(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152632
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 17/22 20060101AFI20241018BHJP
【FI】
C01B17/22
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024044368
(22)【出願日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】10-2023-0049611
(32)【優先日】2023-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】524108547
【氏名又は名称】株式会社 イス スペシャリティ ケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】金 昌國
(72)【発明者】
【氏名】金 洙賢
(72)【発明者】
【氏名】黄 讚九
(72)【発明者】
【氏名】池 原昊
(72)【発明者】
【氏名】朴 鎭渉
(72)【発明者】
【氏名】姜 膝起
(72)【発明者】
【氏名】金 光彦
(72)【発明者】
【氏名】金 ジュンミン
(72)【発明者】
【氏名】李 スンジン
(72)【発明者】
【氏名】任 慧彬
(57)【要約】 (修正有)
【課題】硫化リチウムの製造時に炭酸系不純物を効果的に除去して高純度の硫化リチウムを得ることができる硫化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】水酸化リチウム原料を不活性気体雰囲気下で前処理するステップ(ステップ1)と、硫化水素気体を1次投入して、前記前処理された水酸化リチウム原料と硫化水素とを乾式反応させるステップ(ステップ2)と、前記ステップ2の反応終了後、反応生成物を不活性気体雰囲気下で昇温するステップ(ステップ3)と、硫化水素気体を2次投入して熱処理するステップ(ステップ4)と、を含む、硫化リチウムの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化リチウム原料を不活性気体雰囲気下で前処理するステップ(ステップ1)と、
硫化水素気体を1次投入して、前記前処理された水酸化リチウム原料と硫化水素とを乾式反応させるステップ(ステップ2)と、
前記ステップ2の反応終了後、反応生成物を不活性気体雰囲気下で昇温するステップ(ステップ3)と、
硫化水素気体を2次投入して熱処理するステップ(ステップ4)と、を含む、
硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記ステップ1は、170ないし450℃で行われる、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記ステップ2で、ステップ1の水酸化リチウム原料と硫化水素気体のモル比が、1:0.5ないし1:50となるように硫化水素気体を1次投入する、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記ステップ2は、水を除去しながら行われる、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記ステップ3は、230℃ないし400℃まで昇温する、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記ステップ4で、ステップ1の水酸化リチウム原料と硫化水素気体のモル比が、1:5ないし1:50となるように硫化水素を2次投入する、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記ステップ2で1次投入される硫化水素気体と前記ステップ4で2次投入される硫化水素気体のモル比は、1:0.5ないし1:50である、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記ステップ4は、3時間ないし10時間行われる、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項9】
前記ステップ1ないしステップ4を一容器工程(one-pot process)で行う、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項10】
IC(Ion chromatography)分析結果、製造された硫化リチウムの質量を基準に、炭酸リチウムを5,000ppm以下で含む、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一項に記載の製造方法で製造された、硫化リチウム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2023年4月14日付の韓国特許出願第10-2023-0049611号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
本発明は、硫化リチウムの製造方法に関するものである。より具体的には、硫化リチウムの製造後、処理ステップで硫化水素を用いた高純度の硫化リチウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、二次電池産業の発達につれて、固体電解質物質の使用可能性が高くなっている。そのうち、硫化リチウム(Li2S)と塩化リチウム(LiCl)および五硫化リン(P2S5)を原料として使用し合成される硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質と比較して高いイオンの伝導度を有し、広い電圧範囲で安定したものと評価されている。
【0003】
硫化物系固体電解質の主原料である硫化リチウムは、一般に固体のリチウム前駆体と気体の硫黄前駆体を反応させて製造される。従来の硫化リチウムの製造に関する研究は、硫化リチウムの前駆体の選択に関連する硫化リチウムの合成方法に関する研究が主に行われてきた。以降、硫化リチウム合成の他にも、製造された硫化リチウムの性能改善に対する研究が注目されていている。硫化リチウムの性能改善については主に製造された硫化リチウム粒子を制御する技術に関するものであって、一例として、硫化リチウムの粒子大きさを制御するか、硫化リチウムの比表面積を制御するための技術(JP2019-156691A)が提示されている。
【0004】
一方、固体電解質の性能の面で、硫化リチウム内に含有された不純物は、固体電解質の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、硫化リチウム粒子自体を制御する技術の他にも、硫化リチウム内の不純物を低減するための研究が一部進められている。硫化リチウムを製造する方法としては、溶媒を使用する湿式工程と溶媒を使用しない乾式工程とがある。湿式工程は、硫化リチウムの製造後に溶媒を効果的に除去してこそ不純物含有量を下げることができる。しかし、この場合、溶媒を効果的に除去するためには限界があり、溶媒除去のための追加的な費用が発生する点で問題がある。
【0005】
また、硫化リチウムの製造時に使用されるリチウム前駆体のうち水酸化リチウム(LiOH)は、一部炭酸系不純物が存在することが一般的である。水酸化リチウム内に存在する炭酸系不純物まで硫化リチウムに切り替えるためには、水酸化リチウムを1,000℃以上の温度で加熱し、いずれも酸化リチウム(Li2O)形態に切り替えた後、硫化リチウムとして合成する方法が提示されているが、極度の高温が必要となり、商用化工程への適用が難しいという問題がある。
【0006】
前記のような硫化リチウムの製造方法の問題を解決して、高純度の硫化リチウムを製造する技術に対する研究が必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硫化リチウムの製造時に不純物を効果的に除去して高純度の硫化リチウムを得ることができる硫化リチウムの製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水酸化リチウム原料を不活性気体雰囲気下で前処理するステップ(ステップ1)と、硫化水素気体を1次投入して、前記前処理された水酸化リチウム原料と硫化水素とを乾式反応させるステップ(ステップ2)と、前記ステップ2の反応終了後、反応生成物を不活性気体雰囲気下で昇温するステップ(ステップ3)と、硫化水素気体を2次投入して熱処理するステップ(ステップ4)と、を含む、硫化リチウムの製造方法を提供する。
また、本発明は、本発明の製造方法によって製造された硫化リチウムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る硫化リチウムの製造方法は、硫化リチウム内の不純物を最少化して高純度の硫化リチウムを製造することができる。より具体的には、製造された硫化リチウム内の炭酸系不純物を最少化し、固体電解質原料としての性能に優れた硫化リチウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施例によって製造された硫化リチウムと商用硫化リチウムのX線回折の分析(X-Ray Diffraction、XRD)結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明ために使用され、前記用語は、一つの構成要素を他の構成要素と区別するための目的だけで使用される。
また、本明細書で使用される用語は、単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであって、本発明を限定しようとする意図ではない。
単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。
本明細書で、「含む」、「備える」または「有する」等の用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素またはこれらを組み合わせを説明するためのものであって、一つまたはその以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、これらの組み合わせまたは付加の可能性を排除するのではない。
また、本明細書において、各層または要素が各層または要素の「上に」または「の上に」形成されるものと言及される場合には、各層または要素が直接各層または要素の上に形成されるのを意味するか、他の層または要素が各層の間、対象体、基材上に追加的に形成できるのを意味する。
本発明は、多様な変更を加えることができ、色々な形態を有することができるので、特定の実施例を例示し、下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に限定するものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物または代替物を含むものと理解されなければならない。
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0013】
本発明は、水酸化リチウム原料を不活性気体雰囲気下で前処理するステップ(ステップ1)と、硫化水素気体を1次投入して、前記前処理された水酸化リチウム原料と硫化水素とを乾式反応させるステップ(ステップ2)と、前記ステップ2の反応終了後、反応生成物を不活性気体雰囲気下で昇温するステップ(ステップ3)と、硫化水素気体を2次投入して熱処理するステップ(ステップ4)と、を含む、硫化リチウムの製造方法を提供する。
【0014】
本明細書で「水酸化リチウム原料」は、水酸化リチウム塩の形態であれば特に制限されないが、一例として、水酸化リチウム一水和物であってもよい。また、本明細書で「水酸化リチウム原料」には、微量の不純物が含まれた形態であってもよい。また、本発明で「水酸化リチウム原料」の粒子大きさは特に制限されない。
【0015】
水酸化リチウムまたは水酸化リチウム一水和物は、他のリチウム塩に比べて分解温度が低く、比較的に穏やかな条件で硫化リチウム合成が可能で、硫化リチウムの製造時にリチウム前駆体として使用するのに適した面がある。しかし、水酸化リチウムおよび水酸化リチウム一水和物は吸湿性があり、大気中に露出したとき、二酸化炭素(CO2)によって炭酸リチウム(Li2CO3)に急速に切り替えられるが、切り替えられた炭酸リチウムは高温だけで分解されるので、一般的な方法では除去が容易でなく、硫化リチウムの製造後にも不純物として存在して固体電解質性能、つまりイオンの伝導度の下落など悪影響を及ぼす可能性がある。
【0016】
そのため、本発明の発明者は、硫化リチウムの製造時に、硫黄前駆体として使用される硫化水素気体を1次投入して水酸化リチウム原料と反応させた後、硫化水素気体を2次投入して熱処理するステップを追加で行うことによって、未反応原料および炭酸リチウムを効果的に低減して高純度の硫化リチウムの製造が可能であることを確認することによって、本発明を完成した。さらに、本発明は、前述した水酸化リチウム原料と硫化水素気体の反応において、溶媒を使用しないため、溶媒使用による追加的な不純物発生の可能性を遮断することができた。
【0017】
本発明のステップ1は、水酸化リチウム原料を不活性気体雰囲気下で前処理するステップであって、ステップ1を通じて水酸化リチウム原料を昇温させ、ステップ2の反応ステップで硫化水素との反応が容易となるように反応を準備するステップである。また、水酸化リチウム原料として水酸化リチウム一水和物を使用する場合、本発明のステップ1を通じて水酸化リチウム一水和物を無水物に切り替え、後述するステップの硫化水素気体の反応を可能にすることができる。
【0018】
前記不活性気体の例としては特別な制限がないが、一例として、窒素、アルゴン、ヘリウムおよびこれらの混合気体を使用してもよい。
【0019】
また、前記ステップ1は、170℃ないし450℃で行われてもよい。前記ステップ1が170℃未満で行われる場合、水酸化リチウム原料内の水分除去が容易でないので、原料内の水分が十分に抜け出せず、硫化リチウム合成時に逆反応を引き起こすなど悪影響を及ぼす可能性があり、450℃超過で行われる場合、水酸化リチウム原料が融解する可能性があるため、前記範囲で行うことが好ましい。好ましくは、前記ステップ1は、175℃以上、180℃以上、185℃以上、190℃以上、または195℃以上で、かつ225℃以下、220℃以下、215℃以下、210℃以下、または205℃以下で行われてもよい。
【0020】
本発明のステップ2は、硫化水素気体を1次投入して、前記前処理された水酸化リチウム原料と硫化水素とを乾式反応させるステップである。前述のように、本発明は、リチウム前駆体として固体状の水酸化リチウム原料を使用し、硫黄前駆体として気体状の硫化水素を使用し、これらを溶媒の不存在下で乾式で反応させる製造方法に関するものである。
【0021】
本発明のステップ2は、前記ステップ1の前処理ステップの温度と同一または異なる温度で行ってもよい。より具体的には、ステップ2の反応ステップは、原料の前処理ステップと同一の温度で行ってもよく、ステップ1の温度を基準に、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、または150℃に昇温するか、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、または150℃に減温して行ってもよい。
【0022】
好ましくは、前記ステップ2で、ステップ1の水酸化リチウム原料と硫化水素気体のモル比が、1:0.5ないし1:50となるように硫化水素気体を1次投入してもよい。水酸化リチウム原料に対する硫化水素気体のモル比が1:0.5未満の場合、硫化水素と水酸化リチウム原料の反応性が低くなるため反応時間が長くなり、工程効率が減少する可能性がある。より好ましくは、水酸化リチウムと硫化水素気体のモル比が、1:1ないし1:40、または1:1ないし1:35、または1:1ないし1:30のモル比となるように硫化水素気体を1次投入してもよい。
【0023】
また、本発明のステップ2は、水を除去しながら行われてもよい。水酸化リチウム原料と硫化水素気体反応で生成される水を反応系で除去することによって、水酸化リチウムの吸湿による凝集現象などを防止して反応を促進することができる。このように、反応ステップで水を除去する方法としては当業界で広く知られた技術を活用することができる。一例として、硫化水素気体とともに出る蒸気状の水を凝縮機を用いて凝縮して液体形態に除去し、気体状の硫化水素は再び反応器に導入する方法で水の除去が可能である。前記過程で水が少量でもまともに抜け出せない場合、逆反応によって硫化リチウムが再び水酸化リチウムに切り替えられ、硫化リチウムを含む反応生成物には水酸化リチウムが残っている可能性がある。
【0024】
本発明のステップ3は、前記ステップ2の反応終了後、反応生成物を不活性気体雰囲気下で昇温するステップである。反応が終了したか否かは、水酸化リチウム原料と硫化水素気体の反応において、水の発生の有無を観察してステップ2の反応が終了することを確認できる。つまり、本発明のステップ3は、水が追加的に発生しないことを確認した後、不活性気体雰囲気下で昇温して、硫化水素気体の2次投入による熱処理ステップを準備するステップである。
【0025】
一方、ステップ3での不活性気体は、前記ステップ1と同一または異なってもよく、不活性気体に関する説明は前述したものを参考にする。
【0026】
好ましくは、前記ステップ3は、230℃ないし400℃で行われてもよい。230℃未満で行われる場合、後述するステップ4で不純物である炭酸リチウムが効果的に除去できないという問題があり、400℃超過で行われる場合、工程効率が低くなるという問題があり得る。より好ましくは、235℃以上、240℃以上、245℃以上、または250℃以上で、かつ390℃以下、380℃以下、370℃以下、360℃以下、または350℃以下で行われてもよい。さらに、本発明のステップ3は、ステップ1より高温に昇温してもよい。
【0027】
本発明のステップ4は、硫化水素気体を2次投入して熱処理するステップである。前述のように、ステップ1ないし3を通じて製造された硫化リチウムには、未反応の水酸化リチウム原料と炭酸リチウムとが存在する可能性がある。そのため、未反応の水酸化リチウムおよび炭酸リチウムを硫化リチウムに切り替えるための工程であって、前述したステップ2の硫化水素気体の1次投入ステップと別途に硫化水素気体を2次投入して熱処理することによって、硫化リチウム内の未反応の水酸化リチウム原料および炭酸リチウムを除去することができ、高純度の硫化リチウムの製造が可能である。
【0028】
一方、本発明のステップ4は、ステップ3で昇温した温度と同一または異なる温度条件で行われてもよく、一例として、ステップ3の温度と同一の温度で行われてもよい。
【0029】
好ましくは、前記ステップ4で、ステップ1の水酸化リチウム原料と硫化水素気体のモル比が、1:5ないし1:50となるように硫化水素を2次投入してもよい。前記範囲の量で硫化水素気体を投入することが、硫化リチウムに含まれた炭酸リチウムが硫化水素との接触を容易にすることによって、炭酸リチウムが硫化リチウムに切り替えられるのに有利で、前記範囲から外れる場合、炭酸リチウムが硫化リチウムに効果的に切り替えられないという問題が発生する可能性がある。より好ましくは、ステップ1の水酸化リチウムと硫化水素気体のモル比が、1:6ないし1:45、または1:7ないし1:40、または1:8ないし1:35、または1:9ないし1:30であってもよい。
【0030】
また、好ましくは、前記ステップ2で1次投入される硫化水素気体と前記ステップ4で2次投入される硫化水素気体のモル比は、1:0.5ないし1:50であってもよい。前記範囲で硫化水素気体を投入することが硫化水素と水酸化リチウムとの接触を円滑にして反応性を向上させるの面で利点があり、前記範囲から外れて少量で投入される場合、反応性が低下して未反応の水酸化リチウムが残留する可能性があり、過剰で投入される場合、工程効率が低下する可能性がある。より好ましくは、1次投入される硫化水素気体と2次投入される硫化水素気体のモル比は、1:8ないし1:45、または1:10ないし1:40、または1:10ないし1:30であってもよい。
【0031】
一方、前記ステップ4の熱処理ステップは、3時間ないし10時間行われてもよい。熱処理ステップが3時間未満で行われる場合、不純物が効果的に除去できないという問題があり、10時間超過で行われる場合、工程効率が低下するという問題があり得る。より好ましくは、前記ステップ4の熱処理ステップは、4時間以上または5時間以上で、かつ8時間以下または7時間以下で行われてもよい。
【0032】
一方、本発明の一具現例によると、前記ステップ1ないしステップ4を一容器工程(one-pot process)で行ってもよい。ここで、「一容器工程(one-pot process)」という用語は、本発明の一連の製造ステップにおいて、最終生成物の回収前に任意の中間体の単離を含まず、一つの反応容器の中で一連のステップを行うことを意味する。
【0033】
水酸化リチウム原料の乾燥ステップと硫化リチウムの投入を通じて行われる合成ステップおよび熱処理ステップを別個の反応器で行う場合、固体状の原料物質の移送過程で追加費用が発生する可能性があり、前述のように、水酸化リチウム原料は、大気露出時に急速に炭酸リチウムに切り替えられるため、乾燥された原料物質の汚染が発生する可能性がある。一具現例の硫化リチウムの製造方法によると、水酸化リチウム原料を反応器に導入して乾燥した後、溶媒を導入せず、硫化水素を1次投入して反応を行って硫化リチウム合成を行い、窒素雰囲気で昇温した後、硫化水素を2次投入して熱処理を行う、一連の過程を同一の反応器で行って、前述した移送および大気露出による汚染問題の発生を遮断することができる。
【0034】
また、前述した一容器反応(one-pot reaction)で行う場合、反応器の形態は特別な制限がなく、回分式反応器(batch reactor)、半回分式反応器(semi-batch reactor)、連続式反応器(flow reactor)、流動層反応器(fluidized reactor)などが挙げられる。
【0035】
前述した本発明の硫化リチウムの製造方法によると、IC(Ion chromatography)分析結果、製造された硫化リチウムの質量を基準に、炭酸リチウムを5,000ppm以下で含んでもよい。好ましくは、硫化リチウム質量を基準に炭酸リチウムを、4,500ppm以下、4,200ppm以下、4,000ppm以下、3,500ppm以下、3,000ppmn以下、または2,000ppm以下で含んでもよい。
【0036】
一方、本発明は、前述した製造方法によって製造された硫化リチウムを提供することができる。前述のように、本発明の硫化リチウムは、除去が容易でない炭酸系不純物の量が5,000ppm以下で高純度の硫化リチウムであって、固体電解質物質の製造時に優れた性能を実現することができる。
【0037】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述することにする。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が決められるものではない。
【0038】
〔実施例〕
【0039】
実施例1
水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)17gを窒素(N2)雰囲気で200℃まで昇温し、2時間維持して前処理した。以降、水酸化リチウム(LiOH)を反応容器に移し、水酸化リチウム(LiOH)と硫化水素(H2S)のモル比が1:1となるように硫化水素(H2S)を1次投入した。200℃で副生成物である水を除去しながら水がそれ以上発生しない時まで反応を行った。水がそれ以上発生しないことを確認すると、硫化水素(H2S)の注入を中断し、硫化リチウム(Li2S)を含む反応生成物を反応器から回収して熱処理装置に移した。窒素環境で熱処理装置の温度を250℃に昇温した。以降、最初に投入される水酸化リチウム(LiOH)と硫化水素(H2S)のモル比が1:10となるように硫化水素(H2S)を2次投入して、250℃で6時間熱処理を行って、硫化リチウムを製造した。
【0040】
実施例2
熱処理温度を300℃に変更した以外には、実施例1と同一の製造方法で硫化リチウムを製造した。
【0041】
実施例3
熱処理温度を350℃に変更した以外には、実施例1と同一の製造方法で硫化リチウムを製造した。
【0042】
実施例4
反応器に水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)72gを入れ、窒素(N2)雰囲気で200℃まで昇温した。このとき、水酸化リチウム一水和物と窒素との比率は、モル数を基準に1:5となるように窒素を注入した。反応器温度が200℃に到達した後、5時間温度を維持させて前処理した。窒素の注入を止め、水酸化リチウム一水和物と硫化水素のモル比が1:1となるように硫化水素を1次投入した。200℃で副生成物である水を除去しながら5時間反応を行った。水がそれ以上発生しないことを確認した後、硫化水素の注入を中断し、窒素環境で350℃に昇温した。以降、最初に投入される水酸化リチウム一水和物と硫化水素のモル比が1:10となるように硫化水素を2次投入して、350℃で6時間熱処理を行った。前記過程の前処理、反応および熱処理各ステップを行うときに反応器を開けずにOne-potで行って、硫化リチウムを製造した。
【0043】
比較例1
水酸化リチウム(LiOH)17gを入れ、窒素(N2)環境で200℃まで昇温した。200℃に到達した後、水酸化リチウム(LiOH)と硫化水素(H2S)のモル比が1:1となるように硫化水素(H2S)を1次投入し、副生成物である水を除去しながら水がそれ以上発生しない時まで反応を行った。
【0044】
実験例1:X線回折の分析
前記実施例1で製造した硫化リチウムに対してX線回折の分析(X-Ray Diffraction、XRD)を行った。XRD装備としては、Rigaku社のUltima IVを使用して常温で測定を行い、その結果を
図1に示した。
図1で確認できるように、XRD分析結果、本発明の実施例によって製造された硫化リチウムは、reference物質として使用された商用硫化リチウム粉末と同一の位置でピークを観察することができた。
【0045】
実験例2:炭酸リチウム含有量の分析
前記実施例および比較例で製造した硫化リチウムに対して、Ion Chromatography(IC)を用いて原料物質または硫化リチウムの質量を基準に、炭酸リチウム(Li2CO3)含有量を測定した。IC分析機器は、Thermofisher社のICS-6000を用い、その結果を下記の表1に示した。
【0046】
【0047】
前記の表1で確認できるように、本発明の硫化リチウムの製造方法によると、原料物質内に含まれていた炭酸系不純物を効果的に除去して、高純度の硫化リチウムの製造が可能であることを確認することができた。
【外国語明細書】