(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152581
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】光触媒塗装体
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20241018BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241018BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20241018BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20241018BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241018BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20241018BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241018BHJP
C09D 127/06 20060101ALI20241018BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20241018BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241018BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20241018BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20241018BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J37/02 301A
B01J23/72 M
B01J27/24 M
C09D201/00
C09D183/04
C09D133/00
C09D127/06
C09D127/12
C09D7/62
C09D5/16
C09D5/14
B05D5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211462
(22)【出願日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2023065669
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】金子 翔太朗
(72)【発明者】
【氏名】高木 洋二
(72)【発明者】
【氏名】高見 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅央
【テーマコード(参考)】
4D075
4G169
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CA32
4D075DB01
4D075DB11
4D075DB18
4D075DB31
4D075DC02
4D075DC32
4D075EA06
4D075EA10
4D075EB15
4D075EB22
4D075EC03
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA14
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA22C
4G169BA48A
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC32A
4G169BC66A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD08A
4G169BE08C
4G169BE09C
4G169BE32C
4G169BE33C
4G169BE34C
4G169CA07
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EB15X
4G169EB15Y
4G169FA06
4G169FB24
4G169FC05
4G169FC08
4G169HA02
4G169HA08
4G169HA10
4G169HB02
4G169HB03
4G169HC02
4G169HC18
4G169HD10
4G169HD17
4G169HD18
4G169HD19
4G169HE07
4G169HE12
4G169HF10
4J038CD041
4J038CD091
4J038CG141
4J038CJ061
4J038CJ291
4J038HA216
4J038KA15
4J038NA05
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】 可視光応答型光触媒粒子の含有濃度が高く、かつ薄い膜厚であっても、可視光応答型光触媒粒子の含有濃度が低く、かつ薄い膜厚であっても、高い光触媒活性と良好な耐光性との両立を実現した光触媒層を備える光触媒塗装体の提供。
【解決手段】 基材と、当該基材の表面に設けられた光触媒層とを少なくとも備えてなる光触媒塗装体であって、前記光触媒層が、可視光応答型光触媒粒子と、樹脂とを少なくとも含有し、前記光触媒層に含有される全固形分の量の合計を100質量%としたときの、前記可視光応答型光触媒粒子の量の割合が、1質量%以上30質量%以下であり、前記光触媒層の平均膜厚が、0.5μm以上10.0μm以下であり、前記光触媒層のSCE方式による測色値(L0*、a0*、b0*)と、前記光触媒層の表面に、1質量%の硝酸銀溶液を0.8g/10cm2の量で塗布し、波長300~400nmの紫外線を1.0mW/cm2の強度で2分間照射した後の、得られた光触媒層のSCE方式による測色値(L1*、a1*、b1*)とから算出される色差:ΔE*=[(L1*-L0*)2+(a1*-a0*)2+(b1*-b0*)2]1/2が7以上である、光触媒塗装体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、当該基材の表面に設けられた光触媒層とを少なくとも備えてなる光触媒塗装体であって、
前記光触媒層が、可視光応答型光触媒粒子と、樹脂とを少なくとも含有し、
前記光触媒層に含有される全固形分の量の合計を100質量%としたときの、前記可視光応答型光触媒粒子の量の割合が、1質量%以上30質量%以下であり、
前記光触媒層の平均膜厚が、0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記光触媒層のSCE方式による測色値(L0*、a0*、b0*)と、前記光触媒層の表面に、1質量%の硝酸銀溶液を0.8g/10cm2の量で塗布し、波長300~400nmの紫外線を1.0mW/cm2の強度で2分間照射した後の、得られた光触媒層のSCE方式による測色値(L1*、a1*、b1*)とから算出される色差:ΔE*=[(L1*-L0*)2+(a1*-a0*)2+(b1*-b0*)2]1/2が7以上である、光触媒塗装体。
【請求項2】
前記可視光応答型光触媒粒子が、
・ 金属化合物を担持したルチル型酸化チタン、
・ 金属化合物を担持したアナターゼ型酸化チタン、および
・ 窒素または硫黄ドープ型酸化チタン
からなる群から選択される1種または2種以上の、可視光照射により励起する半導体金属酸化物である、請求項1に記載の光触媒塗装体。
【請求項3】
前記金属化合物が、銀化合物、銅化合物、鉄化合物、白金化合物、およびパラジウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項2に記載の光触媒塗装体。
【請求項4】
前記樹脂が、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、オルガノシロキサン、およびフッ素樹脂からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の光触媒塗装体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光触媒塗装体が備える光触媒層を形成するためのコーティング組成物であって、
当該コーティング組成物が、可視光応答型光触媒粒子と、樹脂と、溶媒とを少なくとも含有する、コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光触媒塗装体の製造方法であって、
基材の表面に、請求項5に記載のコーティング組成物を塗布して光触媒層を形成する工程を少なくとも含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記コーティング組成物の、前記基材の表面への単位面積当たりの塗布量が、1g/m2以上50g/m2以下である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒塗装体に関し、さらに詳しくは高い光触媒活性と良好な耐光性とを兼ね備えた光触媒塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内装建材など種々の部材に光触媒を利用した塗装を施すことが増えてきている。光触媒の一種である二酸化チタン(TiO2)は、光のエネルギーにより励起電子と正孔を生成する。生成された励起電子と正孔は、光触媒表面において、酸素と水分の存在下で、O2
-、O-、・OH(・は不対電子を示しラジカル種であることを意味する)等の活性酸素種を生成する。この活性酸素種が有するラジカルな性質を利用して、菌、ウイルス等の有害物質を酸化分解することができる。
【0003】
例えば、特開2019-011418号公報(特許文献1)には、光触媒型酸化チタンと樹脂と顔料(炭酸カルシウムやゼオライト等)とを含む塗料組成物において、これら3成分の合計量に対する光触媒型酸化チタンの含有量の割合を比較的少なくし(0.03~2.8質量%)、その条件下で上記3成分の濃度比を特定することで、抗菌・抗ウイルス性能に優れ、変色が抑制された塗膜(光触媒層)が得られることが記載されている。特許文献1によれば、光触媒型酸化チタンの含有濃度が高いと(6.3質量%)、塗膜が変色した(ΔL*≧5)ことが具体的に示されている(表3(段落番号0069)中、比較例4の変色評価結果を参照)。なお、特許文献1において、塗膜の膜厚についての具体的な記載はないが、後述するとおり、同特許文献に具体的に開示された塗料組成物の固形分濃度(上記3成分の合計濃度)および塗布量から、膜厚は比較的厚いと推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような光触媒の含有濃度が比較的少ない塗膜にあっては、良好なロバスト性を得つつ、より高い抗菌・抗ウイルス性能を発現させるために、光触媒の含有濃度を増やす、または膜厚を厚くすることが一般的にとられる手段であるが、一方で、光触媒の含有濃度を増やすと、環境中の光により発現される光触媒作用(酸化力)が高まり、塗膜中の樹脂および顔料、光触媒が担持する金属粒子、さらに塗装下地に含まれる有機成分が変退色し、その結果、場合により、被塗装体の意匠性が損なわれるおそれがある。また、膜厚を厚くすると、透明性が求められる塗膜において、場合により、塗膜の外観が損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明者らは、今般、優れた抗ウイルス性能等の発現と変退色の抑制とを両立させるためには、光触媒層に含まれる光触媒の濃度と光触媒層の膜厚とのバランスが適切に保たれていなければならないとの着想に至った。そして、光触媒濃度と膜厚とのバランスを考慮して、光触媒層に含まれる全ての固形分の合計量に対する可視光応答型光触媒粒子の量の割合、および光触媒層の膜厚を特定の範囲に制御するとともに、これらの特徴を有する光触媒層が発現する光触媒活性を特定の範囲に制御することで、抗ウイルス性能等の光触媒機能が十分に発揮されるとともに、光に起因して発現される光触媒作用による塗膜の変退色(耐光性の劣化)が抑制される光触媒層が得られることを確認した。その結果、光触媒粒子の含有濃度を高くし、かつ膜厚を薄くした場合であっても、光触媒粒子の含有濃度を低くし、かつ膜厚を薄くした場合であっても、高い光触媒活性と良好な耐光性とを兼ね備える光触媒層を形成することができるとの知見を得た。本発明は斯かる知見に基づくものである。
【0007】
本発明は、光触媒粒子の含有濃度が高く、かつ薄い膜厚であっても、光触媒粒子の含有濃度が低く、かつ薄い膜厚であっても、高い光触媒活性と良好な耐光性との両立を実現した光触媒層を備える光触媒塗装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による光触媒塗装体は、
基材と、当該基材の表面に設けられた光触媒層とを少なくとも備えてなり、
前記光触媒層が、可視光応答型光触媒粒子と、樹脂とを少なくとも含有し、
前記光触媒層に含有される全固形分の合計を100質量%としたときの、前記可視光応答型光触媒粒子の含有量の割合が、1質量%以上30質量%以下であり、
前記光触媒層の平均膜厚が、0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記光触媒層のSCE方式による測色値(L0*、a0*、b0*)と、前記光触媒層の表面に、1質量%の硝酸銀溶液を0.8g/10cm2の量で塗布し、波長300~400nmの紫外線を1.0mW/cm2の強度で2分間照射した後の、得られた光触媒層のSCE方式による測色値(L1*、a1*、b1*)とから算出される色差:ΔE*=[(L1*-L0*)2+(a1*-a0*)2+(b1*-b0*)2]1/2が7以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光触媒粒子の含有濃度が高く、かつ薄い膜厚であっても、光触媒粒子の含有濃度が低く、かつ薄い膜厚であっても、抗ウイルス性能等の光触媒機能が十分に発揮されるとともに、光触媒作用による変退色(劣化)が抑制された、すなわち良好な耐光性を有する光触媒層を備える光触媒塗装体が提供される。また、光触媒層が薄い膜厚であることから、そのコストを抑制できるとの利点も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
光触媒塗装体
本発明による光触媒塗装体は、基材と、その表面に設けられた光触媒層とを備えてなる。
【0011】
光触媒層
組成
本発明において、光触媒層は、可視光応答型光触媒粒子と、樹脂とを少なくとも含有する。本発明による光触媒塗装体は、光触媒層に含有される全固形分の量の合計を100質量%としたときの、可視光応答型光触媒粒子の含有量の割合(以下、「可視光応答型光触媒粒子の含有濃度」ということもある)が、1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする。これにより、可視光応答型光触媒粒子の含有濃度が高く、かつ薄い膜厚であっても、可視光応答型光触媒粒子の含有濃度が低く、かつ薄い膜厚であっても、高い光触媒活性と良好な耐光性を兼ね備えた光触媒層を得ることができる。
なお、本発明において、「固形分」とは、可視光応答型光触媒粒子や樹脂など光触媒層に含まれる固形成分をいう。つまり、可視光応答型光触媒粒子の含有濃度は、光触媒層に含有される可視光応答型光触媒粒子の含有量、樹脂の含有量、および場合により他の固形分の含有量の合計を100質量%としたときの、可視光応答型光触媒粒子の含有量の割合(百分率)として表される。
可視光応答型光触媒粒子の含有濃度は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0012】
膜厚
本発明による光触媒塗装体は、光触媒層の平均膜厚が0.5μm以上10.0μm以下であることを特徴とする。このような薄い膜厚は、可視光散乱を起きにくくするとともに、塗膜成分の変退色を認識しにくくすることができる。その結果、光触媒塗装体の耐光性を高めることができる。さらに、このような薄い膜厚は、可視光散乱を起きにくくすることにより、光触媒層の下部(基材側)にある可視光応答型光触媒粒子にも可視光が到達し、光触媒作用を効率よく発現させることが可能となる。これにより、薄膜であっても十分な光触媒活性を得ることができると考えられる。
【0013】
光触媒層の膜厚は、光触媒塗装体を切断し、塗膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して実測される。他方、本発明においては、実測膜厚から以下に述べる方法により得られる想定膜厚を光触媒層の膜厚とすることもある。すなわち、光触媒層の膜厚と、当該光触媒層を形成するためのコーティング組成物の固形分濃度と塗布量とを乗じて得られる乾燥重量との間に比例関係が成立すると考え、下記式にて、想定膜厚を得る。
光触媒層の想定膜厚=(光触媒層の実測膜厚)×(想定膜厚を得ようとする光触媒層形成用コーティング組成物の乾燥重量/実測膜厚を得た光触媒層形成用コーティング組成物の乾燥重量)
なお、光触媒層形成用コーティング組成物の固形分濃度は、形成される光触媒層の組成が上述した組成となるように予め調整する。
【0014】
硝酸銀呈色性
本発明による光触媒塗装体は、光触媒層のSCE方式による測色値(L0*、a0*、b0*)と、光触媒層の表面に、1質量%の硝酸銀溶液を0.8g/10cm2の量で塗布し、波長300~400nmの紫外線を1.0mW/cm2の強度で2分間照射した後の、得られた光触媒層のSCE方式による測色値(L1*、a1*、b1*)とから算出される色差:ΔE*=[(L1*-L0*)2+(a1*-a0*)2+(b1*-b0*)2]1/2が7以上であることを特徴とする。
本発明による光触媒塗装体は、その特性を、後述する硝酸銀呈色試験により測定される色差(ΔE*値)を指標として表すことができる。本発明において、硝酸銀呈色試験により測定される色差(ΔE*値)を指標として表される光触媒活性を硝酸銀呈色性と称する。硝酸銀呈色試験は、硝酸銀溶液を表面に塗布し、内部(深さ方向)に浸透させた光触媒層に紫外線を照射すると、光触媒層に含まれる可視光応答型光触媒粒子と接触した銀イオンが還元され、銀が析出し、その結果光触媒層が黒色に呈色する現象を指標として、光触媒塗装体の光触媒活性を評価するものである。可視光応答型光触媒粒子に可視光を照射し、当該光触媒粒子が光触媒活性、すなわち酸化還元作用を発揮するとき、還元反応と酸化反応は表裏一体として起こり、これらにより生じる還元力と酸化力の程度は等しいと考えられる。さらに、光触媒層に含まれる可視光応答型光触媒粒子の量に応じて酸化還元反応数が変わるため、光触媒層の呈色度合いも変わると考えられる。これらのことから、光触媒層の呈色度合いの根拠となる可視光応答型光触媒粒子の還元力を指標として、この可視光応答型光触媒粒子が、上記還元力の裏返しとしてこれと等しい酸化力を有すると評価することができる。
【0015】
硝酸銀呈色試験
試験手順は次のとおりである。すなわち、光触媒塗装体の光触媒層の表面に、1質量%の硝酸銀溶液を0.8g/10cm2の量で塗布し、例えばBLランプを用いて、波長300~400nmの紫外線を1.0mW/cm2の強度で2分間照射する。その後、余剰の硝酸銀溶液を拭き取り、光触媒塗装体のL1*、a1*、b1*値をSEC方式にて測定する。
一方、試験前の光触媒塗装体のL0*、a0*、b0*値を測定しておく。
上記のようにして、光触媒塗装体の試験前後の色差(ΔE*=[(L1*-L0*)2+(a1*-a0*)2+(b1*-b0*)2]1/2)を測定する。色差計として、例えば、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR-400)を用いることができる。
【0016】
本発明による光触媒塗装体は、上述した組成、膜厚および硝酸銀呈色性を有することで、可視光応答型光触媒粒子の含有濃度が高く、かつ薄い膜厚であっても、可視光応答型光触媒粒子の含有濃度が低く、かつ薄い膜厚であっても、高い光触媒活性と良好な耐光性を兼ね備えることができる。
【0017】
本発明による光触媒塗装体は、光触媒層における可視光応答型光触媒粒子の含有濃度が上述した特定範囲にあり、さらに光触媒層の膜厚が上述した特定範囲にあることで、両者の間に、高い光触媒活性と良好な耐光性とを両立可能なバランスが保たれている。また、本発明による光触媒塗装体は、その特性を、上記バランスを考慮した光触媒層の単位面積当たりにおける可視光応答型光触媒粒子の量を指標として表すことができ、その量が25mg/m2以上500mg/m2以下であることが好ましい。
【0018】
性能
<抗ウイルス活性>
本発明による光触媒塗装体は、上述した組成、膜厚および硝酸銀呈色性を有することにより、優れた抗ウイルス活性を有する。本発明において、光触媒塗装体の抗ウイルス活性は、JIS R1756(2020) 可視光B条件 明所に従って求められる抗ウイルス活性値(V)を指標として表すことができる。具体的には、JIS R1756(2020) 可視光B条件に従って、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施する。20Wの白色蛍光灯(東芝ライテック株式会社製、「ネオライン」FL20S・W)を光源として用い、紫外線カットフィルター(日東樹脂工業株式会社製、N-169)を通して、照度500ルクスで照射する。照度は、照度計:株式会社トプコン製、IM-5を用いて測定する。可視光の照射時間を4時間として、明所の抗ウイルス活性値(V)を下式により算出した。
【0019】
抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:光照射後の光触媒塗装体あたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:光照射後のコントロールあたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
なお、コントロールとして、抗ウイルス加工が成されていない、つまり光触媒層が形成されていない基材を用いる。
【0020】
光触媒層の単位面積当たりにおける可視光応答型光触媒粒子の量を上述した範囲とすることで、光触媒塗装体の抗ウイルス活性値(V)を2以上とすることができる。
【0021】
<抗菌活性>
本発明による光触媒塗装体は、上述した組成、膜厚および硝酸銀呈色性を有することにより、優れた抗菌活性を有する。本発明において、光触媒塗装体の抗菌活性は、JIS R1752(2020) 可視光B条件 明所に準拠して求められる抗菌活性値(R)を指標として表すことができる。具体的には、JIS R1752(2020) 可視光B条件に準拠して、黄色ブドウ球菌を用いて抗菌試験を実施する。20Wの白色蛍光灯(東芝ライテック株式会社製、「ネオライン」FL20S・W)を光源として用い、紫外線カットフィルター(日東樹脂工業株式会社製、N-169)を通して、照度500ルクスで照射する。照度は、照度計:株式会社トプコン製、IM-5を用いて測定する。可視光の照射時間を8時間として、明所の抗菌活性値(R)を下式により算出する。
【0022】
抗菌活性値:R=Log10(UB/TB)
TB:光照射後の光触媒塗装体あたりの生菌数(cfu)
UB:光照射後のコントロールあたりの生菌数(cfu)
なお、コントロールとして、抗菌加工が成されていない、つまり光触媒層が形成されていない基材を用いる。
【0023】
光触媒層の単位面積当たりにおける可視光応答型光触媒粒子の量を上述した範囲とすることで、光触媒塗装体の抗菌活性値(R)を2以上とすることができる。
【0024】
なお、上記の抗ウイルス試験、抗菌試験を行う前に、光触媒塗装体を常法により滅菌処理してもよい。
【0025】
<耐光性(変退色抑制能)>
本発明による光触媒塗装体は、上述した組成、膜厚および硝酸銀呈色性を有することにより、優れた耐光性を有する。本発明において、光触媒塗装体の耐光性は、JIS K5400(1990)の9章8節に記載のサンシャインカーボンアーク灯式に準拠して求められる色差:ΔE*を指標として表すことができる。具体的には、JIS K5400(1990)の9章8節に記載のサンシャインカーボンアーク灯式に準拠して、サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(スガ試験機社製、S-300)にて耐候性試験を実施する。試験時間は8時間とし、試験前後における光触媒塗装体のL*、a*、b*値をSCE方式にて測色し、色差:ΔE*=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2を求める。色差計として、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR―400)を用いることができる。
【0026】
光触媒層の単位面積当たりにおける可視光応答型光触媒粒子の量を上述した範囲とすることで、光触媒塗装体の耐光性を、ΔE*値4以下にすることができる。
【0027】
<メチレンブルー分解活性>
本発明において、光触媒塗装体の光触媒活性は、メチレンブルーの分解性能を指標として表すことができる。具体的には、JIS R1703-2(2014)に記載の方法により求められる分解活性指数(R)を、光触媒活性の指標とすることができる。
光触媒層の単位面積当たりにおける可視光応答型光触媒粒子の量を25mg/m2以上500mg/m2以下とすることで、、光触媒塗装体のメチレンブルー分解活性指数(R)を5.0以上とすることができる。
【0028】
以上において、本発明における光触媒層の組成、膜厚および硝酸銀呈色性、そしてこれらの特徴により奏される本発明による光触媒塗装体の性能について説明してきたが、以下において、光触媒層の各成分についてさらに説明する。
【0029】
可視光応答型光触媒粒子
本発明による光触媒塗装体の光触媒層に含まれる可視光応答型光触媒粒子は、可視光照射により励起し、菌、ウイルス等の有害物質を酸化分解する機能などの光触媒機能を発揮するのに十分なバンド・ギャップを有する半導体金属酸化物粒子である。
【0030】
本発明において、可視光応答型光触媒粒子の好ましい例としては、例えば、
・ 金属化合物を担持したルチル型酸化チタン、
・ 金属化合物を担持したアナターゼ型酸化チタン、および
・ 窒素または硫黄ドープ型酸化チタン
からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
上記金属化合物に含まれる金属元素としては、銅、銀、鉄、白金、パラジウム等を用いることが好ましく、金属化合物としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫酸化物等を用いることが好ましい。前記金属化合物を酸化チタン粒子に担持させることにより、半導体としての酸化チタンの伝導帯よりもやや低い金属イオンの準位へ電子を励起できることとなり、可視光を照射した場合の界面電荷移動を補助し、光触媒機能を高める効果がある。また、前記金属化合物自体が抗菌・抗ウイルス性能を持つため、前記金属化合物を担持した光触媒粒子においては、相乗的な抗菌・抗ウイルスの効果が得られる。
【0032】
これらの可視光応答型光触媒粒子は、波長400nm以上の可視光に応答して光触媒活性を示し、室内などの紫外線が照射されない環境であっても、光触媒塗装体において抗菌・抗ウイルス性能を発現させるとともに、高い耐光性を発現させることができる。さらに、これらの可視光応答型光触媒粒子は、樹脂を劣化させにくいため、光触媒層に含有される濃度を増やしても耐光性を維持することができる。光触媒層中の可視光応答型光触媒粒子、樹脂、および骨材の含有濃度、さらに膜厚を上述した範囲に特定し、加えて可視光応答型光触媒粒子の種類を特定することで、光触媒塗装体の光触媒活性および耐光性を更により高めることができる。
【0033】
本発明において、光触媒酸化チタンの結晶タイプは、ルチル型、アナターゼ型いずれでもよい。ルチル型はアナターゼ型に比べ耐光性が優れるため、光触媒塗装体の耐光性を高めることができる。
【0034】
本発明において、可視光応答型光触媒粒子に担持させる金属化合物の好ましい例として、銀化合物、銅化合物、鉄化合物、白金化合物、およびパラジウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0035】
これらの金属化合物を可視光応答型光触媒粒子に担持させることにより、当該光触媒粒子が波長400nm以上の可視光により効率的に応答して、室内などの紫外線が照射されない環境であっても、光触媒塗装体において抗菌・抗ウイルス性能をより効率的に発現させるとともに、高い耐光性を発現させることができる。さらに、金属化合物自体が抗菌・抗ウイルス性能を持つため、金属化合物を担持した可視光応答型光触媒粒子にあっては、相乗的な効果が得られる。
【0036】
本発明においては、例えば光触媒塗装体の用途等に応じて、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタンを使い分け、さらにこれら光触媒酸化チタンに担持させる金属化合物を適宜選択することで、光触媒活性と耐光性とのバランスを最適化することができる。
【0037】
樹脂
本発明において、樹脂の含有濃度は、光触媒層に含有される可視光応答型光触媒粒子の含有量、樹脂の含有量、および場合によりその他の固形分の含有量の合計を100質量%としたときの、樹脂の含有量の割合(百分率)として表され、10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。樹脂の含有濃度が上記範囲にあることにより、光触媒層をロバスト性が良好な塗膜とすることができる。樹脂の含有濃度は、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。これにより、樹脂の変色を抑制することができ、光触媒層の耐光性を向上させることができる。
【0038】
本発明において、樹脂の好ましい例としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、オルガノシロキサン、およびフッ素樹脂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。シリコーン樹脂としては、アクリルシリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、およびシリコーン変性ウレタン樹脂からなる群から選択される1種または2種以上を用いることができる。これらの樹脂を用いることで、樹脂マトリクスに可視光応答型光触媒粒子および骨材が分布した、薄い膜厚(0.1μm以上10.0μm以下)の光触媒層を形成することができる。本発明において、樹脂のより好ましい例としては、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、オルガノシロキサン、およびフッ素樹脂からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0039】
その他の成分
骨材
本発明において、光触媒層は、光触媒活性および耐光性を阻害しない範囲において、可視光応答型光触媒粒子、樹脂以外の成分を含んでもよい。例えば、光触媒層は骨材を含んでいてもよい。
骨材の好ましい例としては、例えば、艶消しシリカ、結晶性シリカ等のシリカ、珪砂、アクリルビーズ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ジルコニウム、および酸化アルミニウムからなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。骨材は、光触媒層の膜厚よりも小さいまたは同程度の粒径を有するものが好ましい。骨材を用いることで、光触媒層の成膜不良を防止することができる。また、骨材を添加することにより、成膜過程で骨材に樹脂が吸着し光触媒層中の樹脂の体積が減るため、可視光応答型光触媒粒子が塗膜表面に露出しやすくなるとともに、光触媒層の内部においても、樹脂と、粒子成分(すなわち、可視光応答型光触媒粒子および骨材)との界面が多くなり、その結果、光触媒層の表面および内部において(つまり、光触媒層全体にわたって)可視光応答型光触媒粒子と菌・ウイルスとの接触頻度を高めることができる。
【0040】
本発明において、骨材の含有濃度は、光触媒層に含有される可視光応答型光触媒粒子および樹脂の含有量骨材に基づき適宜決定されてよい。骨材の含有濃度は、光触媒層に含有される可視光応答型光触媒粒子の含有量、樹脂の含有量、骨材、および場合によりその他の固形分の含有量の合計を100質量%としたときの、骨材の含有量の割合(百分率)として表され、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。骨材の含有濃度を上記範囲とすることにより、光触媒層中の可視光応答型光触媒粒子と樹脂との接触面積を小さくすることができ、その結果、樹脂の変色を抑制することができる。
【0041】
本発明において、光触媒層は、例えば、銀ゼオライト、トリアジン系化合物、カチオン性基を有する化合物等の薬剤(抗菌剤、抗ウィルス剤)を含んでもよい。カチオン性基を有する化合物として、例えば、ポリヘキサメチレンビグアナイド、第4級アンモニウム塩系化合物、カチオン性ポリシロキサンポリマーなど抗ウイルス作用のある化合物が挙げられる。これらの化合物は、カチオン性(陽電荷)および分子構造に由来する疎水・親水相互作用などの効果により、細胞膜破壊、タンパク質変性を引き起こすと考えられる。
【0042】
基材
本発明において、基材はその上に光触媒層を形成可能な材料であれば無機材料、有機材料を問わず種々の材料であってよく、その形状も限定されない。また、その表面が有機物質を含んでなる基材を用いることができる。そのような基材としては、例えば、有機物を含む樹脂、有機物を含む樹脂を含有する塗装を表面に施した塗装体、有機物を含む樹脂を含有するフィルム等を表面に積層した積層体などが挙げられる。用途の観点からみた基材の好ましい例としては、壁紙、ケイ酸カルシウム(化粧)板、トイレや化粧室の甲板、手すり、カウンター、バンドル、病院で使用される器具等の内装建材が挙げられる。材料の観点からみた基材の好ましい例としては、塩ビ、アクリル塗装面、SUS、人工大理石、鋼板、セラミック、ガラス、プラスチック、ゴム、石、セメント、コンクリ-ト、繊維、布帛、木、紙、それらの組合せ、それらの積層体が挙げられる。
【0043】
光触媒塗装体の製造方法
本発明による光触媒塗装体は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明による光触媒塗装体の製造方法は、
基材を用意する工程と、
この基材の表面に、可視光応答型光触媒粒子と、樹脂と、溶媒とを少なくとも含有するコーティング組成物を塗布して光触媒層を形成する工程とを少なくとも含む。
【0044】
本発明において、コーティング組成物に含有される可視光応答型光触媒粒子と樹脂の合計濃度(固形分濃度)は、形成される光触媒層に含有される可視光応答型光触媒粒子と樹脂の濃度が上述した含有濃度となるように決定されればよく、好ましくは1質量%以上30質量%以下である。
【0045】
本発明において、コーティング組成物の基材表面への単位面積当たりの塗布量は、上述したコーティング組成物の固形分濃度に応じて、1g/m2以上50g/m2以下であることが好ましく、2.5g/m2以上50g/m2以下であることがより好ましい。
【0046】
可視光応答型光触媒粒子と、樹脂と、骨材とを上記範囲の固形分濃度で含むコーティング組成物を、上記範囲の塗布量で基材に塗布することにより、膜厚が0.1~10μmと薄く、かつ、高い光触媒活性と良好な耐光性とを兼ね備えた光触媒層を得ることができる。
【0047】
本発明において、基材の表面にコーティング組成物を塗布した後、塗布されたコーティング組成物の塗膜を養生および/または乾燥させて光触媒層を形成することが好ましい。その結果、ロバスト性に優れた光触媒塗装体が得られる。
【0048】
本発明において、基材表面へのコーティング組成物の塗布方法は、特に制限されないが、スプレー塗装が好ましい。
【実施例0049】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0050】
コーティング組成物の調製
<材料>
例1~27の光触媒塗装体を作製するため、各塗装体の光触媒層を形成するためのコーティング組成物に含有される成分として、下記材料を用意した。
<可視光応答型光触媒粒子>
・銅化合物を担持した窒素ドープアナターゼ型TiO2(分散体、塩基性、固形分:8質量%)
・銅化合物を担持したルチル型TiO2(分散体、塩基性、固形分:6質量%)
<樹脂>
・塩化ビニル樹脂(水系エマルション、中性、固形分:25質量%)
・アクリルシリコーン樹脂(溶剤系樹脂、固形分:80質量%)
<骨材>
・結晶性シリカ(粉体)
・コロイダルシリカ(溶剤分散、固形分:20質量%)
<溶媒>
・水(ただし、例27の光触媒塗装体の作製においては、水は用いなかった。)
・希釈溶剤(シクロヘキサノン)(ただし、例27の光触媒塗装体の作製においてのみ用いた。)
【0051】
例1~26の光触媒塗装体の光触媒層形成用水系コーティング組成物の調製
上述した可視光応答型光触媒粒子と樹脂と骨材と水とを、得られる光触媒層に含有される可視光応答型光触媒粒子、樹脂、および骨材の含有量が表1~3に記載の含有量となるように混合し、例1~26の光触媒塗装体の光触媒層形成用水系コーティング組成物を調製した。
【0052】
例27の光触媒塗装体の光触媒層形成用溶剤系コーティング組成物の調製
上述した可視光応答型光触媒粒子と樹脂と骨材と希釈溶剤とを、得られる光触媒層に含有される可視光応答型光触媒粒子、樹脂、および骨材の含有量が表1~3に記載の含有量となるように混合し、例27の光触媒塗装体の光触媒層形成用水系コーティング組成物を調製した。
表1~3に記載の可視光応答型光触媒粒子、樹脂、および骨材それぞれの濃度(wt%)は、コーティング組成物中の全固形分重量に対する可視光応答型光触媒粒子、樹脂、および骨材それぞれの重量の割合である。コーティング組成物中の全固形分により光触媒層が形成(構成)されるため、コーティング組成物中の可視光応答型光触媒粒子、樹脂、および骨材それぞれの濃度は、光触媒層中の可視光応答型光触媒粒子、樹脂、および骨材それぞれの濃度に等しい。
【0053】
調製した各コーティング組成物の全固形分濃度(wt%)は、表1~3に記載されるとおりであった。
【0054】
光触媒塗装体の作製
基材として、表面が平滑な白色タイル(50mm×50mm×5mmT)を用意した。この基材の表面に、各コーティング組成物を、表1~3に記載の塗布量(g/m2)にてスプレー塗布した。コーティング組成物を塗布した基材を、室温で1日間養生し、その後80℃で30分間乾燥させ、基材の表面に光触媒層が形成された例1~27の光触媒塗装体を得た。
【0055】
測定・評価
例1~27の光触媒塗装体について、以下の測定・評価を行った。
【0056】
光触媒層の膜厚
例1の光触媒塗装体を切断し、塗膜断面をSEM(HITACHI製 SE8220)で観察し、5視野×5か所の計25点の膜厚を測定した。25点の測定平均値を、例1の光触媒塗装体の光触媒層の膜厚とした。膜厚は、0.5μmであった。
【0057】
例1以外(例2~27)の光触媒塗装体の光触媒層の膜厚については、例1の光触媒塗装体の光触媒層の実測膜厚(0.5μm)をベースに、各コーティング組成物の固形分濃度と塗布量とを乗じて得られる乾燥重量と、各光触媒塗装体の光触媒層の膜厚との間に比例関係が成立すると考え、下記式にて、想定膜厚を理論計算した。
例1以外の光触媒塗装体の光触媒層の想定膜厚=(例1の光触媒塗装体の光触媒層の実測膜厚[0.5μm])×(例1以外の光触媒層形成用コーティング組成物の乾燥重量/例1の光触媒層形成用コーティング組成物の乾燥重量)
例えば、例5の光触媒塗装体の光触媒層の想定膜厚は、0.5[μm]×(5[g/m2]/0.25[g/m2])=10[μm]と算出された。
同様に、例2~4、6~27の光触媒塗装体の光触媒層の想定膜厚を算出し、結果を表1~2に示した。
【0058】
なお、特許文献1に具体的に開示される塗料組成物の固形分濃度は55.4質量%(実施例15)~105.4質量%(実施例13)の範囲にあり、また塗料組成物の塗布量は200g/m2であるため(段落0057)、これらを乗じて得られる塗料組成物の乾燥重量は、約110g/m2~210g/m2の範囲にある。したがって、得られる塗膜の想定膜厚は、上記式により、約110μm~210μmと算出される。
【0059】
抗ウイルス性
JIS R1756(2020) 可視光B条件に従って、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施した。20Wの白色蛍光灯(東芝ライテック株式会社製、「ネオライン」FL20S・W)を光源として用い、紫外線カットフィルター(日東樹脂工業株式会社製、N-169)を通して、照度500ルクスで照射した。なお、照度は、照度計:株式会社トプコン製、IM-5を用いて測定した。可視光の照射時間を4時間として、明所の抗ウイルス活性値(V)を下式により算出した。
【0060】
抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:光照射後の光触媒塗装体あたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:光照射後のコントロールあたりのバクテリオファージ感染価(pfu)
なお、コントロールは抗ウイルス加工が成されていないガラス板とした。
【0061】
測定された明所の抗ウイルス活性値(V)を以下の評価基準で評価した。評価基準「2」以上を合格とした。結果を表1~3に示した。
(評価基準)
4: 4≦V
3: 3≦V<4
2: 2≦V<3
1: 1≦V<2
0: 0≦V<1
【0062】
なお、抗ウイルス性を評価する前に、光触媒塗装体の表面及び裏面をそれぞれ、クリンベンチ内にて殺菌灯を照射して、滅菌処理した。15Wの殺菌灯(波長254nm)をクリンベンチの側面に各1本、計2本設置し、塗装体から光源までの距離を30cm~60cmとした。殺菌灯の照射時間は15分とした。
【0063】
耐光性(変色抑制能)
JIS K5400(1990)の9章8節に記載のサンシャインカーボンアーク灯式に準拠して、サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(スガ試験機社製、S-300)にて耐候性試験を実施した。試験時間は8時間とし、試験前後における光触媒塗装体のL*、a*、b*値をSCE方式にて測色し、色差:ΔE*=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2を求めた。色差計として、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR―400)を用いた。
【0064】
得られた色差(ΔE*値)から光触媒塗装体の耐光性を以下の評価基準で評価した。評価基準「2」以上を合格とした。結果を表1~3に示した。
(評価基準)
3: ΔE*≦2
2: 2<ΔE*≦4
1: 4<ΔE*≦8
0: 8<ΔE*
【0065】
硝酸銀呈色性
後述する硝酸銀呈色試験の手順に従い、試験前後における光触媒塗装体の色差(ΔE*値)を測定することにより、光触媒活性を評価した。
硝酸銀呈色試験の手順
光触媒塗装体の光触媒層の表面に、1質量%の硝酸銀溶液を0.8g/10cm2の量で塗布し、BLランプを用いて、波長300~400nmの紫外線を1.0mW/cm2の強度で2分間照射した。その後、余剰の硝酸銀溶液を拭き取り、光触媒塗装体のL1*、a1*、b1*値をSEC方式にて測定した。一方、試験前の光触媒塗装体のL0*、a0*、b0*値を測定しておいた。
上記のようにして、光触媒塗装体の試験前後の色差(ΔE*=[(L1*-L0*)2+(a1*-a0*)2+(b1*-b0*)2]1/2)を測定した。色差計として、色彩色差計(コニカミノルタ社製、CR-400)を用いた。
【0066】
測定された色差(ΔE*)を以下の評価基準で評価した。評価基準「2」以上を合格とした。結果を表1~3に示した。
(評価基準)
3: 15≦ΔE*
2: 7≦ΔE*<15
1: 4≦ΔE*<7
0: ΔE*<4
【0067】
【0068】
【0069】