(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024152637
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに炭素含有部材
(51)【国際特許分類】
C25B 1/18 20060101AFI20241018BHJP
C25B 9/09 20210101ALI20241018BHJP
C01B 32/942 20170101ALI20241018BHJP
C01B 32/935 20170101ALI20241018BHJP
【FI】
C25B1/18
C25B9/09
C01B32/942
C01B32/935
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048286
(22)【出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023064932
(32)【優先日】2023-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐太
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 智弘
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【テーマコード(参考)】
4G146
4K021
【Fターム(参考)】
4G146MA11
4G146MA20
4G146NA04
4G146NB20
4K021AB01
4K021AB03
4K021BB03
4K021DC11
(57)【要約】
【課題】比較的低温下で、速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることのできる製造方法、得られた金属カーバイドから炭化水素を製造する方法、ならびに、金属カーバイドを担持した炭素含有部材を提供する。
【解決手段】アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、炭素を含む電極を準備すること、および、前記電極を用いて、前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、を備える、金属カーバイドの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、
炭素を含む電極を準備すること、および、
前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、を備える、金属カーバイドの製造方法。
【請求項2】
前記溶融塩は、炭酸イオンを実質的に含まない、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項3】
前記電極は、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンドよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項4】
前記電極は、高配向性熱分解黒鉛を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項5】
前記溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項6】
前記溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの双方を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項7】
前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、塩化物イオンを含む、請求項5または6に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項8】
前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、フッ化物イオンを含む、請求項5または6に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項9】
前記金属カーバイド組成物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項10】
前記溶融塩は、前記第1金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される1種と、カルシウムイオンとを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項11】
アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、
炭素を含む電極を準備すること、
前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、および、
前記第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスを得ることを含む、炭化水素の製造方法。
【請求項12】
前記炭化水素は、アセチレンである、請求項11に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項13】
前記ガスは、前記炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項11または12に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項14】
炭素を含む基体と、
前記基体に担持された、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物と、を含む、炭素含有部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに炭素含有部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチレンは、様々な有機化合物の原料として、工業的に重要な物質である。アセチレンは、通常、金属カーバイド(主に、カルシウムカーバイド)と水との反応により得られる。
【0003】
カルシウムカーバイドは、一般に、生石灰(酸化カルシウム)とコークスとの混合物を、電気炉内で高温に加熱することにより得られる(例えば、特許文献1)。特許文献2は、カルシウムカーバイドの製造に関し、コークスを予めブリケットにしてから生石灰と混合することを提案している。特許文献3は、塩化リチウムを溶融電解して得られる金属リチウムと、カーボンブラック等の炭素粉末とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。非特許文献1は、水酸化リチウムを溶融塩電解して得られた金属リチウムと、二酸化炭素等の炭素源とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。非特許文献2は、金属リチウムと炭素とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-178412号公報
【特許文献2】特開2018-35328号公報
【特許文献3】特開平2-256626号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McEnaney JM, Rohr BA, Nielander AC, Singh AR, King LA, Norskov JK, Jaramillo TF, “A cyclic electrochemical strategy to produce acetylene from CO2, CH4, or alternative carbon sources.”, Sustain Energy Fuels 4:2, 752-2759 (2020)
【非特許文献2】Uwe Ruschewitz, “Binary and ternary carbides of alkali and alkaline-earth metals”, Coordination Chemistry Reviews 244, 115-136 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属カーバイドを製造するには、通常、原料を2000℃以上に加熱する必要がある。そのため、エネルギー効率が低いうえ、大量の二酸化炭素が生成するという問題がある。また、特許文献1~3では、金属カーバイドの炭素源として炭素そのものを使用している。非特許文献1には、炭素源として二酸化炭素を用いた場合、リチウムカーバイドの収率は計算上20%を超えないが、炭素源として炭素を用いることでリチウムカーバイドの収率を上げることができると記載されている。しかしながら、これを裏付ける実験データは示されていない。非特許文献2には、炭素源としてアモルファスカーボンあるいはグラファイトを用いることが記載されているが、結晶性のリチウムカーバイドを生成するには、800℃から900℃の金属リチウムの蒸気を接触させるか、あるいは、概ね3500℃以上アーク溶融炉内で金属リチウムと接触させる必要がある。
【0007】
本開示は、(例えば、800℃以下の)比較的低温下で、速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。本開示はさらに、得られた金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を提供する。加えて、本開示は、金属カーバイドを担持した炭素含有部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、下記の態様を含む。
[1]アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、
炭素を含む電極を準備すること、および、
前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、を備える、金属カーバイドの製造方法。
【0009】
[2]前記溶融塩は、炭酸イオンを実質的に含まない、上記[1]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0010】
[3]前記電極は、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンドよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]または[2]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0011】
[4]前記電極は、高配向性熱分解黒鉛を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0012】
[5]前記溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの少なくとも一方を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0013】
[6]前記溶融塩は、陰イオンとして、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの双方を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0014】
[7]前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、塩化物イオンを含む、上記[5]または[6]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0015】
[8]前記溶融塩は、前記ハロゲン化物イオンとして、フッ化物イオンを含む、上記[5]または[6]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0016】
[9]前記金属カーバイド組成物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0017】
[10]前記溶融塩は、前記第1金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1種と、カルシウムイオンとを含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0018】
[11]アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、
炭素を含む電極を準備すること、
前記電極を用いて前記溶融塩に電圧を印加し、前記第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、および、
前記第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスを得ることを含む、炭化水素の製造方法。
【0019】
[12]前記炭化水素は、アセチレンである、上記[11]に記載の炭化水素の製造方法。
【0020】
[13]前記ガスは、前記炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[11]または[12]に記載の炭化水素の製造方法。
【0021】
[14]炭素を含む基体と、
前記基体に担持された、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物と、を含む、炭素含有部材。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、比較的低温下で速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることのできる製造方法、得られた金属カーバイドから炭化水素を製造する方法、ならびに、金属カーバイドを担持した炭素含有部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の金属カーバイドの製造方法では、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩に電圧を印加して、金属カーバイドを得る。この溶融塩を用いる方法によれば、800℃以下の比較的低温下で速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることができる。
【0025】
本開示は、上記の方法により得られる金属カーバイドを加水分解して、炭化水素を得ることを包含する。この方法によれば、効率良く高純度の炭化水素を得ることができる。
【0026】
本開示は、金属カーバイドを担持した炭素含有部材を包含する。この炭素含有部材は、炭化水素の製造に利用できる。
【0027】
[金属カーバイドの製造方法]
本開示に係る金属カーバイドの製造方法は、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、炭素を含む電極を準備すること、および、当該電極を用いて溶融塩に電圧を印加し、第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、を備える。本開示に係る方法によれば、高い収率で第1金属カーバイドが得られる。
図1は、本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
【0028】
(I)溶融塩の調製(S11)
第1金属イオンを含む溶融塩を調製する。第1金属イオンは、目的とする金属カーバイドの金属源である。溶融塩は、第1金属イオンを含む塩(第1金属塩)が電離することにより調製される。第1金属塩のすべてが電離していることは要さない。便宜上、電解浴に含まれる金属塩を、それが完全に電離していない場合も含め、溶融塩と称する。
【0029】
(第1金属イオン)
第1金属イオンは、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種である。アルカリ金属およびアルカリ土類金属のカーバイドは、アセチリドとも称されるように、加水分解によってアセチレンを生成し易く、工業的価値が高い。
【0030】
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。アルカリ金属は、Li、Na、K、RbおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つであってよい。アルカリ金属は、特に、Li、Na、KおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0031】
アルカリ土類金属としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。アルカリ土類金属は、Mg、Ca、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0032】
工業的価値の点で、第1金属イオンは、アルカリ土類金属イオンを含んでいてよい。第1金属イオンは、アルカリ土類金属イオンとともに、アルカリ金属イオンを含んでいてよい。アルカリ金属イオンは、アルカリ土類金属塩を電離し易くして、アルカリ土類金属イオンの生成を促進するとともに、溶融塩の融点を下げ、より低い温度での電解を可能とするなど、電解質として優れた機能を有するためである。第1金属イオンは、アルカリ金属イオンとしてLi、Na、K、RbおよびCsのイオンよりなる群から選択される少なくとも1種と、アルカリ土類金属イオンとしてBe、Mg、Ca、Sr、Baのイオンよりなる群から選択される少なくとも1種とを含んでいてよい。特に、Li、NaおよびKのイオンの少なくとも1種と、Caイオンとを含んでいてよい。
【0033】
溶融塩に含まれる第1金属イオンの量は特に限定されない。反応効率の観点から、第1金属イオンのモル数は、電解浴中の陽イオンの総モル数に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、3モル%以上が特に好ましい。第1金属イオンのモル数は、電解浴中の陽イオンの総モル数に対して、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましく、10モル%以下が特に好ましい。一態様において、第1金属イオンのモル数は、電解浴中の陽イオンの総モル数に対して、1モル%以上20モル%以下である。
【0034】
(他の金属イオン)
溶融塩には、第1金属イオン以外の他の金属イオン(第2金属イオン)が含まれてよい。第2金属イオンは、目的物質である第1金属カーバイドが安定して析出できる限り、特に限定されない。第2金属イオンは、その塩が800℃以下の温度で電離することが好ましい。
【0035】
第2金属としては、例えば、希土類元素、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、金(Au)、銀(Ag)および銅(Cu)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素およびアクチノイド元素が挙げられる。
【0036】
(陰イオン)
第1,第2金属イオンのカウンターイオン(陰イオン)としては、例えば、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、カルボン酸イオンおよび酸化物イオン(O2-)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0037】
陰イオンは、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの少なくとも一方を含んでいてよい。なかでも、陰イオンは、ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの双方を含んでいてよい。第1金属の酸化物は入手し易い一方で、その溶融温度が高くなる傾向にある。第1金属のハロゲン化物は、溶融塩として一般的に使用される。ただし、ハロゲン化物イオンによって、陽極において酸化力の高い(腐食の原因になり得る)ハロゲンガスが生成し得る。ハロゲン化物イオンおよび酸化物イオンの双方を含む場合、ハロゲンガスの発生を抑制しつつ、溶融塩の溶融温度を低下することができる。
【0038】
ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)およびアスタチン(At)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。ハロゲンとしては、F、Cl、BrおよびIよりなる群から選択される少なくとも1つであってよく、特に、Fおよび/またはClであってよい。
【0039】
溶融塩の調製に用いられる第1金属塩としては、例えば、アルカリ土類金属イオンを含む第1金属塩として、具体的には、CaO、CaCl2、CaF2、CaBr2、CaI2、CaH2、Ca3P2が挙げられる。アルカリ金属イオンを含む第1金属塩として、具体的には、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsIが挙げられる。
【0040】
溶融塩は、炭酸イオン(CO3
2-)を実質的に含まないことが望ましい。溶融塩が炭酸イオンを含む場合、第1金属の放電により生じた電子と反応して(式1)、炭素が生成し易くなる。そのため、第1金属カーバイドの収率が低下する。溶融塩が炭酸イオンを実質的に含まないことにより、このような副反応が抑制されて、第1金属カーバイドの収率が高くなる。
(式1) 2CO3
2-+8e- → 2C+6O2-
【0041】
「炭酸イオンを実質的に含まない」は、電解反応に関与しない程度の炭酸イオンの存在を許容する。溶融塩は、例えば、1.0モル%以下程度の炭酸イオンを含んでいてよい。溶融塩における炭酸イオン濃度は、0.5モル%以下であってよく、0.3モル%以下であってよく、0モル%であってよい。
【0042】
(II)炭素を含む電極の準備(S12)
炭素を含む電極(以下、「炭素電極」と称する場合がある。)を準備する。炭素電極は、電解の際、陰極として機能する。炭素電極に含まれる炭素は、目的の金属カーバイドの炭素源となる。
【0043】
炭素は、炭素電極の少なくとも表面に存在すればよい。炭素電極の表面とは、第1金属イオンと接触し得る部分である。
【0044】
炭素電極の原料としては、例えば、グラッシーカーボン(GC)、黒鉛(グラファイト)、等方性黒鉛、高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、プラスチックフォームドカーボン(PFC)および導電性ダイヤモンドよりなる群から選択される少なくとも1種の炭素材料が挙げられる。なかでも、ファラデー効率の観点から、高い結晶化度を有する炭素材料であってよく、HOPGであってよい。高結晶化度を有する炭素材料としては、その他、例えば、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバー(炭素繊維)が挙げられる。炭素電極は、上記の炭素材料を成形して得られたもの、例えば、織物、不織布、フェルト状のものであってよい。
【0045】
あるいは、炭素電極は、Ag、Cu、Ni、Pb、Hg、Tl、Bi、In、Sn、Cd、Au、Zn、Pd、Ga、Ge、Fe、Pt、Ru、Ti、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Zrおよびこれらの合金等の金属の成形体を、上記の炭素材料で被覆したものであってよい。炭素電極は、第1金属を含まなくてよい。
【0046】
他方の電極(陽極)の材質は特に限定されない。陽極の材料としては、例えば、Pt、導電性金属酸化物、上記の炭素材料が挙げられる。導電性金属酸化物製の電極としては、例えば、ITO電極と呼ばれるインジウムとスズの混合酸化物をガラス上に製膜した透明導電性電極、DSA電極(デノラ・ペルメレック電極株式会社商標)と呼ばれるルテニウム、イリジウム等の白金族の金属の酸化物をチタン等の基材上に成膜した電極、La1-xSrxFeO3-δ(0≦x≦0.5(特には、0.1≦x≦0.5)、0≦δ≦0.5)等の組成を有する導電性金属酸化物電極等が挙げられる。なかでも、酸化反応による消耗が起こり難い点で、導電性金属酸化物系の陽極が好ましい。
【0047】
(III)電圧の印加(S13)
続いて、溶融塩に電圧を印加する。陰極上において炭素が還元されて(C≡C2-)、第1金属イオンと反応することにより、第1金属カーバイドを含む組成物(金属カーバイド組成物)が得られる。印加によって、溶融塩中で電離していなかった第1金属塩の電離も促進され得る。
【0048】
第1金属がCaの場合、カルシウムカーバイド(CaC2)が生成する(式2)。カルシウムカーバイドは、典型的には、陰極上に析出する。陰極上には、副反応により、さらに金属カルシウムが生成し得る(式3)。この副反応で生じた金属カルシウムの一部もしくは全部は、さらに反応して、カルシウムカーバイドになり得る。
(式2) Ca2++2C +2e- → CaC2
(式3) Ca2++2e- → Ca
【0049】
電圧の印加は、溶融塩の溶融状態が維持できる温度で行われる。電解浴の温度は、例えば、350℃以上であってよく、400℃以上であってよい。電解浴の温度は、例えば、800℃以下であってよく、700℃以下であってよい。本開示によれば、このような比較的低い温度で反応が進行するため、エネルギー効率が高い。
【0050】
印加電圧は、陰極電位が、炭素電極上で第1金属が析出する電位(Emc)よりも低い(卑である)電位になるように、設定される。これにより、第1金属カーバイドの選択性がより向上し得る。陰極の電位が過度に高い(貴である)と、目的の第1金属カーバイドは生成し難い。陰極の電位が過度に低い(卑である)と、第1金属カーバイドは生成するものの、溶融塩中に含まれる金属のうち、当該溶融塩中の酸化還元電位が設定された陰極電位よりも高い(貴な)金属が析出する。溶融塩中に当該溶融塩中の酸化還元電位が近い複数の金属が存在する場合は、設定された陰極電位によっては、複数金属の合金が析出することもある。電位Emcは、使用する溶融塩中で、当該炭素電極(例えば、HOPG電極)を用いて、サイクリック・ボルタンメトリー測定を行って決定できる。
【0051】
定電流電解を行う場合の設定電流値は、電解中の陰極電位が上記記載の電位範囲となるように、適宜設定すればよい。
【0052】
金属カーバイド組成物は、第1金属のカーバイドを含む。第1金属カーバイドは、金属カーバイド組成物の主成分である。主成分とは、金属カーバイド組成物の全質量の50質量%以上を占める成分である。第1金属カーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。第1金属カーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の99.9質量%以下であってよく、99質量%以下であってよい。一態様において、第1金属カーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上99.9質量%以下である。
【0053】
金属カーバイド組成物は、通常、陰極(厳密には、陰極として用いられていた炭素電極由来の基体)に担持された状態で得られる。第1金属カーバイドの溶解性に優れる溶融塩を用いる場合、第1金属カーバイドは、その一部または全部が溶融塩に溶解した状態で得られる。溶融塩に予め第1金属カーバイドを溶解させておくと、電解によって得られる第1金属カーバイドは、炭素電極上に析出され易くなって、炭素電極由来の基体に担持された状態で得られ易くなる。
【0054】
金属カーバイド組成物は、炭素、第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。金属カーバイド組成物は、さらに、第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0055】
金属カーバイド組成物は、その他、固化した電解質(他の金属塩)、装置を構成する材料のハロゲン化物、酸化物、金属、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0056】
金属カーバイド組成物に含まれる炭素は、例えば、黒鉛、アモルファスカーボン、ガラス状カーボン、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、グラフェン等のナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1つである。上記の方法の電解を引き続き行うことにより、金属カーバイド組成物に含まれる炭素から、さらに第1金属カーバイドを得ることができる。この場合、収率はさらに高まる。
【0057】
第1金属カーバイド、第1金属の単体、第1金属を含む化合物およびその他の不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、組成物のラマン分光分析およびX線回折(XRD)分析により行うことができる。
【0058】
[炭素含有部材]
本開示は、炭素を含む基体と、当該基体に担持された、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物と、を含む、炭素含有部材を包含する。本開示に係る炭素含有部材は、炭化水素の製造に利用することができる。
【0059】
炭素含有部材は、例えば、上記の金属カーバイドの製造方法により得られる。すなわち、炭素含有部材は、上記の溶融塩を上記の炭素電極を用いて電解した後の、炭素電極に相当し得る。この場合、基体は、上記の炭素電極に由来している。
【0060】
金属カーバイド組成物は、基体の表面の少なくとも一部に担持されていればよい。基体の表面は、典型的には、炭素電極の第1金属イオンと接触していた部分に対応する。担持されているとは、基体の表面の少なくとも一部が金属カーバイド組成物によって被覆されている状態を含む。
【0061】
ただし、炭素電極に含まれている炭素は、第1金属カーバイドの炭素源として消費された後、再び第1金属カーバイドとして析出する。そのため、基体は、通常、炭素電極の原型をとどめていない。また、炭素電極が金属カーバイドを含んでいる場合もある。そのため、電解前に炭素電極に含まれていた金属カーバイドと、電解によって生成した金属カーバイドとを明確に区別できない場合がある。この場合、例えば、以下のようにして、本開示に係る炭素含有部材であるか否かを確認することができる。
【0062】
炭素含有部材の中心(または重心)を通る断面に対して、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析を行うと、当該断面に第1金属および炭素が検出される。基体(炭素電極)は通常、第1金属を含有しないため、第1金属および炭素の検出は、第1金属カーバイドの存在を示しているとみて差し支えない。さらに、上記の断面において、第1金属の濃度が、上記中心付近よりも外縁近傍の方が高い場合、基体と、これに担持された金属カーバイド組成物とが存在しているとみて差し支えない。通常、炭素電極の中心よりも、より外側に存在する炭素の方が反応し易い(第1金属カーバイドになり易い)ためである。上記の方法によれば、基体と金属カーバイド組成物との境界が明確でない部材であっても、その部材が、本開示に係る炭素含有部材であるか否かを確認することができる。
【0063】
[炭化水素の製造方法]
本開示は、第1金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を包含する。すなわち、本開示に係る炭化水素の製造方法は、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の第1金属イオンを含む溶融塩を調製すること、炭素を含む電極(炭素電極)を準備すること、炭電極を用いて溶融塩に電圧を印加し、第1金属のカーバイドを含む金属カーバイド組成物を得ること、および、第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスを得ることを含む。
図2は、本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
【0064】
(1)溶融塩の調製(S21)
上記の金属カーバイドの製造方法における溶融塩の調製(S11)と同様にして、溶融塩を調製する。
【0065】
(2)炭素を含む電極の準備(S22)
上記の金属カーバイドの製造方法における(II)炭素を含む電極の準備(S12)と同様にして、炭素電極を準備する。
【0066】
(3)電圧の印加(S23)
上記の金属カーバイドの製造方法における電圧の印加(S13)と同様にして、溶融塩に電圧を印加する。これにより、第1金属カーバイドを含む組成物が得られる。
【0067】
(4)金属カーバイドの加水分解(S24)
次に、第1金属カーバイドに水を接触させて、加水分解する。これにより、目的とする炭化水素を含むガスが得られる。本開示によれば、炭化水素の生成に関するファラデー効率eが向上する。炭化水素は、通常、水への溶解度が低い。そのため、生成した炭化水素は速やかに気相中へと排出され、回収される。
【0068】
金属のカーバイド組成物から第1金属カーバイドを単離して加水分解してもよい。単離は、例えば、金属のカーバイド組成物を粉砕し、比重差を利用する方法により実施される。あるいは、金属のカーバイド組成物をそのまま加水分解してもよい。例えば、金属カーバイド組成物が析出した電極(本開示に係る「炭素含有部材」であり得る。)をそのまま水に接触させる。この場合、金属のカーバイド組成物に含まれ得る第2金属のカーバイドもまた、加水分解されて、炭化水素を生成し得る。
【0069】
得られる炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン(C2H2)、メチルアセチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが挙げられる。単離した第1金属カーバイドを使用する場合や、組成物に含まれる不純物量(特に、金属の単体)が少ない場合、主成分としては、アセチレンが得られる。主成分とは、回収されるガスの全質量の50質量%以上を占める成分である。アセチレンは、工業的に重要な炭化水素である。
【0070】
得られるガスには、炭化水素の他、不純物として、水蒸気、水素、窒素、酸素が含まれ得る。不純物量は、回収されるガスの10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。不純物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上であってよく、0.001質量%以上であってよい。一態様において、不純物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上1質量%以下である。
【0071】
得られるガスは、炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含み得る。
【0072】
炭化水素および不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、回収されるガスのガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS分析)、ガスセルを備えたフーリエ変換式赤外吸収分光分析(FT-IR分析)、紫外―可視吸収分光分析(UV-Vis分析)により行うことができる。
【0073】
組成物に接触させる水の量は、組成物の質量に応じて適宜設定される。上記の水の量は、例えば、組成物中に含まれる金属カーバイドおよび金属の加水分解に必要な量以上である。加えて、組成物全体が浸漬でき、加水分解時の発熱による蒸発を考慮した量の水を使用することが望ましい。
【0074】
第1金属カーバイドの加水分解により、炭化水素とともに、第1金属の水酸化物も生成する。例えば、カルシウムカーバイドを加水分解すると、アセチレンとともに水酸化カルシウムが生成する(式4)。
(式4) CaC2+2H2O → C2H2+Ca(OH)2
【0075】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示はこれらに限定されない
【0076】
上記の実施形態では、炭素電極として、金属の成形体を炭素材料で被覆したもの、および、炭素材料を電極に成形して得られたものを挙げたが、これに限定されない。炭素電極は、電極(典型的には金属電極)上に炭素を含む組成物を析出させたもの(以下、「第3の炭素電極」と称す。)であってよい。第3の炭素電極は、例えば、第1金属炭酸塩由来の第1金属イオンおよび炭酸イオンを含む溶融塩を電解することにより得られる。第3の炭素電極はまた、例えば、第1金属イオンを含む溶融塩を、二酸化炭素由来の炭酸イオンの存在下で電解することにより得られる。これらの場合、第3の炭素電極は、当該電解後の陰極として得られる。
【実施例0077】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0078】
[実施例1-1]
(金属カーバイドの製造)
共晶組成のLiCl、KCl、CaCl2(LiCl/KCl/CaCl2=52.3モル%/11.6モル%/36.1モル%)に対し、3.0モル%のCaOを混合し(すなわち、LiCl/KCl/CaCl2/CaO=50.8モル%/11.3モル%/35.0モル%/2.9モル%)、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。この混合塩をガラス製容器にそれぞれ収めて電気炉にセットし、450℃に加熱した。このようにして、LiCl-KCl-CaCl2-CaOの溶融塩を得た。
【0079】
次いで、上記容器の蓋に、作用極(1cm×1.5cmのHOPG)、対極(コイル状の白金線)および参照極(Ag+/Ag)を取り付けて、この蓋で容器を密閉した。続いて、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.3Vに維持しながら、30分間電圧を印加した。作用極上に析出物が析出していることを確認した。実験操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。作用極の電位は、参照極(Ag+/Ag)と陰極間の電位を測定し、Li-Ca合金析出電位を基準として較正した値である。
【0080】
(炭化水素の製造)
析出物を密閉した試験管に収めた。この試験管に、常温下(23℃)で、純水を少量ずつ加え、析出物の加水分解を行った。加えた水の全量は2.5mlであった。試験管内で発泡が生じているのを確認した後、発泡が見られなくなるまで試験管を静置した。続いて、ガスタイトシリンジを用いて、試験管内のガス100μl(マイクロリットル)を採取した。
【0081】
ガスクロマトグラフ(GC)装置を用いて、得られたガスに対してGC-MS分析を行って、主成分として、C2H2が生成されていることを確認した。さらに、メタン、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。各成分の生成量も、併せて確認した。回収したガスに占めるC2H2の質量割合は50質量%より十分多かった。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0082】
C2H2ガス生成に関し、ファラデー効率は約0.7%と算出された。炭化水素ガス生成に関するファラデー効率が高いほど、金属カーバイド生成に関するファラデー効率も高いといえる。
【0083】
[実施例1-2]
参照極に対する作用極の電位を0.1Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例1と同様にして析出物および炭化水素を得た。炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。C2H2ガス生成に関し、ファラデー効率は約8.8%と算出された。
【0084】
[実施例1-3~1-6]
電流密度を表1に示す値に維持した定電流電解を行ったこと以外は、実施例1-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。実施例1-4では、溶融塩に予めCaC2を溶融塩に対して2.0モル%添加した。
【0085】
【0086】
[実施例2-1~2-5]
作用極にグラファイトを用いて、表2に示す条件で電解を行ったこと以外は、実施例1-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0087】
【0088】
[実施例3-1、3-2]
作用極にGCを用いて、表3に示す条件で電解を行ったこと以外は、実施例1-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0089】
【0090】
[実施例4-1~4-7]
溶融塩としてNaCl、KCl、CaCl2(NaCl/KCl/CaCl2=33.4モル%/11.6モル%/55.0モル%)に対し、3.0モル%のCaOおよび7.0モル%のCaC2を混合したもの(すなわち、NaCl/KCl/CaCl2/CaO/CaC2=30.4モル%/10.5モル%/50.0モル%/2.7モル%/6.4モル%)を用いて、表4に示す条件で電解を行ったこと以外は、実施例1-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。作用極の電位は、参照極(Ag+/Ag)と陰極間の電位を測定し、Na-K-Ca合金析出電位を基準として較正した値である。炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0091】
【0092】
[実施例5-1~5-12]
溶融塩としてNaCl、KCl、CaCl2(NaCl/KCl/CaCl2=33.4モル%/11.6モル%/55.0モル%)を用い、作用極にグラファイトを用いて、550℃で表5に示す条件で電解を行ったこと以外は、実施例1-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。実施例5-3~5-5では、溶融塩にCaC2を溶融塩に対して1.0モル%添加した。実施例5-6~5-12では、溶融塩にCaC2を溶融塩に対して7.0モル%添加した。
【0093】
加水分解で生成したガス量(mL)および、当該ガスを分析して算出したC2H2生成に関するファラデー効率を表5に示した。表6~表8にも同様に、ガス生成量およびファラデー効率を示した。炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0094】
【0095】
[実施例6-1~6-10]
作用極にGC(グラッシーカーボン)を用いて、表6に示す条件で電解を行ったこと以外は、実施例5-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。実施例6-3~6-5では、溶融塩にCaC2を溶融塩に対して1.0モル%添加した。実施例6-6~6-10では、溶融塩にCaC2を溶融塩に対して7.0モル%添加した。炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0096】
【0097】
[実施例7-1~7-4]
作用極にHOPG(高配向性熱分解黒鉛)を用いて、表7に示す条件で電解を行ったこと以外は、実施例5-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。実施例7-3~7-4では、溶融塩にCaC2を溶融塩に対して1.0モル%添加した。
炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0098】
【0099】
[実施例8-1~8-5]
作用極にPFC(プラスチックフォームドカーボン)を用いて、表8に示す条件で電解を行ったこと以外は、実施例5-1と同様にして析出物および炭化水素を得た。実施例8-1~8-5では、溶融塩にCaC2を溶融塩に対して7.0モル%添加した。
炭化水素は、主成分としてC2H2を含むことを確認した。C2H2ガスが生成していることから、作用極上の析出物は、主成分としてCaC2を含むことが理解できる。
【0100】
【0101】
C
2H
2生成に関するファラデー効率eは、以下のようにして算出した。
まず、GC-MS分析から得られるピークの合計面積と検量線とから、回収したガスに含まれるC
2H
2の体積割合を算出した。次いで、回収容器内の気相が占める体積と、算出されたガスに占めるC
2H
2の体積割合とから、C
2H
2の生成体積を算出した。最後に、発生したC
2H
2は標準状態(0℃、101kPa)にあったとして、下記の式により、ファラデー効率e(%)を算出した。
【数1】
【0102】
表1~8から理解されるように、定電位電解および定電流電解のいずれの電解法によっても、目的の第1金属カーバイドが得られている。特に、高い結晶化度を有するHOPGを作用極として用いた場合、高いファラデー効率でアセチレン(第1金属カーバイド)を得ることができた。NaCl-KCl―CaCl2溶融塩を用いることにより、得られた析出物からより高いファラデー効率で炭化水素を得ることができた。添加物として溶融塩にCaC2を加えることが、ファラデー効率の点で望ましい。これは、作用極の上に生成したCaC2が、溶融塩中に溶解することが抑制されたためであると考えられる。
前記電極は、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンドよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
前記金属カーバイド組成物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
前記溶融塩は、前記第1金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンよりなる群から選択される1種と、カルシウムイオンとを含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
前記ガスは、前記炭化水素としてアセチレンを含み、さらに、エチレン、エタン、メタン、メチルアセチレン、プロピレン、ブテンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項10または11に記載の炭化水素の製造方法。