(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152563
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】畑での茶樹害虫の防除におけるインドールの使用及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A01N 43/38 20060101AFI20241018BHJP
A01P 19/00 20060101ALI20241018BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20241018BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20241018BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A01N43/38
A01P19/00
A01P7/04
A01N25/06
A01N25/00 102
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179135
(22)【出願日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】202310392699.X
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】519264139
【氏名又は名称】中国農業科学院茶葉研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】葉萌
(72)【発明者】
【氏名】丁長慶
(72)【発明者】
【氏名】黄建燕
(72)【発明者】
【氏名】楊亜軍
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC01
4H011AC07
4H011BA01
4H011BB09
4H011BC03
4H011DA21
4H011DD03
4H011DG05
4H011DG08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】直接的な作用または天敵を引き寄せる間接的な作用の両方の方式により、安全で茶樹害虫に対して優れた防除効果を有する、畑での茶樹害虫の防除方法を提供する。
【解決手段】畑での茶樹害虫の防除においてインドールを使用し、好ましくは、インドール固体を10部の無水エタノールに溶解してインドール母液に配合し、溶解が完了した後、蒸留水で100mg/Lのインドール作動液に希釈し、茶樹の正常成長周期内で、葉面スプレー法によるインドール作動液の施用により茶樹株を7日おきに1回処理し、合計3回処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
畑での茶樹害虫の防除におけるインドールの使用。
【請求項2】
茶樹の正常成長周期内で、インドールを茶樹の葉の表面にスプレーして処理する、ことを特徴とする畑での茶樹害虫の防除におけるインドールの使用方法。
【請求項3】
まずインドール固体を10部の無水エタノールに溶解してインドール母液に配合し、溶解が完了した後、蒸留水で100mg/Lのインドール作動液に希釈して使用に備える、ことを特徴とする請求項2に記載の使用方法。
【請求項4】
茶樹の正常成長周期内で、葉面スプレー法によるインドール作動液の施用により茶樹株を7日おきに1回処理し、合計3回処理する、ことを特徴とする請求項3に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物害虫の防除技術分野に属し、具体的には畑での茶樹害虫の防除におけるインドールの使用及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶樹は、わが国の最も特色と経済的価値を有する作物の1つであり、茶産業もわが国の茶栽培地区で民を富ませて収入を増加させる農業基幹産業や農村振興の重要なキャリアである。しかし、茶樹は、害虫が複雑で、種類が多く、被害が大きいため、我が国の茶葉生産に重大な影響を及ぼし、莫大な経済的損失をもたらす。どのように茶樹害虫を効果的に防除するかが、わが国の農業生産において早急に解決すべき重要な問題となっている。
【0003】
インドールは、自然環境に広く分布し、揮発性を有し、植物が非生物的または生物的ストレス、特に害虫による被害を受けた場合に大量に放出される芳香族複素環有機化合物である。
【0004】
研究によれば、インドールは、一方では、化学的シグナル物質として作用し、植物の自己免疫抵抗性を活性化するか、または害虫の天敵を引き寄せることによって、植物が害虫を防ぐのを助けることができ、他方では、植物の二次代謝産物の前駆体として害虫抵抗物質を合成するか、または植物ホルモンのオーキシンの合成に関与して、植物の生理学的反応及び抵抗性を調節することができることが示される。
【0005】
茶樹株は、ウスジロエダシャクやチャノミドリヒメヨコバイなどの害虫にさらされると、大量の揮発性インドールの合成と放出も誘導する。
【0006】
屋内制御実験によれば、インドールが茶樹の早期防御信号を誘発し、防御ホルモンの合成を活性化し、抗虫二次代謝産物の蓄積を促進し、さらに茶樹のウスジロエダシャクに対する抵抗性を高めることが見出され、インドールが茶樹の虫害ストレスに対する反応において重要な役割を果たしていることが示された。その他、インドールは、茶葉の鍵となる香り物質でもあり、例えば、花香烏龍茶において最も重要な香気賦与成分の1つがインドールである。
【0007】
現在、茶樹害虫の防除は、依然として化学農薬の施用が主であり、残農薬による一連の問題は、茶葉の品質安全や茶園の生態安全を深刻に脅かしている。
【0008】
茶は、世界で認められている健康な飲料として、その品質安全性に一層の関心と要求を与え、安全茶、有機茶に対する意識のニーズも高まっている。従って、茶園のグリーン防除技術を発展させ、より環境に優しく、より科学的、より効率的な手段で茶樹害虫を防除し、化学農薬施用の減少ひいては代替投与は、今から未来にかけて早急に達成しなければならない重要な使命であり、我が国の茶産業のグリーン健康の発展を保障する有効な手段でもある。
【0009】
インドールは、植物由来の化合物として、それを利用して害虫を防除することは、グリーンで無害で環境を汚染しない等の利点を有している。インドールは、植物の害虫抵抗性を高めることができ、植物の害虫防除の領域において、潜在的な使用の将来性があることが報告されるが、畑での茶樹害虫の防除における使用に関する報告は未だない。
【0010】
従って、本発明は、葉面にインドールをスプレーすることにより、害虫に対する茶樹の抵抗性を高め、害虫による茶産業の損失を低減させることは、茶園のグリーン防除技術を発展させ、茶産業の安全生産を安定させることに重要な意義がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術に存在する問題に対して、畑での茶樹害虫の防除におけるインドールの使用及び使用方法を設計して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、以下の技術的解決手段によって実現される。
【0013】
本発明の一態様は、畑での茶樹害虫の防除におけるインドールの使用を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、畑での茶樹害虫の防除におけるインドールの使用方法を提供し、前記使用方法は、具体的には、茶樹の正常成長周期内で、インドールを茶樹の葉の表面にスプレーして処理することである。
さらに、まずインドール固体を10部の無水エタノールに溶解してインドール母液に配合し、溶解が完了した後、蒸留水で100mg/Lのインドール作動液に希釈して使用に備える。
さらに、茶樹の正常成長周期内で、葉面スプレー法によるインドール作動液の施用により茶樹株を7日おきに1回処理し、合計3回処理する。
【発明の効果】
【0015】
従来技術と比較して、本発明は、以下の利点を有する。
(1)本発明に記載のインドールの使用及び製造方法が簡単であり、畑で植物の葉に直接スプレーすることができる。
(2)応用過程において、インドールは、グリーンであり、安全であり、環境に優しく、経済的であり、処理後に植物の成長に悪影響を与えない。
(3)大量の畑試験によれば、インドール処理は、茶樹株上のチャノミドリヒメヨコバイ、ミカントゲコナジラミ、コナジラミ等の害虫の個体群数を著しく減少させることができるだけでなく、茶樹株上のクモ、寄生蜂等の天敵の個体群数を著しく増加させることができることが判明され、直接的な作用または天敵を引き寄せる間接的な作用の両方の方式により、多くの茶樹害虫に対して優れた防除効果を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の茶樹がインドール葉面スプレー処理を行った後に茶園中のチャノミドリヒメヨコバイ、ミカントゲコナジラミ、コナジラミ等の害虫の個体群数に対する影響を示す図である。
【
図2】本発明の茶樹がインドール葉面スプレー処理を経た後に茶園中のクモ、寄生蜂等の天敵の個体群数に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明をよりよく理解するために、本発明の畑での茶樹害虫防止におけるインドールの使用及び使用方法について、以下では、具体的な実施例と明細書の図面を結合してさらに述べる。
【実施例0018】
畑での茶樹害虫に対するインドールの防除試験
【0019】
1)実験材料:
供試茶樹品種:龍井43(Camellia sinensis)。
畑調査害虫:茶樹害虫であるチャノミドリヒメヨコバイ(Empoasca onukii)、ミカントゲコナジラミ(Aleurocanthus spiniferus)、コナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)、チャノキイロアザミウマ(Scirtothrips dorsalis)、ウスジロエダシャク(Ectropis obliqua)、コミカンアブラムシ(Toxoptera aurantii)など。
インドール(indole、CAS:120-72-9):シグマアルドリッチ(上海)貿易有限公司から購入された。
【0020】
2)実験方法:
【0021】
インドール作動液の調製:適量のインドール固体を天秤で秤量して遠沈管に置き、無水エタノール10部を加えてインドール母液に配合し、インドール固体が完全に溶解した後、適量の蒸留水で100mg/Lのインドール作動液に希釈して使用に備えた。同じ体積の無水エタノールと蒸留水溶液を対照作動液とした。
【0022】
茶樹処理:インドール処理群と対照群を設け、各群は、4つのセルに分けられ、各セルの面積は、0.09hm2(30m×30m)であり、セル間には5mの緩衝帯が設けられた。インドール処理群は、上記インドール作動液を茶樹の葉の表面にスプレーし、スプレー量は、茶樹株の大きさと葉の数によるが、茶樹全体の3/4以上の葉にインドール作動液を染み込ませることが好ましく、7日おきに1回処理し、合計3回処理した。対照処理群は、上記同じ体積の対照作動液をスプレーした。
【0023】
茶樹害虫と天敵の個体群数の調査:上記茶樹処理後に7日おきに茶樹上の害虫と天敵の個体群数を調査し、合計3回調査した。ジグザグサンプリング法を採用し、セル毎に5個ずつの調査サンプリングポイントが設けられた。鉢拍法を利用して各茶樹上の節足動物を白磁鉢に叩いて落とし、各種の節足動物の個体群数を統計して記録した。調査の主な対象は、茶樹害虫であるチャノミドリヒメヨコバイ、ミカントゲコナジラミ、コナジラミ、チャノキイロアザミウマ、ウスジロエダシャク、コミカンアブラムシ等であり、茶樹害虫天敵は、クモ、寄生蜂である。
【0024】
3)実験結果
図1から分かるように、インドール処理と未処理の茶樹上の節足動物の群落状況を調べることにより、インドール処理は、茶樹害虫の発生数を著しく低減させることができる。対照と比較して、インドール処理後の茶樹上のチャノミドリヒメヨコバイの個体群数は33.33%~60%、ミカントゲコナジラミの個体群数は57.14%~92.31%、コナジラミの個体群数は40%低減し、チャノキイロアザミウマの個体群数に与える影響が少なかった。茶園を調べても、ウスジロエダシャク、コミカンアブラムシ等の他の害虫の発生が見られなかった。
図2から分かるように、インドール処理は、茶樹害虫の天敵の個体群数を著しく向上させることもできる。対照と比較して、インドール処理後の茶樹上のクモの数は64.29%~140%向上し、寄生蜂の個体群数は350%向上しており、インドールは、茶樹害虫の天敵を引き寄せることにより害虫を防御できることが示された。
【0025】
以上の結果から、インドールは畑で、直接的な作用または天敵を引き寄せる間接的な作用の両方の方式により、茶樹害虫の個体群数を効果的に制御でき、茶園における多くの茶樹害虫に対して優れた防除効果を有し、幅広い応用の将来性があることが示された。
【0026】
最後に説明すべきこととして、以上の各実施例は、単に本発明の技術的解決手段を説明するためにのみ使用され、それを制限するものではなく、前記の各実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者であれば、依然として、前記の実施例に記載された技術的解決手段を修正したり、その一部またはすべての技術的特徴を均等に置き換えたりすることができ、これらの修正または置換は、相応な技術的解決手段の本質を本発明の各実施例の技術的解決手段の範囲から逸脱させるものではないことを理解すべきである。