(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152630
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】電線の屈曲寿命の予測方法、制御装置、および回帰式の作成方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
H01B13/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038654
(22)【出願日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2023064777
(32)【優先日】2023-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 恒久
(57)【要約】
【課題】電線の屈曲寿命の予測方法、制御装置、および回帰式の作成方法によって得られる回帰式を用いて電線の屈曲寿命を容易に予測する。
【解決手段】ケーブル1の屈曲半径に関する第1パラメータと、ケーブル1に加える荷重に関する第2パラメータと、ケーブル1が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータから、第3パラメータに対する第1パラメータおよび第2パラメータの相関を表わす回帰式を取得するステップと、予測対象のケーブル1を屈曲させたときの当該ケーブル1の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータおよび当該ケーブル1に加える荷重に対応して設定される第2設定パラメータを回帰式の第1パラメータおよび第2パラメータとしてそれぞれ用いて、予測対象のケーブル1の屈曲寿命の予測値を算出するステップとを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の屈曲寿命の予測方法であって、
電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータから、前記第3パラメータに対する前記第1パラメータおよび前記第2パラメータの相関を表わす回帰式を取得するステップと、
予測対象の電線を屈曲させたときの当該電線の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータおよび当該電線に加える荷重に対応して設定される第2設定パラメータを前記回帰式の前記第1パラメータおよび前記第2パラメータとしてそれぞれ用いて、予測対象の電線の屈曲寿命の予測値を算出するステップとを備える、予測方法。
【請求項2】
前記第1パラメータ、前記第2パラメータ、および前記第3パラメータは、屈曲試験装置を用いた屈曲試験から取得し、
前記第1設定パラメータおよび前記第2設定パラメータは、ユーザによって設定される、請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記電線は、導電性を有する芯線と、前記芯線の外側を覆う絶縁体と、前記絶縁体の外側を覆うシースとを少なくとも備えたケーブルから構成され、
前記屈曲半径は、前記ケーブルを屈曲させたときの内側にある前記シースおよび前記絶縁体を介した前記芯線の表面に沿った弧の曲率半径である、請求項1に記載の予測方法。
【請求項4】
電線の屈曲寿命を予測する制御装置であって、
入力インターフェイスと、
演算装置と、
メモリとを備え、
前記演算装置は、
電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを用いて、前記第3パラメータに対する前記第1パラメータおよび前記第2パラメータの相関を表わす回帰式を取得して前記メモリに記憶し、
予測対象の電線を屈曲させたときの当該電線の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータおよび当該電線に加える荷重に対応して設定される第2設定パラメータを前記入力インターフェイスを介して取得し、
取得した前記第1設定パラメータおよび前記第2設定パラメータを前記回帰式の前記第1パラメータおよび前記第2パラメータとしてそれぞれ用いて、予測対象の電線の屈曲寿命の予測値を算出する、制御装置。
【請求項5】
電線の屈曲寿命の予測値を算出するための回帰式を制御装置で作成する方法であって、
電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを取得するステップと、
取得した前記複数組のデータについて、前記第1パラメータの対数および前記第2パラメータの対数を説明変数とし、前記第3パラメータの対数を目的変数とする重回帰分析を実行するステップと、
前記重回帰分析の結果より偏回帰係数を取得するステップと、
前記偏回帰係数をx,y,zとしたときに、
屈曲寿命の予測値=10^{x+y×log10(屈曲半径)+z×log10(荷重)}
とする前記回帰式を作成するステップとを備える、回帰式の作成方法。
【請求項6】
電線の屈曲寿命の予測値を算出するための回帰式を制御装置で作成する方法であって、
電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを取得するステップと、
取得した前記複数組のデータについて、前記第1パラメータおよび前記第2パラメータを説明変数とし、前記第3パラメータの対数を目的変数とする重回帰分析を実行するステップと、
前記重回帰分析の際にk分割交差検証法を用いるとともに、損失関数としてフーバー損失を用いるステップと、
前記k分割交差検証法を用いた検証ごとに、前記重回帰分析の結果から偏回帰係数を取得するステップと、
前記偏回帰係数をa,b,c,d,eとしたときに、
屈曲寿命の予測値=10^{a+b×(屈曲半径)+c×(荷重)+d×(屈曲半径)2+e×(荷重)2}
とする前記回帰式を作成するステップとを備える、回帰式の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線の屈曲寿命の予測方法、制御装置、および回帰式の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析機器、医用機器、産業機器等は、機器に接続される電気ケーブル等の電線が可動部において屈曲を繰り返すことがある。このような機器は、屈曲の繰り返しによって電線が断線し、使用に支障が生じる可能性がある。したがって、このような機器では、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命を予測できることが望ましい。
【0003】
特開2002-260459号公報(特許文献1)には、電線の屈曲寿命の予測方法として、有限要素法を用いたコンピュータ解析処理によって予測対象の電線の歪み変化量を求め、求めた歪み変化量を予め取得したマスターカーブと照合することによって電線の屈曲寿命を予測することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有限要素法を用いたコンピュータ解析処理による歪み変化量の算出には、専門的な知識に加えて、複雑な演算処理が必要である。
【0006】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、電線の屈曲寿命の予測方法、制御装置、および回帰式の作成方法によって得られる回帰式を用いて電線の屈曲寿命を容易に予測することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、電線の屈曲寿命の予測方法に関する。予測方法は、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータから、第3パラメータに対する第1パラメータおよび第2パラメータの相関を表わす回帰式を取得するステップと、予測対象の電線を屈曲させたときの当該電線の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータおよび当該電線に加える荷重に対応して設定される第2設定パラメータを上記回帰式の第1パラメータおよび第2パラメータとしてそれぞれ用いて、予測対象の電線の屈曲寿命の予測値を算出するステップとを備える。
【0008】
本開示は、電線の屈曲寿命を予測する制御装置に関する。制御装置は、入力インターフェイスと、演算装置と、メモリとを備える。演算装置は、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを用いて、第3パラメータに対する第1パラメータおよび第2パラメータの相関を表わす回帰式を取得してメモリに記憶し、予測対象の電線を屈曲させたときの当該電線の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータおよび当該電線に加える荷重に対応して設定される第2設定パラメータを入力インターフェースを介して取得し、取得した第1設定パラメータおよび第2設定パラメータを上記回帰式の第1パラメータおよび第2パラメータとしてそれぞれ用いて、予測対象の電線の屈曲寿命の予測値を算出する。
【0009】
本開示は、電線の屈曲寿命の予測値を算出するための回帰式を制御装置で作成する方法に関する。回帰式の作成方法は、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを取得するステップと、取得した複数組のデータについて、第1パラメータの対数および第2パラメータの対数を説明変数とし、第3パラメータの対数を目的変数とする重回帰分析を実行するステップと、重回帰分析の結果より偏回帰係数を取得するステップと、偏回帰係数をx,y,zとしたときに、屈曲寿命の予測値=10^{x+y×log10(屈曲半径)+z×log10(荷重)}とする回帰式を作成するステップとを備える。
【0010】
本開示は、電線の屈曲寿命の予測値を算出するための回帰式を制御装置で作成する方法に関する。回帰式の作成方法は、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを取得するステップと、取得した複数組のデータについて、第1パラメータおよび第2パラメータを説明変数とし、第3パラメータの対数を目的変数とする重回帰分析を実行するステップと、重回帰分析の際にk分割交差検証法を用いるとともに、損失関数としてフーバー損失を用いるステップと、k分割交差検証法を用いた検証ごとに、重回帰分析の結果から偏回帰係数を取得するステップと、偏回帰係数をa,b,c,d,eとしたときに、屈曲寿命の予測値=10^{a+b×屈曲半径+c×荷重+d×(屈曲半径)2+e×(荷重)2}とする回帰式を作成するステップとを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の電線の屈曲寿命の予測方法、制御装置、および回帰式の作成方法によって得られる回帰式を用いて電線の屈曲寿命を容易に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る屈曲試験装置の要部の構成を説明するための図である。
【
図2】実施の形態1に係るケーブルの構造を説明するための図である。
【
図3】実施の形態1に係る屈曲半径を説明するための図である。
【
図4】実施の形態1に係る屈曲寿命の予測値の算出処理を示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態1に係る屈曲試験の試験結果を示すデータである。
【
図6】実施の形態1に係る偏回帰係数とP値との関係を示すデータである。
【
図7】実施の形態1に係る試験結果と屈曲寿命の予測値との関係を示すデータである。
【
図8】実施の形態1に係る実測値と残差との関係を示すグラフである。
【
図9】実施の形態1に係る実測値と実測値に対する残差の比率との関係を示すグラフである。
【
図10】実施の形態2に係る屈曲試験の試験結果を示すデータである。
【
図11】実施の形態1と実施の形態2とにおける屈曲寿命の予測精度を説明するための図である。
【
図12】実施の形態2に係る実測値と予測値との関係を示すグラフである。
【
図13】実施の形態2に係る実測値と誤差率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一の符号を付して、その説明は原則的に繰り返さない。
【0014】
[実施の形態1]
図1により実施の形態1に係るケーブル1の屈曲試験に用いられる屈曲試験装置100について説明する。
図1は、実施の形態1に係る屈曲試験装置100の要部の構成を説明するための図である。屈曲試験装置100は、ケーブル1と、マンドレル2と、重り3と、アーム4と、カウンタ5とを含む。
【0015】
ケーブル1は、内部に電気を通す導体が配置された電線である。マンドレル2は、ケーブル1の屈曲の支点となるように、ケーブル1を両側から挟むように配置される。重り3は、ケーブル1の鉛直方向の下端部に取付けられ、ケーブル1に対して荷重を加える。アーム4は、図示しないアクチュエータによって駆動される。アーム4は、ケーブル1の先端部を把持し制御装置50から送信される信号に基づいてアクチュエータが動作することによって、一対のマンドレル2を屈曲支点として左右に180度ケーブル1を屈曲する。屈曲試験では、ケーブル1を左右に180度屈曲することを1回とする屈曲試験をケーブル1が断線するまで繰返す。
【0016】
カウンタ5は、ケーブル1の上端部と下端部とを接続する配線の間に接続され、ケーブル1の屈曲回数を表示する。カウンタ5は、アーム4が基準位置から左右に180°ケーブル1を屈曲し再び基準位置へ戻るサイクルを1サイクルとしたカウント用の信号を制御装置50から受信する。カウンタ5は、制御装置50からの信号の受信によってカウント値を加算する。カウンタ5は、ケーブル1が断線しケーブル1への通電が解除されることによってカウントを停止し、停止信号を制御装置50へ送信する。制御装置50は、停止信号を受信することによってアーム4の動作を停止する。ここで、電線であるケーブル1が断線するまでの屈曲回数を屈曲寿命とも称する。なお、屈曲回数は、アーム4の動作を検出するセンサの信号からカウントしてもよいし、カウンタ5において直接カウントしてもよい。
【0017】
制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)51と、メモリ52と、インターフェイス53とを含む。CPU51は、メモリ52に記憶されたプログラムを実行する。インターフェイス53は、例えば、屈曲試験装置100からのデータの入力を受付ける入力インターフェイスである。CPU51は、ケーブル1の屈曲半径に関する第1パラメータと、ケーブル1に加える荷重に関する第2パラメータと、ケーブル1が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータをインターフェイス53を介して取得する。第1パラメータおよび第2パラメータは、インターフェイス53を介してユーザにより事前に入力される値である。第3パラメータは、カウンタ5から出力されるデータである。CPU51は、これらのデータを用いてケーブル1の屈曲寿命の予測値を算出する処理を実行する。
【0018】
次に、ケーブル1の構造の詳細について説明する。
図2は、実施の形態1に係るケーブル1の構造を説明するための図である。
図2に示すように、ケーブル1は、芯線11と、絶縁体12と、紙テープ13と、編組シールド14と、シース15とを含む。
【0019】
芯線11は、
図2に示すように複数の素線111が束ねられて1本となっている。ケーブル1の芯線11の数は適宜変更可能であり、用途に応じて1本ないし複数本の芯線11が用いられる。実施の形態のケーブル1は、2本の芯線11が用いられる構造である。芯線11は、絶縁体12によって覆われている。紙テープ13は、芯線11と絶縁体12とを固定する機能を有する。編組シールド14は、絶縁体12とシース15との中間位置に配置され、ノイズとなる電磁波を遮蔽する。シース15は、ケーブル1の最も外側の絶縁体の皮膜であり、絶縁体12等を更に保護する。
【0020】
次に、屈曲試験において設定する屈曲半径について説明する。
図3は、実施の形態1に係る屈曲半径を説明するための図である。
図3に示すように、ケーブル1をマンドレル2に沿って屈曲させたときケーブル1が折れ曲がっている部分を屈曲部と称する。屈曲半径Rは、屈曲部の内側にあるシース15および絶縁体12を介した芯線11の表面に沿った弧の曲率半径である。屈曲半径Rは、ケーブル1をマンドレル2に沿って屈曲させたときの芯線11の内側において屈曲が最も大きい位置までの距離に対応する。なお、屈曲半径Rについて、紙テープ13および編組シールド14の厚みは他の部材に比べ薄いため省略しているが、紙テープ13および編組シールド14の厚みを屈曲半径Rに加えてもよい。ケーブル1における芯線11の本数によりマンドレル2の中心から芯線11までの距離が異なるが、芯線11の数によらずマンドレル2の中心から芯線11の内側までの距離が最短となる寸法を屈曲半径Rとすればよい。
【0021】
次に、制御装置50が実行する屈曲寿命の予測値の算出処理について説明する。
図4は、実施の形態1に係る屈曲寿命の予測値の算出処理を示すフローチャートである。屈曲寿命の予測値の算出処理は、CPU51がメモリ52に記憶されている各種プログラムを実行することで実行される。以下では、フローチャート中の各ステップを、単に「S」と表記する。
【0022】
CPU51は、S1において複数の条件における屈曲半径,荷重,屈曲寿命の組合せを取得する。ここで、具体的な屈曲試験の条件および屈曲半径,荷重,屈曲寿命の組合せの取得手順について説明する。屈曲試験は、
図1の屈曲試験装置100を用い、一定の速度(30往復/分)においてケーブル1を左右に180°曲げる試験条件で実行される。屈曲試験に用いられるケーブル1の一例は、芯線11がスズメッキされた軟銅線である。芯線11は、直径0.18mm×34本の素線111から構成される。芯線11の本数は、2本である。絶縁体12は、厚さ0.5mmのポリ塩化ビニルである。シース15は、厚さ1.3mmのポリ塩化ビニルである。紙テープ13と編組シールド14とは、他の部材に比べ薄いため試験条件には考慮していない。
【0023】
図5は、実施の形態1に係る屈曲試験の試験結果を示すデータである。
図5における屈曲半径および荷重は、予め定められる設定範囲内においてユーザが任意に設定可能な数値である。屈曲半径は、例えば、5mm,10mm,20mmに設定される。荷重は、例えば、0.6kg,1.0kg,1.5kg,2.4kg,3.4kgに設定される。なお、屈曲試験において屈曲半径5mmにおいて荷重0.6kg,1.0kg,1.5kgの場合は、ケーブル1がマンドレル2に沿って曲がらないため試験結果から除外している。このように、屈曲試験が正常に実行されない値は、データから除外されるようにすればよい。
【0024】
制御装置50には、ユーザにより設定された屈曲半径と荷重とがインターフェイス53を介して入力される。屈曲試験においてカウンタ5により計測されるカウント値は、制御装置50へ送信される。CPU51は、S1において、このような屈曲試験により第1パラメータとしての屈曲半径と、第2パラメータとしての荷重と、第3パラメータとしての屈曲寿命とを一組とする複数組のデータを取得する。
【0025】
次いで、CPU51は、屈曲寿命の予測値を求めるための回帰式を取得する。具体的にCPU51は、屈曲寿命に対する屈曲半径および荷重の相関を表す回帰式を取得する処理を実行する。回帰式は、例えば、以下のように求める。まず、
図5のような試験結果から屈曲半径、荷重、屈曲寿命の対数をとる。対数の底として常用対数をとる場合について説明する。なお、対数の底は常用対数以外であってもよい。対数をとることによって、最終的に算出される屈曲寿命の予測値における誤差を少なくすることができる。CPU51は、屈曲半径の対数と荷重の対数を説明変数とし、屈曲寿命の対数を目的変数として重回帰分析を行なう。
【0026】
CPU51は、重回帰分析の結果により、log10(定数項),log10(屈曲半径),log10(荷重)の項についての偏回帰係数をx,y,zとした以下の回帰式を取得する。
【0027】
屈曲寿命の予測値=10^{x+y×log
10(屈曲半径)+z×log
10(荷重)}…(式1)
図5のデータにおいて屈曲半径の対数と荷重の対数を説明変数とし、屈曲寿命の対数を目的変数として重回帰分析を実施した結果、偏回帰係数とP値との関係が
図6のようになる。
図6は、実施の形態1に係る偏回帰係数とP値との関係を示すデータである。ここで、P値は、個別の説明変数の1つ1つが目的変数に対して関係があるかどうかを表す指標である。一般的にP値が0.05未満であれば説明変数は目的変数に対して関係性があると言える。
図6に示すように、P値が0であるため説明変数は目的変数に対して関係性があると言える。CPU51は、S2において、(式1)に各偏回帰係数を代入し、以下の回帰式を取得する。
【0028】
屈曲寿命の予測値=10^{2.325+1.574×log10(屈曲半径)-0.635×log10(荷重)}…(式2)
ついで、CPU51は、S2で取得した回帰式に代入する屈曲半径と荷重とを取得する(S3)。回帰式に代入される屈曲半径は、予測対象のケーブル1の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータとしてユーザによって入力される値である。回帰式に代入される荷重は、予測対象のケーブル1に加えられる荷重に対応して設定される第2設定パラメータとしてユーザによって入力される値である。第1設定パラメータおよび第2設定パラメータは、インターフェイス53を介して入力される。
【0029】
ついで、CPU51は、回帰式に屈曲半径と荷重とを代入して、屈曲寿命の予測値を算出し、メモリ52へ格納し(S4)、処理を終了する。
図7は、実施の形態1に係る試験結果と屈曲寿命の予測値との関係を示すデータである。1組の屈曲半径および荷重に対応する屈曲寿命の予測値は、回帰式から
図7のように求まる。屈曲寿命の残差は、屈曲寿命の予測値から屈曲寿命の実測値を減算した値である。
図7における実測値と残差との関係をグラフ化すると
図8のようになり、実測値と実測値に対する残差の比率との関係をグラフ化すると
図9のようになる。
【0030】
図8は、実施の形態1に係る実測値と残差との関係を示すグラフである。
図9は、実施の形態1に係る実測値と実測値に対する残差の比率との関係を示すグラフである。
図7,
図8に示すように、実測値が大きくなると誤差が蓄積していくことによって予測値も大きくなるため、これらの数値の差である残差も大きくなるようなグラフとなっている。
図8のままでは、回帰式の正確な評価が難しいため、実測値と実測値に対する残差の比率との関係を求める。
図7,
図9に示すように、実測値と実測値に対する残差の比率との関係で表すと-16%~+25%の範囲に比率が収まっている。残差の比率は、所定の範囲内に収まっており、大幅にずれてはいない。これによって、上述のように求めた回帰式を用いて屈曲寿命を予測することに問題が無いことが分かる。
【0031】
以上に示した実施の形態1によれば、正確な屈曲寿命を算出することができる回帰式を、屈曲試験により容易に取得することができる。予測対象のケーブル1について、実使用において予定される屈曲半径および荷重に対応する第1設定パラメータおよび第2設定パラメータをそれぞれ求め、算出された設定パラメータを上記の回帰式へ代入することによってケーブル1の屈曲寿命を容易に予測することができる。
【0032】
(変形例)
上述した実施の形態において回帰式は、CPU51によって算出される場合を示したが、予め算出された複数の回帰式を事前にメモリ52に記憶するようにしてもよい。回帰式は、例えば、芯線の本数などにより複数の種類が設けられるようにしてもよい。
【0033】
上述した実施の形態において説明した(式1)は、「特定のケーブル」に対する「屈曲寿命」の予測値を「屈曲半径」と「荷重」とから示すものである。そのため、別の仕様のケーブルに対しては、別の偏回帰係数x,y,zを求める必要がある。その手間をなくすため、(式1)に対して、ケーブルの仕様(素線111の直径、素線111の本数、芯線11の直径、芯線11の本数、絶縁体12の直径、シース15の直径など)を第4以降のパラメータに加えた以下の(式3)に変形してもよい。これにより、様々なケーブルに対する寿命の予測を1つの式により可能とする。
【0034】
屈曲寿命の予測値=10^{x+y×log10(屈曲半径)+z×log10(荷重)+Σwi×(ケーブルの仕様)}…(式3)
なお、(式3)においてケーブルの仕様に対数を取るか否かは問わない。
【0035】
[実施の形態2]
次に、実施の形態2の回帰式の作成方法について説明する。実施の形態2においては、屈曲試験に用いるケーブル1として、たとえば実施の形態1と同じく芯線11がスズメッキされた軟銅線を用いる。実施の形態2で用いるケーブル1の芯線11は、直径0.26mm×26本の素線111から構成される。芯線11の本数は、2本である。芯線11の本数は、1本でもよい。絶縁体12は、厚さ1.0mmのポリ塩化ビニルである。なお、紙テープ13、編組シールド14、およびシース15は、実施の形態1と同様の構成であればよい。
【0036】
図10は、実施の形態2に係る屈曲試験の試験結果を示すデータである。
図10における屈曲半径および荷重は、予め定められる設定範囲内においてユーザが任意に設定可能な数値である。屈曲半径は、例えば、5mm,8mm,10mm,15mm,20mm,30mmに設定される。荷重は、例えば、1.0kg,1.5kg,2.0kg,2.6kg,3.0kg,3.5kgに設定される。
【0037】
次に、実施の形態1と実施の形態2とにおける屈曲寿命の予測精度について説明する。
図11は、実施の形態1と実施の形態2とにおける屈曲寿命の予測精度を説明するための図である。ここでは、一般的な機械学習において、実施の形態の回帰式が用いられる場合を例に説明する。
【0038】
機械学習では、取得した全データを元に学習することによって、予測モデルを作成する。予測モデルは、たとえば、全データを学習用のデータ(学習データとも称する)と評価用のデータ(テストデータとも称する)とに分割して評価する手法によってテストされる。実施の形態1では、データの分割・評価方法としてホールドアウト法を用いる場合がある。ホールドアウト法は、学習データで回帰分析を実施して予測式を導出し、テストデータで予測した結果を評価する手法である。しかしながら、ホールドアウト法は、データの分割と評価とを1度のみ実施する手法であるため、データに外れ値などの偏りがあると偶発的に結果が変わりやすい。
【0039】
それに対し、実施の形態2では、データの分割・評価方法としてk分割公差検証法を用いる。k分割公差検証法は、データをk個のグループに分けて、その内k-1個のグループのデータを学習データとして回帰分析を行ない、残りの1個のグループのデータをテストデータとして評価を行なう。k分割公差検証法では、全てのグループのデータが1回ずつテストデータになるようデータの入れ替えをk回繰り返し、評価結果の平均値をとる。このため、元のデータの誤差の偏りの影響を受けにくい。実施の形態2では、たとえば、k=4として検証を実行する。
【0040】
実施の形態1では、回帰式に全ての変数を対数変換した1次の線形重回帰式を用いる。それに対し、実施の形態2の回帰式は、屈曲寿命のみ対数変換をした2次の線形重回帰式を用いる。また、実施の形態1では、損失関数に残差平方和を用いる場合がある。それに対し実施の形態2では、損失関数にフーバー損失を用いる。ここで、損失関数とは、予想結果と真の値との誤差を評価する関数である。損失関数の値が小さいほど誤差が小さい。
【0041】
残差平方和は、各データに対して実測値と予測値との差(残差)の二乗値を計算し、それを総和した値を出力する関数である。フーバー損失は、残差に閾値を設け、残差が閾値よりも小さい場合は二乗し、残差が閾値よりも大きい(外れ値になる可能性が高い)場合は絶対値を取る関数である。
【0042】
上記の条件で屈曲寿命の予測精度を絶対平均誤差率(Mean Absolute Percentage Error、MAPEとも称する)で表すと、実施の形態1は58.3%であり、実施の形態2は32.6%であった。MAPEは、実測値と予測値との差を実測値で割った値の絶対値を求め、求めた絶対値の総和をデータ数で割った値に100をかけたものである。今回の各実施の形態では、屈曲寿命が数百回から数万回までの桁数の異なるデータである。このため、平均的な誤差よりも誤差の比率で評価するMAPEの方が適切に予測精度を評価できる。
図11に示すように、実施の形態2の方が実施の形態1よりも誤差率が低下しているため、屈曲寿命の予測精度が高いと言える。
【0043】
実施の形態2の制御装置50(CPU51)は、
図4の処理と同様の処理を実行する。CPU51は、S1において、屈曲試験により第1パラメータとしての屈曲半径と、第2パラメータとしての荷重と、第3パラメータとしての屈曲寿命とを一組とする複数組のデータを取得する。
【0044】
次いで、CPU51は、屈曲寿命の予測値を求めるための回帰式を取得する。具体的にCPU51は、屈曲寿命に対する屈曲半径および荷重の相関を表す回帰式を取得する処理を実行する。回帰式は、例えば、以下のように求める。まず、
図10のような試験結果から屈曲寿命の対数をとる。対数の底として常用対数をとる場合について説明する。なお、対数の底は常用対数以外であってもよい。CPU51は、屈曲半径と荷重とを説明変数とし、屈曲寿命の対数を目的変数として重回帰分析を行なう。
【0045】
CPU51は、重回帰分析を行なう際、
図11に示したk分割公差検証法を用いるとともに、損失関数としてフーバー損失を用いる。CPU51は、k分割交差検証法を用いた検証ごとに、重回帰分析の結果により、1次の項である(定数項),(屈曲半径),(荷重)、2次の項である(屈曲半径),(荷重)についての偏回帰係数をa,b,c,d,eとした以下の回帰式を取得する。
【0046】
屈曲寿命の予測値=10^{a+b×(屈曲半径)+c×(荷重)+d×(屈曲半径)2+e×(荷重)2}…(式4)
ついで、CPU51は、上記(式4)の回帰式に代入する屈曲半径と荷重とを取得する(S3)。回帰式に代入される屈曲半径は、予測対象のケーブル1の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータとしてユーザによって入力される値である。回帰式に代入される荷重は、予測対象のケーブル1に加えられる荷重に対応して設定される第2設定パラメータとしてユーザによって入力される値である。第1設定パラメータおよび第2設定パラメータは、インターフェイス53を介して入力される。
【0047】
ついで、CPU51は、回帰式に屈曲半径と荷重とを代入して、屈曲寿命の予測値を算出し、メモリ52へ格納し(S4)、処理を終了する。
図12は、実施の形態2に係る実測値と予測値との関係を示すグラフである。
図13は、実施の形態2に係る実測値と誤差率との関係を示すグラフである。
図12に示すように、実測値と予測値と間に大きなズレが生じない比例関係のグラフとなった。また、
図13に示すように、実測値と誤差率との間において実測値の回数に関わらず、誤差率が0%に近い値が多く得られるグラフとなっった。これによって、(式4)の回帰式を用いて屈曲寿命を予測することに問題が無いことが分かる。
【0048】
以上に示した実施の形態2によれば、正確な屈曲寿命を算出することができる回帰式を、屈曲試験により容易に取得することができる。予測対象のケーブル1について、実使用において予定される屈曲半径および荷重に対応する第1設定パラメータおよび第2設定パラメータをそれぞれ求め、算出された設定パラメータを上記の回帰式へ代入することによってケーブル1の屈曲寿命を容易に予測することができる。
【0049】
[態様]
上述した例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0050】
(第1項) 一態様に係る電線の屈曲寿命の予測方法であって、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータから、第3パラメータに対する第1パラメータおよび第2パラメータの相関を表わす回帰式を取得するステップと、予測対象の電線を屈曲させたときの当該電線の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータおよび当該電線に加える荷重に対応して設定される第2設定パラメータを上記回帰式の第1パラメータおよび第2パラメータとしてそれぞれ用いて、予測対象の電線の屈曲寿命の予測値を算出するステップとを備える。
【0051】
第1項に記載の予測方法によれば、取得した回帰式を用いて予測対象の電線の屈曲寿命を容易に予測することができる。
【0052】
(第2項) 第1項に記載の予測方法は、第1パラメータ、第2パラメータ、および第3パラメータは、屈曲試験装置を用いた屈曲試験から取得し、第1設定パラメータおよび第2設定パラメータは、ユーザによって設定される。
【0053】
第2項に記載の予測方法によれば、屈曲試験装置を用いた屈曲試験から第1パラメータ、第2パラメータ、および第3パラメータを取得できるとともに、ユーザの設定から第1設定パラメータおよび第2設定パラメータを取得することができる。
【0054】
(第3項) 第1項または第2項に記載の予測方法によれば、電線は、導電性を有する芯線と、芯線の外側を覆う絶縁体と、絶縁体の外側を覆うシースとを少なくとも備えたケーブルから構成される。屈曲半径は、ケーブルを屈曲させたときの内側にあるシースおよび絶縁体を介した芯線の表面に沿った弧の曲率半径である。
【0055】
第3項に記載の予測方法によれば、シースおよび絶縁体の厚みを考慮することによって正確に電線の屈曲寿命を予測することができる。
【0056】
(第4項) 一態様に係る電線の屈曲寿命を予測する制御装置であって、入力インターフェースと、演算装置と、メモリとを備える。演算装置は、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを用いて、第3パラメータに対する第1パラメータおよび第2パラメータの相関を表わす回帰式を取得してメモリに記憶し、予測対象の電線を屈曲させたときの当該電線の屈曲半径に対応して設定される第1設定パラメータおよび当該電線に加える荷重に対応して設定される第2設定パラメータを入力インターフェイスを介して取得し、取得した第1設定パラメータおよび第2設定パラメータを回帰式の第1パラメータおよび第2パラメータとしてそれぞれ用いて、予測対象の電線の屈曲寿命の予測値を算出する。
【0057】
第4項に記載の制御装置によれば、取得した回帰式を用いて予測対象の電線の屈曲寿命を容易に予測することができる。
【0058】
(第5項) 一態様に係る回帰式の作成方法は、電線の屈曲寿命の予測値を算出するための回帰式を制御装置で作成する方法であって、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを取得するステップと、取得した複数組のデータについて、第1パラメータの対数および第2パラメータの対数を説明変数とし、第3パラメータの対数を目的変数とする重回帰分析を実行するステップと、重回帰分析の結果より偏回帰係数を取得するステップと、偏回帰係数をx,y,zとしたときに、屈曲寿命の予測値=10^{x+y×log10(屈曲半径)+z×log10(荷重)}とする回帰式を作成するステップとを備える。
【0059】
第5項に記載の回帰式の作成方法によれば、取得した回帰式を用いて予測対象の電線の屈曲寿命を容易に予測することができる。
【0060】
(第6項) 一態様に係る回帰式の作成方法は、電線の屈曲寿命の予測値を算出するための回帰式を制御装置で作成する方法であって、電線の屈曲半径に関する第1パラメータと、電線に加える荷重に関する第2パラメータと、電線が断線するまでの屈曲回数である屈曲寿命に関する第3パラメータとを一組とする複数組のデータを取得するステップと、取得した複数組のデータについて、第1パラメータおよび第2パラメータを説明変数とし、第3パラメータの対数を目的変数とする重回帰分析を実行するステップと、重回帰分析の際にk分割交差検証法を用いるとともに、損失関数としてフーバー損失を用いるステップと、k分割交差検証法を用いた検証ごとに、重回帰分析の結果から偏回帰係数を取得するステップと、偏回帰係数をa,b,c,d,eとしたときに、屈曲寿命の予測値=10^{a+b×(屈曲半径)+c×(荷重)+d×(屈曲半径)2+e×(荷重)2}とする回帰式を作成するステップとを備える。
【0061】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 ケーブル、2 マンドレル、3 重り、4 アーム、5 カウンタ、11 芯線、12 絶縁体、13 紙テープ、14 編組シールド、15 シース、50 制御装置、51 CPU、52 メモリ、53 インターフェイス、100 屈曲試験装置、111 素線。