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特開2024-152587被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152587
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241018BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20241018BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20241018BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 501A
C07K16/18 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218481
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2023065877
(32)【優先日】2023-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://alz.confex.com/alz/2023/meetingapp.cgi/Paper/78621 掲載日 令和5年7月13日 ・研究集会名 Alzheimer’s Association International Conference 2023(AAIC23) 開催場所 RAI Conversion Center,Amsterdam,Netherlands 開催日 令和5年7月17日 ・ウェブサイトのアドレス https://doi.org/10.1101/2023.09.15.23295595 掲載日 令和5年9月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、認知症研究開発事業「多施設連携プラットフォーム(MABB)を基盤にした各種認知症性疾患に対する日本発の包括的な診断・層別化バイオマーカーシステムの確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】徳田 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】建部 陽嗣
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA70
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA50
4H045FA71
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】簡便な方法で、脳の異常なタウタンパク質の蓄積量を予測することができる測定方法等の提供。
【解決手段】本開示は、脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法に関する。当該方法に使用される捕捉抗体及び検出抗体の一方の抗体は、リン酸化タウタンパク質の中間部のアミノ酸配列を認識する抗体であり、他方の抗体は、リン酸化タウタンパク質のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を形成させて、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料を調製する調製工程、
前記測定試料中の免疫複合体に由来するシグナルを検出する検出工程、及び、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する推定工程を含み、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法。
【請求項2】
前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量が、タウPET画像のSUVR値又はAD tauスコアによって表される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脳が海馬、嗅内皮質及び新皮質からなる群から選択される少なくとも1つの部位である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生体試料の希釈に使用される緩衝液に、哺乳動物由来の血清成分又はブロッキング剤が添加されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記検出工程において、
複数のマイクロウェルを有する基板に前記測定試料を接触させ、
前記測定試料中の捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズを、前記マイクロウェルに1ビーズずつ配置し、
前記マイクロウェルに配置された捕捉ビーズ上の免疫複合体に由来するシグナルを検出し、
前記マイクロウェルは、前記捕捉ビーズ又は非捕捉ビーズ1個のみを収容可能な容積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記検出工程において、シグナルの検出が前記免疫複合体に由来するシグナルを撮像することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料が、血液試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記血液試料が、血清又は血漿である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫複合体が、捕捉抗体と、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体との複合体であり、前記捕捉抗体が捕捉ビーズに結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫複合体が、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズに結合した捕捉抗体と、リン酸化タウタンパク質を含む生体試料と、検出抗体とを混合することによって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者のタウオパチーの進行度の評価を補助する情報を取得する方法。
【請求項13】
前記捕捉ビーズ及び前記非捕捉ビーズを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法に用いられる試薬又は試薬キット。
【請求項14】
処理部を備え、
前記処理部は、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する装置。
【請求項15】
被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質に由来するシグナルの強度に基づいて、前記被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得する装置であって、
前記装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得し、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、装置。
【請求項16】
被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質に由来するシグナルの強度に基づいて、前記被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得する装置であって、
前記装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得し、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、装置。
【請求項17】
コンピュータに、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、
前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、
を実行させ、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するためのコンピュータプログラム。
【請求項18】
コンピュータに、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、
前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記生体試料を採取した被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するステップと、
を実行させ、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、タウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するためのコンピュータプログラム。
【請求項19】
コンピュータに、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、
前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記生体試料を採取した被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得するステップと、
を実行させ、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質を検出して、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法及び装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸化タウタンパク質はアルツハイマー病等のタウオパチーのバイオマーカーの候補の1つとして考えられている。これまでに、リン酸化タウタンパク質のバイオマーカーとしての使用について、様々な研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1及び非特許文献1には、超高感度デジタルELISA装置として知られているSimoa(商標)を使用した、リン酸化タウタンパク質の測定方法が開示されている。また、非特許文献2には、特定のアミノ酸がリン酸化されているリン酸化タウタンパク質がアルツハイマー病のバイオマーカーとして有用であることが開示されている。
【0004】
一方、非特許文献3は、これまでに報告されたリン酸化タウタンパク質の測定方法によって測定されるリン酸化タウタンパク質の量は、脳のタウタンパク質蓄積量よりも、アミロイド蓄積量を反映していることを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-27952号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tatebe H, et al. Quantification of plasma phosphorylated tau to use as a biomarker for brain Alzheimer pathology: pilot case-control studies including patients with Alzheimer's disease and down syndrome. Mol Neurodegener. 2017;12(1):63
【非特許文献2】Karikari TK, et al. Blood phosphorylated tau 181 as a biomarker for Alzheimer's disease: a diagnostic performance and prediction modelling study using data from four prospective cohorts. Lancet Neurol. 2020;19(5):422-433
【非特許文献3】Therriault J, et al. Association of Phosphorylated Tau Biomarkers With Amyloid Positron Emission Tomography vs Tau Positron Emission Tomography. JAMA Neurol. 2022 Dec 12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
軽度認知障害が発症する前には、アミロイドの脳への蓄積が観察される。一方、認知機能の低下が進行すると、リン酸化タウタンパク質等の異常なタウタンパク質の脳への蓄積が観察される。アミロイドの脳への蓄積は、軽度認知障害の発症時にはすでに飽和しているので、軽度認知障害等の認知機能障害又は神経細胞障害の発症の予防又は治療するためには、脳の異常なタウタンパク質の蓄積量の測定が必要となる。
【0008】
タウPET(陽電子放出断層撮影;Positron Emission Tomography)によって、脳の異常なタウタンパク質の蓄積量を測定できることが知られている。一方、タウPETによる測定は高額であり、タウPETを利用できる施設は非常に少ない。また、タウPETによる測定は、放射線による侵襲性への懸念がある。
【0009】
したがって、タウPETを使用せずに、簡便な方法で、脳の異常なタウタンパク質の蓄積量を推定することができる方法等の開発が望まれている。
【0010】
本発明の一態様は、簡便な方法で、脳の異常なタウタンパク質の蓄積量を予測することができる方法及び装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下に示す態様を含む。
・非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を形成させて、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料を調製する調製工程、
前記測定試料中の免疫複合体に由来するシグナルを検出する検出工程、及び、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する推定工程を含み、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法。
・処理部を備え、
前記処理部は、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する装置。
・被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質に由来するシグナルの強度に基づいて、前記被験者がタウオパチーであるか否かの情報を取得する装置であって、
前記装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得し、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、装置。
・被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質に由来するシグナルの強度に基づいて、前記被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得する装置であって、
前記装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得し、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、装置。
・コンピュータに、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、
前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、
を実行させ、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するためのコンピュータプログラム。
・コンピュータに、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、
前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記生体試料を採取した被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するステップと、
を実行させ、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、タウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するためのコンピュータプログラム。
・コンピュータに、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、
前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、
前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、
前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、
前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記生体試料を採取した被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得するステップと、
を実行させ、
前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得するためのコンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、簡便な方法で、脳のタウタンパク質の蓄積量を推定することができる方法及び装置等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一態様に係る推定装置の要部構成を示す図である。
図2】本発明の一態様に係る情報取得装置の要部構成を示す図である。
図3】リン酸化タウタンパク質並びに実施例及び比較例の測定方法で使用した抗体セットの模式図である。
図4】Braakステージに相当する脳部位を示す図である。
図5】比較例の測定方法によって得られたリン酸化タウタンパク質濃度とタウPET画像のSUVR値との関係を示す図である。
図6】実施例の測定方法によって得られたリン酸化タウタンパク質濃度とタウPET画像のSUVR値との関係を示す図である。
図7】実施例及び比較例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度と、アミロイドPET及びタウPETで定量した大脳のアミロイド沈着量及びタウ沈着量とが、大脳のどの部位で、またどの程度強く相関するかを検討した図である。
図8】実施例の測定方法によって得られたリン酸化タウタンパク質濃度によって、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上の判別できるか否かを評価した結果を示す図である。
図9】実施例の測定方法によって得られたリン酸化タウタンパク質濃度とタウPET画像のSUVR値及びAD tau scoreとの関係を示す図である。
図10】比較例の測定方法によって得られたリン酸化タウタンパク質濃度とタウPET画像のSUVR値及びAD tau scoreとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕
本発明の一態様に係る、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法(以下、「推定方法」と略記する場合がある)は、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質を検出することによって、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法である。当該推定方法によって、被験者の脳のタウ病変を推定することができる。
【0015】
本明細書において、「タウ病変」とは、タウオパチーを発症した患者の脳に出現する、リン酸化タウタンパク質等のタウタンパク質の異常な蓄積及びその蓄積した脳部位を示す。また、本明細書において、「被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する」とは、被験者の脳における、リン酸化タウタンパク質等のタウタンパク質量の蓄積量を推定することを示す。脳のタウタンパク質の蓄積量は、アルツハイマー病でタウタンパク質蓄積が認められる大脳皮質のタウタンパク質の蓄積量であってもよい。
【0016】
リン酸化タウタンパク質は、タウタンパク質の少なくとも1つのアミノ酸残基がリン酸化されているタウタンパク質である。タウタンパク質の例として、配列番号1に示されるヒト由来のアミノ酸配列(NCBI Reference Sequence: NP_005901.2)を挙げることができる。
【0017】
例えば、リン酸化タウタンパク質のリン酸化部位としては、配列番号1のアミノ酸配列の198番目、199番目、202番目、208番目、210番目、214番目、235番目、262番目、356番目、396番目、400番目、404番目、409番目、412番目、413番目、416番目及び422番目からなる群から選択される少なくとも1つのセリン残基、及び/又は181番目、205番目、212番目、217番目及び231番目よりなる群から選択される少なくとも1つのスレオニン残基である。
【0018】
被験者の例として、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類等が挙げられ、中でも哺乳動物が好ましい。哺乳類としては、ヒト及びヒト以外の動物が挙げられる。ヒト以外の動物として、ウシ、ウマ、ブタ及びヒツジ等のような家畜、並びに、犬、猫、ラット、マウス、ハムスター、サル及びウサギ等のような愛玩動物又は実験動物が挙げられる。好ましくはヒトが挙げられる。また、鳥類としてはニワトリ、カモ、アヒル等の家禽類が挙げられる。
【0019】
また、被験者の例として、軽度認知障害又は認知症が疑われる被験者であってもよい。また、一定の年齢層、例えばヒトの場合、30歳以上、40歳以上、50歳以上、60歳以上、70歳以上、又は80歳以上の者を、軽度認知障害又は認知症の有無に関係なく、被験者としてもよい。
【0020】
被験者から採取される生体試料は、リン酸化タウタンパク質を含み得る試料であれば特に限定されない。生体試料の例として、血液試料、唾液、髄液、尿等が挙げられる。血液試料には、全血、血漿、血清等が含まれ、血液試料は血漿又は血清であることが好ましく、血漿であることがより好ましい。血漿は、ヘパリン塩(好ましくは、ナトリウム塩)採血、クエン酸塩(好ましくは、ナトリウム塩)採血、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩(好ましくは、ナトリウム塩又はカリウム塩)採血された全血から分離することができる。血漿は、EDTA塩採血、又はヘパリン塩採血された全血から分離された血漿であることがより好ましい。
【0021】
本発明の一態様に係る推定方法は、調製工程と、検出工程と、推定工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0022】
(調製工程)
調製工程においては、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を形成させて、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料を調製する。
【0023】
<抗体>
検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~224番目のアミノ酸配列を認識する抗体である。配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~224番目のアミノ酸配列を認識する抗体とは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~224番目のアミノ酸配列内にエピトープが存在する抗体を意味する。当該抗体は、タウタンパク質の中間部のアミノ酸配列を認識する抗体である。当該抗体の例として、例えば、Thermo Fisher Scientific社のTau Monoclonal Antibody (clone:HT7、TAU-5)等が挙げられる。被験者の脳のタウ病変をより正確に推定できる点で、当該抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の、151~210番目のアミノ酸配列を認識する(151~210番目のアミノ酸配列内にエピトープが存在する)抗体であることが好ましく、151~200番目のアミノ酸配列を認識する抗体であることがより好ましく、151~170番目のアミノ酸配列を認識する抗体であることがさらに好ましい。
【0024】
検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である(以下、「p-tau特異抗体」と示す場合がある)。当該リン酸化アミノ酸残基は、配列番号1のアミノ酸配列の198番目、199番目、202番目、208番目、210番目、214番目、235番目、262番目、356番目、396番目、400番目、404番目、409番目、412番目、413番目、416番目及び422番目からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸化セリン残基、及び/又は181番目、205番目、212番目、217番目及び231番目からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸化スレオニン残基である。C末端側の一部が欠損したリン酸化タウタンパク質が検出できるため、p-tau特異抗体が認識するリン酸化エピトープは、199番目、202番目、214番目及び262番目よりなる群から選択される少なくとも1つのリン酸化セリン残基、及び/又は、181番目、205番目、212番目、217番目、231番目からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸化セリン残基を含むことが好ましい。
【0025】
検出抗体及び捕捉抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab)2等)のいずれも使用することができる。また、免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に限定されない。また、ファージディスプレイ法等により抗体ライブラリから選択されたものを使用してもよい。また、検出抗体及び捕捉抗体は、市販品の抗体であってもよい。
【0026】
p-tau特異抗体としては、例えば、Thermo Fisher Scientific社のPhospho-Tau(Thr181) Antibody (clone: 5HCLC)、Phospho-Tau(Thr231) Polyclonal Antibody (Cat#:710561)、Phospho-Tau(Ser214) Polyclonal Antibody (Cat#:44-742G)等を使用することができる。
【0027】
本明細書において、捕捉抗体とは、タウタンパク質と結合し、後述のビーズ上に固定される抗体である。ビーズへの固定は、アビジン(又はストレプトアビジン)及びビオチン等の物質を介在した間接的な固定であってもよい。本明細書において、検出抗体とは、リン酸化タウタンパク質と結合し、好ましくは後述の標識物質を有する抗体である。
【0028】
<ビーズ>
ビーズは、個々のビーズを空間的に分離することができる特性を有する限り限定されない。ビーズは、複数の場所(例えば、ウェル)に空間的に分離することができるような形態で提供されてもよい。例えば、ビーズは、球形、ディスク、リング、立方体状等の形状としてもよい。また、ビーズは、微粒子(例えば、液体中に懸濁される複数の粒子)、ナノチューブ等であってもよい。
【0029】
ビーズのサイズ又は形状は、適宜設計することができる。例えば、ビーズの形状には、球体、立方体、楕円体、チューブ等が含まれる。ビーズの平均直径(実質的に球形の場合)、又は平均最大断面寸法(他の形状の場合)は、約0.1μm以上であってもよく、約1μm以上であってもよく、約10μm以上であってもよく、約100μm以上であってもよく、約1mm以上であってもよい。また、ビーズの平均直径又はビーズの最大外寸は、約0.1μm~約100μmであってもよく、約1μm~約100μmであってもよく、約10μm~約100μmであってもよく、約0.1μm~約1mmであってもよく、約1μm~約10mmであってもよく、約0.1μm~約10μmであってもよい。本実施態様において使用するビーズの平均直径又は平均最大断面寸法は、ビーズの直径/最大断面寸法の算術平均値である。
【0030】
ビーズの平均最大断面寸法は、例えば、レーザー光散乱、顕微鏡法、ふるい分析、電気抵抗方式、又は他の公知の技術を使用して測定することができる。ビーズの平均直径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置により測定される体積基準のメジアン径である。このような粒度分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製「マイクロトラックMT3000II」等が挙げられる。
【0031】
ビーズは、測定において使用される溶媒又は溶液に不溶性又は実質的に不溶性である。ビーズは、多孔質又は実質的に多孔質、中空、部分的に中空等であってもよい。ビーズは、非多孔質固体又は実質的に非多孔質の固体(例えば、本質的に孔がない)であることが好ましい。ビーズは、溶媒を実質的に吸収又は吸収してもよい。ビーズは、溶媒を非吸収又は実質的に非吸収であることが好ましい。
【0032】
さらに、ビーズの材料は、プラスチック又は合成ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、フェノールポリマー又はニトロセルロース等)、天然由来ポリマー(ラテックスゴム、多糖類金属、又は金属化合物(例えば、金、銀、スチール、アルミニウム、銅等を含む金属化合物)、無機ガラス、シリカ、及びこれらの混合物等を選択することができる。ビーズは、磁性材料を含むことが好ましい。さらに、ビーズは、光学的に検出できることが好ましい。
【0033】
ビーズは市販のビーズを使用してもよい。例えば、Agilent Technologies社のカルボキシル官能化常磁性ビーズ(直径2.7μm)を使用することができる。
【0034】
ビーズに使用される緩衝液(バッファ)は、抗原抗体反応の安定化等の点で、キレート剤が添加されていることが好ましく、EDTAが添加されていることがより好ましい。EDTAを添加することによって、測定エラー発生率を抑制することができる。キレート剤は、測定エラー発生率(特に、ビーズ凝集によって測定が不能になることによる測定エラー発生率)の抑制の点で、捕捉ビーズに使用される緩衝液に添加されることが好ましい。
【0035】
また、生体試料を希釈する緩衝液(サンプルバッファ)には、抗原抗体反応の感度の向上及び抗原抗体反応検出時のバックグラウンドの低下の点で、哺乳動物由来の血清成分又はブロッキング剤が添加されていることが好ましい。哺乳動物由来の血清成分又はブロッキング剤の例として、アルブミン、カゼイン、スキムミルク等が挙げられる。
【0036】
本明細書において、捕捉ビーズは、リン酸化タウタンパク質を含む複合体を固定化できるビーズである。例えば、ビーズにリン酸化タウタンパク質と結合できる分子(以下、「捕捉分子」ともいう)を直接的又は間接的に固定したものを捕捉ビーズとすることができる。捕捉分子としては、上述の捕捉抗体が例示される。
【0037】
捕捉ビーズの調製方法は、ビーズに捕捉分子を結合できる限り限定されない。例えば、Quanterix社のSimoa(商標)Homebrew Assay Development kit等の市販キットを使用して、捕捉ビーズを調製してもよい。捕捉ビーズは、非特異的結合を抑制するため、アルブミン、カゼイン、スキムミルク等でブロッキングされていてもよい。
【0038】
本明細書において、非捕捉ビーズは、リン酸化タウタンパク質と実質的に結合しないビーズである。非捕捉ビーズは、捕捉分子を備えていない。非捕捉ビーズに使用されるビーズの材質は、捕捉ビーズに使用されるビーズと同じであってもよいが、異なっていてもよい。また、非捕捉ビーズとしては、例えば、Quanterix社のDye-Encoded Helper Beadsを使用してもよい。非捕捉ビーズは、非特異的結合を抑制するため、アルブミン、カゼイン、スキムミルク等でブロッキングされていてもよい。
【0039】
捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を形成させる方法は、本実施態様が実現できる限り限定されない。例えば以下のように免疫複合体を形成させることができる。まず、捕捉抗体に生体試料中のリン酸化タウタンパク質を結合させて、リン酸化タウタンパク質を捕捉ビーズ上に結合させる(好ましくは、捕捉する)。次に、検出抗体を、捕捉抗体に捕捉されたリン酸化タウタンパク質に結合させて免疫複合体を形成させる。
【0040】
また、免疫複合体を形成させる方法として、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を緩衝液中で形成させてから、捕捉ビーズに結合させてもよい。例えば、アビジン又はストレプトアビジンを固定化したビーズと、ビオチン標識した捕捉抗体、リン酸化タウタンパク質及び検出抗体の複合体とを接触させることにより、免疫複合体を捕捉ビーズ上に固定することができる。
【0041】
前記免疫複合体は、非捕捉ビーズの存在下で形成される。測定試料を調製する際の捕捉ビーズと非捕捉ビーズの個数比は、捕捉ビーズを1としたときに、約1.5以上であり、好ましくは非捕捉ビーズが約1.5~約9の範囲、より好ましくは約4から約9の範囲、最も好ましくは4前後に調整することができる。別の態様においては、測定試料を調製する際の捕捉ビーズと非捕捉ビーズの個数比は、捕捉ビーズを1としたときに、非捕捉ビーズが1.5以上であり、好ましくは非捕捉ビーズが1.5~9の範囲、より好ましくは4~9の範囲、最も好ましくは4である。
【0042】
生体試料又は希釈した生体試料と混合されるビーズ全体の数は、例えば、生体試料又は希釈した生体試料100μlに対して、100,000個から1,000,000個程度、好ましくは、400,000個から800,000個程度とすることができる。
【0043】
測定試料の調製は、免疫複合体が形成可能な緩衝液(例えば1~5×PBS)中で行ってもよい。また、測定試料の調製中に、捕捉抗体で生体試料中のリン酸化タウタンパク質を捕捉した後、検出抗体を結合させる前に、捕捉ビーズを緩衝液で洗浄してもよい。また、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させた後にも、捕捉ビーズを緩衝液で洗浄してもよい。
【0044】
検出抗体は、生体試料又は希釈した生体試料100μLに対して、最終濃度が0.05~1μg/mL(好ましくは、0.1~0.5μg/mL程度)となるように添加してもよい。検出抗体は、標識物質を備えることが好ましい。
【0045】
(検出工程)
検出工程においては、測定試料中の免疫複合体に由来するシグナルを検出する。
【0046】
測定試料中の免疫複合体に由来するシグナルの検出は、免疫複合体に含まれる標識物質を検出することにより行うことができる。標識物質は、検出可能なシグナルが生じる限り、特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよく、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素等が挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素等が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)等の蛍光色素、GFP等の蛍光タンパク質等が挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32P等が挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、β-ガラクトシダーゼが特に好ましい。
【0047】
酵素の基質は、当該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2-(5’-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)等の化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸等の発色基質が挙げられる。酵素としてβ-ガラクトシダーゼを使用する場合には、レソルフィンβ-D-ガラクトピラノシドを使用することができる。酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2-(5’-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)等の化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸等の発色基質が挙げられる。酵素としてβ-ガラクトシダーゼを使用する場合には、レソルフィンβ-D-ガラクトピラノシドを使用することができる。酵素として、ペルオキシダーゼを使用する場合には、Thermo Fisher Scientific社のSuper Signal ELISAシリーズ等を使用することができる。これら酵素反応は、ビーズを後述するマイクロウェルに配置してから前に行うことが好ましいが、ビーズをマイクロウェルに配置してから酵素反応を行ってもよい。
【0048】
また、検出抗体をビオチン化しておき、標識物質を標識したアビジン又はストレプトアビジンと結合させてから、シグナルを検出してもよい。
【0049】
シグナルの検出は、測定試料に含まれている捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズを含むビーズについて、その全部又は一部について行うことができる。シグナルの検出は個々のビーズについて行うことが好ましい。ここで、捕捉ビーズと、非捕捉ビーズとは、そのシグナルの有無、強弱、波長等が異なるため、これらを識別できる検出装置を使用することが好ましい。
【0050】
個々のビーズのシグナルを検出する方法としては、例えば、シグナルが蛍光である場合には、フローサイトメータを使用して検出してもよい。また、複数のマイクロウェルを有する基板に測定試料を接触させて、測定試料中の捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズを、マイクロウェルに配置して、マイクロウェル内のシグナルを検出してもよい。
【0051】
基板上においてマイクロウェルは、実質的に平坦な表面上に、又は非平面の3次元配列で配置され得る。マイクロウェルは、規則的なパターンで配列されていてもよいし、ランダムに分布していてもよい。好ましくは、マイクロウェルは、実質的に平坦な表面上の部位の規則的なパターンであることが好ましい。
【0052】
基板に含まれるマイクロウェルの数は、1測定試料あたり1000~1,000,000個程度としてもよく、好ましくは10,000~500,000個、より好ましくは100,000~500,000個程度である。
【0053】
基板の材料として、例えば、ガラス(修飾及び/又は官能化ガラスを含む)、プラスチック(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、テフロン(登録商標)、多糖類、ナイロン又はニトロセルロース等)、エラストマー(例えば、ジメチルシロキサン及びポリウレタン等))、複合材料、セラミックス、シリカ又はシリカ系材料(ケイ素及び変性シリコンを含む)、炭素、金属、及び、光ファイバー束等が挙げられる。
【0054】
個々のマイクロウェルの容量は、ビーズの大きさに合わせて、適宜設定してもよい。例えば、1ウェルに収容されるビーズの数は1~5個程度、好ましくは1~2個程度、より好ましくは1個である。このため、マイクロウェルの容積は、1ウェルに前記数のビーズが収容される大きさであることが好ましい(例えば、米国特許出願公開第2011/0212848号明細書、国際公開第2011/109364号)。より具体的には、マイクロウェルの容積は、100aL~1pL、好ましくは1fL~500fL、より好ましくは10fL~90fLの範囲である。1つの基板上に存在する複数のマイクロウェルは、それぞれがほぼ同じ容積を有することが好ましい。
【0055】
マイクロウェルの形成方法は、所望の大きさのマイクロウェルが形成できる限り限定されない。例えば、フォトリソグラフィー、スタンピング技術、成形技術、エッチング技術等の公知の方法により形成してもよい。
【0056】
マイクロウェル内へのビーズの配置は、公知の方法を使用して行うことができる。ビーズは、基板上のマイクロウェルのすべてに配置されてもよく、一部に配置されてもよい。
【0057】
例えば、測定試料をマイクロウェルが設計された基板に接触させた後、基板及び溶液を遠心して、ビーズをマイクロウェルに配置してもよい。ビーズが磁気である場合、磁石を使用してビーズをマイクロウェルに配置してもよい。マイクロウェルが光ファイバー束の端部に形成されている場合、光ファイバーのもう一端の周りに測定試料を接触させた後、遠心力、圧力等の力を加えて、マイクロウェルにビーズを配置してもよい。
【0058】
ビーズをマイクロウェルに配置した後、マイクロウェルの周囲の基板に残った測定試料を除去し、基板の表面を洗浄及び/又は拭き取って余分な測定試料を除去してもよい。マイクロウェルを含む基板としては、例えば、Quanterix社のSimoa(商標)Diskを使用してもよい。
【0059】
また、ビーズを配置した後のマイクロウェルは、フルオラス液体、油(例えば、鉱油、フッ素化油)、強磁性流体、非水性ポリマー溶液(例えば、増粘剤)等でシールされてもよい。シールには、例えば、Quanterix社のSimoa(商標)Sealing Oilを使用してもよい。
【0060】
マイクロウェルに配置されたビーズの検出は、例えば標識物質が酵素又は蛍光色素である場合には、CCDカメラ等で、シグナルを撮像することにより行ってもよい。また、標識物質が放射性同位元素である場合には、オートラジオグラフィーを使用して検出してもよい。
【0061】
マイクロウェルに配置されるビーズは、捕捉ビーズ又は非捕捉ビーズである。リン酸化タウタンパク質を捕捉した捕捉ビーズは、標識物質に由来するシグナル(すなわち、前記免疫複合体に由来するシグナル)を発するのに対して、標的タンパク質を捕捉しなかったビーズ及び非捕捉ビーズは、前記標識物質に由来するシグナルを発しない。このため、標識物質に由来するシグナルを発するウェルの数を計数することによって、標的タンパク質を定量することができる。シグナルを検出するマイクロウェルは、基板上のすべてのマイクロウェルであってもよく、一部でもよい。
【0062】
標識物質に由来するシグナルを発するウェルの数は、例えば、Quanterix社のSimoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzerで測定することができる。Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzerを使用した場合、シグナルの強さは、ビーズあたりの平均酵素(AEB:average enzymes per bead)値として表される。このため、AEB値を測定試料中の免疫複合体に由来するシグナル強度としてもよい。
【0063】
また、検量線を使用して、AEB値をリン酸化タウタンパク質の測定値に換算してもよい。ここでリン酸化タウタンパク質の測定値とは、リン酸化タウタンパク質の量又は濃度を反映した値をいう。当該測定値を「量」で標記する場合には、モルであっても質量であってもよいが、質量で標記することが好ましい。また、値を「濃度」で表記する場合には、モル濃度であっても生体試料の一定容量あたりの質量の割合(質量/容量)であってもよいが、好ましくは質量/容量である。
【0064】
本発明の一態様に係る推定方法において、Quanterix社のプロトコールにしたがって、標識物質としてβ-ガラクトシダーゼを使用し、レソルフィンβ-D-ガラクトピラノシドを基質として使用することが好ましい。また、ビーズはSimoa(商標)Diskにアプライされ、Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzerでシグナル強度を取得することが好ましい。
【0065】
本発明の一態様に係る推定方法は、リン酸化タウタンパク質を含むサンドイッチ免疫複合体を形成し、リン酸化タウタンパク質を検出するサンドイッチイムノアッセイ方法である。
【0066】
(推定工程)
推定工程においては、検出工程で得られたシグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する。脳のタウタンパク質の蓄積量は、例えば、タウPET画像のSUVR(Standardized Uptake Value Ratio)値、AD tauスコア等によって表される。AD tauスコアは、Movement Disorders, 2022, Vol. 37, No.11: 2236-2246に開示されているAD tauスコアである。AD tauスコアはタウPET画像のADに関連する特徴を示す、機械学習をベースとした測定により得られるスコアである。
【0067】
タウPETは、PBB (Pyridinyl-Butadienyl-Benzothiazole) 3等のPET薬剤(PETトレーサー)を使用してタウ病変の検出又は鑑別をすることができる。
【0068】
SUVRは、PETトレーサーの集積度が低くかつ変化の少ない脳の領域(参照領域)のPETトレーサーの集積度と、タウ病変が存在しPETトレーサーの集積が存在する脳の各部位(関心領域)におけるPETトレーサーの集積度との比を示す。SUVRは、PETで検出されるタウ病変の集積の強さを定量的に表すための指標である。参照部位の例としては、小脳皮質及び大脳白質等が挙げられる。関心領域の例として、各Braakステージに対応した脳部位及びアルツハイマー病でタウタンパク質蓄積が多く認められる側頭葉の特定部位(temporal meta-ROI)等が挙げられる。タウ病変の特異的集積を示す脳部位としては、記憶に関与する脳領域(例えば、海馬、嗅内皮質等)及び脳の新皮質領域等が挙げられる。
【0069】
より具体的には、検出工程で得られたシグナルの強度を所定の基準値と比較する。そして、当該比較に基づいて、脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する。
【0070】
上記所定の基準値とは、リン酸化タウタンパク質に由来するシグナル強度の基準値をいう。当該基準値は、タウオパチーを発症した者の生体試料中のリン酸化タウタンパク質に由来するシグナル強度(陽性対照値)に基づいて決定してもよい。
【0071】
シグナル強度に代えて、リン酸化タウタンパク質の測定値を使用して、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定してもよい。
【0072】
アルツハイマー病に対する治療薬の開発において、アミロイド蓄積の下流に存在して、神経細胞障害の直接的な原因である脳の異常なタウタンパク質の蓄積が減少しているのかどうかが重要な評価項目になる。また、脳の異常なタウタンパク質に対する薬剤であれば、その薬剤の直接的な効果を判定するために脳のタウタンパク質蓄積量を評価する必要がある。
【0073】
脳の異常なタウタンパク質の蓄積量は、タウPETによって定量することができるが、タウPETは高額な検査であり、放射線による侵襲性のリスクがあるという欠点がある。したがって、タウPETで定量された脳のタウタンパク質蓄積量を正確に反映する体液バイオマーカー、とくに低コスト及び非侵襲的であらゆる医療機関で利用可能な血液バイオマーカーの開発が求められている。
【0074】
本発明者らによって初めて、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~224番目のアミノ酸配列内にエピトープが存在する抗体とp-tau特異抗体とを組み合わせて検出されたリン酸化タウタンパク質の濃度と、タウPETで定量された脳のタウタンパク質蓄積量とが正の相関関係であることが見出された。本発明の一態様に係る推定方法によって、タウPETを使用せずに簡便な方法で、脳のタウタンパク質蓄積量を推定し、被験者がタウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得することができる。当該方法によって検出されるリン酸化タウタンパク質量は、脳のタウ病変を推定するための指標として使用することができる。
【0075】
また、上記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない。アミロイドPETは、PiB (Pittsburgh Compound B)等のPET薬剤を使用して脳のアミロイド蓄積量を測定することができる。
【0076】
レカネマブ等の抗アミロイド薬を対象に投与すると、対象の脳のアミロイド蓄積量は減少する。従来の生体試料中のリン酸化タウタンパク質の測定方法(例えば、比較例の測定方法)では、脳のアミロイド蓄積に依存して血液等に分泌または放出されるリン酸化タウタンパク質の断片を検出している。よって、従来のリン酸化タウタンパク質の測定方法では、抗アミロイド薬投与後の生体試料中のリン酸化タウタンパク質の測定値は減少する。したがって、抗アミロイド薬の投与によって、アミロイドが誘発する脳の異常タウ蓄積が減少したか否かは、従来の生体試料中のリン酸化タウタンパク質の測定方法では判別できなかった。
【0077】
一方、本発明者らによって初めて、実施例の測定方法のように、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~224番目のアミノ酸配列内にエピトープが存在する抗体とp-tau特異抗体とを組み合わせて検出されたリン酸化タウタンパク質の濃度は、アミロイドPETで測定される脳のアミロイド蓄積量とは相関しないことが見出された。当該測定方法は、脳のタウタンパク質の蓄積に反応して血液等に分泌または放出されるリン酸化タウタンパク質(例えば、脳のアミロイド蓄積に非依存的である血中リン酸化タウタンパク質)の断片を測定することができ、アミロイド蓄積の影響(換言すれば、アミロイド蓄積による干渉効果)を受けずに、脳のタウタンパク質の蓄積量を純粋に反映するバイオマーカーを提供することができる。したがって、本発明の一態様に係る推定方法は例えば、実臨床における抗アミロイド薬の効果の判断又は対象への抗アミロイド薬の投与の選択の判断においても使用することができる。
【0078】
〔2.BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する方法〕
BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する方法も本発明の一態様に含まれる。当該方法は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する。BraakステージIII以上は、BraakステージIII/IV又はBraakステージV/VIを示す。
【0079】
Braakステージは、アルツハイマー病のタウタンパク質蓄積の病理学的な広がりを反映する国際的な病期分類である。BraakステージI/IIでは、大脳の嗅内野領域にタウタンパク質の蓄積が観察される。BraakステージIII/IVでは、海馬等の大脳辺縁系領域及び側頭葉下面の部位にもタウタンパク質の蓄積が観察される。BraakステージV/VIでは、大脳新皮質領域に広がったタウタンパク質の蓄積が観察される。BraakステージI/IIの部位のタウ蓄積は正常加齢でも認められる一方、アルツハイマー病患者のタウタンパク質の蓄積は、BraakステージIII/IV以上となることが知られている。
【0080】
BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する方法において、より具体的には、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を所定のタウタンパク質蓄積基準値と比較する。そして、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量が所定のタウタンパク質蓄積基準値よりも高い場合に、被験者がBraakステージIII以上であるという情報を取得する。当該所定のタウタンパク質蓄積基準値は、BraakステージIII以上である者の脳のタウタンパク質の蓄積量(陽性対照値)に基づいて決定してもよい。
【0081】
また、所定のタウタンパク質蓄積基準値は、ROC(receiver operating characteristic curve)解析により設定されたカットオフ値であってもよい。
【0082】
〔3.タウオパチーの進行度の評価を補助する情報を取得する方法〕
タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報又はタウオパチーの進行度の評価を補助する情報を取得する方法(以下、「情報取得方法」と略記する場合がある)も本発明の一態様に含まれる。本発明の一態様に係る情報取得方法は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がタウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報又はタウオパチーの進行度の評価を補助する情報を取得する。タウオパチーの例として、アルツハイマー病、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、前頭側頭型認知症及びピック病等が挙げられる。
【0083】
より具体的には、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を所定のタウタンパク質蓄積基準値と比較する。そして、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量が所定のタウタンパク質蓄積基準値よりも高い場合に、被験者がタウオパチーに罹患している又は被験者のタウオパチーが進行しているという情報を取得する。当該所定のタウタンパク質蓄積基準値は、タウオパチーを発症した者の脳のタウタンパク質の蓄積量(陽性対照値)に基づいて決定してもよい。また、所定のタウタンパク質蓄積基準値は、ROC(receiver operating characteristic curve)解析により設定されたカットオフ値であってもよい。本発明の一態様に係る情報取得方法によって、アミロイド蓄積の影響を受けずにタウオパチーの進行度を評価することができる。
【0084】
〔4.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積を推定する装置〕
本発明はまた、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積を推定する装置(以下、「推定装置」と略記する場合がある)に関する。本発明の一実施形態に係る推定装置について、図1に基づき、詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る推定装置20の概略構成を示す図である。推定装置20は、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質の検出によって、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する、装置である。
【0085】
図1に示すように、推定装置20は、入力部30と、出力部31と、記憶媒体32と接続されている。推定装置20は、処理部(CPU)21と、主記憶部22と、ROM(read only memory)23と、補助記憶部24と、通信インタフェース(I/F)28と、入力インタフェース(I/F)25と、出力インタフェース(I/F)26と、メディアインターフェース(I/F)27は、バス29によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0086】
CPU21は、推定装置20の処理部である。CPU21が、補助記憶部24又はROM23に記憶されているコンピュータプログラムを実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、推定装置20が機能する。
【0087】
ROM23は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM(登録商標)等によって構成され、CPU21により実行されるコンピュータプログラム及びこれに使用するデータが記録されている。CPU21はMPU21としてもよい。ROM23は、推定装置20の起動時に、CPU21によって実行されるブートプログラムや推定装置20ハードウェアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0088】
主記憶部22は、SRAM又はDRAM等のRAM(Random access memory)によって構成される。主記憶部22は、ROM23及び補助記憶部24に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに使用される。また、主記憶部22は、CPU21がこれらのコンピュータプログラムを実行するときの作業領域として利用される。
【0089】
補助記憶部24は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。補助記憶部24には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等の、CPU21に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に使用する各種設定データが記憶されている。具体的には、補助記憶部24は、後述する測定プログラム、シグナル強度の基準値、リン酸化タウタンパク質の測定値の基準値等を記憶する。
【0090】
通信I/F28は、USB、IEEE1394、RS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース、ネットワークインタフェースコントローラ(NIC:Network interface controller)等から構成される。通信I/F28は、CPU21の制御下で、測定ユニット又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて推定装置20が保存又は生成する情報を、測定ユニット又は外部に送信又は表示する。通信I/F28は、ネットワークを介して測定ユニット又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0091】
入力I/F25は、例えばUSB、IEEE1394、RS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成される。入力I/F25は、入力部30は文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、主記憶部22又は補助記憶部24に記憶される。
【0092】
入力部30は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、推定装置20に文字入力又は音声入力を行う。入力部30は、推定装置20の外部から接続されても、推定装置20と一体となっていてもよい。
【0093】
出力I/F26は、例えば入力I/F25と同様のインタフェースから構成される。出力I/F26は、CPU21が生成した情報を出力部31に出力する。出力I/F26は、CPU21が生成し、補助記憶部24に記憶した情報を、出力部31に出力する。
【0094】
出力部31は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、測定ユニットから送信される測定結果及び推定装置20における各種操作ウインドウ、測定結果等を表示する。
【0095】
メディアI/F27は、記憶媒体32に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、主記憶部22又は補助記憶部24に記憶される。また、メディアI/F27は、CPU21が生成した情報を記憶媒体32に書き込む。メディアI/F27は、CPU21が生成し、補助記憶部24に記憶した情報を、記憶媒体32に書き込む。
【0096】
記憶媒体32は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。記憶媒体32は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F27と接続される。記憶媒体32には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0097】
CPU21は、推定装置20の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM23又は補助記憶部24からの読み出しに代えて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの補助記憶部24内に格納されており、このサーバコンピュータに推定装置20がアクセスして、コンピュータプログラムをダウンロードし、これをROM23又は補助記憶部24に記憶することも可能である。
【0098】
また、ROM23又は補助記憶部24には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされていてもよい。
【0099】
処理部21は、検査者が入力部30から行う、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するための入力を受け付ける。次に後述する測定ユニット等で検出された免疫複合体に由来するシグナルを取得する。そして、処理部21は、これらの取得したシグナルの強度を補助記憶部24等に記憶する。
【0100】
推定装置20は、パーソナルコンピュータ等であり得る。また、推定装置20は、後述する測定ユニットに内蔵されていてもよい。本発明の一態様に係る推定装置によって、アミロイド蓄積による干渉効果を受けずに、脳のタウタンパク質の蓄積量を推定することができる。
【0101】
〔5.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するシステム〕
本発明はまた、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するシステムに関する。被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するシステムは、推定装置20と、測定ユニットと、を備える。被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するシステムは、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質を検出し、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するシステムである。
【0102】
測定ユニットは、少なくともシグナルを検出するためのCCDカメラ等の撮像装置を備えた検出部を備え、場合によっては、さらに測定試料を調製するための試料調製部を備えていてもよい。また、検出部は、フローサイトメータであってもよい。検出部は、マイクロウェルに測定試料中のビーズを配置するための加圧装置、減圧装置、又は遠心装置を備えていてもよい。
【0103】
測定ユニットは、推定装置20と一体型となっていてもよい。検出部に撮像装置を備え、推定装置20と一体型となった装置としては、例えば、Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzer等が挙げられる。
【0104】
〔6.タウオパチーの進行度を評価するための情報を取得する装置〕
タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報又はタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得する装置(以下、「情報取得装置」と略記する場合がある)も本発明の一態様に含まれる。本発明の一実施形態に係る情報取得装置を図2に示す。情報取得装置50は、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質の検出によって推定された、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がタウオパチーであるか否かの情報又はタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得する装置である。本発明の一態様に係る情報取得装置によって、タウオパチーの進行度をアミロイド蓄積の影響を受けずに評価することができる。
【0105】
図2に示すように、情報取得装置50は、入力部60と、出力部61と、記憶媒体62と接続されている。情報取得装置50は、処理部(CPU)51と、主記憶部52と、ROM(read only memory)53と、補助記憶部54と、通信インタフェース(I/F)58と、入力インタフェース(I/F)55と、出力インタフェース(I/F)56と、メディアインターフェース(I/F)57は、バス59によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0106】
図2の各構成の詳細は、図1の各構成の詳細と同様である。
【0107】
処理部51は、検査者が入力部60から行う、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するための入力を受け付ける。次に後述する測定ユニット等で検出された免疫複合体に由来するシグナルを取得する。続いて、補助記憶部54等に記憶されているシグナル強度の基準値と、取得したシグナル強度を比較する。処理部51は、当該比較に基づいて、脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する。そして、推定された脳のタウタンパク質の蓄積量がタウ病変基準蓄積量より低い場合には、処理部51は、被験者がタウオパチーに罹患している可能性がない又は被験者のタウオパチーの進行が進んでいないと決定する。処理部51は、これらの決定結果をタウオパチーであるか否かの情報又はタウオパチーの進行度の情報として補助記憶部54等に記憶する。処理部51は、これらの結果を出力部61に出力するか、又は記憶媒体62に記憶してもよい。
【0108】
〔7.タウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するシステム〕
タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報又はタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するシステム(以下、「情報取得システム」と略記する場合がある)も本発明の一態様に含まれる。情報取得システムは、情報取得装置50と、測定ユニットと、を備える。情報取得システムは、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報又はタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するシステムである。測定ユニットの詳細は、〔4.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するシステム〕に記載される測定ユニットの詳細と同様である。
【0109】
測定ユニットは、情報取得装置50と一体型となっていてもよい。検出部に撮像装置を備え、情報取得装置50と一体型となった装置としては、例えば、Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzer等が挙げられる。
【0110】
〔8.BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する装置又はシステム〕
BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する装置も本発明の一態様に含まれる。当該装置の構成は、図2の、タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得する装置の構成と同様であってもよい。当該装置の構成が図2の構成である場合、処理部51は、脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、推定された脳のタウタンパク質の蓄積量がタウタンパク質蓄積基準量より高い場合には、処理部51は、被験者がBraakステージIII以上であると決定する。
【0111】
また、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得するシステムも本発明の一態様に含まれる。当該システムは、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得するシステムである。当該システムの構成は、タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得するシステムと同様であってもよい。
【0112】
〔9.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するためのコンピュータプログラム〕
本発明はまた、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するためのコンピュータプログラム(以下、「推定プログラム」と略記する場合がある)に関する。推定プログラムは、推定装置20の動作を制御する測定プログラムとして使用される。推定プログラムは、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップ、及び、シグナルの強度に基づいて、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップをコンピュータに実行させる。
【0113】
さらに、測定プログラム及び情報取得プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、情報取得装置が前記プログラムを読み取り可能である限り限定されない。記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0114】
〔10.タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得するためのコンピュータプログラム〕
タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得するためのコンピュータプログラム(以下、「情報取得プログラム」と略記する場合がある)も本発明の一態様に含まれる。情報取得プログラムは、情報取得装置50の動作を制御する測定プログラムとして使用される。情報取得プログラムは、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップをコンピュータに実行させる。そして、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、生体試料を採取した被験者がタウオパチーであるか否かの情報を取得するステップをコンピュータに実行させる。
【0115】
〔11.BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得するためのコンピュータプログラム〕
BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得するためのコンピュータプログラムも本発明の一態様に含まれる。当該プログラムは、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する装置の動作を制御する測定プログラムとして使用される。情報取得プログラムは、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップをコンピュータに実行させる。そして、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、生体試料を採取した被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得するステップをコンピュータに実行させる。
【0116】
〔12.リン酸化タウタンパク質の検出用試薬及び検出用試薬を含むキット〕
リン酸化タウタンパク質を検出するための試薬(以下、「検出用試薬」と略記する場合がある)も本発明の一態様に含まれる。本発明の一態様に係る検出用試薬は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕に使用され、上記捕捉ビーズ及び上記非捕捉ビーズを含む。検出用試薬に含まれる捕捉ビーズと非捕捉ビーズの好ましい個数比は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕に記載されるとおりである。
【0117】
また、本発明の一態様に係る検出用試薬は、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するための試薬である。当該試薬には、検出抗体及び捕捉抗体が含まれる。検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、他方の抗体は、p-tau特異抗体である。
【0118】
リン酸化タウタンパク質を検出するための試薬キット(以下、「試薬キット」と略記する場合がある)も本発明の一態様に含まれる。本発明の一態様に係る試薬キットは、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕に使用され、上記検出用試薬を含む。また、本発明の一態様に係る試薬キットは、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するための試薬キットであり、上記検出用試薬を含む。
【0119】
試薬キットは検出抗体をさらに含んでいてもよく、アルブミン、カゼイン、スキムミルク等のブロッキング剤、ビーズの懸濁及びサンプルの希釈に使用される緩衝液(バッファ; 上記のブロッキング剤及びEDTAを含んでいてもよい)等の他の試薬及び器具等を含んでいてもよい。試薬キットは、ビーズに捕捉抗体が固定化されていない場合は、捕捉抗体を含有する試薬をさらに含んでいてもよい。また、試薬キットは、複数の異なる試薬を、適切な容量及び/又は形態で混合していてもよいし、それぞれ別の容器により提供してもよい。また、試薬キットには、リン酸化タウタンパク質の測定手順等を記載した指示書を含んでいてもよい。紙若しくはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、又は、磁気テープ、コンピュータ等の読み取り可能なディスク若しくはCD-ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
【0120】
上記検出用試薬を含む、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するためのキットも本発明の一態様に含まれる。当該キットには、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するためのコンピュータプログラムを保存した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体を含んでいてもよい。記録媒体の例として、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子及び光ディスク等が挙げられる。
【0121】
上記検出用試薬を含む、タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得するためのキットも本発明の一態様に含まれる。当該キットには、タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得するためのコンピュータプログラムを保存した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体を含んでいてもよい。
【0122】
上記検出用試薬を含む、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得するためのキットも本発明の一態様に含まれる。当該キットには、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得するためのコンピュータプログラムを保存した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体を含んでいてもよい。
【0123】
上記検出用試薬を含む、タウオパチーの進行度を評価する情報を取得するためのキットも本発明の一態様に含まれる。当該キットには、タウオパチーの進行度を評価する情報を取得するためのコンピュータプログラムを保存した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体を含んでいてもよい。タウオパチーの進行度は、例えば、Braakステージ及びAD tauスコア等によって評価することができる。
【0124】
〔13.タウオパチーの診断方法〕
タウオパチーの診断方法も本発明の一態様に含まれる。当該診断方法は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がタウオパチーに罹患しているか否かを診断する診断工程を含む。当該診断方法は、医師又は他の有資格の医学専門家による診断を包含する。
【0125】
上記診断工程において、推定された脳のタウタンパク質の蓄積量を所定のタウタンパク質蓄積基準値と比較する。そして、推定された脳のタウタンパク質の蓄積量が所定のタウタンパク質蓄積基準値よりも高い場合に、被験者がタウオパチーに罹患していると診断する。「タウタンパク質蓄積基準値」は、〔3.タウオパチーに罹患しているか否かの判断を補助する情報を取得する方法〕に記載したとおりである。
【0126】
シグナル強度に代えて、リン酸化タウタンパク質の測定値を使用して、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、被験者がタウオパチーに罹患しているか否かを診断してもよい。
【0127】
被験者がタウオパチーに罹患しているか否かを診断することによって、疾患の進行、治療の進行、又は、治療の効果を客観的に観察及び評価することができる。
【0128】
〔14.Braakステージの診断方法〕
Braakステージの診断方法も本発明の一態様に含まれる。当該診断方法は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かを診断する診断工程を含む。当該診断方法は、医師又は他の有資格の医学専門家による診断を包含する。
【0129】
上記診断工程において、推定された脳のタウタンパク質の蓄積量を所定のタウタンパク質蓄積基準値と比較する。そして、推定された脳のタウタンパク質の蓄積量が所定のタウタウタンパク質蓄積基準値よりも高い場合に、被験者がBraakステージIII以上であると診断する。「タウタンパク質蓄積基準値」は、〔2.BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する方法〕に記載したとおりである。
【0130】
シグナル強度に代えて、リン酸化タウタンパク質の測定値を使用して、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かを診断してもよい。
【0131】
被験者のBraakステージを診断することによって、認知症の発症が迫っている患者を診断又は選別することができる。また、被験者のBraakステージを診断することによって、抗アミロイド薬の効果が最も期待できる患者を選別することができる。
【0132】
〔15.患者の診断を補助する方法〕
患者の診断を補助する方法も本発明の一態様に含まれる。患者の診断を補助する方法の一態様は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された患者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、生体試料がタウオパチーに罹患している患者由来の生体試料であるか否かを示唆するデータを取得する工程を含む。また、患者の診断を補助する方法の一態様は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された患者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、生体試料がBraakステージIII以上である患者由来の生体試料であるか否かを示唆するデータを取得する工程を含む。
【0133】
〔16.タウオパチーの進行度を評価する方法〕
タウオパチーの進行度を判定する方法も本発明の一態様に含まれる。タウオパチーの進行度を評価する方法の一態様は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者のタウオパチーの進行度を評価する工程を含む。
【0134】
また、タウオパチーの進行度を表す病期分類を推定する方法も本発明の一態様に含まれる。タウオパチーの進行度を表す病期分類の例として、Braakステージ及びAD tau score等が挙げられる。
【0135】
〔17.抗アミロイド薬を投与する対象の選択を補助する方法〕
抗アミロイド薬を投与する対象の選択を補助する方法も本発明の一態様に含まれる。抗アミロイド薬を投与する対象の選択を補助する方法の一態様は、〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕によって推定された対象の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、抗アミロイド薬を投与する対象を選択する工程を含む。
【0136】
上記対象は、タウオパチーに罹患している対象又はタウオパチーに罹患しているリスクがある対象である。〔1.被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法〕の検出工程で検出されるシグナルは、タウPETで定量される被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量と正の相関関係にある一方、アミロイドPETで定量される被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない。したがって、当該シグナルは脳のタウタンパク質の蓄積量を純粋に反映しているため、抗アミロイド薬の投与以前に脳のタウタンパク質の蓄積の程度を評価して、抗アミロイド薬を投与する対象を選択することができる。例えば、推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量が所定のタウタンパク質蓄積基準値よりも高い場合には、抗アミロイド薬の有効性が期待できなくなるので、抗アミロイド薬を投与する対象から当該被験者を除外することができる。
【0137】
また、抗アミロイド薬を投与する対象の選択を補助する方法によって、抗アミロイド薬を既に投与された対象について、抗アミロイド薬の投与によってアミロイドが誘発する脳の異常タウ蓄積が減少したか否かを評価することができる。これにより、当該対象を、抗アミロイド薬を継続または再投与する対象として選択するか否かを決定することができる。
【0138】
抗アミロイド薬の例として、レカネマブ及びアデュカヌマブ等が挙げられる。
【0139】
〔18.実施形態のまとめ〕
本発明の実施形態は、例えば、以下に示す態様を含む。
<1>非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を形成させて、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料を調製する調製工程、前記測定試料中の免疫複合体に由来するシグナルを検出する検出工程、及び、前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する推定工程を含み、前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する方法。
<2>前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量が、タウPET画像のSUVR値又はAD tauスコアによって表される、<1>に記載の方法。
<3>前記脳が海馬、嗅内皮質及び新皮質からなる群から選択される少なくとも1つの部位である、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>前記生体試料の希釈に使用される緩衝液に、哺乳動物由来の血清成分又はブロッキング剤が添加されている、<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5>前記検出工程において、複数のマイクロウェルを有する基板に前記測定試料を接触させ、前記測定試料中の捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズを、前記マイクロウェルに1ビーズずつ配置し、前記マイクロウェルに配置された捕捉ビーズ上の免疫複合体に由来するシグナルを検出し、前記マイクロウェルは、前記捕捉ビーズ又は非捕捉ビーズ1個のみを収容可能な容積を有する、<1>~<4>のいずれかに記載の方法。
<6>前記検出工程において、シグナルの検出が前記免疫複合体に由来するシグナルを撮像することによって行われる、<1>~<5>のいずれかに記載の方法。
<7>前記生体試料が、血液試料である、<1>~<6>のいずれかに記載の方法。
<8>前記血液試料が、血清又は血漿である、<7>に記載の方法。
<9>前記免疫複合体が、捕捉抗体と、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体との複合体であり、前記捕捉抗体が捕捉ビーズに結合する、<1>~<8>のいずれかに記載の方法。
<10>前記免疫複合体が、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズに結合した捕捉抗体と、リン酸化タウタンパク質を含む生体試料と、検出抗体とを混合することによって形成される、<1>~<9>のいずれかに記載の方法。
<11><1>~<10>のいずれかに記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの判断を補助する情報を取得する方法。
<12><1>~<10>のいずれかに記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者のタウオパチーの進行度の評価の判断を補助する情報を取得する方法。
<13>前記捕捉ビーズ及び前記非捕捉ビーズを含む、<1>~<11>のいずれかに記載の方法に用いられる試薬又は試薬キット。
<14>処理部を備え、前記処理部は、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定する装置。
<15>被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質に由来するシグナルの強度に基づいて、前記被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得する装置であって、前記装置は、処理部を備え、前記処理部は、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得し、前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、装置。
<16>コンピュータに、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、を実行させ、前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するためのコンピュータプログラム。
<17>コンピュータに、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記生体試料を採取した被験者のタウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するステップと、
を実行させる、前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、タウオパチーの進行度を評価するための情報を取得するためのコンピュータプログラム。
<18><1>~<10>のいずれか一つに記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がタウオパチーに罹患しているか否かを診断する診断工程を含む、タウオパチーを診断する方法。
<19><1>~<10>のいずれか一つに記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、生体試料がタウオパチーに罹患している患者由来の生体試料であるか否かを示唆するデータを取得する工程を含む、患者の診断を補助する方法。
<20><1>~<10>のいずれか一つに記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かを診断する診断工程を含む、Braakステージを診断する方法。
<21><1>~<10>のいずれか一つに記載の方法によって推定された脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、生体試料がBraakステージIII以上である患者由来の生体試料であるか否かを示唆するデータを取得する工程を含む、患者の診断を補助する方法。
<22>被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質に由来するシグナルの強度に基づいて、前記被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得する装置であって、前記装置は、処理部を備え、前記処理部は、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、被験者から採取された生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定し、前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得し、前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体であり、前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、装置。
<23>コンピュータに、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のリン酸化タウタンパク質と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップであって、前記生体試料は、被験者から採取されたものであり、前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、前記検出抗体及び捕捉抗体の一方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列の151~244番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、前記検出抗体及び捕捉抗体の他方の抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のリン酸化アミノ酸残基を含むリン酸化エピトープを認識する抗体である、ステップと、前記シグナルの強度に基づいて、タウPETで定量される前記被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量を推定するステップと、前記推定された被験者の脳のタウタンパク質の蓄積量に基づいて、前記生体試料を採取した被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得するステップと、を実行させ、前記シグナルの強度は、アミロイドPETで定量される前記被験者の脳のアミロイドの蓄積量とは相関しない、被験者がBraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるか否かの情報を取得するためのコンピュータプログラム。
【0140】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献のすべてが参考として援用される。
【実施例0141】
〔材料〕
捕捉ビーズは、Quanterix社のSimoa(商標)Homebrew Assay Development kitのビーズを使用して、添付のプロトコールに従って調製した。非捕捉ビーズとして、Quanterix社のDye-Encoded Helper Beadsを使用した。サンプルバッファには、BSAが添加されたバッファを使用した。捕捉抗体として、抗ヒト・タウ蛋白抗体(HT7, Thermo Fisher Scientific)を使用した。HT7は配列番号1のアミノ酸配列の159~163番目のペプチドを認識する抗体である。検出抗体として、抗リン酸化タウ蛋白抗体(AT270, Thermo Fisher
Scientific)を使用し、検出抗体のビオチン化は上記kitのプロトコールに従って調製した。AT270は配列番号1の181番目のチロシンのリン酸化を認識する抗体である。以下、上記捕捉抗体及び上記検出抗体の組合せを使用したリン酸化タウタンパク質の測定方法を、実施例の測定方法と略記する場合がある。
【0142】
標的タンパク質として、リン酸化タウタンパク質(p-Tau181)を使用した。p-Tau181は、配列番号1の181番目のチロシンがリン酸化されているタウタンパク質である。また、標準曲線を作成するために標準ペプチドとしてヒトリン酸化タウ標準ペプチド(p-Tau181)を使用した。標的タンパク質又は標準ペプチドは、Simoa(商標)Homebrew Assay Development kitのSample diluentを使用して希釈した。そして、Simoa(商標)HD-1 Analyzerを使用し、メーカーのプロトコールに従って測定を行った。
【0143】
リン酸化タウタンパク質並びに実施例及び比較例の測定方法で使用した抗体セットの模式図を図3に示す。図3中のタウ蛋白中間部を認識する抗体が実施例の測定方法で使用した捕捉抗体である。また、p-Tau181を認識する抗体が実施例の測定方法で使用した検出抗体である。Tau12は、配列番号1のアミノ酸配列の9~18番目のペプチドを認識する抗体である。捕捉抗体(AT270)及び検出抗体(Tau12)の組合せを使用したリン酸化タウタンパク質の測定方法を、比較例の測定方法と略記する場合がある。また、実施例の測定方法で測定されるリン酸化タウタンパク質の断片をmid-p-tau181と示し、比較例の測定方法で測定されるリン酸化タウタンパク質の断片をN-p-tau181と示す場合がある。
【0144】
〔評価例1〕リン酸化タウタンパク質の測定
タウPETリガンドとして[18F]PM-PBB3を使用したタウPETによって、大脳のタウ病変の蓄積が明らかであるアルツハイマー病患者48名、アルツハイマー病以外の脳神経疾患患者76名、及びタウ蓄積を有さず認知機能も正常である正常対照者40名の血液をサンプルとして使用した。また、これらの症例は全例で、アミロイドPETリガンドとして[11C]PiBを使用したアミロイドPETによって、大脳のアミロイド蓄積も確認している。
【0145】
Simoa(商標)Enzyme and Substrate kit、Simoa(商標)Disk kit、Simoa(商標)Sealing Oil、System buffer 1、System buffer 2、Simoa(商標)HD-1 Analyzerを使用し、メーカーのプロトコールに従って、測定を行った。測定は、測定用サンプルと、捕捉ビーズ、ビオチン標識抗体、非捕捉ビーズ等の必要な試薬をSimoa(商標)HD-1 Analyzerにセットした。そして、Simoa(商標)HD-1 Analyzerですべての測定工程を行った。
【0146】
評価例1においては、捕捉ビーズと非捕捉ビーズとの個数比は、実施例及び比較例の測定方法共に、捕捉ビーズ1に対して非捕捉ビーズが3~9となるように調製した。また、ビーズ全体(捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズ)の濃度は、測定試料90μLに対して40万~50万個となるように調製した。
【0147】
具体的な測定工程は以下の通りである。まず、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズに結合されている捕捉抗体と血液中の標準タンパク質とを結合させた。次に、ビオチン化された検出抗体を、捕捉抗体と結合した標準タンパク質にさらに結合させ、捕捉ビーズ上に捕捉抗体と標準タンパク質とビオチン化検出抗体の免疫複合体を形成させた。
【0148】
免疫複合体の形成後、非捕捉ビーズの存在下で捕捉ビーズとβ-ガラクトシダーゼを結合させたストレプトアビジンとを反応させた。そして、非捕捉ビーズの存在下で捕捉ビーズをβ-ガラクトシダーゼの基質(RGP:レソルフィンβ-D-ガラクトピラノシド)と反応させた。RGPとの反応が終わった捕捉ビーズと非捕捉ビーズを、Simoa(商標)Diskにアプライした。その後、アプライされたビーズは、多数のフェムトリットル(fL)単位のウェルが配置されたアレイの各ウェルに一つずつ格納された。ウェルに格納された各ビーズをSimoa(商標)HD-1 Analyzerによって撮影し、蛍光強度(AEB)を測定した。蛍光強度の強いビーズの数を測定することにより、標的タンパク質を定量した。
【0149】
〔評価例2〕血液中のp-Tau181の測定値とタウPETによるタウタンパク質蓄積量との相関の検討
評価例1で測定した血液中のp-Tau181(以下、「血中p-Tau181」と示す場合がある)の測定値とタウPETによるタウタンパク質蓄積量とに相関があるか否かを検討した。
【0150】
タウPET画像取得において、タウPETリガンドとして[18F]PM-PBB3を使用した。
【0151】
タウPETによるタウタンパク質蓄積量の判定には、アルツハイマー病のタウタンパク質蓄積の病理学的な広がりを反映する国際的な病期分類である「Braakステージ」を使用した。BraakステージI/II、III/IV、V/VIに相当する脳部位のタウタンパク質蓄積量を表すStandard Uptake Value Ratio (SUVR)値をタウPET画像から算出することによって、タウPETによるタウタンパク質蓄積量が得られた(図4)。SUVRの算出において、非特異的集積を示す脳部位として小脳皮質を使用した。アミロイドPET画像取得において、アミロイドPETリガンドとして[11C]PiBを使用した。
【0152】
BraakステージI/IIでは、大脳の嗅内野領域にタウタンパク質の蓄積が観察される。BraakステージIII/IVでは、海馬等の大脳辺縁系領域及び側頭葉下面の部位にもタウタンパク質の蓄積が観察される。BraakステージV/VIでは、大脳新皮質領域に広がったタウタンパク質の蓄積が観察される。実際の患者から得られたタウPET画像で、図4の左上図のように、上記のBraakステージI/II、III/IV、V/VI領域に相当する脳部位を同定して、その部位ごとのSUVR値を算出した。
【0153】
BraakステージI/IIの部位のタウ蓄積は正常加齢でも認められるが、図4の下図に示すように、アルツハイマー病患者のタウタンパク質の蓄積は、BraakステージIII/IV以上となることが知られている。すなわち、アルツハイマー病患者は、脳内のタウ蓄積が、BraakステージI/IIの領域だけでなく、認知機能障害が始まる段階ではBraakステージIII/IV領域に拡大する。さらに、アルツハイマー病患者は、認知機能障害が進行した段階ではBraakステージV/VIの領域へと広がっていく。
【0154】
比較例の測定方法で測定したアルツハイマー病患者48名の血中p-Tau181の濃度を縦軸に、「Braakステージ」の各ステージ(ステージI/II、III/IV、V/VI)に相当する脳部位のSUVR値を横軸にプロットしたグラフを図5に示す。実施例の測定方法で測定したアルツハイマー病患者48名の血中p-Tau181濃度を縦軸に、「Braakステージ」の各ステージのSUVR値を横軸にプロットしたグラフを図6に示す。図5図6では、BraakステージI/II、III/IV、V/VIに相当する脳部位のタウ蛋白蓄積量(SUVR値)と比較例及び実施例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度との相関の有無を検討している。これらの検討はピアソンの積率相関係数によって検討し、有意な線形の相関がない場合は非線形回帰分析を行った。これらの統計学的解析はすべて、GraphPad Prism version 9 (GraphPad Software)によって行った。
【0155】
図5に示すように、比較例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度は、タウPETで定量されたそれぞれのBraakステージに相当する脳部位領域のタウタンパク質蓄積量と相関が認められなかった。BraakステージIII/IV(図5中央)及びV/VI(図5右)に相当する脳部位領域では、タウPETでのタウタンパク質蓄積量が増加すると却って血中p-Tau181濃度が減少する傾向が認められた。すなわち、比較例の測定方法で定量した血中p-Tau181濃度はタウPETで定量された脳のタウタンパク質蓄積量を反映していなかった。
【0156】
一方、図6に示すように、実施例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度と、アルツハイマー病患者でタウタンパク質蓄積が認められるBraakステージIII/IV及びV/VIに相当する脳部位領域における異常なタウタンパク質蓄積量との間に、有意な正の相関関係が認められた。この結果は、実施例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度は、実際の患者脳に蓄積するタウタンパク質蓄積量を正確に反映していることが分かった。
【0157】
〔評価例3〕血中p-Tau181濃度による、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上の判別
正常加齢の範囲ではBraakステージI/IIにとどまる一方、アルツハイマー病患者脳ではBraakステージIII以上にまで進展する。評価例1で測定した血中p-Tau181濃度によって、正常加齢による限局したタウ蓄積(BraakステージI/IIまで)とアルツハイマー病に相当するタウ蓄積の広がりがあるのか(BraakステージIII以上)を判別できるか否かを検討した。
【0158】
また、アルツハイマー病患者48名、及びタウタンパク質蓄積を有さず認知機能も正常である正常対照者40名、の計88名において、実施例の測定方法及び比較例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度と、アミロイドPET及びタウPETで定量した大脳のアミロイド沈着量及びタウ沈着量とが、大脳のどの部位で、またどの程度強く相関するかを検討した。結果を図7に示す。
【0159】
図7には、アルツハイマー病患者及び正常対照者の計88名において、実施例(図7A)及び比較例(図7B)の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度と、アミロイドPET及びタウPETで定量した大脳のアミロイド沈着量及びタウ沈着量とが、相関する脳部位を図示した。また、図7ではアミロイド及びタウ沈着量との相関の強さを色の濃さで示している。実施例(図7A)の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度は、明らかにアミロイドよりもタウタンパク質蓄積との相関が強く、統計学的にはタウタンパク質蓄積のみが実施例でのp-Tau濃度に寄与していた。これに対して、比較例(図7B)の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度は、アミロイド蓄積とより強く相関し、統計学的にはアミロイド蓄積とタウタンパク質蓄積の両者が比較例でのp-Tau濃度に寄与していた。この結果から、比較例とは異なり、実施例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度は、タウPETで定量した大脳のタウタンパク質蓄積を、アミロイドの影響を受けずに正確に反映することが分かった。
【0160】
図8の左図は、タウPETの結果、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上(BraakステージIII/IV若しくはBraakステージV/VI)であると判別された被験者の血中p-Tau181の測定値(濃度、pg/mL)を示すグラフである。図8の右図は、血中p-Tau181濃度について、BraakステージI/II又はBraakステージIII以上であるかを判別する性能をROC解析によって評価した。
【0161】
図8に示すように、実施例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度によって、高い精度(ROC解析でAUCが0.859)で、ヒト脳内におけるBraakステージI/IIまでのタウ蓄積とBraakステージIII以上のタウ蓄積とを判別できた。この結果から、実施例の測定方法で測定した血中p-Tau181濃度によって、正常加齢による限局したタウ蓄積(BraakI/IIまで)とアルツハイマー病に相当する進展したタウ蓄積(BraakIII以上)とを、タウPETとの高い整合性を持って正確に診断できることが分かった。
【0162】
本評価例では、タウタンパク質の中間部のフラグメント(配列番号1の151~244番目のアミノ酸配列)を認識する抗体として、HT7抗体を使用した。HT7抗体とは異なるエピトープであり、タウタンパク質の中間部のフラグメントを認識する抗体を使用して測定した血中リン酸化タウタンパク質濃度も、実際の患者脳に蓄積するタウタンパク質蓄積量を正確に反映することは当業者であれば明らかである。
【0163】
本評価例では、検出抗体として、配列番号1の181番目のスレオニンのリン酸化を認識する抗体を使用した。当該リン酸化スレオニンの以外のリン酸化アミノ酸を認識する抗体を使用して測定した血中リン酸化タウタンパク質濃度も、実際の患者脳に蓄積するタウタンパク質蓄積量を正確に反映することは当業者であれば明らかである。
【0164】
〔評価例4〕ブロッキング剤添加による反応検出の検討
BSAを主成分として含むブロッキング剤を添加したサンプルバッファ又はブロッキング剤を添加しなかったサンプルバッファを使用して、サンプルバッファへのブロッキング剤の添加による反応検出の添加の検討を行った。Simoa(商標)Enzyme and Substrate kit、Simoa(商標)Disk kit、Simoa(商標)Sealing Oil、System buffer 1、System buffer 2、Simoa(商標)HD-1 Analyzerを使用し、メーカーのプロトコールに従って、バックグラウンドのAEBを2回測定した。
【0165】
ブロッキング剤を添加したサンプルバッファを使用したときのAEBは、0.00302±0.001(平均値±S.D.)であった。ブロッキング剤を添加しなかったサンプルバッファを使用した時のAEBは0.00404±0.000であり、ブロッキング剤の添加により約25%程度バックグラウンドが減少していた。評価例3から、サンプルバッファにブロッキング剤を添加すると、抗原抗体反応検出時のバックグラウンドが低下することが分かった。
【0166】
〔評価例5〕血液中のp-Tau181の測定値とAD Tauスコアとの相関の検討
タウPETによるタウタンパク質蓄積量を示す指標として、AD Tauスコアが知られている。本評価例では、血液中のp-Tau181の測定値とAD Tauスコアとにも相関があるか否かを検討した。AD TauスコアはMovement Disorders, 2022, Vol. 37, No.11: 2236-2246を参照して算出した。
【0167】
実施例の測定方法で測定したアルツハイマー病患者48名の血中mid-p-tau181濃度を縦軸に、SUVR値(temporal meta ROI)又はAD tauスコアを横軸にプロットしたグラフを図9に示す。また、比較例の測定方法で測定したアルツハイマー病患者48名の血中p-Tau181(N-p-tau181)の濃度を縦軸に、SUVR値(temporal meta ROI)又はAD tauスコアを横軸にプロットしたグラフを図10に示す。
【0168】
図9及び10から分かるように、実施例の測定方法で測定した血中mid-p-tau181濃度とAD Tauスコアとの間にも有意な正の相関関係が認められた。
【0169】
〔実施例のまとめ〕
比較例の測定方法は、タウタンパク質が脳内に本格蓄積する前の段階で、脳アミロイドに反応して、血中に放出されるリン酸化タウタンパク質(p-tau)の断片を検出していると考えられる。したがって、比較例の測定方法による得られるリン酸化タウタンパク質濃度は、脳内のタウタンパク質の蓄積量よりもアミロイド蓄積量との相関が強く、純粋に脳のタウタンパク質蓄積量を反映しない。したがって、比較例の測定方法で得られるリン酸化タウタンパク質濃度は、タウPETで測定されるタウタンパク質蓄積量とは相関しない。
【0170】
一方、実施例の測定方法は、タウタンパク質が脳内に本格蓄積する段階で血中に放出されるタウタンパク質の断片を検出するものと考えられる。実施例の測定方法で測定された血中mid-p-tau181は、アミロイドPETで測定される脳アミロイドの蓄積量とは相関しない。したがって、実施例の測定方法で得られるリン酸化タウタンパク質濃度は、脳アミロイド蓄積量の影響を受けずに、タウPETで測定されるタウタンパク質蓄積量と相関する。
【0171】
アルツハイマー病では、認知機能障害の出現以前から、脳のアミロイド蓄積及びタウ病変が出現することが明らかにされている。また、実際の認知機能正常高齢者では、脳のアミロイド蓄積が陽性でもタウ病変が陰性であれば、その後の約5年間は認知機能障害を発症しない。しかしながら、脳のアミロイド蓄積及びタウ病変が陽性であれば、5年以内の認知機能障害の発症のリスクが高まることが分かっている。実施例の測定方法で使用した抗体の組合せによって、より正確に脳のタウタンパク質の蓄積量が推定できる血液p-Tauバイオマーカーが得られた。実施例の測定方法によって、一般高齢者の中で、認知症の発症が迫っている患者を診断又は選別することが可能になる。また、実施例の測定方法によって、認知症の発症のリスクが高い患者に対する早期の医療的な介入が可能になる。
【0172】
また、2023年中に日本での承認が見込まれているアルツハイマー病に対する新たな根本治療薬(レカネマブ(エーザイ)等)の抗アミロイド薬は、脳のアミロイド蓄積を減らすことはできるのでアミロイドのみが脳に蓄積している患者には有効である。一方、すでにアミロイドによって誘発されるBraakステージIII以上のタウ蓄積とタウ病変から始まる病的カスケードが始まっている患者には抗アミロイド薬の効果が十分期待できない。したがって、抗アミロイド薬を投与できる患者は、未だタウ病理がBraakステージIII以上に進展していない(I/IIにとどまっている)患者が最適の患者である。従来は、患者のBraakステージを確認するためには、高額かつ侵襲的であり、利用できる施設が限られているタウPETを用いるしか方法がなかった。しかしながら、実施例の測定方法で使用した抗体の組合せによって、より正確に脳のタウタンパク質の蓄積量が推定できる血液p-Tauバイオマーカーが得られた。実施例の測定方法によって、一般高齢者の中で、脳のタウ病理がBraakステージIII以上に進展していない(I/IIにとどまっている)患者を選択できる。したがって、実施例の測定方法によって、抗アミロイド薬の効果が最も期待できる患者を選別することが、実際の臨床場面だけでなく抗アミロイド薬の治験においても、可能になる。
【0173】
脳のタウタンパク質の蓄積が進行すると、抗アミロイド薬を投与して対象中のアミロイド量を減らしても、タウタンパク質の蓄積による神経細胞死の誘導というアミロイドの下流のアルツハイマー病発症機構の進行を止めることはできない。したがって、抗アミロイド薬の投与以前に脳のタウタンパク質の蓄積の程度を判定する必要がある。一方、上述のとおり、従来のリン酸化タウタンパク質の測定方法で測定されるリン酸化タウタンパク質は脳のアミロイド蓄積に反応して放出されるリン酸化タウタンパク質が含まれるため、純粋な脳のタウタンパク質蓄積量を判定することができない。したがって、「抗アミロイド薬を投与すべき最適な患者の選択」においても、純粋に脳のタウタンパク質蓄積量を反映する生体試料バイオマーカーの開発が重要となる。アルツハイマー病のような患者数の非常に多い病期では、このような患者の選択をアミロイドPETに加えてタウPETも撮像してから行うというのは、検査の処理能力及び医療経済的に不可能である。実施例の測定方法によって、純粋に脳のタウタンパク質蓄積量を判断することができ、アミロイドPET及びタウPETを使用せずに簡便な方法で、抗アミロイド薬を投与すべき最適な患者の選択することができる。
【0174】
以上より、実施例の測定方法は、脳のタウタンパク質蓄積量を正確に反映する方法として有用であることが分かった。そして、実施例の測定方法は、認知機能障害の実臨床及び抗アルツハイマー薬の臨床治験への応用が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の方法によって、アルツハイマー病等のタウオパチーの高感度の生化学的診断に利用可能な情報を提供することができ、例えば、医薬用途等に利用することができる。
【符号の説明】
【0176】
20 測定装置
21、51 処理部(CPU)
22、52 主記憶部
23、53 ROM
24、54 補助記憶部
25、55 入力I/F
26、56 出力I/F
27、57 メディアI/F
28、58 通信I/F
29、59 バス
30、60 入力部
31、61 出力部
32、62 記憶媒体
50 情報入力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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