dとを有する。支持部25Dは、第1の面21に固定される一端側と、錘部7が固定される他端側とを有する。支持部25Dは、一端側に位置する1つの基部26Dと、他端側に位置する2つの枝部271D及び272Dと、を有する。基部26Dの長手方向における一端側からは、当該一端側を分岐部Bとして側方に向かって枝状の枝部271D及び272Dが棒状に延びる。
図29及び30に示す例では、上面視で枝部271Dの中心軸と枝部272Dの中心軸とが同一直線上に位置する配置関係となっているが、枝部272Dの中心軸と枝部272Dの中心軸とが同一直線上に位置せず、180度未満の角度で位置する配置関係となるように構成してもよい。
【0158】
<第10実施形態>
【0159】
図31(A)は、本実施形態に係わる多錘型制振ユニット24Eを備えた多錘型制振シート20Eの斜視図であり、
図31(B)は当該多錘型制振シート20Eの上面図である。第6実施形態の多錘型制振ユニット24Aでは、4つの枝部271A~274Aが、その中心軸が分岐部Bを中心として円周方向に等間隔に位置してない多錘型制振ユニット24Aを例にあげたが、多錘型制振ユニット24Eのように枝部271E~274Eが等間隔に位置するようにしてもよい。多錘型制振ユニット24Eは、4つの枝部及び錘部の位置関係が異なるのみ以外は、多錘型制振ユニット24Aと構成は同じである。
【0160】
多錘型制振ユニット24Eでは、上面視で、分岐部Bを間に介して対向配置される2つの錘部それぞれに固定される枝部の中心軸は同一直線上に位置する配置関係となっている。
【0161】
<適用例>
【0162】
上記制振シートの具体的な適用例について
図15を用いて説明する。
図15は、航空機の胴体の部分概略断面図である。
図15に示すように、航空機の機体40の胴体内には、フロアパネル42上に座席41が設置される。航空機の機体40の胴体は、外板45と、複数のフレーム43と、複数のストリンガー44と、内装パネル46と、インシュレーション・ブランケット47と、制振シート1と、を有する。
【0163】
機体40の胴体は略円筒状を有する。機体40の胴体の内側には、複数のフレーム43及び複数のストリンガー44が設けられる。複数のフレーム43は、機体40の胴体の主要な構造部材であり、胴体の形状を構成する。フレーム43は、胴体の中央縦軸の周りに周方向に延びる。複数のフレーム43は、中央縦軸に沿って互いに離間して配置される。外板45は、フレーム43に連結する。複数のストリンガー44は、互いに平行に配置され、胴体の中央縦軸に平行に延びる。ストリンガー44は、外板45の内面及びフレーム43に連結される。
【0164】
フレーム43及びストリンガー44は、格子状に配置される。フレーム43及びストリンガー44により区画される空間には、制振シート1及びインシュレーション・ブランケット47が設けられる。更に、その内側に内装パネル46がフレーム43にあわせて取り付けられる。
【0165】
インシュレーション・ブランケット47は、例えばグラスウール等の断熱材から構成され、機内の保温と外部からの騒音を吸収するようになっている。
【0166】
制振シート1は、外板45の内側の面に貼り付けられる。航空機では典型的には、主翼の下側や胴体の後方にエンジンが配置され、当該エンジンの振動音によって機体40の胴体が振動する。また、飛行中の胴体表面に生じる乱流境界層により、空力的な加振を受けることでも機体40の胴体が振動する。乱流境界層は、胴体表面の法線方向に速度分布を持つ薄い空気層である。つまり、外板45は、振動源であるエンジンによって振動する制振対象物に対応する。外板45の内側面は制振対象物の表面に対応する。制振シート1は、第2の面22と外板45の内側面とが接着剤を介して接するように配置される。これにより、制振シート1に配置される複数の制振ユニット3は機体40の内側に向かって突出するように配置される。また、複数の制振ユニット3の錘部7の振動が干渉されないように、制振ユニット3が揺れる空間が確保されるように制振シート1は機体40内に配置される。
【0167】
このように制振シート1が設けられることにより、エンジン等に起因する外板45の振動が制振される。更に、制振されることで、外板45の振動による音を抑制することができる。
【0168】
航空機に制振シート1を適用する場合、制振シート1は、基板2の第1の面21が、胴体の外板45の表面に沿って配置される。このように第1の面21が水平面に平行になるように配置されない場合であっても、一般的には胴体外板への主要な加振源となる乱流境界層による外板の振動は、外板の法線方向(外板表面に対して垂直方向)となるため、この振動を制振する目的で、制振シート1に配置される制振ユニット3の高さ方向も制振シートが配置される外板区画の法線方向と平行とすることが好ましい。
【0169】
以上、本発明の様々な実施形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、本発明はここで開示された特定の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0170】
<実施例>
【0171】
以下、本発明を以下の実施例により更に詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない。
図16は、後述する第1実施例の制振シート、第1比較例の平板及び第2比較例の制振シートの制振性及び遮音性を評価する際の評価方法を説明するための斜視図である。
図16では、第1実施例の制振シート1を評価する様子を図示している。
図17は、第1実施例の制振シート1の一部を構成する制振ユニット3の拡大斜視図である。
【0172】
[第1実施例]
【0173】
第1実施例として、
図16に示す態様の基板2上に複数の制振ユニット3が配置された制振シート1を、3Dプリンタによる造形により、基板2、支持部10及び錘部7が一体的に連結させて作製した。基板2の形状を矩形状とした。制振ユニット3において、錘部7の形状を断面が正方形の角柱体とし、支持部10の数を2つとした。各支持部10の形状は、屈曲部13を有する棒状とした。支持部10は、屈曲部13を介して、基板2に対して平行な横方向に直線状に延びる部位と基板2に対して垂直な縦方向に直線状に延びる部位とを有する形状とした。また、支持部10の第1方向が、矩形状の基板2の直交する2辺それぞれに対して平行となるように、基板2上に制振ユニット3を配置した。複数の制振ユニット3は、X軸方向に8個、Y軸方向に8個となるようにマトリクス状に配置し、計64個の制振ユニット3を配置した。制振シート1の材料にはアクリル系樹脂を用いた。作製した制振シート1の寸法は以下の通りであった。
【0174】
矩形状の基板2のX軸方向及びY軸方向の寸法はいずれも100mm程度であった。基板2の厚みgは1mm程度であった。第1実施例の制振シート1では、同一仕様の制振ユニット3を基板2に極力多数配置した場合の制振効果を検証することを目的としたため、
図16に示すように制振ユニット3を密に配置した。制振ユニット3間の距離(X軸方向における隣り合う制振ユニット3の中心間距離a、Y軸方向における隣り合う制振ユニット3の中心間距離b)は一定とした。また、
図17を参照して、面外方向振動に対する制振効果を得る目的で、支持部10の横の長さfが同支持部10の高さeよりも長くなる仕様とした。また、面内方向振動に対する制振効果を得る目的で制振ユニット3の錘部7が揺れやすくなるように錘部7の重心が基板2の表面から離れるような仕様とした。
【0175】
[第1比較例]
【0176】
第1比較例として、制振ユニットが配置されていない基板2のみからなる比較用の平板を作製した。第1比較例の平板は、第1実施例の制振シートと同じ材質を用いて3Dプリンタにより矩形状に制作した。第1比較例の平板のX軸及びY軸寸法は第1実施例の基板2と同様とし、重量が第1実施例と同等となるように第1比較例の平板の厚みを調整した。
【0177】
[第2比較例]
【0178】
第2比較例として、第1実施例の制振シート1の各制振ユニット3から支持部10を除き、円柱状の錘部が基板上に配置された制振シートを作製した。第2比較例の制振シートは、第1実施例の制振シートと同じ材質を用いて3Dプリンタにより制作した。第2比較例の制振シートは基板上に複数の錘部が配置されてなり、基板の寸法、錘部の質量及び寸法、錘部の数、錘部のピッチは第1実施例と同様とした。
【0179】
[制振性及び遮音性の評価]
【0180】
次に、第1実施例の制振シート、第1比較例の平板及び第2比較例の制振シートそれぞれの制振性及び遮音性を評価した。
【0181】
(面外方向の振動に対する制振性の評価方法)
【0182】
図16に示すように、第1実施例の制振シート1を、制振シート1のX軸方向及びY軸方向のそれぞれの辺長の4倍程度の長さを持つ、厚さ1mmからなる金属平板5の上面に配置した。次に、金属平板5の下面に音響実験装置にて20Hz~10kHz以上の帯域を持つWhite Noiseの音源を用いて残響場を生成させることで金属平板5を音響加振させ、金属平板5に設置した加速度センサにて振動加速度を測定した。第1比較例の平板及び第2比較例の制振シートにおいても同様の手法で振動加速度を測定した。その結果を
図18に示す。
【0183】
図18に示すグラフの横軸は、音響加振に用いた残響場の周波数を示し、グラフの縦軸はZ軸方向の振動加速度を示す。
図18に示すグラフにおいて、実線が第1実施例の制振シートの測定結果を示し、細い破線が第1比較例の平板の測定結果を示し、太い破線が第2比較例の制振シートの測定結果を示す。
図18に示すように、第1実施例の制振シートは、第1比較例の平板及び第2比較例の制振シートよりも、2000~6000Hzの広帯域において振動加速度が低減しており、制振効果が向上したことが確認された。
【0184】
(面外方向の振動に対する遮音性の評価方法)
【0185】
図16に示すように、第1実施例の制振シート1を、制振シート1のX軸方向及びY軸方向のそれぞれの辺長の4倍程度の長さを持つ、厚さ1mmからなる金属平板5の上面に配置した。次に、金属平板5の下面に音響実験装置にて20Hz~10kHz以上の帯域を持つWhite Noiseの音源を用いて残響場を生成させることで金属平板5を音響加振させ、金属平板5に設置したマイクロホンを搭載した騒音計により音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)を測定した。第1比較例の平板においても同様の手法で音圧レベルを測定した。その結果を
図19に示す。
【0186】
図19に示すグラフの横軸は、音響加振に用いた残響場の周波数を示し、グラフの縦軸はZ軸方向の音圧レベルを示す。
図19に示すグラフにおいて、実線が第1実施例の制振シートの測定結果を示し、細い破線が第1比較例の平板の測定結果を示す。
図19に示すように、第1実施例の制振シートは、第1比較例の平板よりも、2000~6000Hzの広帯域において音圧レベルが10dB以上低減しており、遮音効果が向上したことが確認された。
【0187】
(面内方向の振動に対する制振性の評価方法)
【0188】
図16に示す金属平板5と第1実施例、第1比較例、第2比較例のそれぞれの組み合わせを振動解析用にモデル化した。金属平板5の側面に+Y軸方向にWhite Nise波形を加振力として与えた際の金属平板5自体のY軸方向の加速度を算出することで、制振効果の有無を評価した。その結果を
図20に示す。
【0189】
図20に示すグラフの横軸は音響加振に用いた残響場の周波数特性を示し、グラフの縦軸はX軸方向の振動加速度を示す。
図20に示すグラフにおいて、実線が第1実施例の制振シートの測定結果を示し、細い破線が第1比較例の平板の測定結果を示し、太い破線が第2比較例の制振シートの測定結果を示す。別途制振ユニット単体の固有モード(1次モード~4次モード)を解析した結果を
図21に示す。この固有モードの周波数と
図20との対比を
図22に示す。
図22に示すように、1次モード~4次モードに対応した周波数のうち、加振方向(Y方向)に対応した変形を生じる4次モードが持つ周波数帯域で制振効果が高くなっており、制振ユニットの固有モードと加振方向を対応させることで高い制振効果が得られることが確認された。
【0190】
《多錘型制振シートと単錘型制振シートの比較》
【0191】
以下、第2実施例(多錘型制振シート)、第3実施例(単錘型制振シート)及び第3比較例(制振ユニットがない平板)の制振性及び遮音性の比較結果について説明する。
【0192】
[第2実施例]
【0193】
第2実施例として、
図23(A)に示す態様の基板2上に複数の多錘型制振ユニット24Aが配置された多錘型制振シート20Aを、3Dプリンタによる造形により、基板2と多錘型制振ユニット24Aとを一体的に連結させて、作製した。基板2の形状を矩形状とした。基板2上には、複数の多錘型制振ユニット24Aが同じ向きとなるように配置した。基板2上に、X軸方向に4個、Y軸方向に4個となるようにマトリクス状に計16個の多錘型制振ユニット24Aを配置した。多錘型制振シート20Aの材料にはアクリル系樹脂を用いた。多錘型制振シート20Aは合計で64個の錘部7を有する。作製した多錘型制振シート20Aの寸法は以下の通りであった。
【0194】
矩形状の基板2のX軸方向及びY軸方向の寸法はいずれも100mm程度であった。基板2の厚みは1mm程度であった。多錘型制振ユニット24A間の距離(X軸方向における隣り合う多錘型制振ユニット24Aの中心間距離、Y軸方向における隣り合う多錘型制振ユニット24Aの中心間距離)は一定とした。
【0195】
[第3実施例]
【0196】
第3実施例として、
図33に示す態様の基板2上に複数の単錘型制振ユニット3Lが配置された単錘型制振シート1Vを、3Dプリンタによる造形により、基板2、支持部10L及び錘部7Bを一体的に連結させて作製した。基板2の形状を矩形状とした。単錘型制振ユニット3Lにおいて、錘部7Lの形状を立方体とし、支持部10Lの数を1つとした。支持部10Lの形状は、屈曲部13を有する棒状とした。支持部10は、屈曲部13を介して、基板2に対して平行な横方向に直線状に延びる部位と基板2に対して垂直な縦方向に直線状に延びる部位とを有する形状とした。基板2上に、X軸方向に8個、Y軸方向に8個となるようにマトリクス状に計64個の単錘型制振ユニット3Lを配置した。単錘型制振シート1Vの材料にはアクリル系樹脂を用いた。単錘型制振シート1Vは合計で64個の錘部7Lを有する。作製した単錘型制振シート1Vの寸法は以下の通りであった。
【0197】
矩形状の基板2のX軸方向及びY軸方向の寸法はいずれも100mm程度であった。基板2の厚みは1mm程度であった。制振ユニット3L間の距離(X軸方向における隣り合う制振ユニット3Lの中心間距離、Y軸方向における隣り合う制振ユニット3Lの中心間距離)は一定とした。第3実施例の単錘型制振シート1Vに設けられる64個の錘部7Lの総重量が、第2実施例の多錘型制振シート20Aに設けられる64個の錘部7の総重量が同等となり、かつ、第2実施例の多錘型制振シート20Aと第3実施例の単錘型制振シート1Vの重量が同等となるように調整した。
【0198】
[第3比較例]
【0199】
第3比較例として、制振ユニットが配置されていない基板2のみからなる比較用の平板を作製した。第3比較例の平板は、第2及び第3実施例の制振シートと同じ材質を用いて3Dプリンタにより矩形状に制作した。第3比較例の平板のX軸及びY軸寸法は第2及び第3実施例の基板2と同様とし、重量が第2及び第3実施例と同等となるように第3比較例の平板の厚みを調整した。
【0200】
[制振性及び遮音性の評価]
【0201】
次に、第2実施例、第3実施例に係わる制振シート及び第3比較例の平板の制振性及び遮音性を評価した。
【0202】
(面外方向の振動に対する制振性及び遮音性の評価方法)
【0203】
図32に示す風洞実験装置50を用いて制振性及び遮音性の評価を行った。風洞実験装置50は、長手方向の中央部に測定部54を有し、別途据え付けられる送風機によって測定部54を通るように、一方の面53から他方の面52に向かう方向に風を発生させる。
【0204】
風洞実験装置50の測定部54の側壁の一部54aを、縦180mm、横560mm、厚さ1.5mmの金属薄板55に置き換え、通風時に風洞測定部54の内壁に生じる乱流境界層によって制振対象物を模した金属薄板55に面外方向の振動が加わる状態とした。この状態にて、制振対象物となる金属薄板55の外側の面の中央に第2実施例の多錘型制振シート20Aを配置した。次に、測定部54内に風を生じさせ、金属薄板55に振動を加え、金属薄板55の中央に設置した加速度センサにて振動加速度を測定し、金属薄板55の近傍に設置したマイクロホンを搭載した騒音計により音圧レベル(SPL)を測定した。第3実施例の制振シート及び第3比較例の平板においても同様の手法で振動加速度を測定した。また、第3比較例の平板においても同様の手法で音圧レベルを測定した。その結果を
図34及び
図35に示す。
【0205】
図34に示すグラフは、風洞実験装置50を用いて計測された金属箔板55中央における振動特性を示しており、グラフの縦軸は金属薄板55の面外方向の振動加速度を示し、グラフの横軸は振動が生じている周波数を示す。
図34に示すグラフにおいて、実線が第2実施例の多錘型制振シートの測定結果を示し、一点鎖線が第3実施例の単錘型制振シートの測定結果を示し、破線が第3比較例の平板の測定結果を示す。
図34に示すように、第2実施例の多錘型制振シート及び第3実施例の単錘型制振シートは、第3比較例の平板よりも制振効果が高いことが確認された。そして、特に、第2実施例の多錘型制振シートでは、一定の周波数帯域(例えば700HZ~1000HZの帯域)で複数の振動モード(固有振動数が719HZ、813HZ、844HZ、903HZの振動モード)が得られ、第3実施例の単錘型制振シート及び第3比較例の平板と比較して、広帯域で制振効果が向上することが確認された。
【0206】
図35に示すグラフは、風洞実験装置50を用いて計測された音響特性を示しており、グラフの縦軸は金属薄板55の表面近傍で計測された音圧レベル(SPL)を示し、グラフの横軸は音圧レベルが生じている周波数を示す。
図35に示すグラフにおいて、実線が第2実施例の多錘型制振シートの測定結果を示し、破線が第3比較例の平板の測定結果を示す。
図35に示すように、例えば一定の周波数帯域(例えば700HZ~1000HZの帯域)内で、第2実施例の制振シートは、第3比較例の平板よりも広帯域で遮音効果が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0207】
1、1A、1B、1C、1D、1V…制振シート
2…基板
3、3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3H、3J、3K、3L、3M、3N、3P、3Q、3R、3S、3T、3U…制振ユニット
7、7A、7B、7C…錘部
8…制振対象物
10、10a、10b、10Aa、10Ab、10B、10Ba、10Bb、10C、10Ca、10Cb、10D、10Da、10Db、10E、10F、10G、10Ga、10Gb、10Gc、10H、10Ha、10Hb、10J、10Ja、10Jb、10Ka、10Kb、10L、10Ma、10Mb、10Na、10Nb、10Pa、10Q、10T、10U…支持部
11、11a、11b、11A、11B、11C、11D、11E、11F、11G、11H、11J…一端側
12、12a、12b、12A、12B、12C、12D、12E、12F、12G、12H、12J…他端側
16…法線
18…仮想平面(法線と直交する平面)
19…作用線
20A、20B、20C、20D、20E…多錘型制振シート(制振シート)
21…第1の面
22…第2の面
24A、24B、24C、24D、24E…多錘型制振ユニット(制振ユニット)
25A、25B、25C、25D、25E…支持部
26A、26B、26C、26D、26E…基部
271A、272A、273A、274A、271B、272B、273B、271C、272C、273C、274C、271D、272D、271E、272E、273E、274E…枝部
80…表面
C…錘部の重心